説明

ブレーキ装置付き開閉装置

【課題】開閉体の移動を制動させるためにラック構成体と噛合するピニオンギアを備えるロータリー式ブレーキ装置を用いた場合に、ラック構成体にピニオンギアが噛合したときに生ずる異音の発生をなくす又は抑制できるブレーキ装置付き開閉装置を提供すること。
【解決手段】開閉体である扉体に設けられるロータリー式ブレーキ装置は、扉体に対して不動となっている不動部材に配置されたラック構成体50に噛合するピニオンギアを備え、ラック構成体50は、扉体の開閉移動方向に配置された第1ラック部材70と第2ラック部材71,72により形成され、第2ラック部材71,72は、第1ラック部材70よりもピニオンギアのラック構成体50への噛合開始側の位置に配置され、第1ラック部材70は保持部材51に固定されて保持され、第2ラック部材71,72は第1ラック部材70に向かって移動自在に保持部材51に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉体の移動を制動させるためのブレーキ装置を備えているブレーキ装置付き開閉装置に係り、例えば、開閉体となっている扉体が上方のガイド部材から吊り下げられた上吊り式引戸装置等を含む開閉装置に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、開閉体の移動を制動させるためのブレーキ装置を備えているブレーキ装置付き開閉装置が示されている。開閉体である扉体が上方のガイド部材から吊り下げられた上吊り式引戸装置となっているこの開閉装置では、上記ガイド部材に扉体の上部に取り付けられたローラが転動自在に乗せられ、ガイド部材で案内されるこのローラの転動によって扉体は開閉移動するとともに、扉体に対して不動となっている不動部材にブレーキ装置が取り付けられ、全閉位置に向かって自動閉鎖装置で閉じ移動している扉体が所定位置に達すると、このブレーキ装置によって閉じ移動が制動され、これによって閉じ移動速度が減速されながら扉体が全閉位置に達するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−282758号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術のブレーキ装置はシリンダ式のものであるが、開閉装置に適用できるブレーキ装置には、ロータリー式のものがある。このロータリー式ブレーキ装置は、ピニオンギアを備えていて、このピニオンギアが、扉体の開閉移動方向の長さを有するラック構成体と噛合して回転することにより、例えば、粘性流体の粘性力で制動力が生ずるものであり、このロータリー式ブレーキ装置を上記引戸装置等の開閉装置に適用する場合には、ロータリー式ブレーキ装置は、扉体と、上記ガイド部材が取り付けられている上記不動部材とのうちの一方に取り付けられ、ラック構成体は他方に取り付けられることになる。
【0005】
このように開閉装置のブレーキ装置をロータリー式ブレーキ装置とした場合には、このロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアを回転させるためのラック構成体を用いることになり、また、ロータリー式ブレーキ装置を開閉装置に有効に配置するために、扉体を上記ガイド部材に沿って開閉移動させるための上記ローラの回転中心軸と、ロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアの回転中心軸とを平行又は略平行とすると、ローラと、ピニオンギアに噛合するラック構成体とが近接配置することになるため、これらのローラとラック構成体との位置関係を適正に設定し、ローラとラック構成体とが干渉しないようにすることが求められる。
【0006】
本発明の目的は、開閉体をガイド部材に沿って開閉移動させるローラと、ロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアを回転させるラック構成体との干渉をなくすことができるようになるブレーキ装置付き開閉装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るブレーキ装置付き開閉装置は、ガイド部材で案内されるローラの転動によって開閉移動する開閉体と、この開閉体の移動を制動させるブレーキ装置とを備えているブレーキ装置付き開閉装置において、前記ブレーキ装置は、前記ローラの回転中心軸と平行又は略平行となっている回転中心軸を有するピニオンギアを備えていて、このピニオンギアが、前記開閉体の開閉移動方向の長さを有するラック構成体と噛合して回転することで制動力が生ずるロータリー式ブレーキ装置であり、このロータリー式ブレーキ装置は、前記開閉体と、この開閉体に対して不動となっていて前記ガイド部材が取り付けられている不動部材とのうちの一方に取り付けられ、前記ラック構成体は他方に取り付けられ、かつ前記ローラの配置位置と前記ラック構成体の配置位置とが、前記ローラ及び前記ピニオンギアの前記回転中心軸の軸方向にずれていることを特徴とするものである。
【0008】
このブレーキ装置付き開閉装置では、ローラの配置位置とラック構成体の配置位置とが、ローラ及びピニオンギアの回転中心軸の軸方向にずれているため、ローラとラック構成体とを、ローラ及びピニオンギアの回転中心軸の軸方向に遠ざけることができ、このため、ラック構成体とローラが干渉することはなく、このローラが案内されるガイド部材に沿って開閉体を開閉移動させることができる。
【0009】
このブレーキ装置付き開閉装置において、ローラの配置位置とラック構成体の配置位置とが、ローラ及びピニオンギアの回転中心軸の軸方向にずれていれば、ローラの回転中心軸とピニオンギアの回転中心軸との位置関係は任意であり、例えば、ローラの回転中心軸に対してピニオンギアの回転中心軸を、ピニオンギアにおけるラック構成体が噛合する箇所の側へずらしてもよい。
【0010】
すなわち、ピニオンギアの回転中心軸の軸方向が水平又は略水平方向であって、ピニオンギアにおけるラック構成体が噛合する箇所がピニオンギアの上端である場合には、ローラの回転中心軸に対してピニオンギアの回転中心軸を上側へずらしてもよく、ピニオンギアにおけるラック構成体が噛合する箇所がピニオンギアの下端である場合には、ローラの回転中心軸に対してピニオンギアの回転中心軸を下側へずらしてもよく、また、ピニオンギアの回転中心軸の軸方向が上下方向であって、ピニオンギアにおけるラック構成体が噛合する箇所がピニオンギアの右端である場合には、ローラの回転中心軸に対してピニオンギアの回転中心軸を右側へずらしてもよく、ピニオンギアにおけるラック構成体が噛合する箇所がピニオンギアの左端である場合には、ローラの回転中心軸に対してピニオンギアの回転中心軸を左側へずらしてもよい。
【0011】
これによると、ローラと、ピニオンギアが噛合するラック構成体とは、ピニオンギアにおけるラック構成体が噛合する箇所の側へ離れることになるため、これらのローラとラック構成体とが干渉することを一層有効になくすことができる。
【0012】
また、ラック構成体を保持部材によって保持させ、この保持部材を前記不動部材又は前記開閉体に取り付けてもよい。
【0013】
また、ラック構成体を、前記不動部材に取り付けられた保持部材によって保持させる場合には、この保持部材と、不動部材に取り付けられた前記ガイド部材とを互いに係合させて連結することが好ましい。
【0014】
これによると、保持部材で保持されたラック構成体と、ローラが転動する前記ガイド部材との位置関係を、保持部材とガイド部材とを互いに係合させない場合よりも正確に設定できることになり、これにより、上記ローラを備えた開閉体に取り付けられているロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアと、このピニオンギアが噛合するラック構成体との位置関係も正確に設定されるため、ラック構成体とピニオンギアとの噛合をより確実なものにできる。
【0015】
このように、保持部材とガイド部材とを互いに係合させて連結する場合には、この係合連結部の構造は、ガイド部材に対して保持部材を開閉体の開閉移動方向に不動に連結するものでもよく、ガイド部材に対して保持部材を開閉体の開閉移動方向に移動可能に連結し、ガイド部材に対して保持部材を開閉体の開閉移動方向に移動させた後に、保持部材を前記不動部材に結合できるようにするものでもよい。
【0016】
後者によると、ガイド部材に対して保持部材を開閉体の開閉移動方向に移動させることにより、ロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアが、保持部材に保持されているラック構成体に噛合し始める位置を開閉体の開閉移動方向に調整することができるようになり、これにより、ロータリー式ブレーキ装置によって開閉体に生ずる制動力の発生開始箇所を任意に定めることができる。
【0017】
さらに、上述したようにラック構成体とガイド部材との位置関係をより正確に設定するためには、ガイド部材と保持部材とをそれぞれ別の部材として形成するのではなく、保持部材をガイド部材の一部として形成してもよい。すなわち、ガイド部材を、このガイド部材の一部に保持部材に相当する部分が設けられたものとして形成することにより、ガイド部材と保持部材とを一体としてもよい。このような部材は、例えば、押し出し成形や引き抜き成形等によって形成することができ、これらの押し出し成形や引き抜き成形等では、保持部材に相当する部分はガイド部材の全長に渡る長さとなるため、この長さのうち、不要な部分を後加工によって切除してもよく、この切除を行わず、この長さのうち、所定部分のみにラック構成体を配置してもよい。
【0018】
また、前述のようにラック構成体を保持部材に保持させる場合には、ラック構成体の全体を保持部材に固定させて保持させてもよく、あるいは、ラック構成体を、第1ラック部材と、この第1ラック部材よりもピニオンギアのラック構成体への噛合開始側の位置に配置された第2ラック部材とを含んで形成し、第1ラック部材を保持部材に固定させて保持されるとともに、第2ラック部材を、第1ラック部材に向かって移動自在に保持部材に保持させてもよい。
【0019】
後者によると、ラック構成体へのロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアの噛合は第2ラック部材から始まることになり、この第2ラック部材は、第1ラック部材に向かって移動自在に保持部材に保持されているため、ピニオンギアが噛合したときの衝撃力の全部又は一部を、第2ラック部材が第1ラック部材に向かって移動する力に変換できるようになり、これにより、ピニオンギアがラック構成体に噛合したときに生ずる異音の発生をなくす又は抑制することができる。
【0020】
また、このようにピニオンギアが噛合したときの衝撃力の全部又は一部を、第2ラック部材が第1ラック部材に向かって移動する力に変換できるようにする場合には、この変換を一層有効に行えるようにするために、第2ラック部材が第1ラック部材に向かって移動したときに、第2ラック部材と保持部材との間で生ずる摩擦力等による抵抗力が第2ラック部材に作用するようにしてもよく、あるいは、第1ラック部材と第2ラック部材との間にばねやゴム等による弾性部材を介設し、この弾性部材を弾性圧縮変形させながら第2ラック部材が第1ラック部材に向かって移動するようにしてもよい。
【0021】
さらに、以上のように、ラック構成体を、第1ラック部材と、この第1ラック部材よりもピニオンギアのラック構成体への噛合開始側の位置に配置され、第1ラック部材に向かって移動自在となった第2ラック部材とを含んで形成する場合には、第1ラック部材に対して開閉体の開閉移動方向の側に配置される第2ラック部材は、第1ラック部材の片側だけ、例えば、第1ラック部材に対して開閉体の開き移動側だけに配置してもよく、第1ラック部材の両側に配置してもよい。
【0022】
また、前述のロータリー式ブレーキ装置を開閉体に取り付け、ラック構成体を前述の不動部材に取り付ける場合には、ロータリー式ブレーキ装置の個数を開閉体の開閉移動方向に2個とし、これらのロータリー式ブレーキ装置のうちの一方のロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアが、開閉体が全閉位置に向かって移動しているときにラック構成体に噛合し始め、他方のロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアが、開閉体が全開位置に向かって移動しているときにラック構成体に噛合し始めるようにしてもよい。
【0023】
これによると、2個のロータリー式ブレーキ装置により、開閉体が全閉位置に達するときと全開位置に達するときの両方において開閉体に制動力を付与することができ、また、これらのロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアを同じラック構成体によって回転させることができ、ロータリー式ブレーキ装置の個数を2個としても、これらのロータリー式ブレーキ装置のためのラック構成体を共通化することができる。
【0024】
また、本発明において、ロータリー式ブレーキ装置を開閉体に取り付ける場合には、この開閉体に取り付けられているローラと、ロータリー式ブレーキ装置との取付位置関係を任意に設定することができ、その一例は、ローラを開閉体にブラケットを介して取り付ける場合に、このブラケットにロータリー式ブレーキを取り付けることである。
【0025】
これによると、ローラを開閉体に取り付けているブラケットがロータリー式ブレーキ装置を開閉体に取り付けるための部材ともなるため、部材の兼用化によって開閉装置全体の構造を簡単化することができる。
【0026】
さらに本発明は、全開位置に達した開閉体を収納する戸袋を備えた開閉装置と、このような戸袋を備えない開閉装置との両方に適用できる。本発明を、全開位置に達した開閉体を収納する戸袋を備えた開閉装置に適用する場合には、この戸袋から外れた位置に、全開位置に開閉体を停止させるためのストップ部材を配置することが好ましい。
【0027】
これによると、ストップ部材は戸袋の内部に配置されず、戸袋から露出した位置に配置されるため、ストップ部材を戸袋の内部に配置した場合よりも、ストップ部材についての保守、点検作業等を容易に行える。
【0028】
なお、上記戸袋の形式は任意であり、この戸袋は、例えば、外部から視認できる外部露出式の戸袋でもよく、壁の内部に収納された壁収納式の戸袋でもよい。そして、これらの戸袋は、戸袋の内部に収納された開閉体の厚さ方向両側を覆う部分を有している両面式の戸袋でもよく、開閉体の厚さ方向片側のみを覆う部分を有している片面式戸袋でもよい。戸袋がこの片面戸袋である場合には、戸袋から外れた位置に配置される上記ストップ部材は、片面となっている戸袋の側におけるこの戸袋から外れた位置に設けてもよく、戸袋と反対側における開閉体の開閉移動範囲の任意な位置に設けてもよい。また、戸袋が両面戸袋である場合には、上記ストップ部材は、その両面側のうちの一方又は両方において、戸袋から外れた位置に設けることになる。
【0029】
また、本発明は任意な開閉装置に適用することができ、その一例は、開閉体が扉体となっている引戸装置である。そして、この引戸装置は、扉体の上方に配置された前記ガイド部材に前記ローラが乗っていてこのガイド部材から扉体が吊り下げられた上吊り式引戸装置でもよく、下側に配設されたガイドレール等のガイド部材に案内されて扉体が移動する引戸装置でもよく、下側と上側の両方に配設されたガイドレール等のガイド部材に案内されて扉体が移動する引戸装置等でもよい。
【0030】
また、この引戸装置は、扉体の開き移動と閉じ移動のうちの少なくとも一方が自動閉鎖装置によって行われるものでもよく、扉体の開き移動と閉じ移動の両方が手動操作で行われるものでもよい。
【0031】
さらに、扉体の個数は1個でもよく、複数個でもよい。扉体の個数が複数個である場合には、これらの扉体の配置位置は、これらの扉体の厚さ方向にずれていてもよく、これらの扉体の厚さ方向にずれていなくてもよい。さらに、これらの扉体の開閉移動方向は、同じ方向でもよく、反対方向でもよい。そして、上記複数個の扉体の開閉移動方向を同じ方向とする場合には、これらの扉体を、外側扉体と、この外側扉体の内部に入れ子式に収納される内側扉体としてよい。
【0032】
また、扉体の個数が複数個の場合であって、任意の扉体に他の扉体の開閉移動を案内するための他の扉体用ガイド部材を設ける場合には、前述した「不動部材」を、この他の扉体用ガイド部材を設けた上記任意の扉体とし、前述した「ガイド部材」をこの他の扉体用ガイド部材としてよい。さらに、扉体の個数が1個又は複数個の場合において、上記「不動部材」を上記戸袋としてもよい。
【0033】
また、ガイド部材で案内される扉体の開閉移動形態は任意である。すなわち、扉体を案内するガイド部材は、扉体を直線的に案内するものでもよく、曲線的に案内するものでもよく、さらに、例えば、扉体を建物躯体等に近づけながら全閉とさせるために、ガイド部材は、扉体を扉体の厚さ方向に略平行移動させながら扉体の幅方向(扉体の開閉移動方向)に移動させるものでもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によると、開閉体をガイド部材に沿って開閉移動させるローラと、ロータリー式ブレーキ装置のピニオンギアを回転させるラック構成体との干渉をなくすことができるという効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ装置付き開閉装置となっている上吊り式の引戸装置の全体を示す正面図である。
【図2】図2は、図1のS2−S2線断面図である。
【図3】図3は、図2の要部拡大図である。
【図4】図4は、図1で示されている上枠部材の内部空間に収納配置されている扉体移動機構を、点検カバーを取り外して示した正面図である。
【図5】図5は、図4の要部拡大図である。
【図6】図6は、扉体が全開位置に達しているときに、この扉体がストップ部材によって全開位置に停止しているときを示す平面図である。
【図7】図7は、保持部材に保持されているラック構成体の具体的構造を示す正面図である。
【図8】図8は、扉体の全閉時におけるこの扉体と戸先側の竪枠部材とを示す平面図である。
【図9】図9は、保持部材がガイドレールの一部となって形成されている実施形態を示す図3と同様の図である。
【図10】図10は、扉体に2個のロータリー式ブレーキ装置が取り付けられた実施形態を示す図であって、扉体が全閉位置に達しているときを示す図4と同様の図である。
【図11】図11は、扉体に2個のロータリー式ブレーキ装置が取り付けられた実施形態を示す図であって、扉体が全開位置に達しているときを示す図4と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。本実施形態に係る開閉装置は、開閉体がスライド移動する1個の扉体となっている引戸装置であって、この扉体が、この扉体の上方に配置されたガイド部材であるガイドレールから吊り下げられかつこのガイドレールに案内されて開閉移動を行う上吊り式の引戸装置であり、また、この引戸装置は、扉体を収納する戸袋を有するものであって、この戸袋は、壁の内部に収納された壁収納式の戸袋である。
【0037】
図1は、例えば、建物内における廊下と部屋との間に配置され、扉体1で開閉される開閉空間が出入口2となっているこの上吊り式の引戸装置の全体を示す正面図である。この引戸装置の外枠組みは、上枠部材10と、扉体1が全閉位置に達して出入口2を閉じたときにこの扉体1の先端が当接する戸先側の竪枠部材11と、この戸先側の竪枠部材11とは扉体1の移動方向反対側に配置されている戸尻側の竪枠部材12と、これらの竪枠部材11と12の間に配置されているとともに、出入口2を開けたときの扉体1が収納される戸袋3における出入口2の側の端部に配置された竪額縁部材13と、床4における戸袋3の下端に配置された幅木14とにより形成されている。
【0038】
出入口2は、これらの枠部材10〜14で形成された外枠組みの内側の一部の空間となっており、この出入口2は扉体1で開閉され、この出入口2を開けたときの扉体1が収納される戸袋3は、壁5の内部に収納された壁収納式の戸袋である。上枠部材10は、戸先側の竪枠部材11から戸尻側の竪枠部材12まで延びる長さを有し、竪額縁部材13は、戸袋3における出入口2側の見切り部材となっている。
【0039】
戸袋3は、上枠部材10と幅木14の長手方向(図1では左右方向)に連続している補強部材20によって補強された構造となっており、この補強部材20は、扉体1の厚さ方向でもある戸袋3の厚さ方向の両側に設けられているとともに、竪枠部材11,12と竪額縁部材13の長手方向でもある上下方向に複数個配設されている。そして、これらの補強部材20の上下において、上枠部材10と幅木14の長手方向に細長い形状となっている内側壁材が接着テープ等による結合具で補強部材20に結合され、これらの内側壁材の外側に大面積を有する外側壁材が配置され、補強部材20にビスやステープル等の結合具で結合されているこの外側壁材の表面に、クロス等の壁仕上げ材が取り付けられている。このため、これらの内側壁材と外側壁材と壁仕上げ材により、戸袋3の部分の壁5が形成され、戸袋3は、補強部材20が構造材となって壁5の内部に形成されている。
【0040】
なお、図1で示されている上下複数個の補強部材20のうち、上下寸法が大きい補強部材20Aが配置されている壁5の箇所には、手摺り6を設けることができ、この手摺り6は、補強部材20Aに達するビス等の取付具でこの補強部材20Aに取り付けることができる。
【0041】
図2は図1のS2−S2線断面図であり、この図2で示されているように、上枠部材10は、上枠部材10の上側の壁5の下地材21にアンカー部材22を介して結合された上面部10Aと、この上面部10Aにおける上枠部材10の幅方向(図2では左右方向)の一方の端部から垂下した垂下部10Bと、この垂下部10Bの下端から上記幅方向の外側へ延出された壁材見切り部10Cとを有する。また、上面部10Aにおける垂下部10Bとは反対側の幅方向の端部には、僅かに下方へ延びた下方延出部10Dが形成され、この下方延出部10Dの下端には、斜め上方であって、壁材見切り部10Cとは反対側の幅方向外側へ延出した傾斜延出部10Eが設けられている。これらの延出部10D,10Eは、図1で示されている出入口2に対応する箇所だけに設けられている。
【0042】
下方延出部10Dの下方への延出量は小さいため、この下方延出部10Dの下側は、上枠部材10の開口部10Fとなっており、この開口部10Fから、上枠部材10の内部空間に収納配置されている扉体移動機構についての点検及び整備を含む各種の作業を行えるようになっている。
【0043】
通常時の開口部10Fは点検カバー23で塞がれており、この点検カバー23は、上端に斜め下向きに形成され、上枠部材10の傾斜延出部10Eに係止される係止部23Aと、この係止部23Aから鉛直又は略鉛直下向きに延びている正面部23Bと、この正面部23Bの下端から上枠部材10の内側へ水平又は略水平に屈曲している下面部23Cとを有する。開口部10Fを塞いでいるときの点検カバー23は、係止部23Aが上枠部材10の傾斜延出部10Eに係止され、これにより点検カバー23の重量が上枠部材10で支持され、また、図1と図2から分かるように、下面部23Cが、戸先側の竪枠部材11と竪額縁部材13に取り付けられているブラケット24,25にねじ部材26,27で止められている。
【0044】
以上の構造は、図2の要部拡大図である図3にも示されている。
【0045】
前述した扉体移動機構についての点検等の作業を行うために、点検カバー23を取り外して上枠部材10の開口部10Fを開けるときには、ねじ部材26,27を取り外し、これにより、点検カバー23は、上端の係止部23Aを中心に上枠部材10の内外方向に揺動可能となるため、上枠部材10の外側方向へ揺動させることにより、係止部23Aを上枠部材10の傾斜延出部10Eから抜き取る。これにより、点検カバー23が取り外されて上枠部材10の開口部10Fが開けられることになり、また、以上と逆の作業を行うことにより、開口部10Fを点検カバー23で塞ぐことができる。
【0046】
なお、本実施形態では、図3で示されているように、上枠部材10の傾斜延出部10Eには、点検カバー23の係止部23Aがこの傾斜延出部10Eに直接接触することを防止するゴムや合成樹脂等による冠部材28が被せられ、これにより、上枠部材10と点検カバー23の材料である金属同士が直接接触して点検カバー23の取付作業時や取外作業時等において異音が発生することや、上枠部材10及び/又は点検カバー23に傷が生ずること等を防止している。
【0047】
次に、上枠部材10の内部空間に収納配置されている前述の扉体移動機構について説明する。図4は、点検カバー23を取り外して示すこの扉体移動機構の正面図であり、図5は、図4の要部拡大図である。
【0048】
上枠部材10の内部には、この上枠部材10の略全長に渡る長さとなったガイドレール30が、扉体1の上方において配置され、扉体1の直線の開閉移動を案内するガイド部材となっているこのガイドレール30は、図3に示されているように、上下に延びる基端部30Aと、この基端部30Aの下端から扉体1の厚さ方向へ水平又は略水平に延びるアーム部30Bとを有する略L字形状であり、基端部30Aが上枠部材10の前記垂下部10Bにビス等の結合具31で結合されている。扉体1には、この扉体1の上方において、ガイドレール30のアーム部30Bの先端に上向きに形成されたローラ載置部30Cの上に転動自在に乗っているローラ32がブラケット33を介して取り付けられ、これらのローラ32とブラケット33は、図5で示されているとおり、上枠部材10の長手方向である扉体1の開閉移動方向に2個設けられている。このため、扉体1は、この扉体1の上方に配置されたガイドレール30にローラ32が乗っていてガイドレール30から吊り下げられた上吊り式の扉体になっている。
【0049】
また、図2及び図3で示されているように、ブラケット33には、ガイドレール30の下方において扉体1の厚さ方向に延びるローラ脱落防止部材38が取り付けられ、扉体1に予期されない持ち上がり荷重等が作用した際に、ボルト等からなるこのローラ脱落防止部材38がガイドレール30のアーム部30Bの下面に当接することにより、ローラ32がガイドレール30から脱落することが防止されるようになっている。
【0050】
また、図5で示されているように、上枠部材10の内部空間には、扉体1を自動的に閉じ移動させるための渦巻きばね式の自動閉鎖装置34が配置され、この自動閉鎖装置34は、上枠部材10における戸先側の竪枠部材11に近い端部の近傍において、上枠部材10の垂下部10Bやガイドレール30の基端部30Aにビス等の結合具で結合されている。自動閉鎖装置34からは、この自動閉鎖装置34の内部に設けられている渦巻きばね機構に一端が連結された合成樹脂製等の紐状部材35が導出され、この紐状部材35の他端は、上記2個のローラ32のうち、戸先側のローラ32Aを回転自在に支持しているブラケット33Aに連結されている。扉体1の戸先側の端部が戸先側の竪枠部材11に当接していて扉体1が前記出入口2を全閉としているときに、図1で示す把持部36を握った手によって扉体1をガイドレール30に沿って開き移動させると、自動閉鎖装置34から繰り出される紐状部材35により、上記渦巻きばね機構の渦巻きばねにばね力が蓄圧され、把持部36から手を離すと、この蓄圧されたばね力によって扉体1が自動的に全閉位置まで閉じ移動する。このため、本実施形態に係る引戸装置は、自動閉鎖式の引戸装置である。
【0051】
図1で示されているように、扉体1が開閉移動する移動経路における前記竪額縁部材13の配置位置と対応する位置、言い換えると、前述した幅木14における戸先側の竪枠部材11の側の端部には、ガイドローラ39が配置されている。このガイドローラ39は、図2に示されているように、下方に向かって開口している扉体1の下端部に挿入され、扉体1のガイドレール30で案内される開閉移動は、扉体1の下端部がガイドローラ39で案内されながら行われる。
【0052】
また、図5で示されているように、扉体1の上部にはロータリー式ブレーキ装置40が配置され、このブレーキ装置40は、上記2個のローラ32のうち、戸先側のローラ32Aを回転自在に支持しているブラケット33Aに取り付けられている。すなわち、本実施形態では、このブラケット33Aは、扉体1にローラ32Aとブレーキ装置40の両方を取り付けるための部材となっており、部材の兼用化が図られている。
【0053】
ロータリー式ブレーキ装置40は、図3で示されているとおり、ラック構成体50に噛合するピニオンギア41を有し、このピニオンギア41の回転中心軸42は扉体1の厚さ方向に延びているとともに、この回転中心軸42の軸方向は水平又は略水平方向となっており、また、ガイドレール30に沿って扉体1を開閉移動させるための上記ローラ32の回転中心軸37も扉体1の厚さ方向に延びているとともに、この回転中心軸37の軸方向も水平又は略水平方向となっており、このため、これらの回転中心軸42と37は平行又は略平行となっている。
【0054】
ラック構成体50は、前記上枠部材10に取り付けられた保持部材51で保持されており、この保持部材51は、上枠部材10の垂下部10Bにビス等の結合具52で結合されていて、上下方向に延びている基端部51Aと、この基端部51Aの上端から扉体1の厚さ方向へ水平又は略水平に延びているアーム部51Bと、このアーム部51Bの先端部の下面に設けられ、ラック構成体50のベース部50Aを溝53の内部で保持する保持部51Cとを有する。これにより、ラック構成体50は、保持部材51の保持部51Cにおいて、ピニオンギア41が噛合する歯部50Bが下側となって下向きに保持され、扉体1に取り付けられているロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41の上端が、ラック構成体50のこの歯部50Bに噛合している。
【0055】
また、前記ガイドレール30の基端部30Aの上端には係合部30Dが形成され、保持部材51の基端部51Aの下端にも係合部51Dが形成され、これらの係合部30Dと51Dが互いに係合することにより、ガイドレール30と保持部材51が連結されている。
【0056】
以上において、ラック構成体50と保持部材51は扉体1の開閉移動方向への長さを有しているとともに、これらのラック構成体50と保持部材51は、図4及び図5で示されているように、ガイドレール30の全長に渡る長さとなっておらず、ラック構成体50と保持部材51の戸先側の端部の位置は、扉体1の戸先側の端部が戸先側の竪枠部材11に当接したときに、言い換えると、扉体1が全閉位置に達したときに、ピニオンギア41が到達している位置と同じ位置又はこれよりも少し戸先側の位置となっている。また、ラック構成体50と保持部材51の戸尻側の端部の位置は、扉体1の戸先側の端部と戸先側の竪枠部材11との間に人の肩幅と同じ程度の間隔が開いている位置まで扉体1が達しているときに、この扉体1におけるピニオンギア41と同じ位置又は略同じ位置となっている。
【0057】
図2及び図3で示されているロータリー式ブレーキ装置40の本体40Aの内部には、シリコンオイル等の粘性流体が充填され、この粘性流体の内部には、ピニオンギア41に前記回転中心軸42を介して結合されたブレードが収納され、ピニオンギア41が回転すると、このブレードも回転中心軸42を介して回転する。
【0058】
このため、扉体1が、前述した自動閉鎖装置34の渦巻きばね機構の渦巻きばねに蓄圧されたばね力による自動閉鎖力等によって全開位置側から全閉位置側へ閉じ移動し、この閉じ移動の途中において、ピニオンギア41がラック構成体50に噛合し始めたときには、このときからピニオンギア41がラック構成体50によって回転することにより、扉体1には、ロータリー式ブレーキ装置40の上記粘性流体がブレードで撹拌されることで生ずる粘性力の抵抗力による制動力が発生し、これにより、扉体1はロータリー式ブレーキ装置40で制動されて減速しながら全閉位置に達する。
【0059】
なお、前述したように、図1で示した把持部36を握った手によって扉体1を開き移動させる場合にも、ラック構成体50と噛合しているピニオンギア41は回転するが、このピニオンギア41と回転中心軸42との間には一方向クラッチが介設されており、扉体1が全開位置へ向かって移動しているときのピニオンギア41の回転方向については、この一方向クラッチの接続は断絶されるため、扉体1の開き移動を、ロータリー式ブレーキ装置40による制動力を発生させずに小さな力で軽く行うことができる。
【0060】
そして、図3で説明したガイドレール30の基端部30Aの係合部30Dと、保持部材51の基端部51Aの係合部51Dは、共に扉体1の開閉移動方向へ連続して形成されている。したがって、これらの係合部30Dと51Dによって形成されているガイドレール30と保持部材51との連結部は、ガイドレール30に対して保持部材51を扉体1の開閉移動方向に移動可能に連結するものとなっている。このため、前記結合具52で保持部材51を上枠部材10の垂下部10Bに結合する前に、ガイドレール30の基端部30Aの係合部30Dに保持部材51の基端部51Aの係合部51Dを係合させた状態で、保持部材51の位置を、前記結合具31で垂下部10Bに結合されているガイドレール30に対して扉体1の開閉移動方向へ移動させて調整する作業を行うことができ、この調整作業後に保持部材51を結合具52で上枠部材10の垂下部10Bに結合することにより、扉体1にロータリー式ブレーキ装置40による制動力を付与させ始める位置を適切な位置に変更することができるようになっている。
【0061】
図1に示されているとおり、戸尻側の竪枠部材12の下部には、扉体1の開閉移動方向に扉体1と対向している戸当たり部材60が取り付けられている。ゴム等の弾性材料からなるこの戸当たり部材60は、扉体1の開き移動限位置である後退限位置を規定するものであり、扉体1の戸尻側の端部が戸当たり部材60に当接したときに、扉体1は後退限位置、すなわち全開位置に達する。
【0062】
図6で示すように、扉体1の戸先側の端部の近傍には、板ばねで形成されていて、扉体1の戸先側の端部の側へ延びるにしたがって上枠部材10の前記垂下部10Bの側へ近づく係止部材61が取り付けられ、また、垂下部10Bには、ガイドレール30よりも下側において、ストップ部材62が取り付けられている。このストップ部材62には、扉体1の開閉移動方向に離れていて、扉体1に近づくにしたがって互いの間隔が小さくなる2個の傾斜面62A、62Bが形成されており、係止部材61の先端の屈曲部61Aが傾斜面62Aを係止部材61の弾性撓み変形によって乗り越えて、図6で示されているように傾斜面62Bに係止したときに、扉体1は戸当たり部材60で規定される全開位置に達し、2個の上記傾斜面62Aと62Bのうち、扉体1の開き側となっている傾斜面62Bに係止部材61の屈曲部61Aが係止することによる係止作用により、扉体1はこの全開位置に停止する。
【0063】
このため、係止部材61とストップ部材62により、扉体1を全開位置に停止させるための停止装置が形成されている。
【0064】
そして、図1で示した把持部36を握った手で扉体1に閉じ移動力を付与すると、係止部材61の弾性撓み変形によって屈曲部61Aは傾斜面62Bを乗り越え、扉体1は、前述したように、自動閉鎖装置40の渦巻きばね機構の渦巻きばねに蓄圧されたばね力等によって閉じ移動する。
【0065】
本実施形態では、図4及び図5で示されているように、上枠部材10の垂下部10Bに取り付けられているストップ部材62は、前述した戸袋3の前記出入口2側の端部を形成している竪額縁部材13よりも扉体1による全閉位置側に配置されているため、このストップ部材62は、戸袋3の内部ではなく、この戸袋3の外部であって扉体1で開閉される出入口2と対応する箇所に配置されている。このため、前述した点検カバー23を上枠部材10から取り外すことにより、このストップ部材62についての保守、点検作業等を容易に行えるようになっている。
【0066】
また、図6で示されているとおり、係止部材61の基端部は板状のベース部61Bとなっており、このベース部61Bは、案内孔65Aが形成された案内部材65と共にビス等の結合具66で扉体1の上面に結合されている。案内孔65Aは、図1で示されている扉体1の施錠装置67を施錠操作すると、上方へ突出作動する図6のロックバー68を案内するためのものであり、扉体1が全閉位置に達しているときに、上方へ突出作動したロックバー68が、図5で示された戸先側の竪枠部材11に取り付けられているロック部材64に形成されたロック孔に挿入することにより、扉体1は全閉位置に施錠されて停止する。
【0067】
このため、本実施形態では、ストップ部材62と共に扉体1を全開位置に停止させるための上記停止装置を形成している係止部材61を、ロックバー68の上方への突出作動を案内するための案内部材65と共に結合具66によって扉体1に結合した構造となっており、それだけ構造の簡単化が図られている。
【0068】
また、本実施形態では、前述した図1の戸当たり部材60は、戸尻側の竪枠部材12の長手方向である上下方向において、ガイドレール30と同じ高さの箇所又はガイドレール30に近い上部の箇所ではなく、前記床4に近い下部の箇所、例えば、この竪枠部材12の上下中央部よりも下側の箇所に配置されている。このため、扉体1が上枠部材10の内部に配設されたガイドレール30から吊り下げられた上吊りの扉体となっていても、この扉体1が全開位置まで高速で開き移動し、これによって扉体1が大きな力で戸当たり部材60に衝突しても、ガイドレール30に係合している前記ローラ32が配置された扉体1の上部を中心として扉体1が扉体開閉移動方向に大きく振れ運動することをなくすことができる。
【0069】
なお、図1で示すように、前記戸袋3が内部に設けられている前記壁5の部分に、戸袋3の内部を掃除するための掃除用開口部69を設ける場合には、蓋で開閉されるこの掃除用開口部69の範囲内又はこの範囲に近い位置(例えば、掃除用開口部69から手が届く位置)に戸当たり部材60を配置することが好ましい。これによると、掃除用開口部69から挿入した手等によって戸当たり部材60についてのメインテナンス作業等も行えることになる。
【0070】
また、本実施形態では、図3で示されているとおり、ガイドレール30に沿って扉体1を開閉移動させるローラ32の配置位置と、前述したピニオンギア41の配置位置とが、ローラ32及びピニオンギア41の回転中心軸37,42の軸方向において、一致しておらず、これらの回転中心軸37,42の軸方向に距離A分だけずれている。このため、ピニオンギア41が噛合するラック構成体50とローラ32も、ローラ32及びピニオンギア41の回転中心軸37,42に軸方向にずれ、この軸方向にラック構成体50の配置位置とローラ32の配置位置が遠ざかることになり、これにより、ラック構成体50とローラ32が干渉することはなく、このローラ32が案内されるガイドレール30に沿って扉体1を開閉移動させることができる。
【0071】
また、図3で示されているように、ローラ32の回転中心軸37に対してピニオンギア41の回転中心軸42は、ピニオンギア41におけるラック構成体50が噛合する箇所である上端と同じ側である上側へ距離B分だけずれている。
【0072】
このため、ピニオンギア41が噛合するラック構成体50は、ローラ32に対して上側へその分だけ離れることになり、これにより、これらのローラ32とラック構成体50とが干渉することを一層有効になくすことができる。
【0073】
また、本実施形態では、前述したように、不動部材となっている上枠部材10の垂下部10Bに取り付けられているガイドレール30と、同じく上枠部材10の垂下部10Bに取り付けられ、ラック構成体50を保持している保持部材51とは、前述した係合部30Dと51Dで互いに係合して上下方向に位置決め状態で連結されているため、保持部材51で保持されたラック構成体50と、ローラ32が転動するガイドレール30との上下の位置関係を、保持部材51とガイドレール30とを互いに係合させない場合よりも正確に設定でき、これにより、ガイドレール30の上に乗っているローラ32を備えた扉体1に取り付けられているロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41と、このピニオンギア41が噛合するラック構成体50との上下の位置関係も正確に設定でき、ラック構成体50とピニオンギア41をより確実に噛合させることができる。
【0074】
さらに、本実施形態では、ロータリー式ブレーキ装置40を、2個の前記ブラケット33のうち、前記戸袋3から遠い位置において扉体1に設けられたブラケット33Aに取り付けたため、扉体1の全閉時において、このロータリー式ブレーキ装置40を戸袋3から外れた位置とすることができ、また、このロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41が噛合するラック構成体50と、このラック構成体50を保持する保持部材51も戸袋3から外れた位置に配置することができるため、これらのロータリー式ブレーキ装置40、ラック構成体50、保持部材51についての点検、保守作業等を容易に行える。
【0075】
図7は、保持部材51に保持されているラック構成体50の具体的構造を示す正面図である。ラック構成体50は、保持部材51の全長に近い大きな長さを有する第1ラック部材70と、この第1ラック部材70よりも長さが短くて、第1ラック部材70よりも扉体1の全開位置側の位置に、言い換えると、扉体1が全開位置側から全閉位置側へ移動している場合に、第1ラック部材70よりもピニオンギア41のラック構成体50への噛合開始側の位置に配置された第2ラック部材71とを含んで形成されている。第1ラック部材70は、図3で説明した保持部材51の保持部51Cのカシメ加工等で保持部材51に固定されており、第2ラック部材71は、第1ラック部材70に向かって移動自在に保持部材51に保持されている。そして、保持部51Cにおける扉体1の全開位置側の端部は、カシメ加工等によって閉鎖状態となっているため、この端部からの第2ラック部材71の抜け出しは防止されている。
【0076】
このように第2ラック部材71は、第1ラック部材70に向かって移動自在に保持部材51に保持されているため、扉体1が全開位置側から全閉位置側へ移動し、この移動途中において、ロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41がラック構成体50に噛合し始めることは、ピニオンギア41が第2ラック部材71に噛合することであって、この噛合は、第2ラック部材71が第1ラック部材70側へ移動しながら行われるため、ピニオンギア41がラック構成体50に噛合したときの衝撃力の全部又は一部は、第2ラック部材71が第1ラック部材70に向かって移動する力に変換され、このため、ピニオンギア41がラック構成体50に噛合したときに生ずる異音の発生をなくす又は抑制することができる。
【0077】
なお、扉体1が全開位置側から全閉位置側へ移動したときには、その前に扉体1が全閉位置側から全開位置側へ移動しており、この移動時において、ピニオンギア41がラック構成体50を構成している第2ラック部材71と噛合することによる摩擦力によって第2ラック部材71がピニオンギア41に追随することにより、この第2ラック部材71は、第1ラック部材70に当接している位置から扉体1の全開位置側へ移動しているため、第2ラック部材71は、第1ラック部材70から離れた位置に達している。
【0078】
また、本実施形態では、保持部材51に固定されて保持された第1ラック部材70に対して移動自在となっている第2ラック部材72が、第1ラック部材70よりも扉体1の全閉位置側にも配置されている。そして、保持部51Cにおける扉体1の全閉位置側の端部は、上述の第2ラック部材71の場合と同様に、カシメ加工等によって閉鎖状態となっているため、この端部からの第2ラック部材72の抜け出しは防止されている。
【0079】
このように本実施形態では、第1ラック部材70の両側、すなわち、第1ラック部材70に対して扉体1の開閉移動方向の両側に第2ラック部材71,72が配置されているため、図1で示されている上枠部材10とは左右勝手違いの上枠部材(点検カバー23が図3と同じ側に配置されていて、図1において、戸袋3が出入口2の左側に配置される上枠部材)についても、ラック構成体50と保持部材51を共通して用いることができるようになっている。また、図8で示す扉体1の戸先側の端部部材1Aが、扉体1の開閉移動方向の長さ寸法Cが異なる部材に変更されたり、戸先側の竪枠部材11が、全閉時の扉体1の戸先側の端部部材1Aが当接する溝11Aの深さ寸法Dが異なる部材に変更されても、第1ラック部材70の両側に移動自在に配置された第2ラック部材71,72により、これらの寸法変更に有効に対処できるようになっている。
【0080】
言い換えると、扉体1が全閉位置に達する前に、ロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41がラック構成体50を通過し終わってしまったとしても、扉体1を開き移動させる場合に、第2ラック部材71は第1ラック部材70に向かって移動自在となっているため、ピニオンギヤ41がラック構成体50に噛合するときに、異音が発生することをなくす又は抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態では、図7で示されているとおり、第2ラック部材71,72の形状は、これらの第2ラック部材71,72についての前記ピニオンギア41側へ延びる上下方向の寸法が、第1ラック部材70に近づくにしたがってピニオンギア41に近づく寸法となっているテーパー形状になっているため、第2ラック部材71,72におけるピニオンギア41のラック構成体50への噛合開始がスムーズに行われるようになっている。また、金属や硬質樹脂等の硬質材料で形成される第1ラック部材70に対し、第2ラック部材71,72を軟質合成樹脂やゴム等の弾性を有する材料で形成することにより、第2ラック部材71,72におけるピニオンギア41のラック構成体50への噛合開始時に異音等が一層有効に発生せず又は異音の発生を一層有効に抑制することができ、スムーズにピニオンギア41をラック構成体に噛合させることができるようになる。
【0082】
さらに、本実施形態では、図2及び図3で示されているように、前述したブラケット33にはローラ脱落防止部材38が取り付けられているため、前述した保持部材51の全開位置側と全閉位置側の両方の端部がカシメ加工等によって閉鎖状態となった閉鎖部となっていても、第2ラック部材71が達することのないこの閉鎖部の位置にピニオンギヤ41が達しているときに、扉体1に予期されない持ち上がり荷重等が作用した場合に、ローラ脱落防止部材38がガイドレール30のアーム部30Bの下面に当接することにより、ピニオンギア41が、第2ラック部材71よりも上側において保持部材51に形成されている上記閉鎖部に当接することを防止できる。
【0083】
図9は、扉体1の開閉移動を案内するガイドレールと、ラック構成体を保持する保持部材との関係についての別実施形態を示す。この実施形態でも、ガイドレール130は、上枠部材10の垂下部10Bに結合具31で結合された基端部130Aと、この基端部130Aの下端から扉体1の厚さ方向に延びるアーム部130Bと、このアーム部130Bの先端に上向きに形成されたローラ載置部130Cとからなるとともに、基端部130Aは、前記実施形態のガイドレール30の基端部30Aよりも上方へ延長されており、この延長部分は、保持部材151における上枠部材10の垂下部10Bに結合された基端部151Aとなっており、この基端部151Aの上端から扉体1の厚さ方向に延びているアーム部151Bの先端部の下面に、ラック構成体50を保持する保持部151Cが設けられている。
【0084】
このため、この実施形態では、保持部材151は、ガイドレール130の一部となって形成されており、ガイドレール130の上部に保持部材151が設けられている。このようにガイドレール130と保持部材151とが一体となった部材は、例えば、押し出し成形や引き抜き成形等によって形成できる。これらの押し出し成形や引き抜き成形等では、保持部材151に相当する部分はガイドレール130の全長に渡る長さとなるため、この長さのうち、不要な部分を後加工によって切除してもよく、この切除を行わず、この長さのうち、所定部分のみにラック構成体50を配置してもよい。
【0085】
また、この実施形態によると、ガイドレール130と保持部材151とが一体となっているため、ガイドレール30と保持部材51とを係合部30D,51Dで係合連結させた前記実施形態と同じく、保持部材151で保持されたラック構成体50と、扉体1のローラ32が転動するガイドレール130との上下の位置関係を正確に設定でき、これにより、ガイドレール130の上に乗っているローラ32を備えた扉体1に取り付けられているロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41と、このピニオンギア41が噛合するラック構成体50との上下の位置関係も正確に設定でき、ラック構成体50とピニオンギア41をより確実に噛合させることができる。
【0086】
なお、この実施形態でも、図7で説明したラック構成体についての構造を採用することができる。
【0087】
図10及び図11で示す実施形態では、扉体1の2個のローラ32が配置されているそれぞれのブラケット33に、すなわち戸先側のブラケット33Aと戸尻側のブラケット33Bにロータリー式ブレーキ装置40が取り付けられている。また、この実施形態では、ラック構成体50と、このラック構成体50を保持している保持部材51は、扉体1の開閉移動方向の中央位置又は略中央位置において、言い換えると、戸先側の竪枠部材11と戸尻側の竪枠部材12との間の中央位置又は略中央位置において、上枠部材10の垂下部10Bに結合されている。
【0088】
この実施形態では、2個のロータリー式ブレーキ装置40のうち、戸尻側のブラケット33Bに取り付けられたロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41は、扉体1が全閉位置に向かって移動してこの全閉位置に近づいたときにラック構成体50に噛合し始める。また、戸先側のブラケット33Aに取り付けられたロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41は、扉体1が全開位置に向かって移動してこの全開位置に近づいたときにラック構成体50に噛合し始める。図10は、扉体1が全閉位置に達したときを示し、図11は、扉体1が全開位置に達したときを示している。
【0089】
このため、この実施形態によると、2個のロータリー式ブレーキ装置40により、扉体1が全閉位置に達するときと全開位置に達するときの両方において、扉体1に制動力を付与することができる。また、これらのロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41を回転させるためのラック構成体50を共通化することができ、1個のラック構成体51によって2個のロータリー式ブレーキ装置40を作動させることができる。
【0090】
なお、扉体1が、図11の全開位置から全閉位置に向かって移動し始めたときには、戸先側のロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41がラック構成体50によって回転し、また、扉体1が、図10の全閉位置から全開位置に向かって移動し始めたときには、戸尻側のロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41がラック構成体50によって回転するが、それぞれのロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41と前述した回転中心軸42との間には一方向クラッチが介設されており、扉体1が、図11の全開位置から全閉位置に向かって移動し始めたときにおける戸先側のロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41の回転方向については、この戸先側のロータリー式ブレーキ装置40の一方向クラッチの接続は断絶され、扉体1が、図10の全閉位置から全開位置に向かって移動し始めたときにおける戸尻側のロータリー式ブレーキ装置40のピニオンギア41の回転方向については、この戸尻側のロータリー式ブレーキ装置40の一方向クラッチの接続は断絶されるため、これらの扉体1の上記移動し始めを、2個のロータリー式ブレーキ装置40に制動力を発生させずに行わせることができる。
【0091】
なお、この実施形態でも、図7で説明したラック構成体についての構造を採用することができ、また、図9で説明したガイドレールと保持部材との関係の構造を採用することができる。
【0092】
また、この実施形態でも、図10及び図11に示されているように、扉体1に取り付けられた係止部材61と共に扉体1を全開位置に停止させるための停止装置を形成しているストップ部材62は、戸袋3から外れた位置において、上枠部材10の垂下部10Bに取り付けられている。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、開閉体の移動を制動させるためのブレーキ装置としてロータリー式ブレーキ装置を用いる開閉装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 開閉体である扉体
3 戸袋
10 不動部材である上枠部材
30,130 ガイド部材であるガイドレール
30D 係合部
32 ローラ
33 ブラケット
37 ローラの回転中心軸
40 ロータリー式ブレーキ装置
41 ピニオンギア
42 ピニオンギアの回転中心軸
50 ラック構成体
51,151 保持部材
51D 係合部
62 ストップ部材
70 第1ラック部材
71,72 第2ラック部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイド部材で案内されるローラの転動によって開閉移動する開閉体と、この開閉体の移動を制動させるブレーキ装置とを備えているブレーキ装置付き開閉装置において、
前記ブレーキ装置は、前記ローラの回転中心軸と平行又は略平行となっている回転中心軸を有するピニオンギアを備えていて、このピニオンギアが、前記開閉体の開閉移動方向の長さを有するラック構成体と噛合して回転することで制動力が生ずるロータリー式ブレーキ装置であり、このロータリー式ブレーキ装置は、前記開閉体と、この開閉体に対して不動となっていて前記ガイド部材が取り付けられている不動部材とのうちの一方に取り付けられ、前記ラック構成体は他方に取り付けられており、
前記ラック構成体は、複数のラック部材により形成されていることを特徴とするブレーキ装置付き開閉装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置付き開閉装置において、前記複数のラック部材には、前記開閉体の開閉移動方向に配置された第1ラック部材と第2ラック部材とが含まれていることを特徴とするブレーキ装置付き開閉装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ装置付き開閉装置において、前記第2ラック部材は、前記第1ラック部材よりも前記ピニオンギアの前記ラック構成体への噛合開始側の位置に配置され、前記第1ラック部材は保持部材に固定されて保持され、前記第2ラック部材は、前記第1ラック部材に向かって移動自在に前記保持部材に保持されていることを特徴とするブレーキ装置付き開閉装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のブレーキ装置付き開閉装置において、前記第2ラック部材は、前記第1ラック部材に対して前記開閉体の開閉移動方向両側に2個配置されていることを特徴とするブレーキ装置付き開閉装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載のブレーキ装置付き開閉装置において、前記第2ラック部材の形状は、この第2ラック部材についての前記ピニオンギア側へ延びる寸法が、前記第1ラック部材に近づくにしたがって前記ピニオンギアに近づく寸法となっているテーパー形状になっていることを特徴とするブレーキ装置付き開閉装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載のブレーキ装置付き開閉装置において、前記第1ラック部材は硬質材料で形成されているとともに、前記第2ラック部材は弾性を有する材料で形成されていることを特徴とするブレーキ装置付き開閉装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のブレーキ装置付き開閉装置において、前記ロータリー式ブレーキ装置は前記開閉体の開閉移動方向に2個あることを特徴とするブレーキ装置付き開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−21399(P2012−21399A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241857(P2011−241857)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2006−237216(P2006−237216)の分割
【原出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000239714)文化シヤッター株式会社 (657)
【Fターム(参考)】