説明

フリーピストン式発電機

【課題】より効率を向上でき得るフリーピストン式発電機を提供する。
【解決手段】フリーピストン式発電機10は、ピストン20を挟んで両側に燃焼室26および空気室28が設けられ、前記燃焼室26で燃料を燃焼させた際の燃焼圧力および前記ピストン20により圧縮された空気室28の反発力によりピストン20が往復移動するエンジンユニット16と、前記ピストン20の往復運動に伴い発電を行う発電ユニット14と、を備え、前記空気室28に接触するピストン端面の面積である空気室受圧面積が、前記燃焼室26に接触するピストン端面の面積である燃焼室受圧面積より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的な拘束を受けることなくシリンダ内で直線往復運動するピストンの動きに伴い発電するフリーピストン式発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃焼室で燃料を燃焼させた際に得られる燃焼圧力により、シリンダ内でピストンを往復運動させるフリーピストンエンジンに発電ユニットを組み込み、ピストンの往復運動に伴い発電を行うフリーピストン式発電機が広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、燃焼室内に進退するピストンに連結されたロッドに永久磁石を固定し、その周囲にコイルが配置されたフリーピストン式発電機が開示されている。この発電機では、ピストンの往復運動に伴い永久磁石とコイルとの相対位置関係が変化することで発電が行われる。この特許文献1において、燃焼圧力により燃焼室から離れる方向に移動したピストンは、ロッドに取り付けられた板バネの復元力で燃焼室側に押し戻される。
【0004】
また、フリーピストン式発電機の中には、板バネに替えて、ピストンの燃焼室とは反対側に空気室を設け、ピストンの移動に伴い圧縮された空気室の反発力により、ピストンを燃焼室側に押し戻すものもある。かかる空気室を利用した構成によれば、板バネのように耐久性に乏しい機械部品を省略することができ、発電機の寿命を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−170071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうした空気室を利用する構成の場合、空気室内の空気圧縮に伴い、温度上昇が発生し、熱損失が生じることがあった。そして、結果としてフリーピストン式リニア発電機のシステム効率(エンジンの熱効率×発電機の発電効率)が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明では、フリーピストン式リニア発電機のシステム効率を上昇でき得るフリーピストン式発電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフリーピストン式発電機は、ピストンの直線往復運動に伴い発電するフリーピストン式発電機であって、ピストンを挟んで両側に燃焼室および空気室が設けられ、前記燃焼室で燃料を燃焼させた際の燃焼圧力および前記ピストンにより圧縮された空気室の反発力によりピストンが往復移動するエンジンユニットと、前記ピストンの往復運動に伴い発電を行う発電ユニットと、を備え、前記空気室に面するピストン端面の面積である空気室受圧面積が、前記燃焼室に面するピストン端面の面積である燃焼室受圧面積より大きい、ことを特徴とする。
【0009】
好適な態様では、前記ピストンは、燃焼室内に進退する小径部と、前記小径部よりも大径で空気室に進退する大径部と、を備える。この場合、前記発電ユニットは、前記ピストンの大径部の外側面に設置される永久磁石と、前記ピストンを収容するシリンダの内側面のうち前記永久磁石との対向位置に設置された発電コイルと、を備えることが望ましい。
【0010】
他の好適な態様では、前記ピストンを収容するシリンダは、シリンダ端部から突出し、ピストンの運動方向をガイドする1以上のガイド体を備え、前記ピストンは、前記ガイド体が挿入される凹部を1以上備える。
【0011】
この場合、前記シリンダは、前記シリンダの中心軸上において空気室側端部から突出し、前記ガイド体として機能する支柱と、前記燃焼室側端部から突出する環状リブであって、燃焼室の周壁を構成し、前記ガイド体として機能する内側ライナと、を備え、前記ピストンは、前記支柱が挿入され、空気室側端部から燃焼室側に向かって延びるピストン内凹部と、内側ライナが挿入され、前記ピストン内凹部の周囲において燃焼室側端部から空気室側に向かって延びるピストン外凹部と、を備える、ことが望ましい。
【0012】
また、前記ガイド体と、前記ガイド体が挿入される前記凹部との間には、前記ガイド体および前記凹部の相対移動を補助するリニアボールベアリングが配される、ことも望ましい。
【0013】
他の好適な態様では、前記シリンダ内において区画される空間のうち前記燃焼室および空気室のいずれにも該当しない空間の少なくとも一つが、作動油または作動空気が充填され、前記ピストンの変位を制御する油圧室または空圧室として機能する。
【0014】
他の好適な態様では、前記空気室におけるシリンダ内側面とピストン外側面との間は、ガスシール部材を設けることなく、微小間隙を介して対向しており、前記微小間隙量は、空気室内空気の燃焼室側への漏れ量が予め規定された許容漏れ量以下になる値に設定されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、空気室受圧面積が、燃焼室受圧面積より大きいため、空気室圧力が比較的小さくて、ピストンを押し戻すことができるため、熱損失が低減でき、結果としてフリーピストン式リニア発電機のシステム効率(エンジンの熱効率×発電機の発電効率)を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態であるフリーピストン式発電機の構成図である。
【図2】第二実施形態のフリーピストン式発電機の構成図である。
【図3】他のフリーピストン式発電機の構成図である。
【図4】フリーピストン式発電機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態であるフリーピストン式発電機10の概略構成図である。
【0018】
このフリーピストン式発電機10は、燃焼圧力によるピストン20の動きを電気的エネルギに変換して取り出す装置で、ピストン20を往復運動させるエンジンユニット16と、ピストンの動きに伴い発電を行なう発電ユニット14と、に大別される。
【0019】
発電ユニット14は、固定子として機能するシリンダ18と、可動子として機能するピストン20と、から構成される。ピストン20の外側面には永久磁石24が埋め込まれており、シリンダ18の内壁(永久磁石24の外周囲)には発電コイル22が固定設置されている。エンジンユニット16の駆動によりピストン20がシリンダ18内で往復移動すると、この永久磁石24と発電コイル22との相対位置関係が変化し、これにより、永久磁石24周囲の磁界が変化する。そして、この磁界の変化に応じて発電コイル22に誘導起電力が発生する。この誘導起電力によって発電が行われ、発電により得られた電力は、図示しないバッテリなどに送電される。
【0020】
エンジンユニット16は、ピストン20をシリンダ18内で往復運動させるユニットである。このエンジンユニット16には、発電ユニット14の固定子としても機能するシリンダ18と、発電ユニット14の可動子としても機能するピストン20と、シリンダ18内においてピストン20の両側に設けられた燃焼室26および空気室28と、を備えている。つまり、ピストン20は、燃焼室26および空気室28に挟まれている。そして、燃焼室26および空気室28は、ピストン20の往復運動に伴い体積が変化するようになっている。
【0021】
シリンダ18は、既述したとおり、固定子として機能するもので、その内部には発電コイル22が埋め込まれている。このシリンダ18の一端側には燃焼室26が、他端側には空気室28が形成され、両室26,28の間にはピストン20が摺動自在に配置される。ここで、本実施形態では、シリンダ18の内部には段差が形成されており、燃焼室26が形成される小径空間と、小径部20sよりも内径が大きくて空気室28が形成される大径空間と、が形成されている。既述の発電コイル22は、この大径空間の内側面に配置される。このようにシリンダ18の内部に段差を形成し、小径空間と大径空間とを設ける理由については後に詳説する。
【0022】
ピストン20は、可動子として機能するもので、シリンダ18の内部に摺動自在に配置される。このピストン20も、シリンダ18と同様に段差が形成されており、燃焼室26側に位置する小径部20sと、小径部20sよりも大径で空気室28側に位置する大径部20bと、を備えている。そして、このピストン20のうち、大径部20bの外表面に永久磁石24が配置される。
【0023】
燃焼室26は、燃料と新気(空気)との混合気の燃焼を行うチャンバである。この燃焼室26には、燃料噴射弁30や、点火プラグ32、排気弁34、掃気孔36などが設けられている。燃料噴射弁30は、燃焼室26の端面(シリンダ18の閉端面)に取り付けられた弁体で、燃焼室26内に燃料を供給する。点火プラグ32は、燃料と新気とが混合された混合気に点火し、燃焼(爆発)を生じさせる。排気弁34は、燃焼室26の端面(シリンダ18の閉端面)に取り付けられており、燃焼後に生じる既燃ガスを外部に排出する。掃気孔36は、燃焼室26内に新気を取り込むために燃焼室26の空気室28寄りの位置に設けられ、掃気ポート37に接続された孔である。この掃気孔36は、ピストン20の変位に応じて開口量が変化する。すなわち、ピストン20が燃焼室26側の端部付近に位置し、燃焼室26が圧縮された状態では、掃気孔36は、ピストン20により遮蔽された状態となる。この場合、燃焼室26への新気導入は阻害される。一方で、燃焼圧力によりピストン20が空気室28側(図面右側)へと移動すると、掃気孔36が徐々に開口されていき、新気の導入が促されるようになっている。なお、ピストン20により開放・閉鎖される掃気孔36に代えて、電気や油圧で開閉駆動される掃気弁を設けてもよい。
【0024】
空気室28は、燃焼室26とは反対側に設けられ、シリンダ18とピストン20の端面により囲まれたチャンバである。この空気室28の内部に存在する空気室28内ガス(空気など)は、混合気の燃焼により空気室28側に移動してきたピストン20を、燃焼室26側に押し戻す空気バネとして機能する。すなわち、燃焼室26内の燃焼圧力によりピストン20が空気室28側に移動すると、空気室28が圧縮されることになる。圧縮された空気室28は、圧縮された反動で、再度、膨張するべく、ピストン20を燃焼室26側へと押し戻す。
【0025】
この空気室28には、空気室28の圧力を調整する調圧弁38が設けられている。この調圧弁38は、空気室28の圧力が過大な場合には、空気室28の内気を外部に流出させ、空気室28の圧力が過小な場合には外気を空気室28に流入させる。この調圧弁38としては、例えば、圧力センサと、当該圧力センサの検出値に応じて開閉する電磁弁と、を組み合わせたものでもよいし、一定圧力で機械的に開閉する機械式バルブ、例えば、ダックビルバルブなどであってもよい。
【0026】
シリンダ18の特定箇所に設けられた位置センサ40は、当該センサ設置位置へのピストン20の到達を検出するセンサである。図示しない制御部は、この位置センサ40で検知された到達タイミングとセンサ設置位置を、予め用意した運動特性のマップと照合したり、運動方程式を解いたり、簡単なモデルに当てはめたりして、ピストン20の位置や速度を取得する。制御部は、ここで得られたピストン20の位置や速度に基づいて、各種バルブの開閉タイミングや、燃料の噴射量、発電負荷量などを制御する。なお、かかる位置センサ40に替えて、ピストン20の位置をストローク全域に亘って検知する、光学的なリニアエンコーダや、磁気歪式直線変位センサ、あるいは、渦電流式ギャップセンサなどを用いてもよい。
【0027】
ここで、本実施形態では、空気室側のシリンダ内径およびピストン20外径を、燃焼室側のシリンダ内径およびピストン外径よりも大きくしている。別の言い方をすると、空気室28からの反発圧力を受けるピストン20端面の面積である空気室側受圧面積(すなわちピストン20の空気室側端面の面積)を、燃焼室26からの燃焼圧力を受けるピストン20端面の面積である燃焼室側受圧面積(すなわちピストン20の燃焼室側端面の面積)よりも大きくしている。かかる構成とするのは、次の理由による。
【0028】
既述の説明で明らかなとおり、フリーピストン式発電機10では、燃焼圧力により空気室側に移動したピストン20は、当該ピストン20により圧縮された空気室28の反発力により、燃焼室側に押し戻される。ここで、この空気室28の圧縮の際には、空気室28の内圧の上昇に伴い、温度も上昇することが知られている。かかる温度上昇は、熱損失を増大させ、ひいてはフリーピストン式リニア発電機のシステム効率低下の要因となる。また、過度に温度が上昇した状態で、ピストン20の摺動を補助する潤滑油が空気室28内に浸入すると、当該潤滑油が自着火する恐れもあった。したがって、空気室28の温度上昇、ひいては、空気室28の圧力上昇は極力抑えられることが望ましいといえる。
【0029】
ここで、ピストン20が空気室28から受ける反発力は、空気室28がピストン20を押す単位面積あたりの力(すなわち空気室28の圧力)に、空気室側受圧面積を乗じた値となる。したがって、空気室側受圧面積が大きければ、空気室28の圧力が低めでも、十分な反発力を得ることが出来るといえる。
【0030】
しかし、従来のフリーピストン式発電機では、径一定のピストン20を使用しており、空気室側受圧面積を大きくすることは困難であった。もちろん、ピストン全体の外径を大きくすれば、空気室側受圧面積も大きくできるが、この場合、ピストン20の質量も大きくなる。そのため、ピストン20を押し戻すために必要な反発力も大きくなり、結果として、空気室28の圧力も高くせざるを得ず、空気室28の温度上昇を効果的に抑制することはできない。また、ピストン20全体の外径増大は、発電機の体格増大も招き、望ましくない。
【0031】
一方、本実施形態では、シリンダ18・ピストン20の途中に段差を形成し、空気室寄りの部分だけ大径にしている。これにより、ピストン20の質量の大幅な増加を防止しつつ、空気室側受圧面積を増大させることができる。その結果、空気室28の内圧を過度に高めなくても、ピストン20を押し戻すのに十分な反発力を得ることができる。そして、これにより、空気室28の温度上昇を抑制でき、ひいては、熱損失の低減や、潤滑油の自着火のリスクを低減できる。
【0032】
また、本実施形態では、燃焼室26容積当たりの磁石表面積を大きくできるという利点もある。すなわち、発電ユニット14を構成する永久磁石24は、ピストン20の外表面に設置される。したがって、この永久磁石24の表面積は、どうしても、ピストン20の径に依存することになる。そのため、径一定のピストン20を用いていた従来のフリーピストン式発電機では、この永久磁石24の表面積を大幅に増加させることが難しく、結果として、発電出力の増加が困難であった。一方、本実施形態では、既述したように、空気室寄りの部分だけ大径にしているため、永久磁石24の設置面積を広くとることができ、燃焼室容積当たりの磁石表面積を大きくすることができる。その結果、発電量を増加させることができる。
【0033】
次に、このフリーピストン式発電機10の動作について説明する。まず、燃焼室26の内部に燃料−空気の混合気がある状態で、ピストン20が燃焼室26側に移動し、燃焼室26が十分に圧縮されると、点火プラグ32により混合気への点火がなされる。この点火により混合気が燃焼(爆発)し、その燃焼圧力(ガス膨張力)により、ピストン20が空気室28側へと移動し、燃焼室26の膨張、空気室28の圧縮が行われる。このとき、燃焼室26では、排気弁34が開放され、燃焼室26内における既燃ガスの排気が行われる。また、ピストン20が、空気室28側へと移動することで、ピストン20により閉鎖されていた掃気孔36が徐々に開放されていき、燃焼室26への新気の取り込みが行われる。
【0034】
一方、空気室28は、燃焼圧力により移動するピストン20により圧縮されていく。そして、ピストン20が、空気室28を十分に圧縮すると、今度は、当該空気室28の圧縮空気の膨張力(反発力)により、ピストン20が燃焼室26側へと押し戻される。これにより、空気室28の膨張・燃焼室26の圧縮が開始される。なお、本実施形態では、空気室側受圧面積を、燃焼室側受圧面積に比して大きくしている。そのため、空気室28の内圧が比較的小さくても、ピストン20全体が受ける反発力(空気室28の圧力×受圧面積)を大きくすることができる。そして、その結果、圧縮に伴う空気室28の温度上昇を低減でき、熱損失が低減され、ひいては、フリーピストン式リニア発電機のシステム効率が向上される。
【0035】
ピストン20が燃焼室26側へと移動することで掃気孔36が閉鎖される。また、排気弁34の閉鎖も行われ、燃焼室26が密閉された状態となる。その状態で燃料の噴射が行われ、燃焼室26内に新気と燃料の混合気が充填される。ピストン20が燃焼室26を十分に圧縮すると、点火プラグ32により混合気に点火がなされる。そして、再び、ピストン20が空気室28側へ移動し、空気室28の圧縮が行われる。以降は、同様のサイクル、すなわち、燃焼室26の圧縮・空気室28の膨張(圧縮行程)、混合気燃焼、燃焼室26の膨張・空気室28の圧縮(膨張行程)のサイクルを繰り返す。そして、このサイクルの過程で、ピストン20に埋め込まれた永久磁石24周囲の磁界が変化し、当該磁界の変化に応じて発電コイル22に、誘導起電力が発生することで、発電が行われる。
【0036】
なお、本実施形態では、火花点火について例示したが、圧縮着火燃焼(ディーゼル燃焼)を用いてもよいし、予混合圧縮自着火燃焼を用いてもよい。また、上述の説明では、永久磁石24を用いた発電ユニット14を示したが、永久磁石24を用いないリラクタンス同期モータを応用して、発電ユニット14を永久磁石24を使わない構成としてもよい。
【0037】
いずれにしても、本実施形態のように、燃焼室側受圧面積に比して、空気室側受圧面積を大きくすることで、空気室28の温度上昇を抑えることができる。そして、これにより、熱損失を低減でき、潤滑油の自着火の恐れも低減できる。
【0038】
次に、第二実施形態について図2を参照して説明する。図2は、第二実施形態であるフリーピストン式発電機の構成図である。このフリーピストン式発電機10の基本的構成は、第一実施形態とほぼ同じである。
【0039】
すなわち、このフリーピストン式発電機10は、発電ユニット14とエンジンユニット16を備え、エンジンユニット16は、シリンダ18内に収容されたピストン20と、当該ピストン20の両側に設けられた燃焼室26および空気室28を備えている。そして、燃焼室26で燃料を燃焼させた際の燃焼圧力およびピストン20により圧縮された空気室28の反発力によりピストン20が往復移動するようになっている。
【0040】
ただし、第一実施形態と異なり、本実施形態では、ピストン20およびシリンダ18の形状が若干異なっている。すなわち、本実施形態においては、シリンダ18には、ピストン20の運動方向をガイドする1以上のガイド体が形成されており、ピストン20には、このガイド体が挿入される凹部が設けられている点で第一実施形態と異なっている。
【0041】
より具体的に説明すると、本実施形態のシリンダ18は、ガイド体として機能する支柱部42と、内側ライナ44と、が形成されている。支柱部42は、シリンダ18の空気室側端面の中央から燃焼室側に向かって伸びる柱状部位で、後述するピストン20のピストン内凹部46に挿入される部位である。
【0042】
内側ライナ44は、燃焼室側端部から空気室側に向かって延びる環状のリブである。この内側ライナ44で囲まれた内部が燃焼室26となり、内側ライナ44は、燃焼室26の周壁として機能することになる。また、この内側ライナ44は、ピストン20のピストン外凹部48に挿入され、ピストン20の運動方向を副次的にガイドするガイド体としても機能する。
【0043】
ピストン20には、ピストン内凹部46とピストン外凹部48とが形成されている。ピストン内凹部46は、ピストン20の空気室側端面の中央から燃焼室側に向かって延び、支柱部42が挿入される穴である。このピストン内凹部46の内径は、支柱部42の外径とほぼ等しく、このピストン内凹部46に支柱部42が挿入されることで、実質的に、ピストン20の径方向への動きが規制され、軸方向への動きのみが許容されることになる。その結果、往復運動の過程で、永久磁石24と発電コイル22との接触が効果的に防止でき、より安定した駆動が可能となる。また、ピストン内凹部46を設けることにより、ピストン20内部の一部が空洞化し、ピストン20の質量が低下することになる。この場合、ピストン20を燃焼室側に押し戻すのに必要な反発力は、比較的小さくてもよいことになる。そして、その結果、空気室28を過度に圧縮しなくても、押し戻しに必要な反発力が得られることになり、空気室28の圧力上昇、ひいては、温度上昇を低減できる。
【0044】
ピストン外凹部48は、ピストン20の燃焼室側端部から空気室側に向かって延び、内側ライナ44が挿入される環状の穴である。このピストン外凹部48の断面形状は、内側ライナ44の断面形状とほぼ等しく、このピストン外凹部48に内側ライナ44が挿入されることで、ピストン20の径方向への動きの規制がより強化される。また、かかるピストン外凹部48を設けることにより、ピストン20の質量を低減しつつも、ピストン20の最大外径は大きく保つことができる。その結果、押し戻しに必要な反発力をより低減でき、ひいては、空気室28の圧力上昇、ひいては、温度上昇をより低減できる。また、ピストン20の最大外径は大きく保てるため、磁石表面積を広く取ることができ、結果として発電出力の増加を図ることができる。
【0045】
このピストン20は、別の見方をすれば、空気室側端部に位置するベース部50と、当該空気室側端面から燃焼室側に延びる円筒状の本体部52と、ベース部50の周縁から燃焼室側に延びる外側ライナ54と、を備えているともいえる。ベース部50および本体部52の中央には、支柱部42が挿入されるピストン内凹部46が形成されており、本体部52と外側ライナ54との間には、ピストン外凹部48として機能する環状の穴が形成されている。そして、本体部52の燃焼室寄りの部分が燃焼室26に進退する小径部20sとして機能する。また、空気室側端部に位置するベース部50および外側ライナ54の部分が、空気室28に進退する大径部20bとして機能することになる。そして、この大径部20bとして機能する外側ライナ54の外側面に永久磁石24が設置されている。つまり、本実施形態でも、第二実施形態と同様に、ピストン20が、燃焼室26内に進退する小径部20sと、小径部20sよりも大径で空気室28に進退する大径部20bと、を備えており、大径部20bの外表面に永久磁石24が設置されている。
【0046】
なお、本実施形態では、空気室28の中央に支柱部42が形成されているため、空気室28の断面形状は、円環形状となる。本実施形態では、空気室28が、このように円環形状になったとしても、空気室側受圧面積が、燃焼室側受圧面積よりも大きくなるような寸法設定としている。すなわち、燃焼室26の内径(ボア径)をDa、空気室28の外径をDb、空気室28の内径(支柱部42の外径)をDcとした場合、燃焼室側受圧面積S1=(Da/4)*πが、空気室側受圧面積S2=(Db/4)*π−(Dc/4)*πより大きくなるように(つまりDa<(Db−Dc)となるように)寸法設定している。かかる構成とすることで、第一実施形態と同様に、空気室28の内圧上昇を低減でき、ひいては、空気室28の温度上昇を低減できる。そして、その結果、熱損失を低減でき、また、潤滑油の自着火を効果的に抑制できる。
【0047】
また、図2から明らかなとおり、本実施形態のピストン20によれば、燃焼室26から永久磁石24までの熱伝導経路を長くすることができる。すなわち、一般に、発電ユニット14を構成する永久磁石24は、その減磁を避けるために、極力、一定温度に保たれることが望ましい。しかし、燃焼室26で生じた燃焼熱が、ピストン20を介して永久磁石24に伝達され、永久磁石24の温度が上昇するという問題がある。特に、中実のピストン20の場合、燃焼室側端面に伝達された熱は、永久磁石24まで、ほぼ、直線の経路を伝わって伝達され、永久磁石24が温度上昇、ひいては、減磁しやすいという問題があった。一方、本実施形態のように、ピストン20の一部を空洞化しておくことで、燃焼室側端面に伝達された熱は、本体部52の側面からベース部50、ベース部50から外側ライナ54を通って永久磁石24に伝わることになり、熱伝導経路が長くなる。この熱伝導の過程で、空気中に放熱されたりすることで、最終的に、永久磁石24に伝達される熱量を低減でき、結果として、永久磁石24の温度上昇を抑制することができる。そして、その結果、永久磁石24の減磁を抑制でき、発電効率を向上することができる。
【0048】
なお、本実施形態では、ピストン内凹部46に、ガイド体として機能する支柱部42を、直接、挿入しているが、図3に示すように、両者の間に両者の相対移動を補助するリニアボールベアリング56を配してもよい。かかる構成とすることで、ピストン20の径方向への動きがより確実に規制され、永久磁石24と発電コイル22との接触がより効果的に防止できる。また、ピストン内凹部46の側面と支柱部42の側面との接触を防ぐことができ、その間の摩擦抵抗も低減できる。その結果、無駄な損失を低減でき、より効率的な発電が可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、ガイド体・凹部として、支柱部42・ピストン内凹部46と内側ライナ44・ピストン外凹部48の二種類を設けているが、当然ながら、これらは一種類でもよいし、より多種類設けられてもよい。例えば、支柱部42およびピストン内凹部46を省略し、内側ライナ44・ピストン外凹部48のみで、ピストン20の移動方向をガイドするようにしてもよい。その場合であっても、ピストン20の本体部52の内部を空洞にし、ピストン20全体の軽量化や伝熱経路の長距離化を図ることが望ましい。
【0050】
いずれにしても、第一実施形態および第二実施形態のように、空気室側受圧面積を、燃焼室側受圧面積よりも大きくすることにより、空気室28を過度に圧縮しなくても十分な反発力を得ることができ、結果として、空気室28の温度上昇に伴う熱損失の増大を抑制することができ、発電効率を向上できる。
【0051】
なお、第一実施形態および第二実施形態のいずれにおいても、シリンダ18やピストン20に段差や突起を設けることにより、シリンダ18内に、空気室28および燃焼室26以外にも区画された区画空間60a〜60d(図1〜図3参照)が幾つか形成されることになる。こうした区画空間60a〜60dは、燃焼室26や空気室28と同様、ピストン20の往復運動に伴い体積変化する。したがって、かかる区画空間60a〜60dを密閉状態とすると、空気室28同様、空気バネとして機能し、ピストン20の挙動に悪影響を与え、無駄な圧縮仕事が発生する。したがって、かかる区画空間60a〜60dは、外部空間と連通させ、内圧一定に保たれるようにすることが望ましい。
【0052】
また、別の形態として、こうした区画区間60a〜60dの少なくとも一つを油圧室もしくは制御された空圧室として利用してもよい。例えば、図2において、内側ライナ44と、シリンダ18の内側面と、ピストン20の外側ライナ54の端面とで区画された環状空間60bを、作動油もしくは作動空気が充填された油圧室もしくは空圧室として用いてもよい。そして、この環状空間60bに充填する作動油もしくは作動空気の量・圧力を、適宜、制御することにより、ピストン20の燃焼室側への最大変位量や速度を制御するようにしてもよい。かかる構成とすることで、ピストン20の上死点位置、ひいては、圧縮比を制御できる。その結果、燃焼圧力が過大になることを防止でき、また、燃焼騒音なども抑制できる。
【0053】
また、第一実施形態および第二実施形態のようにピストン20の空気室側部分の外径を大きくする場合には、ピストンリング等のガスシール部材を省略することが望ましい。すなわち、従来のフリーピストン式発電機10では、空気室28からのガス(空気)の漏れを防止するために、ピストンリングのようなガスシール部材を、ピストン20の外表面と、シリンダ18の内表面との間の間隙に配置していた。かかるピストンリングを設けることにより、空気室28の圧力が高くなっても、空気室28からのガス漏れが効果的に防止される。
【0054】
しかしながら、かかるピストンリングは、シリンダ18の内表面に接触した状態で、ピストン20とともに往復運動することになり、摩擦損失を生み出していた。特に、第一実施形態および第二実施形態のようにピストン20の空気室側部分の外径が大きい場合には、ピストン20の周長、ひいては、ピストンリングの周長が長くならざるを得ず、結果として、ピストンリングとシリンダ18内側面との接触面積が大きくなる。その結果、摩擦損失が大きくなりがちという問題がある。
【0055】
かかる問題を避けるために、ピストン20の空気室側部分の外径を大きくする場合には、ピストンリング等のガスシール部材を省略することが望ましい。なお、この場合、前記空気室28におけるシリンダ18内側面とピストン20外側面との間隙量は、空気室28内ガスの燃焼室側への漏れ量が予め規定された許容漏れ量以下になる値に設計する。これについて、図4を参照して説明する。図4は、フリーピストン式発電機10の概略図である。図4に示す構成において、空気室28におけるシリンダ18内側面とピストン20外側面との間隙を通過するガス流量Qは、空気室28の内外での圧力差をΔP、ピストン20径をd、間隙量をh、ガス密度をρ、作動ガスの動粘度をν、間隙量hとなる部分の長さをLとした場合、当該間隙を通過するガス流量Qは次の式1で表される。
Q=(1.57・ΔP・h・d)/(ρ・ν・L)・・・(1)
そして、ピストン20の偏心も考慮すると最大ガス漏れ量QmaxはQmax=2.5Qとなる。この最大ガス漏れ量Qmaxが、規定の許容漏れ率で定まるガス漏れ量以下となるべく、間隙量hを決定しておくことが望ましい。
【0056】
ここで、最大ガス漏れ量Qmaxは、圧力差ΔP、ピストン20径d、および、間隙量hの3乗に比例し、ガス密度ρ、作動ガスの動粘度ν、間隙部分の長さLに反比例する。このうち、空気室28内ガスとして、空気を利用する限り、ガス密度ρおよび作動ガスの動粘度νは一定値となる。したがって、実質的に間隙量hは、許容漏れ率α、圧力差ΔP、ピストン20径d、および、間隙部分の長さLに基づいて決定されることになる。より具体的に言えば、間隙量hは、許容漏れ率αが大きいほど大きく、圧力差ΔPが大きいほど小さく、ピストン径dが大きいほど小さく、間隙部分の長さが大きいほど大きくなるように決定されることが望ましい。なお、ここで記載したシリンダ18の内側面とピストン20の外側面以外の間隙、すなわち、本体部52と内側ライナ44の間隙、支柱部42とピストン内凹部46の間隙には、ピストンリングのようなガスシール部材を用いることもできるし、ガスシール部材を省略して、ここに記載したように間隙量が予め規定した許容漏れ量となるように設計することもできる。
【0057】
また、永久磁石24と発電コイル22との接触を防止するために、永久磁石24表面と発電コイル22設置面との間隙量bは、空気室28におけるシリンダ18内側面とピストン20外側面との間隙量cよりも大きくしておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0058】
10 フリーピストン式発電機、14 発電ユニット、16 エンジンユニット、18 シリンダ、20 ピストン、22 発電コイル、24 永久磁石、26 燃焼室、28 空気室、30 燃料噴射弁、32 点火プラグ、34 排気弁、36 掃気孔、37 掃気ポート、38 調圧弁、40 位置センサ、42 支柱部、44 内側ライナ、46 ピストン内凹部、48 ピストン外凹部、50 ベース部、52 本体部、54 外側ライナ、56 リニアボールベアリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの直線往復運動に伴い発電するフリーピストン式発電機であって、
ピストンを挟んで両側に燃焼室および空気室が設けられ、前記燃焼室で燃料を燃焼させた際の燃焼圧力および前記ピストンにより圧縮された空気室の反発力によりピストンが往復移動するエンジンユニットと、
前記ピストンの往復運動に伴い発電を行う発電ユニットと、
を備え、
前記空気室に面するピストン端面の面積である空気室受圧面積が、前記燃焼室に面するピストン端面の面積である燃焼室受圧面積より大きい、
ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項2】
請求項1に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記ピストンは、燃焼室内に進退する小径部と、前記小径部よりも大径で空気室に進退する大径部と、を備えることを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項3】
請求項2に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記発電ユニットは、前記ピストンの大径部の外側面に設置される永久磁石と、前記ピストンを収容するシリンダの内側面のうち前記永久磁石との対向位置に設置された発電コイルと、を備えることを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記ピストンを収容するシリンダは、シリンダ端部から突出し、ピストンの運動方向をガイドする1以上のガイド体を備え、
前記ピストンは、前記ガイド体が挿入される凹部を1以上備える、
ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項5】
請求項4に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記シリンダは、
前記シリンダの中心軸上において空気室側端部から突出し、前記ガイド体として機能する支柱と、
前記燃焼室側端部から突出する環状リブであって、燃焼室の周壁を構成し、前記ガイド体として機能する内側ライナと、
を備え、前記ピストンは、
前記支柱が挿入され、空気室側端部から燃焼室側に向かって延びるピストン内凹部と、
内側ライナが挿入され、前記ピストン内凹部の周囲において燃焼室側端部から空気室側に向かって延びるピストン外凹部と、
を備える、
ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項6】
請求項4または5に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記ガイド体と、前記ガイド体が挿入される前記凹部との間には、前記ガイド体および前記凹部の相対移動を補助するリニアボールベアリングが配される、ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記シリンダ内において区画される空間のうち前記燃焼室および空気室のいずれにも該当しない空間の少なくとも一つが、作動油または作動空気が充填され、前記ピストンの変位を制御する油圧室または空圧室として機能する、ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記空気室におけるシリンダ内側面とピストン外側面との間は、ガスシール部材を設けることなく、微小間隙を介して対向しており、
前記微小間隙量は、空気室内空気の燃焼室側への漏れ量が予め規定された許容漏れ量以下になる値に設定されている、
ことを特徴とするフリーピストン式発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202385(P2012−202385A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70599(P2011−70599)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】