説明

フラボノイド系化合物を含有する認知機能障害の予防及び治療用組成物

【課題】ベータアミロイド凝集の抑制効果、ベータアミロイド毒性の阻害能、及び認知機能回復効果を有するフラボノイド系化合物を含有した組成物を提供する。
【解決手段】天然に存在するフラボノイド成分であり、具体的にはフィセチン(fisetin)、フラボン(flavone)、ケンフェロール(kaempferol)、モリン(morin)、ケルセチン(quercetin)、又はラムネチン(rhamnetin)を含む薬学組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の植物体に存在するフラボノイド系化合物を含む認知機能障害の予防及び治療用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳(brain)と脊髄(spinal cord)から構成された中枢神経系は、生命現象を運営する中心センターであって、感覚及び(不)随意運動から、思考、記憶、感情、言語などに至るまで、人体のあらゆる機能を総括する極めて不可欠な器官である。従って、脳卒中や外傷などで生じた急激な神経細胞の死滅や、アルツハイマー病に代表される老人性痴呆やパーキンソン疾患などの中枢神経系の退行性疾患を誘発するゆっくりとした神経細胞の死滅などのあらゆる場合において、直ちに神経回路網の不可逆的な機能障害を招来し、最終的に、その人体機能の永久的な損失を招来することになる。アルツハイマー病に代表される老人性痴呆は、人間の平均寿命の延長及び医療福祉施設の近代化と呼応し、比例して増加する特性を有している。保険社会研究院の統計調査によれば、我が国の老人人口は、2000年に7%を超過して高齢化社会に突入して以来、2003年には、397万人となって老人人口の比率が8.3%に到達し、2019年には、14.4%に達して完全な高齢化社会に突入するものと予想されている。韓国で65歳以上の老人の痴呆有病率は8.2%と推定されている。西欧社会においては、65歳以上の人口の約10%、80歳以上の人口の約40〜50%にアルツハイマー病が発生しており、既に米国においては、この疾患の患者が500万人以上であり、これに起因した医療費の支出が年間1000億ドルと推定されている。又、我が国においては、約20万人以上が痴呆患者であることが判明している。米国の場合には、2030年までに現在の2倍の規模に増加し、2050年までには、350%以上増加して、1,600万人に達するものと推定されている(韓国保険産業振興院;米国アルツハイマー協会(www.alz.org))。
【0003】
認知機能障害から始まるアルツハイマー病は、人間の本性が破壊される長期間にわたって進行する退行性疾患であるため、患者を収容するという受動的な方法によっては、到底社会経済的な負担に耐え切れず、予防剤及び原因治療剤を開発するという積極的な試みを実行しなければならない。しかしながら、現在まで、アルツハイマー疾患の根本的な発病原因を治療可能な治療剤は開発されておらず、一般的な治療剤として使用可能なものとしては、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるファイザー社のアリセプト(Aricept)、ノバルティス社のエクセロン(Exelon)、及びヤンセン社のレミニル(Reminyl)と、最近米国FDAから許可を受けたNMDA受容体の拮抗剤メカニズムのルンドベック社のエビクサ(Ebixa; Memantine)がある。しかしながら、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の場合には、減退した認知能力を改善してやるのみであり、アルツハイマー疾患の根本的な発病原因を治療することはできない。又、一部の患者の場合(約40〜50%)にのみ、一時的な増勢の緩和効果を示し、その薬効が長期間持続不可能であることから、根本的な治療剤と呼ぶことが難しい。又、疾患の特性上、長期の服用を要することになり、上記の医薬品の場合には、肝毒性、嘔吐、食欲減退をはじめとした様々な副作用を伴っていることも問題点として判明している。従って、疾患の進行過程を阻むことができる治療剤の開発が至急の課題となっている。このため、多数の多国籍製薬会社がこの分野に対する研究開発に莫大な投資を行っており、特に、アルツハイマー疾患の根本的な発病原因と推定されている40余個のアミノ酸から構成されたベータアミロイドの生成量を減少させるベータ又はガンマセクレターゼ阻害剤の開発がその主な種類をなしている。国内の場合、アルツハイマー疾患に対する基礎研究は、ある程度実現されているが、痴呆治療剤の開発それ自体については、ほとんど絶無であるのが実情であると思量される。ガンマセクレターゼ阻害剤の場合には、動物実験モデルにおいてのみならず、最近の臨床実験の結果においても、相当な毒性を伴っていることから、その展望が不透明である。研究開発期間は相対的に短いが、ベータセクレターゼの場合には、遺伝子欠乏形質転換動物モデルの結果にも現れているように、もう少し安全且つ効率的な痴呆治療剤開発のためのターゲットとして有望であるといえる。又、ベータアミロイドの凝集に関与する因子をターゲットとしたものも比較的安全に効果を挙げるものと考えられている。最近、ベータアミロイドをターゲットとする新薬開発において、米国のエンソニックス社が、フェンセリン(Phenserine)という薬物について臨床2相を行ったことが確認されており、この薬物は2重の機能を有し、コリンエステラーゼ(cholineesterase)阻害効果も共に有するものと報道されている(Greig et al., J. Med. Chem. 44, pp.4062〜4071, 2002;Medical News Todayの2004年9月4日付けの記事;www.medicalnewstoday.com;米国アルツハイマー協会のホームページ(www.alzforum.org/drg/drc))。
【0004】
可能性を有する別の方法としては、ベータアミロイドを利用したワクチン(Vaccine)の開発である。エラン(Elan)社を中心として行われた一連の研究及び臨床の結果により、ベータアミロイドペプチドをワクチンとして利用可能であるという結果が報告されているが、臨床2相において少数の患者に脳炎症反応が生じ、中断された状態にある。現在、多様なベータアミロイド構造を利用したワクチンの開発が行われている。動物実験の結果から、ベータアミロイドワクチンは、脳内に形成された老人斑の数を減らし、モデル動物の認知能を向上させることが判明している。又、脳細胞の活性を増進し、損傷を負った脳神経細胞の活性を増進させて認知機能を向上させることにより、アルツハイマーを緩和することも可能である(Gelinas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, pp14657〜14662)。
【0005】
フラボノイドとは、ギリシャ語で黄色を意味するflavusから由来しており、果物の皮、野菜の葉、茎、根、種、花など、植物に広範囲に存在する天然物質である。これは、C6−C3−C6を基本骨格とするポリフェノール(polyphenol)化合物とであって、現在まで4,000余種が植物に存在することが判明しており、柑橘類には60余種が存在すると報告されている。これらのフラボノイド化合物の最初の臨床における使用は、1936年のハンガリーにおけるAlbert Szent−Gyorgyiによるものであり、これらの物質が血管透過性の調節とビタミンCの補助活性を示すことから、ビタミンPとも呼ばれており、人体の平均摂取量は、約25〜1000mg/日であるとされている。以前から、東洋医学においては、フラボノイドは、混合抽出物の形態において抗炎症及び免疫調節剤として使用されてきたが、その後、継続的な研究を通じて、抗菌作用、抗真菌/抗ウイルス作用、血管系調節作用、肝臓作用、抗炎症/抗アレルギー作用、抗癌作用などが明らかになり、各種疾病の治療に食餌療法として使用されている(Russell L. et al., American chemical society. pp 83〜107, 1980; Citrus science and technology, ed. Steven Nagy, Westport Conn., Avi Co. ISBN 087055221X, 1977)。
【0006】
フラボノイドのこのような効能が知られるにつれて、多様な疾病に対する適用が試みされているが、フラボノイド系化合物によるベータアミロイド凝集メカニズム阻害による認知機能障害、特に老人性痴呆の治療及び予防剤としての活性は、本発明において初めて確認されたものである。
【0007】
本発明においては、既に確立されているスクリーニング法によって認知機能障害の治療及び予防効果を有する物質を分離するという目的で、天然物ライブラリをスクリーニングした。その中において、驚くことに、ブラボン類のフラボノイドにおいてベータアミロイド凝集の阻害活性を観察し、次いで、濃度別のベータアミロイド凝集の阻害活性を確認し、凝集したベータアミロイドによる細胞毒性を阻害する天然物を確認した。各フラボノイドによるベータアミロイド凝集の抑制能と細胞毒性阻害能を値として表示している。いままで、フラボノイド系化合物の多様な生理活性について多くの研究が行われてきたが、認知機能障害に対する生理活性が明らかにされたことはない。従って、これに関し、本発明者らは、フラボノイド系化合物の効果を調査するべく、ベータアミロイド凝集の抑制効果及び記憶学習回復実験を通じて、本発明の化合物がベータアミロイドの毒性及び凝集を阻害してベータアミロイドによる細胞死を阻害し、神経細胞の増殖を促進することを確認することによって本発明を完成させた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フラボノイド系化合物を含有する認知機能障害の予防及び治療用の組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、本発明は、ベータアミロイドの凝集抑制効果及び記憶学習回復効果を有する下記の一般式(I)によって表記されるフラボノイド系化合物を有効成分として含む認知機能障害関連疾患の予防又は治療のための薬学組成物を提供する。
【0010】
【化1】

【0011】
上記の式において、R〜Rは、それぞれ、独立的に、H、OH、又はOCHである。
【0012】
上記の一般式(I)の望ましい化合物としては、R、R、R、R、及びRは、H又はOHであり、Rは、H、OH、又はOCHであり、Rは、Hである化合物であり、更に望ましい化合物は、下記構造式(1)〜(6)によって表記されるフィセチン(fisetin)、フラボン(flavone)、ケンフェロール(kaempferol)、モリン(morin)、ケルセチン(quercetin)、ラムネチン(rhamnetin)を含んでいる(図1を参照されたい)。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
上記の化合物は、組成物の総重量に対して、化合物を0.1〜50重量%だけ含む薬学組成物を提供する。
【0020】
上記の認知機能障害関連疾患は、アルツハイマー型痴呆症、脳血管性痴呆症、ピック(pick)病、クルツフェルト−ヤコブ(Creutzfeldt−jakob)病、頭部損傷による痴呆、又はパーキンソン(Parkinson)病を含んでおり、具体的には、アルツハイマー型痴呆症、脳血管性痴呆症を含んでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下において、本発明のフラボノイド系化合物は、商用として購入可能であり(例えば、シグマ社)、且つ、フラボノイド系化合物を含有する植物からフィセチン(fisetin)、フラボン(flavone)、ケンフェロール(kaempferol)、モリン(morin)、ケルセチン(quercetin)、ラムネチン(rhamnetin)を当業者において周知の化合物精製法によって分離及び精製可能である。
【0022】
上記の一般式(I)によって表記される本発明のフラボノイド系化合物は、当技術分野において通常の方法により、薬学的に許容可能な塩及び溶媒化物によって製造可能である。
【0023】
薬学的に許容可能な塩としては、遊離酸(free acid)によって形成された酸付加塩が有用である。酸付加塩は、通常の方法、例えば、化合物を過量の酸水溶液に溶解させ、この塩をメタノール、エタノール、アセトン、又はアセトニトリルなどの水混和性有機溶媒を使用して沈殿させて製造する。同モル量の化合物及び物中の酸又はアルコール(例えば、グリコールモノメチルエーテル)を加熱した後に、上記の混合物を蒸発させて乾燥させるか、又は析出した塩を吸引濾過可能である。
【0024】
このときに、遊離酸としては、有機酸と無機酸を使用可能であって、無機酸としては、塩酸、燐酸、硫酸、硝酸、酒石酸などを使用可能であり、有機酸としては、メタンスルフォン酸、p−トルエンスルフォン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シトリック酸、マレイン酸(maleic acid)、スクシン酸、オキサル酸、ベンゾ酸、タルタル酸、フマル酸、マンデル酸、プロピオン酸(propionic acid)、クエン酸(citric acid)、乳酸(lactic acid)、グリコール酸(glycollic acid)、グルコン酸(gluconic acid)、ガラクトロン酸、グルタミン酸、グルタル酸(glutaric acid)、グルクロン酸(glucuronic acid)、アスパラギン酸、アスコルビン酸、カルボン酸、バニリン酸、ヨウ化水素酸などを使用可能である。
【0025】
又、塩基を使用して薬学的に許容可能な金属塩を製造可能である。アルカリ金属又はアルカリ土金属塩は、例えば、化合物を過量のアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土金属水酸化物溶液中に溶解し、非溶解化合物塩を濾過した後に濾液を蒸発、乾燥させて得られる。このときに、金属塩としては、特にナトリウム、カリウム、又はカルシウム塩を製造することが製薬上適合しており、且つ、これに対応する銀塩は、アルカリ金属又はアルカリ土金属を適当な銀塩(例えば、硝酸銀)と反応させて得られる。
【0026】
上記の一般式(I)の薬学的に許容可能な塩は、別途指示されていない限り、一般式(I)の化合物に存在可能な酸性又は塩基性基の塩を含んでいる。例えば、薬学的に許容可能な塩としては、ヒドロキシ基のナトリウム、カルシウム、及びカリウム塩が含まれており、アミノ基のその他の薬学的に許容可能な塩としては、ヒドロブロマイド、硫酸塩、水素硫酸塩、燐酸塩、水素燐酸塩、2水素燐酸塩、アセテート、スクシネート、シトレート、タルトレート、ラクテート、マンデレート、メタンスルフォネート(メシレート)、及びp−トルエンスルフォネート(トシレート)塩があり、当業界において周知の塩の製造法や製造過程を通じて製造可能である。
【0027】
又、本発明は、上記の製法によって得られたフラボノイド系化合物を含む認知機能障害関連疾患の予防及び治療用の薬学組成物を提供する。
【0028】
本発明の組成物は、フラボノイド系化合物を0.01〜99.9%含有することが望ましく、0.1〜90%含有することが更に望ましい。しかしながら、上記のような組成は、必ずしも、これに限定されるものではなく、患者の状態及び疾患の種類、並びに、進行の程度に応じて変化可能である。
【0029】
本発明のフラボノイド系化合物を含む組成物は、薬学的組成物の製造に通常使用される適切な担体、賦形剤、及び希釈剤を包含可能である。
【0030】
本発明によるフラボノイド系化合物を含む組成物は、それぞれ、通常の方法に従って散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型の剤型、外用剤、座剤、及び滅菌注射溶液の形態で剤型化して使用可能であり、組成物に包含可能な担体、賦形剤、及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ザイリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムフォスフェイト、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート、及び鉱物油類を挙げることができる。製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を使用して製造される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれており、このような固形製剤は、上記の抽出物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、カルシウムカーボネート(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)、又はラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて製造される。又、単純な賦形剤以外に、マグネシウムスチレートタルクなどの潤滑剤も使用される。経口用の液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、油剤、シロップ剤などが該当し、よく使用される単純希薄剤である水、リキッドパラフィン以外に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを包含可能である。非経口投与用の製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、油剤、凍結乾燥製剤、座剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物性油、エチルオレートなどの注射可能なエステルなどを使用可能である。座剤の基剤としてはウィテプソル(witepsol)、マクロゴール、トゥウィーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを使用可能である。
【0031】
本発明のフラボノイド系化合物の望ましい投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物の形態、投与経路、及び期間に応じて異なるが、当業者が適切に選択可能である。しかしながら、望ましい効果のために、本発明の抽出物は、1日に0.01mg/kg〜10g/kg、望ましくは、1mg/kg〜1g/kgだけ投与するのがよい。投与は、一日に一回投与することも可能であり、数回に分けて投与することも可能である。従って、上記の投与量は、どのような面においても、本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
本発明の組成物は、ネズミ、ハツカネズミ、家畜、人間などの哺乳動物に多様な経路で投与可能である。投与のすべての方式を予想可能であるが、例えば、経口、直腸、又は静脈、筋肉、皮下、子宮内硬膜、又は脳血管内(intracerebroventricular)注射によって投与可能である。
【0033】
又、本発明は、認知機能障害関連疾患の予防及び改善の効果を示す上記一般式(I)によって表記されるフラボノイド系化合物を有効成分として含有する健康機能食品を提供する。
【0034】
上記のフラボノイド系化合物は、フィセチン(fisetin)、フラボン(flavone)、ケンフェロール(kaempferol)、モリン(morin)、ケルセチン(quercetin)、ラムネチン(rhamnetin)を含んでいる。
【0035】
本発明のフラボノイド系化合物を含む組成物は、認知機能障害関連疾患の予防及び改善に効果的な薬剤、食品、及び飲料などに多様に利用可能である。本発明のフラボノイド系化合物を添加可能な食品としては、例えば、各種食品類、飲料、ガム、茶、ビタミン複合剤、健康補助食品などがあり、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、又は飲料の形態で使用可能である。
【0036】
本発明のフラボノイド系化合物自体は、毒性及び副作用をほとんど有していないため、予防及び改善の目的で長期間服用する場合にも、安心して使用可能な薬剤である。
【0037】
本発明の上記のフラボノイド系化合物は、認知機能障害の予防及び改善を目的として食品又は飲料に添加可能である。このときに、食品又は飲料中における上記化合物の量は、一般的に、本発明の健康食品組成物の場合には、全体食品重量の0.01〜15重量%だけ添加可能であり、健康飲料組成物の場合には、100mlを基準として、0.02〜10g、望ましくは、0.3〜1gの比率で添加可能である。
【0038】
本発明の健康飲料組成物は、指示された比率だけ必須成分として上記の化合物を含有すること以外には、液体成分に特別な制限点がなく、通常の飲料のように様々な香味剤又は天然炭水化物などを追加成分として含有可能である。上述の天然炭水化物の例は、モノサッカライド、例えば、ブドウ糖、果糖などのジサッカライド、例えば、マルトース、シュクロースなどのポリサッカライド、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどの通常の糖、及びザイリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールである。上述のもの以外の香味剤として、天然香味剤(タウマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリシルリジンなど)、及び合成香味剤(サッカリン、アスファルタムなど)を有利に使用可能である。上記の天然炭水化物の比率は、本発明の組成物100ml当たりに、一般的には、約1〜20g、望ましくは、約5〜12gである。
【0039】
上記以外に、本発明の組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤、及び天然風味剤などの風味剤、着色剤、及び充填剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有可能である。これ以外に、本発明の組成物は、天然果物ジュース及び果物ジュース飲料、並びに野菜飲料の製造のための果肉を含有可能である。このような成分は、独立的に、又は組み合わせて使用可能である。このような添加剤の比率は、あまり重要ではないが、本発明の組成物100重量部当たりに、0〜約20重量部の範囲において選択されるのが一般的である。
【0040】
以下、実施例及び実験例により、本発明について詳細に説明する。
【0041】
但し、下記の実施例及び実験例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の内容は、下記実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1.化合物の準備)
フィセチン(fisetin、F4043)、フラボン(flavone、F2003)、ケンフェロール(kaempferol、K0133)、モリン(morin、M4008)、ケルセチン(quercetin、Q0125)は、シグマ(Sigma Chemical Co.,; ST. Louis, MO, USA)社から購入して使用した。ラムネチン(rhamnetin)は、実験室において分離し、使用した。
【0043】
(実験例1.ベータアミロイドの凝集抑制実験)
本実験においては、上記の実施例1において取得したフラボノイド系化合物を試料として使用し、アルツハイマー疾患の根本的な発病原因であるベータアミロイド凝集を抑制する効能を確認した。
【0044】
(1−1.実験の準備)
合成したベータアミロイド1−42(BACHEM)をDMSOに250μMで完全に溶かした後に、蛍光ブラックプレートにPBSで1/10に希釈して凝集を誘導した。ここで、各フラボノイドのベータアミロイド凝集阻害能を比較し、10μg/mlにおいて50%の阻害効果以上を示すものを選んで試料として使用し、添加した後に、1時間にわたって室温において反応させた。50mMのグリシン緩衝液にThT(Thioflavin T)を希釈し、1つのウェル当たりに150μlずつ入れて、マイクロプレートリーダー(SAFIRE、TECAN)において、励起波長450nm/放出波長480nmにおいて吸光度を測定した。
【0045】
(1−2.フィセチン(fisetin)のベータアミロイド凝集抑制効果)
フラボノイド系化合物中のフィセチンのベータアミロイド凝集抑制能を10μg/mlの濃度において測定し、72.7%の阻害効果を確認した。50%以上の阻害を示す場合には、濃度別の実験を通じてIC50値を求めることにより、0.05μg/ml、0.5μg/ml、5μg/ml、50μg/mlなどの多様な濃度によって凝集抑制能を確認した。フィセチンの濃度別の凝集抑制の程度を図2に示しており、IC50値は、12.5μg/mlと確認された。
【0046】
(1−3.フラボン(flavone)のベータアミロイド凝集抑制効果)
フラボノイド系化合物中のフラボンのベータアミロイド凝集抑制能を10μg/mlの濃度において測定し、43.1%の阻害効果を確認した。濃度別の試験を通じてIC50値を求めることにより、0.05μg/ml、0.5μg/ml、5μg/ml、50μg/mlなどの多様な濃度によって凝集抑制能を確認した。フラボンの濃度別の凝集抑制の程度を図3に示しており、IC50値は、20.0μg/mlと確認された。
【0047】
(1−4.ケンフェロール(kaempferol)のベータアミロイド凝集抑制効果)
フラボノイド系化合物中のケンフェロールのベータアミロイド凝集抑制能を10μg/mlの濃度において測定し、65.9%の阻害効果を確認した。50%以上の阻害を示す場合には、濃度別の実験を通じてIC50値を求めることにより、0.05μg/ml、0.5μg/ml、5μg/ml、50μg/mlなどの多様な濃度によって凝集抑制能を確認した。ケンフェロールの濃度別の凝集抑制の程度を図4に示しており、IC50値は、7.0μg/mlと確認された。
【0048】
(1−5.モリン(morin)のベータアミロイド凝集抑制効果)
フラボノイド系化合物中のモリンのベータアミロイド凝集抑制能を10μg/mlの濃度において測定し、79.9%の阻害効果を確認した。50%以上の阻害を示す場合には、濃度別の実験を通じてIC50値を求めることにより、0.05μg/ml、0.5μg/ml、5μg/ml、50μg/mlなどの多様な濃度によって凝集抑制能を確認した。モリンの濃度別の凝集抑制の程度を図5に示しており、IC50値は、7.4μg/mlと確認された。
【0049】
(1−6.ケルセチン(quercetin)のベータアミロイド凝集抑制効果)
フラボノイド系化合物中のケルセチンのベータアミロイド凝集抑制能を10μg/mlの濃度において測定し、92.6%の阻害効果を確認した。50%以上の阻害を示す場合には、濃度別の実験を通じてIC50値を求めることにより、0.05μg/ml、0.5μg/ml、5μg/ml、50μg/mlなどの多様な濃度によって凝集抑制能を確認した。ケルセチンの濃度別の凝集抑制の程度を図6に示しており、IC50値は、2.4μg/mlと確認された。
【0050】
(1−7.ラムネチン(rhamnetin)のベータアミロイド凝集抑制効果)
フラボノイド系化合物中のラムネチンのベータアミロイド凝集抑制能を10μg/ml濃度において測定し、92.7%の阻害効果を確認した。50%以上の阻害を示す場合には、濃度別の実験を通じてIC50値を求めることにより、0.05μg/ml、0.5μg/ml、5μg/ml、50μg/mlなどの多様な濃度によって凝集抑制能を確認した。ラムネチンの濃度別の凝集抑制の程度を図7に示しており、IC50値は、2.3μg/mlと確認された。
【0051】
(実験例2.フラボン類フラボノイドのベータアミロイド毒性抑制実験)
本実験においては、上記の実施例1において取得したフラボノイド系化合物を試料として使用し、アルツハイマー疾患の根本的な発病原因であるベータアミロイド毒性を抑制する効能を確認した。
【0052】
(2−1.実験準備)
ハツカネズミの神経細胞株であるHT22をDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium, Gibco−BRL)培地に10%のFBS(Fetal Bovine Serum, Hyclone)と1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma社)が添加された培地を使用し、37℃、5%のCO条件の培養器(Forma)において培養した。実験に入る前に、HT22細胞を96ウェルプレートに5x10細胞/ウェルの密度で培養した後に、試料を処理する前に、血清が除去されたDMEM培地において1時間にわたって培養した。濃度別に試料を添加して1時間にわたって培養し、凝集したベータアミロイド25〜35(USペプチド)を25μMの濃度で処理した後に18時間にわたって培養し、細胞の壊死を誘導した後に、5mg/mlのMTT(3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリン)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロマイド)溶液を1つのウェル当たりに15μlずつ入れ、4時間の培養の後に溶解化緩衝液(10%のSDS、50%のジメチルホルムアミド、pH4.7)を100μlずつ添加し、一昼夜にわたって反応させた。18時間後にマイクロプレートリーダー(Sunrise、TECAN)を利用し、570nm〜630nmにおいて吸光度を測定した(Gillardon, F. et al., Brain Research, 706(1), pp.169〜172, 1996)。
【0053】
(2−2.実験結果)
凝集したベータアミロイドを利用し、HT22細胞を刺激(challenge)して細胞の壊死を誘導しつつ、フラボノイド系化合物を一緒に処理した場合に、細胞をどれほど生かすことができるかを測定した。実験の濃度は、それぞれ、10μg/mlとし、細胞に対する1時間の前処理の後に、ベータアミロイドを添加して18時間細胞の毒性を誘導した。細胞の生死は、MTTを利用した方法によって測定し、その結果を図8に示している。実験を遂行したフラボノイド中において、フラボンを除いたフラボノイドがベータアミロイド毒性を抑制することが確認された。
【0054】
(実験例3.フラボン類フラボノイド自体の細胞毒性確認実験)
(3−1.実験準備)
試料自体の毒性の有無を調べるべく、上記の実験例1−1−2と同様の方法によってHT22細胞を培養した後に、試料を濃度別に添加し、次いで、18時間にわたって培養してMTT溶液と溶解化緩衝液を順番に入れてマイクロプレートリーダーによって測定した。
【0055】
(3−2.実験結果)
フラボノイド系化合物自体の細胞毒性を測定し、今後生じ得る試料自体の毒性による副作用を調査した。ベータアミロイドによる細胞毒性を確認する手順と同様に、ベータアミロイドを除外した実験を遂行した。10μg/mlの濃度で各試料を処理して自体の毒性を測定し、図9に結果を示した。フラボノイド系化合物の大部分が自体の細胞毒性を有していないことを確認した。フラボノイド系化合物は、細胞毒性を有していないのみならず、細胞の増殖を助けるものと思量される。
【0056】
このような実験の結果として、フラボノイド系化合物中のフィセチン、フラボン、ケンフェロール、モリン、ケルセチン、ラムネチンなどは、ベータアミロイド凝集の抑制能とベータアミロイドを原因とする脳神経細胞の壊死から神経細胞を保護するという2種類の機能を遂行することによってアルツハイマー病の原因を除去し治療する目的に使用可能である。
【0057】
以下、本発明の化合物を含む薬学組成物の製剤例について説明するが、本発明は、これを限定しようとするものではなく、具体的に説明しようとするものに過ぎない。
【0058】
(製剤例1.散剤の製造)
フィセチン(fisetin) 20mg
乳糖 100mg
タルク 10mg
上記の成分を混合し、気密性の包みに充填して散剤を製造する。
【0059】
(製剤例2.錠剤の製造)
フラボン(flavone) 10mg
とうもろこし澱粉 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記の成分を混合した後に、通常の錠剤の製造法に従って打錠して錠剤を製造する。
【0060】
(製剤例3.カプセル剤の製造)
ケンフェロール(kaempferol) 10mg
結晶性セルロース 3mg
ラクトース 14.8mg
マグネシウムステアレート 0.2mg
通常のカプセル剤の製造法に従って上記の成分を混合し、ゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造する。
【0061】
(製剤例4.注射剤の製造)
モリン(morin) 10mg
マンニトール 180mg
注射用滅菌蒸留水 2974mg
NaHPO.12HO 26mg
通常の注射剤の製造法に従って1つのアンプル当たり(2ml)上記の成分含有量で製造する。
【0062】
(製剤例5.液剤の製造)
ケルセチン(quercetin) 20mg
異性化糖 10g
マンニトール 5g
精製水 適量
通常の液剤の製造法に従って精製水にそれぞれの成分を加えて溶解させ、レモンの香りを適量加えた後に、上記の成分を混合し、次いで、精製水を加えて全体を100mlに調節した後に、褐色のビンに充填して滅菌し、液剤を製造する。
【0063】
(製剤例6.健康食品の製造)
ラムネチン(rhamnetin) 1000mg
ビタミン混合物 適量
ビタミンAアセテート 70μg
ビタミンE 1.0mg
ビタミンB 0.13mg
ビタミンB 0.15mg
ビタミンB 0.5mg
ビタミンB12 0.2μg
ビタミンC 10mg
ビオチン 10μg
ニコチン酸アミド 1.7mg
葉酸 50μg
パントテン酸カルシウム 0.5mg
無機質混合物 適量
硫酸第1鉄 1.75mg
酸化亜鉛 0.82mg
炭酸マグネシウム 25.3mg
第1燐酸カリウム 15mg
第2燐酸カルシウム 55mg
クエン酸カリウム 90mg
炭酸カルシウム 100mg
塩化マグネシウム 24.8mg
上記のビタミン及びミネラル混合物の組成比は、比較的健康食品に適合した成分を望ましい実施例として混合組成しているが、この配合比を任意に変形実施しても問題はなく、通常の健康食品の製造法に従って上記の成分を混合した後に、顆粒を製造し、通常の方法に従って健康食品組成物の製造に使用可能である。
【0064】
(製剤例7.健康飲料の製造)
モリン(morin) 100mg
ビタミンC 15g
ビタミンE(粉末) 100g
乳酸鉄 19.75g
酸化亜鉛 3.5g
ニコチン酸アミド 3.5g
ビタミンA 0.2g
ビタミンB 0.25g
ビタミンB 0.3g
水 適量
通常の健康飲料の製造法に従って上記の成分を混合した後に、約1時間にわたって85℃において攪拌加熱し、次いで、製造された溶液を濾過して、滅菌された2lの容器に取得し、密封滅菌した後に冷蔵保管し、その後、本発明の健康飲料組成物の製造に使用する。
【0065】
上記の組成比は、比較的嗜好飲料に適合した成分を望ましい実施例として混合組成しているが、需要階層や、需要国、使用用途など、地域的、民族的な嗜好度に応じて、この配合比を任意に変形実施しても問題ない。
【0066】
上述のように、本発明のフラボノイド系化合物は、アルツハイマー病の原因として推定されるベータアミロイド凝集の抑制効果、ベータアミロイド毒性の阻害能、及び認知機能回復効果を有することにより、認知機能障害の予防及び治療用の薬品組成物及び健康機能食品として有用に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】フラボノイド系化合物の構造を示す図である。
【図2】フィセチン(fisetin)によるベータアミロイド凝集の抑制活性を示す図である。
【図3】フラボン(flavone)によるベータアミロイド凝集の抑制活性を示す図である。
【図4】ケンフェロール(kaempferol)によるベータアミロイド凝集の抑制活性を示す図である。
【図5】モリン(morin)によるベータアミロイド凝集の抑制活性を示す図である。
【図6】ケルセチン(quercetine)によるベータアミロイド凝集の抑制活性を示す図である。
【図7】ラムネチン(rhamnetin)によるベータアミロイド凝集の抑制活性を示す図である。
【図8】フラボノイド系化合物によるベータアミロイド毒性の抑制活性を示す図である。
【図9】フラボノイド系化合物自体による細胞毒性を測定した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)によって表記されるフラボノイド系化合物を有効成分として含む認知機能障害関連疾患の予防又は治療のための薬学組成物:

前記式において、R〜Rは、それぞれ、独立的に、H、OH、又はOCHである。
【請求項2】
前記R、R、R、R、及びRは、H又はOHであり、Rは、H、OH、又はOCHであり、Rは、Hである化合物を含む請求項1記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記化合物は、フィセチン(fisetin)、フラボン(flavone)、ケンフェロール(kaempferol)、モリン(morin)、ケルセチン(quercetin)、又はラムネチン(rhamnetin)を含む請求項1記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記化合物は、組成物の総重量に対して化合物を0.1〜50重量%だけ含む請求項1記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記認知機能障害関連疾患は、アルツハイマー型痴呆症、脳血管性痴呆症、ピック(pick)病、クルツフェルト−ヤコブ(Creutzfeldt−jakob)病、頭部損傷による痴呆、又はパーキンソン(Parkinson)病であることを特徴とする請求項1記載の薬学組成物。
【請求項6】
認知機能障害関連疾患の予防及び改善の効果を示す第1項の化合物を有効成分として含有する健康機能食品。
【請求項7】
粉末、顆粒、錠剤、カプセル、又は飲料である請求項6記載の健康機能食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−145839(P2007−145839A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313782(P2006−313782)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(505114433)デジタル バイオテック カンパニー リミテッド (5)
【Fターム(参考)】