説明

ブレード着脱補助治具

【課題】シンプルな構成として破損などのトラブルも生じにくく、安価に製造可能な新規なブレード着脱補助治具を提供する。
【解決手段】切削ブレードが装着される高速回転可能なスピンドルと、該切削ブレードを該スピンドルに固定するための強磁性を有するナットと、を備えた切削装置に用いるブレード着脱補助治具であって、該スピンドルの回転を規制した状態で、該ナットに形成された被係合部と係合して該ナットを回転させるためのナット係合部と、該ナットを磁力によって保持可能な磁石と、を有することを特徴とするブレード着脱補助治具とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を切削加工する切削装置の切削ブレードを着脱するためのブレード着脱補助治具に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイシング装置等の切削装置は、一般的に、半導体ウエーハ等の被加工物を保持するチャックテーブルと、切削用の切削ブレードが装着された切削ユニットとを備えており、高速回転する切削ブレードを被加工物に切り込ませながら双方を相対移動させることによって、被加工物を切削加工する。
【0003】
この切削ユニットは、高速回転可能なスピンドルの一端に、切削ブレードをフランジ等により挟持し、更に固定ナットを締結することにより切削ブレードをスピンドルに装着する構成である。ところで、このような切削ブレードは、消耗または破損により、或いは被加工物の種類や切削加工の内容等に応じて、適宜交換する必要がある。また、切削ブレード交換に伴ってフランジについても交換が必要な場合が生じる。
【0004】
このようなブレード交換時には、スピンドルの回転をロック機構で停止させた状態でナット回転用の治具を固定ナットにはめ、トルクが管理されたトルクドライバ又はトルクレンチで治具を介してナットを締結又は弛緩させ、フランジから切削ブレードを着脱する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
更には、固定ナットとナット回転用の治具との係合を容易に制御することができる構造を備えたブレード着脱補助治具が知られており、このようなブレード着脱補助治具を用いることにより、作業者はスピンドルの回転を停止させたり、固定ナットとナット回転用の治具が外れるのを防ぐための押さえつけの動作が不要となったため、ブレード交換作業は片手で実施可能となる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−235250号公報
【特許文献2】特開2004−281700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されるブレード着脱補助治具では、ナット回転部及びナット把持部が本体部の内部に収容され、ナット把持部を固定位置と解放位置とに切り替える構成であるため、部品点数が多く、また、複雑な構成であるため、製造コストが高いという課題がある。
【0008】
また、ナット把持部に設けられる係止爪の破損等のトラブルも発生し得るため、トラブルが発生した際にはナット保持部を交換する必要が生じ、作業工数とコストが掛かるという課題がある。
【0009】
さらに、オペレータは、ナット把持部を移動させる操作が必要となるため、ブレード着脱補助治具を使用する際の作業が煩雑になるという課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、シンプルな構成として破損などのトラブルも生じにくく、安価に製造可能な新規なブレード着脱補助治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、切削ブレードが装着される高速回転可能なスピンドルと、該切削ブレードを該スピンドルに固定するための強磁性を有するナットと、を備えた切削装置に用いるブレード着脱補助治具であって、該スピンドルの回転を規制した状態で、該ナットに形成された被係合部と係合して該ナットを回転させるためのナット係合部と、該ナットを磁力によって保持可能な磁石と、を有することを特徴とするブレード着脱補助治具が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、構成がシンプルであり、破損などのトラブルも生じにくく、安価に製造可能である。また、オペレータにおいては、ナットの取り外し、装着の作業の際に、ブレード着脱補助治具からナットを脱落させてしまう心配もなく、更に、従来構成と比較しても工数が増えることがないため、良好な作業性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】切削装置の外観斜視図である。
【図2】切削ユニットの斜視図である。
【図3】スピンドルとスピンドルに固定されるべきブレードマウントとの関係を示す分解斜視図である。
【図4】ブレードマウントが固定されたスピンドルとハブブレードとの関係を示す分解斜視図である。
【図5】切削ユニットの縦断面図である。
【図6】本発明実施形態に係るブレード着脱補助治具の斜視図である。
【図7】(A)はブレード着脱補助治具を固定ナットに対向させた状態について示す図である。(B)は、ブレード着脱補助治具を固定ナットに係合させた状態について示す図である。(C)は、固定ナットをブレード着脱補助治具に磁着させた状態について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明のブレード着脱補助治具を使用することのできる切削装置2の斜視図が示されている。切削装置2は、ダイシングテープTを介して環状フレームFに支持されたウエーハWを吸引保持するチャックテーブル6と、チャックテーブル6に保持されたウエーハWを切削加工する切削ユニット4を備えている。
【0015】
図2を参照すると、切削ユニット4の斜視図が示されている。切削ユニット4は、スピンドルハウジング8中に回転可能に収容されたスピンドル10と、スピンドル10の先端に装着された切削ブレード12と、切削ブレード12の上半分をカバーするホイールカバー14と、切削水を切削ブレード12に供給する切削水供給ノズル16とを備えている。
【0016】
切削加工時には、切削ブレード12は矢印A方向に回転される。18は切削ブレード12の着脱時にスピンドル10の回転を停止するための回転停止機構(ロック機構)であり、係合部材がスピンドル10に形成された係合穴に係合することによりスピンドル10の回転をロックする。
【0017】
図3を参照すると、切削ユニット4のスピンドル10と、スピンドル10に装着されるブレードマウント22との関係を示す分解斜視図が示されている。切削ユニット4のスピンドルハウジング8中には、図示しないサーボモータにより回転駆動されるスピンドル10が回転可能に収容されている。スピンドル10は先端部10aを有しており、先端部10aには雌ねじ10bが同軸上に形成されている。
【0018】
22はボス部24と、ボス部24と一体的に形成されたマウントフランジ26とから構成されるブレードマウントであり、ボス部24に雄ねじ28が形成されている。更に、ブレードマウント22は装着穴29を有している。
【0019】
ブレードマウント22は、ボス部24内に形成される装着穴にスピンドル10の先端部10aを挿入させるとともに、ボルト穴部29からボルト31を挿入してスピンドル10の先端の雌ねじ10bに螺合して締め付けることにより、図4に示すようにスピンドル10の先端部に取り付けられる。
【0020】
図4はブレードマウント22が固定されたスピンドル10と、切削ブレード12との装着関係を示す分解斜視図である。切削ブレード12はハブブレードと呼ばれ、円形ハブ34を有する円形基台32の外周にニッケル母材中にダイアモンド砥粒が分散された切刃12aが電着されて構成されている。
【0021】
切削ブレード12の装着穴36をブレードマウント22のボス部24に挿入し、固定ナット38をボス部24の雄ねじ28に螺合して締め付けることにより、切削ブレード12がスピンドル10に取り付けられる。
【0022】
固定ナット38は、円周方向に120度離間した3個の係合穴(被係合部)39を有しており、詳しくは後述するように、ブレード着脱補助治具70(図5)の磁石によって保持されるために、強磁性を有するステンレス等の金属によって構成される。
【0023】
図5を参照すると、切削ユニット4の縦断面図が示されている。40はステータ42及びロータ44からなるサーボモータであり、スピンドル10を回転駆動する。18はロック機構(回転停止機構)であり、スピンドルハウジング8に配設されている。ロック機構18は、スピンドルハウジング8に固定されたシリンダ部56と、シリンダ部56内に移動可能に配設された係止部材58とを含んでいる。
【0024】
係止部材58は、比較的大径で短い頭部58aと、比較的小径で長い胴部58bとからなり、頭部58aの直径はシリンダ部50の内径と略同一となる様に調整されているので、頭部58aの外周面がシリンダ部56の内周面と密接する。
【0025】
このため、頭部58aはその一側と他側との間を気密状態に保ちながらシリンダ部56内をスピンドル10に近づく方向或いは遠ざかる方向に円滑に往復移動できる。このように、係止部材58はシリンダ部56内にピストンとして機能する。
【0026】
コイルばね60が係止部材58の胴部58bに外嵌されてシリンダ部56の内部空間に設置されている。シリンダ部56の内部空間に突出するように突起部56aが形成されており、この突起部56aは係止部材58の頭部58aと当接して、係止部材58がスピンドル10から離れる方向に過度に移動することを制限する。
【0027】
ロック機構18のシリンダ部56の一端には、図示しないエア供給源に接続されるエア供給用ノズル64が装着されている。エア供給用ノズル64には係止部材58を収容しているシリンダ部56の内部空間と連通する連通孔57が形成されている。
【0028】
エア供給用ノズル64及び連通孔57を介して加圧されたエアをシリンダ部56の係止部材58の頭部58a側の内部空間に供給すると、係止部材58がコイルばね60の付勢力に抗して移動して、係止部材58の先端がスピンドル10に形成された係合穴62に係合し、スピンドル10をロックすることができる。係合穴62は、例えばスピンドル10の外周方向に120度離間して3個形成されている。
【0029】
次に、図6、及び、図7(A)〜(C)に示されるブレード着脱補助治具70について説明する。本実施形態のブレード着脱補助治具70は、ステンレス等の金属からなる軸状の本体71を有して構成され、本体71の一側に設けた対向面72を切削ブレード12の固定ナット38に対向させた状態で用いられるものである。
【0030】
対向面72には、固定ナット38の複数箇所に形成された係合穴(被係合部)39に係合するためのナット係合部73,73が突設される。ナット係合部73は棒状に構成されて、係合穴39に挿入されて互いに係合されるようになっている。本実施形態では、固定ナット38の三箇所に係合穴39が設けられるため、これに対応するように、対向面72にはナット係合部73が三箇所に設けられる。
【0031】
対向面72には、固定ナット38を磁力によって保持可能な磁石74,74が設けられる。磁石74,74は、固定ナット38を確実に保持するために、複数箇所に配置されることが好ましい。本実施形態では、各ナット係合部73の間に二箇所に配置することで、円周上に合計六箇所に配置されることし、固定ナット38を複数箇所で確実に保持されるようにしている。
【0032】
磁石74の素材については特に限定されるものではないが、例えば、強い磁性を呈するネオジウムを使用することが考えられる。また、ナット係合部73の長さは、固定ナット38にナット係合部73が係合した際に磁石74が固定ナット38の表面に接触することが可能な長さに設計されることが好ましい。
【0033】
本体71において、対向面72と後端面75を除く外周面には、滑り止めとするための表面加工71a・71bが施されることが好ましい。表面加工71a・71bの形態については特に限定されるものではないが、例えば、細かい凹凸を有する摩擦面で構成することで、オペレータが持った際に滑り難く、また、手で掴んで回転操作をする際にグリップ力が発揮され易い構成とすることが考えられる。
【0034】
次に、以上の構成とするブレード着脱補助治具70を用いた作業について説明する。この作業を実施する前提として、上述したロック機構18により、スピンドル10の回転をロックした状態としておく。図7(A)に示すように、切削ブレード12を交換する場合において、ブレード着脱補助治具70の対向面72を固定ナット38に対向させる。
【0035】
次いで、図7(B)に示すように、固定ナット38の係合穴39の位置を確認しながら、ブレード着脱補助治具70のナット係合部73を係合穴39に挿入させることで、ブレード着脱補助治具70と固定ナット38が係合される。そして、対向面72に設けた磁石74が固定ナット38の表面に接触することで、磁力によって対向面72と固定ナット38が磁着した状態となる。
【0036】
次いで、図7(C)に示すように、ブレード着脱補助治具70を手でしっかりと掴みつつ回転させることで、固定ナット38が緩められる。操作を続けることで固定ナット38がブレードマウント22(雄ねじ28)から外れるが、この際、固定ナット38はブレード着脱補助治具70に磁着されたままとなり、ブレード着脱補助治具70から脱落することがない。
【0037】
固定ナット38を取り外した後、磨耗した切削ブレード12を取り外し、新しい切削ブレード12をセットする。そして、上記の手順と逆の流れによって、固定ナット38を締結することにより、切削ブレード12の交換を行うことができる。なお、この固定ナット38の締結の際には、ブレード着脱補助治具70にトルクレンチなどを装着して、所定のトルクで締結をすることなども考えられる。
【0038】
以上のように、本実施形態では、切削ブレード12が装着される高速回転可能なスピンドル10と、切削ブレード12をスピンドル10に固定するための強磁性を有する固定ナット38と、を備えた切削装置2に用いるブレード着脱補助治具70であって、スピンドル10の回転を規制した状態で、固定ナット38の表面部に形成された係合穴(被係合部)39と係合して固定ナット38を回転させるナット係合部73と、固定ナット38を磁力によって保持可能な磁石74と、を有するブレード着脱補助治具70とするものである。
【0039】
そして、以上のブレード着脱補助治具70の構成によれば、構成がシンプルであり、破損などのトラブルも生じにくく、安価に製造可能である。また、オペレータにおいては、固定ナット38の取り外し、装着の作業の際に、ブレード着脱補助治具70から固定ナット38を脱落させてしまう心配もなく、更に、従来構成と比較しても工数が増えることがないため、良好な作業性を確保できる。
【符号の説明】
【0040】
10 スピンドル
12 切削ブレード
18 ロック機構
22 ブレードマウント
38 固定ナット
39 係合穴
70 ブレード着脱補助治具
71 本体
72 対向面
73 ナット係合部
74 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削ブレードが装着される高速回転可能なスピンドルと、該切削ブレードを該スピンドルに固定するための強磁性を有するナットと、を備えた切削装置に用いるブレード着脱補助治具であって、該スピンドルの回転を規制した状態で、該ナットに形成された被係合部と係合して該ナットを回転させるためのナット係合部と、該ナットを磁力によって保持可能な磁石と、を有することを特徴とするブレード着脱補助治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−86189(P2013−86189A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225704(P2011−225704)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】