説明

フロアユニットの保管設備および保管方法

【課題】フロアユニットが保管設備より搬出されるまで、受桁がフロアユニットに一体化されることにより、フロアユニットの揚重に必要な工程数を削減し、効率的な揚重作業を実現することができるフロアユニットの保管設備および保管方法を提供する。
【解決手段】フロアユニット40を保管する保管設備1は、鉛直方向に沿って延在する複数の縦フレーム11と複数の縦フレーム11間に掛け渡される横フレーム12とを備える架台10、フロアユニット40に一体化される受桁30、保管領域14に保管されるフロアユニット40に一体化された受桁30を水平に保持する受桁保持部材20、フロアユニット40に一体化された受桁30を揚重する揚重装置50、および受桁30を吊り下ろす下降装置60を備えている。フロアユニット40が保管設備1から搬出されるまで、フロアユニット40と受桁30とを一体化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロアユニットの保管設備および保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の建設現場では、梁部材と床部材とをあらかじめ組み立てた後に建築物に設置する床地組み工法が多く採用されている。また、梁部材と床部材とを組み立てたユニットに、さらに耐火被覆を施すとともに、設備部材等を先に組み込むユニット工法も採用されている。ユニット工法では、地上でフロアユニットを組み立てた後に別の場所に保管しておくのが一般的である。例えば、狭い場所で複数のフロアユニットを保管できるように、フロアユニットを鉛直方向に離間させて保管するユニット部材の先組み方法およびユニット部材の先組み装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、鉛直方向に離間させて保管したフロアユニットを揚重する装置として、上段のフロアユニットが使用されて保管スペースが空いた場合に揚重用ビームを用いて順次上段に揚重するユニット部材の揚重装置が知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−91874号公報
【特許文献2】特開2009−249980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1に記載されたユニット部材の先組み装置と上記特許文献2に記載されたユニット部材の揚重装置とを組合わせた場合では、フロアユニットを揚重する際に、フロアユニットを揚重用ビームに載せ替える作業等が発生する。従って、フロアユニットの揚重には複数の工程が必要となる。このために効率的な揚重作業を阻害する原因となる問題があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、フロアユニットの揚重に必要な工程数を削減し、効率的な揚重作業を実現することができるフロアユニットの保管設備および保管方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明に係るフロアユニットの保管設備は、建築物の床部分に使用するフロアユニットを保管する保管設備であって、鉛直方向に沿って延在する複数の縦フレームと、複数の縦フレーム間に掛け渡される横フレームと、を備え、複数のフロアユニットを鉛直方向に離間させて保管する保管領域が縦フレームおよび横フレームに囲まれた領域に設定された架台と、フロアユニットが保管設備より搬出されるまでフロアユニットに一体化される受桁と、保管領域を挟んで配置された一対の縦フレームのそれぞれに配設され、保管領域に保管されるフロアユニットに一体化された受桁を水平に保持する受桁保持部材と、フロアユニットに一体化された受桁を揚重する揚重装置と、フロアユニットが取り外された受桁を吊り下ろす下降装置と、を備え、受桁保持部材は、フロアユニットに一体化された受桁を揚重する際に、受桁の移動位置から退避する退避手段を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係るフロアユニットの保管設備においては、フロアユニットが保管設備から搬出されるまでフロアユニットとフロアユニットを支持する受桁とを一体化している。このため、フロアユニットを揚重用ビームへ載せ替えたり、フロアユニットを上段に揚重した後に揚重用ビームを所定の位置に戻したりという工程が不要となる。従って、フロアユニットの揚重に必要な工程数を削減し、効率的な揚重作業を実現することができる。
【0009】
また、受桁は、揚重装置によって少なくとも二点の吊り点を吊持されて揚重されるものであり、二点の吊り点の間の距離は、フロアユニットにおける受桁の長手方向に沿う方向の長さよりも短くされている。このため、二点の吊り点の間の距離は短くなる。従って、受桁30に作用する曲げモーメントが小さくなり、受桁30に要求される強度を減少させることができる。
【0010】
また、受桁保持部材は、互いに対向する一対の受桁保持部材の間の距離が調整可能に構成されている。このため、スパンの異なる多彩なフロアユニットを鉛直方向に離間させて保管することができる。
【0011】
さらに、フロアユニットに一体化された複数の受桁を、鉛直方向に互いに連結する連結手段を有している。このため、複数段を一括して揚重することが可能となり、1回の揚重作業を実施することにより複数段のフロアユニットを揚重することが可能となる。従って、効率的な揚重作業を行うことができる。
【0012】
他方、上記課題を解決した本発明に係るフロアユニットの保管方法は、建築物の床部分に使用するフロアユニットを保管する保管設備において、フロアユニットを保管する方法であって、鉛直方向に沿って延在する複数の縦フレームと、複数の縦フレーム間に掛け渡される横フレームと、を備え、複数のフロアユニットを鉛直方向に離間させて保管する保管領域が縦フレームおよび横フレームに囲まれた領域に設定された架台と、フロアユニットが保管設備より搬出されるまでフロアユニットに一体化される受桁と、保管領域を挟んで配置された一対の縦フレームのそれぞれに配設され、保管領域に保管されるフロアユニットに一体化された受桁を水平に保持する受桁保持部材と、フロアユニットに一体化された受桁を揚重する揚重装置と、フロアユニットが取り外された受桁を吊り下ろす下降装置と、を備え、受桁保持部材は、フロアユニットに一体化された受桁を揚重する際に、受桁の移動位置から退避する退避手段を備えており、フロアユニットに一体化された受桁を揚重すると同時に、フロアユニットを取り外した受桁を吊り下ろすことを特徴とする。
【0013】
本発明に係るフロアユニットの保管方法においては、フロアユニットに一体化された受桁を揚重すると同時に、フロアユニットを取り外した受桁を吊り下ろしている。この工程を繰り返すことにより、フロアユニットを順次上段に揚重し、フロアユニットと分離された受桁を最下段まで吊り下ろすことができる。このため、保管されているフロアユニットが全て搬出されるまで待つことなく、フロアユニットの揚重と、最下段でのフロアユニット製作とを連続して行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るフロアユニットの保管設備および保管方法によれば、フロアユニットの揚重に必要な工程数を削減し、効率的な揚重作業を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態に係るフロアユニット保管設備を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は平面図である。
【図2】受桁保持部材の詳細を示す側面図である。
【図3】図1(a)に示す保管設備のI―I線に沿っての平断面図である。
【図4】受桁とフロアユニットとの固定の状態を示す正面図である。
【図5】(a)は単体のフロアユニットを揚重する状態を示す側面図であり、(b)は単体のフロアユニットを揚重する状態を示す正面図であり、(c)は変形例を示す斜視図である。
【図6】(a)および(b)は複数のフロアユニットを同時に揚重する状態を示す側面図である。
【図7】(a)は本保管設備を使用する場合の工程フローを示す側面図であり、(b)は(a)の続きを示す側面図であり、(c)は(b)の続きを示す側面図である。
【図8】(a)は図7の続きを示す側面図であり、(b)は(a)の続きを示す側面図であり、(c)は(b)の続きを示す側面図である。
【図9】(a)は従来技術における吊り点の位置を示す正面図であり、(b)は第1の実施形態における吊り点の位置を示す正面図である。
【図10】(a)〜(e)は受桁保持部材の変形例を示す側面図である。
【図11】受桁保持部材の他の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るフロアユニットの保管設備を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は平面図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係るフロアユニットの保管設備1は、設備本体である架台10を備えている。また、架台10には、複数組の受桁保持部材20が鉛直方向に離間した状態で設けられている。受桁保持部材20には、フロアユニット40に一体化された受桁30が載置されている。また、架台10には、揚重装置50および下降装置60が設けられている。
【0018】
架台10は、図1(b)に示すように、フロアユニット40を製造する製造領域13とフロアユニット40を鉛直方向に離間させて保管する保管領域14とが設定された領域を有している。また、架台10は、図1(c)に示すように、鉛直方向に沿って延在する4本の縦フレーム11と2本の横フレーム12とを備えている。図1(c)に示すように、4本の縦フレーム11のうちの2本の縦フレーム11は、手前側左右位置にそれぞれ配置され、その他の2本の縦フレーム11は、奥側左右位置にそれぞれ配置されている。また、図1(b)に示すように、手前側左右位置にそれぞれ配置された2本の縦フレーム11は、左右方向に離間して配置されている。同様に、奥側左右位置にそれぞれ配置された2本の縦フレーム11は、左右方向に離間して配置されている。
【0019】
手前側左右位置にそれぞれ配置された2本の縦フレーム11の上端部には、横フレーム12が載置されており、横フレーム12は、これらの2本の縦フレーム11に掛け渡されている。同様に、手前側左右位置にそれぞれ配置された2本の縦フレーム11の上端部にも、横フレーム12が載置されている。
【0020】
図1(c)に示すように、受桁保持部材20は、4個を1組として水平面に沿う平面を形成するように、縦フレーム11のそれぞれに配設されている。さらに、同一の平面を形成する受桁保持部材20の組が、鉛直方向に互いに離間して設けられている。
【0021】
図2は、受桁保持部材20の構成を例示する側面図である。この受桁保持部材20は、アーム保持部21およびスライドアーム22を備えている。アーム保持部21には、水平方向であって、図1に示す横フレーム12の長手方向と直交する方向に貫通する貫通孔21aが形成されている。また、アーム保持部21は、その上下面が縦フレーム11に接した状態で縦フレーム11に取り付けられている。
【0022】
スライドアーム22は、略直方体形状をなしている。スライドアーム22の上方には、ピニオンギヤ23が設けられている。また、スライドアーム22の上面には、ピニオンギヤ23と噛み合う直線状のラック24が取り付けられている。スライドアーム22は、アーム保持部21に形成された貫通孔21aに貫通している。さらに、スライドアーム22は、ピニオンギヤ23を回転させることにより、貫通孔21aに沿った方向である左右方向に対して移動可能とされている。
【0023】
受桁保持部材20のスライドアーム22は、受桁30を保持する際に、縦フレーム11から保管領域14へ向かう方向に進出させられる。ピニオンギヤ23を反時計回りに回転させることにより、スライドアーム22を保管領域14へ進出させることができる。一方、受桁保持部材20のスライドアーム22は、受桁30が揚重される際に、保管領域14から退避させられる。ピニオンギヤ23を時計回りに回転させることにより、スライドアーム22を保管領域14から退避させることができる。
【0024】
受桁30には、例えばH型鋼が用いられており、図3に示すように、水平方向に互いに離間した2つの揚重用吊り点31a、31bと、2つの下降用吊り点32a、32bとが設定されている。揚重用吊り点31a、31bおよび下降用吊り点32a、32bが設定された箇所には、ねじ孔が形成されている。第1揚重用吊り点31aと第2揚重用吊り点31bとの間の距離は、フロアユニット40の長手方向に沿う長さよりも短くされている。さらに、2つの下降用吊り点32a、32bは、第1揚重用吊り点31aと第2揚重用吊り点31bとの間に設定されている。また、図1(b)に示すように、受桁30は横フレーム12と互いに平行になるように受桁保持部材20に載置されている。
【0025】
フロアユニット40は、図1(c)に示すように、横フレーム12と互いに直交する方向に設けられる複数の小梁41と、横フレーム12と互いに平行な方向に設けられる複数のデッキプレート42とを備えている。小梁41とデッキプレート42とは製造工程において固定されている。また、フロアユニット40は、図示しない耐火被覆がされているとともに、設備部材等が設けられている。
【0026】
図4は、受桁30とフロアユニット40との固定状態を示す正面図である。受桁30と小梁41とは、小梁固定部材33、ボルト34、およびナット35により着脱可能に固定されている。小梁固定部材33は、略L字状をなしており、鉛直部と水平部とを有している。小梁固定部材33の鉛直部にはボルト34の直径よりも大きい貫通孔が形成されている。受桁30には、小梁固定部材33の貫通孔の位置に対応する位置に、ボルト34の直径よりも大きい貫通孔が形成されている。
【0027】
受桁30とフロアユニット40とを固定する場合は、小梁固定部材33の水平部と受桁30とにより小梁41を挟み、受桁30と小梁固定部材33とを、ボルト34およびナット35により共締めすることにより固定される。一方、受桁30とフロアユニット40とを固定から解放する場合は、ナット35を緩め、小梁固定部材33をボルト34を中心に回転可能な状態にする。そして、小梁固定部材33を回転させて、小梁41を移動可能にすることにより、受桁30とフロアユニット40とが固定から解放される。
【0028】
また、図3に示すように、保管設備1において互いに異なる幅を有するフロアユニット40を製造する場合には、例えば、受桁30には小梁延長部材36が取り付けられる。小梁延長部材36は、略直方体状をなしている。小梁延長部材36の一方の端部には、鉛直方向に沿う貫通孔が形成されている。この貫通孔と図示しない締結部材により、小梁延長部材36は受桁30に取り付けられる。小梁延長部材36は、小梁41を支持する際には、小梁延長部材36の長手方向が受桁30の長手方向と直交する方向に沿うように固定される。一方、小梁延長部材36は、小梁41との固定が解除された際には、小梁延長部材36の長手方向が受桁30の長手方向に沿うように固定される。
【0029】
図1(b)に示すように、横フレーム12の両端部に近い位置に揚重装置50がそれぞれ設けられている。この揚重装置50は、取付部51、巻上部52、およびワイヤ53を備えている。取付部51は、略L字状をなしており、鉛直部と水平部とを有している。取付部51の鉛直部の下端部は横フレーム12に固定されており、上端部は水平部の一端部に固定されている。また、水平部の他端部は、横フレーム12から保管領域14に向かう方向に延在している。巻上部52は、取付部51が備える水平部の他端部近傍に取り付けられている。この巻上部52には、ワイヤ53が巻きつけられている。巻上部52でワイヤ53を巻き取ることにより、受桁30を揚重することができる。
【0030】
図1(b)に示すように、横フレーム12に設けられた2つの揚重装置50の間に下降装置60がそれぞれ設けられている。この下降装置60は、取付部61、巻上部62、およびワイヤ63を備えている。取付部61は、略L字状をなしており、鉛直部と水平部とを有している。鉛直部の下端部は横フレーム12に固定されており、上端部は水平部の一端部に固定されている。また、水平部の他端部は、横フレーム12から保管領域14に向かう方向に延在している。巻上部62は、取付部61が備える水平部の他端部近傍に取り付けられている。この巻上部62には、ワイヤ63が巻きつけられている。巻上部62からワイヤ63を巻き出すことにより、受桁30を下降することができる。
【0031】
次に、フロアユニット40を吊り上げる場合の、フロアユニット40の吊り上げ例について説明する。フロアユニット40を吊り上げる際には、フロアユニット40を単体で吊り上げる場合と、複数のフロアユニット40をまとめて吊り上げる場合とがある。以下、これらの各場合のフロアユニット40の吊り上げ例について説明する。
【0032】
(単体のフロアユニット40を吊り上げる場合の例)
図5(a)および(b)に示すように、受桁30は鉛直方向に延在する貫通孔30aを有している。さらに、貫通孔30a付近には連結部材55が設けられている。この連結部材55は、円弧状の連結部を有し受桁30に対して回動可能に設けられている。一方、ワイヤ53の先端には、フック54が取り付けられている。フック54は、受桁30に設けられた連結部材55と連結されている。また、図5(c)に示すように、ワイヤ53と連結部材55は、シャックル56により連結されてもよい。
【0033】
(複数のフロアユニット40を吊り上げる場合の第1の例)
図6(a)に示すように、このワイヤ53の先端には、シャックル56が取り付けられている。シャックル56は、受桁接続部材72と接続されている。受桁接続部材72は、垂直部と水平部とを有する略T字形の受桁接続部本体を備え、複数のボルト73を用いて受桁30に固定されている。受桁接続部本体の垂直部には、水平方向に貫通孔が形成されており、受桁接続部本体の水平部にはボルトを挿入する貫通孔が設けられている。受桁接続部本体の垂直部に形成される貫通孔に、シャックル56又は図1に示す下降装置60のワイヤ63の先端に取り付けられたシャックル(図示せず)が連結される。
【0034】
(複数のフロアユニット40を吊り上げる場合の第2の例)
また、図6(b)に示すように、受桁30は引き上げロッド81とカンヌキ82とを備える連結部材により連結されてもよい。この場合、図3に示す受桁30の揚重用吊り点31a、31bと、下降用吊り点32a、32bとが設定された箇所には、貫通孔が形成されている。引き上げロッド81は貫通孔が形成された複数の受桁30を貫通する。この引き上げロッド81には、水平方向に沿う方向に貫通孔が形成されている。引き上げロッド81に形成された貫通孔にカンヌキ82が挿入され、受桁30が支持される。
【0035】
次に、フロアユニットの保管設備1を用いた保管方法について説明する。ここでは、フロアユニット40の吊り上げ例として、単体のフロアユニット40を吊り上げる例について説明する。図7〜図8は、本発明に係る保管方法を示すフロー図である。本発明に係る保管方法の実施形態に用いるフロアユニットの保管設備1は、製造領域13において受桁30上でフロアユニット40を製造し、保管領域14において3つのフロアユニット40を鉛直方向に離間させて保管できるものである。さらに、受桁保持部材20のスライドアーム22は、水平に移動可能に構成されており、内側に進出可能であり、外側に退避可能である。以下の説明では、製造領域13を1階、保管領域14における最も下段の階から順に2階、3階、4階と呼び、最上階を5階と呼ぶことにする。また、受桁保持部材20のスライドアーム22が内側に進出して受桁30を保持している状態におけるスライドアーム22の位置を保持位置と呼び、受桁30の揚重の際にスライドアーム22を退避させた位置を退避位置と呼ぶことにする。
【0036】
図7(a)に示すように、受桁30と一体化された3つのフロアユニット40が3階から5階の領域に保管されている。フロアユニット40を1階から2階へ揚重する工程を実施する。まず、1階に載置された受桁30と複数の小梁41とを、図4に示すような固定態様で固定し、小梁41の上面にデッキプレート42を設置する。この工程において、フロアユニット40と受桁30とが一体化される。次に、2階部の受桁保持部材20のピニオンギヤ23(図2)を時計回りに回転させて、受桁保持部材20のスライドアーム22を退避位置に移動させる。それから、ワイヤ53の先端に設けられた受桁接続部材72と受桁30とを接続する。続いて、巻上部52を巻き上げる方向に稼動させることにより、フロアユニット40に一体化された受桁30を2階部の受桁保持部材20の高さよりも高い位置まで揚重する。その後、2階部の受桁保持部材20のピニオンギヤ23を反時計回りに回転させて、受桁保持部材20のスライドアーム22を保持位置に移動させる。そして、巻上部52を稼動させてワイヤ53を巻き出すことにより、保持位置まで戻した受桁保持部材20のスライドアーム22に揚重した受桁30およびフロアユニット40を載置する。さらに、図示しない耐火被覆がされるとともに、設備部材が取り付けられることにより、フロアユニット40が製造される。
【0037】
5階に保管されたフロアユニット40を搬出する工程を実施する。図7(b)に示すように、5階に保管されたフロアユニット40と受桁30とを固定から解放する。例えば、図4に示すような固定態様の場合、締め付けられたナット35(図4)を緩め、小梁固定部材33をボルト34を中心に回転可能な状態にする。続いて、小梁固定部材33を回転させて、小梁41を移動可能にすることにより、受桁30とフロアユニット40とが固定から解放される。次に、受桁30との固定から解放されたフロアユニット40は、保管設備1の外部に設けられた図示しないクレーンにより、保管設備1から搬出される。このとき、図7(b)に示すように受桁30は、5階部の受桁保持部材20に載置されたままである。そして、載置されたままの受桁30に、ワイヤ63の先端に設けられた受桁接続部材72を固定する。その後、図7(c)に示すように、受桁30を、5階部の受桁保持部材20からわずかに揚重する。
【0038】
4階に保管されたフロアユニット40を5階に揚重する工程を実施する。図8(a)に示すように、まず、受桁保持部材20のピニオンギヤ23を時計回りに回転させて、5階部の受桁保持部材20のスライドアーム22を退避位置に移動させる。次に、巻上部62を巻き出す方向に稼動させて、ワイヤ63の先端に設けられた受桁接続部材72に接続された受桁30を4階まで下降させる。その一方、巻上部52を巻き出す方向に稼動させて、ワイヤ53の先端に設けられた受桁接続部材72を4階に保管されている受桁30の高さまで下降させ、受桁接続部材72と受桁30とを接続する。その後、巻上部52を巻き上げる方向に稼動させて、フロアユニット40と一体化された受桁30を、5階部の受桁保持部材20の高さよりも高い位置まで揚重する。それから、受桁保持部材20のピニオンギヤ23を反時計回りに回転させて、受桁保持部材20のスライドアーム22を保持位置に移動させる。そして、図8(b)に示すように、巻上部52を巻き出す方向に稼動させて、保持位置まで戻した受桁保持部材20のスライドアーム22に揚重した受桁30を載置する。
【0039】
3階に保管されたフロアユニット40を4階に揚重する工程を実施する。図8(b)に示すように、まず、受桁保持部材20のピニオンギヤ23を時計回りに回転させて、4階部の受桁保持部材20のスライドアーム22を退避位置に移動させる。次に、巻上部62を巻き出す方向に稼動させて、ワイヤ63の先端に設けられた受桁接続部材72に接続された受桁30を3階まで下降させる。その一方、巻上部52を巻き出す方向に稼動させて、ワイヤ53の先端に設けられた受桁接続部材72を3階に保管されている受桁30の高さまで下降させ、受桁接続部材72と受桁30とを接続する。その後、巻上部52を巻き上げる方向に稼動させて、フロアユニット40に一体化された受桁30を、4階部の受桁保持部材20の高さよりも高い位置まで揚重する。それから、受桁保持部材20のピニオンギヤ23を反時計回りに回転させて、受桁保持部材20のスライドアーム22を保持位置に移動させる。そして、巻上部52を巻き出す方向に稼動させて、保持位置まで戻した受桁保持部材20のスライドアーム22に揚重した受桁30を載置する。
【0040】
上記した図8(a)および図8(b)に示したような工程を繰り返すことにより、図8(c)に示すように、フロアユニット40との固定から解放された受桁30を1階まで戻すことができる。そして、図7(a)に示す工程に戻る。以後、同様の行程を繰り返して、フロアユニットの保管設備1を用いた保管を行う。
【0041】
また、フロアユニット40を揚重する方法として、単体のフロアユニット40を吊り上げる方法の他に、複数のフロアユニット40を吊り上げる方法を用いることができる。図8(a)では、4階に保管されたフロアユニット40を5階に揚重している。このとき、4階のフロアユニット40と一体化された受桁30と、3階のフロアユニット40と一体化された受桁30と、2階のフロアユニット40と一体化された受桁30とを、図6(a)、(b)に示したような連結手段を用いて連結する。
【0042】
そして、巻上部52を巻上げる方向に稼動させて、4階のフロアユニット40と一体化された受桁30を5階部の受桁保持部材20の高さよりも高い位置まで揚重すると、それと同時に3階のフロアユニット40と一体化された受桁30は4階部の受桁保持部材20の高さよりも高い位置まで揚重され、2階のフロアユニット40と一体化された受桁30は3階部の受桁保持部材20の高さよりも高い位置まで揚重される。それから、5階〜3階の受桁保持部材20のピニオンギヤ23を反時計回りに回転させて、5階〜3階の受桁保持部材20のスライドアーム22を保持位置まで移動させる。そして、巻上部52を巻き出す方向に稼動させて、図8(c)に示すように、保持位置まで戻した5階〜3階の受桁保持部材20のスライドアーム22に揚重した受桁30を載置する。
【0043】
このように、本実施形態に係るフロアユニットの保管設備1においては、フロアユニット40が保管設備1から搬出されるまでフロアユニット40とフロアユニット40を支持する受桁30とを一体化している。フロアユニット40の製造時に受桁30とフロアユニット40が小梁固定部材33により着脱可能に固定された後は、フロアユニット40を保管設備1より搬出するまで固定を解除しない。このため、フロアユニット40を揚重する場合に、例えば揚重用ビームへ載せ替えたり、フロアユニット40を上段に揚重した後に揚重用ビームを所定の位置に戻したりという工程が不要となる。従って、フロアユニット40の揚重に必要な工程数を削減し、効率的な揚重作業を実現することができる。さらに、各階に揚重用ビームを準備する必要がないため、必要機材を削減することができる。
【0044】
また、図9(a)は、従来技術における保管設備が備える受桁30、小梁41、およびデッキプレート42の構成を示す正面図である。従来技術における保管設備では、受桁30を揚重用ビームに載せ替える必要があるために、第1揚重用吊り点31aと第2揚重用吊り点31bとの間の距離は、両端の小梁41の距離よりも短く設定することができない。
【0045】
一方、図9(b)は本実施形態に係る保管設備1が備える受桁30、小梁41、およびデッキプレート42の構成を示す正面図である。本実施形態による保管設備1によれば、フロアユニット40が保管設備1から搬出されるまでフロアユニット40とフロアユニット40を支持する受桁30とを一体化しているために、例えば揚重用ビームへ載せ替えたりという工程が不要である。このため、受桁30の長手方向において、第1揚重用吊り点31aおよび第2揚重用吊り点31bを任意の位置に設定することができるため、第1揚重用吊り点31aと第2揚重用吊り点31bとの間の距離を短く設定することが可能となる。従って、受桁30に作用する曲げモーメントが小さくなり、受桁30に要求される強度を減少させることができる。
【0046】
また、受桁保持部材20は、図3に示すように、互いに対向する一対の受桁保持部材20の間の距離が調整可能に構成されている。このため、スパンの異なる多彩なフロアユニット40を鉛直方向に離間させて保管することができる。また、受桁保持部材20のスライドアーム22の進出距離を長くしてフロアユニット40のスパンに応じた位置まで水平移動可能としてもよい。
【0047】
また、本発明に係るフロアユニットの保管設備1は、フロアユニット40に一体化された受桁30を、鉛直方向に互いに連結する連結手段を有している。このような連結手段を有することにより、複数段を一括して揚重することが可能となり、1回の揚重作業を実施することにより複数段のフロアユニット40を揚重することが可能となる。従って、効率的な揚重作業を行うことができる。
【0048】
本発明に係るフロアユニットの保管方法においては、フロアユニット40に一体化された受桁30を揚重すると同時に、フロアユニット40を取り外した受桁30を吊り下ろしている。この工程を繰り返すことにより、フロアユニット40を順次上段に揚重し、フロアユニット40と分離された受桁30を最下段まで吊り下ろすことが可能となる。このため、保管されるフロアユニット40が全て搬出されるまで待つことなく、フロアユニット40の揚重と、地上でのフロアユニット40の製作とを連続して行うことができる。また、フロアユニット40を地上において製造することが可能であるため、高所作業の発生をなくすことができる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが本発明は上記実施形態に限定されるものではない。スライドアーム22を水平方向に移動させる手段として様々の手段を用いることができる。例えば、図10(a)に示すようにスライドアーム22自身の重さを利用して保持位置に戻すもの、図10(b)に示すように油圧シリンダ91を利用してスライドアーム22を水平移動させるもの、図10(c)に示すように、アーム保持部21と略L字状のスライドアーム22との間に設けられたばね101によりスライドアーム22を縦フレーム11から遠ざける方向に付勢しているもの、図10(d)に示すようにアーム保持部21に固定されたねじ111を回転させることによりスライドアーム22を水平移動させるもの、図10(e)に示すように、ナット121を回転させてスライドアーム22を水平移動させる手段を用いるものとしてもよい。
【0050】
また、受桁保持部材20は、水平方向に移動可能なスライドアーム22を用いた構造のほかに、図11に示すように、直線運動を入力に対してほぼ直角の方向の直線運動に変換することが可能なスコットラッセル機構131を用いた部材としてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…保管設備
10…架台
11…縦フレーム
12…横フレーム
13…製造領域
14…保管領域
20…受桁保持部材
21…アーム保持部
21a…貫通孔
22…スライドアーム
23…ピニオンギヤ
24…ラック
30…受桁
30a…貫通孔
31a…第1揚重用吊り点
31b…第2揚重用吊り点
32a…第1下降用吊り点
32b…第2下降用吊り点
33…小梁固定部材
34…ボルト
35…ナット
36…小梁延長部材
40…フロアユニット
41…小梁
42…デッキプレート
50…揚重装置
51…取付部
52…巻上部
53…ワイヤ
54…フック
55…連結部材
56…シャックル
60…下降装置
61…取付部
62…巻上部
63…ワイヤ
72…受桁接続部材
73…ボルト
81…引き上げロッド
82…カンヌキ
91…油圧シリンダ
121…ナット
131…スコットラッセル機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の床部分に使用するフロアユニットを保管する保管設備であって、
鉛直方向に沿って延在する複数の縦フレームと、前記複数の縦フレーム間に掛け渡される横フレームと、を備え、複数の前記フロアユニットを鉛直方向に離間させて保管する保管領域が前記縦フレームおよび前記横フレームに囲まれた領域に設定された架台と、
前記フロアユニットが前記保管設備より搬出されるまで前記フロアユニットに一体化される受桁と、
前記保管領域を挟んで配置された一対の前記縦フレームのそれぞれに配設され、前記保管領域に保管される前記フロアユニットに一体化された前記受桁を水平に保持する受桁保持部材と、
前記フロアユニットに一体化された前記受桁を揚重する揚重装置と、
前記フロアユニットが取り外された前記受桁を吊り下ろす下降装置と、
を備え、
前記受桁保持部材は、前記フロアユニットに一体化された前記受桁を揚重する際に、前記受桁の移動位置から退避する退避手段を備えたことを特徴とするフロアユニットの保管設備。
【請求項2】
前記受桁は、前記揚重装置によって少なくとも二点の吊り点を吊持されて揚重されるものであり、前記二点の吊り点の間の距離は、前記フロアユニットにおける前記受桁の長手方向に沿う方向の長さよりも短くされている請求項1に記載のフロアユニットの保管設備。
【請求項3】
前記受桁保持部材は、互いに対向する一対の前記受桁保持部材の間の距離が調整可能に構成されている請求項1又は請求項2のうちいずれか1項に記載のフロアユニットの保管設備。
【請求項4】
前記フロアユニットに一体化された複数の前記受桁を、鉛直方向に互いに連結する連結手段を有している請求項1〜請求項3のうちいずれか1項に記載のフロアユニットの保管設備。
【請求項5】
建築物の床部分に使用するフロアユニットを保管する保管設備において、前記フロアユニットを保管する方法であって、
鉛直方向に沿って延在する複数の縦フレームと、前記複数の縦フレーム間に掛け渡される横フレームと、を備え、複数の前記フロアユニットを鉛直方向に離間させて保管する保管領域が前記縦フレームおよび前記横フレームに囲まれた領域に設定された架台と、
前記フロアユニットが前記保管設備より搬出されるまで前記フロアユニットに一体化される受桁と、
前記保管領域を挟んで配置された一対の前記縦フレームのそれぞれに配設され、前記保管領域に保管される前記フロアユニットに一体化された前記受桁を水平に保持する受桁保持部材と、
前記フロアユニットに一体化された前記受桁を揚重する揚重装置と、
前記フロアユニットが取り外された前記受桁を吊り下ろす下降装置と、
を備え、
前記受桁保持部材は、前記フロアユニットに一体化された前記受桁を揚重する際に、前記受桁の移動位置から退避する退避手段を備えており、
前記フロアユニットに一体化された前記受桁を揚重すると同時に、前記フロアユニットを取り外した前記受桁を吊り下ろすことを特徴とするフロアユニットの保管方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−92541(P2012−92541A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239776(P2010−239776)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】