説明

フロート

【課題】主に漁業に使用されるフロートであって、付着物を容易に効率良く除去できるフロートを提供する。
【解決手段】セメントを含有する水硬性組成物で被覆されたフロート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着物を容易に、効率良く除去できるフロートに関する。
【背景技術】
【0002】
漁業全般において使用される漁業用フロートは、主に発泡スチロールに代表される合成樹脂の発泡体からなるものと、ポリスチレンやポリプロピレンなどの硬質プラスチックからなるものが広く使用されている。発泡スチロール製フロートは、漂流ゴミや耐用年数などの問題から、近年、硬質プラスチック製フロートの使用が増える傾向にある。これら漁業用フロートは、長期間水上で使用した場合、海藻類や貝類などの水中生物が多量に付着すると、浮力の低下や破損の原因になるため、これらの付着物を除去・抑制することが必要である。
合成樹脂の発泡体からなるフロートについては、強度や耐久性を高めたり、付着物を抑制するために、フロートを合成樹脂フィルム等で被覆したり、2液型無溶剤ウレタン樹脂からなるフロート用コーティング剤などが開発されている(特許文献1〜5)。
【0003】
また、硬質プラスチック製フロートでは、ヘラやブラシ等により、フロート表面の付着物を定期的に除去する作業が行われている。しかしながら、筏や延縄などを使用する海面養殖においては、非常に多くのフロートを使用するものであることや、1年に複数回の除去作用が必要になることなど、付着物の除去作用には、非常に多くの労力が必要となる。また、一部の地域では、付着物が付いたフロートをそのまま陸上に上げて付着物を腐らせ、剥がし取りを容易にすることも行われている。しかし、フロートを保管するスペースの確保や、付着物が腐敗したときに発生する臭気などが問題となっている。
【0004】
フロートの付着物を除去する方法として、フロートに掻き取り突子のついた枠を被せて回転することにより、表面に付着した海洋生物を掻き落として除去する装置(特許文献6)等が開発されている。しかしながら、この方法では、専用の装置を導入する必要があることや、付着物を除去できるフロートの大きさや形状が限定されてしまう。このため、より汎用的で簡便な方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭43−3218号公報
【特許文献2】特開平3−258687号公報
【特許文献3】特開平6−217662号公報
【特許文献4】特開2000−296872号公報
【特許文献5】特開2005−21123号公報
【特許文献6】特開平11−342376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、主に漁業に使用されるフロートであって、付着物を容易に効率良く除去できるフロートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、フロートの表面を、セメントを含有する水硬性組成物で被覆すれば、フロートの表面に水中生物等が多量に付着しても、当該付着物を容易に、効率良く除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、セメントを含有する水硬性組成物で被覆されたフロート、及びその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフロートは、表面に付着した海藻類や貝類等の付着物を容易に効率良く除去することができる。また、フロートの耐用年数を長くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
フロートは、漁業における浮きや、栽培漁業での筏や延縄等の浮き、海洋気象ブイ、係船用、浮き桟橋などに用いられているものである。
本発明のフロートは、フロート基材の表面を水硬性組成物で被覆したものである。
フロート基材の材質としては、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。発泡体、中空の硬質プラスチック成形体等のいずれでも良い。
フロートの形状としては、特に制限されず、円柱状、多角形の柱状、円盤状、角状、球状等の種々のものが使用できる。
【0011】
フロートを被覆するための水硬性組成物は、セメントを含有するものである。水硬性組成物に用いるセメントとしては、JISに規定されているセメントであればいずれのものでも良く、ポルトランドセメント類のほか、高炉セメント、フライアッシュセメント、スラグセメント、エコセメント、アルミナセメント等を使用でき、1種又は2種以上を適当な割合で混合したものを用いることが可能である。特に、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントを用いるのが好ましい。これらセメントは、単独で用いることも可能であるが、石膏類、石灰石微粉末、各種スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、ドロマイト、膨張材などの混和材を1種以上混合し、作業状況に応じて流動性や硬化物性を調整した水硬性組成物として用いるのが好ましい。更に、細骨材として、粒径が2mm以下の珪石粉や石灰石微粒粉、スラグ、フライアッシュ、パーライトや中空セラミックスなどの軽量骨材を、1種以上混合して用いることもできる。
水硬性組成物中には、セメントを30〜100質量%含有するのが好ましい。
【0012】
水硬性組成物には、スラリーの流動性や硬化性状を調整するための材料として、一般にセメント・コンクリート用として用いられている硬化促進剤、凝結遅延剤、収縮低減剤、AE剤、減水剤、高性能減水剤、流動化剤、増粘剤、消泡剤等の添加物を、スラリーのコーティング性状やフロートの性能、およびコーティングしたフロートを使用する海域の環境に影響を及ぼさない範囲で、1種又は2種以上併用して添加することもできる。これらの材料は、その形態によって、予め水硬性組成物の粉体に混合しても良いし、練り混ぜ時に水に溶解して混合しても良い。また、練り上がったスラリーの状態を確認した後、必要量を後からスラリーに添加して再び混練して用いることも可能である。
【0013】
また、水硬性組成物は、繊維を含有することができ、フロート表面により均一にコーティングすることができるとともに、付着物を除去し易くなるので好ましい。
繊維としては、例えば、ビニロン繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、エステル繊維、ポリプロピレン繊維等の合成繊維;ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維;鋼繊維等の金属繊維;竹等の天然繊維などが挙げられる。繊維長は1〜30mm、特に5〜20mm程度であるのが好ましい。
【0014】
繊維は、水硬性組成物の粉体100質量%に対して、0.03〜1.5質量%、特に0.1〜1.2質量%配合するのが、フロート基材表面に均一に被覆することができるので好ましい。
【0015】
このような水硬性組成物は、スラリーにして用いられる。具体的には、前記のような水硬性組成物と水を、水硬性組成物100質量%に対して水30〜80質量%、更に40〜75質量%、特に45〜65質量%の割合で練り混ぜて用いるのが、基材に被覆し易い粘度のスラリーが得られるので好ましい。
【0016】
基材フロートは、水硬性組成物のスラリーに直接浸漬することにより、被覆させることができる。具体的には、練り混ぜたスラリーを適当な大きさのバケツや水槽などに貯めておき、そこへフロートを直接投入して十分に浸漬したのち、引き上げて被覆(コーティング)が完了する。
また、基材フロートに、吹き付け、塗工等により、水硬性組成物のスラリーを被覆することもできる。
被覆の厚さは、浮力に影響を与えず、容易に除去できる程度であれば良く、0.3〜2mm、特に0.5〜1.5mm程度であるのが好ましい。
【0017】
このようにして、水硬性組成物で被覆したフロートは、被覆材を十分硬化させた後、通常のフロートと同様の方法で、水上又は水中で使用することができる。
【0018】
また、水硬性組成物のスラリーをコーティングする前に、フロート基材に網状の被覆資材を被せることができ、強度や耐久性をより高めることができる。
かかる被覆資材としては、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維からなるネット状の被覆資材を用いるのが好ましく、網の網み方としては、本目網や蛙又網などの有結節網、無結節網、ラッセル網、綟子網、織網などを用いることができる。
ネットの網目は、目合い1〜20mm、特に3〜15mmであるのが、硬化後のコーティング材との付着性状が良く、剥離性状も良好となるため好ましい。網目の形状は、菱目、角目、六角形など、いずれの形状であってもよい。
また、網糸の太さは、ネットの強度に問題のない範囲で適宜調整することが可能であるが、材質や網目の形状、目合い、網み方によらず、概ね1mm以下であることが好ましい。
【0019】
フロートは、水上又は水中で長期間使用されると、表面に海藻類や貝類等の付着物が付着する。これらの付着物は、ヘラ等を用いて水硬性組成物のコーティングを剥離するように除去する、落下によりコーティングを剥離させるなどにより、容易に除去することができる。
また、網状の被覆資材を被せた場合には、当該ネットを剥がすようにして除去すればよい。
【0020】
実施例1
(1)フロート基材:
フロートとして使用する基材は、アサヒ合成工業社製「アサヒフロート」(ポリプロピレン製、直径27cm)を用いた(フロートA)。また、被覆資材として、フロートの大きさに合わせて袋状にした目合いの異なるナイロン製ネットを被せたフロートB及びフロートCも併せて準備した。
【0021】
【表1】

【0022】
(2)水硬性組成物の調製:
早強ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、高炉スラグ微粉末(セラメント4000、デイ・シイ社製)、石灰石微粉末(タンカルTA−149、秩父石灰工業社製)、中空セラミックス(セラミックス系高強度中空フィラー カイノス850、太平洋セメント社)を、表2示す組成で混合し、レディゲミキサーで混合して、水硬性組成物Aを100kg調製した。さらに、表2に示す割合で各種繊維を添加した水硬性組成物B〜Fを、同様にして、調製した。
【0023】
【表2】

【0024】
(3)水硬性組成物の練り混ぜ:
各水硬性組成物10kgをトスロン缶に量り取り、水粉体比65%となるように水道水を加え、ハンドミキサーにより5分間練り混ぜを行い、各種スラリーを調製した。
【0025】
(4)フロートのコーティング:
得られたスラリーに、フロート全体が浸る様にドブ付けして、フロートにコーティングを施した後、3日間乾燥して、コーティングフロートを作製した。このときのコーティング作業性と、硬化後の状態を、以下の基準で評価した。結果を表3に示す。
【0026】
(評価基準)
(4−1)コーティング作業性;
○;水硬性組成物が全体に均一にコーティングされ、ムラが見られない状態。
△;水硬性組成物が全体的にコーティングされているが、部分的にムラが見られる状態。
×;水硬性組成物がコーティングされない部分ができる状態。
【0027】
(4−2)硬化後の状態;
◎;ひび割れや浮きが見られず、全体が均一にコーティングされている状態。
○;全体的にコーティングはされているが、コーティングにややムラがある状態。
△;コーティングの剥離はないが、ひび割れや浮きが少し見られる状態。
×;コーティングに剥離が見られる状態。
【0028】
【表3】

【0029】
(5)付着物の除去作業性:
作製した各種コーティングフロートを養殖場まで運搬し、実際に養殖海域に運び、ロープで延縄に括りつけた状態で6ヶ月間暴露試験を行った。比較として、コーティングを行わないフロートAも、併せて試験を行った。6ヶ月後のフロートのコーティング状態と、付着物の除去作業性を、以下の基準で評価した。結果を表4に示す。
なお、付着物の除去作業は、フロートを陸上に引き上げた後、市販の金属製スクレーパーで付着物をコーティングごと掻き落とす方法により行った。コーティング強度が高い場合には、木槌などを用いて予めコーティング表面に剥離もしくはひび割れを発生させた後、その部分を起点として同様の作業を実施した。また、被覆資材を用いた場合には、先ずフロートの上から下に向かってコーティングの一部を除去して被覆資材を露出させ、その部分に切れ込みを入れてフロート表面から被覆資材を剥がすようにして付着物を除去し、さらにフロート表面に残った付着物やコーティングをスクレーパーにより掻き落とした。
【0030】
(評価基準)
(5−1)コーティングの状態;
○;コーティングに剥離やひび割れなどの不具合がほとんど見られない状態。
△;コーティングにひび割れや浮きが見られ、一部が剥離している状態。
×;コーティングが大きく剥離して、付着物がフロート表面に付着した状態。
【0031】
(5−2)付着物の除去作業性;
○;コーティングを剥離することにより、付着物を容易に除去できる。
△;コーティングがフロート表面から剥がれにくく、付着物が少し残ってしまう。
×;付着物がフロート表面に直接付着して、除去作業に手間がかかる。
【0032】
【表4】

【0033】
表3及び表4の結果より、水硬性組成物で被覆された本発明のフロートは、表面に付着した海藻類や貝類などの付着物を容易に取り除くことができ、作業効率が改善された。また、付着物を除去することにより、フロートの破損や浮力の低下を抑制し、耐用年数を長くすることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含有する水硬性組成物で被覆されたフロート。
【請求項2】
水硬性組成物の粉体100質量%に対して、繊維を0.03〜1.5質量%配合した請求項1記載のフロート。
【請求項3】
網状の被覆資材を被せた後、水硬性組成物で被覆する請求項1又は2記載のフロート。
【請求項4】
フロート基材の表面を、セメントを含有する水硬性組成物のスラリーで被覆することを特徴とするフロートの製造方法。

【公開番号】特開2012−34663(P2012−34663A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180230(P2010−180230)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】