説明

フルベストラント製剤

本発明は、1種以上のプロピレングリコールまたは製薬上許容されるポリエチレングリコールを含む新規なフルベストラント製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルベストラントを含む新規な製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フルベストラント(7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5-(10)-トリエン-3,17-β-ジオール)は、エストロゲン受容体アンタゴニストである。フルベストラントの分子構造は、式Iによって示される。
【化1】

【0003】
フルベストラントは、ホルモン受容体陽性乳癌の治療に用いられる。ホルモン受容体陽性腫瘍は、エストロゲン等のホルモンレベルに反応する。このタイプの腫瘍の増殖は、細胞内ホルモン受容体に結合することによって腫瘍の増殖を刺激するホルモンの存在に依存するため、ホルモン受容体アンタゴニストを投与して増殖シグナル経路を遮断することが望ましい。フルベストラント等のエストロゲン受容体アンタゴニストの投与により、ホルモン受容体陽性腫瘍におけるエストロゲン受容体の下方制御が生じ、それによって、エストロゲン結合活性の効果が妨げられる。
【特許文献1】米国特許5,183,814号
【特許文献2】WO 01/51056
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フルベストラント製剤は、筋肉内投与される。筋肉内投与製剤は、比較的少量しか注入され得ないため、高濃度の活性体を有する必要がある。フルベストラントは、その親油性のために多くの製薬上許容される溶媒に低い溶解性を有し、それゆえ、適切な濃度で配合することが難しい。ヒマシ油及びベンジルアルコール等のアルコールを含む製剤が、米国特許5,183,814号に記載されている。しかし、WO 01/51056には、この製剤に必要とされるアルコールの大部分は、大規模な製造工程において好ましくないことが記載されている。さらに、筋肉注射用の製剤における高濃度のアルコールは、注射後の被験者が受ける痛みを増大させる。
【0005】
アルコール及び非水性エステル溶媒とともにヒマシ油を含む製剤が、WO 01/51056に記載されている。アルコール及び非水性エステル溶媒は、フルベストラントの全体的溶解度を増大させ、製剤中に使用されるアルコール量を減少させ、それによって、投与量が治療上許容されることが主張されている。WO 01/51056によれば、さらなる利点は、アルコール含量の低下であり、製造可能性をより容易にする。好ましいアルコールは、エタノール及びベンジルアルコールであり、好ましい非水性エステル溶媒は、ベンジルベンゾエート、エチルオレエート、イソプロピルミリステート、及びイソプロピルパルミテートである。非水性エステル溶媒の添加は、少なくとも45mg/mLのフルベストラント製剤及び6mL以下の製剤総量を達成するのに必須であることが教示されている。WO 01/51056には、現在のガイドラインは、1回の注射で多くて5mLの液体が筋肉注射されるべきであると勧告していることが記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、本発明者らは、筋肉内に用いられるのに十分な高濃度を有し、それによって、非水性エステル溶媒の必要性を排除した新規なフルベストラント製剤において、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールを使用することができることを見出した。これらの新規な製剤は、製薬製剤に適した安定性を示し、それゆえ、フルベストラントの代替的製剤を提供する。
【0007】
第一の態様において、本発明は、
(i)フルベストラントまたは製薬上許容されるその塩;及び
(ii)製薬上許容されるフルベストラント誘導体または製薬上許容されるその塩;
から選択される活性化合物;
少なくとも1種の製薬上許容されるアルコール;
少なくとも1種のプロピレングリコールまたは製薬上許容されるポリエチレングリコール;並びに
ヒマシ油キャリア;
を含む製剤を提供する。
【0008】
第二の態様において、本発明は、本発明の第一の態様による製剤を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、ホルモン受容体陽性腫瘍の治療方法を提供する。
【0009】
第三の態様において、本発明は、(a)活性化合物を少なくとも1種のアルコールと混合する工程;(b)少なくとも1種のプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールを添加する工程;及び(c)必要とされる容量をヒマシ油で補う工程を含む、本発明の第一の態様による製剤の調製方法を提供する。
【0010】
第四の態様において、本発明は、
(a)(i)フルベストラントまたは製薬上許容されるその塩;及び
(ii)製薬上許容されるフルベストラント誘導体または製薬上許容されるその塩;
から選択される約5%w/wの活性化合物;
(b)10%w/wのエタノール;
(c)10%w/wのベンジルアルコール;
(d)15%w/wのPEG 300;並びに
(e)必要とされる重量を補うためのヒマシ油;
を含む製剤を提供する。
【0011】
第一の態様において、本発明は、
(i)フルベストラントまたは製薬上許容されるその塩;及び
(ii)製薬上許容されるフルベストラント誘導体または製薬上許容されるその塩;
から選択される活性化合物;
少なくとも1種の製薬上許容されるアルコール;
少なくとも1種のプロピレングリコールまたは製薬上許容されるポリエチレングリコール;並びに
ヒマシ油キャリア;
を含む製剤を提供する。
【0012】
好ましくは、有効量の活性化合物の濃度は、2〜10%w/wである。より好ましくは、有効量の活性化合物の濃度は、5%w/wである。
【0013】
「有効量の活性化合物」によって、本発明者らは、活性化合物が製薬上許容されるフルベストラント誘導体、製薬上許容されるフルベストラントの塩、またはフルベストラント誘導体の製薬上許容される塩である条件において、フルベストラントに起因する活性化合物の質量による割合を意味する。
【0014】
好ましくは、製薬上許容されるアルコールは、エタノール、ベンジルアルコール、またはそれらの混合物からなる群から選択される。好ましい実施態様において、エタノールの濃度は、8〜15%w/wの範囲にある。より好ましくは、エタノールの濃度は10%w/wである。さらに別の好ましい実施態様において、ベンジルアルコールの濃度は、5〜15%w/wの範囲にある。より好ましくは、ベンジルアルコールの濃度は10%w/wである。より好ましくは、アルコールは、エタノールとベンジルアルコールの混合物である。好ましくは、エタノールとベンジルアルコールの混合物の濃度は、15〜25%w/wの範囲にあり、より好ましくは、その濃度は20%w/wである。
【0015】
好ましくは、製薬上許容されるポリエチレングリコールは、PEG-200、PEG-300、PEG-400、及びPEG-600からなる群から選択される。より好ましくは、ポリエチレングリコールはPEG-300である。好ましい実施態様において、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールの濃度は、10〜20%w/wの範囲にあり、より好ましくは、その濃度は15%w/wである。
【0016】
第二の態様において、本発明は、本発明の第一の態様による製薬上許容される製剤を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、ホルモン受容体陽性腫瘍の治療方法を提供する。
【0017】
投与は、任意の適切な方法によるものであってよいが、好ましくは筋肉注射によるものである。
【0018】
好ましくは、ホルモン受容体陽性腫瘍は乳癌である。
【0019】
第三の態様において、本発明は、(a)フルベストラントを少なくとも1種のアルコールと混合する工程;(b)少なくとも1種のプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールを添加する工程;及び(c)必要とされる容量をヒマシ油で補う工程を含む、本発明の第一の態様による製薬上許容される製剤の調製方法を提供する。
【0020】
第四の態様において、本発明は、
(a)(i)フルベストラントまたは製薬上許容されるその塩;及び
(ii)製薬上許容されるフルベストラント誘導体または製薬上許容されるその塩;
から選択される約5%w/wの活性化合物;
(b)10%w/wのエタノール;
(c)10%w/wのベンジルアルコール;
(d)15%w/wのPEG 300;並びに
(e)必要とされる重量を補うためのヒマシ油;
を含む製剤を提供する。
【0021】
ここで、本発明の性質がより明確に理解されるように、その好ましい形態を以下の非制限的実施例を参照して記載する。
【実施例】
【0022】
<実施例1:一般的な製剤方法>
表1及び2は、本発明による製剤を開示している。
【0023】
総量50グラムを有する製剤のための一般的な製剤の調製方法は以下のとおりである。フルベストラント(2.5g、5%w/w)を、制御された速度且つ剪断機(shear)の下で、特定の製剤用に定義された量のエタノール及びベンジルアルコールと混合する。次いで、特定の製剤用に定義された量のポリオールまたはポリエチレングリコールを、アルコールとフルベストラントの混合の約15分後に添加する。この混合物を、さらに15〜20分間混合する。次いで、ヒマシ油で配合物を50g(100%w/w)に補い、剪断機下で配合物を混合する。
【0024】
この明細書に包含される活性化合物に関して、同様の一般的方法を用いた。
【0025】
表1:PEG-300製剤
【表1】

【0026】
表2:プロピレングリコール製剤
【表2】

【0027】
<実施例2:1ヶ月安定性の結果>
本発明のフルベストラント製剤の安定性を1ヶ月の時点で測定した。安定性テストは、各製剤に対して、それぞれ40℃、室温、及び2〜8℃で実施された。フルベストラントのパーセンテージは、HPLC分析によって測定された。結果を表3及び4に示す。
【0028】
革新的製品ファスロデックス(Faslodex)との比較も行い、その結果を表5に示す。ファスロデックスは、筋肉注射用の制御された徐放フルベストラント製剤である。製剤キャリアは、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート(非水性エステル溶媒)、及びエタノールの賦形剤とヒマシ油である。
【0029】
結果は、従来の製剤の安定性と本発明の製剤の安定性との間に、有意な差がないことを示している。
【0030】
<実施例3:4ヶ月半後の安定性試験>
1ヶ月の安定性試験においてテストされたすべての製剤(ファスロデックス製剤を含む)を、4ヶ月半後にもテストした。すべての製剤は極めて安定であることが分かった。さらに、賦形剤は外観検査に対して安定であり、試験されたいずれの製剤においても有意な量のベンズアルデヒド(ベンジルアルコールの分解産物)は検出されなかった。
【0031】
<HPLC分析>
HPLC分析を、以下のパラメーターを用いて実施した。
カラム:オルテックプラチナ、シアノ、5μm、4.6×250mm
カラム温度:50±2℃
サンプル温度:5±2℃
検出器波長:220nm
流速:1.5mL/分
注入量:10μL
サンプル濃度:5mg/mL
API保持時間:〜23分間
総稼働時間:45分間
希釈剤:n-ヘキサン中に30%(v/v)のn-プロパノール
【0032】
表3:PEG-300製剤についての1ヶ月安定性試験のHPLC結果
【表3】

【0033】
表4:プロピレングリコール製剤についての1ヶ月安定性試験のHPLC結果
【表4】

【0034】
表5:ファスロデックス製剤についての1ヶ月安定性試験のHPLC結果
【表5】

【0035】
本明細書を通して、用語「含む」は、記載された要素、整数、または工程、あるいは要素群、整数群、工程群の含有を意味するが、任意の他の要素、整数、または工程、あるいは要素群、整数群、工程群の排除を意味するのではないと解されるであろう。
【0036】
本明細書において言及されているすべての出版物を、参照によって本明細書中に取り込む。本明細書に含まれている文献、行為、材料、装置、商品等についてのいずれかの議論は、本発明のための状況を提供する目的のためだけのものである。それは、これらの事柄のいずれかまたはすべてが先行技術の基礎の一部を形成している、あるいは本出願の各請求項の優先日前にオーストラリアまたは他のどこかに存在していた本発明に関連する分野における共通の一般的知識であったということを承認するものとして理解されるべきでない。
【0037】
広範囲に記載されている本発明の精神または範囲から離れることなく、特定の実施態様に示される本発明に対して、多くの変更及び/または修正がなされてもよいことは、当業者に理解されるであろう。従って、本実施態様は、すべての点において、説明に役立つものであり制限的なものでないとみなされる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)フルベストラントまたは製薬上許容されるその塩;及び
(ii)製薬上許容されるフルベストラント誘導体または製薬上許容されるその塩;
から選択される活性化合物;
少なくとも1種の製薬上許容されるアルコール;
少なくとも1種のプロピレングリコールまたは製薬上許容されるポリエチレングリコール;並びに
ヒマシ油キャリア;
を含む製剤。
【請求項2】
プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールが当該製剤の10〜20%w/wの範囲にある、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールが当該製剤の15%w/wである、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
ポリエチレングリコールが、PEG-200、PEG-300、PEG-400、及びPEG-600からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項5】
ポリエチレングリコールがPEG-300である、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
製薬上許容されるアルコールが、エタノール、ベンジルアルコール、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項7】
製薬上許容されるアルコールがエタノールである、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
エタノールが当該製剤の8〜15%w/wの範囲にある、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
エタノールが当該製剤の10%w/wである、請求項7に記載の製剤。
【請求項10】
製薬上許容されるアルコールがベンジルアルコールである、請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
ベンジルアルコールが当該製剤の5〜15%w/wの範囲にある、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
ベンジルアルコールが当該製剤の10%w/wである、請求項10に記載の製剤。
【請求項13】
製薬上許容されるアルコールがエタノールとベンジルアルコールの混合物である、請求項6に記載の製剤。
【請求項14】
混合物が当該製剤の15〜25%w/wの範囲にある、請求項6に記載の製剤。
【請求項15】
混合物が当該製剤の20%w/wである、請求項6に記載の製剤。
【請求項16】
有効量の活性化合物が当該製剤の2〜10%w/wの範囲にある、請求項1から16のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項17】
有効量の活性化合物が当該製剤の5%w/wである、請求項1から16のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項18】
(a)(i)フルベストラントまたは製薬上許容されるその塩;及び
(ii)製薬上許容されるフルベストラント誘導体または製薬上許容されるその塩;
から選択される約5%w/wの活性化合物;
(b)10%w/wのエタノール;
(c)10%w/wのベンジルアルコール;
(d)15%w/wのPEG 300;並びに
(e)必要とされる重量を補うためのヒマシ油;
を含む製剤。

【公表番号】特表2009−509942(P2009−509942A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531488(P2008−531488)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【国際出願番号】PCT/AU2006/001399
【国際公開番号】WO2007/033434
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(506068324)ホスピラ・オーストラリア・ピーティーワイ・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】