説明

フルオロカルボン酸の製造方法

【課題】フルオロカルボン酸エステルの製造に使用でき、装置を腐食させたり、有毒物が発生することなく、安全に製造することができるフルオロカルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】CX123CFX4OR(X1〜X4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基;Rは酸分解性保護基)で示されるフルオロエーテル(A)に、酢酸、トリフルオロ酢酸および希塩酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸(B)を作用させることで、CX123COOH(X1〜X3は上記と同じ)で示されるフルオロカルボン酸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロカルボン酸エステルの製造に使用できるフルオロカルボン酸の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CHF2COOR(R:アルキル基)やCF3CHFCOOR(R:アルキル基)などのフルオロカルボン酸エステルは、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどにおける負極の被膜系製剤などとして有用であるが、合成法が困難である。
【0003】
たとえば、非特許文献1では、これらのフルオロカルボン酸エステルは、CHF2CF2OCH3やCF3CHFCF2OCH3などのフルオロエーテルを硫酸で加水分解する方法がとられており、その際、フルオロカルボン酸エステルの製造に使用されるフルオロエーテルは、たとえば、CF2=CF2にCH3OHやC25OHなどのアルコールを付加させて生成したCHF2CF2OR(R:アルキル基)であり、このフルオロエーテルを濃硫酸中で加熱し、開裂させることによりフルオロカルボン酸エステルを得ている。しかし、この場合、濃硫酸を用いるため、
(1)装置が腐食する
(2)フッ酸をSiO2やAl23などの脱酸剤で結合させにくい
(3)NaFなどの再生可能なフッ酸吸着剤を用いることができない
などの問題点があった。
【0004】
また、特許文献1には、所定のハロゲン化エタンを酸化することを特徴とするジフルオロ酢酸ハライドの製造方法と、得られたジフルオロ酢酸ハライドと水を反応させることを特徴とするジフルオロ酢酸の製造方法が記載されている。しかし、酸素や塩素と同封し、高圧水銀灯で照射して行う反応であり、作業上困難であった。
【0005】
さらに、特許文献2には、所定の1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを気相反応させることを特徴とするジフルオロ酢酸フルオライドの製造方法と、得られたジフルオロ酢酸フルオライドと所定のアルコールを反応させることを特徴とするジフルオロ酢酸エステルの製造方法が記載されている。しかし、200℃で酸化アルミニウムに吸着させて行う反応であり、高温を必要とし、作業上困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−53388号公報
【特許文献2】特開平8−92162号公報
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society 72, 1860 (1950)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フルオロカルボン酸エステルの製造に使用でき、装置を腐食させたり、有毒物が発生することなく、安全に製造することができるフルオロカルボン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、式(1):
CX123CFX4OR
(式中、X1〜X4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基;Rは酸分解性保護基である)
で示されるフルオロエーテル(A)に、
酢酸、トリフルオロ酢酸および希塩酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸(B)を作用させる式(2):
CX123COOH
(式中、X1〜X3は式(1)と同じである)
で示されるフルオロカルボン酸の製造方法に関する。
【0009】
前記フルオロエーテル(A)は、
式(3):
CX56=CFX7
(式中、X5〜X7は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基である)
で示されるフルオロオレフィン(D)に、
塩基(E)と、
式(4):
ROH
(式中、Rは式(1)と同じである)
で示されるアルコール(F)とを作用して得られるフルオロエーテルであることが好ましい。
【0010】
前記酸分解性保護基は、t−ブチル基、ベンジル基、o−ニトロベンジル基、m−ニトロベンジル基、p−ニトロベンジル基および式(5):
SiR234
(式中、R2〜R4は同じかまたは異なり、いずれも炭素数1〜4のアルキル基である)
で示される基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
前記酸(B)の作用量は、フルオロエーテル(A)に対して10〜150モル%であることが好ましい。
【0012】
前記フルオロオレフィン(D)は、CF2=CF2またはCF3CF=CF2であることが好ましい。
【0013】
前記塩基(E)は、KOHであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所定のフルオロエーテル(A)に、所定の酸(B)を作用させることで、フルオロカルボン酸エステルの製造に使用でき、装置を腐食させたり、有毒物が発生することなく、フルオロカルボン酸を安全に製造することができる新規な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の新規な製造方法は、所定のフルオロエーテル(A)に、所定の酸(B)を作用させることで、有用なフルオロカルボン酸エステルの製造に使用できるフルオロカルボン酸を製造することができる。また、前記フルオロエーテル(A)は、所定のパーフルオロオレフィン(D)に、塩基(E)と所定のアルコール(F)とを作用して得られるフルオロエーテルであることが好ましい。
【0016】
以下、各成分について説明する。
【0017】
(A)フルオロエーテル:
本発明で使用するフルオロエーテル(A)は、式(1):
CX123CFX4OR
(式中、X1〜X4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基;Rは酸分解性保護基である)
で示されるものである。
【0018】
式(1)において、X1〜X4は、塩の溶解性、耐酸化性および粘性に優れる点から、同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基である。
【0019】
1〜X4の少なくとも1つがフルオロアルキル基の場合、パーフルオロアルキル基が反応性に優れる点から好ましく、その炭素数は、結晶性が小さく、固体化しにくい点から、1〜8が、さらには1〜5が好ましい。
【0020】
1〜X3の好ましい組み合わせとしては、−H、−F、−Fの組み合わせ、−H、−F、−CF3の組み合わせ、−H、−F、−C25の組み合わせ、−H、−F、−C37の組み合わせなどがあげられ、合成が容易で、粘性が高く、塩の溶解性に優れる点から、−H、−F、−Fの組み合わせまたは−H、−F、−CF3の組み合わせが好ましい。
【0021】
また、X4としては、反応性に優れる点から、−Fが好ましい。
【0022】
式(1)において、CX123CFX4−の部分の具体例としては、たとえば、CHF2CF2−、CHF2CHF−、CHF2CH2−、CH2FCH2−、CH2FCHF−、CF3CHFCF2−、CF3CHFCH2−、CF3CH2CH2−、CF3CH2CF2−、C25CHFCF2−、C25CHFCH2−、C25CH2CH2−、C25CH2CF2−、C37CHFCF2−、C37CHFCH2−、C37CH2CH2−、C37CH2CF2−、CH(CF32CF2−などがあげられ、合成が容易で粘性および塩の溶解性に優れる点から、CHF2CF2−またはCF3CHFCF2−が好ましい。
【0023】
また、Rは、酸性条件下で加水分解を進行させる必要がある点から、酸分解性保護基である。また、−OHの保護基になり、R−OHの形をとれる点から、好ましい具体例としては、たとえば、メチルチオメチル基、2−(ベンジルチオ)エチル基、2−(フェニルセレニル)エチル基、t−ブチル基、アリル基、プロパルギル基、p−クロロフェニル基、p−メトキシフェニル基、p−ニトロフェニル基、2,4−ジニトロフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、o−ニトロベンジル基、m−ニトロベンジル基、p−ニトロベンジル基、p−ハロベンジル基、2,6−ジクロロベンジル基、p−シアノベンジル基、p−フェニルベンジル基、2,6−ジフルオロベンジル基、p−アシルアミノベンジル基、p−アジドベンジル基、4−アジド−3−クロロベンジル基、2−トリフルオロメチルベンジル基、p−(メチルスルフィニル)ベンジル基、2−ピコリル基、4−ピコリル基、3−メチル−2−ピコリル−N−オキシド基、2−キノリニルメチル基、1−ピレニルメチル基、ジフェニルメチル基、p、p’−ジニトロベンズヒドリル基、5−ジベンゾスベリル基、トリフェニルメチル基、α−ナフチルジフェニルメチル基、p−メトキシフェニルジフェニルメチル基、ジ(p−メトキシフェニル)フェニルメチル基、トリ(p−メトキシフェニル)メチル基、4−(4’−ブロモフェナシロキシ)フェニルジフェニルメチル基、4,4’,4”−トリス(4,5−ジクロロフタルイミドフェニル)メチル基、4,4’,4”−トリス(レブリノイロキシフェニル)メチル基、4,4’,4”−トリス(ベンゾイロキシフェニル)メチル基、4,4’−ジメトキシ−3”−[N−(イミダゾリルメチル)]トリチル基、4,4’−ジメトキシ−3”−[N−(イミダゾリルエチル)カルバモイル]トリチル基、1,1−ビス(4−メトキシフェニル)−1’−ピレニルメチル基、4−(17−テトラベンゾ[a,c,g,i]フルオレニルメチル)−4,4”−ジメトキシトリチル基、9−アンスリル基、9−(9−フェニル)キサンテニル基、9−(9−フェニル−10−オキソ)アンスリル基、1,3−ベンゾジチオラン−2−イル基、ベンズイソチアゾリル−S,S−ジオキシド基や、2−トリメチルシリルエチル基、ジメチルテキシルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、トリベンジルシリル基、トリ−p−キシリルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリス(トリメチルシリル)シリル基、(2−ヒドロキシスチリル)ジメチルシリル基、(2−ヒドロキシスチリル)ジイソプロピルシリル基、t−ブチルメトキシフェニルシリル基、t−ブトキシジフェニルシリル基や、式(5):
SiR234
(式中、R2〜R4は同じかまたは異なり、いずれも炭素数1〜4のアルキル基である)
で示される基などがあげられ、式(5)で示される基としては、たとえば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、ジエチルイソプロピルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、ジ−t−ブチルメチルシリル基などがあげられる。これらのなかでも、安価で合成が容易な点から、2−トリメチルシリルエチル基、2−(ベンジルチオ)エチル基、t−ブチル基、アリル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、o−ニトロベンジル基、m−ニトロベンジル基、p−ニトロベンジル基、p−ハロベンジル基、2,6−ジクロロベンジル基、ジメチルテキシルシリル基や、式(5)で示される基が、さらにはt−ブチル基、ベンジル基、o−ニトロベンジル基、m−ニトロベンジル基、p−ニトロベンジル基および式(5)で示される基が好ましい。なお、式(5)で示される基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、ジエチルイソプロピルシリル基が好ましい。
【0024】
このようなフルオロエーテル(A)は、反応性が高く、合成が容易な点から、式(3):
CX56=CFX7
(式中、X5〜X7は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基である)
で示されるフルオロオレフィン(D)に、
塩基(E)と、
式(4):
ROH
(式中、Rは式(1)と同じである)
で示されるアルコール(F)とを作用して得られるフルオロエーテルが好ましい。
【0025】
(D)フルオロオレフィン:
フルオロオレフィン(D)は、式(3):
CX56=CFX7
(式中、X5〜X7は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基である)
で示されるものが好ましい。
【0026】
式(3)において、X5〜X7は、耐酸化性に優れる点から、同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基が好ましい。X5〜X7の少なくとも1つがフルオロアルキル基の場合、パーフルオロアルキル基が反応性に優れる点から好ましく、その炭素数は、結晶性が小さく、固体化しにくい点から、1〜8が、さらには1〜5が好ましい。これらのなかでも、X5〜X7としては、−F、−CF3、−C25、−C37が好ましい。
【0027】
フルオロオレフィン(D)の好ましい具体例としては、たとえば、CF2=CF2、CHF=CF2、CH2=CF2、CH2=CHF、CHF=CHF、CF3CF=CF2、CF3CH=CF2、CF3CF=CH2、CF3CH=CH2、C25CF=CF2、C25CH=CF2、C25CF=CH2、C25CH=CH2、C37CF=CF2、C37CH=CF2、C37CF=CH2、C37CH=CH2、C(CF32=CF2などがあげられ、粘性および塩の溶解性に優れる点から、CF2=CF2、CF3CF=CF2が好ましい。
【0028】
(E)塩基:
塩基(E)としては、後述するアルコール(F)に溶解してpHが7〜12になるものであればとくに制限はないが、たとえば、LiOH、KOH、NaOH、Ca(OH)2、Al(OH)3などがあげられ、安価な点から、KOHが好ましい。
【0029】
(F)アルコール:
アルコール(F)は、式(4):
ROH
(式中、Rは式(1)と同じである)
で示されるものが好ましい。
【0030】
式(4)において、Rは式(1)と同じとすることができる。
【0031】
フルオロオレフィン(D)に塩基(E)およびアルコール(F)を作用させる際、塩基(E)の作用量は、とくに制限されるわけではないが、反応効率が高く、撹拌効率に優れる点から、フルオロオレフィン(D)に対して10〜100モル%が好ましく、30〜60モル%がより好ましい。また、アルコール(F)の作用量は、反応効率が高く、撹拌効率に優れる点から、フルオロオレフィン(D)に対して100〜150モル%が好ましく、120〜150モル%がより好ましい。
【0032】
この際、フルオロオレフィン(D)と系内の水分が反応しないように、真空雰囲気下で作用させることが好ましい。
【0033】
フルオロオレフィン(D)に塩基(E)およびアルコール(F)を作用させる際の溶媒については、とくに必要なものではないが、使用する場合には、極性溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、グライム系溶媒などを使用することができる。
【0034】
作用温度は、安全性および作業性に優れる点から、10〜80℃が好ましく、30〜50℃がより好ましい。
【0035】
また、作用圧力は、安全性および作業性に優れる点から、0.1〜0.5MPaが好ましく、0.1〜0.3MPaがより好ましい。
【0036】
(B)酸:
酸(B)としては、装置が腐食しにくく、後述する金属酸化物(C)を使用する場合には、発生するフッ酸を金属酸化物(C)で結合させやすく、後述する再生可能なフッ酸吸着剤(G)を用いることができ、安価で取り扱いやすい点から、酢酸、トリフルオロ酢酸、希塩酸などが好ましくあげられる。
【0037】
本発明では、希塩酸とは、濃度が4〜28質量%(1〜7N)のものをいう。
【0038】
本発明では、フルオロエーテル(A)に酸(B)を作用させる際に、発生するフッ酸を除去するために金属酸化物(C)を用いてもよい。
【0039】
(C)金属酸化物:
金属酸化物(C)としては、とくに制限されるものではなく、たとえば、SiO2、Al23、Li2O、Na2O、Na22、K2O、K22、K23、CaO、SrO、BaO、Ga2O、Ga23、In2O、In23などがあげられ、反応性が高く、化合物の入手が容易な点から、SiO2またはAl23が好ましい。
【0040】
フルオロエーテル(A)に酸(B)を作用させる際、酸(B)の作用量は、反応性が高い点から、フルオロエーテル(A)に対して10〜150モル%が好ましく、120〜150モル%がより好ましい。また、金属酸化物(C)を使用する場合には、その作用量は、発生するフッ化水素(フッ酸)の吸収効率が高い点から、フルオロエーテル(A)に対して20〜60モル%が好ましく、30〜50モル%がより好ましく、酸(B)の作用量/金属酸化物(C)の作用量の比は、発生するフッ化水素(フッ酸)の吸収効率が高い点から、フルオロエーテル(A)に対して10/60〜100/20が好ましく、1/4〜6/4がより好ましく、2/4〜6/4がさらに好ましい。
【0041】
フルオロエーテル(A)に酸(B)を作用させる際には、他にも、再生可能なフッ酸吸着剤(G)を使用することもできる。
【0042】
このようなフッ酸吸着剤(G)としては、たとえば、NaF、LiF、KFなどがあげられ、その作用量は、フルオロエーテル(A)に酸(B)を作用させることによる本発明の効果を損なわない範囲とすることが好ましく、具体的には、フルオロエーテル(A)に対して0〜220モル%、さらには150〜220モル%とすることが好ましい。
【0043】
フルオロエーテル(A)に酸(B)を作用させる際の溶媒については、とくに必要なものではないが、使用する場合には、極性溶媒としてTHF、DMF、DMAC、NMP、グライム系溶媒などを使用することができる。
【0044】
作用温度は、安全性および作業性に優れる点から、10〜80℃が好ましく、30〜50℃がより好ましい。
【0045】
作用圧力は、安全性および作業性に優れる点から、0.1〜0.5MPaが好ましく、0.1〜0.3MPaがより好ましい。
【0046】
このように、本発明の製造方法により製造されたフルオロカルボン酸は、式(2):
CX123COOH
(式中、X1〜X3は式(1)と同じである)
で示されるものであり、従来酸として使用していた濃硫酸を使用しないため、装置を腐食させたり、SiF4などの有毒物が発生することなく、安全にフルオロカルボン酸を製造することができる。
【0047】
なお、本発明の製造方法により製造したフルオロカルボン酸を用いて式(6):
CX123COOR1
(式中、X1〜X3は式(1)と同じ;R1は炭素数1〜5のアルキル基である)
で示されるフルオロカルボン酸エステルを製造する際には、酸触媒中で1〜3当量以上のアルコール中で反応を行う従来から公知のエステル化法を使用して製造することができる。
【実施例】
【0048】
つぎに本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
なお、本発明で採用した測定法は以下のとおりである。
【0050】
(1)NMR:BRUKER社製のAC−300を使用。
【0051】
1H−NMR:
測定条件:300MHz(テトラメチルシラン=0ppm)
19F−NMR:
測定条件:282MHz(トリクロロフルオロメタン=0ppm)
【0052】
実施例1
(1)フルオロエーテル(A)の合成
ステンレススチール製の500mLオートクレーブに、KOH(塩基(E))16.8g(0.3mol)、ベンジルアルコール(アルコール(F)):
【0053】
【化1】

108g(1.0mol)を入れ、室温で真空−チッ素置換を3回行った。系内を真空にした後、反応系を40℃にし、ヘキサフルオロプロピレン(フルオロオレフィン(D)):
CF3CF=CF2
150g(1.0mol)を少しずつ加えていった。圧力降下が見られなくなるまで、70℃で3.0時間反応させた。反応終了後、オートクレーブを室温に戻し、ブローした後、反応液を精留精製し、フルオロエーテル(A):
【0054】
【化2】

を160g(収率:63%、沸点:94℃/100mmHg)得た。
【0055】
この生成物を1H−NMRおよび19F−NMRにより分析した。
1H−NMR:(neat):4.25〜4.39ppm(2H)、4.78〜6.49ppm(1H)、7.02〜7.59ppm(5H)
19F−NMR:(neat):−72.22〜−75.71ppm(3F)、−79.10〜−82.4ppm(2F)、−212.7〜−213.08ppm(1F)
【0056】
(2)フルオロカルボン酸の合成
ガラス製の反応容器300mlに還流管をつけた反応装置を組み、反応を行った。
容器内に、上記(1)で合成したフルオロエーテル(A):
【0057】
【化3】

100g(388mmol)、希塩酸(B)(濃度:28質量%)50g(388mmol)および純水150mlを加えて還流下で撹拌を行った。反応の進行をガスクロマトグラフィー(GC)で追跡し、原料の消失を確認した時点で反応を終了した。その後、反応溶液を酢酸エチルで2回抽出を行った後、硫酸マグネシウムで乾燥し、酢酸エチルを留去することで残留物を採取した。その後、残留物を精製し目的生成物であるフルオロカルボン酸
CF3CHFCOOH
を45.3g(収率:80%)得た。
この生成物を1H−NMRおよび19F−NMRにより分析した。
1H−NMR:(neat):4.78〜6.49ppm(1H)、11.0ppm(1H)
19F−NMR:(neat):−72.22〜−75.71ppm(3F)、−212.7〜−213.08ppm(1F)
なお、従来発生していたSiF4のような有毒物質の発生は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
CX123CFX4OR
(式中、X1〜X4は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基;Rは酸分解性保護基である)
で示されるフルオロエーテル(A)に、
酢酸、トリフルオロ酢酸および希塩酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸(B)を作用させる式(2):
CX123COOH
(式中、X1〜X3は式(1)と同じである)
で示されるフルオロカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
フルオロエーテル(A)が、
式(3):
CX56=CFX7
(式中、X5〜X7は同じかまたは異なり、いずれも−H、−Fまたはフルオロアルキル基である)
で示されるフルオロオレフィン(D)に、
塩基(E)と、
式(4):
ROH
(式中、Rは式(1)と同じである)
で示されるアルコール(F)とを作用して得られるフルオロエーテルである請求項1記載のフルオロカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
酸分解性保護基が、t−ブチル基、ベンジル基、o−ニトロベンジル基、m−ニトロベンジル基、p−ニトロベンジル基および式(5):
SiR234
(式中、R2〜R4は同じかまたは異なり、いずれも炭素数1〜4のアルキル基である)
で示される基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載のフルオロカルボン酸の製造方法。
【請求項4】
酸(B)の作用量がフルオロエーテル(A)に対して10〜150モル%である請求項1〜3のいずれかに記載のフルオロカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
フルオロオレフィン(D)がCF2=CF2またはCF3CF=CF2である請求項2〜4のいずれかに記載のフルオロカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
塩基(E)が、KOHである請求項2〜5のいずれかに記載のフルオロカルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2008−280304(P2008−280304A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127201(P2007−127201)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】