説明

フラーレンナノ粒子分散液の製造方法

【課題】 フラーレンのナノ粒子の安定な分散液をきわめて容易に簡便に製造するフラーレンナノ粒子分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、フラーレンをその平均粒子径が10μm以下となるように粉砕し、得られたフラーレン微粉末を分散媒以外の添加物を加えることなく、水その他の種々の液体媒体中に混合して分散させるフラーレンナノ粒子分散液の製造方法である。特に、摩擦を利用した粉砕方法か、または摩擦とその他の機械力とを組み合わせた粉砕方法で原料フラーレンを粉砕して得たフラーレン微粉末を使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンをナノメートルサイズの微粒子の状態で液体媒体中に安定に分散させるフラーレンナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の炭素原子がかご状に結合した球状の中空構造をもつフラーレン(C60、C70、C76、C78、C82、C84、C86、C88、C90,C92、C94、C96、C116等)は、新規な機能性化合物として注目をあびているが、フラーレンは極性が極めて低く、限られた溶媒でしか取り扱うことができず、その用途開発に大きな制約があった。例えば、本来水に溶けないフラーレンを水に可溶化し、あるいは安定に分散させることは、例えば、フラーレンの医療用分野、食品、化粧品、ナノテクノロジー、ナノバイオテクノロジー等の種々の分野への応用にあたって解決すべき課題である。
【0003】
近年になって、フラーレンに水溶性、水分散性を付与する試みが種々なされており、例えば、フラーレンを化学修飾して水溶性を付与する方法(特許文献1参照)、フラーレンを界面活性剤等を用いて可溶化する方法(非特許文献1参照)、フラーレンをシクロファン類やγーシクロデキストリン等に包摂して可溶化する方法(特許文献2および3参照)等が提案されている。更には、フラーレンナノ粒子の水分散液としては、フラーレンのベンゼン飽和溶液をテトラヒドロフラン(THF)、アセトンで希釈し、次いで水を加えた後にベンゼン等の有機溶媒を留去してフラーレン水分散液を製造する方法(非特許文献2参照)、フラーレンのベンゼンあるいはトルエン溶液を水に加え、超音波処理により分散させると同時にベンゼンあるいはトルエンを留去してフラーレン水分散液を製造する方法(非特許文献3参照)、フラーレンをTHF中で還元し、ナトリウム塩として水に抽出後、酸化してフラーレン水分散液を製造する方法(非特許文献4参照)、フラーレンのTHF溶液を水と混合後、THFを留去してフラーレン水分散液を製造する方法(特許文献4参照)、フラーレンを親水基と疎水基を有するポリマー系分散剤を用いて水または水性媒体中に分散させる方法(特許文献5および6参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、化学修飾を用いる方法は、フラーレンの物性を変化させ、また合成プロセスが煩雑であり、包摂ホスト化合物を用いる方法は操作が煩雑であって包摂ホスト化合物が高価であり、更に上記の有機溶媒を用いるフラーレン水分散液の製造では、残存溶媒の除去が困難であり、安全性の面で問題がある。また、分散剤等を用いてフラーレンを媒体中に分散させる方法も、最終的な分散液の中から分散剤等の添加物の除去が困難であり、この添加物の存在がその後のフラーレンの利用の障害となることがある。
【0005】
これに対して、フラーレンを化学修飾したり、有機溶媒や分散剤等を使用することのない方法として、例えば、フラーレンを水中にて激しく撹拌して分散する方法が提案されているが(特許文献7参照)、これはフラーレンを1〜10質量%含有する超微粒炭素組成物の分散であって、超微粒炭素を含んでいるがその中のフラーレンの含有量が少ないものである。また超音波処理や撹拌によって、フラーレンを水に分散する方法が報告されているが、この方法では1〜3μm程度の大きな粒子の分散液が得られるか(非特許文献5参照)、フラーレン含有量が極めて低い(3μg/mL程度)分散液が得られるのみである(非特許文献6参照)。つまりフラーレンを簡便で安全性の高いプロセスによって、効率的に媒体中に分散できる方法は依然として未開発である。
【0006】
【特許文献1】特開平9−235235号公報
【特許文献2】特開平7−206760号公報
【特許文献3】特開平8−3201号公報
【特許文献4】特開2001−348214号公報
【特許文献5】特開2005−35809号公報
【特許文献6】特開2005−35810号公報
【特許文献7】特開平10−45408号公報
【非特許文献1】R. Bensasson, E. Bienvenue, M. Dellinger, S. Leach, and P. Seta, J. Phys.Chem., 98, 3492-3500 (1994)
【非特許文献2】W. A. Scrievens and J. M. Tour, J.Am. Chem. Soc., 116, 4517-4518 (1994)
【非特許文献3】G. V. Andrievsky, M. V. Kosevich, O. M. Vovk, V. S. Shelkovsky, and L. A. Vashchenko,J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1995, 1281-1282
【非特許文献4】X. Wei, M. Wu, L. Qi, and Z. Xu, J. Chem. Soc.,Perking Trans., 2, 1389-1394 (1997)
【非特許文献5】X. Cheng, A. T. Kan, and M. B. Thomson, J. Chem. Eng. Data,49, 675-683 (2004)
【非特許文献6】D. Jakubczyk, G. Derkachov, W. Bazhan, E. Lusakowska, K. Kolwas, and M. Kolwas, J. Phys. D: Appl. Phys.,37, 2918-2924 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような、従来の方法では得ることが困難であったフラーレンのナノ粒子の安定な分散液をきわめて容易に簡便に製造する、フラーレンナノ粒子分散液の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以上のような従来の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、フラーレンの粉末を特定の条件で粉砕したフラーレン微粉末を液体媒体に混合することによって容易に安定な分散液が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)フラーレンをその平均粒子径が10μm以下となるように粉砕し、得られたフラーレン微粉末を分散媒以外の添加物を加えることなく液体媒体中に混合し、分散させることを特徴とする、フラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
(2)粉砕されたフラーレン微粉末の平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする、前記(1)に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
(3)フラーレンの粉砕処理が、摩擦を利用した粉砕方法か、または摩擦とその他の機械力とを組み合わせた粉砕方法のいずれかであることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
(4)フラーレンの粉砕処理が、30kPa〜10GPaの圧力での圧縮を伴う摩擦を利用した粉砕方法か、または該摩擦とその他の機械力とを組み合わせた粉砕方法のいずれかであることを特徴とする、前記(1)乃至(3)のいずれかの項に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
(5)液体媒体が、極性溶媒又は非極性溶媒であることを特徴とする、前記(1)乃至(4)のいずれかの項に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
(6)液体媒体が、水、アルコール、ケトンまたはニトリルのいずれか又はこれらの混合物から選ばれる極性溶媒であることを特徴とする、前記(1)乃至(5)のいずれかの項に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
(7)液体媒体が、シリコーンオイルまたはフッ素化オイルのいずれかから選ばれる非極性溶媒であることを特徴とする、前記(1)乃至(5)のいずれかの項に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によって、従来行われていた分散剤や界面活性剤等の添加物を使用することなく、平均粒子径が500nm以下のフラーレンの微粒子を、水その他の液体媒体中に安定に分散させたフラーレンナノ粒子分散液をきわめて容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用するフラーレンは、20個以上の炭素原子がかご状に結合し、閉殻構造の中空粒子を形成している炭素材料である。最も代表的なフラーレンは、60個の炭素原子がサッカーボール類似の粒子を形成しているフラーレンC60、同じく70個の炭素原子からなるフラーレンC70、同じく76個の炭素原子からなるフラーレンC76、同じく78個の炭素原子からなるフラーレンC78、同じく84個の炭素原子からなるフラーレンC84等が挙げられ、これらのいずれも使用することができ、またその混合物でもよい。また、このような構造体の中空部にイオン種を導入したものや、炭素原子の一部を他の原子により置換したもの、官能基を結合させたもの等の誘導体も含まれる。これらのうちで、炭素数60のフラーレン(フラーレンC60)、炭素数70のフラーレン(フラーレンC70)及びそれらの混合物が安定性に優れておりより好ましい。
【0012】
なお、合成時のフラーレンは、一般的にグラファイトなどのフラーレン以外の炭素材料との混合物として得られる。本発明では、このようにフラーレン以外の炭素材料やその他の粉体材料を含むものであってもよいが、フラーレンを20質量%以上、好ましくはフラーレンを70質量%以上、より好ましくは90質量%以上含むものが好適に使用することができる。
【0013】
本発明でフラーレン微粉末を分散させる液体媒体としては、フラーレンの溶解度が非常に小さい液体媒体、具体的にはフラーレンの溶解度が0.05mg/mL以下の極性溶媒および非極性溶媒が使用できるが、沸点が40℃以上、凝固点が20℃以下、粘度が2000mPa・s以下という性質を満たすものが、操作性の面で望ましい。
極性溶媒としては、水、アルコール、ケトン、ニトリル等が使用することができ、非極性溶媒としてはシリコーンオイル、フッ素化オイル等が使用することができる。
【0014】
ここで、アルコールは、炭素数1〜11の脂肪族アルコール、炭素数7〜14の芳香族アルコール、炭素数4〜8の脂環式アルコール、炭素数1〜7の含フッ素アルコールが使用できるが、より好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンである。ケトンとしては、炭素数3〜12の脂肪族ケトン、炭素数8〜11の芳香族ケトン、炭素数4〜6の脂環式ケトンが使用できるが、より好ましくはアセトン、メチルエチルケトン、シクロブタノンである。ニトリルとしては、炭素数2〜12の脂肪族ニトリル、炭素数7〜10の芳香族ニトリル、炭素数4〜7の脂環式ニトリルが使用できるが、より好ましくは、アセトニトリル、プロピオンニトリル、ブチロニトリル、ペンタンニトリル、ヘプタンニトリル、ベンゾニトリル、シクロプロピオニトリルである。非極性溶媒としてはシリコーンオイルやフッ素化オイルが使用できる。具体的には、シリコーンオイルとしては、例えばストレートシリコーンオイル、変性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロゲンシリコーンオイル、WF−30(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)、TSF451−50(GE東芝シリコーン株式会社製)、KF−54(信越化学工業株式会社製)などが使用でき、フッ素化オイルとしては、例えばデムナム(ダイキン工業株式会社製)、ダイフロイル(ダイキン工業株式会社製)、フロリナート(住友スリーエム株式会社製)、ノベック(住友スリーエム株式会社製)、クライトックス(デュポン株式会社製)などが使用できる。
【0015】
これらの液体媒体うちで、その有用性から媒体としては水が最も重要であり、それぞれの用途に応じて脱イオン水、蒸留水、超純水などの精製水や重水が使用することができるが、水道水も使用することができる。
【0016】
本発明においては、フラーレンの原料粉末に機械的な力を作用させて粉砕処理を行い、平均粒子径が10μm以下、好ましくは1μm以下となるようにフラーレンの原料粉末を粉砕する。このようにして粉砕処理して得られた平均粒子径が10μm以下、好ましくは1μm以下のフラーレン微粉末を水その他の液体媒体に加え、激しく混合・攪拌することによって、特に分散剤や界面活性剤などの微粒子の分散を促進する添加物を加えることなく、容易にフラーレンのナノ粒子の安定な分散液を得ることができる。
【0017】
更に好ましくは、その粉砕方法は、粉砕装置とフラーレン粉末との間の摩擦またはフラーレン粉末同志の摩擦を利用した粉砕方法(摩砕方式)で行なうか、或いはこの摩砕方式と圧縮力、せん断力、衝撃力等のその他の機械力とを組み合わせた粉砕方法(複合方式)によって行うことが好ましい。摩砕方式または複合方式でフラーレン原料粉末の粉砕処理を行う場合、30kPa〜10GPaの圧力の圧縮を伴う摩擦を利用した粉砕方法か、またはこのような圧縮を伴う摩擦とその他の機械力とを組み合わせた粉砕方法によって粉砕することがより好ましい。この場合、圧縮圧力が30kPa未満では摩擦力が少なくなり粉砕の効率が低下するため、30kPa以上が好ましい。圧縮圧力の上限は特に設けないが、10GPaを超える条件では、固体中のフラーレンが重合等の化学反応を起こし、またエネルギー効率の点から好ましくない。
【0018】
一般に固形物の微粉砕においては、衝撃力や圧縮力などの機械的な力を固形物に加えて細分化し微粉末を得ているが、このような大きな寸法の粒子を機械力で粉砕し微粉末を得る方法(ブレークダウン法)では、「3μmの壁」といわれているように、1μm以下の超微粉末を得ることは容易ではなく、さまざまな困難が伴うことが知られている。そのためナノメーターレベルの微粉末を得る方法として、液相や気相から固形物を沈殿や析出させたり、噴霧して析出させる方法(ビルドアップ法)で行なわれている。
【0019】
しかしながら、本発明者らは、多数の炭素原子のみから構成されるかご状構造のフラーレン特有の性質として、フラーレンが意外にも摩擦を主体とする粉砕方法(前記の摩砕方式または複合方式)によって粉砕処理する場合は、極めて容易に粉砕が行なわれ、1μm以下の粒子径の微粉末が比較的容易に得られ、この微粉末が水その他の液体媒体に容易に且つ安定して分散することを見出し、本発明を完成したものである。
【0020】
従って、本発明においては、フラーレンの原料粉末に機械力を作用させて、好ましくは前記摩砕方式または複合方式によって粉砕処理を行い、平均粒子径が10μm以下、好ましくは1μm以下のフラーレン微粉末を得て、この得られた微粉末を水またはその他の液体媒体に混合・分散させ、必要に応じてこの分散液から粒子径が5μm以上の固形物を分離・除去することによって、平均粒子径がナノメートルサイズのフラーレンナノ粒子の安定な分散液を製造することができる。
なお、ここで、粉砕されたフラーレン微粉末の平均粒子径は、例えば、レーザー回折法等によって得られる粒度分布から求めたメジアン径で表したものである。
【0021】
本発明のフラーレンの粉砕処理において、摩擦を利用した粉砕方法(摩砕方式)としては、例えば、典型的には種々の乳鉢や臼を利用してすりつぶす粉砕方法が挙げられる。例えば、メノウ乳鉢を用いて人力による粉砕処理でも、粒子径が1μm以下の微粉末を極めて容易に得ることができる。このような摩砕方式による粉砕装置の一例としてオングミルが挙げられる。これは粉砕原料を平らに入れた円盤状の回転容器と先端に臼状の粉砕チップを備えた粉砕アームからなり、粉砕チップが回転しながら回転容器の上の粉砕原料をすりつぶしながら粉砕するものである。その他このような粉砕メカニズムを利用する種々の粉砕装置を利用することができる。
【0022】
摩砕方式と圧縮力、せん断力、衝撃力等のその他の機械力とを組み合わせた粉砕方法(複合方式)の例としては、例えば、高速回転するローターの衝撃力を利用する高速回転式衝撃粉砕機に摩砕作用を取り入れた粉砕機で、例えばスーパーミクロンミル、ファインミクロンミル(いずれもホソカワミクロン製)などが挙げられる。また、粉砕媒体としてボールを用いる粉砕機として、例えば、転動ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ミキサーミル等のボールミルが挙げられる。このタイプの粉砕機では内部の粉砕媒体の運動に伴うせん断作用、摩擦作用によって粉砕が行なわれる。
【0023】
このような粉砕装置を用いて、フラーレンの原料粉末を十分な時間粉砕処理を行うことによって、平均粒子径が10μm以下、好ましくは1μm以下のフラーレン微粉末を得ることができる。粉砕処理を行なう時間は、粉砕されたフラーレン微粉末の平均粒子径が10μm以下となるような時間であればよく、粉砕処理にかける原料フラーレンの状態と量、粉砕装置の性能等によって適宜選択すればよい。
【0024】
次に、このようにして得られたフラーレン微粉末を水、その他の液体媒体に混合し分散させる。液体媒体中への分散は比較的容易に行なわれ、通常の分散方法であれば特に制限されない。例えば、一般的な攪拌装置を用いて混合・分散させればよく、あるいは手で持って振とう、攪拌することでも分散させることができるが、効率的に分散させるためには、例えば超音波を照射して分散させる方法などが好ましい。
【0025】
このようにして得られたフラーレン微粉末の分散液から、必要に応じてろ紙やミクロフィルターなどによって大きい粒子径の、例えば5μm以上のフラーレンの微粒子を分離・除去する。このようにして、ナノレベルのフラーレン粒子が安定に分散した本発明のフラーレンナノ粒子分散液が得られる。或いはフラーレン微粉末の分散液から大きい粒子径のフラーレンの微粒子をロ別等によって除去しなくても、大きい粒子径のフラーレン粒子が沈降して安定なフラーレンナノ粒子分散液が得られる。
【0026】
以上のような本発明の方法によって、ナノメートルサイズのフラーレン微粉末が安定に分散した分散液が得られる。例えば、液体媒体が水である場合には、このフラーレン微粉末の分散液中には、平均粒子径が10〜500nmのフラーレンの微粉末が分散したものであり、分散液中のフラーレン濃度が100μg/mL〜10mg/mL程度のものが得られる。
【0027】
本発明の方法においては、粉砕処理したフラーレン微粉末の分散に際しては、特に分散剤や界面活性剤などの添加物を加える必要はないが、この分散液のその後の利用や応用に特に支障がない場合には、必要に応じて種々の界面活性剤や高分子分散剤を加えて、分散液を調製してもよい。このような界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルスルホコハク酸塩類、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩類、アルキルリン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類、アルカンスルホン酸塩類、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物類、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル類、N−メチル−N−オレオイルタウリン塩類、α−オレフィンスルホン酸塩類、胆汁酸塩類などの陰イオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類、アルキルベタイン類、アミノキサイド類などの陽イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アミノポリオキシエチレン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ナフトールエチレンオキシド付加物、アセチレングリコールエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの非イオン界面活性剤、n−オクチル−β−グルコピラノシド、n−オクチル−β−グルコピラノシド、n−オクチル−β−マルトシドなどのアルキルポリグルコシド、アシルアミノ酸エステル類などのアミノ酸系界面活性剤、ジアルキルホスファチジルコリン、ジアルキルホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール塩類、スフィンゴ糖脂質、セラミドなどの脂質、マンノシルエリスリトールリピッド、ソホロリピッド、ラムノリピッド、スピクルスポール酸、サーファクチン、エマルザンなどのバイオサーファクタントが挙げられ、高分子分散剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、スチレンースチレンスルホン酸共重合体、スチレンーマレイン酸共重合体、スチレンーメタクリル酸共重合体、スチレンーアクリル酸共重合体、αメチルスチレンーアクリル酸共重合体、ビニルナフタレンーアクリル酸共重合体、アクリル酸アルキルエステルーアクリル酸共重合体、メタクリル酸アルキルエステルーメタクリル酸共重合体、スチレンーメタクリル酸アルキルエステルーメタクリル酸共重合体、スチレンーアクリル酸アルキルエステルーアクリル酸共重合体、スチレンーメタクリル酸フェニルエステルーメタクリル酸共重合体、スチレンーメタクリル酸シクロヘキシルエステルーメタクリル酸共重合体などの合成高分子、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、疎水化エチルヒドロキシエチルセルロース、コレステロールプルラン(日本油脂株式会社製)、メチルセルロース、カルボキシセルロース、キトサン、でんぷん、カチオン性でんぷんなどの多糖、血清アルブミンなどのタンパク質、DNA等が挙げられる。
【0028】
得られた分散液は、平均粒子径が500nm以下のフラーレンナノ微粒子を含んでおり、高い分散安定性を示す。また遠心分離、フィルター濾過などによって、粒子サイズを選別することもできる。さらに、遠心分離、フィルター濾過等によって、回収された粒子は、新たな分散液の調製に再利用できる。なお、この分散液中のフラーレンナノ微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法(例えば、大塚電子株式会社製 FDLS−1200)によって測定した値である。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中で「%」は特に異なる注記をしない限り質量基準である。
【0030】
以下の実施例、比較例において、粉砕したフラーレン粉末と分散液中のフラーレンの粒子径、その形態、分散液中のフラーレン濃度は以下の方法によった。
(i)フラーレン粉末の粒子径
粉砕前および粉砕後のフラーレン粉末の平均粒子径は、レーザー回折法を用いてその粒度分布を測定し、この粒度分布からメジアン径で表わした平均粒子径を求めた。レーザー回折法による粒度分布の測定は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950(株式会社堀場製作所製)を用いた。
【0031】
(ii) フラーレン分散液中の粒子径
フラーレン分散液中のフラーレンの平均粒子径は、動的光散乱法によって求めた。動的光散乱法による平均粒子径の測定は、大塚電子株式会社製のFDLS-1200を用いた。
(iii) フラーレン粒子の形態
フラーレン粉末および分散液中のフラーレンの粒子の形態は、透過型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡を用いて観察した。透過型電子顕微鏡は、日本電子株式会社製JEM-1210を用い、走査型電子顕微鏡は、日本電子株式会社製JSM-6700Fを用いた。
【0032】
(iv) 分散液中のフラーレン濃度および分散効率
分散液中のフラーレン濃度は、文献(S. Deguchi, R. G. Alargova, K. Tsujii, Langmuir, 17, 6013-6017 (2001))に記載された方法に従って測定した。また、フラーレンの分散効率は、得られた分散液中に含まれるフラーレンの全質量と、試料調製時に加えたフラーレンの全質量との比率として求めた。
(v)分散安定性
分散安定性は、試験管に入れた分散液を一晩室温で放置したものを、次の基準で評価した。
安定分散:容器の底に沈降した粒子を、手で軽く振盪して容易に再分散できる。
分散不良:容器の底に沈降した粒子を、手で軽く振盪しても再分散しない。
【0033】
実施例1:フラーレンC60の水分散液の調製
市販のフラーレンC60(東京化成製)を用いて、これをメノウ乳鉢で5分間粉砕処理を行い、微粉化したフラーレン微粉末を調製した。この際、乳棒にかかる力が約500kPa〜5000kPaになるように制御して粉砕を行なった。この市販のフラーレンC60および粉砕後の微粉末の走査型電子顕微鏡をそれぞれ図1および図2に示す。これらの粉末の粒度分布をレーザー回折法を用いて測定したところ、原料のフラーレンC60粉末のメジアン径が148.5μmであったものが、粉砕後の微粉末で9.5μmまで減少していた。また電子顕微鏡観察により、直径10nm程度の微粒子も生成していた(図3)。
粉砕後のフラーレンC60微粉末の51.3mgと水50mLを試料瓶中で混合し、密栓した後、5時間超音波処理を行い、孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60の水分散液の動的光散乱の測定により、フラーレンC60が平均粒径263nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は3.2×10-4M(231μg/mL)であり、分散効率は23%であった。
【0034】
実施例2: フラーレンC60の水分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、このフラーレンC60微粉末の7.1mgと水5mLを用いて、30分間超音波処理を行い、孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60の水分散液の動的光散乱の測定により、フラーレンC60が平均粒径229nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は3.3×10-4M(235μg/mL)であり、分散効率は17%であった。
【0035】
比較例1: フラーレンC60の水分散液の調製
粉砕処理を施さない市販のフラーレンC60(メジアン径148.5μm、東京化成製)を用いて、実施例1と同様にして、この市販のフラーレンC60の9.3mgと水5mLを用いて、この混合物を5時間超音波処理した後、孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60水分散液を調製した。この水分散液の平均粒子径を動的光散乱測定により求めたところ、フラーレンC60が平均粒径290nmのナノ粒子として水に分散していることが分かった。しかし、分散液中のフラーレンC60濃度は1.8×10-5M(13μg/mL)と極めて少量であり、分散効率は1%以下に過ぎなかった。これは市販のフラーレンC60の粉末をそのまま分散させても、分散液中のフラーレンC60濃度は非常に低く、実質的なナノメートルサイズのフラーレン微粒子の分散液は得られないことを示している。
【0036】
実施例3:フラーレンC60の水分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、このフラーレンC60微粉末の6.1mgと水5mLの混合物を5時間超音波処理した後、1,000×gで30分間遠心分離し、その上澄みを孔径0.8μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60水分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径134nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は1.7×10-4M(130μg/mL)であり、分散効率は11%であった。
【0037】
実施例4:フラーレンC60の水分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、このフラーレンC60微粉末の3.4mgと水5mLの混合物を5時間超音波処理した後、孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60水分散液の動的光散乱の測定により、フラーレンC60が平均粒径160nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は1.5×10-4M(110μg/mL)であり、分散効率は16%であった。
【0038】
実施例5:フラーレンC60の水分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、このフラーレンC60微粉末の46.4mgと水50mLの混合物を5時間超音波処理した後、孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60の水分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径147nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。分散液中のC60濃度は2.8×10-4M(200μg/mL)であり、分散効率は22%であった。
【0039】
実施例6: フラーレンC60の水分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、このフラーレンC60微粉末の7.1mgと水5mLをガラスビン(内容量:6mL)中で混合後、磁気撹拌子(直径4mm、長さ14mm)を加え、磁気スターラー(コーニング社製、Model PC−320)を用いて、1,000rpmの回転数で1日間撹拌した後に、孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60の水分散液の動的光散乱の測定により、フラーレンC60が平均粒径260nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は1.5×10-4M(108μg/mL)であり、分散効率は18%であった。
【0040】
実施例7:フラーレンC60の水分散液の調製(ミキサーミル使用
市販のフラーレンC60(メジアン径148.5μm、東京化成製)を用いて、ミキサーミル(MM−301、レッチェ社製)により90分間粉砕処理を行なった。得られたフラーレンC60微粉末の平均粒子径はメジアン径で9μmであった。実施例1と同様にして、このフラーレンC60微粉末の7.0mgと水5mLを用いて、30分間超音波処理を行い、孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60の水分散液の動的光散乱の測定により、フラーレンC60が平均粒径264.0nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は5.61×10-5M(40μg/mL)であり、分散効率は3%であった。
【0041】
実施例8: フラーレンC60の水分散液の調製(湿式粉砕
市販のフラーレンC60(メジアン径148.5μm、東京化成製)を用いて、この市販のフラーレンC60の14.6mgと水2mLの混合物を、ミキサーミル(MM−301、レッチェ社製)により1時間湿式粉砕を行い分散液を得た。得られた分散液を、さらに30分間超音波処理を行い、孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60の水分散液の動的光散乱の測定により、フラーレンC60が平均粒径291nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は3.3×10-4M(241μg/mL)であり、分散効率は10%であった。
【0042】
比較例2:フラーレンC60分散液の調製
市販のフラーレンC60(メジアン径148.5μm、東京化成製)を用いて、これをカッターミル(ミニブレンダー、アズワン株式会社製)で5分間破砕処理を行った。実施例2と同様にして、このフラーレンC60微粉末の2mgと水2mLを用いて、30分間超音波処理を行った後、孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60の水分散液の動的光散乱の測定により、フラーレンC60が平均粒径211nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。しかしながら、分散液中のフラーレンC60濃度は6.7×10-6M(5μg/mL)と極めて少量であり、分散効率は1%以下に過ぎず、未粉砕の場合と同様に実質的にナノメートルサイズのフラーレンの分散液は得られなかった。
【0043】
実施例9:フラーレンC70水分散液の調製
実施例1と同様にして、フラーレンC60の代わりに市販のフラーレンC70(東京化成製)を用いて、メノウ乳鉢で5分間粉砕処理を行ってフラーレンC70微粉末とした。得られたフラーレンC70微粉末の平均粒子径も実施例1の微粉化フラーレンC60と同程度であった。このフラーレンC70微粉末の5.1mgと水5mLの混合物を実施例2と同様に超音波処理を行い、フラーレンC70の水分散液を得た。このフラーレンC70水分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC70が平均粒径389.7nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。また、分散液中のフラーレンC70濃度は2.1×10-4M(173μg/mL)であり、分散効率は16%であった。
【0044】
実施例10:フラーレンC60水分散液の調製(分散剤使用
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、このフラーレンC60微粉末の7.0mgとドデシル硫酸ナトリウムの40mMを水5mLに混合し、実施例2と同様に超音波処理を行い、フラーレンC60の水分散液を得た。このフラーレンC60の水分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径235nmのナノ粒子として水に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は6.6×10-4M(473μg/mL)であり、分散効率は34%であった。
【0045】
実施例11:フラーレンC60の水分散液の調製(分散剤使用
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、このフラーレンC60微粉末の15.5mgとドデシル硫酸ナトリウムの40mMを重水1mLに混合し、実施例2と同様に超音波処理を行い、フラーレンC60の重水分散液を得た。このフラーレンC60の重水分散液の動的光散乱の測定により、フラーレンC60が平均粒径250nmのナノ粒子として重水に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は7.0×10-3M(5mg/mL)であり、分散効率は32%であった。
【0046】
実施例11:フラーレンC60メタノール分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、このフラーレンC60微粉末の2.2mgとメタノール2mLを混合し、実施例2と同様に超音波処理を行い、フラーレンC60のメタノール分散液を得た。このフラーレンC60のメタノール分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径281nmのナノ粒子としてメタノール中に安定分散されていることが分かった。分散液中のC60濃度は9.1×10-5M(65μg/mL)であり、分散効率は6%であった。
【0047】
実施例12:フラーレンC60エタノール分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、実施例9と同様にして、2.3mgのフラーレンC60微粉末とエタノール2mLを用いてフラーレンC60エタノール分散液を調製した。このフラーレンC60のエタノール分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径253nmのナノ粒子としてエタノールに安定分散されていることが分かった。分散液中のC60濃度は1.4×10-4M(98μg/mL)であり、分散効率は9%であった。
【0048】
実施例13:フラーレンC60の1−プロパノール分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、実施例9と同様にして、2.3mgのフラーレンC60微粉末と1−プロパノール2mLを用いてフラーレンC60の1−プロパノール分散液を調製した。このフラーレンC60の1−プロパノール分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径247nmのナノ粒子として1−プロパノール中に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は4.6×10-4M(330μg/mL)であり、分散効率は28%であった。
【0049】
実施例14:フラーレンC60の2−プロパノール分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、実施例9と同様にして、2.3mgのフラーレンC60微粉末と2−プロパノール2mLを用いてフラーレンC60の2−プロパノール分散液を調製した。このフラーレンC60の2−プロパノール分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径231nmのナノ粒子として2−プロパノール中に安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は5.0×10-4M(357μg/mL)であり、分散効率は31%であった。
【0050】
実施例15:フラーレンC60の2−プロパノール分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、2.4mgのフラーレンC60微粉末と2−プロパノール2mLを混合後、100回手で激しく震盪し、その後孔径5μmのフィルターで濾過して、フラーレンC60の2−プロパノール分散液を調製した。このフラーレンC60の2−プロパノール分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径356nmのナノ粒子として2−プロパノールに安定分散されていることが分かった。分散液中のフラーレンC60濃度は1.3×10-5M(9μg/mL)であり、分散効率は1%であった。
【0051】
実施例16:フラーレンC60の1−オクタノール分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、実施例9と同様にして、2.5mgのフラーレンC60微粉末と1−オクタノール2mLを用いてフラーレンC60の1−オクタノール分散液を調製した。このフラーレンC60の1−オクタノール分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径288nmのナノ粒子として1−オクタノール中に安定分散されていることが分かった。分散液中のC60濃度は3.7×10-4M(265μg/mL)であり、分散効率は21%であった。
【0052】
実施例17:フラーレンC60のアセトン分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、実施例9と同様にして、2.2mgのフラーレンC60微粉末とアセトン2mLを用いてフラーレンC60のアセトン分散液を調製した。このフラーレンC60のアセトン分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径307nmのナノ粒子としてアセトン中に安定分散されていることが分かった。分散液中のC60濃度は4.7×10-4M(341μg/mL)であり、分散効率は31%であった。
【0053】
実施例18:フラーレンC60のアセトニトル分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、実施例9と同様にして、2.3mgのフラーレンC60微粉末とアセトニトリル2mLを用いてフラーレンC60のアセトニトリル分散液を調製した。このフラーレンC60のアセトニトリル分散液の動的光散乱測定により、フラーレンC60が平均粒径229nmのナノ粒子としてアセトニトリル中に安定分散されていることが分かった。分散液中のC60濃度は3.1×10-4M(221μg/mL)であり、分散効率は19%であった。
【0054】
実施例19:フラーレンC60のシリコーンオイル分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、実施例9と同様にして、2.0mgのフラーレンC60微粉末とシリコーンオイル(WF−30、東レコーニング社製)の2mLを用いてフラーレンC60のシリコーンオイル分散液を調製した。動的光散乱測定による粒径測定は媒体からの強い散乱のため正確な値は得られなかったが、フラーレンC60が平均粒径200〜300nmのナノ粒子としてシリコーンオイル中に安定分散されていることが分かった。分散液中のC60濃度は3.8×10-4M(274μg/mL)であり、分散効率は27%であった。
【0055】
実施例20:フラーレンC60のフッ素化オイル分散液の調製
実施例1で得たフラーレン微粉末を用い、実施例9と同様にして、3.0mgのフラーレンC60微粉末とフッ素化オイル(デムナムS−200、ダイキン工業株式会社製)の2mLを用いてフラーレンC60のフッ素化オイル分散液を調製した。この場合も動的光散乱測定による粒径測定は媒体からの強い散乱のため正確な値は得られなかったが、フラーレンC60が平均粒径200〜300nmのナノ粒子としてフッ素化オイル中に安定分散されていることが分かった。分散液中のC60濃度は8.2×10-5M(59μg/mL)であり、分散効率は4%であった。
【0056】
比較例3:フラーレンC60水分散液の調製(ビルドアップ方式)
粉砕処理を施さない市販のフラーレンC60粉末(メジアン径148.5μm、東京化成製)を用いて、このフラーレンC60粉末5mgをテトラヒドロフラン20mLに混合し、一晩撹拌した後、孔径0.45μmのフィルターで不溶分をろ過し、フラーレンC60のテトラヒドロフラン飽和溶液を調製した。このテトラヒドロフランの飽和溶液に超純水5mLを加え、窒素ガスを0.2L/分の流量で90分間の間通気してテトラヒドロフランを留去した。テトラヒドロフランが留去された結果、後から添加した超純水中にフラーレンC60が微細な粒状に析出し、フラーレンC60の水分散液が得られた。このフラーレンC60の水分散液は、その動的光散乱測定によりフラーレンC60が平均粒径70nmという非常に小さいナノ粒子として水中に安定分散されていることが分かった。分散液中のC60濃度は1.4×10-5M(10μg/mL)であり、極めて少量のフラーレンC60を含む分散液であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の方法によって、ナノメートルサイズのフラーレンの微粒子が水その他の液体媒体中に安定に分散したフラーレンナノ粒子の分散液を容易に製造することができる。このようなフラーレンのナノ粒子の分散液は、フラーレンの種々の製品への配合や利用を容易にするため、フラーレンのさまざまな機能を利用したいろいろな製品や産業分野への利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1で用いた市販のフラーレンC60の外観を示す電子顕微鏡写真(1500倍)である。
【図2】実施例1で用いた粉砕処理したフラーレンC60微粉末の外観を示す電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図3】実施例1で用いた粉砕処理したフラーレンC60微粉末の外観を示す、10万倍に拡大した電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンをその平均粒子径が10μm以下となるように粉砕し、得られたフラーレン微粉末を分散媒以外の添加物を加えることなく液体媒体中に混合し、分散させることを特徴とする、フラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
粉砕されたフラーレン微粉末の平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
フラーレンの粉砕処理が、摩擦を利用した粉砕方法か、または摩擦とその他の機械力とを組み合わせた粉砕方法のいずれかであることを特徴とする、請求項1または2に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
フラーレンの粉砕処理が、30kPa〜10GPaの圧力での圧縮を伴う摩擦を利用した粉砕方法か、または該摩擦とその他の機械力とを組み合わせた粉砕方法のいずれかであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかの項に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
液体媒体が、極性溶媒又は非極性溶媒であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかの項に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
液体媒体が、水、アルコール、ケトンまたはニトリルのいずれか又はこれらの混合物から選ばれる極性溶媒であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかの項に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
液体媒体が、シリコーンオイルまたはフッ素化オイルのいずれかから選ばれる非極性溶媒であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかの項に記載のフラーレンナノ粒子分散液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−70147(P2007−70147A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257499(P2005−257499)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【Fターム(参考)】