説明

プラスチック成型品被覆用組成物及びプラスチック成型品

【課題】優れた耐摩耗性、透明性を有し、さらに長期に渡って優れた耐指紋付着性を有する硬化物からなる被膜をプラスチック成型品の表面に形成することができる被覆用組成物の提供。
【解決手段】(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物(A)とコロイド状シリカ(B)とを含む活性エネルギ線硬化性組成物であって、前記混合物(A)は特定のポリシロキサン系化合物(A1)と特定の含フッ素化合物(A2)とを含むことを特徴とするプラスチック成型品被覆用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成型品被覆用の組成物及びその組成物の硬化物からなる被膜を表面に有するプラスチック成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品は表面硬度が低いため傷つきやすい。このためポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートのような透明な樹脂は、繰り返し使用することによって樹脂本来の透明性や外観が著しく損なわれるという欠点があり、特に耐摩耗性を必要とする分野におけるプラスチック製品の使用を困難なものとしている。そこで、上記プラスチック製品の表面に耐摩耗性を付与する目的で、ハードコート材料(被覆材)が提供されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
最近の携帯電話の筐体や化粧品のケースや容器等のプラスチック成型品においては意匠性が高く求められるようになり、プラスチック成型品表面の耐磨耗性だけでなく指紋の付着しにくさが求められるようになった。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/044062号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた耐摩耗性、透明性を有し、さらに長期に渡って優れた耐指紋付着性を有する硬化物からなる被膜をプラスチック成型品の表面に形成することができる被覆用組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被覆用組成物、及びその硬化物からなる被膜を基材の表面に有するプラスチック成型品を提供する。
【0007】
<1>(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物(A)とコロイド状シリカ(B)とを含む活性エネルギ線硬化性組成物であって、前記混合物(A)は下式(A1)で表される化合物(A1)と下式(A2)で表される化合物(A2)とを含むことを特徴とするプラスチック成型品被覆用組成物。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
ここで、式中の記号は、以下の通りである。
、Rは独立に炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8の含フッ素アルキル基又はフェニル基。
は炭素数1〜8のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいアルキル基。
は水素原子又はメチル基。
Aは単結合又は−CHCHO−。
Yは−CONHCHCHO−又は単結合。
mは1〜1000の整数。pは3〜5の整数。qは1〜20の整数。
は炭素数1〜16のエーテル性酸素原子を含んでいてもよい含フッ素アルキル基。
は水素原子又はメチル基。
Bは単結合又は−CHCHO−。
Zは−CONHCHCHO−又は単結合。
nは1〜100の整数。rは3〜5の整数。sは1〜20の整数。
【0011】
<2>前記コロイド状シリカ(B)は、(メタ)アクリロイル基を有する有機基と、加水分解性基及び/又は水酸基とが、ケイ素原子に結合しているシラン化合物で表面修飾して得られる修飾コロイド状シリカである<1>に記載の組成物。
【0012】
<3>基材の表面に、<1>または<2>に記載の組成物の硬化物からなる厚さ0.1〜50μmの被膜を有するプラスチック成型品。
<4>携帯電話の筐体である<3>に記載のプラスチック成型品。
<5>化粧品の容器である<3>に記載のプラスチック成型品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組成物は、プラスチック成型品の表面に、優れた耐摩耗性、透明性、透明性を有し、さらに長期に渡って優れた耐指紋付着性を有する硬化物からなる被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書において、アクリロイル基及びメタクリロイル基を総称して(メタ)アクリロイル基といい、アクリレート及びメタクリレートを総称して(メタ)アクリレートといい、アクリル酸及びメタクリル酸を総称して(メタ)アクリル酸という。
本明細書において、式(A1)で表される化合物を化合物(A1)という。
【0015】
本発明の組成物において、(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物(A)(以下、混合物(A)ともいう。)は、化合物(A1)と化合物(A2)を含む。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
ここで、式中の記号は、上記と同じ意味である。
【0019】
化合物(A1)は−(SiRO)−からなる部位を有することにより、被覆用組成物の硬化物からなる被膜に撥水性を付与することができる。R、Rは、シロキサン単位毎に同一でも異なっていてもよい。R、Rとしては、メチル基、フェニル基、炭素数1〜8のポリフルオロアルキル基が好ましい。−(SiRO)−からなる部位としては、ポリジメチルシリコーンユニット、ポリメチルフェニルシリコーンユニット、ポリジフェニルシリコーンユニット、R及び/又はRがRCHCHCH−(Rは炭素数1〜5のポリフルオロアルキル基。)であるポリフルオロアルキルシリコーンユニット等が好ましい。mとしては1〜1000の整数であり、2〜500の整数が好ましい。当該範囲であると、硬化物からなる被膜は撥水性に優れる。
としてはメチル基が好ましい。
【0020】
化合物(A2)は−(CFCFO)−からなる部位を有することにより、被覆用組成物の硬化物からなる被膜に撥水撥油性を付与することができる。nとしては1〜100の整数であり、2〜50の整数が好ましい。
としてはトリフルオロメチル基が好ましい。
【0021】
化合物(A1)及び化合物(A2)が被覆用組成物の硬化物からなる被膜に撥水撥油性を付与することで被膜は耐指紋付着性を発現すると考えられる。
【0022】
化合物(A1)及び化合物(A2)は、−(C(=O)C2pO)−又は−(C(=O)C2rO)−からなる部位を有することにより、混合物(A)中の他の化合物との相溶性を発現する機能を有する。−(C(=O)C2pO)−又は−(C(=O)C2rO)−からなる部位は、ラクトンの開環付加体を表す。重合度を示すq又はsは、1〜20の整数であり、2〜10の整数が好ましい。該範囲であると、化合物(A1)及び化合物(A2)は被覆用組成物中の他の成分に対して適度な相溶性を有する。すなわち、相溶性が高すぎると、化合物(A1)及び化合物(A2)は塗膜表面に偏析しにくくなり、硬化物からなる被膜は耐指紋付着性を充分に発現できない。相溶性が低すぎると、硬化物からなる被膜の透明性が損なわれる。
【0023】
化合物(A1)及び化合物(A2)は、(メタ)アクリロイル基を有することにより、活性エネルギ線の照射により硬化反応を起こし、被覆用組成物中の他の成分と共有結合する。これにより化合物(A1)及び化合物(A2)は被覆用組成物の硬化物からなる被膜の表面に固定されて存在し、被膜の表面から揮散しない。したがって、硬化物からなる被膜の表面は、長期にわたって耐指紋付着性を発現することができる。
【0024】
化合物(A1)は、単一の化合物で構成されていてもよいが、通常、重合度等の異なる複数の化合物で構成される混合物として用いられる。この混合物においては、上記一般式における、m及びqのうち少なくとも何れか一つの値が上記範囲内にないものが共存していてもよい。ただし、混合物全体の平均値としてのm及びqの値は、それぞれ上記範囲内にあることが好ましい。化合物(A2)についても同様である。
【0025】
化合物(A1)は以下のようにして製造できる。例えば、片末端に水酸基を有するポリジメチルシリコーンの水酸基に、そのままラクトンを重合させるか、エチレンカーボネートを付加させたのちにラクトンを重合させる。さらに、生成物の末端に存在する水酸基に(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸クロリドを用いエステル結合により(メタ)アクリロイル基を導入するか、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを用いてウレタン結合により(メタ)アクリロイル基を導入する。
【0026】
化合物(A2)は以下のようにして製造できる。例えば、片末端に水酸基を有するポリテトラフルオロエチレンオキサイドの水酸基に、そのままラクトンを重合させるか、エチレンカーボネートを付加させたのちにラクトンを重合させる。さらに、生成物の末端に存在する水酸基に(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸クロリドを用いエステル結合により(メタ)アクリロイル基を導入するか、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを用いてウレタン結合により(メタ)アクリロイル基を導入する。
【0027】
化合物(A1)、化合物(A2)の含量は、それぞれ、(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物(A)に対して0.01〜10%(質量)であることが好ましく、0.1〜5%であることがより好ましい。当該範囲であると、被覆用組成物を基材表面に塗布した際に、塗膜の透明性を損なうことなく化合物(A1)、化合物(A2)が塗膜表面に偏析する。このため、硬化後の被膜の透明性も損なわれず、かつ該被膜表面は耐指紋付着性に優れる。また、当該範囲であれば、被覆用組成物の硬化性が低下しない。
【0028】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物(A)のうち化合物(A1)、化合物(A2)以外の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、被覆用組成物の硬化物からなる被膜の耐磨耗性が優れることから、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個以上有する化合物(A3)(以下、化合物(A3)ともいう。)が好ましい。
【0029】
化合物(A3)は、(メタ)アクリロイル基を2〜50個有することが好ましく、3〜30個有することがより好ましい。
【0030】
化合物(A3)としては例えば、ペンタエリスリトールやその多量体であるポリペンタエリスリトールと、ポリイソシアネートと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、の反応生成物であるアクリルウレタンであり、かつ(メタ)アクリロイル基を2個以上、より好ましくは4〜20個、有する多官能性化合物、又は、ペンタエリスリトールやポリペンタエリスリトールの水酸基含有ポリ(メタ)アクリレートと、ポリイソシアネートと、の反応生成物であるアクリルウレタンであり、かつ(メタ)アクリロイル基を2個以上、より好ましくは4〜20個、有する多官能性化合物が挙げられる。
【0031】
また、ペンタエリスリトール系ポリ(メタ)アクリレート又はイソシアヌレート系ポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、ペンタエリスリトール系ポリ(メタ)アクリレートとは、ペンタエリスリトール又はポリペンタエリスリトールと(メタ)アクリル酸とのポリエステルをいい、好ましくは(メタ)アクリロイル基を4〜20個有する。具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート。また、イソシアヌレート系ポリ(メタ)アクリレートとは、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレート又はトリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートの1モルに、1〜6モルのカプロラクトン又はアルキレンオキシドを付加して得られる化合物と、(メタ)アクリル酸とのポリエステルをいい、好ましくは(メタ)アクリロイル基を2〜3個有する。
【0032】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物(A)には、(メタ)アクリロイル基を1分子中に1個有する化合物(A4)が含まれていてもよい。化合物(A4)としては、アルキル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。
【0033】
本発明の被覆用組成物は、コロイド状シリカ(B)を含む。コロイド状シリカ(B)は、分散媒中にコロイド状に分散したシリカの超微粒子である。コロイド状シリカ(B)のシリカ粒子の平均粒径は特に限定されないが、硬化物からなる被膜の高い透明性を発現させるためには、1〜200nmが好ましく、1〜50nmがより好ましい。
【0034】
コロイド状シリカとしては、次のような分散媒で分散したものが使用できる。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、アセトン等が挙げられる。水、低級アルコール類、エステル類、セロソルブ類等がある程度高極性であるためゾルの分散安定性が確保しやすく好ましい。
【0035】
コロイド状シリカ(B)としては、分散安定性を向上させるために、粒子表面が加水分解性シラン化合物の加水分解物で修飾された、修飾コロイド状シリカを使用することもできる。ここで「加水分解物で修飾された」とは、コロイド状シリカ粒子の表面の一部又は全部のシラノール基にシラン化合物の加水分解物が物理的又は化学的に結合した状態にあり、これにより表面特性が改質されていることを意味する。なお、加水分解物の縮合反応が進んだものが同様に結合しているシリカ粒子も含まれる。この表面修飾はコロイド状シリカ粒子存在下にシラン化合物の加水分解性基の一部若しくは全部の加水分解又は加水分解と縮合反応を生じせしめることにより容易に行いうる。
【0036】
加水分解性シラン化合物としては、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基等の官能性基を有する有機基とアルコキシ基等の加水分解性基及び/又は水酸基とがケイ素原子に結合しているシラン化合物が好ましい。例えば、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が好ましく挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物(A)100質量部に対して、コロイド状シリカ(B)を固形分として0.1〜500質量部含むことが好ましい。0.1〜300質量部がより好ましく、10〜200質量部が特に好ましい。当該範囲であると、硬化物からなる被膜は充分な耐磨耗性を発現し、ヘイズが生じにくく、かつ、外力によるクラック等を生じにくい。
【0038】
被覆用組成物は、活性エネルギ線重合開始剤(C)を(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物(A)100質量部に対して0.1〜20質量部含有するのが好ましく、0.2〜10質量部含有するのがより好ましい。活性エネルギ線重合開始剤(C)の量が該範囲にあると、硬化性が充分であり、硬化の際に全ての活性エネルギ線重合開始剤(C)が分解するため好ましい。
【0039】
活性エネルギ線重合開始剤(C)は、公知の光重合開始剤を広く含む。具体例としては、アリールケトン系光重合開始剤(例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アルキルアミノベンゾフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、ベンゾイルベンゾエート類、α−アシルオキシムエステル類等)、含硫黄系光重合開始剤(例えば、スルフィド類、チオキサントン類等)、アシルホスフィンオキシド類(例えば、アシルジアリールホスフィンオキシド等)、その他の光重合開始剤がある。該光重合開始剤は2種以上併用してもよい。また、光重合開始剤はアミン類などの光増感剤と組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明の被覆用組成物には、必要に応じて有機溶剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱重合防止剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、顔料(有機着色顔料、無機顔料)、着色染料、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、分散剤、防曇剤、カップリング剤からなる群から選ばれる1種以上の機能性配合剤を含めてもよい。
【0041】
本発明の被覆用組成物は、プラスチック成型品基材にディッピング法、スピンコート法、フローコート法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の方法で塗布する。スプレーコートが好ましく、プラスチック成型品基材の両面に塗布する場合はディップコートを採用してもよい。有機溶剤を含む組成物の場合は乾燥した後、活性エネルギ線を照射して硬化させる。
【0042】
活性エネルギ線としては、紫外線、電子線、X線、放射線及び高周波線等が好ましく挙げられ、特に180〜500nmの波長を有する紫外線が経済的に好ましい。
【0043】
被覆用組成物の硬化物からなる被膜の厚さは、所望により種々の厚さを採用できる。通常は0.1〜50μmの厚さの被膜が好ましく、0.2〜20μmの厚さがより好ましく、0.3〜10μmの厚さが特に好ましい。被膜の厚さが該範囲にあると、耐磨耗性が充分となり、被膜深部の硬化も充分となるため好ましい。
【0044】
本発明の被覆用組成物の硬化物からなる被膜を形成するプラスチック成型品基材の材質としては、例えば、芳香族ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリルイミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリオレフィン、ABS樹脂、AS樹脂、MS(メチルメタクリレート・スチレン)樹脂等のプラスチックが挙げられる。被膜は基材の上に直接存在してもよく、基材と被膜の間に中間層が存在してもよい。
【0045】
本発明のプラスチック成型品としては、携帯電話の筐体、化粧品の容器(ファンデーションケース、化粧パレット等)、ノート型パソコンの本体カバー、ゲーム機の本体カバー等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例(例1〜4)、比較例(例5)に基づき説明するが、本発明はこれらに限定されない。数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によりポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0047】
(合成例1)化合物(A1−1)の合成
撹拌機及び冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、チタンテトライソブトキサイド(80mg)、片末端に水酸基を有するジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製、商品名「X−22−170BX」、水酸基価は18.5。)(100g)及びε−カプロラクトン(25g)を入れ、155℃にて6時間撹拌し、ジメチルシリコーンオイルの片末端にε−カプロラクトンが開環付加した、白色ワックス状の化合物を得た。カプロラクトンの平均重合度は6.6であった。
【0048】
得られた化合物を室温に冷却し、酢酸ブチル(50g)及び2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(250mg)を加え、50℃にて30分間撹拌した後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(5.05g)を加えて、室温でさらに3時間撹拌し、片末端がメタクリロイル基で修飾された化合物(A2−1)を得た。数平均分子量は、約3750であった。
【0049】
(合成例2)化合物(A2−1)の合成
以下において、CClFCFCHClFをR−225、CClFCClFをR−113と記す。
(工程1) 温度計、撹拌機、還流管及び温度調節機を備えた内容量200mLのフラスコに、市販のポリオキシエチレングリコールモノメチルエーテル(CHO(CHCHO)n+1H、n≒7.3(平均値))(25.0g)、R−225(20.0g)、フッ化ナトリウム(1.2g)及びピリジン(1.6g)を入れ、内温を10℃以下に保ちながら激しく撹拌して、窒素ガスをバブリングさせた。さらにFCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(46.6g)を、内温を5℃以下に保ちながら3時間かけて滴下した。その後、50℃で12時間、さらに室温で24時間撹拌して粗液を得た。得られた粗液を減圧濾過し、ろ液を減圧乾燥機で50℃、666.5Paの条件下12時間乾燥した。ここで得た粗液をR−225(100mL)に溶解し、飽和重曹水(1000mL)で3回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相に硫酸マグネシウム(1.0g)を加え、12時間撹拌した。加圧濾過により硫酸マグネシウムを除去し、エバポレーターでR−225を留去し、室温で液状の化合物(56.1g)を得た。H−NMR、19F−NMR分析の結果、得られたポリマーは、CHO(CHCHO)n+1COCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(nは前記と同じ。)で表される化合物であることを確認した。
【0050】
(工程2) 内容量3Lのハステロイ製反応器に、R−113(1560g)を入れて撹拌し、25℃に保った。反応器のガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、及び−20℃に保持した冷却器を直列に設置した。なお、−20℃に保持した冷却器からは凝集した液を反応器に戻すための液体返送ラインを設置した。窒素ガスを1時間吹き込んだ後、窒素ガスで10%に希釈したフッ素ガス(以下、「10%フッ素ガス」と記す。)を、流量24.8L/hで1時間吹き込んだ。
【0051】
次に、10%フッ素ガスを同じ流量で吹き込みながら、工程1で得た生成物(27.5g)をR−113(1350g)に溶解させた溶液を30時間かけて注入した。内温40℃に変更して、10%フッ素ガスを同じ流量で吹き込みながら、工程1で得た生成物の6.7%R−113溶液(12mL)を注入した。続けて、ベンゼンを1%溶解したR−113溶液(6mL)を注入した。さらに、10%フッ素ガスを同じ流量で1時間吹き込んだ後、窒素ガスを1時間吹き込んだ。
【0052】
反応終了後、減圧乾燥にて、60℃で6時間溶媒を留去した後、室温で液体の生成物(45.4g)を得た。NMR分析の結果CFO(CFCFO)n+1COCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFで表される化合物が主たる生成物であることを確認した。
【0053】
(工程3) スターラーチップを投入した300mLの丸底フラスコを充分に窒素置換した後、メタノール(36.0g)、フッ化ナトリウム(5.6g)及びR−225(50.0g)を入れ、工程2で得た生成物(43.5g)を滴下した後、室温でバブリングしながら激しく撹拌した。なお、丸底フラスコ出口は窒素シールした。
【0054】
8時間後、冷却管に真空ポンプを設置して系内を減圧に保ち、過剰のメタノール及び反応副生物を留去した。24時間後、室温で液体の生成物(26.8g)を得た。NMR分析の結果、CFO(CFCFO)CFCOOCHで表される化合物が主たる生成物であることを確認した。
【0055】
(工程4) スターラーチップを投入した300mLの丸底フラスコを充分に窒素置換した。2−プロパノール(30.0g)及びテトラヒドロホウ酸ナトリウム(4.1g)を加えて、30分撹拌した後、工程3で得た生成物(25.0g)をR−225(20.0g)に希釈して滴下し、その後60℃にて3時間加熱した。なお、丸底フラスコ出口は窒素シールした。
【0056】
冷却後、0.2規定塩酸(167.0g)とR−225(33.3g)の混合物に、反応液を撹拌しながらゆっくり滴下した。pHが3.0となるように0.5規定の塩酸を加えて10分間撹拌し、その後5分間静置して分液を行った。下層の有機相を蒸留水(80g)で3回洗浄した後、エバポレーターでR−225を留去し、室温で無色透明液状物質(22.2g)を得た。NMR分析の結果、CF3O(CF2CF2O)CF2CH2OHで表される化合物が主たる生成物であることを確認した。
【0057】
(工程5) スターラーチップを投入した100mLの丸底フラスコに、工程4で得た生成物(24.0g)、炭酸エチレン(3.4g)及びフッ化カリウム(1.8g)を仕込み、160℃にて32時間加熱した。冷却後、R−225(41.0g)を加え5分間撹拌し、濾紙(5C)にて濾過を行った。ろ液に、水(13.7g)、R−225(13.7g)及び0.1規定塩酸をpH4に達するまで加え、撹拌後、静置して相分離を行った。下層の有機相から溶媒を留去し、ついで真空ポンプで溶媒を完全に除去して、淡黄色の透明液体(25.7g)を得た。NMR分析の結果、CF3O(CF2CF2O)CF2CH2OCH2CH2OHで表される化合物が主たる生成物であることを確認した。
【0058】
(工程6) 撹拌機及び冷却管を装着した200mLの4つ口フラスコに、チタンテトライソブトキサイド(0.36g)、CF3O(CF2CF2O)CF2CH2OCH2CH2OH(24.0g)及びε−カプロラクトン(7.5g)を加え、155℃で5時間加熱し、CF3O(CF2CF2O)CF2CH2OCH2CH2OHの末端に、ε−カプロラクトンが開環付加した、白色ワックス状の化合物を得た。分子量は1250であり、ε−カプロラクトンの平均重合度は2.2であった。
【0059】
続いて、R−225(55.0g)及び2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(36mg)を加え、30分間撹拌した後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(5.1g)を加え室温で更に19時間撹拌し、反応を完結せしめた。その後、減圧下40℃で溶剤のR−225を留去し、末端がメタクリロイル基で修飾された化合物(A2−1)34.2gを得た。分子量は1400であった。
【0060】
(合成例3)
コロイド状シリカ(B−1)
プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下「PGME」と記す。)分散型コロイダルシリカ(シリカ含有量30質量%、平均粒径13nm。)(100質量部)に、3−メタクリロイルオキシトリメトキシシラン(5質量部)を加えて、50℃にて3時間撹拌した後、冷却して得られた、メタクリロイルオキシシランの加水分解物を表面に有するコロイダルシリカを用いた。このコロイダルシリカを110℃で3時間乾燥して求めた固形分濃度は、33.3%であった。
【0061】
[例1]
スターラーチップを入れた200mLのガラス瓶に、化合物(A1−1)(0.05g)、化合物(A2−1)(0.15g)、ジペンタエリスリトールのアクリレート(C−1)(18.97g)、及びテトラメチロールメタントリアクリレート(4.74g)を入れ、さらに有機溶媒としてシクロヘキサノン(18.57g)とPGME(28.61g)を加えて密閉した後、50℃に加温して1.5時間撹拌した。1.5時間後、常温に冷却した後、コロイド状シリカ(B−1)(26.69g)と重合開始剤として2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノ−プロパン−1オン(2.22g)を加えて密閉した後、遮光して、再び50℃に加温して1.5時間撹拌した。1.5時間後、常温に冷却して組成物1を得た(固形分35%)。
【0062】
基材(厚さ1mmの透明なポリカーボネート樹脂基板、100mm×100mm)の表面に、得られた組成物1をスピンコーターを用いて塗工(1500rpm×10秒)し、90℃の乾燥機で1分間保持して乾燥し、塗膜を形成した。次いで、高圧水銀ランプを用いて、1000mJ/cm2(波長300〜390nm領域の紫外線積算エネルギー量。以下同じ。)の紫外線を照射して、該塗膜を硬化せしめて、膜厚0.7μmの硬化物からなる被膜を形成し、基材の表面に硬化物からなる被膜を有する膜サンプル1を得た。
【0063】
[例2]
例1において、化合物(A1−1)の量を0.10g、化合物(A2−1)の量を0.30gとした以外は、例1と同様にして、組成物2を得た。この組成物2を用いて、例1と同様にして、スピンコートして、膜厚0.7μmの硬化物からなる被膜を形成し、基材の表面に硬化物からなる被膜を有する膜サンプル2を得た。
【0064】
[例3]
基材(厚さ1mmの透明なポリカーボネート樹脂基板、100mm×100mm)の表面に、例1の組成物1をスプレーコートし、90℃の乾燥機で1分間保持して乾燥し、塗膜を形成した。次いで、高圧水銀ランプを用いて、1000mJ/cm2の紫外線を照射して、該塗膜を硬化せしめて、膜厚2.3μmの硬化物からなる被膜を形成し、基材の表面に硬化物からなる被膜を有する膜サンプル3を得た。
【0065】
[例4]
例2の組成物2を用いて、例3と同様にスプレーコートし、膜厚2.3μmの硬化物からなる被膜を形成し、基材の表面に硬化物からなる被膜を有する膜サンプル4を得た。
【0066】
[例5]
例1において、化合物(A1−1)と化合物(A2−1)を添加しなかった以外は、例1と同様にして、組成物3を得た。この組成物3を用いて、例1と同様にして、スピンコートして、膜厚0.7μmの硬化物からなる被膜を形成し、基材の表面に硬化物からなる被膜を有する膜サンプル5を得た。
【0067】
得られた膜サンプルについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
[初期ヘイズ]
膜サンプルの4箇所のへイズ(%)をヘイズメータで測定し、その平均値を算出した。
【0069】
[耐磨耗性]
テーバー磨耗試験機を用いて、2つのCS−10F磨耗輪にそれぞれ4.9Nの荷重をかけて50回転させた時のヘイズをヘイズメータにて測定した。ヘイズの測定は磨耗輪の軌道の4箇所で行い、平均値を測定した。耐磨耗性は、(磨耗試験後ヘイズ)−(初期ヘイズ)の値(%)で示した。
【0070】
[表面潤滑性]
膜表面に荷重を乗せ、その荷重を水平に移動するのに必要な滑り片の重さを測定し、(必要な滑り片の重さ/荷重)より、摩擦係数を測定した。
試験パッド:セルロース製の不織布(旭化成社製、商品名「ベンコット」)
荷重:500g(接触面積50mm×100mm)
移動距離:20mm
移動速度:10mm/分
試験環境:23℃、相対湿度50%
[オレイン酸接触角、水接触角]
耐指紋付着性の尺度として、人の皮脂成分の1つであるオレイン酸と水の接触角を測定した。耐指紋付着性が高い表面ほど、オレイン酸と水に対する接触角が高い傾向にある。膜表面にオレイン酸または水を滴下し、その接触角を接触角計(協和界面科学社製、CA-X型)を用いて測定した。
【0071】
【表1】

【0072】
例1〜4は、組成物中に化合物(A1−1)と化合物(A2−1)を含有することにより、この組成物をスピンコートまたはスプレーコート後に硬化して得られた被膜が、耐摩耗性に優れ、かつ耐指紋付着性に優れるものであることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の被覆用組成物の硬化物からなる被膜を表面に有するプラスチック成型品は、耐摩耗性に優れ傷がつきにくく、指紋が付着しにくく意匠性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物(A)とコロイド状シリカ(B)とを含む活性エネルギ線硬化性組成物であって、
前記混合物(A)は下式(A1)で表される化合物(A1)と下式(A2)で表される化合物(A2)とを含むことを特徴とするプラスチック成型品被覆用組成物。
【化1】

【化2】

ここで、式中の記号は、以下の通りである。
、Rは独立に炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8の含フッ素アルキル基又はフェニル基。
は炭素数1〜8のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいアルキル基。
は水素原子又はメチル基。
Aは単結合又は−CHCHO−。
Yは−CONHCHCHO−又は単結合。
mは1〜1000の整数。pは3〜5の整数。qは1〜20の整数。
は炭素数1〜16のエーテル性酸素原子を含んでいてもよい含フッ素アルキル基。
は水素原子又はメチル基。
Bは単結合又は−CHCHO−。
Zは−CONHCHCHO−又は単結合。
nは1〜100の整数。rは3〜5の整数。sは1〜20の整数。
【請求項2】
前記コロイド状シリカ(B)は、(メタ)アクリロイル基を有する有機基と、加水分解性基及び/又は水酸基とが、ケイ素原子に結合しているシラン化合物で表面修飾して得られる修飾コロイド状シリカである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
基材の表面に、請求項1または2に記載の組成物の硬化物からなる厚さ0.1〜50μmの被膜を有するプラスチック成型品。
【請求項4】
携帯電話の筐体である請求項3に記載のプラスチック成型品。
【請求項5】
化粧品容器である請求項3に記載のプラスチック成型品。

【公開番号】特開2008−88323(P2008−88323A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271783(P2006−271783)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】