説明

フラーレン誘導体及びフラーレン金属錯体、並びにそれらの製造方法

【課題】フラーレンC70の新規な誘導体を提供する。
【解決手段】フラーレンC60骨格に、炭素数1〜20の有機基が8個結合したフラーレン誘導体。例えば、以下の構造図(1)で表わされる。


(Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の有機基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフラーレン誘導体及びフラーレン金属錯体、並びにそれらの製造方法に関する。詳しくは、C70骨格に6個有機基が付加した構造を有するフラーレンC70の誘導体、C70骨格に7個有機基が付加した構造を有するフラーレンC70金属錯体、及び、C60骨格に8個の有機基が付加した構造を有するフラーレンC60誘導体に関するとともに、それらの製造方法に関する。なお、本明細書においてフラーレンの誘導体とは、フラーレンに特定の基が付加した構造を有する分子のみでなく、その分子に金属が配位したフラーレン金属錯体を含めたフラーレンの誘導体を広く意味するものとする。
【背景技術】
【0002】
1990年にフラーレンC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。その結果、数多くのフラーレン誘導体が合成され、その多様な機能が明らかにされてきた。それに伴い、フラーレン誘導体を用いた電子伝導材料、半導体、生理活性物質等の各種用途開発が進められている(非特許文献1〜3)。
【0003】
本発明者らは、フラーレンC60の骨格(以下、適宜「C60骨格」という。)に5個の有機基が結合したフラーレン化合物(以下、「5重付加C60誘導体」という。)を種々合成し、報告してきた(特許文献1〜3及び非特許文献4〜6)。これらの5重付加C60誘導体は無置換のC60とは異なる立体的、電子的性質を有するので、新たな電子伝導材料、半導体、生理活性物質等として期待されている。
【0004】
また、5重付加C60誘導体より付加基の数が多い誘導体としては、フラーレンC60の骨格に10個の有機基が結合したフラーレン化合物(以下、適宜「10重付加C60誘導体」という。)が知られている(特許文献3及び非特許文献7)が、C60骨格に8個の有機基が付加したフラーレン化合物(以下、適宜「8重付加C60誘導体」という。)は知られていない。なお、従来知られた10重付加C60誘導体の製造方法では、5重付加C60誘導体を合成した後、C60骨格に直接結合している水素原子をシアノ基に変換し、更に有機基の5重付加反応を行ない、最後にシアノ基を除去するという、複雑な多段工程を経て製造されている。
【0005】
一方、フラーレンC70に有機基が結合したフラーレン化合物としては、3個の有機基が結合したC70誘導体(以下、適宜「3重付加C70誘導体」という。)が知られている(特許文献4及び非特許文献8)。しかし、フラーレンC70については、フラーレンC60と同様の5重付加体、6重付加体、8重付加体や10重付加体は知られておらず、また、3個の有機基が結合した3重付加部位を2つ有する6重付加体や7重付加体も知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−167994号公報
【特許文献2】特開平11−255509号公報
【特許文献3】特開2002−241323号公報
【特許文献4】特開平11−255508号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】現代化学1992年4月号12頁
【非特許文献2】現代化学2000年6月号46頁
【非特許文献3】Chemical Reviews,1998年,98巻,p.2527
【非特許文献4】Journal of the American Chemical Society,1996年,118巻,p.12850
【非特許文献5】Organic & Biomolecular Chemistry,2003年,1巻,p.2604
【非特許文献6】Chemistry Letters,2000年,p.1098
【非特許文献7】Journal of the American Chemical Society,2003年,125巻,p.2834
【非特許文献8】Journal of the American Chemical Society,1998年,120巻,p.8285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、フラーレンの誘導体に対する研究はこれまでにもなされてきた。しかし未だ、フラーレンC60やフラーレンC70について、例えば電子材料、半導体、生理活性物質などとして有用な素材とすべく、更に多様な誘導体の開発が望まれている。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、C60やC70などのフラーレンについて、新規な誘導体及び金属錯体、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは公知のフラーレンに対し、新規な誘導体を得るべく鋭意検討したところ、フラーレンC70及びC60と一価の有機銅試薬とを反応させることにより、新たなフラーレン誘導体である6重付加C70誘導体及び8重付加C60誘導体が得られるとともに、これらを用いて新たなフラーレン金属錯体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、フラーレンC60骨格に、炭素数1〜20の有機基が8個結合しており、上記C60骨格上に、以下の部分構造(A)、部分構造(B)及び部分構造(C)からなる群より選ばれる部分構造1個と、以下の部分構造(D)及び部分構造(E)とからなる群より選ばれる部分構造1個とを有することを特徴とする、フラーレン誘導体に存する(請求項1)。
【化1】

{上記の部分構造(A)〜(E)において、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の有機基を表わす。また、上記部分構造(C)、(E)において、Mはそれぞれ独立に金属原子を表わし、Lはそれぞれ独立にMの配位子を表わし、nはそれぞれ独立に0以上の整数を表わす。}
【0012】
また、上記フラーレン誘導体は、上記有機基が、置換基を有していても良い炭素数6〜20の芳香族炭化水素基であることが好ましい(請求項2)。
【0013】
また、本発明の別の要旨は、上記のフラーレン誘導体の製造方法であって、フラーレンと、一価の有機銅試薬とを反応させる工程を有することを特徴とする、フラーレン誘導体の製造方法に存する(請求項3)。
【0014】
また、上記フラーレン誘導体の製造方法は、上記反応をピリジン類の存在下で行なうことが好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フラーレンと一価の有機銅試薬とを反応させることにより、新たなフラーレン誘導体を得ることができ、また、このフラーレン誘導体を用いて、更に別の新たなフラーレン誘導体(フラーレン金属錯体)を得ることができる。これらの新たなフラーレン誘導体は、電子材料、半導体、生理活性物質など、様々な分野で用いて好適である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に制限されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0017】
本発明において「フラーレン」とは、炭素原子が球状又はラグビーボール状に配置して形成される閉殻状の炭素クラスターを指す。その炭素数は通常60以上、120以下である。具体例としては、C60(いわゆるバックミンスター・フラーレン)、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びより高次の炭素クラスターが挙げられる。
本発明は、これらのフラーレンのうち特にC60及びC70について、その誘導体及び金属錯体を提供するとともに、これらの製造方法を併せて提供するものである。
【0018】
また、本明細書において「フラーレン誘導体」とは、これらのフラーレンに対して特定の基が付加した構造を有する化合物のみでなく、その分子に金属が配位したフラーレン金属錯体を含めたフラーレンの誘導体を広く意味するものとする。したがって、本明細書においてフラーレンC70の誘導体とは、C70骨格に6個又は7個の有機基が付加した構造を有する分子(以下、それぞれ適宜「6重付加C70誘導体」及び「7重付加C70誘導体」という。)、及び、6重付加C70誘導体又は7重付加C70誘導体に金属が配位したフラーレン金属錯体(以下、それぞれ適宜「6重付加C70金属錯体」及び「7重付加C70金属錯体」という。)の両方を指すものである。また、同様に、本明細書においてフラーレンC60の誘導体とは、C60骨格に8個の有機基が付加した構造を有する分子(以下、適宜「8重付加C60誘導体」という。)、及び、8重付加C60誘導体に金属が配位したフラーレン金属錯体(以下、適宜「8重付加C60金属錯体」という。)の両方を指すものである。
また、フラーレンの「骨格」とは、フラーレン又はフラーレン誘導体の閉殻構造を構成する炭素骨格をいう。
【0019】
<1: 6重付加フラーレンC70誘導体>
本発明の第1のフラーレン誘導体は、フラーレンC70の骨格(以下、適宜「C70骨格」という。)に炭素数1〜20の有機基Rが6個結合した6重付加C70誘導体である。以下、このフラーレン誘導体を適宜「本発明の6重付加C70誘導体」という。
【0020】
有機基Rは、C70骨格に対し炭素原子で結合するものであれば、その種類は特に制限されないが、通常は、置換されていても良い芳香族又は脂肪族の炭化水素基又は複素環基である。有機基Rの炭素数は、通常1以上、好ましくは6以上、また、通常20以下である。なお、同一のC70骨格に結合した有機基Rは、それぞれ同じでも良く異なっていても良い。
【0021】
有機基Rとして用いられる芳香族又は脂肪族の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基;エチニル基、1−プロピオニル基等のアルキニル基;フェニル基、ビフェニル基、トルイル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。これらの具体例の中でも、C70誘導体の安定性及び取り扱いの容易さの観点から、フェニル基、ナフチル基などのアリール基(芳香族炭化水素基)が好ましく、フェニル基が特に好ましい。また、複素環基としては、2−チエニル基、2−ピリジル基、フルフリル基等が挙げられる。
【0022】
有機基Rとして用いられる芳香族又は脂肪族の炭化水素基が置換基を有する場合、この置換基の種類としては、本発明の趣旨に反するものでない限り特に制限は無い。置換基の例としては、メチル基、エチル基、ブチル基などのアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基;フェノキシ基などのアリールオキシ基;3級アミノ基;フッ素原子などのハロゲン原子;トリメチルシリル基、トリエトキシシリル基などのシリル基;ヒドロキシ基;チオール基;ブチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基などのアリールチオ基;アセチル基などのアシル基;アセトキシ基などのカルボニルオキシ基などが挙げられる。中でも、グリニャール(Grignard)試薬との反応が1段階でよいため、メチル基、エチル基、ブチル基などのアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基;フェノキシ基などのアリールオキシ基;3級アミノ基;ハロゲン原子のうちフッ素原子及び塩素原子;トリメチルシリル基、トリエトキシシリル基などのシリル基;ブチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基などのアリールチオ基が好ましく、特に、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、塩素原子が更に好ましい。なお、芳香族又は脂肪族の炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基の炭素数を含めた有機基Rの全炭素数が前記範囲内に存在する必要がある。
【0023】
なお、本明細書を通じて、「R」で表わされる有機基は全て、上に説明したものと同様の定義を表わすものとする。また、説明の便宜上「R’」を用いて有機基を表わす場合もあるが、この「R’」で表わされる有機基も、特に別記する場合を除き、全て上に説明した「R」と同様の定義を表わすものとする。なお、同一のフラーレンC60骨格又はC70骨格に複数の有機基R及び/又はR’が結合している場合、これらの有機基R及び/又はR’は、特に別記する場合を除き、それぞれ同じであっても良く、異なっていても良いものとする。
【0024】
70骨格に対する6個の有機基Rの相対的な結合位置は特に限定されず、任意の位置に結合していればよい。但し、後述する製造方法(本発明の製造方法)により本発明の6重付加C70誘導体を製造する場合には、従来公知の方法(特許文献4及び非特許文献8参照)でC70に3個の有機基Rを付加した場合と同様に、通常、3個の有機基R及び1個の水素原子が下記式(A)、(B)で表わされる相対位置でC70骨格に付加した部分構造(以下、それぞれ、適宜「3重付加部分構造(A)」、「3重付加部分構造(B)」という。)を有するものが得られる。このため、製造の容易さという観点から、本発明の6重付加C70誘導体としては、下記の3重付加部分構造(A)、(B)がC70骨格上に合計2個存在する6重付加C70ジヒドロ誘導体が好ましい。なお、下記の3重付加部分構造(A)、(B)において、Rはそれぞれ独立に、上述した有機基を表わす。
【0025】
【化2】

【0026】
ここで、上記の3重付加部分構造(A)と3重付加部分構造(B)とは互いに鏡像異性の関係にある。本発明の6重付加C70誘導体は、上記の3重付加部分構造(A)及び3重付加部分構造(B)のうち、一方若しくは両方を有するものであればよい。即ち、一方の3重付加部分構造のみをC70骨格上に2つ有していても良く、また両方の3重付加部分構造をC70骨格上にそれぞれ1つずつ有していても良い。
【0027】
特に、後に述べる製造方法(本発明の製造方法)によって本発明の6重付加C70誘導体を製造すると、3重付加部分構造(A)及び/又は3重付加部分構造(B)からなる群より選ばれる3重付加部分構造が2個直接に結合した部分構造(以下、適宜「6重付加部分構造」という。)を有する6重付加C70ジヒドロ誘導体、具体的には、以下の6重付加部分構造(I)〜(VI)をそれぞれ有する6種類の6重付加C70ジヒドロ誘導体のうち、何れか1種が単独で、又は2種以上が混合物として得られることになる。よって、本発明の6重付加C70誘導体としては、特に、以下の6重付加部分構造(I)〜(VI)の何れかを有する6重付加C70ジヒドロ誘導体が好ましい。なお、下記の6重付加部分構造(I)〜(VI)において、Rはそれぞれ独立に、上述した有機基を表わす。
【0028】
【化3】

【0029】
即ち、6重付加C70ジヒドロ誘導体としては、C70骨格に直接結合している水素原子の位置の違いに基づく3種類の位置異性体が存在し、各位置異性体には更に2種類の鏡像異性体{即ち、6重付加部分構造(I)と6重付加部分構造(II)との対;6重付加部分構造(III)と6重付加部分構造(IV)との対;6重付加部分構造(V)と6重付加部分構造(VI)との対}が存在することから、異性体の種類は3×2で6種類となる。これら6種の異性体は何れも、本発明の6重付加C70誘導体に該当する。また、これら6種の異性体のうち任意の2種以上の混合物、更には6種の異性体全ての混合物であっても、本発明の6重付加C70誘導体に含まれるものとする。
【0030】
なお、上記の3重付加部分構造(A)、(B)においては、有機基R又は水素原子が結合している4個の炭素以外のsp2炭素は、すべて共役している。したがって、本発明の6重付加C70誘導体においては、70−4−4=62π電子系の共役となる。
【0031】
本発明の6重付加C70誘導体は、1つのC70骨格に6個の有機基Rを有するため、この有機基Rの種類によっては、例えばトルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素やエステル系有機溶媒などの溶媒に対する溶解性が、フラーレンC70自体もしくは公知の3重付加C70誘導体と比べて高くなることが期待される。溶媒に対する溶解性が高くなれば、塗布のように溶媒にC70誘導体を溶解して用いる場合や、C70誘導体に対して反応を行なう場合などに有利である。
【0032】
更に、有機基Rの種類によっては、塩基を用いてC70骨格上の水素原子を引き抜いてアニオンとすることが可能である。この場合、本発明の6重付加C70誘導体は、以下の<3: フラーレン金属錯体>の欄などに記載するフラーレン金属錯体の原料や、あるいは、アニオン部位のアルキル化によって合成できる2官能性C70誘導体の原料として有用であり、好ましい。
【0033】
また、特に上述の6重付加C70ジヒドロ誘導体は、C70骨格に対する6個の有機基R及び2個の水素原子の相対的な結合位置が特定されており、その構造に規則性があることから、電子材料、生理活性物質、ナノ構造体形成の構成単位等、又はそれらの原料として有用である。
【0034】
<2: 8重付加フラーレンC60誘導体>
本発明の第2のフラーレン誘導体は、フラーレンC60の骨格に炭素数1〜20の有機基Rが8個結合した8重付加C60誘導体である。以下、このフラーレン誘導体を適宜「本発明の8重付加C60誘導体」という。
【0035】
60骨格において、有機基Rが結合する位置は特に限定されず、任意の位置に結合していればよい。但し、後述する製造方法によれば、本発明の8重付加C60誘導体は通常、上記の3重付加部分構造(A)又は3重付加部分構造(B)をC60骨格上に1個有し、且つ、5個の有機基Rが付加した部分構造(以下、適宜「5重付加部分構造」という。)(D)をC60骨格上に1個有する、8重付加C60ジヒドロ誘導体として得られる。
【0036】
【化4】

【0037】
特に、後に述べる製造方法(本発明の製造方法)によって本発明の8重付加C60誘導体を製造すると、上記3重付加部分構造(A)又は3重付加部分構造(B)と上記5重付加部分構造(D)とが直接に結合した部分構造(以下、適宜「8重付加部分構造」という。)を有するC60誘導体(8重付加C60ジヒドロ誘導体)、例えば、以下の構造図(1)に表される8重付加C60ジヒドロ誘導体が得られる。
【0038】
【化5】

【0039】
具体的には、以下に示す8重付加部分構造(i)〜(x)を有する10種類の8重付加C60ジヒドロ誘導体のうち、1種の単体、又は2種以上の混合物が得られる。どのような異性体の単体や混合物が得られるかは反応条件によって異なるが、通常はこれら10種類の異性体すべての混合物が得られる。
【0040】
【化6】

【0041】
即ち、8重付加部分構造においては、5重付加部分構造(D)における水素原子の結合位置が5通り存在し、また、3重付加部分構造における水素原子の結合位置が3重付加部分構造(A)又は3重付加部分構造(B)の2通り存在することから、8重付加C60ジヒドロ誘導体としては5×2=10種類の異性体(5種類の位置異性体×それぞれ2種類の鏡像異性体)が存在することになる。これらの10種類の異性体は何れも、本発明の8重付加C60誘導体に該当する。また、これら10種の異性体のうち任意の2種以上の混合物、更には10種の異性体全ての混合物も、本発明の8重付加C60誘導体に含まれるものとする。
【0042】
なお、上述したように、3重付加部分構造(A)、(B)において、有機基R又は水素原子が結合している4個の炭素以外のsp2炭素は、すべて共役している。また、5重付加部分構造(D)においては、シクロペンタジエン部位が、有機基Rが結合した炭素によってその共役を切り離され、残りの炭素が共役している。したがって、本発明の8重付加C60誘導体においては、60−4−10=46π電子系の共役となる。
【0043】
本発明の8重付加C60誘導体は、特定の構造を有するフラーレンC60の誘導体であり、電子材料、生理活性物質、ナノ構造体形成の構成単位等、又はそれらの原料として有用である。特に、10重付加C60誘導体と異なり非対称の構造をとっているため、特異な電子状態をとることが期待される。
【0044】
また、特に上述の8重付加C60ジヒドロ誘導体の場合は、C60骨格に対する8個の有機基Rの相対的な結合位置が特定されており、且つ、その構造に規則性があることから、電子材料、生理活性物質、ナノ構造体形成の構造単位等、又はそれらの原料として有用である。
【0045】
<3: フラーレン金属錯体>
本発明の6重付加C70誘導体及び8重付加C60誘導体、特に6重付加C70ジヒドロ誘導体及び8重付加C60ジヒドロ誘導体において、フラーレン骨格に直接結合する水素原子を金属原子又は金属含有基に置換することにより、フラーレン骨格を有する金属錯体が得られる(以下、この金属錯体を、適宜「本発明のフラーレン金属錯体」という。)。これらの本発明のフラーレン金属錯体も、本発明のフラーレン誘導体に含まれるものである。また、本発明のフラーレン金属錯体としては、6重付加C70ジヒドロ誘導体を用いて合成される金属錯体(以下適宜「6重付加C70金属錯体」と略称する。)と、その6重付加C70金属錯体から誘導される金属錯体(以下適宜「7重付加C70金属錯体」と略称する。)、並びに、8重付加C60ジヒドロ誘導体を用いて合成される金属錯体(以下適宜「8重付加C60金属錯体」と略称する。)とが挙げられる。
【0046】
本発明の6重付加C70金属錯体は、上述の6重付加C70ジヒドロ誘導体の構造において、C70骨格に直接結合した2個の水素原子のうち少なくとも1個が金属原子又は金属含有基によって置換された構造となっている。具体的には、C70骨格上に以下の部分構造(以下、適宜「3重付加金属錯体部分構造」という。)(C)を2個有するものか、又は、上記3重付加部分構造(A)又は3重付加部分構造(B)を1個と3重付加金属錯体部分構造(C)1個を有するものである。
【0047】
【化7】

【0048】
本発明の6重付加C70金属錯体は、上記のように、6重付加C70誘導体のC70骨格に直接結合した水素原子を置換することにより、容易に合成される。したがって、製造の容易さという観点から、本発明の6重付加C70金属錯体としては、上述した6重付加C70誘導体の6重付加部分構造(I)〜(VI)に対応する部分構造、即ち、上記3重付加金属錯体部分構造(C)が2個直接に結合した部分構造、及び、上記3重付加金属錯体部分構造(C)と上記3重付加部分構造(A)又は(B)とが直接に結合した部分構造のうちの何れかの部分構造(以下、適宜「6重付加C70金属錯体部分構造」という。)を有する6重付加C70金属錯体が好ましい。具体的には、以下の6重付加C70金属錯体部分構造(VII)〜(XII)を有する6重付加C70金属錯体が好ましい。
【0049】
【化8】

【0050】
ここで、これらの6重付加C70金属錯体部分構造(VII)、(VIII)の対、6重付加C70金属錯体部分構造(IX)、(X)の対、6重付加C70金属錯体部分構造(XI)、(XII)の対はそれぞれ互いに鏡像異性の関係にあるが、どちらのエナンチオマー構造を有するC70金属錯体も、本発明の6重付加C70金属錯体に該当する。また、これらの6重付加C70金属錯体部分構造(VII)〜(XII)を有する6重付加C70金属錯体の混合物も、本発明の6重付加C70金属錯体に含まれるものとする。
【0051】
なお、上記の6重付加C70金属錯体部分構造(VII)〜(XII)において、Mは金属原子を表わす。金属原子Mの種類に特に制限はなく任意の金属原子を用いることができるが、好ましくは、1族〜10族の典型元素及び遷移金属元素の中から選択される金属が望ましい。具体的には、Li、Na、K、Cs、Tl、Mo、W、Re、Fe、Ru、Rh、Ir、Pd等が挙げられる。特に好ましくは、1族の金属原子及び8族の遷移金属である。1族の金属錯体はフラーレン骨格のシクロペンタジエニル部位に反応性を有するため反応性中間体として有用であり、一方、8族の遷移金属錯体は安定であるため、そのまま種々の材料として用いる、あるいは後述する本発明の7重付加C70金属錯体の原料として有用であり、それぞれ好ましい。
【0052】
更に、Lは金属原子Mの配位子を表わす。配位子Lは金属原子Mの種類及び価数に応じたものであれば、その種類に他に制限は無く、具体的には、オレフィン、CO、3級ホスフィンなどのπ配位型の配位子や、ハロゲン、アルコキシ、アルキル、水素などのσ結合により結合する配位子などが挙げられる。また、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどの不対電子で配位することができる溶媒分子もLの例として挙げられる。
【0053】
金属原子Mが1族金属(アルカリ金属)である場合の配位子Lは、通常配位性を有する溶媒分子であり、合成時や精製時に用いられた溶媒である。中でもテトラヒドロフランのような強く配位する溶媒が錯体の安定化に効果を示すため好ましい。また、金属原子Mが8族遷移金属である場合、配位子Lとしては安定な錯体を形成する多座配位子が好ましく、中でもη5配位型の配位子がより好ましい。具体的には、置換基を有していても良いシクロペンタジエニル基がもっとも好ましい。なお、金属原子Mの種類によっては、配位子Lは必ずしも必要ではない。
【0054】
また、nは配位子Lの数を表わす。nは0以上の整数であり、通常0〜3である。なお、nが2以上の場合、それぞれの配位子Lは同一であってもよく、異なっていても良い。
【0055】
なお、本明細書を通じて、「M」で表わされる金属原子、「L」で表わされる配位子、「n」で表わされる数は全て、上に説明したものと同様の定義を表わすものとする。また、説明の便宜上、それぞれ「M’」で表わされる金属原子、「L’」で表わされる配位子、「n’」を用いて表わす場合もあるが、これらの「M’」、「L’」、「n’」で表わされる数も、特に別記する場合を除き、全て上に説明した「M」、「L」、「n」と同様の定義を表わすものとする。なお、同一のフラーレンC60骨格又はC70骨格に複数の「MLn」及び/又は「M’L’n'」が結合している場合、これらの「MLn」及び/又は「M’L’n'」は、特に別記する場合を除き、それぞれ同じであっても良く、異なっていても良いものとする。
【0056】
なお、上述したように、本発明の6重付加C70金属錯体が3重付加金属錯体部分構造(C)を2個有する場合、その6重付加C70金属錯体が有する2個のMLnは、同種であってもよく、異なっていても良い。
【0057】
3重付加金属錯体部分構造(C)を2個有する場合には、本発明の6重付加C70金属錯体は1つのC70骨格に2個の金属原子Mを有する構造となるため、適切な多価の金属原子Mを選択することにより連続的な構造を形成することができる。ここで、連続的な構造とは、例えば、下記化学式に示すように、1つの金属原子Mが2つの6重付加C70金属錯体の間で共有されることにより、複数の6重付加C70金属錯体が互いに繋がって形成された構造をいう。
【0058】
【化9】

このように連続的な構造を形成することができるため、本発明の6重付加C70金属錯体はナノ構造形成の構造単位として有用である。
【0059】
また、金属原子Mの種類が適切であれば、2つの金属原子Mが比較的近傍に存在することができるため、本発明の6重付加C70金属触媒は前記2つの金属原子Mが関与する特異な触媒反応に触媒としての活性を示すことが期待される。
【0060】
一方、本発明の8重付加C60金属錯体は、上述の8重付加C60ジヒドロ誘導体の構造において、上記の6重付加C70金属錯体と同様に、C60骨格に直接結合した2個の水素原子のうち少なくとも1個が金属原子又は金属含有基によって置換された構造となっている。具体的には、C60骨格上に、上記の3重付加金属錯体部分構造(C)、及び、以下の部分構造(以下、適宜「5重付加金属錯体部分構造」という。)(E)のうちの一方又は両方を有するものである。
【0061】
【化10】

【0062】
本発明の8重付加C60金属錯体は、上記のように、6重付加C70誘導体と同様、8重付加C60誘導体のC60骨格に直接結合した水素原子を置換することにより、容易に合成される。したがって、製造の容易さという観点から、本発明の8重付加C60金属錯体としては、上述した8重付加C60誘導体の8重付加部分構造(i)〜(x)に対応する部分構造、即ち、3重付加金属錯体部分構造(C)と5重付加金属錯体部分構造(E)とが結合した部分構造、3重付加金属錯体部分構造(C)と5重付加部分構造(D)とが結合した部分構造、3重付加部分構造(A)と5重付加金属錯体部分構造(E)とが結合した部分構造、及び、3重付加部分構造(B)と5重付加金属錯体部分構造(E)とが結合した部分構造からなる群より選ばれる部分構造(以下、適宜「8重付加C60金属錯体部分構造」という。)を有する8重付加C60金属錯体が好ましい。具体的には、以下の8重付加C60金属錯体部分構造(xi)〜(xviii)を有する8重付加C60金属錯体が好ましい。
【0063】
【化11】

【0064】
ここで、8重付加C60金属錯体部分構造のうち、(xii)と(xiii)の対、(xv)と(xviii)の対、(xvi)と(xvii)の対は互いに鏡像異性の関係にあるが、どちらのエナンチオマー構造を有するC60金属錯体も、本発明の8重付加C60金属錯体に該当する。8重付加C60金属錯体部分構造(xi)〜(xviii)を有する8重付加C60金属錯体の混合物も、本発明の8重付加C60金属錯体に含まれるものとする。
【0065】
なお、本発明の8重付加C60金属錯体が3重付加金属錯体部分構造(C)と5重付加金属錯体部分構造(E)とを両方とも有している場合、その8重付加C60金属錯体が有する2個のMLnは、同種であってもよく、異なっていても良い。
【0066】
また、3重付加金属錯体部分構造(C)と5重付加金属錯体部分構造(E)とを有する場合、本発明の8重付加C60金属錯体は、本発明の6重付加C70金属錯体と同様に、連続的な構造を形成することができるためナノ構造形成の構造単位として有用であり、また、金属原子Mの種類が適切であれば、金属原子Mが関与する特異な触媒反応に触媒としての活性を示すことが期待される。
【0067】
<4: 7重付加C70金属錯体>
次に、本発明の別の要旨である7重付加C70金属錯体について説明する。本発明の7重付加C70金属錯体は、フラーレンC70の骨格に炭素数1〜20の有機基が7個結合した7重付加C70誘導体の金属錯体である。以下、このフラーレン誘導体を適宜「本発明の7重付加C70金属錯体」という。
【0068】
ここで、C70骨格に結合する有機基としては、上述の<1: 6重付加フラーレンC70誘導体>の欄において説明した有機基Rと同様のものが挙げられ、また、C70骨格に結合する金属配位子としては、上述の<3: フラーレン金属錯体>の欄において説明した配位子MLnと同様のものが挙げられる。ここで、R、M、L、nの定義は、上述の<1:
6重付加フラーレンC70誘導体>及び<3: フラーレン金属錯体>の欄において説明した通りである。なお、C70骨格一つ当たりに結合する金属原子の数は特に限定されないが、以下の<7: フラーレン金属錯体へのアルキル基導入反応>の欄に述べる製造方法で容易に製造される、金属原子が2つあるいは3つ結合しているものが好ましい。
【0069】
また、C60骨格において、有機基R及び金属原子Mが結合する位置は特に限定されず、任意の位置に結合していればよい。但し、後述の<7: フラーレン金属錯体へのアルキル基導入反応>の欄において説明する製造方法によれば、本発明の7重付加C70金属錯体は、以下の部分構造(C)をC70骨格上に2つ有し、更にC70骨格上の任意の位置に更に1つの有機基R’を有するC70誘導体であるものが好ましい。
【0070】
【化12】

【0071】
この場合結合手が1つ余るが、ここには水素原子が結合するか、或いは金属原子(以下、これをM’で表わす。また、その配位子をL’、配位子の数をn’で表わす。)が結合する。前者はフラーレン骨格1つに2個の金属原子が結合した2核錯体であり、その分子式は(C706R’)(MLn2H、後者はフラーレン骨格に3つの金属原子が結合した3核錯体であり、その分子式は(C706R’)(MLn2(M’L’n')となる。
【0072】
中でも特に好ましい7重付加C70金属錯体としては、2核錯体では以下の部分構造(F)、(G)の何れか1方を、3核錯体では以下の部分構造(H)、(I)の何れか一方を、それぞれ有するものが挙げられる。これらは、上述した本発明の6重付加C70金属錯体を原料として、後述の<7.フラーレン金属錯体へのアルキル基導入反応>の欄において説明する製造方法により容易に合成することができるため好ましい。
【0073】
【化13】

【0074】
【化14】

【0075】
本発明の7重付加C70金属錯体はこれまで報告例がなく、フラーレン上に高密度に金属原子が配位した特異な化合物であるため、特有の電子的挙動が期待され、電子材料用途に有用である。また、1つのフラーレン中心から金属原子を介して2方向あるいは3方向に結合を伸長させることが可能であるため、分子サイズのナノ構造体の構築のための素子としても有用である。また、金属原子M、M’の種類が適切であれば、金属原子Mが関与する特異な触媒反応に触媒としての活性を示すことが期待される。
【0076】
<5: フラーレン誘導体の製造方法>
本発明のフラーレン誘導体(6重付加C70誘導体及び8重付加C60誘導体)を製造する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、フラーレンC70又はフラーレンC60と、一価の有機銅試薬とを反応させる方法が挙げられる。以下、これらの製造方法(以下、それぞれ適宜「本発明のC70誘導体の製造方法」「本発明のC60誘導体の製造方法」という。)について、詳細に説明する。
【0077】
なお、原料のフラーレンC70、C60としては、各種の公知の手法により合成されたものを使用することができる。フラーレンの合成法としては、例えばNature,1990年,347巻,p.354に記載のグラファイトのアーク放電による方法や、Nature,1991年,352巻,p.139に記載の有機物を不完全燃焼させる方法が挙げられる。フラーレン類は通常これらの方法で得られるすすの中に含まれており、ベンゼンやトルエンなどの有機溶媒により抽出されて、炭素数の異なる複数種のフラーレンが混合物として得られる。本発明の製造方法の原料としては、混合物を分離・精製してC70、C60等の単一品としてから以下の製造方法に供しても良いし、混合物のまま以下の製造方法に供し、得られたフラーレン誘導体等の混合物を分離・精製することにより、目的とするC70誘導体及びC60誘導体を得ても良い。
【0078】
[5−1: 6重付加C70誘導体の製造方法]
本発明のC70誘導体の製造方法では、原料のフラーレンC70を一価の有機銅試薬と反応させる。通常、この反応は適切な溶媒系を用いて、その溶媒系中で行なわれる。溶媒系の種類は特に制限されないが、ピリジン類を存在させることが好ましい。
【0079】
(原料及び試薬)
原料のフラーレンC70は、上述した手法により得られたものをそのまま使用しても良いが、通常は有機溶媒を用いて溶液又はスラリーの状態としたものを用いる。有機溶媒としては、通常、フラーレンC70の溶解性が比較的高い芳香族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素が用いられる。具体例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、トリメチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジメチルナフタレン、ジイソプロピルナフタレン等が挙げられる。なお、これらの有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。有機溶媒の量は、1gのフラーレンC70に対して通常100mL以上、通常10L以下の範囲である。
【0080】
なお、後述するピリジン類を反応系に用いる場合には、使用するピリジン類が常温で液体であれば、上に例示した有機溶媒に換えて、このピリジン類を用いてフラーレンC70を溶解又はスラリー化させることもできる。
【0081】
一価の有機銅試薬は、一般式RCuで表される。ここで有機基Rは、上述の<1: 6重付加フラーレンC70誘導体>の欄において説明した有機基Rと同義であり、通常はそのままの形で、反応生成物である本発明の6重付加C70誘導体中の有機基RとしてC70骨格上に導入される。特に、フェニル基、置換フェニル基、ナフチル基、置換ナフチル基などの芳香族炭化水素基を有機基Rとして用いると、これらを有機銅試薬RCuとした場合に適当な反応性と安定性を有するので特に好ましい。なお、一価の有機銅試薬は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0082】
一価の有機銅試薬の合成方法は特に限定されず、任意の合成方法を用いることができるが、特に好ましい方法としては、グリニャール試薬と、一価の銅試薬とから合成する方法が挙げられる。ここで、グリニャール試薬及び一価の銅試薬は、それぞれ1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせて併用しても良い。
【0083】
グリニャール試薬は、一般式RMgXで表わされる試薬である。ここで、XはCl、Br、Iのハロゲン原子を表わし、また、有機基Rは上述の有機銅試薬RCu中のRと同義である。グリニャール試薬は通常、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン(THF)などのエーテル系溶媒の溶液の状態で用いられる。その濃度は、有機基Rやハロゲン原子Xの種類によって異なるが、通常0.1M以上、2.0M以下である。
【0084】
一価の銅試薬は、通常、ハロゲン化物の形態で用いられる。具体的には、CuCl、CuBr、CuIなどが例示される。再現性よく反応を行なうためには、これらのハロゲン化物の市販品をそのまま用いるのは好ましくない。不純物、特に0価や2価の銅化合物を除去する目的で、これらを再結晶等の手法により精製したものを用いるのが好ましい。最も好ましいのは、CuBrをMe2Sから結晶化させて精製したMe2Sを結晶溶媒として有するCuBr・Me2S錯体である。なお、ここで「Me」はメチル基を表わす。
【0085】
ピリジン類とは、分子構造中にピリジン骨格を有する任意の物質をいう。その例としては、ピリジン、メチルピリジン類、エチルピリジン類、ジメチルピリジン類、クロロピリジン類、アミノピリジン類、キノリン、イソキノリン、メチルキノリン類等が挙げられ、その中でも、ピリジン、メチルピリジン類、エチルピリジン類、ジメチルピリジン類、クロロピリジン類、アミノピリジン類等の単環ピリジン骨格を有するものが好ましい。なお、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0086】
ピリジン類がフラーレンC70に有機基Rを付加する反応に及ぼす影響は明確ではないが、ピリジン類はフラーレンとの強い相互作用があることが知られており、また有機銅試薬RCuに対する相互作用もあると考えられているため、ピリジン類を使用しないで反応を行なった場合と比べて、ピリジン類がフラーレンC70あるいは有機銅試薬RCuの何れか一方あるいは両方に作用して、反応性が変化するためであると考えられる。
【0087】
(反応手順及び反応条件)
フラーレンC70と一価の有機銅試薬との反応は、グリニャール試薬と一価の銅試薬とから得られる一価の有機銅試薬に対し、好ましくはピリジン類の存在下で、フラーレンC70を反応させることで実施される。
【0088】
原料であるフラーレンC70、グリニャール試薬、及び銅試薬を混合する順序は特に制限されず、グリニャール試薬と銅試薬とから得られる有機銅試薬とフラーレンC70とを反応させることが可能であれば、任意の順序で混合することができる。例えば、まずグリニャール試薬と銅試薬とを反応させて有機銅試薬を調製し(有機銅試薬調製反応)、続いてこれにフラーレンC70を加えて有機基を付加させる(フラーレンC70に対する有機基付加反応)というように、2段階の工程で行なっても良い。また、銅試薬とグリニャール試薬RMgXとから有機銅試薬RCuを合成する際にフラーレンC70を共存させて、有機銅試薬調製反応とフラーレンC70に対する有機基付加反応とを1段階の工程で行なってもよい。以下は記載の便宜上、有機銅試薬調製反応とフラーレンC70に対する有機基付加反応とを2段階の工程に分けて行なう場合を例として、それぞれの工程の反応条件について説明するが、1段階の工程で行なう場合についてもその反応条件は基本的に同様である。
【0089】
(有機銅試薬調製反応)
有機銅試薬の調製反応において、グリニャール試薬と銅試薬との使用比率は、グリニャール試薬に対し銅試薬が通常1.0等量以上1.5等量以下である。銅試薬に対してグリニャール試薬の量が過剰であると、得られる有機銅試薬とフラーレンC70との反応の再現性が得られず好ましくない。但し、グリニャール試薬又は銅試薬を2種以上用いる場合、それらの合計の使用量が上記の範囲内に収まるようにする。用いるグリニャール試薬の濃度及びピリジン類の使用量により、フラーレンC70に対する有機基付加反応時における、フラーレンC70と有機銅試薬との反応液中の有機銅試薬濃度が決定される。
【0090】
有機銅試薬の調製反応時における反応温度は、用いるグリニャール試薬及び一価の銅試薬の種類にもよるが、例えば調製反応を1段階で行なう場合には、通常−78℃以上、50℃以下であり、好ましくは室温程度である。また、反応時間は通常数分以上、1時間以下程度である。
【0091】
(フラーレンC70に対する有機基付加反応)
フラーレンC70に対する有機基付加反応における有機銅試薬とフラーレンC70との使用比率は、RCu:C70のモル比の値で、通常6:1以上、好ましくは9:1以上、また、通常200:1以下、好ましくは100:1以下の範囲である。有機銅試薬を複数種用いる場合は、その合計が上記モル比の範囲に収まるようにする。
【0092】
フラーレンC70に対する有機基付加反応時の反応温度は、通常−78℃以上、好ましくは0℃以上、また、通常50℃以下、好ましくは40℃以下であり、更に好ましくは室温程度である。反応時間は通常10分以上数日以下である。
【0093】
(ピリジン類の使用)
ピリジン類を用いる場合、ピリジン類を反応系に加える時期は任意であり、有機銅試薬とフラーレンC70との反応をピリジン類の存在下で進行させることができれば、他に制限は無い。例えば、有機銅試薬の調整反応の時から反応系に共存させておいても良く、生成した有機銅試薬に後から加えて、フラーレンC70に対する有機基付加反応を行なってもよい。更には、上述のようにフラーレンC70を溶解又はスラリー化させる溶媒として用いても良い。
【0094】
ピリジン類の使用量は、全溶媒量(有機銅試薬の溶液とピリジン類と有機溶媒との合計量)に対する体積比で、通常10%以上、好ましくは20%以上、また、通常90%以下、好ましくは80%以下の範囲となるようにする。ピリジン類が少なすぎると、大過剰の有機銅試薬RCuを反応させても、特許文献4及び非特許文献8に記載されているような3重付加C70誘導体が得られるのみで、目的とする6重付加C70誘導体が得られない虞がある。
【0095】
(反応の停止)
有機基Rの付加反応は、HCl水溶液などの酸を混合させることにより、停止させることができる。通常、1重量%以上10重量%以下のHCl水溶液を、有機銅試薬RCuに対して過剰量加える。
【0096】
反応の停止後、反応液は、無水硫酸マグネシウムや無水硫酸ナトリウムなどで水分を除去した後、セライト、シリカゲル又はアルミナ等のカラムを通すことにより、付加反応で副生したCu塩、Mg塩や乾燥剤などを除去する。その後反応液を1/3〜1/50程度まで濃縮し、CH3OH、CH3CH2OH等の貧溶媒を、濃縮した反応液に対して10倍〜1000倍加えることで、目的とするC70誘導体の粗生成物を得る。ここで貧溶媒とは、本発明の6重付加C70誘導体の溶解度が低い溶媒のことをいい、通常は、本発明の6重付加C70誘導体の溶解度が1mg/L以下のものをいう。
【0097】
(反応により得られるC70誘導体)
目的物(本発明の6重付加C70誘導体)の収率は、導入する有機基Rの種類や反応条件により異なるが、通常、目的物の純品に換算した値として、通常30%以上、90%以下である。また、上述の粗生成物中における目的物(本発明の6重付加C70誘導体)の純度は、HPLC(high performance liquid chromatography)の分析値として、通常60%以上、95%以下程度の純度で得られる。必要であれば、更にカラムクロマトグラフィーやHPLCなど通常の手法で精製を行なうことができる。また、これらの手法により、上述した3種の位置異性体を分離することもできる。
【0098】
得られた生成物が目的物(本発明の6重付加C70誘導体)であることは、例えば1H−NMR、13C−NMR及びMS分析により同定されるが、更にX線結晶回折によっても確認することができる。更に、取得した本発明の6重付加C70誘導体の一方のエナンチオマーのみを、キラルカラムを用いたHPLCなど、通常の光学分割手法によって分割、単離することもできる。
【0099】
上述した様に、本発明の6重付加C70ジヒドロ誘導体には、上記の6重付加部分構造(I)〜(VI)をそれぞれ有する6種類の異性体(3種類の位置異性体×2種類の鏡像異性体)が存在する。本発明の製造方法によれば、これら6種類の異性体のうち何れか1種の単体、又は2種以上の混合物が得られることになる。どのような異性体の単体や混合物が得られるかは反応条件によって異なるが、通常はこれら6種類の異性体全ての混合物が得られる。特に、製造時に用いる試薬や溶媒、更には他の添加剤に実質的にキラルな成分が含まれていない場合には、それぞれの位置異性体において鏡像体関係にあるC70誘導体が何れも1:1の比率で生成し、いわゆるラセミ体が得られる。この場合、1H−NMR分析では、C70骨格に直接結合している水素原子が、2種類のC2対称性の異性体に対応する等価な水素原子に基づく2本の1重線ピークと、C1対称性の異性体の非等価な2種類の水素原子に対応する2本の等しい強度の1重線ピークとの、合計4本の1重線ピークが現われ、ピークが互いに重ならない場合は4本の1重線ピークとして観測される。
【0100】
本発明の6重付加C70誘導体の製造方法で得られる6重付加C70誘導体は、特定の相対位置に6個の有機基R及び2個の水素原子が付加したC70誘導体であり、電子材料、生理活性物質、ナノ構造体形成の構成単位など、及びそれらの原料として有用である。
【0101】
(その他)
なお、本発明の6重付加C70誘導体の製造方法を、特許文献4及び非特許文献8に記載の3重付加C70誘導体に適用した場合、即ち、3重付加C70誘導体に一価の有機銅試薬RCuを反応させた場合にも、有機基Rが6個結合した本発明の6重付加C70誘導体が製造できる。この場合、原料の有機基(3重付加C70誘導体が有する有機基)と新たに導入する有機基(有機銅試薬RCuにより導入する有機基)とを異なるものとすることができ、この方法によれば、2種類の異なる有機基の3重付加部分構造(3重付加部位)を選択的に有する6重付加C70誘導体を製造することもできる。
【0102】
[5−2: 8重付加C60誘導体の製造方法]
本発明の8重付加C60誘導体の製造方法は、上述した本発明の6重付加C70誘導体の製造方法と、基本的に同様である。具体的には、原料としてフラーレンC70の代わりにフラーレンC60を用いればよい。それ以外の合成手法や反応条件などは、本発明の6重付加C70誘導体の製造方法と同様である。
【0103】
上述した様に、本発明の8重付加C60ジヒドロ誘導体には、上記の8重付加部分構造(i)〜(x)をそれぞれ有する10種類の異性体(5種類の位置異性体×2種類の鏡像異性体)が存在する。本発明の製造方法では、これら10種類の異性体のうち何れか1種の単体、又は2種以上の混合物が得られることになる。どのような異性体の単体や混合物が得られるかは反応条件によって異なるが、通常はこれら10種類の異性体全ての混合物が得られる。特に、製造時に用いる試薬や溶媒、更には他の添加剤に実質的にキラルな成分が含まれていない場合には、それぞれの位置異性体において鏡像体関係にあるC60誘導体が何れも1:1の比率で生成し、いわゆるラセミ体が得られる。この場合、1H−NMR分析では、C60骨格に直接結合している2つの水素原子が何れの位置異性体においても非等価であり、これら2種類の水素原子に対応する1重線のピーク2本の対が通常5種類現れて、ピークが互いに重ならない場合には合計10本の1重線として観測される。
【0104】
また、本発明の8重付加C60誘導体の製造方法では、本発明の8重付加C60誘導体とともに、以下に説明する10重付加C60誘導体が副生する。
10重付加C60誘導体とは、C60骨格上に10個の有機基Rを有する化合物である。各々の有機基Rの相対位置は特に限定されないが、通常、上記5重付加部分構造(D)をC60骨格上に2個有する10重付加C60ジヒドロ誘導体である。
【0105】
10重付加C60誘導体の中でも最も好ましいのは、例えば以下の構造図(2)で表わされるような、特許文献3に記載されている10重付加C60ジヒドロ誘導体である。
【0106】
【化15】

【0107】
但し、C60骨格に直接結合する2つの水素原子の相対位置は通常限定されず、図中、各水素原子は、水素原子それぞれが結合しているシクロペンタジエニル環のどの炭素原子に結合していても良い。したがって、本発明の8重付加C60誘導体の製造方法により副生する10重付加C60誘導体は、有機基Rがすべて同種である場合でも、水素原子の結合位置に基づく3種類の立体異性体が可能である。通常、本発明の8重付加C60誘導体の製造方法で副生する10重付加C60誘導体は、これらの位置異性体の混合物として得られる。1H−NMR分析では、10重付加C60誘導体のC60骨格に直接結合している水素原子が何れの位置異性体においても等価であり、ピークが互いに重ならなければ、これに基づく1重線のピークが3種類観測される。
【0108】
ここで副生する10重付加C60誘導体は、特許文献3及び非特許文献7に記載されているが、そこで報告されている従来の製造方法は、はじめに5重付加C60を合成した後、C60骨格に直接結合している水素原子をシアノ基に変換し、更に有機基の5重付加反応を行ない、最後にシアノ基を除去するという、多段工程を経るものである。
【0109】
これに対し、本発明の8重付加C60誘導体の製造方法によれば、フラーレンC60に対して特定の条件下で有機銅試薬RCuを反応させるだけであり、従来の製造方法と比較して1段階で極めて簡便に10重付加C60誘導体を製造することができる。したがって、本発明の8重付加C60誘導体の製造方法は、10重付加C60誘導体の製造方法としても有用である。
【0110】
本発明の8重付加C60誘導体の製造方法では、反応条件によって、8重付加C60誘導体(本発明の8重付加C60誘導体)と10重付加C60誘導体との生成比率を変化させることができる。よって、目的とするC60誘導体の種類あるいは比率に応じて、適切な反応条件を設定すればよい。なお、8重付加C60誘導体と10重付加C60誘導体との合計の収率は、通常8モル%以上、通常80モル%以下である。
【0111】
また、本発明の8重付加C60誘導体の製造方法を特許文献1,2及び非特許文献4に記載の5重付加C60誘導体に適用した場合、即ち、5重付加C60誘導体に有機銅試薬RCuを反応させた場合でも、同様に8重付加C60誘導体及び10重付加C60誘導体が得られる。この場合、原料中の有機基(5重付加C60誘導体が有する有機基)と新たに導入する有機基(有機銅試薬RCuにより導入する有機基)を異なるものとすることができ、この方法によれば、2種類の異なる有機基の5重付加部分構造(5重付加部位)を選択的に有する10重付加C60誘導体を製造することもできる。
【0112】
なお、本発明の8重付加C60誘導体の製造方法では、目的とする8重付加C60誘導体又は10重付加C60誘導体が何れも複数の異性体の混合物として得られるが、必要であればシリカゲルカラムクロマトグラフィーやHPLCなどの方法で目的とする誘導体あるいはその異性体を分離することもできる。
【0113】
本発明の8重付加C60誘導体の製造方法により得られる8重付加C60誘導体又は10重付加C60誘導体は、特定の位置に有機基を有する特定の構造を有するフラーレン誘導体であり、電子材料、生理活性物質、ナノ構造体形成の構成単位など、及びそれらの原料として有用である。更に10重付加C60誘導体は特許文献3及び非特許文献7に記載されているように、10重付加C60誘導体の金属錯体の原料としても有用であり、8重付加C60誘導体も同様に、対応する金属錯体の原料として有用である。
【0114】
<6: フラーレン金属錯体の製造方法>
本発明のフラーレン金属錯体(6重付加C70金属錯体及び8重付加C60金属錯体)を製造する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、上述の6重付加C70誘導体及び/又は8重付加C60誘導体を塩基で処理し、更に必要に応じて金属塩で処理するという方法が挙げられる。即ち、フラーレンC70又はC60と一価の有機銅試薬とを反応させて6重付加C70誘導体及び/又は8重付加C60誘導体を製造する工程の後、その工程で得られたC70誘導体及び/又は8重付加C60誘導体を塩基で処理し、更に必要に応じて金属塩で処理することにより、6重付加C70金属錯体及び/又は8重付加C60金属錯体製造することができる。以下の説明では、特に、6重付加C70ジヒドロ誘導体を原料として6重付加C70金属錯体を製造する場合を例として、その詳細を説明する。
【0115】
具体的な手順としては、まず、6重付加C70ジヒドロ誘導体を塩基により処理する。塩基としては、通常、周期表第1族に属するアルカリ金属を有する化合物(アルカリ金属化合物)が用いられる。アルカリ金属化合物の例としては、LiH、NaH、KH等のアルカリ金属ヒドリドや、KOtBu、NaOMe、LiOMe等のアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。なお、ここでtBuは3級ブチル基を表わし、Meはメチル基を表わす。
【0116】
6重付加C70ジヒドロ誘導体を塩基で処理する反応は、通常、THFなどのエーテル系溶媒中で行なわれる。塩基は、原料の6重付加C70誘導体に対し、モル比で通常1等量以上、すべての3重付加部分構造(A)、(B)に基MLnを結合させる場合には2等量以上、また、通常20等量以下用いられる。これによって、6重付加C70ジヒドロ誘導体のC70骨格に直接結合する水素原子がアルカリ金属によって置換され、6重付加C70誘導体−アルカリ金属錯体が生成する。
【0117】
なお、塩基が原料の6重付加C70誘導体が有する3重付加部分構造(A)、(B)よりも少ない場合、即ち、塩基が原料の6重付加C70誘導体に対し2等量未満の場合には、6重付加C70誘導体が有する2つの3重付加部分構造のうちの一方の水素原子がアルカリ金属によって置換され、他方の水素原子は置換されないことになるため、これを利用して構造制御することが可能である。
【0118】
更に、塩基として複数種のものを用いると、6重付加C70誘導体が有する2つの3重付加部分構造(A)、(B)で異なる種類の基MLnを結合させることが可能となり、これを利用した構造制御も可能となる。
【0119】
生成物が目的とする6重付加C70金属錯体である場合には、反応後の溶液から濾過あるいはデカンテーションにより過剰の塩基を除去すれば、目的とする6重付加C70金属錯体の溶液が得られる。
【0120】
一方、アルカリ金属以外の金属元素、即ち周期表の第2〜10族に属する金属を有する6重付加C70金属錯体を合成する際には、前記の塩基処理で得られた6重付加C70誘導体−アルカリ金属錯体に対して、更に、目的とする6重付加C70金属錯体の構造に対応する第2族〜10族の金属塩を反応させればよい。ここで用いられる第2〜10族金属塩としては、金属ハロゲン化物などの脱離基を有する金属化合物、もしくはカチオン性の金属錯体が挙げられる。
【0121】
なお、第2族〜10族の金属塩の量が、前記の塩基処理で得られた6重付加C70誘導体−アルカリ金属錯体の基MLnよりも少ない場合には、前記の塩基処理で得られた6重付加C70誘導体−アルカリ金属錯体の基MLnの一部しか第2族〜10族の金属塩に置換されないことになるため、これを利用して構造制御することも可能である。
【0122】
更に、金属塩として複数種のものを用いると、6重付加C70誘導体が有する2つの3重付加部分構造(A)、(B)で異なる種類の基MLnを結合させることが可能となり、これを利用した構造制御も可能となる。
【0123】
なお、配位子Lを有する6重付加C70金属錯体を合成する場合には、塩基による処理の際に、目的とする配位子L又はその前駆体を反応系中に共存させるか、又は配位子Lを有するアルカリ金属化合物を用いればよい。また、アルカリ金属以外の金属元素を有する6重付加C70金属錯体を合成する場合であれば、6重付加C70誘導体−アルカリ金属錯体を第2〜10族金属化合物と反応させる工程において、目的とする配位子L又はその前駆体を反応系中に共存させてもよい。
【0124】
上述のように、本発明の6重付加C70金属錯体には異性体が存在する。本発明の製造方法では、これらの異性体のうちの単体又は混合物が得られることになる。どのような異性体の単体や混合物が得られるかは反応条件によって異なるが、通常はこれら異性体の混合物が得られる。
【0125】
なお、得られた混合物が光学異性体を有する場合には、一方のエナンチオマーのみを、キラルカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(以下適宜「HPLC」と略称する。)など、通常の光学分割手法によって分割し単離することができる。
【0126】
本発明の製造方法で得られる6重付加C70誘導体の金属錯体は、C70骨格の特定の相対位置に6個の有機基及び1〜2個の金属原子が付加した誘導体であり、触媒、電子材料、生理活性物質、ナノ構造体形成の構成単位等として、又はそれらの原料として有用である。
【0127】
また、8重付加C60金属錯体についても、上述した6重付加C70金属錯体と同様にして、8重付加C60ジヒドロ誘導体を塩基により処理して製造することができる。塩基や金属塩による処理についての操作、条件、塩基や金属塩の種類、構造制御の方法なども、6重付加C70金属錯体と同様である。
【0128】
また、生成物の同定や、得られた混合物が光学異性体であった場合の光学的分割手法についても、6重付加C70金属錯体の場合と同様にして行なうことができる。
【0129】
更に、本発明の製造方法で得られる8重付加C60誘導体の金属錯体も、6重付加C70金属錯体と同様、触媒、電子材料、生理活性物質、ナノ構造体形成の構成単位等として、又はそれらの原料として有用である。
【0130】
<7: フラーレン金属錯体へのアルキル基導入反応>
上述の<6: フラーレン金属錯体の製造方法>の欄で説明した方法などによって製造された、<3: フラーレン金属錯体>の欄に記載のフラーレン金属錯体の一部は、更にそれを原料として付加反応を行なうことができ、これによって、付加基の数が増えた新たなフラーレン金属錯体が得られる。
ここで用いられる原料はC70金属錯体であり、その骨格は、C70骨格上に以下の3重付加金属錯体部分構造(C)を2つ有するフラーレン金属錯体である。
【0131】
【化16】

【0132】
フラーレン金属錯体の金属原子は、従来知られているシクロペンタジエニル部位の反応性が低い、言い換えると安定なフラーレン金属錯体が用いられる。よって、1族金属の錯体は好ましくなく、通常、金属原子は2族から10族、より好ましくは4族から10族の遷移金属であり、更に好ましくは8族から10族の後周期遷移金属、特に好ましくは8族の遷移金属である。具体的には、Ru、Feが最も好ましい。金属の種類によってフラーレン骨格上の電子状態が変化し、それによって反応性が決定されると考えられる。最も好ましい8族の遷移金属の場合の好ましい配位子Lnは、前述の<6: フラーレン金属錯
体の製造方法>の欄に記載の通り、安定な錯体を形成する置換及び無置換のシクロペンタジエニル配位子である。他の配位子の場合、反応条件下で脱離してしまい好ましくないものもある。
【0133】
反応試薬は特に限定されず、フラーレン骨格に新たな有機基を導入できるものであればその種類を問わないが、通常、有機リチウム試薬、グリニャール試薬、有機銅試薬、有機亜鉛試薬などの有機金属試薬が用いられる。中でも好ましいのは、前述の<5: フラーレン誘導体の製造方法>の欄において説明した有機銅試薬であり、そこに記載の方法と同様、有機銅試薬をピリジン存在下でフラーレン金属錯体と反応させるのが最も好ましい。この場合の有機基の種類、有機銅試薬の調整方法、反応方法、反応停止方法、後処理方法は、前述の<5: フラーレン誘導体の製造方法>の欄において説明した通りである。
【0134】
この方法で得られる新規なフラーレン金属錯体は、前述の<4: 7重付加C70金属錯体>の欄において説明した7重付加C70金属錯体の中の2核錯体であり、上述の3重付加金属錯体部分構造(C)を2つと、炭素数1〜20の有機基R’と、水素原子1つをC70骨格上に有する7重付加C70金属錯体である。
【0135】
より好ましくは、以下の部分構造(F)、(G)の何れか1つをC70骨格上に有するC70金属錯体である。なお、図中、R’は新たに導入された有機基である。
【0136】
【化17】

【0137】
この製造方法によって得られる新たなフラーレン金属錯体は、原料のフラーレン金属錯体とは異なる電子的挙動を示すことが期待される。
【0138】
ここで製造された7重付加C702核錯体はフラーレン骨格上にC−H基を有するため、これを足がかりとした更なるフラーレン金属錯体の合成原料としても有用である。例えば、前述の<5: フラーレン誘導体の製造方法>の欄に記載の方法と同様の反応を行なうことにより更に金属原子を導入することができる場合がある。具体的にはフラーレン金属錯体に対し、前述の<5: フラーレン誘導体の製造方法>の欄に記載の塩基を作用させ、1族金属をフラーレン上に有する錯体を系中で発生させる。その後、前述の<5: フラーレン誘導体の製造方法>の欄に記載の「金属ハロゲン化物などの脱離基を有する金属化合物、もしくはカチオン性の金属錯体」を作用させることにより、目的とする金属原子をフラーレン骨格上に導入することができる。
【0139】
この際、導入される金属原子は、通常原料でC−Hが存在していた5員環上にη5型で配位して安定な錯体となる。例えば、本発明の好ましい形態である上述の6重付加C70金属錯体から得られる7重付加C702核錯体では、以下の部分構造(H)、(I)で示される位置に特異的に新たな金属が導入される。
【0140】
【化18】

【0141】
上述した、本発明の製造方法で得られる金属錯体のような1つのフラーレン骨格上に金属原子3つがη5型配位で配位したフラーレン金属錯体はこれまで報告例がなく、フラーレン上に高密度に金属原子が配位した特異な化合物であるため、特有の電子的挙動が期待される。また、1つのフラーレン中心から金属原子を介して3方向に結合を伸長させることが可能であるため、分子サイズのナノ構造体の構築のための素子としても有用である。
【0142】
なお、本明細書における各生成物の同定は、例えば1H−核磁気共鳴法(以下適宜「1H−NMR」と略称する。)、13C−核磁気共鳴法(以下適宜「13C−NMR」と略称する。)、及び、場合によっては質量スペクトル(以下適宜「MS」と略称する。)分析又はX線結晶回折により行なわれる。
【実施例】
【0143】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「Ph」はフェニル基を表わし、「Me」はメチル基を表わし、「Et」はエチル基を表わし、「Bu」はブチル基を表わし、「tBu」は3級ブチル基を表わす。またCpはシクロペンタジエニル基をあらわす。
【0144】
<実施例1: C70Ph62の合成>
銅試薬CuBr・Me2S(368mg、1.78mmol)のピリジン(25.0mL)溶液に、グリニャール試薬PhMgBrのTHF溶液(1.35M、1.32mL、1.78mmol)を26℃で加え、この温度で10分撹拌し、黄色の懸濁液(有機銅試薬PhCu)を合成した。
【0145】
得られた黄色の懸濁液に、C70(50.2mg、59.4μmol)の脱気1,2−Cl264(25.0mL)溶液を加え、26℃で20時間撹拌した。その後、5%HCl水溶液を加えて反応を停止させた。
【0146】
生成液を無水MgSO4で乾燥させ、SiO2パッドで濾過後、約10mLまで濃縮し、そこにメタノール(300mL)を加えることで、暗赤色の沈殿を得た。これをメタノール、エーテル、及び水で十分に洗浄し、減圧乾燥することで、6重付加C70誘導体であるC70Ph62の粗生成物(65mg、収率85%、純度70%)を得た。
【0147】
得られたC70Ph62の粗生成物を、HPLC分離(Buckyprep、250mm、トルエン:イソプロパノール=7:3)を行なうことにより精製し、分析用の純粋なサンプルを得た(31mg、収率40%)。また、CS2/エタノール溶液から、X線結晶回折用の単結晶を得た。
【0148】
HPLC分離により得た純粋なサンプルについて、1H−NMR及びMS分析を行なった。また、CS2/エタノール溶液から得た単結晶について、X線結晶回折により分析を行なった。結果を以下に示す。
【0149】
[C70Ph62の分析結果]
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.747, 4.773, 4.850, 4.925 (Ratios of intensities =1:2:2:6, s, 2H), 7.10-7.45 (12H), 7.55-7.75 (6H), 7.85-7.89 (4H), 7.93-8.05 (8H)
APCI-TOF MS calcd for C106H32[(M+H)+];1306.2616, found m/z = 1306.2532
【0150】
【表1】

【0151】
【化19】

【0152】
分析の結果、本実施例により得られた物質が、上記構造を有する6重付加C70誘導体C70Ph62であることが確認された。
【0153】
<実施例2: C70(4−n−Bu−C6462の合成>
銅試薬CuBr・Me2Sを367mg用い、また、グリニャール試薬としてAr1MgBrのTHF溶液(Ar1=4−n−C49−C64、0.71M、2.51mL、1.78mmol)を用いて有機銅試薬Ar1Cuを合成し、有機銅試薬Ar1CuとC70との反応を24時間かけて行なった他は実施例1と同様にして、6重付加C70誘導体であるC70(4−n−C49−C6462の粗生成物(89mg、収率92%、純度83%)を製造した。
【0154】
得られたC70(4−n−C49−C6462の粗生成物を、実施例1と同様に、HPLC分離(Buckyprep、250mm、トルエン:イソプロパノール=7:3)を行なうことにより精製し、分析用の純粋なサンプルを得た(58mg、収率60%)。
【0155】
HPLC分離により得た純粋なサンプルについて、1H−NMR及びMS分析を行なった。結果を以下に示す。分析の結果、得られたサンプルが6重付加C70誘導体であるC70(4−n−C49−C6462であることが確認された。
【0156】
[C70(4−n−C49−C6462の分析結果]
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.83-1.05 (18H), 1.22-1.41 (12H), 1.43-1.69 (12H), 2.10-2.73 (12H), 4.711, 4.737, 4.816, 4.890 (Ratios of intensities = 1:2:2:6, s, 2H), 7.00-7.12 (4H), 7.16-7.25 (8H), 7.43-7.49 (2H), 7.54-7.58 (2H), 7.72-7.77 (2H), 7.80-7.90 (6H)
APCI-MS m/z = 1636 (M+); Anal. calcd for C120H80: C 94.70; H 5.30. Found: C 94.57; H 5.10
【0157】
<実施例3: C70(4−Me−C6462の合成>
銅試薬CuBr・Me2Sを367mg用い、また、グリニャール試薬としてAr2MgBrのTHF溶液(Ar2=4−CH3−C64、1.04M、1.71mL、1.78mmol)を用いて有機銅試薬Ar2Cuを合成し、有機銅試薬Ar2CuとC70との反応を24時間かけて行なった他は実施例1と同様にして、6重付加C70誘導体であるC70(4−CH3−C6462の粗生成物を製造した。
【0158】
得られたC70(4−CH3−C6462の粗生成物を、実施例1と同様に、HPLC分離(Buckyprep、250mm、トルエン:イソプロパノール=7:3)を行なうことにより精製し、分析用の純粋なサンプルを得た(32.6mg、収率40%)。
【0159】
HPLC分離により得た純粋なサンプルについて、1H−NMR及びMS分析を行なった。結果を以下に示す。分析の結果、得られたサンプルが6重付加C70誘導体であるC70(4−CH3−C6462であることが確認された。
【0160】
[C70(4−CH3−C6462の分析結果]
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.27-2.43 (18H), 4.710, 4.738, 4.802, 4.882 (Ratios
of intensities = 1:2:2:6, s, 2H), 7.00-7.30 (6H), 7.40-7.55 (m, 6H), 7.75-7.89 (m,12H)
APCI-MS m/z = 1389 (M+)
【0161】
<実施例4: K2{C70[4−CH3646}の合成>
6重付加C70誘導体であるC70(4−CH36462(6.1mg、0.044mmol)と、アルカリヒドリドであるKH(21mg、0.53mmol)とをアルゴン下のSchlenk管にいれ、蒸留したてのTHF(6.0mL)を加えた。水素ガスが即座に発生し、溶液の色は赤から黒に変化した。15分撹拌した後、不溶物を遠心分離で除去し、金属錯体であるK2{C70[4−CH3646}を得た。
【0162】
THFを留去し、蒸留したてのDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)−d7(0.5mL)を加えて、NMR測定サンプルとした。1H−NMR及び13C−NMRの測定結果を以下に示す。分析の結果、得られたものがフラーレン金属錯体であるK2{C70[4−CH3646}であることが確認された。
【0163】
[K2{C70[4−CH3646}の分析結果]
1H-NMR (400 MHz DMF-d7): δ 2.20 (s, 3H, CH3), 2.28 (s 3H, CH3), 2.29 (s, 3H,CH3), 6.94 (d, JH-H = 8.0 Hz, 2H, C6H5), 7.04 (d, JH-H = 8.0 Hz, 2H, C6H5), 7.10 (d, JH-H= 7.6 Hz, 2H, C6H5), 7.76 (d, JH-H = 8.0 Hz, 2H, C6H5), 7.95 (d, JH-H =7.6 Hz, 2H, C6H5), 8.00 (d, JH-H = 8.0 Hz, 2H, C6H5)
13C-NMR (100 MHz DMF-d7): δ 21.18 (2C, CH3), 21.22 (2C, CH3), 21.23 (2C, CH3), 56.63 (2C, C70), 58.76 (2C,C70), 61.20 (2C, C70), 118.18 (2C), 120.30 (2C), 128.06 (2C), 128.40 (4C, C6H4), 128.52 (4C, C6H4), 128.60 (4C, C6H4), 128.99 (4C, C6H4) 129.07 (4C C6H4), 129.19 (4C, C6H4) 129.22 (4C, C6H4), 129.37 (4C, C6H4), 130.75 (2C) 132.10 (2C), 133.04 (2C), 133.18 (2C), 133.77 (2C) 134.08 (2C), 134.49 (2C), 135.20 (2C), 135.35 (2C), 138.68 (2C), 139.03 (2C), 142.11 (2C), 142.34 (2C), 143.12 (2C), 143.37 (2C), 143.51 (2C), 143.91 (2C), 145.46 (2C), 146.02(2C), 146.88 (2C), 147.46 (2C), 147.58 (2C), 147.75 (2C), 148,32 (2C), 148.63 (2C), 149.33 (2C), 149.38 (2C), 150.00 (2C), 152.35 (2C), 154.32 (2C), 158.57 (2C), 166.68 (2C), 170.78 (2C)
なお、上記13C−NMRにおいて、C70骨格のピークのうち2本のピークは、他のピークと重なった状態で検出された。
【0164】
<実施例5: C60Ph82の合成>
銅試薬CuBr・Me2S(1.16g、5.67mmol)と、C60(100mg、
0.139mmol)と、ピリジン(20mL)とを混合した黒色懸濁液に、グリニャール試薬PhMgBrのTHF溶液(0.97M、5.70mL、5.67mmol)を0℃で加えた。これを23℃に加温後、23℃で24時間撹拌し、飽和NH4Cl水溶液(0.10mL)を加えて反応を停止させ、溶媒を減圧下留去した。
【0165】
得られた混合物をクロロベンゼン(50mL)で希釈し、シリカゲルパッドで濾過した。得られたオレンジ色の溶液を濃縮し、HPLCによる分離を行なった(Develosil、RPFullerene、250mm、トルエン:アセトニトリル=2:3)。C60Ph102の黄色フラクションと、C60Ph82の赤色フラクションを集め、それぞれ濃縮した。それぞれメタノールを加えることで沈殿させ、C60Ph102(35.3mg、収率17%)を3つの位置異性体の混合物として、C60Ph82(77.1mg、収率36%)を5つの位置異性体の混合物として、それぞれ得た。
得られた混合物について、それぞれ1H−NMR及びMS分析を行なった。結果を以下
に示す。分析の結果、得られたものが8重付加C60誘導体であるC60Ph82及び10重付加C60誘導体であるC60Ph102であることが確認された。
【0166】
[C60Ph102の分析結果]
1H-NMR (400 MHz CDCl3): δ 5.506, 5.510, and 5.528 (s, 2H, C60-H), 7.10-7.25, 7.30-7.37, 7.42-7.47, 7.62-7.68 and 7.80-7.87 (m, 50H, C6H5,)
APCI-TOF MS calcd for C120H52[(M+H)+];1494.4231, found m/z = 1494.4181
【0167】
[C60Ph82の分析結果]
1H-NMR (400 MHz CDCl3): δ 5.084, 5.157, 5.193, 5.263, 5.275, 5.399, 5.439, 5.513, and 5.513 (s, 2H, five signals of C60-H), 7.00-7.36, 7.40-7.50, 7.55-7.71, 7.80-7.82, 7.86-7.87, 8.09-8.11, and 8.17-8.20 (m, 40H, C6H5)
APCI-MS (-) m/z = 1338 (M-)
【0168】
<実施例6: C60(2−naphthyl)82の合成>
銅試薬CuBr・Me2Sの使用量を216mg(1.05mmol)とし、C60の使用量を25.0mg(0.035mmol)とし、ピリジンの使用量を5mLとし、グリニャール試薬として(2−naphthyl)MgBrのTHF溶液(0.80M、1.3mL、1.05mmol)を−40℃で加え、攪拌を27℃で18時間行ない、反応停止のために加える飽和NH4Cl水溶液の量を0.05mLとし、生成した混合物の希釈にトルエン15mLを用いた他は、実施例5と同様にして、赤色のフラクションと黄色のフラクションとを得た。
【0169】
得られた赤色のフラクションと黄色のフラクションとをそれぞれを濃縮し、赤色のフラクションからはC60(2−naphthyl)82(24mg、収率35%)を3つの位置異性体の混合物として得、黄色のフラクションからはC60(2−naphthyl)102(4.0mg、収率5.1%)を5つの位置異性体の混合物として得た。
【0170】
得られた混合物について、それぞれ1H−NMR及びMS分析を行なった。結果を以下に示す。分析の結果、得られたものが8重付加C60誘導体であるC60(2−naphthyl)82及び10重付加C60誘導体であるC60(2−naphthyl)102であることが確認された。
【0171】
[C60(2−naphthyl)102の分析結果]
1H-NMR (400 MHz CDCl3): δ 5.866, 5.872, 5.896 (s, 2H, C60-H of three isomers), 7.13-7.27, 7.35-7.43, 7.46-7.51, 7.65-7.68, 7.75-7.80, 7.83-7.86, 7.99-8.08, 8.13-8.17, 8.25-8.27, 8.47-8.50 (m, 70H, C6H5)
APCI-TOF MS calcd for C130H71O10[(M-H)-]; 1991.5574, found m/z = 1991.5556
【0172】
[C60(2−naphthyl)82の分析結果]
1H-NMR (400 MHz CDCl3): δ 5.265, 5.332, 5.340, 5.378, 5.523, 5.534, 5.655, 5.704, 5.768 (s, 2H, C60-H of five isomers), 6.93-7.43, 7.50-7.87, 7.98-8.16, 8.23-8.40, 8.50-8.57 (m, 56H, C6H5)
APCI MS [(M-H)-]; m/z = 1737
【0173】
<実施例7: C60(4−OMe−C6482の合成>
銅試薬CuBr・Me2Sの使用量を216mg(1.05mmol)とし、C60の使用量を25.0mg(0.035mmol)とし、ピリジンの使用量を5mLとし、グリニャール試薬として(4−MeOC64)MgBrのTHF溶液(0.81M、1.2mL、1.05mmol)を−38℃で加え、攪拌を28℃で20時間行ない、反応停止のために加える飽和NH4Cl水溶液の量を0.05mLとし、生成した混合物の希釈にトルエン15mLを用い、HPLCによる分離の際のトルエン:アセトニトリルの比を3:7とした他は、実施例5と同様にして、赤色のフラクションと黄色のフラクションとを得た。
【0174】
得られた赤色のフラクションと黄色のフラクションとをそれぞれを濃縮し、赤色のフラクションからはC60(4−OMe−C6482(24mg、35%)を3つの位置異性体の混合物として得、黄色のフラクションからは、メタノールで洗浄することで、C60(4−OMe−C64102(4.0mg、5.1%)を5つの位置異性体の混合物として得た。
【0175】
得られた混合物について、それぞれ1H−NMR及びMS分析を行なった。結果を以下に示す。分析の結果、得られたものが8重付加C60誘導体であるC60(4−OMe−C6482及び10重付加C60誘導体であるC60(4−OMe−C64102であることが確認された。
【0176】
[C60(4−OMe−C64102の分析結果]
1H-NMR (400 MHz CDCl3): δ 3.58-4.01 (m, 30H, CH3), 5.412, 5.415, 5.434 (s, 2H, C60-H of three isomers), 6.69-6.79, 6.87-7.02, 7.13-7.17, 7.23-7.32, 7.41-7.57, 7.59-7.65 7.67-7.83 (m, 40H, C6H4OMe)
APCI-TOF MS calcd for C130H71O10[(M-H)-];1791.5055, found m/z = 1791.5047
【0177】
[C60(4−OMe−C6482の分析結果]
1H-NMR (400 MHz CDCl3): δ 3.69-3.96 (m, 24H, CH3), 5.026, 5.096, 5.102, 5.133, 5.178, 5.188, 5.314, 5.354, 5.428 (s, 2H, C60-H of five isomers), 6.55-6.65, 6.67-6.80, 6.86-6.85, 6.89-7.00, 7.06-7.08, 7.18-7.30, 7.36-7.41, 7.43-7.53, 7.54-7.56, 7.59-7.67, 7.70-7.82, 7.99-8.02, 8.08-8.11 (m, 40H, C6H4OMe)
APCI-MS [(M-H)-]; m/z = 1577
【0178】
<実施例8: C60(4−Cl−C6482の合成>
銅試薬CuBr・Me2Sの使用量を432mg(2.1mmol)とし、C60の使用量を50.0mg(0.070mmol)とし、グリニャール試薬として(4−ClC64)MgBrのTHF溶液(0.95M、2.2mL、2.1mmol)を−40℃で加え、攪拌を28℃で90時間行ない、生成した混合物の希釈にトルエン40mLを用いた他は、実施例5と同様にして、赤色のフラクションと黄色のフラクションとを得た。
【0179】
得られた赤色のフラクションと黄色のフラクションとをそれぞれを濃縮し、赤色のフラクションからはC60(4−Cl−C6482(8.0mg、7.0%)を3つの位置異性体の混合物である固体として得、黄色のフラクションからはC60(4−Cl−C64102(2.5mg、2.0%)を5つの位置異性体の混合物である固体として得た。
【0180】
得られた混合物について、それぞれ1H−NMR及びMS分析を行なった。結果を以下に示す。分析の結果、得られたものが8重付加C60誘導体C60(4−Cl−C6482及び10重付加C60誘導体C60(4−Cl−C64102であることが確認された。
【0181】
[C60(4−Cl−C64102の分析結果]
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5,430, 5.450 (s, 2H, C60-H of three isomers), 6.99-7.03, 7.09-7.13, 7.16-7.30, 7.35-7.41, 7.42-7.46, 7.51-7.63, 7.75-7.82, 7.99-8.01, 8.07-8.09 (m, 40H, C6H4Cl)
APCI-TOF MS calcd for C120H4135Cl937Cl [(M-H)-];1833.0068, found m/z = 1833.0064
【0182】
[C60(4−Cl−C6482の分析結果]
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 5.011, 5.083, 5.120, 5.142, 5.187, 5.193, 5.315, 5.356, 5.421, 5.445 (s, 2H, C60-H of five isomers), 6.99-7.12, 7.15-7.30, 7.31-7.44, 7.51-7.56, 7.58-7.65, 7.69-7.71, 7.72-7.80, 7.99-8.01, 8.07-8.09 (m, 40H, C6H4Cl)
APCI-MS [(M-H)-]; m/z = 1609
【0183】
<実施例9: (4−CH364670(RuCp)2の製造>
70[4−(CH3)C6462(5.0mg、3.6μmol)のTHF溶液(1.0mL)に対し,塩基tBuOKのTHF溶液(4.0μL、1.0M、4.0μmol)を加えた。10分後、[CpRu(CH3CN)3]PF6(2.3mg、5.4μmol)を加えた。5分間撹拌したのち、上述の操作を繰り返した。
【0184】
反応混合物にトルエン(10mL)を加え、直接SiO2パッドで濾過後、濃縮した。得られた粗生成物を,HPLC分離(Buckyprep、250mm、トルエン:ヘキサン=3:7)を行なうことにより精製し、Ru270[4−(CH3)C646(C552(5.9mg、収率95%)を得た。また、PhCl/メタノール溶液から、X線結晶構造解析用の単結晶を得た。
【0185】
合成した化合物について、1H−NMR、13C−NMR、及びMS分析を行なった。また、PhCl/メタノール溶液から得た単結晶について、X線結晶回折により分析を行なった。結果を以下に示す。
【0186】
[分析結果]
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ 2.36 (s, 6H, CH3), 2.42 (s 6H, CH3), 2.46 (s, 6H, CH3), 3.83 (s, 10H, Cp), 7.14 (d, JH-H = 8.5 Hz, 4H, C6H5), 7.20-7.27 (m, 8H, C6H5), 7.66 (d, JH-H = 8.0 Hz, 4H, C6H5), 7.95 (d, JH-H = 8.0 Hz, 4H, C6H5), 8.05 (d, JH-H = 8.0 Hz, 2H, C6H5)
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ 21.17 (2C, CH3), 21.21 (2C, CH3), 21.23 (2C, CH3), 54.74 (2C, C70), 56.43 (2C,C70), 58.78 (2C, C70), 74.02 (10C, C5H5), 92.97 (2C, FCp), 93.70 (2C, FCp), 96.01 (2C, FCp), 96.66 (2C, FCp), 105. 11 (2C, FCp), 126.95 (2C), 128.12 (4C, C6H4), 128.15 (4C, C6H4), 128.25 (4C, C6H4), 128.51 (4C, C6H4) 128.68 (4C C6H4), 128.72 (4C, C6H4), 131.67 (2C) 133.55 (2C), 134.17 (2C), 136.20 (2C), 136.62 (2C) 136.85 (2C), 136.99 (2C), 138.00 (2C), 141.66 (2C), 142.51 (2C), 142.56 (2C), 142.85 (2C), 142.98 (2C), 143.87 (2C), 145.00 (2C), 145.44 (2C), 145.93 (2C), 146.17 (2C), 146.74 (2C), 147.17 (2C), 147.30 (2C), 147.70 (2C), 148.70 (2C), 148.74 (2C), 148.77 (2C), 149.53 (2C), 149.64 (2C), 150.97 (2C), 151.57 (2C), 151.61 (2C), 158.87 (2C), 163.14 (2C)
APCI-TOF MS calcd for C122H53102Ru2[(M+H)+]; 1721.2234, found m/z = 1721.2249
【0187】
【表2】

【0188】
【化20】

【0189】
合成した標記化合物の構造は、上記の1H−NMR、13C−NMR、MS、及びPhCl/メタノール系から得られた単結晶のX線結晶構造解析により明らかにした。また、標記化合物はエナンチオマーの混合物であることがわかった。
【0190】
<実施例10: (4−MeC64770H(RuCp)2の製造>
【化21】

【0191】
銅試薬CuBr・SMe2(78mg、0.35μmol)と、Ru270[4−(CH3)C646(C552(20mg、12μmol)のピリジン(4.0mL)溶液に、グリニャール試薬ArMgBr(Ar=(4−CH3)C64、0.82M、0.43μL、0.35μmol)のTHF溶液を0℃で加え,この温度で5分撹拌した。その後50℃で12時間撹拌し、5%HCl水溶液を加え反応を停止させた。生成液を無水MgSO4で乾燥させ、SiO2パッドで濾過後、濃縮した。得られた粗生成物を、HPLC分離(Buckyprep、250mm、トルエン:ヘキサン=3:7)を行なうことにより精製し、Ru2{C70[4−(CH3)C647H}(C552(18mg、収率86%)を得た。また,PhCl/メタノール溶液から、X線結晶構造解析用の単結晶を得た。
【0192】
合成した化合物について、1H−NMR、13C−NMR、及びMS分析を行なった。また、PhCl/メタノール溶液から得た単結晶について、X線結晶回折により分析を行なった。結果を以下に示す。
【0193】
[分析結果]
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ 2.36 (s, 3H, CH3), 2.37 (s, 3H, CH3), 2.38 (s, 3H, CH3), 2.41 (s, 3H, CH3), 2.43 (s, 3H, CH3), 2.44 (s, 3H, CH3), 2.50 (s, 3H, CH3), 3.84 (s, 5H, Cp), 3.91 (s, 5H, Cp), 5.74 (s, 1H, C70-H), 7.07-7.20 (m, 8H, C6H4), 7.25-7.28 (m, 8H, C6H4), 7.61 (d, JH-H = 8.0 Hz, 4H, C6H4), 7.76-7.80 (m, 4H, C6H4), 7.83-7.89 (m, 4H, C6H4), 7.99 (d, JH-H = 7.5 Hz, 2H, C6H4), 7.80 (d, JH-H= 8.0 Hz, 2H, C6H4), 7.82-8.02 (m, 6H, C6H4), 8.14 (d, JH-H = 7.5 Hz, 2H, C6H4)
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ 21.08 (1C, CH3), 21.14 (1C+1C+1C, CH3), 21.18 (1C, CH3), 21.23 (1C+1C, CH3), 54.85 (1C, C70), 54.96 (1C, C70), 56.05 (1C, C70), 56.92 (1C, C70), 57.01 (1C, C70), 58.34 (1C, C70), 59.07 (1C, C70), 59.89 (1C, C70), 73.87 (5C, C5H5), 73.95 (5C, C5H5), 92.96 (1C, C70), 93.74 (1C, C70), 93.79 (1C, C70), 94.78 (1C, C70), 95.02 (1C, C70), 96.04 (1C+1C, C70), 97.44 (1C, C70), 104.32 (1C, C70), 105.56 (1C, C70), 126.60, 127.08, 127.81, 127.90, 127.96, 128.06, 128.12, 128.26, 128.30, 128.37, 128.46, 128.49, 128.56, 128.80, 129.82, 130.10, 130.88, 133.20, 133.48, 133.94, 135.44, 136.45, 136.55, 136.62, 136.70, 136.72, 136.78, 136.90, 137.96, 138.56, 138.68, 140.27, 141.28, 141.51, 141.76, 142.12, 142.16, 142.39, 142.68, 142.85, 142.96, 143.20, 143.27, 143.31, 144.63, 145.18, 145.60, 145.69, 145.88, 146.37, 146.79, 146.99, 146.79, 146.99, 147.06, 147.32, 147.36, 147.57, 147.73, 148.16, 148.53, 148.56, 148.72, 149.42, 149.48, 150.08, 151.32, 152.73, 153.15, 153.27, 153.72, 153.80, 154.35, 154.79, 156.59, 158.15, 160.33, 160.97
APCI-TOF MS calcd for C129H60101Ru102Ru [(M)+]; 1811.27943, found m/z = 1811.28280
なお、上記13C−NMRにおいて、120〜161ppmにおける5本のシグナルが他のピークと重なった状態で検出された。
【0194】
【表3】

【0195】
【化22】

【0196】
合成した標記化合物の構造は、上記の1H−NMR、13C−NMR、MS、及びPhCl/メタノール系から得られた単結晶のX線結晶構造解析により明らかにした。また、標記化合物はエナンチオマーの混合物であることがわかった。
【0197】
<実施例11: Ru370[4−(CH3)C647(C553の合成>
Ru2{C70[4−(CH3)C647H}(C552(70mg、39μmol)のTHF溶液(7.0mL)に対し、tBuOKのTHF溶液(43μL、43μmol)を加えた。10分後、[(C55)Ru(CH3CN)3]PF6(19mg、43μmol)を加えた。反応混合物にトルエン(10mL)を加え、直接SiO2パッドで濾過後、濃縮した。CH3Cl/ペンタン溶液から結晶化を行ない、Ru370[4−(CH3)C647(C553(41mg、収率54%)で得た。合成した化合物について、1H−NMR、13C−NMR、及びMS分析を行なった。結果を以下に示す。
【0198】
[分析結果]
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ 2.35 (s, 3H, CH3), 2.36 (s, 3H, CH3), 2.40 (s, 3H, CH3), 2.41 (s, 3H, CH3), 2.46 (s, 3H, CH3), 2.51 (s, 3H, CH3), 3.80 (s, 5H, Cp), 3.90 (s, 5H, Cp), 4.65 (s, 5H, Cp), 7.11 (d, JH-H= 8.0 Hz, 4H, C6H4), 7.12-7.19 (m, 4H, C6H4), 7.35 (d, JH-H = 8.0 Hz, 4H, C6H4), 7.60 (d, JH-H= 7.5 Hz, 4H, C6H4), 7.73 (d, JH-H = 7.5 Hz, 2H, C6H4), 7.80 (d, JH-H = 8.0 Hz, 2H, C6H4), 7.82-8.02 (m, 6H, C6H4), 8.14 (d, JH-H = 7.5 Hz, 2H, C6H4)
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ 21.38 (1C + 1C + 1C, CH3), 21.43 (1C, CH3), 21.47 (1C, CH3), 21.50 (1C + 1C, CH3), 21.71 (1C, CH3), 55.03 (1C, C70), 55.38 (1C, C70), 56.48 (1C, C70), 56.87 (1C, C70), 58.22 (1C, C70), 59.54 (1C, C70), 59.99 (1C, C70), 72.22 (5C, C5H5), 74.14 (5C, C5H5), 74.17 (5C, C5H5), 93.36 (1C, FCp), 94.25 (1C, FCp), 94.42 (1C, FCp), 95.23 (1C, FCp), 95.82 (1C, FCp), 96.13 (1C, FCp), 96.45 (1C, FCp), 97.30 (1C, FCp), 97.40 (1C, FCp), 98.31 (1C, FCp), 104.23 (1C, FCp), 104.73 (1C, FCp), 104.82 (1C, FCp), 105.20 (1C, FCp), 110.93 (1C, FCp), 125.53 (1C), 126.63 (1C), 127.60 (1C), 128.13 (4C,), 128.32 (1C) 128.36 (1C), 128.46 (1C) 128.51 (1C), 128.57 (1C), 128.67 (1C), 128.72 (2C), 128.94 (1C) 129.15 (1C), 129.18 (1C), 129.27 (1C), 129.65 (1C), 130.57 (1C), 131.18 (1C), 133.53 (1C), 133.81 (1C), 136.06 (1C), 136.53 (1C), 136.57 (1C), 136.62 (1C), 136.69 (1C), 136.76 (1C), 136.80 (1C), 136.87 (1C), 136.96 (1C), 137.47 (1C), 137.78 (1C), 138.12 (1C), 140.10 (1C), 140.14 (1C), 140.23 (1C), 141.61 (1C), 141.97 (1C), 142.23 (1C), 142.34 (1C), 142.75 (1C), 142.80 (1C), 142.96 (1C), 143.37 (1C),
143.47 (1C), 143.52 (1C), 143.52 (1C), 143.55 (1C), 145.23 (1C), 145.37 (1C), 146.38 (1C), 147.12 (1C), 147.19 (1C), 147.62 (1C), 147.65 (1C), 147.97 (1C), 148.24 (1C), 148.47 (1C), 149.14 (1C), 149.38 (1C), 149.64 (1C), 150.33 (1C), 151.24 (1C) 151.49 (1C), 151.84 (1C), 152.30 (1C), 152.60 (1C), 154.53 (1C), 155.52 (1C), 156.38 (1C), 156.77 (1C), 158.95 (1C), 165.35 (1C), 168.27 (1C)
APCI-TOF MS calcd for C134H65102Ru3[(M+H)+]; 1979.22167, found m/z = 1979.22819
【0199】
構造は上記の1H−NMR、13C−NMR、及び質量分析により確定した。すなわち、7本のメチル基のシグナル及び3本のシクロペンタジエニルのシグナルを確認した。また、13C−NMRより、93.37ppmから110.93ppmにおいてフラーレンシクロペンタジエニルに相当するピークを15本観測した。この事実は、三個のルテニウムがフラーレン骨格に対し、η5型で配位していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0200】
本発明のフラーレン誘導体(C70誘導体及びC60誘導体、並びにフラーレン金属錯体)は産業上の広い分野で有用であり、例えば、触媒、電子材料、生理活性物質、ナノ構造体形成の構成単位、又はそれらの原料等として好適に用いられる。
また、本発明のフラーレン誘導体の製造方法は、上述のフラーレン誘導体を少ない工程で効率的に製造することができるので、工業上極めて有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンC60骨格に、炭素数1〜20の有機基が8個結合しており、
上記C60骨格上に、以下の部分構造(A)、部分構造(B)及び部分構造(C)からなる群より選ばれる部分構造1個と、以下の部分構造(D)及び部分構造(E)とからなる群より選ばれる部分構造1個とを有する
ことを特徴とする、フラーレン誘導体。
【化1】

{上記の部分構造(A)〜(E)において、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の有機基を表わす。また、上記部分構造(C)、(E)において、Mはそれぞれ独立に金属原子を表わし、Lはそれぞれ独立にMの配位子を表わし、nはそれぞれ独立に0以上の整数を表わす。}
【請求項2】
上記有機基が、置換基を有していても良い炭素数6〜20の芳香族炭化水素基であることを特徴とする、請求項1記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフラーレン誘導体の製造方法であって、フラーレンと一価の有機銅試薬とを反応させる工程を有することを特徴とする、フラーレン誘導体の製造方法。
【請求項4】
ピリジン類の存在下で上記反応を行なうことを特徴とする、請求項3記載のフラーレン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2011−26339(P2011−26339A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224661(P2010−224661)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【分割の表示】特願2005−14594(P2005−14594)の分割
【原出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(597017258)
【Fターム(参考)】