説明

プラズマディスプレイパネルおよびその製造方法

【課題】バス電極抵抗が減じられると共にバス電極のエッジカールが抑制されたPDPを提供すること。
【解決手段】基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、基板上に電極と誘電体層と隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルであって、前面板の電極が透明電極とバス電極とから構成されており、バス電極が、導電性粒子を溶融固化することで得られた溶融固化部を有して成ることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルの製造方法に関し、特にプラズマディスプレイパネルの前面板側の電極の製造方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法より得られるプラズマディスプレイパネルにも関する。
【背景技術】
【0002】
PDP(例えば3電極面放電型PDP)は、映像を見る人から見て表面側となる前面板とその裏側の背面板とを対向配置して、それらの周辺部を封着部材で封着した構造を有している。前面板と背面板との間に形成された放電空間にはネオンおよびキセノンなどの放電ガスが封入されている。前面板は、ガラス基板の一方の面に形成された走査電極と維持電極とから成る表示電極対と、これらの電極を覆う誘電体層と保護層とを備えている。背面板は、ガラス基板に上記表示電極対と直交する方向にストライプ状に形成された複数のアドレス電極と、これらのアドレス電極を覆う下地誘電体層と、アドレス電極毎に放電空間を区画する隔壁と、隔壁の側面および下地誘電体層上に塗布された赤色・緑色・青色の蛍光体層とを備えている。
【0003】
表示電極対とアドレス電極とは直交していて、その交差部が放電セルを成している。これらの放電セルはマトリクス状に配列されており、表示電極対の方向に並ぶ赤色・緑色・青色の蛍光体層を有する3個の放電セルがカラー表示のための画素となる。このようなPDPでは、順次、走査電極とアドレス電極間、および走査電極と維持電極間に所定の電圧が印加されてガス放電を発生させている。そして、かかるガス放電で生じる紫外線により蛍光体層を励起して可視光を発光させることによってカラー画像表示を実現している。
【0004】
近年では、PDPは従来のNTSC方式に比べて走査線数が2倍以上となるハイディフィニションテレビへの高精細化が進んでいる。同時にディスプレイの大画面化が進む中においては、必然的に画像表示に要する電圧・電力が高くなるため、表示電極の抵抗値を低下させることが望まれる。
【0005】
表示電極の抵抗値を低下させるためには、電極断面積を大きくする必要があるが、電極幅を大きくすると画像表示する画素の可視光を透過させる開口面積が小さくなり、PDPの画像表示輝度が低下することになる。一方、電極膜厚を大きくすると実質的に電極上部の誘電体層の厚みが小さくなり、誘電体層の絶縁耐圧が低下する不具合を伴う。
【0006】
そこで、バス電極の現像後のアンダーカット量を大きくすることによって、つまり図7に示すように、バス電極(12b、13b)の基板側と接する幅W1に対してバス電極(12b、13b)の投影幅W2の差分値を25μm以上とすることによって、現像後の工程となる焼成工程の熱履歴による金属バス電極の熱収縮量を大きくし、電極膜を密に形成する試みがなされている。これにより、銀粒子同士の点接触数を増やすことができるので、バス電極の導電率の向上を図ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−293867号公報
【特許文献2】特開2008−282707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電極膜を密にし、銀粉末・銀粒子の粒子同士の点接触数を増やすことによって、導電率を上げることができるものの、焼成後も銀粉末・銀粒子が点接触しているに過ぎないため、密な膜を形成しても抵抗値の低下割合は依然小さい。更に、アンダーカット量を大きくすると、白層と黒層との熱収縮の差により発生するバス電極端部の反り量(エッジカール量)が増加してしまう。つまり、図8に示すように「バス電極(12b、13b)の幅方向中心における膜厚H1」と「バス電極(12b、13b)の端部における膜厚H2」との差分値が増加する。その結果、エッジカール頂部での誘電体層の実質的な膜厚が薄くなってしまい、誘電体層の絶縁耐圧が低下してしまう(“エッジカール”については図9も参照のこと。また、“エッジカール”の発生要因については上記特許文献2も参照されたい)。特に誘電体層をゾルゲル材料で形成する場合には、エッジカール量の増加に起因して誘電体層表面に段差が生じてしまい、誘電体層内にクラックが発生し易くなるので、絶縁耐圧低下のリスクが高まってしまう。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の課題はバス電極抵抗が減じられたPDPを提供することであり、また、別の課題はバス電極のエッジカールが抑制されたPDPを提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板を有して成るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前面板の電極が透明電極とバス電極とから構成され、そのバス電極の形成が、
(i)導電性粒子を含んで成るバス電極原料を調製する工程、
(ii)基板上に形成された透明電極に対してバス電極原料を供する工程、
(iii)透明電極上に供されたバス電極原料を熱処理に付し、バス電極原料からバス電極を形成する工程、および
(iv)得られたバス電極の表面に対して局所的な熱処理を施し、バス電極に含まれている導電性粒子の少なくとも一部を溶融させる工程
を含んで成ることを特徴とする製造方法が提供される。
【0011】
本発明の製造方法は、得られたバス電極に対して局所的な熱処理を施すことを特徴としている。特に、本発明の製造方法では、得られたバス電極の表面に対して局所的な熱処理を施し、それによって、バス電極に含まれる導電性粒子の少なくとも一部を溶融させる。
【0012】
本明細書で用いる「局所的な熱処理」とは、バス電極の全体を熱処理するのではなく、その一部分、特にバス電極の表面部分を熱処理することを意味している。特に好適な態様では、バス電極に対して瞬間的な熱処理を施すことによって、バス電極の表面部分を熱処理する。このような熱処理によって、バス電極に含まれている導電性粒子の少なくとも一部(特に“バス電極の表面側に存在している導電性粒子”)を溶融化させる。最終的に得られるバス電極は、それに含まれていた導電性粒子の少なくとも一部が溶融固化して成る領域を含んでいるので、より低い抵抗値を呈することになる。例えば、上記の「局所的な熱処理」を行わない場合と比較して、バス電極抵抗値は約5%〜約50%低減する。
【0013】
本明細書において「前面板」とは、映像を見る人から見て表面側となるパネル基板を指しており、実質的には、蛍光体層および隔壁が存在していない側のパネル基板を指している(換言すれば、蛍光体層および隔壁が存在する“背面板”と対向配置されるパネル基板が“前面板”であるといえる)。
【0014】
ある好適態様では、バス電極表面から0.2t〜0.7tまでのバス電極内部領域に存在する導電性粒子を溶融させる(t:バス電極の全体厚さ)。つまり、バス電極表面から「バス電極全体厚さの20%〜70%に相当する深さ」に至るまでの領域の導電性粒子のみを熱処理して溶融させる。
【0015】
別のある好適な態様では、局所的な熱処理を行う手段として、プラズマトーチ、レーザーまたはフラッシュランプを用いる。
【0016】
本発明では、上述した製造方法を通じて得られるプラズマディスプレイパネルも提供される。かかるプラズマディスプレイパネルは、基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、基板上に電極と誘電体層と隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルであって、
前面板の電極が透明電極とバス電極とから構成されており、バス電極が、導電性粒子を溶融固化することで得られた溶融固化部を少なくとも有して成ることを特徴としている。
【0017】
本明細書において「溶融固化部」とは、バス電極原料の導電性粒子が一旦溶融した後で固化して形成された電極部分のことを実質的に指している。かかる「溶融固化部」は、その領域における全ての導電性粒子が溶融固化している態様に限定されず、その領域の一部に溶融固化していない導電性粒子が部分的に含まれている態様であってもよい。また、かかる「溶融固化部」は、導電性粒子が完全に溶融することで形成された態様のみならず、導電性粒子が不完全に溶融する(例えば、粒子の表層部分だけが溶融する)ことで形成された態様をも包含する。
【0018】
本発明のプラズマディスプレイパネルにおいては、溶融固化部がバス電極の表面領域、即ち、表層領域に形成されている。ある好適な態様では、溶融固化部が、バス電極表面から0.2t〜0.7tに至るまで厚さ寸法・深さ寸法を有している(t:バス電極の全体厚さ)。
【0019】
別のある好適な態様では、バス電極が「透明電極と接するように形成された黒層」と「その黒層の上に形成された白層」とから成る2層構造を有している。かかる場合、黒層が軟化温度400℃〜550℃のガラス材料を含んで成ることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るプラズマディスプレイパネルでは、バス電極が「導電性粒子に起因した溶融固化部」を含んでおり、バス電極が全体的に低い抵抗値を呈する(具体的にいうと“局所的な熱処理”を行わない場合と比較してバス電極抵抗値は約5%〜約50%低減している)。その結果、本発明においては消費電力の低いPDPが実現される。特に、バス電極の表面側において導電性粒子の溶融固化部が存在しているが、これは、放電に寄与するバス電極白層の抵抗値が低減することを意味している。従って、その白層にて電流が多く流れ、放電しやすくなり、結果、消費電力の低いPDPが実現されることになる。
【0021】
また、本発明では、「局所的な熱処理」によってバス電極の“エッジカール”を除去ないしは低減することができる。従って、本発明によって誘電体層の絶縁耐圧を低下させることができる。換言すれば、バス電極のエッジカールを除去・低減できるということは、ゾルゲル法を用いて誘電体層を形成した場合であっても、“エッジカール”に起因したクラックの発生を効果的に防止できることを意味しており、絶縁耐圧低下のリスクを効果的に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】PDPの構造を模式的に示す斜視図
【図2】PDP前面板の構成を模式的に示す断面図
【図3】本発明の製造方法の工程を模式的に示す斜視断面図
【図4】溶融固化部の厚みを説明するための模式図
【図5】実施例で撮影されたバス電極の断面写真(図5(a):PTA処理前のバス電極の断面写真、図5(b):PTA処理後のバス電極の断面写真)
【図6】PTA処理後のバス電極の膜形状評価結果を示すグラフ(実施例)
【図7】特許文献1において現像後のバス電極の態様を模式的に示す断面図(従来技術)
【図8】特許文献1において焼成後のバス電極の態様を模式的に示す断面図(従来技術)
【図9】表示電極(バス電極)に発生した“エッジカール”の態様を模式的に示す断面図(従来技術)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下にて、本発明の「プラズマディスプレイパネルの製造方法」および「プラズマディスプレイパネル」を詳細に説明する。尚、図面に示す各種の要素は、本発明の理解のために模式的に示したにすぎず、寸法比や外観などは実物と異なり得ることに留意されたい。
【0024】
プラズマディスプレイパネルの構成
まず、本発明の製造方法を経ることによって最終的に得られるプラズマディスプレイパネル(以下「PDP」とも称す)を簡単に説明する。図1にPDPの全体構成を断面斜視図で示すと共に、図2にPDP前面板の構成を断面図で示す。
【0025】
PDP(100)の前面板(1)では、平滑で透明かつ絶縁性の基板(10)(例えばガラス基板)上に、走査電極(12)と維持電極(13)とから成る表示電極(11)が複数形成されており、その表示電極(11)を覆うように誘電体層(15)が形成され、更に、その誘電体層(15)上に保護層(16)(例えば、MgOから成る保護層)が形成されている。特に、表示電極(11)は、図2に示すように、透明電極(12a,13a)とバス電極(12b、13b)とから成る電極が対となった電極対(11)を複数有して成ることにより構成されている。透明電極(12a,13a)は、酸化インジウム(ITO)または酸化スズ(SnO)などから成る透明な導電膜であり、好ましくは50〜500nm程度の厚さ寸法を有している。一方、バス電極(12b、13b)は、銀を主成分とした電極であり、好ましくは1〜55μmの厚さ寸法、より好ましくは1〜20μmの厚さ寸法を有していると共に、好ましくは10〜200μmの幅寸法、より好ましくは50〜120μmの幅寸法を有している。
【0026】
前面板(1)に対向配置される背面板(2)では、絶縁性の基板(20)上にアドレス電極(21)が複数形成され、このアドレス電極(21)を覆うように誘電体層(22)が形成されている。そして、かかる誘電体層(22)上のアドレス電極(21)間に対応する位置に隔壁(23)が設けられ、誘電体層(22)の表面上の隣接する隔壁(23)の間には、赤、緑、青の各色の蛍光体層(25)がそれぞれ設けられている。
【0027】
表示電極(11)とアドレス電極(21)とが直交し、且つ、放電空間(30)が形成されるように、前面板(1)と背面板(2)とは、隔壁(23)を挟んで対向して配置されている。放電空間(30)には、放電ガスとして、ヘリウム、ネオン、アルゴンまたはキセノンなどの希ガスが封入される。このように構成されたPDP(100)では、隔壁(23)によって仕切られ、表示電極(11)とアドレス電極(21)とが交差する放電空間(30)が放電セル(32)として機能することになる。
【0028】
PDPの一般的な製造法
次に、このようなPDP(100)の典型的な製造方法について簡単に説明する。PDP(100)の製造は、前面板(1)の形成工程と背面板(2)の形成工程とに分かれている。まず、前面板(1)の形成工程においては、ガラス基板(10)上に、例えばスパッタ法等で透明電極を形成すると共に焼成法等でバス電極を形成することによって表示電極(11)を形成する。次いで、表示電極(11)を覆うように誘電体原料をガラス基板(10)上に塗布して加熱処理して誘電体層(15)を形成する。次いで、この誘電体層(15)上に、電子ビーム蒸着(EB蒸着)法などでMgOなどの膜を形成することで保護層(16)を形成し、前面板(1)を得ている。
【0029】
背面板(2)の形成工程においては、ガラス基板(20)上に、例えば焼成法等でアドレス電極(21)を形成し、その上に誘電体原料を塗布して誘電体層(22)を形成する。次いで、所定のパターンで低融点ガラスから成る隔壁(23)を形成し、その隔壁(23)の間に蛍光体材料を塗布して焼成することによって蛍光体層(25)を形成する。次いで、基板の周縁部に対して「低融点フリットガラス材料などから成るパネル封着用材料」を塗布し、焼成を行うことで封着部材(図1には図示せず)を形成し、背面板(2)を得ている。
【0030】
得られた前面板(1)と背面板(2)とを対向するように位置合わせし、その状態で固定したまま加熱して封着部材を軟化させることによって、前面板(1)と背面板(2)とを気密に接合する、いわゆるパネル封着を実施する。引き続いて、加熱しながら放電空間(30)内のガスを排気する、いわゆる排気ベーキングを実施した後、放電空間(30)内に放電ガスを封入(例えば53000Pa〜80000Pa程度の圧力で封入)することによって、PDP(100)を完成させる。
【0031】
本発明の製造方法
本発明の方法は、PDP製造において、特に前面板側のバス電極の形成に関している。かかるバス電極の形成では、先行して形成したバス電極の表面に対して局所的な熱処理を施す。つまり、本発明の製造方法では、バス電極形成に際して、バス電極前駆層を全体的に熱処理した後、その全体的な熱処理により得られたバス電極の一部を局所的に熱処理している。
【0032】
図3を参照して、本発明の実施形態を説明していく。本発明の実施に際しては、まず、図3(a)に示すように、基板(10)上に透明電極(12a、13a)を形成する。基板(10)は、ソーダライムガラスや高歪み点ガラス、各種セラミックスからなる絶縁基板であることが好ましく、厚さは1.0mm〜3mm程度であることが好ましい。かかる基板(10)に対して薄膜プロセスやフォトグラフィ法などを実施することによって、酸化インジウム(ITO)または酸化スズ(SnO)などから成る透明電極を形成する。透明電極の厚さは好ましくは50〜500nm程度である。
【0033】
透明電極(12a、13a)上には図3(b)に示すようにバス電極(12b、13b)を形成する。典型的には、バス電極原料を塗布し、フォトグラフィ法を用いてパターニングし、さらに最終的には500℃〜600℃程度で焼成することによってバス電極(12b、13b)を形成する。バス電極原料は、導電性粒子(例えば銀粒子)を含んで成る電極材料ペーストである。特に本発明では、図3(b)に示すように、バス電極を「下層を成す黒層(13b’)」と「上層を成す白層(13b”)」とから成る二層構造で形成することが好ましい。
【0034】
バス電極形成を経時的に説明する。まず、バス電極原料として用いられる黒層および白層の電極原料ペーストをそれぞれ塗布し、乾燥させて、電極前駆体膜を形成する。具体的には、透明電極上に黒層原料ペーストを塗布し、乾燥させてから、その表面に白層原料ペーストを塗布し、乾燥させる。次いで、かかる乾燥により得られた電極前駆体膜の表面をパターンに応じたマスクによって遮光しつつ、光を照射して露光する。露光後、電極前駆体膜を現像に付す。そして、現像後の電極前駆体膜を焼成することによってバス電極が形成される。
【0035】
「黒層および白層の電極原料ペースト」はいずれも感光性ペーストであって、一般的なPDP製造に常套的に用いられているものであれば特に制限はない。例えば、電極原料ペーストは、導電性粒子、ガラスフリット、黒色無機微粒子、感光性樹脂や有機バインダなどの有機物の樹脂、重合開始剤、モノマーおよび/または有機溶剤などを含んで成る。導電性粒子は主に白層に含まれ、黒色無機微粒子は主に黒層に含まれる。必要に応じて、白層および黒層は、それらの機能に影響を及ぼさない限りにおいて、黒色無機微粒子および導電性粒子をそれぞれ含んでいてよい。
【0036】
このような電極原料ペーストを、ロールコータなどにより塗布した後、乾燥させることによって、大部分の有機溶剤を蒸発させる。従って、乾燥後の電極前駆体膜は、蒸発した有機溶剤を除く導電性微粒子、ガラスフリット、感光性樹脂、有機バインダ等の有機物の樹脂(モノマーが重合されたものを含む)およびモノマーなどで構成されている。
【0037】
黒層の電極前駆体膜は、焼成後に、約0.5μm〜約5μmの厚さを有するように形成することが好ましい。一方、白層の電極前駆体膜は、焼成後に、約0.5μm〜約50μmの厚さを有するように形成することが好ましい。ちなみに、現象によってパターニングする際の電極幅精度を好適に確保する点を重視すると、黒層および白層の各層の厚さは0.5μm〜10μm程度であることが好ましい。
【0038】
電極原料ペーストを塗布する方法としては、ロールコートに限定されず、ダイコート、スピンコートまたはブレードコートなども用いることができる。
【0039】
具体的な電極原料ペーストとしては、銀(Ag)粒子などの導電性粒子と、酸化ビスマス(Bi)、酸化ホウ素(B)、および/または酸化ケイ素(SiO)などを主成分とするガラスフリットと重合開始剤、感光性樹脂および有機バインダなどの有機物の樹脂、モノマー、ならびに有機溶剤をそれぞれ所定の比率で混合したものを挙げることができる。以下、各成分について説明する。
【0040】
導電性粒子としては、粒径が約0.1μm〜50μmの銀粒子(Ag粒子)を用いることが好ましい。銀粒子の粒径が0.1μm未満であると、銀粒子同士の凝集が生じやすくなり、バス電極の抵抗値が一定にならない可能性がある。また、銀粒子の粒径が50μmを越えると、バス電極の高さを、銀粒子が上回り、一定且つ均一なパターンを持ったバス電極を形成できなくなるからである。なお、ここでいう「粒径」とは、粒子のあらゆる方向における長さのうち最大となる長さを実質的に意味している。銀粒子以外に、導電性の良好なアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)、白金(Pt)、クロム(Cr)、銅(Cu)およびパラジウム(Pd)から成る群から選択される金属の粒子、またはそれらの合金から成る粒子を導電性粒子として用いてもよい。銀粒子をはじめ上述のような導電性粒子は、黒層(即ち黒層原料ペースト)に含まれてもよいものの、好ましくは白層(即ち白層原料ペースト)に含まれる。
【0041】
ガラスフリットとしては、酸化ビスマス(Bi)、酸化ホウ素(B)、および/または酸化シリコン(SiO)などを主成分とする低融点ガラスフリットが好ましく用いられる。尤も、所望の電極形状を形成できるガラス材料であれば、これらを主成分とするガラスに限られず、他のガラスフリットを用いてよい。
【0042】
次に、黒色無機微粒子について説明する。黒色無機微粒子は、主に黒層(即ち黒層原料ペースト)に含まれるものである。あるいは、黒色無機微粒子は、白層(即ち白層原料ペースト)に含まれていてもよい。黒色無機微粒子としては、四三酸化コバルト(Co)の粒子を用いることが好適である。黒色無機微粒子として四三酸化コバルト粒子を添加した場合、少量の添加でも十分な黒色度を有する、緻密な焼成皮膜が得られることから、薄い膜厚で十分なコントラストを達成できる。その結果、特に、黒層において、乾燥、露光、現像、および焼成の各工程において、基板に対する優れた密着性、解像性、および焼成性を損なうことなく、焼成後において十分な層間導電性(透明電極と白層との層間導通)および黒さを同時に満足し得る、焼成皮膜を形成できる。また、四三酸化コバルトは、重合開始剤、感光性樹脂、およびなどの有機成分や有機溶剤などとの親和性が高いため、四三酸化コバルトとこれらの有機成分および有機溶剤を組み合わせて使用することにより、保存安定性に優れた電極原料ペーストを得ることができる。
【0043】
四三酸化コバルト粒子としては、粒径が5μm以下(好ましくは0.05μm以上5μm以下)の微粒子を用いることが望ましい。粒径を5μm以下とすることで、少量の添加でも密着性を損なうことなく、緻密な焼成皮膜を形成できるため、特に黒層の場合、十分な層間導電性(透明電極と白層との層間導通)及び黒さを同時に満足し得る。
【0044】
黒色無機微粒子として、四三酸化コバルト(Co)とともに、またはこれに代えて、耐熱性黒色顔料を配合することができる。耐熱性黒色顔料は、耐熱性に優れる無機顔料であれば、特に限定されない。一般にはクロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)およびルテニウム(Ru)から成る群から選択される金属の酸化物、および複合酸化物が、耐熱性黒色顔料に相当し、これらを単独で又は2種類以上組み合わせて用いてよい。
【0045】
感光性樹脂は、光が照射されると、架橋して不溶化する性質を有する樹脂であり、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有するカルボキシル基含有感光性樹脂である。感光性樹脂は、具体的には、不飽和カルボン酸と不飽和二重結合を有する化合物の共重合体にエチレン性不飽和基をペンダントとして付加させることによって得られるカルボキシル基含有感光性樹脂、エポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物と不飽和二重結合を有する化合物の共重合体に不飽和カルボン酸を反応させ生成した2級の水酸基に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂、不飽和二重結合を有する酸無水物と不飽和二重結合を有する化合物の共重合体に水酸基と不飽和二重結合を有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂、エポキシ化合物と不飽和モノカルボン酸を反応させ生成した2級の水酸基に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂、および水酸基含有ポリマーに多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂にエポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物をさらに反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂などであってよいが、これらに限定されない。これらの感光性樹脂は、単独で又は混合物として用いてよい。
【0046】
また、有機バインダとして機能する樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、α−メチルスチレン重合体、およびブチルメタクリレート樹脂等を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの有機バインダは、単独で又は混合物として用いてよい。
【0047】
重合開始剤は、後述するモノマーを重合させるために用いられる。重合開始剤は、特に限定されないが、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとベンゾインアルキルエーテル類、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等のアミノアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類、ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、又はキサントン類、(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−ペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、エチル−2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィネイト等のフォスフィンオキサイド類、および各種パーオキサイド類などであってよい。
【0048】
モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリウレタンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及び上記アクリレートに反応する各メタクリレート類などが挙げられるが、これらに限定されない。モノマーは単独で用いて、モノポリマーを生成してよく、あるいは複数のモノマーを選択して、コポリマーを生成してよい。
【0049】
有機溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、セロソルブ、メチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの酢酸エステル類、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テルピネオールなどのアルコール類、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素、石油エーテル、石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤が挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
電極原料ペーストにおいて、各成分の割合は、適宜選択される。例えば、白層原料ペーストにおいては、導電性微粒子100質量部に対してガラスフリットは0.5〜200質量部、感光性樹脂および有機バインダなどの有機物の樹脂成分は、ペースト全体の質量を100質量部としたときに、これに対して10〜80質量部、重合開始剤は樹脂成分の質量を100質量部としたときに、これに対して1〜30質量部、モノマーは樹脂成分の質量を100質量部としたときに、これに対して20〜100重量部、溶剤はペースト全体の質量を100質量部としたときに、これに対して1〜30質量部の割合で含まれることが望ましい。一方、黒層原料ペーストにおいては、黒色無機微粒子100質量部に対してガラスフリットは0.5〜200質量部、感光性樹脂および有機バインダなどの有機物の樹脂成分は、ペースト全体の質量を100質量部としたときに、これに対して10〜80質量部、重合開始剤は樹脂成分の質量を100質量部としたときに、これに対して1〜30質量部、モノマーは樹脂成分の質量を100質量部としたときに、これに対して20〜100重量部、溶剤はペースト全体の質量を100質量部としたときに、これに対して1〜40質量部の割合で含まれることが望ましい。
【0051】
上述のような成分を含んだ「黒層および白層の原料ペースト」を塗布・乾燥して得られる電極前駆体膜に対しては露光マスクなどを配置した後、光を照射して露光を実施する。その結果、マスクが配置された部分に未露光部分が生じ得る。露光後には、露光マスクを剥がして、電極前駆体膜をアルカリ水溶液などにより現像して、未露光部分を除去する。現像後、マスクで覆われていた部分に対応する白層および黒層が除去され、電極パターンが形成されることになる。
【0052】
露光に際しては、所定の電極パターンを有する露光マスク(ネガマスク)を用いて、接触露光及び非接触露光を実施することが可能である。露光光源としては、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、ローザー光、メタルハライドランプ、ブラックランプ、または無電極ランプなどを用いることができる。露光量は、好ましくは50〜1000mJ/cm程度、より好ましくは50〜500mJ/cm程度である。現像は、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム水溶液などのような金属アルカリ水溶液を用いてスプレー法または浸漬法により実施されることが好ましい。
【0053】
現像後、電極前駆体膜を、例えば400℃〜600℃程度の温度、より好ましくは500℃〜600℃の温度で焼成に付す。かかる焼成によってバス電極が形成される。焼成に際しては、電極前駆体膜に含まれる導電性粒子同士が点接触し得ると共に、ガラスフリットが溶融し得る。
【0054】
本発明では、焼成によりバス電極を形成した後、図3(c)に示すように、バス電極表面に対して局所的な熱処理を行う。これによりバス電極に含まれる導電性粒子の少なくとも一部を溶融させる。この局所的な熱処理を通じて最終的に得られるバス電極は「導電性粒子を溶融固化することで形成された溶融固化部」を含むことになり、それゆえ、バス電極の抵抗値が全体的に低減する。例えば、「局所的な熱処理」を行わない場合に対して、バス電極抵抗値が約5%〜約50%低減する。このようにバス電極の抵抗値が低下するので、最終的に得られるPDPにおいて消費電力が減じられる。特に、放電に寄与する白層の表面領域において“導電性粒子に起因した溶融固化部”が形成されるので、放電が容易となって消費電力の低いPDPが効果的に実現される。
【0055】
局所的な熱処理は“瞬間的な熱処理(RTA:Rapid Thermal Annealing)”によって実施することが好ましい。換言すれば、局所的な熱処理としては、熱応答性が高く、瞬間的な熱照射が可能であって、必要以上に深いところまで熱伝導が起こりにくいものを採用することが好ましい。より具体的には、熱応答性が高く、瞬間的な照射でバス電極の表面側に存在する導電性粒子を溶融でき、しかも、透明電極(12a、13a)・基板(10)の深い箇所にまで熱伝導が起こりにくい熱源を用いることが好ましい。本発明では、熱源としてプラズマトーチ、レーザーまたはフラッシュランプを用いることが好ましく、かかる熱処理手段を用いることによって、バス電極の表層領域にのみ“導電性粒子に起因した溶融固化部”を好適に形成できる。
【0056】
例えば、プラズマトーチ(60)を用いるとPTA法(プラズマトーチアニール法)を実施することができ、バス電極の表層領域にのみ熱処理を局所的に施すことができる。PTA法とは、アノードとカソードと間で直流アーク放電により約10000℃を超える高温高速のプラズマジェットを発生させる方法である。場合によっては、プラズマジェットにセラミックス、サーメットなどの粉末を投入してもよい。PTA法では、スキャン速度、バス電極表面と熱源との間のギャップ、スキャン回数、熱源のパワー等の諸条件を調整することによって、バス電極の表面側の導電性粒子に付与する熱容量を変えることができ、これにより、溶融固化部の厚さ、ひいては、バス電極全体の抵抗値を調整することができる。
【0057】
レーザーを用いた局所的な熱処理の場合では、バス電極の表面に対してレーザーを照射する。レーザー光としては、エキシマレーザー、YAGレーザー、COレーザー、紫外線、赤外線、電子線、X線、または、プラズマ由来のエネルギー線などを用いることができる。ある態様を例示すると、レーザー波長は、好ましくは600〜1200nmの範囲、レーザー出力は好ましくは0.5〜100Wの範囲である。レーザーを用いた熱処理では、例えば、レーザー出力などを調整することによって、バス電極表面の導電性粒子に付与する熱容量を変えることができ、これにより、溶融固化部の厚さ、ひいては、バス電極全体の抵抗値を調整することができる。また、(a)レーザー出力を調整することの他に、(b)レーザーのスキャン速度を調整する、(c)レーザーの集光径を調整する、(d)レーザーのスキャン・ピッチなどを調整してもよい。上記(a)〜(d)は単独で行ってもよいものの、それらを種々に組み合わせて行ってもよい。
【0058】
フラッシュランプを用いた熱処理の場合では、光パルス幅を調整し加熱時間を制御することによって、バス電極の表層領域にのみ熱処理を局所的に施すことができる。
【0059】
溶融固化部の厚み、即ち、局所的な熱処理を施す深さは、バス電極全体の厚さの70%以下(即ち、バス電極全体厚さをtとすると、バス電極表面からバス電極深さ0.7tまで)とすることが好ましく、より好ましくはバス電極全体の厚さの60%以下(即ち、バス電極全体厚さをtとすると、バス電極表面からバス電極深さ0.6tまで)である。このように、“溶融固化部の厚さ”の上限値を、バス電極全体の厚さの70%、より好ましくは60%とすることによって、熱付与による基板歪を抑制することができる。その一方、“溶融固化部厚さ”の下限値についていえば、好ましくはバス電極全体の厚さの20%(即ち、バス電極全体厚さをtとすると、バス電極表面から0.2tまでの深さ)、より好ましくは30%(即ち、バス電極全体厚さをtとすると、バス電極表面から0.3tまでの深さ)である。このような下限値とすることによって、量産工程においてバス電極表面の導電性粒子に付与される熱容量のバラツキがあったり、あるいは、パネルの面内における表示電極形状のバラツキがあったとしても、バス電極の抵抗値のバラツキを抑制することができる。
【0060】
上記を整理すると、“導電性粒子から形成された溶融固化部”は、好ましくはバス電極表面から0.2t〜0.7tまでの厚さを有しており(図4参照)、より好ましくはバス電極表面から0.3t〜0.6tまでの厚さを有している。それゆえ、例えばバス電極全体の厚さ寸法が約10μmであった場合、“導電性粒子から形成された溶融固化部”は、好ましくはバス電極の表面から2μm〜7μmの深さに至るまでの領域に形成されており、より好ましくはバス電極の表面から3μm〜6μmの深さに至るまでの領域に形成されているといえる。
【0061】
尚、バス電極に発生した“エッジカール”を効果的に除去・低減する観点からは、局所的な熱処理は、そのエッジカール部ないしはその近傍に対しても行うことが好ましい。つまり、局所的な熱処理は、バス電極表面に行うが、その際に特にバス電極エッジ部表面に対して行うことが好ましい。特定の理論に拘束されるわけではないが、そのような局所的熱処理を施すことによって、電極端部が溶融してエッジカールが除去・低減されることになる。
【0062】
バス電極の形成に引き続いては、図3(d)に示すように、誘電体層(15)を形成する。誘電体層(15)は、PDP前面板の一般的な製造で用いられる「ガラス材料を溶融させて作成する方法」または「ゾルゲル法」などを用いて形成できる。例えば、「ガラス材料を溶融させて作成する方法」を例にとると、SiO、B、ZnO、Biなどを含むガラス粉末と有機溶剤とバインダ樹脂とを混合して成る誘電体原料ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、その後、焼成すると誘電体層を得ることができる。誘電体層(15)の厚さは、好ましくは10μm〜30μm程度である。厚さを10μm以上にすることにより、絶縁耐圧を好適に確保するとともに、電極のエッジカール部の高さのバラツキにより局所的熱処理にて電極が加熱されるのを抑制することができる。一方、厚さを30μm以下にすると、誘電体層の誘電率が好適に低下し得、放電時の無効電力を低減することができる。尚、誘電体原料ペーストに含まれる有機溶剤としてはアルコール類(例えばイソプロピルアルコール)やケトン類(例えばメチルイソブチルケトン)を挙げることができ、バインダ樹脂としては、セルロース系樹脂またはアクリル系樹脂などを挙げることができる。
【0063】
ここで、形成される誘電体層は1層構造に限らず、2層構造であってもよい。以下では「ガラス材料を溶融させて作成する方法」を例にとって『第1誘電体層(下層)/第2誘電体層(上層)から成る2層構造の誘電体層』の形成について説明する。
【0064】
第1誘電体層の第1誘電体原料は、例えば、酸化ビスマス(Bi)を15重量%〜40重量%および酸化カルシウム(CaO)を0.5重量%〜15重量%含んで成り、更に、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化セリウム(CeO)、酸化マンガン(MnO)から選ばれる少なくとも1種を0.1重量%〜7重量%含んで成る。更に、第1誘電体原料は、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)から選ばれる少なくとも1種を0.5重量%〜12重量%含んで成っていてよい。
【0065】
かかる第1誘電体原料は、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化セリウム(CeO)、酸化マンガン(MnO)に代えて、酸化銅(CuO)、酸化クロム(Cr)、酸化コバルト(Co)、酸化バナジウム(V)および酸化アンチモン(Sb)から成る群から選択される少なくとも1種を0重量%〜10重量%の割合で含んでいてもよい。更に、第1誘電体原料は、鉛成分を含まない材料組成を含んで成るものであってもよい。
【0066】
かかる第1誘電体原料の組成は、上記以外のものも考えられる。例えば、第1誘電体原料は、酸化亜鉛(ZnO)を0重量%〜40重量%および酸化硼素(B)を0重量%〜35重量%、酸化珪素(SiO)を0重量%〜15重量%、酸化アルミニウム(Al)を0重量%〜10重量%などを含んだ成分(鉛成分を含まない成分)から構成されていてもよい。
【0067】
上述のような第1誘電体原料を、湿式ジェットミルやボールミルで平均粒径が0.5μm〜2.5μmとなるように粉砕して粉末材料を作製する。次いで、この粉末材料55重量%〜70重量%と、バインダ成分30重量%〜45重量%とを三本ロールで混練して、ダイコート用あるいは印刷用の第1誘電体原料ペーストを調製する。バインダ成分はエチルセルロースあるいはアクリル樹脂1重量%〜20重量%を含んで成るターピネオールあるいはブチルカルビトールアセテートであってよい。また、原料ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)および/またはアルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加して印刷性を向上させてもよい。
【0068】
調製された第1誘電体原料ペーストは基板に塗布された後で熱処理に付される。具体的には、表示電極を覆うように前面基板に対してダイコート法あるいはスクリーン印刷法で第1誘電体原料ペーストを印刷して乾燥に付した後、焼成に付す。これによって最終的に第1誘電体層を得ることができる。
【0069】
次に、第2誘電体層の形成について説明する。第2誘電体層の第2誘電体原料は、例えば、酸化ビスマス(Bi)を15重量%〜40重量%および酸化バリウム(BaO)を6.0重量%〜28重量%含んで成り、更に、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化セリウム(CeO)および酸化マンガン(MnO)から成る群から選択される少なくとも1種を0.1重量%〜7重量%の割合で含んでいてよい。更に、第2誘電体原料は、酸化カルシウム(CaO)および酸化ストロンチウム(SrO)から選ばれる少なくとも1種を0.1重量%〜7重量%の割合で含んでいてもよい。
【0070】
第2誘電体原料の組成は、上記以外のものも考えられる。例えば、第2誘電体原料は、酸化亜鉛(ZnO)を0重量%〜40重量%、酸化硼素(B)を0重量%〜35重量%、酸化硅素(SiO)を0重量%〜15重量%、酸化アルミニウム(Al)を0重量%〜10重量%などを含んだ成分(鉛成分を含まない成分)から構成されていてもよい。
【0071】
上述のような第2誘電体原料を、湿式ジェットミルやボールミルで平均粒径が0.5μm〜2.5μmとなるように粉砕して粉末材料を作製する。次いで、この粉末材料55重量%〜70重量%と、バインダ成分30重量%〜45重量%とを三本ロールミルで混練して、ダイコート用あるいは印刷用の第2誘電体原料ペーストを調製する。バインダ成分はエチルセルロースあるいはブチルカルビトールアセテートであってよい。また、原料ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)および/またはアルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加して印刷性を向上させてもよい。
【0072】
調製された第2誘電体原料ペーストは塗布されて熱処理に付される。具体的には、第1誘電体層上にスクリーン印刷法であるいはダイコート法で第2誘電体原料ペーストを印刷して乾燥した後、焼成に付す。これによって最終的に第2誘電体層を得ることができる。
【0073】
ここで、誘電体層全体の膜厚が小さいほどPDP輝度の向上と放電電圧を低減する効果が顕著になるので、誘電体層全体の膜厚は絶縁耐圧が低下しない範囲内であれば、できりだけ小さく設定するのが望ましい。かかる条件と可視光透過率との観点を重視すると、誘電体層全体の膜厚は41μm以下に設定し、その中で第1誘電体層の膜厚を5μm〜15μm、第2誘電体層の膜厚を20μm〜36μmとすることが好ましい。
【0074】
ちなみに、酸化ビスマス(Bi)の含有量を減らすと、軟化点が上昇する不具合があるものの、アルカリ金属などの添加剤を含有することによって、軟化点の上昇を抑制させることが可能である。また、誘電体層のアルカリ金属は、その還元作用によって、バス電極中の銀成分による黄変を発生する可能性がある。しかしながら、バス電極中に添加剤としての金属酸化物が添加されていると、これらの金属酸化物の酸化性によって黄変に対する抑制効果が発揮される。
【0075】
次に「ゾルゲル法」によって、誘電体層を形成する方法について詳述しておく。「ゾルゲル法」の実施に際しては、まず、ガラス成分および有機溶剤などを含んで成るペースト状原料を調製する(以下では、調製された誘電体原料を「誘電体原料ペースト」とも称する)。
【0076】
ガラス成分は、好ましくは、ゾルゲル法の実施過程で有機溶剤と前駆体材料とから得られるペースト状またはゾル状の流動性材料である。特に好ましくは、ガラス成分はシロキサン骨格(−Si−O−)およびアルキル基を有して成るポリシロキサンを含んで成る。シロキサン骨格は、直鎖状であっても、環状であっても、または三次元網目状であってもかまわない。アルキル基の炭素数は1〜6程度であることが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基またはヘキシル基などのアルキル基を挙げることができる(これらアルキル基は単独または2種以上含まれていてよい)。また、アルキル基に必ずしも限定されるわけではなく、それに類する官能基、例えばアルキレン基(メチレン基、エチレン基、プロピレン基またはブチレン基など)等が含まれていてもよい。
【0077】
例えば、ガラス成分は、シリコンアルコキシドなどの前駆体材料と有機溶剤とを混和して、水や触媒などを添加することによって調製できる。より具体的にいえば、シリコンアルコキシド(特に好ましくはアルキル基を含んだシリコンアルコキシド)を有機溶剤に混和し、常温または加温条件化において、攪拌しながら水と触媒とを少量ずつ均等に添加し、加水分解や縮重合させることによって作製できる。
【0078】
ガラス成分の上記前駆体材料は、特に制限はなく、例えばメチルシリケートやエチルシリケートなどのアルキル基を含まない完全無機の前駆体材料であってよいものの、特に好ましくはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジフルオロジメトキシシラン、ジフルオロジエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、他のアルコキシド系有機シリコン化合物(Si(OR))、例えば、テトラターシャリーブトキシシラン(t−Si(OC)、テトラセコンダリーブトキシシランsec−Si(OCまたはテトラターシャリーアミロキシシランSi[OC(CHのようなアルキル基およびそれに類する官能基を含んだ前駆体材料である。これらの前駆体材料は1種類に限定されず、2種類以上の前駆体材料を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
有機溶剤としては、特に制限されるわけではないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2-プロパノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールを含むアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールを含むグリコール類、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンを含むケトン類、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールを含むテルペン類、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、モノアルキルセロソルブ類を単独で用いることができる他、これらの溶剤から選ばれた少なくとも1種類または2種類以上の溶剤から成る混合物も用いることができる。
【0080】
誘電体層のクラックをより効果的に防止すべく、誘電体原料ペーストにシリカ粒子(固形状ガラス成分)を加えてもよい。用いるシリカ粒子の平均粒子サイズ(平均粒子径)は50〜200nmであることが好ましい。粒子サイズを50nm以上にすると、形成される誘電体層内にて粒子間の空隙が大きくなることに起因して応力緩和を図れると共に、比表面積が下がることに起因して粒子表面に均一かつ十分な量のポリシロキサンを介在させることができるので、クラック発生をより効果的に抑制できる。一方、粒子サイズを200nm以下とすると、波長が400〜800nmである可視光の透過率を高めることができ、所望の光学特性を得ることができる。シリカ粒子は必ずしも単一サイズである必要はなく、2種類以上のサイズを含んで成るものであってもよい。2種類以上の粒子サイズを含む場合、得られる誘電体層中のシリカ粒子充填率を上げることが可能となり、クラックの発生をより効果的に防止できる。なお、ここでいう「粒子サイズ」とは、粒子のあらゆる方向における長さのうち最大となる長さを実質的に意味しており、「平均粒子サイズ」とは、粒子の電子顕微鏡写真などに基づいて例えば10個の粒子サイズを測定し、その数平均として算出したものを実質的に意味している。
【0081】
使用するシリカ粒子は結晶性であっても非晶性(アモルファス)であってもよい。また、使用するシリカ粒子は乾燥粉末状のものであってもよく、あるいは、予め水や有機溶剤に分散されたゾル状のものであってもよい。シリカ粒子の表面状態、多孔度などについては特に制限はなく、市販されているシリカ粒子をそのまま用いることも可能である。シリカ粒子の添加は、ゾル状誘電体原料の調製前に添加しても、それを調製した後に添加してもよい。
【0082】
誘電体原料に含まれるシリカ粒子の量は、誘電体層中に残存するシロキサン骨格との比率により決定することが好ましいので、最終的に形成される誘電体層の重量を基準にして規定すると、10〜99重量%程度であり、好ましくは50〜90重量%程度である。
【0083】
誘電体原料ペーストの塗布性を向上させるために、誘電体原料にバインダ樹脂を加えてもよい。加えるバインダ樹脂としては、特に制限はないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、α−メチルスチレン重合体、ブチルメタクリレート樹脂およびセルロース系樹脂などを挙げることができ、これらを単独または2種類以上組み合わせて用いてもよい。誘電体原料ペーストは有機溶剤の気化に起因して高い温度領域(200〜400℃程度)で重量減少を呈することになるが、バインダ樹脂の添加によりペースト材料全体の重量減少の速度を緩和させることもでき、応力集中をより小さくできる。更には、バインダ樹脂は、より高温領域においてシリカ粒子同士の接着力を助力するといった効果も有し得る。
【0084】
上述したような成分から調製される誘電体原料は、好ましくはペースト形態を有している。ここで、誘電体原料ペーストは、室温(25℃)およびずり速度1000[1/s]において1mPa・s〜50Pa・s程度の粘度を有していることが好ましい。このような範囲に粘度を有すると、塗布領域における誘電体原料の濡れ広がりをより効果的に防止できる。
【0085】
誘電体原料の各種成分の割合は、典型的なPDP誘電体層を得る際に用いられる一般的な割合であれば、特に制限はない(より具体的には、いわゆる“ゾルゲル法”を利用して誘電体層を形成する際に一般的に採用される割合であれば特に問題はない)。ただし付言しておけば、本発明の効果をより引き出すためには、誘電体原料の固形分濃度が5重量%〜60重量%であることが好ましく、更に好ましくは15重量%〜35重量%である。ここでいう「固形分濃度」は、誘電体原料の全重量に対するガラス成分重量の割合、または、誘電体原料の全重量に対する「ガラス成分重量+バインダ樹脂重量」の割合を意味している。誘電体層厚さを大きくするにはウェット状態での膜厚を大きくしなければならないが、固形分濃度が5重量%を下回ると多量のペーストを使用することになるので、材料コストが高くなる。一方、固形分濃度が60重量%よりも上回ると、ガラス成分同士(例えばポリアルキルシロキサンオリゴマー同士)の距離が近くなり、凝集を起こしやすくなるために望ましくない。
【0086】
上述の成分を有するように調製された誘電体原料は、表示電極が形成された基板上塗布される。誘電体原料の塗布には、スリットコータ法を用いることが好ましい。「スリットコータ法」とは、巾広のノズルからペースト状原料を圧送吐出して所定の面にペースト状原料を塗布する方法である。また、別法にて、例えばディスペンス法を用いてもよい。ディスペンス法とは、小径ノズルを備えた円筒形容器に誘電体原料ペーストを仕込み、ノズルと反対側の開口部より空気圧を加えて誘電体原料ペーストを吐出する方法である。更に別法にて、スプレー法、印刷法、フォトリソグラフィー法等を用いてもよい。
【0087】
塗布された誘電体原料は、その後、それに含まれている有機溶剤が減じられる。これにより誘電体前駆層が形成される。有機溶剤を減じるには、有機溶剤を気化させる必要がある。従って、塗布された誘電体原料を乾燥に付してもよく、あるいは、塗布された誘電体原料を減圧下または真空下に置いてもよい。乾燥を行う場合では、例えば、塗布された誘電体原料を大気圧下で50〜200℃程度の乾燥温度条件下に0.1〜2時間程度付すことが好ましい。また、減圧下または真空下に置く場合では、減圧度または真空度を有機溶剤の飽和蒸気圧以下に維持することによって有機溶剤を蒸発させる。例えば、例えば7〜0.1Paの減圧下または真空下に付すことが好ましい。必要に応じて「熱処理」と「減圧下または真空下」とを組み合わせてもよい。
【0088】
引き続いて、誘電体前駆層を熱処理に付して、誘電体前駆層から誘電体層を形成する。かかる熱処理では、誘電体前駆層が加熱されることに起因して、誘電体前駆層において縮重合反応が進行して最終的に誘電体層が形成される。誘電体前駆層にバインダ樹脂が含まれている場合では、かかるバインダ樹脂が燃焼して誘電体前駆層から除去される。加熱温度は、縮重合反応に必要とされる熱量の他、前駆層に残存し得る有機溶剤の沸点および含有量などによって決定され得るが、一般的にいえば450〜550℃程度の範囲である。また、かかる加熱温度に付す時間も、縮重合反応に要する熱量、前駆層に残存し得る有機溶剤の沸点や含有量などを総合的に考慮して決定され、誘電体原料の種類によって変わるものであるが、一般的には0.5〜2時間程度である。熱処理手段としては、焼成炉のような加熱チャンバーを用いてよい。
【0089】
尚、形成される誘電体層の表面においては、クラックの発生を抑制する為に、バス電極エッジカールに起因する電極段差が5μm以下、好適には電極段差が0μmとなることが原則望ましい。そのためには「誘電体原料ペーストの高粘度化および高固形分濃度化により塗布後の原料ペーストのレベリングを抑制する方法」または「原料ペースト中の溶媒の高沸点化および乾燥・焼成工程におけるプロセス条件の最適化による溶媒の蒸発速度低下により乾燥時の対流に伴う原料ペースト中の固形分の移動を抑制する方法」などが効果的であるものの、本発明では、上述の“局所的な熱処理”によりエッジカールを除去・低減できるので、上記方法に依らずともクラックの発生を抑制できる。
【0090】
誘電体層(15)の形成に引き続いては、図3(e)に示すように保護層(16)を形成する。例えば、誘電体層上にスパッタ法(スパッタリング法)または蒸着法で保護層を形成する。好ましくは、酸化マグネシウム(MgO)を含んで成る保護層を形成する。保護層の成分は、酸化マグネシウムに制限されるわけではなく、例えば、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムおよび酸化バリウムから成る群から選択される少なくとも1種類以上の成分であってもよい(当然ではあるが、これらの成分と酸化マグネシウムとが共に含まれる保護層も考えられる)。このような成分は、酸化マグネシウムよりも仕事関数が小さく、動作電圧または駆動電圧の低電圧化に寄与し得る。形成される保護層の厚さは、好ましくは約5μm〜約30μm程度であり、より好ましくは約10μm〜約20μm程度である。蒸着法としては、CVDまたはPVDを用いてよく、例えば電子ビーム蒸着法などを用いてよい。尚、スパッタ法または蒸着法に限定されず、所望の保護層を形成できるのであれば、他の手法を用いてもよい。
【0091】
以上、本発明の製造方法の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の態様が考えられる。例えば以下の態様(A)および(B)が考えられる。
【0092】
(A)黒層のガラス材料の軟化点温度が400〜550℃となった態様
黒層/白層の2層構造から成るバス電極の場合、本発明では黒層のガラス材料の軟化点温度が400〜550℃なっている態様が好ましい。黒層は画像表示時にコントラストを向上させる目的として黒色顔料を含んでいるが、この黒色顔料は電極焼成時にガラス基板側へと沈降するようにしてガラス基板側のコントラストを確保している。黒層のガラス材料の軟化点温度を低くすると、焼成時のガラスの粘度が低下して黒色顔料が沈降しやすくなる。それゆえ、黒層のガラス材料の軟化点温度が低いと、『色を数値化して表現するためにCIE(国際照明委員会)が1976年に定めたL*値(L*a*b*表色系)』を低くすることができ、画像表示時のコントラストを向上させることができる。このことを狙い。本発明では、好ましくは黒層のガラス材料の軟化点温度を低く550℃以下とする。一方、後の製造工程においても電極形状が維持されるように、かかる軟化点温度は400℃以上とすることが好ましい。
【0093】
(B)添加剤が予め混入されたバス電極ガラス材料を用いる態様
バス電極原料ペーストに添加される金属酸化物の作用についていうと、ペースト中においては、金属酸化物はペースト中の有機バインダの燃焼を促進する。すなわち酸化物としての効果を発現する。ペースト中の酸化ビスマス(Bi)なども酸化剤として作用するが、その酸化作用の程度が低い。そこで、添加剤としてモリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、セリウム(Ce)、錫(Sn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)のうちの少なくとも1種の酸化物を混入させてもよい。これにより、バス電極の焼成工程において有機バインダの燃焼が促進され、その結果として、誘電体層への気泡発生を効果的に抑制することができる。ここで、これらの添加剤を直接ペースト原料中に混合させると、添加剤の存在量がペースト全体に対してあまりに低いため、ペースト内あるいは電極層内に点在することになる。このため、添加剤による有機バインダを燃焼させる効果が発現するところと、発現しないところが分布することになり、気泡発生の抑制が不十分となり得る。それゆえ、本発明では、ペーストを形成するガラス材料として、これらの添加剤があらかじめ混合されたガラス材料を用いてよい。これにより、ペーストとして塗布し溶融した後の電極内にはこれらの添加剤が均一に分散することになり、気泡発生を抑制する効果を電極全体にわたって均一に発現させることが可能となる。つまり、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、セリウム(Ce)、錫(Sn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)のうちの少なくとも1種の酸化物が、焼成工程においてバス電極内の有機成分を燃焼促進させる触媒作用を効果的に発現することができ、その結果、その後の誘電体層の形成工程において、誘電体層内に気泡が発生するのを抑制できるので、放電不良などの気泡起因の不良を低減してPDP製造歩留まりの向上を効果的に図ることができる。「添加剤があらかじめ混合されたガラス材料」の具体的な作成方法を例示すると次のようになる。酸化ビスマス(Bi)を15重量%〜40重量%、酸化珪素(SiO)を3重量%〜20重量%、酸化硼素(B)を10重量%〜45重量%含む主たる材料粉末である第1材料粉末と、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、セリウム(Ce)、錫(Sn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)のうち少なくとも1種の酸化物を含む第2材料粉末とを材料粉末混合ステップによって混合する。このとき、第2材料粉末が0.1重量%〜5重量%となるように秤量して混合分散することが好ましい。次いで、これらの混合された材料粉末を、約1000℃〜1600℃の温度で溶融させて溶融ガラスを作製する溶融ガラス化ステップを経た後で冷却固化させることによってガラス材料を得る。このガラス材料を、湿式ジェットミルやボールミルによって平均粒径が0.5μm〜2.5μmとなるように粉砕することによって「添加剤があらかじめ混合されたガラス粉末材料」を得ることができる。
【0094】
本発明のプラズマディスプレイパネル
次に、本発明のプラズマディスプレイパネルについて説明する。かかるプラズマディスプレイパネルは、上述した製造方法によって得られるものである。つまり、本発明のプラズマディスプレイパネルは、基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、基板上に電極と誘電体層と隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルであって、
前面板の電極が透明電極とバス電極とから構成されており、バス電極が、導電性粒子を溶融固化することで得られた溶融固化部を少なくとも有して成ることを特徴としている。
【0095】
本発明のプラズマディスプレイパネルのバス電極は、その表面に対して局所的な熱処理を施すことを通じて形成されたものである。それゆえ、かかるバス電極には「導電性粒子が溶融固化して成る溶融固化部」が含まれている。好ましくは溶融固化部はバス電極の表面領域に形成されている。これは、バス電極が黒層/白層の2層構造から成る場合、バス電極の主に白層において溶融固化部が形成されていることを意味している。
【0096】
尚、かかる溶融固化部においては、導電性粒子が一旦溶融しているので、導電性粒子同士の接触率が高くなっていると解すことができる。従って、本発明のプラズマディスプレイパネルでは、バス電極表面側における導電性粒子同士の接触率がバス電極下方側よりも高くなっている(ある別の表現を用いれば、溶融固化部では、導電性粒子同士が“点接触”ではなく“面接触”している)。
【0097】
本発明のプラズマディスプレイパネルでは、図4に示すように、“導電性粒子に起因した溶融固化部”の厚みが、好ましくはバス電極表面から0.2t〜0.7tまでの厚さを有している。溶融固化部がかかる態様を有しているからこそ、消費電力の低いPDPの実現が達成される。つまり、本発明のプラズマディスプレイパネルでは、特に放電に寄与するバス電極表面にて低抵抗が呈されるので、その表面において電流が多く流れ、放電しやすくなり、結果、低消費電力PDPが実現される。「局所的な熱処理」を行わない場合(即ち、局所的熱処理を施されていない従前のバス電極[厚さ条件は同一である])と比較すると、バス電極抵抗値は約5%〜約50%低減、好ましくは約10%〜約40%低減、更に好ましくは約15%〜約30%低減している。
【0098】
ちなみに、上述の本発明の製造方法が上記(A)の態様を有する場合、バス電極の黒層が、軟化温度400℃〜550℃のガラス材料を含んで成る。かかる場合、本発明のプラズマディスプレイパネルでは画像表示時のコントラストが向上し得る。
【0099】
その他、本発明のプラズマディスプレイパネルは種々の特徴を有しているが、これについては上記[本発明の製造方法]で言及しているので、重複を避けるため説明を省略する。
【実施例】
【0100】
以下にて本発明に関連する実施例を説明する。かかる本実施例では“白層”のことを便宜上“金属電極層”と称して説明する。なお、本実施例により、本発明の範囲が限定されるものではないことを留意されたい。
【0101】
(バス電極の黒層を形成するためのペースト材料)
黒色無機微粒子(ペースト材料全体の32.6質量部)
粒子径200nm〜300nm、比表面積4〜16m/gの範囲内にある四三酸化コバルト(Co
ガラスフリット(ペースト材料全体の16.3質量部)
酸化ビスマス(Bi)、酸化ホウ素(B)および酸化ケイ素(SiO)を主成分とする組成のもの
感光性樹脂および有機バインダを含む樹脂成分(ペースト材料全体の30質量部)
エチレン性不飽和二重結合を有するカルボキシル基含有感光性樹脂(不飽和カルボン酸と不飽和二重結合を有する化合物の共重合体にエチレン性不飽和基をペンダントとして付加させることによって得られるカルボキシル基含有感光性樹脂)
重合開始剤(ペースト材料全体の0.6質量部)
2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モノフォリノフェニル)ブタン
モノマー(ペースト材料全体の10.5質量部)
ペンタエリスリトールアクリレート
溶剤(ペースト材料全体の10.0質量部)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
【0102】
(バス電極の金属電極層を形成するためのペースト材料)
導電性粒子(ペースト材料全体の49.8質量部)
粒子径200nm〜1μmの銀粒子
ガラスフリット(ペースト材料全体の24.9質量部)
黒層ペースト材料と同様
感光性樹脂および有機バインダを含む樹脂成分(ペースト材料全体の15.0質量部)
黒色ペースト材料と同様
重合開始剤(ペースト材料全体の0.3質量部)
黒色ペースト材料と同様
モノマー(ペースト材料全体の0.01質量部)
黒層ペースト材料と同様
溶剤(ペースト材料全体の10.0質量部)
黒層ペースト材料と同様
【0103】
(前面板の作製)
まず、1.8mm厚のガラス基板(日本電気硝子製のソーダライムガラス)の表面に、ITOから成る透明電極(透明電極幅:約120μm、膜厚:約100nm)を形成した。次いで、かかる透明電極上にバス電極の黒層ペースト材料をスリットコータ法により塗布して約80℃で乾燥させ、引き続いて、金属電極層ペースト材料をスリットコータ法により塗布して約80℃で乾燥させることによってバス電極の前駆体膜を形成した。そして、電極前駆体膜に対して露光・現像を実施し、約30℃/分レートにて約30分掛けて昇温500℃にて約20分間維持、約2℃/分で約5時間掛けて降温するプロファイルにて大気焼成を行うことによって、電極幅が約80〜100μm、電極間距離が約80〜100μm、膜厚が10〜12μmのバス電極を形成した(図5(a)を参照)。図5(a)は、そのバス電極の長手方向に垂直にガラス基板を割断し、その断面を走査型電子顕微鏡で観察したものである。写真の上方がバス電極の表面であり、断面の全域において、銀の粒子同士の接触は“局部的”であることが分かる。ちなみに、写真において黒色で観察される箇所がガラスフリットの溶融凝固部に相当する。
【0104】
その後、エアロプラズマ社製のPTA装置を用いて、ノズルと誘電体層間のギャップ20mm、トリミング無、N冷却無、アノードトーチパワー43kw、スキャン速度500mm/sの条件で焼成後の電極表面近傍の導電性粒子を溶融凝固させ、厚みが約6.7μmの溶融固化部を形成した(図5(b)を参照)。図5(b)は、図5(a)と同様、そのバス電極の長手方向に垂直にガラス基板を割断し、その断面を走査型電子顕微鏡で観察したものである。写真の上方がバス電極の表面であり、バス電極の表面側の銀粒子が溶融凝固し、銀の粒子同士が溶け合い、銀の粒子同士の接触が“全面的”になっていることが分かる。
【0105】
次に、デジタルマルチメータ(Sanwa社製、型式EM−3000)を用いて、PTA処理前と処理後のバス電極の1cmの長さの抵抗値を測定した。その結果、以下の表1に示すように、PTA処理後のバス電極の方がPTA処理前のバス電極の抵抗値よりも約20%下がっていることが分かった。これは、第2電極層表面の銀粒子同士が溶融凝固することにより“銀成分の面接触”がもたらされ、導電性が向上したことが主要因と考えられる。
【表1】

【0106】
さらに、接触式段差計(KLAテンコール社製、型式SURFACE PRO FILER P−10)を用いて、PTA処理後のバス電極の電極形状を測定した。結果を図6に示す。図6ではバス電極3本の形状が示されており、縦軸は高さ、横軸はバス電極の長手方向に垂直に走査した位置である。図6に示す結果から分かるように、PTA処理後のバス電極はエッジカールが消滅していることが理解できるであろう。
【0107】
(まとめ)
以上の結果を踏まえると、次の事項を導くことができる:

・バス電極表面に対してPTA処理が施されることによって、バス電極の表面側領域に含まれていた導電性粒子が溶融凝固する。これにより、バス電極の表面側領域の抵抗値が下層側よりも低下し、電流が流れやすくなるので、放電しやすくなり、消費電力の低いPDPが実現される。

・PTA処理によって表示電極の“エッジカール”を無くすことができる。これにより、特にゾルゲル法で誘電体層を形成した場合においても、高い絶縁耐圧を有するPDPが実現される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の製造方法によって得られるPDPは、低消費電力であることはもちろんのこと、高い絶縁耐圧を有し得るものであるので、一般家庭向けテレビジョンおよび商業用のディスプレイとして好適に用いることができる他、その他の表示デバイスにも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0109】
1 前面板
2 背面板
10 前面板側の基板
11 前面板側の電極(表示電極)
12 走査電極
12a 透明電極
12b バス電極
12b’ 黒層
12b’’白層
13 維持電極
13a 透明電極
13b バス電極
13b’ 黒層
13b’’白層
14 ブラックストライプ(遮光層)
15 前面板側の誘電体層
16 保護層
20 背面板側の基板
21 背面板側の電極(アドレス電極)
22 背面板側の誘電体層
23 隔壁
25 蛍光体層
30 放電空間
32 放電セル
60 局所的熱処理手段
100 PDP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、基板上に電極と誘電体層と隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルであって、
前面板の電極が透明電極とバス電極とから構成されており、バス電極が、導電性粒子を溶融固化することで得られた溶融固化部を有して成ることを特徴とする、プラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記溶融固化部がバス電極の表面領域に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
バス電極の全体厚さをtとすると、前記溶融固化部が、バス電極表面から0.2t〜0.7tまでの厚さを有していることを特徴とする、請求項2に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記バス電極が、透明電極と接するように形成された黒層と該黒層の上に形成された白層とから成る2層構造を有しており、
黒層が、軟化温度400℃〜550℃のガラス材料を含んで成ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板を有して成るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記電極が透明電極とバス電極とから構成されており、バス電極の形成が、
(i)導電性粒子を含んで成るバス電極原料を調製する工程、
(ii)基板上に形成された透明電極に対してバス電極原料を供する工程、
(iii)バス電極原料を熱処理に付してバス電極を形成する工程、および
(iv)前記形成されたバス電極の表面に対して局所的な熱処理を施し、バス電極に含まれる導電性粒子の少なくとも一部を溶融させる工程
を含んで成ることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
バス電極の全体の厚さをtとすると、前記工程(iv)では、バス電極表面から0.2t〜0.7tまでの内部領域に存在する導電性粒子を溶融させることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
局所的な熱処理を行う手段として、プラズマトーチ、レーザーまたはフラッシュランプを用いることを特徴とする、請求項5または6に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−165617(P2011−165617A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30294(P2010−30294)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】