説明

プラズマアクチュエータ

【課題】プラズマアクチュエータの流体制御性能の向上を図る。
【解決手段】上側電極21及び下側電極22の対と、これら電極21、22間に挟まれる誘電体23とを要素とし、両電極21、22間に高圧の交流電圧またはパルス電圧が印加されることでプラズマを生成するユニット2を複数個、間欠的に配列する。各ユニット2の上側電極21と、当該ユニット2と隣り合う他のユニット2の下側電極22との間には、プラズマ生成を阻害する遮蔽部3を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体を挟んで対をなす電極を配置し、電極間に交流電圧またはパルス電圧を印加することで、誘電体の表面側の電極近傍にプラズマを生じさせるプラズマアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、誘電体バリア放電を用いたプラズマアクチュエータによる流体制御の研究が盛んに行われている。とりわけ、気流にさらされる物体(例えば、航空機の翼や胴体、ナセル等)の表層部にプラズマアクチュエータを設置して、当該物体からの気流の剥離を抑制することが試みられている(例えば、下記特許文献を参照)。
【0003】
現時点で、プラズマアクチュエータは研究室レベルでその有用性が示された段階にあり、実用化に向けては依然として様々な問題が残っている。流体制御性能に関して言えば、大気圧以下の低速流の条件下に限ってその流れ改善効果が確認されたに過ぎない。より高圧かつ高速な、「強い」動圧流れに対するプラズマアクチュエータの有用性を高めることが、実用上の鍵となる。
【0004】
しかしながら、高圧の高速流の中では、プラズマが不安定になる、つまりは生成されたプラズマが吹き流されて留まることができないために、十分な流体制御性能を発揮することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−270110号公報
【特許文献2】特表2009−511360号公報
【特許文献3】特開2008−290710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プラズマアクチュエータの流体制御性能の向上を図ることを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、上側電極及び下側電極の対と、これら電極間に挟まれる誘電体(絶縁体)とを要素とし、両電極間に高圧の交流電圧またはパルス電圧が印加されることでプラズマを生成するユニットを複数個、間欠的に配列することとした。各ユニットの上側電極は、誘電体の表面に露出させるか、または下側電極と比べてより誘電体の表面に近い位置に配置する。
【0008】
ユニットで生成されるプラズマに起因して、誘電体の表面上には、ユニットを構成する上側電極から下側電極に向かう方向に流れる気体の衝撃波が発生する。そして、そのようなユニットを複数個並べることにより、同方向に流れる衝撃波を加速し、強化することができる。
【0009】
尤も、単純にユニットを複数個配列すると、あるユニットの上側電極と、隣り合った他のユニットの下側電極との間にもプラズマが生成されてしまう。このプラズマは、上記とは逆方向の衝撃波を生み出すため、却って衝撃波同士が互いに打ち消し合う結果をもたらす。そこで、本発明では、各ユニットの上側電極と、当該ユニットと隣り合う他のユニットの下側電極との間に、プラズマ生成を阻害する遮蔽部を設けるようにしている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プラズマアクチュエータの流体制御性能の向上を図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態のプラズマアクチュエータを示す側断面図。
【図2】本発明の一実施形態のプラズマアクチュエータを示す側断面図。
【図3】本発明の一実施形態のプラズマアクチュエータを示す側断面図。
【図4】本発明の一実施形態のプラズマアクチュエータを示す側断面図。
【図5】本発明に係るプラズマアクチュエータの適用例を示す図。
【図6】本発明に係るプラズマアクチュエータの適用例を示す図。
【図7】本発明に係るプラズマアクチュエータの適用例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1ないし図4に示すプラズマアクチュエータ1は、上側電極21及び下側電極22の対と、これら電極間に挟まれる誘電体23とを要素とするユニット2を複数個、一定方向に沿って間欠的に配列してなる。
【0013】
上側電極21は、前後方向(ユニット2の配列方向。図中横方向)に沿った幅寸法が下側電極22のそれよりも小さい。また、上下方向(電極21、22が誘電体23を挟む方向、または誘電体23の表面の法線方向。図中縦方向)の厚みも小さく薄い。各ユニット2の上側電極21は、誘電体23の表面に露出させる、または、下側電極22と比べてより誘電体23の表面に近い位置に配置する。後者の場合、上側電極21にプラズマ生成を妨げないコーティングを施すか、若しくは図4に示しているように、上側電極21を誘電体23の(プラズマ0が生成される)表面下に埋設するようにして、上側電極21を直接気流に触れさせないようにすることができる。
【0014】
下側電極22は、上側電極21と比較して前後方向に大きく拡張する。各ユニット2の下側電極22は、図1、図3に示しているように誘電体23の裏面に露出させてもよく、図2、図4に示しているように誘電体23内に埋設してもよい。下側電極22は、同じユニット2を構成する上側電極21に対して前方に偏倚した位置にある。即ち、下側電極22の直上に上側電極21は存在していない。
【0015】
誘電体23は、典型的には樹脂やセラミックである。誘電体材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド等のポリマー系絶縁体や、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素等のセラミック系絶縁体を採用することが好適である。
【0016】
各ユニット2の上側電極21と、当該ユニット2と隣り合う他のユニット2の下側電極22との間には、遮蔽部3を設ける。遮蔽部3は、一のユニット2の上側電極21と、他のユニット2の下側電極22との間でプラズマが生成されるのを阻害する役割を担う。遮蔽部3は、誘電体材料を主体とし、各ユニット2の上側電極21の後背にあって、電極21、22が挟んでいる誘電体23の表面から、少なくとも上側電極21の上面と略同じ高さまで迫り出している。図1、図2、図4に示しているものでは、遮蔽部3の高さが上側電極21の上面を越えており、また、遮蔽部3が上側電極21の上面の一部に覆い被さっている。図3に示しているものでは、遮蔽部3の高さが上側電極21の上面と略面一となっており、下側電極22の直上にある誘電体23の表面とがなだらかに連続している。
【0017】
本プラズマアクチュエータ1を用いるに際しては、各ユニット2の上側電極21及び下側電極22間に、例えば1kVないし10kV程度の高圧、1kHzないし20kHz程度の周波数の、脈流電圧(直流パルス電圧)または交流電圧を印加する。印加電圧及び周波数は、電極21、22の寸法や電極21、22間の距離、誘電体23の誘電率等に応じて定める。
【0018】
両電極21、22間に電圧を印加すると、下側電極22の直上にある誘電体23の表面にプラズマ0が生成され、このプラズマ0に起因して、誘電体23の表面上に気体の衝撃波41が発生する。衝撃波41は、同一のユニット2を構成する上側電極21から下側電極22に向かう方向に、換言すれば後方から前方に向かって流れる。プラズマ0を生成するユニット2が前後方向に並んでいることから、誘電体23の表面上を流れる衝撃波41は、あるユニット2から別のユニット2へと伝搬してゆくにつれて加速され、強化される。
【0019】
以降、本プラズマアクチュエータ1の用途を列挙する。図5は、プラズマアクチュエータ1を自動車のボディ6の表層部に設置した例である。自動車の走行中、自動車のボディ6は前方から強い風圧を受ける。プラズマアクチュエータ1の各ユニット2の電極21、22に電圧を印加していない状態では、図中破線で示すように、気流5がボディ6の表層部から剥離する。
【0020】
これに対し、各ユニット2の電極21、22間に電圧を印加すれば、プラズマアクチュエータ1を設けた各部位において、図中実線で示すような誘導気流4を生じる。よって、ボディ6の表層部からの気流4の剥離が抑制され、ボディ6が受ける空気抵抗が軽減する。並びに、自動車の走行中の風切り音も低減する。
【0021】
図6は、プラズマアクチュエータ1を航空機の翼(のキャンバー)7の表層部に設置した例である。この場合も同様に、プラズマアクチュエータ1による誘導気流4が生じて、気流4の翼7からの剥離が抑制される。
【0022】
図7は、プラズマアクチュエータ1を内燃機関の内部に設置した例である。一般に、内燃機関は、吸気マニホルドを経由して流入する吸気を吸気ポート8から気筒94内に取り入れる。図7には、複数気筒のうちの一気筒の要部を拡大して示している。各気筒94の吸気ポート8の内部は、吸気マニホルド側から気筒94内の燃焼室に向けて下方に湾曲した形状をなす。しかして、その吸気ポート8の内周の曲面の表層部、曲率的に吸気の流れの剥離が生じやすいと思しき箇所に、プラズマアクチュエータ1を設ける。因みに、符号91は吸気弁、符号92は排気ポート、符号93は排気弁、符号95はピストンである。プラズマアクチュエータ1が生成したプラズマ0は、流入する吸気に効率よく作用する。即ち、プラズマアクチュエータ1を設けている部位で誘導気流4が生じ、吸気ポート8の内周の曲面からの気流4の剥離が抑制されて、吸気が円滑に気筒に流れ込む。これにより、吸気充填効率の向上、燃費の向上を見込める。
【0023】
本実施形態のプラズマアクチュエータ1は、上側電極21及び下側電極22の対と、これら電極21、22間に挟まれる誘電体23とを要素とし、両電極21、22間に高圧の交流電圧またはパルス電圧が印加されることでプラズマ0を生成するユニット2を複数個、間欠的に配列してなり、各ユニット2の上側電極21を、誘電体23の表面に露出させ、または下側電極22と比べてより誘電体23の表面に近い位置に配置するとともに、各ユニット2の上側電極21と、当該ユニット2と隣り合う他のユニット2の下側電極22との間に、プラズマ生成を阻害する遮蔽部3を設けたものである。
【0024】
本実施形態によれば、ユニット2を構成する上側電極21から下側電極22に向かう方向に流れる気体の衝撃波41を加速、強化することができるため、高圧の高速流に対しても、その剥離を抑制し得る制御性能を発揮することが可能である。
【0025】
図1、図2、図4に示しているように、遮蔽部3を上側電極21の後部だけでなく上部にも跨る形状としたならば、上側電極21の後部と、当該上側電極21の後方にある他のユニット2の下側電極22との間の放電をダブルバリア放電とすることができ、意図せざるプラズマの生成、意図せざる逆方向の衝撃波の発生を確実に防止できる。そして、気体の流れ制御効果がさらに高まる。
【0026】
誘電体23が一層のシンプルな構造のため、形状設計の自由度が確保され、製造効率の面でも有利となる。
【0027】
上側電極21の前後幅寸法は衝撃波41を生み出す能力に影響を及ぼさないので、これを数十μm程度の導体線とすることができる。並びに、上側電極21の上下厚み寸法は、薄いほど衝撃波41の風速が上がる傾向にある。従って、スペース効率がよく、同一面積の誘電体23上に多数個のユニット2を配列して効果を増強することも容易である。
【0028】
印加電圧及び周波数を一定とした条件下では、下側電極22の前後幅寸法を大きくすることである程度まで衝撃波41の風速を上げることができる。但し、ユニット2間距離(一のユニット2の上側電極21と、その後方にある他のユニット2の下側電極22との間の距離)を近づけすぎると、やはり逆方向の衝撃波が発生してしまうので、ユニット2間距離を一定以上確保できるように下側電極22の前後幅寸法を設定することが求められる。
【0029】
本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るプラズマアクチュエータは、自動車のボディ、航空機の翼や胴体、内燃機関の吸気系、その他に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1…プラズマアクチュエータ
2…ユニット
21…上側電極
22…下側電極
23…誘電体
3…遮蔽部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側電極及び下側電極の対と、これら電極間に挟まれる誘電体とを要素とし、両電極間に高圧の交流電圧またはパルス電圧が印加されることでプラズマを生成するユニットを複数個、間欠的に配列してなり、
各ユニットの上側電極を、誘電体の表面に露出させ、または下側電極と比べてより誘電体の表面に近い位置に配置するとともに、
各ユニットの上側電極と、当該ユニットと隣り合う他のユニットの下側電極との間に、プラズマ生成を阻害する遮蔽部を設けたことを特徴とするプラズマアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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