説明

ブレーキング装置

【課題】直動体のブレーキング状態での直動体の移動および振動の発生を防止する。
【解決手段】工作機械のベッド11に心押台15が支持されている。ベッド11の心押台15移動経路上にこれにそってブレーキ板21が固定されている。心押台15に装備されたクランプ装置22のクランプボディ31には、ブレーキ板21を通すブレーキ通路32が形成されている。ブレーキ通路32を挟んで相対させられた一対の側壁33、34に円筒状ブレーキ孔42がブレーキ通路32長さ方向と直交する同一軸線上にそれぞれ形成されている。ブレーキ孔42の内端は、ブレーキ通路32に開放されている。ブレーキ孔42にブレーキパッド44が軸方向摺動自在にはめ入れられている。ブレーキパッド44は、周方向に分割されかつ合体させられて円板状をな一対のブレーキ片44A、44Bよりなる。両ブレーキ片44A、44Bの分割面間には圧縮コイルばね65が介在させられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械のベッド上を移動させられる直動体、例えば、心押台、振れ止め装置のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置としては、工作機械のベッドに直動体が支持されており、ベッドの直動体移動経路上にこれにそってブレーキ板が固定されており、直動体に、ブレーキ板をクランプするクランプ装置が装備されており、クランプ装置は、クランプボディを有しており、クランプボディは、ブレーキ板を通すブレーキ通路およびブレーキ通路を挟んで相対させられた一対の側壁を有しており、両側壁に円筒状ブレーキ孔がブレーキ通路長さ方向と直交する同一軸線上にそれぞれ形成されており、各ブレーキ孔の内端は、ブレーキ通路に開放されており、ブレーキ孔にブレーキパッドが軸方向摺動自在にはめ入れられており、ブレーキパッドは、全体を一体成形した円板体よりなるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ブレーキ孔周面およびブレーキパッド外面間には、ブレーキパッドを自在に摺動させるための半径方向隙間が存在させられており、その隙間の分、ブレーキ孔内におけるブレーキパッドの半径方向の移動が許される。このようなブレーキパッドの移動は、ブレーキングした状態で直動体に外部より力が加わった場合に、僅かではあるが直動体が移動してしまい、例えば、心押台や振れ止め(直動体)に保持されたワークが位置ずれを生じて加工精度を悪化させ、またブレーキパッドそのものを振動させるし、さらには、ブレーキングの後、ブレーキ板に対しブレーキパッドを押圧固定した状態では、上記隙間の分だけ、逆に、クランプボディを振動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−61969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、直動体のブレーキングによる振動の発生を防止することのできるブレーキング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるブレーキング装置は、工作機械のベッドに直動体が支持されており、ベッドの直動体移動経路上にこれにそってブレーキ板が固定されており、直動体に、ブレーキ板をクランプするクランプ装置が装備されており、クランプ装置は、クランプボディを有しており、クランプボディは、ブレーキ板を通すブレーキ通路およびブレーキ通路を挟んで相対させられた一対の側壁を有しており、両側壁に円筒状ブレーキ孔がブレーキ通路長さ方向と直交する同一軸線上にそれぞれ形成されており、各ブレーキ孔の内端は、ブレーキ通路に開放されており、ブレーキ孔にブレーキパッドが軸方向摺動自在にはめ入れられており、ブレーキパッドは、周方向に分割されかつ合体させられて円板状をなす複数のブレーキ片よりなり、各ブレーキ片が、弾性手段によって半径方向外向きに付勢されているものである。
【0007】
この発明によるブレーキング装置では、弾性手段の弾性力によって、全てのブレーキ片がブレーキ孔の周面に押圧されているため、ブレーキ孔周面およびブレーキパッド外面間には隙間が存在しないから、ブレーキ孔内においてブレーキパッドは半径方向に移動することはできない。したがって、ブレーキパッドの移動にともなう振動を防止することができる。
【0008】
さらに、ブレーキ孔と同心状にシリンダが形成されており、ブレーキ孔の外端にシリンダの内端が連通させられており、シリンダにピストンがはめ入れられており、各ブレーキ片の外端面にピストンの内端面が当接させられており、各ブレーキ片に、軸方向ねじ孔があけられており、ピストンに貫通ボルト孔が各ブレーキ片のねじ孔と同軸状に形成されており、ボルトが、各ボルト孔に隙間嵌めされかつ対応するブレーキ片のねじ孔にねじ入れられていると、各ブレーキ片がピストンに対して半径方向に移動自在に連結されているから、各ブレーキ片の軸方向の摺動が、ブレーキ孔周面によって妨げられること無く、自在である。
【0009】
また、弾性手段が、隣り合う2つのブレーキ片の分割面間に介在させられている圧縮コイルばねよりなると、弾性手段をシンプルな構造で安価に構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、直動体のブレーキング状態での直動体の移動および振動の発生を防止することのできるブレーキング装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明によるブレーキ装置を備えた工作機械の斜視図である。
【図2】同ブレーキ装置の要部を詳細に示す垂直横断面図である。
【図3】同ブレーキ装置のブレーキパッドの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明において、前後(Y軸方向)とは、図1の左斜め手前(矢印A)を前、これと反対側を後といい、左右(Z軸方向)とは、前方から見てその左右の側を左右というものとする。
【0013】
図1は、工作機械を右前方斜め上から見た斜視図を示すものである。ベッド11の左端部には主軸台12が装備されている。主軸台12から、前後一対のガイドレール13が互いに平行に右向きにのびている。両ガイドレール13には振止装置14および心押台15が左右に間隔をおいて支持されている。振止装置14の上方には工具ユニット16が配置されている。工具ユニット16は、サドル17によって昇降自在(X軸方向)に支持されている。
【0014】
両ガイドレール13間には、左右方向にのびた垂直帯板状ブレーキ板21がベッド11に固定されている。心押台15には、ブレーキ板21をクランプして心押台15をブレーキングするクランプ装置22が装備されている。
【0015】
クランプ装置22は、図2に詳細に示すように、心押台15に固定されたクランプボディ31を有している。クランプボディ31には、ブレーキ板21を挿通させたブレーキ通路32が形成されている。ブレーキ通路32の前後両側には、これを前後から挟んで相対させられた前側壁33および後側壁34とを備えている。
【0016】
前後の側壁33、34は、前後の向きは逆であるが、同一構造のものである。以下、前側壁33についてのみ説明し、後側壁34については、前後を逆に読み替えるものとして、対応する部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0017】
前側壁33には、シリンダ41およびブレーキ孔42が前後方向にのびた軸線上に互いに前後に並んで同心状に形成されている。シリンダ41にはピストン43が、ブレーキ孔42にはブレーキパッド44がそれぞれ前後方向に摺動自在にめ入れられている。
【0018】
シリンダ41は、シリンダ孔41Aと、シリンダ孔41Aの前後にそれぞれ連通させられた大径ガイド孔41Bおよび小径ガイド孔41Cとを有している。
【0019】
ブレーキ孔42の前端は、小径ガイド孔41Cの後端に連通させられている。ブレーキ孔42の後端は、ブレーキ通路32に開放されている。
【0020】
ピストン43は、シリンダ孔41Aに収容されているピストン本体43Aと、大径ガイド孔41Bおよび小径ガイド孔41Cにそれぞれ収容されている大径ガイドロッド43Bおよび小径ガイドロッド43Cとよりなる。
【0021】
シリンダ孔41Aにはクランプ油圧通路45およびアンクランプ油圧通路46がピストン本体43Aを挟んでその前後に連通させられている。
【0022】
大径ガイドロッド43Bの前端面には、ピストン43を後向きに付勢した円環状皿ばね51を収容している円環状凹所52が形成されている。
【0023】
凹所52内側を通って、ピストン43の軸線を挟んでその両側に、上下一対のボルト孔53が前後貫通状に形成されている。
【0024】
ブレーキパッド44は、図3に詳細に示すように、その軸線を通る直線を境に2分割されかつ合体させられて円板状をなす上下2つの半円形板状ブレーキ片44A、44Bよりなる。両ブレーキ片44A、44Bの前面は、小径ガイドロッド43Cの後端面に当接させられ、その後面はブレーキ板21の前側面に当接させられている。各ブレーキ片44A、44Bには、対応するボルト孔53と合致させられた前後方向ねじ孔61が形成されている。
【0025】
各ねじ孔61には、対応するボルト孔53に貫通させられたボルト62がねじ入れられている。ボルト孔53の周面およびボルト62の軸部外面間には隙間が形成されている。
【0026】
両ブレーキ片44A、44Bの相対させられた分割面には2対の段付有底孔63が形成されている。各対の有底孔63は、開口を相対させかつ円板状をなすブレーキパッド44の軸線の一方の側に位置させられている。
【0027】
一方のブレーキ片44Bの有底孔63の底には心棒64が植え込まれている。各心棒64を取り囲んで対をなす有底孔63の底間に圧縮コイルばね65が介在させられている。このばね65によって、各ブレーキ片44A、44Bは、半径方向外向きの弾性力で付勢されている。この弾性力に抗して、各ブレーキ片44A、44Bは、上記隙間に相当距離だけ、半径方向外向きに移動自在である。半径方向外向きに移動させられる各ブレーキ片44A、44Bの外面は、ブレーキ孔42の周面に当接させられてこれをばね65の力によって押圧する。各ブレーキ片44A、44Bの外面およびブレーキ孔42の周面間の隙間が皆無となる。これにより、心押台に外部より力が加わっても心押台に微少移動や振動が生じることがない。
【0028】
アンクランプ油圧通路46を通じて、圧力油をピストン本体43Aの後側に作用させると、皿ばね51のばね65力に抗して、ピストン43が前動させられて、ピストン43とともにブレーキパッド44とが前動してブレーキ板21から離隔させられる。これにより、クランプ装置22のクランプ力が解除され、心押台15の移動が自由となる。
【0029】
アンクランプ油圧通路46を開放し、クランプ油圧通路45を通じて、圧力油をピストン本体43Aの後側に作用させると、皿ばね51の力とともに油圧力によってピストン43が後動させられ、ピストン43によってブレーキパッド44が後動させられてブレーキ板21に押圧される。これにより、クランプ装置22のクランプ力が発生し、心押台15がブレーキングされる。
【0030】
上記の通り、ブレーキパッド44が前後動および停止させられる間を通じて、各ブレーキ片44A、44Bが半径方向に移動自在であるため、各ブレーキ片44A、44Bがブレーキ孔42の周面に引っかる等の心配は無く、ブレーキ孔42内を各ブレーキ片44A、44Bはスムースに摺動可能である。
【0031】
上記において、ブレーキパッドは、2分割されているが、これに限定されることなく、3以上に分割されていてもよい。
【0032】
また、ピストンに対しブレーキパッドを取り付ける手段として、ブレーキパッドにねじ孔を設ける代わりに、通常のボルトおよびナットの組み合わせで取り付けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明によるブレーキ装置は、工作機械のベッド上を移動させられる直動体、例えば、心押台、振れ止め装置をブレーキングすることを達成するのに適している。
【符号の説明】
【0034】
11 ベッド
15 心押台
21 ブレーキ板
31 クランプボディ
32 ブレーキ通路
33、34 側壁
42 ブレーキ孔
44 ブレーキパッド
44A、44B ブレーキ片
65 圧縮コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械のベッドに直動体が支持されており、ベッドの直動体移動経路上にこれにそってブレーキ板が固定されており、直動体に、ブレーキ板をクランプするクランプ装置が装備されており、クランプ装置は、クランプボディを有しており、クランプボディは、ブレーキ板を通すブレーキ通路およびブレーキ通路を挟んで相対させられた一対の側壁を有しており、両側壁に円筒状ブレーキ孔がブレーキ通路長さ方向と直交する同一軸線上にそれぞれ形成されており、各ブレーキ孔の内端は、ブレーキ通路に開放されており、ブレーキ孔にブレーキパッドが軸方向摺動自在にはめ入れられており、ブレーキパッドは、周方向に分割されかつ合体させられて円板状をなす複数のブレーキ片よりなり、各ブレーキ片が、弾性手段によって半径方向外向きに付勢されているブレーキング装置。
【請求項2】
ブレーキ孔と同心状にシリンダが形成されており、ブレーキ孔の外端にシリンダの内端が連通させられており、シリンダにピストンがはめ入れられており、各ブレーキ片の外端面にピストンの内端面が当接させられており、各ブレーキ片に、軸方向ねじ孔があけられており、ピストンに貫通ボルト孔が各ブレーキ片のねじ孔と同軸状に形成されており、ボルトが、各ボルト孔に隙間嵌めされかつ対応するブレーキ片のねじ孔にねじ入れられている請求項1に記載のブレーキング装置。
【請求項3】
弾性手段が、隣り合う2つのブレーキ片の分割面間に介在させられている圧縮コイルばねよりなる請求項1または2に記載のブレーキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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