プラスチック成形体の表面改質方法、それを含む金属膜の形成方法およびプラスチック部品
【課題】プラスチック成形体が複雑な3次元形状のものであったとしても、良好なアンカリング効果の得られる表面粗化が可能な表面改質方法、それを含む金属膜の形成方法およびプラスチック部品を提供する。
【解決手段】表面改質方法は、プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体2の表面改質方法であって、溶融プラスチック120に、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、高圧二酸化炭素が接触した溶融プラスチック120を成形金型101へ射出して成形するステップと、この成形ステップで得られたプラスチック成形体2の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体2の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含む。
【解決手段】表面改質方法は、プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体2の表面改質方法であって、溶融プラスチック120に、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、高圧二酸化炭素が接触した溶融プラスチック120を成形金型101へ射出して成形するステップと、この成形ステップで得られたプラスチック成形体2の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体2の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形体の表面改質方法、それを含む金属膜の形成方法およびプラスチック部品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形体は、たとえば電子機器などの部品として利用される。プラスチック成形体の表面に金属膜を形成する手段としては、現在、無電解メッキ法が広く利用されている。プラスチック成形体の成形から無電解メッキまでの製造プロセスは、成形体の材料などにより多少異なるが、一般には樹脂成形、成形体の脱脂、エッチング、中和及び湿潤化、触媒付与、触媒活性化、並びに、無電解メッキの工程からなり、この順で行なわれる。
【0003】
この無電解メッキプロセスにおけるエッチング工程では、クロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などを用いて、プラスチック成形体の表面を物理的に粗化する。プラスチック成形体の表面が粗化されることで、成形体とメッキ膜との間にアンカリング効果が生じ、成形体に対するメッキ膜の密着性が確保される。
【0004】
しかしながら、エッチング液は、廃棄時に中和処理などの後処理が必要であるため、コスト高の一因となる。また、クロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などは、毒性が高く、その取り扱いが煩雑である。
【0005】
エッチング液を用いた無電解メッキ法に替わる新たな金属膜の形成方法として、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を用いた無電解メッキ法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載された方法によれば、まず、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させ、その超臨界二酸化炭素を各種ポリマーの成形体に接触させることで、ポリマー成形体の表面に有機金属錯体を注入する(浸透させる)。次いで、有機金属錯体が浸透したポリマー成形体に対して加熱処理あるいは化学還元処理をして、有機金属錯体を還元する。これにより、ポリマー成形体の表面には、金属微粒子が析出する。
【0006】
この有機金属錯体と超臨界二酸化炭素とを用いた無電解メッキ法では、エッチング液を使用しないので、当然にその廃液処理が不要となる。また、金属微粒子が析出することにより、ポリマー成形体の無電解メッキが可能になる。
【0007】
この他にも、プラスチックの表面を適度に粗化して良好なアンカリング効果を得るプロセスとして、光触媒を用いたメッキ前処理プロセスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、光触媒としての酸化チタンをプラスチック成形体の表面に塗布した後、紫外線を照射する。これにより、プラスチック成形体の表面には、微細な凹凸が形成される。この微細な凹凸によるアンカリング効果により、プラスチック成形体に対するメッキ膜の形成が可能となる。
【0008】
プラスチック成形体などの樹脂組成物を多孔化する方法としては、この他にも、ポリイミド樹脂に限定されてしまうものであるが、超臨界二酸化炭素を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸樹脂及びそれに分散可能な分散性化合物が含有した感光性樹脂組成物から、超臨界二酸化炭素を用いて分散性化合物を除去することにより、多孔化されたポリアミック酸樹脂を形成している。また、特許文献2では更に、多孔化されたポリアミック酸樹脂上に導電層を形成している。なお、特許文献2には、超臨界二酸化炭素を用いて分散性化合物を除去した後の樹脂の最表面における物理的形状は記載されていない。また、特許文献2には、樹脂と導電層との密着性に関する記載はない。
【0009】
なお、水系溶媒と超臨界二酸化炭素とを相溶させる研究において、超臨界二酸化炭素や二酸化炭素には、フッ素化合物が溶解することが知られている(例えば非特許文献2、特許文献3)。
【0010】
【特許文献1】特開2005−85900号公報
【特許文献2】特開2001−215701号公報
【特許文献3】特願2002−171609号公報
【非特許文献1】堀照夫著「超臨界流体の最新応用技術」株式会社エヌ・ティー・エス出版、p.250−255(2004)
【非特許文献2】永井隆文「機能材料2007年1月号Vol.27 No.1」株式会社シーエムシー出版 p27-p36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素を用いた表面改質プロセスについて、本発明者らが鋭意検討した結果、次のような課題があることが判明した。すなわち、非特許文献1の超臨界二酸化炭素を用いた表面改質プロセスでは、プラスチック表面を物理的に粗面化するプロセスが無い。そのため、非特許文献1による表面改質後の表面の平滑性は良好であるが、メッキ膜とプラスチック成形体との界面においてアンカリング効果が得られない。プラスチック成形体に対するメッキ膜の密着性は、基本的に高くない。
【0012】
アンカリング効果が得られない非特許文献1の方法によりプラスチック表面にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜は、プラスチック表面の有機金属錯体により密着が確保される。それゆえ、メッキ膜の密着性は、有機金属錯体の還元性、及び、それに起因するプラスチック表面における金属微粒子の密度や凝集状態等に強く影響されてしまうことになる。そして、非特許文献1の方法による量産工程について考えるに、これらの条件をすべて好適に合わせ込み、且つ、その条件を維持し続けるように制御することは、極めて困難であると予想される。
【0013】
その結果、非特許文献1の方法によりメッキ膜を形成した場合、その密着性は、基本的に高いものとならず、しかも、製品間で大きくばらついてしまうと予想される。
【0014】
また、特許文献1に記載されている酸化チタンを用いた光触媒プロセスでは、プラスチックの表面を粗化するために、紫外線をプラスチック表面に照射し、光触媒反応を発生させる必要がある。そのため、特許文献1の方法は、紫外線の均一な照射が可能な2次元形状の成形体(例えば、フィルム状の成形体)に対しては好適であると考えられるが、複雑な3次元形状の成形体に対しては、その表面に均一に紫外線を照射することが困難であり、不向きであると考えられる。たとえば成形体が穴を有する場合、その穴と成形体の外表面とに対して均一な紫外線を照射することは極めて困難である。また、光触媒の反応時間は数十分と長いため、このことが量産化工程の阻害要因の1つになる。
【0015】
本発明は、プラスチック成形体が複雑な3次元形状のものであったとしても、良好なアンカリング効果の得られる表面粗化が可能な表面改質方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この表面改質方法を含み、プラスチック成形体が複雑な3次元形状のものであったとしても、良好なアンカリング効果を持つ密着性の良い金属膜を形成することができる金属膜の形成方法およびその方法で形成したプラスチック部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様に従えば、プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、溶融プラスチックに、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、高圧二酸化炭素が接触した溶融プラスチックを成形金型へ射出して成形するステップと、成形ステップで得られたプラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含むことを特徴とする表面改質方法が提供される。
【0017】
フッ素化合物は高分子であっても高圧二酸化炭素に良好に溶解する特性を有する。そのため、まず、溶融プラスチックに接触させる高圧二酸化炭素にフッ素化合物を良好に溶解させることができる。次いで、そのような高圧二酸化炭素をプラスチックに接触させることで、フッ素化合物が高圧二酸化炭素により表面に含浸したプラスチック成形体が作られる。さらに、この成形体に高圧二酸化炭素を接触させることで、含浸しているフッ素化合物が溶解する。その結果、プラスチック成形体にナノオーダの多数の微細穴を形成することができる。プラスチック成形体は、複雑な3次元形状のものであったとしても、良好なアンカリング効果が得られる表面粗さとすることができる。また、この方法は、様々な種類のプラスチックに対して、その表面改質に利用することができる。しかも、フッ素化合物は、成形金型からの離型剤としても有効に機能する。
【0018】
また、本発明では、フッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を溶融状態にあるプラスチックに接触させることにより、プラスチック成形体にフッ素化合物を分散させている。したがって、この発明では、良好なアンカリング効果が得られる大きさの微細穴を、プラスチック表面に高密度に且つ均一に分散させて形成することができる。なお、これに対して、フッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を、成形後のプラスチック表面に接触させることで表面粗化が可能であるが、特にフッ素化合物の分子量が大きいときには、プラスチックの表面部(表面近傍の内部)においてフッ素化合物が浸透するための自由体積を確保し難い。そのため、このように成形後にフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を接触させた場合にくらべて、溶融しているプラスチックに対してフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を接触させた方が、きわめて短時間で、良好なアンカリング効果が得られる大きさの微細穴を、プラスチック表面に高密度に且つ均一分散させて形成することができる。
【0019】
なお、本発明でいう「高圧二酸化炭素」には、超臨界二酸化炭素のみならず、高圧の液状二酸化炭素(液体)及び高圧二酸化炭素が含まれる。フッ素化合物をある程度溶解する媒体としては高圧二酸化炭素の他にも、空気、水、ブタン、ペンタン、メタノール等などがあるが、高圧二酸化炭素は、有機材料に対する溶解度がnヘキサン並みであり、無公害であり、しかも、プラスチックに対する親和性が高いので最適である。また、本発明において、高圧二酸化炭素に対するフッ素化合物の溶解度を向上させるために、高圧二酸化炭素に対して、少量のエタノール等の有機溶剤をエントレーナとして混合してもよい。
【0020】
本発明の第1の態様では、さらに、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、溶融プラスチックについての成形金型へ最初に射出される部分と接触してもよい。あるいは、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、成形金型へ射出される溶融プラスチックを収容する加熱シリンダの、フローフロント部に導入されてもよい。
【0021】
このようにして高圧二酸化炭素を溶融プラスチックに接触させると、まず、フッ素化合物が浸透したフローフロント部の溶融プラスチックが射出され、その後、フッ素化合物がほぼ浸透していない溶融プラスチックが金型に射出充填されることになる。フッ素化合物が浸透したフローフロント部の溶融プラスチックが射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、フローフロント部の溶融プラスチックは金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、これらの態様では、フッ素化合物が分散したスキン層と、フッ素化合物がほとんど分散していないコア層とからなるプラスチック成形体が提供される。フッ素化合物は、プラスチック成形体の材料に関係なく、プラスチック成形体の表面部に偏析し、且つ、その表面部において高密度で且つ均一に分散することになる。
【0022】
しかも、フッ素化合物は、スキン層のさらに金型に近い表面側へ浮き出る性質を有する。そのため、多くのフッ素化合物を、プラスチック成形体の最表面に偏在化させることができる。
【0023】
したがって、成形後に高圧二酸化炭素で溶解することで、より多くのフッ素化合物をプラスチック成形体から溶解することができ、プラスチック成形体により多くの微細穴を形成することができる。必要最小限の添加量により、プラスチック成形体に対して効率よく多数の微細穴を形成することができる。高圧二酸化炭素で溶解した後にプラスチック成形体の内部に残留してしまうフッ素化合物を減らし、フッ素化合物を凹凸の形成に有効に利用することができる。
【0024】
本発明の第2の態様に従えば、プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、フッ素化合物が分散しているプラスチックのペレットを溶融するステップと、溶解したペレットを成形金型へ射出して成形するステップと、射出成形で得られたプラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含むことを特徴とする表面改質方法が提供される。
【0025】
本発明の表面改質方法では、ペレットを用いた射出成形により形成するプラスチック成形体に対して、ナノオーダの多数の微細穴を形成することができる。プラスチック成形体は、複雑な3次元形状のものであったとしても、アンカリング効果が得られる表面粗さとすることができる。この発明は、様々な種類のプラスチックの表面改質に利用することができる。また、射出成形に用いる装置では、高圧二酸化炭素を用いる必要が無いので、汎用的な射出成形装置をそのまま使用することができる。しかも、フッ素化合物は、成形金型からの離型剤としても有効に機能する。
【0026】
本発明の第3の態様に従えば、プラスチック材料を押出型から押し出すことにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、プラスチック材料に、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、高圧二酸化炭素と接触したプラスチック材料を押出型から押し出すことにより成形するステップと、成形により得られたプラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含むことを特徴とする表面改質方法が提供される。
【0027】
本発明の表面改質方法では、押出成形により形成するプラスチック成形体に対して、ナノオーダの多数の微細穴を形成することができる。プラスチック成形体は、複雑な3次元形状のものであったとしても、アンカリング効果が得られる表面粗さとすることができる。この発明は、様々な種類のプラスチックの表面改質に利用することができる。しかも、フッ素化合物は、成形金型からの離型剤としても有効に機能する。なお、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、加熱シリンダーから押し出しダイまでの間において、溶融プラスチックと接触すればよい。
【0028】
また、フッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を溶融状態にあるプラスチックに接触させているので、アンカリング効果が得られる大きさの微細穴を、プラスチック表面に高密度に且つ均一分散させて形成することができる。なお、これに対して、フッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を、成形後のプラスチック表面に接触させた場合には、特にフッ素化合物の分子量が大きいときには、プラスチックの表面部(表面近傍の内部)においてフッ素化合物が浸透するための自由体積が確保し難い。そのため、このように成形後にフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を接触させた場合にくらべて、溶融プラスチックに対してフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を接触させた方が、きわめて短時間で、良好なアンカリング効果が得られる大きさの微細穴を、プラスチック表面に高密度に且つ均一分散させて形成することができる。
【0029】
本発明の第4の態様に従えば、プラスチック材料を押出型から押し出すことにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、フッ素化合物が分散しているプラスチックのペレットを加熱するステップと、加熱したプラスチックを押出型から押し出して成形するステップと、成形により得られたプラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含むことを特徴とする表面改質方法が提供される。
【0030】
本発明の表面改質方法では、ペレットを用いた押出成形により形成するプラスチック成形体にナノオーダの多数の微細穴を形成することができる。プラスチック成形体は、複雑な3次元形状のものであったとしても、アンカリング効果が得られる表面粗さとすることができる。この発明は、様々な種類のプラスチックの表面改質に利用することができる。押出成形に用いる装置では、高圧二酸化炭素を用いる必要が無いので、汎用的な押出成形装置をそのまま使用することができる。
【0031】
本発明の第1の態様から第4の態様においては、さらに、プラスチックは、熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂には、たとえばポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、非晶質ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、液晶ポリマー、スチレン系樹脂、ポリメチルペンテン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチルエーテルケトン、シクロオレフィンポリマーなどがある。また、熱可塑性樹脂として、複数種類の材料を混合したもの、これらを主成分とするポリマーアロイ、あるいは、これらに各種の充填剤を配合したものであってもよい。そして、高圧二酸化炭素とフッ素化合物とを組合わせることにより、これら各種の熱可塑性樹脂によるプラスチック成形体の表面を所望の表面粗さにすることができる。
【0032】
本発明の第1の態様から第4の態様においては、さらに、プラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解する際の高圧二酸化炭素の圧力は、5MPa〜25MPaであってもよい。高圧二酸化炭素に対するフッ素化合物の溶解度は圧力の上昇とともに高くなる。圧力が5MPa以下であるとフッ素化合物の溶解度が極めて低くなり、プラスチックの表面へのフッ素化合物の浸透効果が現れない。また、25MPa以上の高圧になると、プラスチックに対する高圧二酸化炭素の浸透性が高くなりすぎ、プラスチック成形体において発泡が発生してしまうことを防止することが難しくなる。
【0033】
本発明の第1の態様から第4の態様においては、さらに、フッ素化合物の沸点は、150℃以上であってもよい。この場合、フッ素化合物の沸点が高いため、成形のために加熱により溶融しているプラスチックにおいて、フッ素化合物が熱分解し難くなる。したがって、成形前に分散させたフッ素化合物が成形後のプラスチック成形体に有効に残留し、そのフッ素化合物を高圧二酸化炭素により溶融することにより、プラスチック成形体に所望の量の微細穴を形成することができる。フッ素化合物の量を調整することにより所望の表面粗さを得ることができ、しかも、その表面粗さのばらつきを抑えることができる。
【0034】
また、沸点が200℃以上のフッ素化合物を用いることで、プラスチックとしてポリフェニレンサルファイド(PPS)等の高融点材料を用いたとしても、成形機内でフッ素化合物が分解され難くなり、プラスチック成形体にフッ素化合物を高密度且つ均一に分散させて残留させることができる。沸点が200℃以上のフッ素化合物を用いることで、プラスチックの材料を選ぶことなく、そのプラスチック成形体にフッ素化合物を高密度且つ均一に分散させることができる。
【0035】
本発明の第1の態様から第4の態様においては、さらに、フッ素化合物の分子量は、500〜15000であってもよい。フッ素化合物は、ポリエチレングリコールなどと異なり、高分子のものであっても高圧二酸化炭素に溶解することができる。しかも、フッ素化合物の分子量が500以上であると、射出成形あるいは押出成形時に、フッ素化合物がプラスチック成形体の表面に偏析する(ブリードアウトする)。フッ素化合物は、数十〜数百nmのクラスター状でプラスチック表面近傍に浸透する。そのため、成形後のフッ素化合物の溶融処理において表面に偏析しているフッ素化合物を溶融し、これにより所望の大き目のサイズの微細穴を形成し、高いアンカリング効果が得られる所望の表面粗さを得ることができる。フッ素化合物の除去処理後のプラスチック成形体の表面には、サブミクロンからナノオーダの微細穴が形成される。高分子のフッ素化合物を有効に利用して、高いアンカリング効果が得られる所望の表面粗さを得ることができる。
【0036】
また、フッ素化合物の分子量が15000を越えると、高圧二酸化炭素に対する溶解度が低下し、しかも、溶融プラスチックとの相溶性が低下する。また、分子量の重さにより、フッ素化合物が成形時にプラスチック表面へ浮き出にくくなる。
【0037】
したがって、フッ素化合物の分子量を500〜15000とすると、良好な溶解度によりフッ素化合物がプラスチック成形体の表面部に偏析しつつも、その表面部の全体に均一に分散する。しかも、成形後に、その比較的大きな分子量のフッ素化合物が溶解することにより、プラスチック成形体の表面は、全体的に、高いアンカリング効果が得られる大きめの微細穴が形成され、金属膜のメッキに適した表面粗さとなる。
【0038】
なお、高圧二酸化炭素に対して良好な溶解性を有し、上述した分子量および沸点の条件を満たすフッ素化合物としては、例えば、下記化1に示すPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:996.2、沸点:235℃)、下記化2に示すPerfluorotripentylamine(分子式:C15F33N(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:821.1、沸点:220℃)があげられる。
【0039】
【化1】
【0040】
【化2】
【0041】
また、その他のフッ素化合物として、Perfluoro-2,5,8-trimethyl-3,6,9-trioxadodecanoic acid, methyl ester(分子量:676、沸点:196℃)、Perfluorooctadecanoic acid(分子量:915、沸点:235℃)、Perfluoro(tetradecahydrophenanthrene)(分子量:624、沸点:215℃)、SpectraSynQ1621(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:2120、沸点:220℃)、1H,1H-Perfluoro-1-octadecanol(分子量:900、沸点:211℃)、Hecakis(1H,1H,5H-octafluoropentoxy)phosphazene(分子量:1521、沸点:207℃)、1,2-Bis(dipentafluorophenylphosphino)ethane(分子量:758、沸点:190℃)、Perfluorododecanoic acid(分子量:614、沸点:245℃)、Perfluoro-2,5,8,11-tetramethyl-3,6,9,12-tetraoxapentadecanoyl fluoride(分子量:830、沸点:203℃)、Perfluorohexadecanoic acid (分子量:814、沸点:211℃)、Perfluoro-1,10-decanedicarboxylic acid (分子量:610、沸点:240℃)、等もあげられる。
【0042】
また、沸点が200℃未満であり且つ分子量が500未満であるフッ素化合物としては、たとえば1H,1H-Perfluoro(2,5-dimethyl-3,6-dioxanonan-1-ol)(分子量:482.1、沸点:155℃)がある。
【0043】
本発明の第5の態様に従えば、上述した第1の態様から第4の態様のいずれか一つに記載の表面改質方法により形成されたプラスチック成形体への金属膜の形成方法であって、フッ素化合物を除去した後のプラスチック成形体の表面に金属膜を形成するステップを有することを特徴とする金属膜の形成方法が提供される。
【0044】
本発明の金属膜の形成方法では、プラスチック成形体の表面が、アンカリング効果が得られる金属膜のメッキに適した表面粗さとなっているので、プラスチック成形体に対して、アンカリング効果を持つ密着性の良い金属膜を形成することができる。
【0045】
また、プラスチック成形体の表面に形成される微細穴はサブミクロンからナノオーダのものであるので、金属膜の表面は、平滑性に優れた(表面粗化が抑制され)且つ電気特性の優れたものとなる。そして、プラスチックの表面に形成される微細穴の密度を調整することにより、プラスチックの誘電率、誘電正接等の電気特性や低屈折率化等の光学特性を所望の特性に作り込むことができる。また、プラスチックの表面に形成される微細穴の密度を部分毎に調整することができれば、その全体として光学特性がばらついたものとすることができ、乱反射による反射板などとして用いることも可能となる。
【0046】
本発明の第6の態様に従えば、上述した第1の態様から第4の態様のいずれか1つに記載の表面改質方法であって、プラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を溶解する際の高圧二酸化炭素にメッキ液を相溶させることで、プラスチック成形体の表面に金属膜を形成することを特徴とする金属膜の形成方法が提供される。
【0047】
本発明では、金属膜のメッキ工程を、プラスチック成形体からフッ素化合物を除去する工程と統合することができる。表面改質方法の工程に金属膜のメッキ工程を追加することなく、表面が改質されたプラスチック成形体に金属膜を形成することができる。フッ素化合物を除去した後の表面に汚れなどが付着する前に、メッキをすることができる。それゆえ、プラスチックの表面に形成されたサブミクロンからナノオーダのサイズの微細な凹凸によるアンカリング効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。また、上述したように、本発明の表面改質方法では様々な種類のプラスチックの表面に微細な凹凸を形成できるので、本発明の金属膜の形成方法では、様々な種類のプラスチックの表面に平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。
【0048】
本発明の第5の態様または第6の態様では、さらに、金属膜を形成する前に、プラスチック成形体にメッキ触媒核を分散させるステップを有し、金属膜をメッキ触媒核から成長させてもよい。これにより、金属膜は、プラスチック成形体の表面に形成された多数の微細穴に入り込むだけでなく、プラスチック成形体中のメッキ触媒核から成長するように形成される。したがって、金属膜のアンカリング効果として、単に金属膜が微細穴に入り込んで形成されることにより得られる以上のものを得ることができる。金属膜は、優れた対候性を有する。なお、メッキ触媒核としては、たとえばNi,Pd,Pt,Cu等の金属微粒子を使用すればよい。
【0049】
本発明の第5の態様または第6の態様では、さらに、フッ素化合物を除去した後のプラスチック成形体に、メッキ触媒核を溶融した高圧二酸化炭素を接触させることにより、金属膜を形成する前にプラスチック成形体にメッキ触媒核を分散させてもよい。こにより、プラスチック成形体にメッキ触媒核を分散することができる。しかも、メッキ触媒核を高圧二酸化炭素に溶融して接触させることにより、メッキ触媒核は、プラスチック成形体の表面に略均一に分散することになる。
【0050】
本発明の第5の態様または第6の態様では、さらに、フッ素化合物をプラスチック成形体に分散するために溶融プラスチックと接触される高圧二酸化炭素にメッキ触媒核を溶解することにより、金属膜を形成する前にプラスチック成形体にメッキ触媒核を分散させてもよい。これにより、溶融プラスチックに対して、フッ素化合物とともにメッキ触媒核を分散することができる。メッキ触媒核を分散するための独立した工程を表面改質工程に追加することなく、メッキ触媒核をプラスチック成形体に分散することができる。
【0051】
特に、第6の態様との組合わせにおいては、メッキ触媒核はフッ素化合物とともに溶融プラスチックに分散し、且つ、成形後のプラスチック成形体からフッ素化合物を除去する工程においてメッキを成長させることになるので、プラスチック成形体の表面改質処理工程と同じ工程数により、メッキ処理までを済ませることができる。
【0052】
本発明の第5の態様または第6の態様では、さらに、メッキ触媒核は、フッ素を含有した金属錯体でもよい。これにより、金属錯体が成形後のプラスチック表面に偏析しやすくなる。
【0053】
本発明の第7の態様に従えば、内部にフッ素化合物が分散するとともに、表面部に複数の微細穴が多数形成されることにより多孔性であるプラスチック成形体を有することを特徴とするプラスチック部品が提供される。また、本発明の第7の態様では、さらに、プラスチック成形体の内部にメッキ触媒核が分散していてもよい。また、本発明の第7の態様では、さらに、微細孔は、サブミクロンからナノオーダのサイズであってもよい。また、本発明の第7の態様では、さらに、プラスチック成形体の表面に、微細穴へ入り込んで形成される金属膜を有してもよい。また、本発明の第7の態様では、さらに、金属膜の表面粗さは、ナノオーダであってもよい。
【0054】
本発明のプラスチック部品では、サブミクロンからナノオーダのサイズで表面部に多数形成された複数の微細穴に入り込むことによるアンカリング効果により、プラスチック成形体に対して高い密着性を有する金属膜を形成することができる。特に、内部にメッキ触媒核が分散している場合には、さらに、メッキ触媒核から成長することによるアンカリング効果が得られ、さらに高い密着性を有する金属膜を形成することができる。なお、この金属膜は、上述した第5の態様の金属膜の形成方法あるいは第6の態様の金属膜の形成方法により形成することができる。
【発明の効果】
【0055】
以上のように、本発明の表面改質方法では、プラスチック成形体が複雑な3次元形状のものであったとしても、良好なアンカリング効果が得られる表面粗さに改質することができる。また、この表面改質方法を含む金属膜の形成方法では、プラスチック成形体が複雑な3次元形状のものであったとしても、アンカリング効果を持つ密着性の良い金属膜を形成することができる。そして、このような密着性の良い金属膜を有するプラスチック部品を得ることができる。
【0056】
しかも、これらの方法では、フッ素化合物と高圧二酸化炭素との組合わせにより、プラスチックの材料を選ぶことなく、その成形体にサブミクロンからナノオーダの微細な凹凸を形成することができる。
【0057】
それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を無電解メッキ前処理プロセスとして用いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスを提供することができる。また、プラスチックの表面に形成された微細孔の密度を調整することにより、プラスチックの誘電率、誘電正接等の電気特性や、低屈折率化、高反射率等の光学特性を所望の特性に作り込むことが可能である。
【0058】
また、本発明の金属膜の形成方法では、本発明の表面改質方法により得られたプラスチック成形体の表面に、高圧二酸化炭素などを用いて金属膜を形成するので、プラスチックの表面に形成されたサブミクロンからナノオーダのサイズの微細な凹凸によるアンカリング効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、密着性に優れた金属膜を形成することができる。また、プラスチックの表面に形成された凹凸はサブミクロンからナノオーダのサイズであるので、金属膜の表面は、非常に平滑性に優れ、滑らかなものとなる。また、本発明の金属膜の形成方法では、従来のメッキ法のように有害なエッチャント(エッチング液)を用いることなくプラスチックの表面を粗化できるので、低コスト且つクリーンに金属膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明のプラスチック成形体の表面改質方法、それを含む金属膜の形成方法およびプラスチック部品の実施例を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0060】
図1は、実施例1で成形したプラスチック部品1を模式的に示す断面図である。このプラスチック部品1は、略円板形状のプラスチック成形体2と、その表面に形成される金属膜(メッキ膜)3とを有する。
【0061】
このプラスチック成形体2は、後述する射出成形プロセスにより成形されたものである。そして、プラスチック成形体2は、射出成形の際に、高圧二酸化炭素を用いてフッ素化合物を浸透させた後、高圧二酸化炭素を用いてフッ素化合物を除去することで、その表面が凹凸(多孔性)となるように改質されている。また、後述するように、この表面が改質されたプラスチック成形体2に対して、一般的な無電解メッキにより金属膜(メッキ膜)3を形成することにより、プラスチック部品1を形成した。
【0062】
なお、この例では、プラスチック成形体2の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)を用い、フッ素化合物にはPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6(分子量:996.2、沸点:235℃)を用いた。また、高圧二酸化炭素としては超臨界二酸化炭素(超臨界状態の二酸化炭素)を用いた。
【0063】
[成形装置]
図2は、図1に示したプラスチック成形体2を形成する射出成形装置100の概略構造を示す。この射出成形装置100は、主に、射出成形機部100Aと、超臨界流体発生部100Bとを有する。
【0064】
射出成形機部100Aは、図2に示すように、主に、成形金型101を構成する可動金型102および固定金型103と、PPSからなるペレット(プラスチック成形体2の一種)を収容するホッパ104と、ホッパ104から供給されるペレットを溶融して成形金型101へ射出する可塑化シリンダ105と、を有する。図2のように可動金型102が固定金型103に突き当てられることにより、成形金型101に、中心にスプールを有する円盤形状のキャビティ106が形成される。なお、この例では、図2に示すように、可動金型102及び固定金型103のキャビティ106側の表面のうち、キャビティ106の中央に対応する部分(スプール等)以外の領域の形状は、平面(ミラー面)とした。また、加熱シリンダ(可塑化シリンダ105)内のフローフロント部105Aには、ガス導入機構107が接続されている。射出成形機部100Aのその他の構造は、従来の射出成形機と同様の構造である。
【0065】
超臨界流体発生部100Bは、図2に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ111と、公知のシリンジポンプ2台からなる連続フローシステム(ISCO社製E−260)112と、フッ素化合物を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽113とから構成され、各構成要素は配管114によりその順番で繋がれている。また、溶解槽113は、エアーオペレートバルブ115,116を介して、上述したガス導入機構107に繋がれている。
【0066】
[射出成形方法及び表面改質方法]
次に、図2から図4を用いて、この例の成形方法及び表面改質方法について説明する。図3は、図2の射出成形装置100の成形金型101部分の部分拡大図である。図3(a)は、射出開始直後の状態を模式的に示し、図3(b)は、射出終了時の状態を模式的に示す。図4は、図1のプラスチック部品1の製造工程を示す。
【0067】
まず、図2に示すように、液体二酸化炭素ボンベ111に蓄えられている5〜7MPaの液体二酸化炭素は、連続フローシステム112に導入され、昇圧される。これにより、超臨界二酸化炭素が生成される。なお、連続フローシステム112では、二酸化炭素は、シリンジポンプの少なくとも1台により所定圧力である10MPaに常時昇圧および圧力保持される。
【0068】
次いで、連続フローシステム112から溶解槽113へ超臨界二酸化炭素を導入する。これにより、溶解槽113中のフッ素化合物が超臨界二酸化炭素に溶解する(図4中のステップS1)。溶解槽113は40℃に昇温されており、溶解槽113にはフッ素化合物であるPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideが過飽和になるように仕込まれている。それゆえ、溶解槽113内では、連続フローシステム112より導入された超臨界二酸化炭素に対してフッ素化合物が常時、飽和溶解している。このとき、溶解槽113の圧力計117は10MPaを表示した。
【0069】
次に、一般的な射出成形装置100と同様に、加熱シリンダ105内のスクリュ105Aを回転させ、ホッパ104から供給されるプラスチックのペレットを可塑化溶融する(図4中のステップS2)。また、スクリュ105Aの前に溶融プラスチックが押し出されるように、計量しながらスクリュ105Aを後退させて、所定の計量位置で停止させた。
【0070】
次いで、さらに、スクリュ105Aを後退させ、計量した溶融プラスチックを減圧した。この例では、加熱シリンダ105のフローフロント部105A付近に設けられた溶融プラスチックの内圧モニタ108は、内圧が4MPa以下に低下することを確認した。
【0071】
次に、ガス導入機構107からフッ素化合物が溶解した超臨界二酸化炭素を導入し、加熱シリンダ105のフローフロント部105Aの溶融プラスチックに接触させた(図4中のステップS3)。フッ素化合物が溶解した超臨界二酸化炭素は、加熱シリンダ105内の減圧状態にある溶融プラスチック120に導入して浸透する。具体的には、次のようにしてフッ素化合物が溶解した超臨界二酸化炭素を導入した。まず、第一のエアーオペレートバルブ115を開き、第二のエアーオペレートバルブ116と第一のエアーオペレートバルブ115との間の配管114内にフッ素化合物の溶解した超臨界二酸化炭素を導入して圧力計118を昇圧させた。次いで、加熱シリンダ105への導入時は、第一のエアーオペレートバルブ115を閉じた状態で第二のエアーオペレートバルブ116を開いた。本実施例では、第一のエアーオペレートバルブ115と第二のエアーオペレートバルブ116との間の配管114の内容積により、超臨界二酸化炭素の導入量を制御した。なお、溶融プラスチックに浸透させる超臨界流体は、この例のように単独でもよいし、あるいは複数でもよい。
【0072】
次に、スクリュ105Aを背圧力によって前進させ、充填開始位置までスクリュ105Aを戻した。この動作により、スクリュ105Aの前側のフローフロント部105Aにおいては、二酸化炭素及びフッ素化合物が溶融プラスチック120内に拡散する。
【0073】
次いで、エアーピストン109を駆動してシャットオフバルブ110を開き、可動金型102および固定金型103にて画成されたキャビティ106へ溶融プラスチック120を射出充填した(図4中のステップS4)。
【0074】
図3(a)に示すように、初期充填時には、フローフロント部105Aの溶融プラスチックがまずキャビティ106へ充填される。フローフロント部105Aの溶融プラスチック120Aに浸透しているフッ素化合物及び二酸化炭素は減圧されながらキャビティ106内で拡散する。この際、フローフロント部105Aの溶融プラスチック120Aは充填時の噴水効果により、金型102の表面に接しながら流動し、図4(b)に示すように、スキン層121を形成する。その後、キャビティ106が溶融プラスチック120により埋まると、射出充填が完了する。このようにフローフロント部105Aの溶融プラスチック120Aにフッ素化合物及び二酸化炭素を接触させることにより、キャビティ106内には、溶融プラスチック120により、フッ素化合物が含浸したスキン層121と、その内部の、フッ素化合物(浸透物質)がほとんど浸透していないコア層122とが形成される。
【0075】
なお、後述するように、成形体2の内部に浸透して残留するフッ素化合物は表面機能(表面粗化)に寄与しない。そのため、この例のようにフローフロント部105Aのみにフッ素化合物が溶解した超臨界二酸化炭素を接触させることにより、プラスチック成形体2の表面部(スキン層121)におけるフッ素化合物の量を減らすことなく、フッ素化合物の使用量を削減できる。
【0076】
また、超臨界二酸化炭素のガス化を防止し、ひいてはキャビティ106内での発泡を抑制して成形体2の表面性を得るためには、上述の1次充填後に溶融プラスチックの圧力を高いまま保持する必要がある。そのため、一般的には、射出中および射出後にカウンタープレッシャーをキャビティ106に付加する必要がある。ただし、本実施例の成形方法では、可塑化シリンダ105内のフローフロント部105Aにのみに超臨界二酸化炭素を浸透させているので、充填した樹脂の全体量に対する二酸化炭素の絶対量が少ない。それゆえ、溶融プラスチックの圧力を保持するためにカウンタープレッシャーを付加しないでも、プラスチック成形体2の表面性が悪化し難い。
【0077】
次に、このようにキャビティ106内でプラスチック成形体2を成形した後、超臨界二酸化炭素を溶媒として用いて、プラスチック成形体2からフッ素化合物を除去(洗浄)した(図4中のステップS5)。本実施例では、キャビティ106内が温度40℃且つ圧力15MPaとなるように制御し、その状態を30分続けた。温度40℃且つ圧力15MPaになると、二酸化炭素は、超臨界状態となる。この洗浄処理により、プラスチック成形体2の表面には、微細な凹凸(微細穴)が高密度に形成された。すなわち、洗浄処理により、プラスチック成形体2の表面形状を物理的に変化させた。このようにして、この例では、プラスチック成形体2の表面改質を行った。
【0078】
なお、本実施例において、フッ素化合物と超臨界二酸化炭素(高圧二酸化炭素)を接触させる場合においては、非晶性樹脂材料が十分に膨潤するように樹脂材料のガラス転移温度近傍の温度において、処理を行うことが望ましい。また、樹脂材料内部に導入したフッ素化合物のみを溶解および抽出する場合においては、ガラス転移温度よりも十分低い温度にて処理することが望ましい。抽出時には樹脂が膨潤することで孔のサイズが拡大してしまうためである。
【0079】
このプロセスにより、ポリフェニレンサルファイド製のプラスチック成形体2の表面に浸透していたフッ素化合物、すなわちPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideが脱離し、その離脱した部分には、微細穴が形成される。すなわち、洗浄処理により、プラスチック成形体2の表面に微細穴(微細な凹凸)を形成した(表面を祖化または多孔質化させた)。
【0080】
図5(a)は、洗浄処理前のプラスチック成形体2の表面に相当する、超臨界二酸化炭素により洗浄していないプラスチック成形体2の表面のAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)観察像である。図5(b)は、超臨界二酸化炭素により洗浄した後のプラスチック成形体2の表面のAFM観察像である。図5(b)から明らかなように、洗浄処理後のプラスチック成形体2の表面には、100〜300nm程度(サブミクロンからナノオーダ)のサイズの微細穴が多数形成されている。プラスチック成形体2の表面には、この多数の微細穴により凹凸面に改質された。
【0081】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上述のようにして作製されて、その表面部に多数の微細穴による凹凸が形成されているプラスチック成形体2に対して、無電解メッキにより金属膜(メッキ膜)3を形成した。具体的には、次のようにして、無電解メッキ膜を形成した。
【0082】
まず、ポリフェニレンサルファイド製のプラスチック成形体2を公知のコンディショナー(奥野製薬工業(株)製 OPC−370)を用いて脱脂した。次いで、触媒(奥野製薬工業(株)製 OPC−80キャタリスト)をプラスチック成形体2に付与し(図4中のステップS6)、その後、活性剤(奥野製薬工業(株)製 OPC−500アクセレーターMX)を用いて触媒を活性化した。次いで、無電解Niメッキを施した(図4中のステップS7)。なお、メッキ液には奥野製薬工業(株)製 ニコロンDKを用いた。
【0083】
その結果、プラスチック成形体2に形成したメッキ膜には剥離等が確認されなかった。
【0084】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が15.2nm、十点平均粗さ(Rz)が105.8nmであった。従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜での算術平均粗さ(Ra)は、約数μm〜数十μm(ミクロンオーダ)である。すなわち、この例で形成したメッキ膜の表面粗さは、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したものとくらべて、桁違いに小さな値となり、メッキ膜の表面として良好な平滑性を得ることができた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性に優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0085】
その後、大気中でさらに、従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)をした。その結果、上述したすべての試験において、金属膜3の剥離やふくれなどが認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離などは生じなかった。
【0086】
また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温環境試験や、温度を−40℃と85℃との間で温度を切り替えるヒートサイクル試験を10サイクルを行った際にも、同様の結果が得られた。
【0087】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、従来の方法を略そのまま用いた簡便な方法により、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体(ポリマー部材)2に形成でき、しかも、樹脂成形において表面改質をすることにより、成形体の脱脂工程、エッチング工程、中和及び湿潤化工程、触媒付与工程、触媒活性化工程などを省略して、プロセス全体を簡略化することができることが分かった。
【実施例2】
【0088】
実施例2では、実施例1と同様に、プラスチック成形体(プラスチック)2を射出成形により成形する際に、超臨界二酸化炭素を用いてフッ素化合物をプラスチック成形体2に浸透させた後、超臨界二酸化炭素を用いてプラスチック成形体2からフッ素化合物を除去することで、その表面が凹凸となるように改質した。また、この表面が改質されたプラスチック成形体2に対して、超臨界二酸化炭素を用いて金属触媒核(金属微粒子)を付与した後、超臨界二酸化炭素を用いて金属膜(メッキ膜)3を形成することにより、プラスチック部品1を形成した。
【0089】
なお、この例では、フッ素化合物を除去したプラスチック成形体2(ポリマー部材)に、バッチ方式にて金属触媒核を付与した。また、金属膜3は、超臨界二酸化炭素と無電解Niメッキ液の混合溶液によりエマルションを形成し、該混合溶液のエマルション中で無電解メッキを行った。なお、超臨界二酸化炭素を用いた無電解メッキ膜を形成した後に、さらにその上にたとえば銅や銀の膜を形成してもよい。
【0090】
なお、本実施例のプラスチック部品1の基本構造と、フッ素化合物を抽出したプラスチック成形体2を得るまでの工程とは、実施の形態1と同様であり説明を省略する。ここでは、主に、フッ素化合物を抽出することで凹凸な表面に改質されたプラスチック成形体2に対するメッキ膜の形成処理について説明する。
【0091】
[メッキ膜の形成方法]
まず、実施例1の方法により形成されたプラスチック成形体2は、金属錯体とともに、図示しない表面改質装置の高圧容器内に装着される。なお、この際、プラスチック成形体2の全表面が、後に高圧容器へ導入される超臨界二酸化炭素と接触できるように、プラスチック成形体2を高圧容器の中央部分に浮かせて保持した。また、この例では、金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0092】
プラスチック成形体2および金属錯体を、高圧容器に収容した後、高圧容器内に15MPaの超臨界二酸化炭素を導入した。高圧容器内に仕込まれた金属錯体は、超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界二酸化炭素とともにプラスチック成形体2の表面からその内部へ浸透する。この圧力を150℃で30分間を保持することにより、プラスチック成形体2の表面部に全体的に浸透した金属錯体の一部が還元する。
【0093】
次に、金属錯体が浸透したプラスチック成形体2に無電解メッキを施し、プラスチック成形体2の表面にメッキ膜を形成した。実際には、超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液の混合溶液により該混合溶液中で無電解メッキを行った。まず、金属錯体(金属触媒核、金属微粒子)を付与したプラスチック成形体2を表面改質装置の高圧容器から取り出し、無電解メッキ装置200の高圧容器内に装着した。
【0094】
図6は、無電解メッキ装置200を示す。無電解メッキ装置200は、主に、液体二酸化炭素ボンベ201と、シリンジポンプ202と、高圧容器203とを有する。高圧容器203は、温調流路211を流れる図示しない温調機により温度制御された温調水により30℃から145℃の任意の温度により温調することができる。容器本体203Aと蓋203Bとが、公知のバネが内蔵されたポリイミド製シール203Cによりシールされることで、高圧容器203は、高圧ガスなどを内部に密閉することができる。
【0095】
プラスチック成形体2は、その全表面が後に高圧容器203へ導入される超臨界二酸化炭素と接触できるように、プラスチック成形体2を高圧容器203の蓋203Bから吊るして保持される。また、高圧容器203には、その内容積の70%まで無電解ニッケルメッキ液204が満たされ、マグネチックスタラー205が配設されている。
【0096】
なお、高圧容器203には、腐食されにくい材質を用いることが望ましく、SUS316、SUS316L、インコネル、ハステロイ、チタン等を用いることができるが、本実施例においてはSUS316Lを用いた。本発明においては、高圧容器203の内壁面が無電解メッキ液204に接触する場合、容器内部にメッキ膜が成長しないように、内壁面表面には、非メッキ成長膜がコーティングされていることが望ましい。非メッキ成長膜の材質としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、PTFE(ポリテトラフロオロエチレン)、PEEK(ポリエチルエーテルケトン)等を用いることができるが、本実施例の高圧容器203は、DLCをCVD(Chemical Vapor Deposition化学気相法)にてコーティングされている。
【0097】
また、本発明において用いることのできる無電解メッキ液204の種類はニッケル−リン、ニッケル−ホウ素、パラジウム、銅、銀、コバルト等任意であるが、本実施例においてはニッケル−リンを用いた。高圧二酸化炭素がメッキ液204に浸透することでメッキ液204のpHが低下するので、本発明では中性あるいは弱アルカリ性から酸性の浴でメッキできる液が好適であり、ニッケル−リンはpH4〜6の範囲で用いることができるので望ましい。また、pHが低下すると、リン濃度が上昇し、析出速度が低下してしまうなどの弊害が生じるので、予めメッキ液204のpHを上昇させておくようにしてもよい。
【0098】
特に、本発明の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキに関しては、アルコールが含まれる無電解メッキ液204中でメッキ反応を行っても良い。アルコールは、攪拌せずとも、超臨界状態の二酸化炭素と高圧状態にて相溶しやすい。本発明者らの検討によれば、メッキ液204は水が主成分であるが、アルコールを添加することにより、高圧状態の二酸化炭素とメッキ液204が安定に混ざりやすくなる。安定した混合状態を得るために、フッ素化合物を使用したり、攪拌したりする必要がなくなる。また、メッキ液204にアルコールを添加すると、メッキ液204の表面張力が低下するため、プラスチック成形体2内に高圧二酸化炭素とともにメッキ液204を浸透させてその内部でメッキ反応を成長させるために好都合である。
【0099】
通常、無電解メッキ液204は、金属イオンや還元剤等の入った原液に、例えばメーカー推奨の成分比により水で薄めてメッキ液204を健浴するが、本発明においては、アルコールを任意の割合で水に添加すればよい。水とアルコールの体積比は、任意であるが、メッキ液204の10〜80%の範囲であることが望ましい。アルコール成分比が10%より小さいと、安定な混合液が得られにくくなる。また、アルコール成分比が80%より大きいと、たとえばニッケル−リンメッキに用いられる硫酸ニッケルは、エタノール等の有機溶媒に不溶であるため、浴が安定しないことがある。
【0100】
そして、本実施例においては、メッキ液204中に、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤の含まれる原液として奥野製薬社製ニコロンDKを150ml添加し、水を350ml、アルコールとしてエタノールを500mlそれぞれ加え調合した。つまり、アルコール成分比は、メッキ液204中50%とした。硫酸ニッケルはアルコールに不溶なので、アルコールの添加量が80%を超えると硫酸ニッケルが多く沈殿するので適用できないことがわかった。
【0101】
なお、本発明に用いることのできるアルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができるが、本実施例ではエタノールを用いた。
【0102】
図6の金属無電解メッキ装置200に、錯体が付与されたプラスチック成形体2を装着した後、無電解メッキ装置200に超臨界二酸化炭素を導入した。超臨界二酸化炭素は、液体二酸化炭素ボンベ111からフィルター206を通ってシリンジポンプ202で15MPaに昇圧され、手動バルブ207から高圧容器203へ導入される。シリンジポンプ202は、手動バルブ207を開いた状態で圧力を一定にする制御を実行し、高圧容器203の内部温度あるいは超臨界二酸化炭素の密度が変化したとしてもそれによる圧力変動を吸収し、高圧容器203の内部圧力を安定に保持することができる。
【0103】
高圧容器203へ超臨界二酸化炭素を導入する際の、高圧容器203およびメッキ液204の温度は、温調流路211を流れる温調水により、50℃に維持されている。これに対して、メッキ液204の反応温度は、70℃〜85℃である。したがって、この超臨界二酸化炭素の導入時には、マグレチックスタラー205を高速で回転させたとしても、無電界メッキ液204は超臨界二酸化炭素とともにプラスチック成形体2の内部に入り込むだけであり、プラスチック成形体2においてメッキが成長することはない。
【0104】
その後、プラスチック成形体2および超臨界二酸化炭素と相溶したメッキ液204の温度を、メッキ液204の反応温度(85℃)に上昇させた。これにより、収容容器203内では、メッキ反応が起きた。
【0105】
このようにメッキ反応温度よりも低い温度において超臨界二酸化炭素を導入し、その後にメッキ反応温度へ上昇させることにより、無電解メッキ液204は、高圧二酸化炭素とともにプラスチック成形体2の内部に予め浸透し、その事前の浸透がなされた状態においてメッキ膜の成長が始まることになる。その結果、メッキ膜は、プラスチック成形体2の内部において反応し、プラスチック成形体2の内部から成長するように形成される。
【0106】
メッキ処理後、マグネチックスタラー205を停止させた。これにより、二酸化炭素とメッキ液204とは、収容容器内で2相に分離する。その後、導入側の手動バルブ207を閉じ、排出側の手動バルブ208を開き、二酸化炭素を排気した。本実施例のプラスチック成形体2を高圧容器203から取り出したところ、その表面全体に金属光沢がみられた。
【0107】
次に、このメッキ膜3が形成されたプラスチック成形体2に対して、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離等は確認されなかった。
【0108】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が22.3nm、十点平均粗さ(Rz)が107.2nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて桁違いに小さな値が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0109】
さらに、この無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2に対して、大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)を実施した。その結果、すべての試験において金属膜3の剥離、ふくれ等は認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離等は生じなかった。また、温度150℃、放置時間500時間の条件での高温試験と、温度を−40℃と85℃との間で切り替えるヒートサイクルを10回繰り返す試験とを実施したが、同様に良好な結果を得ることができた。
【0110】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法では、従来の方法を略そのまま用いた簡便な方法により、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体(ポリマー部材)2に形成でき、しかも、樹脂成形において表面改質をすることにより、成形体の脱脂工程、エッチング工程、中和及び湿潤化工程、触媒付与工程、触媒活性化工程などを省略して、プロセス全体を簡略化することができることが分かった。
【実施例3】
【0111】
実施例3では、実施例1と同様に、プラスチック成形体2(プラスチック)を射出成形により成形する際に、超臨界二酸化炭素を用いてフッ素化合物および金属触媒核(金属微粒子)をプラスチック成形体2に浸透させた後、プラスチック成形体2からフッ素化合物を除去することで、その表面が凹凸となるように改質した。また、この表面が改質されたプラスチック成形体2に対して、超臨界二酸化炭素を用いて金属膜(メッキ膜)3を形成することにより、プラスチック部品1を形成した。
【0112】
なお、プラスチック成形体2に浸透させた2種類の物質は、実施例1で成形前に浸透させたフッ素化合物(Perfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6、分子量:996.2、沸点:235℃)と、実施例2で成形後に浸透させた金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))とである。本発明においては、フッ素を含有し、超臨界二酸化炭素(高圧二酸化炭素)に溶解する金属錯体とフッ素化合物とを混合することで、金属錯体が成形後のプラスチック表面に偏析しやすくなる。フッ素含有錯体の周囲をフッ素化合物が取り囲むことによって錯体の耐熱性が一時的に向上し、フッ素化合物とともに表面にブリードアウトしやすくなると考えられる。また、プラスチック成形体2の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。また、金属膜3の形成においては、超臨界二酸化炭素と無電解Niメッキ液の混合溶液によりエマルションを形成し、該混合溶液のエマルション中で無電解メッキを行った。
【0113】
[成形装置]
この例では、図2に示す射出成形装置100を使用した。そして、この溶解槽113には、上述した2種類の浸透物質(フッ素化合物及び金属錯体)が過飽和になるように仕込まれている。それ以外は、実施例1と同様にして射出成形を行い、メッキ処理を行った。
【0114】
[射出成形方法及び表面改質方法]
図7は、実施例3のプラスチック部品1の製造工程を示す。まず、実施例1と同様に、2種類の浸透物質(フッ素化合物及びフッ素含有の金属錯体)が溶解した超臨界二酸化炭素を加熱シリンダ105内の溶融プラスチック120に導入し、2種類の浸透物質が表面部121に含浸したプラスチック成形体2を作製した(図7中のステップS21〜S24)。なお、この成形過程では溶融プラスチック120の熱により、浸透した金属錯体の多くが金属微粒子に還元される。
【0115】
次いで、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、プラスチック成形体2からフッ素化合物を除去した(図7中のステップS25)。成形金型101内のキャビティ106の温度を40℃に制御するとともにキャビティ106の内圧を15MPaとし、その状態に30分間維持した。これにより、超臨界状態の二酸化炭素により、プラスチック成形体2の洗浄処理がなされる。プラスチック成形体2に浸透している浸透物質のうち、フッ素化合物がプラスチック成形体2の表面から脱離し、その表面に微細な凹凸(微細穴)が形成される。なお、もう一方の浸透物質である金属微粒子は、この洗浄処理によりほとんど除去されることはなく、洗浄後もプラスチック成形体2の表面内部に浸透していた。この例では、このようにしてプラスチック成形体2の表面を改質した。
【0116】
[メッキ膜の形成方法]
次に、実施例2と同様に、超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液の混合溶液を形成し、表面改質済みのプラスチック成形体2をこれに浸した。この無電解メッキにより、プラスチック成形体2の表面に金属膜3が形成された。これにより、実施例3のプラスチック部品1が形成された(図7中のステップS26)。
【0117】
次に、このプラスチック部品1について、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離等は確認されなかった。
【0118】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が27.6nm、十点平均粗さ(Rz)が105.3nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)とは桁違いに小さい値の良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0119】
その後、大気中でさらに従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)をした。その結果、すべての試験において、金属膜3の剥離やふくれなどが認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離などは生じなかった。
【0120】
また、温度150℃、放置時間500時間の条件での高温環境試験と、温度を−40℃と85℃との間で切り替えるヒートサイクルを10回繰り返す試験とを行った際にも、同様な結果が得られた。
【0121】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、従来の方法を略そのまま用いた簡便な方法により、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体(ポリマー部材)2に形成でき、しかも、樹脂成形において表面改質をすることにより、成形体の脱脂工程、エッチング工程、中和及び湿潤化工程、触媒付与工程、触媒活性化工程などを省略して、プロセス全体を簡略化することができることが分かった。
【実施例4】
【0122】
実施例4では、プラスチック成形体2(プラスチック)を射出成形により成形する際に、高圧二酸化炭素を用いてフッ素化合物および金属錯体をプラスチック成形体2の表面に浸透させた後、超臨界二酸化炭素を用いてプラスチック成形体2からフッ素化合物を除去することで、その表面が凹凸となるように改質した。また、この表面が改質されたプラスチック成形体2に対して、超臨界二酸化炭素を用いて金属膜(メッキ膜)3を形成することにより、プラスチック部品1を形成した。
【0123】
ただし、この例では、プラスチック成形体2の射出成形において、2つのシリンダを有するサンドイッチ射出成形装置300を用いた。2つのシリンダの内の、外皮を形成する第一の可塑化シリンダ301には、フッ素化合物および金属錯体が超臨界二酸化炭素に溶解して導入される。
【0124】
また、この例では、超臨界二酸化炭素と無電解Niメッキ液の混合溶液によりフッ素化合物を除去するとともに、さらに該混合溶液中で無電解メッキを行うことで金属膜3を形成した。
【0125】
[射出成形]
図8は、サンドイッチ射出成形装置300の概略構成を示す。図9から図14は、後述する各工程での要部拡大図である。このサンドイッチ射出成形装置300は、外皮を形成する第一の可塑化シリンダ301と、内皮を形成する第二の可塑化シリンダ302とを有する。外皮を形成する第一の可塑化シリンダ301には、フッ素化合物および金属錯体が超臨界二酸化炭素に溶解して導入される。なお、第二の可塑化シリンダ302に対しても、フッ素化合物および金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させて導入するようにしてもよい。
【0126】
なお、超臨界二酸化炭素に溶解させる機能性材料の種類は任意であるが、本実施例においては、フッ素化合物および金属錯体を用いた。フッ素化合物には、実施例1で使用したフッ素化合物(Perfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl
fluoride(分子式:C18F36O6、分子量:996.2、沸点:235℃))を使用し、金属錯体には、実施例2のヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を使用した。また、これらの機能性材料は、温度40℃、圧力10MPaの超臨界二酸化炭素に溶融して導入される。
【0127】
また、外皮を形成し、高圧二酸化炭素により機能性材料が分散される樹脂材料の種類は、熱可塑性樹脂材料であれば任意であり、非晶性、結晶性いずれでも適用できるが、本実施例においてはポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。
【0128】
また、内皮を形成する樹脂材料の種類は任意であり、外皮と同様な種類を選択することもできる。また、内皮にのみガラス繊維や無機フィラー等を混合した材料を使用することで表面性が良好で、機械的強度や寸法安定性、吸湿性に優れた成形体を得ることができる。本実施例においてはガラス繊維が30%混合したポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。
【0129】
成形金型303およびキャビティ306の形態は平面的なものに限られるものではなく、任意の三次元形状であるものであってもよい。そして、本実施例では、固定金型304および可動金型305より形成されるキャビティ106は、スプールを中心にして、自動車用のヘッドランプリフレクター(プラスチック成形体2の一種)が2個取り可能な形状とした。固定金型103は、成形機の固定プラテン307に固定され、可動金型102は可動プラテン308に固定され、型締め機構により駆動されることにより、可動プラテン308が固定プラテン307と接離する方向へ移動し、成形金型101が開閉する。
【0130】
[射出成形方法及び表面改質方法]
図15は、実施例4のプラスチック部品1の製造工程を示す。本実施例においては、超臨界二酸化炭素への浸透物質の溶解および可塑化シリンダ105への導入は、下記の方法で行った。
【0131】
まず、液体二酸化炭素ボンベ331より供給された二酸化炭素をシリンジポンプ332にて所定圧まで昇圧し、過飽和になるように溶解槽333内に仕込まれたフッ素化合物および金属錯体を溶解させた(図15中のステップS31)。この際、導入シリンダ313までの区間を加圧した。本実施例においては、後述する可塑化計量時における高圧二酸化炭素および機能性材料を可塑化シリンダ301内に導入するタイミング以外においては、シリンジポンプ332を溶解槽333から導入シリンダ313まで一定圧力に保持する制御とした。
【0132】
第一の可塑化シリンダ301に内蔵された第一のスクリュ301Aには2箇所の減圧箇所をベント部311,312としてそれぞれ設けた。図9に示すように、可塑化計量時には、第一のスクリュ301Aの回転によりスクリュ301A前方の内圧が上昇し、スクリュ301Aが後退し始めるが、その際に導入シリンダ313の下部に設けられたベント部312において溶融樹脂は減圧され、同時に導入シリンダ313内におけるエアー駆動式の導入ピストン313Aを上昇させ、減圧樹脂内部に浸透させた(図15中のステップS32〜S33)。機能性材料の溶解した高圧二酸化炭素の樹脂内部への浸透時間中は、シリンジポンプ332を流量制御に切り替え一定流量の高圧二酸化炭素を一定時間、可塑化シリンダ105内に注入した。
【0133】
本実施例の成形装置においては、機能性材料を溶解させ溶融樹脂に浸透させた高圧二酸化炭素を射出充填前に排気させる機能を有する。図10に示すように、可塑化計量時に第一のスクリュ301Aおよび第二のベント部312にて樹脂を減圧し、高圧二酸化炭素を超臨界状態の圧力以下に減圧してガス化させた。同時に排出シリンダ314に内蔵された排気ピストン314Aを上昇させ、ガス化した二酸化炭素の一部を可塑化シリンダ301より排気した。二酸化炭素は、フィルター315、バッファー容器316を通過した後、減圧弁317で圧力計318が0.5MPaになるように減圧され、真空ポンプ319から排気された。
【0134】
第一のホッパ104より供給された図示しない樹脂ペレットは、第一の可塑化シリンダ301内に浸透物質(フッ素化合物、金属錯体)および高圧二酸化炭素が均一に拡散した状態で可塑化溶融される。第一の可塑化シリンダ301と第二の可塑化シリンダ302の金型への流通はロータリーバルブの回転によって制御される。例えば、第一の可塑化シリンダ301における可塑化計量時には、加圧された樹脂がノズルの先端部より金型内へ漏れないように、図9および図10に示すように、ロータリーバルブは第二の可塑化シリンダ302とノズルとの間に樹脂流動路を形成するように設定されている。
【0135】
第一のスクリュ301Aで第一の樹脂材料の可塑化計量が完了したタイミングで、図10に示すように、導入シリンダ313の導入ピストン313Aおよび排出シリンダ314の排出ピストン314Aを下降させ、同時にシリンジポンプ332を圧力制御に切り替え、高圧二酸化炭素の導入および排気を停止した。
【0136】
次に図11に示すように、第一の可塑化シリンダ301より可塑化計量された溶融樹脂が第一のスクリュ301Aの前進により金型303内へスプールおよびキャビティ106内に射出充填される際には、ロータリーバルブ321は回転し、第一の可塑化シリンダ301とノズル322の樹脂流動路を形成した。
【0137】
同時に第二の可塑化シリンダ302では、図示しない第二のホッパより供給された、内皮を形成する樹脂ペレットを第二のスクリュ302Aの回転により可塑化計量した。図12に示すように、第一の樹脂が充填完了する直前には、第二の樹脂の可塑化計量が完了する。
【0138】
第一の可塑化シリンダ301より、外皮を形成する第一の樹脂材料が充填された(図15中のステップS34)直後、ロータリーバルブ321を回転させ、図13に示すように、第二の可塑化シリンダ302より第二の樹脂材料を射出充填した(図15中のステップS35)。そして図14に示すように、キャビティ106内には、サンドイッチ成形体(プラスチック成形体2の一種)343が射出成形される。このサンドイッチ成形体343の外皮部341は、2種類の浸透物質(フッ素化合物及びフッ素含有の金属錯体)が分散した第一の樹脂材料により形成され、内皮部342は、第二の樹脂材料により形成されている。なお、この成形過程では溶融樹脂の熱により、浸透した金属錯体の多くが金属微粒子に還元される。冷却固化させた後、金型を開き、サンドイッチ成形体343を取り出すことにより、2種類の浸透物質が表面に含浸したプラスチック成形体2を作製した。
【0139】
[フッ素化合物の抽出方法とメッキ膜の形成方法]
図16は、無電解メッキ装置200を示す。この無電解メッキ装置200は、図6のものと略同様の構成を有する。ただし、この例では、メッキ液およびプラスチック成形体2は、室温に保持したテフロン(登録商標)製内部容器251に収容され、このテフロン(登録商標)製内部容器251が、予め90℃に温調された高圧容器203に収容される。また、高圧容器203には、収容後ただちに15MPaの超臨界二酸化炭素が導入される。
【0140】
高圧容器203に超臨界二酸化炭素が導入された直後は、内部容器251には熱伝導性の低い樹脂を使用しているので、内部容器251内の温度は、急激に上昇してしまうことはなく、しばらくの間はメッキ反応が起こる温度以下の低温に維持される。そのため、超臨界二酸化炭素は、プラスチック成形体2に浸透している浸透物質のうち、フッ素化合物であるPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6、分子量:996.2、沸点:235℃)をプラスチック成形体2から除去する。これにより、プラスチック成形体2の表面には、微細な凹凸(微細穴)が形成される(図15中のステップS36)。
【0141】
その後、時間の経過とともに、内部容器251内の温度が上昇する。内部容器251内の温度は、最終的にはメッキ反応温度に上昇する。これにより、内部容器251内ではメッキ反応が起こり、プラスチック成形体2の表面にメッキ膜3が成長する(図15中のステップS37)。この際、この実施例のメッキ膜3の形成方法では、上述のようにプラスチック成形体2の内部に存在する金属微粒子のところまで無電解メッキ液204が事前に浸透しているので、プラスチック成形体2の表面だけでなく、その内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜3が成長する。すなわち、この実施例のメッキ膜の形成方法では、メッキ膜3は、プラスチック成形体2の内部の自由体積内においても成長し、プラスチック成形体2の内部に食い込んだ状態で形成され、強い密着強度を持つ。
【0142】
次に、メッキ膜3が形成されたプラスチック成形体2に対して、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離等は確認されなかった。
【0143】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が31.2nm、十点平均粗さ(Rz)が111.5nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて桁違いに小さい値が得られ、良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0144】
その後、さらに大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)をした。その結果、すべての試験において金属膜3の剥離やふくれなどは認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離などは生じなかった。
【0145】
また、温度150℃、放置時間500時間の条件での高温試験と、温度を−40℃と85℃との間で10回切り替えるヒートサイクル試験とを行ったところ、同様な結果が得られた。
【0146】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、簡便な方法により、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体2に形成できた。
【実施例5】
【0147】
実施例5では、射出成形時には超臨界二酸化炭素を用いないプラスチック成形体2の表面を改質する方法と、超臨界二酸化炭素を用いてプラスチック成形体2の表面にメッキ膜3を形成する方法の例について説明する。
【0148】
この例では、フッ素化合物としてPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6、分子量:996.2、沸点:235℃)を用い、プラスチック成形体2の形成材料としてはポリカーボネートを用いた。以下に、この例のプラスチック成形体2の成形方法及び表面改質方法からメッキ膜の形成方法までの手順を図17を用いて説明する。
【0149】
[成形方法及び表面改質方法]
まず、この例では、射出成形をする前に、プラスチック成形体2の形成材料であるポリカーボネートと、浸透物質であるPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideとを、公知の押出成形機内で混練してペレット(第1プラスチック樹脂)を作製した。具体的には、ポリカーボネートに対するPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideの混合比を30%として押出成形機に供給し、スクリュにて溶融及び混練しながらノズル先端のダイから樹脂を押出した。得られた成形体を冷却バスにて冷却し、ペレタイザーにて造粒した。この際、ポリカーボネートとPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideとの混練を均一にするために、添加剤により末端基を改質して親和性を向上させる等の改質を施しても良い。
【0150】
また、この例では、射出成形をする前に、第二のペレットとして、公知の押出成形機で、Perfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideを含まないポリカーボネートからなるペレット(第2プラスチック樹脂)を作製した(図17中のステップS41)。なお、本発明では、プラスチック成形体2の形成材料は、押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意である。
【0151】
次に、この2種類のペレットを用いて、公知のサンドイッチ成形装置によりプラスチック成形体2を成形した。この例で用いたサンドイッチ成形装置は、射出成形装置100の一種であり、図8のものと同様に2つの加熱シリンダと、それらの先端ノズルと流通した金型とを備える。そして、このサンドイッチ成形装置は、一方の加熱シリンダ(以下、第1加熱シリンダともいう)から溶融樹脂を金型内に射出した後、他方の加熱シリンダ(以下、第2加熱シリンダともいう)から溶融樹脂を射出充填することで、プラスチック成形体2を成形する。
【0152】
具体的には、まず、第1加熱シリンダ内に、フッ素化合物を含むポリカーボネート(第1プラスチック樹脂)のペレットを供給し、可塑化溶融した(図17中のステップS42)。また、第2加熱シリンダ内に、フッ素化合物を含まないポリカーボネート(第2プラスチック樹脂)のペレットを供給し、可塑化溶融した(図17中のステップS43)。
【0153】
次いで、第1加熱シリンダからフッ素化合物を含むポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出した(図17中のステップS44)。次いで、溶融樹脂の射出経路を第2加熱シリンダに切り替えて、第2加熱シリンダからフッ素化合物を含まないポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出充填した(図17中のステップS45)。
【0154】
この結果、フッ素化合物を含まないポリカーボネートからなるコア層342と、コア層342上に形成されたフッ素化合物を含むポリカーボネートからなるスキン層341とを有するプラスチック成形体2が得られた。
【0155】
この例では、このようにして、射出成形時に超臨界二酸化炭素を用いないで、表面にフッ素化合物が含浸したプラスチック成形体2を作製した。なお、プラスチック成形体2の成形方法としては、サンドイッチ成形に限らず、インサート成形、二色成形等を用いても良い。
【0156】
サンドイッチ成形で作製されたプラスチック成形体2を、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、プラスチック成形体2の表面からフッ素化合物を除去した(図17中のステップS46)。
【0157】
[メッキ膜の形成方法]
次に、表面に微小穴が形成されたプラスチック成形体2に、メッキ触媒核を溶融させた超臨界二酸化炭素を接触させて、プラスチック成形体2の表面部に、メッキ触媒核を付与した(図17中のステップS47)。
【0158】
次に、メッキ触媒核が付与したプラスチック成形体2を、超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液の混合液中に浸し、プラスチック成形体2の表面にメッキ膜3を形成した(図17中のステップS48)。
【0159】
次に、メッキ膜3が形成されたプラスチック成形体2に対して、実施例1同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離などは確認されなかった。
【0160】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が30.9nm、十点平均粗さ(Rz)が117.2nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて桁違いに小さい、良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0161】
その後、さらに、大気中でメッキ膜3の上に従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)をした。その結果、すべての試験において金属膜3の剥離やふくれなどは認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離などは生じなかった。
【0162】
また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験と、温度を−40℃と85℃との間で10回切り替えるヒートサイクル試験とを行った際も、同様な結果が得られた。
【0163】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、簡便な方法により、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体2に形成できた。
【0164】
【表1】
【0165】
表1に実施例1〜5のメッキ後の試験結果をまとめる。
【0166】
この結果から、すべての実施例において、外観、メッキ膜密着度、メッキ面平滑性とも良好な結果が得られた。これは、従来のエッチャントを使用してミクロンオーダに基板表面を粗らした場合にくらべて、プラスチック成形体2の表面平滑性を損なうことなく、微細な凹凸を高密度に均一分散することができ、その結果として、十分なアンカリング効果を得ることができたためであると考えられる。
【0167】
金属膜3の表面粗さが大きい場合には、金属膜3の反射率や電気特性(抵抗等)等が劣化してしまうことになるが、本発明のメッキ膜の形成方法では、成形体2の表面粗さを非常に小さくすることができるので、例えば、高反射率を必要とするリフレクター、良好な電気特性を必要とする高周波電気回路やアンテナなどの用途で用いられるプラスチック部品1の金属膜3の形成方法として好適である。
【0168】
実施例1〜5では、浸透物質(フッ素化合物及び/又は金属錯体)を溶解槽で高圧二酸化炭素に溶解させた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、予め浸透物質が溶解した高圧二酸化炭素を充填したボンベ等の貯蔵器を用い、その貯蔵器から浸透物質が溶解した高圧二酸化炭素を直接プラスチック(または溶融樹脂)に供給(導入)しても良い。
【実施例6】
【0169】
実施例6では、フッ素化合物として1H,1H-Perfluoro(2,5-dimethyl-3,6-dioxanonan-1-ol)(分子量:482.1、沸点:155℃)を用いること以外、実施例1と同様の方法により射出成形、表面改質、メッキ膜3を形成した。
【0170】
そして、このメッキ膜3が形成されたプラスチック成形体2に対して、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離などは確認されなかった。
【0171】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が12.3nm、十点平均粗さ(Rz)が101.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて桁違いに小さい値となり、良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。
【0172】
すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0173】
その後、大気中でさらに、従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)と、温度150℃、放置時間500時間の条件での高温試験とを行った。その結果、金属膜3の剥離やふくれなどは認められず、その後におこなったテープによるピール試験においても剥離などが生じなかった。
【0174】
更に、温度を−40℃と85℃との間で10回切り替えるヒートサイクル試験を行った。この場合でも、金属膜3の剥離やふくれなどは認められなかった。その後のテープによるピール試験では、一部に剥離が認められたが、実用上問題のない密着力を有するメッキ膜3であると判断できた。
【0175】
表2に実施例6のメッキ後の試験結果をまとめる。
【0176】
【表2】
【実施例7】
【0177】
実施例7では、少なくとも表面にフッ素化合物、金属錯体を有する樹脂フィルム(プラスチック製シート)を押し出し成形で作製した後、フッ素化合物を除去するプラスチックの表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック成形品の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。
【0178】
樹脂フィルムに用い得る樹脂材料は、押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意であるが、本実施例では、ポリカーボネートを用いた。また、樹脂フィルムに浸透させる材料もまた任意であるが、本実施例ではフッ素化合物にはPerfluorotripentylamine (分子式:C15F33N(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:821.1、沸点:220℃)を、また金属錯体としてフッ素系の金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)用いた。なお、この例では、高圧流体として液状の高圧二酸化炭素を用いた。
【0179】
[成形装置] まず、樹脂フィルムを作製するために用いたこの例の成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成図を図18に示した。この例で用いた成形装置400は、図18に示すように、主に、押し出し成形機部401と、二酸化炭素供給部402と、二酸化炭素排出部403とから構成される。
【0180】
押し出し成形機部401は、図18に示すように、主に、可塑化溶融シリンダー411(以下、加熱シリンダーともいう)と、加熱シリンダー411内に樹脂のペレットを供給するホッパー412と、加熱シリンダー411内のスクリュー413を回転させるモーター414と、冷却ジャケット415と、溶融樹脂の肉厚を薄くし且つ溶融樹脂を扇状に拡大させながら押し出すダイ416と、冷却ロール417とから構成される。スクリュー413としては、減圧部となるベント構造部413aを有する単軸スクリューを用いた。
【0181】
押し出しダイ416の構造・方式は任意であり、作製する成形品の形状、用途等により適宜設定できるが、この例では押し出しダイ416として、フィルム成形用のTダイを用いた。また、この例の成形装置400では、Tダイ416より押し出された樹脂フィルム501は冷却ロール417等により巻き取られる。本実施例では、Tダイ416のダイ押し出し口におけるギャップtは0.5mmに設定した。
【0182】
また、この例の成形装置400では、図18に示すように、二酸化炭素の導入口411aを溶融樹脂が減圧される単軸スクリュー413のベント機構部413a付近に設けた。また、この例の成形装置400では、図18に示すように、樹脂内圧を測定するためのモニターを加熱シリンダー411と冷却ジャケット415との間の接続部(モニター418)と、冷却ジャケット415内部(モニター419)とに設けた。
【0183】
二酸化炭素供給部402は、図18に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ441と、シリンジポンプ442と、溶解槽443と、背圧弁444と、バルブ445と、圧力計446と、これらの構成要素を繋ぐ配管447とから構成される。また、バルブ445の下流側(2次側)は、図18に示すように、配管447を介して加熱シリンダー411の二酸化炭素の導入口411aに繋がれており、加熱シリンダー411内部の溶融樹脂の流路と流通している。なお、二酸化炭素の導入箇所は、これに限定されず、スクリュー413からTダイ416までの領域であれば、任意の箇所に設け得る。
【0184】
また、二酸化炭素排出部403は、図18に示すように、主に、二酸化炭素を排出するための抽出容器461と、背圧弁462と、圧力計463と、これらの構成要素を繋ぐ配管464とから構成される。また、背圧弁462の上流側(1次側)は、図18に示すように、配管464を介して冷却ジャケット415の二酸化炭素排出口415aと繋がれており、冷却ジャケット415内部の溶融樹脂の流路と流通している。
【0185】
なお、本実施例の押し出し成形機部401において、スクリュー413、加熱シリンダー411、ダイ416等の各機構は、公知の押し出し成形機の各機構と同様な形態を用いることができる。
【0186】
[樹脂フィルムの成形方法] 次に、本実施例における樹脂フィルムの成形方法を図18及び図19を参照しながら説明する。図19は、実施例7のプラスチック部品の製造工程を示す。
【0187】
まず、押し出し成形機部401のホッパー412に樹脂材料(ポリカーボネート)のペレットを充分な量だけ供給し、モーター414によりスクリュー413を回転させて樹脂材料を可塑化溶融し、溶融樹脂を加熱シリンダー411の先端に送った(図19中のステップS51)。この際、バンドヒータ420により加熱シリンダー411を280℃に温度調節した。
【0188】
次いで、予めフッ素化合物、金属錯体が仕込まれた溶解槽443の内部で高圧二酸化炭素(高圧流体)を流動させることによりフッ素化合物を高圧二酸化炭素に溶解させた(図19中のステップS52)。具体的には、次のようにしてフッ素化合物、金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた。まず、二酸化炭素ボンベ441から供給された液体二酸化炭素をシリンジポンプ442で昇圧および圧力調整し、圧力計46が15MPaになるよう圧力調整した。そして、昇圧された高圧二酸化炭素を、40℃に温度制御され、フッ素化合物、金属錯体が過飽和になるように仕込まれた溶解槽443内部に流動させ、フッ素化合物、金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた。
【0189】
次いで、バルブ445を開放して、配管447及び導入口411aを介して、加熱シリンダー411のベント構造部413aにフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を導入し、フッ素化合物を高圧二酸化炭素とともに溶融樹脂に接触させた浸透させた(図19中のステップS53)。この際、シリンジポンプ442により高圧二酸化炭素の流量を制御し、且つ、背圧弁444により高圧二酸化炭素の圧力を制御しながら一定流量で、フッ素化合物、金属錯体を溶解した高圧二酸化炭素を導入した。この際、ベント構造部413aの溶融樹脂に注入された高圧二酸化炭素および浸透物質(フッ素化合物、金属錯体)は、スクリュー413の回転により樹脂に混錬される。
【0190】
次いで、高圧二酸化炭素およびフッ素化合物、金属錯体が混錬された溶融樹脂の圧力が樹脂内圧力のモニター418の表示で20MPaに上昇するように調整しながら、溶融樹脂を加熱シリンダー411から押し出した。
【0191】
次いで、加熱シリンダー411から押し出された溶融樹脂を、冷却ジャケット415を通過させた。なお、冷却ジャケット415は、冷却ジャケット415内部に設けられた冷却水路415bを流動する温調水により200℃まで冷却されている。また、この例の成形装置400では、図18に示すように、冷却ジャケット415内部の溶融樹脂の流路の断面積が、加熱シリンダー411と冷却ジャケット415との接続部の溶融樹脂の流路の断面積より大きくしているので、溶融樹脂が冷却ジャケット415内を通過した際には、冷却と同時に減圧される。この例では、溶融樹脂が冷却ジャケット415内を通過した際には、減圧部の樹脂内圧力モニター419は10MPaを示した。
【0192】
次いで、冷却ジャケット415から押し出された溶融樹脂は、Tダイ416を通過し、Tダイ416から押し出された樹脂501は冷却ロール417等で巻き取られフィルム状(シート状)に連続成形された(図19中のステップS104)。そして、この例では、図示しない延伸装置で樹脂501を薄肉化して厚み0.1mmの樹脂フィルムを作製した。このようにして、フッ素化合物、金属錯体が表面及び内部に分散した樹脂フィルム(プラスチック製シート)を得た。
【0193】
上述したこの例のプラスチック成形品(樹脂フィルム501)の表面粗さを触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)で測定した。算術平均粗さ(Ra)は5nm、十点平均粗さ(Rz)は8nmであった。
【0194】
次に、樹脂フィルム501を高圧二酸化炭素を溶媒として用い、樹脂フィルム501の表面近傍に分散しているフッ素化合物を除去した(図19中のステップS55)。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。この工程により、フッ素化合物が除去された箇所には微細孔が形成され、プラスチック成形品(樹脂フィルム501)の表面に微細な凹凸を形成した。この例では、上述のようにして、プラスチック成形品の表面改質を行った。
【0195】
上述のように、本実施例のプラスチック成形品(樹脂フィルム501)の表面改質方法では、樹脂フィルムの材料とは異なるフッ素化合物が溶媒により樹脂フィルムから除去されるので、少なくとも成形品の表面に微細孔が形成された樹脂成形品が得られる。また、微細孔のサイズは、フッ素化合物の分子量や樹脂フィルムからフッ素化合物を抽出除去する際の条件により数nmオーダーからミクロンオーダーまでの範囲で制御可能である。
【0196】
上述のようにして作製された表面に微細孔が形成されたプラスチック成形品の表面粗さを実施例1と同様にして測定した。その結果、算術平均粗さ(Ra)は15nm、十点平均粗さ(Rz)は130nmとなり、フッ素化合物を除去する前、すなわち、押し出し成形後のプラスチック成形品に比べて、表面粗さが大きくなった。これは、樹脂フィルム表面に分散していたフッ素化合物が除去され微細孔が形成されたことを示している。ただし、従来のメッキ工程で行うクロム酸や過マンガン酸のエッチング処理では成形品表面が数μm〜数十μm程度粗化されることを考えると、本実施例で表面改質されたプラスチック成形品では、従来のエッチング処理により粗化された成形品に比べて良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られることが分かった。
【0197】
[メッキ膜の形成方法] 次に、この例では、フッ素化合物が除去されたプラスチック成形品に対して、実施例2と同様にしてメッキ膜を形成した(図19中のステップS56)。
【0198】
次に、上記ポリマー上にメッキ膜が形成されたポリマー成形品に対して、実施例1同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜の剥離等は確認されなかった。
【0199】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が32.2nm、十点平均粗さ(Rz)が115.4nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【0200】
その後、大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿(80℃90%Rh500hr)試験をした。その結果、すべての試験において金属膜の剥離、ふくれ等は認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離等は生じなかった。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験および-40℃⇔85℃のヒートサイクル試験10サイクルを行った際も同様な結果が得られた。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、簡便な方法により、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜をポリマー部材に形成できることが分かった。表3に、実施例7のメッキ後の試験結果をまとめる。
【0201】
【表3】
【0202】
[比較例1]
比較例1では、フッ素化合物を使用しないこと以外、実施例3と同様の方法により射出成形、表面改質(超臨界二酸化炭素フロー)、メッキ膜を形成した。
【0203】
上記ポリマー上にメッキ膜が形成されたポリマー成形品に対して、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜の剥離等は確認されなかった。
【0204】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が6.0nm、十点平均粗さ(Rz)が23.7nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、超臨界二酸化炭素において抽出がされないため、基板表面の平滑性が保たれ、その結果として表面粗さは非常に小さくなった。
【0205】
その後、大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿(80℃90%Rh500hr)試験をした。その結果、金属膜にふくれが認められた。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験および-40℃⇔85℃のヒートサイクル試験10サイクルを行った際も同様に膜ふくれが生じた。すなわち、この例ではフッ素化合物抽出による表面処理をしていないため、メッキ膜の密着力は不十分であることがわかった。
【0206】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明の表面改質方法では、高圧二酸化炭素を用いて、様々な種類のプラスチックに対して、サブミクロンからナノオーダの微細な凹凸を形成することができる。それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を、無電解メッキ前処理プロセスとして用いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスとなる。
【0208】
本発明の金属膜の形成方法では、従来のメッキ法のように有害なエッチャントを用いることなく、しかも、プラスチックの材料を問うことなく、平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。それゆえ、本発明の金属膜の形成方法は、あらゆる分野に適用可能であり且つ低コストでクリーンな金属膜の形成方法として好適である。また、本発明の金属膜の形成方法は、大面積の複雑な形状を有する成形体にも容易に適用可能である。
【0209】
また、本発明の表面改質方法では、プラスチック成形体の表面粗さを非常に小さくすることができ、また、高密着のメッキ膜を形成することができる。そのため、例えば、高反射率を必要とするリフレクター等の金属膜、良好な電気特性を必要とする高周波電気回路やアンテナ等の金属膜の形成方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】図1は、実施例1で成形したプラスチック部品を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1中のプラスチック成形体を形成する射出成形装置を示す。
【図3】図3は、図2の射出成形装置の部分拡大図である。図3(a)は、射出開始直後の状態を模式的に示すものであり、図3(b)は、射出終了時の状態を模式的に示すものである。
【図4】図4は、図1のプラスチック部品の製造工程を示す。
【図5】図5は、プラスチック成形体の表面のAFM観察像である。図5(a)は、超臨界二酸化炭素により洗浄していないプラスチック成形体の表面であり、図5(b)は、超臨界二酸化炭素により洗浄した後のプラスチック成形体の表面である。
【図6】図6は、無電解メッキ装置を示す。
【図7】図7は、実施例3のプラスチック部品の製造工程を示す。
【図8】図8は、実施例4のサンドイッチ射出成形装置の概略構成を示す。
【図9】図9は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第一の可塑化シリンダでの可塑化計量時の要部拡大図である。
【図10】図10は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第一の可塑化シリンダからガス化した二酸化炭素の排気時の要部拡大図である。
【図11】図11は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第一の可塑化シリンダによる射出時の要部拡大図である。
【図12】図12は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第一の可塑化シリンダによる射出が完了する時の要部拡大図である。
【図13】図13は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第二の可塑化シリンダによる射出時の要部拡大図である。
【図14】図14は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第二の可塑化シリンダによる射出が完了する時の要部拡大図である。
【図15】図15は、実施例4のプラスチック部品の製造工程を示す。
【図16】図16は、実施例4の無電解メッキ装置を示す。
【図17】図17は、実施例5のプラスチック部品の製造工程を示す。
【図18】図18は、実施例7の押出成形装置の概略構成を示す。
【図19】図19は、実施例7のプラスチック部品の製造工程を示す。
【符号の説明】
【0211】
1 プラスチック部品
2 プラスチック成形体
3 金属膜
101 成形金型
105 可塑化シリンダ(加熱シリンダ)
105A フローフロント部
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形体の表面改質方法、それを含む金属膜の形成方法およびプラスチック部品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形体は、たとえば電子機器などの部品として利用される。プラスチック成形体の表面に金属膜を形成する手段としては、現在、無電解メッキ法が広く利用されている。プラスチック成形体の成形から無電解メッキまでの製造プロセスは、成形体の材料などにより多少異なるが、一般には樹脂成形、成形体の脱脂、エッチング、中和及び湿潤化、触媒付与、触媒活性化、並びに、無電解メッキの工程からなり、この順で行なわれる。
【0003】
この無電解メッキプロセスにおけるエッチング工程では、クロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などを用いて、プラスチック成形体の表面を物理的に粗化する。プラスチック成形体の表面が粗化されることで、成形体とメッキ膜との間にアンカリング効果が生じ、成形体に対するメッキ膜の密着性が確保される。
【0004】
しかしながら、エッチング液は、廃棄時に中和処理などの後処理が必要であるため、コスト高の一因となる。また、クロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などは、毒性が高く、その取り扱いが煩雑である。
【0005】
エッチング液を用いた無電解メッキ法に替わる新たな金属膜の形成方法として、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を用いた無電解メッキ法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載された方法によれば、まず、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させ、その超臨界二酸化炭素を各種ポリマーの成形体に接触させることで、ポリマー成形体の表面に有機金属錯体を注入する(浸透させる)。次いで、有機金属錯体が浸透したポリマー成形体に対して加熱処理あるいは化学還元処理をして、有機金属錯体を還元する。これにより、ポリマー成形体の表面には、金属微粒子が析出する。
【0006】
この有機金属錯体と超臨界二酸化炭素とを用いた無電解メッキ法では、エッチング液を使用しないので、当然にその廃液処理が不要となる。また、金属微粒子が析出することにより、ポリマー成形体の無電解メッキが可能になる。
【0007】
この他にも、プラスチックの表面を適度に粗化して良好なアンカリング効果を得るプロセスとして、光触媒を用いたメッキ前処理プロセスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、光触媒としての酸化チタンをプラスチック成形体の表面に塗布した後、紫外線を照射する。これにより、プラスチック成形体の表面には、微細な凹凸が形成される。この微細な凹凸によるアンカリング効果により、プラスチック成形体に対するメッキ膜の形成が可能となる。
【0008】
プラスチック成形体などの樹脂組成物を多孔化する方法としては、この他にも、ポリイミド樹脂に限定されてしまうものであるが、超臨界二酸化炭素を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸樹脂及びそれに分散可能な分散性化合物が含有した感光性樹脂組成物から、超臨界二酸化炭素を用いて分散性化合物を除去することにより、多孔化されたポリアミック酸樹脂を形成している。また、特許文献2では更に、多孔化されたポリアミック酸樹脂上に導電層を形成している。なお、特許文献2には、超臨界二酸化炭素を用いて分散性化合物を除去した後の樹脂の最表面における物理的形状は記載されていない。また、特許文献2には、樹脂と導電層との密着性に関する記載はない。
【0009】
なお、水系溶媒と超臨界二酸化炭素とを相溶させる研究において、超臨界二酸化炭素や二酸化炭素には、フッ素化合物が溶解することが知られている(例えば非特許文献2、特許文献3)。
【0010】
【特許文献1】特開2005−85900号公報
【特許文献2】特開2001−215701号公報
【特許文献3】特願2002−171609号公報
【非特許文献1】堀照夫著「超臨界流体の最新応用技術」株式会社エヌ・ティー・エス出版、p.250−255(2004)
【非特許文献2】永井隆文「機能材料2007年1月号Vol.27 No.1」株式会社シーエムシー出版 p27-p36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素を用いた表面改質プロセスについて、本発明者らが鋭意検討した結果、次のような課題があることが判明した。すなわち、非特許文献1の超臨界二酸化炭素を用いた表面改質プロセスでは、プラスチック表面を物理的に粗面化するプロセスが無い。そのため、非特許文献1による表面改質後の表面の平滑性は良好であるが、メッキ膜とプラスチック成形体との界面においてアンカリング効果が得られない。プラスチック成形体に対するメッキ膜の密着性は、基本的に高くない。
【0012】
アンカリング効果が得られない非特許文献1の方法によりプラスチック表面にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜は、プラスチック表面の有機金属錯体により密着が確保される。それゆえ、メッキ膜の密着性は、有機金属錯体の還元性、及び、それに起因するプラスチック表面における金属微粒子の密度や凝集状態等に強く影響されてしまうことになる。そして、非特許文献1の方法による量産工程について考えるに、これらの条件をすべて好適に合わせ込み、且つ、その条件を維持し続けるように制御することは、極めて困難であると予想される。
【0013】
その結果、非特許文献1の方法によりメッキ膜を形成した場合、その密着性は、基本的に高いものとならず、しかも、製品間で大きくばらついてしまうと予想される。
【0014】
また、特許文献1に記載されている酸化チタンを用いた光触媒プロセスでは、プラスチックの表面を粗化するために、紫外線をプラスチック表面に照射し、光触媒反応を発生させる必要がある。そのため、特許文献1の方法は、紫外線の均一な照射が可能な2次元形状の成形体(例えば、フィルム状の成形体)に対しては好適であると考えられるが、複雑な3次元形状の成形体に対しては、その表面に均一に紫外線を照射することが困難であり、不向きであると考えられる。たとえば成形体が穴を有する場合、その穴と成形体の外表面とに対して均一な紫外線を照射することは極めて困難である。また、光触媒の反応時間は数十分と長いため、このことが量産化工程の阻害要因の1つになる。
【0015】
本発明は、プラスチック成形体が複雑な3次元形状のものであったとしても、良好なアンカリング効果の得られる表面粗化が可能な表面改質方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この表面改質方法を含み、プラスチック成形体が複雑な3次元形状のものであったとしても、良好なアンカリング効果を持つ密着性の良い金属膜を形成することができる金属膜の形成方法およびその方法で形成したプラスチック部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様に従えば、プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、溶融プラスチックに、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、高圧二酸化炭素が接触した溶融プラスチックを成形金型へ射出して成形するステップと、成形ステップで得られたプラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含むことを特徴とする表面改質方法が提供される。
【0017】
フッ素化合物は高分子であっても高圧二酸化炭素に良好に溶解する特性を有する。そのため、まず、溶融プラスチックに接触させる高圧二酸化炭素にフッ素化合物を良好に溶解させることができる。次いで、そのような高圧二酸化炭素をプラスチックに接触させることで、フッ素化合物が高圧二酸化炭素により表面に含浸したプラスチック成形体が作られる。さらに、この成形体に高圧二酸化炭素を接触させることで、含浸しているフッ素化合物が溶解する。その結果、プラスチック成形体にナノオーダの多数の微細穴を形成することができる。プラスチック成形体は、複雑な3次元形状のものであったとしても、良好なアンカリング効果が得られる表面粗さとすることができる。また、この方法は、様々な種類のプラスチックに対して、その表面改質に利用することができる。しかも、フッ素化合物は、成形金型からの離型剤としても有効に機能する。
【0018】
また、本発明では、フッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を溶融状態にあるプラスチックに接触させることにより、プラスチック成形体にフッ素化合物を分散させている。したがって、この発明では、良好なアンカリング効果が得られる大きさの微細穴を、プラスチック表面に高密度に且つ均一に分散させて形成することができる。なお、これに対して、フッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を、成形後のプラスチック表面に接触させることで表面粗化が可能であるが、特にフッ素化合物の分子量が大きいときには、プラスチックの表面部(表面近傍の内部)においてフッ素化合物が浸透するための自由体積を確保し難い。そのため、このように成形後にフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を接触させた場合にくらべて、溶融しているプラスチックに対してフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を接触させた方が、きわめて短時間で、良好なアンカリング効果が得られる大きさの微細穴を、プラスチック表面に高密度に且つ均一分散させて形成することができる。
【0019】
なお、本発明でいう「高圧二酸化炭素」には、超臨界二酸化炭素のみならず、高圧の液状二酸化炭素(液体)及び高圧二酸化炭素が含まれる。フッ素化合物をある程度溶解する媒体としては高圧二酸化炭素の他にも、空気、水、ブタン、ペンタン、メタノール等などがあるが、高圧二酸化炭素は、有機材料に対する溶解度がnヘキサン並みであり、無公害であり、しかも、プラスチックに対する親和性が高いので最適である。また、本発明において、高圧二酸化炭素に対するフッ素化合物の溶解度を向上させるために、高圧二酸化炭素に対して、少量のエタノール等の有機溶剤をエントレーナとして混合してもよい。
【0020】
本発明の第1の態様では、さらに、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、溶融プラスチックについての成形金型へ最初に射出される部分と接触してもよい。あるいは、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、成形金型へ射出される溶融プラスチックを収容する加熱シリンダの、フローフロント部に導入されてもよい。
【0021】
このようにして高圧二酸化炭素を溶融プラスチックに接触させると、まず、フッ素化合物が浸透したフローフロント部の溶融プラスチックが射出され、その後、フッ素化合物がほぼ浸透していない溶融プラスチックが金型に射出充填されることになる。フッ素化合物が浸透したフローフロント部の溶融プラスチックが射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、フローフロント部の溶融プラスチックは金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、これらの態様では、フッ素化合物が分散したスキン層と、フッ素化合物がほとんど分散していないコア層とからなるプラスチック成形体が提供される。フッ素化合物は、プラスチック成形体の材料に関係なく、プラスチック成形体の表面部に偏析し、且つ、その表面部において高密度で且つ均一に分散することになる。
【0022】
しかも、フッ素化合物は、スキン層のさらに金型に近い表面側へ浮き出る性質を有する。そのため、多くのフッ素化合物を、プラスチック成形体の最表面に偏在化させることができる。
【0023】
したがって、成形後に高圧二酸化炭素で溶解することで、より多くのフッ素化合物をプラスチック成形体から溶解することができ、プラスチック成形体により多くの微細穴を形成することができる。必要最小限の添加量により、プラスチック成形体に対して効率よく多数の微細穴を形成することができる。高圧二酸化炭素で溶解した後にプラスチック成形体の内部に残留してしまうフッ素化合物を減らし、フッ素化合物を凹凸の形成に有効に利用することができる。
【0024】
本発明の第2の態様に従えば、プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、フッ素化合物が分散しているプラスチックのペレットを溶融するステップと、溶解したペレットを成形金型へ射出して成形するステップと、射出成形で得られたプラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含むことを特徴とする表面改質方法が提供される。
【0025】
本発明の表面改質方法では、ペレットを用いた射出成形により形成するプラスチック成形体に対して、ナノオーダの多数の微細穴を形成することができる。プラスチック成形体は、複雑な3次元形状のものであったとしても、アンカリング効果が得られる表面粗さとすることができる。この発明は、様々な種類のプラスチックの表面改質に利用することができる。また、射出成形に用いる装置では、高圧二酸化炭素を用いる必要が無いので、汎用的な射出成形装置をそのまま使用することができる。しかも、フッ素化合物は、成形金型からの離型剤としても有効に機能する。
【0026】
本発明の第3の態様に従えば、プラスチック材料を押出型から押し出すことにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、プラスチック材料に、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、高圧二酸化炭素と接触したプラスチック材料を押出型から押し出すことにより成形するステップと、成形により得られたプラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含むことを特徴とする表面改質方法が提供される。
【0027】
本発明の表面改質方法では、押出成形により形成するプラスチック成形体に対して、ナノオーダの多数の微細穴を形成することができる。プラスチック成形体は、複雑な3次元形状のものであったとしても、アンカリング効果が得られる表面粗さとすることができる。この発明は、様々な種類のプラスチックの表面改質に利用することができる。しかも、フッ素化合物は、成形金型からの離型剤としても有効に機能する。なお、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、加熱シリンダーから押し出しダイまでの間において、溶融プラスチックと接触すればよい。
【0028】
また、フッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を溶融状態にあるプラスチックに接触させているので、アンカリング効果が得られる大きさの微細穴を、プラスチック表面に高密度に且つ均一分散させて形成することができる。なお、これに対して、フッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を、成形後のプラスチック表面に接触させた場合には、特にフッ素化合物の分子量が大きいときには、プラスチックの表面部(表面近傍の内部)においてフッ素化合物が浸透するための自由体積が確保し難い。そのため、このように成形後にフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を接触させた場合にくらべて、溶融プラスチックに対してフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を接触させた方が、きわめて短時間で、良好なアンカリング効果が得られる大きさの微細穴を、プラスチック表面に高密度に且つ均一分散させて形成することができる。
【0029】
本発明の第4の態様に従えば、プラスチック材料を押出型から押し出すことにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、フッ素化合物が分散しているプラスチックのペレットを加熱するステップと、加熱したプラスチックを押出型から押し出して成形するステップと、成形により得られたプラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、プラスチック成形体の表面部からフッ素化合物を除去するステップと、を含むことを特徴とする表面改質方法が提供される。
【0030】
本発明の表面改質方法では、ペレットを用いた押出成形により形成するプラスチック成形体にナノオーダの多数の微細穴を形成することができる。プラスチック成形体は、複雑な3次元形状のものであったとしても、アンカリング効果が得られる表面粗さとすることができる。この発明は、様々な種類のプラスチックの表面改質に利用することができる。押出成形に用いる装置では、高圧二酸化炭素を用いる必要が無いので、汎用的な押出成形装置をそのまま使用することができる。
【0031】
本発明の第1の態様から第4の態様においては、さらに、プラスチックは、熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂には、たとえばポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、非晶質ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、液晶ポリマー、スチレン系樹脂、ポリメチルペンテン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチルエーテルケトン、シクロオレフィンポリマーなどがある。また、熱可塑性樹脂として、複数種類の材料を混合したもの、これらを主成分とするポリマーアロイ、あるいは、これらに各種の充填剤を配合したものであってもよい。そして、高圧二酸化炭素とフッ素化合物とを組合わせることにより、これら各種の熱可塑性樹脂によるプラスチック成形体の表面を所望の表面粗さにすることができる。
【0032】
本発明の第1の態様から第4の態様においては、さらに、プラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解する際の高圧二酸化炭素の圧力は、5MPa〜25MPaであってもよい。高圧二酸化炭素に対するフッ素化合物の溶解度は圧力の上昇とともに高くなる。圧力が5MPa以下であるとフッ素化合物の溶解度が極めて低くなり、プラスチックの表面へのフッ素化合物の浸透効果が現れない。また、25MPa以上の高圧になると、プラスチックに対する高圧二酸化炭素の浸透性が高くなりすぎ、プラスチック成形体において発泡が発生してしまうことを防止することが難しくなる。
【0033】
本発明の第1の態様から第4の態様においては、さらに、フッ素化合物の沸点は、150℃以上であってもよい。この場合、フッ素化合物の沸点が高いため、成形のために加熱により溶融しているプラスチックにおいて、フッ素化合物が熱分解し難くなる。したがって、成形前に分散させたフッ素化合物が成形後のプラスチック成形体に有効に残留し、そのフッ素化合物を高圧二酸化炭素により溶融することにより、プラスチック成形体に所望の量の微細穴を形成することができる。フッ素化合物の量を調整することにより所望の表面粗さを得ることができ、しかも、その表面粗さのばらつきを抑えることができる。
【0034】
また、沸点が200℃以上のフッ素化合物を用いることで、プラスチックとしてポリフェニレンサルファイド(PPS)等の高融点材料を用いたとしても、成形機内でフッ素化合物が分解され難くなり、プラスチック成形体にフッ素化合物を高密度且つ均一に分散させて残留させることができる。沸点が200℃以上のフッ素化合物を用いることで、プラスチックの材料を選ぶことなく、そのプラスチック成形体にフッ素化合物を高密度且つ均一に分散させることができる。
【0035】
本発明の第1の態様から第4の態様においては、さらに、フッ素化合物の分子量は、500〜15000であってもよい。フッ素化合物は、ポリエチレングリコールなどと異なり、高分子のものであっても高圧二酸化炭素に溶解することができる。しかも、フッ素化合物の分子量が500以上であると、射出成形あるいは押出成形時に、フッ素化合物がプラスチック成形体の表面に偏析する(ブリードアウトする)。フッ素化合物は、数十〜数百nmのクラスター状でプラスチック表面近傍に浸透する。そのため、成形後のフッ素化合物の溶融処理において表面に偏析しているフッ素化合物を溶融し、これにより所望の大き目のサイズの微細穴を形成し、高いアンカリング効果が得られる所望の表面粗さを得ることができる。フッ素化合物の除去処理後のプラスチック成形体の表面には、サブミクロンからナノオーダの微細穴が形成される。高分子のフッ素化合物を有効に利用して、高いアンカリング効果が得られる所望の表面粗さを得ることができる。
【0036】
また、フッ素化合物の分子量が15000を越えると、高圧二酸化炭素に対する溶解度が低下し、しかも、溶融プラスチックとの相溶性が低下する。また、分子量の重さにより、フッ素化合物が成形時にプラスチック表面へ浮き出にくくなる。
【0037】
したがって、フッ素化合物の分子量を500〜15000とすると、良好な溶解度によりフッ素化合物がプラスチック成形体の表面部に偏析しつつも、その表面部の全体に均一に分散する。しかも、成形後に、その比較的大きな分子量のフッ素化合物が溶解することにより、プラスチック成形体の表面は、全体的に、高いアンカリング効果が得られる大きめの微細穴が形成され、金属膜のメッキに適した表面粗さとなる。
【0038】
なお、高圧二酸化炭素に対して良好な溶解性を有し、上述した分子量および沸点の条件を満たすフッ素化合物としては、例えば、下記化1に示すPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:996.2、沸点:235℃)、下記化2に示すPerfluorotripentylamine(分子式:C15F33N(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:821.1、沸点:220℃)があげられる。
【0039】
【化1】
【0040】
【化2】
【0041】
また、その他のフッ素化合物として、Perfluoro-2,5,8-trimethyl-3,6,9-trioxadodecanoic acid, methyl ester(分子量:676、沸点:196℃)、Perfluorooctadecanoic acid(分子量:915、沸点:235℃)、Perfluoro(tetradecahydrophenanthrene)(分子量:624、沸点:215℃)、SpectraSynQ1621(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:2120、沸点:220℃)、1H,1H-Perfluoro-1-octadecanol(分子量:900、沸点:211℃)、Hecakis(1H,1H,5H-octafluoropentoxy)phosphazene(分子量:1521、沸点:207℃)、1,2-Bis(dipentafluorophenylphosphino)ethane(分子量:758、沸点:190℃)、Perfluorododecanoic acid(分子量:614、沸点:245℃)、Perfluoro-2,5,8,11-tetramethyl-3,6,9,12-tetraoxapentadecanoyl fluoride(分子量:830、沸点:203℃)、Perfluorohexadecanoic acid (分子量:814、沸点:211℃)、Perfluoro-1,10-decanedicarboxylic acid (分子量:610、沸点:240℃)、等もあげられる。
【0042】
また、沸点が200℃未満であり且つ分子量が500未満であるフッ素化合物としては、たとえば1H,1H-Perfluoro(2,5-dimethyl-3,6-dioxanonan-1-ol)(分子量:482.1、沸点:155℃)がある。
【0043】
本発明の第5の態様に従えば、上述した第1の態様から第4の態様のいずれか一つに記載の表面改質方法により形成されたプラスチック成形体への金属膜の形成方法であって、フッ素化合物を除去した後のプラスチック成形体の表面に金属膜を形成するステップを有することを特徴とする金属膜の形成方法が提供される。
【0044】
本発明の金属膜の形成方法では、プラスチック成形体の表面が、アンカリング効果が得られる金属膜のメッキに適した表面粗さとなっているので、プラスチック成形体に対して、アンカリング効果を持つ密着性の良い金属膜を形成することができる。
【0045】
また、プラスチック成形体の表面に形成される微細穴はサブミクロンからナノオーダのものであるので、金属膜の表面は、平滑性に優れた(表面粗化が抑制され)且つ電気特性の優れたものとなる。そして、プラスチックの表面に形成される微細穴の密度を調整することにより、プラスチックの誘電率、誘電正接等の電気特性や低屈折率化等の光学特性を所望の特性に作り込むことができる。また、プラスチックの表面に形成される微細穴の密度を部分毎に調整することができれば、その全体として光学特性がばらついたものとすることができ、乱反射による反射板などとして用いることも可能となる。
【0046】
本発明の第6の態様に従えば、上述した第1の態様から第4の態様のいずれか1つに記載の表面改質方法であって、プラスチック成形体の表面部に含浸しているフッ素化合物を溶解する際の高圧二酸化炭素にメッキ液を相溶させることで、プラスチック成形体の表面に金属膜を形成することを特徴とする金属膜の形成方法が提供される。
【0047】
本発明では、金属膜のメッキ工程を、プラスチック成形体からフッ素化合物を除去する工程と統合することができる。表面改質方法の工程に金属膜のメッキ工程を追加することなく、表面が改質されたプラスチック成形体に金属膜を形成することができる。フッ素化合物を除去した後の表面に汚れなどが付着する前に、メッキをすることができる。それゆえ、プラスチックの表面に形成されたサブミクロンからナノオーダのサイズの微細な凹凸によるアンカリング効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。また、上述したように、本発明の表面改質方法では様々な種類のプラスチックの表面に微細な凹凸を形成できるので、本発明の金属膜の形成方法では、様々な種類のプラスチックの表面に平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。
【0048】
本発明の第5の態様または第6の態様では、さらに、金属膜を形成する前に、プラスチック成形体にメッキ触媒核を分散させるステップを有し、金属膜をメッキ触媒核から成長させてもよい。これにより、金属膜は、プラスチック成形体の表面に形成された多数の微細穴に入り込むだけでなく、プラスチック成形体中のメッキ触媒核から成長するように形成される。したがって、金属膜のアンカリング効果として、単に金属膜が微細穴に入り込んで形成されることにより得られる以上のものを得ることができる。金属膜は、優れた対候性を有する。なお、メッキ触媒核としては、たとえばNi,Pd,Pt,Cu等の金属微粒子を使用すればよい。
【0049】
本発明の第5の態様または第6の態様では、さらに、フッ素化合物を除去した後のプラスチック成形体に、メッキ触媒核を溶融した高圧二酸化炭素を接触させることにより、金属膜を形成する前にプラスチック成形体にメッキ触媒核を分散させてもよい。こにより、プラスチック成形体にメッキ触媒核を分散することができる。しかも、メッキ触媒核を高圧二酸化炭素に溶融して接触させることにより、メッキ触媒核は、プラスチック成形体の表面に略均一に分散することになる。
【0050】
本発明の第5の態様または第6の態様では、さらに、フッ素化合物をプラスチック成形体に分散するために溶融プラスチックと接触される高圧二酸化炭素にメッキ触媒核を溶解することにより、金属膜を形成する前にプラスチック成形体にメッキ触媒核を分散させてもよい。これにより、溶融プラスチックに対して、フッ素化合物とともにメッキ触媒核を分散することができる。メッキ触媒核を分散するための独立した工程を表面改質工程に追加することなく、メッキ触媒核をプラスチック成形体に分散することができる。
【0051】
特に、第6の態様との組合わせにおいては、メッキ触媒核はフッ素化合物とともに溶融プラスチックに分散し、且つ、成形後のプラスチック成形体からフッ素化合物を除去する工程においてメッキを成長させることになるので、プラスチック成形体の表面改質処理工程と同じ工程数により、メッキ処理までを済ませることができる。
【0052】
本発明の第5の態様または第6の態様では、さらに、メッキ触媒核は、フッ素を含有した金属錯体でもよい。これにより、金属錯体が成形後のプラスチック表面に偏析しやすくなる。
【0053】
本発明の第7の態様に従えば、内部にフッ素化合物が分散するとともに、表面部に複数の微細穴が多数形成されることにより多孔性であるプラスチック成形体を有することを特徴とするプラスチック部品が提供される。また、本発明の第7の態様では、さらに、プラスチック成形体の内部にメッキ触媒核が分散していてもよい。また、本発明の第7の態様では、さらに、微細孔は、サブミクロンからナノオーダのサイズであってもよい。また、本発明の第7の態様では、さらに、プラスチック成形体の表面に、微細穴へ入り込んで形成される金属膜を有してもよい。また、本発明の第7の態様では、さらに、金属膜の表面粗さは、ナノオーダであってもよい。
【0054】
本発明のプラスチック部品では、サブミクロンからナノオーダのサイズで表面部に多数形成された複数の微細穴に入り込むことによるアンカリング効果により、プラスチック成形体に対して高い密着性を有する金属膜を形成することができる。特に、内部にメッキ触媒核が分散している場合には、さらに、メッキ触媒核から成長することによるアンカリング効果が得られ、さらに高い密着性を有する金属膜を形成することができる。なお、この金属膜は、上述した第5の態様の金属膜の形成方法あるいは第6の態様の金属膜の形成方法により形成することができる。
【発明の効果】
【0055】
以上のように、本発明の表面改質方法では、プラスチック成形体が複雑な3次元形状のものであったとしても、良好なアンカリング効果が得られる表面粗さに改質することができる。また、この表面改質方法を含む金属膜の形成方法では、プラスチック成形体が複雑な3次元形状のものであったとしても、アンカリング効果を持つ密着性の良い金属膜を形成することができる。そして、このような密着性の良い金属膜を有するプラスチック部品を得ることができる。
【0056】
しかも、これらの方法では、フッ素化合物と高圧二酸化炭素との組合わせにより、プラスチックの材料を選ぶことなく、その成形体にサブミクロンからナノオーダの微細な凹凸を形成することができる。
【0057】
それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を無電解メッキ前処理プロセスとして用いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスを提供することができる。また、プラスチックの表面に形成された微細孔の密度を調整することにより、プラスチックの誘電率、誘電正接等の電気特性や、低屈折率化、高反射率等の光学特性を所望の特性に作り込むことが可能である。
【0058】
また、本発明の金属膜の形成方法では、本発明の表面改質方法により得られたプラスチック成形体の表面に、高圧二酸化炭素などを用いて金属膜を形成するので、プラスチックの表面に形成されたサブミクロンからナノオーダのサイズの微細な凹凸によるアンカリング効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、密着性に優れた金属膜を形成することができる。また、プラスチックの表面に形成された凹凸はサブミクロンからナノオーダのサイズであるので、金属膜の表面は、非常に平滑性に優れ、滑らかなものとなる。また、本発明の金属膜の形成方法では、従来のメッキ法のように有害なエッチャント(エッチング液)を用いることなくプラスチックの表面を粗化できるので、低コスト且つクリーンに金属膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明のプラスチック成形体の表面改質方法、それを含む金属膜の形成方法およびプラスチック部品の実施例を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0060】
図1は、実施例1で成形したプラスチック部品1を模式的に示す断面図である。このプラスチック部品1は、略円板形状のプラスチック成形体2と、その表面に形成される金属膜(メッキ膜)3とを有する。
【0061】
このプラスチック成形体2は、後述する射出成形プロセスにより成形されたものである。そして、プラスチック成形体2は、射出成形の際に、高圧二酸化炭素を用いてフッ素化合物を浸透させた後、高圧二酸化炭素を用いてフッ素化合物を除去することで、その表面が凹凸(多孔性)となるように改質されている。また、後述するように、この表面が改質されたプラスチック成形体2に対して、一般的な無電解メッキにより金属膜(メッキ膜)3を形成することにより、プラスチック部品1を形成した。
【0062】
なお、この例では、プラスチック成形体2の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)を用い、フッ素化合物にはPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6(分子量:996.2、沸点:235℃)を用いた。また、高圧二酸化炭素としては超臨界二酸化炭素(超臨界状態の二酸化炭素)を用いた。
【0063】
[成形装置]
図2は、図1に示したプラスチック成形体2を形成する射出成形装置100の概略構造を示す。この射出成形装置100は、主に、射出成形機部100Aと、超臨界流体発生部100Bとを有する。
【0064】
射出成形機部100Aは、図2に示すように、主に、成形金型101を構成する可動金型102および固定金型103と、PPSからなるペレット(プラスチック成形体2の一種)を収容するホッパ104と、ホッパ104から供給されるペレットを溶融して成形金型101へ射出する可塑化シリンダ105と、を有する。図2のように可動金型102が固定金型103に突き当てられることにより、成形金型101に、中心にスプールを有する円盤形状のキャビティ106が形成される。なお、この例では、図2に示すように、可動金型102及び固定金型103のキャビティ106側の表面のうち、キャビティ106の中央に対応する部分(スプール等)以外の領域の形状は、平面(ミラー面)とした。また、加熱シリンダ(可塑化シリンダ105)内のフローフロント部105Aには、ガス導入機構107が接続されている。射出成形機部100Aのその他の構造は、従来の射出成形機と同様の構造である。
【0065】
超臨界流体発生部100Bは、図2に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ111と、公知のシリンジポンプ2台からなる連続フローシステム(ISCO社製E−260)112と、フッ素化合物を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽113とから構成され、各構成要素は配管114によりその順番で繋がれている。また、溶解槽113は、エアーオペレートバルブ115,116を介して、上述したガス導入機構107に繋がれている。
【0066】
[射出成形方法及び表面改質方法]
次に、図2から図4を用いて、この例の成形方法及び表面改質方法について説明する。図3は、図2の射出成形装置100の成形金型101部分の部分拡大図である。図3(a)は、射出開始直後の状態を模式的に示し、図3(b)は、射出終了時の状態を模式的に示す。図4は、図1のプラスチック部品1の製造工程を示す。
【0067】
まず、図2に示すように、液体二酸化炭素ボンベ111に蓄えられている5〜7MPaの液体二酸化炭素は、連続フローシステム112に導入され、昇圧される。これにより、超臨界二酸化炭素が生成される。なお、連続フローシステム112では、二酸化炭素は、シリンジポンプの少なくとも1台により所定圧力である10MPaに常時昇圧および圧力保持される。
【0068】
次いで、連続フローシステム112から溶解槽113へ超臨界二酸化炭素を導入する。これにより、溶解槽113中のフッ素化合物が超臨界二酸化炭素に溶解する(図4中のステップS1)。溶解槽113は40℃に昇温されており、溶解槽113にはフッ素化合物であるPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideが過飽和になるように仕込まれている。それゆえ、溶解槽113内では、連続フローシステム112より導入された超臨界二酸化炭素に対してフッ素化合物が常時、飽和溶解している。このとき、溶解槽113の圧力計117は10MPaを表示した。
【0069】
次に、一般的な射出成形装置100と同様に、加熱シリンダ105内のスクリュ105Aを回転させ、ホッパ104から供給されるプラスチックのペレットを可塑化溶融する(図4中のステップS2)。また、スクリュ105Aの前に溶融プラスチックが押し出されるように、計量しながらスクリュ105Aを後退させて、所定の計量位置で停止させた。
【0070】
次いで、さらに、スクリュ105Aを後退させ、計量した溶融プラスチックを減圧した。この例では、加熱シリンダ105のフローフロント部105A付近に設けられた溶融プラスチックの内圧モニタ108は、内圧が4MPa以下に低下することを確認した。
【0071】
次に、ガス導入機構107からフッ素化合物が溶解した超臨界二酸化炭素を導入し、加熱シリンダ105のフローフロント部105Aの溶融プラスチックに接触させた(図4中のステップS3)。フッ素化合物が溶解した超臨界二酸化炭素は、加熱シリンダ105内の減圧状態にある溶融プラスチック120に導入して浸透する。具体的には、次のようにしてフッ素化合物が溶解した超臨界二酸化炭素を導入した。まず、第一のエアーオペレートバルブ115を開き、第二のエアーオペレートバルブ116と第一のエアーオペレートバルブ115との間の配管114内にフッ素化合物の溶解した超臨界二酸化炭素を導入して圧力計118を昇圧させた。次いで、加熱シリンダ105への導入時は、第一のエアーオペレートバルブ115を閉じた状態で第二のエアーオペレートバルブ116を開いた。本実施例では、第一のエアーオペレートバルブ115と第二のエアーオペレートバルブ116との間の配管114の内容積により、超臨界二酸化炭素の導入量を制御した。なお、溶融プラスチックに浸透させる超臨界流体は、この例のように単独でもよいし、あるいは複数でもよい。
【0072】
次に、スクリュ105Aを背圧力によって前進させ、充填開始位置までスクリュ105Aを戻した。この動作により、スクリュ105Aの前側のフローフロント部105Aにおいては、二酸化炭素及びフッ素化合物が溶融プラスチック120内に拡散する。
【0073】
次いで、エアーピストン109を駆動してシャットオフバルブ110を開き、可動金型102および固定金型103にて画成されたキャビティ106へ溶融プラスチック120を射出充填した(図4中のステップS4)。
【0074】
図3(a)に示すように、初期充填時には、フローフロント部105Aの溶融プラスチックがまずキャビティ106へ充填される。フローフロント部105Aの溶融プラスチック120Aに浸透しているフッ素化合物及び二酸化炭素は減圧されながらキャビティ106内で拡散する。この際、フローフロント部105Aの溶融プラスチック120Aは充填時の噴水効果により、金型102の表面に接しながら流動し、図4(b)に示すように、スキン層121を形成する。その後、キャビティ106が溶融プラスチック120により埋まると、射出充填が完了する。このようにフローフロント部105Aの溶融プラスチック120Aにフッ素化合物及び二酸化炭素を接触させることにより、キャビティ106内には、溶融プラスチック120により、フッ素化合物が含浸したスキン層121と、その内部の、フッ素化合物(浸透物質)がほとんど浸透していないコア層122とが形成される。
【0075】
なお、後述するように、成形体2の内部に浸透して残留するフッ素化合物は表面機能(表面粗化)に寄与しない。そのため、この例のようにフローフロント部105Aのみにフッ素化合物が溶解した超臨界二酸化炭素を接触させることにより、プラスチック成形体2の表面部(スキン層121)におけるフッ素化合物の量を減らすことなく、フッ素化合物の使用量を削減できる。
【0076】
また、超臨界二酸化炭素のガス化を防止し、ひいてはキャビティ106内での発泡を抑制して成形体2の表面性を得るためには、上述の1次充填後に溶融プラスチックの圧力を高いまま保持する必要がある。そのため、一般的には、射出中および射出後にカウンタープレッシャーをキャビティ106に付加する必要がある。ただし、本実施例の成形方法では、可塑化シリンダ105内のフローフロント部105Aにのみに超臨界二酸化炭素を浸透させているので、充填した樹脂の全体量に対する二酸化炭素の絶対量が少ない。それゆえ、溶融プラスチックの圧力を保持するためにカウンタープレッシャーを付加しないでも、プラスチック成形体2の表面性が悪化し難い。
【0077】
次に、このようにキャビティ106内でプラスチック成形体2を成形した後、超臨界二酸化炭素を溶媒として用いて、プラスチック成形体2からフッ素化合物を除去(洗浄)した(図4中のステップS5)。本実施例では、キャビティ106内が温度40℃且つ圧力15MPaとなるように制御し、その状態を30分続けた。温度40℃且つ圧力15MPaになると、二酸化炭素は、超臨界状態となる。この洗浄処理により、プラスチック成形体2の表面には、微細な凹凸(微細穴)が高密度に形成された。すなわち、洗浄処理により、プラスチック成形体2の表面形状を物理的に変化させた。このようにして、この例では、プラスチック成形体2の表面改質を行った。
【0078】
なお、本実施例において、フッ素化合物と超臨界二酸化炭素(高圧二酸化炭素)を接触させる場合においては、非晶性樹脂材料が十分に膨潤するように樹脂材料のガラス転移温度近傍の温度において、処理を行うことが望ましい。また、樹脂材料内部に導入したフッ素化合物のみを溶解および抽出する場合においては、ガラス転移温度よりも十分低い温度にて処理することが望ましい。抽出時には樹脂が膨潤することで孔のサイズが拡大してしまうためである。
【0079】
このプロセスにより、ポリフェニレンサルファイド製のプラスチック成形体2の表面に浸透していたフッ素化合物、すなわちPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideが脱離し、その離脱した部分には、微細穴が形成される。すなわち、洗浄処理により、プラスチック成形体2の表面に微細穴(微細な凹凸)を形成した(表面を祖化または多孔質化させた)。
【0080】
図5(a)は、洗浄処理前のプラスチック成形体2の表面に相当する、超臨界二酸化炭素により洗浄していないプラスチック成形体2の表面のAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)観察像である。図5(b)は、超臨界二酸化炭素により洗浄した後のプラスチック成形体2の表面のAFM観察像である。図5(b)から明らかなように、洗浄処理後のプラスチック成形体2の表面には、100〜300nm程度(サブミクロンからナノオーダ)のサイズの微細穴が多数形成されている。プラスチック成形体2の表面には、この多数の微細穴により凹凸面に改質された。
【0081】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上述のようにして作製されて、その表面部に多数の微細穴による凹凸が形成されているプラスチック成形体2に対して、無電解メッキにより金属膜(メッキ膜)3を形成した。具体的には、次のようにして、無電解メッキ膜を形成した。
【0082】
まず、ポリフェニレンサルファイド製のプラスチック成形体2を公知のコンディショナー(奥野製薬工業(株)製 OPC−370)を用いて脱脂した。次いで、触媒(奥野製薬工業(株)製 OPC−80キャタリスト)をプラスチック成形体2に付与し(図4中のステップS6)、その後、活性剤(奥野製薬工業(株)製 OPC−500アクセレーターMX)を用いて触媒を活性化した。次いで、無電解Niメッキを施した(図4中のステップS7)。なお、メッキ液には奥野製薬工業(株)製 ニコロンDKを用いた。
【0083】
その結果、プラスチック成形体2に形成したメッキ膜には剥離等が確認されなかった。
【0084】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が15.2nm、十点平均粗さ(Rz)が105.8nmであった。従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜での算術平均粗さ(Ra)は、約数μm〜数十μm(ミクロンオーダ)である。すなわち、この例で形成したメッキ膜の表面粗さは、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したものとくらべて、桁違いに小さな値となり、メッキ膜の表面として良好な平滑性を得ることができた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性に優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0085】
その後、大気中でさらに、従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)をした。その結果、上述したすべての試験において、金属膜3の剥離やふくれなどが認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離などは生じなかった。
【0086】
また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温環境試験や、温度を−40℃と85℃との間で温度を切り替えるヒートサイクル試験を10サイクルを行った際にも、同様の結果が得られた。
【0087】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、従来の方法を略そのまま用いた簡便な方法により、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体(ポリマー部材)2に形成でき、しかも、樹脂成形において表面改質をすることにより、成形体の脱脂工程、エッチング工程、中和及び湿潤化工程、触媒付与工程、触媒活性化工程などを省略して、プロセス全体を簡略化することができることが分かった。
【実施例2】
【0088】
実施例2では、実施例1と同様に、プラスチック成形体(プラスチック)2を射出成形により成形する際に、超臨界二酸化炭素を用いてフッ素化合物をプラスチック成形体2に浸透させた後、超臨界二酸化炭素を用いてプラスチック成形体2からフッ素化合物を除去することで、その表面が凹凸となるように改質した。また、この表面が改質されたプラスチック成形体2に対して、超臨界二酸化炭素を用いて金属触媒核(金属微粒子)を付与した後、超臨界二酸化炭素を用いて金属膜(メッキ膜)3を形成することにより、プラスチック部品1を形成した。
【0089】
なお、この例では、フッ素化合物を除去したプラスチック成形体2(ポリマー部材)に、バッチ方式にて金属触媒核を付与した。また、金属膜3は、超臨界二酸化炭素と無電解Niメッキ液の混合溶液によりエマルションを形成し、該混合溶液のエマルション中で無電解メッキを行った。なお、超臨界二酸化炭素を用いた無電解メッキ膜を形成した後に、さらにその上にたとえば銅や銀の膜を形成してもよい。
【0090】
なお、本実施例のプラスチック部品1の基本構造と、フッ素化合物を抽出したプラスチック成形体2を得るまでの工程とは、実施の形態1と同様であり説明を省略する。ここでは、主に、フッ素化合物を抽出することで凹凸な表面に改質されたプラスチック成形体2に対するメッキ膜の形成処理について説明する。
【0091】
[メッキ膜の形成方法]
まず、実施例1の方法により形成されたプラスチック成形体2は、金属錯体とともに、図示しない表面改質装置の高圧容器内に装着される。なお、この際、プラスチック成形体2の全表面が、後に高圧容器へ導入される超臨界二酸化炭素と接触できるように、プラスチック成形体2を高圧容器の中央部分に浮かせて保持した。また、この例では、金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0092】
プラスチック成形体2および金属錯体を、高圧容器に収容した後、高圧容器内に15MPaの超臨界二酸化炭素を導入した。高圧容器内に仕込まれた金属錯体は、超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界二酸化炭素とともにプラスチック成形体2の表面からその内部へ浸透する。この圧力を150℃で30分間を保持することにより、プラスチック成形体2の表面部に全体的に浸透した金属錯体の一部が還元する。
【0093】
次に、金属錯体が浸透したプラスチック成形体2に無電解メッキを施し、プラスチック成形体2の表面にメッキ膜を形成した。実際には、超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液の混合溶液により該混合溶液中で無電解メッキを行った。まず、金属錯体(金属触媒核、金属微粒子)を付与したプラスチック成形体2を表面改質装置の高圧容器から取り出し、無電解メッキ装置200の高圧容器内に装着した。
【0094】
図6は、無電解メッキ装置200を示す。無電解メッキ装置200は、主に、液体二酸化炭素ボンベ201と、シリンジポンプ202と、高圧容器203とを有する。高圧容器203は、温調流路211を流れる図示しない温調機により温度制御された温調水により30℃から145℃の任意の温度により温調することができる。容器本体203Aと蓋203Bとが、公知のバネが内蔵されたポリイミド製シール203Cによりシールされることで、高圧容器203は、高圧ガスなどを内部に密閉することができる。
【0095】
プラスチック成形体2は、その全表面が後に高圧容器203へ導入される超臨界二酸化炭素と接触できるように、プラスチック成形体2を高圧容器203の蓋203Bから吊るして保持される。また、高圧容器203には、その内容積の70%まで無電解ニッケルメッキ液204が満たされ、マグネチックスタラー205が配設されている。
【0096】
なお、高圧容器203には、腐食されにくい材質を用いることが望ましく、SUS316、SUS316L、インコネル、ハステロイ、チタン等を用いることができるが、本実施例においてはSUS316Lを用いた。本発明においては、高圧容器203の内壁面が無電解メッキ液204に接触する場合、容器内部にメッキ膜が成長しないように、内壁面表面には、非メッキ成長膜がコーティングされていることが望ましい。非メッキ成長膜の材質としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、PTFE(ポリテトラフロオロエチレン)、PEEK(ポリエチルエーテルケトン)等を用いることができるが、本実施例の高圧容器203は、DLCをCVD(Chemical Vapor Deposition化学気相法)にてコーティングされている。
【0097】
また、本発明において用いることのできる無電解メッキ液204の種類はニッケル−リン、ニッケル−ホウ素、パラジウム、銅、銀、コバルト等任意であるが、本実施例においてはニッケル−リンを用いた。高圧二酸化炭素がメッキ液204に浸透することでメッキ液204のpHが低下するので、本発明では中性あるいは弱アルカリ性から酸性の浴でメッキできる液が好適であり、ニッケル−リンはpH4〜6の範囲で用いることができるので望ましい。また、pHが低下すると、リン濃度が上昇し、析出速度が低下してしまうなどの弊害が生じるので、予めメッキ液204のpHを上昇させておくようにしてもよい。
【0098】
特に、本発明の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキに関しては、アルコールが含まれる無電解メッキ液204中でメッキ反応を行っても良い。アルコールは、攪拌せずとも、超臨界状態の二酸化炭素と高圧状態にて相溶しやすい。本発明者らの検討によれば、メッキ液204は水が主成分であるが、アルコールを添加することにより、高圧状態の二酸化炭素とメッキ液204が安定に混ざりやすくなる。安定した混合状態を得るために、フッ素化合物を使用したり、攪拌したりする必要がなくなる。また、メッキ液204にアルコールを添加すると、メッキ液204の表面張力が低下するため、プラスチック成形体2内に高圧二酸化炭素とともにメッキ液204を浸透させてその内部でメッキ反応を成長させるために好都合である。
【0099】
通常、無電解メッキ液204は、金属イオンや還元剤等の入った原液に、例えばメーカー推奨の成分比により水で薄めてメッキ液204を健浴するが、本発明においては、アルコールを任意の割合で水に添加すればよい。水とアルコールの体積比は、任意であるが、メッキ液204の10〜80%の範囲であることが望ましい。アルコール成分比が10%より小さいと、安定な混合液が得られにくくなる。また、アルコール成分比が80%より大きいと、たとえばニッケル−リンメッキに用いられる硫酸ニッケルは、エタノール等の有機溶媒に不溶であるため、浴が安定しないことがある。
【0100】
そして、本実施例においては、メッキ液204中に、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤の含まれる原液として奥野製薬社製ニコロンDKを150ml添加し、水を350ml、アルコールとしてエタノールを500mlそれぞれ加え調合した。つまり、アルコール成分比は、メッキ液204中50%とした。硫酸ニッケルはアルコールに不溶なので、アルコールの添加量が80%を超えると硫酸ニッケルが多く沈殿するので適用できないことがわかった。
【0101】
なお、本発明に用いることのできるアルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができるが、本実施例ではエタノールを用いた。
【0102】
図6の金属無電解メッキ装置200に、錯体が付与されたプラスチック成形体2を装着した後、無電解メッキ装置200に超臨界二酸化炭素を導入した。超臨界二酸化炭素は、液体二酸化炭素ボンベ111からフィルター206を通ってシリンジポンプ202で15MPaに昇圧され、手動バルブ207から高圧容器203へ導入される。シリンジポンプ202は、手動バルブ207を開いた状態で圧力を一定にする制御を実行し、高圧容器203の内部温度あるいは超臨界二酸化炭素の密度が変化したとしてもそれによる圧力変動を吸収し、高圧容器203の内部圧力を安定に保持することができる。
【0103】
高圧容器203へ超臨界二酸化炭素を導入する際の、高圧容器203およびメッキ液204の温度は、温調流路211を流れる温調水により、50℃に維持されている。これに対して、メッキ液204の反応温度は、70℃〜85℃である。したがって、この超臨界二酸化炭素の導入時には、マグレチックスタラー205を高速で回転させたとしても、無電界メッキ液204は超臨界二酸化炭素とともにプラスチック成形体2の内部に入り込むだけであり、プラスチック成形体2においてメッキが成長することはない。
【0104】
その後、プラスチック成形体2および超臨界二酸化炭素と相溶したメッキ液204の温度を、メッキ液204の反応温度(85℃)に上昇させた。これにより、収容容器203内では、メッキ反応が起きた。
【0105】
このようにメッキ反応温度よりも低い温度において超臨界二酸化炭素を導入し、その後にメッキ反応温度へ上昇させることにより、無電解メッキ液204は、高圧二酸化炭素とともにプラスチック成形体2の内部に予め浸透し、その事前の浸透がなされた状態においてメッキ膜の成長が始まることになる。その結果、メッキ膜は、プラスチック成形体2の内部において反応し、プラスチック成形体2の内部から成長するように形成される。
【0106】
メッキ処理後、マグネチックスタラー205を停止させた。これにより、二酸化炭素とメッキ液204とは、収容容器内で2相に分離する。その後、導入側の手動バルブ207を閉じ、排出側の手動バルブ208を開き、二酸化炭素を排気した。本実施例のプラスチック成形体2を高圧容器203から取り出したところ、その表面全体に金属光沢がみられた。
【0107】
次に、このメッキ膜3が形成されたプラスチック成形体2に対して、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離等は確認されなかった。
【0108】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が22.3nm、十点平均粗さ(Rz)が107.2nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて桁違いに小さな値が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0109】
さらに、この無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2に対して、大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)を実施した。その結果、すべての試験において金属膜3の剥離、ふくれ等は認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離等は生じなかった。また、温度150℃、放置時間500時間の条件での高温試験と、温度を−40℃と85℃との間で切り替えるヒートサイクルを10回繰り返す試験とを実施したが、同様に良好な結果を得ることができた。
【0110】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法では、従来の方法を略そのまま用いた簡便な方法により、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体(ポリマー部材)2に形成でき、しかも、樹脂成形において表面改質をすることにより、成形体の脱脂工程、エッチング工程、中和及び湿潤化工程、触媒付与工程、触媒活性化工程などを省略して、プロセス全体を簡略化することができることが分かった。
【実施例3】
【0111】
実施例3では、実施例1と同様に、プラスチック成形体2(プラスチック)を射出成形により成形する際に、超臨界二酸化炭素を用いてフッ素化合物および金属触媒核(金属微粒子)をプラスチック成形体2に浸透させた後、プラスチック成形体2からフッ素化合物を除去することで、その表面が凹凸となるように改質した。また、この表面が改質されたプラスチック成形体2に対して、超臨界二酸化炭素を用いて金属膜(メッキ膜)3を形成することにより、プラスチック部品1を形成した。
【0112】
なお、プラスチック成形体2に浸透させた2種類の物質は、実施例1で成形前に浸透させたフッ素化合物(Perfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6、分子量:996.2、沸点:235℃)と、実施例2で成形後に浸透させた金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))とである。本発明においては、フッ素を含有し、超臨界二酸化炭素(高圧二酸化炭素)に溶解する金属錯体とフッ素化合物とを混合することで、金属錯体が成形後のプラスチック表面に偏析しやすくなる。フッ素含有錯体の周囲をフッ素化合物が取り囲むことによって錯体の耐熱性が一時的に向上し、フッ素化合物とともに表面にブリードアウトしやすくなると考えられる。また、プラスチック成形体2の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。また、金属膜3の形成においては、超臨界二酸化炭素と無電解Niメッキ液の混合溶液によりエマルションを形成し、該混合溶液のエマルション中で無電解メッキを行った。
【0113】
[成形装置]
この例では、図2に示す射出成形装置100を使用した。そして、この溶解槽113には、上述した2種類の浸透物質(フッ素化合物及び金属錯体)が過飽和になるように仕込まれている。それ以外は、実施例1と同様にして射出成形を行い、メッキ処理を行った。
【0114】
[射出成形方法及び表面改質方法]
図7は、実施例3のプラスチック部品1の製造工程を示す。まず、実施例1と同様に、2種類の浸透物質(フッ素化合物及びフッ素含有の金属錯体)が溶解した超臨界二酸化炭素を加熱シリンダ105内の溶融プラスチック120に導入し、2種類の浸透物質が表面部121に含浸したプラスチック成形体2を作製した(図7中のステップS21〜S24)。なお、この成形過程では溶融プラスチック120の熱により、浸透した金属錯体の多くが金属微粒子に還元される。
【0115】
次いで、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、プラスチック成形体2からフッ素化合物を除去した(図7中のステップS25)。成形金型101内のキャビティ106の温度を40℃に制御するとともにキャビティ106の内圧を15MPaとし、その状態に30分間維持した。これにより、超臨界状態の二酸化炭素により、プラスチック成形体2の洗浄処理がなされる。プラスチック成形体2に浸透している浸透物質のうち、フッ素化合物がプラスチック成形体2の表面から脱離し、その表面に微細な凹凸(微細穴)が形成される。なお、もう一方の浸透物質である金属微粒子は、この洗浄処理によりほとんど除去されることはなく、洗浄後もプラスチック成形体2の表面内部に浸透していた。この例では、このようにしてプラスチック成形体2の表面を改質した。
【0116】
[メッキ膜の形成方法]
次に、実施例2と同様に、超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液の混合溶液を形成し、表面改質済みのプラスチック成形体2をこれに浸した。この無電解メッキにより、プラスチック成形体2の表面に金属膜3が形成された。これにより、実施例3のプラスチック部品1が形成された(図7中のステップS26)。
【0117】
次に、このプラスチック部品1について、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離等は確認されなかった。
【0118】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が27.6nm、十点平均粗さ(Rz)が105.3nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)とは桁違いに小さい値の良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0119】
その後、大気中でさらに従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)をした。その結果、すべての試験において、金属膜3の剥離やふくれなどが認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離などは生じなかった。
【0120】
また、温度150℃、放置時間500時間の条件での高温環境試験と、温度を−40℃と85℃との間で切り替えるヒートサイクルを10回繰り返す試験とを行った際にも、同様な結果が得られた。
【0121】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、従来の方法を略そのまま用いた簡便な方法により、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体(ポリマー部材)2に形成でき、しかも、樹脂成形において表面改質をすることにより、成形体の脱脂工程、エッチング工程、中和及び湿潤化工程、触媒付与工程、触媒活性化工程などを省略して、プロセス全体を簡略化することができることが分かった。
【実施例4】
【0122】
実施例4では、プラスチック成形体2(プラスチック)を射出成形により成形する際に、高圧二酸化炭素を用いてフッ素化合物および金属錯体をプラスチック成形体2の表面に浸透させた後、超臨界二酸化炭素を用いてプラスチック成形体2からフッ素化合物を除去することで、その表面が凹凸となるように改質した。また、この表面が改質されたプラスチック成形体2に対して、超臨界二酸化炭素を用いて金属膜(メッキ膜)3を形成することにより、プラスチック部品1を形成した。
【0123】
ただし、この例では、プラスチック成形体2の射出成形において、2つのシリンダを有するサンドイッチ射出成形装置300を用いた。2つのシリンダの内の、外皮を形成する第一の可塑化シリンダ301には、フッ素化合物および金属錯体が超臨界二酸化炭素に溶解して導入される。
【0124】
また、この例では、超臨界二酸化炭素と無電解Niメッキ液の混合溶液によりフッ素化合物を除去するとともに、さらに該混合溶液中で無電解メッキを行うことで金属膜3を形成した。
【0125】
[射出成形]
図8は、サンドイッチ射出成形装置300の概略構成を示す。図9から図14は、後述する各工程での要部拡大図である。このサンドイッチ射出成形装置300は、外皮を形成する第一の可塑化シリンダ301と、内皮を形成する第二の可塑化シリンダ302とを有する。外皮を形成する第一の可塑化シリンダ301には、フッ素化合物および金属錯体が超臨界二酸化炭素に溶解して導入される。なお、第二の可塑化シリンダ302に対しても、フッ素化合物および金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させて導入するようにしてもよい。
【0126】
なお、超臨界二酸化炭素に溶解させる機能性材料の種類は任意であるが、本実施例においては、フッ素化合物および金属錯体を用いた。フッ素化合物には、実施例1で使用したフッ素化合物(Perfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl
fluoride(分子式:C18F36O6、分子量:996.2、沸点:235℃))を使用し、金属錯体には、実施例2のヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を使用した。また、これらの機能性材料は、温度40℃、圧力10MPaの超臨界二酸化炭素に溶融して導入される。
【0127】
また、外皮を形成し、高圧二酸化炭素により機能性材料が分散される樹脂材料の種類は、熱可塑性樹脂材料であれば任意であり、非晶性、結晶性いずれでも適用できるが、本実施例においてはポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。
【0128】
また、内皮を形成する樹脂材料の種類は任意であり、外皮と同様な種類を選択することもできる。また、内皮にのみガラス繊維や無機フィラー等を混合した材料を使用することで表面性が良好で、機械的強度や寸法安定性、吸湿性に優れた成形体を得ることができる。本実施例においてはガラス繊維が30%混合したポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。
【0129】
成形金型303およびキャビティ306の形態は平面的なものに限られるものではなく、任意の三次元形状であるものであってもよい。そして、本実施例では、固定金型304および可動金型305より形成されるキャビティ106は、スプールを中心にして、自動車用のヘッドランプリフレクター(プラスチック成形体2の一種)が2個取り可能な形状とした。固定金型103は、成形機の固定プラテン307に固定され、可動金型102は可動プラテン308に固定され、型締め機構により駆動されることにより、可動プラテン308が固定プラテン307と接離する方向へ移動し、成形金型101が開閉する。
【0130】
[射出成形方法及び表面改質方法]
図15は、実施例4のプラスチック部品1の製造工程を示す。本実施例においては、超臨界二酸化炭素への浸透物質の溶解および可塑化シリンダ105への導入は、下記の方法で行った。
【0131】
まず、液体二酸化炭素ボンベ331より供給された二酸化炭素をシリンジポンプ332にて所定圧まで昇圧し、過飽和になるように溶解槽333内に仕込まれたフッ素化合物および金属錯体を溶解させた(図15中のステップS31)。この際、導入シリンダ313までの区間を加圧した。本実施例においては、後述する可塑化計量時における高圧二酸化炭素および機能性材料を可塑化シリンダ301内に導入するタイミング以外においては、シリンジポンプ332を溶解槽333から導入シリンダ313まで一定圧力に保持する制御とした。
【0132】
第一の可塑化シリンダ301に内蔵された第一のスクリュ301Aには2箇所の減圧箇所をベント部311,312としてそれぞれ設けた。図9に示すように、可塑化計量時には、第一のスクリュ301Aの回転によりスクリュ301A前方の内圧が上昇し、スクリュ301Aが後退し始めるが、その際に導入シリンダ313の下部に設けられたベント部312において溶融樹脂は減圧され、同時に導入シリンダ313内におけるエアー駆動式の導入ピストン313Aを上昇させ、減圧樹脂内部に浸透させた(図15中のステップS32〜S33)。機能性材料の溶解した高圧二酸化炭素の樹脂内部への浸透時間中は、シリンジポンプ332を流量制御に切り替え一定流量の高圧二酸化炭素を一定時間、可塑化シリンダ105内に注入した。
【0133】
本実施例の成形装置においては、機能性材料を溶解させ溶融樹脂に浸透させた高圧二酸化炭素を射出充填前に排気させる機能を有する。図10に示すように、可塑化計量時に第一のスクリュ301Aおよび第二のベント部312にて樹脂を減圧し、高圧二酸化炭素を超臨界状態の圧力以下に減圧してガス化させた。同時に排出シリンダ314に内蔵された排気ピストン314Aを上昇させ、ガス化した二酸化炭素の一部を可塑化シリンダ301より排気した。二酸化炭素は、フィルター315、バッファー容器316を通過した後、減圧弁317で圧力計318が0.5MPaになるように減圧され、真空ポンプ319から排気された。
【0134】
第一のホッパ104より供給された図示しない樹脂ペレットは、第一の可塑化シリンダ301内に浸透物質(フッ素化合物、金属錯体)および高圧二酸化炭素が均一に拡散した状態で可塑化溶融される。第一の可塑化シリンダ301と第二の可塑化シリンダ302の金型への流通はロータリーバルブの回転によって制御される。例えば、第一の可塑化シリンダ301における可塑化計量時には、加圧された樹脂がノズルの先端部より金型内へ漏れないように、図9および図10に示すように、ロータリーバルブは第二の可塑化シリンダ302とノズルとの間に樹脂流動路を形成するように設定されている。
【0135】
第一のスクリュ301Aで第一の樹脂材料の可塑化計量が完了したタイミングで、図10に示すように、導入シリンダ313の導入ピストン313Aおよび排出シリンダ314の排出ピストン314Aを下降させ、同時にシリンジポンプ332を圧力制御に切り替え、高圧二酸化炭素の導入および排気を停止した。
【0136】
次に図11に示すように、第一の可塑化シリンダ301より可塑化計量された溶融樹脂が第一のスクリュ301Aの前進により金型303内へスプールおよびキャビティ106内に射出充填される際には、ロータリーバルブ321は回転し、第一の可塑化シリンダ301とノズル322の樹脂流動路を形成した。
【0137】
同時に第二の可塑化シリンダ302では、図示しない第二のホッパより供給された、内皮を形成する樹脂ペレットを第二のスクリュ302Aの回転により可塑化計量した。図12に示すように、第一の樹脂が充填完了する直前には、第二の樹脂の可塑化計量が完了する。
【0138】
第一の可塑化シリンダ301より、外皮を形成する第一の樹脂材料が充填された(図15中のステップS34)直後、ロータリーバルブ321を回転させ、図13に示すように、第二の可塑化シリンダ302より第二の樹脂材料を射出充填した(図15中のステップS35)。そして図14に示すように、キャビティ106内には、サンドイッチ成形体(プラスチック成形体2の一種)343が射出成形される。このサンドイッチ成形体343の外皮部341は、2種類の浸透物質(フッ素化合物及びフッ素含有の金属錯体)が分散した第一の樹脂材料により形成され、内皮部342は、第二の樹脂材料により形成されている。なお、この成形過程では溶融樹脂の熱により、浸透した金属錯体の多くが金属微粒子に還元される。冷却固化させた後、金型を開き、サンドイッチ成形体343を取り出すことにより、2種類の浸透物質が表面に含浸したプラスチック成形体2を作製した。
【0139】
[フッ素化合物の抽出方法とメッキ膜の形成方法]
図16は、無電解メッキ装置200を示す。この無電解メッキ装置200は、図6のものと略同様の構成を有する。ただし、この例では、メッキ液およびプラスチック成形体2は、室温に保持したテフロン(登録商標)製内部容器251に収容され、このテフロン(登録商標)製内部容器251が、予め90℃に温調された高圧容器203に収容される。また、高圧容器203には、収容後ただちに15MPaの超臨界二酸化炭素が導入される。
【0140】
高圧容器203に超臨界二酸化炭素が導入された直後は、内部容器251には熱伝導性の低い樹脂を使用しているので、内部容器251内の温度は、急激に上昇してしまうことはなく、しばらくの間はメッキ反応が起こる温度以下の低温に維持される。そのため、超臨界二酸化炭素は、プラスチック成形体2に浸透している浸透物質のうち、フッ素化合物であるPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6、分子量:996.2、沸点:235℃)をプラスチック成形体2から除去する。これにより、プラスチック成形体2の表面には、微細な凹凸(微細穴)が形成される(図15中のステップS36)。
【0141】
その後、時間の経過とともに、内部容器251内の温度が上昇する。内部容器251内の温度は、最終的にはメッキ反応温度に上昇する。これにより、内部容器251内ではメッキ反応が起こり、プラスチック成形体2の表面にメッキ膜3が成長する(図15中のステップS37)。この際、この実施例のメッキ膜3の形成方法では、上述のようにプラスチック成形体2の内部に存在する金属微粒子のところまで無電解メッキ液204が事前に浸透しているので、プラスチック成形体2の表面だけでなく、その内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜3が成長する。すなわち、この実施例のメッキ膜の形成方法では、メッキ膜3は、プラスチック成形体2の内部の自由体積内においても成長し、プラスチック成形体2の内部に食い込んだ状態で形成され、強い密着強度を持つ。
【0142】
次に、メッキ膜3が形成されたプラスチック成形体2に対して、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離等は確認されなかった。
【0143】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が31.2nm、十点平均粗さ(Rz)が111.5nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて桁違いに小さい値が得られ、良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0144】
その後、さらに大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)をした。その結果、すべての試験において金属膜3の剥離やふくれなどは認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離などは生じなかった。
【0145】
また、温度150℃、放置時間500時間の条件での高温試験と、温度を−40℃と85℃との間で10回切り替えるヒートサイクル試験とを行ったところ、同様な結果が得られた。
【0146】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、簡便な方法により、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体2に形成できた。
【実施例5】
【0147】
実施例5では、射出成形時には超臨界二酸化炭素を用いないプラスチック成形体2の表面を改質する方法と、超臨界二酸化炭素を用いてプラスチック成形体2の表面にメッキ膜3を形成する方法の例について説明する。
【0148】
この例では、フッ素化合物としてPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluoride(分子式:C18F36O6、分子量:996.2、沸点:235℃)を用い、プラスチック成形体2の形成材料としてはポリカーボネートを用いた。以下に、この例のプラスチック成形体2の成形方法及び表面改質方法からメッキ膜の形成方法までの手順を図17を用いて説明する。
【0149】
[成形方法及び表面改質方法]
まず、この例では、射出成形をする前に、プラスチック成形体2の形成材料であるポリカーボネートと、浸透物質であるPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideとを、公知の押出成形機内で混練してペレット(第1プラスチック樹脂)を作製した。具体的には、ポリカーボネートに対するPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideの混合比を30%として押出成形機に供給し、スクリュにて溶融及び混練しながらノズル先端のダイから樹脂を押出した。得られた成形体を冷却バスにて冷却し、ペレタイザーにて造粒した。この際、ポリカーボネートとPerfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideとの混練を均一にするために、添加剤により末端基を改質して親和性を向上させる等の改質を施しても良い。
【0150】
また、この例では、射出成形をする前に、第二のペレットとして、公知の押出成形機で、Perfluoro-2,5,8,11,14-pentamethyl-3,6,9,12,15-pentaoxaoctadecanoyl fluorideを含まないポリカーボネートからなるペレット(第2プラスチック樹脂)を作製した(図17中のステップS41)。なお、本発明では、プラスチック成形体2の形成材料は、押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意である。
【0151】
次に、この2種類のペレットを用いて、公知のサンドイッチ成形装置によりプラスチック成形体2を成形した。この例で用いたサンドイッチ成形装置は、射出成形装置100の一種であり、図8のものと同様に2つの加熱シリンダと、それらの先端ノズルと流通した金型とを備える。そして、このサンドイッチ成形装置は、一方の加熱シリンダ(以下、第1加熱シリンダともいう)から溶融樹脂を金型内に射出した後、他方の加熱シリンダ(以下、第2加熱シリンダともいう)から溶融樹脂を射出充填することで、プラスチック成形体2を成形する。
【0152】
具体的には、まず、第1加熱シリンダ内に、フッ素化合物を含むポリカーボネート(第1プラスチック樹脂)のペレットを供給し、可塑化溶融した(図17中のステップS42)。また、第2加熱シリンダ内に、フッ素化合物を含まないポリカーボネート(第2プラスチック樹脂)のペレットを供給し、可塑化溶融した(図17中のステップS43)。
【0153】
次いで、第1加熱シリンダからフッ素化合物を含むポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出した(図17中のステップS44)。次いで、溶融樹脂の射出経路を第2加熱シリンダに切り替えて、第2加熱シリンダからフッ素化合物を含まないポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出充填した(図17中のステップS45)。
【0154】
この結果、フッ素化合物を含まないポリカーボネートからなるコア層342と、コア層342上に形成されたフッ素化合物を含むポリカーボネートからなるスキン層341とを有するプラスチック成形体2が得られた。
【0155】
この例では、このようにして、射出成形時に超臨界二酸化炭素を用いないで、表面にフッ素化合物が含浸したプラスチック成形体2を作製した。なお、プラスチック成形体2の成形方法としては、サンドイッチ成形に限らず、インサート成形、二色成形等を用いても良い。
【0156】
サンドイッチ成形で作製されたプラスチック成形体2を、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、プラスチック成形体2の表面からフッ素化合物を除去した(図17中のステップS46)。
【0157】
[メッキ膜の形成方法]
次に、表面に微小穴が形成されたプラスチック成形体2に、メッキ触媒核を溶融させた超臨界二酸化炭素を接触させて、プラスチック成形体2の表面部に、メッキ触媒核を付与した(図17中のステップS47)。
【0158】
次に、メッキ触媒核が付与したプラスチック成形体2を、超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液の混合液中に浸し、プラスチック成形体2の表面にメッキ膜3を形成した(図17中のステップS48)。
【0159】
次に、メッキ膜3が形成されたプラスチック成形体2に対して、実施例1同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離などは確認されなかった。
【0160】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が30.9nm、十点平均粗さ(Rz)が117.2nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて桁違いに小さい、良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0161】
その後、さらに、大気中でメッキ膜3の上に従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)をした。その結果、すべての試験において金属膜3の剥離やふくれなどは認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離などは生じなかった。
【0162】
また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験と、温度を−40℃と85℃との間で10回切り替えるヒートサイクル試験とを行った際も、同様な結果が得られた。
【0163】
すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、簡便な方法により、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜3をプラスチック成形体2に形成できた。
【0164】
【表1】
【0165】
表1に実施例1〜5のメッキ後の試験結果をまとめる。
【0166】
この結果から、すべての実施例において、外観、メッキ膜密着度、メッキ面平滑性とも良好な結果が得られた。これは、従来のエッチャントを使用してミクロンオーダに基板表面を粗らした場合にくらべて、プラスチック成形体2の表面平滑性を損なうことなく、微細な凹凸を高密度に均一分散することができ、その結果として、十分なアンカリング効果を得ることができたためであると考えられる。
【0167】
金属膜3の表面粗さが大きい場合には、金属膜3の反射率や電気特性(抵抗等)等が劣化してしまうことになるが、本発明のメッキ膜の形成方法では、成形体2の表面粗さを非常に小さくすることができるので、例えば、高反射率を必要とするリフレクター、良好な電気特性を必要とする高周波電気回路やアンテナなどの用途で用いられるプラスチック部品1の金属膜3の形成方法として好適である。
【0168】
実施例1〜5では、浸透物質(フッ素化合物及び/又は金属錯体)を溶解槽で高圧二酸化炭素に溶解させた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、予め浸透物質が溶解した高圧二酸化炭素を充填したボンベ等の貯蔵器を用い、その貯蔵器から浸透物質が溶解した高圧二酸化炭素を直接プラスチック(または溶融樹脂)に供給(導入)しても良い。
【実施例6】
【0169】
実施例6では、フッ素化合物として1H,1H-Perfluoro(2,5-dimethyl-3,6-dioxanonan-1-ol)(分子量:482.1、沸点:155℃)を用いること以外、実施例1と同様の方法により射出成形、表面改質、メッキ膜3を形成した。
【0170】
そして、このメッキ膜3が形成されたプラスチック成形体2に対して、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜3の剥離などは確認されなかった。
【0171】
また、この例で形成したメッキ膜3の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が12.3nm、十点平均粗さ(Rz)が101.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて桁違いに小さい値となり、良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。
【0172】
すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜3が表面に形成されたプラスチック成形体2を得ることができた。
【0173】
その後、大気中でさらに、従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿環境試験(温度80℃、湿度90%Rh、500時間)と、温度150℃、放置時間500時間の条件での高温試験とを行った。その結果、金属膜3の剥離やふくれなどは認められず、その後におこなったテープによるピール試験においても剥離などが生じなかった。
【0174】
更に、温度を−40℃と85℃との間で10回切り替えるヒートサイクル試験を行った。この場合でも、金属膜3の剥離やふくれなどは認められなかった。その後のテープによるピール試験では、一部に剥離が認められたが、実用上問題のない密着力を有するメッキ膜3であると判断できた。
【0175】
表2に実施例6のメッキ後の試験結果をまとめる。
【0176】
【表2】
【実施例7】
【0177】
実施例7では、少なくとも表面にフッ素化合物、金属錯体を有する樹脂フィルム(プラスチック製シート)を押し出し成形で作製した後、フッ素化合物を除去するプラスチックの表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック成形品の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。
【0178】
樹脂フィルムに用い得る樹脂材料は、押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意であるが、本実施例では、ポリカーボネートを用いた。また、樹脂フィルムに浸透させる材料もまた任意であるが、本実施例ではフッ素化合物にはPerfluorotripentylamine (分子式:C15F33N(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:821.1、沸点:220℃)を、また金属錯体としてフッ素系の金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)用いた。なお、この例では、高圧流体として液状の高圧二酸化炭素を用いた。
【0179】
[成形装置] まず、樹脂フィルムを作製するために用いたこの例の成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成図を図18に示した。この例で用いた成形装置400は、図18に示すように、主に、押し出し成形機部401と、二酸化炭素供給部402と、二酸化炭素排出部403とから構成される。
【0180】
押し出し成形機部401は、図18に示すように、主に、可塑化溶融シリンダー411(以下、加熱シリンダーともいう)と、加熱シリンダー411内に樹脂のペレットを供給するホッパー412と、加熱シリンダー411内のスクリュー413を回転させるモーター414と、冷却ジャケット415と、溶融樹脂の肉厚を薄くし且つ溶融樹脂を扇状に拡大させながら押し出すダイ416と、冷却ロール417とから構成される。スクリュー413としては、減圧部となるベント構造部413aを有する単軸スクリューを用いた。
【0181】
押し出しダイ416の構造・方式は任意であり、作製する成形品の形状、用途等により適宜設定できるが、この例では押し出しダイ416として、フィルム成形用のTダイを用いた。また、この例の成形装置400では、Tダイ416より押し出された樹脂フィルム501は冷却ロール417等により巻き取られる。本実施例では、Tダイ416のダイ押し出し口におけるギャップtは0.5mmに設定した。
【0182】
また、この例の成形装置400では、図18に示すように、二酸化炭素の導入口411aを溶融樹脂が減圧される単軸スクリュー413のベント機構部413a付近に設けた。また、この例の成形装置400では、図18に示すように、樹脂内圧を測定するためのモニターを加熱シリンダー411と冷却ジャケット415との間の接続部(モニター418)と、冷却ジャケット415内部(モニター419)とに設けた。
【0183】
二酸化炭素供給部402は、図18に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ441と、シリンジポンプ442と、溶解槽443と、背圧弁444と、バルブ445と、圧力計446と、これらの構成要素を繋ぐ配管447とから構成される。また、バルブ445の下流側(2次側)は、図18に示すように、配管447を介して加熱シリンダー411の二酸化炭素の導入口411aに繋がれており、加熱シリンダー411内部の溶融樹脂の流路と流通している。なお、二酸化炭素の導入箇所は、これに限定されず、スクリュー413からTダイ416までの領域であれば、任意の箇所に設け得る。
【0184】
また、二酸化炭素排出部403は、図18に示すように、主に、二酸化炭素を排出するための抽出容器461と、背圧弁462と、圧力計463と、これらの構成要素を繋ぐ配管464とから構成される。また、背圧弁462の上流側(1次側)は、図18に示すように、配管464を介して冷却ジャケット415の二酸化炭素排出口415aと繋がれており、冷却ジャケット415内部の溶融樹脂の流路と流通している。
【0185】
なお、本実施例の押し出し成形機部401において、スクリュー413、加熱シリンダー411、ダイ416等の各機構は、公知の押し出し成形機の各機構と同様な形態を用いることができる。
【0186】
[樹脂フィルムの成形方法] 次に、本実施例における樹脂フィルムの成形方法を図18及び図19を参照しながら説明する。図19は、実施例7のプラスチック部品の製造工程を示す。
【0187】
まず、押し出し成形機部401のホッパー412に樹脂材料(ポリカーボネート)のペレットを充分な量だけ供給し、モーター414によりスクリュー413を回転させて樹脂材料を可塑化溶融し、溶融樹脂を加熱シリンダー411の先端に送った(図19中のステップS51)。この際、バンドヒータ420により加熱シリンダー411を280℃に温度調節した。
【0188】
次いで、予めフッ素化合物、金属錯体が仕込まれた溶解槽443の内部で高圧二酸化炭素(高圧流体)を流動させることによりフッ素化合物を高圧二酸化炭素に溶解させた(図19中のステップS52)。具体的には、次のようにしてフッ素化合物、金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた。まず、二酸化炭素ボンベ441から供給された液体二酸化炭素をシリンジポンプ442で昇圧および圧力調整し、圧力計46が15MPaになるよう圧力調整した。そして、昇圧された高圧二酸化炭素を、40℃に温度制御され、フッ素化合物、金属錯体が過飽和になるように仕込まれた溶解槽443内部に流動させ、フッ素化合物、金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた。
【0189】
次いで、バルブ445を開放して、配管447及び導入口411aを介して、加熱シリンダー411のベント構造部413aにフッ素化合物を溶解した高圧二酸化炭素を導入し、フッ素化合物を高圧二酸化炭素とともに溶融樹脂に接触させた浸透させた(図19中のステップS53)。この際、シリンジポンプ442により高圧二酸化炭素の流量を制御し、且つ、背圧弁444により高圧二酸化炭素の圧力を制御しながら一定流量で、フッ素化合物、金属錯体を溶解した高圧二酸化炭素を導入した。この際、ベント構造部413aの溶融樹脂に注入された高圧二酸化炭素および浸透物質(フッ素化合物、金属錯体)は、スクリュー413の回転により樹脂に混錬される。
【0190】
次いで、高圧二酸化炭素およびフッ素化合物、金属錯体が混錬された溶融樹脂の圧力が樹脂内圧力のモニター418の表示で20MPaに上昇するように調整しながら、溶融樹脂を加熱シリンダー411から押し出した。
【0191】
次いで、加熱シリンダー411から押し出された溶融樹脂を、冷却ジャケット415を通過させた。なお、冷却ジャケット415は、冷却ジャケット415内部に設けられた冷却水路415bを流動する温調水により200℃まで冷却されている。また、この例の成形装置400では、図18に示すように、冷却ジャケット415内部の溶融樹脂の流路の断面積が、加熱シリンダー411と冷却ジャケット415との接続部の溶融樹脂の流路の断面積より大きくしているので、溶融樹脂が冷却ジャケット415内を通過した際には、冷却と同時に減圧される。この例では、溶融樹脂が冷却ジャケット415内を通過した際には、減圧部の樹脂内圧力モニター419は10MPaを示した。
【0192】
次いで、冷却ジャケット415から押し出された溶融樹脂は、Tダイ416を通過し、Tダイ416から押し出された樹脂501は冷却ロール417等で巻き取られフィルム状(シート状)に連続成形された(図19中のステップS104)。そして、この例では、図示しない延伸装置で樹脂501を薄肉化して厚み0.1mmの樹脂フィルムを作製した。このようにして、フッ素化合物、金属錯体が表面及び内部に分散した樹脂フィルム(プラスチック製シート)を得た。
【0193】
上述したこの例のプラスチック成形品(樹脂フィルム501)の表面粗さを触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)で測定した。算術平均粗さ(Ra)は5nm、十点平均粗さ(Rz)は8nmであった。
【0194】
次に、樹脂フィルム501を高圧二酸化炭素を溶媒として用い、樹脂フィルム501の表面近傍に分散しているフッ素化合物を除去した(図19中のステップS55)。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。この工程により、フッ素化合物が除去された箇所には微細孔が形成され、プラスチック成形品(樹脂フィルム501)の表面に微細な凹凸を形成した。この例では、上述のようにして、プラスチック成形品の表面改質を行った。
【0195】
上述のように、本実施例のプラスチック成形品(樹脂フィルム501)の表面改質方法では、樹脂フィルムの材料とは異なるフッ素化合物が溶媒により樹脂フィルムから除去されるので、少なくとも成形品の表面に微細孔が形成された樹脂成形品が得られる。また、微細孔のサイズは、フッ素化合物の分子量や樹脂フィルムからフッ素化合物を抽出除去する際の条件により数nmオーダーからミクロンオーダーまでの範囲で制御可能である。
【0196】
上述のようにして作製された表面に微細孔が形成されたプラスチック成形品の表面粗さを実施例1と同様にして測定した。その結果、算術平均粗さ(Ra)は15nm、十点平均粗さ(Rz)は130nmとなり、フッ素化合物を除去する前、すなわち、押し出し成形後のプラスチック成形品に比べて、表面粗さが大きくなった。これは、樹脂フィルム表面に分散していたフッ素化合物が除去され微細孔が形成されたことを示している。ただし、従来のメッキ工程で行うクロム酸や過マンガン酸のエッチング処理では成形品表面が数μm〜数十μm程度粗化されることを考えると、本実施例で表面改質されたプラスチック成形品では、従来のエッチング処理により粗化された成形品に比べて良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られることが分かった。
【0197】
[メッキ膜の形成方法] 次に、この例では、フッ素化合物が除去されたプラスチック成形品に対して、実施例2と同様にしてメッキ膜を形成した(図19中のステップS56)。
【0198】
次に、上記ポリマー上にメッキ膜が形成されたポリマー成形品に対して、実施例1同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜の剥離等は確認されなかった。
【0199】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が32.2nm、十点平均粗さ(Rz)が115.4nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【0200】
その後、大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿(80℃90%Rh500hr)試験をした。その結果、すべての試験において金属膜の剥離、ふくれ等は認められなかった。また、テープによるピール試験を行ったところ、剥離等は生じなかった。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験および-40℃⇔85℃のヒートサイクル試験10サイクルを行った際も同様な結果が得られた。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、簡便な方法により、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜をポリマー部材に形成できることが分かった。表3に、実施例7のメッキ後の試験結果をまとめる。
【0201】
【表3】
【0202】
[比較例1]
比較例1では、フッ素化合物を使用しないこと以外、実施例3と同様の方法により射出成形、表面改質(超臨界二酸化炭素フロー)、メッキ膜を形成した。
【0203】
上記ポリマー上にメッキ膜が形成されたポリマー成形品に対して、実施例1と同様のテープを用いたピール試験を行った。その結果、メッキ膜の剥離等は確認されなかった。
【0204】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が6.0nm、十点平均粗さ(Rz)が23.7nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、超臨界二酸化炭素において抽出がされないため、基板表面の平滑性が保たれ、その結果として表面粗さは非常に小さくなった。
【0205】
その後、大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿(80℃90%Rh500hr)試験をした。その結果、金属膜にふくれが認められた。また、温度150℃、放置時間500時間の条件で高温試験および-40℃⇔85℃のヒートサイクル試験10サイクルを行った際も同様に膜ふくれが生じた。すなわち、この例ではフッ素化合物抽出による表面処理をしていないため、メッキ膜の密着力は不十分であることがわかった。
【0206】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明の表面改質方法では、高圧二酸化炭素を用いて、様々な種類のプラスチックに対して、サブミクロンからナノオーダの微細な凹凸を形成することができる。それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を、無電解メッキ前処理プロセスとして用いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスとなる。
【0208】
本発明の金属膜の形成方法では、従来のメッキ法のように有害なエッチャントを用いることなく、しかも、プラスチックの材料を問うことなく、平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。それゆえ、本発明の金属膜の形成方法は、あらゆる分野に適用可能であり且つ低コストでクリーンな金属膜の形成方法として好適である。また、本発明の金属膜の形成方法は、大面積の複雑な形状を有する成形体にも容易に適用可能である。
【0209】
また、本発明の表面改質方法では、プラスチック成形体の表面粗さを非常に小さくすることができ、また、高密着のメッキ膜を形成することができる。そのため、例えば、高反射率を必要とするリフレクター等の金属膜、良好な電気特性を必要とする高周波電気回路やアンテナ等の金属膜の形成方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】図1は、実施例1で成形したプラスチック部品を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1中のプラスチック成形体を形成する射出成形装置を示す。
【図3】図3は、図2の射出成形装置の部分拡大図である。図3(a)は、射出開始直後の状態を模式的に示すものであり、図3(b)は、射出終了時の状態を模式的に示すものである。
【図4】図4は、図1のプラスチック部品の製造工程を示す。
【図5】図5は、プラスチック成形体の表面のAFM観察像である。図5(a)は、超臨界二酸化炭素により洗浄していないプラスチック成形体の表面であり、図5(b)は、超臨界二酸化炭素により洗浄した後のプラスチック成形体の表面である。
【図6】図6は、無電解メッキ装置を示す。
【図7】図7は、実施例3のプラスチック部品の製造工程を示す。
【図8】図8は、実施例4のサンドイッチ射出成形装置の概略構成を示す。
【図9】図9は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第一の可塑化シリンダでの可塑化計量時の要部拡大図である。
【図10】図10は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第一の可塑化シリンダからガス化した二酸化炭素の排気時の要部拡大図である。
【図11】図11は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第一の可塑化シリンダによる射出時の要部拡大図である。
【図12】図12は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第一の可塑化シリンダによる射出が完了する時の要部拡大図である。
【図13】図13は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第二の可塑化シリンダによる射出時の要部拡大図である。
【図14】図14は、図8のサンドイッチ射出成形装置において、第二の可塑化シリンダによる射出が完了する時の要部拡大図である。
【図15】図15は、実施例4のプラスチック部品の製造工程を示す。
【図16】図16は、実施例4の無電解メッキ装置を示す。
【図17】図17は、実施例5のプラスチック部品の製造工程を示す。
【図18】図18は、実施例7の押出成形装置の概略構成を示す。
【図19】図19は、実施例7のプラスチック部品の製造工程を示す。
【符号の説明】
【0211】
1 プラスチック部品
2 プラスチック成形体
3 金属膜
101 成形金型
105 可塑化シリンダ(加熱シリンダ)
105A フローフロント部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、
溶融プラスチックに、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、
上記高圧二酸化炭素が接触した溶融プラスチックを上記成形金型へ射出して成形するステップと、
上記成形ステップで得られたプラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、上記プラスチック成形体の上記表面部から上記フッ素化合物を除去するステップと、
を含むことを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
上記フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、上記溶融プラスチックについての上記成形金型へ最初に射出される部分と接触することを特徴とする請求項1記載の表面改質方法。
【請求項3】
上記フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、上記成形金型へ射出される上記溶融プラスチックを収容する加熱シリンダの、フローフロント部に導入されることを特徴とする請求項1記載の表面改質方法。
【請求項4】
プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、
フッ素化合物が分散している上記プラスチックのペレットを溶融するステップと、
溶解した上記ペレットを上記成形金型へ射出して成形するステップと、
上記射出成形で得られたプラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、上記プラスチック成形体の上記表面部から上記フッ素化合物を除去するステップと、
を含むことを特徴とする表面改質方法。
【請求項5】
プラスチック材料を押出型から押し出すことにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、
上記プラスチック材料に、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、
上記高圧二酸化炭素と接触した上記プラスチック材料を上記押出型から押し出すことにより成形するステップと、
上記成形により得られたプラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、上記プラスチック成形体の上記表面部から上記フッ素化合物を除去するステップと、
を含むことを特徴とする表面改質方法。
【請求項6】
プラスチック材料を押出型から押し出すことにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、
フッ素化合物が分散しているプラスチックのペレットを加熱するステップと、
加熱した上記プラスチックを上記押出型から押し出して成形するステップと、
上記成形により得られたプラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、上記プラスチック成形体の上記表面部から上記フッ素化合物を除去するステップと、
を含むことを特徴とする表面改質方法。
【請求項7】
上記プラスチックは、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の表面改質方法。
【請求項8】
上記プラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解する際の上記高圧二酸化炭素の圧力は、5MPa〜25MPaであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の表面改質方法。
【請求項9】
上記フッ素化合物の沸点は、150℃以上であることを特徴とする請求項7または8記載の表面改質方法。
【請求項10】
上記フッ素化合物の分子量は、500〜15000であることを特徴とする請求項9記載の表面改質方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項記載の表面改質方法により形成されたプラスチック成形体への金属膜の形成方法であって、
上記フッ素化合物を除去した後の上記プラスチック成形体の表面に金属膜を形成するステップを有することを特徴とする金属膜の形成方法。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項記載の表面改質方法により形成されるプラスチック成形体への金属膜の形成方法であって、
上記プラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を溶解する際の上記高圧二酸化炭素にメッキ液を相溶させることで、上記プラスチック成形体の表面に金属膜を形成することを特徴とする金属膜の形成方法。
【請求項13】
さらに、上記金属膜を形成する前に、上記プラスチック成形体にメッキ触媒核を分散させるステップを有し、
上記金属膜を上記メッキ触媒核から成長させることを特徴とする請求項11または12記載の金属膜の形成方法。
【請求項14】
上記フッ素化合物を除去した後の上記プラスチック成形体に、上記メッキ触媒核を溶融した高圧二酸化炭素を接触させることにより、上記金属膜を形成する前に上記プラスチック成形体に上記メッキ触媒核を分散させることを特徴とする請求項13記載の金属膜の形成方法。
【請求項15】
上記フッ素化合物を上記プラスチック成形体に分散するために上記プラスチックの溶融樹脂と接触される上記高圧二酸化炭素に上記メッキ触媒核を溶解することにより、上記金属膜を形成する前に上記プラスチック成形体に上記メッキ触媒核を分散させることを特徴とする請求項13記載の金属膜の形成方法。
【請求項16】
上記メッキ触媒核は、フッ素を含有した金属錯体であることを特徴とする請求項15記載の金属膜の形成方法。
【請求項17】
内部にフッ素化合物が分散するとともに、表面部に複数の微細穴が多数形成されることにより多孔性であるプラスチック成形体を有することを特徴とするプラスチック部品。
【請求項18】
さらに、上記プラスチック成形体の上記内部にメッキ触媒核が分散していることを特徴とする請求項17記載のプラスチック部品。
【請求項19】
上記微細孔は、サブミクロンからナノオーダのサイズであることを特徴とする請求項17または18記載のプラスチック部品。
【請求項20】
さらに、上記プラスチック成形体の表面に、上記微細穴へ入り込んで形成される金属膜を有することを特徴とする請求項17から19のいずれか一項記載のプラスチック部品。
【請求項1】
プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、
溶融プラスチックに、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、
上記高圧二酸化炭素が接触した溶融プラスチックを上記成形金型へ射出して成形するステップと、
上記成形ステップで得られたプラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、上記プラスチック成形体の上記表面部から上記フッ素化合物を除去するステップと、
を含むことを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
上記フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、上記溶融プラスチックについての上記成形金型へ最初に射出される部分と接触することを特徴とする請求項1記載の表面改質方法。
【請求項3】
上記フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素は、上記成形金型へ射出される上記溶融プラスチックを収容する加熱シリンダの、フローフロント部に導入されることを特徴とする請求項1記載の表面改質方法。
【請求項4】
プラスチックを溶融して成形金型へ射出することにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、
フッ素化合物が分散している上記プラスチックのペレットを溶融するステップと、
溶解した上記ペレットを上記成形金型へ射出して成形するステップと、
上記射出成形で得られたプラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、上記プラスチック成形体の上記表面部から上記フッ素化合物を除去するステップと、
を含むことを特徴とする表面改質方法。
【請求項5】
プラスチック材料を押出型から押し出すことにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、
上記プラスチック材料に、フッ素化合物が溶解した高圧二酸化炭素を接触させるステップと、
上記高圧二酸化炭素と接触した上記プラスチック材料を上記押出型から押し出すことにより成形するステップと、
上記成形により得られたプラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、上記プラスチック成形体の上記表面部から上記フッ素化合物を除去するステップと、
を含むことを特徴とする表面改質方法。
【請求項6】
プラスチック材料を押出型から押し出すことにより形成されるプラスチック成形体の表面改質方法であって、
フッ素化合物が分散しているプラスチックのペレットを加熱するステップと、
加熱した上記プラスチックを上記押出型から押し出して成形するステップと、
上記成形により得られたプラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解して、上記プラスチック成形体の上記表面部から上記フッ素化合物を除去するステップと、
を含むことを特徴とする表面改質方法。
【請求項7】
上記プラスチックは、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の表面改質方法。
【請求項8】
上記プラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を高圧二酸化炭素で溶解する際の上記高圧二酸化炭素の圧力は、5MPa〜25MPaであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の表面改質方法。
【請求項9】
上記フッ素化合物の沸点は、150℃以上であることを特徴とする請求項7または8記載の表面改質方法。
【請求項10】
上記フッ素化合物の分子量は、500〜15000であることを特徴とする請求項9記載の表面改質方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項記載の表面改質方法により形成されたプラスチック成形体への金属膜の形成方法であって、
上記フッ素化合物を除去した後の上記プラスチック成形体の表面に金属膜を形成するステップを有することを特徴とする金属膜の形成方法。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項記載の表面改質方法により形成されるプラスチック成形体への金属膜の形成方法であって、
上記プラスチック成形体の表面部に含浸している上記フッ素化合物を溶解する際の上記高圧二酸化炭素にメッキ液を相溶させることで、上記プラスチック成形体の表面に金属膜を形成することを特徴とする金属膜の形成方法。
【請求項13】
さらに、上記金属膜を形成する前に、上記プラスチック成形体にメッキ触媒核を分散させるステップを有し、
上記金属膜を上記メッキ触媒核から成長させることを特徴とする請求項11または12記載の金属膜の形成方法。
【請求項14】
上記フッ素化合物を除去した後の上記プラスチック成形体に、上記メッキ触媒核を溶融した高圧二酸化炭素を接触させることにより、上記金属膜を形成する前に上記プラスチック成形体に上記メッキ触媒核を分散させることを特徴とする請求項13記載の金属膜の形成方法。
【請求項15】
上記フッ素化合物を上記プラスチック成形体に分散するために上記プラスチックの溶融樹脂と接触される上記高圧二酸化炭素に上記メッキ触媒核を溶解することにより、上記金属膜を形成する前に上記プラスチック成形体に上記メッキ触媒核を分散させることを特徴とする請求項13記載の金属膜の形成方法。
【請求項16】
上記メッキ触媒核は、フッ素を含有した金属錯体であることを特徴とする請求項15記載の金属膜の形成方法。
【請求項17】
内部にフッ素化合物が分散するとともに、表面部に複数の微細穴が多数形成されることにより多孔性であるプラスチック成形体を有することを特徴とするプラスチック部品。
【請求項18】
さらに、上記プラスチック成形体の上記内部にメッキ触媒核が分散していることを特徴とする請求項17記載のプラスチック部品。
【請求項19】
上記微細孔は、サブミクロンからナノオーダのサイズであることを特徴とする請求項17または18記載のプラスチック部品。
【請求項20】
さらに、上記プラスチック成形体の表面に、上記微細穴へ入り込んで形成される金属膜を有することを特徴とする請求項17から19のいずれか一項記載のプラスチック部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図5】
【公開番号】特開2009−113266(P2009−113266A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287071(P2007−287071)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人中小企業基盤整備機構、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人中小企業基盤整備機構、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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