説明

フレキシブル回路基板の製造方法及びフレキシブル回路基板

【課題】長尺な基板材料に対してカバーフィルムをラミネートするときに、該カバーフィルムが幅方向で位置ズレしないようにして貼り合わせ位置精度を向上させる。
【解決手段】離型フィルム5の中間層である柔軟性ポリオレフィン類5bのガラス転移点の弾性率に対して、カバーフィルム3を接着する接着剤3aの弾性率は50倍以上である。従って、ベースフィルム1、接着剤3a、カバーフィルム2、離型フィルム5の順に重ねてラミネートプレスを行うと、柔軟性ポリオレフィン類5bが図中矢印方向へ流れ出し、離型フィルム5の下層の耐熱性フィルム5cも矢印方向へ伸ばされ、それに伴ってカバーフィルム2も矢印方向へ伸ばされる。この時、接着剤3aは既に軟化が始まるが、接着剤3aは柔軟性ポリオレフィン類5bより弾性率がかなり高いためにカバーフィルム2の滑りは抑制される。従って、カバーフィルム2は幅方向の位置ズレが生じない

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル回路基板(FPC)の製造方法及びその製造方法によって製造されたFPCに関するものであり、特に、長尺な基板材料のワーク表面に対して短冊状のカバーフィルムを連続的にラミネー卜するFPCの製造方法及びFPCに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回路形成した長尺な基板材料(ベースフィルム)に対して絶縁用のカバーフィルムを貼り合わせてFPCを製造する方法として、短冊に裁断したカバーフィルムを前記基板材料に仮付けした後、これを熱圧着によって連続的にラミネートプレスを行うことにより、基板材料にカバーフィルムを貼り合わせる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この製造方法によれば、長尺な基板材料に短冊のカバーフィルムを貼り合わせているために、フレキシブル回路基板の端子部分などのように外部に露出させる必要箇所(導電部分)については、カバーフィルムにおける前記必要箇所と対応する所定箇所に予め開口部を形成して、該カバーフィルムを基板材料に貼り合わせればよい。したがって、短冊に裁断したカバーフィルムであれば、基板材料の必要箇所を開口部から露出させた状態で、該基板材料にカバーフィルムを容易に貼り合わせることができる。
【0004】
このために、回路形成した長尺な基板材料に短冊状のカバーフィルムを位置決めして仮付けし、さらに、ラミネートプレス装置によって加熱・加圧して該カバーフィルムを固着(ラミネート)する方法が一般的に採られている。このとき、基板材料に形成された回路部品や回路パターン(導体パターン)の間の窪み部分(空隙)とカバーフィルムとの隙間に気泡が生じないように、ラミネートプレス装置の上部パッドよりも下部パッドを柔らかくすると共に、下部パッドのラミネート進行方向の寸法を上部パッドよりやや小さくなるように形成している。
【0005】
これによって、短冊状のカバーフィルムを基板材料に押圧しながらラミネートプレスする過程において、回路パターンの間の気泡を押圧しながら排除することができるので、回路パターンの空隙とカバーフィルムとの隙間に気泡が生じるおそれはなくなる。
【0006】
また、ラミネートプレス装置とカバーフィルムとの間に、クッション材を設けた多層構造の離型フィルムを用いることによって、カバーフィルムが熱によってラミネートプレス装置に接着しないようにすると共に、クッション材のクッション作用によって基板材料に形成された回路パターンの間の窪み部分(空隙)とカバーフィルムとの隙間に気泡が生じないようにした技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
この従来技術は、熱硬化性の接着剤によって基板材料にカバーフィルムを仮付けした後に離型フィルムを介在させてから、基板材料の回路パターンの間の空隙に気泡が残留しないように、ラミネートプレス装置によってラミネートを行っている。このとき、カバーフィルムとラミネートプレス装置との間に、熱可塑性樹脂を含む多層構造の離型フィルムが用いられている。
【0008】
したがって、ラミネートプレス時において、接着剤が加熱・加圧によって流動を開始する前に、離型フィルムの表面が回路パターンの間の窪み部分の凹凸に追随して変形して、カバーフィルムの開口端部を封止できるため、基板材料に形成された端子などの導電部分が接着剤によって汚染されるおそれはなくなる。
【0009】
さらに、多層構造の離型フィルムをカバーフィルムとプレス熱板との間に介在させて、長尺物の基板材料に対してカバーフィルムを連続的にラミネートプレスする技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。ここで用いられる多層構造の離型フィルムの中間層は、加熱によって流動性が生じて基板材料の回路部品間の空隙部分に離型フィルムが追随するため、基板材料に形成された回路部品による凹凸にもカバーフィルムが追随して貼り合わせることができる。
【0010】
従って、基板材料の回路部品間の空隙に気泡が残留するおそれはなくなる。また、カバーフィルムの開口部にも離型フィルムが追随するため、カバーフィルムからの接着剤の流れ出しを離型フィルムによって遮断することができる。依って、基板材料の導電部分が接着剤によって汚染されるおそれはない。
【特許文献1】特開昭60−41284号公報
【特許文献2】特許第2619034号公報
【特許文献3】特開2007−214389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の従来技術のように、基板材料の所定位置に開口を有するカバーフィルムを貼り合わせることは一般的には可能であるが、近年、基板材料への部品実装が高密度化されてきたために、カバーフィルムの開口位置精度の要求が厳しくなってきている。従って、高密度実装基板に対応できるような開口位置精度を満足させるべく、カバーフィルムをラミネートする(貼り合わせる)ことはかなり難しい。
【0012】
また、特許文献2の従来技術は、加熱・加圧によるラミネートプレス時において離型フィルムの端面を変形させ、基板材料の端部開口部を封止して接着剤の流れ出しを防止しているが、この方法においても、高密度実装基板の場合は端子間隔が極めて狭いので、カバーフィルムをラミネートする湯合は、離型フィルムの端面変形によって基板材料の端部開口部を完全に封止して、接着剤が端部開口部から流れ出ないようにしなければならない

【0013】
しかし、上記の如くラミネートを行うためには、厳密なラミネートプレス条件管理下での加工が必要となる。さらに、高密度実装化によって回路部品間の空隙ピッチも狭くなるため、ラミネート時において回路部品間の一部の空隙に気泡が残留し易くなるなどの問題も生じる。
【0014】
更に、特許文献3の従来技術のように、長尺な基板材料にカバーフィルムを連続的にラミネートする場合は、該基板材料の両側端部においてカバーフィルムが幅方向に著しく位置ズレすることがある。これは、カバーフィルムに用いられる接着剤よりも離型フィルムの中間層の方が、加熱によって先に流動するため、加熱・加圧時に離型フィルムが変形して回路間の段差に追随しようとするときに位置ズレして、カバーフィルムも離型フィルムに追随して位置ズレするものである。
【0015】
このカバーフィルムの位置ズレは、長尺な基板材料の両側端部において顕著に発生し、基板材料の中央部における位置ズレは小さい。従って、ラミネート時に、基板材料の両側端部に製品を配置しなければ、前記位置ズレの問題を回避することができる。しかし、この場合は基板材料を有効に活用することはできないために、生産性が著しく低下するなどの問題がある。
【0016】
また、位置ズレを防止する対策として、ラミネートプレス装置の熱板のクッション材をその都度変更したり、プレス条件を変更したりすることも可能である。しかし、何れの場合についても、カバーフィルムの幅方向の位置ズレを抑制することはできない。
【0017】
図11は、従来技術において、長尺な基板材料にカバーフィルムを連続的にラミネートプレスしてFPCを形成したときの、カバーフィルムの幅方向の位置ズレ量を示す図である。尚、同図では、カバーフィルムの幅方向の相対的な位置ズレ量を示すために、FPCの構成とカバーフィルムの幅方向の位置ズレ量を示すグラフとを幅方向に対して同軸上に示している。従って、前記グラフにおける横軸は、FPCの幅方向の中心位置を0としたときの両側の幅寸法(相対値)を表わし、縦軸はカバーフィルムの幅方向の位置ズレ量(相対値)を表わしている。
【0018】
同図に示すように、FPC101は、長尺な基板材料102に製品パネル(回路基板)01〜16を面付けして、その上にカバーフィルム103をラミネートして形成している。このとき、カバーフィルム103の幅方向両側の端部103a,103bは位置ズレ量が大きくなる。
【0019】
即ち、カバーフィルム103の幅方向の中心位置(0)からその両側の100までの範囲では、位置ズレ量は0.025程度で一定であるが、幅方向の両側共に100を超えた位置から製品端までの範囲では、位置ズレ量が急激に大きくなる。そして、カバーフィルム103の最大の位置ズレ量は、同図において左側の製品端付近で0.17を示し、又、右側の製品端付近で0.225を示している。このように、長尺な基板材料102にカバーフィルム103を連続的にラミネートすると、カバーフィルム103の幅方向両側の端部103a,103b付近では大きな位置ズレが生じる。
【0020】
そこで、長尺な基板材料(ペースフィルム)に対してカバーフィルムをラミネートするときに、該カバーフィルムが幅方向で位置ズレしないようにして貼り合わせ位置精度を向上させるために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明は、この課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は上記の目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、ベースフィルムのワーク表面に対して接着剤付きカバーフィルムを仮付けし、連続的にラミネートプレスを行って該カバーフィルムを貼り合わせるフレキシブル回路基板の製造方法において、前記ベースフィルムのワーク表面に前記カバーフィルムを位置決めして仮付けする第1の工程と、中間層に熱可塑性樹脂を含む多層構造の離型フィルムを、前記カバーフィルムの表面に重ね合わせる第2の工程と、前記ベースフィルム、前記カバーフィルム、前記離型フィルムの順で重ね合わせた状態で熱プレスを行う第3の工程とを含み、前記熱可塑性樹脂のガラス転移点の弾性率に対して、前記接着剤の弾性率は50倍以上であるフレキシブル回路基板の製造方法を提供する。
【0022】
この製造方法によれば、離型フィルムの中間層を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移点の弾性率を“1”としたとき、弾性率が“50”倍以上である接着剤を選択して、ベースフィルムの表面にカバーフィルムを接着する。これによって、ベースフィルム、カバーフィルム及び離型フィルムの順で重ね合わせた状態で熱プレスを行うときに、離型フィルムの熱可塑性樹脂の弾性率に比べて接着剤の弾性率の方が所定値だけ高くなる。その結果、離型フィルムに滑りが生じても、高弾性率の接着剤で仮止めされたカバーフィルムには滑りが生じない。
【0023】
尚、前記熱可塑性樹脂に対する接着剤の弾性率の比が高くなると、ベースフィルムに形成された回路パターン(導体パターン)による段差にカバーフィルムが追随しにくくなるので、回路パターンの間の空隙に気泡が残留するおそれがある。このため、接着剤の弾性率は導体パターンの厚みによって上限を設定する必要がある。
【0024】
請求項2記載の発明では、前記カバーフィルムは、前記ベースフィルムの回路パターンの必要部分を露出させる開口部が形成された短冊状のカバーフィルムである請求項1記載のフレキシブル回路基板の製造方法を提供する。
【0025】
この製造方法によれば、予めカバーフィルムにおける前記回路パターンの必要部分と対応する所定箇所に開口部を形成し、該カバーフィルムを前記回路パターンごとの必要箇所に貼り合せてラミネートプレスを行う。斯くして、端子等の必要箇所が前記開口部から露出したFPCを連続ラミネート工程によって製造することができる。
【0026】
請求項3記載の発明は、ベースフィルムのワーク表面に、回路パターンの必要部分を露出させる開口部が形成された短冊状の接着剤付きカバーフィルムを位置決めして仮付けした後、中間層に熱可塑性樹脂を含む多層構造の離型フィルムを前記カバーフィルムに重ね合わせて連続的にラミネートプレスを行うことにより、前記ベースフィルムに前記カバーフィルムが貼り合わされたフレキシブル回路基板であって、前記熱可塑性樹脂のガラス転移点の弾性率に対して、前記接着剤の弾性率は50倍以上であるフレキシブル回路基板を提供する。
【0027】
この構成によれば、離型フィルムの中間層(熱可塑性樹脂)のガラス転移点における弾性率に対して、50倍以上の弾性率の接着剤を選択して、ベースフィルムの表面にカバーフィルムを接着する。従って、ベースフィルム、カバーフィルム、離型フィルムの順で重ね合わせて熱プレスを行うときに、離型フィルムの中間層の弾性率に比べて接着剤の弾性率の方が所定値だけ高いので、離型フィルムに滑りが生じても、接着剤で仮止めされたカバーフィルムには滑りが生じない。
【0028】
請求項4記載の発明では、前記離型フィルムは中間層と該中間層を挟む両側の表層とから成る三層構造であって、中間層である前記熱可塑性樹脂は、相対的に低弾性率のポリオレフィン類で形成され、且つ、前記表層は、相対的に高弾性率のポリオレフィン類の耐熱性フィルムで形成されている請求項3記載のフレキシブル回路基板を提供する。
【0029】
この構成によれば、離型フィルムの中間層が、その両側の表層の耐熱性フィルムに比べて低い弾性率のポリオレフィン類で形成されている。このため、離型フィルムは、べースフィルムに形成された回路部品の凹凸に追随して変形し、カバーフィルムの表面を柔軟に押圧することができる。従って、回路部品間の隙間に気泡が残留するおそれはない。しかも、接着剤の弾性率は前記中間層の弾性率の50倍以上であるので、カバーフィルムは幅方向に位置ズレするおそれはない。
【0030】
請求項5記載の発明では、前記接着剤は、前記ポリオレフィン類よりも更に高弾性率のエポキシ樹脂で形成されている請求項4記載のフレキシブル回路基板を提供する。
【0031】
この構成によれば、接着剤は、離型フィルムの中間層を形成するポリオレフィン類の弾性率に比べて50倍以上の弾性率を有するエポキシ樹脂から成る。依って、該接着剤を使用してベースフィルムの表面にカバーフィルムを接着することにより、カバーフィルムは幅方向に位置ズレするおそれがない。
【発明の効果】
【0032】
請求項1記載の発明は、離型フィルムの中間層を形成する熱可塑性樹脂の弾性率に対して50倍以上の弾性率の接着剤を用いて、ベースフィルムの表面にカバーフィルムを接着している。従って、カバーフィルムは幅方向に位置ズレするおそれはなく、且つ、回路部品間の空隙に気泡が残留するおそれもないので、高品質なFPCを製造することができる。
【0033】
請求項2記載の発明は、所定箇所を開口した短冊状のカバーフィルムをベースフィルムに仮付けしてラミネートプレスを行うので、請求項1記載の発明の効果に加えて、端子部分などのような必要箇所が露出したFPCを容易に製造することができる。
【0034】
請求項3記載の発明は、離型フィルムの中間層の熱可塑性樹脂の弾性率に対して50倍以上の弾性率の接着剤を選択して、ベースフィルムの表面にカバーフィルムが接着される。従って、カバーフィルムは幅方向に位置ズレするおそれはないので、カバーフィルムの貼り合わせ位置精度を向上させることができる。
【0035】
請求項4記載の発明は、離型フィルムの中間層が両側表層の耐熱性フィルムに比べて相対的に低弾性率のポリオレフィン類で形成されているので、請求項3記載の発明の効果に加えて、離型フィルムがベースフィルムに形成された回路部品の凹凸に追随して変形し、カバーフィルムの表面を柔軟に押圧することができる。従って、回路部品間の隙間に気泡が残留するおそれはなくなる。
【0036】
請求項5記載の発明では、カバーフィルムを仮止めする接着剤は、離型フィルムの中間層の弾性率に比べて50倍以上の弾性率をもつエポキシ樹脂から成るので、請求項4記載の発明の効果に加えて、カバーフィルムの貼り合わせ位置精度を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、長尺な基板材料に対してカバーフィルムをラミネートするときに、該カバーフィルムが幅方向で位置ズレしないようにして貼り合わせ位置精度を向上させるという目的を達成するために、ベースフィルムのワーク表面に対して接着剤付きカバーフィルムを仮付けし、連続的にラミネートプレスを行って該カバーフィルムを貼り合わせるフレキシブル回路基板の製造方法において、前記ベースフィルムのワーク表面に前記カバーフィルムを位置決めして仮付けする第1の工程と、中間層に熱可塑性樹脂を含む多層構造の離型フィルムを、前記カバーフィルムの表面に重ね合わせる第2の工程と、前記ベースフィルム、前記カバーフィルム、前記離型フィルムの順で重ね合わせた状態で熱プレスを行う第3の工程とを含み、前記熱可塑性樹脂のガラス転移点の弾性率に対して、前記接着剤の弾性率は50倍以上であることによって実現した。
【実施例】
【0038】
以下、図1乃至図10を用いて、本発明に係るFPCの製造方法、特に、カバーフィルムの貼り合わせ方法の好適な一実施例について詳述する。図1は、ラミネートプレス装置によって本実施例に係るFPCを製造するときの状態を示す連続ラミネート工程図である。また、図2は、前記連続ラミネート工程図におけるベースフィルム(基板材料)1、カバーフィルム2及び離型フィルム5の幅方向Wの断面図である。更に、図3は、従来の図1のラミネートプレス装置によるカバーフィルム2の滑りの挙動を示す断面図であり、図4は、本発明のカバーフィルム2の滑りの挙動を示す断面図である。
【0039】
先ず、FPCの連続ラミネート工程の流れを図1乃至図4に従って説明する。図1に示すように、長尺のベースフィルム1には図示しない導体パターン(回路パターン)が形成され、該ベースフィルム1は、ローラ4a,4bの回転駆動によって図中矢印で示す右方向(左方から右方に向かう方向)Rへ移動している。そして、ベースフィルム1の表面にはカバーフィルム2が予めエポキシ樹脂系の接着剤3により仮付けされ、該カバーフィルム2は、所望位置に開口部を有する短冊状に打ち抜き加工して形成されている。
【0040】
又、ベースフィルム1と対向する上側には、長尺なラミネート副資材である離型フィルム5が配設され、離型フィルム5はローラ6a,6bの回転駆動によって右方向Rへ移動している。更に、離型フィルム5上面側にはプレス熱板7aが配置され、且つ、前記ベースフィルム1の下面側にはプレス熱板7bが配置されている。該プレス熱板7a及びプレス熱板7bは互いに対向する上下方向に移動可能に設けられている。斯くして、プレス熱板7aの下降動作及びプレス熱板7bの上昇動作により、ベースフィルム1、カバーフィルム2及び離型フィルム5の三者を一体的に押圧できるように構成されている。
【0041】
図2に示すように、本実施例に係る離型フィルム5は、熱可塑性樹脂を三層構造に積層して構成されている。そして、離型フィルム5の中間層は、相対的に弾性率の低い柔軟性ポリオレフィン類5bにより形成され、且つ、離型フィルム5の中間層を挟む上下両側に設けた上層と下層は、相対的に弾性率の高いポリオレフィン類の耐熱性フィルム5a,5cにより形成されている。
【0042】
離型フィルム5は、上記三層構造によってクッション作用を呈して良好な離型性を発揮する。このため、ラミネート工程時に、離型フィルム5がプレス熱板7aの表面に接着する虞はない。尚、耐熱性フィルム5a,5cはポリオレフィン類に限らず、例えば、ポリエステル樹脂等の材料を用いてもよい。
【0043】
次に、前記ラミネートプレス装置による連続ラミネート工程の流れについてを説明する。この連続ラミネート工程では、カバーフィルム2が仮付けされたベ−スフィルム1は、ローラ4a,4bの回転駆動によって右方向Rへ移動し、又、中間層に柔軟性ポリオレフィン類5bを含む三層構造の離型フィルム5も、ローラ6a,6bの回転駆動によって右方向Rへ移動する。
【0044】
このようにベースフィルム1と離型フィルム5を連続的に移動させながら、短冊状のカバーフィルム2をベースフィルム1に貼り合わせてラミネートプレスが行われる。この場合、接着剤3付きカバーフィルム2がベースフィルム1に仮付けされた状態で、該ベースフィルム1に離型フィルム5が重ね合わせられる。その際、プレス熱板7a、7bを互いに接近する上下方向へ移動させることによって、ベースフィルム1、カバーフィルム2及び離型フィルム5を上下両側から加熱・加圧してラミネートプレスを行う。
【0045】
上記ラミネートプレス工程において、図2に示すように、ベースフィルム1のラミネート進行時における幅方向Wの寸法A(例えば、250mm)に対して、離型フィルム5の幅方向Wの寸法B(例えば、270mm)は幅広に設定され、且つ、離型フィルム5は所要の柔軟性を有している。このため、該離型フィルム5はラミネートプレス時に、カバーフィルム2及びベースフィルム1の幅方向W両側の端部(端面部)を内側に包み込むように追随して変形する。従って、離型フィルム5がベースフィルム1の端部を封止するため、ベースフィルム1の端部から前記接着剤3が端子などの導電部分に流れ出すおそれはない。
【0046】
また、前記中間層の柔軟性ポリオレフィン類5bのガラス転移点の弾性率に対して、仮付け用の接着剤3の弾性率は50倍以上である。即ち、柔軟性ポリオレフィン類5bの弾性率を“1”としたとき、接着剤3の弾性率は“50”以上になるように設定されている。これによって、ラミネートプレス時に、離型フィルム5が弾性的に変形しようとするときに、カバーフィルム2がこれに追随するおそれはなくなる。依って、カバーフィルム2が幅方向Wの端部においてベースフィルム1に対して位置ズレすることはない。
【0047】
更に、離型フィルム5の抑圧力によって、ベースフィルム1に形成された導体パターンによる段差に対して、カバーフィルム2が柔軟かつ適正に追随して変形する。そのため、前記導体パターン間の空隙に気泡が残留するおそれもなくなる。
【0048】
尚、接着剤3の弾性率が高くなると、前記段差に対してカバーフィルム2が追随しにくくなるので、導体パターン間の空隙に気泡が残留するおそれがある。このため、導体パターンの厚みに応じて、接着剤3の弾性率の上限を最適値に設定する必要がある。例えば、導体パターンの厚みが20μmの場合は、接着剤3のガラス転移点の弾性率は“1.5GPa”以下であることが好ましい。
【0049】
又、導体パターンの厚みが20μmよりも薄い場合は、接着剤3のガラス転移点の弾性率を“1.5GPa”よりも高く設定しても問題ないが、導体パターンの厚みが20μmよりも厚い場合は、接着剤3のガラス転移点の弾性率を“1.5GPa”よりも低い範囲に設定する必要がある。このように、接着剤3のガラス転移点における弾性率の上限は、導体パターンの厚みに応じて最適範囲に設定される。
【0050】
図3は図1のラミネートプレス装置による従来のラミネート工程におけるカバーフィルム2の滑りの挙動を示し、又、図4は本発明によるカバーフィルム2の滑りの挙動を示す。以下、従来の接着剤については「接着剤3」と表記し、本発明の接着剤については「接着剤3a」と表記する。
【0051】
また、図5は従来の接着剤3及び離型フィルム5の中間層5bの弾性率特性を示し、横軸に温度、縦軸に弾性率を表わしている。さらに、図6は本発明の接着剤3aと前記中間層5bの弾性率特性の一例を示し、横軸に温度、縦軸に弾性率を表わしている。
【0052】
ここで、離型フィルム5の中間層5bの弾性率が急激に低下し始める温度から、該温度低下が緩やかになるまでの範囲領域をガラス転移領域とし、また、そのガラス転移領域内における変曲点をガラス転移点Tgとしている。これまでガラス転移点と称していたものは、前記変曲点のことを指し、以降も特に断りのない場合には、「ガラス転移点」は前記変曲点のことを指すこととする。
【0053】
図5に示すように、従来の接着剤3を用いた場合は、接着剤3の弾性率の変化ははじめは緩やかで、離型フィルム5の中間層5bのガラス転移領域で接着剤3の弾性率が低下する。そして、ガラス転移点Tgにおいて従来の接着剤3の弾性率と前記中間層5bの弾性率との差が比較的少なくなっている。
【0054】
従って、図3(a)のようにベースフィルム1、接着剤3、カバーフィルム2、離型フィルム5の順に重ね合わせた後に、図3(b)のように、図示しないラミネートプレス装置で図示上側から前記重合物を加圧すると、離型フィルム5の中間層5bは加熱・加圧によって流動状態となる。そして、離型フィルム5は、上記導体パターンの間の窪み部分に追随すべく変形しようとすると共に、離型フィルム5の端部から中間層5bが流れ出す方向に移動する。この移動に伴い、離型フィルム5の下層側の耐熱性フィルム5cも図中の矢印方向へ延伸される。
【0055】
又、カバーフィルム2を仮付けしている接着剤3が流動状態にあると、カバーフィルム2も離型フィルム5に追随して矢印の方向へ伸ばされる。その結果、図3(c)に示すように、ラミネートプレスが終わった段階で、カバーフィルム2は端部2aにて幅方向Wに位置ズレが生じる。
【0056】
一方、図6に示すように、本発明の接着剤3aを用いた湯合は、接着剤3aの弾性率の変化ははじめは緩やかで、離型フィルム5の中間層(柔軟性ポリオレフィン類)5bのガラス転移領域でも接着剤3aの弾性率の低下が少ない。更に、離型フィルム5の中間層5bのガラス転移点Tgにおいて、接着剤3aの弾性率と前記中間層5bの弾性率との差が大きくなっている。
【0057】
従って、本発明のカバーフィルム2の滑りの挙動は、図4(a)の初期状態から図4(b)に示すように、上記ラミネートプレス装置でカバーフィルム2をラミネートプレスすると、前記中間層の柔軟性ポリオレフィン類5bが図中の矢印方向へ流れ出し、その際、離型フィルム5の下層側耐熱性フィルム5cも前記矢印方向へ延伸される。それに伴って、カバーフィルム2も図4(b)の矢印方向へ延伸される。
【0058】
このとき、本発明の接着剤3aは既に軟化が始まっているが、図6に示すように、該接着剤3aの弾性率は中間層5bの弾性率よりもかなり高いために、カバーフィルム2の滑りは抑制される。その結果、カバーフィルム2の端部においても、カバーフィルム2はベースフィルム1との間で幅方向に位置ズレは生じない。
【0059】
実験結果によれば、離型フィルム5の中間層5bのガラス転移点Tgの弾性率に対して、上記接着剤3aの弾性率が50倍以上に設定すると、まず、中間層5bが軟化して流動性を示す。このときは前記接着剤3aも流動性を示すが、中間層5bより流動性が小さいため、離型フィルム5が変形しようとするときに、これにカバーフィルム2が追随して位置ズレする現象は生じない。
【0060】
但し、中間層5bのガラス転移点Tgの弾性率に対して、本発明の接着剤3aの弾性率が高くなりすぎると、ベースフィルム1に搭載された回路部品(図示せず)による段差にカバーフィルム2が追随しにくくなるため、回路部品間の空隙に気泡が残留する虞がある。従って、中間層5bのガラス転移点Tgの弾性率に対して、本発明の接着剤3aの弾性率は50倍以上に設定し、且つ、接着剤3aの弾性率の上限は導体パターンの厚みによって最適範囲に設定するものとする。
【0061】
図7は、従来技術によるFPC形成時における各材料の弾性率の実測特性図である。同図では、(a)PIカバーであるカバーフィルム2、(b1)従来の接着剤3、(c)離型フィルム5の上層側の耐熱性フィルム5a、及び(d)離型フィルム5の中間層の柔軟性ポリオレフィン類5bについて各弾性率の特性を示している。
【0062】
尚、図中の破線で示す105℃付近の中間層5bのガラス転移点における(b1)従来の接着剤3の弾性率は0.8GPaとなっており、従来の接着剤3の弾性率と中間層5bの弾性率とでは40倍の差がある。従来の接着剤3を用いて、長尺のベースフィルムにカバーフィルムを連続的にラミネートプレスしてFPCを形成したときの、カバーフィルムの幅方向の位置ズレ量を示すグラフが図11である。
【0063】
図8は、接着剤の弾性率を高めるため、従来の接着剤3の揮発成分を所定量気散させるように改良した接着剤を用いたとき弾性率の実測特性図である。破線で示す中間層5bのガラス転移点105℃付近における(b2)改良接着剤の弾性率は1.0 GPaであり、中間層5bの弾性率との差を50倍に調整している。
【0064】
更に、図9は、新規の接着剤における弾性率の実測特性図である。破線で示す105℃付近の中間層5bのガラス転移点での(b3)新規接着剤の弾性率は1.3GPaであり、中間層5bの弾性率との差は65倍となっている。尚、図7ないし図9では横軸は温度、縦軸は弾性率を表わしている。
【0065】
図10は、従来の接着剤を用いたときと、本発明の改良接着剤および新規接着剤を用いたときのカバーフィルの位置ズレ量の比較データを示す特性図である.尚、横軸はFPCの幅方向の中心位置を0としたときの左右両側の幅寸法(相対値)を表わし、縦軸はカバーフィルムの幅方向の位置ズレ量(相対値)を表わしている。
【0066】
図10に示すように、従来の接着剤を用いたときは、折れ線aに示すように、幅方向両側共に100を超えた位置から製品端までは急激に位置ズレ量が大きくなる。そして、最大の位置ズレ量は同図の左側の製品端付近で0.17を示し、又、同図の右側の製品端付近で0.225を示している。
【0067】
ところで、本発明の改良接着剤(折れ線b)および新規接着剤(折れ線c)を用いたときは、中間層のガラス転移領域における弾性率が比較的高いために、幅方向の左右両側共に100を超えた位置から製品端までの位置ズレ量については、幅方向の左右両側の端部共に位置ズレ量は小さくなる。これによって、長尺の基板材料(ベースフィルム)に対してカバーフィルムを連続的にラミネートプレスしても、基板材料の両側端部でカバーフィルムの幅が著しくズレすることを効果的に防止できる。
【0068】
従って、離型フィルムの中間層のガラス転移点の弾性率に対して、カバーフィルムの接着剤の弾性率が50倍以上であれば、長尺の基板材料のワーク表面に対して短冊状のカバーフィルムを連続的にラミネー卜する場合の位置ズレ現象を可及的に回避できることが確認できた。
【0069】
尚、新規接着剤(中間層との弾性率の差が125倍)を、導体パターンの厚みが25μmのFPCに適用した場合でも、導体パターンの間の空隙に気泡が残留することはなかった。
【0070】
以上、FPCにおけるカバーフィルムの貼り合わせ方法の一実施例について説明したが、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】ラミネートプレス装置によって本発明の一実施例に係るFPCを製造する状態を示す連続ラミネート工程図。
【図2】図1の連続ラミネートエ程図におけるベースフィルム、カバーフィルム及び離型フィルムの幅方向の断面図。
【図3】従来における、図1のラミネートプレス装置によるラミネート工程におけるカバーフィルムの滑りの挙動を示す断面図。
【図4】本発明における、図1のラミネートプレス装置によるラミネート工程におけるカバーフィルムの滑りの挙動を示す断面図。
【図5】従来の接着剤と離型フィルムの中間層の弾性率特性を示す図。
【図6】本発明の接着剤と離型フィルムの中間層の弾性率特性を示す図。
【図7】従来のFPC形成時における各材料の弾性率の実測特性図。
【図8】本発明のFPC形成時における各材料の弾性率の実測特性図。
【図9】本発明のFPC形成時における各材料の弾性率の実測特性図。
【図10】従来の接着剤を用いたときと本発明の接着剤を用いたときのカバーフィルムのズレ量の比較データを示す特性図。
【図11】従来技術において長尺なベースフィルムにカバーフィルムを連続的にラミネートプレスしてFPCを形成したときの、カバーフィルムの幅方向の位置ズレ量を示す図。
【符号の説明】
【0072】
1 ベースフィルム(基板材料)
1a 導体パターン(回路パターン)
2 カバーフィルム
3 接着剤
3a 接着剤
4a,4b ローラ
6a,6b ローラ
5 離型フィルム
5a,5c 離型フィルムの表層(耐熱性フィルム)
5b 離型フィルムの中間層(柔軟性ポリオレフィン類)
7a,7b プレス熱板
01〜16 製品パネル(回路基板)
102 基板材料
103 カバーフィルム
103a,103b 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムのワーク表面に対して接着剤付きカバーフィルムを仮付けし、連続的にラミネートプレスを行って該カバーフィルムを貼り合わせるフレキシブル回路基板の製造方法において、
前記ベースフィルムのワーク表面に前記カバーフィルムを位置決めして仮付けする第1の工程と、
中間層に熱可塑性樹脂を含む多層構造の離型フィルムを、前記カバーフィルムの表面に重ね合わせる第2の工程と、
前記ベースフィルム、前記カバーフィルム、前記離型フィルムの順で重ね合わせた状態で熱プレスを行う第3の工程とを含み、
前記熱可塑性樹脂のガラス転移点の弾性率に対して、前記接着剤の弾性率は50倍以上であることを特徴とするフレキシプル回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記カバーフィルムは、前記ベースフィルムの回路パターンの必要部分を露出させる開口部が形成された短冊状のカバーフィルムであることを特徴とする請求項1記載のフレキシブル回路基板の製造方法。
【請求項3】
ベースフィルムのワーク表面に、回路パターンの必要部分を露出させる開口部が形成された短冊状の接着剤付きカバーフィルムを位置決めして仮付けした後、中間層に熱可塑性樹脂を含む多層構造の離型フィルムを前記カバーフィルムに重ね合わせて連続的にラミネートプレスを行うことにより、前記ベースフィルムに前記カバーフィルムが貼り合わされたフレキシブル回路基板であって、
前記熱可塑性樹脂のガラス転移点の弾性率に対して、前記接着剤の弾性率は50倍以上であることを特徴とするフレキシブル回路基板。
【請求項4】
前記離型フィルムは中間層と該中間層を挟む両側の表層とから成る三層構造であって、中間層である前記熱可塑性樹脂は、相対的に低弾性率のポリオレフィン類で形成され、且つ、前記表層は、相対的に高弾性率のポリオレフィン類の耐熱性フィルムで形成されていることを特徴とする請求項3記載のフレキシブル回路基板。
【請求項5】
前記接着剤は、前記ポリオレフィン類よりも更に高弾性率のエポキシ樹脂で形成されていることを特徴とする請求項4記載のフレキシブル回路基板。


















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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