説明

プラスチック光学レンズ及び眼鏡プラスチックレンズ

【課題】耐久性が高く、外力によるひずみが発生し難いプラスチック光学レンズないし眼鏡プラスチックレンズを提供する。
【解決手段】プラスチック光学レンズ1の基材2上のハードコート層3を、物質量比で50%以上となるA成分(一般式がSi(OR(Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基)で表される有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物の1種以上)と、B成分(一般式がRSi(OR(Rは炭素数1以上6以下の炭化水素基、ビニル基、又はメタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基若しくはエポキシ基を有する有機基、Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基)で表される有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物の1種以上)を主成分として形成し、更に反射防止膜4をスパッタリング法によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラレンズを始めとするプラスチック光学レンズに関し、又特に眼鏡プラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光学レンズの代表例である眼鏡プラスチックレンズでは、一般に表面上にハードコート層が形成されており、更にその上には複数の金属酸化物層を積層した反射防止膜が形成されている。これらのハードコート層や反射防止膜は、レンズ表面に位置するため、レンズを熱やキズ等から守るための保護膜としての機能も有している。
【0003】
そこで従来、反射防止膜について、反射防止性能を維持しつつ保護機能を高める観点から、ハードコート層との密着性や反射防止膜自体の耐熱性を高めるため、反射防止膜をスパッタリング法により形成することが試みられている(特許文献1参照)。このようにスパッタリング法により形成すれば、反射防止膜の密度や硬度を向上することができ、もって優れた保護効果をもたらすことができる。又、反射防止膜について、スパッタリング法による形成と合わせて、窒化珪素を用いることで、硬度を向上して保護性能を向上することが提案されている(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3975242号公報
【特許文献2】特開2006−267561号公報
【特許文献3】特開2008−241746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反射防止膜をスパッタリング法により形成し、あるいは更に窒化珪素で形成すれば、硬度が増すことで保護性能を向上することができるものの、高硬度となるが故に柔軟性に劣ることとなり、物理的な外力が反射防止膜において緩和されず、ハードコート層に直接伝わってしまう。そのため、レンズの拭き上げ等により外力が加わると、ハードコート層にひずみが生じ、やがて波打つようなひずみが目視可能となってしまう。
【0006】
そこで、請求項1,7に記載の発明は、反射防止機能や保護機能を備えながら、耐久性が高く、しかも外力によるひずみが発生し難いプラスチック光学レンズあるいは眼鏡プラスチックレンズを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基材上にハードコート層と反射防止膜を有するプラスチック光学レンズであり、前記ハードコート層は、A成分(一般式がSi(OR(Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基)で表される有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物の1種以上)及びB成分(一般式がRSi(OR(Rは炭素数1以上6以下の炭化水素基、ビニル基、又はメタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基若しくはエポキシ基を有する有機基、Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基)で表される有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物の1種以上)を含む有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物を主成分とするコーティング組成物であり、前記有機珪素化合物は、A成分の物質量比が50%以上となるように調製され、前記反射防止膜がスパッタリング法によって形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記目的に加えて、更に基材との密着性能を向上する目的を達成するため、上記発明にあって、前記ハードコート層は、更にC成分(一般式がRSi(OR(Rは炭素数1から6の炭化水素基、ビニル基、又はメタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基若しくはエポキシ基を有する有機基、Rは炭素数1以上4以下の炭化水素基、Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基)で表される有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物の1種以上)を含む有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物を主成分とするコーティング組成物であり、前記有機珪素化合物は、C成分の物質量比が5%以下となるように調製されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3,4に記載の発明は、上記目的に加えて、生産性に配慮し、又ハードコート層と反射防止膜の外力対応性を良好にする目的を達成するため、上記発明にあって、前記反射防止膜が珪素を含む化合物を積層させた多層膜であることを特徴とし、又前記多層膜の開始層が窒化珪素又は窒化珪素の混合物からなる高屈折率又は中屈折率物質であり、低屈折率物質が酸化珪素であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に記載の発明は、上記目的に加えて、更にハードコート層と反射防止膜の外力対応性を良好にし、反射防止膜自体の強度もより一層向上する目的を達成するため、上記発明にあって、前記スパッタリング法がターゲット物質を珪素とする反応性マグネトロンスパッタリング法であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に記載の発明は、上記目的に加えて、屈折率の調整を自在として高屈折率にも対応する目的を達成するため、上記発明にあって、前記ハードコート層は、更に金属酸化物コロイドを主成分に含むコーティング組成物であることを特徴とするものである。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、上記発明において前記基材を眼鏡プラスチックレンズ基材とした眼鏡プラスチックレンズであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハードコート液における、官能基の数が互いに相違する有機珪素化合物の各成分について、物質量比を適切に調整し、更にハードコート層の上に反射防止膜をスパッタリング法により形成したので、膜(ハードコート層や反射防止膜)の耐久性が高く、外力によるひずみが発生し難いプラスチック光学レンズないし眼鏡プラスチックレンズを提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のプラスチック光学レンズに係る一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施の形態の例につき説明する。なお、本発明の形態は、以下の例に限定されない。
【0016】
プラスチック光学レンズにおいて、スパッタリング法により形成することで反射防止機能や保護機能を具備させた反射防止膜を用いながら、外力によるひずみが発生し難いようにすることを探求した結果、外力に影響され難いハードコート層を得れば望ましいとの着想に至り、そのようなハードコート層として硬度の高いものを得れば良く、更にハードコート層の硬度は主成分の一つである有機珪素化合物の各成分(下記A成分及びB成分、あるいは更にC成分)の物質量比(モル比)に大きく依存することが分かった。
【0017】
この点につき、図1に示すようなプラスチック光学レンズ1で説明する。プラスチック光学レンズ1は、基材2の表面に、ハードコート層3、反射防止膜4を、基材2側からこの順で有している。プラスチック光学レンズ1としては、眼鏡レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、双眼鏡レンズ、望遠鏡レンズ等が想定される。なお、耐衝撃性の向上のため、基材2とハードコート層3との間にプライマーコート層を積層しても良く、このような積層は特に衝撃を受けやすい眼鏡プラスチックレンズにおいて有効である。
【0018】
基材2の材質としては、例えばポリウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂等が挙げられる。又、屈折率が高く好適なものとして、例えばポリイソシアネート化合物とポリチオール及び/又は含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるポリウレタン樹脂を挙げることができ、更に屈折率が高く好適なものとして、エピスルフィド基とポリチオール及び/又は含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるエピスルフィド樹脂を挙げることができる。
【0019】
又、ハードコート層3は、次に示すA成分、B成分を含む有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物、並びに金属酸化物コロイドを主成分とするハードコート液をレンズ表面に塗布し、公知の方法で溶媒を蒸発させて形成される。なお、前者の有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物と、後者の金属酸化物コロイドは、両者を合わせた全体の割合において、公知のものとすることができ、例えば後者の金属酸化物コロイドにつきハードコート液における固形分全体の約3割以上7割以下とする(更に好適には4割以上6割以下とする)ことができる。又、金属酸化物コロイドは省略することができるが、金属酸化物コロイドを含むとハードコート層3が高屈折率となるため好ましい。
【0020】
即ち、A成分は一般式Si(ORで表わされ、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラキス(2−メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(2−エチルブトキシ)シラン、テトラキス(2−エチルヘキシロキシ)シランの少なくとも何れかが含まれる。ここで、Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基である。
【0021】
又、前記B成分は一般式RSi(ORで表わされ、例えばメチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3.4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの少なくとも何れかが含まれる。ここで、Rは次の(ア)〜(ウ)の何れかであり、即ち(ア)炭素数1以上6以下の炭化水素基、(イ)ビニル基、(ウ)メタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基あるいはエポキシ基を有する有機基、の何れかである。又、Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基である。
【0022】
これらA成分ないしB成分は、官能基の数が相違することから(前者は4、後者は3)、A成分はB成分と比べると柔軟性が低いものの硬化後の硬度が高く、B成分はA成分と比べると硬度は低いものの柔軟性が高い。このような特性の相違から、各成分のモル比を調整することで硬度(強度)と反射防止膜4に対する外力対応性とのバランスを調整可能であることが分かり、A成分の物質量比(モル比)がA成分及びB成分(後述のC成分を含む場合は更にC成分)に対して50パーセント(%)以上となるようにすれば、当該バランスをとることにおいて優れた結果を呈することが分かった。
【0023】
他方、前記金属酸化物コロイドは、チタン、シリコン、アルミニウム、錫、ジルコニウム、鉄、アンチモン、ニオブ、タンタル、タングステン等から選ばれる1種類以上の酸化物、若しくは2種類以上の金属酸化物からなる複合微粒子である。これらの金属酸化物微粒子あるいは複合金属酸化物微粒子は、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上混合したものを用いても良い。
【0024】
又、上記のハードコート液中には、必要に応じ、硬化触媒として、アセチルアセトン金属塩、エチレンジアミン四酢酸金属塩、脂肪族アミン、有機多価カルボン酸等を添加することも可能である。更に、上記のハードコート液中に、必要に応じ、界面活性剤、着色剤、溶媒等を添加して、コーティング剤を調整することも可能である。加えて、ハードコート層3を構成する樹脂に紫外線吸収剤を添加しても良く、この場合、基材2、プライマー、ハードコート層3を構成する樹脂類の劣化を防止することができるし、反射防止膜4の耐久性を向上することができる。
【0025】
一方、ハードコート層3は、次に示すC成分を含む有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物を、前記A成分及びB成分に加えて更に主成分として含有しても良い。
【0026】
当該C成分は一般式RSi(ORで表わされ、例えばジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランの少なくとも何れかが含まれる。ここで、Rは次の(ア)〜(ウ)の何れかであり、即ち(ア)炭素数1以上6以下の炭化水素基、(イ)ビニル基、(ウ)メタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基あるいはエポキシ基を有する有機基、の何れかである。又、Rは炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基である。
【0027】
更にC成分を主成分として含有する場合、まず上述のようにA成分のモル比がA成分、B成分及びC成分に対して50パーセント(%)以上となるようにすれば良い。又、C成分は官能基の数(2)が他の成分より少ないことから、他の成分と比較して硬度は低いものの柔軟性が高く、このことを考慮してC成分のモル比がA成分、B成分及びC成分に対して5%以下となるようにすれば、強度と優れた外力対応性を維持しながら、ハードコート層3に更に柔軟性を付加することができ、反射防止膜4との密着性がより一層向上することが分かった。
【0028】
ハードコート液塗布方法は一般的なものを採用することができ、例えばディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法等を用いることができる。又、ハードコート層3の膜厚に関し、次のことがいえる。即ち、膜厚を薄くすることで干渉縞を阻止する効果が期待できるが、薄くし過ぎると耐擦傷性の効果が得られなくなる。一方、膜厚を厚くすると硬度が得られるが、厚くし過ぎるとハードコートが割れやすくかつ脆くなるなど物性面の問題が生じてしまう。そこで、これらの両面を考慮して、ハードコート層3の膜厚は0.5〜5.0マイクロメートル(μm)であることが好ましく、更に1.0〜3.5μmであることが好ましい。
【0029】
反射防止膜4は、一般的なものが採用され、即ちここでは光学理論に基づいた多層膜構造が採用され、真空蒸着法やスパッタリング法によって、ハードコート層3の上に金属化合物からなる低屈折率層と高屈折率層を交互に積層させることで形成される。耐久性等の観点からスパッタリング法であることが好ましく、さらに生産性等を考慮すると反応性マグネトロンスパッタリング法が好ましい。反応性マグネトロンスパッタリング法は、ターゲットからスパッタされた粒子を反応性ガス雰囲気中で反応させ、レンズ上に金属化合物を積層させる方法であり、反応性ガスを切り替えることで所望の金属化合物を得ることができるものである。
【0030】
前記低屈折率層として例えば二酸化珪素が挙げられる。又、前記高屈折率層として例えば窒化珪素、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、二酸化ハフニウム、二酸化セリウム、酸化イットリウム、あるいはこれらの二種以上の混合物等を挙げることができるが、耐久性等の観点から窒化珪素であることが好ましい。更に、反射防止膜の構成は、可視領域で光学特性が得られていれば特に限定はしないが、生産性の観点から、開始層が高屈折率あるいは中屈折率物質であり、又3〜4層構成であることが好ましい。
【実施例】
【0031】
続いて、本発明の実施例(実施例1〜3)、及び本発明に属さない比較例(比較例1〜3)に関し、それらの形成手法ないし構成と、各種の評価を示す。ただし、本発明は当該実施例に限定されるものではない。なお、比較例においても本発明と同様の符号において説明する。又、各種評価は、それぞれの実施例あるいは比較例ごとに数枚を用意したうえで、その数枚の全てに対して行っている。
【0032】
[基材]
プラスチック光学レンズ1の基材2として、屈折率1.60、アッベ数42、度数−2.00の光学特性を有する眼鏡用プラスチックレンズ(東海光学株式会社製)を用いた。
【0033】
[ハードコート層]
ハードコート層3の形成において、有機珪素化合物165.8重量部にメタノール50重量部を加え、氷冷下撹拌しながら0.01N(規定度、当量濃度)塩酸43重量部を滴下して加水分解を行い、更に5度(摂氏)で一昼夜撹拌した(この溶液をベース液とする)。このベース溶液に対して、メタノール分散チタニア系ゾル(日揮触媒化成株式会社製)を237.5重量部、シリコーン系界面活性剤0.5重量部、アルミニウムアセチルアセトン1.66重量部を加え、5度で更に一昼夜撹拌して固形成分約30%のハードコート液を得た。前処理された基材2にこのハードコート液をスピンコート法で塗布し、120度の温度下で1.5時間の条件にて硬化させ、膜厚2.0μm以上3.0μm以下のハードコート層3を得た。
【0034】
前記有機珪素化合物は、テトラエトキシシラン(A成分)、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(B成分)、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(C成分)のうち少なくとも2種類以上の成分を含む化合物であって、実施例1〜3あるいは比較例1〜3によって各成分のモル比が相違している。当該モル比に関し次の[表1]に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
[反射防止膜]
ハードコート層3付きの基材2を真空槽内にセットし、反応性マグネトロンスパッタリング法によって、反射防止膜4を形成した。ターゲットには珪素を用いて、真空槽内にスパッタガスとしてアルゴンを導入し、更に反応性ガスとして、窒素又は酸素を導入した。前記ターゲットからスパッタリングされた珪素は、窒素または酸素と反応し、窒化珪素または酸化珪素の膜を形成する。
【0037】
反射防止膜4の構成は、何れの実施例ないし比較例においても、基材2側から順に窒化珪素と酸化珪素を交互に配置し、光学膜厚が窒化珪素層0.75/4λ、酸化珪素層0.125/4λ、窒化珪素層1/4λ、最終層の酸化珪素層1/4λの4層構成とした。ここで、λは500nmに設定した。
【0038】
[ひずみ評価]
ハードコート層3と反射防止膜4を形成した後、不織布等でプラスチック光学レンズ1を500g荷重で15秒間拭き上げた後に室温で1日放置し、その後蛍光灯下でひずみ発生の確認を行った。当該確認の結果について、下記の[表2]の「ひずみ確認」の欄において、ひずみ発生がなかった場合は「○」、ひずみ発生があった場合は「×」を付すことで示す。
【0039】
【表2】

【0040】
[密着評価]
反射防止膜4の表面にカッターナイフで1ミリメートル(mm)角の碁盤目を入れ、1平方ミリメートル(mm)の升目を100個作り、その後、セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を貼り付け、テープの一端を持ち、勢いよく剥がし、碁盤目における反射防止膜4の剥がれ状態の確認を行った。当該確認の結果について、上記[表2]の「密着評価」の欄において、碁盤目の膜が残った升目の数を付することで示す。即ち、数字が大きいほど密着性が良好であり、評価結果が「100」であれば、膜剥がれが無かったことを示す。
【0041】
[耐熱評価]
プラスチック光学レンズ1につき大気オーブンで30分加熱した後にクラックの有無の確認を行った。また、加熱温度は60度から始めて10度ずつ上げ、最大加熱温度を120度とした。当該確認の結果について、上記[表2]の「耐熱評価」の欄において、クラックが発生した温度を付すことで示す。即ち、加熱温度が高いほど耐熱性は良好である。なお、加熱温度が120度に達してもクラックが発生しない場合は「○」を付す。
【0042】
[煮沸評価]
プラスチック光学レンズ1を浸漬させるために十分な量の市水をビーカーで沸騰させ、沸騰した市水の中でプラスチック光学レンズ1を10分間浸漬させた後に膜剥がれの確認を行った。当該確認の結果について、上記[表2]の「煮沸評価」の欄において、膜剥がれがなかった場合は「○」、膜剥がれがあった場合は「×」を付すことで示す。
【0043】
[人工汗評価]
プラスチック光学レンズ1をアルカリ性人工汗液に浸漬させ、20度に保たれた環境下で24時間静置し、24時間静置後にプラスチック光学レンズ1を取り出し、水洗い後に表面状態変化の確認を行った。ここで、アルカリ性人工汗液は、ビーカーに塩化ナトリウム10g、リン酸水素ナトリウム12水和水2.5g、炭酸アンモニウム4.0gを入れ、純水1リットル中に溶かして作製したものである。当該確認の結果について、上記[表2]の「人工汗評価」の欄において、表面状態変化がなかった場合は「○」、表面状態変化があった場合は変化状態(膜剥がれがあったときは「剥がれ」、膜変色があったときは「変色」)を付すことで示す。
【0044】
[耐擦傷評価]
#000のスチールウールで反射防止膜4の表面を500グラム(g)の荷重をかけて擦り、キズの発生本数の確認を行った。当該確認の結果について、上記[表2]の「耐擦傷性評価」の欄において、キズの発生が0本以上5本以下の場合は「○」、6本以上の場合は「×」を付すことで示す。
【0045】
[総合評価]
以上によれば、実施例1〜3及び比較例1〜3において、ハードコート層3に対する反射防止膜4の密着性に優れ、耐熱性も良好であり、煮沸による膜剥がれも無く、人工汗に対する耐性も十分であり、キズも付き難いものとなっており、優れた基本性能を備えたものとなっている。一方、このように優れた基本性能を具備するにもかかわらず、比較例1〜3では、上記[ひずみ評価]で示したように、外力を加えるとひずみが生じてしまったが、実施例1〜3では、優れた基本性能を具備しながら、外力が加わったとしてもひずみが生じず、外力に対する耐性が有り、ひずみに対する耐性も具備するものとなっている。
【0046】
即ち、本発明によれば、ハードコート層3に含まれる有機珪素化合物の各成分の物質量をコントロールすることで、耐久性が高く、外力によるひずみが発生し難い、反射防止膜4とハードコート層3を有する優れたプラスチック光学レンズ1を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にハードコート層と反射防止膜を有するプラスチック光学レンズであり、
前記ハードコート層は、下記のA成分及びB成分を含む有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物を主成分とするコーティング組成物であり、
前記有機珪素化合物は、A成分の物質量比が50%以上となるように調製され、
前記反射防止膜がスパッタリング法によって形成されていることを特徴とするプラスチック光学レンズ。
A成分:一般式が
Si(OR
(Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基)
で表される有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物の1種以上。
B成分:一般式が
Si(OR
(Rは炭素数1以上6以下の炭化水素基、ビニル基、又はメタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基若しくはエポキシ基を有する有機基、Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基)
で表される有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物の1種以上。
【請求項2】
前記ハードコート層は、更に下記のC成分を含む有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物を主成分とするコーティング組成物であり、
前記有機珪素化合物は、C成分の物質量比が5%以下となるように調製されている
ことを特徴とする請求項1に記載のプラスチック光学レンズ。
C成分:一般式が
Si(OR
(Rは炭素数1から6の炭化水素基、ビニル基、又はメタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基若しくはエポキシ基を有する有機基、Rは炭素数1以上4以下の炭化水素基、Rは炭素数1以上8以下の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基)
で表される有機珪素化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物の1種以上。
【請求項3】
前記反射防止膜が珪素を含む化合物を積層させた多層膜である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラスチック光学レンズ。
【請求項4】
前記多層膜の開始層が窒化珪素又は窒化珪素の混合物からなる高屈折率又は中屈折率物質であり、低屈折率物質が酸化珪素である
ことを特徴とする請求項3に記載のプラスチック光学レンズ。
【請求項5】
前記スパッタリング法がターゲット物質を珪素とする反応性マグネトロンスパッタリング法である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載のプラスチック光学レンズ。
【請求項6】
前記ハードコート層は、更に金属酸化物コロイドを主成分に含むコーティング組成物である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載のプラスチック光学レンズ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかに記載のプラスチック光学レンズにあって、前記基材が眼鏡プラスチックレンズ基材であることを特徴とする眼鏡プラスチックレンズ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−81263(P2011−81263A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234528(P2009−234528)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】