説明

フラーレン誘導体

【課題】有機溶媒に対する溶解性が優れたフラーレン誘導体を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるフラーレン誘導体。


(1)
[式中、A環はフラーレン環を表す。Arはアリーレン基又は2価の複素環基を表す。Rは、アルキル基を表す。アルキル基中の水素原子は、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、1価の複素環基又はエステル構造を有する基で置換されていてもよい。nは1以上の整数を表す。Arが複数個ある場合、それらは同一でも相異なってもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷(電子、ホール)輸送性を有する有機半導体材料は、有機光電変換素子(有機太陽電池、光センサー等)等への適用が期待されており、中でも、フラーレン誘導体を用いた有機太陽電池が検討されている。フラーレン誘導体を含む有機太陽電池を製造する場合、フラーレン誘導体を有機溶媒に溶解させた溶液を作製し、塗布法により該溶液から薄膜を作製して有機太陽電池に用いることができる。フラーレン誘導体としては、例えば、1、2−ジクロロベンゼンに可溶な [6,6]−フェニルC61−酪酸メチルエステル(以下、[60]−PCBMということがある。)が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Advanced Functional Materials Vol.13 (2003) 85p
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、[60]−PCBMは、炭化水素系溶媒に対する溶解性が必ずしも十分でないという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は、炭化水素系溶媒に対する溶解性が優れたフラーレン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は第一に、式(1)で表されるフラーレン誘導体を提供する。

(1)
[式中、A環はフラーレン環を、Arはアリーレン基又は2価の複素環基を、Rはアルキル基を表す。アルキル基中の水素原子は、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、1価の複素環基又はエステル構造を有する基で置換されていてもよい。nは1以上の整数を表す。Arが複数個ある場合、それらは同一でも相異なってもよい。]
【0007】
本発明は第二に、前記フラーレン誘導体と電子供与性化合物とを含む組成物を提供する。
【0008】
本発明は第三に、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、該電極間に前記フラーレン誘導体を含む層を有する有機光電変換素子を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフラーレン誘導体は、炭化水素系溶媒に対する溶解性に優れ、有機光電変換素子に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<フラーレン誘導体>
本発明のフラーレン誘導体は、式(1)で表される。式(1)中、A環はフラーレン環を、Arはアリーレン基又は2価の複素環基を、Rは、アルキル基を表す。アルキル基中の水素原子は、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、1価の複素環基又はエステル構造を有する基で置換されていてもよい。2個あるA環は同一であり、2個あるRは同一である。nは1以上の整数を表す。Arが複数個ある場合、それらは同一であっても相異なってもよい。
【0012】
Arで表されるアリーレン基は、炭素数が通常6〜60程度であり、その具体例として、フェニレン基、ビフェニレン基、テルフェニルジイル基、ナフタレンジイル基、アントラセンジイル基、フェナントレンジイル基、ペンタレンジイル基、インデンジイル基、ヘプタレンジイル基、インダセンジイル基、ビナフチルジイル基、フェニルナフタリンジイル基、スチルベンジイル基、フルオレンジイル基等が挙げられる。
また、2価の複素環基は、該複素環を構成する炭素数が通常3〜60程度であり、その具体例としては、ピリジンジイル基、ジアザフェニレン基、キノリンジイル基、キノキサリンジイル基、アクリジンジイル基、ビピリジンジイル基、フェナントロリンジイル基、チオフェンジイル基等が挙げられる。2価の複素環基の中でも、2価の芳香族複素環基が好ましい。
【0013】
式(1)中、nは1以上の整数を表す。nは、フラーレン誘導体の炭化水素系溶媒に対する溶解性の観点からは、1以上10以下であることが好ましい。Arが複数個ある場合、それらは同一でも相異なってもよい。Arに含まれる水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又は1価の複素環基で置換されていてもよい。
【0014】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられる。
【0015】
前記アルキル基は、炭素数が通常1〜20であり、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキル基でもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、s−ブチル基、3−メチルブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ラウリル基等が挙げられる。前記アルキル基中の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよく、モノハロメチル基、ジハロメチル基、トリハロメチル基、ペンタハロエチル基等があげられる。ハロゲン原子の中では、フッ素原子で置換されていることが好ましい。フッ素原子で水素原子が置換されたアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基等が挙げられる。
【0016】
前記アルコキシ基は、炭素数が通常1〜20であり、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキルオキシ基であってもよい。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、n−ラウリルオキシ基等が挙げられる。前記アルコキシ基中の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子の中では、フッ素原子で置換されていることが好ましい。フッ素原子で水素原子が置換されたアルコキシ基としては、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロブトキシ基、パーフルオロヘキシルオキシ基、パーフルオロオクチルオキシ基等が挙げられる。
【0017】
前記アリール基は、炭素数が通常6〜60であり、置換基を有していてもよい。アリール基が有している置換基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数1〜20のシクロアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数1〜20のシクロアルキル基をその構造中に含むアルコキシ基があげられる。アリール基の具体例としては、フェニル基、C1〜C12アルコキシフェニル基(C1〜C12は、炭素数1〜12であることを示す。以下も同様である。)、C1〜C12アルキルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、C1〜C12アルコキシフェニル基、C1〜C12アルキルフェニル基がより好ましい。前記アリール基中の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子の中では、フッ素原子で置換されていることが好ましい。
【0018】
1価の複素環基としては、1価の芳香族複素環基が好ましい。具体的には、チェニル基、ピリジル基、フリル基、ピペリジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基等が挙げられる。
【0019】
式(1)中、Rは、アルキル基を表す。アルキル基中の水素原子は、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、1価の複素環基又はエステル構造を有する基で置換されていてもよい。アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、1価の複素環基の具体例は、前述と同じものが挙げられる。
【0020】
エステル構造を有する基としては、具体的には、酪酸メチルエステルを有する基、酪酸n−ブチルエステルを有する基、酪酸イソプロピルエステルを有する基、酪酸3−エチルチオフェンエステルを有する基などが挙げられる。
【0021】
A環で表されるフラーレン環としては、原料の入手の容易さの観点からは、C60フラーレン環又はC70フラーレン環が好ましい。
【0022】
式(1)式で表されるフラーレン誘導体としては、具体的には下記式のような化合物が例示される。
【0023】

【0024】
式(1)で表されるフラーレン誘導体は、炭化水素系溶媒に対する溶解性に優れるとともに、フラーレンの2量体であるために、分子量が大きく、熱安定性にも優れる。また、式(1)中の−(Ar)−の部分に光吸収性を持たせることで、長波長の光に対して感度がある太陽電池を作成することができる。
【0025】
式(1)で表されるフラーレン誘導体は、具体的には以下のような方法で合成することができる。
式(2)で表されるジケトン体Ar(−CO−R)(Ar及びRは前述と同じ意味を表す)と式(3)で表されるヒドラジドとを反応させることで、式(4)で表されるビスヒドラゾン体が生成する。該ビスヒドラゾン体と塩基とを反応させることにより、式(5)で表されるカルベン中間体が生成する。該カルベン中間体とフラーレン分子とを反応させることにより式(1)で表されるフラーレン誘導体を合成することができる。

【0026】
式(3)中、Arとしてはフェニル基、トリル基などが挙げられる。ビスヒドラゾン体(4)の合成に用いる溶媒は、ヒドラジド(3)と反応せず、かつジケトン体(2)を溶解せしめるものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化飽和炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、あるいは2種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。
【0027】
カルベン中間体(5)の生成及び該カルベン中間体とフラーレン分子との反応に使用される塩基としては、ナトリウムメトキシド、水素化ナトリウム、水素化カリウム、t-ブトキシカリウム、t−ブトキシナトリウム等が挙げられる。カルベン中間体の生成及び該カルベン中間体とフラーレン分子との反応に用いる溶媒としては、上記塩基と反応しないものであればよく、例えば、ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基類、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0028】
<有機光電変換素子>
本発明のフラーレン誘導体を用いる有機光電変換素子は、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、該電極間に本発明のフラーレン誘導体を含む層を有する。本発明のフラーレン誘導体は、電子受容性化合物として用いることも電子供与性化合物として用いることもできるが、電子受容性化合物として用いることが好ましい。
【0029】
次に、有機光電変換素子の動作機構を説明する。透明又は半透明の電極から入射した光エネルギーが電子受容性化合物及び/又は電子供与性化合物で吸収され、電子とホールの結合した励起子を生成する。生成した励起子が移動して、電子受容性化合物と電子供与性化合物が隣接しているヘテロ接合界面に達すると界面でのそれぞれのHOMOエネルギー及びLUMOエネルギーの違いにより電子とホールが分離し、独立に動くことができる電荷(電子とホール)が発生する。発生した電荷は、それぞれ電極へ移動することにより外部へ電気エネルギー(電流)として取り出すことができる。
【0030】
本発明のフラーレン誘導体を用いる有機光電変換素子の具体的としては、
1.少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、該電極間に設けられ電子受容性化合物として本発明のフラーレン誘導体を含有する第一の有機層と、該第一の有機層に隣接して設けられた電子供与性化合物を含有する第二の有機層とを有する有機光電変換素子であることを特徴とするもの、
2.少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、該電極間に設けられ電子受容性化合物として本発明のフラーレン誘導体及び電子供与性化合物を含有する有機層を少なくとも一層有する有機光電変換素子であることを特徴とするもの、
のいずれかが好ましい。
【0031】
本発明の有機光電変換素子としては、ヘテロ接合界面を多く含むという観点からは、前記2.が好ましい。また、本発明の有機光電変換素子には、少なくとも一方の電極と該素子中の有機層との間に付加的な層を設けてもよい。付加的な層としては、例えば、ホール又は電子を輸送する電荷輸送層が挙げられる。
【0032】
付加的な層として用いられる材料としては、フッ化リチウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物、酸化物等を用いることができる。また、酸化チタン等無機半導体の微粒子を用いることもできる。
【0033】
また、前記2.の有機光電変換素子では、本発明のフラーレン誘導体及び電子供与性化合物を含有する有機層におけるフラーレン誘導体の割合が、電子供与性化合物100重量部に対して、10〜1000重量部であることが好ましく、50〜500重量部であることがより好ましい。
【0034】
本発明のフラーレン誘導体を含む有機層は、該フラーレン誘導体を含む有機薄膜を含むことが好ましい。該有機薄膜の厚さは、通常、1nm〜100μmであり、好ましくは2nm〜1000nmであり、より好ましくは5nm〜500nmであり、さらに好ましくは20nm〜200nmである。
【0035】
前記電子供与性化合物は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。低分子化合物としては、フタロシアニン、金属フタロシアニン、ポルフィリン、金属ポルフィリン、オリゴチオフェン、テトラセン、ペンタセン、ルブレン等が挙げられる。高分子化合物としては、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体等が挙げられる。塗布性の観点からは、高分子化合物が好ましい。
【0036】
有機光電変換素子の変換効率の観点からは、有機光電変換素子に用いる電子供与性化合物は、下記式(6)及び下記式(7)からなる群から選ばれる繰り返し単位を有する高分子化合物であることが好ましく、下記式(6)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物であることがより好ましい。


(6) (7)
[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、同一又は相異なり、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。]
【0037】
前記式(6)中、R及びRがアルキル基である場合の具体例としては、前述のアルキル基の例示と同じアルキル基があげられる。R及びRがアルコキシ基である場合の具体例としては、前述のアルコキシ基の例示と同じアルコキシ基があげられる。R及びRがアリール基である場合の具体例としては、前述のアリール基の例示と同じアリール基があげられる。
【0038】
前記式(6)中、有機光電変換素子の変換効率の観点からは、R及びRの少なくとも一方が、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数4〜8のアルキル基であることがより好ましい。
【0039】
前記式(7)中、R〜R10がアルキル基である場合の具体例としては、前述のアルキル基の例示と同じアルキル基があげられる。R〜R10がアルコキシ基である場合の具体例としては、前述のアルコキシ基の例示と同じアルコキシ基があげられる。R〜R10がアリール基である場合の具体例としては、前述のアリール基の例示と同じアリール基があげられる。
【0040】
前記式(7)中、モノマーの合成の行いやすさの観点からは、R〜R10は水素原子であることが好ましい。また、有機光電変換素子の変換効率の観点からは、R及びRは炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であることが好ましく、炭素数5〜8のアルキル基又は炭素数6〜15のアリール基であることがより好ましい。
【0041】
本発明の有機光電変換素子は、通常、基板上に形成される。この基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよい。基板の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン等が挙げられる。不透明な基板の場合には、反対の電極(即ち、基板から遠い方の電極)が透明又は半透明であることが好ましい。
【0042】
前記の透明又は半透明の電極材料としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が挙げられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド等からなる導電性材料を用いて作製された膜(NESA等)や、金、白金、銀、銅等が用いられ、ITO、インジウム・亜鉛・オキサイド、酸化スズが好ましい。電極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、電極材料として、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体等の有機の透明導電膜を用いてもよい。さらに電極材料としては、金属、導電性高分子等を用いることができ、好ましくは一対の電極のうち一方の電極の材料は、仕事関数が小さい材料が好ましい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等の金属、及びそれらのうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、グラファイト又はグラファイト層間化合物等が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
【0043】
<有機薄膜の製造方法>
前記有機薄膜の製造方法は、特に制限されず、例えば、本発明のフラーレン誘導体を含む溶液からの成膜による方法が挙げられる。
【0044】
溶液からの成膜に用いる溶媒は、本発明のフラーレン誘導体を溶解させるものであれば特に制限はない。この溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、デカリン、ビシクロヘキシル、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、t−ブチルベンゼン等の炭化水素系溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル系溶媒等が挙げられる。前記フラーレン誘導体は、通常、前記溶媒に0.1重量%以上溶解させることができる。
【0045】
前記溶液は、さらに高分子化合物を含んでいてもよい。該溶液に用いられる溶媒の具体例としては、前述の溶媒があげられるが、高分子化合物の溶解性の観点からは、炭化水素系溶媒が好ましく、芳香族炭化水素系溶媒がより好ましく、トルエン、キシレン、メシチレンがさらに好ましい。本発明のフラーレン誘導体は、炭化水素系溶媒に対して溶解性が優れるため、高分子化合物、本発明のフラーレン及び炭化水素系溶媒を含む溶液を用いて光電変換素子に含まれる層を形成することができる。
【0046】
溶液からの成膜には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法、ノズルコート法、キャピラリーコート法等の塗布法を用いることができ、スピンコート法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法が好ましい。
【0047】
有機光電変換素子は、透明又は半透明の電極から太陽光等の光を照射することにより、電極間に光起電力が発生し、有機薄膜太陽電池として動作させることができる。有機薄膜太陽電池を複数集積することにより有機薄膜太陽電池モジュールとして用いることもできる。
【0048】
また、電極間に電圧を印加した状態で、透明又は半透明の電極から光を照射することにより、光電流が流れ、有機光センサーとして動作させることができる。有機光センサーを複数集積することにより有機イメージセンサーとして用いることもできる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
合成に用いた試薬及び溶媒は、市販品をそのまま使用するか、乾燥剤存在下で蒸留精製した品を使用した。C60フラーレンはフロンティアカーボン社製を使用した。
【0051】
実施例1
(ビスケトエステル体 の合成)

窒素雰囲気下、50mlナスフラスコにクロロホルム100ml、化合物 1 2.40g(4.11mmol)、酸クロリド2 0.76g(4.62mmol)、塩化アルミニウム(III) 0.66g(4.94mmol)を順次加え10時間加熱還流した。反応液を冷却後、水100ml中に反応液を加え、酢酸エチル100mlを用い、有機相を2回抽出した後、有機相を無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、減圧濃縮することで粗ビスケトエステル体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(WakosilC-300、展開液:トルエン/酢酸エチル=3:1(容積比))にて精製することでビスケトエステル体を0.48g(収率13.9%)得た。
1H−NMR(270MHz/CDCl3):
δ 0.91(t、6H)、1.25−1.70(m、16H)、2.09(quint、4H)、2.46(t、4H)、2.73(m、4H)、2.97(t、4H)、3.69(s、6H)、7.08(d、2H)、7.16(d、2H)、7.25(d、2H)、7.63(d、2H)
【0052】
(ビスヒドラゾン体の合成)

ビスケトエステル体 0.48gをクロロホルム50mlに溶解し、p−トルエンスルホニルヒドラジド0.24g(1.29mmol)を加え、20時間加熱還流した。
反応液を放冷後、エバポレータを用いて濃縮乾固させ、残渣をメタノール100mlを用いてリパルプ洗浄し、得られた固形分を減圧乾燥することでビスヒドラゾン体を0.30g(収率44.5%)得た。
1H−NMR(270MHz/CDCl3):
δ 0.92(t、6H)、1.25−1.80(m、20H)、2.33(m、4H)、2.41(s、6H)、2.59(t、4H)、2.73(m、4H)、3.80(s、6H)、7.00−7.10(m、6H)、7.18(d、2H)、7.31(d、4H)、7.92(d、4H)、9.03(s、2H)
【0053】
(フラーレン誘導体Aの合成)


窒素雰囲気下、50mlナスフラスコにビスヒドラゾン体 0.30g(0.26mmol)と乾燥ピリジン10ml、ナトリウムメトキシド0.03g(0.64mmol)を加え15分間室温で撹拌した。ピリジン溶液中に、クロロベンゼン20mlに溶解したC60フラーレン 0.18g(0.26mmol)を一度に加え、窒素気流下70℃にて24時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、エバポレータを用いて反応液を減圧濃縮し、その後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(WakosilC-300)にて精製した。シリカゲルクロマトグラフィーによる精製は、グラジエントをかけながらトルエンと酢酸エチルとの混合溶媒をトルエン/酢酸エチル=100/0から90/10(容積比)の条件で流し、その後、クロロホルムと酢酸エチルとの混合溶媒をクロロホルム/酢酸エチル=90/10(容積比)の条件で流した。分画した溶液のうち、フラーレン誘導体が含まれる溶液を濃縮し、得られた残渣にトルエン10ml加えて撹拌溶解させ、トルエン溶液をメタノール50ml中に加え、目的物であるフラーレン誘導体を再沈殿させた。固形物をろ取後、減圧乾燥することで目的物であるフラーレン誘導体を85mg(収率12.7 %)得た。これをフラーレン誘導体Aと呼ぶ。
1H−NMR(270MHz/CDCl3):
δ 0.92(m、6H)、1.20−1.70(m、16H)、2.20−2.50(m、4H)、2.61(m、4H)、2.72(m、4H)、2.97(m、4H)、3.70(s、6H)、7.00−7.40(m、8H)
【0054】
評価例1
(キシレンへの溶解性評価)
フラーレン誘導体Aに1wt%の濃度となるようキシレン溶媒を加え、マグネチックスターラーで10分間攪拌した。その後のキシレン溶媒への溶解性を目視で観察した。結果を表1に示す。
【0055】
評価例2
(キシレンへの溶解性評価)
フラーレン誘導体Aに代え、[60]PCBM(フロンティアカーボン社製、商品名nanom spectra E100、ロット番号:8B059−A)を用いた以外は評価例1と同様にキシレン溶媒への溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるフラーレン誘導体。

(1)
[式中、A環はフラーレン環を、Arはアリーレン基又は2価の複素環基を、Rはアルキル基を表す。アルキル基中の水素原子は、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、1価の複素環基又はエステル構造を有する基で置換されていてもよい。nは1以上の整数を表す。Arが複数個ある場合、それらは同一でも相異なってもよい。]
【請求項2】
請求項1に記載のフラーレン誘導体と電子供与性化合物とを含む組成物。
【請求項3】
電子供与性化合物が高分子化合物である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、該電極間に請求項1に記載のフラーレン誘導体を含む層を有する有機光電変換素子。
【請求項5】
少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、該電極間に請求項2又は3に記載の組成物を含む層を有する有機光電変換素子。

【公開番号】特開2010−241778(P2010−241778A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95658(P2009−95658)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】