説明

フレキシブル光導波路およびその製造方法

【課題】接着剤などを用いることなく、基板上に光導波路フィルムを直接形成することが可能であり、基板を含めて光導波路フィルムの可撓性および基板と光導波路フィルムとの接着性に優れたフレキシブル光導波路、ならびに、その簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】フレキシブル光導波路は、基板上に順次形成された下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を有しており、下部クラッド層を形成する基板の表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上である。このフレキシブル光導波路は、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施した後、この表面上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を順次形成することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル光導波路およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムの実用化に伴い、その基本構成としての光導波路に関する技術が注目を集めている。光導波路とは、代表的には、屈折率が高いコア層を屈折率が低いクラッド層が取り囲んだ埋め込み型構造をなすか、あるいは、屈折率が低い下部クラッド層の上に屈折率が高いコア層を形成し、上部クラッド層を空気層としたリッジ型構造をなし、光導波路のコア層に入射した光は該コア層と該クラッド層との界面や該コア層と該空気層との界面で反射しながら該コア層中を伝播する。
【0003】
最近、光導波路と電子回路とを1枚の基板上に混載した光電気混載モジュールが開発されている。例えば、特許文献1には、光導波路フィルムを多層配線基板に接着剤で貼り付けた光電子配線基板が開示されている。また、特許文献2には、透明基板上に形成された光導波路部品を電子回路基板上に接着剤で貼り付けた光配線基板が開示されている。さらに、特許文献3には、光導波路フィルムを電子回路基板上に接着剤で貼り付けた光電気混載基板が開示されている。
【0004】
しかし、このように光導波路フィルムを電子回路基板に接着剤で貼り付けた光電気混載モジュールは、湿熱試験時に電子回路基板と光導波路フィルムとが容易に剥離するという問題点がある。また、電子回路基板に実装された発光素子から出射された光を光導波路に導くためには、この光が接着剤層を通過する必要があり、このとき、光導波路フィルムと接着剤層とにおける屈折率の不整合から光散乱を起こし、透過損失が大きくなるという問題点もある。さらに、光電気混載モジュールがある程度の可撓性を有していても、接着剤層が存在すると、折り曲げに弱く、折り曲げ試験時に電子回路基板と光導波路フィルムとが容易に剥離するという問題点もある。
【0005】
そこで、特許文献4には、光導波路の下部クラッド層、コア層および上部クラッド層となるエポキシ系樹脂フィルムを予め作製し、ポリイミド銅張基板上に、これらのエポキシ系樹脂フィルムを順次真空ラミネートした後、硬化させることにより、接着剤などを用いることなく、電子回路基板上に光導波路フィルムを直接形成した光電気混載フレキシブルモジュールが開示されている。
【特許文献1】特開2001−15889号公報
【特許文献2】特開2002−189137号公報
【特許文献3】特開2004−341454号公報
【特許文献4】特開2006―22317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献4に開示されている光電気混載フレキシブルモジュールでは、光導波路の下部クラッド層、コア層および上部クラッド層となるエポキシ系樹脂フィルムを別途作製し、ポリイミド銅張基板上に各エポキシ系樹脂フィルムを真空ラミネートした後、硬化させてベースフィルムを剥離する必要があるので、製造工程が煩雑であり、製造コストが高くなるという問題点がある。
【0007】
それゆえ、光電気混載フレキシブルモジュールを簡便に製造することを可能にするフレキシブル光導波路であって、接着剤などを用いることなく、基板上に光導波路フィルムを直接形成したフレキシブル光導波路およびその簡便な製造方法が求められている。
【0008】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、接着剤などを用いることなく、基板上に光導波路フィルムを直接形成することが可能であり、基板を含めて光導波路フィルムの可撓性および基板と光導波路フィルムとの接着性に優れたフレキシブル光導波路、ならびに、その簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々検討の結果、基板上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層が順次形成されたフレキシブル光導波路において、基板上に下部クラッド層を形成する前に、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施すことにより、この表面の算術平均粗さRaを0.03μm以上にすれば、基板を含めて光導波路フィルムの可撓性および基板と光導波路フィルムとの接着性に優れたフレキシブル光導波路が簡便に得られることを見出して、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、基板上に形成された下部クラッド層と、該下部クラッド層上に形成されたコア層と、該コア層を埋め込むように該下部クラッド層および該コア層上に形成された上部クラッド層とを有するフレキシブル光導波路であって、該下部クラッド層を形成する該基板の表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上であることを特徴とするフレキシブル光導波路を提供する。
【0011】
本発明のフレキシブル光導波路において、前記基板と前記下部クラッド層との間のピール強度は、好ましくは、130N/m以上である。また、前記基板は、好ましくは、ポリイミドフィルムである。
【0012】
また、本発明は、上記のようなフレキシブル光導波路を製造する方法であって、基板上に下部クラッド層を形成する工程と、該下部クラッド層上にコア層を形成する工程と、該コア層を含めて該下部クラッド層上に上部クラッド層を形成する工程とを包含し、該基板上に該下部クラッド層を形成する工程の前に、該下部クラッド層を形成する該基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施すことを特徴とするフレキシブル光導波路の製造方法を提供する。
【0013】
本発明によるフレキシブル光導波路の製造方法において、好ましくは、前記基板上にUV硬化型エポキシ樹脂を塗布した後、紫外線照射を行って硬化させることにより、前記下部クラッド層を形成する。また、前記基板は、好ましくは、ポリイミドフィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフレキシブル光導波路は、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施すことにより、この表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上であるので、基板と下部クラッド層との間のピール強度が高く、例えば、半径2mmで±90度に連続して室温で10万回以上折り曲げても、剥離や破断などが発生しない。これは、フレキシブル光導波路を折り曲げた際に、たとえ微細なクラックが生じても、基板と下部クラッド層との間の接着性が高いので、生じたクラックが大きく拡がることがないからである。また、ポリイミドフィルムを基板に用いれば、ポリイミドフィルムは可撓性および耐熱性に優れるので、フレキシブル光導波路から光電気混載フレキシブルモジュールを作製することができる。
【0015】
本発明によるフレキシブル光導波路の製造方法は、基板と下部クラッド層との間に接着剤層などを設ける工程が必要なく、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施した後、この表面上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を順次形成するだけであるので、基板上に光導波路フィルムを簡便に形成することが可能であり、製造コストの大幅な低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
≪フレキシブル光導波路≫
本発明のフレキシブル光導波路は、基板上に形成された下部クラッド層と、該下部クラッド層上に形成されたコア層と、該コア層を埋め込むように該下部クラッド層および該コア層上に形成された上部クラッド層とを有するフレキシブル光導波路であって、該下部クラッド層を形成する該基板の表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明のフレキシブル光導波路は、基板上に光導波路フィルムが形成されている。すなわち、基板上に、下部クラッド層を構成する樹脂フィルム、コア層を構成する樹脂フィルム、および、上部クラッド層を構成する樹脂フィルムが順次形成されている。なお、本発明のフレキシブル光導波路は、必要に応じて、上部クラッド層の上側に、例えば、保護フィルム、剥離フィルムなどを有していてもよい。
【0018】
本発明のフレキシブル光導波路の代表例を図1に示す。本発明のフレキシブル光導波路は、この代表例に限定されるものではなく、その構成を適宜変更することができる。図1に示すように、基板1上には、まず、下部クラッド層2が形成されている。下部クラッド層2は、接着剤層などを介在することなく、基板1上に直接接着している。ただし、下部クラッド層2を形成する基板1の表面は、予め砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施されており、この表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上である。そして、下部クラッド層2上には、コア層3が形成されている。
【0019】
次に、下部クラッド層2上には、コア層3を埋め込むように、上部クラッド層4が形成されている。コア層3および上部クラッド層4は、接着剤層などを介在することなく、下部クラッド層2上に直接接着している。ここで、基板1、下部クラッド層2、コア層3および上部クラッド層4は、それぞれ、各種の樹脂フィルムから構成されている。なお、図1において、コア層3は、1個しか形成されていないが、フレキシブル光導波路の用途などに応じて、2個またはそれ以上形成されていてもよい。また、コア層3は、紙面に対して垂直方向に伸びる直線状に形成されているが、フレキシブル光導波路の用途などに応じて、所定のパターン状に形成されていてもよい。
【0020】
本発明のフレキシブル光導波路の他の代表例を図2に示す。本発明のフレキシブル光導波路は、この代表例に限定されるものではなく、その構成を適宜変更することができる。図2に示すように、基板1上には、まず、コア層用の溝を有する下部クラッド層2が形成されている。下部クラッド層2は、接着剤層などを介在することなく、基板1上に直接接着している。ただし、下部クラッド層2を形成する基板1の表面は、予め砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施されており、この表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上である。そして、下部クラッド層2に形成されたコア層用の溝の内部には、コア層3が形成されている。
【0021】
次に、下部クラッド層2上には、コア層3を埋め込むように、上部クラッド層4が形成されている。上部クラッド層4は、接着剤などを介在することなく、下部クラッド層2およびコア層3上に直接接着している。ここで、基板1、下部クラッド層2、コア層3および上部クラッド層4は、それぞれ、各種の樹脂フィルムから構成されている。なお、図2において、コア層3は、1個しか形成されていないが、フレキシブル光導波路の用途などに応じて、2個またはそれ以上形成されていてもよい。また、コア層3は、紙面に対して垂直方向に伸びる直線状に形成されているが、フレキシブル光導波路の用途などに応じて、所定のパターン状に形成されていてもよい。
【0022】
<基板>
本発明のフレキシブル光導波路において、基板を構成する樹脂フィルムは、可撓性を有する限り、特に限定されるものではない。具体的には、従来公知の光導波路用材料、例えば、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルニトリル系樹脂、オキセタン系樹脂、シラン系樹脂、シリコーン系樹脂などから構成される樹脂フィルムを用いることができる。これらの樹脂フィルムのうち、光電気混載フレキシブルモジュールの作製を考慮すると、耐熱性(特に、半田付けを想定した耐熱性、具体的には200〜250℃の耐熱性)の観点からは、ポリイミド系樹脂から構成されるフィルム、すなわちポリイミドフィルム(ハロゲン化ポリイミドフィルムを含む)が好ましい。
【0023】
基板を構成する樹脂フィルムがポリイミドフィルムである場合、このポリイミドフィルムは、例えば、シリコン基板や石英ガラスなどの基材上に、基板材料として、ポリアミド酸組成物を塗布した後、加熱処理または減圧乾燥を行って硬化させることにより形成される。ポリアミド酸組成物は、有機溶媒中でジアミン化合物とテトラカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミド酸を配合することにより調製される。なお、ポリアミド酸組成物には、ポリイミドフィルムの比誘電率を低下させるために、フッ素含有アルコキシシランを配合してもよい。また、ポリアミド酸組成物には、ポリイミドフィルムの屈折率を調節するために、金属酸化物前駆体、該前駆体から金属酸化物を生成させるための反応の溶媒、および/または、反応性基を有するカップリング剤を配合してもよい。このようなポリアミド酸組成物を用いれば、可撓性および耐熱性に優れたポリイミドフィルムが得られる。ポリイミドフィルムは、フレキシブル光導波路の基板として用いた場合、特に優れた性能を発揮する。
【0024】
あるいは、基板を構成するポリイミドフィルムとして、市販品を利用してもよい。ポリイミドフィルムの市販品としては、例えば、東レ・デュポン株式会社の商品名「カプトン(登録商標)」シリーズなどが挙げられる。
【0025】
なお、基板を構成する樹脂フィルムがポリイミドフィルムである場合、ポリイミドフィルムから構成される基板は、耐熱性に優れるので、フレキシブル光導波路から光電気混載フレキシブルモジュールを作製することができる。この場合、通常のポリイミドフィルムに代えて、電気配線付きポリイミドフィルムを用いて、フレキシブル光導波路を作製し、発光素子および/または受光素子を実装する部分をダイシングソーでV字状に切断して45°ミラーを形成すればよい。
【0026】
基板を構成する樹脂フィルムの厚さは、フレキシブル光導波路の用途や、光電気混載フレキシブルモジュールを製造した場合に使用する光の波長などに応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。具体的には、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。基板を構成する樹脂フィルムの厚さが小さすぎると、基板の強度が低下することがある。逆に、基板を構成する樹脂フィルムの厚さが大きすぎると、フレキシブル光導波路の可撓性が低下することや、光電気混載フレキシブルモジュールを製造した場合に、基板の光透明性が低下することがある。
【0027】
本発明のフレキシブル光導波路において、下部クラッド層を形成する基板の表面は、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施されており、この表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上である。下部クラッド層を形成する基板の表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上であることにより、基板と下部クラッド層との接着性が向上して、ピール強度が高くなり、例えば、フレキシブル光導波路を半径2mmで±90度に連続して室温で10万回以上折り曲げても、剥離や破断などが発生しないという顕著な効果を奏する。
【0028】
下部クラッド層を形成する基板の表面の算術平均粗さRaは、0.03μm以上であるが、好ましくは0.04μm以上、より好ましくは0.05μm以上であり、また、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下である。基板の表面の算術平均粗さRaが小さすぎると、基板と下部クラッド層との間の接着性が低下して、ピール強度が低くなり、フレキシブル光導波路を折り曲げた際に、剥離や破断などが発生することがある。逆に、基板の表面の算術平均粗さRaが大きすぎると、例えば、光電気混載フレキシブルモジュールを製造した場合に、基板と下部クラッド層との間を通過する光が散乱して、透過損失が大きくなることがある。ここで、「算術平均粗さRa」は、JIS B0601:2001に定義され、例えば、触針式表面形状測定器(アルバック・イーエス株式会社製、商品名「Dektak(登録商標)6M」)を用いて測定された値である。
【0029】
基板と下部クラッド層との間のピール強度は、好ましくは130N/m以上、より好ましくは140N/m以上、さらに好ましくは150N/m以上である。基板と下部クラッド層との間のピール強度が小さすぎると、フレキシブル光導波路を折り曲げた際に、剥離や破断が発生することがある。また、基板と下部クラッド層との間のピール強度は、好ましくは1,000N/m以下、より好ましくは800N/m以下、さらに好ましくは500N/m以下である。ここで、「ピール強度」は、JIS K6894 8.6.3に準拠して、例えば、引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名「EZ−test−100N」)を用いて測定した値である。
【0030】
砥石による物理処理は、従来公知の砥石を用いて行えばよく、特に限定されるものではないが、下部クラッド層を形成する基板の表面の算術平均粗さRaを0.03μm以上、好ましくは0.5μm以下にするには、好ましくは#1000番以上、より好ましくは#2000番以上、さらに好ましくは#3000番以上であり、また、好ましくは#10000番以下、より好ましくは#9000番以下、さらに好ましくは#8000番以下の番手を有する砥石を用いる必要がある。これらの砥石は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。砥石の番手が小さすぎると、砥石の粒度が粗いので、基板を構成する樹脂フィルムの表面の凹凸が大きくなり、例えば、光電気混載フレキシブルモジュールを製造した場合に、基板と下部クラッド層との間を通過する光が散乱して、透過損失が大きくなることがある。逆に、砥石の番手が大きすぎると、砥石の粒度が細かいので、基板を構成する樹脂フィルムの表面の凹凸が小さくなり、基板と下部クラッド層との間の接着性が低下して、ピール強度が低くなり、フレキシブル光導波路を折り曲げた際に、剥離や破断などが発生することがある。
【0031】
砥石の形状は、基板を構成する樹脂フィルムの表面に凹凸を形成するのに適した形状である限り、特に限定されるものではない。例えば、研削材を矩形に成形した砥石、矩形の支持体の表面に研削材を添着した砥石、研削材を円柱状、円筒状または円盤状に成形した砥石、円柱状、円筒状または円盤状の支持材の外周端面に研削材を添着した砥石、シート状の基材の片面または両面に研削材を添着した砥石などが挙げられる。
【0032】
砥石による物理処理の方法は、基板を構成する樹脂フィルムの表面に凹凸を形成することができる限り、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、基板を構成する樹脂フィルムの表面に矩形またはシート状の砥石を接触させ、この砥石を摺動させたり、基板を構成する樹脂フィルムに円柱状、円筒状または円盤状の砥石の外周端面を接触させ、この樹脂フィルムを摺動させたりすることなどが挙げられる。生産効率の観点からは、基板となるロール状の樹脂フィルムを連続的に引き出して走行させながら、円柱状、円筒状または円盤状の砥石の外周端面を接触させることにより、この樹脂フィルムの表面に凹凸を形成することが好ましい。
【0033】
コロナ放電による化学処理は、従来公知のコロナ放電装置を用いて行えばよく、特に限定されるものではない。コロナ放電装置は、高周波高電圧を利用し、大気中にコロナ放電を発生させ、それにより生成される大気イオンや高速電子を基材の表面に照射することにより、基材の表面処理を行う装置である。
【0034】
コロナ放電による化学処理の方法は、基板を構成する樹脂フィルムを表面処理することができる限り、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、従来公知のコロナ放電装置を用いて、接地電極上に、基板を構成する樹脂フィルムを載置し、接地電極と樹脂フィルムに対向する放電電極との間に高周波高電圧を印加して、コロナ放電を発生させることが挙げられる。生産効率の観点からは、基板となるロール状の樹脂フィルムを連続的に引き出して走行させながら、ロール状の接地電極の外周端面に沿わせながら、接地電極となるロールと、このロール上の樹脂フィルムに対向する放電電極との間に、高周波高電圧を印加して、コロナ放電を発生させることにより、樹脂フィルムの表面処理を行うことが好ましい。
【0035】
<光導波路フィルム>
本発明のフレキシブル光導波路は、基板上に光導波路フィルムが形成されている。すなわち、基板上に、下部クラッド層を構成する樹脂フィルム、コア層を構成する樹脂フィルム、および、上部クラッド層を構成する樹脂フィルムが順次形成されている。
【0036】
下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を構成する樹脂フィルムは、可撓性を有すると共に、隣接する樹脂フィルムに対する接着性を有する限り、特に限定されるものではない。具体的には、従来公知の光導波路用材料、例えば、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルニトリル系樹脂、オキセタン系樹脂、シラン系樹脂、シリコーン系樹脂などから構成される樹脂フィルムを用いることができる。これらの樹脂フィルムのうち、接着性の観点からは、エポキシ系樹脂(例えば、UV硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂)から構成されるフィルム、すなわちエポキシ系樹脂フィルムが好ましい。
【0037】
<UV硬化型エポキシ樹脂>
エポキシ系樹脂のうち、ポリアルキレングリコール鎖と少なくとも2個のグリシジル基とを有するポリグリシジル化合物を含有するUV硬化型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0038】
ポリアルキレングリコール鎖と少なくとも2個のグリシジル基とを有するポリグリシジル化合物としては、具体的には、例えば、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリペンタメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルポリオールのジグリシジルエーテル;コポリ(テトラメチレン・2−メチルブチレン)エーテルジオール、コポリ(テトラメチレン・2,3−ジメチルブチレン)エーテルジオールなどのコポリエーテルポリオールのジグリシジルエーテル;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどの脂肪族ポリオールのトリグリシジルエーテル;などが挙げられる。
【0039】
UV硬化型エポキシ樹脂には、屈折率や粘度調整のために、必要に応じて、ビスフェノール型エポキシ樹脂や脂環式エポキシ樹脂を配合してもよい。ただし、より低粘度のエポキシ樹脂が取り扱い性に優れるので、好適である。ビスフェノール型エポキシ樹脂や脂環式エポキシ樹脂の配合量は、UV硬化型エポキシ樹脂から得られるエポキシ系樹脂フィルムが所望の屈折率を有するように、および/または、UV硬化型エポキシ樹脂が所望の粘度を有するように適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、ポリアルキレングリコール鎖と少なくとも2個のグリシジル基とを有するポリグリシジル化合物100質量部に対して、それぞれ、好ましくは10,000質量部以下、より好ましくは5,000質量部以下、さらに好ましくは1,000質量部以下である。
【0040】
UV硬化型エポキシ樹脂を硬化させるために、このUV硬化型エポキシ樹脂には、光カチオン重合開始剤が配合される。光カチオン重合開始剤としては、例えば、米国特許第3,379,653号に記載されているような金属フルオロホウ素錯塩および三フッ化ホウ素錯化合物;米国特許第3,586,616号に記載されているようなビス(ペルフルオルアルキルスルホニル)メタン金属塩;米国特許第3,708,296号に記載されているようなアリールジアゾニウム化合物;米国特許第4,058,400号に記載されているようなVIa族元素の芳香族オニウム塩;米国特許第4,069,055号に記載されているようなVa族元素の芳香族オニウム塩;米国特許第4,068,091号に記載されているようなIIIa〜Va族元素のジカルボニルキレート;米国特許第4,139,655号に記載されているようなチオピリリウム塩;米国特許第4,161,478号に記載されているようなMF陰イオン(ここで、Mは、リン、アンチモンおよびヒ素から選択される)の形のVIb元素;米国特許第4,231,951号に記載されているようなアリールスルホニウム錯塩;米国特許第4,256,828号に記載されているような芳香族ヨードニウム錯塩および芳香族スルホニウム錯塩;W.R.Wattらによって「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(Journal of Polymer Science)、ポリマー・ケミストリー(Polymer Chemistry)版」、第22巻、1789頁(1984年)に記載されているようなビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロ金属塩(例えば、リン酸塩、ヒ酸塩、アンチモン酸塩など);鉄化合物の混合配位子金属塩;シラノール−アルミニウム錯体;などが挙げられる。これらの光カチオン重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの光カチオン重合開始剤のうち、アリールスルホニウム錯塩、ハロゲン含有錯イオンの芳香族ヨードニウム錯塩または芳香族スルホニウム錯塩、II族、V族およびVI族元素の芳香族オニウム塩が好適である。これらの塩のいくつかは、例えば、商品名「UVI−6976」、「UVI−6992」(以上、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製)、商品名「FX−512」(スリーエム・カンパニー製)、商品名「UVR−6990」、「UVR−6974」(以上、ユニオン・カーバイド・コーポレーション製)、商品名「UVE−1014」、「UVE−1016」(以上、ゼネラル・エレクトリック・カンパニー製)、商品名「KI−85」(デグサ・アクチエンゲゼルシャフト製)、商品名「SP−150」、「SP−170」(以上、株式会社ADEKA製)、商品名「サンエイド(登録商標)SI−60L」、「サンエイド(登録商標)SI−80L」、「サンエイド(登録商標)SI−100L」、「サンエイド(登録商標)SI−110L」、「サンエイド(登録商標)SI−180L」(以上、三新化学工業株式会社製)などの市販品を入手することができる。
【0041】
また、これらの光カチオン重合開始剤のうち、取り扱い性に優れ、潜在性と硬化性とのバランスに優れることから、オニウム塩が好適であり、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩が特に好適である。
【0042】
光カチオン重合開始剤の配合量は、硬化するエポキシ樹脂成分の配合量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0043】
UV硬化型エポキシ樹脂は、原料であるポリアルキレングリコール鎖と少なくとも2個のグリシジル基とを有するポリグリシジル化合物、必要に応じて配合されるビスフェノール型エポキシ樹脂や脂環式エポキシ樹脂などの分子量を適宜選択することにより、溶剤を用いることなく、粘度を、温度23℃で、10mPa・s以上、100,000mPa・s以下の範囲内に調整することができる。
【0044】
UV硬化型エポキシ樹脂は、常温で液状であるので、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施された基板上に適量塗布した後、あるいは、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施された基板上に、スペーサを介して、コア層用の溝に対応する凸部を有する凸型を載置して、生じた間隙に適量注入して充填した後、あるいは、下部クラッド層上に適量塗布した後、あるいは、下部クラッド層に形成されたコア層用の溝に適量注入して充填した後、あるいは、コア層を含めて下部クラッド層上に適量塗布した後、例えば、照射積算光量(露光エネルギー)が0.01J/cm以上、10J/cm以下の紫外線を照射して硬化させることにより、下部クラッド層、コア層または上部クラッド層を構成する硬化したエポキシ系樹脂フィルムが得られる。
【0045】
<下部クラッド層>
本発明のフレキシブル光導波路において、基板上には、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施された表面側に、下部クラッド層が形成されている。
【0046】
下部クラッド層を構成する樹脂フィルムがエポキシ系樹脂フィルムである場合、このエポキシ系樹脂フィルムは、クラッド材料として、エポキシ系樹脂(例えば、UV硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂)を用いて形成される。下部クラッド層を構成するエポキシ系樹脂フィルムは、好ましくは、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施された基板上に、クラッド材料を塗布した後、紫外線照射または加熱処理を行って硬化させることにより形成されるか、あるいは、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施された基板上に、スペーサを介して、コア層用の溝に対応する凸部を有する凸型を載置して、生じた間隙にクラッド材料を注入して充填した後、紫外線照射を行って硬化させることにより形成される。
【0047】
下部クラッド層を構成する樹脂フィルムの厚さ(ただし、下部クラッド層内にコア層が形成されている場合は、コア層の下側を除く部分の厚さを意味する。)は、フレキシブル光導波路の用途や使用する光の波長などに応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。具体的には、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。下部クラッド層を構成する樹脂フィルムの厚さが小さすぎると、フレキシブル光導波路の強度が低下することがある。逆に、下部クラッド層を構成する樹脂フィルムの厚さが大きすぎると、フレキシブル光導波路の可撓性が低下することがある。なお、下部クラッド層を構成する樹脂フィルムは、基板に対する下部クラッド層の接着性と光導波路フィルムの強度を両立させるために、2層またはそれ以上の多層構造を有していてもよい。
【0048】
下部クラッド層を構成する樹脂フィルムの屈折率は、コア層を構成する樹脂フィルムの屈折率より低い限り、特に限定されるものではない。具体的には、1.45〜1.65の範囲内で、例えば、エポキシ系樹脂の種類や組成を選択することにより、任意に調節することができる。
【0049】
<コア層>
本発明のフレキシブル光導波路において、基板上に下部クラッド層が形成され、該下部クラッド層上には、コア層が形成されている。
【0050】
コア層を構成する樹脂フィルムがエポキシ系樹脂フィルムである場合、このエポキシ系樹脂フィルムは、コア材料として、エポキシ系樹脂(例えば、UV硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂)を用いて形成される。コア層を構成するエポキシ系樹脂フィルムは、好ましくは、下部クラッド層上にコア材料を塗布した後、マスクを被せて紫外線照射を行って硬化させ、未硬化部分を除去することにより形成されるか、あるいは、下部クラッド層上にコア材料を塗布した後、紫外線照射または加熱処理を行って硬化させてから、パターニングされたレジスト層を形成し、非被覆部分を除去することにより形成されるか、あるいは、下部クラッド層に形成されたコア層用の溝にコア材料を注入して充填した後、紫外線照射を行って硬化させることにより形成される。
【0051】
コア層を構成する樹脂フィルムの厚さは、フレキシブル光導波路の用途や使用する光の波長などに応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。具体的には、好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。コア層を構成する樹脂フィルムの厚さが小さすぎると、コア層を伝播する光の量が低下することがある。逆に、コア層を構成する樹脂フィルムの厚さが大きすぎると、フレキシブル光導波路の可撓性が低下することがある。
【0052】
コア層を構成する樹脂フィルムの屈折率は、下部クラッド層を構成する樹脂フィルムの屈折率および上部クラッド層を構成する樹脂フィルムの屈折率より高い限り、特に限定されるものではない。具体的には、1.45〜1.65の範囲内で、例えば、エポキシ系樹脂の種類や組成を選択することにより、任意に調節することができる。
【0053】
なお、上部クラッド層に埋め込まれるコア層の数は、フレキシブル光導波路の用途などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、1個またはそれ以上である。また、コア層は、フレキシブル光導波路の用途などに応じて、所定のパターン状に形成されていてもよい。
【0054】
<上部クラッド層>
本発明のフレキシブル光導波路において、基板上に下部クラッド層が形成され、該下部クラッド層上には、コア層が形成され、該コア層を含めて該下部クラッド層上には、上部クラッド層が形成されている。
【0055】
上部クラッド層を構成する樹脂フィルムがエポキシ系樹脂フィルムである場合、このエポキシ系樹脂フィルムは、クラッド材料として、エポキシ系樹脂(例えば、UV硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂)を用いて形成される。下部クラッド層および上部クラッド層がいずれもエポキシ系樹脂フィルムから構成される場合、同一のエポキシ系樹脂をクラッド材料として用いることが好ましい。上部クラッド層を構成するエポキシ系樹脂フィルムは、好ましくは、コア層を含めて下部クラッド層上に、クラッド材料を塗布した後、紫外線照射または加熱処理を行って硬化させることにより形成される。
【0056】
上部クラッド層を構成する樹脂フィルムの厚さ(ただし、上部クラッド層内にコア層が形成されている場合は、コア層の上側を除く部分の厚さを意味する。)は、フレキシブル光導波路の用途や使用する光の波長などに応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。具体的には、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。上部クラッド層を構成する樹脂フィルムの厚さが小さすぎると、充分な厚さのコア層を形成できないことがある。逆に、上部クラッド層を構成する樹脂フィルムの厚さが大きすぎると、フレキシブル光導波路の可撓性が低下することがある。
【0057】
上部クラッド層を構成する樹脂フィルムの屈折率は、コア層を構成する樹脂フィルムの屈折率より低い限り、特に限定されるものではない。具体的には、1.45〜1.65の範囲内で、例えば、エポキシ系樹脂の種類や組成を選択することにより、任意に調節することができる。
【0058】
≪フレキシブル光導波路の製造方法≫
本発明によるフレキシブル光導波路の製造方法は、基板上に下部クラッド層を形成する工程と、該下部クラッド層上にコア層を形成する工程と、該コア層を含めて該下部クラッド層上に上部クラッド層を形成する工程とを包含し、該基板上に該下部クラッド層を形成する工程の前に、該下部クラッド層を形成する該基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施すことを特徴とする。
【0059】
本発明の製造方法において、好ましくは、前記基板上にUV硬化型エポキシ樹脂を塗布した後、紫外線照射を行って硬化させることにより、前記下部クラッド層を形成する。また、前記基板は、好ましくは、ポリイミドフィルムである。
【0060】
基板は、従来公知の方法により形成するか、あるいは、市販の樹脂フィルムを利用すればよく、特に限定されるものではない。基板を形成する方法としては、例えば、基材上に基板材料を、スピンコーティング法、バーコーター法、ロールコーター法、グラビアコーター法、ナイフコーター法などの従来公知のコーティング法で塗布した後、紫外線照射や加熱処理などの処理を行って硬化させる方法が挙げられる。
【0061】
下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を形成する方法としては、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではない。例えば、下部クラッド層の場合は、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施した後、この表面上にクラッド材料を、コア層の場合は、下部クラッド層上にコア材料を、そして、上部クラッド層の場合は、コア層を含めて下部クラッド層上にクラッド材料を、スピンコーティング法、バーコーター法、ロールコーター法、グラビアコーター法、ナイフコーター法などの従来公知のコーティング法で塗布した後、紫外線照射や加熱処理などの処理を行って硬化させる方法が挙げられる。なお、コア層の場合は、下部クラッド層上にコア材料(例えば、UV硬化型エポキシ樹脂)を塗布した後、マスクを被せて、紫外線照射を行って硬化させ、未硬化部分を除去するか、あるいは、下部クラッド層上にコア材料(例えば、UV硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂)を塗布した後、紫外線照射または加熱処理を行って硬化させてから、パターニングされたレジスト層を形成し、非被覆部分を除去する必要がある。また、コア層を形成する方法としては、上記の方法以外に、凸版印刷、凹版印刷、金型成型法、ディスペンサ法、インクジェット法などを用いることもできる。
【0062】
また、基板を構成する樹脂フィルムから出発して、樹脂フィルムの表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施した後、この表面上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を順次形成してもよい。この場合、生産効率の観点からは、基板を構成するロール状の樹脂フィルムを引き出して走行させながら、樹脂フィルムの表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施した後、この表面上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を順次形成することが好ましい。
【0063】
以下に、図3および図4を参照しながら、本発明によるフレキシブル光導波路の製造方法の代表例について詳しく説明するが、本発明の製造方法は下記の代表例に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。ここで、図3および図4は、基板がポリイミドフィルムから構成され、下部クラッド層、コア層および上部クラッド層がエポキシ系樹脂フィルムから構成される場合である。なお、図3および図4において、符号1〜4は図1および2と同様の意味を有し、5はフォトマスク、6はレジスト層を意味する。また、図3(f)および図4(f)において、コア層3は1個しか形成されていないが、フレキシブル光導波路の用途などに応じて、2個またはそれ以上形成されていてもよい。また、コア層3は、紙面に対して垂直方向に伸びる直線状に形成されているが、フレキシブル光導波路の用途などに応じて、所定のパターン状に形成されていてもよい。
【0064】
まず、シリコン基板や石英ガラスなどの基材(図示せず)上に、基板材料として、アミド酸組成物を滴下し、スピンコーティング法などで製膜し、この被膜に加熱処理または減圧乾燥を行って、ポリイミドフィルムから構成される基板1を形成するか、あるいは、市販品のポリイミドフィルムから構成される基板1を用意する。次いで、図3(a)に示すように、下部クラッド層2が形成される基板1の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施して、凹凸(図示せず)を形成する。この表面の算術平均粗さRaは、0.03μm以上である。
【0065】
次いで、図3(b)に示すように、基板1上に、クラッド材料として、エポキシ系樹脂を滴下し、スピンコーティング法などで製膜し、この被膜に紫外線照射または加熱処理を行って、エポキシ系樹脂フィルムから構成される下部クラッド層2を形成する。
【0066】
さらに、図3(c)に示すように、下部クラッド層2上に、コア材料として、エポキシ系樹脂を滴下し、スピンコーティング法などで製膜し、図3(d)に示すように、コア層3上にフォトマスク5を被せて、紫外線照射を行い、未硬化部分を適当な溶剤で洗い流すことにより、図3(e)に示すように、パターニングされたコア層3を形成する。
【0067】
次いで、図3(f)に示すように、コア層3上とコア層3で被覆されていない下部クラッド層2上とに、クラッド材料として、エポキシ系樹脂を滴下し、スピンコーティング法などで製膜し、この被膜に紫外線照射または加熱処理を行って、エポキシ系樹脂フィルムから構成される上部クラッド層4を形成する。
【0068】
最後に、必要に応じて、基材(図示せず)から基板1を含めた光導波路フィルムを剥離することにより、基板1がポリイミドフィルムから構成され、下部クラッド層2、コア層3および上部クラッド層4がエポキシ系樹脂フィルムから構成されるフレキシブル光導波路が得られる。
【0069】
あるいは、まず、シリコン基板や石英ガラスなどの基材(図示せず)上に、基板材料として、ポリアミド酸組成物を滴下し、スピンコーティング法などで製膜し、この被膜に加熱処理または減圧乾燥を行って、ポリイミドフィルムから構成される基板1を形成するか、あるいは、市販品のポリイミドフィルムから構成される基板1を用意する。次いで、図4(a)に示すように、下部クラッド層2が形成される基板1の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施して、凹凸(図示せず)を形成する。この表面の算術平均粗さRaは、0.03μm以上である。
【0070】
次いで、図4(b)に示すように、基板1上に、クラッド材料として、エポキシ系樹脂を滴下し、スピンコーティング法などで製膜し、この被膜に紫外線照射または加熱処理を行って、エポキシ系樹脂フィルムから構成される下部クラッド層2を形成する。
【0071】
さらに、図4(c)に示すように、下部クラッド層2上に、コア材料として、エポキシ系樹脂を滴下し、スピンコーティング法などで製膜し、この被膜に紫外線照射または加熱処理を行って、エポキシ系樹脂フィルムからなるコア層3を形成する。さらに、図4(d)に示すように、コア層3上にフォトレジストを塗布し、プリベーク、露光、現像、アフターベークを行い、パターニングされたレジスト層6を形成する。続いて、図4(e)に示すように、コア層3のうちレジスト層6で被覆されていない部分をドライエッチングにより除去した後、レジスト層6を剥離して、下部クラッド層2上にパターニングされたコア層3を形成する。
【0072】
次いで、図4(f)に示すように、コア層3上とコア層3で被覆されていない下部クラッド層上とに、クラッド材料として、エポキシ系樹脂を滴下し、スピンコーティング法などで製膜し、この被膜に紫外線照射または加熱処理を行って、エポキシ系樹脂フィルムから構成される上部クラッド層4を形成する。
【0073】
最後に、必要に応じて、基材(図示せず)から基板1を含めた光導波路フィルムを剥離することにより、基板1がポリイミドフィルムから構成され、下部クラッド層2、コア層3および上部クラッド層4がエポキシ系樹脂フィルムから構成されるフレキシブル光導波路が得られる。
【0074】
なお、本発明によるフレキシブル光導波路の製造方法は、上記で説明した製造方法のように、フレキシブル光導波路を1枚ずつ作製する枚葉プロセスに限定されることはなく、予めポリアミド酸組成物を用いて基板を構成するポリイミドフィルムのロールを作製しておき、あるいは、市販のポリイミドフィルムのロールを用意しておき、このロールを引き出しながら、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施した後、この表面上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を順次形成して、フレキシブル光導波路を連続的に作製する連続プロセスを採用してもよい。
【0075】
本発明によるフレキシブル光導波路の製造方法は、従来技術のように、予め作製した光導波路フィルムを基板に接着剤で接着するのではなく、また、基板上に予め作製したエポキシ系樹脂フィルムを真空ラミネートした後、硬化させるのではなく、通常、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施した後、この表面上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を順次形成して光導波路フィルムを作製する方法を採用している。かかる方法を採用すれば、特に、基板と下部クラッド層との間に接着剤層などを設ける工程が必要なく、それに加えて、基板上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を順次形成するので、基板上に光導波路フィルムを簡便に形成することが可能であり、製造コストの大幅な低減を図ることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、下記の実施例および比較例では、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施された基板の表面に形成された凹凸の大きさを算術平均粗さRaで表す。
【0077】
まず、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施された基板の表面の算術平均粗さRaの測定法およびフレキシブル光導波路の導波損失の測定法について説明する。
【0078】
≪算術平均粗さRaの測定法≫
砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施された基板の表面の算術平均粗さRaは、触針式表面形状測定器(アルバック・イーエス株式会社製、商品名「Dektak(登録商標)6M」)を用いて測定した。この測定器は、JIS B0601:2001に規定された方法を採用している。
【0079】
≪導波損失の測定法≫
得られたフレキシブル光導波路に、ダイシングソー(株式会社ディスコ製、商品名「DAD321」)を用いて、光導波路の長さが5cmとなるように端面を切断し、光入射口および光出射口を形成した。波長850nmの発光ダイオードに、コア径50μmの石英光ファイバを接続し、もう一方のファイバ端を入射ファイバ端とした。一方、光パワーメータ(アンリツ株式会社製、商品名「MT9810A」)に、コア径50μmの石英光ファイバを接続し、もう一方のファイバ端を出射ファイバ端とした。入射ファイバ端と出射ファイバ端とを突き合わせた後、自動調芯機(駿河精機株式会社製)により、光パワーメータ(アンリツ株式会社製、商品名「MT9810A」)の強度が最大光量となるように位置合わせを行い、その時の光強度をRef(dBm)とした。続いて、光導波路の端面に、それぞれ入射ファイバ端および出射ファイバ端を突き合わせ、自動調芯機(駿河精機株式会社製)により、光パワーメータ(アンリツ株式会社製、商品名「MT9810A」)の強度が最大光量となるように、それぞれの光ファイバの位置合わせを行い、その時の光強度をObs(dBm)とした。光導波路5cmの挿入損失INT(dB)は、計算式:Ref(dBm)−Obs(dBm)により算出した。続いて、ダイシングソー(株式会社ディスコ製、商品名「DAD321」)を用いて、光導波路の一方の端面から1cm内側を切断することにより、長さ4cmの光導波路を得た後、上記と同様にして、光導波路4cmの挿入損失INT(dB)を算出した。同様にして、光導波路を1cmずつ切断し、光導波路が1cmになるまで、挿入損失INT(dB)の算出を繰り返した。横軸に光導波路の長さ(cm)、縦軸に挿入損失INT(dB)として、各データをプロットし、得られた直線の傾きから光導波路の導波損失(dB/cm)を得た。この方法は、一般的にカットバック法と呼ばれる方法である。
【0080】
次に、フレキシブル光導波路を作製する際にクラッド材料およびコア材料として用いたUV硬化型エポキシ樹脂の調製について説明する。
【0081】
≪UV硬化型エポキシ樹脂(1)の調製≫
ポリテトラメチレンエーテルグリコールのジグリシジルエーテル(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jER(登録商標)YL7217」;数平均分子量700〜800)64質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jER(登録商標)828EL」)32質量部、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロリン酸塩(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製、商品名「UVI−6992」)4質量部を、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎(登録商標)」)を用いて混合し、クラッド材料として用いたUV硬化型エポキシ樹脂(1)を調製した。
【0082】
レオメーター(株式会社レオテック製、商品名「RC20−CPS」)を用いて、UV硬化型エポキシ樹脂(1)の粘度を温度23℃で測定したところ、180mPa・sであった。また、プリズムカプラ(サイロン・テクノロジ・インコーポレイテッド製、商品名「SPA−4000」)を用いて、UV硬化型エポキシ樹脂(1)の硬化後の屈折率を測定したところ、波長850nmにおける屈折率は1.50であった。
【0083】
≪UV硬化型エポキシ樹脂(2)の調製≫
ポリテトラメチレンエーテルグリコールのジグリシジルエーテル(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jER(登録商標)YL7217」;数平均分子量700〜800)9質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jER(登録商標)828EL」)45質量部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jER(登録商標)5050」)45質量部、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロリン酸塩(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製、商品名「UVI−6992」)1質量部を、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎(登録商標)」)を用いて混合し、コア材料として用いたUV硬化型エポキシ樹脂(2)を調製した。
【0084】
レオメーター(株式会社レオテック製、商品名「RC20−CPS」)を用いて、UV硬化型エポキシ樹脂(2)の粘度を温度23℃で測定したところ、83,680mPa・sであった。また、プリズムカプラ(サイロン・テクノロジ・インコーポレイテッド製、商品名「SPA−4000」)を用いて、UV硬化型エポキシ樹脂(2)の硬化後の屈折率を測定したところ、波長850nmにおける屈折率は1.58であった。
【0085】
次に、フレキシブル光導波路を実際に作製した実施例および比較例について説明する。
【0086】
≪フレキシブル光導波路の作製≫
<実施例1>
基板として、厚さ8μmの銅回路付きポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名「カプトン(登録商標)Hタイプ」;厚さ25μm)を用意し、基板の銅回路と反対側の表面に、#3000番の砥石による物理処理を施して、凹凸(算術平均粗さRa:0.08μm)を形成した。この基板の表面上に、クラッド材料として、UV硬化型エポキシ樹脂(1)をスピンコートし、高圧水銀ランプを光源とする露光機(ミカサ株式会社製、商品名「MA−60F」)を用いて、照度10mW/cmで15分間、すなわち露光エネルギー9J/cmの紫外線照射を行って硬化させることにより、厚さ25μmのエポキシ系樹脂フィルムから構成される下部クラッド層を形成した。
【0087】
この段階で、JIS K6894 8.6.3に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名「EZ−test−100N」)を用いて、基板と下部クラッド層との間のピール強度を測定したところ、300N/mであり、優れた接着性を示した。
【0088】
上記と同様にして、基板上に下部クラッド層を形成し、得られた下部クラッド層上に、コア材料として、UV硬化型エポキシ樹脂(2)をスピンコートし、フォトマスクを介して、高圧水銀ランプを光源とする露光機(ミカサ株式会社製、商品名「MA−60F」)を用いて、照度10mW/cmで15分間、すなわち露光エネルギー9J/cmの紫外線照射を行って硬化させることにより、パターニングした後、未硬化部分をアセトンで洗い流すことにより、厚さ50μm、幅50μmのエポキシ系樹脂フィルムから構成されるコア層を形成した。
【0089】
さらに、得られたコア層を含めて下部クラッド層上に、クラッド材料として、エポキシ樹脂(1)をスピンコートし、高圧水銀ランプを光源とする露光機(ミカサ株式会社製、商品名「MA−60F」)を用いて、照度10mW/cmで15分間、すなわち露光エネルギー9J/cmの紫外線照射を行って硬化させることにより、厚さ70μm(コア層の上側は厚さ20μm)のエポキシ系樹脂フィルムから構成される上部クラッド層を形成した。
【0090】
かくして、ポリイミドフィルムから構成される基板上に、エポキシ系樹脂フィルムから構成される下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を有するフレキシブル光導波路を得た。得られたフレキシブル光導波路の導波損失を測定したところ、0.15dB/cmであった。また、上記と同様にして得られたフレキシブル光導波路は、JPCA−PE02−05−01S−2005 7.1.2bに準拠した方法により、半径2mmで±90度に連続して室温で10万回折り曲げても、剥離や破断などが発生せず、良好な外観を示した。
【0091】
<実施例2>
実施例1において、#3000番の砥石を#6000番の砥石に変更して、基板の銅回路と反対側の表面に、凹凸(算術平均粗さRa:0.06μm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムから構成される基板上に、エポキシ系樹脂フィルムから構成される下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を有するフレキシブル光導波路を作製した。基板上に下部クラッド層を形成した段階で、JIS K6894 8.6.3に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名「EZ−test−100N」)を用いて、基板と下部クラッド層との間のピール強度を測定したところ、170N/mであり、優れた接着性を示した。また、上記と同様にして得られたフレキシブル光導波路の導波損失を測定したところ、0.15dB/cmであった。さらに、上記と同様にして得られたフレキシブル光導波路は、JPCA−PE02−05−01S−2005 7.1.2bに準拠した方法により、半径2mmで±90度に連続して室温で10万回折り曲げても、剥離や破断などが発生せず、良好な外観を示した。
【0092】
<実施例3>
実施例1において、#3000番の砥石を#8000番の砥石に変更して、基板の銅回路と反対側の表面に、凹凸(算術平均粗さRa:0.05μm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムから構成される基板上に、エポキシ系樹脂フィルムから構成される下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を有するフレキシブル光導波路を作製した。基板上に下部クラッド層を形成した段階で、JIS K6894 8.6.3に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名「EZ−test−100N」)を用いて、基板と下部クラッド層との間のピール強度を測定したところ、140N/mであり、優れた接着性を示した。また、上記と同様にして得られたフレキシブル光導波路の導波損失を測定したところ、0.15dB/cmであった。さらに、上記と同様にして得られたフレキシブル光導波路は、JPCA−PE02−05−01S−2005 7.1.2bに準拠した方法により、半径2mmで±90度に連続して室温で10万回折り曲げても、剥離や破断などが発生せず、良好な外観を示した。
【0093】
<実施例4>
実施例1において、基板の銅回路と反対側の表面に、砥石による物理処理を施すことに代えて、コロナ放電による化学処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムから構成される基板上に、エポキシ系樹脂フィルムから構成される下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を有するフレキシブル光導波路を得た。基板上に下部クラッド層を形成した段階で、JIS K6894 8.6.3に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名「EZ−test−100N」)を用いて、基板と下部クラッド層との間のピール強度を測定したところ、175N/mであり、優れた接着性を示した。また、上記と同様にして得られたフレキシブル光導波路の導波損失を測定したところ、0.15dB/cmであった。さらに、上記と同様にして得られたフレキシブル光導波路は、JPCA−PE02−05−01S−2005 7.1.2bに準拠した方法により、半径2mmで±90度に連続して室温で10万回折り曲げても、剥離や破断などが発生せず、良好な外観を示した。
【0094】
<比較例1>
実施例1において、基板の銅回路と反対側の表面に、砥石による物理処理やコロナ放電による化学処理を施さず、この表面の算術平均粗さRaが0.03μm未満であったこと以外は、実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムから構成される基板上に、エポキシ系樹脂フィルムから構成される下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を有するフレキシブル光導波路を得た。基板上に下部クラッド層を形成した段階で、JIS K6894 8.6.3に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名「EZ−test−100N」)を用いて、基板と下部クラッド層との間のピール強度を測定したところ、120N/mであり、接着性に劣っていた。また、上記と同様にして得られたフレキシブル光導波路の導波損失を測定したところ、0.15dB/cmであった。さらに、上記と同様にして得られたフレキシブル光導波路は、JPCA−PE02−05−01S−2005 7.1.2bに準拠した方法により、半径2mmで±90度に連続して室温で10万回折り曲げたところ、基板から光導波路フィルムが剥離して破断した。
【0095】
≪評価≫
以上のように、実施例1〜4のフレキシブル光導波路は、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施されており、この表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上であるので、いずれも基板と下部クラッド層との間のピール強度が130N/m以上と高く、接着性に優れ、また、いずれも可撓性に優れ、折り曲げに強く、半径2mmで±90度に連続して室温で10万回以上折り曲げることが可能であった。また、導波路端面を形成して測定した導波損失が充分に小さく、実用的なフレキシブル光導波路であった。
【0096】
これに対して、比較例1のフレキシブル光導波路は、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理が施されておらず、この表面の算術平均粗さRaが0.03μm未満であるので、基板と下部クラッド層との間のピール強度が低く、接着性に劣り、また、可撓性に劣り、折り曲げに弱く、半径2mmで±90度に連続して室温で10万回折り曲げたところ、基板から光導波路フィルムが剥離し、破断した。
【0097】
かくして、基板上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層が順次形成されたフレキシブル光導波路において、基板上に下部クラッド層を形成する工程の前に、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施して、この表面の算術平均粗さRaを0.03μm以上にすれば、基板を含めて光導波路フィルムの可撓性および基板と光導波路フィルムとの接着性に優れ、折り曲げに強く、例えば、半径2mmで±90度に連続して室温で10万回以上折り曲げることができる実用的なフレキシブル光導波路が得られることがわかる。また、フレキシブル光導波路の製造方法は、基板と下部クラッド層との間に接着剤層などを設ける工程が必要なく、下部クラッド層を形成する基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施した後、この表面上に下部クラッド層、コア層および上部クラッド層を順次形成するだけであるので、フレキシブル光導波路を簡便に製造できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のフレキシブル光導波路は、従来公知の光導波路と同様に、種々の光導波路装置に有用である。また、本発明のフレキシブル光導波路は、光電気混載フレキシブルモジュールを作製すれば、種々の電子機器に使用可能であるが、基板を含めて光導波路フィルムの可撓性および基板と光導波路フィルムとの接着性に優れているので、電子機器のうち、例えば、携帯電話やデジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、家庭用および携帯用ゲーム機、ノート型パソコン、高速プリンタなど電子機器における可撓性が要求される箇所(例えば、ヒンジ部分)に好適に用いられる。さらに、本発明のフレキシブル光導波路は、光配線に用いることもできる。本発明によるフレキシブル光導波路の製造方法は、このようなフレキシブル光導波路を簡便に製造することを可能にするので、製造コストの大幅な低減を図ることができる。それゆえ、本発明は、フレキシブル光導波路の適用が期待される様々な光学関連分野や電子機器分野で多大の貢献をなすものである。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明のフレキシブル光導波路の代表例の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のフレキシブル光導波路の他の代表例の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図1に示すフレキシブル光導波路の製造方法の代表例を説明するための模式的な工程図である。
【図4】図1に示すフレキシブル光導波路の製造方法の他の代表例を説明するための模式的な工程図である。
【符号の説明】
【0100】
1 基板
2 下部クラッド層
3 コア層
4 上部クラッド層
5 フォトマスク
6 レジスト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された下部クラッド層と、該下部クラッド層上に形成されたコア層と、該コア層を埋め込むように該下部クラッド層および該コア層上に形成された上部クラッド層とを有するフレキシブル光導波路であって、該下部クラッド層を形成する該基板の表面の算術平均粗さRaが0.03μm以上であることを特徴とするフレキシブル光導波路。
【請求項2】
前記基板と前記下部クラッド層との間のピール強度が130N/m以上である請求項1記載のフレキシブル光導波路。
【請求項3】
前記基板がポリイミドフィルムである請求項1または2記載のフレキシブル光導波路。
【請求項4】
請求項1記載のフレキシブル光導波路を製造する方法であって、基板上に下部クラッド層を形成する工程と、該下部クラッド層上にコア層を形成する工程と、該コア層を含めて該下部クラッド層上に上部クラッド層を形成する工程とを包含し、該基板上に該下部クラッド層を形成する工程の前に、該下部クラッド層を形成する該基板の表面に、砥石による物理処理またはコロナ放電による化学処理を施すことを特徴とするフレキシブル光導波路の製造方法。
【請求項5】
前記基板上にUV硬化型エポキシ樹脂を塗布した後、紫外線照射を行って硬化させることにより、前記下部クラッド層を形成する請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記基板がポリイミドフィルムである請求項4または5記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−265519(P2009−265519A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117501(P2008−117501)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】