説明

プラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】本発明は、インクジェット塗布方法を用いて、蛍光体ペースト塗布時の混色の検査工程を簡素化して生産性の高いプラズマディスプレイパネルの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】前面板と隔壁109により複数の凹部が形成された背面板とを対向配置し、凹部にはそれぞれ赤色、緑色、青色に発光する蛍光体層を備えたプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、蛍光体層は凹部に蛍光体粉末、バインダー樹脂、有機溶剤を含有する蛍光体ペーストをインクジェット塗布法により充填するインクジェット塗布ステップを備え、少なくとも2色の蛍光体層を形成する蛍光体ペーストが、有機染料を含有するとともに、25℃、せん断速度200s−1における粘度が1PaPa・s〜15Pa・sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば、テレビなどの画像表示に用いられるプラズマディスプレイパネルの製造方法に関し、特に、紫外線により励起されて発光する蛍光体層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと呼ぶ)を用いたプラズマディスプレイ装置は、高精細化、大画面化の実現が可能であることから、50インチクラスから100インチを越えるクラスのフルスペックのハイビジョンテレビや大型公衆表示装置などの製品化が進んでいる。
【0003】
PDPは前面板と背面板とで構成されている。前面板は、フロート法による硼硅酸ナトリウム系ガラスのガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極と金属バス電極とで構成される表示電極と、この表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、この誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層とで構成されている。一方、背面板は、排気及び放電ガス封入(導入ともいう)用の細孔を設けたガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状のアドレス電極(データ電極ともいう)と、アドレス電極を覆う下地誘電体層と、下地誘電体層上に形成された隔壁と、各隔壁間に形成された赤色、緑色及び青色それぞれに発光する蛍光体粒子からなる蛍光体層とで構成されている。
【0004】
前面板と背面板とは、その電極形成面側を対向させてその周囲を封着材によって封着し、隔壁で仕切られた放電空間にネオン(Ne)−キセノン(Xe)の混合ガスが放電ガスとして53KPa〜80KPaの圧力で封入されている。
【0005】
PDPは、表示電極に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電ガスを放電させ、その放電によって発生した紫外線が各色蛍光体層を励起して赤色、緑色、青色の発光をさせてカラー画像表示を実現している。
【0006】
PDPは、いわゆる3原色(赤、緑、青)を加法混色することにより、フルカラー表示を行っている。このフルカラー表示を行なうために、PDPには3原色である赤色、緑色、青色の各色を発光する蛍光体層を備えている。各色の蛍光体層は各色の蛍光体粒子が積層されて構成され、赤色蛍光体粒子としては(Y、Gd)BO:Euあるいは、(Y、Gd)VO:Eu、緑色蛍光体粒子としてはZnSiO:Mnや(Y、Gd)BO:Tb、青色蛍光体粒子としてはBaMgAl1017:Euが知られている。
【0007】
これらの蛍光体層を高画質で歩留り良く、しかも安価に形成する方法の検討が行なわれている。例えば、複数のノズル孔が穿設されたノズルヘッドから、同一の基板上に複数の蛍光体ペーストパターンを形成するインクジェット塗布装置が、特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0008】
また、白色の隔壁が形成された基板上に蛍光体層をスクリーン印刷法で形成する場合に、塗布ムラなどの検査が容易な着色蛍光体ペーストを提供する例が特許文献3に開示されている。さらに、感光性蛍光体ペーストを使用して、フォトリソグラフィー法を用いて高精度に蛍光体層を形成する形成する方法が特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−329256号公報
【特許文献2】特開平11−096911号公報
【特許文献3】特開2000−104052号公報
【特許文献4】特開2000−75473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に開示するインクジェット塗布方法による蛍光体層の形成方法では、低粘度の蛍光体ペーストを複数の細いノズルから圧力をかけて吐出させている。そのため、ノズルからの吐出時に蛍光体ペーストが飛散しやすく、隣接セルへの混色を起こしやすくなる。しかしながら、これらの蛍光体は全ての蛍光体が可視光下において白色であるため、混色の検査を紫外線照射ランプなど用いて別工程で行なう必要があり、生産性を低下させる。
【0011】
一方、特許文献3が開示する着色蛍光体ペーストを用いたスクリーン印刷法は、高粘度の蛍光体ペーストを用いるために、混色は発生しにくいが高精細度の画面への対応が容易でないといった課題や、生産性が悪いと言った課題を有していた。
【0012】
また、特許文献4が開示するフォトリソグラフィー法による蛍光体層の形成方法では、スクリーン印刷法と同様に高粘度の感光性蛍光体ペーストを使用しており、高精度なフォトマスクを用いている。そのため、蛍光体層の混色は起こりにくいが、製造工程で高価なフォトマスクを使用しなければならないと言う課題があった。
【0013】
本発明は、インクジェット塗布方法を用いて、3色の蛍光体層の区別を容易にするとともに、蛍光体ペースト塗布時の混色の検査工程を簡素化して生産性の高いPDPの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のPDPの製造方法は、前面板と隔壁により複数の凹部が形成された背面板とを対向配置し、凹部にはそれぞれ赤色、緑色、青色に発光する蛍光体層を備えたPDPの製造方法であって、蛍光体層は凹部に蛍光体粉末、バインダー樹脂、有機溶剤を含有する蛍光体ペーストをインクジェット塗布法により充填するインクジェット塗布ステップを備え、少なくとも2色の蛍光体層を形成する蛍光体ペーストが、有機染料を含有するとともに、25℃、せん断速度200s−1における粘度が1PaPa・s〜15Pa・sである。
【0015】
このような方法によれば、生産性の高いインクジェット塗布法で蛍光体層を形成する際に、各色での混色を防止し、さらに、蛍光体層の混色検査を目視で容易に行い、検査工程の簡素化を図ることができる。
【0016】
さらに、各色の蛍光体ペーストに含有させる有機染料の種類がそれぞれ異なることが望ましい。このような方法によれば、各蛍光体層の混色検査を目視で確実に行なうことができる。
【0017】
さらに、各色の蛍光体ペーストに含有させる有機染料の種類が同一で、その含有量が異なることが望ましい。このような方法によれば、各蛍光体層の混色検査を目視で確実に行なうことができる。
【0018】
さらに、有機染料は、200℃以下での乾燥条件下で前記蛍光体ペースト中に残存し、500℃以下の焼成条件下で焼失することが望ましい。このような方法によれば、混色の目視検査を確実に行いながら、蛍光体の発光特性には影響を与えることがない。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、3色の蛍光体層の区別を容易にし、蛍光体塗布時の混色の確認を可能にすることで、安価にPDPを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態におけるPDPの概略構成を示す部分断面斜視図である。
【図2】同PDPの電極配列を示す図である。
【図3】同PDPを用いたプラズマディスプレイ装置の構成を示す概略図である。
【図4】実施の形態における蛍光体層を形成する際に用いるインクジェット塗布装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について図面を用いて説明する。
【0022】
(実施の形態)
(1.蛍光体ペーストの説明)
本実施の形態における蛍光体ペーストは、蛍光体粉末、バインダー樹脂、有機溶剤、有機染料などから構成される。有機染料としては、蛍光体ペーストに添加して着色させ、さらに、200℃以下での乾燥条件下でも蛍光体ペースト中に残存して着色状態が維持される。したがって、PDP製造工程において蛍光体ペーストを塗布、乾燥後に、赤色蛍光体層、緑色蛍光体層、青色蛍光体層の区分が容易になれば良く、有機染料としては特に限定されない。
【0023】
ただし、通常500℃以下で行なわれる蛍光体の焼成工程後には蛍光体層中に蛍光体粉末以外の成分が残存すると、PDPの放電状態の悪化や輝度低下を招くことから、500℃以下での焼成工程を経た後には残存しないものが好ましい。
【0024】
本発明の蛍光体ペーストでは、赤色蛍光体ペーストには赤色染料、緑色蛍光体ペーストには緑色染料、青色蛍光体ペーストには青色染料を入れると区別しやすい。しかしながら、各色蛍光体ペーストの区別がつけば良く、各色蛍光体ペーストと染料の色が対応しなくても良い。
【0025】
したがって、3色の蛍光体ペーストに同一の染料を用い、その含有量を変えることで各色蛍光体ペーストの区別をつけても良い。また、各色蛍光体ペーストのうち、2色に着色の異なる染料を用い、残りの1色には染料を含有させなくても良い。また、各色蛍光体ペーストのうち、2色に同一の染料で含有量を変え、残りの1色には染料を含有させなくても良い。
【0026】
また、本実施の形態における蛍光体ペーストの粘度は、25℃で、せん断速度200s−1の時の粘度が1Pa・s〜15Pa・sの範囲であることが好ましい。1Pa・s以下では、蛍光体ペーストの粘度が低く、ノズルから吐出された蛍光体ペーストの液滴が飛散しやすく混色を起こすため好ましくない。また、15Pa・s以上では、蛍光体ペーストの粘度が高くノズルから吐出量が少なくなり、高速で蛍光体層を形成できなくなるためである。
【0027】
本実施の形態で用いられる蛍光体粉末としては、例えば、赤色では、Y:Eu、Y(P,V)O:Eu、(Y,Gd)BO:Euなどが挙げられる。また、緑色では、BaAl1219:Mn、ZnSiO:Mn、LaPO:Tb、YAl12:Ce、(Y,Gd)BO:Tb、(Y,Gd)Al(BO:Tbなどが挙げられる。さらに、青色では、BaMgAl1017:Euなどが挙げられる。
【0028】
また、バインダー樹脂としては、例えば、エチルセルロースなどが挙げられ、有機溶剤としては、例えば、アセトン、ブチルアルコール、テルピネオール、ベンジルアルコールなどやこれらのうちの1種以上を含有する有機溶媒混合物が用いられる。これらの有機溶剤は、用いるバインダー樹脂に対して良溶媒であることが好ましい。
【0029】
本発明の蛍光体ペーストは、各種成分を所定の組成となるように調合した後、ローラーミルなどの混練手段によって均質に作製する。蛍光体ペーストの粘度は、主に有機溶剤の量を調整して、0.2Pa・s〜15Pa・sに調整する。
【0030】
以下、本発明の蛍光体ペーストを用いたPDPの製造方法について図面を用いて説明する。
【0031】
(2.PDPの構成)
図1は、実施の形態におけるPDP100の概略構成を示す部分断面斜視図である。図2はPDP100の電極配列を示す図である。PDP100は、前面板130と背面板140とで構成されている。
【0032】
まず、前面板130につい手説明する。前面板130は、前面ガラス基板101と維持電極103と走査電極104と誘電体層105とMgO保護層106を備えている。ここで、「前面」とは、PDP100により作成される画像を視聴者が視認する視聴者側の面を意味し、「背面」とは、「前面」の反対側の面を意味する。
【0033】
前面ガラス基板101は、可視光を透過する透明基板である。前面ガラス基板101は、ガラス材料からなり、例えば硼硅酸ナトリウム系ガラスなどが用いられる。前面ガラス基板101は、フロート法などを用いて製造される。
【0034】
維持電極103及び走査電極104は、それぞれN本が互いに平行に対をなして配置されている。それぞれN本の維持電極103と走査電極104が、維持電極103、走査電極104、維持電極103、走査電極104となるよう交互に配置されている。
【0035】
維持電極103及び走査電極104は、放電空間122に、放電に必要な電力を供給する。維持電極103及び走査電極104は、蛍光体層110から放出される光を妨げないように、透明電極で形成されてもよい。また、維持電極103と走査電極104は、電気抵抗の低減を目的としてバス電極(図示せず)を備えても良い。バス電極の材料は、電気抵抗が小さい金属が好ましい。
【0036】
誘電体層105は、維持電極103と走査電極104を覆って形成されている。誘電体層105は、コンデンサとして働き、放電で生じた電荷を蓄積するメモリー機能を有している。誘電体層105は、高電圧が印加されても絶縁破壊しないよう耐圧性に優れているものが好ましい。また、放電による発光を妨げないように可視域において高い透過性を備えているものが好ましい。誘電体層105に用いる材料としては、低融点ガラス粉末を、有機溶剤や樹脂に混ぜたものを用いることができる。
【0037】
MgO保護層106は、前面板130における背面板140と対向する面の最表面に、誘電体層105を覆うように形成される。MgO保護層106は、耐衝撃性、電子放出特性、メモリー機能を備える。MgO保護層106は、耐衝撃性を備えることにより、放電による衝撃から誘電体層105を保護することができる。また、MgO保護層106は、電子放出特性を備えることにより、二次電子が放出されるため放電を維持しやすくなる。また、MgO保護層106は、メモリー機能を備えることで、電荷を蓄積することができる。MgO保護層106は、主にスパッタリングや電子ビーム蒸着法で、薄膜に形成される。
【0038】
次に背面板140について説明する。背面板140は、背面ガラス基板102とアドレス電極107と下地誘電体層108と隔壁109と赤色蛍光体層110R、緑色蛍光体層110G、青色蛍光体層110Bを備えている。
【0039】
背面ガラス基板102は、前面ガラス基板101と所定の間隔を空けて対向して配置されている。前面ガラス基板101と背面ガラス基板102との空間を、隔壁109により仕切ることで、複数の放電空間122は形成される。背面ガラス基板102は、前面ガラス基板101と同様にガラス材料を用いて製造されるが、必ずしも透光性は必要ではない。
【0040】
アドレス電極107は、維持電極103と走査電極104との間の維持放電をさらに容易にするためのアドレス放電を起こすためのものである。具体的には、維持放電が起こるための電圧を低める機能を有している。アドレス放電は、走査電極104とアドレス電極107との間に起こる放電である。
【0041】
アドレス電極107は、背面ガラス基板102の前面側に形成されている。アドレス電極107は、M本が平行に配置されている。前面ガラス基板101と背面ガラス基板102を張り合わせる際、アドレス電極107は、維持電極103及び走査電極104と直交するように配置される。このように配置することで、維持電極103と走査電極104とアドレス電極107は3電極構造の電極マトリックス構造となる。アドレス電極107に用いる材料としては、電気抵抗が低い金属材料が好ましく、特に銀が好ましい。
【0042】
下地誘電体層108は、アドレス電極107を覆うように形成されている。下地誘電体層108は、アドレス電極107の電流制御、絶縁破壊からの保護という機能を備えている。下地誘電体層108には、前面板130における誘電体層105と同様の材料を用いることができる。
【0043】
隔壁109は、下地誘電体層108の前面側に形成されている。隔壁109は、前面ガラス基板101と背面ガラス基板102との間の空間を仕切ることで、複数の放電空間122を形成する。放電空間122には、ネオン(Ne)−キセノン(Xe)などの混合ガスが放電ガスとして封入されている。
【0044】
隔壁109は、サンドブラスト法、印刷法、フォトエッチング法などにより形成することができる。また、隔壁109には、低融点ガラスや骨材などを含んだ材料を用いることができる。
【0045】
隔壁109は、PDP100の前面側から見たとき、格子状となるよう形成されている。しかし、隔壁109の形状は、複数の放電空間122を形成できる形状であればよく、格子状に限定されるものではない。例えば、ストライプ状や、規則的に蛇行したミアンダ状であってもよい。また、放電空間122の形状も方形に限定されるものではない。例えば、三角形や五角形などの多角形や、円形や楕円形であってもよい。つまり、背面板140の前面側に複数の凹部が設けられていればよい。
【0046】
蛍光体層110は、色の3原色である赤色、緑色、青色のそれぞれの色を発光する赤色蛍光体層110R、緑色蛍光体層110G、青色蛍光体層110Bからなる。
【0047】
隔壁109により形成された複数の凹部の内側には、蛍光体層110として、それぞれ赤色蛍光体、緑色蛍光体、青色蛍光体が所定の厚さに形成されている。蛍光体は、紫外線を受けて可視光を放出する機能を有していればよく、一般的に知られる蛍光体材料を用いることができる。赤色蛍光体層110Rには、赤色では、Y:Eu、Y(P,V)O:Eu、(Y,Gd)BO:Euなどが挙げられる。また、緑色蛍光体層110Gには、BaAl1219:Mn、ZnSiO:Mn、LaPO:Tb、YAl12:Ce、(Y,Gd)BO:Tb、(Y,Gd)Al(BO:Tbなどが挙げられる。さらに、青色蛍光体層110Bでは、BaMgAl1017:Euなどが挙げられる。
【0048】
(3.PDPの製造方法)
次に、PDP100の製造方法について、図1と図2を参照しながら説明する。
【0049】
まず、前面板130の製造方法について説明する。前面ガラス基板101上に、各N本の維持電極103と走査電極104をストライプ状に形成する。その後、維持電極103と走査電極104を誘電体層105でコートする。さらに誘電体層105上にMgO保護層106を形成する。
【0050】
維持電極103と走査電極104は、銀を主成分とする電極用の銀ペーストをスクリーン印刷により塗布した後、焼成することによって形成される。誘電体層105は、酸化ビスマス系のガラス材料を含むペーストをスクリーン印刷で塗布した後、焼成して形成する。酸化ビスマス系のガラス材料を含むペーストは、例えば、30重量%の酸化ビスマス(Bi)と28重量%の酸化亜鉛(ZnO)と23重量%の酸化硼素(B)と2.4重量%の酸化硅素(SiO)と2.6重量%の酸化アルミニウムを含む。さらに、10重量%の酸化カルシウム(CaO)と4重量%の酸化タングステン(WO)と有機バインダー(α−ターピネオールに10%のエチルセルロースを溶解したもの)とを混合して、このペーストを形成する。ここで、有機バインダーとは、樹脂を有機溶媒に溶解したものであり、樹脂としてエチルセルロース以外にアクリル樹脂、有機溶媒としてブチルカービトールなども使用することができる。さらに、こうした有機バインダーに分散剤(例えば、グリセルトリオレエート)を混入させてもよい。
【0051】
誘電体層105は、所定の厚み(約40μm)となるように塗布厚みを調整し形成される。MgO保護層106は、酸化マグネシウム(MgO)から成るものであり、例えばスパッタリング法やイオンプレーティング法によって所定の厚み(約0.5μm)となるように形成される。
【0052】
次に、背面板140の製造方法を説明する。背面ガラス基板102上に、電極用の銀ペーストをスクリーン印刷し、焼成することによってM本のアドレス電極107をストライプ状に形成する。アドレス電極107の上に酸化ビスマス系のガラス材料を含むペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、焼成して下地誘電体層108を形成する。同じく酸化ビスマス系のガラス材料を含むペーストをスクリーン印刷法により所定のピッチで繰り返し塗布した後に焼成することで、隔壁109は形成される。放電空間122は、この隔壁109によって区画され形成される。隔壁109の間隔寸法は、42インチ〜50インチのフルHDテレビやHDテレビに合わせて120μm〜360μm程度に規定されている。
【0053】
隣接する2本の隔壁109の間の溝に、それぞれ赤色蛍光体層110R、緑色蛍光体層110G、青色蛍光体層110Bを形成する。
【0054】
このようにして作製された前面板130と背面板140を、前面板130の走査電極104と背面板140のアドレス電極107とが直交するように対向して重ね合わせる。封着用ガラスを前面板130と背面板140の周縁部に塗布し、450℃程度で10分〜20分間焼成する。図2に示すように、封着用ガラスは、気密シール層121となり、前面板130と背面板140とを封着する。そして、一旦、放電空間122内を高真空に排気したのち、放電ガス(例えば、ヘリウム−キセノン系、ネオン−キセノン系の不活性ガス)を所定の圧力で封入することによってPDP100が完成する。
【0055】
図3は、PDP100を用いたプラズマディスプレイ装置170の構成を示す概略図である。PDP100は駆動装置150と接続されることでプラズマディスプレイ装置170を構成している。PDP100には表示ドライバ回路153、表示スキャンドライバ回路154、アドレスドライバ回路155が接続されている。コントローラ152はこれらの電圧印加を制御する。点灯させる放電空間122に対応する走査電極104とアドレス電極107へ所定電圧を印加することでアドレス放電を行なう。コントローラ152はこの電圧印加を制御する。その後、維持電極103と走査電極104との間にパルス電圧を印加して維持放電を行なう。この維持放電によって、アドレス放電が行なわれた放電セルにおいて紫外線が発生する。この紫外線で励起された蛍光体層110が発光することで放電セルが点灯する。各色セルの点灯、非点灯の組み合わせによって画像が表示される。
【0056】
(4.インクジェット塗布法による蛍光体層の形成について)
次に、PDP100の蛍光体層110の製造方法の詳細について、図4を用いて説明する。図4は、本実施の形態の蛍光体層110を形成する際に用いるインクジェット塗布装置200の概略構成図である。図4に示すように、インクジェット塗布装置200において、サーバ210には蛍光体ペーストが貯えられており、加圧ポンプ220は、この蛍光体ペーストを加圧してヘッダ230に供給する。ヘッダ230には、蛍光体ペースト室230a及びノズル240が設けられており、加圧されて蛍光体ペースト室230aに供給された蛍光体ペーストは、ノズル240から連続的に噴射されるようになっている。このヘッダ230は、金属材料を機械加工並びに放電加工することによって、蛍光体ペースト室230aやノズル240の部分も含めて一体成形されたものである。
【0057】
本実施の形態における蛍光体ペーストが特徴的なのは、蛍光体粉末、バインダー樹脂、有機溶剤に加え、有機染料を含んでいることである。蛍光体粉末や樹脂材料、有機溶媒は前述したのと同様である。
【0058】
有機染料は、特に着色について限定するものではないが、ソルベントレッド、ソルベントグリーン、ソルベントブルーなどの蛍光体の色に応じた有機染料を用いるのが好ましい。
【0059】
蛍光体ペーストは、各種成分を所定の組成となるように調合した後、ローラーミルなどの混練手段によって均質に作製し、蛍光体ペーストの粘度として、25℃、せん断速度200s−1の時の粘度が、1Pa・s〜15Pa・sの範囲となるように調整している。
【0060】
図4のノズル240の口径は、ノズル240の目詰まりを防止するために45μm以上で、隔壁109間の溝幅Wよりも小さく、通常は45μm〜150μm範囲に設定することが望ましい。なお、サーバ210内では、蛍光体ペースト中の粒子(蛍光体粒子など)が沈殿しないように、サーバ210内に取り付けられた撹拌機(不図示)で蛍光体ペーストが混合撹拌されながら貯蔵されている。
【0061】
加圧ポンプ220の加圧力は、ノズル240から噴射される蛍光体ペーストの流れが連続流となるように調整する。ヘッダ230は、背面ガラス基板102上を走査されるようになっている。このヘッダ230の走査は、ヘッダ230を直線駆動するヘッダ走査機構(不図示)によってなされるが、ヘッダ230を固定して背面ガラス基板102を直線駆動してもよい。
【0062】
ヘッダ230を走査しながら、ノズル240から蛍光体ペーストを連続的なインク流250を形成するように噴射することによって、背面ガラス基板102上に蛍光体ペーストがライン状に均一に塗布される。なお、インクジェット塗布装置200において、ヘッダ230に複数のノズル240(フルHDパネルを作成する場合は、1920本のノズル)を設置し、各ノズル240から並行してインク流250を噴射しながら走査するような構成とするもできる。このように複数のノズル240を設ければ、1回の操作で複数の蛍光体ペーストラインを塗布することができる。
【0063】
このようにして、インクジェット塗布装置200を用いて、背面ガラス基板102上の隔壁109に沿って、赤色蛍光体層110Rの赤色蛍光体ペースト、緑色蛍光体層110Gの緑色蛍光体ペースト、青色蛍光体層110Bの青色蛍光体ペーストの塗布充填を各色毎に行なう。その後、塗布充填した蛍光体ペーストを100℃から200℃程度の乾燥条件下で乾燥して、蛍光体ペースト中の有機溶剤成分を揮発させる。さらに、その後、400℃から500℃程度の焼成条件下で蛍光体ペースト中の蛍光体粉末以外の成分を燃焼させて蛍光体層110が形成される。このように、蛍光体層110は、インキが連続的に塗布されて形成されたものなので、層の厚さが均一的である。
【0064】
以下、本実施の形態における蛍光体ペーストの具体的な実施例について説明する。
【0065】
(5.実施例)
実施例、比較例ともに蛍光体ペーストに含まれる蛍光体粉末、バインダー樹脂、有機溶媒は同一成分のものを用いた。それぞれ、赤色蛍光体粉末は(Y,Gd)BO:Eu、緑色蛍光体粉末はZnSiO:Mnと(Y,Gd)BO:Tbの混合蛍光体、青色蛍光体粉末はBaMgAl1017:Euを用いている。バインダー樹脂はエチルセルロース、有機溶剤はベンジルアルコールを用いた。蛍光体粉末とバインダー樹脂の比率は一定とし、有機溶媒の重量比率を変化させてペーストの粘度を調整した。
【0066】
本実施の形態における実施例の蛍光体ペーストと、比較例としての蛍光体ペーストの一覧と、蛍光体層110形成後の目視による混色の確認と、パネル点灯における混色の有無の確認結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
まず、表1中のそれぞれの実施例と比較例の蛍光体ペーストについて述べる。
【0069】
実施例1では、蛍光体粉末とバインダー樹脂と有機溶媒の重量比率を5:1:6とした。
【0070】
また、赤色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントレッド24をペースト全体の0.1重量%、緑色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントグリーン3をペースト全体の0.1重量%、青色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントブルー35をペースト全体の0.1重量%を加えている。それぞれの蛍光体ペーストをローラーミルで混合し、25℃でのせん断速度200s−1の時の粘度が1Pa・sの蛍光体ペーストを作製した。
【0071】
実施例2では、蛍光体粉末とバインダー樹脂と有機溶媒の重量比率を5:1:4とした。赤色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントブルー35を0.01重量%、緑色蛍光体ペーストに有機染料ソルベントブルー35を0.1重量%、青色蛍光体ペーストに有機染料ソルベントブルー35を1重量%加えている。それぞれの蛍光体ペーストをローラーミルで混合し、25℃でのせん断速度200s−1の時の粘度が4Pa・sの蛍光体ペーストを作製した。
【0072】
実施例3では、蛍光体粉末とバインダー樹脂と有機溶媒の重量比率を5:1:3.6とした。赤色蛍光体ペーストには有機染料を含有させず、緑色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントグリーン3を0.1重量%、青色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントブルー35を0.1重量%加えている。それぞれの蛍光体ペーストをローラーミルで混合し、25℃でのせん断速度200s−1の時の粘度が、10Pa・sの蛍光体ペーストを作製した。
【0073】
実施例4では、蛍光体粉末とバインダー樹脂と有機溶媒の重量比率を5:1:3とした。赤色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントグリーン3を1重量%、緑色蛍光体ペーストには有機染料を含有させず、青色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントグリーン3を0.1重量%加えている。それぞれの蛍光体ペーストをローラーミルで混合し、25℃での、せん断速度200s−1の時の粘度が15Pa・sの蛍光体ペーストを作製した。
【0074】
比較例1では、蛍光体粉末とバインダー樹脂と有機溶媒の重量比率を5:1:4とした。それぞれの蛍光体ペーストには有機染料は含有しておらず、25℃でのせん断速度200s−1の時の粘度が4Pa・sの蛍光体ペーストとして作製した。
【0075】
比較例2では、蛍光体粉末とバインダー樹脂と有機溶媒の重量比率を5:1:7とした。それぞれの蛍光体ペーストには有機染料は含有しておらず、25℃でのせん断速度200s−1の時の粘度が0.2Pa・sの蛍光体ペーストとして作製した。
【0076】
比較例3では、蛍光体粉末とバインダー樹脂と有機溶媒の重量比率を5:1:7とした。赤色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントレッド24を0.1重量%、緑色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントレッド24を0.1重量%、青色蛍光体ペーストに有機染料ソルベントレッド24を0.1重量%加えている。これらの蛍光体ペーストは、25℃でのせん断速度200s−1の時の粘度が0.2Pa・sである。
【0077】
比較例4では、蛍光体粉末とバインダー樹脂と有機溶媒の重量比率を5:1:7とした。
【0078】
赤色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントレッド24を0.1重量%、緑色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントグリーン3を0.1重量%、青色蛍光体ペーストには有機染料ソルベントブルー35を0.1重量%加えている。これらの蛍光体ペーストは25℃でのせん断速度200s−1の時の粘度が0.2Pa・sである。
【0079】
以上の蛍光体ペーストをインクジェット塗布装置200によって隔壁109上に塗布した。その後、乾燥温度200℃での乾燥工程を行い、背面板140を白色蛍光灯下で目視観察することで、3色の蛍光体層110の区別ができるかの判定と、混色の有無の調査を行った。
【0080】
次に、500℃程度の蛍光体焼成工程により蛍光体ペースト中の蛍光体粉末以外の成分を燃焼させ、背面板140上にそれぞれの蛍光体層110を作製した。その後、背面板140と前面板130を封着材で張り合わせて、放電ガスを封入してPDP100を作成し各色セルを点灯させることによって混色の有無を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0081】
表1の結果より、次のことが導出される。少なくとも2種類の蛍光体ペースト中に異なる色の有機染料を添加させるか、色は同じでも有機染料の濃度を異ならせることによって、乾燥後の白色蛍光灯下での目視観察による蛍光体層110の区分と混色有無の確認が可能となる。
【0082】
また、パネル点灯時の混色を防ぐためには、蛍光体ペーストは、25℃でのせん断速度200s−1の時の粘度が1Pa・s〜15Pa・sの範囲であればよい。これは、蛍光体ペーストの粘度が、1Pa・s〜15Pa・sと比較的高いため、インクジェット塗布中に蛍光体ペーストの飛散がない結果であると考えられる。一方、比較例1、2、4で示すように、蛍光体ペーストの粘度が0.2Pa・sと低い場合には、塗布中に蛍光体ペーストが飛散し、パネルの混色が発生する。
【0083】
すなわち、インクジェット塗布法を用いて蛍光体層110を形成する場合、蛍光体ペーストの粘度を、25℃でのせん断速度200s−1の時の粘度が1Pa・s〜15Pa・sの範囲となるように設定することにより、隔壁109の間隔寸法が120μm〜360μm程度であれば混色を防止した塗布を実現することができる。
【0084】
さらに、このような粘度の蛍光体ペーストに、有機染料を添加して塗布することにより、塗布後の乾燥状態での目視観察による品質管理が可能となる。その際に、添加する有機染料としては、3色の蛍光体層110において、それぞれ種類を変えてもよいし、その添加濃度を変えてもよく、また、3色のうちの少なくとも2色の蛍光体ペーストに有機染料を添加してもよい。
【0085】
以上のように、有機染料を含有する粘度が1Pa・s〜15Pa・sの蛍光体ペーストを用いてインクジェット塗布方法で蛍光体層110を作成することにより、3色の蛍光体層の区別を容易にし、紫外線照射ランプなどで蛍光体粉末を発光させることなしに、蛍光体塗布時の混色の確認を目視で行なうことができる。その結果、検査工程を簡素にでき、生産性を向上させることができる。
【0086】
なお、同一の有機染料を用いて、複数の蛍光体層110を区分するためには、ペースト中の有機染料の含有量を変える必要があるが、その量は使用する有機染料によって異なり、背面板の白色蛍光灯下での目視観察で3色の蛍光体層の区別ができれば良い。
【0087】
さらに、蛍光体層の混色を乾燥工程後にCCDカメラなどを用いて自動検査する場合には、CCD画像で3色の蛍光体層の区別ができれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、紫外線照射ランプなどで蛍光体粉末を発光させることなしに、蛍光体塗布時の混色の確認を可能にすることで、安価にプラズマディスプレイ装置を製造することができ、大画面の表示デバイスなどに有用である。
【符号の説明】
【0089】
100 PDP
101 前面ガラス基板
102 背面ガラス基板
103 維持電極
104 走査電極
105 誘電体層
106 MgO保護層
107 アドレス電極
108 下地誘電体層
109 隔壁
110 蛍光体層
110R 赤色蛍光体層
110G 緑色蛍光体層
110B 青色蛍光体層
121 気密シール層
122 放電空間
130 前面板
140 背面板
150 駆動装置
152 コントローラ
153 表示ドライバ回路
154 表示スキャンドライバ回路
155 アドレスドライバ回路
170 プラズマディスプレイ装置
200 インクジェット塗布装置
210 サーバ
220 加圧ポンプ
230 ヘッダ
230a 蛍光体ペースト室
240 ノズル
250 インク流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面板と隔壁により複数の凹部が形成された背面板とを対向配置し、前記凹部にはそれぞれ赤色、緑色、青色に発光する蛍光体層を備えたプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記蛍光体層は前記凹部に蛍光体粉末、バインダー樹脂、有機溶剤を含有する蛍光体ペーストをインクジェット塗布法により充填するインクジェット塗布ステップを備え、少なくとも2色の前記蛍光体層を形成する前記蛍光体ペーストが、有機染料を含有するとともに、25℃、せん断速度200s−1における粘度が1PaPa・s〜15Pa・sであることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項2】
各色の前記蛍光体ペーストに含有させる前記有機染料の種類がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項3】
各色の前記蛍光体ペーストに含有させる前記有機染料の種類が同一で、その含有量が異なることを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項4】
前記有機染料は、200℃以下での乾燥条件下で前記蛍光体ペースト中に残存し、500℃以下の焼成条件下で焼失することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−124112(P2011−124112A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281256(P2009−281256)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】