説明

プラテン及び該プラテンを備えた記録装置と液体噴射装置

【課題】 被記録媒体の浮き上がりを抑えて高品位な四面縁無し記録を行うことができるプラテン、及び、該プラテンを備えた記録装置と液体噴射装置を提供することにある。
【解決手段】 本発明に係るプラテン163は、インク滴を打ち捨てる為の横溝穴165aが記録用紙300の搬送方向の上流側に形成され、記録用紙300の浮き上がりを抑える複数の吸引孔167が下流側に設けられていることを特徴とする。これにより、記録用紙300の四辺縁無し記録において、打ち捨てられたインク滴を横溝穴165a内に収容し、更に、搬送方向の下流側に設けられた複数の吸引孔167により記録用紙300の浮き上がりを防止するので、記録用紙300の四辺縁無し記録を行う場合でも、記録むらや記録用紙の汚れの発生を防止して高品位な記録を得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置や液体噴射装置において媒体を支持するプラテンに関する。また、本発明は、該プラテンを備えた記録装置と液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、記録装置の1つであるインクジェット式プリンタは、被記録媒体の1つとしての記録用紙の記録面と対向する面に、記録用紙に向かってインクを吐出する複数のノズル列(インク吐出領域)を有する記録ヘッドと、記録用紙を支持して該記録ヘッドに対する記録用紙の位置を規定するプラテンとを有する。一般に、インクジェット式プリンタにおける該プラテンの記録ヘッドと対向する面(以下「プラテン面」と言う)には、記録用紙の搬送方向(以下、「副走査方向」という)に延びるリブが搬送直角方向(以下、「主走査方向」という)に一定間隔をもって複数配列されている。記録用紙への記録では、記録用紙が複数の該リブに支持された状態でノズル列から記録装置にインク滴が吐出される。
【0003】
ここで、記録用紙の四辺端部に余白無く記録を行う(以下、「四辺縁無し記録」という)為に、記録用紙の端部からインク滴を打ち捨てる為の溝穴をプラテン面に形成させたプラテン、及び、該プラテンを備えたインクジェット式記録装置が、例えば、特許文献1に記載されている。このインク滴を打ち捨てる為の溝穴を形成させずに縁無し記録を行うと、記録用紙の端部から外れて打ち捨てられたインク滴がプラテン面に付着し、該インク滴が記録用紙に再付着して記録用紙を汚したり、或いは、プラテン面にインク滴が着弾することによってインクミストが発生し、該インクミストが記録面又は記録ヘッドに付着し、記録品質を低下させる等の問題が生じる。そこで、プラテン面にインク滴を打ち捨てる為の溝穴を形成させて、記録用紙の端部から外れたインク滴を該溝穴内部に打ち捨てることにより、上述した不具合を防止して記録用紙の四辺縁無し記録を可能としている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−191499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なインクジェット式プリンタでは、記録用紙に例えばベタ画像等のように多数のインク滴が吐出される画像が記録された場合、記録用紙が多量のインクを吸収して記録後に記録用紙の搬送直交方向(主走査方向)に波打って記録ヘッド側に膨らむ、いわゆるコックリングが発生する場合がある。そして、このコックリングが発生して発達すると、記録用紙の記録面と記録ヘッドのノズル形成面との間隔が不均一になり、インク滴の飛翔距離がばらつくことにより記録むらが生じ、或いは、記録用紙が記録ヘッドに接触して汚れてしまう不具合が生じる。
【0006】
特許文献1に記載されたインクジェット式記録装置では、上述したようにプラテン面にインク滴を打ち捨てる為の溝穴を形成させて四辺縁無し記録を実行可能としているが、該四辺縁無し記録において記録用紙の上端部又は下端部を記録する場合、記録される記録用紙の上端部又は下端部が搬送ローラより外れているので、記録用紙の記録される部分が浮き上がりやすい。特に、記録用紙の下端部を記録する場合に当該問題が生じやすく、上述したコックリングの発生により、記録むらや記録用紙の汚れを生じる虞がある。
【0007】
また、インクミストの吸引により、インクミストの発生を防止することが可能であるが、ヘッドより記録面に向けて発射されたインク滴の飛翔方向に影響を及ぼす虞が生じる。
【0008】
本発明は、上記のような種々の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、被記録媒体の浮き上がり及びインク滴の飛翔方向の影響を抑えて高品位な四辺縁無し記録を行うことができるプラテン、並び、該プラテンを備えた記録装置と液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明のプラテンでは、媒体に液滴を吐出するヘッドと対向して設けられ、前記媒体の端部から外れた前記液滴が打ち捨てられる第1の溝穴が前記ヘッドと対向する面に形成されているプラテンであって、前記第1の溝穴は、前記媒体の搬送方向の上流側に、搬送直交方向に延びて形成され、更に、前記媒体を吸引する吸引孔が、前記媒体の搬送方向の下流側に設けられていることを特徴としている。これにより、搬送直交方向に延びる前記第1の溝穴が前記媒体の搬送方向の上流側に設けられ、前記第1の溝穴内部に打ち捨てられた液滴を収容するので、四辺縁無し記録が可能である。そして、前記媒体の浮き上がりを抑える吸引孔が前記媒体の搬送方向の下流側に設けられているので、四辺縁無し記録を行う場合でも前記媒体の浮き上がりを抑え、記録むらや記録用紙の汚れの発生を防止して高品位な記録を得ることが可能である。
【0010】
また、本発明のプラテンでは、前記媒体の搬送方向に延びるリブが搬送直角方向に所定の間隔をもって複数配列され、前記吸引孔が該リブ頂面に設けられていることを特徴としている。これにより、媒体の搬送方向に延びる複数のリブが媒体に発生したコックリングを吸収し、該リブ頂面に設けられた前記吸引孔が媒体の浮き上がりを確実に抑えることができる。
【0011】
また、本発明のプラテンでは、前記媒体の搬送方向に延びるリブが搬送直角方向に所定の間隔をもって複数配列され、前記吸引孔が前記リブ間の凹部に設けられていることを特徴としている。これにより、媒体の搬送方向に延びる複数のリブが媒体に発生したコックリングを吸収し、前記リブ間の凹部に設けられた前記吸引孔が媒体の浮き上がりを確実に抑えることができる。
【0012】
また、本発明のプラテンでは、前記第1の溝穴は傾斜面を有することを特徴としている。これにより、打ち捨てられた液滴を確実に収容することができる。更に、打ち捨てられた液滴の跳ね返りによる記録品質の低下を防止することができる。
【0013】
また、本発明のプラテンでは、前記第1の溝穴が前記媒体を吸引する機能を有することを特徴としている。これにより、前記第1の溝穴が前記媒体を吸引するので、媒体の浮き上がりをより確実に抑えることができる。
【0014】
また、本発明のプラテンでは、前記媒体の側端に合わせた第2の溝穴が前記第1の溝穴に形成されていることを特徴としている。これにより、前記媒体の側端部の記録において、前記媒体の側端部より外れて打ち捨てられた液滴を前記第2の溝穴内に収容させる。
【0015】
また、本発明のプラテンでは、前記第2の溝穴は、前記第1の溝穴の両端部から搬送方向に延びて形成され、前記各溝穴の内側領域に前記吸引孔が設けられていることを特徴としている。これにより、前記各溝穴により四辺縁無し記録を確実に行い、前記各溝穴の内側領域に設けられた前記吸引孔により媒体の浮き上がりを確実に防止することができる。更に、インクミストの吸引による、記録ヘッドから記録面に向けて発射されたインク滴の飛翔方向に影響なくインクミストの回収が可能である。
【0016】
また、本発明のプラテンでは、上記の各溝穴と各吸引孔とが、搬送直交方向に複数並設されていることを特徴としている。これにより、大きさの異なる複数の媒体に対応した記録を行うことができる。
【0017】
また、本発明のプラテンでは、前記第2の溝穴は傾斜面を有することを特徴としている。これにより、打ち捨てられた液滴を確実に収容することができる。
【0018】
上記目的達成のため、本発明の記録装置では、被記録媒体に液滴を吐出して記録する記録装置であって、上記各プラテンを備えたことを特徴としている。また、上記目的達成のため、本発明の液体噴射装置では、被噴射媒体に液体を噴射する液体噴射装置であって、上記各プラテンを備えたことを特徴としている。これにより、上記各作用効果を奏する記録装置または液体噴射装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るプラテンの一実施形態として、記録装置の1つであるインクジェット式プリンタに用いられているプラテンについて、図1乃至図6を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
図1は、本実施形態に係るインクジェット式プリンタ100の外観構成の全体を斜め前方から見た斜視図である。先ず、インクジェット式プリンタ100の概略より説明する。
【0021】
このインクジェット式プリンタ100は、例えばJIS規格のA4判からJIS規格のA2判といった比較的大型のサイズのいわゆるカットされた用紙及びロール状の用紙に記録できる卓上型の大型のプリンタであり、全体が幅方向(図1の左右方向)に長く延びる略直方体状のハウジング101で覆われている。
【0022】
このハウジング101の上面には、矩形状の窓部102が形成されている。この窓部102は、透明もしくは半透明の窓カバー103によって覆われている。窓カバー103は、その上部の回動軸を中心に図示矢印A方向に回動可能に取り付けられている。ユーザは、窓カバー103の下部を持ち上げて窓部102を開放することにより、窓部102を通して内部機構のメンテナンス作業等を行うことができる。
【0023】
ハウジング101の前面両側には、複数のインクカートリッジが抜き差しされるカートリッジ収納部104、104がそれぞれ形成されている。各インクカートリッジは、記録用の各色のインクを貯留している。各カートリッジ収納部104は、透明もしくは半透明のカートリッジカバー105、105によって覆われている。カートリッジカバー105は、その下部の回動軸を中心に図示矢印B方向に回動可能に取り付けられている。ユーザは、カートリッジカバー105を軽く押して係止部を外しカートリッジ収納部104を開放することにより、インクカートリッジの交換作業等を行うことができる。
【0024】
ハウジング101の前面右側のカートリッジ収納部104の上部には、プリンタ動作を指示する操作部110が配設されている。操作部110は、パワーをオン・オフするパワー系、用紙の頭出し等を操作したりインクのフラッシング等を操作する操作系、画像処理等を行う画像処理系等のボタン111と、状態を表示する液晶パネル112等を備えている。ユーザは、液晶パネル112を見て確認しながらボタン111を操作することができる。
【0025】
ハウジング101の前面右側のカートリッジ収納部104の下部には、廃液タンク120が抜き差しされるタンク収納部106が形成されている。この廃液タンク120は、記録ヘッド162(図2参照)のクリーニング処理時やインクカートリッジの交換時に廃棄された廃インク、或いは、縁無し記録において打ち捨てられたインク滴が回収された廃インク等を貯留する。ユーザは、廃液タンク120を引き出すことにより、内部に溜まっている廃インクの廃棄作業等を行うことができる。
【0026】
ハウジング101の背面には、ロール状の用紙を給紙する給紙部130が上部後方に突き出るように配設されている。給紙部130の内部には、1本のロール状の用紙がセット可能な図示しないロール紙ホルダが配設され、給紙部130の前面には、跳ね上げ式の開閉可能なロール紙カバー131が図示しないロール紙ホルダを覆うように取り付けられている。ユーザは、ロール紙カバー131を持ち上げて給紙部130を開放することにより、ロール状の用紙の取り付け・取り外し作業等を行うことができる。なお、ロール紙カバー131の上面は、カットされた用紙を手差しで給紙案内することが可能な給紙案内面に形成されている。
【0027】
ハウジング101の前面中央、すなわち一対のカートリッジ収納部104、104の間には、記録前のカットされた用紙、及び、記録後のカットされた用紙又はロール状の用紙を積載する給排紙トレイ200が抜き差しされる給排紙部140が形成されている。なお、この給排紙部140は、搬送時に折り曲げることが不可能な厚手の用紙を手差しで給紙することが可能なようにも形成されている。
【0028】
この給排紙部140には、給排紙トレイ200の前部(図1では記載されていない部分)が差し込まれ、給排紙トレイ200の後部(図1で記載されている部分)が突き出るようにして固定される。給排紙トレイ200は、カセット型に形成されており、内部に記録前の給紙されるカットされた用紙が積層収納され、上部に記録後の排紙されるカットされた用紙またはロール状の用紙が積層載置されるようなっている。
【0029】
図2は、図1のインクジェット式プリンタ100の内部構成の概略を示す断面側面図である。ハウジング101内には、給排紙部140と、搬送部150と、本発明に係るプラテン163を含む記録部160等が配設されている。図3は、記録部160の周辺の要部を拡大して示す断面側面図である。以下、図2及び図3を参照してインクジェット式プリンタ100の内部構成について説明する。
【0030】
図2に示すように、給排紙部140には、カットされた用紙を給紙するためのホッパ141、給紙ローラ142及び分離部143等が配設されている。
【0031】
ホッパ141は、カットされた用紙が載置可能な平板状に形成されており、一端が給紙ローラ142と分離部143の近傍に位置し、他端が装着されている給排紙トレイ200の給紙部210の底面に近接して位置するように配設されている。そして、ホッパ141は、一端側の裏面にハウジング101の底面に一端が取り付けられた圧縮バネ144の他端が取り付けられており、この圧縮バネ144の伸縮により他端側を中心に一端側が旋回するように配設されている。
【0032】
給紙ローラ142は、断面の一部が切り欠かれたD字状に形成されており、間欠的に回転してホッパ141上のカットされた用紙を摩擦搬送するようになっている。分離部143は、給紙ローラ142によりカットされた用紙が重送されたときに下層のカットされた用紙を最上層のカットされた用紙から摩擦分離するようになっている。
【0033】
搬送部150には、用紙を搬送するためのサブローラ151とその従動ローラ152a、152b、152c、紙送りローラ153とその従動ローラ154、排紙ローラ155とギザローラ156及び用紙を検知する検知センサ157a、157b等が配設されている。サブローラ151は、給紙トレイ210から給紙されるカットされた用紙を排紙トレイ230に排紙するために、カットされた用紙を従動ローラ152a、152b、152cとともに挟持してU字状に反転搬送させるようになっている。また、サブローラ151は、給紙部130から給紙されるロール状の用紙を排紙部230に排紙するために、ロール状の用紙を従動ローラ152cとともに挟持して搬送させるようになっている。
【0034】
紙送りローラ153は、反転搬送されてきたカットされた用紙もしくは給紙されてくるロール状の用紙を従動ローラ154とともに挟持して本発明に係るプラテン163へ送り出すようになっている。排紙ローラ155は、このプラテン163を通過してくる用紙をギザローラ156とともに挟持して排紙トレイ230上へ排紙するようになっている。検知センサ157aは、給紙されてくるカットされた用紙のスキュー取りの際の搬送量を検知するようになっている。検知センサ157bは、反転搬送されてくるカットされた用紙もしくは搬送されてくるロール状の用紙の頭出しの際の搬送量を検知するようになっている。
【0035】
次に、図2及び図3に示す記録部160には、キャリッジ161、記録ヘッド162、本発明に係るプラテン163、圧力部169等が配設されている。キャリッジ161は、図示しないキャリッジベルトに連結されており、図示しないキャリッジ駆動装置によってキャリッジベルトが作動すると、キャリッジベルトの動きに連行され、図示しないガイド軸に案内されて主走査方向(図2及び図3における紙面に対する垂直方向)に往復移動する。
【0036】
記録ヘッド162は、キャリッジ161の下部においてプラテン163の上面に供給されるカットされた用紙又はロール状の用紙(以下、「記録用紙300」という)と所定の間隔(ギャップ)を有して対向するように配設されており、例えば2種類のブラックインクを吐出する複数のブラックインク用ノズルと、イエロー、ダークイエロー、シアン、ライトシアン、マゼンタ、ライトマゼンタの6色のインクをそれぞれ吐出する複数のカラーインク用ノズルとを備える。これらのノズルにより、複数のノズル列(インク吐出領域)が記録ヘッド162に形成される。そして、記録ヘッド162の各ノズルは、図示しない圧力発生室に繋がれており、圧力発生室内にインクを貯留して所定圧で加圧することにより、複数のノズルから記録用紙300に向けてコントロールされた大きさのインク滴が吐出される。
【0037】
本発明に係るプラテン163は、記録可能な最大用紙幅より若干大きい長さの矩形平板状に形成されており、記録ヘッド162と対向するように配設されている。なお、本発明に係るプラテン163については、後で詳細に説明する。
【0038】
プラテン163の下方には圧力部169が配設されている。圧力部169は、プラテン163に穿設された後述する複数の吸引孔167(図4参照)と連通し、図示しないファンを備える。圧力部169に設けられたファンを回転させることにより、プラテン163に設けられた吸引孔167から圧力部169内に吸気がされ、吸気された空気はファンを通って外部に排気される。これにより、プラテン163の上面に記録用紙300が供給されると、記録用紙300の下面側に負圧が発生するので、記録用紙300をプラテン163の上面に吸着させて記録用紙300の浮き上がりを防止することができ、記録精度を高精度に維持することができる。
【0039】
次に、本発明に係るプラテン163について図4乃至図6を参照して詳細に説明する。
【0040】
図4は、本発明の一の実施形態に係るプラテン163を示す平面図である。図5は、図4のX−X線矢視図であって、プラテン163の第1の断面を示す側断面図である。図6は、図4のY−Y線矢視図であって、プラテン163の第2の断面を示す側断面図である。
【0041】
図4に示すように、プラテン163は主走査方向(図4における左右方向)に延びた略矩形平板状に形成されている。プラテン163の記録ヘッド162と対抗する側(プラテン面)には、四辺縁無し記録の際に記録用紙300の端部から外れたインク滴を打ち捨てる為の横溝穴165a(第1の溝穴)が主走査方向に延びて形成されている。図4に示す矢印Aは記録用紙300が搬送される方向を示しており、すなわち、横溝穴165aは記録用紙300の搬送方向の上流側に形成されている。
【0042】
また、この溝穴165は、その左右の端部付近が屈曲して更に記録用紙300の搬送方向にそれぞれ延びて、左溝穴165b(第2の溝穴)、右溝穴165c(第2の溝穴)を形成している。横溝穴165aは、主に、記録用紙300の上端部及び下端部の縁無し記録の際に記録用紙300の上下端部から外れて打ち捨てられたインク滴を収容する。これに対し、左溝穴165b及び右溝穴165cは、記録用紙300の側端部の縁無し記録の際に記録用紙300の左右端部から外れて打ち捨てられたインク滴を収容する。
【0043】
また、溝穴165(横溝穴165a、左溝穴165b、右溝穴165c)の搬送方向上流側には、打ち捨てられたインク滴を集めて回収する回収部166が複数配設されている。回収部166は、図5及び図6に示すように鉛直下方向に延びる廃インク(インク滴の集まり)の通路であって、溝穴165に打ち捨てられたインク滴は回収部166を介して廃液タンク120(図1参照)に廃インクとして貯留される。
【0044】
プラテン163のプラテン面には、横溝穴165aを挟み記録用紙300の搬送方向に延びる複数のリブ164(上流リブ164a、下流リブ164b)が主走査方向(搬送直角方向)に所定の間隔をもって配列されている。リブ164は、主走査方向の断面が略台形状であって搬送方向にレール状に形成されている。
【0045】
そして、それぞれの下流リブ164bの頂面と、下流リブ164b間の凹部168の上面には、圧力部169に通じる吸引孔167が複数形成されている。図4に示すように、これらの複数の吸引孔167は、横溝穴165aより記録用紙300の搬送方向下流側に、主走査方向と平行に略直線状に配設されている。圧力部169は、前述したように、ファンを備え、該ファンを回転させることにより吸引孔167に負圧を発生させてプラテン163上の記録用紙300を下流リブ164bの頂面に吸着させて記録用紙300の浮き上がりを防止する。なお、本実施形態においては、下流リブ164bの頂面と凹部168の上面に吸引孔167を形成させているが、凹部168の上面には形成させず、下流リブ164bの頂面にのみ吸引孔167を形成させてもよい。
【0046】
図5に示すように、横溝穴165aは傾斜面165dを含み、該傾斜面165dは回収部166に連設されている。横溝穴165aに打ち捨てられたインク滴は傾斜面165dに沿って下方向へ集まり回収部166を介して廃液タンク120に貯留される。横溝穴165aは、主に記録用紙300の上端部及び下端部の縁無し記録において打ち捨てられたインク滴を収容する。横溝穴165aに傾斜面165dが形成されていることにより、打ち捨てられたインク滴を確実に回収部166に集めることができ、更に、打ち捨てられたインク滴が横溝穴165aに落下した際に跳ね返って記録用紙300やプラテン163の上面を汚すことを防止する効果もある。
【0047】
回収部166は、横溝穴165aの記録用紙300の搬送方向(D方向)の上流側の深い位置に配設されている。回収部166が溝穴165に打ち捨てられたインク滴を直ちに回収して廃液タンク120に送るようにするために、回収部166にインク滴を吸引する機構を設けてもよい。しかし、インク滴の吸引により、四辺縁無し記録を行う場合に記録ヘッド162のノズルより記録用紙300の記録面に向けて発射されたインク滴の飛翔方向に影響を及ぼす虞が生じる。そこで、本実施形態では、回収部166は、横溝穴165aの記録用紙300の搬送方向(D方向)の上流側で更に深い位置に配設されている。これにより、インク滴を吸引する回収部166であっても、良好な縁無し記録を実現することができる。図5に示す記録用紙300は下端部の縁無し記録が行われている状態を示し、上述したように、回収部166は記録用紙300の下端部から遠い位置にあるので、回収部166においてインク滴を吸引させても記録用紙300の下端部の縁無し記録への影響を微少に抑えることができる。なお、インク滴を吸引する回収部166の機能を拡大させ、横溝穴165aが記録用紙300を吸引するようにしてもよい。例えば、横溝穴165aを搬送方向にしきる複数の壁を横溝穴165a内に設け、当該壁により仕切られた各横溝穴165aに記録用紙300を吸引させる。
【0048】
図6に示すように、右溝穴165cは搬送方向の下流側から上流側に下がった傾斜面を形成し、上流側端部において回収部166と連設されている。右溝穴165cは記録用紙300の基準となる右端部の縁無し記録において打ち捨てられたインク滴を収容する。右溝穴165cに打ち捨てられたインク滴は右溝穴165cの傾斜面に沿って搬送方向の上流側へ流れ回収部166を介して廃液タンク120に貯留される。
【0049】
また、図4に示す左溝穴165bも、右溝穴165cと同様に、搬送方向の下流側から上流側に下がった傾斜面を形成し、上流側端部において回収部166と連設されている。左溝穴165bは、記録用紙300の左端部の縁無し記録において打ち捨てられたインク滴を収容し、大きさの異なる記録用紙300の縁無し記録に対応できるように主走査方向の幅が右溝穴165cより大きく形成されている。
【0050】
次に、四辺縁無し記録時における本発明に係るプラテン163の機能について説明する。先ず、記録用紙300の上端部(先頭部)の縁無し記録について、図3を参照して説明する。上端部(先頭部)の縁無し記録では、紙送りローラ153とその従動ローラ154により記録用紙300がプラテン163と記録ヘッド162の間に搬送される(図3参照)。記録用紙300の下面がプラテン163のプラテン面に設けられた複数のリブ164(上流リブ164a)と当接し、記録用紙300はプラテン163と平行に支持される。そして、記録用紙300の上端部(先頭部)が横溝穴165a上の所定の位置まで搬送(図3参照)されると、記録ヘッド162が主走査方向(紙面に対する垂直方向)に移動を開始しつつノズルよりインク滴が吐出されて上端部の縁無し記録が行われる。記録用紙300の上端部より外れたインク滴は横溝穴165a内に打ち捨てられ回収部166を介して廃液タンク120に貯留される。
【0051】
また、記録用紙300を上流リブ164aの頂面に押し付ける為に、紙送りローラ153とその従動ローラ154とのニップ点は紙送りローラ153の回動中心からやや下流側に設定されている。これにより、記録用紙300は上流リブ164aの頂面に押し付けられる付勢力を受ける。そして、横溝穴165aはプラテン163の上流側に形成されており、横溝穴165aと紙送りローラ153(及び従動ローラ154)との距離は短いので、この紙送りローラ153と従動ローラ154とによる付勢力で、記録用紙300の上端部の縁無し記録における浮き上がりを防止することが可能である。
【0052】
次に、記録用紙300の下端部(最後部)の縁無し記録について図5を参照して説明する。下端部(最後部)の縁無し記録に近づくと、記録用紙300は紙送りローラ153とその従動ローラ154から外れ、図2に示す排紙ローラ155とギザローラ156により挟持される。そして、記録用紙300の下端部(最後部)が横溝穴165a上の所定の位置まで搬送(図5参照)されると、記録用紙300の下端部(最後部)の縁無し記録が行われる。記録用紙300の下端部より外れたインク滴は横溝穴165a内に打ち捨てられ回収部166を介して廃液タンク120に貯留される。
【0053】
また、記録用紙300の排出を行う排紙ローラ155とギザローラ156とのニップ点も排紙ローラ155の回動中心からやや上流側に設定されており、記録用紙300を下流リブ164bの頂面に押し付けるようにしている。しかし、ギザローラ156は記録用紙300の記録面に傷や汚れの原因を与える虞があるので、排紙ローラ155とギザローラ156による記録用紙300の挟持は紙送りローラ153と従動ローラ154による挟持より弱く、排紙ローラ155とギザローラ156とによるリブ164bの頂面への押し付けは十分ではない。また、記録後の記録用紙300にコックリングが発生し、主走査方向の波打ちがプラテン163に設けられた複数のリブ164により上手く吸収されないと、記録用紙300の記録面と記録ヘッド162のノズル面との間隔が不均一となり記録の品質が低下する。特に、下端部(最後部)の縁無し記録では、記録用紙300は紙送りローラ153とその従動ローラ154から外れているので、記録用紙300の下端部付近は上方向に反り返る虞が高い。
【0054】
そこで、本実施形態に係るプラテン163では、穿設された複数の吸引孔167が記録された記録用紙300を下から吸引して、記録用紙300を下流リブ164bの頂面に引き寄せる。これにより、記録用紙300の下端部(最後部)の縁無し記録においても、記録用紙300の浮き上がりを効果的に防止して、高品質の縁無し記録を得ることができる。また、コックリングの発生に対しても、主走査方向に複数配設された下流リブ164bの頂面と凹部168の上面に吸引孔167が配設されているので、コックリングによる主走査方向の波打ちを複数の下流リブ164bにより効果的に吸収することが可能となる。
【0055】
次に、記録用紙300の側端部の縁無し記録について図面を参照して説明する。紙送りローラ153とその従動ローラ154によりプラテン163の右溝穴165cを基準として記録用紙300が搬送される(図4参照)。すなわち、記録用紙300のサイズが異なれば、左溝穴165b上の記録用紙300の左端部の位置が異なる。そして、記録ヘッド162が記録用紙300の記録面から所定の間隔(ギャップ)を有して主走査方向に往復移動を繰り返しつつノズル列よりインク滴を吐出して、記録用紙300の側端部(左右端)を含む記録用紙300の全幅に渡る記録が行われる。記録用紙300の左右端より外れたインク滴は、左溝穴165b又は右溝穴165c内に打ち捨てられ、回収部166を介して廃液タンク120に貯留される。
【0056】
この時、記録用紙300は紙送りローラ153とその従動ローラ154により上流リブ164aの頂面に押し付けられており、更に、吸引孔167によっても下流リブ164bの頂面に引き寄せられている(図6参照)。これにより、記録用紙300の浮き上がりを効果的に防止して、記録用紙300と記録ヘッド162の間の間隔(ギャップ)を均一にすることができる。
【0057】
なお、記録用紙300の側端部の縁無し記録を横溝穴165a上で行うことも可能であるが、プラテン163に左溝穴165b、右溝穴165cを形成させることにより記録ヘッド162のインク吐出領域(複数のノズル列)を広く設けることができるので、インクジェット式プリンタ100の記録速度を増加させることが可能である。
【0058】
また、本実施形態に係るプラテン163の構成(溝穴165、吸引孔167、リブ164等)を主走査方向(記録用紙300の搬送直角方向)に複数並設させたプラテンとすれば、更に多くのサイズの記録用紙300に対応させることが可能となる。
【0059】
以上、本発明の一の実施形態について説明したが、本発明によれば、主走査方向(搬送直交方向)に延びる溝穴165が記録用紙300の搬送方向の上流側に設けられ、溝穴165内に打ち捨てられたインク滴を収容するので、四辺縁無し記録が可能である。更に、記録用紙300の浮き上がりを抑える吸引孔167が記録用紙300の搬送方向の下流側に複数設けられているので、記録用紙300の四辺縁無し記録を行う場合でも記録用紙300浮き上がりを効果的に抑え、記録むらや記録用紙の汚れの発生を防止して高品位な記録を得ることができる。
【0060】
また、本発明によれば、記録用紙300の搬送方向に延びるリブ164が主走査方向(搬送直角方向)に所定の間隔をもって複数配列され、吸引孔167が下流リブ164bの頂面に設けられているので、複数の下流リブ164bにより記録用紙300に発生したコックリングを効果的に吸収することができる。
【0061】
また、本発明によれば、溝穴165は、主走査方向(搬送直交方向)に延びる横溝穴165aと、搬送方向に延びる左溝穴165b及び右溝穴165cとを含み、この左溝穴165b及び右溝穴165cにより記録用紙300の側端部の縁無し記録を効率よく行うことができる。
【0062】
なお、本発明の範囲は上述した実施形態に限られず、特許請求の範囲の記載に反しない限り、他の様々な実施形態に適用可能である。例えば、本発明の実施形態では、下流リブ164bの頂面と凹部168の上面に吸引孔167を形成させているが、凹部168の上面には形成させず、下流リブ164bの頂面にのみ吸引孔167を形成させてもよい。
【0063】
また、本発明の実施形態では、記録装置の1つであるインクジェット式プリンタ100に用いられているプラテン163について説明したが、上述した作用効果を奏するプラテンであれば、他の装置に用いられるプラテンであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
被記録媒体に液滴を吐出するヘッドと被記録媒体を支持するプラテンを備えた記録装置であれば、例えばファクシミリ装置、コピー装置等であっても適用可能である。また、記録装置に限らず、インクに代えてその用途に対応する液体を液体噴射ヘッドから被噴射媒体に噴射して液体を被噴射媒体に付着させる液体噴射装置の意味として、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタ製造に用いる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイや面発光ディスプレイ(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド、精密ピペットとしての試料噴射ヘッド等を備えた装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一の実施形態に係るインクジェット式プリンタ100の外観構成の全体を斜め前方から見た斜視図である。
【図2】図1のインクジェット式プリンタ100の内部構成の概略を示す断面側面図である。
【図3】記録部160の周辺の要部を拡大して示す断面側面図である。
【図4】本発明の一の実施形態に係るプラテン163を示す平面図である。
【図5】図4のX−X線矢視図であって、プラテン163の第1の断面を示す側断面図である。
【図6】図4のY−Y線矢視図であって、プラテン163の第2の断面を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0066】
100 インクジェット式プリンタ、101 ハウジング、104 カートリッジ収納部、105 カートリッジカバー、110 操作部、111 ボタン、112 液晶パネル、130 給紙部、140 給排紙部、150 搬送部、151 サブローラ、152 従動ローラ、153 紙送りローラ、154 従動ローラ、155 排紙ローラ、156ギザローラ、160 記録部、161 キャリッジ、162 記録ヘッド、163 プラテン、164 リブ、165 溝穴、166 回収部、167 吸引孔、168 凹部、169 圧力部、200 給排紙トレイ、210給紙トレイ、230 排紙トレイ、300 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に液滴を吐出するヘッドと対向して設けられ、前記媒体の端部から外れた前記液滴が打ち捨てられる第1の溝穴が前記ヘッドと対向する面に形成されているプラテンであって、
前記第1の溝穴は、前記媒体の搬送方向の上流側に、搬送直交方向に延びて形成され、
更に、前記媒体を吸引する吸引孔が、前記媒体の搬送方向の下流側に設けられていることを特徴とするプラテン。
【請求項2】
前記媒体の搬送方向に延びるリブが搬送直角方向に所定の間隔をもって複数配列され、前記吸引孔が該リブ頂面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のプラテン。
【請求項3】
前記媒体の搬送方向に延びるリブが搬送直角方向に所定の間隔をもって複数配列され、前記吸引孔が前記リブ間の凹部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラテン。
【請求項4】
前記第1の溝穴は傾斜面を有することを特徴とする請求項1乃至3に記載のプラテン。
【請求項5】
前記第1の溝穴が前記媒体を吸引する機能を有することを特徴とする請求項1乃至4に記載のプラテン。
【請求項6】
前記媒体の側端に合わせた第2の溝穴が前記第1の溝穴に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5に記載のプラテン。
【請求項7】
前記第2の溝穴は、前記第1の溝穴の両端部から搬送方向に延びて形成され、前記各溝穴の内側領域に前記吸引孔が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6に記載のプラテン。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の溝穴と吸引孔とが、搬送直交方向に複数並設されていることを特徴とするプラテン。
【請求項9】
前記第2の溝穴は傾斜面を有することを特徴とする請求項1乃至8に記載のプラテン。
【請求項10】
被記録媒体に液滴を吐出して記録する記録装置であって、
請求項1乃至9の何れか一項に記載のプラテンを備えたことを特徴とする記録装置。
【請求項11】
被噴射媒体に液体を噴射する液体噴射装置であって、
請求項1乃至9の何れか一項に記載のプラテンを備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−21475(P2006−21475A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203206(P2004−203206)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】