説明

フレキソ印刷装置

【課題】凹凸形状の段差部分においても途切れないインク転写を実現し得るフレキソ印刷装置を提供する。
【解決手段】フレキソ印刷装置は、フレキソ版凸部21を有するフレキソ版20を備え、凸部である電極32が存在するワーク30に対してフレキソ版20のフレキソ版凸部21にて電極32と凹部である平滑表面31とに跨って押圧転写して印刷を行う。フレキソ版凸部21は、帯状に突出する帯状凸版部22からなっている。帯状凸版部22は、ワーク2の平滑表面31と電極32との境界の段差部分32aへの転写箇所22aの帯幅が、ワーク30の平滑表面31への転写箇所22bの帯幅よりも太くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、割れ易いガラスやセラミックからなる液晶表示パネルや半導体デバイスの製造に際しての印刷に使用される柔軟なフレキソ版凸部を有するフレキソ版を備えたフレキソ印刷装置に関するものであり、詳細には、凹部及び凸部が存在する被印刷基板に凸版印刷するフレキソ印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の印刷方式には、版として凸版を使用する凸版印刷、版として平板を使用するオフセット印刷、版として凹板を使用するグラビア印刷、版として孔板を使用するスクリーン印刷、版として電子版を使用するインクジェット印刷が存在する。
【0003】
ここで、凸版印刷は、一般凸版印刷とフレキソ印刷とに大別される。一般凸版印刷では、凸版として例えば活字版や鉛版等の硬質の版を使用する活版印刷が知られている。一方、フレキソ印刷は、柔軟(フレキシブル)な弾性のある版(合成樹脂やゴム版)を使用し、一般凸版印刷と比べて「印圧」が軽いことが特徴となっている。そのため、フレキソ印刷は、平滑性の悪い紙(厚紙、ダンボール等)やフィルム・布・不織布等の伸縮性のある薄い素材にも多色にて高い印刷再現性を発揮する。また、非常に薄く均一なベタ刷りを得意とし、様々な樹脂や薬品を塗り重ねることにより、さらに精度を高めることも可能である。
【0004】
また、フレキソ印刷は、上述したように、版として合成樹脂やゴム版等の柔軟な弾性のある凸版を使用するので、ガラスやセラミック等の割れ易い高剛性平板に対しても印刷が可能である。このため、フレキソ印刷は、ガラスやセラミックからなる液晶表示パネルの配向膜の塗布、カラーフィルタの作製等に使用されるようになってきている。
【0005】
この種の液晶表示パネルに使用される従来のフレキソ印刷装置としては、例えば、特許文献1が知られている。特許文献1では、転写インク量(膜厚)を一定にするため、凸部に設けた微小凹凸の大きさを変えることが開示されている。具体的には、図7(a)(b)に示すように、樹脂凸版100の基部101には凸部110が形成されており、凸部110には微小凸部111…と微小凹部112…とが形成されている。そして、これら微小凹部112…は周辺部になるにしたがって浅くなっている。これより、凹部が深いほど転写インクを多く貯留できるので、中央部の転写インク量を多くし、インクが周辺部に濡れ広がっていくことにより一定膜厚の塗布を実現するようになっている。
【0006】
すなわち、このような樹脂凸版100を用いて被印刷体に塗工液を印刷すると、凸部110の中央部に比べて、凸部110の周辺部の方が塗工液の保持量が少ないため、被印刷体に印刷された塗工液の厚さは、中央部が厚く、周辺部が薄くなっている。しかし、塗工液の表面張力によって、塗工液は周辺部に引き寄せられ、結果的に厚さの均一な塗工液が印刷されたことになり、これを乾燥すると、厚さの均一な被膜が得られるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−221976号公報(1999年8月17日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記従来の液晶表示パネルに使用されるフレキソ印刷装置においては、例えば、配向膜を被印刷基板である平滑なガラス板にベタ塗り印刷すべく転写インクとしてポリイミド樹脂等の機能材料を印刷する場合に使用されていた。
【0009】
しかしながら、被印刷基板である平滑なガラス板に電極等の凹部及び凸部が存在する場合に、この凸部である電極と凹部である平滑なガラス板とに跨って押圧転写して印刷を行う場合には、電極と平滑なガラス板との間の段差部分の壁付近においてインクが転写できない領域が発生してしまうという問題点を有している。
【0010】
すなわち、従来の液晶表示パネルに使用されるフレキソ印刷装置においては、上述したような凹凸部を有する被印刷基板への印刷は行われていなかった。したがって、特許文献1においても、このような課題及びその課題を解決するための構成の記載及び示唆は一切ない。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、凹部及び凸部が存在する被印刷基板の段差部分においても途切れないインク転写を実現し得るフレキソ印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のフレキソ印刷装置は、上記課題を解決するために、柔軟なフレキソ版凸部を有するフレキソ版を備え、凹部及び凸部が存在する被印刷基板に対して該フレキソ版凸部にて凸部と凹部とに跨って押圧転写して印刷を行うフレキソ印刷装置において、上記フレキソ版凸部は、帯状に突出する帯状凸版部からなっていると共に、上記帯状凸版部は、上記被印刷基板の凹部と凸部との境界の段差部分への転写箇所の帯幅が、該被印刷基板の凹部への転写箇所の帯幅よりも太くなっていることを特徴としている。
【0013】
上記の発明によれば、フレキソ印刷装置は、凹部及び凸部が存在する被印刷基板に対してフレキソ版の柔軟なフレキソ版凸部にて凸部と凹部とに跨って押圧転写して印刷を行う。
【0014】
この場合、凹部と凸部との境界の段差部分の壁付近においてインクが転写できない領域が発生してしまう。この理由は、版の凸部パターンが段差部に沿って正確に変形しないことによるものである。
【0015】
そこで、本発明では、まず、フレキソ版凸部は、帯状に突出する帯状凸版部からなっている。このため、柔軟なフレキソ版凸部は、被印刷基板への当接面積が小さくなっているので、凹部と凸部との境界の段差部分においても帯状凸版部が押し潰れ易くなり、これによって、凹部と凸部との境界の段差部分の壁付近においてインクが転写できない領域を低減することができる。
【0016】
さらに、本発明では、帯状凸版部は、被印刷基板の凹部と凸部との境界の段差部分への転写箇所の帯幅が、該被印刷基板の凹部への転写箇所の帯幅よりも太くなっている。このため、帯状凸版部表面に付けられるインク量は、インクの表面張力等によって、所定の決まった接触角になる。この結果、帯状凸版部の幅が太い方が大量のインクを保持することができ、段差部分における途切れの発生を防止することができる。
【0017】
したがって、凹部及び凸部が存在する被印刷基板の段差部においても途切れないインク転写を実現し得るフレキソ印刷装置を提供することができる。
【0018】
本発明のフレキソ印刷装置では、前記帯状凸版部における少なくとも前記段差部分及びその周辺への転写箇所の帯状凸版部表面には、複数の凹凸からなる凹凸パターンが形成されていることが好ましい。
【0019】
これにより、少なくとも前記段差部分及びその周辺への転写箇所の帯状凸版部表面においては、凹凸パターンの凹部に転写インクを貯留できるので、段差部分及びその周辺への転写箇所の転写インク量を多くすることができる。
【0020】
したがって、さらに、段差部分においても途切れないインク転写を実現し得るフレキソ印刷装置を提供することができる。
【0021】
本発明のフレキソ印刷装置では、前記帯状凸版部には、前記被印刷基板の凹部への転写箇所の帯状凸版部表面にも複数の凹凸からなる凹凸パターンが形成されていると共に、上記帯状凸版部における前記段差部分及びその周辺への転写箇所の帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターンの密度は、上記被印刷基板の凹部への転写箇所の帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターンの密度よりも高いことが好ましい。
【0022】
すなわち、帯状凸版部には、段差部分及びその周辺への転写箇所の帯状凸版部表面には、複数の凹凸からなる凹凸パターンが形成されていると共に、被印刷基板の凹部への転写箇所の帯状凸版部表面にも複数の凹凸からなる凹凸パターンが形成されている。この結果、帯状凸版部表面の全体に形成された凹凸パターンの凹部に転写インクを貯留できるので、帯状凸版部表面の全領域の転写インク量を多くすることができる。
【0023】
また、特に、帯状凸版部における段差部分及びその周辺への転写箇所の帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターンの密度は、被印刷基板の凹部への転写箇所の帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターンの密度よりも高いので、段差部分への転写インク量を多くすることができる。
【0024】
本発明のフレキソ印刷装置では、前記被印刷基板には、複数箇所の凸部が配列をなして設けられていると共に、前記フレキソ版凸部における帯状凸版部も上記被印刷基板における複数の箇所の凸部に対応して配列をなして設けられており、上記被印刷基板に設けられた各凸部を横切る枠状に閉じた印刷を行うべく、上記帯状凸版部は、帯が枠状に閉じたものからなっていることが可能である。
【0025】
これにより、帯状凸版部は、帯が枠状に閉じたものからなっているので、被印刷基板に設けられた複数の凸部を横切る枠状に閉じた印刷を複数同時に行うことができる。また、本発明では、段差部分のインクが転写できない領域をなくすことができる。このため、印刷されたものは、枠内領域と枠外領域とを完全に遮断することができ、その後の工程において、枠内領域に液体を充填することが可能となる。
【0026】
本発明のフレキソ印刷装置では、前記帯状凸版部は、帯が円環状に閉じたものからなっていることが好ましい。
【0027】
これにより、枠状に閉じた印刷を行うときに、方形枠とした場合には、押圧転写するときの四隅角周辺の耐久性が問題になるが、円環状とすることによって、応力の分散化及び平均化を図ることができる。したがって、帯状凸版部の耐久性が向上する。
【発明の効果】
【0028】
本発明のフレキソ印刷装置は、以上のように、フレキソ版凸部は、帯状に突出する帯状凸版部からなっていると共に、帯状凸版部は、被印刷基板の凹部と凸部との境界の段差部分への転写箇所の帯幅が、該被印刷基板の凹部への転写箇所の帯幅よりも太くなっているものである。
【0029】
それゆえ、凹部及び凸部が存在する被印刷基板の段差部分においても途切れないインク転写を実現し得るフレキソ印刷装置を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は本発明におけるフレキソ印刷装置の実施の一形態を示すものであって、フレキソ版の構成を示す平面図であり、(b)は電極を横切って印刷されたワークを示す平面図であり、(c)は電極を横切って印刷されたワークにおける電極と平滑表面との境界を示す要部平面図である。
【図2】上記フレキソ印刷装置を示す概略構成図である。
【図3】(a)は帯状凸版部の幅が太い場合の帯状凸版部表面に付いたインクを示す正面図であり、(b)は帯状凸版部の幅が細い場合の帯状凸版部表面のインクを示す正面図である。
【図4】(a)は上記フレキソ版の変形例の構成を示す平面図であり、(b)は電極とワークとの対応位置関係を示す平面図である。
【図5】(a)は本発明におけるフレキソ印刷装置の他の実施の一形態を示すものであって、複数の帯状凸版部を備えたフレキソ版の構成を示す平面図であり、(b)は電極が配列をなして複数設けられたワークを示す平面図であり、(c)は電極を横切って印刷されたワークを示す平面図である。
【図6】上記帯状凸版部の詳細構造を示す平面図である。
【図7】(a)は比較例のフレキソ印刷装置を示すものであって、フレキソ版の構成を示す平面図であり、(b)は電極を横切って印刷されたワークを示す平面図であり、(c)は電極を横切って印刷されたワークにおける電極と平滑表面との境界を示す要部平面図である。
【図8】(a)は上記比較例のフレキソ印刷装置を示すものであって、電極を備えたワークを押圧したフレキソ版を示す断面図であり、(b)は電極を横切って印刷されたワークを示す断面図であり、(c)は電極を横切って印刷されたワークにおける電極と平滑表面との境界を示す要部平面図である。
【図9】(a)は従来のフレキソ印刷装置を示すものであって、フレキソ版の構成を示す平面図であり、(b)は(a)の要部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について図1〜図3、並びに図7及び図8に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0032】
本実施の形態のフレキソ印刷装置10は、図2に示すように、シリンダからなる版胴11と、この版胴11の表面に固着されたフレキソ版20とを有している。このフレキソ印刷装置10では、ステージ1に載置された被印刷基板としてのワーク30にフレキソ版20を押圧するよう版胴11とステージ1とを同期させながら移動させることによって、ワーク30に印刷できるようになっている。
【0033】
尚、フレキソ印刷装置10には、フレキソ版20に対してインクを付着させるためのアニロックスローラ、該アニロックスローラに均一にインクを塗布するドクターブレード、及びインク滴下機構が付帯されているが、本図では省略している。
【0034】
本実施の形態では、ワーク30は、例えば、ガラスやセラミックからなる液晶表示パネルにてなっており、割れ易いものである。また、ワーク30には、ガラス等の平滑面に凸部が存在している。具体的には、本実施の形態では、ワーク30は、図1(b)に示すように、その平滑表面31に、略直方体の電極32が設けられている。したがって、電極32は本発明の凸部を構成し、平滑表面31は本発明の凹部を構成している。電極32は、幅が例えば50μm〜1mmであり、長さが例えば2mmとなっている。また、電極32の高さは例えば10μmである。尚、これらの寸法は、例示であり、必ずしもこれに限らない。例えば、電極32の長さは2mmよりも短くても長くてもよく、例えば1mでもよい。
【0035】
本実施の形態では、図1(b)に示すように、このワーク30の平滑表面31に突出して1個設けられた電極32を横切る枠状に閉じたマスク等の機能性材料のための印刷を行うことを目的としている。
【0036】
ところで、フレキソ印刷装置10では、本実施の形態のように、ワーク30が割れ易いものを使用している場合、フレキソ版20のフレキソ凸版部はなるべく細くすることが破損抑制のため望ましい。したがって、特に、機能性材料を用いて、転写インクによって未転写エリアとの境界を形成したいような用途では、接触面積を減らした細い形状の転写パターンが有効である。
【0037】
ここで、フレキソ版20のインクをワーク30に転写して印刷するフレキソ印刷装置10では、フレキソ版20をワーク30に対して押し付けて転写する。この場合、転写インクがむらや途切れなく転写されるためには、フレキソ版20のフレキソ凸版部を所定量つぶしながらワーク30に押し当てることが必要である。
【0038】
本実施の形態に係るフレキソ印刷装置10のフレキソ版20は例えば、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂等の樹脂やシリコーンゴム等のゴムからなり、柔軟性及び可撓性を有しているので、ワーク30にガラスやセラミック基板等を用いることが可能である。とはいっても、転写時にワーク30にかかる荷重は大きく、ワーク30が割れたり、ワーク30の性能を落としたりしてしまうことが懸念される。したがって、この種のフレキソ印刷を行うフレキソ印刷装置10では、凹部及び凸部を有する被印刷基板としてのワーク30に対して版形状を工夫することが要求される。
【0039】
この対策として、フレキソ版20のフレキソ凸版部におけるワーク30への当接面積を小さくして、ワーク30にかかる荷重を下げる方策が有効である。具体的には、例えば、図7(a)に示すように、フレキソ版80の柔軟なフレキソ版凸部は、帯状に突出する帯状凸版部81からなっているとすることができる。このように、フレキソ版凸部を帯状にして当接面積を小さくすることによって、従来と同じ版のつぶし量であっても、ワーク30にかかる荷重を下げることができる。尚、荷重は「荷重=バネ定数×つぶし量」にて表される。ここで、バネ定数はフレキソ版20の材料で決まるヤング率とフレキソ版20の厚みと圧縮方向に接している当接面積との積で求まる。したがって、バネ定数及び荷重は当接面積に比例する。
【0040】
一方、図7(b)に示すように、ワーク30に例えば電極32等の凸部が存在する場合に、図7(a)に示すフレキソ版80の帯の太さが均一である帯状凸版部81にて印刷することを考えると、電極32の高さが高々10μm程度であっても、図8(a)(b)(c)に示すように、段差部の壁付近においてインクが転写できない領域が発生してしまう。この理由は、版の凸部パターンが段差部に沿って正確に変形しないことによるものである。
【0041】
すなわち、ワーク30の表面に、電極32等の配線パターン等の凸部が存在している場合は、フレキソ版80の帯状凸版部81が、転写の際の押圧により、凹凸に変形する。しかし、急な形状変化となる段差部では、フレキソ版80がワーク30の凹部である平滑表面31に当接することができず、側壁や底部分ではインクが転写されない。このため、ワーク30の表面にはインクはある程度濡れ広がるが、それにも限度があり、インクにて塗布されない箇所ができてしまう。
【0042】
この場合、文字等の視覚的に判別できる印刷形態であれば、読解できるので、多少の未転写領域が存在しても問題にならないこともある。しかし、転写インクとしてマスク又はレジスト材料等の機能性材料を用いる場合には、この未転写領域は大きな問題となってくる。例えば、転写切れを起因とするフォトレジストの露光不全、導電材料を用いた場合の電気特性劣化、その他外形不良等の種々の欠陥が発生する。
【0043】
そこで、図1(a)に示すように、本実施の形態のフレキソ版20は、フレキソ版凸部21を有し、このフレキソ版凸部21は、帯状に突出する方形枠状に形成された帯状凸版部22からなっている。また、帯状凸版部22は、図1(a)(b)に示すように、ワーク30の凸部である電極32部との境界の段差部分32aへの転写箇所22aの帯幅が、ワーク30の凹部である平滑表面31への転写箇所22bの帯幅よりも太くなっている。
【0044】
これにより、この帯状凸版部22を用いて印刷した場合には、図1(c)に示すように、段差部分32aにおいてもインクが転写されるものとなる。すなわち、帯状凸版部22の幅を太くすることにより、転写面積及び転写インク量を増やすことができ、インクのワーク30への濡れ広がりによって、段差部分32aの壁面及び底部まで転写インクにて繋げることができる。
【0045】
ここで、図1(a)(b)(c)に示すように、帯幅が太い転写箇所22aは、段差部分32aを含んだ前後としている。これは、印刷動作における位置ずれ量を考慮しており、位置ずれが生じても途切れの無いインク転写を実現するためである。
【0046】
上述したインクのワーク30への濡れ広がりの原理について、図3(a)(b)に基づいて説明する。図3(a)(b)は、帯状凸版部22のパターン幅の違いによって保持できるインク量を示したものであり、帯状凸版部22の断面図である。
【0047】
図3(a)(b)に示すように、帯状凸版部22の帯状凸版部表面に付けられるインク量は、インクの表面張力等によって、所定の決まった接触角になる。この結果、帯状凸版部22のパターン幅の太い方が大量のインクを保持することができ、段差部分32aにインクを多量に供給して、途切れの発生を抑制することができるものとなる。
【0048】
ここで、ワーク30の段差部分32aへの転写インクラインが途切れることなく、かつワーク30の割れを防止するため、帯状凸版部22の線幅について実験した結果を表1に示す。ここで、表1は、帯状凸版部22の、パターン幅をパラメータとして実験したものであり、段差部分32aに対して途切れなく転写できたものを「○」、途切れが発生したものを「×」で示している。また、段差部分32aのない箇所においても同じく、途切れ有無で「○」「×」評価を行っている。さらに、実験における段差部分32aの段差は10μmであり、途切れ有無は顕微鏡によって評価したものである。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から分かるように、ワーク30の割れを防止するためには、帯状凸版部22のパターン幅は100μmまで細くすることが好ましい。しかし、段差部分32aにおいては、150μm以上にしないと、ワーク30に途切れが発生してしまうことが分かった。したがって、段差部分32aにおける帯状凸版部22の線幅は、通常部よりも1.5倍程度太くすることが、途切れの無いパターン形成には望ましい。
【0051】
また、本実施の形態では、図1(b)に示すように、このワーク30の平滑表面31に突出して1個設けられた電極32を横切る枠状に閉じた印刷を行うために、枠としては例えば方形印刷枠33からなっている。また、図1(a)に示すように、方形印刷枠33にインクを転写する帯状凸版部22も方形枠状に形成されている。
【0052】
すなわち、本実施の形態では、例えば、液晶表示パネルの製造において、次工程にて、方形印刷枠33の内部に流動性の液体を充填する工程が用意されている。このため、電極32とワーク30の平滑表面31の境界に、塗り残しが存在すると、次工程の方形印刷枠33の内部に流動性の液体を充填したときに、流動性の液体がその塗り残しによって形成された隙間から液体が漏れるので好ましくない。そのためには、平滑表面31等の凹部と電極32等の凸部との境界における印刷の塗り残しが皆無であることが必要となる。
【0053】
ここで、本実施の形態のフレキソ版20では、図4(a)(b)(c)に示すように、帯状凸版部22における少なくとも段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの帯状凸版部表面には、複数の微小な凹凸からなる凹凸パターン23が形成されていることが好ましい。
【0054】
これにより、少なくとも段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの帯状凸版部表面においては、凹凸パターン23の凹部に転写インクを貯留できるので、段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの転写インク量を多くすることができる。したがって、段差部分32aにおいてさらに途切れないインク転写を実現し得るフレキソ印刷装置10を提供することができる。
【0055】
すなわち、帯状凸版部表面の微小な凹凸パターン23はインクを帯状凸版部表面上で保持する役目をしている。これによって、転写インク量を増やすことができ、インクとワーク30との相互関係による接触角で表される濡れ広がり易さによって、段差部分32aの壁面及び底部を転写インクにて繋げることができる。
【0056】
また、本実施の形態のフレキソ印刷装置10では、図4(a)に示すように、帯状凸版部22には、ワーク30の凹部である平滑表面31への転写箇所22bの帯状凸版部表面にも複数の凹凸からなる凹凸パターン23が形成されていると共に、帯状凸版部22における段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターンの密度は、ワーク2の凹部である平滑表面31への転写箇所22bの帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターン23の密度よりも高いことが好ましい。
【0057】
これにより、段差部分32aへの転写インク量を多くすることができる。
【0058】
尚、本実施の形態では、転写するインクとしては、低粘度及び低表面張力であることが、ワーク30への濡れ広がりが良く、段差部分32aの側壁や底部へもインクを付着させることができる。通常は、転写パターンのにじみ等を抑えるため、粘度100cP以上の、ある程度濡れ広がりが抑えられるインクを選定する。しかし、本実施の形態では、濡れ広がり易いインクを使用することが望ましい。
【0059】
また、高沸点溶剤を含有したインクを使用することが好ましい。高沸点溶剤含有インクは、インクの乾燥を抑えられるので、これも良好な濡れ広がり性、及び段差部分32aへのインク付着に有効である。例えば、本実施の形態では、高沸点溶剤の沸点は、165〜185℃となっている。
【0060】
このように、本実施の形態のフレキソ印刷装置10では、柔軟なフレキソ版凸部21を有するフレキソ版20を備え、電極32が存在するワーク2に対して該フレキソ版凸部21にて電極32と平滑表面31とに跨って押圧転写して印刷を行う。
【0061】
この場合、平滑表面31と電極32との境界の段差部分32aの壁付近においてインクが転写できない領域が発生してしまう。この理由は、版の凸部パターンが段差部分に沿って正確に変形しないことによるものである。
【0062】
そこで、本実施の形態のフレキソ印刷装置10では、まず、フレキソ版凸部21は、帯状に突出する帯状凸版部22からなっている。このため、柔軟なフレキソ版凸部21は、ワーク30への当接面積が小さくなっているので、電極32と平滑表面31との境界の段差部分32aにおいても帯状凸版部22が押し潰れ易くなり、これによって、電極32と平滑表面31との境界の段差部分32aの壁付近においてインクが転写できない領域を低減することができる。
【0063】
さらに、本実施の形態では、帯状凸版部22は、ワーク30の電極32と平滑表面31との境界の段差部分32aへの転写箇所22aの帯幅が、ワーク30の平滑表面31への転写箇所22bの帯幅よりも太くなっている。このため、帯状凸版部表面に付けられるインク量は、インクの表面張力等によって、所定の決まった接触角になる。この結果、帯状凸版部22の幅が太い方が大量のインクを保持することができ、段差部分32aにおける途切れの発生を防止することができる。
【0064】
したがって、高精度な印刷形状は求めないが、転写インクが途切れることなく確実に転写される必要がある用途において、電極32が存在するワーク2の段差部分32aにおいても途切れないインク転写を実現し得るフレキソ印刷装置10を提供することができる。
【0065】
また、ワーク30の割れ易さを問題とせず、さらにワーク30の凹部及び凸部等の表面形状にとらわれないため、フレキソ印刷の利用用途を広げることができる。
【0066】
さらに、本実施の形態のフレキソ印刷装置10では、帯状凸版部22における少なくとも段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの帯状凸版部表面には、複数の微小凹凸からなる凹凸パターン23が形成されていることが好ましい。
【0067】
これにより、少なくとも段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの帯状凸版部表面においては、凹凸パターン23の凹部に転写インクを貯留できるので、段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの転写インク量を多くすることができる。
【0068】
したがって、さらに、段差部分32aにおいても途切れないインク転写を実現し得るフレキソ印刷装置10を提供することができる。
【0069】
また、本実施の形態のフレキソ印刷装置10では、帯状凸版部22には、ワーク30の平滑表面31への転写箇所22aの帯状凸版部表面にも複数の凹凸からなる微小の凹凸パターン23が形成されている。そして、帯状凸版部22における段差部分32a及びその周辺への転写箇所の帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターン23の密度は、ワーク30の平滑表面31への転写箇所22bの帯状凸版部表面に形成された複数の微小凹凸からなる凹凸パターン23の密度よりも高いことが好ましい。
【0070】
これにより、帯状凸版部表面の全体に形成された凹凸パターン23の凹部に転写インクを貯留できるので、帯状凸版部表面の全領域の転写インク量を多くすることができる。
【0071】
特に、帯状凸版部22における段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターン23の密度は、ワーク30の平滑表面31への転写箇所22bの帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターン23の密度よりも高いので、段差部分32aへの転写インク量を多くすることができる。
【0072】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について図5及び図6に基づいて説明すれば、以下のとおりである。尚、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0073】
本実施の形態のフレキソ印刷装置10は、前記実施の形態1のフレキソ印刷装置10の構成に加えて、複数の帯状凸版部を有している点が異なっている。
【0074】
すなわち、本実施の形態のフレキソ印刷装置10では、図5(b)に示すように、ワーク50の平滑表面51に、略直方体の電極52…がアレイ状に配列をなして設けられている。したがって、電極52は本発明の凸部を形成し、平滑表面51は本発明の凹部を形成している。電極52は、幅が例えば50μm〜1mmであり、長さが例えば2mmとなっている。また、高さは例えば10μmである。尚、これらの寸法は、例示であり、必ずしもこれに限らない。例えば、電極32の長さは2mmよりも短くても長くてもよく、例えば1mでもよい。
【0075】
本実施の形態では、図5(c)に示すように、このワーク50の平滑表面51に突出してアレイ状に配列をなして設けられた各電極52…を横切る枠状に閉じた印刷を行うことを目的としており、枠としては例えば円環53となっている。
【0076】
また、本実施の形態では、ワーク50は、印刷後、それぞれ電極52を含んで個々にチップ状に分断される。このため、ワーク50には、碁盤の目状に分断溝54が形成されている。
【0077】
すなわち、本実施の形態では、例えば、半導体デバイスの製造において、次工程において、円環53の内部に流動性の液体を充填する工程が用意されている。このため、電極52とワーク50の平滑表面51の境界に、塗り残しが存在すると、次工程の円環53の内部に流動性の液体を充填したときに、流動性の液体がその塗り残しによって形成された隙間から液体が漏れるので好ましくない。そのためには、平滑表面51等の凹部と電極52等の凸部との境界における印刷の塗り残しが皆無であることが要求される。
【0078】
そこで、本実施の形態のフレキソ版40における帯状凸版部42もワーク50における複数の箇所の凸部である電極52に対応して配列をなして設けられている。そして、ワーク50に設けられた各電極52を横切る枠状に閉じた印刷を行うべく、帯状凸版部42は、帯が枠状に閉じたものからなっている。具体的には、帯が円環状に閉じたものからなっている。
【0079】
これにより、ワーク50に設けられた複数の電極52…を横切る枠状に閉じた印刷を複数同時に行うことができる。
【0080】
また、本実施の形態では、各帯状凸版部42は、図6に示すように、円環状に閉じた転写パターンと共に、前記段差部分32aへの転写箇所42aの帯幅が、ワーク50の凹部である前記平滑表面51への転写箇所42bの帯幅よりも太くした楕円形状とすることが有効である。
【0081】
この結果、段差部分32aのインクが転写できない領域をなくすことができる。このため、印刷されたものは、枠内領域と枠外領域とを完全に遮断することができ、その後の工程において、枠内領域に液体を充填することが可能となる。
【0082】
また、本実施の形態のフレキソ印刷装置10では、帯状凸版部42は帯が円環状に閉じたものからなっているので、枠状に閉じた印刷を行うときに、方形枠とした場合には、押圧転写するときの四隅角周辺の耐久性が問題になるが、円環状とすることによって、応力の分散化及び平均化を図ることができる。したがって、帯状凸版部42の耐久性が向上する。
【0083】
また、本実施の形態においても、帯状凸版部42には、ワーク50の平滑表面51への前記転写箇所22aの帯状凸版部表面にも複数の凹凸からなる微小の前記凹凸パターン23が形成されていると共に、帯状凸版部42における段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターン23の密度は、ワーク30の平滑表面31への転写箇所22bの帯状凸版部表面に形成された複数の微小凹凸からなる凹凸パターン23の密度よりも高いことが好ましい。
【0084】
これにより、帯状凸版部表面の全体に形成された凹凸パターン23の凹部に転写インクを貯留できるので、帯状凸版部表面の全領域の転写インク量を多くすることができる。
【0085】
また、特に、帯状凸版部42における段差部分32a及びその周辺への転写箇所22aの帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターン23の密度は、ワーク30の平滑表面31への転写箇所22bの帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターン23の密度よりも高いので、段差部分32aへの転写インク量を多くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のフレキソ印刷装置は、柔軟なフレキソ版凸部を有するフレキソ版を備えており、例えば、割れ易いガラスやセラミックからなる液晶表示パネルや半導体デバイスの製造に際しての印刷に適用できる。具体的には、例えば、配向膜のベタ塗り塗布、カラーフィルタの作製等が可能であり、特に、電極等の凹部及び凸部が存在する被印刷基板にマスク等の絶縁材料を含む機能性材料の凸版印刷に適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
10 フレキソ印刷装置
11 版胴
20 フレキソ版
21 フレキソ版凸部
22 帯状凸版部
22a 段差部分への転写箇所
22b 平滑表面への転写箇所
23 凹凸パターン
30 ワーク
31 平滑表面(凹部)
32 電極(凸部)
32a 段差部分
33 方形印刷枠
40 フレキソ版
42 帯状凸版部
42a 段差部分への転写箇所
42b 平滑表面への転写箇所
50 ワーク
51 平滑表面(凹部)
52 電極(凸部)
53 円環
54 分断溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟なフレキソ版凸部を有するフレキソ版を備え、凹部及び凸部が存在する被印刷基板に対して該フレキソ版凸部にて凸部と凹部とに跨って押圧転写して印刷を行うフレキソ印刷装置において、
上記フレキソ版凸部は、帯状に突出する帯状凸版部からなっていると共に、
上記帯状凸版部は、上記被印刷基板の凹部と凸部との境界の段差部分への転写箇所の帯幅が、該被印刷基板の凹部への転写箇所の帯幅よりも太くなっていることを特徴とするフレキソ印刷装置。
【請求項2】
前記帯状凸版部における少なくとも前記段差部分及びその周辺への転写箇所の帯状凸版部表面には、複数の凹凸からなる凹凸パターンが形成されていることを特徴とする請求項1記載のフレキソ印刷装置。
【請求項3】
前記帯状凸版部には、前記被印刷基板の凹部への転写箇所の帯状凸版部表面にも複数の凹凸からなる凹凸パターンが形成されていると共に、
上記帯状凸版部における前記段差部分及びその周辺への転写箇所の帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターンの密度は、上記被印刷基板の凹部への転写箇所の帯状凸版部表面に形成された複数の凹凸からなる凹凸パターンの密度よりも高いことを特徴とする請求項2記載のフレキソ印刷装置。
【請求項4】
前記被印刷基板には、複数箇所の凸部が配列をなして設けられていると共に、
前記フレキソ版凸部における帯状凸版部も上記被印刷基板における複数の箇所の凸部に対応して配列をなして設けられており、
上記被印刷基板に設けられた各凸部を横切る枠状に閉じた印刷を行うべく、上記帯状凸版部は、帯が枠状に閉じたものからなっていることを特徴とする請求項1,2又は3記載のフレキソ印刷装置。
【請求項5】
前記帯状凸版部は、帯が円環状に閉じたものからなっていることを特徴とする請求項4記載のフレキソ印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−11667(P2012−11667A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150294(P2010−150294)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】