説明

フレキシブル基板上の金属層厚さ測定方法

【課題】フレキシブルエレクトロニクスに使用されるフレキシブル配線基板製造工程中に、フレキシブル基板上に形成された金属層の厚さを測定する方法を提供する。
【解決手段】金属層に引張応力又は曲げ応力を加えることにより金属層にシワを生成し、このときに発生したシワの周期を光学顕微鏡などで現場で直接測定することにより薄い金属層の厚さを容易に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル基板上に備えられた金属層の厚さ測定方法に関し、より詳しくは、フレキシブルエレクトロニクスに使用されるフレキシブル配線基板の製造工程中に、フレキシブル基板上に積層された薄い金属層の厚さを容易に測定できる厚さ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線基板を利用するフレキシブルエレクトロニクス分野において、金属薄膜層の厚さに応じて素子の特性と寿命が大きく変わるため、金属薄膜層の厚さを正確に測定することは非常に重要である。一般に使用される金属薄膜層の厚さ測定方法としては、光、赤外線、X線、レーザなどの干渉、反射、屈折を利用した方法、赤外線サーモグラフィー装置を用いた方法、高周波を利用した方法などがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、既存の厚さ測定方法は、赤外線、X線、高周波などの高価な光源を必要とするだけでなく、別途に光学装置である干渉計、分光計、検出器などを必要とする。さらに、薄膜の厚さ測定のためには、薄膜を製造した後、測定しようとする薄膜を採取して、別途の測定装置に移動して測定する必要がある。従って、厚さ測定作業を現場で適時に行うことができないので、厚さ測定には時間がかかり、厚さ測定の結果を反映するためのフィードバックが遅くならざるをえないという問題があった。
【0004】
本発明は、このような問題を解決するために提案されたものであり、本発明の目的は、フレキシブルエレクトロニクスで使用されるフレキシブル配線基板内の金属層の厚さをその場(in-situ)で測定する方法を提供することにある。
【0005】
さらなる本発明の目的は、フレキシブル基板上に金属層がコーティングされたときに、残留応力又は外部から加えられた応力により金属層に周期的に発生するシワ現象を利用して、金属層の厚さを測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述したような目的を達成するために本発明は、フレキシブル基板の一面にコーティングされた金属薄膜層の厚さを測定する測定方法であって、前記金属薄膜層に圧縮応力を加えてシワを生成する第1段階と、前記シワの周期を測定する第2段階とを含むフレキシブル基板の金属層測定方法を提供する。前記フレキシブル基板は、粘弾性を有するポリマーである。
【0007】
前記フレキシブル基板にコーティングされた金属層にシワを生成する方法としては、金属層をコーティングした後、存在する残留応力を利用してシワを生成する方法、前記フレキシブル基板に引張力を加えた状態で金属層をコーティングして引張力を除去する方法を用いてシワを生成する方法、フレキシブル基板に金属層をコーティングした状態で曲げ応力を加えてシワを生成する方法、又はフレキシブル基板に金属層をコーティングした状態でいずれか一方向に引張力を加えることにより引張力が加えられる方向に対する垂直方向に圧縮応力がかかるようにしてシワを生成する方法を用いることができる。
【0008】
前記シワの周期、すなわち、シワの間隔の測定は、光学顕微鏡、原子顕微鏡、電子顕微鏡を利用して行われ、前記フレキシブル基板にコーティングされた金属薄膜層は、1つの金属層、又は複数の金属層からなる。
【0009】
また、前記シワ生成及びシワ測定は、フレキシブル配線基板の製造工程中にその場で実行できる。
【0010】
また、本発明は、フレキシブル基板にコーティングされた金属薄膜層の厚さを測定する方法として、前記金属薄膜層にシワを生成した後、シワの間隔(λ)と金属層の厚さ(t)の関係を示す下記(式1)を用いて金属層の厚さを測定するフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法を提供する。
【数1】

【0011】
また、本発明は、フレキシブル基板にコーティングされた第1金属層と第2金属層の厚さを測定する方法として、前記第1及び第2金属層に圧縮応力を加えてシワを生成した後、下記式2を用いて金属層の厚さを測定するフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法を提供する。
【数2】

【0012】
本発明は、前記構成により、フレキシブル基板上にコーティングされた金属層の厚さをその場で測定することができる。
すなわち、フレキシブル基板上に金属薄膜をコーティングした後、応力により発生するシワの周期を測定することにより、フレキシブル基板上の金属単一薄膜又は多層薄膜の厚さ測定を容易にすることができるものであり、フレキシブルエレクトロニクス配線基板の厚さを基板製造工程中にその場で測定することにより薄膜の厚さを容易に測定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるフレキシブル基板上の金属層のその場での厚さ測定方法は、フレキシブル基板上に金属薄膜をコーティングした後、残留応力又は外部応力により発生するシワの周期を測定することにより、フレキシブル基板上の金属単一薄膜又は多層薄膜の厚さを容易に測定することができ、フレキシブルエレクトロニクス配線基板の厚さを基板製造工程中にその場で測定することにより薄膜の厚さを容易に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態によるフレキシブル基板上の金属層厚さ測定のためのフローチャートである。
【図2】ポリマー(PDMS)上にコーティングされたCu薄膜層に生成されたシワの形状及び周期を示す図である。
【図3】粘弾性ポリマー上に蒸着した弾性金属層のシワ形状を概略的に示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態による多層薄膜の厚さ測定方法を示す図である。
【図5】ポリマー(PDMS)上にコーティングされたTi薄膜層に生成されたシワの形状及び周期を示す図である。
【図6】ポリマー(PDMS)上にコーティングされたCu/Ti多層薄膜層に生成されたシワの形状及び周期を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0016】
図1において、本発明の一実施形態による金属層厚さを測定するための流れを示す。まず、フレキシブル基板を準備し、該フレキシブル基板に金属層をコーティングした後、該金属層に応力を加えてシワを形成する。また、前記金属層に形成されたシワの周期を測定することにより、金属層の厚さを把握することができる。
【0017】
以下、本発明を説明するための実施形態においては、銅/ポリマー(Cu/PDMS)のフレキシブル基板において、単層薄膜であるCuの厚さを測定する方法についてて説明した後、次に、銅/チタン/ポリマー(Cu/Ti/PDMS)のフレキシブル基板において、多層薄膜であるCu/Tiの厚さ及びCu、Ti層のそれぞれの厚さを測定する方法について説明する。また、本実施形態において説明のために使用されるフレキシブル基板としては、弾性係数が約2.7MPaであるPDMS(Polydimethylsiloxane)を利用し、このPDMS上にDCマグネトロンスパッタリング方法を用いてCu単層薄膜とCu/Ti多層薄膜を蒸着した。
【0018】
蒸着装置の真空チャンバ内の圧力は、10−6Pa(<10−8torr)程度に維持され、金属薄膜層の蒸着後に薄膜層に圧縮応力を加えてシワが生成された。圧縮応力を加える方法としては、蒸着前にフレキシブル基板を予め引張応力を加えて蒸着した後に引張応力を除去する方法、直接圧縮応力を与える方法、蒸着後に曲げ変形(bending)を与える方法、ポアソン比の法則(Poisson rule)を利用してx軸方向に引張ることで、y軸方向に圧縮応力がかかるようにする方法など、様々な方法が全て可能である。ただし、本実験では、蒸着前にPDMSを予め引張変形させ、薄膜蒸着後に引張応力を除去する方法を用いた。
【0019】
図2においては、ポリマー(PDMS)上にコーティングされたCu薄膜層に生成されたシワの形状及び周期を示す。フレキシブル基板の金属層が圧縮変形されると、金属薄膜層とポリマーが非線形変形して、図2に示す光学画像のように特殊なシワ周期を有するシワが生成される。このように生成された薄膜のシワ周期は、薄膜とポリマー基板の弾性係数及び薄膜層の厚さに応じて決定される。
【0020】
図3は、このような方法でポリマー上に蒸着した弾性金属層のシワの形状を示す。
【0021】
図3の上図においては、フレキシブル基板2上に薄い金属薄膜層1が蒸着された状態を示し、図3の下図においては、前記金属層に圧縮応力を加えてシワを形成した状態を示す。
【0022】
ここで、フレキシブル基板2上の金属薄膜層の厚さをtとし、弾性係数を下記(式3)とし、ポアソン比を下記(式4)とする。
【数3】


【数4】

【0023】
フレキシブル基板が軟性ポリマー基板である場合、弾性係数を下記(式5)とし、ポアソン比を下記(式6)とすると、基板の厚さは薄膜層の厚さに比べて非常に大きいため、無限に大きいと仮定することができる。
【数5】


【数6】

【0024】
すなわち、平面歪み(plane strain)条件で考えることができる。ここで、シワの形状又は輪郭は、以下の(式7)で表すことができ、シワの生成のための臨界変形量は以下の(式8)である。
【数7】


【数8】

【0025】
このような臨界変形量以上で生成されるシワの間隔λは(式9)のように表される。また、平面歪み条件ではαが4.356であるため、(式9)は(式10)のように表される。また、(式10)を金属層の厚さについて整理すると、(式11)のように金属層の厚さを求めることができる。
【0026】
【数9】

【0027】
【数10】

【0028】
【数11】

【0029】
ここで、平面歪み弾性係数(plane strain modulus)及び弾性係数(elastic modulus)の関係は以下の(式12)であり、平面歪み弾性係数は(式13)で示され、弾性係数は(式14)で示される。
【数12】


【数13】


【数14】

【0030】
従って、ポリマー基板の弾性係数、金属層の弾性係数、シワの幅又は周期を利用して(式11)のように金属層の厚さを測定することができる。ポリマー基板の弾性係数は、既存の文献の弾性係数値を使用すればよく、金属層の弾性係数は、金属層の結晶方位が同一である場合に一定の値を有するので、既存の文献の弾性係数値を使用すればよく、シワの幅は、光学顕微鏡又は原子顕微鏡を利用して測定すればよいため、上記(式11)を用いると、金属層の厚さを直ちに測定することができる。
【0031】
以下、図4のように金属層が複数の層で形成された場合に厚さを測定する方法について説明する。図4においては、フレキシブル基板上に金属層がCu/Tiのように2層に蒸着された場合を示し、この場合、Ti層上にコーティングされたCu層の厚さは、以下のような方法で測定することができる。
【0032】
まず、図4のようにCu/Ti多層薄膜製造工程中にTi層のみを蒸着した部分とCu/Tiを蒸着した部分に圧縮応力を加えてそれぞれシワを形成した後、これらシワの周期を測定する。
【0033】
下記(式15)によりTi層の厚さを測定する。
【数15】

【0034】
次に、Cu/Ti金属層の厚さは、Cu金属層の厚さとTi金属層の厚さの和であるので、下記(式16)の関係が成立する。
【数16】

【0035】
また、Cu/Ti金属層の厚さは、下記(式17)を用いて決定される。
【0036】
【数17】

【0037】
また、下記(式18)を(式17)に代入して整理すると、(式19)となる。
【0038】
【数18】

【0039】
【数19】

【0040】
また、(式19)をさらに整理すると、(式20)となる。
【0041】
【数20】

【0042】
従って、Cu/Ti金属層の厚さは、(式20)の3次方程式を解いて正の実根を求めれば得ることができる。このような過程によりCu/Ti/PDMSにおいてTi層とCu層の厚さを決定することができる。
【0043】
以上、説明の便宜上、CuとTiがコーティングされた場合を例にして説明したが、これをフレキシブル基板上に複数の金属薄膜層がコーティングされた一般の場合に適用すると、次のような(式21)となる。すなわち、フレキシブル基板には第1金属層と第2金属層がコーティングされ、第1金属層の弾性係数と厚さをそれぞれ下付き文字「1」で表し、第2金属層の弾性係数と厚さをそれぞれ下付き文字「2」で表すと、(式20)は、次の(式21)のように一般の形式で表される。
【0044】
【数21】

【0045】
(式21)において、下付き文字「1/2」は、第1金属層及び第2金属層全体の厚さ及びシワの間隔を示す。
【0046】
本発明による測定方法の有効性を検証するために実施した測定実験では、まずTi単一薄膜において発生したシワの周期を測定し、その結果、図5のように3.82μmであった。また、基板のPDMSの平面歪み弾性係数(式13)に2.7MPaを、Ti薄膜の平面歪み弾性係数(式13)の値に129GPaを代入して(式15)を用いてTiの厚さを計算した結果、Tiの厚さは24nmであった。
【0047】
同様の方法で、図6のように、Cu/Ti多層金属層において発生したシワの周期は29.9μmであり、(式20)において、Cuの平面歪み弾性係数(式13)の値に147GPaを代入して方程式を解いた結果、Cu/Ti金属層の厚さは177nmであった。
【0048】
このように、シワを利用した多層薄膜の厚さ測定が有効であるか否かを確認するためにステッププロフィルメータ(step profilometer)を利用して実際のCu/Ti多層膜の厚さを測定して比較した結果、測定されたCu/Ti金属層の厚さは172nmであった。
【0049】
また、(式16)により計算されたCuの厚さは153nmであり、Cu/Ti多層金属層中のCuの蒸着条件と同一条件でコーティングした図2のようなCu単一薄膜のシワの周期を測定して得たCuの厚さは148nmであった。従って、シワを利用した多層薄膜の厚さ測定は非常に正確で有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル基板の一面にコーティングされた金属薄膜層の厚さを測定する測定方法であって、
前記金属薄膜層に圧縮応力を加えてシワを生成する第1段階と、
前記シワの周期を測定する第2段階と
を含む
フレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項2】
前記フレキシブル基板は、粘弾性を有するポリマーである
ことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項3】
第1段階で、
前記フレキシブル基板に金属層をコーティングした後、存在する残留応力を利用してシワを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項4】
第1段階で、
前記フレキシブル基板に引張力を加えた状態で金属層をコーティングする段階と、
前記引張力を除去する段階とを利用して金属層にシワを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項5】
第1段階で、
前記フレキシブル基板に金属層をコーティングした状態で曲げ応力を加えてシワを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項6】
第1段階で、
前記フレキシブル基板に金属層をコーティングした状態でいずれか一方向に引張力を加えることにより、引張力が加えられる方向に対する垂直方向に圧縮応力がかかるようにしてシワを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項7】
第2段階で、
前記シワの周期の測定は、光学顕微鏡、原子顕微鏡、電子顕微鏡を利用して行われる
ことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項8】
前記フレキシブル基板にコーティングされた金属薄膜層は複数の層からなる
ことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項9】
第1段階及び第2段階は、フレキシブル配線基板の製造工程中にその場で行われる
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項10】
フレキシブル基板にコーティングされた金属薄膜層の厚さを測定する方法であって、
前記金属薄膜層にシワを生成した後、シワの間隔(λ)と金属層の厚さ(t)の関係を示す下記式を用いて金属層の厚さを測定する
フレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【数22】


(式1)において、以下の(式5)は、フレキシブル基板の弾性計数であり、(式3)は、金属薄膜層の弾性係数である。
【数23】


【数24】

【請求項11】
前記シワは、金属薄膜層に圧縮応力を加えて生成する
ことを特徴とする請求項10に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項12】
前記金属薄膜層の厚さ測定は、フレキシブル配線基板の製造工程中にその場で測定する
ことを特徴とする請求項10又は11に記載のフレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【請求項13】
フレキシブル基板にコーティングされた第1金属層と第2金属層の厚さを測定する方法であって、
前記第1及び第2金属層に圧縮応力を加えてシワを生成した後、下記式を用いて金属層の厚さを測定する
フレキシブル基板の金属層厚さ測定方法。
【数25】


(式2)において、以下の(式22)(式23)(式24)は、それぞれ第1金属層、第2金属層、及びフレキシブル基板の弾性計数であり、(式25)及び(式26)はそれぞれ第1金属層と第2金属層が重なった部分の全体厚さ及びシワの間隔を示す。
【数26】


【数27】


【数28】


【数29】


【数30】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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