説明

ブレ−キドラム

【課題】従来の問題点に鑑み成されたものであり、ブレーキドラム内に進入する水を適切に排水可能なブレーキドラムを提供することを目的とする。
【解決手段】ブレーキドラムの摩擦面に設ける回転軸方向に溝深さが傾斜する排水溝と、排水溝の溝深さが最も深い最深部に、摩擦面側から外周面側へとブレーキドラムを貫通する貫通孔とを備え、貫通孔に挿通する貫通孔の長さより長い軸部と、軸部の摩擦面側に備える第一の鍔部と、軸部の外周面側に備える第二の鍔部と、を有する遠心方向に可動な排水調整可動栓を備え、第一の鍔部は、排水調整可動栓が遠心方向外側に位置する場合に、排水溝から貫通孔へと排水可能な開口部を有し、第二の鍔部は、排水調整可動栓が遠心方向内側に位置する場合に、外周面から貫通孔への入水を防ぐように、貫通孔を封止するブレーキドラムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水をより適切に行うことができるブレーキドラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のブレーキには、車両に取り付けるタイヤホイールと一緒に回転する円筒状のブレーキドラムが用いられている。ブレーキドラムの内側には、ペダルの操作に応じて、オイルの圧力で広がる帯状のブレーキシューが取り付けられている。
【0003】
ドラムブレーキは、ブレーキシューとブレーキドラムとの摩擦により車両の制動を行う。また、ドラムブレーキは、摩擦により粉塵や熱が発生することが知られている。
【0004】
そこで、ブレーキドラムの温度が過度に上昇しないためにドラムを冷却する必要が生じる。このため、ブレーキドラムの内部に外気を導入する孔を、ブレーキドラムに設ける構造が提案されている。
【0005】
しかし、ブレーキドラムの内部に孔を設けると、その孔から水が侵入することがある。また、孔に起因しなくても、ブレーキドラム外部からの水の進入は、雨天走行時等において生じる場合もある。
【0006】
ブレーキドラム内に水が進入すると、ブレーキシューとブレーキドラムとの間でいわゆる鳴きが発生する場合がある。このため、ブレーキドラム中に進入した水は、できるだけ速やかに排出できることが望ましい。
【0007】
例えば、下記特許文献1には、ブレーキドラムの摩擦面上に遠心方向へ貫通孔を開けることで、ブレーキドラム内に進入した水の排水性を確保するドラムブレーキが提案されている。
【特許文献1】特開平4−28号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来のような貫通孔を開ける技術では、外部からの水の進入防止とブレーキドラム内の排水という両機能を適切に行うことは、困難であった。
【0009】
本発明は、従来の問題点に鑑み成されたものであり、ブレーキドラム内に進入する水を適切に排水可能なブレーキドラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかるブレーキドラムは、ブレーキドラムの摩擦面に設ける回転軸方向に溝深さが傾斜する排水溝と、排水溝の溝深さが最も深い最深部に、摩擦面側から外周面側へとブレーキドラムを貫通する貫通孔とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるブレーキドラムは好ましくは、排水溝が、ブレーキドラムのホイール取り付け面側に向けて溝深さが深くなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるブレーキドラムはさらに好ましくは、貫通孔に挿通する貫通孔の長さより長い軸部と、軸部の摩擦面側に備える第一の鍔部と、軸部の外周面側に備える第二の鍔部と、を有する遠心方向に可動な排水調整可動栓を備え、第一の鍔部は、排水調整可動栓が遠心方向外側に位置する場合に、排水溝から貫通孔へと排水可能な開口部を有し、第二の鍔部は、排水調整可動栓が遠心方向内側に位置する場合に、外周面から貫通孔への入水を防ぐように、貫通孔を封止することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるブレーキドラムはさらに好ましくは、排水調整可動栓が遠心方向外側に位置する場合に、第一の鍔部の位置に対応して、第一の鍔部の少なくとも一部が嵌合し、第一の鍔部が前記摩擦面から突出しない程度の凹部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ブレーキドラム内に進入する水を適切に排水することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本実施形態のブレーキドラムは、ブレーキドラムの摩擦面に排水溝を備える。排水溝は、貫通孔に向かって次第に溝深さが深くなる構造を有する。
【0016】
従って、ブレーキドラム内の水は、貫通孔を介して重力又は遠心力によって、ブレーキドラムの外部へと排水される。
【0017】
また、第二の実施形態においては、ブレーキドラムは、貫通孔に挿通する排水調整可動栓を備える。排水調整可動栓は、ブレーキドラムが回転する時には遠心力により遠心方向外側に移動し、ブレーキドラムが回転しない時には重力に従って位置決めされる。
【0018】
また、排水調整可動栓は、遠心方向外側へ位置する時には、ブレーキドラム内部の水を貫通孔へ導出可能な切り欠き部を有する。また、排水調整可動栓は、遠心方向内側へ位置する時には、ブレーキドラム外部の水を貫通孔へ進入させない止水栓の機能を有する。
【0019】
以下、図面に基づいて実施形態の典型例について説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、第一の実施形態にかかるドラムブレーキの概略構成図である。また、図2は、図1に示すドラムブレーキ10に用いるブレーキドラム12の全体斜視図である。
【0021】
ブレーキドラム12は、一端が開かれている開口部13を有する蓋状であるとともに、他端に底面16を有する円筒状の部材である。底面16には、不図示の車両ホイ−ルを取り付けることができる。
【0022】
図1に示すドラムブレーキ10は、例えば車両のリヤブレーキユニットとして好適に用いることができる。ドラムブレーキ10は、図示しない車両の車軸に取り付けるブレーキドラム12と、ブレーキシュー14とを備える。
【0023】
ブレーキシュー14は、ブレーキドラム12の内周部に配置する一対のブレーキシュー14a,14bから構成する。また、ドラムブレーキ10は、ブレーキドラム12の内周面に一対のブレーキシュー14a,14bを押し付けることにより制動トルクを発生する。
【0024】
ブレーキシュー14aは、ウェブ20aと、リム22aと、ブレーキライニング24aとを有する。また、ブレーキシュー14bは、ウェブ20bと、リム22bと、ブレーキライニング24bとを有する。
【0025】
また、図1に示すように、ドラムブレーキ10は、ブレーキドラム12の内部に配置するホイールシリンダ26を備える。そして、一対のブレーキシュー14a,14bのそれぞれの上端部同士は、1本または2本のシューリターンスプリング28を介して互いに連結する。
【0026】
シューリターンスプリング28の付勢力により、ブレーキシュー14aのウェブ20aの一端を、ホイールシリンダ26の対応するピストンの端部に係合する。また、シューリターンスプリング28の付勢力により、ブレーキシュー14bのウェブ20bの一端を、ホイールシリンダ26の対応するピストンの端部に係合する。
【0027】
また、一対のブレーキシュー14a,14bのそれぞれの下端部同士は、アンカーブロック30を介して互いに連結する。
【0028】
このように構成するドラムブレーキ10は、運転者がブレーキペダルを操作すると、図示しないマスタシリンダから、ホイールシリンダ26にブレーキフルードが供給される。これにより、ホイールシリンダ26の一対のピストンがそれぞれ外方に突き出し駆動される。
【0029】
そして、一対のブレーキシュー14a,14bにはホイールシリンダ26から押圧力が付与され、ブレーキシュー14a,14bのピストンと係合する端部が、アンカーブロック30を支点としてそれぞれ外側へ拡張する。
【0030】
これにより、ブレーキシュー14a,14bの外周面にそれぞれ設けられるブレーキライニング24a,24bが、車輪と一体に回転するブレーキドラム12の内周面12aに押し付けられ、摩擦力を生じる。これにより、制動トルクを得ることができる。
【0031】
また、ブレーキドラム12は、ブレーキドラム12内部に存在する水を排水するための貫通孔18bを有する。貫通孔18bは、ブレーキドラム12の内周面12aから外周面18aまで貫通する構造とする。図1に示すブレーキドラム12においては、ブレーキドラム12の外周面18aに等間隔で計八個の貫通孔18bを有する。
【0032】
ブレーキドラム12の内部に存在する水は、重力や遠心力により、ブレーキドラム12の内周面12aに導かれる。そして、内周面12aへ導かれた水は、貫通孔18bを介してブレーキドラム12外部へと排出される。
【0033】
また、図2に示すように、ブレーキドラム12は、円筒部18の内周面12aに、貫通孔18bに各々対応して、排水する水を貫通孔18bへとガイドする、排水溝18cを有する。排水溝18cは、ブレーキドラム12の内周面12aに、回転軸方向に設ける。また、排水溝18cは、ブレーキドラム12の底面16に向かって、順次溝深さが深くなる構造を有する。
【0034】
次に、排水溝18cの構造について、図3を用いてさらに詳細に説明する。
【0035】
図3は、外周面18a側からブレーキドラム12を観察した場合の断面構造を、概念的に示すものである。
【0036】
図3において、ブレーキドラム12は、ブレーキドラム12の内周面12aに、開口部13側から底面16側に向かって、次第に溝深さが深くなる排水溝18cを備える。
【0037】
また、ブレーキドラム12は、排水溝18cの溝深さが最も深くなる最深部に貫通孔18bを備える。典型的には、ブレーキドラム12は、各々の排水溝18cの最も底面16に近い位置に各々対応して、貫通孔18bを備える構成とする。
【0038】
従って、排水溝18cは、遠心力や重力により内周面12aに導かれたブレーキドラム12内の水を、さらに貫通孔18bへと導くことができる。すなわち、遠心力や重力により排水溝18cに到達した水は、力の作用方向、すなわち重力であればより低い位置へ、遠心力であれば遠心外側方向(遠心方向)へと、より位置エネルギーの小さい位置へと移動することとなる。
【0039】
上述するように、排水溝18cにより、水が自然と貫通孔18bへと導かれることとなるので、ブレーキドラム12は、ブレーキドラム内に存在する水をスムーズに排水することが可能となる。
【0040】
第一の実施形態で例示するブレーキドラム12では、貫通孔18bと対応させて各々排水溝18cを等間隔で八個設ける構成を示したが、これに限られることはない。例えば、貫通孔18bを四つ設けるブレーキドラムとしてもよく、貫通孔18bを12個設けるブレーキドラムとしてもよい。
【0041】
また、貫通孔18bを複数個とせず、単一の貫通孔18bを設ける構成としてもよい。この場合には、貫通孔18bに対応して、ブレーキドラム12に単一の排水溝18cを設けることとしてもよい。
【0042】
また、貫通孔18bの位置は、図3においては底面16に近接する位置として説明したが、必ずしも底面16に近接する位置でなくてもよい。
【0043】
例えば、開口部13により近い位置に設ける構成としてもよく、開口部13と底面16との中間付近に設ける構成としてもよい。この場合においても、排水溝18cの溝深さが最も深くなる位置に対応させて、貫通孔18bを設けることが、スムースな排水処理を行う上で好ましい。
【0044】
また、貫通孔18bは、排水溝18cに対応させて任意に同数設ける構成としてもよい。また、必ずしも同数とせず貫通孔18bの個数を、排水溝18cの個数より多く設けてもよい。また、一つの排水溝18cに複数の貫通孔18bを設けてもよい。
【0045】
また、貫通孔18bは、外周面18aに等間隔で設ける必要はなく、不規則に任意の位置に設ける構成としてもよい。しかし、貫通孔18bを等間隔で設けると、ブレーキドラム12内のいずれの位置に水が存在する場合でも、効率よく排水が可能となることが期待できるので好ましい。
【0046】
また、例示するブレーキドラム12の排水溝18cは、底面16に向けて次第に溝深さが深くなる構造を有するが、必ずしも斜面である必要はない。例えば、排水溝18cを、貫通孔18bに向けて段々状態とし、一段ずつ溝深さを深くする構成としてもよい。
【0047】
次に、ブレーキドラム12が上述の第一の実施形態で例示する構成に加えて、さらに排水調整可動栓を有する場合について、第二の実施形態で説明する。なお、第一の実施形態と対応する同一部材については、同一の符号を付すこととする。
【0048】
(第二の実施形態)
図4は、貫通孔18bに、排水調整可動栓41を備えるブレーキドラム12の断面構造を模式的に示すものである。
【0049】
図4に示すように排水調整可動栓41は、貫通孔18bに挿通し、ブレーキドラム12の回転軸と直行する方向に一定範囲で可動な構成とする。
【0050】
ブレーキドラム12が回転する時には、排水調整可動栓41に遠心力が働くので、排水調整可動栓41は、回転軸から遠ざかる遠心方向へと移動する。また、ブレーキドラム12が非回転の時には、排水調整可動栓41に遠心力は働かない。従って、排水調整可動栓41は、重力に従って下方へと一定範囲で移動する。
【0051】
ここで、図5を用いて排水調整可動栓41についてさらに詳述する。図5は、排水調整可動栓41の全体構成を概念的に示す斜視図である。
【0052】
図5において、排水調整可動栓41は、軸部51と、第一の鍔部53と、第二の鍔部52とを有する。典型的には、軸部51は、円筒部18の肉厚Dより長い構成とする。これにより、排水調整可動栓41が、円筒部18の肉厚D方向に一定範囲で可動となる。
【0053】
また、軸部51は、貫通孔18bの径よりも細い太さとする。典型的には、軸部51の太さは、貫通孔18bと軸部51との間隙44aに排水通路を確保可能であり、かつ排水調整可動栓41がスムーズに可動できる程度とする。
【0054】
また、排水調整可動栓41は、軸部51の一端に設ける第一の鍔部53を有する。第一の鍔部53は、ブレーキドラム12の内周面12a側に配置する。第一の鍔部53は、排水調整可動栓41が、遠心力等を受けて回転中心から遠ざかる遠心方向に移動する場合に、排水調整可動栓41が抜け出ないように、ストッパーの機能を有する。
【0055】
従って、第一の鍔部53は、少なくとも貫通孔18bを通過しない程度の、最大直径部分を有する。また、例えば貫通孔18bの内周面12a側に、第一の鍔部53の最大直径部分が通過しない程度の抜け落ち防止部(凸部)等を設けるなどして、第一の鍔部53が貫通孔18bを通過して抜け落ちない構成としてもよい。また、第一の鍔部53の突起部54を、貫通孔18bへの嵌り込みを防止するストッパーとして構成することもできる。
【0056】
また、図5に示す排水調整可動栓41において、第一の鍔部53は、切り欠き部55を有する。切り欠き部55は、排水調整可動栓41が、遠心力等を受けて回転中心から遠ざかる遠心方向に移動する場合に、排水路を確保する機能を有する。
【0057】
すなわち、例えば第一の鍔部53の突起部54が、排水溝18c近傍の内周面12aに係止される場合でも、封止することなく切り欠き部55を通じて貫通孔18bへの排水路の確保が可能となる。
【0058】
また、排水調整可動栓41は、軸部51の他端に設けられる第二の鍔部52を有する。第二の鍔部52は、ブレーキドラム12の外周面18a側に配置する。第二の鍔部52は、排水調整可動栓41が、重力を受けて回転中心に近づく反遠心方向に移動する場合に、排水調整可動栓41がブレーキドラム12内に突入しないように、ストッパーの機能を有する。
【0059】
従って、第二の鍔部52は、少なくとも貫通孔18bを通過しない程度の最大直径部分を有する。また、例えば貫通孔18bの外周面18a側に、第二の鍔部52の最大直径部分が嵌らない程度の突入防止部(凸部)等を設けるなどして、第二の鍔部52が貫通孔18bに嵌ることを防ぐ構成としてもよい。
【0060】
また、第二の鍔部52は、例えば排水調整可動栓41が、重力を受けて回転中心に近づく反遠心方向に移動する場合に、対応する外周面18aと密着して貫通孔18bを封止し、外周面18a等からブレーキドラム12内に水が進入することを防止する。
【0061】
排水調整可動栓41は、第一の鍔部53と第二の鍔部52とが同時にブレーキドラム12の円筒部18に接触しない構成とする。典型的には、軸部51は、第一の鍔部53と第二の鍔部52とが同時にブレーキドラム12の円筒部18に接触しない程度の長さを有する。
【0062】
従って、排水調整可動栓41が、遠心力等を受けて遠心方向に移動する場合に、第一の鍔部53は、内周面12a又は排水溝18cの壁面と接触してストッパーとして機能するとともに、第二の鍔部52は、外周面18aから離間する。このため、排水溝18cにより導かれる水は、切り欠き部55を通り、貫通孔18bを通過して、外周面18aと第二の鍔部52との間隙44aから排出される。
【0063】
一方、排水調整可動栓41が、重力を受けて回転中心に近づく反遠心方向に移動する場合に、第二の鍔部52は、貫通孔18bの止水栓となり、外周面18aからブレーキドラム12内への水の浸入を防止する。典型的には、第二の鍔部52は、外周面18aと密着して貫通孔18bを封止する。
【0064】
図6は、排水調整可動栓41の位置状況を示す模式図である。
【0065】
図6(a)は、ブレーキドラム12の上側に位置する排水調整可動栓41が、重力により反遠心方向に位置する状況を示すものである。また、図6(b)は、ブレーキドラム12の下側に位置する排水調整可動栓41が、重力により遠心方向に位置する状況を示すものである。
【0066】
また、図6(b)は、ブレーキドラム12が回転する場合の、排水調整可動栓41の位置を示す状態にも対応する。ブレーキドラム12が回転する場合には、ブレーキドラム12が備える全ての排水調整可動栓41に対して、遠心力が働くので、全ての排水調整可動栓41が、図6(b)に示す状態となる。
【0067】
従って、ブレーキドラム12が非回転状態においては、ブレーキドラム12の上側に位置する排水調整可動栓41と、ブレーキドラム12の下側に位置する排水調整可動栓41とで、外周面18aに対する相対位置が異なる状態をとることとなる。
【0068】
典型的には、ブレーキドラム12が非回転状態において、ブレーキドラム12の最上側に位置する排水調整可動栓41は、図6(a)に示すような外周面18aに対する相対位置となる。また、ブレーキドラム12が非回転状態において、ブレーキドラム12の最下側に位置する排水調整可動栓41は、図6(b)に示すような外周面18aに対するの相対位置となる。
【0069】
上述するように、図6(a)に示す状態においては、排水調整可動栓41の第二の鍔部52が、貫通孔18bを封止するので、外周面18aから貫通孔18bを介したブレーキドラム12内への水の浸入を防止する。
【0070】
一方、図6(b)に示す状態においては、排水調整可動栓41の第一の鍔部53が有する切り欠き部55から貫通孔18bを通って排水路が確保される。貫通孔18bを通過する排水は、第二の鍔部52と外周面18aとの隙間からブレーキドラム12外へと排水される。
【0071】
なお、第二の実施形態で説明する排水調整可動栓41は、この説明での形態に限られることはない。例えば、第一の鍔部53が排水溝18cに嵌め込み可能なように構成してもよい。
【0072】
また、例えば第一の鍔部53の形状は、メッシュ状に形成してもよい。第一の鍔部53をメッシュ状とすれば、メッシュの間隙44aから排水可能となるので、よりスムーズな排水が実現できると期待できる。また、例えば第一の鍔部53の形状を、棒状として排水調整可動栓41を構成してもよい。上述のように、第一の鍔部53は、貫通孔18bを通過しない形状であり、かつ排水経路が確保できる形状であれば任意の形状とすることができる。
【0073】
ブレーキドラム12は、ブレーキドラム12の回転時には、全ての貫通孔18bから排水可能となる。また、ブレーキドラム12は、非回転時には、ブレーキドラム12の上側に位置する貫通孔18bには排水調整可動栓41により栓をして、貫通孔18bからの水の進入を防ぐ。
【0074】
また、ブレーキドラム12は、非回転時には、ブレーキドラム12の下方に位置する貫通孔18bからは、第一の鍔部53の切り欠き部55を介して排水する。
【0075】
なお、第二の実施形態に示すブレーキドラム12は、第二の鍔部52を、内周面12aのうち、直接ブレーキシュー14と摩擦する摩擦領域を回避して設けることが好ましい。典型的には、排水調整可動栓41と貫通孔18bとをホイ−ル取り付け面に近接して設けることで、制動時においても、ブレーキシュー14と内周面12aとの摺動がスムースに行えることとなる。
【0076】
(変形例)
次に、図7を用いてブレーキドラム12の変形例について説明する。図7は、凹部を設けるブレーキドラム12を説明する断面概念図である。
【0077】
図7に示すブレーキドラム12は、排水調整可動栓41の第一の鍔部53に対応する位置に、第一の鍔部53が嵌合する凹部71を有する。
【0078】
凹部71に第一の鍔部53が嵌り込むことにより、第一の鍔部53がブレーキドラム12の内周面12aに突出しない。典型的には、第一の鍔部53が、摩擦面又は摺動面に突出しない。
【0079】
従って、排水調整可動栓41の位置を内周面12aの摩擦領域に設けた場合であっても、ドラムブレーキ10の制動時において、ブレーキシュー14とブレーキドラム12の内周面12aとの摺動がスムーズに行える。
【0080】
また、実施形態で説明する排水調整可動栓41は、適宜適切な材料を用いて構成することとできる。典型的には、排水調整可動栓41は、耐磨耗性や耐熱性に優れ、衝撃吸収力も備える所望の重量の材料を用いることとできる。
【0081】
このように、ブレーキドラム12は、特に複雑な電子制御や複雑な構成を用いることなく、効率的かつスムーズに排水を行うと共に、適宜水の浸入を防止することができる。従って、簡易かつ軽量、安価なブレーキドラム等とすることができるので、ドラムブレーキやドラムブレーキ装置全体としてもコストダウンが可能となる。さらには、車両全体としての軽量化に資することができる。
【0082】
また、複雑な構成を用いないので故障が少なく、メンテナンスも容易であることが期待できる。従って、ランニングコストが安価なブレーキドラムやドラムブレーキシステムとできる。
【0083】
ブレーキドラム12は、実施形態で説明する例に限定されず、自明な範囲で適宜その構成を変更することができ、異なる構成や動作のドラムブレーキやブレーキシステムとして用いることとできる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかるドラムブレーキの概略構成図である。
【図2】ドラムブレーキ装置駆動部の構成概要図である。
【図3】ブレーキドラムの断面構造概念図である。
【図4】第二の実施形態にかかるドラムブレーキの断面構造概念図である。
【図5】排水調整可動栓の全体構成を概念的に示す斜視図である。
【図6】第二の実施形態に係る排水調整可動栓の位置状況を示す模式図である。
【図7】凹部を設けるブレーキドラムを説明する断面概念図である。
【符号の説明】
【0085】
10・・ドラムブレーキ、12・・ブレーキドラム、12a・・内周面、13・・開口部、14・・ブレーキシュー、14a・・ブレーキシュー、14b・・ブレーキシュー、16・・底面、18・・円筒部、18a・・外周面、18b・・貫通孔、18c・・排水溝、20a・・ウェブ、20b・・ウェブ、22a・・リム、22b・・リム、24a・・ブレーキライニング、24b・・ブレーキライニング、26・・ホイールシリンダ、28・・シューリターンスプリング、30・・アンカーブロック、41・・排水調整可動栓。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキドラムの摩擦面に設ける回転軸方向に溝深さが傾斜する排水溝と、
前記排水溝の溝深さが最も深い最深部に、前記摩擦面側から外周面側へと前記ブレーキドラムを貫通する貫通孔と、
を備えることを特徴とするブレーキドラム。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキドラムにおいて、
前記排水溝は、前記ブレーキドラムのホイール取り付け面側に向けて溝深さが深くなる
ことを特徴とするブレーキドラム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のブレーキドラムにおいて、
前記ブレーキドラムは、
前記貫通孔に挿通する前記貫通孔の長さより長い軸部と、前記軸部の前記摩擦面側に備える第一の鍔部と、前記軸部の前記外周面側に備える第二の鍔部と、を有する遠心方向に可動な排水調整可動栓を備え、
前記第一の鍔部は、前記排水調整可動栓が遠心方向外側に位置する場合に、前記排水溝から前記貫通孔へと排水可能な開口部を有し、
前記第二の鍔部は、前記排水調整可動栓が遠心方向内側に位置する場合に、前記外周面から前記貫通孔への入水を防ぐように、前記貫通孔を封止する
ことを特徴とするブレーキドラム。
【請求項4】
請求項3に記載のブレーキドラムにおいて、
前記排水調整可動栓が遠心方向外側に位置する場合に、前記第一の鍔部の位置に対応して、前記第一の鍔部の少なくとも一部が嵌合し、前記第一の鍔部が前記摩擦面から突出しない程度の凹部を有する
ことを特徴とするブレーキドラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−127745(P2009−127745A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303446(P2007−303446)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】