説明

プラスチックのめっき法

【課題】 プラスチックのめっき法において、製造が容易でかつ安価とする。
【解決手段】 ノズル3から粒径がφ50μmの銅の粉体4をプラスチック部材8の表面に衝突させ、衝突のエネルギーを熱エネルギーに変換させ、粉体4を表面内に埋没させて同時に融着する。粉体4を噴射すると同時にノズル3を矢印A方向に移動させることにより、プラスチック部材8の表面を銅の金属層9で覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック部材の表面を導電性を有する金属膜で覆うプラスチックのめっき法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、通信機器に使用される筺体部品や電子回路素子を搭載したプリント基板のシールド用の部品は、通常、電磁波のシールドの必要性から金属ケースと金属製の仕切りを介した機能デバイスとして構成される。また、これら筺体部品やシールド用の部品は、軽量化の観点からアルミ合金製の部品が多く使用されており、これらは、通常切削加工やダイカストにより製造され、特に、大量生産の場合はダイカストによる製造が一般的であった。しかしながら、近年、装置の軽量化やコストダウンの観点からプラスチック材の採用が不可避となってきているが、シールド特性の機能を付与させることが最も大きな問題となっている。
【0003】
この問題を解決する方法として、最も代表的な方法は、特許文献1にも記載されているように、無電解めっきで行う方法がある。また、別の方法としてプラスチック材に導電性塗料を塗布する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−012872号公報(第1頁右欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなプラスチックのめっき法のうち、無電解めっきで行う方法においては、任意の部位のみへのめっきが困難であり、マスク作業の工数を考え合わせるとコストが嵩み、せっかくモールド製法によって軽量化とコストダウンを図ったにもかかわらず、金属部品よりも高価になるという問題があった。また、めっき膜厚の制御とシールド特性の確認・評価に時間がかかるという問題もあった。そこで、マスク作業の煩雑さを除去するために全面めっきを行う方法も考えられるが、この場合は、樹脂へ着色することにより塗装作業を省略するといったコストダウンのメリットが全く生かすことができないという欠点がある。また、上述したようなプラスチックのめっき法のうち、プラスチック材に導電性塗料を塗布する方法においては、塗料が高価であるという問題があった。
【0006】
本発明は上記した従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、製造が容易で、かつ安価なプラスチックのめっき法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、導電性を有する金属の粉体をプラスチック部材の表面に衝突させることにより、プラスチック部材の表面に粉体を埋没させて同時に融着させ、プラスチック部材の表面の少なくとも一部を導電性の金属層で覆うものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、任意の大きさの粉体をプラスチック部材の表面に埋没させて同時に融着させるというように、従来の薬品や電気化学反応を伴う湿式めっきと対極をなすいわゆる乾式めっきで行うことにより、部分めっきを容易かつ安価に形成することができる。また、粉体の流速、プラスチック部材の表面までの噴射距離、粉体を噴射するノズルの移動速度を可変させることで、金属層の厚みを容易に調整することができる。また、金属層がプラスチック部材の表面に埋没して融着するため、金属層がプラスチック部材の表面から剥離するようなことがないから、めっき処理後にプラスチック部材の機械加工が可能となる。このため、外形寸法の大きい、いわゆる大判のプラスチック部材にめっき処理をした後に、機械加工によって必要な大きさに分割することができるため、生産性が向上するとともに製造コストを低減することもできる。また、粉体の外形寸法に合わせて、外形寸法の小さい(100μm以下の)金属層を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るプラスチックのめっき法を説明するための概念図である。
【図2】本発明に係るプラスチックのめっき法に使用する装置の模式図である。
【図3】本発明に係るプラスチックのめっき法によって、銅による金属層が形成されたプラスチック部材の表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図1ないし3に基づいて説明する。
【0011】
図2に全体を符号1で示すショットピーニング装置は、この装置1が設置される工場に備えられた吐出エアー源(図示せず)に一端が接続されたエアー供給ホース2と、このエアー供給ホース2の他端に接続されたエアーガンのノズル3と、平均の粒径がφ50μmの銅の粉体4が貯留されたショットタンク5と、このショットタンク5に一端が接続され、他端がエアー供給ホース2に接続された粉体引き込みホース6とを備えている。
【0012】
次に、このように構成されたショットピーニング装置1によって、プラスチック部材の表面に金属層を形成する方法について説明する。先ず、ノズル3を、図1に示すようにAES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレンゴム・スチレン)樹脂によって形成されたプラスチック部材8の一端部に位置付ける。
【0013】
この状態で、工場内の吐出エアー源からエアー供給ホース2にエアーを供給し、所定のエアー圧のエアーをエアーガンのノズル3から噴射させる。この噴射により、粉体引き込みホース6内が負圧状態となって、ショットタンク5内の粉体4が粉体引き込みホース6内に引き込まれ、エアーガンのノズル3に導かれ、ノズル3から粉体4がエアーと共にプラスチック部材8の表面に噴射される。
【0014】
噴射された粉体4は、粉体4どうしが衝突したり、プラスチック部材8の表面に衝突することにより、これら衝突のエネルギーがプラスチック部材8の熱変形温度以上の熱エネルギーに変換される。したがって、プラスチック部材8の表面に衝突した粉体4は、プラスチック部材8の表面内に埋没すると同時に融着する。
【0015】
粉体4の噴射と同時にノズル3を、矢印A方向に移動させることにより、粉体4がプラスチック部材8の表面全体に埋没すると同時に融着し、プラスチック部材8の表面全体に銅の金属層9が形成される。なお、ノズル3の移動範囲を制御することにより必要な箇所に必要な面積の金属層9を形成するという、部分めっきを容易に行うこともできる。
【0016】
ここで、粉体4の平均粒径をφ50μmとし、ノズル3から4〜6Kgf/cm2 のエアー圧のエアーを噴射することにより、ノズル3から噴射される粉体4の流速が60〜80m/secとなる。この条件で、粉体4どうしの衝突または粉体4のプラスチック部材8の表面への衝突による衝突のエネルギーから熱への変換を試算すると、1個の粉体4の衝突箇所において約200〜300℃の温度が連続で2/1000sec程度作用していることになる。
【0017】
これは、一般的なレーザー照射による鋼の焼き入れと同等以上の作用時間であり、AES樹脂の熱変形温度が約100℃であることを考え合わせると、粉体4がプラスチック部材8の表面内に埋没すると同時に融着するのに十分な作用時間と言える。
【0018】
また、上述した条件で、ノズル3の移動速度を約20〜40mm/secに設定した場合、約70μmの厚みの金属層9が形成されることが実験で確かめられている。
【0019】
また、粉体4の平均粒径をφ50μmとしたが、φ30〜100μmの範囲であれば、金属層9が形成されることが実験で確かめられている。
【0020】
図3は、粉体4の平均粒径をφ50μmで、ノズル3から噴射される粉体4の流速は60〜80m/secとし、ノズル3の移動速度を約20〜40mm/secに設定した場合の着色されたプラスチック部材8の表面に融着した粉体4の融着状態を示している。
【0021】
このように、粉体4をプラスチック部材8の表面に埋没させて同時に融着させることにより金属層9を形成しているため、部分めっきを容易かつ安価に形成することができる。本発明者の実験によると、外形寸法が100μm以下の金属層9を形成できることが確認された。また、粉体4の流速、プラスチック部材8の表面までの噴射距離、ノズル3の移動速度を可変させることで、金属層9の厚みを容易に調整することができる。
【0022】
また、金属層9を形成している粉体4がプラスチック部材8の表面に埋没して融着するため、金属層9がプラスチック部材8の表面から剥離するようなことがないから、めっき処理後にプラスチック部材8の機械加工が可能となる。このため、外形寸法の大きい、いわゆる大判のプラスチック部材8にめっき処理をした後に、機械加工によって必要な大きさに分割することができるため、生産性が向上するとともに製造コストを低減することもできる。
【0023】
なお、本実施例においては、プラスチック部材8を熱可塑性のAES(アクリロニトリル・エチレン−プロピレンゴム・スチレン)樹脂の例について説明したが、熱硬化性やその他全ての樹脂に適用できる。また、粉体4を銅としたが、ステンレスでもよく、要は導電性を有する金属であればよい。
【符号の説明】
【0024】
1…ショットピーニング装置、3…ノズル、4…粉体、8…プラスチック部材、9…金属層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する金属の粉体をプラスチック部材の表面に衝突させることにより、プラスチック部材の表面に粉体を埋没させて同時に融着させ、プラスチック部材の表面の少なくとも一部を導電性の金属層で覆うことを特徴とするプラスチックのめっき法。
【請求項2】
前記粉体を銅としたことを特徴とする請求項1記載のプラスチックのめっき法。
【請求項3】
前記粉体の直径を30〜100μmとしたことを特徴とする請求項1または2記載のプラスチックのめっき法。
【請求項4】
前記粉体の流速を60〜80m/secとしたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項記載のプラスチックのめっき法。
【請求項5】
前記粉体を噴射するノズルの移動速度を20〜40mm/secとしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項記載のプラスチックのめっき法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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