説明

フルオロハロゲンエーテルの製造方法

【課題】高い収率及び選択性でフルオロハロゲンエーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】1a)CY’’Y=CY’Cl(II)(Y、Y’及びY’’はH、Cl又はBrであるが、同時にHではない)のオレフィンを、フッ素化してFCY’’Y−CY’ClF(III)のフルオロハロゲンカーボンを得て;2a)該フルオロハロゲンカーボンの脱ハロゲン化又は脱ハロゲン化水素を行って、フルオロハロゲンオレフィンを得て;3a)該フルオロハロゲンオレフィンを、RfOFの次亜フッ素酸と反応させてRfO−CFYI−CF2II(I)(YI及びYIIはCl、Br又はHであるが、同時にHではない)のフルオロハロゲンエーテルを得て;4a)該化合物の脱ハロゲン化又は脱ハロゲン化水素を行って、RfO−CF=CF2(IA)(Rfはアルキルペルフルオロ化された置換基である)のペルフルオロビニルエーテルを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロハロゲンエーテルを製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、脱ハロゲン化又は脱ハロゲン化水素によりペルフルオロビニルエーテルを得ることを可能にするフルオロハロゲンエーテルに関する。さらにより具体的には、本発明は、収率及び選択性が改善され、かつクロロフルオロカーボン(CFC)クラスに属さない前駆体を用い、よって水素化副産物からの不経済な分離プロセスを行わずに製造可能な、ペルフルオロビニルエーテル、好ましくはペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロエチルビニルエーテル及びペルフルオロプロピルビニルエーテルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
知られているように、ペルフルオロビニルエーテルは、種々のポリマー、フッ素化エラストマーからフッ素化熱加工性(thermoprosessable)半結晶質ポリマーまでを製造するための有用なモノマーである。
【0003】
ペルフルオロビニルエーテルを製造する方法は、従来技術において知られている。米国特許第3450684号(特許文献1)は、式:
CF2=CFO(CF2CFX0IO)nICF2CF20I
(式中、X0IはF、Cl、CF3、Hであり、nIは1〜20の範囲であり得る)
のビニルエーテルに関する。
【0004】
これらの化合物は、HFPOから出発して得られる。この方法は、次のスキームに従うさらなる工程において行われる。
【0005】
【化1】

【0006】
この方法の収率は低い。
米国特許第3817960号(特許文献2)は、式:
CF3O(CF2O)n''CF2CF2OCF=CF2
(式中、n’’は1〜5の範囲であり得る)
のペルフルオロビニルエーテルの製造に関する。
この合成は、UV照射下で低温でのTFE酸化によるか、又は対応する水素化フッ化アシルの電気化学的フッ素化による、式:
CF3O(CF2O)n''CF2C(O)F
のフッ化アシルの製造を必要とする。次いで、フッ化アシルは、次のスキームに従って反応させる。
【0007】
【化2】

【0008】
この合成スキームにおいて、TFEからの出発フッ化アシルの製造は、工業的観点から不経済な方法である。電気化学的フッ素化を用いる場合、副産物の形成のために収率は低い。
【0009】
米国特許第3896179号(特許文献3)は、アルキル直鎖を有するペルフルオロビニルエーテルを、分岐アルキル鎖異性体であるペルフルオロビニルエーテルから、300〜600℃の温度で熱分解により分離することに関する。実際、分岐異性体は、通常、機械的特性に乏しいポリマーを与える連鎖移動剤として作用する。よって、ポリマーを製造するのに直鎖ビニルエーテルを用いる場合には、分岐ビニルエーテルは望ましくない。
【0010】
米国特許第4340750号(特許文献4)は、式:
CF2=CFOCF20f1
(式中、R0fは、任意に酸素を含有していてもよいC1〜C20ペルフルオロアルキルであり、X1は、H、Cl、Br、F、COOR0、CONR0R’(ここで、R0はC1〜C10アルキル基であり、R’はH又はC1〜C10アルキル基である)である)
のペルフルオロビニルエーテルの製造に関する。これらの化合物の製造において、ヨウ素及びテトラフルオロエチレンとともにフッ化アシルが用いられる。この方法において、アルカリ性フッ化アシル熱分解の最後の工程が回避される。
合成スキームは、次のとおりである。
【0011】
【化3】

【0012】
この方法の問題点は、脱フッ化ヨウ素反応(反応の最後の工程)が起こり、低収率であることである。
【0013】
米国特許第4515989号(特許文献5)は、フルオロビニルエーテル合成についての新規化合物の製造に関する。この特許によると、ビニルエーテル合成は、容易に脱カルボキシル反応できる特定の化合物を用いることにより改善される。中間体の製造のために、式:
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、X3はCl、Brである)
のフルオロエポキシドが用いられる。
反応スキームは次のとおりである。
【0016】
【化5】

【0017】
この方法の問題点は、フルオロエポキシド(1a)を得るための前駆体が、工業的に入手困難であることである。
米国特許第5350497号(特許文献6)は、次のスキーム:
【0018】
【化6】

【0019】
に従う、部分的にフッ素化されたヒドロジクロロエーテルのフッ素を用いたフッ素化、及びその後の脱塩素化によるペルフルオロアルキルビニルエーテルの製造に関する。
この方法の問題点は、フッ素を用いるフッ素化工程が高い収率では行われず、全ての水素原子を置き換えるために過剰のフッ素が用いられることである。
【0020】
米国特許第6255536号(特許文献7)は、部分的にハロゲン化もされ得る水素化前駆体の合成を考慮に入れ、該前駆体をフッ素化して酸誘導体を形成し、これがアルカリ性熱分解によりペルフルオロビニルエーテルに分解される方法を記載している。スキームは、次のとおりである。
【0021】
【化7】

【0022】
フッ素化工程は、電気化学的フッ素化又は米国特許第5488142号(特許文献8)によるフッ素を用いるフッ素化により行うことができる。前者の反応は、通常、低い選択性及び不要な副産物の形成を伴って行われる。フッ素を用いるフッ素化においては、工業的に許容できる収率も生産性も得られない。実際、高い希釈率の水素化された前駆体及びフッ素を用いて、反応により生成される熱を制御する。さらに、フッ素を用いるフッ素化は、化合物の完全なフッ素化を得るために必要な長い反応時間を必要とする。水素化された化合物のフッ素化は、非常に発熱反応であり、これが炭素−炭素結合を分解して不要な副産物の形成をもたらし得ることが知られている。Fluorine Chemistry; A Comprehensive Treatment, in Kirk Othmer Encyclopedia、第242〜259頁(非特許文献1)を参照されたい。さらに、完全な変換を得るために、そして前駆体分子の全ての水素原子を置換するために、温度を上昇させ、よってより厳しい反応条件を採用することが必要である。このことは、二次分解反応があるので、通常、有用な物質の収率を低下させる。
【0023】
欧州特許1352892号(特許文献9)は、フッ素化されたエステルの分解により得られる、フッ化アシルからのフッ素化されたビニルエーテルを製造する方法を記載する。このスキームは、次のとおりである。
【0024】
【化8】

【0025】
この合成スキームの第二工程において、対応するペルフルオロ化エステルを得る、部分的に水素化された前駆体エステルの完全フッ素化が達成される。部分的にフッ素化されたエステルの完全フッ素化のこの工程は、エステルの全変換に有利なように、非常に長時間で、水素化された化合物、例えばベンゼンを何回も添加して行われる。同時に、反応温度は、例えば−10℃〜室温のように上昇させなければならない。この種類のフッ素化の生産性は、非常に低い。
【0026】
次亜フッ素酸とハロフッ素化オレフィンとの反応によるフルオロハロゲンエーテルの製造方法は、当該技術において知られている。米国特許第4900872号(特許文献10)は、不活性溶媒中で希釈した次亜フッ素酸ペルフルオロアルキルと、式CAIF=CAIIF(式中、AI及びAIIは互いに等しいか又は異なって、Cl及びBrである)を有するハロフッ素化オレフィンとの反応によるフルオロハロゲンエーテルの合成について記載している。この特許の実施例に記載される合成において用いられるオレフィンは、1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエチレン(CFC1112)である。上記のオレフィンの合成は、通常、テトラクロロジフルオロエタンCCl2FCCl2F(CFC112)を、アルコール性溶媒中で金属亜鉛を用いて脱ハロゲン化することにより行われる。例えば、Houben Weyl、第E10 B2巻、第125〜161頁(非特許文献2)を参照。この合成において用いられるCFC112前駆体はクロロフルオロカーボンであり、これは、成層圏のオゾン層を破壊するガス排出の低減についてのモントリオールプロトコル及びその修正案の中に含まれる。これらのプロトコルによると、CFCの排出は、それらが完全に除去されるまで、経時的に徐々に減少しなければならない。工業的には、CFC112は、対称及び非対称の種々のクロロフルオロエタン、主にCFC113(CF2Cl−CFCl2)及びCFC114(CF2Cl−CF2Cl)の混合物の構成要素として得られていた。
【0027】
後者の化合物は、冷媒及び溶媒として用いられる、工業的に興味のあるものである。これらのクロロフルオロエタン混合物の合成方法は、例えば、Adv. Fluorine Chem.3(1963)、「ハロゲン交換による有機フッ素化合物の製造(The preparation of Organic Fluorine Compounds by Halogen Exchange)」、第194〜201頁(非特許文献3)、J. Fluorine Chem.4(1974)、第117〜139頁(非特許文献4)に報告されている。CFC113及びCFC114化合物はもはや用いることができないので、CFC112、さらにはCFC1112も工業的には入手可能でない。
【0028】
さらに、CFC112はCFC112aとの混合物として得られていた。後者の物質は、多量に、時には対称のCFC112よりも数パーセント多く形成されていた。J. Fluorine Chem.4(1974)、第117〜139頁(非特許文献4)を参照。CFC112及びCFC112aは、それぞれ92.8℃及び91.5℃の非常に近い沸点を有する。よって、これらを分別蒸留により互いに分離することは困難である。よって、CFC112をできるだけ純粋に得ることが望まれる場合、この物質はCFC112aと一緒に引き出されて失われるので、低い蒸留収率(distillation yield)となる。CFC1112を得るためのその後の脱塩素化において、CFC112aは、非常に毒性の物質として知られるCFC1112aの形成をもたらすことも留意される。よって、工業的観点から、CFC112aは非常に少量に減らさなければならないが、上記のように、このことは、目的物質であるCFC112の非常に高い損失をもたらす。
【0029】
【特許文献1】米国特許第3450684号明細書
【特許文献2】米国特許第3817960号明細書
【特許文献3】米国特許第3896179号明細書
【特許文献4】米国特許第4340750号明細書
【特許文献5】米国特許第4515989号明細書
【特許文献6】米国特許第5350497号明細書
【特許文献7】米国特許第6255536号明細書
【特許文献8】米国特許第5488142号明細書
【特許文献9】欧州特許1352892号明細書
【特許文献10】米国特許第4900872号明細書
【非特許文献1】Fluorine Chemistry; A Comprehensive Treatment, in Kirk Othmer Encyclopedia、第242〜259頁
【非特許文献2】Houben Weyl、第E10 B2巻、第125〜161頁
【非特許文献3】Adv. Fluorine Chem.3(1963)、「ハロゲン交換による有機フッ素化合物の製造(The preparation of Organic Fluorine Compounds by Halogen Exchange)」、第194〜201頁
【非特許文献4】J. Fluorine Chem.4(1974)、第117〜139頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
よって、従来技術の問題点を克服する、高い収率及び選択性でフルオロハロゲンエーテルを製造する工業的な方法を利用可能とすることの必要性が感じられていた。
【0031】
本出願人は、驚くべきことに、そして予期せぬことに、上記の技術的問題点を克服する方法を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の目的は、一般式:
fO−CF=CF2 (IA)
(式中、Rfはペルフルオロ化されたC1〜C3、好ましくはC1〜C2のアルキル置換基である)
のペルフルオロビニルエーテルを製造する方法であって、以下の工程:
1a)式:
CY’’Y=CY’Cl (II)
(式中、Y、Y’及びY’’は互いに等しいか又は異なって、H、Cl又はBrであるが、但し、Y、Y’及びY’’は同時に水素ではない)
のオレフィンを、フッ素を用いてフッ素化して式:
FCY’’Y−CY’ClF (III)
(式中、Y、Y’及びY’’は上記の意味を有する)
のフルオロハロゲンカーボンを得て;
【0033】
2a)ハロゲン/ハロゲン化水素酸(hydrohalogenic acid)の除去(ここで、ハロゲン/ハライドイオンはCl又はBrである)により、式(III)のフルオロハロゲンカーボンの脱ハロゲン化又は脱ハロゲン化水素を行って、式:
FCYI=CYIIF (IV)
(式中、YI及びYIIは互いに等しいか又は異なって、H、Cl又はBrの意味を有するが、但し、YI及びYIIは同時にHではない)
のフルオロハロゲンオレフィンを得て;
3a)式(IV)のフルオロハロゲンオレフィンを、式RfOF(式中、Rfは上記のとおりである)の次亜フッ素酸と反応させて式:
fO−CFYI−CF2II (I)
(式中、YI及びYIIは互いに等しいか又は異なって、Cl、Br又はHであるが、但しYI及びYIIは同時にHではあり得ない)
のフルオロハロゲンエーテルを得て;
【0034】
4a)式(I)の化合物の脱ハロゲン化又は脱ハロゲン化水素を行って、式(IA)のペルフルオロビニルエーテルを得る
を含む方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本出願人は、驚くべきことに、そして予期せぬことに、本発明の方法を用いると、特にペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロエチルビニルエーテルを高い収率及び選択性で得ることができることを見出した。さらに本発明の方法においては、フルオロハロゲンカーボン(III)が対称有機化合物、つまりY=Cl及びY’=Y’’である場合、対応する非対称異性体が存在する場合にその不純物の量が、2%未満、好ましくは1%未満と非常に低減される。
【0036】
フルオロハロゲンカーボン(III)が、ハロゲンタイプの同じ置換基を有する2つの炭素原子を有する対称有機化合物である場合に、工程2a)を行う前に以下の工程:
5a)式(III)の対称フルオロハロゲンカーボンから、残存非対称異性体を好ましくは蒸留により分離する
を行うことにより、非対称異性体の量をさらに低減させ得る。
【0037】
例えば、工程1a)で得られるCFC112(式(III)においてY’=Cl、Y’’及びYがともにClである)は、非常に低減された量の非対称異性体112a(CCl3−CClF2)を含有し、分別蒸留により除去できる。
【0038】
分離収率(separation yield)、特に蒸留収率は、従来技術の方法に比べて著しく改善されることが見出された。
【0039】
工程1a)において、フッ素化反応は、任意に不活性希釈剤、例えばN2、Heなどの存在下で、反応温度において液体の式(II)のオレフィンへのガス状フッ素の付加により起こる。工程1a)において、この反応が行われる条件下で液体状態で互いに混和性の溶媒又は不活性溶媒の混合物を、任意に用いることができる。
【0040】
工程1a)は、通常、−120℃〜+10℃、好ましくは−90℃〜−15℃の温度で行われる。
【0041】
式(II)のオレフィンは、次から好ましく選択される:テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン及び1,1−ジクロロエチレン。
【0042】
工程2a)において、フルオロハロゲンカーボン(III)の脱ハロゲン化(塩素又は臭素の除去)は、例えば、該化合物を亜鉛、銅、マンガンのような遷移金属、又はZn/Cu、Zn/Sn、Zn/Hgのような金属対(metal couples)と、溶媒、例えば水素化プロトン性溶媒、例えばアルコール又は水素化エーテル、例えばグリム、ジオキサン又は極性非プロトン性溶媒(dipolar aprotic solvents)、例えばDMF、DMSOの存在下で反応させることにより行われる。
【0043】
工程2a)において、式(III)のフルオロハロゲンカーボンの脱ハロゲン化水素(HCl又はHBrの除去)は、例えば、これらの化合物を無機塩基、好ましくはNaOH若しくはKOH又は有機塩基、好ましくは一級、二級若しくは三級のアルキルアミン若しくはアリールアミンと反応させることにより起こる。通常、液相が用いられる。工程2a)におけるハロゲン化水素酸の除去反応は、溶媒、好ましくは水性又はアルコール性の溶媒の存在下で任意に行うことができる。水性の無機塩基(aqueous inorganic base)を用いることにより、反応は、四級アンモニウム塩又はホスホニウム塩、例えばテトラブチルアンモニウム又はテトラブチルホスホニウムの好ましくは塩化物、トリオクチルベンジルアンモニウム又はトリオクチルベンジルホスホニウムの好ましくは塩化物の存在下で行うことができる。あるいは、四級アンモニウム塩又はホスホニウム塩と混合して、その他の塩、例えばスルホニウム塩を用いることができる。
【0044】
工程2a)の脱ハロゲン化又は脱ハロゲン化水素は、0〜150℃、好ましくは25〜100℃の範囲の温度で行われる。
工程2a)で用いることができる式(III)の化合物は、好ましくは次から選択される:CCl2F−CCl2F、CHClF−CHClF、CCl2F−CHClF、CH2F−CCl2F。
【0045】
工程3a)は、反応条件下で不活性な有機溶媒を任意に用いることにより、液相で、−130℃〜0℃、好ましくは−100℃〜−40℃の温度で行われる。
【0046】
2又はそれより多い炭素原子数を有する次亜フッ素酸ペルフルオロアルキルは、米国特許第4827024号から知られている。次亜フッ素酸トリフルオロメチルは、当該技術において知られている。
【0047】
工程3a)は、種々の方法で行うことができる。例えば、反応条件下で不活性な溶媒で任意に希釈した液体状態のオレフィンを含有する反応器に、反応条件下で不活性な化合物中に希釈した、液相又は気相で製造した次亜フッ素酸を供給することにより行われる。
工程3a)で用い得る式(IV)の化合物は、好ましくは、CFCl=CFCl、CHF=CFClである。
【0048】
工程1a)及び3a)で任意に用い得る溶媒は、次から選択される:(ペル)フルオロポリエーテル、(ペル)フルオロアルカン、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、クロロフルオロカーボン(CFC)、ペルフルオロアミン、ヒドロフルオロエーテル若しくはヒドロフルオロポリエーテル又はこれらの混合物。
【0049】
本発明の方法において、種々の工程における反応物の間の比は、重要でない。
【0050】
工程4a)において、式(I)のフルオロハロゲンエーテルからの脱ハロゲン化、すなわち塩素又は臭素の除去は、該化合物を遷移金属、例えば亜鉛、銅、マンガン又は金属対、例えばZn/Cu、Zn/Sn、Zn/Hgと、水素化プロトン性溶媒、例えばアルコール又は水素化エーテル、例えばグリム、ジオキサン又は極性非プロトン性溶媒、例えばDMF、DMSOのいずれかであり得る溶媒の存在下で反応させることにより行われる。
【0051】
工程4a)において、式(I)のフルオロハロゲンエーテルからの脱ハロゲン化水素、すなわちHCl又はHBrの除去は、例えば、該化合物を無機塩基、好ましくはNaOH若しくはKOH又は有機塩基、好ましくは一級、二級若しくは三級のアルキルアミン若しくはアリールアミンと反応させることにより起こる。通常、液相で行われる。工程4a)におけるハロゲン化水素酸の除去反応は、溶媒、好ましくは水性又はアルコール性の溶媒の存在下で任意に行うことができる。水性無機塩基を用いることにより、反応は、四級アンモニウム塩又はホスホニウム塩、例えばテトラブチルアンモニウム又はテトラブチルホスホニウムの好ましくは塩化物、トリオクチルベンジルアンモニウム又はトリオクチルベンジルホスホニウムの好ましくは塩化物などの存在下で行うことができる。あるいは、四級アンモニウム塩又はホスホニウム塩と混合して、その他の塩、例えばスルホニウム塩を用いることができる。
【0052】
工程4a)の脱ハロゲン化又は脱ハロゲン化水素は、通常、0〜150℃、好ましくは25〜100℃の範囲の温度で行われる。
【0053】
本発明の方法において、圧力は重要でなく、大気圧で行うのが好ましい。
本発明の方法は、不連続(discontinuous)、半連続(semicontinuous)又は連続的な様式で行うことができる。
例えば、工程1a)について、半連続方法は、ガス状フッ素及び式(II)のオレフィンを、溶媒又は反応溶媒混合物を含有する反応器に供給することにより行うことができる。
【0054】
工程3a)において、ガス状次亜フッ素酸及び式(III)の化合物を、定常状態に達するまで反応器に供給する連続方法を用いることができる。実際に、反応物は、反応混合物を連続的に抜き取る(drawing)ことにより、既知の流量で反応器に供給される。反応器中の反応物及び反応生成物の濃度が、反応器出口の反応物及び反応生成物の濃度と同じになったときに、定常状態に達する。
【0055】
本発明の方法における好ましい式(I)のフルオロハロゲンエーテルは、例えば次のとおりである:CF3O−CFCl−CF2Cl、C25O−CFCl−CF2Cl、C37O−CFCl−CF2Cl、CF3O−CFH−CF2Cl、C25O−CFH−CFCl、C37O−CFH−CF2Cl。
【0056】
本発明の方法は、それぞれの単独の工程が、反応生成物について高い収率と高い選択性とが組み合わされているので、高い選択性と組み合わされた高い収率を有する。
【0057】
工程2a)で用いるフルオロハロゲンカーボンは、工程1a)において、式(III)の1つの化合物のみを主にもたらす選択的かつ高い収率の方法により、合成される。上記のように、非対称異性体が存在する場合には、ペルフルオロビニルエーテルを製造するための今までの方法に比べて、非対称異性体の量は著しく減少される。
【0058】
本発明の方法を用いて、所望により、ペルフルオロプロピルビニルエーテルを製造することもできる。
【0059】
まとめると、本発明の方法において、次亜フッ素酸ペルフルオロアルキルと塩素化及びフッ化塩素化(chlorofluorinated)されたオレフィンとを用い、特にフッ化塩素化オレフィンは高い純度を有するので、毒性不純物の量が著しく低減されている。例えば、出発オレフィンがCFC1112である場合、CFC1112aの量は非常に低く、例えば2重量%より低く、好ましくは1重量%より低い。よって、本発明の方法は、非常に少量のCFC112aを含有するCFC112の製造を可能にし、よって、高い純度でかつCFC1112aの量が低減されたオレフィンCFC1112を得ることを可能にする。
【実施例】
【0060】
以下の実施例は、本発明を限定せずに説明する。
実施例A
CF3OFの合成
10L/hのガス状フッ素、5L/hのCO及び10L/hの窒素を、AISI316鋼管(内径2.17mm及び長さ100mm)を同時に通過させる。反応を、ガス混合領域を数分間、100℃に加熱することにより誘発する。全ての時間、反応器を空気循環により冷却して、温度を300℃未満にする。反応器出口の温度は250℃である。これらの条件下で、CO及びF2は、95%より高い収率でCOF2に変換される(排出ガス状混合物のIR分析により測定)。
【0061】
ガス状混合物は、100℃に冷却した後、直径0.2mm及び長さ6〜7mmの針状銅300gと混合した0.1mm又はそれ未満の粒子サイズを有する微粉砕無水CsF300gから形成される触媒床を通過させる。触媒は、管状反応器(内径55mm、長さ250mm)に入れる。気体内(among gases)の反応温度は、100℃に維持する。これらの条件下で、COF2は、排出混合物のIR分析による98%より高い収率で、CF3OFに変換される。
【0062】
実施例1
トリクロロエチレンへのフッ素の付加
25.5gのトリクロロエチレン(TCE)及び反応溶媒としての475gのCF3O−CFCl−CF2Clで形成される溶液を、攪拌機を備えた400mLのAISI316反応器に導入する。
低温保持装置により、溶液を−70℃の温度に冷却し、攪拌下に、モル比1/2で窒素を用いて希釈した1モルのフッ素を気泡入口から供給する。同時に、1.07モルのTCEをポンプにより供給する。温度を−70℃に維持しながら、反応物を8時間で供給する。
【0063】
反応の最後に、633gの溶液を排出し、これをGC/MS(質量分析と連結したガスクロマトグラフィー)で分析する。TCEの変換は75%に等しく、CFC122a(CHClF−CCl2F)における選択性は56.7%である。
【0064】
実施例2
実施例1で得られたCFC122a(CHClF−CCl2F)の脱塩素化水素
94%の純度を有する実施例1で得られたCFC122a 90gと、5gの水酸化テトラブチルアンモニウムを、マグネティックスターラー、滴下漏斗、温度計及び水冷凝縮器(water condenser)を備えた250mLの4つ口反応器に導入する。20%NaOH水溶液26gを攪拌下に添加し、H2O及び氷の浴中で発熱を30℃におさえる。水酸化ナトリウムの添加が終了したときに、混合物を30℃にて攪拌下にさらに40分間放置する。これは、10℃に冷却される。最終の混合物は、2つの分離した層を示す。反応混合物を、10℃の温度に維持された分液漏斗に注ぐ。純度99%で、化合物(65g)CFC1112(FCCl=CClF)で形成される、より高い濃度(density)の有機層72gを分離する。変換100%、収率98%。
【0065】
実施例3
不連続様式でのCF3OFのCFC1112への付加
溶媒としてのCFCl3 72.4gと実施例2で得られたCFC1112 5.3gとを、攪拌機を備えた50mLのガラス反応器に導入し、低温浴により−70℃の温度に冷却する。気泡入口を通して、1.6のN2/CF3OFモル比で窒素を用いて希釈したCF3OFを1.0Nl/hで供給する。CF3OFの添加は、10分間行う。
反応の最後に、82gの混合物を排出し、これをGC/MSで分析する。CFC1112の変換は99%に等しく、CF3O−CFCl−CF2Clにおける選択性は90%である。
【0066】
実施例4
半連続的様式でのCF3OFのCFC1112への付加
低温浴により−70℃に冷却した実施例3で用いたのと同じ反応器に、63.7gのCFCl3を導入する。気泡入口を通して、1.6に等しいN2/CF3OFモル比で窒素を用いて希釈したCF3OFを2.0Nl/hで供給する。CF3OFの添加は、4時間行う。
反応の最後に、110gの混合物を排出し、これをGC/MSで分析する。CFC1112の変換は定量的(quantitative)である。CF3O−CFCl−CF2Clにおける収率は98.4%である。
【0067】
実施例5
テトラクロロエチレン(PCE)へのフッ素の付加
反応溶媒としての50.9gのCF3O−CFCl−CF2Clを、実施例3で用いたのと同じ反応器に導入した。反応器を、低温保持装置を用いて−30℃の温度に冷却し、気泡入口により、CF3O−CFCl−CF2Cl溶媒の50重量%PCE溶液を5.04g/hの流量で供給する。同時に、別の気泡入口を通して、2.22Nl/hのガス状フッ素を供給する。フッ素は、1/2のフッ素/窒素のモル比で窒素を用いて希釈して供給する。
反応は3時間行い、最終の溶液をGC/MSにより分析する。PCEの変換は定量的である。CCl2F−CCl2F(CFC112)における、モル%で表される選択性は81%である。反応混合物中に存在するCFC112aの量は、低減されている(CFC112に関して0.5%)。
【0068】
実施例6
実施例5で得られたCCl2F−CCl2F(CFC112)の脱塩素化
3N HCl溶液で洗浄して活性化した粉末亜鉛60.0g、及び500mLのイソプロパノールを、マグネティックスターラー、滴下漏斗、温度計を備え、vigreuxカラム及び水冷凝縮器により、−75℃の温度に維持された冷トラップに連結された1Lの3つ口反応器に、不活性窒素雰囲気下で導入する。内部温度を75℃にする。次いで、実施例5に記載のようにして得られ、純度99%まで分別蒸留により精製した114gのCCl2F−CCl2Fを滴下する。添加が終了したときに、混合物を80℃にて攪拌下に1時間放置する。67.9gのCFC1112を、冷トラップに回収する。CFC1112の収率は、92%に等しい。
【0069】
実施例7
CF3−CF2−CF2OFのCFC1112への付加
次亜フッ素酸CF3−CF2−CF2OFは、米国特許第4827024号の実施例8に従って合成する。
実施例2に記載のようにして得られた121.2gのCFCl=CFCl(CFC1112)及び反応溶媒としての452gのCF2Cl−CF3(CFC115)を予め導入した、実施例1で用いられ−90℃の温度に維持された反応器中に、2.3Nl/hの次亜フッ素酸を供給する。反応を4時間継続し、最終溶液をGC/MSにより分析する。
供給された次亜フッ素酸に対するプロピル付加物CF3−CF2−CF2O−CFCl−CF2Clにおける選択性は、48.1%である。
【0070】
実施例8
CF3−CF2OFのCFC1112への付加
次亜フッ素酸CF3−CF2OFは、米国特許第4827024号の実施例1に従って合成する。
実施例2に記載のようにして得られた15.3gのCFCl=CFCl(CFC1112)、及び100gのCF2Cl−CF3(CFC115)が導入された、攪拌機を備え−90℃の恒温に維持した150mLのAISI316反応器に、2Nl/hの次亜フッ素酸を供給する。反応を3時間行い、最終の溶液をGC/MSにより分析する。
供給した次亜フッ素酸に対するエチル付加物CF3−CF2O−CFCl−CF2Clにおける選択性は、79%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
1a)式:
CY’’Y=CY’Cl (II)
(式中、Y、Y’及びY’’は互いに等しいか又は異なって、H、Cl又はBrであるが、但し、Y、Y’及びY’’は同時に水素ではない)
のオレフィンを、フッ素を用いてフッ素化して式:
FCY’’Y−CY’ClF (III)
(式中、Y、Y’及びY’’は上記の意味を有する)
のフルオロハロゲンカーボンを得て;
2a)式(III)のフルオロハロゲンカーボンの脱ハロゲン化又は脱ハロゲン化水素(ここで、ハロゲン/ハライドイオンはCl又はBrである)を行って、式:
FCYI=CYIIF (IV)
(式中、YI及びYIIは互いに等しいか又は異なって、H、Cl又はBrの意味を有するが、但し、YI及びYIIは同時にHではない)
のフルオロハロゲンオレフィンを得て;
3a)式(IV)のフルオロハロゲンオレフィンを、式RfOF(式中、Rfはペルフルオロ化されたC1〜C3、好ましくはC1〜C2のアルキル置換基である)の次亜フッ素酸と反応させて式:
fO−CFYI−CF2II (I)
(式中、YI及びYIIは互いに等しいか又は異なって、Cl、Br又はHであるが、但しYI及びYIIは同時にHではあり得ない)
のフルオロハロゲンエーテルを得て;
4a)式(I)の化合物の脱ハロゲン化又は脱ハロゲン化水素を行って、一般式(IA):
fO−CF=CF2 (IA)
(式中、Rfは上記のとおりである)
のペルフルオロビニルエーテルを得る
を含む、式(IA)のペルフルオロビニルエーテルを製造する方法。
【請求項2】
工程1a)において、前記フルオロハロゲンカーボン(III)が、Y=Cl及びY’=Y’’の対称有機化合物であり:
5a)式(III)の対称のフルオロハロゲンカーボンから、非対称異性体を好ましくは蒸留により分離する
工程を行うことにより、非対称異性体の不純物が低減される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程1a)において、前記フッ素化反応が、任意に不活性希釈剤の存在下で、反応温度にて液体の式(II)のオレフィンにガス状フッ素を加えることにより行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
液体状態の溶媒又は不活性溶媒混合物が用いられる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程1a)が、−120℃〜+10℃、好ましくは−90℃〜−15℃の間の温度で行われる請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
式(II)の前記オレフィンが、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン及び1,1−ジクロロエチレンから選択される請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
工程2a)において、前記脱ハロゲン化が、水素化プロトン性溶媒又は水素化エーテル溶媒又は極性非プロトン性溶媒の存在下で、遷移金属、好ましくは亜鉛、銅若しくはマンガン、又は好ましくはZn/Cu、Zn/Sn及びZn/Hgから選択される金属対との反応により行われる請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
工程2a)において、前記脱ハロゲン化水素が、式(III)のフルオロハロゲンカーボンを無機塩基又は有機塩基と反応させることにより行われる請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
水性の無機塩基を用いる場合、前記反応が、四級アンモニウム塩の存在下、又はホスホニウム塩及び/又はスルホニウム塩の存在下で行われる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程2a)が、0〜150℃、好ましくは25〜100℃の範囲の温度で行われる請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
工程2a)で用いることができる前記化合物(III)が、CCl2F−CCl2F、CHClF−CHClF、CCl2F−CHClF、CH2F−CCl2Fから選択される請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
工程3a)が、任意に有機溶媒の存在下で、−130℃〜0℃、好ましくは−100℃〜−40℃の間の温度で液相において行われる請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
工程3a)が、反応条件下で不活性な溶媒で任意に希釈していてもよい液体状態の前記オレフィンを含む反応器に、反応条件下で不活性な化合物中に希釈した、液相又は気相で製造した次亜フッ素酸を供給することにより行われる請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
工程3a)において、前記化合物(IV)が、CFCl=CFCl及びCHF=CFClから選択される請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
工程1a)及び3a)において、次から選択される溶媒:(ペル)フルオロポリエーテル、(ペル)フルオロアルカン、HFC、HCFC、CFC、ペルフルオロアミン、ヒドロフルオロエーテル若しくはヒドロフルオロポリエーテル又はこれらの混合物が用いられる請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
工程4a)において、前記脱ハロゲン化が、水素化プロトン性溶媒又は水素化エーテル溶媒又は極性非プロトン性溶媒の存在下で、遷移金属、好ましくは亜鉛、銅若しくはマンガン、又は好ましくはZn/Cu、Zn/Sn及びZn/Hgから選択される金属対との反応により行われる請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
工程4a)において、前記脱ハロゲン化水素が、無機塩基又は有機塩基との反応により行われる請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
水性の無機塩基を用いる場合、前記反応が、四級アンモニウム塩の存在下、又はホスホニウム塩及び/又はスルホニウム塩の存在下で行われる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程4a)が、0〜150℃、好ましくは25〜100℃の範囲の温度で行われる請求項1〜18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
不連続、半連続又は連続的な様式で達成できる請求項1〜19のいずれか1つに記載の方法。

【公開番号】特開2007−169276(P2007−169276A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336065(P2006−336065)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(503023047)ソルヴェイ ソレクシス エス.ピー.エー. (40)
【氏名又は名称原語表記】Solvay Solexis S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Turati 12 − MILANO,Italy
【Fターム(参考)】