説明

フラン化合物の製造方法

【課題】フルフラール化合物からフラン化合物を製造するにあたり、触媒の活性が経時的に低下することを抑制し、安定的にフルフラール化合物を転化せしめて、高効率にフラン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】フルフラール化合物からフラン化合物を製造する方法において、フルフラール化合物を含む粗原料を精製し、不純物を所定量以下に制御したフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフルフラール化合物からフラン化合物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フランはテトラヒドロフランやピロール、チオフェン等の製造原料に用いることができる有用な中間体化学品であり、フルフラールの脱カルボニル反応により製造される。フルフラールは通常は石油由来の原料ではなく、植物に含まれるヘミセルロース分であるペントザンより製造されるため、誘導されるフランも石油原料由来ではなく植物原料由来の化学品に分類される。
【0003】
フルフラールからフランを製造する方法は古くから知られているが(特許文献1など)、植物由来の原料から効率的に化学品を得る方法として、特に触媒を用いた脱カルボニル反応によるフランの製造方法についての研究開発が行われている(特許文献2、非特許文献1)。フルフラールから脱カルボニル反応によりフランを製造する方法は大きく分けて二つの方法が知られている。一つは、Zn−Cr−Mn、Zn−Cr−Fe複合酸化物のような酸化物触媒を用いる方法(特許文献3など)であり、もう一つは、担持貴金属触媒を用いる方法である。後者の方法は、触媒が比較的低い反応温度でも活性を示すことから、この後者の方法を採用した液相反応(特許文献4、非特許文献2)によるフランの製造方法が提案されている。また、前者の方法と同様に後者の方法において、気相流通反応(特許文献2、非特許文献1、特許文献5)によるフランの製造方法も提案されている。
【特許文献1】米国特許第2,337,027号公報
【特許文献2】米国特許第4,780,552号公報
【特許文献3】米国特許第2,374,149号公報
【特許文献4】米国特許第3,257,417号公報
【特許文献5】米国特許第3,223,714号公報
【非特許文献1】Tianranqi Huagong 2002,27,9
【非特許文献2】Biomass, 16(1988),89
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒の存在下でフルフラールの脱カルボニル反応によってフランを一段で製造する方法の問題点は、用いる触媒の活性が経時的に大きく低下することである。従来提案されている技術の多くは触媒を改良することで触媒の活性劣化を抑制しようとするもの、あるいは劣化した触媒の再生に関するものであるが、未だに触媒寿命は十分ではなく、工業的に実施するには経済性の面で必ずしも満足し得るものではなかった。
【0005】
そこで、本発明は、フルフラール化合物からフラン化合物を製造するにあたり、触媒の活性が経時的に低下することを抑制し、安定的にフルフラール化合物を転化せしめて、高効率にフラン化合物を製造する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはフルフラール化合物をフラン化合物に転化する脱カルボニル反応について、触媒の経時活性低下を引き起こす因子を鋭意検討した結果、植物由来のフルフラール化合物を含む粗原料に含まれる不純物が経時的な触媒活性の低下を引き起こしていることを見出し本発明に到達した。以下に示す本発明は、含まれる不純物量を所定量以下に制御したフルフラール化合物を含む原料を供して脱カルボニル反応を行うことによって、触媒寿命を飛躍的に延ばす方法に関する。
【0007】
第1の本発明は、フルフラール化合物を含む粗原料を精製して得られたフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することを特徴とする、フラン化合物の製造方法である。
【0008】
ここで、「粗原料を精製」とは、フルフラール化合物以外の成分を分離除去、あるいは低減することをいう。また、「主成分とする」とは、精製した原料全体を基準(100質量%)として、フルフラール化合物を、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.5質量%以上、特に好ましくは99.8質量%以上含むことをいう。粗原料に含まれる不純物をあらかじめ分離除去等し、不純物を所定量以下に制御した後にフルフラール化合物を脱カルボニル反応工程に供することにより、脱カルボニル反応工程に使用する触媒の活性低下を、触媒の種類によらず抑制することができる。そして、長期間に亘り触媒の活性を維持し、高効率かつ安定的にフラン化合物を製造することが可能となる。
【0009】
第1の本発明において、フルフラール化合物を主成分とする原料は、フルフラール化合物を含む粗原料に含まれるフルフラール化合物よりも沸点の低い成分(以下、「低沸点成分」という場合がある。)を、フルフラール化合物の質量に対し少なくとも0.01質量%以上を取り除いて得られたものであることが好ましい。所定量の低沸点成分を除去することにより、脱カルボニル反応における触媒劣化をより効果的に抑制することができる。
【0010】
第1の本発明において、フルフラール化合物を主成分とする原料は、フルフラール化合物を含む粗原料に含まれるフルフラール化合物よりも沸点の高い成分(以下、「高沸点成分」という場合がある。)を、フルフラール化合物の質量に対し少なくとも0.1質量%以上を取り除いて得られたものであることが好ましい。所定量の高沸点成分を除去することにより、脱カルボニル反応における触媒劣化をより効果的に抑制することができる。
【0011】
第2の本発明は、硫黄濃度が6.0ppm以下であるフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することを特徴とするフラン化合物の製造方法である。不純物である硫黄あるいは硫黄を含有する化合物を除去または低減し、硫黄濃度を所定値以下に制御した原料を供することにより、脱カルボニル反応における触媒劣化をより効果的に抑制することができる。
【0012】
第3の本発明は、窒素濃度が4.0ppm以下であるフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することを特徴とするフラン化合物の製造方法である。不純物である窒素を含有する化合物を除去または低減し、窒素濃度を所定値以下に制御した原料を供することにより、脱カルボニル反応における触媒劣化をより効果的に抑制することができる。
【0013】
第4の本発明は、酸価が0.12mgKOH/g以下であるフルフラール化合物を主成分とする原料を、脱カルボニル反応工程に供することを特徴とするフラン化合物の製造方法である。不純物である酸成分を除去または低減し、酸価を所定値以下に制御した原料を供することにより、脱カルボニル反応における触媒劣化をより効果的に抑制することができる。
【0014】
第1〜第4の本発明において、脱カルボニル反応工程は、8、9、10族元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する触媒を用いて脱カルボニル反応を行う工程を含むものであることが好ましい。このような触媒を用いることにより、より効率的に脱カルボニル反応を行うことができる。
【0015】
第1〜第4の本発明において、脱カルボニル反応工程は、気化させたフルフラール化合物を主成分とする原料を触媒と接触させて脱カルボニル反応を行う工程を含むものであることが好ましい。このような工程を採用することで、より効率的に脱カルボニル反応を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
フルフラール化合物を含む粗原料を精製し、不純物を所定量以下に制御したフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することにより、脱カルボニル反応に使用する触媒の活性低下を、触媒の種類によらず抑制することができる。そして、長期間に亘り触媒の活性を維持し、高効率かつ安定的にフラン化合物を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のフラン化合物の製造方法は、フルフラール化合物を含む粗原料を精製して得られたフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することを特徴とする。まず、原料中のフルフラール化合物、および目的物のフラン化合物について説明する。
【0018】
<フルフラール化合物>
本発明のフラン化合物の製造方法で使用される原料のフルフラール化合物としては、特に制限されず、公知のフルフラール化合物を使用することができる。フルフラール化合物とは下記一般式(1)で示される化合物をいう。
【0019】
【化1】

【0020】
上記一般式(1)において、R、R、Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、例えば、水素、官能基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、官能基を有していてもよい芳香族炭化水素基、水酸基、アルデヒド基等の種々の官能基が挙げられ、具体的には、−H、−CHOH、−CH、−CHO等が挙げられる。フルフラール化合物の具体例としては、ヒドロキシメチルフルフラール、2−メチルフルフラール、3−メチルフルフラール、フルフリルジアルデヒド、フルフラールが好ましい例として挙げられ、中でも特にフルフラールが好適である。
【0021】
<フラン化合物>
本発明のフラン化合物の製造方法で得られるフラン化合物は、特に制限されず、公知のフラン化合物である。フラン化合物とは下記一般式(2)〜(6)で示される化合物をいう。
【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
、R、Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、例えば、水素、官能基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、官能基を有していてもよい芳香族炭化水素基、水酸基等の種々の官能基が挙げられ、具体的には、−H、−CHOH、−CH、−CHO等が挙げられる。フラン化合物の具体例としては、2−メチルフラン、3−メチルフラン、フラン、ジヒドロフラン、フルフリルアルコール、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフルフリルアルコールが挙げられ、特にフランが好適である。
【0028】
<フルフラール化合物を主成分とする原料>
本発明では、フルフラール化合物を含む粗原料について、該粗原料に含まれる不純物を分離除去、あるいは低減して精製し、フルフラール化合物を主成分とする原料とした後に、該精製した原料を脱カルボニル反応工程に供する。ここで、「主成分とする」とは、精製した原料全体を基準(100質量%)として、フルフラール化合物を、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.5質量%以上、特に好ましくは99.8質量%以上含むことをいい、不純物とは、フルフラール化合物以外の化合物や成分のことをいう。
【0029】
不純物を所定量以下に制御したフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することによって、触媒の経時活性低下を抑制し、安定的にフルフラール化合物をフラン化合物に転化させて、高効率でフラン化合物を製造することが可能になる。
【0030】
フルフラール化合物を含む粗原料の製造法は特に限定されないが、植物由来原料の水熱処理や酸による加水分解によって得ることができる。粗原料を精製する方法は、特に限定されないが、例えば、蒸留精製や不純物の吸着除去等が挙げられる。
【0031】
減圧蒸留によってフルフラールを含む粗原料(約400g)を精製する場合の条件を例示する。精留塔として内径18mm、高さ245mmのヴィグリュウ管を用い、粗原料を1Lフラスコに装填後、系内を窒素置換し、オイルバスによりフラスコ内の粗原料を加熱する。次いで系内を減圧して蒸留を行う。粗原料の温度を75℃、蒸気温度は55℃、系内の圧力を1.2×10Paとして、フルフラールより沸点が低い不純物(低沸点成分)を含む留分を約13質量%、フルフラールより沸点が高い不純物(高沸点成分)を含む留分を約25質量%除去することにより、約250gの精製されたフルフラールを主成分とする原料を得ることができる。
【0032】
フルフラール化合物を含む粗原料から取り除かれるフルフラール化合物以外の低沸点成分としては、一般的には、主成分となるフルフラール化合物と容易に蒸留分離しうる、主成分となるフルフラール化合物の沸点より沸点が5℃以上低い化合物が挙げられる。フルフラール化合物として沸点162℃のフルフラールを例にとれば、硝酸、イソブチルアルデヒド、1,3−ペンタジエナール、2−(1−プロペニル)−5−メチル−フラン、沸点が54−55℃である2,3−ジヒドロフラン、60−61℃であるフルフリルメチルジスルフィド、沸点が63−66℃である2−メチルフラン、沸点が64−65℃である2−シクロペンテン−1−オン、沸点が67℃の2−フリルメチルケトン、沸点が75℃であるブタナール、沸点が76−78℃である1−フルフリルピロール、沸点が79−80℃の3−フリルメタノール、沸点が90−91℃である3−ヒドロキシ−2−ブタノン、沸点が90−92℃であるフルフリルチオシアネート、沸点が97−100℃である2−ビニルフラン、沸点が98℃であるフラルデヒドジメチルヒドラゾン、沸点が100−101℃である2−アセチル−5−メチルフラン、沸点が101℃であるギ酸、沸点が113−115℃である3−メトキシフェノール、沸点が117−118℃である酢酸、沸点が112−115℃であるジフルフリルジスルフィド、沸点が121−124℃の3−ペンテン−2−オン、沸点が120−122℃の3−フランカルボン酸、沸点が135−143℃であるジフルフリルスルフィド、沸点が145−146℃であるフルフリルアミン、沸点が146−148℃である2−シアノフラン、沸点が155℃である2−フリルメタンチオール、沸点が157−158℃であるフルフリルイソシアネートなど、沸点が158℃以下の化合物が挙げられる。取り除く低沸点成分の割合は、粗原料に含まれる低沸点成分合計の質量を基準(100質量%)として、通常30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。取り除く低沸点成分の割合は、粗原料のフルフラール化合物の含有率にもよるが、フルフラール化合物を含む粗原料の質量を基準(100質量%)として、通常0.01質量%以上50質量%以下、好ましくは0.05質量%以上40質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上30質量%以下である。
【0033】
フルフラール化合物を含む粗原料から取り除かれるフルフラール化合物以外の高沸点成分としては、一般的には、主成分となるフルフラール化合物と容易に蒸留分離しうる、主成分となるフルフラール化合物の沸点より沸点が5℃以上高い化合物が挙げられる。フルフラール化合物として沸点162℃のフルフラールを例にとれば、沸点が173−174℃の2−フランカルボニルクロライド、沸点が181−182℃の3−(2−フリル)プロパノール、沸点が182℃のフェノール、沸点が187℃の5−メチルフルフラール、沸点が197−198℃の2−メチルベンゾフラン、沸点が204−205℃の4−(2−フリル)−1−ブテン−4−オール、230−232℃の2−フランカルボン酸、沸点が243℃の4−メトキシフェノール、沸点が286℃の1−(2−フリル)アクリル酸、トランス−1−(2−フリル)プロペナール、4−(2−フリル)−3−ブテン−2−オン、ジ−(2−フリル)メタン、3−エチル−2,5−ジメチルフラン、2−メトキシ−4−エチルフェノール、メトキシビニルフェノール、1−(3−フリル)−3−ブタノン、1−(3−フリル)−2−メチル−プロペナールエチルフェノール、ジ−(2−フリル)ジケトン、硫酸、ウロン酸、システイン、フルフラールの重合物など沸点が167℃以上の化合物が挙げられる。取り除く高沸点成分の割合は、粗原料に含まれる高沸点成分合計の質量を基準(100質量%)として、通常30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。取り除く高沸点成分の割合は、粗原料のフルフラール化合物の含有率にもよるが、フルフラール化合物を含む粗原料の質量を基準(100質量%)として、通常0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下である。
【0034】
これらの低沸点成分や高沸点成分を十分に取り除いたフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することによって、触媒の経時的な活性低下を抑制し、安定的にフルフラール化合物をフラン化合物に転化させて、高効率でフラン化合物を製造することが可能になる。逆に、これらの低沸点成分や高沸点成分の除去が不十分であると、脱カルボニル反応において触媒の活性は経時的に低下し、安定的にフルフラール化合物をフラン化合物に転化させることができない。
【0035】
吸着によって不純物を分離除去することも可能である。その際の吸着剤は、特に限定されないが、活性炭やイオン交換樹脂、イオン交換ゼオライトやシリカ等の多孔性物質、あるいは金属、貴金属、または、該金属、貴金属をシリカ、アルミナ、ゼオライトあるいは活性炭といった担体に担持したものが好適に用いられる。吸着剤は、複数を同時に用いてもよい。
【0036】
吸着除去の方法としては、粗原料に吸着剤を入れ、一定の処理時間の後に濾過等で分離してもよいし、あらかじめ吸着剤をカラム等につめ、粗原料を流通させてもよい。また、蒸留精製の際に粗原料と吸着剤とを装填し、不純物を吸着除去しつつ蒸留によって精製した原料を得ることも好ましい方法として挙げられる。その際の吸着剤としては、上記に挙げた物質のほか、酸成分の除去に効果的なNaOH等のアルカリ水酸化物、NaCO等のアルカリ炭酸塩等も好適に用いられる。さらには、吸着剤を用いて不純物を除去した後にさらに蒸留精製を行って、吸着によって取り除けなかった不純物や、吸着剤由来の不純物を除去することも好適に行われる。また、蒸留精製の後に、吸着除去を行ってもよい。
【0037】
吸着剤としてアルミナ担持Pd(2質量%Pd/Al、触媒全体中のPdの割合が2質量%)を用いて粗原料を精製する際の条件を例示する。該アルミナ担持Pd(21g)を200℃、100ml/分のH気流下で1.5時間保持し、加熱乾燥および還元を行う。その後アルミナ担持Pdの温度を130℃とし、100ml/分のN気流下で粗原料を約1.5ml/分の速度で滴下させる。約5hrかけて約400mlの粗原料を滴下すると約380mlの精製された原料を得ることができる。
【0038】
精製等によって不純物の低減がなされたフルフラール化合物を主成分とする原料を保存する場合の条件は、特に限定されないが、酸素や光を遮断した雰囲気で保存するのが好ましい。保存雰囲気中の酸素の濃度は通常20%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0039】
本発明の方法においては、不純物を分離除去、あるいは低減した後のフルフラール化合物を主成分とする原料に含まれる硫黄、もしくは硫黄化合物の量は、硫黄の濃度として、通常6.0ppm以下、好ましくは5.0ppm以下、さらに好ましくは3.0ppm以下、特に好ましくは2.0ppm以下である。硫黄の形態としては、S0、S2−あるいはS6+(SOx)が挙げられる。硫黄化合物としては、例えば、システイン等のアミノ酸、該アミノ酸を含むたんぱく質、チオール基、スルフヒドリル基、スルフィド基、ジスルフィド基を有する化合物、Sを骨格に持つ芳香環化合物、硫酸、スルホン酸およびそれらの塩、亜硫酸および亜硫酸塩、あるいは錯塩が挙げられる。これらの硫黄含有成分が硫黄の濃度として 6.0ppm以下に制御されたフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することによって、触媒の経時的な活性低下が著しく小さくなる。10時間の気相流通連続反応を例にすればフルフラール化合物の転化率は初期の9割以上を維持するため、高効率でフラン化合物を製造することが可能になる。フルフラール化合物を主成分とする原料中に含まれる硫黄もしくは硫黄化合物量の分析法については特に限定されないが、一例を挙げれば燃焼−吸収−イオンクロマト法によって分析できる。
【0040】
本発明の方法においては、不純物を分離除去、あるいは低減した後のフルフラール化合物を主成分とする原料に含まれる窒素化合物の量は、窒素原子の濃度として、通常4.0ppm以下、好ましくは3.0ppm以下、さらに好ましくは2.0ppm以下である。窒素の形態としては、N3−、N5+、または、N3+が挙げられる。窒素化合物としては、例えば、アンモニア等のアミン類およびその塩類、種々のアミノ酸、たんぱく質、Nを骨格に持つ芳香環化合物、硝酸および硝酸塩、亜硝酸および亜硝酸塩、あるいは錯塩が挙げられる。これらの窒素含有成分が窒素の濃度として4.0ppm以下に制御されたフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することによって、触媒の経時的な活性低下が著しく小さくなる。10時間の気相流通連続反応を例にすればフルフラール化合物の転化率は初期の9割以上を維持するため、高効率でフラン化合物を製造することが可能になる。フルフラール化合物を主成分とする原料中に含まれる窒素化合物量の分析法は特に限定されないが、一例を挙げれば燃焼分解−化学発光法によって分析できる。
【0041】
不純物を分離除去、あるいは低減した後のフルフラール化合物を主成分とする原料の酸価は、通常0.12mgKOH/g以下、好ましくは0.1mgKOH/g以下、特に好ましくは0.08mgKOH/g以下である。含まれる酸成分の形態としては、硫酸、スルホン酸、硝酸等の無機酸、および、スルホン基、カルボキシル基を有する有機酸、例えば、フランスルホン酸、フランカルボン酸が挙げられる。これらの酸成分が0.12mgKOH/g以下に制御されたフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することによって、触媒の経時的な活性低下が著しく小さくなる。10時間の気相流通連続反応を例にすればフルフラール化合物の転化率は初期の9割以上を維持するため、高効率でフラン化合物を製造することが可能になる。酸価の測定法は、特に限定されないが、中和滴定法を用いることができる。具体的な例を挙げれば、フルフラール化合物を主成分とする原料をエタノールで希釈した後に0.01Nの水酸化カリウム水溶液を用いて滴定することによって、酸価を測定することができる。
【0042】
これらの不純物を有しないフルフラール化合物は通常無色透明である。したがって、本発明の不純物を分離除去、あるいは低減したフルフラール化合物を主成分とする原料の色調は、APHI(American Public Healty Association)標準色溶液のYI(Yellowness Index:黄色度)値を基準とした番号で算出すれば、通常500以下、好ましくは300以下、さらに好ましくは100以下、特に好ましくは50以下である。これらの色調は色差計を用いた透過測定等によって分析、算出することができる。
【0043】
粗原料がこれらの不純物を含む理由については次のように考えることができる。通常、植物由来の有機化合物は石油由来の有機化合物に比べてS分やN分を含まないとされるのが一般的であるが、フルフラール化合物の原料となる植物にも植物の硫黄代謝、窒素代謝等に起因する物質が少なからず含まれることから、これらに由来する不純物がフルフラール化合物の製造段階を経て混入する可能性がある。また、粗原料は、通常、硫酸等の鉱酸を触媒として、グルコース、フルクトース、または、キシロースの脱水、あるいは、ペントザンの分解により得ることから、その過程で硫酸根、あるいはスルホン酸基を有する化合物が混入する可能性もある。
【0044】
一方、フルフラール化合物はカルボニル基を有しているため、酸素と接触させれば酸化によるカルボン酸の生成は避けられない。酸価による評価によって定量される酸は、粗原料の製造工程において混入した触媒成分由来の酸とカルボニルの酸化によって生成したカルボン酸である。
【0045】
これらの不純物を所定量以下に制御したフルフラール化合物を主成分とする原料を用いることによって、脱カルボニル反応における触媒の活性を長時間に亘って維持することが可能となる。逆に、脱カルボニル反応工程に供する原料中にこれらの不純物が所定量以上含まれると、脱カルボニル反応に使用する触媒の活性は経時的に著しく低下する。その理由は明らかではないが、一つの理由としてはこれらの不純物が活性点を被毒することが考えられる。また原料中に含まれる酸はフルフラール化合物の重合を促進すると考えられ、酸の存在により触媒上のコークの生成が促進され、活性点の被覆が加速されると推測される。
【0046】
<脱カルボニル反応触媒>
本発明の方法においては、上記したフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供する。該脱カルボニル化反応において使用する触媒について以下説明する。該触媒は特に限定されないが、通常、8、9、10族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有した触媒が用いられる。8、9、10族元素の種類は、特に限定されないが、好ましくは、Ni、Ru、Ir、Pd、Pt、より好ましくはRu,Ir、Pd、Pt、さらに好ましくはPd、Pt、特に好ましくはPdを含有する触媒が好適に用いられる。Pdを含有する触媒はフルフラール化合物のフラン化合物への転化に対して極めて選択性が高いのみならず、触媒活性の経時的な低下を抑制するにあたり、本発明の不純物を所定量以下に制御したフルフラール化合物を主成分とする原料を用いる方法が極めて有効である。
【0047】
通常、これらの金属触媒は安定な担体に担持されることによって担持金属触媒として用いられる。担体の種類は、特に限定されないが、Al、SiO、TiO、ZrO、MgO等の単独金属酸化物やこれらの複合金属酸化物、ゼオライト等の多孔性酸化物、あるいは活性炭といった担体を用いることができる。ゼオライトの種類は特に限定されないが、MFI型、FAU型、または、LTA型が好適に用いられる。プロトンタイプのゼオライトは表面酸性が強く、フルフラール化合物やフラン化合物を変性させる可能性がある。この場合は、1族金属イオンに交換したゼオライトや、酸点を有しないシリカライト等のゼオライトが好適に用いられる。これらの担体のうち、好ましくはAl、SiO、TiO、ZrO、MgO等の単独金属酸化物やこれらの複合酸化物、より好ましくはAl、SiO、TiO、ZrO、MgO等の単独金属酸化物、さらに好ましくはAl、SiO、ZrOが、特に好ましくはZrOが用いられる。これらが担体として好ましい理由は、これらの弱酸、弱塩基性の単独金属酸化物がフルフラール化合物やフラン化合物に対して不活性であり、担持された金属によるフルフラール化合物のフラン化合物への転化において副反応が起こりにくく、結果としてフラン化合物の収率が最大限に得られる。
【0048】
これらの担持金属触媒は、触媒の性能を向上させるために、修飾助剤を含有することができる。修飾助剤としては、1族金属やそれらのイオン、2族金属やそれらのイオン、4族金属やそれらのイオン、6族金属やそれらのイオンが挙げられ、好ましくは1族金属やそれらのイオンである。
【0049】
触媒中の好ましい金属の担持量は、金属や担体の種類にもよるので一概にはいえないが、通常、0.01質量%以上80質量%以下、好ましくは0.05質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは、0.1質量%以上20質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。金属の担持量が少ないと、フルフラール化合物を主成分とする原料が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。金属の担持量が多いとフルフラール化合物の水素化分解の生成物が増大し、また生成したフラン化合物が逐次的な反応を引き起こし、結果としてフラン化合物の収率が低下するため好ましくない。
【0050】
触媒の調製方法は特に限定されないが、イオン交換法や含浸担持法、ポアフィリング法、incipient−wetness法、スプレー担持法等が好適に用いられる。イオン交換法や含浸担持等に用いる金属原料としては、通常、塩化物や硝酸塩などの水溶性の塩、あるいはそれらの酸性溶液が用いられる。中でも、硝酸塩やアンミン錯体硝酸塩、アンミンニトロ化合物等のハロゲン元素を含まない水溶性原料が好ましい。イオン交換法や含浸担持法によって金属成分を担体に担持させた後、濾過水洗や乾燥により水分を除去する。脱カルボニル反応に使用する前に、還元剤を用いた液相での還元や水素気流中下での還元処理により金属を還元して、触媒を活性化することができる。
【0051】
<脱カルボニル反応>
脱カルボニル反応の反応形式は特に規定されるものではなく、回分反応、連続流通反応のいずれでも実施することができるが、工業的には連続流通反応形式を用いるのが好ましい。また、脱カルボニル反応の反応形式は液相反応、気相反応のいずれにおいても実施できるが、気相反応において気体のフルフラール化合物と固体触媒等とを接触させて反応を実施するのが好ましい。その理由は、単位体積あたりのフルフラール化合物の濃度が小さくなるため、フルフラール化合物の縮合や重合やフラン化合物の収率に悪影響を及ぼす副反応等が抑制されるためである。また、気相反応は反応器を工夫することにより触媒の入れ替えや再生が容易となる長所も有する。
【0052】
気相流通反応の場合、通常、触媒を装填した管型反応器にフルフラール化合物を主成分とする原料を含むガスを連続的に供給し、反応器内の触媒に通ずることによって反応を進行させフラン化合物を得る。フルフラール化合物を主成分とする原料はあらかじめ設けた気化器においてガスとすることが好ましい。気化の方法は特にこだわらないが、液状態のフルフラール化合物を主成分とする原料に水素や不活性ガス等をガスバブリングする方法やスプレー気化による方法等が挙げられる。必要に応じて不活性ガス等をガスバブリングや同伴ガスとして用いる場合、用いる不活性ガスの純度は通常、95vol%以上、好ましくは99vol%以上、さらに好ましくは99.9vol%以上、特に好ましくは99.99vol%以上である。
【0053】
貴金属触媒を用いたフルフラール化合物の脱カルボニル反応においては、反応開始剤として水素を共存させることが好適に行われる。同伴させる水素の量は、特に限定されないが、フルフラール化合物とのモル比において、通常0.01以上4以下、好ましくは0.02以上2以下、さらに好ましくは0.04以上、1以下、特に好ましくは0.06以上、0.5以下である。
【0054】
水素の量が少ないとフルフラール化合物を主成分とする原料が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。水素の量が多すぎるとフルフラール化合物の水素化分解の生成物が増大し、また生成したフラン化合物が逐次的な反応を引き起こし、結果としてフラン化合物の収率が低下するため好ましくない。
その際、用いる水素ガスの純度は、通常99vol%以上、好ましくは99.9vol%以上、さらに好ましくは99.99vol%以上、特に好ましくは99.999vol%以上である。また、触媒によっては水蒸気も同伴させることができる。
【0055】
フルフラール化合物の供給量は、触媒活性を担う貴金属1molに対し、通常0.0001mol/h以上50000mol/h以下、好ましくは0.001mol/h以上10000mol/h以下、さらに好ましくは0.01mol/h以上5000mol/h以下である。フルフラール化合物の供給量は、触媒重量1gに対し、通常1mmol/h以上3000mmol/h以下、好ましくは10mmol/h以上1500mmol/h以下、さらに好ましくは20mmol/h以上500mmol/h以下である。
【0056】
滞留時間は、通常0.001秒以上10秒以下、好ましくは0.01秒以上5秒以下、さらに好ましくは0.05秒以上2秒以下、特に好ましくは0.1秒以上1秒以下である。フルフラール化合物の供給量に対する触媒金属量や触媒量が少ない場合や、滞留時間が短い場合にはフルフラール化合物を主成分とする原料が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。また、フルフラール化合物の供給量に対する触媒金属量や触媒量が多い場合や滞留時間が長い場合には、生成したフラン化合物が逐次的な反応を引き起こし、結果としてフラン化合物の収率が低下することがある。ただし、長時間に及ぶ連続反応を行う場合、触媒の活性低下を予測してあらかじめ過剰量の触媒を装填することが行われることがある。
【0057】
反応温度は、通常170℃以上450℃以下、好ましくは180℃以上380℃以下、さらに好ましくは200℃以上340℃以下、特に好ましくは230℃以上300℃以下である。反応温度が低いとフルフラール化合物を主成分とする原料が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。また、反応温度が高すぎると、生成したフラン化合物が逐次的な反応を引き起こし、結果としてフラン化合物の収率が低下するため好ましくない。反応圧力は絶対圧で表記すると、通常0.01MPa以上3MPa以下、好ましくは0.05MPa以上2MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa以上1MPa以下である。反応圧力が低いと生成したフラン化合物の分離に際してフラン化合物の損失が生じることがある。
【0058】
液相反応の場合には、上記条件を満たすフルフラール化合物を主成分とする原料と触媒とを反応器に仕込み撹拌下、適切な温度にて反応させ、生成したフラン化合物の沸点が低い場合は気相よりフラン化合物を捕集することができる。反応温度は、通常120℃以上250℃以下、好ましくは140℃以上230℃以下、特に好ましくは155℃以上220℃以下で行われる。反応圧力は絶対圧で表記すると、通常0.1MPa以上1MPa以下、好ましくは0.15MPa以上0.6MPa以下、さらに好ましくは0.2MPa以上0.3MPa以下である。ガンマブチルラクトン、N−メチルピロリドン、トリグライム、テトラグライム等の高沸点極性溶媒を用いても良い。また、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸カルシウム等の塩基性添加剤を用いても良いし、水等の液体の添加剤を用いても良い。必要に応じて副生成物のパージ除去や、触媒の添加や入れ替えを行うことができる。また、連続的にフルフラール化合物原料を供給することも好適に行われる。
【0059】
不純物を低減したフルフラール化合物原料を連続的に脱カルボニル反応器に供給する場合、不純物低減のための精製装置と脱カルボニル反応器を連結させ、フルフラール化合物原料を連続的に蒸留精製、あるいはフルフラール化合物原料の不純物を連続的に吸着除去精製して上記の反応器に供給することが好適に用いられる。蒸留精製の場合には、高沸点の不純物を排除だけではなく、低沸点の不純物も除去して脱カルボニル反応器に供給することが効果的である。
【0060】
得られたフラン化合物は副生する一酸化炭素や副生成物、および反応開始剤として導入した水素と分離された後、蒸留等の操作によって精製される。分離された水素はリサイクルして、脱カルボニル反応に再度用いることも可能であり、また一酸化炭素と共に他の用途に有効利用することもできる。
【0061】
本発明の方法では、特にPt等の特定の金属を含む触媒を用いた場合、水素を共存させたフルフラール化合物の脱カルボニル反応において、フルフラール化合物あるいは生成したフラン化合物が水素化、水素化分解され、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、2メチルフラン、2メチルテトラヒドロフランが生成する。したがって、本発明の方法は、フルフラール化合物を含む粗原料よりこれらのエタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、2メチルフラン、2メチルテトラヒドロフランを製造する方法としても有用である。
【0062】
本発明においては、不純物を所定量以下に制御したフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することによって極めて不純物の含有量が少ないフラン化合物が得られる。得られるフラン化合物に含まれる硫黄化合物、窒素化合物の量はそれぞれ6.0ppm以下、4.0ppm以下である。また、不純物を所定量以下に制御したフルフラール化合物を主成分とする原料を用いることにより、重合反応等による副生成物の割合も極めて低くなる。得られるフラン化合物は無色透明であり、APHI(American Public Healty Association)標準色溶液のYI(Yellowness Index:黄色度)値を基準とした番号で算出すれば50以下である。
【0063】
本発明によって得られるフラン化合物は極めて不純物の含有量が少ないため、各種の樹脂原料や添加剤として有用である。また、同様な理由により誘導品合成の中間体として有用であり、フラン化合物を原料とする合成反応を効率よく実施することができる。例えば、得られたフラン化合物が、一般式(2)のフラン化合物であれば、触媒を用いた水素化反応により一般式(6)のフラン化合物に変換することができるし、部分水素化反応により一般式(3)〜(5)のフラン化合物に変換することができる。また、水和等を組み合わせて、1,4−ブタンジオール等のジオール類、ガンマブチロラクトン等のラクトン類に変換することができる。
【実施例】
【0064】
以下に本発明の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、フルフラール化合物を主成分とする原料のフルラール化合物の純度はGCのピーク面積割合から見積もり、硫黄濃度、窒素濃度の測定はそれぞれ、燃焼−吸収−イオンクロマト法(燃焼装置:三菱化学社製、試料燃焼装置、QF−02、分析装置:日本ダイオネクス社製、イオンクロマトDX−500)、燃焼分解−化学発光法で行った(三菱化学社製、微量窒素分析装置、TN−10)。また、フルフラール化合物を主成分とする原料の酸価の測定は、フルフラール化合物を主成分とする原料をエタノールで希釈した後に0.01Nの水酸化カリウム水溶液を用いて滴定することによって測定した。
【0065】
(実施例1)
<蒸留精製、脱カルボニル反応触媒(1質量%Pd/Al)>
フルフラールを主成分とする原料として、市販試薬フルフラールAを蒸留精製したものを使用した。蒸留精製において分離除去されたフルフラールよりも沸点の低い低沸点成分、およびフルフラールより沸点の高い高沸点成分の量は、フルフラールの重量に対してそれぞれ0.01質量%以上、0.1質量%以上であった。このとき、精製後のフルフラールを主成分とする原料のフルフラール純度は99%以上であり、不純物濃度は、硫黄濃度1.3ppm、窒素濃度1.5ppm、酸価0.072mgKOH/gであった。2mm球状の担持Pd触媒(1質量%Pd/Al)0.5gを内径8mmのガラス製反応管に充填し、水素10Nml/min流通下で14℃/minで昇温した。触媒の温度が275℃に達した後、約10分間同温度において水素気流下で保持した。その後、流通させるガスの組成を水素6.6Nml/min、窒素26.3Nml/minに変更した。
【0066】
蒸留精製したフルフラールを主成分とする原料を170℃に加熱した気化器を通して気化させ、36.2mmol/hの流速で供給して反応を開始した。このとき、W/Fは14gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは7.2molフルフラール/h・gPd、水素/フルフラ−ルの比は0.5であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。反応管出口からの留出ガスの一部をGCに導入し、フラン、一酸化炭素、窒素およびその他の生成物について定量的に分析した。以下の式より「フルフラール転化率(%)」と「フラン選択率(%)」を求めた。
【0067】
フルフラール転化率(%)=[1−{反応後フルフラール残量(mol)/フルフラール供給量(mol)}]×100
【0068】
フラン選択率(%)={フラン収率(%)/フルフラール転化率(%)}×100
=[{フラン生成量(mol)/フルフラールフィード量(mol)}×100/フルフラール転化率(%)]×100
【0069】
以上の結果、硫黄濃度1.3ppm、窒素濃度1.5ppm、酸価0.072mgKOH/gのフルフラールを主成分とする原料を用いて、担持Pd触媒(1質量%Pd/Al)上で脱カルボニル反応を連続で行った場合には、反応開始から1.3時間後のフルフラール転化率は100%、フラン選択率は98%であった。また、反応開始から44.7時間後のフルフラール転化率は70%、フラン選択率は98%であった。
【0070】
(実施例2)
<蒸留精製および不純物吸着除去、脱カルボニル反応触媒(1質量%Pd/Al)>
フルフラールを主成分とする原料として、市販試薬フルフラールAを蒸留精製し、さらに吸着剤を用いて不純物を除去し、その後再度蒸留精製したものを用いて脱カルボニル反応を行った。このとき、最初の蒸留精製において分離除去されたフルフラールよりも沸点の低い低沸点成分、およびフルフラールより沸点の高い高沸点成分の量は、フルフラールの重量に対してそれぞれ0.01質量%以上、0.1質量%以上であった。吸着剤による不純物の除去は以下のように行った。市販の担持Pd触媒(2質量%Pd/Al)を加熱乾燥し、200℃において水素により金属を還元した。この触媒を吸着剤として管状カラムに装填し130℃に保持した。100ml/minの窒素気流下、蒸留精製後の液体原料を1.5ml/minで滴下し、カラムを通ずることにより精製した。
【0071】
吸着剤による精製を行った原料のフルフラール純度は99%以上であり、不純物濃度は、硫黄濃度0.12ppm、窒素濃度1.2ppmであった。原料の精製法以外は実施例1と同様に反応を行った。触媒は実施例1と同様に2mm球状の担持Pd触媒(1%Pd/Al)0.5gを用いた。
【0072】
吸着剤を用いて精製したフルフラールを主成分とする原料、すなわち硫黄濃度0.12ppm、窒素濃度1.2ppmの原料を用いて、担持Pd触媒(1質量%Pd/Al)上で脱カルボニル反応を連続で行った場合には、反応開始から1.6時間後のフルフラール転化率は100%、フラン選択率は98%であった。また、反応開始から66.6時間後のフルフラール転化率は84%、フラン選択率は99%であった。
【0073】
(比較例1)
<脱カルボニル反応触媒(1質量%Pd/Al)>
用いる原料として、市販試薬フルフラールAを特に精製せずに使用した以外は実施例1と同様に反応を行った。このとき、原料に含まれる不純物濃度は硫黄濃度6.4ppm、窒素濃度4.5ppm、酸価0.131mgKOH/gであった。反応開始から1時間後のフルフラール転化率は99%、フラン選択率は98%であり、反応開始から9時間後のフルフラール転化率は69%、フラン選択率は97%であった。
【0074】
(比較例2)
<脱カルボニル反応触媒(1質量%Pd/Al)>
用いる原料として、市販試薬フルフラールAを蒸留精製した際の初留成分を使用した以外は実施例1と同様に反応を行った。このとき、原料に含まれる不純物濃度は硫黄濃度分14ppm、窒素濃度14.6ppm、酸価0.859mgKOH/gであった。反応開始から1時間後のフルフラール転化率は100%、フラン選択率は98%であり、反応開始から5時間後のフルフラール転化率は70%、フラン選択率は97%であった。
【0075】
(実施例3)
<蒸留精製、脱カルボニル反応触媒(1質量%Pd/ZrO)>
市販のペレット状ジルコニアを500μm〜1000μmの粒径に粉砕・篩分し、600℃空気気流下で6時間焼成したもの10gに、硝酸Pd溶液(Pd:9.98質量%)1.0gを蒸留水で希釈した溶液を用いて、incipient−wetness法によりPdを含浸させた。窒素気流下120℃で6時間乾燥させた後、空気気流下500℃で4時間焼成し、その後、450℃で2時間、水素による還元を行って担持Pd触媒(1質量%Pd/ZrO)を得た。
【0076】
触媒として0.75gの上記触媒を用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。このとき、W/Fは21gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは5molフルフラール/h・gPd、水素/フルフラ−ルの比は0.5であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0077】
硫黄濃度1.3ppm、窒素濃度1.5ppm、酸価0.072mgKOH/gのフルフラールを主成分とする原料を用いて、担持Pd触媒(1質量%Pd/ZrO)上で脱カルボニル反応を連続で行った場合には、反応開始から1.7時間後のフルフラール転化率は100%、フラン選択率は96%であり、反応開始から39.2時間後のフルフラール転化率は80%、フラン選択率は97%であった。
【0078】
(比較例3)
<脱カルボニル反応触媒(1質量%Pd/ZrO)>
用いる原料として、市販試薬フルフラールAを特に精製せずに使用した以外は実施例3と同様に反応を行った。このとき、原料に含まれる不純物濃度は、硫黄濃度6.4ppm、窒素濃度4.5ppm、酸価0.131mgKOH/gであった。反応開始から1時間後のフルフラール転化率は100%、フラン選択率は94%であった。また、反応開始から15時間後のフルフラール転化率は80%、フラン選択率は96%であった。
【0079】
(実施例4)
<蒸留精製、担持Pt触媒(2質量%Pt/Al)>
市販のペレット状γ−Alを500μm〜1000μmの粒径に粉砕・篩分したもの10gに硝酸Pt溶液(Pt:5.17質量%)4.0gを蒸留水で希釈した溶液を用いてincipient−wetness法によりPtを含浸させた。水分を除去し、窒素気流下120℃で6時間乾燥させた後、空気気流下500℃で4時間焼成し、その後、450℃で2時間、水素による還元を行って、担持Pt触媒(2質量%Pt/Al)を得た。
【0080】
触媒として1.0gの上記触媒を用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。このときW/Fは28gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは2molフルフラール/h・gPt、水素/フルフラ−ルの比は0.5であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0081】
硫黄濃度1.3ppm、窒素濃度1.5ppm、酸価0.072mgKOH/gのフルフラールを主成分とする原料を用いて、担持Pt触媒(2質量%Pt/Al)上で脱カルボニル反応を連続で行った場合には、反応開始から1.7時間後のフルフラール転化率は99%、フラン選択率は95%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等が生成物中に占める割合は合計で4%であった。反応開始から50時間後のフルフラール転化率は92%、フラン選択率は96%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等が生成物中に占める割合は合計で3%であった。
【0082】
(比較例4)
<担持Pt触媒(2質量%Pt/Al)>
用いる原料として、市販試薬フルフラールBを特に精製せずに使用した以外は実施例4と同様に反応を行った。このとき、原料に含まれる不純物濃度は硫黄濃度23.1ppm、窒素濃度4.9ppm、酸価0.05mgKOH/gであった。反応開始から1時間後のフルフラール転化率は100%、フラン選択率は93%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等が生成物中に占める割合は合計で5%であった。反応開始から50時間後のフルフラール転化率は88%、フラン選択率は95%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等が生成物中に占める割合は合計で3%であった。
【0083】
【表1】

【0084】
脱カルボニル反応触媒として、1質量%Pd/Alを用いた実施例1、2と比較例1、2の結果より、不純物を所定量以下に制御した原料を用いた場合、すなわち硫黄成分、窒素成分、酸成分の量を所定量以下に制御したフルフラールを主成分とする原料を用いた場合の方が触媒活性の経時低下が抑制されることがわかった。
【0085】
また、脱カルボニル反応触媒として、1質量%Pd/ZrOを用いた実施例3と比較例3の結果より、不純物を所定量以下に制御した原料を用いた場合、すなわち硫黄成分、窒素成分、酸成分の量を所定量以下に制御したフルフラールを主成分とする原料を用いた場合の方が触媒活性の経時低下が抑制されることがわかった。
【0086】
また、脱カルボニル反応触媒として、2質量%Pt/Alを用いた実施例4と比較例4の結果より、不純物を所定量以下に制御した原料を用いた場合、すなわち硫黄成分、窒素成分の量を所定量以下に制御したフルフラールを主成分とする原料を用いた場合の方が触媒活性の経時低下が抑制されることがわかった。
【0087】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うフラン化合物の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルフラール化合物を含む粗原料を精製して得られたフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することを特徴とする、フラン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記フルフラール化合物を主成分とする原料が、フルフラール化合物を含む粗原料に含まれるフルフラール化合物よりも沸点の低い成分を、フルフラール化合物の質量に対し少なくとも0.01質量%以上を取り除いて得られたものである、請求項1に記載のフラン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記フルフラール化合物を主成分とする原料が、フルフラール化合物を含む粗原料に含まれるフルフラール化合物よりも沸点の高い成分を、フルフラール化合物の質量に対し少なくとも0.1質量%以上を取り除いて得られたものである、請求項1または2に記載のフラン化合物の製造方法。
【請求項4】
硫黄濃度が6.0ppm以下であるフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することを特徴とするフラン化合物の製造方法。
【請求項5】
窒素濃度が4.0ppm以下であるフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することを特徴とするフラン化合物の製造方法。
【請求項6】
酸価が0.12mgKOH/g以下であるフルフラール化合物を主成分とする原料を脱カルボニル反応工程に供することを特徴とするフラン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記脱カルボニル反応工程が、8、9、10族元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する触媒を用いて脱カルボニル反応を行う工程を含むものである、請求項1〜6のいずれかに記載のフラン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記脱カルボニル反応工程が、気化させたフルフラール化合物を主成分とする原料を触媒と接触させて脱カルボニル反応を行う工程を含むものである、請求項1〜7のいずれかに記載のフラン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−132656(P2009−132656A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311127(P2007−311127)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】