説明

ブレーキキャリパ

【課題】ブレーキキャリパに付着した雪が融けて、融雪した水がブレーキパッドとディスクロータとの間に侵入することを抑制するブレーキキャリパを提供する。
【解決手段】車体側に組み付けられて、車輪とともに回転するディスクロータ30にブレーキパッド12を押圧するブレーキキャリパ10であって、ブレーキキャリパ10を車体側に組み付けた場合に、ブレーキパッド12の上方となる位置にガイド部20を設ける。また、ガイド部20とブレーキパッド12の上端部とは離間している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキキャリパに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制動を行う制動装置の一つとして、ディスクブレーキ装置がある。ディスクブレーキ装置において、ブレーキキャリパの内側に車輪とともに回転するディスクロータを挟んだ状態で一対のブレーキパッドが設けられている。ブレーキキャリパによりブレーキパッドが押圧されると、ディスクロータに当接し、摩擦力により制動力を発生する。
【0003】
ところで、寒冷地において、車両が雪道を走行すれば、車輪に雪が付着することがある。この雪がブレーキパッドとディスクロータの間に付着し、氷結すると、ディスクブレーキ装置が作動不良となるおそれがある。
【0004】
たとえば、特許文献1には、ブレーキキャリパの上部を覆うようにカバーを取り付け、ブレーキキャリパへの雪の付着を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−318328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によっても、たとえば停車時にブレーキキャリパの上部のカバーに付着した雪が融けて、ブレーキパッドとディスクロータとの間に侵入するおそれがある。長時間の停車後、従動輪におけるブレーキパッドとディスクロータとの間に侵入した融雪水が氷結した状態で発進すると、車輪にロックがかかった状態での走行となるおそれがある。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブレーキパッドとディスクロータとの間に融雪した水が侵入することを抑制するブレーキキャリパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキキャリパは、車輪とともに回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧するものであって、車体側に組み付けられた場合に、ブレーキパッドの上方となる位置にガイド部を備える。ガイド部とブレーキパッドの上端部とは離間している。
【0009】
この態様によると、ガイド部の上方に溜まった雪が融けた場合に、融雪水がブレーキパッドの摩擦面に伝わることをガイド部によって抑制することができる。また、ガイド部とブレーキパッドの上端部とが離間していることで、融雪水をガイド部からブレーキパッドに直接しみ入らすことなく、ガイド部から水滴として落とすことができる。
【0010】
ガイド部は、少なくともブレーキキャリパの車輪内周側に位置する面まで延設されてもよい。これにより、ガイド部の車輪内周側の端部から落ちる水を、ブレーキキャリパの車輪内周側の面の位置から落とすことができる。
【0011】
ガイド部は、その上面において、ガイド部の車輪内周側に位置する端部に向かう溝を設ける。これにより、溝を排水溝として機能させ、水を効率よくガイド部の車輪内周側に位置する端部から落とすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のブレーキキャリパによれば、ブレーキパッドとディスクロータとの間に融雪した水の侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るブレーキキャリパの断面図を示す図である。
【図2】(a)は、ガイド部を備えていないブレーキキャリパの斜視図を示し、(b)は、本実施形態におけるガイド部を備えるブレーキキャリパの斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、実施形態に係るブレーキキャリパ10の断面図を示す。本図は、ブレーキキャリパ10をディスクロータ30の側面に平行方向に切った図である。本図においては、ブレーキキャリパ10が、右輪に組み付けられた状態を示す。ブレーキキャリパ10は、右輪用である。なお、左輪用のブレーキキャリパは、右輪用のブレーキキャリパ10に対して対称的な形状に形成される。
【0015】
ブレーキキャリパ10は、ブレーキキャリパ10自身を車体側に固定するためのマウンティング(図示せず)と、ディスクロータ30へ押圧され制動力を発生するブレーキパッド12と、ブレーキパッド12を駆動するシリンダ(図示せず)と、ブレーキパッド12のトルクを受けるトルク受け部16と、ブレーキキャリパを車体側に組み付けた場合に、ブレーキパッド12の上方の位置に設けられるガイド部20とを備える。
【0016】
ディスクロータ30を挟んで対向するブレーキキャリパ10の第1部材50と第2部材(図示せず)とが、ブラケット18によって連結される。ブレーキキャリパ10の第2部材は、マウンティングを介して車体側に取り付けられる。図1では、ブレーキパッド12と、トルク受け部16と、ガイド部20とが第1部材50に設けられた状態を示しているが、同様の構成が第2部材にも設けられている。なお、第2部材は、車体側に取り付けるための取付部材も備えている。
【0017】
車輪と共に回転するディスクロータ30の一部は、一対のブレーキパッド12の間に配置される。ディスクロータ30の両側面は摩擦摺動面を構成し、一対のブレーキパッド12がディスクロータ30を挟んで対向配置される。このブレーキパッド12は、ディスクロータ30の側面と直接接触する摩擦材46と、この摩擦材46の裏側、すなわちディスクロータ30と接触しない側に設けられるパッド裏金(図示せず)によって構成されている。
【0018】
ブレーキキャリパ10のシリンダには、有底の穴が穿設されており、この穴には、ピストン(図示せず)が摺動可能に嵌挿されている。穴の底にはポートが設けられ、液圧配管を介してマスタシリンダ(図示せず)に接続されている。運転者がブレーキペダル(図示せず)を操作するとマスタシリンダからのブレーキフルードがポート内に流入し、ピストンを駆動するようになっている。
【0019】
ブレーキフルードがポート内に流入すると、ピストンがピストンの押圧方向に摺動し、パッド裏金を介して摩擦材46をディスクロータ30の側面に押圧する。これにより車両に制動力が付与される。
【0020】
トルク受け部16は、ブレーキキャリパ10を車体側に組み付けた場合において、ブレーキパッド12の上端部26の上方に位置する。トルク受け部16は、制動時にブレーキパッド12に作用する制動トルクを受け止め、ブレーキパッド12のストッパとして機能する。たとえば、回転するディスクロータ30に摩擦材46を接触させると、当該摩擦材46はディスクロータ30に引き摺られる状態になりディスクロータ30により接線方向の接線力を受け、つまり制動トルクを受けることになる。この接線力をトルク受け部16で受け止める。トルク受け部16の車輪外周側の端部は、ブラケット18に連結する。
【0021】
トルク受け部16がブレーキパッド12の制動トルクを直接的に受ける面をトルク受け面44という。トルク受け面44は、ブレーキキャリパ10を車体側に組み付けた場合のブレーキパッド12の上端部26と近接する。ブレーキキャリパ10を車体側に組み付けた場合において、トルク受け部16の上方には、空間22が設けられる。
【0022】
ここで、寒冷地の車両走行において、ディスクロータ30に付着した雪が、ブレーキキャリパ10のブラケット18の上端部により削られて、空間22に残る場合がある。図1に示すように、空間22は、ブレーキパッド12より上方に位置するため、駐車すると、制動により加熱されたディスクロータ30によって、空間22に残る雪が融け、融雪水がブレーキパッド12とディスクロータ30の間に侵入する可能性がある。ブレーキパッド12の摩擦面とそれに対向するディスクロータ30が濡れた状態で長時間駐車されると、融雪水が氷結し、ブレーキパッド12とディスクロータ30を固着しうる。
【0023】
そこで、実施形態のブレーキキャリパ10は、ブレーキキャリパ10を車体側に組み付けた場合に、ブレーキパッド12の上方となる位置にガイド部20を備える。空間22に溜まった雪が融けた場合に、その融雪水は、ガイド部20を伝ってブレーキキャリパ10の車輪内周側の面28(以下、単に「内周側面28」という)の位置から下方に落ちる。つまり、ガイド部20を設けることにより、融雪水がブレーキパッド12とディスクロータ30の間に侵入することを抑制できる。
【0024】
ガイド部20は、トルク受け部16と一体に形成され、具体的にはブラケット18から延びるトルク受け部16をさらに延長して設けられる。ガイド部20は、トルク受け部16から少なくともブレーキキャリパ10の車輪内周側に位置する面28まで延設される。具体的には、ガイド部20の車輪内周側の端部32(以下、単に「内周側端部32」という)が、内周側面28の同一面上に位置するまで延設される。ガイド部20の内周側端部32は、鉛直方向においてブレーキパッド12の車輪内周側の端部52より張り出してもよい。ガイド部20とトルク受け部16を結合して、ガイド機能付きトルク受け部という。
【0025】
ブレーキキャリパ10を車体側に組み付けた場合において、トルク受け部16とガイド部20との上面には、融雪水をガイド部20の内周側端部32まで導くガイド面42が形成される。図1に示すように、ガイド面42は、トルク受け部16のトルク受け面44の反対側に形成される。ブレーキキャリパ10を車体側に組み付けた場合に、ガイド面42は、融雪水を内周側端部32に導くように、内周側端部32に向かって下向きに傾斜する。これにより、効率よく内周側端部32から融雪水を落とすことができる。
【0026】
ガイド部20は、ブレーキキャリパ10を車体側に組み付けた場合におけるブレーキパッド12の上端部26から所定の距離、離間するように形成されてよい。ガイド部20のガイド面42に対向するガイド裏面48と上端部26との間隙は、トルク受け面44と上端部26との間隙よりも大きい。所定の距離は、たとえば0.5〜1センチメートルであってよく、比較的大きい長径の水滴の大きさより大きい値に定められることが好ましい。ガイド裏面48をブレーキパッド12から離間することで、融雪水が内周側端部32から水滴として落ちるようになる。これにより、融雪水が、内周側端部32からブレーキパッド12にしみ入って、ブレーキパッド12の摩擦面に広がることを抑制できる。
【0027】
ブレーキキャリパ10を車体側に組み付けた場合において、ガイド部20は、その上面において、内周側端部32に向かう溝(図示せず)を設けてよい。すなわち、溝は、ガイド面42に設けられ、トルク受け部16の車輪外周側からガイド部20の内周側端部32に至るまで設けられてよい。また、溝は、ガイド面42の全面にテーパ状に形成されてよい。これにより、効率よくガイド部20の内周側端部32から融雪水を落とすことができる。なお、以上に説明したガイド部20は、ディスクロータ30を介して対向する第2部材にも同様に設けられる。
【0028】
図2は、ブレーキキャリパの斜視図を示す。図2(a)は、ガイド部20を備えていないブレーキキャリパ100を示す。図2(b)は、本実施形態におけるガイド部20を備えるブレーキキャリパ10を示す。図2(a)および(b)では、ブレーキパッド12およびディスクロータ30を取り付けていない状態を示す。
【0029】
図2(a)に示すブレーキキャリパ100には、ブレーキパッド12を駆動するピストンの穴40が設けられる。ブラケット18の内面は、ディスクロータ30の外周面と対向する。トルク受け部116には、ガイド部20が延設されておらず、ブレーキキャリパ100を車体側に組み付けると、空間122がブレーキパッド12の上方に位置する。これでは、空間122に溜まった雪が融けると、融雪水がブレーキパッド12とディスクロータ30の間に侵入するおそれがある。
【0030】
一方、図2(b)に示すブレーキキャリパ10は、ガイド部20を備え、ガイド部20が、トルク受け部16から延設されている。図2(b)では、ガイド部20の内周側端部32が、内周側面28と同一面上に位置する。つまり、空間22とブレーキパッド12の間にガイド部20が介在する。これにより、空間22に溜まった雪が融けても、ガイド部20によって融雪水がガイド部20の内周側端部32から落ち、融雪水がブレーキパッド12とディスクロータ30の間に侵入することを抑制することができる。
【0031】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0032】
10 ブレーキキャリパ、 12 ブレーキパッド、 16 トルク受け部、 18 ブラケット、 20 ガイド部、 22 空間、 30 ディスクロータ、 42 ガイド面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に組み付けられて、車輪とともに回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧するブレーキキャリパであって、
前記ブレーキキャリパを車体側に組み付けた場合に、前記ブレーキパッドの上方となる位置にガイド部を備え、
前記ガイド部と前記ブレーキパッドの上端部とが離間していることを特徴とするブレーキキャリパ。
【請求項2】
前記ガイド部は、少なくとも前記ブレーキキャリパの車輪内周側に位置する面まで延設されることを特徴とする請求項1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項3】
前記ガイド部は、その上面において、前記ガイド部の車輪内周側に位置する端部に向かう溝を設けることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキキャリパ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−169188(P2010−169188A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12061(P2009−12061)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】