説明

ブラシの製造方法、モータの製造方法、ブラシ、モータ及び電動パワーステアリング装置

【課題】整流子とブラシとの接触面積を少なくし、接触面での擦れ音を低減することができるブラシの製造方法を提供する。
【解決手段】整流子に摺接する接触面部4a、4aを一面に備えるブラシ4の製造方法において、成型体40を成型する工程と、成型体40を切削する工程とを備える。成型工程では、銅紛を含有するカーボン粉末を焼結し、整流子の回転軸方向に沿った正面の溝部4Aと、回転軸方向における正面の両縁部4C、4Cに曲面状の両縁部4C、4Cとを有する成型体40を形成する。切削工程では、正面の両縁部4C、4Cとの間に接触面部4a、4aを形成すべく、成型体40の正面の回転軸方向における中央部を、砥石44により切削方向に沿って切削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流子との接触による揺動を低減可能なブラシの製造方法、モータの製造方法、ブラシ、モータ及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、入力軸と出力軸とがトーションバーを介して連結されて構成される操舵軸を有している。操舵軸の入力軸側には、ステアリングホイールが連結され、出力軸側には、舵取機構が連結されている。そして、ステアリングホイールを一方向に回転するとき、トーションバーの介在によって生じる入力軸及び出力軸の回転方向の相対角変位により、入力軸に加わる操舵トルクを検出し、検出結果に基づいてモータが操舵トルクの作用方向に操舵トルクの大きさに応じた回転力を発している。この回転力が出力軸に伝達され、出力軸から舵取機構へステアリングホイールの回転方向と同方向に増力された回転力が伝達されるように構成されている。
【0003】
操舵補助用のモータは、回転軸と、回転軸の軸周りに電機子巻線とを有している。そして、電機子巻線に電流が供給されることで、電磁作用により回転軸が回転し、回転力を発している。また、モータは、ブラシと、ブラシが当接する整流子とを有しており、電機子巻線には、外部からの電力がブラシへ送られ、ブラシが整流子に接触することで整流子を介して電力が伝わり給電されるようになっている。
【0004】
このようなモータにおいて、ブラシと整流子との接触面積が大きい場合、接触面の擦れ音が大きくなり、運転者に不快感を与える問題があるため、特許文献1には、擦れ音による騒音を低減するモータが開示されている。特許文献1に記載されているモータは、ブラシと整流子との接触面積を、ブラシの材質及びブラシに流れる電流に基づいて設定している。
【特許文献1】特開2006−311639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているモータにより、擦れ音を低減できるようにはなっているが、本発明者は、ブラシの一面の中央部を切削し、切削した中央部以外を接触面部とした従来との対比において、接触面部をさらに小さい面積とし、電流供給に支障を来すことなく整流子との擦れ音を低減できることの知見を得た。
【0006】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、本発明の目的は、導電性の回転体である整流子とブラシとの接触面積を少なくし、接触面での擦れ音を低減することができるブラシの製造方法、モータの製造方法、ブラシ、モータ及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のブラシの製造方法は、回転する整流子に圧接すべき一面の中央部を切削して、該一面に前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを形成するブラシの製造方法において、前記整流子の回転軸方向における縁部となるべき前記一面の両縁部を、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜した形状にすべく、導電部材を成型する工程と、前記両縁部の間に前記接触面部を形成すべく、前記中央部を切削する工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のモータの製造方法は、回転する整流子に圧接すべき一面の中央部を切削して、該一面に前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを形成するブラシを備えるモータの製造方法において、前記整流子の回転軸方向における縁部となるべき前記一面の両縁部を、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜した形状にすべく、導電部材を成型する工程、及び、前記両縁部の間に前記接触面部を形成すべく、前記中央部を切削する工程を有するブラシの成型工程と、該成型工程により成型されたブラシを組み付ける工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のブラシは、回転する整流子に圧接される一面の中央部を切削することで、該一面が前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを備えるブラシにおいて、前記整流子の回転軸方向における前記一面の両縁部が、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜され、前記接触面部は、傾斜された前記両縁部と切削された前記中央部との間に形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のモータは、回転する整流子に圧接される一面の中央部を切削することで、該一面が前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを有するブラシを備えるモータにおいて、前記整流子の回転軸方向における前記ブラシの一面の両縁部が、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜され、前記ブラシの接触面部は、傾斜された前記両縁部と切削された前記中央部との間に形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の電動パワーステアリング装置は、回転する整流子に圧接される一面の中央部を切削することで、該一面が前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを有するブラシを有するモータと、該モータの回転を操舵部材へ伝達する伝達機構とを備える電動パワーステアリング装置において、前記整流子の回転軸方向における前記ブラシの一面の両縁部が、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜され、前記ブラシの接触面部は、傾斜された前記両縁部と切削された前記中央部との間に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、整流子の回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜した両縁部が整流子に非接触となる。従って、整流子に圧接される一面の中央部を切削し、切削した中央部を非接触面部とし、中央部以外を接触面部とした従来と対比した場合、両縁部を非接触面部とした分、接触面部の面積を小さくできる。これにより、ブラシ、及びブラシを有するモータは、面積が小さくなった分、接触面部における整流子との擦れ音を低減させることができる。また、擦れ音を小さくすることにより、電動パワーステアリング装置では、運転者に擦れ音による不快感を与えないようにできる。
【0013】
また、本発明によれば、ブラシを製造する際に、ブラシの一面の両縁部が回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜した形状となるように導電部材を成型する。これにより、切削した中央部以外を接触面部とした従来のブラシの製造工程と対比した場合であっても、工程数が変わることなく、接触面積の小さいブラシを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0015】
図1は、本実施の形態にかかる電動パワーステアリング装置の構成を示す模式図である。電動パワーステアリング装置は、ラックピニオン式の舵取機構1を備えている。舵取機構1は、図示しない車体の左右方向に延設されたラックハウジング11の内部に軸長方向への移動自在に支持されたラック軸10と、ラックハウジング11の中途に交差するピニオンハウジング19の内部に回転自在に支持されたピニオン軸2とを備える公知の構成を有している。
【0016】
ラックハウジング11の両側から外部に突出するラック軸10の両端は、各別のタイロッド12、12を介して操舵用車輪としての左右の前輪13、13に連結されている。またピニオンハウジング19から外部に突出するピニオン軸2の上端は、ステアリング軸3を介して操舵部材としてのステアリングホイール16に連結されている。ピニオンハウジング19の内部に延びるピニオン軸2の下部には、図示しないピニオンが一体形成されており、ピニオンは、ラックハウジング11との交差部において、ラック軸10の中途に適長に亘って形成されたラックに噛合させてある。
【0017】
ステアリング軸3は、入力軸3aと出力軸3bとが、トーションバー3cを介して連結されて構成されている。ステアリング軸3は、筒形をなすハウジング31の内部に回転自在に支持され、ハウジング31を介して、図示しない車室の内部に前方を下とした傾斜姿勢を保って取付けてある。ピニオン軸2は、ハウジング31の下方に突出するステアリング軸3の出力軸3bの下端に連結され、ステアリングホイール16は、ハウジング31の上方に突出するステアリング軸3の入力軸3aの上端に固設されている。
【0018】
以上の構成により、操舵のためのステアリングホイール16の回転操作によりステアリング軸3が回転し、この回転がピニオン軸2に伝達され、ピニオン軸2の回転が、ピニオンとラックとの噛合部においてラック軸10の軸長方向の移動に変換されることとなり、このようなラック軸10の移動が、左右の前輪13、13に各別のタイロッド12、12を介して伝えられて舵取りがなされる。
【0019】
ステアリング軸3を支持するハウジング31の中途には、ステアリングホイール16の回転操作によりステアリング軸3に加わる操舵トルクを検出するトルクセンサ15が設けてある。トルクセンサ15よりも下位置には、操舵補助用のモータ5が取付けてある。
【0020】
操舵補助用のモータ5は、ハウジング31の外側に軸心を略直交させて取付けてあり、例えば、ハウジング31の内部に延びる出力端に固着されたウォーム33(図2参照)をステアリング軸3に外嵌固定されたウォームホイール32(図4参照)に噛合させ、モータ5の回転を、ウォーム33及びウォームホイール32により減速してステアリング軸3に伝えるように構成し、前述の如く行われる舵取りを補助している。このように取付けられた操舵補助用のモータ5は、アシスト制御部6からモータ駆動回路7を介して与えられる制御指令に従って駆動される。
【0021】
アシスト制御部6は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備え、ROMに記憶された制御プログラムに従うCPUの動作によりアシスト制御を実施するように構成されている。アシスト制御部6には、トルクセンサ15により検出された操舵トルク値及び車速センサ8により検出された車速値、操舵補助用のモータ5に流れる電流を検出するモータ電流センサ50が出力したモータ電流検出値、及び、車載バッテリ90に設けられたバッテリセンサ9が検出したバッテリ電圧値等が与えられており、各値に基づいてモータ駆動回路7を介して操舵補助用のモータ5を駆動する。
【0022】
次に、操舵補助用のモータ5について詳述する。図2は、モータの軸方向の断面図であり、図3は、モータに用いられるブラシと整流子との接触部分の拡大断面図である。図4は、電動パワーステアリング装置に用いられている伝達機構及びモータ部分の構成を示す、ステアリング軸に垂直な断面図である。
【0023】
図2において、20はモータハウジングである。モータハウジング20は、有底筒型をなし、開口側を略円盤形の蓋部21によって閉塞されている。蓋部21を介してモータハウジング20はハウジング31に連結され、回転子軸23aの一端部は蓋部21の中心部を貫通してウォーム33に連結されている。ウォーム33は、トーションバー3cに接続される出力軸3bに嵌合固定されているウォームホイール32の歯部が噛合している。そして、ウォーム33が回転し、ウォーム33の回転に伴ってウォームホイール32が回転することにより、出力軸3bから舵取機構1へ回転力が伝達される。
【0024】
モータハウジング20内には円筒形の固定子22が嵌合固定されており、固定子22内に円筒形の回転子23が回転可能に配されている。回転子23は回転子軸23aを備え、回転子軸23aの軸周りに電機子巻線23bを備える。整流子24は円筒形であり、回転子軸23aに同軸的に外嵌され回転子軸23aと一体に回転し、複数の整流子片24a、24a、…を、絶縁体を介在して備えている。整流子片24a、24a、…は電機子巻線23bに接続されている。
【0025】
ブラシホルダ41は、図3に示すように、一面が開口部となっている箱型をなし、蓋部21のモータ5内部側に固定されており、開口部側の内部にカーボンを用いてなるブラシ4を収容し、奥側の内部にコイルばね42を収容している。ブラシ4は、コイルばね42の弾性により、整流子24へ向けて付勢されている。また、ブラシ4は、ブラシ4の側面部に接続されている導線43を介してモータ駆動回路7に接続され、モータ駆動回路7が車載バッテリ90に接続されている(図1参照)。そして、車載バッテリ90からの電力がブラシ4へ送られ、ブラシ4が接触する整流子24を介して電力が伝わり電機子巻線23bに給電される。
【0026】
図5(a)は、本発明にかかるブラシの斜視図、図5(b)は、ブラシの正面図である。ブラシ4は、略直方体形状を有しており、正面(整流子に圧接する側の面)には、整流子と接触する接触面部4a、4aが、整流子の回転軸方向に距離を隔てて設けられている。ブラシ4は、回転軸方向の長さが、摺動方向(整流子の周方向)の長さよりも長く形成されている。接触面部4a、4aは、整流子の周面部に摺接する曲凹面である。また、接触面部4a、4aは、摺動方向に長い曲線の帯状となっており、回転軸方向の寸法(帯状の幅)が一定となっている。
【0027】
ブラシ4は、整流子と非接触となる非接触面部4b、4c、4cを正面に有している。非接触面部4bは、接触面部4a、4aの間に形成されており、接触面部4a、4aから正面の中央部に向かって深くなるように、正面の中央部が背面方向(圧接する整流子の方向と反対方向)に湾曲状に窪む形状を有している。また、非接触面部4c、4cは、ブラシ4の回転軸方向に垂直な面と正面との交差部に形成されている。この交差部は、正面の回転軸方向における両縁部であって、この両縁部が、背面方向に反り、面取りされたごとき形状の曲面を有している。
【0028】
次に、本発明のブラシ4の製造方法について説明する。図6は、製造工程において処理が施される成型体を順に示す図である。まず、導電部材、例えば銅粉を含有するカーボン粉末を焼結することにより略直方体状の成型体40を形成する(図6(a))。成型体40は、溝部4Aと、溝縁部4B、4Bと、両縁部4C、4Cとを有している。
【0029】
溝部4Aは、整流子の外周面と略同曲率で、整流子の回転軸方向に沿って正面に形成された丸溝である。即ち、溝部4Aの幅及び曲率等は、整流子の形状又は大きさ等に基づいて設定される。また、溝部4Aは、回転軸方向に垂直な方向における正面の略中央に形成されている。溝縁部4B、4Bは、略長方形状であって、回転軸方向に垂直な方向における正面の両側部に形成されており、溝縁部4B、4Bの間に溝部4Aが介在している。なお、溝縁部4B、4Bは、成型体40の正面に溝部4Aを形成することで形成される。
【0030】
両縁部4C、4Cは、正面における回転軸方向の両縁部に形成されており、この両縁部が背面方向に反り、面取りされたごとき形状の曲面を有している。即ち、両縁部4C,4Cの正面における周縁の形状は、回転軸方向の中央に向かって円弧状をなしており、また、両縁部4C、4Cの回転軸方向における断面の周縁の形状は、円弧状となっている。成型体40の正面を整流子に圧接した場合、溝部4Aは整流子の外周面に接触し、両縁部4C、4Cは、整流子とは非接触となる。なお、両縁部4C、4Cの曲率は、上述のように両縁部4C、4Cが溝部4Aよりも背面側となるように設定される。
【0031】
次に、砥石44により、回転軸方向における成型体40の正面の中央部を切削する。砥石44は、小径側の外周面と大径側の外周面とを有する円錐台であり、小径側の外周面を先頭にし、正面の溝縁部4B、4Bが形成される一側から他側に向かって、回転軸方向に垂直な方向(以下、切削方向と言う)に移動される。なお、成型体40は、溝部4A及び溝縁部4B、4Bが形成されているため、切削方向において、成型体40の両側部から中央に向かって、徐々に背面側に深くなっている。そして、砥石44は、溝縁部4B、4Bを小径側の外周面で切削し、溝縁部4B、4Bよりも背面側に窪む溝部4Aを、大径側の外周面で切削するように、成型体40に対して配置される。
【0032】
砥石44による切削工程では、まず、図6(b)に示すように、正面の一側に形成される溝縁部4Bが、砥石44の小径側の外周面により、背面側に凸に湾曲するように切削される。砥石44をさらに切削方向に移動させた場合、図6(c)及び図6(d)に示すように、溝部4Aが砥石44の周面により切削方向に沿って切削される。また、正面の他側に形成される溝縁部4Bが、砥石44の小径側の外周面により背面側に凸に湾曲するように切削される。なお、図6(c)及び図6(d)において、砥石44を省略している。
【0033】
そして、さらに砥石44を切削方向に移動させ、切削を終えた場合、図6(e)に示すように、成型体40の正面の中央部が切削され、背面側に凸に湾曲するように窪むようになる。この場合において、回転軸方向における溝部4Aの両端部、即ち、両縁部4C、4C近傍の溝部4Aの両端部が、砥石44に切削されずに残るようになっている。そして、溝部4Aの切削されていない部分が接触面部4a、4aとなる。従って、接触面部4a、4aは、砥石44により切削された中央部と両縁部4C、4Cとの間に形成される。そして、砥石44により切削された成型体40の正面の中央部が非接触面部4bとなる。さらに、両縁部4C、4Cが、非接触面部4c、4c(不変)となる。
【0034】
なお、接触面部4a、4aの面積は、必要な電流密度となるように、ブラシ4が含有する材質の種類、含有量及び整流子に供給する必要電流等に応じて決定される。そして、決定された面積及び寸法となるように、ブラシ4の製造工程において、砥石44の径、溝部4A又は両縁部4C、4Cの曲率及び大きさ等が決定される。
【0035】
図7は、従来におけるブラシの斜視図である。図7に示すように、従来のブラシ80は、整流子に圧接される側の一面の両縁部が傾斜していない。そして、一面の中央部が切削され、一面の切削した中央部以外が、整流子と接触する接触面部81、81としている。このため、上述のようにブラシ4を形成した場合の接触面部4a、4aの面積と、従来のブラシ80の接触面部81、81の面積とを対比した場合、本発明のブラシ4は、両縁部を回転軸方向外方、即ち、回転軸方向においてブラシ4から離れる方向に向かうに従って整流子24から離れる方向に傾斜させた分、従来のブラシ80よりも接触面部の面積を小さくすることが可能となる。
【0036】
また、接触面部4a、4aの面積をより小さくするために、成型体40の正面の両縁部を傾斜させ、両縁部4C、4Cを形成しているが、両縁部4C、4Cを形成する工程を成型体40の成型時において行うことにより、両縁部を切削する工程を削除できる。従って、製造工程の工程数を削減することができるとともに、接触面部4a、4aの面積を小さくすることができる。また、さらに接触面部を小さくするために、中央部の切削後に接触面部を切削してもよいが、本実施の形態では、接触面部4a、4aが摺動方向に長い曲線の帯状となるように、両縁部4C、4Cの正面における形状を、回転軸方向の中央に向かって円弧状とすることで、接触面部4a、4aの面積をより小さくするための接触面部を切削する工程を省略することができるとともに、接触面部4a、4aの面積を小さくできる。
【0037】
以上詳述した電動パワーステアリング装置は、ステアリングホイール16が一方向に回転することによってステアリングホイール16に操舵トルクが加えられたとき、トルクセンサ15が入力軸3a及び出力軸3bの回転方向への相対変位量により操舵トルクを検出し、トルクセンサ15の検出結果に基づいてモータ5が操舵トルクの作用方向に操舵トルクの大きさに応じた回転力を発し、モータ5の回転力がウォーム33へ伝達されてウォーム33が回転し、ウォーム33の回転に伴ってウォームホイール32が回転することにより、回転力が増力して出力軸に伝達され、出力軸3bから舵取機構1へステアリングホイール16の回転方向と同方向に、増力された回転力が伝達されるように構成されている。
【0038】
このとき、2つの接触面部4a、4aが整流子24の軸方向に夫々備えられており、接触面部4a、4aが整流子24の周面部に接触することにより、ブラシ4に回転モーメントが生じることが防止されるため、整流子24とブラシ4との接触が安定し、ブラシ4の揺動を低減することができる。
【0039】
また、非接触面部4b、4c、4cを設け、整流子24との接触面積(接触面部4a、4aの総面積)が全面接触させた場合より小さいブラシ4を用いることにより、整流子24の周面部との間に生じる摩擦力を小さくできるため、摩擦力によるブラシ4の揺動を低減することができる。
【0040】
このようにブラシ4の揺動が低減されることにより、揺動によって揺動音が発生すること、及び整流子24とブラシ4との接触が不安定となり制御振動が発生すること、並びに制御振動によって制御音が発生することを低減できる。
【0041】
以上説明したように、電動パワーステアリング装置における操舵補助用のモータ5が有するブラシ4は、例えば、銅を含有するカーボン材が成型された成型体40を有している。そして、成型時において、成型体40の正面の回転軸方向に沿った溝部4Aと、回転軸方向における正面の両縁部に曲面状の両縁部4C、4Cとが同時に形成される。さらに、成型体40の正面の回転軸方向における中央部が、切削方向に沿って切削されることにより、ブラシ4は、整流子24の周面部に接触する接触面部4a、4aと、整流子24の周面部に接触しない非接触面部4b、4c、4cとを有するようになる。
【0042】
なお、ブラシ4は、正面の回転軸方向における両縁部を傾斜させ、傾斜させた両縁部と切削した中央部との間に接触面部4a、4aが形成されていればよく、接触面部4a、4aの形状、寸法及び面積は特に限定されることはない。例えば、本実施の形態では、接触面部4a、4aは、図5(b)に示すように、湾曲しているが、直線であってもよい。また、ブラシの製造工程において、工程の数を削減するために、成型体40を成型する工程において、成型体の端部を曲面状にしているが、成型工程とは別の工程としてもよい。
【0043】
以上、本発明の好適な一実施の形態について、具体的に説明したが、各構成及び各製造工程等は適宜変更可能であって、上述の実施の形態に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態にかかる電動パワーステアリング装置の構成を示す模式図である。
【図2】モータの軸方向の断面図である。
【図3】モータに用いられるブラシと整流子との接触部分の拡大断面図である。
【図4】電動パワーステアリング装置に用いられている伝達機構及びモータ部分の構成を示す、ステアリング軸に垂直な断面図である。
【図5】(a)は、本発明にかかるブラシの斜視図、(b)は、ブラシの正面図である。
【図6】製造工程におけるブラシの成型体を順に示す図である。
【図7】従来におけるブラシの斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
4 ブラシ、4A 溝部、4B 溝縁部、4C 縁部、4a 接触面部、4b,4c 非接触面部、40 成型体、44 砥石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する整流子に圧接すべき一面の中央部を切削して、該一面に前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを形成するブラシの製造方法において、
前記整流子の回転軸方向における縁部となるべき前記一面の両縁部を、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜した形状にすべく、導電部材を成型する工程と、
前記両縁部の間に前記接触面部を形成すべく、前記中央部を切削する工程と
を備えることを特徴とするブラシの製造方法。
【請求項2】
回転する整流子に圧接すべき一面の中央部を切削して、該一面に前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを形成するブラシを備えるモータの製造方法において、
前記整流子の回転軸方向における縁部となるべき前記一面の両縁部を、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜した形状にすべく、導電部材を成型する工程、及び、
前記両縁部の間に前記接触面部を形成すべく、前記中央部を切削する工程
を有するブラシの成型工程と、
該成型工程により成型されたブラシを組み付ける工程と
を備えることを特徴とするモータの製造方法。
【請求項3】
回転する整流子に圧接される一面の中央部を切削することで、該一面が前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを備えるブラシにおいて、
前記整流子の回転軸方向における前記一面の両縁部が、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜され、
前記接触面部は、傾斜された前記両縁部と切削された前記中央部との間に形成されている
ことを特徴とするブラシ。
【請求項4】
回転する整流子に圧接される一面の中央部を切削することで、該一面が前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを有するブラシを備えるモータにおいて、
前記整流子の回転軸方向における前記ブラシの一面の両縁部が、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜され、
前記ブラシの接触面部は、傾斜された前記両縁部と切削された前記中央部との間に形成されている
ことを特徴とするモータ。
【請求項5】
回転する整流子に圧接される一面の中央部を切削することで、該一面が前記整流子に摺接する接触面部と、前記整流子に非接触となる非接触面部とを有するブラシを有するモータと、該モータの回転を操舵部材へ伝達する伝達機構とを備える電動パワーステアリング装置において、
前記整流子の回転軸方向における前記ブラシの一面の両縁部が、前記回転軸方向外方に向かうに従って整流子から離れる方向に傾斜され、
前記ブラシの接触面部は、傾斜された前記両縁部と切削された前記中央部との間に形成されている
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−51227(P2009−51227A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206775(P2007−206775)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】