説明

プラスチック材料射出成形体の製造方法

【課題】
プラスチック材料射出成形体の表面改質層と、塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等との密着性を向上させる方法、およびその方法を用いた、良好な表面処理プラスチック材料射出成形体を提供する。
【解決手段】
特定の紫外線エネルギーを照射することにより、プラスチック本来の性能を損なうことなく、プラスチック表面に付着した有機物のゴミを除去し、プラスチック表面を改質させ、塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等のコーティングとの密着力を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック材料射出成形体の製造方法に関する。詳しくは、プラスチック材料射出成形体表面に付着した有機物のゴミを除去し、プラスチック材料射出成形体の表面を改質させることにより、成形体の改質表面と、塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等との密着性を向上させる表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのプラスチック製品では外観や製品の機能を向上させるため、塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等がプラスチック表面に塗布あるいはコーティングされているが、その密着力が十分でなく、容易に剥離したり、外観を損ねたりするような問題があった。
【0003】
これらを解決するため、例えば、ポリカーボネートシートの被印刷面に波長が200〜400nmの紫外線を照射して、印刷性を向上させる方法が開示されている(特許文献1参照)。この文献には照射すべき紫外線エネルギーについての具体的な記載はない。
【0004】
また紫外線ランプの光量を規定したプラスチックの表面改質方法が開示されている(特許文献2参照)。この文献の光量の範囲は1〜3000mJ/cmであるが、この範囲の中でコーティング材との十分な密着力が得られなかった。
さらに、ポリカーボネート樹脂フィルム1cm当たり紫外線照射エネルギー100〜900mJの強度で照射するポリカーボネート樹脂フィルムの製造法が開示されている(特許文献3参照)。しかし同じ紫外線の照射エネルギーであっても、照射距離が短いとプラスチック表面の温度が高くなり、変色や物性低下、変形が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−12643号公報
【特許文献2】特開2002−88178号公報
【特許文献3】特開2000−327808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プラスチック材料射出成形体の表面を改質する方法およびその方法から得られた成形体、および成形体表面改質層と塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等との密着性を向上させる方法、およびその方法を用いて得られた表面処理成形体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の紫外線エネルギーを照射することにより、プラスチック材料本来の性能を損なうことなく、プラスチック材料表面に付着した有機物のゴミを除去し、プラスチック材料表面を改質させ、改質表面と塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等との密着力を向上させることを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は、少なくとも離型剤を有し、少なくとも曲面を有するプラスチック材料射出成形体の表面に、400〜700kJ/mol以下の紫外線エネルギーを照射することにより、成形体の表面から1〜500nmの厚みで改質層を生成させることを特徴とするプラスチック材料射出成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプラスチック材料射出成形体の製造方法は、プラスチック材料本来の性能を損なうことなく、プラスチック材料射出成形体表面に付着した有機物のゴミを除去し、プラスチック材料表面を改質させ、塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等との密着性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
[1.表面処理の対象物]
表面処理の対象物としては、高分子物質を主原料とした合成樹脂のプラスチック材料で、その材料には添加剤、無機物や有機物の充填材、可塑剤、ガラス繊維や炭素繊維等の補強剤等が添加されているものも含まれる。具体的には塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチロール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱可塑性樹脂やフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂等が挙げられる。またこれら2種類以上のプラスチックを混合したプラスチックアロイ材料も含まれる。上記プラスチック材料およびプラスチックアロイ材料のうち、芳香族ポリカーボネート樹脂および芳香族ポリカーボネート樹脂を主成分とするアロイが好ましい。
【0010】
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0011】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0012】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、以下の分岐剤、即ち、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0013】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。更には、上述した芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0015】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は用途により任意であり、適宜選択して決定すればよいが、成形性、強度等の点から(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量[Mv]で、10,000〜40,000、更には10,000〜30,000のものが好ましい。この様に、粘度平均分子量を10,000以上とすることで機械的強度がより向上する傾向にあり、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、40,000以下とすることで流動性低下を、より抑制し改善する傾向にあり、成形加工性容易の観点からより好ましい。
【0016】
粘度平均分子量は中でも、10,000〜28,000、更には12,000〜25,000、特に14,000〜22,000であることが好ましい。また粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよく、この際には、粘度平均分子量が上記好適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。この場合、混合物の粘度平均分子量は上記範囲となるのが望ましい。
【0017】
また所望の特性を付与するために、他のポリマー、難燃剤、耐衝撃改良剤、可塑剤、離型剤、紫外線吸収剤、安定剤、相溶化剤、エラストマー、ゴム成分、着色剤(カーボンブラック、酸化チタンなどの顔料、ブルーイング剤等の染料)、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭素繊維、繊維状マグネシウム、チタン酸カリウムウィスカー、セラミックウィスカー、マイカ、タルク、クレー、珪酸カルシウム等の補強剤、充填剤などの一種または二種以上を含有させてもよい。
【0018】
[2.離型剤]
離型剤は、成形時の離型をスムーズにして成形品の変形や成形品の残留応力を低減させる効果があり、特に三次元曲面を有するヘッドランプレンズなどのプラスチック材料射出成形体には必要不可欠である。一方で、これらの離型剤を多く添加すると、プラスチック材料射出成形品表面に離型剤が析出し、これらが塗料・ハードコート塗料・接着剤・コーティング材・めっき・蒸着・スパッタリング等との密着性を阻害する問題がある。
【0019】
なお、離型剤には一般的に滑剤といわれるものも含まれる。
離型剤としては、ワックス類、高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステル、シリコーン油、フッ化アルキル化合物、ポリビニルアルコール、低分子量ポリエチレン、ポリオレフィンワックス、植物性蛋白質の誘導体、カルボン酸エステル、ポリシロキサン化合物、パラフィンワックス、ポリカプロラクトン、ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0020】
プラスチック材料に対する離型剤の含有量としては、0.001〜5質量%が好ましく、さらに0.01〜1質量%が好ましい。0.001質量%よりも少なくなると、離型性の効果が得られず、また5質量%を超えるとプラスチックの分解を引き起こし、プラスチック材料の本来の特性が得られない。
【0021】
[3.紫外線ランプ]
本発明で使用する紫外線ランプは、一般に広範囲で使用されている紫外線硬化用ランプ等の高圧紫外線ランプよりも短い波長がピークとなっている紫外線ランプである。一般に紫外線に限らず波長が短いほどエネルギーが高く、特に185nm近辺をピークに持つランプでは647kJ/molもの紫外線エネルギーとなり、プラスチック分子の主鎖や側鎖を切断することができる(炭素−炭素二重結合の結合エネルギーは607kJ/mol)。
【0022】
また水冷や空冷等によって紫外線ランプの管壁温度をコントロールすることにより、波長をより安定させることができる。管壁温度としては30〜60℃が好ましい。この範囲を超えると、紫外線エネルギーが低下し、プラスチック分子の主鎖や側鎖を切断することができず、十分な密着性が得られない。
【0023】
[4.紫外線エネルギー照射によるプラスチック材料射出成形体表面の洗浄効果]
大気中で400〜700kJ/molの紫外線エネルギーを照射すると、プラスチック材料射出成形体表面に付着した有機物のゴミ分子の切断と同時に酸素分子の分解が行われる。酸素分子が分解され、活性単分子のOが発生し、まだ残っている酸素分子と結合してオゾンを生成する。生成されたオゾンはさらに紫外線エネルギーを照射により分解され、活性単分子Oが生成される。この活性単分子Oは分子が切断され活性化しているゴミの表面に付き酸化を行う。活性単分子のOが結合し、酸化された有機物はCO、HO等の揮発性のものに変化し除去される。
【0024】
また処理された有機物はオゾンの排出と同時に装置外に排出されるので、ウエット洗浄などの方法で行った場合に発生するゴミの再付着も起きにくい。本発明は光によるドライ洗浄のため、二次汚染や有機化合物による汚染の心配もなく、クリーンな環境を維持できる。
紫外線エネルギー照射により、プラスチック材料射出成形品の表面に析出している離型剤も同様に除去されるため、改質表面と塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等との密着を阻害せず、密着性が向上することから、良好な表面処理プラスチック材料射出成形体を得ることができる。
【0025】
[5.紫外線エネルギー照射によるプラスチック材料の表面改質効果]
400〜700kJ/molの紫外線エネルギーを照射すると、プラスチック分子の主鎖や側鎖が切断される。切断されたことによる発生するHや活性単分子のOや主鎖のCが結び付き、OH、CHO、COOH等の親水基が形成される。これらの親水基は、塗料・ハードコート・接着剤・コーティング材・めっき・蒸着・スパッタリングの中間基として結合する。中間基と結合した塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等は化学的な結合へと変化し、強固な接着強度を可能にする。
【0026】
[6.プラスチック材料射出成形体表面の改質層]
紫外線エネルギーの照射でプラスチック分子の主鎖や側鎖が切断されることにより、その度合いに応じて、プラスチック材料射出成形体表面に改質層が生成される。この改質層については、プラスチック材料射出成形体の断面を切り出し、その表面付近をSEMやTEMなど用いて拡大して観察することができる。そこから計測される改質層の厚みは1〜500nmが好ましく、さらに1〜100nmが好ましく、1〜20nmが特に好ましい。この改質層は塗料・ハードコート・接着剤・コーティング剤・めっき・蒸着・スパッタリング等の保持層となるため、これらの密着性向上に不可欠であるが、1nmを下回ると十分な密着性の効果が得られない。また、改質層が厚すぎるとプラスチック本来の強度が得られなかったり、改質層が剥離したりするので好ましくない。
【0027】
[7.紫外線エネルギー]
400〜700kJ/molの紫外線エネルギーによって、プラスチック材料射出成形体表面の洗浄効果や表面改質効果を発揮するが、400kJ/molよりも小さいと、分子鎖や側鎖を切断することができず、コーティングとの十分な密着性が得られない。また700kJ/molよりも大きいと、プラスチック材料の分子切断が促進され、プラスチック材料の分子量低下を引き起こし、プラスチック材料本来の性能が得られなくなる。好ましい紫外線エネルギー量は500〜680kJ/molであり、607〜660kJ/molがさらに好ましい(607kJ/molは炭素−炭素二重結合の結合エネルギーである)。
【0028】
[8.プラスチック材料成形体の表面温度]
本発明では、プラスチック材料成形体の表面温度を、[プラスチック材料のガラス転移温度(Tg)−15℃]以下になるように紫外線エネルギー照射をコントロールすることが好ましい。表面温度がプラスチック材料の[Tg−15]℃以上の場合(すなわち、表面温度がTgに近い値の場合)、プラスチック材料射出成形体表面の改質層が厚くなるため、プラスチック材料本来の強度が得られなかったり、改質層が剥離したりするおそれがある。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔原材料〕
プラスチック材料:ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロン(登録商標)S−3000N(透明色)。
離型剤:オオタ化成社製の蜜蝋(蝋エステル、遊離脂肪酸、遊離アルコール、炭化水素等の混合物)。
紫外線吸収剤:シプロ化成社製、商品名「SEESORB709」、
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール。
リン系安定剤:旭電化工業社製、商品名「アデカスタブ2112」、
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト。
〔試験プレートの成形〕
ポリカーボネート樹脂、離型剤、紫外線吸収剤、リン系安定剤を、合計100質量%になるように表1〜4に記載の量配合し(表中の%は質量%を表す)、射出成形によって、100mm×150mmの試験プレートを成形し、厚み3.2mm部分の評価を行った。
成形機:日本製鋼所社製 J220EV−P(型締力:220ton)
成形機シリンダー温度:
(ノズル側)300℃、300℃、300℃、290℃、280℃(ホッパー側)
金型温度:(固定側)80℃、(可動側)80℃
この材料のガラス転移温度(Tg)はDSC法で145℃であった。
〔紫外線照射試験〕
以下の装置を用いて、実施例比較例に記載の紫外線エネルギー量を照射した。
紫外線照射装置:センエンジニアリング社製PHOTO SURFACE PROCESSOR PL16−110
〔ハードコート処理〕
紫外線硬化型のMomentive社製UVHC3000Kを用いて、試験プレートの片側表面をハードコート処理した。
【0030】
〔成形品の物性評価法〕
(1)改質層の厚み:
ハードコート処理したプラスチック材料射出成形体の断面を切り出し、プラスチック表面付近の断面を透過型電子顕微鏡のTEM(日本電子株式会社製 JEM−1200EXII)で10万倍程度に拡大観察して、プラスチック基材とハードコート層との間に存在する改質層の厚みを計測した。
(2)濡れ性:
和光純薬製の濡れ性試薬を綿棒でプラスチック材料射出成形体表面に塗り、その広がりを見て、表面に対し濡れているかあるいは弾いているかを判定した。濡れ性の異なる試薬で、表面に対して濡れる最も大きい濡れ性試薬から濡れ性を判定した。濡れ性が大きい方が塗料・ハードコート・接着剤・コーティング材・めっき・蒸着・スパッタリングとの親和性が高まり、密着力が向上する。
なお、射出成形体表面が未処理の場合は、36dyn/cmである。
(3)ハードコートの密着性:
Momentive社製UVHC3000Kのハードコートを塗布し、硬化を終えた状態で、ハードコートの上からカッターナイフで碁盤目状に切れ目を入れ、セロハンテープで密着させた後、セロハンテープを剥離させたとき、剥離せずに残っている割合を測定した。残存している割合が80%以上を「合格」と判定した。
(4)分子量低下:
未処理の成形品と紫外線を照射した後の成形品について、粘度平均分子量を測定
し、その差を算出した。分子量低下が1500を超えると、ポリカーボネート樹脂の劣化が著しいと判断される。
(5)離型性:
プラスチック材料射出成形体が金型から離型するときの、成形体の変形の有無を見て、変形がないものについては離型性を「良」とし、変形のあるものについては離型性を「悪」と判定する。
【0031】
結果を表1〜表4に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
表1〜4から明らかなように、本発明の実施例1〜6に記載の紫外線照射方法は、濡れ性およびハードコートの密着性に優れ、且つ分子量低下が少なく、プラスチック本来の特性が維持されている。
しかし、比較例1〜3の方法では、濡れ性の改善が十分でなく、ハードコートの密着性が悪かったり(比較例1)、または分子量低下が大きく(比較例2,3)、物性の低下や外観の悪化等のプラスチック本来の特性を損なわれるので好ましくない。また、比較例4の方法では、離型剤が含有されていないので離型性が悪く、成形性が悪くなるので好ましくない。さらに比較例5の方法では、紫外線照射されていないので、ハードコートの密着性が極めて悪い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料射出成形体の表面に、400〜700kJ/molの紫外線エネルギーを照射することにより、射出成形体の表面から1〜500nmの厚みで改質層を生成させることを特徴とするプラスチック材料射出成形体の製造方法。
【請求項2】
プラスチック材料射出成形体の改質層に、さらに塗料、ハードコート、接着剤、コーティング剤、めっき、蒸着、スパッタリングのいずれかの表面処理を行う請求項1記載のプラスチック材料射出成形体の製造方法。
【請求項3】
プラスチック材料射出成形体が、0.001〜5質量%の離型剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチック材料射出成形体の製造方法。
【請求項4】
プラスチック材料射出成形体の表面の温度が、[プラスチック材料のガラス転移温度(Tg)−15℃]以下となるように紫外線エネルギーを照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスチック材料射出成形体の製造方法。
【請求項5】
管壁温度が30〜60℃以下に調整された紫外線ランプを用いて紫外線エネルギーを照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラスチック材料射出成形体の製造方法。
【請求項6】
プラスチック材料成形体が、少なくとも曲面を有する形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラスチック材料射出成形体の製造方法。
【請求項7】
プラスチック材料が芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のプラスチック材料射出成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法で得られたプラスチック材料射出成形体。
【請求項9】
請求項2に記載の方法で得られた表面処理プラスチック材料射出成形体。