説明

ブリスター形成の減少させた傾向を有する亜鉛ダイカストの電気銅メッキのための方法

銅層での亜鉛ダイカストの電気メッキにおいて、電解液が、亜鉛ダイカストの孔中に浸透する。温度が後に上昇される場合に、これは、孔における電解液の気化及び銅層のブリスター又は剥離を導く。2つの工程において実施されるメッキを目的とする。第一の工程において、1μm未満の薄い銅層のみが適用され、そしてメッキした部品は、電解液の気化を導く温度で処理される。前記薄い銅層は、まだ、避けることができる気化のために十分に多孔性である。電解液の固体の構成成分のみが残る。そして銅層は、約20〜30μmの最終の厚さまで薄くされる。このメッキ工程において、電解液は、もはや、亜鉛ダイカストの孔中に浸透しない。この方法で被覆される部品は、150℃の温度での保管後に、銅層のブリスター又は剥離を示さない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリスター形成の減少させた傾向を有する亜鉛ダイカストの電気銅メッキのための方法に関する。
【0002】
亜鉛物品又は亜鉛ダイカスト上の銅の堆積は、十分に当業者に公知である(参考文献4)。
【0003】
亜鉛ダイカストの銅メッキにおける第一工程は、先行技術(参考文献1、2、3)に従って、アルカリシアン化物電解液からの銅の堆積である。続いて、酸性電解液からの明るい銅層又はニッケル層もしくは青銅層が通常堆積される。
【0004】
亜鉛ダイカストのメッキにおいて特に困難であるのは、射出成形で形成された基材の構造である。鋳物は、粗い結晶であり、かつ内部における気孔率で透過される。薄い外層のみが、稠密であり、かつ孔を有さない。該外層は、鋳込型の壁上での溶融物の急冷によって、射出成形中に形成される。この外層の鋳膚のみを、先行技術に従って電気メッキすることができる。しかしながら、該鋳膚は、非常に敏感であり、かつ時に、脱脂及び酸洗による前処理中に、化学的に腐食及び損傷され、結果として、基材の孔が時にさらされる。メッキ浴自体が、鋳膚を損傷することもある。
【0005】
固く付着する被覆は、もはや損傷した表面に適用することはできない。さらに、ブリスター形成は、前処理浴又は基材の孔中への損傷した鋳膚を介した電解液の浸透の結果として、頻繁に生じる。後の熱処理によって、浸透した液体は、適用した外側の被覆を気化及び押出して、ブリスター又は隆起した領域を形成する。好ましくない場合に、銅層ははがれ落ちる。
【0006】
先行技術において記載されている方法のさらなる欠点は、高い毒性の電解液の使用にある。職業上の衛生及び環境の理由のために、従って、代わりの電解液組成物が、望ましいことが明白である。
【0007】
本発明の目的は、前記の先行技術の欠点を大きく回避することができる方法による、亜鉛ダイカストの電気銅メッキのための方法を提供することである。
【0008】
前記目的は、次の方法工程:
a)ピロリン酸塩を含有する銅電解液からの、1μm未満の厚さを有する第一の銅層を堆積する工程、
b)高温で前記の部品を洗浄し、そして乾燥する工程、及び
c)ピロリン酸塩を含有する銅電解液中の第一の銅層を、10〜20μmの範囲の厚さまで厚くする工程
を含む方法によって達せられる。
【0009】
本発明によって、1m未満の厚さを有する薄い銅層は、最初に、ピロリン酸塩を含有する銅電解液から亜鉛ダイカストの鋳膚上に堆積される。この最初のメッキ工程において、又はさらに脱脂及び酸洗いによる前処理中に、鋳膚は一般に損傷される。結果として、電解液は、前処理中又はメッキ中に、亜鉛ダイカストの現在開いている多孔質の微小構造中に浸透しうる。それは、従って、最初のメッキ工程において適用された銅層が、未だ、避けることができる続く熱処理中に気化される電解液のキャリヤー液体のために十分な多孔性を有する方法に非常に重要なものである。この層は、従って、1μmより厚くてはならず、有利には、0.1〜0.5μm、特に0.2〜0.3μmの範囲の厚さを有する。
【0010】
第一のメッキ工程の後に、その部品を洗浄し、そして100〜180℃、有利には120〜160℃、及び特に有利には約140℃の温度で、十分な時間、例えば10〜60分間の貯蔵によって乾燥する。この熱処理において、多孔質の亜鉛中に浸透される電解液のキャリヤー液体が気化する。第一のメッキ工程の結果として存在する銅層は、その薄い厚さの理由で、未だ多孔質であり、かつ形成される蒸気に不浸透性ではなく、その結果、熱で形成された蒸気は避けることができる。電解液の固体構成成分(塩)のみが、孔中に残り、そしてそれらはさらに干渉しない。残りの電解液の塩の存在を、例えばSEM及び/又はEDXによって確認することができる。
【0011】
洗浄は、有利には水を使用して実施され、かつ十分に当業者に公知である。
【0012】
メッキし、かつ乾燥させた亜鉛ダイカストを冷却した後に、メッキを、適宜、同様のピロリン酸塩を含有する電解液中で、約5〜50μm、有利には10〜30μm、特に有利には10〜20μmの銅が堆積されるまで続ける。第二のメッキ工程の開始の時点で、既に存在する薄い銅層は、明らかに、多孔質の亜鉛基材中への液体電解液の浸透を妨げる。この方法でメッキされた部品は、ブリスター形成又はさらに剥離することなしに、150℃で約30分間の貯蔵に耐える。
【0013】
第一の下位工程a)における銅層は、電気化学方法によって堆積されうる。電着(参考文献4)がここで可能である。第二の銅被覆は、還元的に、又は有利には電解法によって堆積されうる。電解法の中で、実質的に3つの異なるメッキ方法を挙げてよい:
1.バルク材料及び量産部品のためのドラムメッキ(drum plating):
このメッキ方法において、比較的低い使用電流密度を使用する(大きさの程度:0.05〜0.5A/dm2
2.個々の部品のためのラックメッキ(rack plating):
このメッキ方法において、中程度の使用電量密度を使用する(大きさの程度:0.2〜5A/dm2
3.連続プラントにおけるテープ及びワイヤーのための高速メッキ:
このメッキ方法において、非常に高い使用電流密度を使用する(大きさの程度:5〜100A/dm2
【0014】
最初の2つのメッキ方法(ドラム及びラック)は、銅でのメッキのために重要である傾向があり、その際ドラムメッキ(低い電流密度)又はラックメッキ(中程度の電流密度)は、異なる電解液のタイプに依存して可能である。
【0015】
双方の方法工程a)及びc)における亜鉛ダイカストへの銅の適用は、前記のように、有利には電解法によって実施される。
【0016】
ここで、堆積されるべき金属は、電気メッキが連続方法又は不連続方法で実施されることに関わらず、前記方法中に溶液中で常に保たれる。これを確実にするために、本発明による電解液は、錯化剤としてピロリン酸塩を含有する。
【0017】
電解液中に存在するピロリン酸塩イオンの量を、当業者によって標的にした方法で調整することができる。これは、電解液中の濃度が、およそ十分な範囲に前記の効果をもたらすことができるための最少量を超える事実によって制限される。反対に、使用されるべきピロリン酸塩の量は、経済的理由によって判断される。この記載内容において、EP1146148を参照でき、かつ関連する情報はそれらの中で得られる。電解液中で使用されるべきピロリン酸塩の量は、有利には50〜400g/lである。電解液100〜350g/lの量を使用することが特に好ましく、非常に特に有利には電解液約200g/lである。ピロリン酸塩は、堆積されるべき金属の塩の構成成分として導入されない場合に、アルカリ金属二リン酸塩もしくはアルカリ土類金属二リン酸塩として、又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属炭酸塩/炭酸水素塩との組合せでH227として使用されることができる。この目的のために、K227を使用することが好ましい。
【0018】
使用される電解液において、堆積されるべき銅は、そのイオンの形で溶液中に存在する。それらは、有利には、ピロリン酸塩、炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、炭酸水素塩、亜硫酸塩、硫酸塩、リン酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、酸化−水酸化物、酸化物及びそれらの組合せからなる群から選択される水溶性塩の形で導入される。銅が、ピロリン酸、炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、酸化−水酸化物、水酸化物及び炭酸水素塩からなる群から選択されるイオンを有する塩の形で使用される実施態様が、非常に特に好ましい。塩は、得られる層の色のために決定的であり、かつ消費者の要求に従って設定されうる電解液中の量で導入される。銅のイオン濃度は、電解液5〜100g/l、有利には電解液10〜50g/lの範囲で設定されうる。得られたイオン濃度は、特に有利には、電解液15〜30g/lの範囲である。電解液の1リットル当たりの銅の約15〜20グラムが、非常に特に有利には使用され、その際銅は、電解液中にピロリン酸塩、炭酸塩又はヒドロキシ炭酸塩として導入される。
【0019】
電解液のpHは、電気メッキのために要求される6〜13の範囲である。6〜12の範囲が好ましく、かつ非常に特に有利には6〜10である。約7.9〜8.1のpHが、最も有利に使用される。
【0020】
堆積されるべき金属及び錯化剤として使用されるピロリン酸塩を除いて、電解液は、光沢剤、湿潤剤又は安定剤としての機能を果たす、さらなる有機添加剤を含有することができる。本発明による電解液は、カチオン界面活性剤の使用も不要にすることができる。さらに光沢剤及び湿潤剤の添加は、堆積されるべき層の外観が特定の要求を満たすことができる場合にのみ、好ましい。モノカルボン酸及びジカルボン酸、アルカンスルホン酸、ベタイン並びに芳香族ニトロ化合物からなる群から選択される1つ又は複数の化合物の添加が好ましい。前記化合物は、電解液浴安定剤として作用する。カルボン酸、アルカンスルホン酸、特にメタンスルホン酸、もしくはニトロベンゾトリアゾール、又はそれらの混合物を使用することが特に好ましい。適したアルカンスルホン酸は、EP1001054において挙げられている。可能なカルボン酸は、例えば、クエン酸、シュウ酸、グルコン酸など(Jordan, Manfred, Die galvanische Abscheidung von Zinn und Zinnlegierungen, Saulgau 1993,156頁)である。使用されるべきベタインは、有利には、WO2004/005528から、又はJordan, Manfred (Die galvanische Abscheidung von Zinn und Zinnlegierungen, Saulgau 1993, 156頁)からのものである。EP636713において開示されているものが特に好ましい。この記載内容において、1−(3−スルホプロピル)ピリジニウム−ベタイン又は1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムベタインを使用することが非常に特に好ましい。
【0021】
本発明による電解液は、毒性(T)又は非常に毒性(T+)として分類される有害な物質を有さないことを特徴とする。シアニドを有さず、チオ尿素誘導体を有さず、かつチオール誘導体を有さない。
【0022】
銅層の堆積は、当業者の一般の知識に基づいて選択された温度で操作されうる。電解液浴が電解中に維持される範囲内で20〜60℃の範囲が好ましい。30〜50℃の範囲がより好ましい。堆積は、約40℃の温度で最も有利には実施される。
【0023】
工程a)及びc)における銅の堆積は、当業者によく知られた(参考文献1)電気化学セル中で実施されうる。非毒性の電解液を使用する場合に、種々の陽極を使用することができる。可溶性もしくは不溶性の陽極、又は可溶性及び不溶性の陽極の組合せを使用することができる。
【0024】
可溶性の陽極として、電解銅、リン含有銅及び銅合金からなる群から選択される材料からなる陽極を使用することが好ましい。不溶性の陽極として、白金化チタン、グラファイト、イリジウム−遷移金属混合酸化物、及び特定の炭素材料("Diamond−Like Carbon(ダイアモンド様炭素)"又はDLC)からなる群から選択される材料からなる陽極、又はそれらの陽極の組合せを使用することが好ましい。イリジウム−ルテニウム混合酸化物、イリジウム−ルテニウム−チタン混合酸化物又はイリジウム−チタン混合酸化物からなる混合酸化物の陽極を使用することが特に好ましい。さらに不溶性の陽極を、Cobley, A.J. et al.(The use of insoluble Anodes in Acid Sulphate Copper Electrodeposition Solutions, Trans IMF, 2001,79(3), pp. 113 and 114)において見出してよい。
【0025】
不溶性の陽極を使用する場合に、前記方法の特に好ましい実施態様は、陰極を表す銅層に適用されるべき基材が、イオン交換膜によって、陰極空間及び陽極空間を形成する方法で、不溶性の陽極から分けられる場合に、得られる。かかる場合において、陰極空間のみが、非毒性電解液で満たされる。電解液の塩、例えばピロリン酸カリウム炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム又はそれらの混合物のみを含有する水溶液が、有利には、陽極空間中に存在する。イオン交換膜として、カチオン又はアニオン交換膜を使用することが可能である。50〜200μmの厚さを有するナフィオンの膜を使用することが好ましい。
【0026】
本発明の方法、及び特に、2つのメッキ工程間の熱処理は、従って、使用した電解液のキャリヤー溶液を、後の部品の加熱中にブリスター形成又は剥離を導かない範囲まで除去させることが可能である。反対に、銅層が、例えば工程b)の本発明による熱処理なしに、ピロリン酸塩を含有する電解液から亜鉛に適用される場合に、多孔質基材中に浸透する液体は、被覆した部品の後の加熱中にもはや避けることができず、かつ生じた蒸気圧によって、被覆におけるブリスター形成又は剥離を導く。これは、先行技術から予期されていなかった。
【0027】
参考文献

【0028】
実施例
銅での亜鉛ダイカストのメッキを、次の組成を有する電解溶液を使用して実施する:
ピロリン酸カリウム 300g/l
ピロリン酸銅 30g/l
水で1リットルにした
メタンスルホン酸によってpH8に調整した。
【0029】
亜鉛ダイカストを、バレル中で、40℃及び0.5A/dm2の電流密度で、3分間メッキする。そして、その部品を洗浄し、150℃で30分間保管し、そして冷却後に、さらに2時間、同様の電解液浴中でメッキする。
【0030】
150℃の温度で30分間、乾燥炉中でブリスター形成を検査した結果、前記部品は、被覆中にブリスターを示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下、
a)ピロリン酸塩を含有する銅電解液からの、1μm未満の厚さを有する第一の銅層を堆積する工程、
b)洗浄し、そして高温で前記の部品を乾燥する工程、及び
c)ピロリン酸塩を含有する銅電解質中の第一の銅層を、10〜20μmの範囲の厚さまで厚くする工程
を特徴とする、減少したブリスター形成の傾向を有する亜鉛ダイカストの銅メッキのための方法。
【請求項2】
前記工程a)において、第一の銅層が、0.1〜0.5μmの範囲の厚さまで堆積されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程b)において、前記部品を100〜180℃で、10〜60分間保管することを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2013−504685(P2013−504685A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528239(P2012−528239)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004942
【国際公開番号】WO2011/029507
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(507237679)ユミコア ガルヴァノテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (10)
【氏名又は名称原語表記】Umicore Galvanotechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Klarenbergstrasse 53−79, 73525 Schwaebisch Gmuend, Germany
【Fターム(参考)】