説明

プラズマディスプレイパネル及びそれを用いた画像表示装置

【課題】プラズマディスプレイパネルにおいて、広い温度範囲にわたってアドレス放電遅れ時間を短縮し、休止期間中の壁電荷の減少を抑えて電圧変動を小さくすることを両立させ、安定したアドレス放電を行うことができる保護層技術を提供する。
【解決手段】本発明では、不純物を含むMgOからなる保護層とし、不純物の最適な組み合わせでウインドウ関数のエネルギー領域にエネルギー状態密度を分布させることによって、アドレス放電遅れ時間が短く、休止期間中の電圧変動が小さくなり、安定したアドレス放電を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel:以下、プラズマパネルまたはPDPとも称する)分野において、PDPの製造方法およびその方法を用いたPDPで、電子放出源のエネルギー状態密度を規定した保護層材料(MgOなど)を用いたアドレス放電高速化についての技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型かつ厚みの薄いカラー表示装置として、プラズマディスプレイ装置が期待されている。PDPには、その構造と駆動方法の違いからDC(直流)型とAC(交流)型に分類される。特に、AC面放電型PDPは、構造の単純さと高信頼性のため、もっとも実用化の進んでいる方式である。
【0003】
一般的なボックス構造を有するAC面放電型PDPの分解斜視図を図1に、図1において破線で囲まれた一つの放電セルの断面構造図を図2、図3に示す。図中のxyz座標軸は図1、図2、図3において共通である。
【0004】
放電空間14を挟んで前面板12と背面板13が対向配置され、放電空間14には放電ガスが封入されている。放電ガスとして、He−Xe、Ne−Xe、He−Ne−Xe等の混合ガスが用いられる。
【0005】
背面板13は背面基板11上に形成されたストライプ状のアドレス電極(以下、A電極とも称す)10と、アドレス電極10を覆う誘電体層9と、誘電体層9上に形成されて放電距離維持と隣接セル間のクロストークを防止し放電セルを形成する隔壁7と、各隔壁7間に形成された赤色、緑色と青色の各色に発光する蛍光体層8とでなる。蛍光体層8は放電により発生した紫外線で励起し、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色に発光する蛍光体からなる。
【0006】
前面板12は前面基板1上にアドレス電極10と交差するようにストライプ状のサステイン電極(以下、X電極とも称す)4とスキャン電極(以下、Y電極とも称す)5の対からなる表示電極6が複数形成される。表示電極6は透明電極4a、5aとバス電極4b、5bとで構成される。表示電極6は誘電体層2で覆われ、誘電体層2の表面上には保護層3が形成される。
【0007】
この保護層には、放電ガスのイオン衝撃による誘電体層の保護と二次電子放出及び壁電荷保持といった特性を有することが要求される。PDPでは、これらの特性を併せ持つ酸化マグネシウム(以下、MgOと記す)を主成分とする材料が広く用いられている。
【0008】
PDPにおける一般的な画像の階調表示方式としてADS(Address Display-Period Separation)がある。ADS方式では、1TVフィールド(16.67ms、あるいは、1/60s)を所定の輝度比を有する複数のサブフィールドに分割し、それらのサブフィールドを画像に応じて選択的に発光させ、輝度の違いにより階調を表現している。さらにサブフィールドは、リセット期間、アドレス期間、サステイン期間で構成される。リセット期間では、マトリクス配列された全ての放電セル内の壁電圧をほぼ均一に揃えるため、サステイン放電電極対間に放電開始電圧以上のサステイン電圧を印加し、全ての放電セルでリセット放電を行う。アドレス期間では、全ての放電セルのうちの点灯すべき放電セルのみに、適量の壁電荷を生成するアドレス放電を行う。サステイン期間では、その壁電荷を利用して表示データの階調値に応じた回数のサステイン放電(表示放電)を行う。
【0009】
このPDPを用いたプラズマディスプレイ装置は、デジタル放送等の高品位な画質に対応した画像表示装置としての期待が高まっており、高精細化、高輝度化、高コントラスト化等の高画質化が要求されている。また、黒ノイズの発生率低減といった表示画像の信頼性も要求されている。
【0010】
PDPの高精細化は画素ピッチ及び放電セルサイズを小さくすることにより達成される。高輝度化は発光効率の増加やサステイン放電の回数を多くすることにより達成される。高コントラスト化のためには、サステイン放電回数が異なるサブフィールド数を増加させることと、リセット放電等の表示放電に寄与しない放電を低減して黒表示時の輝度を低下させることにより達成される。
【0011】
各サブフィールドのアドレス期間は、PDPのスキャンライン数とアドレスパルス幅で決定される。アドレスパルス幅は、アドレス電圧を印加してからアドレス放電が起こるまでのアドレス放電遅れ時間t(以下、放電遅れ時間とも記す)を考慮して設定される。アドレスパルス幅が不十分であると、アドレス電圧を印加している間にアドレス放電が起こらない。そのため、その後のサステイン放電が行われないといった誤放電による黒ノイズが発生する。更に高精細化では画素数の増加に伴いスキャンライン数が増加する。これらにより、各サブフィールドにおけるアドレス期間の割合が大きくなり、高輝度化、高コントラスト化において重要であるサステイン期間の割合が減少する。
【0012】
アドレス期間を短くするには、大きく2つの方法がある。1つはデータドライバICを増加させる方法である。例えばデータドライバICを2倍にし、パネルの上下でスキャンラインを2分割して同時にスキャンをするデュアルスキャン方式に変えると、見かけ上のアドレス期間が半減する。しかし、デュアルスキャン方式ではデータドライバIC等の駆動に関係する回路数の増加や配線が複雑となり、生産性やコストの点で問題がある。
【0013】
もう1つはアドレス放電遅れ時間tを短縮し、アドレスパルス幅を短くする方法である。アドレス放電遅れ時間tは、Y電極、X電極とA電極の印加電圧とリセット放電後の残留壁電荷に依存する形成遅れ時間t、並びに、放電の種火となる電子(プライミング電子)が保護層から放出されるまでの統計遅れ時間(以下、プライミング電子の放出時定数とも記す)tの和で構成される。保護層のプライミング電子放出特性が良好であるならば、統計遅れ時間t及びアドレス放電遅れ時間tを短縮することができ、安定したアドレス放電を行うことができる。
【0014】
このアドレス放電遅れ時間tを短縮するために、保護層のMgOに不純物元素を添加する技術の開発が行われている。例えば、特許文献1では不純物元素としてSiが、特許文献2、特許文献3では不純物元素としてScが記載されている。
【特許文献1】特開平10−334809号公報
【特許文献2】特開2006−169636号公報
【特許文献3】特開2006−207013号公報
【非特許文献1】IDW‘06、PDP2−4 2006年、p359〜362
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、前記従来技術はアドレス放電遅れ時間tの短縮に特化しており、その他のPDPへの影響についてはあまり考慮されていない。
【0016】
特許文献1記載のSiをMgOに添加する技術は、ある程度のアドレス放電遅れ時間tを短縮することが可能であるが、PDPの面内においてアドレス放電遅れ時間tの短縮される割合にバラツキが生じることが知られている。更に、本発明者らが検討した結果、アドレス放電遅れ時間tに温度依存性があることも分かっている。PDPに要求される動作保証温度は製造メーカによって異なるが、好ましくは−20℃から60℃である。この温度範囲において、Siを添加したMgOを保護層に用いたPDPでは、低温でアドレス放電遅れ時間tが著しく増大し、黒ノイズの発生により表示品位が低下することがある。
【0017】
また、特許文献2及び特許文献3のScをMgOに添加する技術はアドレス放電遅れ時間tを短縮することが可能であると記載されている。しかし、本発明者らが検討した結果、MgOに対するScの濃度が閾値以上であると、PDPの通常動作中のある時点において、黒ノイズの発生率が増加することが明らかになっている。この現象は、PDPの温度が高温である場合によくみられる。
【0018】
この原因の一つとして、リセット放電終了後からアドレス電圧を印加するまでの休止期間t中に、アドレス電極(A電極)を覆う誘電体層及び保護層の放電空間側表面とスキャン電極(Y電極)を覆う誘電体層及び蛍光体層の放電空間側表面との電圧差(即ち、A−Y電極間の放電空間に印加される電圧)VAYが減少することが挙げられる。以下、休止期間t中の電圧差VAYの減少量を電圧変動ΔVAYと記す。
【0019】
この電圧変動ΔVAYにより、アドレス電圧印加時に放電空間に印加される実効的な電圧は減少する。そのため、所定の電圧が放電空間に印加されなくなり、アドレス放電を失敗して誤放電が発生し易くなる。
【0020】
電圧変動ΔVAYの要因として、リセット放電終了後からアドレス電圧を印加するまでの間に保護層から放出されたプライミング電子が、放電空間側表面の壁電荷を打ち消していると考えられている。非特許文献1によれば、プライミング電子による休止期間t中の電圧変動ΔVAYは、300〜10000V/sであると記載されている。
【0021】
このような問題を解決する方法の一つとして、電圧変動ΔVAYを想定してアドレス電圧を予め高めに設定する方法がある。しかし、使用する駆動回路や制御回路に実装される電子部品を高電圧に対応するのものに変更する必要があり、コストの点で問題がある。また、消費電力の増加や、コントラストの低下といった問題も生じる。
【0022】
したがって、アドレス放電遅れ時間tを短縮するだけでなく、休止期間t中の電圧変動ΔVAYを抑制する保護層技術が必要である。
【0023】
本発明の目的は、広い温度範囲においてアドレス放電遅れ時間tの短縮と、休止期間t中の壁電荷の減少及び電圧変動ΔVAYの抑制を両立することにより、安定したアドレス放電を行うことができる保護層技術を提供することにある。
【0024】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0026】
すなわち、代表的な実施の形態によるPDPは、一対の基板が対向配置されて放電空間を形成し、一方の基板上には、表示放電を行う複数の電極と、前記複数の電極を覆う誘電体層と、前記複数の電極および前記誘電体層を保護するための保護層とが形成され、前記放電空間には放電ガスが充填されたパネルである。
【0027】
前記PDPは具体的には、前面板とそれに対向する背面板との間の空間が背面板に設けられた隔壁によって区画され、前記空間には放電ガスが充填されている。前記前面板は、第1基板と、前記第1基板上に設けられた表示電極対と、前記表示電極対を覆う第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に保護層を設けている。また、前記背面板は、第2基板と、前記第2基板上に設けられたアドレス電極と、前記アドレス電極を覆う第2誘電体層と、前記第2誘電体層上に設けられた前記隔壁と、前記空間に接し、前記第2誘電体層上に設けられた蛍光体層とを有している。
【0028】
ここで、前記保護層は、上記課題を解決するために、保護層のウインドウ関数のエネルギー領域が400meV〜1000meV(より望ましくは500meV〜850meV)の範囲内に、1種類以上の電子放出源のエネルギー状態密度関数が分布することを特徴とする。主成分であるMgOに対して、所定量の不純物(これ以後、Scを不純物の一例として説明する。)を含んでいる。前記保護層中のMgOに対するSc濃度は、アドレス放電遅れ時間tを構成する統計遅れ時間tと、電圧変動ΔVAYを評価することで決定される。
【0029】
スキャンライン数が多く高精細なPDPにおいて、十分なリセット期間とサステイン期間を確保しつつ、全スキャンラインを1つのデータドライバICでスキャンを行うシングルスキャン方式を実現するには、休止期間t=17msの統計遅れ時間tを従来品のMgOの1/3以下にする必要がある。そこで、−20℃から60℃の広い温度範囲における統計遅れ時間tの最大値が、従来品のMgOの1/3以下となるSc濃度範囲を評価した。
【0030】
この統計遅れ時間tは、保護層のプライミング電子の放出特性に関係していることから、測定する以外にも保護層中のプライミング電子放出源のエネルギー状態密度からも得ることができる。
【0031】
エネルギー状態密度は、アドレス放電遅れ時間tから統計遅れ時間tを分離し、プライミング電子放出特性の計測条件依存性を解析することにより決定される。解析システム及び解析方法の概略は以下のとおりであり、詳細については後で説明する。
【0032】
(1)休止時間t、温度Tの計測条件に対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを入力する。
【0033】
(2)各休止時間tと温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度と既放電確率を算出する。
【0034】
(3)プライミング電子の電子放出時定数texp(t,T)を算出する。
【0035】
(4)電子放出源のエネルギー状態密度の関数を設定し、エネルギー状態密度に対する活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数の探索範囲と探索幅を設定する。
【0036】
(5)電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数のエネルギーに対する重なり積分によりプライミング電子の電子放出時定数tsth(t,T)を算出する。
【0037】
(6)休止時間tと温度Tの計測条件の総数に対して、計測データから求めたtexp(t,T)と計算から求めたtth(t,T)の平均二乗誤差が最小となる活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数を決定する。
【0038】
これにより、一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度を解析することができる。更に、(5)により電子放出源のエネルギー状態密度から各計測条件に対するプライミング電子の電子放出時定数tth(t,T)を算出することもできる。
【0039】
休止期間tの間の電圧変動ΔVAYは、保護層から放出されるプライミング電子放出量Nemに関係する。単位時間当たりに放出されるプライミング電子放出量Nemは、プライミング電子の放出時定数tの逆数で与えられる。PDPの温度Tを一定として休止期間ti中のプライミング電子放出量Nemは、
【0040】
【数1】

【0041】
で与えられる。放出される電荷Qemは電気素量qを用いて、
【0042】
【数2】

【0043】
で与えられる。リセット放電により形成される壁電荷が、A電極側の誘電体層及び蛍光体層表面が正で、Y電極側の誘電体層及び保護層表面が負であるとすると、保護層から放出される電荷Qemは、A電極側の誘電体層及び蛍光体層表面に到達すると考える。この結果、A電極側の誘電体層及び蛍光体層表面の壁電荷が−Qemだけ、Y電極側の誘電体層及び保護層表面の壁電荷がQemだけ減少する。
【0044】
1つの放電セルにおけるA電極側とY電極側の静電容量をC、Cとすると、プライミング電子放出による壁電荷の変動に伴う電圧変動ΔVAYは、
【0045】
【数3】

【0046】
で表され、プライミング電子放出量Nemに比例する。
【0047】
プライミング電子放出量Nemは、MgO中のトラップ準位に起因するプライミング電子放出源の実行数Nee,jに依存する。ScはMgOに対してドナーであることから、プライミング電子放出源となるトラップ準位を形成する。そのため、保護層としてScを添加したMgOを用いた場合、プライミング電子放出源の実行数Nee,jはMgOに対する不純物ドープ濃度(Scなどの濃度)で決定される。
【0048】
従来品のMgOでは、高温で動作させたときに、休止期間t=1msでの電圧変動ΔVAYによる黒ノイズは発生しない。また、1フィールドに相当する休止期間t=16msでは、電圧変動ΔVAYによる黒ノイズが実用上問題のない程度である。そこで、休止期間t=1msと16msでの電圧変動ΔVAY及びプライミング電子放出量Nemについて従来品のMgOで規格化し、各条件での電圧変動ΔVAYが1以下となるSc濃度を決定した。
【発明の効果】
【0049】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0050】
すなわち、代表的な実施の形態によれば、本願において開示される濃度の不純物(Scなど)を添加したMgOからなる保護層をPDPに用いることにより、広い温度範囲において統計遅れ時間t及びアドレス放電遅れ時間tを短縮し、更に休止期間t中の電圧変動ΔVAYを抑制することにより、高精細なPDPにおいて安定したアドレス放電を行うことができる保護層を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0052】
(実施の基本形態)
まず、本発明の理解を容易にするために、本発明者らが検討したPDPの一例としてAC面放電型PDPの基本構造などについて説明する。なお、本願においてPDPを構成する2つの基板の「前面板」と「背面板」は、両者を組み立ててパネル化した際に、蛍光体による発光が通過して表示面となる方を前面板、表示面とならない方を背面板として説明する。また、本願では、「前面板」および「背面板」はそれぞれガラス基板から構成される前面基板および背面基板をベースとして説明する。
【0053】
図1は本発明者らが検討したいわゆるボックス型のAC面放電型のPDP16の要部を模式的に示す分解斜視図である。図2は組み立て後の図1の放電セルCLのx−z平面の断面図である。図3は組み立て後の図1の放電セルCLのy−z平面の断面図である。
【0054】
まず、前面板12およびその形成方法について説明する。前面基板1上にストライプ状の透明電極4a、5aとバス電極4b、5bとで構成される表示電極6が配設され、表示電極6はサステイン電極(X電極)4とスキャン電極(Y電極)5の対からなる。透明電極4a、5aは透明導電体である酸化インジウムスズ(ITO)からなる膜で形成され、その上に銀の単層膜からなるバス電極4b、5bが透明電極4a、5aより狭い幅で付設されている。なお、透明電極4a、5aとして酸化スズや酸化亜鉛等、バス電極4b、5bとしてアルミニウムの単層膜、またはクロム/銅/クロムの積層膜で形成しても構わない。
【0055】
表示電極6を構成する透明電極4a、5aとバス電極4b、5bは誘電体層2により覆われる。誘電体層2は誘電体ガラス膜で形成される。そして誘電体層2の表面上に保護層3が形成される。この保護層3の形成方法の詳細については、後で詳しく説明する。
【0056】
次に、背面板13およびその形成方法について説明する。背面基板11上に表示電極6と直交したストライプ状のアドレス電極(A電極)10が配設される。背面基板11はガラス基板であり、アドレス電極(A電極)10はアルミニウムの単層膜、またはクロム/銅/クロムの積層膜で形成される。
【0057】
アドレス電極(A電極)10は誘電体層9によって覆われ、その上には放電距離維持と隣接セル間のクロストークを防止する隔壁7が形成される。誘電体層9は誘電体ガラス膜で形成される。隔壁7は前面板12の表示電極6とアドレス電極(A電極)10と平行に配設されており、アドレス電極(A電極)10は隔壁7間に位置する。表示電極6と対向する各隔壁7で囲まれた領域(空間)は放電空間14であり、この放電空間14に接するように誘電体層9上には蛍光体層8が形成される。蛍光体層8は赤色が(Y,Gd)BO:Eu2+、青色がBaMgAl1017:Eu2+、緑色がZnSiO:Mn2+で形成される。
【0058】
表示電極6とアドレス電極(A電極)10を直交するように前面板12と背面板13を対向配置させ、両板の非表示領域を封着剤により封着する。これにより外気と隔離された放電空間14が形成される。放電空間14には、放電ガスとしてネオン(Ne)−キセノン(Xe)をガス基体とした混合ガスが所定の圧力及び分圧で封入される。
【0059】
保護層3の形成方法について説明する。本発明の保護層3の主成分はMgOであり、所定量のScを含んでいる。本発明では、この保護層3を電子ビーム蒸着法により成膜する。このとき、膜質を制御するために、酸素ガスや水素ガス、水蒸気等を供給しても構わない。また、MgOの成膜方法として、イオンアシスト蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着(CVD)法等を用いても構わない。これらの成膜方法により保護層3は300nmから1000nmの厚さに形成される。
【0060】
蒸着源には、粉末状のMgOにSc化合物を混合してペレット状に成型したものを用いるか、ペレット状のMgOとペレット状のSc化合物を混合して用いるか、あるいはこれらのペレット状に成型したものの焼結体を用いる。この蒸着源中のSc濃度は、MgOに対して5質量ppm以上5000質量ppm以下である。
【0061】
これらの蒸着源は、MgOとSc化合物を出発材料として作製されるが、本発明者らが検討した結果、出発材料に用いるMgOの純度が低く、不純物を多く含んでいると、Scを添加することにより得られる効果が低減することが分かっている。そのため、出発材料に用いるMgO中の不純物の濃度は、耐スパッタ性や低コスト化のニーズに対応するため、多くてもMgOに対して200質量ppm以下であることが望ましい。従って、Sc濃度は、MgOに対して5質量ppm以上200質量ppm以下が望ましい。表1は、本発明で用いたMgOに含まれる不純物元素とその濃度の高周波誘導結合プラズマ質量分析(以下、ICP−MSと記す)による分析結果である。Zn、Mn以外の不純物元素は、検出限界未満であった。
【0062】
【表1】

【0063】
Sc化合物としては、酸化スカンジウム、炭酸スカンジウム、酢酸スカンジウム、硝酸スカンジウム、シュウ酸スカンジウム、ハロゲン化スカンジウム(ScX;X=F,Cl,Br)等を用いることができ、これらについても、高純度なものが望ましい。
【0064】
以上の方法により形成される保護層3のMgOに対するSc濃度は、ICP−MSを用いて測定することができる。
【0065】
このPDP15に画像の階調表示方式としてADS(Address Display-Period Separation)を適用した場合について説明する。図4は階調表示方式であるADSにおける1フィールドとサブフィールドの構成を説明するための図である。図5は図4中のアドレス期間において、放電セルを選択してアドレス放電させる駆動方法を説明するための図である。なお、図5中のGNDは基準電圧(基準電位)である。
【0066】
図4(I)で示されるように1フィールド(16.67msまたは1/60s)を所定の輝度比を有する複数のサブフィールドに分割している。それらのサブフィールドを画像に応じて選択的に発光させ、輝度の違いにより階調を表現している。各サブフィールドは、図4(II)で示されるリセット期間、アドレス期間、サステイン期間で構成される。
【0067】
リセット期間では、表示電極間に放電開始電圧以上の電圧が印加され、全ての放電セルでリセット放電が起こる。これにより、全ての放電セル内の壁電圧をほぼ均一に揃えることができる。
【0068】
アドレス期間では、画像データに基づき選択された放電セルのアドレス電極(A電極)とスキャン電極(Y電極)に電圧が印加される。図5は、3つの連続したスキャン電極(Y電極)であり、(Y電極)と(Yi+2電極)が選択され、(Yi+1電極)が選択されない時の、各電極に印加される電圧波形である。選択された放電セルの(Y電極)と(Yi+2電極)には、−Vyのスキャンパルスが印加されるのと同期してアドレス電極(A電極)に電圧Vaのアドレス電圧が印加されてアドレス放電(選択放電)が起こる。選択されアドレス放電が起こった放電セルでは、サステイン期間で行われるサステイン放電(表示放電)を行うのに必要な壁電荷が形成される。一方、選択されない放電セルの(Yi+1電極)では、−Vyのスキャンパルスが印加される時にアドレス電極(A電極)にアドレス電圧が印加されないため、アドレス放電が起こらない。これにより表示放電を行うのに必要な壁電荷が形成されず、サステイン期間でサステイン放電が起こらない。スキャンパルスの幅は、各サブフィールドのアドレス期間を表示電極対数によらず一定とすると、表示電極対数が増加するとスキャンパルス幅が短くなる。そのため、表示電極対数に応じて許容されるアドレス遅れ時間tは異なる。
【0069】
サステイン期間では、サステイン電極(X電極)とスキャン電極(Y電極)にサステインパルスが交互に印加され、選択された放電セルにおいてサステイン放電が起こる。例えば、2進法に基づく輝度の重みを持った8個のサブフィールドを設けると、赤(R)、緑(G)、青(B)の放電セルはそれぞれ2(=256)階調の輝度表示が得られ、約1678万色の色表示が可能となる。
【0070】
図6は、PDP15を備えたプラズマディスプレイ装置20の構成を示す説明図である。プラズマディスプレイ装置20は、アドレス電極(A電極)10、スキャン電極(Y電極)5、サステイン電極(X電極)4を有するPDP15と、アドレス電極(A電極)10を駆動するためのアドレス駆動回路21と、スキャン電極(Y電極)5を駆動するためのスキャンパルス出力回路22と、サステイン電極(X電極)4を駆動するためのサステインパルス出力回路23と、これらの出力回路を制御する駆動制御回路24と、入力信号の処理を行う信号処理回路25とを備えている。また、プラズマディスプレイ装置20は、PDP15などに電圧を印加する駆動電源26と映像信号を生成する映像源27を備えている。
【0071】
プラズマディスプレイ装置20は、PDP15が完成した後、PDP15の電極とフレキシブル基板とを異方性導電フィルムによって接合する。その後、PDP15の変形を防ぎ、放熱性を良くするために例えばアルミニウムなどの板が取り付けられ、この板の上に、駆動電源26やアドレス駆動回路21などの駆動回路が組み込まれ、プラズマディスプレイモジュールが完成する。その後、さらに検査などを行い、外装ケースを取り付けることによって、プラズマディスプレイ装置20が完成する。
【0072】
次に、本発明者らが本発明に至った実験方法と解析手法について説明する。
【0073】
アドレス放電遅れ時間tは、Y電極、X電極とA電極の印加電圧とリセット放電後の残留壁電荷に依存する形成遅れ時間t、並びに、放電の種火となるプライミング電子が保護層から放出されるまでの統計遅れ時間tの和で構成される。
【0074】
保護層からプライミング電子が放電空間に放出されることは統計現象であるため、統計遅れ時間tには揺らぎが生じる。図7は、同一放電セルにおけるアドレス放電遅れ時間tを繰り返し計測した計測データを、アドレス放電遅れ時間t毎に累積数で表示した放電遅れ時間の頻度分布の一例である。同一放電セルにもかかわらず、約500nsをピークに、放電時間が早い場合は400ns、放電時間が遅い場合は1000ns以上を示しており、左右非対称な形状を示している。この繰り返し計測した計測データを用いて、以下の方法により保護層のプライミング電子放出特性を解析する。
【0075】
図8はプライミング電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図、図9はその解析システムのハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【0076】
まず、図8及び図9により、本発明に用いたプライミング電子放出特性の解析システムの構成を説明する。本発明に用いた解析システムは、保護層中の電子放出源に対する電子放出特性の解析システムとされ、パーソナルコンピュータ2200と、計算装置102などから構成されている。パーソナルコンピュータ2200は、記憶装置を含む入力装置101と、画像処理装置を含む出力装置103などから構成される。計算装置102は、CPU装置2201と、記憶装置2202などから構成され、CPU装置2201と記憶装置2202は、データ転送用結合バス2204により接続されている。
【0077】
なお、図9では、複数の計算装置102が、データ転送用結合バス2205によりマトリクス状に接続される構成となっているが、これに限定されず、計算装置102は1つであってもよく、また、パーソナルコンピュータ2200内に設けてもよい。
【0078】
次に、図8及び図9により、本発明で用いた電子放出特性の解析システムについて、その動作例を説明する。計算装置102において、記憶装置2202には電子放出特性の解析プログラムが記憶(保持)されており、パーソナルコンピュータ2200からの指示により、CPU装置2201がそのプログラムを読み出して演算処理を行う。その演算処理の結果は、記憶装置2202に保存される。演算処理に必要なデータ類は、パーソナルコンピュータ2200から、データ転送用結合バス2205を介して送信される。また、計算装置102における演算処理の結果は、データ転送用結合バス2205を介して、パーソナルコンピュータ2200に送信される。また、パーソナルコンピュータ2200において、演算処理に必要なデータは入力装置101から入力され、演算処理の結果は出力装置103で出力・表示される。
【0079】
図8に示すように、計算装置102における演算処理は、以下の手順で実行される。
【0080】
まず、ステップS102−1において、PDPに対して計測した、サステイン電圧印加後からアドレス電圧印加までの休止時間tとMgOの温度Tに対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを、入力装置101から計算装置102に入力する。
【0081】
次に、ステップS102−2において、計算装置102では、各休止時間tとMgOの温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度P(t)を算出する。
【0082】
図10に、放電確率頻度の最大値を1に規格化した放電確率頻度P(t)201を示した。放電確率頻度P(t)は、短時間側ではガウス関数型であるが、長時間側はテールを引いた非対称な形状である。この放電確率頻度P(t)と式(1)を用いて、既放電確率G(t)を算出する。図10には、既放電確率G(t)202を示した。既放電確率G(t)は、下に凸から上に凸の形状を示し、長時間側で傾きはなだらかになっている。
【0083】
【数4】

【0084】
ステップS102−3において、形成遅れ時間tの揺らぎを取り除き、プライミング電子の電子放出時定数texpを求めるために、
【0085】
【数5】

【0086】
を満たす長時間領域における既放電確率G(t)とその時刻tを用いる。ここで、taveは形成遅れ時間tの平均値、σtfは形成遅れ時間tの分散値である。形成遅れ時間の平均値taveと形成遅れ時間の分散値σtfは、アドレス電圧印加時にプライミング電子が存在するような短い休止時間tの計測データに対して、そのアドレス放電遅れ時間の平均値と分散値から求めることができる。図10に示すように、
【0087】
【数6】

【0088】
の長時間領域203を満たすta、tb、その既放電確率G(ta)とG(tb)、並びに、式(2)を用いて、プライミング電子の電子放出時定数texpを算出する。
【0089】
【数7】

【0090】
例えば、t=0.1ms、T=25℃の短い休止時間に対するアドレス放電遅れ時間の計測データでは、アドレス放電遅れ時間の平均値tave=0.59μs、分散値σtf=0.09μsである。そして、解析対象の計測条件t=50ms、T=25℃における既放電確率G(t)が63.2%と95%となる時刻t63.2とt95は夫々に0.84μsと1.45μsである。式(2)を用いて得られたtexp(t=50ms、T=25℃)は0.31μsである。よって、
【0091】
【数8】

【0092】
は0.71μsになることから、
【0093】
【数9】

【0094】
の長時間領域の条件を満たすことが分かる。
【0095】
同様にして、図11には、t=1ms、10ms、50msとT=−10℃(263.15K)、10℃(283.15K)、25℃(298.15K)、60℃(333.15K)の12個の計測条件に対する計測データから求めたプライミング電子の電子放出時定数texpをプロット301で示した。このようにして、休止時間tとMgOの温度Tにおける電子放出時定数texpを求めることができる。
【0096】
次に、電子放出源の種類jのエネルギー状態密度D(E)を解析する方法を述べる。計算から求められるプライミング電子の電子放出時定数tthは、式(3)と(4)によりエネルギー状態密度D(E)と関係付けられる。
【0097】
【数10】

【0098】
【数11】

【0099】
ここで、fphは電子放出源のフォノン振動数、kはボルツマン定数である。また、W(E,t,T)は、休止時間tとMgOの温度Tの計測条件に対して、
【0100】
【数12】

【0101】
を中心に最大値e-1-1とエネルギー幅±数kTを有するウインドウ関数である。計測条件として、休止時間tを一定、MgOの温度Tを変化させた計測では、ウインドウ関数は、最大値e-1-1を一定としてエネルギーE(t,T)が推移する。一方、MgOの温度Tを一定、休止時間tを変化させた計測では、E(t,T)が推移しながら、最大値e-1-1も変化する。
【0102】
図12に、休止時間t=0.01ms、0.1ms、1ms、10ms、100ms、1000msとMgOの温度T=−10℃(263.15K)、0℃(273.15K)、10℃(283.15K)、25℃(298.15K)、40℃(313.15K)、60℃(333.15K)におけるウインドウ関数が最大となるエネルギー
【0103】
【数13】

【0104】
を示した。ここで、電子放出源のフォノン振動数fphは3.1×1013Hzとした。休止時間t=0.01msとMgOの温度T=−10℃では、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは443meVである。また、休止時間t=1000msとMgOの温度T=60℃では、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは892meVを表している。
【0105】
図13に示すように、電子放出時定数tthの逆数は、未知なる電子放出源のエネルギー状態密度Dj(E)401と計測条件で決定するウインドウ関数W(E,t,T)402のエネルギーに対する重なり積分を計算し、全電子放出源の種類jについて和を取ることに等しいことが分かる。
【0106】
本発明の実施の形態のScを含むMgOの電子放出源のエネルギー状態密度解析について以下に記す。
【0107】
図8に示したステップS102−4において、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)として、式(5)のガウス関数を設定した場合において、図14に従って、実効数Nee,1、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1を求める。このとき、これらパラメータ値を探索するために入力する探索範囲と探索幅、及び、個数について述べる。
【0108】
【数14】

【0109】
第1種の電子放出源のフォノン振動数fph,1を1.26×1013Hzとして、計測条件t=1ms、4ms、10ms、16ms、26ms、50ms、T=−20℃、−10℃、0℃、10℃、20℃、40℃、60℃に対して、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは507meV〜780meVの範囲となる。ウインドウ関数のエネルギー幅の3kTは約75meVなので、エネルギー領域は430meV〜860meVとなる。そこで、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jの探索範囲として、計測条件により決定するE(t,T)の最小値−3kTからE(t,T)の最大値+3kTを包含する400meV〜900meVとした。活性化エネルギーの平均値ΔEa,jと活性化エネルギーの分散値σE,jのエネルギーの探索幅を、E(t,T)のエネルギー間隔の平均値以下の5meVとした。
【0110】
次に、実効数Nee,1は、計測条件の時間オーダー幅が2桁程度なので、実効数の探索範囲はその時間オーダー幅である2桁として、1×10個/セル〜1×10n+2個/セル(n=0〜4)を離散化した201個とした。以上より、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1に対する探索範囲は400meV〜900meVを5meV幅で離散化した101個の探索点、活性化エネルギーの分散値σE,1に対する探索範囲は5〜100meVを5meV幅で離散化した20個の探索点、実効数Nee,1に対する探索範囲は1×10個/セル〜1×10個/セルを離散化した201個の探索点から構成され、探索範囲と探索幅、及び、全ての組み合わせとして約4.1×10個のパラメータ値を入力する。
【0111】
ステップS102−5では、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1と実効数Nee,1の各パラメータ値を設定した式(5)を式(3)に代入し、電子放出源のエネルギー状態密度D(E)とウインドウ関数W(E,t,T)のエネルギーに対する重なり積分を計算し、その逆数からt1,sth(t,T)を求めることができる。
【0112】
ステップS102−6において、休止時間tとMgOの温度Tの計測条件の総数N=42に対して、式(6)で表された計測データから求めたtexp(t,T)と計算から求めたt1,sth(t,T)の平均二乗誤差RMSDが最小となる活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1を求める。
【0113】
ΣN=42 {texp(t,T)-t1,sth(t,T)} (6)
このようにして、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1を出力装置103から出力・表示する。
【0114】
次に、新しい電子放出源が存在すると考えられる場合は、図8に示したステップS102−7に従って、ステップS102−4に戻り、第2種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)として、式(7)のガウス関数を設定した場合において、図14に従って、実効数Nee,2、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2を求める。このとき、これらパラメータ値を探索するために入力すべき探索範囲と探索幅、及び、個数について述べる。
【0115】
【数15】

【0116】
第2種の電子放出源のフォノン振動数fph,2を1.2×1013Hzとして、計測条件t=1ms、4ms、10ms、16ms、26ms、50ms、T=−20℃、−10℃、0℃、10℃、20℃、40℃、60℃に対して、第1種の電子放出源に対して述べたと同様に、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2に対する探索範囲は400meV〜900meVを5meV幅で離散化した101個の探索点、活性化エネルギーの分散値σE,2に対する探索範囲は5〜100meVを5meV幅で離散化した20個の探索点、実効数Nee,2に対する探索範囲は1×10個/セル〜1×10n+2個/セル(n=0〜4)を離散化した201個の探索点から構成され、探索範囲と探索幅、及び、全ての組み合わせとして約4.1×10個のパラメータ値を入力する。
【0117】
ステップS102−5において、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2と実効数Nee,2の各パラメータ値を設定した式(7)を式(3)に代入し、電子放出源のエネルギー状態密度D(E)とウインドウ関数W(E,t,T)のエネルギーに対する重なり積分を計算し、その逆数からt2,sth(t,T)を求めることができる。
【0118】
ステップS102−6において、休止時間tとMgOの温度Tの計測条件の総数N=18個に対して、式(8)で表された計測データから求めたtexp(t、T)と計算から求めたt1,sth(t,T)とt2,sth(t,T)の和に対する平均二乗誤差RMSDが最小となる活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2、実効数Nee,2を求める。
【0119】
ΣN=18 {texp(t,T)-t1,sth(t,T) -t2,sth(t,T)} (8)
このようにして、第1種と第2種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)とD(E)に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1、並びに、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2、実効数Nee,2を出力装置103から出力・表示する。
【0120】
MgOの温度TをPDPの温度として、以上の実験方法と解析手法により得られた、本発明によるScを含むMgOからなる保護層のエネルギー状態密度D(E)501とD(E)502を図15に示す。図15の破線503は、PDPに要求される前記の動作保証温度範囲−20℃から60℃と休止期間t=1〜50msにおけるウインドウ関数のエネルギー領域430〜860meVである。つまり、このウインドウ関数のエネルギー領域にエネルギー状態密度が広く分布していることが望ましい。
【0121】
本発明の実施の形態のScを含むMgOは、ウインドウ関数のエネルギー領域に少なくとも2つの電子放出源が存在している。1つはウインドウ関数のエネルギー領域の中心付近である伝導帯底部から660meVの深さを中心に分布しており、エネルギー状態密度が非常に大きい。もう一つはウインドウ関数のエネルギー領域の高エネルギー側の785meVを中心に分布している。
【0122】
従って、MgOに対するSc濃度を調製し、所定量以上のエネルギー状態密度とすれば、−20℃から60℃という広い温度範囲と休止期間t=50msという3TVフィールド以上黒表示を行ったとしても安定したアドレス放電を行うことができる。
【0123】
以上、不純物としてScを挙げて説明したが、エネルギー状態密度の形状が電圧変動ΔVAYが1以下となる条件と、アドレス放電遅れ時間が所望の駆動条件を満足する条件であれば、他の不純物材料でも可能となり、数種類の不純物の組み合わせでウインドウ関数のエネルギー領域にエネルギー状態密度を広く分布させることも可能となる。
【0124】
一方、MgOを主成分とする保護層の寿命、即ち、スパッタ耐性を維持させるため、不純物のドープ量は出来るだけ全体としては少なくした方が良い。そのため、MgO膜中の不純物の組み合わせで必要なウインドウ関数のエネルギー領域にエネルギー状態密度が分布するように設計する必要がある。
【0125】
以下において、前記実施の基本形態に基づいた、各実施の形態を具体的に説明する。
【0126】
(実施の形態1)
本実施の形態では、最適な不純物の組み合わせにおけるエネルギー状態密度形状について説明する。
【0127】
PDPではコントラスト向上のためにリセット放電回数を減らして駆動する方法がとられている。本実施の形態では、一例として、リセット放電回数は3TVフィールドあたり最少で一回である場合について、即ち、休止期間tの最大値である50msでの−20℃から60℃の温度範囲におけるアドレス放電遅れ時間駆動条件を満足し、高温で動作させても電圧変動ΔVAYにより黒ノイズが発生しない形態について説明する。
【0128】
図16はエネルギー準位に対して3種類の不純物をドープした場合の状態密度分布を示す。図中のエネルギー状態密度D(E)503とD(E)504、D(E)505は、水素(H)、スカンジウム(Sc)、珪素(Si)を不純物としてドープした結果である。統計遅れ時間tはアドレス放電遅れ時間tを複数回計測結果より式(2)と、図16のエネルギー状態密度D(E)503とD(E)504、D(E)505を基にして、休止時間tと温度Tの計測条件より式(3)から得られる。なお、本実施の形態では、水素、スカンジウム、珪素を不純物としてドープしたが、同じようなエネルギー状態密度の形状をとる不純物であれば、他の不純物でも代用できる。
【0129】
図17に、−20℃から60℃(253.15Kから333.15K)の管面温度Tでの統計遅れ時間tの温度依存性を示す。図17において、統計遅れ時間tは、シングルスキャン方式を実現するために従来品のMgOの統計遅れ時間tの1/3となる0.35μs(3.0E−07s)以下になる必要がある。図17でわかるように、休止期間tが1msから50msにおいて統計遅れ時間が0.35μs以下になっていることがわかる。また、統計遅れ時間の温度依存性が−20℃から60℃の範囲において良好であることがわかる。一方、高温で動作させたときにおいて、壁電荷の減少に伴う電圧変動ΔVAYは、黒ノイズが発生しない、従来品と同等もしくはそれ以下になっていることがわかった。統計遅れ時間は、図16で示す状態密度をエネルギー準位で積分した値(面積)を増加させるほど短くなるが、状態密度の積分値が増加するほど、電圧変動ΔVAYが大きくなるため、出来るだけ少ない状態密度の積分値で、シングルスキャン方式を実現でき、温度特性を満足する統計遅れ時間になる必要があり、本実施の形態は状態密度の形状を最適化することにより実現している。
【0130】
以上から、本実施の形態では、保護層のウインドウ関数のエネルギー領域400meV〜1000meVにおいて、1種類以上の電子放出源のエネルギー状態密度関数が分布することによって、広い温度範囲において、高精細なPDPをシングルスキャン方式で駆動することができ、高温で動作させても電圧変動ΔVAYにより黒ノイズが発生しないことが実現できた。特に、本実施の形態では3種類の電子放出源になりうる不純物ドープをMgOを主成分とする保護層へ実施し、ウインドウ関数のエネルギー領域500meV〜850meVにおいて、電子放出源のエネルギー状態密度関数の形状がウインドウ関数のエネルギー領域において、状態密度が最大値の50%以上の値をもって一定であることで、統計遅れ時間の温度特性が良好な保護層を実現できた。
【0131】
尚、本実施の形態では、一例としてリセット放電回数は3TVフィールドあたり最少で一回(休止期間tが50ms程度)である場合について説明したが、コントラスト向上できるブラックマトリックス技術等を導入することにより、休止期間tが短い条件で最適解を求めてもよい。その場合は、エネルギー状態密度の数は少なくて済み、より電圧変動ΔVAYも少なく済む。不純物のドープ量が少なくて済むと、MgOを主成分とする保護層の結晶性(より硬い保護層となる)が良好となり、PDPの寿命を長くできる利点がある。
【0132】
(実施の形態2)
前記実施の形態1では連続的にエネルギー状態密度が分布した場合であるが、本実施の形態では離散的に分布した場合について説明する。
【0133】
図18にはエネルギー準位に対して3種類の不純物をドープした場合の状態密度分布を示す。図中のエネルギー状態密度D(E)506とD(E)507、D(E)508は、電子放出源のエネルギー状態密度関数の形状がウインドウ関数のエネルギー領域において、状態密度が最大値の10%以上の値をもってピークを少なくとも2種類以上もって、離散的に分布している。
【0134】
図19は、図18の状態密度分布を持ったMgOを主成分とする保護層において、−20℃から60℃(253.15Kから333.15K)の管面温度Tでの統計遅れ時間tの温度依存性を示す。図19において、統計遅れ時間tは、シングルスキャン方式を実現するために従来品のMgOの統計遅れ時間tの1/3となる0.35μs(3.0E−07s)以下になる必要がある。図19でわかるように、休止期間tが1msから50msにおいて統計遅れ時間が0.35μs以下になっていることがわかる。また、統計遅れ時間の温度依存性が−20℃から60℃の範囲において良好であることがわかる。一方、高温で動作させたときにおいて、壁電荷の減少に伴う電圧変動ΔVAYは、黒ノイズが発生しない、従来品と同等もしくはそれ以下になっていることがわかった。
【0135】
前記実施の形態1の図16では連続的に状態密度を分布させることにより、統計遅れ時間と電圧変動ΔVAYの両方を満足させていたが、本実施の形態では、離散的に分布した場合でもウインドウ関数のエネルギー領域400meV〜1000meVにおいて、1種類以上の電子放出源のエネルギー状態密度関数が分布することによって実現している。但し、統計遅れ時間の温度特性は図19では、図17と比較すると、休止時間が大きい方(50msと26ms)では変動が少しある。これはエネルギー状態密度関数が離散的に分布している影響である。
【0136】
(実施の形態3)
前記実施の形態1と2における前面板の構成と形成方法が異なるPDPについて、図20を用いて説明する。
【0137】
前面板12は前面基板1上にアドレス電極(A電極)10と直交したストライプ状のサステイン電極(X電極)4とスキャン電極(Y電極)5の対からなる表示電極6が複数形成される。表示電極6は透明電極4a、5aとバス電極4b、5bとで構成される。表示電極6上には誘電体層2が形成される。この誘電体層2の表面上には、第1の保護層16と第2の保護層17からなる保護層3が300から1000nmの厚さで形成される。
【0138】
第1の保護層16は水素、Sc、Siなどを含まないMgOからなり、150nmから850nmの厚さに形成してある。なお、第1の保護層16は不純物元素を含むMgOやその他の金属酸化物で形成しても構わない。
【0139】
第2の保護層17は水素、Sc、Siなどを含むMgOからなり、第1の保護層16上に50nmから150nm積層される。この第2の保護層17は、MgOに対するSc濃度が10質量ppm以上240ppm以下である。
【0140】
次に、本実施の形態の保護層を形成する手法について図21を用いて説明する。本実施の形態による保護層は、2つの蒸着室31a、31bを有する真空蒸着装置を用いて、電子ビーム蒸着により形成される。まず、表示電極と誘電体層が形成された前面板12を、誘電体層が形成された面が蒸着源に対向する向きで所定のホルダーに装着し、準備室32に水平に配置する。次に、仕切り扉33を閉じて準備室32を真空ポンプにより排気し、1×10−3Pa以下の真空状態にし、ヒーターにより前面板12を約250℃まで加熱して表面に吸着された水分等を除去する。
【0141】
次に、準備室32と第1の蒸着室31aの仕切り扉34を開け、温度と真空状態を維持しながら前面板12を第1の蒸着室31aに導入する。導入後、準備室32と第1の蒸着室31aの仕切り扉34を閉じる。第1の蒸着室31aのハース30aには、Scを含まないMgOのペレット状の蒸着源が充填される。蒸着は、熱電子を蒸着源に照射して加熱、蒸発させて誘電体層上に第1の保護層16が形成される。このとき、前面板12はヒーターにより200〜300℃に加熱されている。また、第1の蒸着室31aには酸素ガスが約1×10−2Paの圧力となるように導入される。
【0142】
第1の保護層16を形成後、第1の蒸着室31aと搬送室35の仕切り扉36を開け、搬送室35に前面板12を移動させた後に仕切り扉36を閉め、搬送室35と第2の蒸着室31bの仕切り扉37を開けて前面板12を第2の蒸着室31bに導入する。第2の蒸着室31bは第1の蒸着室31aと基本的に同構造であるが、蒸着源のハース30bには基本形態と同じくScを含むMgOからなるペレット状の蒸着源が充填され、第1の保護層16と同様な条件で第1の保護層16上に第2の保護層17が形成される。
【0143】
第2の保護層17を形成後、前面板12を冷却室38に導入し、第2の蒸着室31bと冷却室38の仕切り扉39を閉め、前面板12を室温付近まで冷却し、冷却室38に不活性ガスを導入して真空状態から大気圧にする。冷却室38が大気圧になったら前面板12を搬出する。
【0144】
本実施の形態では、第1の保護層16と第2の保護層17を電子ビーム蒸着法により形成したが、イオンアシスト蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着(CVD)法等により形成しても構わない。
【0145】
統計遅れ時間t及び電圧変動ΔVAYは保護層3のプライミング電子の放出特性に関係する。本実施の形態では、水素、Sc、Siなどを含むMgOからなる第2の保護層17が選択的に放電空間に面して形成されており、所望のプライミング電子の放出特性を得ることができる。さらに、水素、Sc、Siなどが第2の保護層17にしか含まれておらず、コストを低減することが可能となる。
【0146】
(実施の形態4)
前記実施の形態1から3における前面板の構成と形成方法が異なるPDPについて、図22を用いて説明する。
【0147】
前面板12は前面基板1上にアドレス電極(A電極)10と直交したストライプ状のサステイン電極(X電極)4とスキャン電極(Y電極)5の対からなる表示電極6が複数形成される。表示電極6は透明電極4a、5aとバス電極4b、5bとで構成される。表示電極6上には誘電体層2が形成される。この誘電体層2の表面上には、第1の保護層16と第2の保護層17からなる保護層3が形成される。
【0148】
第1の保護層16はMgOを主成分としており、基本形態と同様に誘電体層2上に300nmから1000nmの厚さで形成される。第2の保護層17は、第1の保護層16上にScを含むMgOの粒子を付着させることにより形成される。
【0149】
この第2の保護層17の形成方法について説明する。第2の保護層17は、水素、Sc、Siなどを含むMgOの粒子を分散媒に分散させた懸濁液を第1の保護層16の表面に散布し、その後、前記分散媒を蒸発させることにより形成される。
【0150】
最初に、MgOに対してSc濃度が1000ppmとなるように、MgO粉末とSc化合物の粉末を秤量して十分混合する。このMgO粉末は、不純物の濃度が多くても200重量ppm以下であることが望ましい。Sc化合物の粉末についても、高純度なものが望ましい。また、Sc化合物としては、酸化スカンジウム、炭酸スカンジウム、酢酸スカンジウム、硝酸スカンジウム、シュウ酸スカンジウム、ハロゲン化スカンジウム(ScX;X=F,Cl,Br)等を用いることができる。
【0151】
このMgOとSc化合物の混合粉末をアルミナ坩堝に入れ、1000から1600℃で焼成を大気雰囲気下で行う。焼成後に得られた焼成物をアルミナ坩堝から取り出し、ほぐすことによりScを含むMgO粉末が得られる。
【0152】
なお、水素、Sc、Siなどを含むMgO粉末を本実施の形態のような固相法ではなく、溶液法、気相法を用いて作製しても構わない。
【0153】
水素、Sc、Siなどを含むMgO粒子は、水素、Sc、Siなどを含むMgO粉末を分散媒に入れて攪拌により分散させるか、超音波により分散させることによって得られる。分散させる分散媒の種類は、第1の保護層16との反応性が低く、揮発性の高いエタノール、特に炭素数1〜5の低級アルコールが望ましい。
【0154】
この水素、Sc、Siなどを含むMgO粒子が分散した懸濁液をスプレー法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、ディスペンサ法、インクジェット法、ロールコート法、静電塗布法等により第1の保護層16上へ散布することにより、第2の保護層17が得られる。
【0155】
保護層3の形成には、一般に蒸着法が用いられている。しかし、蒸着源と保護層3とでは目的とする不純物元素の濃度が異なることがあり、濃度を制御することが困難である。本実施の形態では、水素、Sc、Siなどを含むMgOからなる第2の保護層17を蒸着法ではなく前面板に直接散布しており、水素、Sc、Siなどを含むMgO粒子のSc濃度や第2の保護層17による被覆率を制御することで、所望の効果を容易に得ることができる。
【0156】
また、本発明者らが検討した結果、水素、Sc、Siなどを含むMgOを蒸着する場合、Sc濃度が蒸着源よりも保護層3の方が少なくなることがわかっている。本実施の形態では、保護層3中のSc濃度を考慮して、高コストなScを蒸着源に過剰に添加する必要がなく、コストを低減することが可能となる。
【0157】
(実施の形態5)
図23に本実施の形態1から4のいずれかの保護層のPDPを用いた画像表示装置の一例を示す。本実施の形態の保護層のPDPを用いた画像表示装置1602は、プラズマディスプレイパネル1600、駆動回路1601、映像源1603等から構成され、プラズマディスプレイパネル1600へ駆動回路1601を経由して映像源1603から信号を送信することによって駆動することができる。
【0158】
以上、本発明者によってなされた発明を、実施の基本形態、実施の形態1から5に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の基本形態および形態1から5に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、プラズマディスプレイ装置、特に、高精細なAC面内放電型PDPに有効で、映像機器産業、宣伝機器産業、プラズマディスプレイ装置の製造業といった産業に幅広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明者らが検討したAC面放電型PDPの要部を模式的に示す分解斜視図である。
【図2】図1の放電セルのx−z平面の断面図である。
【図3】図1の放電セルのy−z平面の断面図である。
【図4】図1のPDPにおいて、階調表示方式であるADSにおける1フィールドとサブフィールドの構成を説明するための図である。
【図5】図4中のアドレス期間において、放電セルを選択してアドレス放電させる駆動方法を説明するための図である。
【図6】図1のPDPを用いたプラズマディスプレイ装置の構成を示す説明図である。
【図7】本発明の前提として検討したアドレス放電遅れ時間の計測データに対する累積数、及び、既放電確率を用いた統計遅れ時間と形成遅れ時間の解析方法を示す図である。
【図8】本発明で用いた電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図である。
【図9】本発明で用いた電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その解析システムのハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【図10】本発明で用いた電子放出特性の解析システム及び解析方法において、既放電確率を用いたプライミング電子の電子放出時定数解析の説明図である。
【図11】本発明で用いた電子放出特性の解析システム及び解析方法において、本発明の前提として検討したアドレス放電遅れ時間の計測データから求めたプライミング電子の電子放出時定数を示すプロット図である。
【図12】本発明で用いた電子放出特性の解析システム及び解析方法において、休止期間と温度に対するウインドウ関数が最大となるエネルギーを示す図である。
【図13】本発明で用いた電子放出特性の解析システム及び解析方法において、電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数のエネルギー重なり積分の説明図である。
【図14】本発明で用いた電子放出特性の解析システム及び解析方法において、活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数の探索範囲と探索幅を示す図である。
【図15】本発明で用いた電子放出特性の解析システム及び解析方法により得られたScを含むMgO中の電子放出源のエネルギー状態密度を示す図である。
【図16】本発明で用いた電子放出特性の解析システム及び解析方法により得られた水素、Sc、Siなどを含むMgOを主成分とする保護層の電子放出源のエネルギー状態密度を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態1による保護層において、−20℃から60℃(253.15Kから333.15K)の管面温度での統計遅れ時間の温度依存性を示す図である。
【図18】本発明の実施の形態2による保護層において、エネルギー準位に対して3種類の不純物をドープした場合の離散的な状態密度分布を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態2による保護層において、−20℃から60℃(253.15Kから333.15K)の管面温度での統計遅れ時間の温度依存性を示す図である。
【図20】本発明の実施の形態3による保護層の断面構造を示す図である。
【図21】本発明の実施の形態3による保護層を形成する蒸着装置の構成を示す図である。
【図22】本発明の実施の形態4による保護層の断面構造を示す図である。
【図23】本発明の実施の形態1から4のいずれかの保護層のPDPを用いた画像表示装置を示す図である。
【符号の説明】
【0161】
1 前面基板
2 誘電体層
3 保護層
4 サステイン電極(X)
4a 透明電極
4b バス電極
5 スキャン電極(Y)
5a 透明電極
5b バス電極
6 表示電極
7 隔壁
8 蛍光体層
9 誘電体層
10 アドレス電極(A)
11 背面基板
12 前面板
13 背面板
14 放電空間
15 PDP
16 第1の保護層
17 第2の保護層
20 プラズマディスプレイ装置
21 アドレス駆動回路
22 スキャンパルス出力回路
23 サステインパルス出力回路
24 駆動制御回路
25 信号処理回路
26 駆動電源
27 映像源
30a、30b ハース
31a、31b 蒸着室
32 準備室
33、34、36、37、39 仕切り扉
35 搬送室
38 冷却室
101 入力装置
102 計算装置
103 出力装置
1600 プラズマディスプレイパネル
1601 駆動回路
1602 画像表示装置
1603 映像源
2200 パーソナルコンピュータ
2201 CPU装置
2202 記憶装置
2204、2205 データ転送用結合バス
CL 放電セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板が対向配置されて放電空間を形成し、一方の基板上には、表示放電を行う複数の電極と、前記複数の電極を覆う誘電体層と、前記複数の電極および前記誘電体層を保護するための保護層とが形成され、前記放電空間には放電ガスが充填されたプラズマディスプレイパネルであって、
前記保護層のウインドウ関数のエネルギー領域が400meV〜1000meVの範囲内に、1種類以上の電子放出源のエネルギー状態密度関数が分布していることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記保護層のウインドウ関数のエネルギー領域が500meV〜850meVの範囲内に、前記1種類以上の電子放出源のエネルギー状態密度関数が分布していることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度関数の形状が、前記保護層のウインドウ関数のエネルギー領域の範囲内において、状態密度が最大値の50%以上の値をもって、複数の電子放出源のエネルギー状態密度関数が分布していることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
請求項3に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度関数の形状が、前記保護層のウインドウ関数のエネルギー領域の範囲内において、状態密度が最大値の変動分が50%以内であることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
請求項1または2に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記電子放出源のエネルギー状態密度関数の形状が、前記保護層のウインドウ関数のエネルギー領域の範囲内において、状態密度が最大値の10%以上の値のピークを少なくとも2種類以上もって、離散的に分布していることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記電子放出源を形成するための保護層は、MgOを主成分とし、前記MgO以外の元素を1種類以上添加して形成されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項7】
請求項6に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記電子放出源を形成するための保護層は、前記MgO以外の水素、スカンジウム、珪素の元素をひとつ以上添加して形成されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項8】
請求項7に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記電子放出源を形成するための保護層は、前記スカンジウムを5〜200ppm添加して形成されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項9】
請求項1から5の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記電子放出源を形成するための保護層は、MgO膜とそのMgO膜上にMgO単結晶体を分散させて塗布した2層構造で形成されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項10】
請求項9に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記MgO単結晶体は、MgO以外の元素を1種類以上添加して形成されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項11】
請求項10に記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記MgO以外の元素を添加したMgO単結晶体を2種類以上分散塗布して形成されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項12】
請求項1から11の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネルを用いたことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−140729(P2010−140729A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314906(P2008−314906)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】