説明

プラズマジェット点火プラグ

【課題】 高着火性及び高耐久性を有するプラズマジェット点火プラグを提供すること。
【解決手段】 このプラズマジェット点火プラグは、中心電極のうち少なくとも先端面を含む先端部が、少なくとも1種の希土類元素の酸化物とWとを含有し、前記希土類元素の酸化物の合計含有率が0.5質量%以上10質量%以下であり、Wの含有率が90質量%以上であるか、或いは、Irを0.3質量%以上3質量%以下、かつWを97質量%以上含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマジェット点火プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車用の内燃機関であるエンジンの点火プラグには、火花放電(単に「放電」ともいう。)により混合気への着火を行うスパークプラグが使用されている。近年では、内燃機関の高出力化や低燃費化が求められている。そのため、燃焼の広がりが速く、着火限界空燃比のより高い希薄混合気に対して確実に着火可能なプラズマジェット点火プラグの開発が進められている。
【0003】
プラズマジェット点火プラグは、中心電極と接地電極との間の火花放電間隙の周囲をセラミックス等の絶縁碍子で包囲して、キャビティと称する小さな容積の放電空間を形成した構造を有している。プラズマジェット点火プラグの点火方式の一例を説明すると、混合気への点火の際には、まず、中心電極と接地電極との間に高電圧が印加され、火花放電が行われる。このときに生じた絶縁破壊によって、両者間には比較的低電圧で電流を流すことができるようになる。そこで更にエネルギーを供給することで放電状態を遷移させ、キャビティ内でプラズマを形成する。こうして形成されたプラズマが開口(いわゆるオリフィス)を通じて噴出されることによって、混合気への着火が行われる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
ところで、前記プラズマジェット点火プラグでは、放電中に高エネルギーの電流を流す必要がある。高エネルギーの電流を流すと、電極の消耗が激しくなる。そこで、電極の消耗を抑制するための一つの試みとして、電極に高融点の材料を用いること等が行なわれている(例えば特許文献2参照。)。しかし、さらに電極の消耗が抑制された、高い耐久性を有するプラズマジェット点火プラグの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−294257号公報
【特許文献2】特開2004−235040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、高着火性及び高耐久性を有するプラズマジェット点火プラグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段は、
(1)中心電極と、
軸線方向に延びる軸孔を有し、前記中心電極の先端面が前記軸孔内に配置されると共に前記中心電極を保持する絶縁体と、
前記絶縁体を保持する主体金具と、
前記主体金具に接合されると共に、前記絶縁体よりも先端側に配置され、前記中心電極との間で火花放電を行う接地電極とを備えたプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記中心電極のうち少なくとも前記先端面を含む先端部は、少なくとも1種の希土類元素の酸化物とWとを含有し、前記希土類元素の酸化物の合計含有率が0.5質量%以上10質量%以下であり、Wの含有率が90質量%以上であることを特徴とするプラズマジェット点火プラグである。
【0008】
前記(1)の好ましい態様は、
(2)前記希土類元素の酸化物の含有率は、0.5質量%以上7質量%以下であり、
(3)前記中心電極は、前記希土類元素のうち、少なくともLa又はYの酸化物を含有し、その合計含有率が0.5質量%以上5質量%以下であり、
(4)前記中心電極は、Irを0.3質量%以上3質量%以下含有し、前記希土類元素の酸化物とIrとWとの合計含有率が100質量%である。
【0009】
前記課題を解決するための他の手段は、
(5) 中心電極と、
軸線方向に延びる軸孔を有し、前記中心電極の先端面が前記軸孔内に配置されると共に前記中心電極を保持する絶縁体と、
前記絶縁体を保持する主体金具と、
前記主体金具に接合されると共に、前記絶縁体よりも先端側に配置され、前記中心電極との間で火花放電を行う接地電極とを備えたプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記中心電極のうち少なくとも前記先端面を含む先端部は、Irを0.3質量%以上3質量%以下、かつWを97質量%以上含有することを特徴とするプラズマジェット点火プラグである。
【0010】
前記(1)及び(5)の好ましい態様は、
(6)前記接地電極は、Irを含有し、
(7)前記接地電極は、Irを10質量%以上含有し、
(8)前記接地電極は、Irを90質量%以上含有することを特徴とするプラズマジェット点火プラグである。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係るプラズマジェット点火プラグは、中心電極のうち少なくとも先端面を含む先端部が、少なくとも1種の希土類元素の酸化物とWとを特定割合で含有する、或いは、IrとWとを特定割合で含有するから、高着火性を確保するために高エネルギーの電流を流しても、中心電極の火花消耗量を抑制することができる。その結果、高着火性及び高耐久性を有するプラズマジェット点火プラグを提供することができる。
【0012】
また、接地電極がIrを含有すると、より一層中心電極の火花消耗量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、この発明に係るプラズマジェット点火プラグの一実施例であるプラズマジェット点火プラグの一部断面全体説明図である。
【図2】図2は、この発明に係るプラズマジェット点火プラグの一実施例であるプラズマジェット点火プラグの主要部分を示す断面説明図である。
【図3】図3は、Ir含有率が90質量%の接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの中心電極の表面分析結果である。
【図4】図4は、Ir含有率が5質量%の接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの中心電極の表面分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係るプラズマジェット点火プラグは、中心電極と、軸線方向に延びる軸孔を有し、前記中心電極の先端面が前記軸孔内に配置されると共に前記中心電極を保持する絶縁体と、前記絶縁体を保持する主体金具と、前記主体金具に接合されると共に、前記絶縁体よりも先端側に配置され、前記中心電極との間で火花放電を行う接地電極とを備えている。この発明に係るプラズマジェット点火プラグは、このような構成を有するプラズマジェット点火プラグであれば、その他の構成は特に限定されず、公知の種々の構成を採ることができる。
【0015】
この発明に係るスプラズマジェット点火プラグの一実施例であるプラズマジェット点火プラグを図1に示す。図1はこの発明に係るプラズマジェット点火プラグの一実施例であるプラズマジェット点火プラグ1の一部断面全体説明図であり、図2はこの発明に係るプラズマジェット点火プラグの一実施例であるプラズマジェット点火プラグ1の主要部分を示す断面説明図である。なお、図1及び2では紙面下方を軸線Oの先端方向、紙面上方を軸線Oの後端方向として説明する。
【0016】
このプラズマジェット点火プラグ1は、図1及び2に示されるように、軸線O方向に沿った軸孔3を有する略筒状の絶縁体4と、この絶縁体4の軸孔3内に収容される中心電極2と、絶縁体4の先端に配置される接地電極6と、絶縁体4の後端に設けられる端子金具20と、絶縁体4を保持する主体金具5とを備えている。
【0017】
前記絶縁体4は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成される絶縁部材である。絶縁体4は、軸線O方向の略中央に外径が最も大きな鍔部7が形成されている。そして、鍔部7より先端側は、途中が段状となっていて、先端部分は外径がさらに小さくなっている。
【0018】
前記中心電極2は、少なくともその先端面21を含む先端部10が後述する組成を有する電極材料で形成された略円柱状の電極棒である。中心電極2の内部に熱伝導性に優れる銅等からなる金属芯(図示せず)を有していてもよい。中心電極2は、胴体部8と、その胴体部8よりも先端側に位置する中間部9と、その中間部9よりも先端側に位置する先端部10と、中間部9と先端部10との間に位置する段差部11とにより形成されている。中間部9の外径は、胴体部8の外径よりも小さくなっており、先端部10の外径は、中間部9の外径よりも小さくなっている。胴体部8と中間部9との間は鍔状になっており、その鍔状の部分が、絶縁体4の軸孔3内における段状に形成された段状部12に当接することにより、軸孔3内で中心電極2が位置決めされる。
【0019】
また、絶縁体4の軸孔3を形成する部分における段状部12よりも先端側は、中心電極2の中間部9を収容する収容部13と、その収容部13よりも先端側に位置し、中心電極2の先端部10が配置される小径部14と、収容部13と小径部14との間に位置する段部15とにより形成されている。小径部14の内径は、収容部13の内径より小さくなっている。中心電極2の先端は、絶縁体4の小径部14内において、絶縁体4の先端よりも後端側に位置しており、中心電極2の先端部10特に先端面21と小径部14の内周とで包囲される容積の小さな空間は、放電空間を形成している。この放電空間はキャビティ16と称される。
【0020】
接地電極6は、耐火花消耗性に優れた金属で形成されており、後述する組成を有する電極材料又はこの電極材料以外の公知の材料で形成されればよい。中心電極2における消耗量を低減させるためには、接地電極6は後述する電極材料で形成されるのがよい。接地電極6は、例えば、厚さが0.3〜1mmの円盤状の形状を有し、その中央に、キャビティ16が外気と連通するように開口部17を有している。接地電極6は、絶縁体4の先端に当接した状態で、主体金具5の先端の内周面に形成された係合部18に係合されている。そして、接地電極6の外周縁が全周にわたって係合部18と例えばレーザ溶接され、接地電極6は主体金具5と一体に接合されている。
【0021】
中心電極2は、軸孔3の内部に設けられた、金属とガラスの混合物とからなる導電性のシール体19を経由して、後端側の端子金具20に電気的に接続されている。このシール体19により、中心電極2及び端子金具20は、軸孔3に固定されると共に導通される。端子金具20にはプラグキャップ(図示せず。)を介して高圧ケーブル(図示せず。)が接続される。
【0022】
前記主体金具5は、内燃機関(図示せず。)のエンジンヘッドにプラズマジェット点火プラグ1を固定するための略円筒形状の金具であり、絶縁体4を内装することにより絶縁体4を保持している。主体金具5は、プラグレンチ(図示せず。)が嵌合する工具係合部23と、工具係合部23よりも先端側の外周面に、内燃機関のエンジンヘッドに螺合するネジ部22とを備えている。主体金具5は、導電性の鉄鋼材料、例えば、低炭素鋼により形成されることができる。
【0023】
以上のような構造を有するプラズマジェット点火プラグ1では、例えば次のようにしてプラズマを形成し、混合気への着火が行なわれる。混合気への点火の際に、まず、中心電極2と接地電極6との間に高電圧を印加し、火花放電を行う。このときに生じる絶縁破壊によって、中心電極2と接地電極6との間には比較的低電圧で電流を流すことができるようになる。そこで更に、中心電極2と接地電極6との間に任意の出力を有する電源から30〜200mJの高エネルギーの電流を供給することで放電状態を遷移させ、キャビティ16内でプラズマを形成する。こうして形成されたプラズマが接地電極6に形成された開口部17から噴出され、混合気への着火が行われる。
【0024】
プラズマジェット点火プラグ1においては、中心電極2のうち少なくとも先端面21を含む先端部10が、後述する第1の組成又は第2の組成を有する。
【0025】
(第1の組成)
前記中心電極2は、中心電極2のうち少なくとも先端面21を含む先端部10が、少なくとも1種の希土類元素の酸化物とタングステン(W)とを含有し、前記1種又は2種以上の希土類元素の酸化物の合計含有率が0.5質量%以上10質量%以下であり、Wの含有率が90質量%以上である。この組成を以下において、第1の組成と称する。
【0026】
前記中心電極2のうち少なくとも先端面21を含む先端部10(先端面21から軸線O方向に少なくとも0.3mmまでの範囲)が、前記第1の組成を有すると、中心電極と接地電極とに高エネルギーの電流を供給しても中心電極2の火花消耗量を低減させることができる。その結果、着火性を確保しつつプラズマジェット点火プラグ1の耐久性を向上させることができる。
【0027】
プラズマジェット点火プラグでは、上述したように点火の際に高エネルギーの電流が供給される。それによって電極の消耗量が激しくなるので、電極は融点の高い材料で形成されることが望ましい。タングステン(W)は、白金(Pt)やイリジウム(Ir)よりも高融点であるので、電極の材料として望ましいと考えられる。しかし、100質量%のWからなる電極よりも、特定量の希土類元素の酸化物を含有する電極の方が、電極の火花消耗量を低減できることを発明者らは見出した。
【0028】
Wを100質量%含有する中心電極が、Wが高融点であるにもかかわらず、予想よりも火花消耗量を低減させることができないのは、燃焼によって生じた炭素(C)が電極の表面におけるWと反応してWCを生成し、このWCが電極表面から飛散し易いので、電極消耗量を促進してしまうと推定される。中心電極がWを主成分として、特定量の希土類元素の酸化物を含有すると、電極表面に形成されるWCの生成が抑制され、その結果、電極表面からのWCの飛散が抑制されて電極消耗量が低減されると考えられる。
【0029】
前記中心電極2のうち少なくとも先端面21を含む先端部10が第1の組成を有する。プラズマを生成させるために高エネルギーの電流を供給すると、キャビティ16内にプラズマが形成されるので、キャビティ16を形成する中心電極2の先端面21は消耗量が特に激しくなる。したがって、中心電極2全体が前記第1の組成で形成されていてもよいが、消耗量の激しい中心電極2の先端部10特に先端面21が少なくとも前記第1の組成で形成されているとよい。以下において、中心電極2の組成について記載する際には、単に「中心電極」と記載するが、中心電極2の先端面21のみ及び先端部10のみが第1の組成を有する場合も含む。
【0030】
前記希土類元素の酸化物としては、Y、La、Ce、Nd、Dy、Er、Yb、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Tm、及びLuの酸化物を挙げることができる。中心電極2は、Y、La及びCeから選択される少なくとも1種の酸化物を含有するのが好ましく、少なくともLa又はYの酸化物を含有するのが特に好ましい。
【0031】
前記中心電極2における前記希土類元素の酸化物の合計含有率は、0.5質量%以上10質量%以下であり、0.5質量%以上7質量%以下であるのが好ましい。前記中心電極2が前記希土類元素のうち、少なくともLa又はYの酸化物を含有する場合には、その合計含有率は0.5質量%以上5質量%以下であるのが好ましい。
【0032】
前記中心電極2におけるWの含有率は、90質量%以上である。Wの含有率が90質量%未満であると、中心電極の消耗量低減効果が見られない。
【0033】
前記中心電極2は、90質量%以上のWと0.5質量%以上10質量%以下の少なくとも1種の希土類元素の酸化物とを含有していればよく、この他にIrを含有してもよい。Irを0.3質量%以上3質量%以下の範囲内で含有すると、中心電極の消耗量を低減させるのにさらに効果的である。
【0034】
前記中心電極2は、少なくとも1種の希土類元素の酸化物とWと、所望により、Irを実質的に含有する。これらの各成分は、前述した各成分の含有率の範囲内で、これら各成分と不可避不純物との合計が100質量%になるように含有される。前記成分以外の成分、例えば、Fe、Mo等が微量の不可避不純物として含有されることがある。これらの不可避不純物の含有量は少ない方が好ましいが、本願発明の目的を達成することができる範囲内で含有していてもよく、前述した成分の合計質量を100質量部としたときに、前述した1種類の不可避不純物の割合は0.01質量部以下、含有されるすべての種類の不可避不純物の合計割合は0.05質量部以下であるのがよい。
【0035】
(第2の組成)
前記中心電極2は、中心電極2のうち少なくとも先端面21を含む先端部10が、IrとWとを含有し、Irの含有率が0.3質量%以上3質量%以下、Wの含有率が97質量%以上である。この組成を以下において、第2の組成と称する。
【0036】
前記中心電極2のうち少なくとも先端面21を含む先端部10が、前記第2の組成を有すると、第1の組成の場合と同様に、中心電極と接地電極とに高エネルギーの電流を供給しても中心電極2の火花消耗量を低減させることができる。その結果、着火性を確保しつつプラズマジェット点火プラグ1の耐久性を向上させることができる。
【0037】
前記中心電極2が、第2の組成を有する電極材料で形成される場合にも、第1の組成の場合と同様の作用により、電極表面からのWCの飛散が抑制されて電極消耗量が低減されると考えられる。
【0038】
前記中心電極2におけるIrの含有率は、0.3質量%以上3質量%以下であり、0.3質量%以上1質量%以下であるのが好ましい。前記中心電極2におけるWの含有率は、97質量%以上である。Ir及びWの含有率が前記範囲外にあると、中心電極の消耗量低減効果が見られない。
【0039】
前記中心電極2は、97質量%以上のWと0.3質量%以上3質量%以下のIrとを含有していればよく、この他にY、La、Ceなどの希土類元素の酸化物を含有してもよい。少なくとも1種の希土類元素の酸化物を含有すると、中心電極の消耗量を低減させるのにさらに効果的である。
【0040】
前記中心電極2は、IrとWと、所望により、少なくとも1種の希土類元素の酸化物とを実質的に含有する。これらの各成分は、前述した各成分の含有率の範囲内で、これら各成分と不可避不純物との合計が100質量%になるように含有される。前記成分以外の成分、例えば、Fe、Mo等が微量の不可避不純物として含有されることがある。これらの不可避不純物の含有量は少ない方が好ましいが、本願発明の目的を達成することができる範囲内で含有していてもよく、前述した成分の合計質量を100質量部としたときに、前述した1種類の不可避不純物の割合は0.01質量部以下、含有されるすべての種類の不可避不純物の合計割合は0.05質量部以下であるのがよい。
【0041】
次に接地電極6を形成する電極材料について説明する。前記接地電極6は、電極材料を形成する公知の材料、例えば、インコネル(商標名)600又は601等のNi基合金により形成されればよいが、Irを含有するのが好ましい。接地電極6がIrを含有すると中心電極2の火花消耗量をより一層低減させることができる。
【0042】
前記中心電極2がWを主成分とする材料により形成されている場合には、前述したように、中心電極2の表面にWCが生成され易い。接地電極6にIrが含有されていると、プラズマ電流により消耗したIr成分が中心電極表面に付着し、Wの融点に比較的近いIrはWと結合し易いため、中心電極2の表面にIrとWとの溶融層が形成され、この溶融層が保護膜として働いて電極表面から飛散し易いWCの生成が抑制されると推定される。その結果、中心電極2の表面からのWCの飛散が抑制されて電極消耗量が低減されると考えられる。
【0043】
接地電極6におけるIrの含有率は、10質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのが特に好ましい。接地電極6におけるIrの含有率が前記範囲内にあると、より一層中心電極2の火花消耗量を低減させることができる。接地電極6におけるIr以外の成分は特に限定されず、電極材料を形成する公知の材料、例えばインコネル600を形成する成分等を挙げることができる。
【0044】
前記中心電極2及び前記接地電極6を形成する材料の各成分の含有率は、次のようにして測定することができる。中心電極2と接地電極6とが対向する各面をそれぞれ0.1mm程度研磨して、この研磨面に対し、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)(例えば、JEOL社 JXA−8500F)を用い、加速電圧20kV、ビーム電流:2.5×10−8mA、スポット径:100〜200μmの条件にて分析を行う。1つのサンプルに対して任意の異なる10ヶ所に対し分析を行い、その測定値の平均値を算出し、その平均値を電極材料における各成分の含有率とする。
【0045】
なお、中心電極2及び接地電極6は、所定の原料を所定の配合割合で配合して、以下に示すように製造される。製造された中心電極2及び接地電極6の組成は、原料の組成とほぼ一致する。したがって、中心電極2及び接地電極6を形成する各成分の含有率は、簡易的な方法として原料の配合割合からも算出することができる。
【0046】
中心電極が第1の組成又は第2の組成を有すると、高着火性を確保するために高エネルギーの電流を流しても、中心電極の火花消耗量を抑制することができる。その結果、高着火性及び高耐久性を有するプラズマジェット点火プラグを提供することができる。
【0047】
前記プラズマジェット点火プラグ1は、例えば次のようにして製造される。まず、前述した第1の組成又は第2の組成を有する電極材料を、希土類元素の酸化物とWとIrとから適宜選択して特定の割合で溶解して、調整する。このようにして調整した電極材料を所定の形状に加工して中心電極2を作成する。なお、Ni基合金等の周知の電極材料で中心電極2となる電極棒を作成し、並行して前述した第1の組成又は第2の組成を有する円盤状のチップを作成して、例えばレーザ溶接により前記チップを電極棒の先端面に溶接して一体になるように形成してもよい。
【0048】
接地電極6を形成する電極材料は、例えばインコネル600と同様の組成を有する材料と特定量のIrとを溶解して、調整する。このようにして調整した電極材料を所定の形状に加工して接地電極6を作製する。電極材料の調整及び加工を連続して行うこともできる。例えば、真空溶解炉を用いて、所望の組成を有する合金の溶湯を調製し、真空鋳造にて各溶湯から鋳塊を調製した後、この鋳塊を、熱間加工、線引き加工等して、所定の形状及び所定の寸法に適宜調整して、中心電極2及び接地電極6を作製することができる。
【0049】
次いで、セラミック等を所定の形状に焼成することによって絶縁体3を作製し、中心電極2を絶縁体4に公知の手法により組み付け、所定の形状に塑性加工等によって形成した主体金具5にこの絶縁体4を組み付ける。次いで、主体金具5の端面に設けた係合部18に接地電極6を嵌合させて、電気抵抗溶接又はレーザ溶接等によって接合する。このようにして、プラズマジェット点火プラグ1が製造される。
【0050】
本発明に係るプラズマジェット点火プラグは、自動車用の内燃機関例えばガソリンエンジン等の点火栓として使用され、内燃機関の燃焼室を区画形成するヘッド(図示せず)に設けられたネジ穴に前記ネジ部22が螺合されて、所定の位置に固定される。この発明に係るプラズマジェット点火プラグは、如何なる内燃機関にも使用することができるが、高エネルギーの電流を流しても電極の消耗量を抑制することができるから、特に空燃比の高い内燃機関に好適に使用されることができる。
【0051】
この発明に係るプラズマジェット点火プラグ1は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。すなわち、中心電極と接地電極との間に高電圧が印加され、火花放電が行われ、そこに更にエネルギーを供給することで放電状態を遷移させ、プラズマを形成する方法又はこれ以外の方法によりプラズマを形成するプラグであれば、中心電極や接地電極の構成、形状に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
<プラズマジェット点火プラグの作製>
通常の真空溶解炉を用いて、表1〜9に示す組成(質量%)を有する合金の溶湯を調製し、真空鋳造にて各溶湯から鋳塊を調製した。その後、この鋳塊を熱間鋳造にて丸棒とした。この丸棒を押し出し加工等の塑性加工後に線引き加工、塑性加工等を施し直径4mmの線材とし、プラズマジェット点火プラグの中心電極に作製した。また、Irが表4〜7、9に示す割合で含有され、残部がNiである合金の溶湯と、Irを実質的に含有しないNiの合金の溶湯とを調製し、中心電極を作製する場合と同様にして、中心部に開口部を有する円盤状の接地電極を作製した。なお、表中の希土類元素は酸化物換算での全体の質量に対する質量割合を示す。
【0053】
そして、公知の手法により、セラミックで形成された絶縁体に前記中心電極を組み付け、この絶縁体を主体金具に組み付けた。主体金具の一端面に設けた係合部に前記接地電極の全周を接合し、プラズマジェット点火プラグを製造した。
【0054】
なお、製造されたプラズマジェット点火プラグのねじ径はM12であり、中心電極の先端面から接地電極の内面までの長さ(キャビティの長さ)は1mm、絶縁体の軸孔における先端部の内径(キャビティの内径)は1mm、接地電極の開口部の内径は1mmであった。
【0055】
<耐久性試験の方法>
前述のように製造したプラズマジェット点火プラグを、4気筒、2.0Lのエンジンに取り付け、エンジン回転数720rpmの状態を維持し、50時間又は100時間の運転を行った。なお、電極にプラズマエネルギー80mJの電流を流してプラズマを形成させた。
【0056】
<耐久性の評価>
(中心電極が第1の組成を有する場合)
表1に示す組成の中心電極及びNi合金からなる接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの耐久性は、耐久性試験の前後における中心電極の体積の減少量を測定し、1時間当たりの体積の減少量を消耗量として算出し、以下の基準に基づいて評価した。
×:基準となる組成を有する中心電極の消耗量に対して消耗量が大きい場合。
△:基準となる組成を有する中心電極の消耗量に対して消耗量が2/3より大きく1以下の場合。
○:基準となる組成を有する中心電極の消耗量に対して消耗量が1/3より大きく2/3以下の場合。
◎:基準となる組成を有する中心電極の消耗量に対して消耗量が1/3以下の場合。
【0057】
【表1】

【0058】
表2及び3に示す組成の中心電極及びNi合金からなる接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの耐久性は、耐久性試験の前後における中心電極の体積の減少量を測定し、1時間当たりの体積の減少量を消耗量として算出し、以下の基準に基づいて評価した。
×:基準となる組成を有する中心電極の消耗量に対して消耗量が同じ又は大きい場合。
○:基準となる組成を有する中心電極の消耗量に対して消耗量が小さい場合。
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
(中心電極が第1の組成、接地電極がIrを含む場合)
表4〜7に示す組成の中心電極及び接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの耐久性は、耐久性試験の前後における中心電極の体積の減少量を測定し、1時間当たりの体積の減少量を消耗量として算出し、以下の基準に基づいて評価した。
×:基準となる組成を有する中心電極の消耗量に対して消耗量低減割合が25%未満の場合。
△:基準となる組成を有する中心電極の消耗量に対して消耗量低減割合が25%以上50%未満の場合。
○:基準となる組成を有する中心電極の消耗量に対して消耗量低減割合が50%以上の場合。
【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
【表7】

【0066】
(中心電極が第2の組成を有する場合)
表8に示す組成を有する中心電極及びNi合金からなる接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの耐久性は、表1の場合と同様にして評価した。
【0067】
【表8】

【0068】
(中心電極が第2の組成、接地電極がIrを含む場合)
表9に示す組成を有する中心電極及び接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの耐久性は、表4の場合と同様にして評価した。
【0069】
【表9】

【0070】
本願発明の範囲に含まれる組成を有する中心電極を備えたプラズマジェット点火プラグは、表1〜9に示されるように、中心電極の消耗量を抑制することができた。
【0071】
一方、本願発明の範囲外にある組成を有する中心電極を備えたプラズマジェット点火プラグは、表1及び8に示されるように、100質量%のWからなる中心電極に対して中心電極の消耗量を低減させることができなかった。
【0072】
表1における比較例は、希土類元素の酸化物の含有率及び/又はWの含有率が本願発明の範囲外にあり、表8における比較例は、Irの含有率及び/又はWの含有率が本願発明の範囲外にあり、いずれも100質量%のWからなる中心電極に対して中心電極の消耗量を低減させることができなかった。表2及び3に示されるように、中心電極が希土類元素の酸化物とWと、さらに特定量のIrを含有すると、より一層中心電極の消耗量を低減させることができた。
【0073】
表4〜7及び9に示されるように、本願発明の範囲内に含まれる組成を有する中心電極を備えたプラズマジェット点火プラグは、さらに接地電極がIrを含有すると、より一層中心電極の消耗量を低減させることができた。
【0074】
(中心電極の表面分析)
試料No.121及びNo.117の組成を有する中心電極及び接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグを耐久性試験と同一の条件で試験を行った後に、中心電極先端部を軸線方向に切断して、切断面の表面分析を電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)(JEOL社 JXA−8500F)により、加速電圧20kV、ビーム電流:2.5×10−8mA、スポット径:100〜200μmの条件にて行った。結果を図3及び4に示す。
【0075】
図3は、Ir含有率が90質量%の接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの中心電極の表面分析結果であり、図4は、Ir含有率が5質量%の接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの中心電極の表面分析結果である。図3に示されるように、Ir含有率が90質量%の接地電極を備えたプラズマジェット点火プラグの中心電極の先端部には、Irが検出された。この結果から、中心電極の先端部にW−Ir合金の溶融層が形成され、この溶融層が保護膜として働き、W成分の飛散を抑制していると考えられる。図4に示されるように、Ir含有率が5質量%の接地電極の場合には、中心電極の先端部にIrが検出されなかった。したがって、中心電極の先端部にW−Ir合金の溶融層が形成されなかったと判断される。
【符号の説明】
【0076】
1 プラズマジェット点火プラグ
2 中心電極
3 軸孔
4 絶縁体
5 主体金具
6 接地電極
7 鍔部
8 胴体部
9 中間部
10 先端部
11 段差部
12 段状部
13 収容部
14 小径部
15 段部
16 キャビティ
17 開口部
18 係合部
19シール体
20 端子金具
21 先端面
22 ネジ部
23 工具係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、
軸線方向に延びる軸孔を有し、前記中心電極の先端面が前記軸孔内に配置されると共に前記中心電極を保持する絶縁体と、
前記絶縁体を保持する主体金具と、
前記主体金具に接合されると共に、前記絶縁体よりも先端側に配置され、前記中心電極との間で火花放電を行う接地電極とを備えたプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記中心電極のうち少なくとも前記先端面を含む先端部は、少なくとも1種の希土類元素の酸化物とWとを含有し、前記希土類元素の酸化物の合計含有率が0.5質量%以上10質量%以下であり、Wの含有率が90質量%以上であることを特徴とするプラズマジェット点火プラグ。
【請求項2】
前記希土類元素の酸化物の含有率は、0.5質量%以上7質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマジェット点火プラグ。
【請求項3】
前記中心電極は、前記希土類元素のうち、少なくともLa又はYの酸化物を含有し、その合計含有率が0.5質量%以上5質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマジェット点火プラグ。
【請求項4】
前記中心電極は、Irを0.3質量%以上3質量%以下含有し、前記希土類元素の酸化物とIrとWとの合計含有率が100質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラズマジェット点火プラグ。
【請求項5】
中心電極と、
軸線方向に延びる軸孔を有し、前記中心電極の先端面が前記軸孔内に配置されると共に前記中心電極を保持する絶縁体と、
前記絶縁体を保持する主体金具と、
前記主体金具に接合されると共に、前記絶縁体よりも先端側に配置され、前記中心電極との間で火花放電を行う接地電極とを備えたプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記中心電極のうち少なくとも前記先端面を含む先端部は、Irを0.3質量%以上3質量%以下、かつWを97質量%以上含有することを特徴とするプラズマジェット点火プラグ。
【請求項6】
前記接地電極は、Irを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のプラズマジェット点火プラグ。
【請求項7】
前記接地電極は、Irを10質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のプラズマジェット点火プラグ。
【請求項8】
前記接地電極は、Irを90質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のプラズマジェット点火プラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−228260(P2011−228260A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278903(P2010−278903)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】