説明

プッシャー

【課題】構造がコンパクトで省スペース化が可能であり、シリンダー径を大きくすることなくプッシャー本体が後退する際の駆動力を大きくすることができるプッシャーを提供すること。
【解決手段】対象物を押し出すためのプッシャー本体1と、プッシャー本体1に接続された、プッシャー本体1を前進・後退させるプッシャー本体用シリンダー2と、プッシャー本体用シリンダー2に接続されたプッシャー台車3と、プッシャー台車3に接続された、プッシャー台車3を前進・後退させるとともに、シリンダーの押し出しの向きがプッシャー本体用シリンダー2の押し出しの向きと逆向になるように配置されたプッシャー台車用シリンダー4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を供給または搬送するために対象物を押し出すプッシャーに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、スクラップ等の鉄源の溶解を行なうアーク溶解設備として、スクラップ等の鉄源の供給を連続的に行ない、かつ装入する鉄源を排ガスを用いて予熱するアーク溶解設備が知られている(例えば、特許文献1)。このアーク溶解設備は、鉄源を溶解するための溶解室と、溶解室の上部に直結し、溶解室で発生する排ガスにて鉄源を予熱する予熱室と、溶解室内で鉄源を溶解するためのアーク発生用電極と、予熱室へ鉄源を供給する鉄源供給手段と、溶解室に設けられた出鋼口とを備えている。そして、予熱室の下部には、予備室内の鉄源を溶解室へ供給ないしは搬送するための押し出し装置であるプッシャーが設けられている。
【0003】
この種のプッシャーは、一般的に、押し出し対象である鉄源を押し出すプッシャー本体と、プッシャー本体を駆動するための油圧シリンダー等のシリンダーとを有しており、シリンダーによりプッシャー本体を予備室内に出入りさせることにより鉄源を溶解室へ供給するようになっている。
【0004】
特許文献1に記載のアーク溶解設備では、鉄源が予熱室と溶解室とに連続して存在する状態を保つように鉄源を連続的又は断続的に予熱室へ供給しながら、鉄源が充填された予熱室内にプッシャーを出入りさせて予熱室内の鉄源を溶解室へ供給する。そして、溶解室内の鉄源をアークにて溶解して溶解室に溶鋼が溜まった時点で、プッシャーを停止し、次いで、アークにて溶鋼を加熱して昇温した後、鉄源が予熱室と溶解室とに連続して存在する状態で溶鋼を出鋼する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−257859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示すようなアーク溶解設備に用いるプッシャーにおいては、シリンダーがプッシャー本体を、予備室から退避した退避位置と溶解室近傍の押し出し位置との間で移動させる必要があり、長いストロークが必要である。そのため、シリンダーのシリンダー本体部分が長いものとならざるを得ず、それが予備室の外側に突出して設けられることとなるため、結果的に大きな設置スペースが必要となる。したがって、プッシャーをコンパクトなものとして省スペース化することが望まれる。
【0007】
また、特許文献1に示されているようなプッシャーにおいては、押し出し対象である鉄源は、通常、スクラップ等の不定形のものから構成されているため、プッシャー本体を炉内向き(前進:押し側)に動かして鉄源を装入する際にプッシャー本体と床面との間の隙間に鉄源がはさまって詰まり、プッシャー本体が駆動できなくなるという事態が発生することがある。このようなプッシャー本体の拘束が発生した場合には、プッシャー本体を炉外向き(後退:引き側)に戻す操作を行なうことになるが、一般に、シリンダー機構はシリンダーのボア径(シリンダー径)とロッド径との関係から、押し側の力より引き側の力が小さくなるため、拘束の程度によってはプッシャー本体を戻せなくなる事態が発生する。プッシャーの駆動力を高めることで上記の拘束の発生に対処することが可能であるが、そのためには、通常、シリンダーのボア径(シリンダー径)を大きくする必要があり、本来、押し出し力によって決定されるシリンダー径を、必要以上に大きくせざるを得ず、コンパクト化、省スペース化の要請に反する結果となる。
【0008】
このようなコンパクト化ないし省スペース化、およびシリンダー径を大きくすることなくプッシャー本体が後退する際の駆動力を大きくすることは、アーク溶解設備に用いるプッシャーに限らず、他の用途に用いるプッシャーにおいても少なからず要求されることである。
【0009】
よって、本発明は、構造がコンパクトで省スペース化が可能であり、シリンダー径を大きくすることなくプッシャー本体が後退する際の駆動力を大きくすることができるプッシャーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の(1)〜(7)を提供する。
(1)対象物を押し出すためのプッシャー本体と、
前記プッシャー本体に接続された、前記プッシャー本体を前進・後退させるプッシャー本体用シリンダーと、
前記プッシャー本体用シリンダーに接続されたプッシャー台車と、
前記プッシャー台車に接続された、前記プッシャー台車を前進・後退させるとともに、シリンダーの押し出しの向きが前記プッシャー本体用シリンダーの押し出しの向きと逆向になるように配置されたプッシャー台車用シリンダーと
を備えることを特徴とするプッシャー。
(2)前記プッシャー台車は、前記プッシャー本体用シリンダーのシリンダー本体に接続され、かつ前記プッシャー台車用シリンダーのロッドに接続されていることを特徴とする(1)に記載のプッシャー。
(3)前記プッシャー台車は、プッシャー本体が前進・後退する方向と平行に移動可能となるように設けられていることを特徴とする(1)または(2)に記載のプッシャー。
(4)前記プッシャー台車と前記プッシャー本体とを一体に支持するフレームをさらに備えることを特徴とする(3)に記載のプッシャー。
(5)前記プッシャー台車をガイドするガイド部材をさらに備えることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のプッシャー。
(6)前記プッシャー本体用シリンダーの少なくとも一部が前記プッシャー本体内に収容されていることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載のプッシャー。
(7)前記プッシャー本体は、前記プッシャー本体の移動方向に対する幅方向で少なくとも3分割されていることを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載のプッシャー。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プッシャー本体の必要な移動距離をプッシャー台車に対するプッシャー本体の移動距離と、プッシャー台車の移動距離の合計とすることができ、一つのシリンダーでプッシャー本体の移動距離をまかなう場合に比べて、設置スペースを小さくすることができる。このため、十分なストロークを確保しながら、プッシャーの全体をコンパクトな設計とすることができ、プッシャーを設置するスペースが限られている場合にも設置可能な設計とすることが容易となる。また、プッシャー本体用シリンダーの押し出しの向きとプッシャー台車用シリンダーの押し出しの向きとは逆向きとなるように配置されているので、プッシャー本体が前進する場合も後退する場合も、シリンダー径を大きくすることなく、同程度の力で駆動することが可能である。したがって、プッシャー本体に拘束が生じた場合でも、十分な駆動力でプッシャー本体を後退させることができ、拘束状態からの解除が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るプッシャーを示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面を示す断面図である。
【図3】図1のB−B断面を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るプッシャーを適用したアーク溶解設備を示す部分断面斜視図である。
【図5】図4のアーク溶解設備におけるプッシャーの動作を示す図であり、プッシャー本体が後退限の位置に退避した状態を示す概略図である。
【図6】図4のアーク溶解設備におけるプッシャーの動作を示す図であり、プッシャー本体が押し出し途中の状態を示す概略図である。
【図7】図4のアーク溶解設備におけるプッシャーの動作を示す図であり、プッシャー本体が前進限の状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るプッシャーを示す斜視図であり、図2はそのA−A断面図、図3はそのB−B断面図である。
【0014】
これらの図に示すように、プッシャー10は、対象物を供給または搬送するために対象物を押し出すプッシャー本体1と、プッシャー本体1を駆動するプッシャー本体用シリンダー2と、プッシャー本体用シリンダー2を支持するプッシャー台車3と、プッシャー台車3を駆動するプッシャー台車用シリンダー4とを有している。プッシャー台車用シリンダー4はベース部材13に接続されている。
【0015】
本実施形態においては、プッシャー本体1は、幅方向(水平)に分割したプッシャー本体1a、1b、1cからなる3分割構造である。プッシャー本体1a、1b、1cは、先端に押し出し部21を有しており、その前面が対象物に接触する押し出し面21aとなっている。また、プッシャー本体1a、1b、1cの押し出し部21よりも後段部分は中空状となっており、その中にそれぞれプッシャー本体用シリンダー2の少なくとも一部が収容されている。
【0016】
プッシャー本体用シリンダー2は、例えば油圧シリンダーとして構成されており、シリンダー本体2aと、シリンダー本体2aに対して進出・退入可能に設けられたロッド2bとを有している。
【0017】
プッシャー台車用シリンダー4は、例えば油圧シリンダーとして構成されており、シリンダー本体4aと、シリンダー本体4aに対して進出・退入可能に設けられたロッド4bとを有している。
【0018】
プッシャー本体用シリンダー2およびプッシャー台車用シリンダー4は油圧シリンダーであることが好ましいが、空気圧シリンダー等の他の方式のシリンダーであってもよい。なお、以下の説明において、ロッドがシリンダー本体から進出する方向を押し出し方向、ロッドがシリンダー本体へ退入する方向を戻し方向とする。
【0019】
プッシャー本体1a、1b、1cは、押し出し部21の押し出し面21aと反対側の面21bにおいて、プッシャー本体用シリンダー2のロッド2bに、接続部材21cにより接続されている。そして、プッシャー本体1a、1b、1cは、プッシャー本体用シリンダー2の駆動により前進・後退して対象物を押し出す。なお、以下の説明において、プッシャー本体1a、1b、1cが対象物を押し出す向きの動きを前進、プッシャー本体1a、1b、1cが押し出し前の位置に戻る向きの動きを後退とする。
【0020】
プッシャー本体用シリンダー2のシリンダー本体2aは、プッシャー台車3の上面に接続部材3aにより接続されている。また、プッシャー台車用シリンダー4のロッド4bは、プッシャー台車3の下面に接続部材3bにより接続されている。さらに、プッシャー台車用シリンダー4のシリンダー本体4aは、接続部材13aによりベース部材13に接続されている。
【0021】
上記のように接続することにより、プッシャー台車用シリンダー4を駆動させてプッシャー台車3を移動させることができ、これによりプッシャー台車3に接続されているプッシャー本体用シリンダー2およびプッシャー本体1(1a、1b、1c)も同時に移動する。
【0022】
なお、プッシャー本体1とプッシャー本体用シリンダー2とを接続する接続部材21c、プッシャー本体用油圧シリンダー2とプッシャー台車3とを接続する接続部材3a、プッシャー台車3とプッシャー台車用シリンダー4とを接続する接続部材3bの接続方法は任意の方法を用いることができるが、少なくとも平面内での自由度を有するように回動可能に接続することが望ましい。
【0023】
プッシャー本体用シリンダー2とプッシャー台車用油圧シリンダー4とは、ロッドの押し出し方向が互いに逆向きになるように配置されている。これにより、プッシャー本体1が後退する向きがプッシャー台車用シリンダー4の押し出し方向となり、プッシャー本体1が後退する際に、前進する場合よりも大きな力が発生する。
【0024】
プッシャー台車3とプッシャー本体1とは、一体のフレーム12(図2、3のみ図示)により支持されている。フレーム12は上下2段のガイド部12a、12bを有しており、上段のガイド部12aでプッシャー本体1(1a、1b、1c)の下面をガイドし、下段のガイド部12bでプッシャー台車3の下面をガイドするようになっている。フレーム12は、プッシャー本体1が前進・後退する方向と平行になるように設けられている。プッシャー本体1と上段ガイド部12aとの摺動面、プッシャー台車3と下段ガイド部12bとの摺動面にはオイレスメタル(登録商標)等を用いて移動をスムーズにすることが好ましい。
【0025】
次に、このように構成されたプッシャー10の動作について説明する。
プッシャー本体1が後退限の位置に退避している際には、プッシャー本体用シリンダー2のロッド2bが最も短くなっている状態(縮限)であり、プッシャー台車用シリンダー4のロッド4bはもっとも長くなっている状態(伸限)である。
【0026】
このような状態から、プッシャー本体用シリンダー2のロッド2bを押し出し方向に移動させることおよび/またはプッシャー台車用シリンダー4のロッド4bを戻し方向に移動させることによりプッシャー本体1を前進させることができ、これにより対象物を押し出して対象物を供給または搬送することができる。
【0027】
このときのプッシャー本体1の移動距離(ストローク)は、プッシャー本体用シリンダー2のストロークとプッシャー台車用シリンダー4のストロークの合計となる。すなわち、プッシャー本体1の必要な移動距離をプッシャー台車3に対するプッシャー本体1の移動距離と、プッシャー台車3の移動距離の合計とすることができ、一つのシリンダーでプッシャー本体1の移動距離(ストローク)をまかなう場合に比べて、プッシャー10の設置スペースを小さくすることができる。このため、プッシャー本体1のストロークを十分に確保しながら、プッシャー10の全体をコンパクトな設計とすることができ、プッシャーを設置するスペースが限られている場合にも設置可能な設計とすることが容易となる。
【0028】
また、プッシャー本体用シリンダー2の少なくとも一部をプッシャー本体1内に収容するように設けたので、プッシャー10全体をよりコンパクトな構成とすることができる。ただし、プッシャー本体用シリンダー2の少なくとも一部をプッシャー本体1内に収容することは必須ではない。
【0029】
また、プッシャー本体用シリンダー2の押し出しの向きとプッシャー台車用シリンダー4の押し出しの向きとは逆向きとなるように配置されているので、プッシャー本体1が前進する場合も後退する場合も、同程度の力で駆動することが可能となる。このため、プッシャー本体1に拘束が生じた場合でも、シリンダー径を大きくすることなく、十分な駆動力でプッシャー本体を後退させることができ、拘束状態からの解除が容易となる。
【0030】
さらに、プッシャー本体1は、幅方向に分割したプッシャー本体1a、1b、1cからなる3分割構造であり、それぞれにプッシャー本体用シリンダー2を接続した構成となっている。このため、例えば、対象物の噛み込み等による詰まりによる拘束がプッシャー本体1aで発生した場合にも、拘束された部分以外のプッシャー本体1b、1cの駆動が可能であり、対象物の押し出し動作を継続することができる。
【0031】
もちろん、プッシャー本体1は一体構造であっても構わないし、分割構造とする場合にも3分割に限らない。ただし、プッシャー本体1における対象物の詰まりによる拘束は、プッシャー本体1の下部の他に、プッシャー本体1の両側面部でも発生するため、比較的拘束されやすいのはプッシャー本体1の両端である。したがって、プッシャー本体1を分割する場合には、プッシャー本体の移動方向に対する幅方向(水平方向)で3つ以上に分割されていることが、操業の長期継続のためには好ましい。なお、分割数の上限は設備制約等で決定されるが、8以下の分割数が現実的である。また分割されたプッシャー本体の大きさは全て等しくする必要はなく、例えば3分割の場合は、中央部を大きくし、一方上記のように拘束されやすい両端部は小さくすることもできる。さらに、分割された各プッシャー本体(本実施形態の場合はプッシャー本体1a〜1c)には、それぞれプッシャー本体用シリンダー2を接続させるが、分割されたプッシャー本体に接続されるプッシャー本体用シリンダーの数は必ずしも分割されたプッシャー本体の数に対応させる必要はない。例えば、中央部を大きく分割した場合は、その部分のプッシャー本体に接続されるシリンダー数を複数にしても良い。
【0032】
さらにまた、プッシャー台車3とプッシャー本体1とは、一体のフレーム12により支持され、フレーム12の上段のガイド部12aでプッシャー本体1(1a、1b、1c)の下面をガイドし、下段のガイド部12bでプッシャー台車3の下面をガイドするようになっているので、プッシャー本体1およびプッシャー台車3が所定の方向に移動しやすいという利点がある。また、プッシャー台車3は、プッシャー本体1が前進・後退する方向と平行に移動可能となるように支持されていることが好ましいが、このようにフレーム12を設けることにより、プッシャー台車3の移動方向をプッシャー本体1が前進・後退する方向と平行にすることができる。
【0033】
また、プッシャー本体1、プッシャー本体用シリンダー2、プッシャー台車3、プッシャー台車用シリンダー4をこのようなフレーム12内に設置することにより、これらの設備を1つのユニットとして、一体として取り扱うことが容易となる。フレーム12を用いて設備を一体化することにより、プッシャー設備全体の据付時間が短縮できることや、一体で交換可能なことによりメンテナンス時間が短縮できるなどの効果がある。
【0034】
ただし、フレーム12は必須ではなく、プッシャー本体1やプッシャー台車3の移動方向を容易に規定できる等の場合には設けなくてもよい。また、フレームを設けずに、単にプッシャー台車3のガイドを設けるようにしてもよい。
【0035】
次に、上で説明した本実施形態のプッシャー10をアーク溶解設備に鉄源を供給するために用いた例について説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係るプッシャーを適用したアーク溶解設備を示す部分断面斜視図である。アーク溶解設備30は、スクラップ等の鉄源を溶解する溶解室31を区画する溶解炉32と、溶解炉32の上部に直結し、内部に収容された鉄源を溶解室31で発生する排ガスで予熱する予熱室33と、溶解室31内で鉄源を溶解するためのアークを発生させるアーク電極34とを有している。そして、アーク電極34で発生されたアークにより鉄源が溶解して生成された溶鋼35が溶解室31に貯留される。また、予熱室33の上方に予熱室33内に鉄源を供給する鉄源供給手段(図示せず)が設けられており、溶解炉32の側壁には溶解炉32内で生成された溶鋼を出鋼する出鋼口(図示せず)が設けられている。
【0036】
溶解炉32の側部には、台部材36が水平に延びている。そして、図1と全く同じ構成のプッシャー10がベースとなる台部材36に設けられている。すなわち、台部材36にプッシャー台車用シリンダー4が接続され、プッシャー台車用シリンダー4のロッド4bがプッシャー台車3の下面に接続され、プッシャー台車3の上面にプッシャー本体用シリンダー2のシリンダー本体2aが接続され、プッシャー本体1(プッシャー本体1a、1b、1c)がプッシャー本体用シリンダー2のロッド2bに接続されている。そして、プッシャー本体用シリンダー2および/またはプッシャー台車用シリンダー4を駆動させることにより、プッシャー本体1(プッシャー本体1a、1b、1c)を前進・後退させる。そして、プッシャー本体1を前進させた際に予熱室33内の鉄源を押し出して溶解室31内に供給する。
【0037】
次に、図5〜7を参照して、アーク溶解設備30で鉄源を溶解して溶鋼を製造する場合のプッシャー10の動作について説明する。
図5は前チャージの出鋼が終了し、アーク溶解設備30の予熱室31に鉄源40がすでに供給されて予熱されている状態であり、プッシャー本体1が後退限の位置に退避した状態を示す。プッシャー本体用シリンダー2は最も短くなっている状態(縮限)、プッシャー台車用シリンダー4はもっとも長くなっている状態(伸限)である。
【0038】
通常の操業では、プッシャー台車3の位置をほぼ一定位置とし、プッシャー本体用シリンダー2のみを前進・後退させて溶解室31への鉄源40の供給を行なう。そしてプッシャー本体1に鉄源の噛み込み等による詰まりが発生して、プッシャー本体1が拘束されるような異常時に、プッシャー台車用シリンダー4でプッシャー台車3を前進・後退させてプッシャー本体1の拘束を解消するようにする。
【0039】
図5の状態から操業開始にともなう溶解室31へのスクラップの供給は下記のように行なう。まずプッシャー台車用シリンダー4をロッド4bが退入して短くなる向き(戻し方向)に駆動してプッシャー台車3を前進させ、図6に示すような、プッシャー台車用シリンダー4のロッド4bが縮限で、プッシャー台車3は最も前進した位置(前進限)となった状態とする。プッシャー台車3の前進によりプッシャー本体用シリンダー2も前進し、これによりプッシャー本体1も前進して、鉄源40の溶解室31への押し出しが開始される。以後の通常の操業時は、プッシャー台車3がこの位置にあるように設定する。
【0040】
引き続いて、プッシャー本体用シリンダー2を伸限まで押し出し方向に駆動する。これによりプッシャー本体1が前進し、プッシャー台車3とプッシャー本体1は図7に示す前進限の位置となる。
【0041】
上述したように、プッシャー10においては、プッシャー本体1の必要な移動距離をプッシャー台車3に対するプッシャー本体1の移動距離と、プッシャー台車3の移動距離の合計とすることができる。このため、十分なストロークを確保しながら、プッシャー10の全体をコンパクトな設計とすることができる。
【0042】
また、プッシャー本体用シリンダー2の押し出しの向きとプッシャー台車用シリンダー4の押し出しの向きとは逆向きとなるように配置されているので、プッシャー本体1が前進する場合も後退する場合も、同程度の力で駆動することが可能となる。このため、鉄源の詰まりが発生した際に十分な駆動力でプッシャー本体1を後退させることができ、拘束状態からの解除が容易となる。
【0043】
特に、このようなアーク溶解設備においてはプッシャー本体1に鉄源の詰まりによる拘束が生じやすく、このような鉄源の詰まりはプッシャー本体1の下部の他に、プッシャー本体1の両側面部で発生しやすい。このため、アーク熔解設備に用いるプッシャーにおいては、プッシャー本体の移動方向に対する幅方向(水平方向)で3つ以上に分割されていることによる操業の長期継続化の効果が高い。
【0044】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく本発明の思想の範囲内で種々変形可能である。
例えば、上記実施の形態では、プッシャー台車3の上にプッシャー本体用シリンダー2を配置し、プッシャー台車3の下にプッシャー台車用シリンダー4を配置したが、これに限るものではなく、これらシリンダーの配置を逆にしてもよく、これらの少なくとも一方をプッシャー台車3の側面に配置してもよい。ただし、プッシャー本体用シリンダー2をプッシャー台車3の上に配置することが好ましい。
【0045】
さらに、上記実施の形態では、プッシャー台車3を摺動させる場合について示したが、これに限らず、例えば車輪により走行させる等の他の手段で移動させてもよい。
【実施例】
【0046】
図1に示すアーク溶解設備と同様の、本発明のプッシャーが設置された炉容量が約200トンの設備で、スクラップを溶解して溶鋼を製造する試験を行った。
スクラップの溶解を行なう溶解期の、プッシャー台車3の位置は、油圧シリンダーであるプッシャー台車用シリンダー4を作動させ、プッシャー台車3を500mm炉内側へ前進させることにより設定した。その状態で、油圧シリンダーであるプッシャー本体用シリンダー2を作動させ、プッシャー本体1の前進、後退を2000mmのストロークで繰り返すことにより、予熱室6内部のスクラップを溶解室7内へと供給した。プッシャー10の駆動のオン・オフは、制御装置を用いて行った。
【0047】
操業中にプッシャー本体1が動かなくなり、何度かプッシャー本体用シリンダー2に前進、後退方向に油圧圧力をかけたが、プッシャーの拘束が解消できない事態が発生した。この解消を図るために、プッシャー台車用シリンダー4をプッシャー本体1が後退する方向に作動させたところ、プッシャー本体1の拘束は解消した。再びプッシャー台車3を500mm前進させた状態にして、プッシャー本体1の前進、後退を繰り返す駆動を行ないスクラップの供給を再開した。このことにより、操業の継続が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のプッシャーは、上記アーク溶解設備のみならず、廃棄プラスチック等の各種産業廃棄物を処理する施設や、焼却炉、処理対象物が固体からやや粘性のある液体に近い固体を扱う化学系等の工場やプラント等で使用される投入装置、押出装置等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1、1a、1b、1c;プッシャー本体
2;プッシャー本体用シリンダー
3;プッシャー台車
4;プッシャー台車用シリンダー
10;プッシャー
12;フレーム
13;ベース
30;アーク溶解設備
31;溶解室
32;溶解炉
33;予熱室
34;アーク電極
35;溶鋼
36;台部材
40;鉄源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を押し出すためのプッシャー本体と、
前記プッシャー本体に接続された、前記プッシャー本体を前進・後退させるプッシャー本体用シリンダーと、
前記プッシャー本体用シリンダーに接続されたプッシャー台車と、
前記プッシャー台車に接続された、前記プッシャー台車を前進・後退させるとともに、シリンダーの押し出しの向きが前記プッシャー本体用シリンダーの押し出しの向きと逆向になるように配置されたプッシャー台車用シリンダーと、
を備えることを特徴とするプッシャー。
【請求項2】
前記プッシャー台車は、前記プッシャー本体用シリンダーのシリンダー本体に接続され、かつ前記プッシャー台車用シリンダーのロッドに接続されていることを特徴とする請求項1に記載のプッシャー。
【請求項3】
前記プッシャー台車は、プッシャー本体が前進・後退する方向と平行に移動可能となるように設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプッシャー。
【請求項4】
前記プッシャー台車と前記プッシャー本体とを一体に支持するフレームをさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のプッシャー。
【請求項5】
前記プッシャー台車をガイドするガイド部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプッシャー。
【請求項6】
前記プッシャー本体用シリンダーの少なくとも一部が前記プッシャー本体内に収容されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプッシャー。
【請求項7】
前記プッシャー本体は、前記プッシャー本体の移動方向に対する幅方向で少なくとも3分割されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプッシャー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−220657(P2011−220657A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94056(P2010−94056)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(501120122)スチールプランテック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】