説明

ブレーキローラ

【課題】耳障りな高周波雑音の発生を減少させたブレーキローラを提供する。
【解決手段】ブレーキローラ21の外周面21b上に周面に沿って一定のピッチで且つ該ブレーキローラ21の中心軸と平行に複数個の楔状溝25が形成されており、該楔状溝25は、外周面21b上の第1位置21cから所定の深さDに落ち込む段差部25aと、該第1位置21cから所定の距離離隔した該外周面21b上の第2位置21eへ該段差部25aの下端21dから延在する斜面部25bとによって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブレーキローラに関するものであって、更に詳細には、自動車等車両のブレーキ及び速度計を検査する複合試験機に使用するのに適したブレーキローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のブレーキ及び速度計を検査するために複合試験機が使用されており、その代表的な例を図1に示してある。図示した複合試験機10は、左右一対のブレーキローラ(駆動ローラとも呼称される)1,1と、それに所定間隔で並置されている左右一対のスピードローラ(従動ローラとも呼称される)2,2とを包含している。一対のブレーキローラ1,1には夫々ギアボックス(減速機)3,3が設けられており、夫々のギアボックス3,3はモータ(不図示)に駆動連結させることが可能である。一対のスピードローラ2,2は電磁クラッチなどの速度測定用連結器4を介して一体的に連結させることが可能である。左側のブレーキローラ1とそれに対応する左側のスピードローラ2とは連結チェーン5を介して連結されており、従って、これらの左側のブレーキローラ1とスピードローラ2とは一体的に回転する。同様に、右側のブレーキローラ1とそれに対応する右側のスピードローラ2とは連結チェーン5を介して連結されており、従って、これらの右側のブレーキローラ1とスピードローラ2とは一体的に回転する。右側のスピードローラ5の回転軸には速度検出器5が装着されている。
【0003】
この様な複合試験機10を使用して車両のブレーキ及び速度計を試験する状態を図2に示してある。図示されているように、ブレーキローラ1はその回転軸1a回りに回転自在に取り付けられており、不図示のモータにより図示例においては反時計方向である矢印方向α方向へ回転される。回転軸1aにはアーム11が取り付けられており、アーム11と地表Gとの間に検知器(ロードセル)13がリンク機構12により配設されている。尚、白抜矢印Aは車両の進行方向であり、且つ白抜矢印Bは車両のブレーキペダルを踏むことにより発生する反力の方向である。
【0004】
ブレーキ及び速度計の試験を行う場合には、先ず、検査すべき車両を自走させて、図示した如く、車輪Wを対応する一対のブレーキローラ1とスピードローラ2との間に位置させる。ブレーキの検査を行う場合には、不図示のモータによりブレーキローラ1を矢印方向αへ回転させ、それと共にチェーン5を介してスピードローラ2も同じ矢印方向αに回転される。従って、その上に載っている車輪Wは時計方向の矢印β方向に回転される。この状態で、車両のブレーキペダルを踏むと、ブレーキローラ1にはその反力が発生し、その反力を検出器13で検出してブレーキ性能を検査する。一方、車両の速度計を検査する場合には、検査すべき車両のエンジンの駆動力によりブレーキローラ1及びスピードローラ2上に乗っている車輪Wを回転させ、スピードローラ2に装着されている速度検出器5によって速度計の検査を行う。
【0005】
この様な複合試験機10又はブレーキテストのみを行う制動試験機において使用されるブレーキローラ1は、図3にその横断面図で示した如く、周面に沿って複数個の凹溝15が一定のピッチで設けられている。例えば、外周面に沿って約40本の凹溝が設けられている。各凹溝15は、ブレーキローラ1の外周面1bから所定の深さ及び幅で刻設して形成されており、それは第1段差部15aと、底面部15bと、第2段差部15cとによって形成されている。車両の制動試験を行うためのブレーキローラ1として、この様な凹溝15を周面に多数設けたものが従来使用されているが、この様な凹状溝を有するブレーキローラ1の場合には、人間にとって特に耳障りな1kHz近くの高周波の騒音を発生させることがあり、検査作業を行う場合に問題となっていた。
【0006】
そして、その様な凹状溝に起因する騒音の発生を回避するために種々の試みがなされており、例えば、ブレーキローラの周面にローレット加工を施すと共に、ローレット加工を施した周面に溶射処理を行って騒音を低減させる技術が提案されている(実用新案登録第3,144,893号)。しかしながら、この様な技術では、騒音を低下させることが可能であるとしても、製造コストが著しく高くなり、且つ2つの異なる処理を行うことから性能のバラツキが発生することがあり且つ経年変化が問題となる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3144893号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであって、上述した如き従来技術の欠点を解消し、改良したブレーキローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ブレーキの試験を行う試験装置に使用するのに適したブレーキローラが提供される。本発明の1実施例に基くブレーキローラにおいては、該ローラの外周面上に周面に沿って一定のピッチで該ローラの中心軸と平行に複数個の楔状溝が形成されており、該楔状溝は、外周面上の第1位置から所定の深さに落ち込む段差部と、該第1位置から所定の距離離隔した該外周面上の第2位置へ該段差部の下端から延在する斜面部とによって形成されていることを特徴としている。該ブレーキローラは、好適には、金属の円筒体であって、更に好適には、STKM材である。該段差部は、好適には、該ブレーキローラの中心軸に対して鉛直な平面によって形成されており、一方、該傾斜部は、好適には、該段差部の面に対して45〜70度の角度を有する平面によって形成されている。更に好適には、該段差部及び該傾斜部は、金属の円筒体の外周面に切削バイトで該楔状溝を形成する場合に同時に形成される平面によって形成される。
【0010】
該円筒体の直径は150〜200mmの範囲内のものである場合に、その外周面に設ける該楔状溝の数は8〜16本である。この範囲の直径のブレーキローラ及びこの範囲の本数の楔状溝である場合には、制動力の測定において必要とされる摩擦係数(保安基準によれば、乾燥0.65μ以上、泥水0.5μ以上)を満足する共に、従来の凹溝のブレーキローラとほぼ同等の制動力が得られることが実験により判明している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溝を楔形状としたので、従来の凹溝を設けたブレーキローラと比較して、段差部が溝当り半分に減少されており、その結果、ブレーキローラの回転による騒音の内で特に作業者にとって耳障りとされている周波数である1kHz近辺における騒音レベルを低下させることが可能であることが実証された。実験データによれば、特に作業者にとって耳障りとされている800Hz〜2kHzの周波数範囲においての耳障りな周波数が15%程低下し、且つ全体の音量が少なくとも10%低下されることが判明している。
【0012】
この様に、本発明によれば、製造上の困難性をもたらすことなしに低騒音化を可能としたブレーキローラが提供される。更に、本発明のブレーキローラは従来の凹溝を具備するブレーキローラと検査を行う上で性能的に著しく異なるものではないから、従来の凹溝のブレーキローラと置換させることが極めて容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ブレーキ・速度計の複合試験機の1例を示した概略図。
【図2】図1の複合試験機におけるブレーキ及び速度計の試験を行う状態を説明するための概略図。
【図3】図1の複合試験機又は制動試験機に使用可能な凹溝を具備する従来のブレーキローラの一部を示した概略横断面図。
【図4】本発明の1実施例に基いて構成されたブレーキローラの一部を示した概略横断面図。
【図5】図4に示したブレーキローラの外周面に形成された一つの楔状溝の詳細を示した概略拡大図。
【図6】図4に示したブレーキローラが制動試験を行っている状態を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の1実施例に基いて構成されたブレーキローラ21の一部を概略横断面図で図4に示してある。ブレーキローラ21は、好適には、金属の円筒体から構成されており、例えば、1例として、STMK材等の金属材を使用することが可能である。図示例においては、ブレーキローラ21は、内周面21aと、外周面21bとを有している。外周面21b上には周面方向に沿って所定のピッチで且つブレーキローラ21の中心軸に平行に複数個の楔状溝25が設けられている。図4に示されるように、楔状溝25は、外周面21bから所定の深さに急激に落ち込んだ段差部25aと、段差部25aの下端から比較的緩い傾斜で外周面21bへ延在する傾斜部25bとから形成されている。
【0015】
段差部25aは、好適には、ブレーキローラ21の外周面21b上の一点からブレーキローラ21の中心軸に向かう平面によって形成されるものであるが、湾曲面とすることも可能であることは勿論である。更に、傾斜部25bも、好適には、段差部25aの下端から外周面21bへゆっくりした傾斜で延在する傾斜平面であるが、湾曲面とすることも可能であることは勿論である。ここで重要な点は、段差部25aの面はブレーキローラ21の中心軸からの放射状に延在する直線に対して平行又はほぼ平行であり、従ってその段差部25aは階段状の構造を有しており、一方、傾斜部25bの面は、特にその外周面21bに近接した部分において、ブレーキローラ21の中心軸からの放射状に延在する直線に対して平行ではなく、可及的に90度に近いような大きな角度で交差しているということである。従って、本発明に基くブレーキローラ21における各楔状溝25は段差部が一つのみであって、従来のブレーキローラにおける各凹状溝における段差部の数と比較して半分に減少されている。
【0016】
ブレーキローラ21の直径が150〜200mmの範囲内である場合に、楔状溝25の本数は8〜16本とすることが可能であることが判明している。従来のブレーキローラ1においては、凹溝15が例えば40本とかなり多数設けられているが、本発明のブレーキローラ21においては、楔状溝25の数が8〜16本の範囲であっても、従来のブレーキローラ1と制動性能の点において実質的に差異が無いことが実験的に判明しており、更に、制動試験における摩擦係数に関する保安基準である乾燥0.65μ以上及び泥水0.5μ以上の条件を十分に満足するものであることが判明している。そして、この様な本発明のブレーキローラ21によれば、従来技術と比較して、作業者にとって特に耳障りとされている800Hz〜2kHzの周波数範囲における騒音を低下させることが可能であり、1例としての実験によれば、少なくとも10%音量を低下させることが可能であることが判明している。
【0017】
次に、図5を参照して、本発明の好適実施例に基くブレーキローラ21における楔状溝25の構成の1例について詳細に説明する。
【0018】
図5に示されている構成においては、ブレーキローラ21の外周面21b上の第1位置21cからブレーキローラ21の中心軸に向かって第2位置21dまで所定の深さDだけ鉛直方向に平面が延在して段差部25aを形成している。更に、第2位置21dから外周面21b上の第3位置21eへ直線的に平面が延在して傾斜部25bを形成している。従って、段差部25aを形成している平面と傾斜部25bを形成している平面とによって楔状溝25が形成されている。尚、本実施例においては、段差部25a及び傾斜部25bは夫々平面によって形成されているが、それぞれを湾曲面によって形成することが可能であることは勿論である。段差部25a及び傾斜部25bを夫々平面で形成した場合には、所定の角度を有するバイトで楔状溝25を一挙に形成することが可能であるという利点を有している。図5の図示例においては、段差部25aを形成する平面は第1位置21cにおいて外周面21bの接線と直交しており、一方、第2位置21eにおいては、ブレーキローラ21の中心軸から放射方向に延在する直線は傾斜部25bを形成している平面と可及的に直交する角度に近い角度で交差している。そして、段差部25aを形成する平面と傾斜部25bを形成する平面とがなす角度θは45〜70度の範囲内に設定することが望ましい。溝数を8本及び16本とし、且つθ=45度及び60度に設定したブレーキローラ21についての実験データからはこの様な角度範囲においてほぼ同等の性能が得られることが判明した。この範囲内の角度であると、切削バイトによる楔状溝25の製造が容易となり好都合でもある。更に、段差部25aにおける深さDは2〜6mmの範囲内に設定することが望ましい。深さDが2mmよりも小さいと、ブレーキローラ21の十分なグリップ力を発揮することが不可能となり、且つDを6mmよりも大きくすると、楔状溝25による空間を大きくなりすぎて動作が不安定となる場合があるからである。
【0019】
次に、図6を参照して、本発明に基いて構成されたブレーキローラ21の使用状態について説明する。図6に示されているように、ブレーキローラ21を矢印α方向に駆動回転させると、その上に接触している車輪Wは矢印β方向に回転する。その状態で車両のブレーキペダルを踏むとブレーキローラ21にはその反力が矢印γ方向に発生し、それを接線方向γ’の反力として検知器13により検知する。その場合に、ブレーキローラ21の楔状溝25の段差部25aが車輪Wに食い込む形となり所定の制動作用を発揮する。一方、速度計の検査においては、車輪Wを矢印βの方向にエンジンによって回転され、それにつられてブレーキローラ21も矢印αの方向に回転する。その場合に車輪Wのタイヤ表面は楔状溝25内に徐々に入り込む形となるので騒音の発生が低下されることとなる。
【符号の説明】
【0020】
21:ブレーキローラ
25:楔状溝
25a:段差部
25b:傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキの試験を行う試験装置に使用するブレーキローラにおいて、該ブレーキローラの外周面上に周面に沿って一定のピッチで且つ該ブレーキローラの中心軸と平行に複数個の楔状溝が形成されており、該楔状溝は、外周面上の第1位置から所定の深さに落ち込む段差部と、該第1位置から所定の距離離隔した該外周面上の第2位置へ該段差部の下端から延在する斜面部とによって形成されていることを特徴とするブレーキローラ。
【請求項2】
請求項1において、該ブレーキローラの直径が150〜200mmの範囲内である場合に、該楔状溝を該外周面上に互いに離隔して8〜16本設けたことを特徴とするブレーキローラ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記段差部が、前記ブレーキローラの中心軸から前記第1位置を介して放射状に延在する直線と平行な平面から形成されており、且つ前記傾斜部が前記段差部の形成する平面に対して所定の角度範囲内にある傾斜平面から形成されていることを特徴とするブレーキローラ。
【請求項4】
請求項3において、前記所定の角度範囲が前記段差部を形成する平面に対して45〜70度の範囲であることを特徴とするブレーキローラ。
【請求項5】
請求項5において、前記所定の深さが2〜6mmの範囲内であることを特徴とするブレーキローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−251966(P2012−251966A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126960(P2011−126960)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000117467)安全自動車株式会社 (16)
【Fターム(参考)】