説明

プラズマ用電源装置

【課題】 省電力化を図ることができるプラズマ用電源装置を得る。
【解決手段】 交流電源1および全波整流回路2によりトランス5の1次巻線51に電源を供給する。1次巻線51はスイッチング素子3でスイッチングされ、このスイッチング素子3は制御部4によって制御される。制御部4は、トランス5の3次巻線53で発生する電圧、電流を入力し、この値に基づき、トランス5の2次巻線52の振幅と周波数の少なくとも一方が変化するよう、スイッチング素子3のベース電流を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、プラズマを用いた脱臭装置等に用いられるプラズマ用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、プラズマ放電を用いて、脱臭や除菌といった機能を実現する装置が広く用いられている。このような装置は、電極間に高電圧を印加し、プラズマ放電を発生させることによって、空気中に含まれる臭気物質やTVOC(総揮発性有機化合物)等の分子を分解して脱臭や除菌を行うものである。
従来、このような装置では、電極には高周波が供給されていた(例えば、特許文献1参照)。これは、高周波を供給することによってプラズマ放電効率を向上させるためである。
【0003】
【特許文献1】特開平9−247945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高周波発振させることで、例えば、電源から電極までの配線の静電容量や電極自体の静電容量により電源のエネルギ(電流、電圧)がロスし、プラズマエネルギとして伝わりにくいといった問題があり、このようなことから、電源が大容量化、大型化、大電力化せざるを得ないという問題があった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、省電力化を図ることができるプラズマ用電源装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るプラズマ用電源装置は、プラズマを発生させるための電極に高周波を供給すると共に、高周波の振幅を所定の振幅範囲内で連続的に変化させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明のプラズマ用電源装置は、振幅を連続的に変化させた高周波を出力するようにしたので、エネルギ効率を向上させ、省電力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるプラズマ用電源装置を示す構成図である。
図示のプラズマ用電源装置は、交流電源1、全波整流回路2、スイッチング素子3、制御部4、トランス5からなり、この出力がバリア電極6に供給されるようになっている。
交流電源1は、例えば50Hzの商用交流電源といった交流電源である。全波整流回路2は、交流電源1の電流を全波整流するための整流回路である。スイッチング素子3は、例えばトランジスタであり、そのコレクタがスイッチング素子3の1次巻線51に、ベースが制御部4に、エミッタがトランス5の3次巻線53にそれぞれ接続されている。制御部4は、トランス5の3次巻線53の電圧、電流に基づいて、スイッチング素子3のベース電流を制御してバリア電極6に供給される信号の振幅や周波数を変化させる機能を有している。トランス5は、2次巻線52に接続されたバリア電極6に対して高電圧を供給するためのトランスであり、1次巻線51、2次巻線52、3次巻線53を備えている。1次巻線51は、全波整流回路2の出力が供給される1次側の巻線である。また、3次巻線53には制御部4が接続されている。バリア電極6は、バリア放電によりプラズマを発生させるための電極である。
【0009】
図2および図3は、それぞれ電極の一例を示す断面図である。尚、これらの図において、矢印は空気の流れ方向を示している。
図2に示す電極は、断面が円形状の高圧側電極61と接地側電極62を有している。また、ステンレス等からなるワイヤ状の高圧側電極61は、ガラス等の誘電体63で被覆されている。
【0010】
また、図3に示す電極は、断面が円形状の高圧側電極64と、平板状の接地側電極65とからなり、接地側電極65の両面に誘電体66が設けられている。また、高圧側電極64は、ワイヤ状に形成され、一対の接地側電極65で形成される空間内に位置するよう配設されている。
【0011】
次に、実施の形態1の動作について説明する。
交流電源1の電流は、全波整流回路2によって全波整流され、これが制御部4に供給される。これにより制御部4がスイッチング素子3を駆動すると、1次巻線51を介してスイッチング素子3のコレクタからエミッタに電流が流れる。1次巻線51に電流が流れることにより、2次巻線52に電圧、電流が発生する。そして、2次巻線52に電圧、電流が発生することにより、3次巻線53に電圧、電流が発生し、これが制御部4に入力される。制御部4は、3次巻線53の電圧、電流に基づいてスイッチング素子3をオン/オフさせ、バリア電極6に印加される信号の振幅(出力電圧)や周波数を変化させる。
【0012】
図4は、振幅を変化させた場合の波形図である。
図示例は、例えば、バリア電極6に印加される信号として、10kHzの基本波を50Hzで振幅変化させた場合を示している。このように振幅を変化させる場合、制御部4は、2次巻線52から取り出される出力電圧が変化するよう、スイッチング素子3のオン/オフ制御を行う。これにより、出力電圧が放電期間(図中、Aで示す)と、休止期間(図中、Bで示す)の繰り返しとなり、放電に強弱が発生する。このような信号をバリア電極6に与えた場合、定電圧波形の信号を与えるよりも、消費電力あたりの脱臭、除菌効率が向上する。これは、休止期間では放電が休止状態(あるいは放電しにくい状態)であるため、この休止期間には、イオン化されていない気体がバリア電極6に対して供給され易くなり、そして、このような気体がバリア電極6に供給された状態で、放電開始時の高いエネルギを持つプラズマ放電が行われることから、効率的な分解処理が行われ易くなるためであると考えられている。更には、休止期間の存在により誘電体の発熱を防止することが出来る。
【0013】
図5は、周波数を変化させた場合の波形図である。
図示例は、例えば、バリア電極6に印加される信号として、5〜30kHzの範囲で周波数変化させた場合を示している。このように周波数を変化させる場合、制御部4は、2次巻線52から取り出される出力の周波数が変化するよう、スイッチング素子3のオン/オフ制御を行う。このような周波数の変化によっても放電に強弱が発生するため、上述した振幅変化の場合と同様の効果を得ることができる。また、出力信号には種々の周波数が含まれているため、例えば、電源から電極までの静電容量やバリア電極6自体の静電容量によって、共振周波数が存在し、これが出力周波数に一致することで出力がほとんど出なくなってしまうといった問題も回避することができる。更に、どのような成分の気体に対しても安定したプラズマ放電を発生させることができる。即ち、脱臭、除菌装置の場合、流入する気体には様々な成分が含まれているため、その成分とバリア電極6に印加する周波数との組み合わせによっても、プラズマ放電が発生しない(発生しにくい)場合が発生する。このような場合でも、出力信号には種々の周波数が含まれているため、このような問題を回避できると共に、どのような成分を含んでいても、必ず、その流入気体の成分に最適な周波数を含んでいるため、効率良く脱臭、除菌を行うことができる。
【0014】
尚、上記の、変化させる振幅範囲および変化させる周波数範囲は、実装される装置の条件等に基づき、基準振幅(基準出力電圧)および基準周波数を中心としてその範囲を適宜設定する。
また、上記実施の形態1では、振幅と周波数をそれぞれ単独に変化させる例を説明したが、制御部4によって、振幅と周波数の両方を変化させるようにしてもよい。
【0015】
以上のように、実施の形態1のプラズマ用電源装置によれば、プラズマを発生させるための電極に高周波を供給すると共に、高周波の振幅を所定の振幅範囲内で連続的に変化させるようにしたので、プラズマの発生効率を向上させることができるため、低消費電力化を図ることができる。
【0016】
また、実施の形態1のプラズマ用電源装置によれば、プラズマを発生させるための電極に高周波を供給すると共に、高周波の周波数を所定の周波数範囲内で連続的に変化させるようにしたので、プラズマの発生効率を向上させ、低消費電力化を図ることができると共に、電源から電極までの静電容量や電極自体の静電容量の影響を軽減させることができる。
【0017】
また、実施の形態1のプラズマ用電源装置によれば、プラズマを発生させるための電極に高周波を供給すると共に、高周波の振幅を所定の振幅範囲内で連続的に変化させると共に、その周波数を所定の周波数範囲内で連続的に変化させるようにしたので、更に多様なエネルギ準位のプラズマを発生させることができ、その結果、より低消費電力化を図ることができる。
【0018】
更に、このような効果について、数値を示して説明する。
図6は、本実施の形態の効果を示す説明図である。
図示例は、上述した図2および図3の電極に、定電圧の高周波電源を加えた場合と、図4に示すような高周波の振幅を所定の振幅範囲内で連続的に変化させた場合のオゾン発生濃度を比較して示している。尚、測定の条件として、空間速度(SV)=480000h-1とし、高周波電源として10kHzを使用した場合を示している。
【0019】
図示の結果から明らかなように、例えば、図2の電極では、定電圧電源で電力30Wの場合のオゾン発生量は0.02ppmであるのに対し、振幅を変化させた高周波電源(図4に示す波形の電源)では、0.03ppmのオゾン発生量が得られ、150%の効率向上が得られている。また、図3の電極では、電極と電源とのマッチングが考慮されることから、定電圧電源で電力30Wの場合のオゾン発生量は1.3ppmであるのに対し、振幅を変化させた高周波電源では、3.5ppmのオゾン発生量が得られ、270%もの効率向上が得られている。このように、本実施の形態では、図2に示す電極の構成で132〜150%の効率向上、図3に示す電極の構成で145〜270%の効率向上の効果が得られている。
【0020】
以上のように、本実施の形態における振幅を変化させた高周波電源では、例えば図3の電極の場合、電力50Wでの効率向上が145%に対して、電力30Wでの効率向上は270%得られており、このような点からも本実施の形態の構成が低消費電力で大きな効果が得られることが分かる。
【0021】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2のプラズマ用電源装置を示す構成図である。
図示のプラズマ用電源装置は、交流電源1、全波整流回路2、スイッチング素子3、制御部4a、トランス5、コンデンサ7からなる。ここで、コンデンサ7は、トランス5の1次巻線51と並列接続され、1次巻線51と共にLC共振回路を構成するコンデンサである。制御部4aは、スイッチング素子3のベース電流を制御することにより出力信号の振幅と周波数を変化させると共に、スイッチング素子3のエミッタ電流の電流制御を行う機能を有している。これら以外の構成は実施の形態1の構成と同様であるため、対応する部分に同一符号を付してその説明を省略する。
【0022】
次に、実施の形態2の動作について説明する。
図8は、実施の形態2におけるバリア電極6に供給される信号の波形図である。
先ず、全波整流回路2を介して電圧が制御部4aに印加されることにより、制御部4aは、スイッチング素子3を駆動する。これにより、トランス5の1次巻線51を介してスイッチング素子3のコレクタからエミッタに電流が流れる。1次巻線51に電流が流れることにより、2次巻線52に電圧、電流が発生し、これにより、3次巻線53に電圧、電流が発生する。制御部4aでは3次巻線53の電圧、電流の状態により、出力電圧や周波数を変化させる制御や、スイッチング素子3のエミッタ電流により電流制御を実施する。
スイッチング素子3をオン/オフさせることで1次巻線51に起電力、逆起電力を発生させ、コンデンサ7の充電、放電が繰り返し発生する(LC共振)。これにより、2次巻線52に電圧、電流が発生する。
【0023】
例えば、交流電源1として商用交流50Hzの全波整流の脈流波形を入力した場合、電圧の波高値は変動する。電圧が低いときは出力も低く、電圧が高くなると出力も高くなる。これにエミッタ電流の電流制御を設けると、電圧が低いときは電流制限がかからないため低周波出力、電圧が高くなるとエミッタ電流も大きくなるため、電流制限により強制的にスイッチング素子3がオフされ、高周波出力となる。このような制御により、例えば、図4の波形と図5の波形を組み合わせた波形、即ち、10kHzの基本波を50Hzで振幅変化させた波形を、更に、5〜30kHzの範囲で周波数変化させた波形を得ることができる。
【0024】
以上のように、実施の形態2のプラズマ用電源装置によれば、プラズマを発生させるための電極に高周波を供給すると共に、高周波の振幅を所定の振幅範囲内で連続的に変化させると共に、その周波数を所定の周波数範囲内で連続的に変化させるようにしたので、更に多様なエネルギ準位のプラズマを発生させることができ、その結果、より低消費電力化を図ることができる。また、プラズマを発生させるための電極に高周波を供給する手段としてLC共振を用いたので、簡単な構成で所望の性能を得ることができる効果がある。
【0025】
尚、上記実施の形態1、2では、交流電源1と全波整流回路2を用いて電源を供給するようにしたが、DC電源であってもよく、また、全波整流回路2の代わりに半波整流回路を用いてもよい。
また、上記実施の形態1、2では、プラズマの用途として、脱臭や除菌に適用する例を説明したが、これに限定されるものではなく、プラズマを用いて分子レベルの分解処理を行う装置であれば、種々の装置に対して適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態1によるプラズマ用電源装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるプラズマ用電源装置が電源供給する電極の一例(その1)を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1によるプラズマ用電源装置が電源供給する電極の一例(その2)を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1によるプラズマ用電源装置で振幅を変化させた場合の波形図である。
【図5】この発明の実施の形態1によるプラズマ用電源装置で周波数を変化させた場合の波形図である。
【図6】この発明の実施の形態1によるプラズマ用電源装置の効果を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2によるプラズマ用電源装置を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態2によるプラズマ用電源装置の出力波形を示す波形図である。
【符号の説明】
【0027】
1 交流電源
2 全波整流回路
3 スイッチング素子
4,4a 制御部
5 トランス
6 バリア電極
7 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを発生させるための電極に高周波を供給すると共に、前記高周波の振幅を所定の振幅範囲内で連続的に変化させるプラズマ用電源装置。
【請求項2】
プラズマを発生させるための電極に高周波を供給すると共に、前記高周波の周波数を所定の周波数範囲内で連続的に変化させるプラズマ用電源装置。
【請求項3】
高周波の周波数を所定の周波数範囲内で連続的に変化させることを特徴とする請求項1記載のプラズマ用電源装置。
【請求項4】
プラズマを発生させるための電極に高周波を供給する手段として、LC共振を用いたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のプラズマ用電源装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−271033(P2006−271033A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82125(P2005−82125)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【出願人】(000004569)日本たばこ産業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】