説明

フラーレン内包シリカゲルの製造方法

【課題】その製造に際して用いたフラーレンの貧溶媒の残留量を低減したフラーレン内包シリカゲルを容易に得ることができる方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、フラーレンをトルエンに溶解し、得られた溶液に乾燥シリカゲルを加えて攪拌した後、トルエンを揮散させて乾固物を得、次いで、この乾固物をフラーレンの貧溶媒である塩化メチレンに加え、攪拌した後、減圧下に塩化メチレンを除去することを特徴とするフラーレン内包シリカゲルの製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン内包シリカゲルの製造方法に関し、詳しくは、その製造の際に用いた有機溶媒の残存量の少ないフラーレン内包シリカゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油類、例えば、魚油にフラーレンをそのまま、配合して、抗酸化剤として作用させることが提案されており(特許文献1参照)、また、ポリビニルピロリドンに包接させたフラーレンを化粧用組成物に抗酸化剤として配合することも提案されている(特許文献1参照)。また、フラーレンをそのまま、ガラス材料に混練し、溶融させて、光リミッターとして用いることができるという報告がある(特許文献2参照)。
【0003】
一方において、フラーレンの特性の更なる解明や用途の更なる開拓等を目的として、ゼオライトやメソポーラスシリカのような無機質多孔性担体にフラーレンを分子状態で内包させる提案もこれまでに種々のものが提案されている。
【0004】
例えば、炭素数60のフラーレンの直径は、約1nmであるので、2〜50nmの範囲の細孔径を有するメソポーラスシリカにフラーレンを内包させる方法が提案されている。即ち、フラーレンをトルエンに溶解させ、これにメソポーラスシリカを加えた後、徐々にトルエンを除去し、次いで、得られた乾固物をクロロホルムに加えた後、クロロホルムを除去して、フラーレンを内包したメソポーラスシリカを得ることが提案されている(非特許文献1参照)。
【0005】
この方法によれば、容易にフラーレン内包メソポーラスシリカを得ることができるが、しかし、製造に用いた有機溶媒であるクロロホルムが得られたフラーレン内包メソポーラスシリカに多く残存しており、「医薬品の残留溶媒ガイドライン」(平成10年3月30日厚生省医薬安全局審査管理課長通知)の許容量を大幅に上回っている。
【0006】
一方、例えば、ゼオライトとフラーレンを管中に封入し、400℃以上の高温で数時間加熱し、フラーレンを昇華させて、ゼオライトの有する細孔中にフラーレンを吸着させることによって、フラーレン内包ゼオライトを得ることが報告されている(非特許文献2参照)。
【0007】
この方法は、フラーレン内包ゼオライトを得るに際して、有機溶媒を用いないので、得られるフラーレン内包ゼオライトに有機溶媒が残留するおそれがない点からは有利ではあるが、製造に高温を必要とするうえに、原料としてのメソポーラスシリカの入手性や耐圧耐高温性の反応装置を必要とする点からも、工業的な方法としては採用し難い。
【0008】
ここに、シリカゲルは安全性にすぐれており、入手も容易な汎用の無機質多孔性材料である。従って、シリカゲルの細孔内にフラーレンを内包させることができれば、フラーレンの分子状態での活性を発現させやすくなり、しかも、本来、黒色のフラーレンを外見上、白色に近い状態にすることができるので、医薬品や化粧品に用いやすくなる。
【0009】
更に、シリカゲルは酸化鉛や酸化ホウ素等のガラス原料と混練して、低融点ガラスを製造する場合にも用いられているが、シリカゲルにフラーレンを内包させれば、これをガラス中に分子状態で分散させることができると考えられ、用途を光学分野にも展開し得ることが期待される。
【0010】
しかし、これまで、製造に用いたフラーレンの貧溶媒の残留量を低減して、フラーレンをシリカゲルに内包させる方法は見出されていない。特に、従来、製造に用いたフラーレンの貧溶媒の残留量を低減して、医薬品や化粧品用途に実用し得るようにしたフラーレン内包シリカゲルを製造する方法は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2008−546420号公報)
【特許文献2】特開2004−250690号公報
【特許文献3】特表2007−516143号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】S. Minakata et al., J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 1536-1537)
【非特許文献2】P. N. Keizer et al., J. Phys. Chem. 95 (1991) 7117)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、フラーレンの利用や用途に関わる上述した現状、特に、フラーレン内包無機質多孔性担体における上述した問題を解決するためになされたものであって、その製造に用いたフラーレンの貧溶媒の残留量を低減して、無機質多孔性担体としてのシリカゲルにフラーレンを内包させたフラーレン内包シリカゲルを容易に得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、フラーレンをトルエンに溶解し、得られた溶液に乾燥シリカゲルを加えて攪拌した後、トルエンを揮散させて乾固物を得、次いで、この乾固物を塩化メチレンに加え、攪拌した後、減圧下に塩化メチレンを除去することを特徴とするフラーレン内包シリカゲルの製造方法が提供される。
【0015】
本発明においては、上記フラーレンとして、なかでも、炭素数60のフラーレンと炭素数70のフラーレンを合計で90重量%以上と、残部が炭素数70よりも多い高次のフラーレンからなるものが好ましく用いられる。フラーレンは、高次のものを含めて、文献においてよく知られており、炭素数70よりも多い高次のフラーレンとしては、例えば、
炭素数が76、82、84、96、240、540、720等のものが知られている。
【0016】
更に、本発明によれば、上述した方法によって、シリカゲルにフラーレンを1〜30重量%の範囲で含有させたフラーレン内包シリカゲルを得ることができる。
【0017】
上記シリカゲルとしては、窒素ガス吸着法にて測定して1〜5nmの範囲にある平均細孔径を有するものが好ましく用いられる。以下、本発明において、平均細孔径及び細孔容積はいずれも、窒素ガス吸着法にて測定したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、その製造に用いたフラーレンの貧溶媒である塩化メチレンの残存量を低減して、フラーレンの割合が1〜30重量%の範囲にわたるフラーレン内包シリカゲルを容易に得ることができる。このようなフラーレン内包シリカゲルは医薬品や化粧品用途は勿論、種々の光学用途にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明において用いたシリカゲルの粉末X線回折パターンを示す。
【図2】実施例1において、フラーレンを平均細孔径3nmのシリカゲルに内包させて得られたフラーレン内包シリカゲルの粉末X線回折パターンを示す。
【図3】実施例1において得られた上記フラーレン内包シリカゲルの示差熱分析(DTA)及び熱重量分析(TG)のチャートを示す。
【図4】比較例1において、フラーレンを平均細孔径6nmのシリカゲルに内包させて得られたフラーレン内包シリカゲルの粉末X線回折パターンを示す。
【図5】フラーレンとシリカゲルの混合物の粉末X線回折パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明によるフラーレン内包シリカゲルの製造方法は、フラーレンをトルエンに溶解し、得られた溶液に乾燥シリカゲルを加えて攪拌した後、トルエンを揮散させて乾固物を得、次いで、この乾固物を塩化メチレンに加え、攪拌した後、減圧下に塩化メチレンを除去することを特徴とする。
【0021】
シリカゲルは、一般的には、その細孔径が約1nmから約100nmにわたる広い分布を有するものが知られており、本発明においても、このようなシリカゲルも用いることができるが、しかし、本発明においては、平均細孔径が1〜5nmの範囲にあるものが好ましく用いられる。シリカゲルの平均細孔径が5nmよりも大きいときは、フラーレンのトルエン溶液に乾燥シリカゲルを加えて攪拌した後、トルエンを揮散させて乾固物を得、次いで、この乾固物を塩化メチレン中で攪拌するときに、フラーレンの一部がシリカゲルの外部に再析出することがある。
【0022】
更に、本発明によれば、用いるシリカゲルは、窒素吸着法にて測定した細孔容積が0.2〜1.0mL/gの範囲にあるものが好ましく、特に、細孔容積が0.2〜0.6mL/gの範囲にあるものが好ましく用いられる。
【0023】
本発明によるフラーレン内包シリカゲルの製造方法においては、第1工程は、フラーレンをその良溶媒であるトルエンに溶解し、得られた溶液に乾燥シリカゲルを加えて攪拌した後、トルエンを揮散させて乾固物を得る工程である。
【0024】
フラーレンの良溶媒は極めて限られているが、トルエンは、そのなかでも、フラーレンを比較的よく溶解する有機溶媒として知られているものの1つであって、フラーレンの溶液を作ることが本発明の方法に従って、多くの量のフラーレンをシリカゲルに内包させるために重要な第1の工程である。
【0025】
本発明によれば、フラーレンのトルエン溶液に乾燥シリカゲルを加えて攪拌した後、例えば、ロータリー・エバポレータを用いてトルエンを揮散させて乾固物を得る。
次いで、本発明によれば、第2工程として、上記乾固物をフラーレンの貧溶媒である塩化メチレンに加え、攪拌した後、減圧下に塩化メチレンを除去する。塩化メチレンは、フラーレンを殆ど溶解させない有機溶媒であり、かくして、フラーレンをシリカゲルの細孔内に内包させるのに役立っているものとみられる。
【0026】
本発明によれば、このようにして、フラーレン1〜30重量%の範囲で含むフラーレン内包シリカゲルを得ることができる。
【0027】
このようにして得られる本発明によるフラーレン内包シリカゲルは、灰色乃至白色の粉末であって、好ましい場合においては、粉末X線回折において、遊離のフラーレンによる回折ピークはみられない。また、このようにして得られるフラーレン内包シリカゲル中の残留塩化メチレンは350ppm以下であって、前述した「医薬品の残留溶媒ガイドライン」における限度値600ppmを遥かに下回っている。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はそれら実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
混合フラーレン(本荘ケミカル(株)製、C60が80重量%、C70が15重量%、高次フラーレンが5重量%の混合物)17gをトルエン6Lに溶解して溶液とした。
【0029】
シリカゲルとして、富士シリシア(株)製CARiACT G−3(平均細孔径3nm、細孔容積0.49mL/g)150gを500℃で5時間乾燥した後、デシケーター中で冷却した。上記フラーレンのトルエン溶液に上記シリカゲルを加えて懸濁液とした。この懸濁液をよく攪拌した後、減圧下にロータリー・エバポレータを用いてトルエンを揮散させ、除去して、乾固物を得た。次いで、上記乾固物に塩化メチレン10Lを加え、よく攪拌した後、塩化メチレンを減圧下にロータリー・エバポレータを用いて除去してフラーレンを10重量%内包するシリカゲルを得た。
【0030】
上記シリカゲルの粉末X線回折パターン((株)リガク製粉末X線回折装置Ultima IV、X線源CuKα線、以下、同じ。)を図1に示し、上述したようにして得られたフラーレン内包シリカゲルの粉末X線回折パターンを図2に示す。図2から明らかなように、本発明によるフラーレン内包シリカゲルの粉末X線回折パターンに遊離のフラーレンに基づく回折ピークは観測されなかった。
【0031】
また、示差熱分析(DTA)及び熱重量分析(TG)のチャートを図3に示すように、TGにおいて、10重量%の重量減が認められたので、フラーレンがシリカゲルに内包されていることが確認された。
【0032】
次に、得られた上記フラーレン内包シリカゲル常圧下に加熱して溶媒を除去し、又は減圧下に加熱して溶媒を除去して、この溶媒量をガスクロマトグラフフィーによって調べた。結果を表1に示す。表1において、加熱条件1は、得られたフラーレン内包シリカゲルを常圧下、100℃で14時間加熱して乾燥したことをいい、加熱条件2は、得られたフラーレン内包シリカゲルを減圧下、70℃で14時間加熱して乾燥したことをいう。また、限度値とは、前記ガイドラインが定めた残留溶媒の許容量をいう。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示す結果から明らかなように、本発明によるフラーレン内包シリカゲルにおいては、トルエンと塩化メチレンの残存量は、いずれも前記ガイドラインの限界値以下であった。
【0035】
実施例2
実施例1におけると同じ混合フラーレン27gをトルエン9Lに溶解して溶液とした。実施例1におけると同じシリカゲル150gを500℃で5時間乾燥した後、デシケーター中で冷却した。上記フラーレンのトルエン溶液にこのシリカゲルを加え、よく攪拌した後、減圧下にロータリー・エバポレータを用いてトルエンを除去した。次いで、得られた残渣に塩化メチレン15Lを加え、よく攪拌した後、塩化メチレンを減圧除去してフラーレン10重量%を内包するシリカゲルを得た。
【0036】
上記フラーレン内包シリカゲルの粉末X線回折の結果、遊離のフラーレンに基づくピークは検出されなかった。
【0037】
比較例1
実施例1におけると同じ混合フラーレン27gをトルエン9Lに溶解して溶液とした。実施例1において、シリカゲルとして、富士シリシア(株)製CARiACT G−6(平均細孔径6nm、細孔容積0.7mL/g)を用いた以外は、同様にして、フラーレン内包シリカゲルを得た。
【0038】
このようにして得られたフラーレン内包シリカゲルの粉末X線回折パターンを図4に示すように、遊離のフラーレンに基づく回折ピークが僅かではあるが、観測された。上記回折ピークは、シリカゲルの表面に付着している少量のフラーレンに基づくものである。
【0039】
比較例2
実施例1におけると同じ混合フラーレン0.1gとシリカゲル0.9gとを乳鉢を用いて粉砕、混合した。このようにして得られた混合物の粉末X線回折パターンを図5に示す。角度(2θ)10.8°、17.7°及び20.8°に遊離のフラーレンに基づくピークが観測された。
【0040】
比較例2
実施例1におけると同じ混合フラーレン0.1gをトルエン100mLに溶解して溶液とした。メソポーラスシリカ(アルドリッチ製MCM−41、細孔径2.7nm)0.9gを上記フラーレンのトルエン溶液に加えて懸濁液とした。この懸濁液をよく攪拌した後、減圧下にロータリー・エバポレータを用いてトルエンを除去した。次いで、得られた残渣にクロロホルム2Lを加え、よく攪拌した後、クロロホルムを減圧除去してフラーレン10重量%を内包するシリカゲルを得た。
【0041】
上記フラーレン内包シリカゲルの粉末X線回折の結果、遊離のフラーレンに基づくピークは検出されなかった。
【0042】
実施例1と同様にして、得られたフラーレン内包シリカゲルから残留溶媒を除去し、この溶媒量をガスクロマトグラフフィーによって調べた。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示す結果から明らかなように、本比較例によるフラーレン内包シリカゲルにおいては、トルエンの残存量は前記ガイドラインの限界値以下であったが、クロロホルムは限界値を遥かに越えていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、その製造に用いたフラーレンの貧溶媒の残留量を低減したフラーレン内包シリカゲルを容易に得ることができる。従って、このようなフラーレン内包シリカゲルは、医薬品や化粧品用途に好適に用いることができる。更には、光学用途にも有利に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンをトルエンに溶解し、得られた溶液に乾燥シリカゲルを加えて攪拌した後、トルエンを揮散させて乾固物を得、次いで、この乾固物を塩化メチレンに加え、攪拌した後、減圧下に塩化メチレンを除去することを特徴とするフラーレン内包シリカゲルの製造方法。
【請求項2】
フラーレンが炭素数60のフラーレンと炭素数70のフラーレンを合計で90重量%以上からなる混合フラーレンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シリカゲルにフラーレンを1〜30重量%の範囲で含有させる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
シリカゲルが窒素ガス吸着法にて測定して1〜5nmの範囲にある平均細孔径を有するものである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法のよって得られるフラーレン内包シリカゲル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−82583(P2013−82583A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223860(P2011−223860)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(302069734)本荘ケミカル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】