説明

フロントチルト機構

【課題】着座者からの負担を一部の部材に集中させずに負担することができるフロントチルト機構付き車両用シートを提供する。
【解決手段】シートクッションと、シートクッションの前部に昇降可能に設置されるフロントチルトフレームとを有する車両用シートにおいて、フロントチルトフレームには雄ねじ溝又は雌ねじ孔が一体に形成され、シートクッションに軸回転可能に取り付けられた雌ねじ孔又は雄ねじ溝と螺合される。この構成においては、前記フロントチルトフレームに雄ねじ溝が形成されているときにはシートクッションにその雄ねじ溝に螺合される雌ねじ孔が形成され、前記フロントチルトフレームに雌ねじ孔が形成されているときにはシートクッションに雄ねじ軸が形成され、螺合部全体が着座者からの荷重を負担する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関し、さらに詳しくは、車両内で乗員が着座するシートクッションの前部にその乗員の体格や着座姿勢の好みに応じて高さ調節ができるフロントチルトフレームを備えたフロントチルト機構付き車両用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートにおいて着座者の大腿部を支えるシートクッションの前部の高さ位置を、着座者の体格や着座姿勢の好みに応じて調節できるようにするフロントチルト機構が設けられることがある。例えば図4に示すように、特許文献1に開示される車両用シート3においては、シートクッション31にピニオンギア37とチルトパネル36に連結されたセクタギア38が互いに噛合した状態で設けられ、セクタギア38がピニオンギア37からの動力伝達を受けて高さ方向に回転することによってチルトパネル36が上下に移動できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなフロントチルト機構においては、セクタギア38の歯が横に配置されたピニオンギア37の歯と噛合しているため、下向きに与えられる乗員からの荷重が、セクタギア38とピニオンギア37の噛合部に集中してしまう。これは荷重の負担の方法として効率が悪く、セクタギア38及びピニオンギア37に大きな負荷を与えてしまう。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、フロントチルト機構によってシート前部の高さを調節できるフロントチルト機構付き車両用シートにおいて、乗員からの荷重をフロントチルト機構のギア噛合部に集中させることなく、効率的に負担することができるフロントチルト機構付き車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかるフロントチルト機構付き車両用シートは、シートクッションの前部に高さ調節可能なフロントチルトフレームが設けられた車両用シートにおいて、前記フロントチルトフレームにはねじ部が設けられ、前記シートクッションには、前記フロントチルトフレームに設けられるねじ部に螺合された別のねじ部が軸回転可能に取り付けられ、前記フロントチルトフレームが前記シートクッションに対して昇降動自在に構成されていることを要旨とする。
【0007】
ここで、前記フロントチルトフレームには、屈曲形成された屈曲リンク部材の屈曲部が連結されるとともに、前記屈曲部から前側下方に延出した前側リンクバーの端部には前記ねじ部が形成され、軸回転可能かつ前記屈曲リンク部材を含む面内で回転可能に前記シートクッションに取り付けられた別のねじ部と螺合されており、前記屈曲部から後側下方に延出した後側リンクバーの端部は、前記屈曲リンク部材を含む面内で回転可能に前記シートクッションに取り付けられたガイド部材に摺動可能に挿通されていると良い。
【0008】
また、前記フロントチルト側には雄ねじ溝が形成され、前記シートクッションには前記雄ねじ溝に螺合する雌ねじ孔が形成されているとよい。
【発明の効果】
【0009】
上記発明にかかるフロントチルト機構付き車両用シートによれば、フロントチルトフレームとシートクッションが上下方向に形成されたねじ部の螺合によって連結され、着座者からフロントチルトフレームに与えられる荷重が、螺合構造の軸方向のベクトル成分を有するので、螺合部を含むフロントチルトフレームとシートクッションの間を連結する部材全体で荷重を負担することができ、フロントチルト機構の一部に負荷が集中することが簡素な構成により防止される。また、フロントチルトフレームを安定に保持することができる。
【0010】
ここで、このようなフロントチルト機構が、屈曲リンク部材を用いて上記のように構成されると、フロントチルトフレームが特に安定に保持される。
【0011】
また、フロントチルトフレーム側に雄ねじ溝が形成され、シートクッション側に雌ねじ孔が形成されていることで、構成をさらに簡素にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明の第一の実施形態にかかるフロントチルト機構付き車両用シートの概略構成を示す側面図であり、(b)は(a)中のA−A断面図であり、(c)は(b)中のB−B断面図である。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかるフロントチルト機構付き車両用シートのシートクッション前部の側面図である。
【図3】図2のフロントチルト機構付き車両用シートについて、(a)は前側リンクバー端部の断面図であり、(b)は後側リンクバーの端部の斜視図である。
【図4】従来の車両用シートの概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第一の実施形態にかかるフロントチルト機構付き車両用シートについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1に示されるフロントチルト機構付き車両用シート1はシートクッション11と、その後方にシートバック12を有する。
【0014】
シートクッション11の下側には、スライド装置13が設けられる。スライド装置13は、車両の床面に固定されるロアレール13aと、ロアレール13aの上にスライド可能に取り付けられるアッパーレール13bを有する。アッパーレール13bの上には、アンダーフレーム14が取り付けられ、アンダーフレーム14とシートクッション11の間には、シートクッション11の高さ位置を変更するためのリフタ機構15が取り付けられる。
【0015】
そして、シートクッション11の前部には、シートクッション11に対する高さ位置を変更できるフロントチルトフレーム16が配設されている。このフロントチルトフレーム16は、上端部に平らな天板部16aが形成されており、天板部16aで着座者の大腿部を支持する。フロントチルトフレーム16の後端部の左右両側は、連結軸16bによってシートクッション11に回転可能に軸支連結されている。連結軸16bを中心とした回転運動により、シートクッション11に対するチルトフレーム16の高さ位置が変更される。
【0016】
フロントチルトフレーム16の前部には、左右一対の支持部材16cが下方に突出して一体に形成されている。支持部材16cの下端部の外周には、螺旋状の雄ねじ溝が形成され、雄ねじ部16dとなっている。
【0017】
シートクッション11の前部には、内周面に雌ねじ溝が形成されたナット17が取り付けられている。そして、フロントチルトフレーム16の雄ねじ部16dがナット17と螺合している。ナット17はブラケット18によって保持され、ブラケット18は、ピン部材18aによって前後方向面内で回転可能にシートクッション11を構成するフレームに取り付けられている。ブラケット18はナット17を上下方向から挟みこんで保持しており、ナット17はブラケット18によって挟み込まれた状態を保ったまま、螺合軸の周りに回転可能である。ナット17には、図示しないハンドル、モータ等が連結され、それらによって回転される。
【0018】
ナット17を螺合軸の周りに回転させることにより、フロントチルトフレーム16の前部が上下に移動し、フロントチルトフレーム16の高さ位置が変更される。このとき、雄ねじ部16dの角度がシートの前後方向面内で変化するが、ナット17を挟み込み保持しているブラケット18がピン部材18aによってシートクッション11に回転可能に取り付けられていることにより、ナット17も雄ねじ部16dの角度変化に追随して前後方向面内でその角度を変化させることができる。
【0019】
本実施形態においては、フロントチルトフレーム16の下側に支持部材16cが突出し、その下端部に設けられた雄ねじ部16dが縦方向にナット17と螺合しているため、フロントチルトフレーム16に乗員からの荷重が与えられたとき、その荷重の方向と螺合軸の方向が一致する。つまり、荷重を特定の箇所に集中させず、支持部材16c及び螺合部を含むフロントチルトフレーム16とシートクッション11の間を連結する部材全体で下向きの荷重を負担することができる。上述の従来一般のフロントチルト機構においては、横に配設されたセクタギアとピニオンギアの噛合部を構成する両ギアの歯のエッジに荷重が集中するのと比較して、荷重を効率的に負担することができる。これにより、フロントチルトフレーム16がシートクッション11上に安定に保持される。
【0020】
ここで、フロントチルトフレーム16の支持部材16cの端部に雌ねじ孔を形成し、シートクッションに軸回転可能かつ前後方向面内で回転可能に雄ねじ棒を取り付け、両者を螺合させたとしても、同様の機能が達成される。しかしこの場合、フロントチルトフレーム16の下側に支持状部材が突出するのに加え、シートクッション11の上側にも雄ねじ棒が突出することになる。上記の実施形態においては、シートクッション11の上側に突出する部材はなく、より簡素な構成により、フロントチルト機構が実現されている。
【0021】
図2は第二の実施形態にかかるフロントチルト機構付き車両用シートを示している。上記第一の実施形態とは、フロントチルトフレーム26の下側に左右一対の棒状部材が形成される代わりに左右一対の屈曲リンク27が形成される点において異なっている。
【0022】
屈曲リンク27は、中途部位において屈曲され、屈曲部27aの両側に直線状のリンクバー27b、27cが後方下向き及び前方下向きにそれぞれ延出した略L字型の形状をとっている。本実施例においては、この屈曲角θは90°である。屈曲部27aはフロントチルトフレーム26の天板部26aの下部の支持部材26cにピン部材27dによって取り付けられる。前側リンクバー27cの端部には、雄ねじ溝27dが形成され、貫通孔の壁面に雌ねじ溝が形成されたナット29を介してシートクッションに取り付けられる。ナット29は軸回転可能かつ前後方向面内で回転可能にシートクッション21に取り付けられている。後側リンクバー27bの端部はガイド部材28を介してシートクッション21に取り付けられる。なお、前後方向面とは屈曲リンク27を含む面を指すものとする。
【0023】
図3(a)に前側リンクバー27cの端部の拡大図を示す。図1の第一の実施形態におけるナット17と同様に、ナット29はブラケット29aによって螺合軸上下方向から挟み込み保持され、ブラケット29aはナット29の奥側の面でピン部材によって前後方向面内で回転可能にシートクッション21に取り付けられている。これら構成により、ナット29は、軸回転可能かつ前後方向面内で回転可能にシートクッション21上に保持されている。ナット29には、ナット29を軸回転させるための図示しないハンドル、モータ等が連結される。ナット29を回転させることにより、雄ねじ溝27dを端部に備える前側リンクバー27cが長手方向に並進運動し、ナット29と屈曲部27aとの間の前側リンクバー27cの長さを変化させる。
【0024】
ガイド部材28の構成は図3(b)に示される。ガイド部材28は貫通穴28aを有し、この貫通穴に後側リンクバー27bの末端が挿通される。後側リンクバー27bは貫通穴28aの中で滑らかに摺動可能である。ガイド部材28は、両側面からブラケット28aによって挟み込まれて保持されている。ブラケット28aは、ガイド部部材28の奥の面でシートクッション21にピン部材によって前後方向面内で回転可能に保持されている。つまり、ガイド部材28は、シートクッション21上で前後方向面内に回転することが可能である。
【0025】
これらの構成により、前側リンクバー27cの端部及び後側リンクバー27bの端部は、長手方向に並進運動可能であるとともに、屈曲リンク27を含む面内で回転可能となっている。しかし、シートクッション21上におけるナット29及びガイド部材28の位置が規定されており、かつ、二つのリンクバー27b、27cがなす角θが変化不能であるため、二つのリンクバー27b、27cは独立して自由に並進運動及び回転運動することを許容されない。固定された二点を斜辺とする直角三角形の直角の頂点は、常に該二点の中点を中心とする円弧上に存在する。つまり、屈曲リンク27の屈曲部27aが、ナット29が配置された位置とガイド部材28が配置された位置の中点を中心とする仮想的な円弧上にあるような並進運動及び回転運動しか二つのリンクバー27b、27cには許容されない。
【0026】
つまり、ある位置からナット29を軸回転させ、ナット29と屈曲部27aとの間の前側リンクバー27cの長さを長くしたとき、屈曲部27aが円弧上に維持されるように、ナット20が屈曲リンク27を含む面内で回転し、前側リンクバー27cが後方へ回転する。同時に、ガイド部材28においても、ガイド部材28がナット29と同じ角度だけ後方へ回転して後側リンクバー27cが立ち上がるとともに、後側リンクバー27bが摺動してガイド部材28と屈曲部27aとの間の後側リンクバー27bの長さが短くなる。この時、屈曲部27aは上方に移動する。つまり屈曲部27aに連結されたフロントチルトフレーム26の天板部26aが上昇する。
【0027】
反対にナット29と屈曲部27aとの間の前側リンクバー27cの長さを短くしたときには屈曲部27aが下方に移動し、フロントチルトフレーム26の天板部26aが下降する。このようにして、フロントチルト機構が実現される。
【0028】
なお、屈曲部27aは円弧上を移動するので厳密には前後方向の成分を有するが、後側リンクバー27bの立ち上がりの角度が小さい領域でしか屈曲リンク27を回動させない場合には、屈曲部27aの動きは上下方向に近似でき、前後方向のフロントチルトフレームの26移動は無視できる。
【0029】
本実施形態にかかるフロントチルト機構付き車両用シートのフロントチルト機構によれば、屈曲リンク27が剛体の中途部で屈曲された形状を有し、前端部に螺合部を有することで、屈曲部27aにおいて下向きに与えられる着座者からの荷重は、前側リンクバー27cの長手方向のベクトル成分を有する。この荷重成分は前側リンクバー27cと螺合部全体で負担される。この荷重成分によって、前側リンクバー27cは長手方向に圧縮される力を受け、圧縮応力を生ずる。これにより、従来一般のフロントチルト機構においては、横に並んで配設されたセクタギアとピニオンギアの噛合部のギア歯のエッジに荷重が集中するのと比較して、荷重を効率的に負担することができる。これにより、フロントチルトフレーム26がシートクッション21に高い安定性をもって保持される。
【0030】
なお、左右一対の屈曲リンク27には、ともに上記のように前側リンクバー27cの端部に雄ねじ溝27dを形成し、ナット29と螺合させる構成としてもよいが、一箇所の螺合部だけで着座者からの荷重を十分に支持できる場合は、片方の屈曲リンク27の前側リンクバー27cの端部には雄ねじ溝27dを形成せず、後側リンクバー27bが挿通されるガイド部材28と同様のガイド部材に挿通してシートクッション21に取り付ける構成としてもよい。この場合、雄ねじ溝27dを有さない方の屈曲リンク27は、雄ねじ溝27dを有する方の屈曲リンク27に従動するので、一箇所のナット29を操作するのみでフロントチルトフレーム26の高さ位置を変更することができる。
【0031】
また、屈曲リンク27の前側リンクバー27cの端部に雄ねじ溝27dを形成する代わりに雌ねじ孔を形成し、シートクッション21に軸回転可能に取り付けたねじ棒と螺合させたとしても、同様の機能が達成される。しかしこの場合、シートクッション21の上側にねじ棒が突出することになる。一方、上記の実施形態においては、シートクッション21に取り付けられ、上側に突出する部材はないので、より簡素な構成により、フロントチルト機構が実現されている。
【0032】
上記の実施形態においては、屈曲リンク27の二つのリンクバー27b、27cのなす角θが90°であるが、0°超180°未満の任意の角度としても、同様のリフタ機能が実現される。θが90°未満の場合は、屈曲部27aは二つのガイド部材28の中点よりも上方の点を中心とする円弧状を回転することとなり、屈曲部27aの可動範囲は大きくなる。所望のフロントチルトフレーム26の可動範囲などに応じて、適宜θを選択すればよい。ただし、θを90°とした場合に最も荷重を効率よく受けることができ、シートクッションを安定に支持することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、シートクッションのスライド機構やリフタ機構は、フロントチルト機構とは独立したものであり、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
11 シートクッション
16 フロントチルトフレーム
16a 天板部
16c 支持部材
16d 雄ねじ部
17 ナット
18 ブラケット
21 シートクッション
26 フロントチルトフレーム
27 屈曲リンク
27a 屈曲部
27b 後側リンクバー
27c 前側リンクバー
27d 雄ねじ溝
28 ガイド部材
28b ブラケット
29 ナット
29a 雌ねじ溝
29b ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションの前部に高さ調節可能なフロントチルトフレームが設けられた車両用シートにおいて、
前記フロントチルトフレームにはねじ部が設けられ、前記シートクッションには、前記フロントチルトフレームに設けられるねじ部に螺合された別のねじ部が軸回転可能に取り付けられ、前記フロントチルトフレームが前記シートクッションに対して昇降動自在に構成されていることを特徴とするフロントチルト機構付き車両用シート。
【請求項2】
前記フロントチルトフレームには、屈曲形成された屈曲リンク部材の屈曲部が連結されるとともに、前記屈曲部から前側下方に延出した前側リンクバーの端部には前記ねじ部が形成され、軸回転可能かつ前記屈曲リンク部材を含む面内で回転可能に前記シートクッションに取り付けられた別のねじ部と螺合されており、前記屈曲部から後側下方に延出した後側リンクバーの端部は、前記屈曲リンク部材を含む面内で回転可能に前記シートクッションに取り付けられたガイド部材に摺動可能に挿通されていることを特徴とする請求項1に記載のフロントチルト機構付き車両用シート。
【請求項3】
前記フロントチルトフレーム側には雄ねじ溝が形成され、前記シートクッションには前記雄ねじ溝に螺合する雌ねじ孔が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフロントチルト機構付き車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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