説明

プラズマミグ溶接方法

【課題】プラズマミグ溶接を、溶け落ちが発生しやすいアーク又はスパッタ付着のない高品質なビード外観が要求されるワークにも適用することができるようにする。
【解決手段】シールドガスノズル43内に配置された溶接ワイヤ11及びプラズマ電極12を備えた溶接トーチを用い、溶接ワイヤ11によるミグアーク31及びプラズマ電極12によるプラズマアーク32を同時に発生させて溶接するプラズマミグ溶接方法において、溶接モード選択信号を設け、溶接モード選択信号がプラズマミブ溶接モードであるときはプラズマアーク32及びミグアーク31を同時に発生させる上記のプラズマミグ溶接を行い、溶接モード選択信号がプラズマ溶接モードであるときはプラズマアーク32を発生させると共にミグアーク31は発生させないで溶接ワイヤ11のみを送給し、溶接ワイヤ11をプラズマアーク32によって溶融しながら溶接を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 シールドガスを吐出するためのシールドガスノズル内に配置された溶接ワイヤ及びプラズマ電極を備えた溶接トーチを用い、溶接ワイヤによるミグアーク及びプラズマ電極によるプラズマアークを同時に発生させて溶接するプラズマミグ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極として溶接ワイヤを送給しながらミグアークを発生させることと、アルゴンガス等をプラズマガスとして用いて上記のミグアークを包含するプラズマアークを発生させることと、を同時に行うプラズマミグ溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。図4は、このプラズマミグ溶接方法における溶接トーチ4の構造及びアーク発生部を示す模式図である。消耗電極(以下、溶接ワイヤ11という)は、溶接トーチ4の中心部に設けられた給電チップ41から給電されると共に、中心軸線に沿って送給されて、母材2との間にミグアーク31が発生する。非消耗電極(以下、プラズマ電極12という)は中空状の略円筒形状をなし、母材2との間にプラズマアーク32が発生する。上記の溶接ワイヤ11はプラズマ電極12の絶縁された中空内を送給されるので、ミグアーク31はプラズマアーク32によって囲まれた状態になる。プラズマアーク32の外側にはアークを熱的拘束してプラズマアーク化するためのプラズマガス(図示せず)が流れており、さらにその外側にシールドガス(図示せず)が流れている。これらプラズマガス及びシールドガスにはアルゴンガスが使用されることが多い。
【0003】
同図に示すようなプラズマミグ溶接では、プラズマアーク32がプラズマガス等によって熱的拘束されているために、溶融池21がプラズマアーク32及びミグアーク31から受けるアーク力はティグ溶接、ミグ溶接、マグ溶接等に比べて大きい。すなわち、プラズマミグ溶接では、プラズマガスの動圧並びにプラズマアーク32及びミグアーク31からのアーク力によって、溶融池21の表面は高い動圧を受けていることになる。このような、高いアーク圧力下での溶接においては、同図に示すように、溶融池21の表面の形状が凹状になる。
【0004】
ミグアーク31及びプラズマアーク32の双方から母材2に対して熱を与えると共に、溶融した溶接ワイヤ11を供給するこの手法は、比較的速い溶接速度で溶接する、高効率溶接に適している。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−168283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したプラズマミグ溶接方法は、プラズマアーク32及びミグアーク31の2つの熱源をゆし、かつ、溶接ワイヤ11が溶滴となって溶融池21に供給されるために、高速溶接性に優れており高効率溶接が可能である。
【0007】
ところで、1つのワークに複数の溶接個所が存在し、各々の溶接個所における板厚及び継手形状が異なる場合がある。板厚が比較的厚い場合又は継手形状上アークによる溶け落ちが発生しにくい場合には、上述したプラズマミグ溶接方法を使用することで高効率溶接を行うことができる。しかし、板厚が薄い場合又は継手形状上溶け落ちが発生しやすい場合にはプラズマミグ溶接方法を使用すると母材への入熱が大きいために溶け落ちが発生することになり、使用することができない。このような複合した溶接個所を有するワークを溶接する場合には、プラズマミグ溶接方法は適用することができず、溶接工程の効率化を図ることもできなかった。このようなケースは、複合された溶接個所を有するワークに限られたことではなく、1つの溶接ライン上を種々のワークが搬送されてきて溶接を行う場合にも生じることである。
【0008】
また、溶接個所によっては、効率化よりも、スパッタの付着がなくビード外観が高品質であることが要求される場合もある。このような高品質を重視する溶接個所にプラズマミグ溶接方法を使用すると、スパッタの付着が見られるために要求レベルを充足しない場合も生じる。
【0009】
そこで、本発明は、効率化を求められる溶接個所、溶け落ちが発生しやすい溶接個所又は高品質なビード外観が要求される溶接個所を1つの溶接装置によって溶接することができるプラズマミグ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、
シールドガスを吐出するためのシールドガスノズル内に配置された溶接ワイヤ及びプラズマ電極を備えた溶接トーチを用い、前記溶接ワイヤによるミグアーク及び前記プラズマ電極によるプラズマアークを同時に発生させて溶接するプラズマミグ溶接方法において、
溶接モード選択信号を設け、
この溶接モード選択信号がプラズマミブ溶接モードであるときは前記プラズマアーク及び前記ミグアークを同時に発生させる前記プラズマミグ溶接を行い、
前記溶接モード選択信号がプラズマ溶接モードであるときは前記プラズマアークを発生させると共に前記ミグアークは発生させないで前記溶接ワイヤのみを送給し、この溶接ワイヤを前記プラズマアークによって溶融しながら溶接を行う、
ことを特徴とするプラズマミグ溶接方法である。
【0011】
第2の発明は、前記プラズマ溶接モードのときは前記溶接ワイヤを溶融池に接触させて加熱電流を通電する、
ことを特徴とする第1の発明記載のプラズマミグ溶接方法である。
【発明の効果】
【0012】
上記第1の発明によれば、効率化を要求される溶接個所を溶接するときはプラズマミグ溶接モードを使用し、溶け落ちが発生しやすい溶接個所を溶接するとき及び高品質なビード外観が要求される溶接個所を溶接するときはプラズマ溶接モードを使用することができる。このように、第1の発明では、溶接個所の要求品質に応じた溶接方法を1つの溶接装置で行うことができる。プラズマ溶接モードでは、熱源が1つになり、溶接ワイヤがプラズマアークによって溶融されるために、溶け落ちがしにくくなり、スパッタ発生も少量になる。このために、プラズマ溶接モードは、溶け落ちが発生しやすい溶接個所及び高品質なビード外観が要求される溶接個所に使用することができる。
【0013】
上記第2の発明によれば、プラズマ溶接モードが選択されているときに、溶接ワイヤに加熱電流を通電することによって溶接ワイヤの溶融が円滑になり、スパッタ発生がより少なくなると共に、さらにビード外観が高品質になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係るプラズマミグ溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して各構成について説明する。
【0016】
シーケンス制御装置PLCは、溶接モード選択信号Ms、溶接開始信号St、ミグ溶接電圧設定信号、ミグ溶接電流設定信号及びプラズマ電流設定信号を含むインターフェース信号Ifを送信する。このシーケンス制御装置PLCは、プログラマブル・ロジック・コントローラ、ロボット溶接にあってはロボット制御装置等が相当する。ミグ溶接電源PSMは、上記のインターフェース信号Ifを受信して、上記の溶接モード選択信号Msが「プラズマミグ溶接モード」であるときに上記の溶接開始信号StがHighレベルになると、ミグ溶接電圧Vwm及びミグ溶接電流Iwmを出力すると共に、上記のミグ溶接電流設定信号に対応したワイヤ送給速度Fwで溶接ワイヤ11を送給するための送給制御信号Fcをワイヤ送給モータWMに出力する。他方、上記の溶接モード選択信号Msが「プラズマ溶接モード」であるときに上記の溶接開始信号StがHighレベルになると、ミグ溶接電源PSMはミグ溶接電圧Vwm及びミグ溶接電流Iwmは出力しないで、溶接ワイヤ11を送給するための送給制御信号Fcのみを出力する。ミグ溶接電源PSMは、定電圧特性を有するので、ミグ溶接電圧Vwmは上記のミグ溶接電圧設定信号によって設定される。プラズマ溶接電源PSPは、上記のインターフェース信号Ifを受信して、上記の溶接モード選択信号Msのモードに関わらず溶接開始信号がHighレベルになると、プラズマ電流設定信号に対応したプラズマ電流Iwp及びプラズマ電圧Vwpを出力する。このプラズマ溶接電源PSPは、定電流特性を有する。
【0017】
溶接トーチの構造は以下のようになっている。同軸中心部に給電チップ41が設けられており、ワイヤ送給モータWMに結合された送給ロール5によって送給される溶接ワイヤ11はこの給電チップ内を通って送給される際に給電される。溶接ワイヤ11はワイヤ送給速度Fwで送給される。プラズマ電極12は略円筒形状をなし、中空構造になっている。この絶縁された中空内を上記の溶接ワイヤ11が送給されて、母材2との間にミグアーク31が発生する。上記のプラズマ電極12の内側をミグガス61が流れている。上記のプラズマ電極12の外側にプラズマノズル42が設けられており、その内側をプラズマガス62が流れている。さらに、その外側にシールドガスノズル43が設けられており、その内側をシールドガス63が流れている。上記のプラズマ電極12と母材2との間には熱的拘束されたプラズマアーク32が発生する。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態に係るプラズマミグ溶接方法を示すタイミングチャートである。同図(A)は溶接モード選択信号Msを示し、同図(B)は溶接開始信号Stを示し、同図(C)はワイヤ送給速度Fwを示し、同図(D)はミグ溶接電流Iwmを示し、同図(E)はプラズマ電流Iwpを示す。以下、同図を参照して説明する。
【0019】
同図(A)に示す溶接モード選択信号Msは、2つのモードがあり、Highレベルのときは「プラズマミグ溶接モード」になり、Lowレベルのときは「プラズマ溶接モード」になる。時刻t1〜t2の期間中は、同図(A)に示すように、溶接モード選択信号はHighレベルであるので「プラズマミグ溶接モード」になる。この期間中は、同図(B)に示すように、溶接開始信号StがHighレベルになるので、同図(C)に示すように、溶接ワイヤ11はワイヤ送給速度Fwで送給されると共に、同図(D)に示すように、ミグ溶接電流Iwmが通電し、ミグアーク31が発生する。同時に、同図(E)に示すように、プラズマ電流Iwpが通電するので、プラズマアーク32も発生する。この期間中の溶接状態は、上述した図1のようになる。
【0020】
次に、時刻t3〜t4の期間中は、溶接モード選択信号MsはLowレベルであるので「プラズマ溶接モード」になる。この期間中は、同図(B)に示すように、溶接開始信号StがHighレベルになるので、同図(C)に示すように、溶接ワイヤ11はワイヤ送給速度Fwで送給されるが、同図(D)に示すように、ミグ溶接電流Iwmは通電しないのでミグアーク31は発生しない。他方、同図(E)に示すように、プラズマ電流Iwpは通電するので、プラズマアーク32は発生する。したがって、溶接ワイヤ11はプラズマアーク32によって溶融される。この期間中の溶接状態を図3に示す。溶接ワイヤ11は送給されて溶融池21と接触状態にあり、プラズマアーク32からの熱によって溶融される。溶接ワイヤ11と溶融池21との間にはミグアーク31は発生していない。同図は溶接ワイヤ11の先端が溶融池21の表面と接触している場合であるが、非接触状態になる場合もある。接触状態になるか又は非接触状態になるかはワイヤ送給速度Fwの値に依存する。このプラズマ溶接モードの状態では、アークは1つしかないのでアーク力は弱くなり、薄板溶接時に溶け落ちが発生しにくくなる。さらに、溶接ワイヤ11はミグ溶接のときのように変動しやすい入熱ではなく安定した入熱をプラズマアーク32から受け手溶融するために、発生するスパッタは非常に少なくなる。この結果、高品質なビード外観を得ることができる。
【0021】
図2では、時刻t3からt4の期間中は溶接ワイヤ11にミグ溶接電流Iwmが通電しない場合を説明した。しかし、溶接ワイヤ11に加熱電流を通電すると溶融がより円滑になるので、以下のようにしてミグアーク31を発生させない状態で電流を通電するようにしても良い。すなわち、溶接ワイヤ11の先端が溶融池21の表面に接触した常態になるようにワイや送給速度Fwを調整する。さらに、ミグ溶接電圧Vwmをアークが発生しない低い値に設定する。その上で、加熱電流としてミグ溶接電流Iwmを通電する。このとき、ミグ溶接電源PSMを定電流特性又は垂下特性に制御することによって、加熱電流を所定値に制御することができ、溶接ワイヤ11の溶融状態を安定化することができる。
【0022】
上記において、プラズマ溶接モードの代わりにミグ溶接モードを設けることも考えられる。このミグ溶接モードでは、プラズマアーク32は発生しないでミグアーク31のみが発生する。すなわち、通常のミグ溶接と同一となる。しかし、ミグ溶接では、スパッタが発生するために高品質なビード外観を得ることは難しい。したがって、本発明のプラズマ溶接モードの代わりにミグ溶接モードを設けることはできない。
【0023】
上述した実施の形態によれば、効率化を要求される溶接個所を溶接するときはプラズマミグ溶接モードを使用し、溶け落ちが発生しやすい溶接個所を溶接するとき及び高品質なビード外観が要求される溶接個所を溶接するときはプラズマ溶接モードを使用することができる。このように、本実施の形態では、溶接個所の要求品質に応じた溶接方法を1つの溶接装置で行うことができる。プラズマ溶接モードでは、熱源が1つになり、溶接ワイヤがプラズマアークによって溶融されるために、溶け落ちがしにくくなり、スパッタ発生も少量になる。このために、プラズマ溶接モードは、溶け落ちが発生しやすい溶接個所及び高品質なビード外観が要求される溶接個所に使用することができる。また、プラズマ溶接モードのときに、溶接ワイヤに加熱電流を通電することによって溶接ワイヤの溶融がより円滑になり、スパッタ発生がより少なくなると共に、さらにビード外観が高品質になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係るプラズマミグ溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るプラズマミグ溶接方法を示すタイミングチャートである。
【図3】プラズマ溶接モードを選択したときの溶接状態を示す図である。
【図4】従来技術におけるプラズマミグ溶接方法を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
2 母材
4 溶接トーチ
5 送給ロール
11 溶接ワイヤ
12 プラズマ電極
21 溶融池
31 ミグアーク
32 プラズマアーク
41 給電チップ
42 プラズマノズル
43 シールドガスノズル
61 ミグガス
62 プラズマガス
62 シールドガス
Fc 送給制御信号
Fw ワイヤ送給速度
If インターフェース信号
Iwm ミグ溶接電流
Iwp プラズマ電流
Ms 溶接モード選択信号
PLC シーケンス制御装置
PSM ミグ溶接電源
PSP プラズマ溶接電源
St 溶接開始信号
Vwm ミグ溶接電圧
Vwp プラズマ電圧
WM ワイヤ送給モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドガスを吐出するためのシールドガスノズル内に配置された溶接ワイヤ及びプラズマ電極を備えた溶接トーチを用い、前記溶接ワイヤによるミグアーク及び前記プラズマ電極によるプラズマアークを同時に発生させて溶接するプラズマミグ溶接方法において、
溶接モード選択信号を設け、
この溶接モード選択信号がプラズマミブ溶接モードであるときは前記プラズマアーク及び前記ミグアークを同時に発生させる前記プラズマミグ溶接を行い、
前記溶接モード選択信号がプラズマ溶接モードであるときは前記プラズマアークを発生させると共に前記ミグアークは発生させないで前記溶接ワイヤのみを送給し、この溶接ワイヤを前記プラズマアークによって溶融しながら溶接を行う、
ことを特徴とするプラズマミグ溶接方法。
【請求項2】
前記プラズマ溶接モードのときは前記溶接ワイヤを溶融池に接触させて加熱電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマミグ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−208137(P2009−208137A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55682(P2008−55682)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】