説明

プラント制御システムの自動制御仕様書の作成のためのエンジニアリング方法及び装置

【課題】プラント制御システムの自動制御仕様書の作成に関し、自動制御仕様書の作成効率を高めるとともに、自動制御仕様書の品質が作成者のスキルに依存するのを排除する。
【解決手段】自動シーケンス制御の制御内容を一連の自動運転ごとにブロック化した複数の自動ブロックと各自動ブロックの動作順序とが記述されたマクロフローを作成するとともに、各自動ブロックにおける機械の自動制御のうち最低限実施される自動制御の内容が予め記述されたミクロフローのひな形を作成し、それらの電子ファイル21,22を記憶媒体4,6に保管しておく。自動制御仕様書の作成時には、ミクロフローのひな形の電子ファイル22を記憶媒体6から読み出し、必要な制御内容を書き加えてミクロフローを完成させる。そして、予め用意されたマクロフロー31にミクロフロー32を関連付けることによって自動制御仕様書30を完成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラントエンジニアリング、特に鉄鋼プラントエンジニアリングにおけるエンジニアリング業務の作業効率及び品質の向上に貢献するエンジニアリング方法及び装置に関するものである。より詳しくは、機械メーカ等のベンダーから提示された自動運転手順書に基づいてプラント制御システムの自動制御仕様書を作成するためのエンジニアリング方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄鋼プラントエンジニアリング業務では、当該プラントで製品を生産するために必要な機械の構成と配置、及びそれらの機械を制御するためのセンサー、モータ、バルブ等の機器に関する情報と、それらの機械を動作させる手順を記載した自動運転手順書とが機械メーカ等のベンダーから提示される。鉄鋼プラントを構成する機械は、鉄鋼プラントに対し共通的に配置される機械と、生産する製品に応じて配置される当該プラント特有の機械とがある。しかし、ベンダーからはこれらの機械情報が混在して提示される。また、ベンダーは、対象プラントに適用させるように対象プラントごとに毎回、自動運転手順書を作成している。このため、従来のエンジニアリング業務では、ベンダーから提示された自動運転手順書の内容を吟味し、機械を制御するために必要な機器の過不足を検討した上で、自動運転手順書の内容を実際の自動制御プログラムに展開するための自動制御仕様書を対象プラントごとに毎回作成する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−241617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、自動制御仕様書は以下のように作成される。
【0005】
ベンダーからは対象プラントに設置される機械の配置図と、各機械をどのように運転し製品を生産していくかを記載した自動運転手順書が提示される。この自動運転手順書では、例えば該当機械を上昇・下降または前進・後退させるためのモータ・バルブの動作方法と、その動作を何時実施し、その動作が完了した後、次にどの動作を実施するかといった情報とがフロー図または文章によって記載されている。通常、自動運転手順書内には、製品の運搬及び処理の各方法と、それを実現するための機械の動作方向(上昇/下降・/前進/後退)とが次々とシーケンシャルに繋いで記載されている。一般に、各動作では、自動作の前に実施された動作の完了信号が自動作の起動信号として使用される。この自動運転手順書では、製品を生産するための動作方法が機械の動作と次の一つのフローで完結するように記載されている場合が多い。
【0006】
ところが、鉄鋼プラントを操業するためには、実際には1つの動作が完了したことを認識するために、対象機械が動作したことをセンサーによって電気的に認知する必要がある。このため、自動運転手順書から作成される自動制御仕様書では、そのセンサーのONまたはOFF信号を取り込み、それにより対象機関の動作完了を認識させるといった記述を加えることが必要とされる。また、例えば操作者が製品の位置を目視で確認し、次の動作に移行させたいといった要望を自動制御仕様書に書き入れることも行われる。さらに、何かの問題で自動運転が停止した場合、その問題の解決後に自動運転を再開させるときには、まず、各機械の状態を復旧させることが行われる。自動制御仕様書の作成においては、各機械の状態復旧をしやすくする事を目的に、一連の機械の動作手順を幾つかの自動ブロックに分割するといったエンジニアリングが行われる。
【0007】
図4は、ある鉄鋼プラントに関してベンダーから提示された、スタンド内にある圧延用ロールを抜き出すための自動運転手順書の例である。図4に示す自動運転手順書では、当該一連の自動運転において、設置されている機械をどのように、どの順番で動かすかが記載されている。自動制御仕様書の作成者は、この自動運転手順書から自動運転内容を解読し、その一連の自動運転フローを制御的に分割する必要はないか、また各動作が終了したことを認知するためのセンサーはどれを使用するか等を検討した上で、自動制御仕様書を作成する。
【0008】
図5は、図4で示した自動運転手順書に基づいて作成した自動制御仕様書の例である。図5に示す自動制御仕様書では、一連の自動運転フローは1つの自動制御フローとされているが、各動作の動作完了を認知するためのセンサーが追記(図中にひし形のシンボルで記載)されている。また、自動運転手順書では、P/P CARをHIGH−SPEEDで後退させてSTOPするとのみ記載されているが、これでは目標位置に確実に停止させることが難しい。このため、自動制御仕様書では、後退速度をLOW-SPEEDに減速する動作をさらに追加することによって停止精度を確保する方法が講じられている。
【0009】
ベンダーからは上述のような自動運転手順書が各プラントに応じた内容で毎回作成・提示される。このため、自動制御仕様書の作成者は、提示される自動運転手順書の内容に基づいて、自動ブロック区分の検討を含めて毎回エンジニアリングを行いながら自動制御仕様書を作成する必要があった。
【0010】
さらに、ベンダーから提示される自動運転手順書には機械の自動運転方法について記載されているが、この自動運転手法を実際に機械を制御するための自動制御プログラムに展開するためには、多くのプラント制御知識が必要である。前述の例において、P/P CARの後退動作に後退速度を減速させる動作を追加することが必要であると判断し、その動作を追加する知識もそのようなプラント制御知識の1つである。このように、自動制御仕様書の作成は作成者の経験や知識に依存する事が多く、また作成者の経験が浅い場合には自動制御仕様書の記載内容に誤りが発生し、それを基に作成される自動制御プログラムの品質に影響を与えてしまうという問題もあった。
【0011】
本発明は、上述のような課題に鑑みなされたもので、プラント制御システムでの自動シーケンス制御における制御内容を記載する自動制御仕様書の作成に関し、自動制御仕様書の作成効率を高めるとともに、自動制御仕様書の品質が作成者のスキルに依存するのを排除することのできるエンジニアリング方法及びエンジニアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のエンジニアリング方法では、これまで動作手順を動作順序に合わせて単純に平面的に記載していた自動制御仕様書を階層化する。
【0013】
最上位階層では、自動シーケンス制御の制御内容を一連の自動運転ごとにブロック化した複数の自動ブロックと各自動ブロックの動作順序とをフローにて記載する。これをマクロフローと呼ぶことにする。マクロフローでは、例えば、製品を生産するための母材となるコイルを、コイルを搬送するために用いるコイルカーにてコイルを巻き戻す機械であるマンドレルに挿入し、挿入完了後、マンドレルを正転してコイルの先端を導き出し、プラント内に既に巻き戻し済みの先行コイルの尾端に溶接する、といったどのプラントでも必ず行われる動作を各自動ブロックの繋がりとして記載する。このマクロフローでは、実際の機械の動作は記載せず、各自動ブロックの動作順序のみを定義する。作成したマクロフローは、例えば電子データ(文書ファイル)として記憶媒体(例えばハードディスク、CD等)に保管しておくことができる。
【0014】
2階層目以降では、マクロフロー内に記載された各自動制御ブロックに関し、実際にどの機械をどのタイミングで動作させるといった各機械の詳細な制御情報を記載する。これをミクロフローと呼ぶことにする。このミクロフローの作成にあたっては、各自動ブロックにおける機械の自動制御のうち最低限実施される自動制御の内容が予め記述されたひな形を用意しておく。用意したミクロフローのひな形は、例えば電子データ(文書ファイル)として記憶媒体(例えばハードディスク、CD等)に保管しておくことができる。ミクロフローのひな形を作成する場合には、ベンダーから入手した当該プラントの自動運転手順書を基に、記憶媒体から読み出したミクロフローのひな形に当該プラントに特有の機械及びその動作を追加していく、或いは読み出したミクロフローのひな形を修正することによってミクロフローを完成させる。
【0015】
このように、本発明に係るエンジニアリング方法によれば、自動制御仕様書はマクロフローとミクロフローとに階層化される。マクロフローはプラントに依存せず標準的に使用する事が可能であるので、エンジニアリングを行う必要を無くすことができるとともに、経験の浅いエンジニアでも間違えることなく自動ブロックの定義を行う事が可能となる。また、作成者にとって当該プラントの特異性が認識しやすくなり、エンジニアリングが必要となる部分の抽出が容易になる。その結果、自動制御仕様書の作成効率を上げることができるとともに、検討しなければならないポイントの明確化も図ることが可能となる。さらに、最低限必要と判断される機械制御仕様を予めミクロフローのひな形に記述しておくことで、経験の浅い作成者でも本来あるべき機械の基本的な動作手順を理解し、ベンダーからの自動運転手順書に記載されている動作内容との差異を早い段階で検出してベンダーへ確認することが可能となる。これにより、自動制御仕様書の品質が作成者のスキルに依存するのを排除することができる。例えば、圧延ロール引き抜きのミクロフローのひな形には、P/P CARの減速動作を予め組み込んで置くことが可能である。
【0016】
本発明のエンジニアリング方法は、その内容を2つの工程で表すことができる。その1つめの工程は、自動シーケンス制御の制御内容を一連の自動運転ごとにブロック化した複数の自動ブロックと各自動ブロックの動作順序とが記述されたマクロフローを作成するとともに、各自動ブロックにおける機械の自動制御のうち最低限実施される自動制御の内容が予め記述されたミクロフローのひな形を作成し、それらを記憶媒体に保管しておく準備工程である。もう1つの工程は、ミクロフローのひな形を記憶媒体から読み出し、読み出したミクロフローのひな形に必要な制御内容を書き加えて、或いはミクロフローのひな形を修正してミクロフローを完成させ、記憶媒体から読み出したマクロフローにミクロフローを関連付けることによって自動制御仕様書を完成させる自動制御仕様書作成工程である。本発明のエンジニアリング方法は、これら2つの工程を含むことによって特徴付けられる。
【0017】
本発明が提供するエンジニアリング装置は、上述のエンジニアリング方法を実施するのに好適なエンジニアリング装置である。具体的には、プラント制御システムでの自動シーケンス制御における制御内容を記載する自動制御仕様書の作成のためのエンジニアリング装置であって、以下の各手段を備えている。
・マクロフローを保管しておく第1の記憶手段
・ミクロフローのひな形を保管しておく第2の記憶手段
・マクロフローを要求に応じて第1の記憶手段から読み出し、要求者に提示する第1の提示手段
・ミクロフローのひな形を要求に応じて第2の記憶手段から読み出し、要求者に提示する第2の提示手段
・読み出したミクロフローのひな形に必要な制御内容を書き加えて、或いはミクロフローのひな形を修正してミクロフローを完成させるための入力手段
・マクロフローとミクロフローとを相互に関連付けて自動制御仕様書として出力する出力手段
【0018】
本発明のエンジニアリング装置は、上記の各手段を備えることによって特徴付けられる。なお、上記の各手段はそれぞれに独立した装置によって実現してもよいし、共通の装置によって実現してもよい。例えば、第1の記憶手段と第2の記憶手段は1つの記憶媒体を共有することが可能であり、第1の提示手段と第2の提示手段も1つの提示装置(例えば、ディスプレイ)を共有することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエンジニアリング方法及びエンジニアリング装置によれば、プラント制御システムでの自動シーケンス制御における制御内容を記載する自動制御仕様書の作成に関し、自動制御仕様書の作成効率を高めるとともに、自動制御仕様書の品質が作成者のスキルに依存するのを排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態で作成される自動制御仕様書のマクロフローの例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態で作成される自動制御仕様書のミクロフローの例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態のエンジニアリング装置の構成を示す図である。
【図4】自動運転手順書の例を示す図である。
【図5】図4に示す自動運転手順書から作成された自動制御仕様書の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照して本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態では、鉄鋼プラント制御システムの自動制御仕様書の作成に、本発明に係るエンジニアリング方法及び装置が適用されている。
【0022】
[自動制御仕様書の構成の説明]
まず、本実施の形態で作成される自動制御仕様書について図1及び図2を用いて説明する。本実施の形態で作成される自動制御仕様書は、階層構造を有することに特徴がある。その最上位階層に位置するのがマクロフローであり、2階層目以降に位置するのがミクロフローである。
【0023】
図1は、本実施の形態で作成される自動制御仕様書のマクロフローの例である。マクロフローは、自動シーケンス制御の制御内容を一連の自動運転ごとにブロック化した複数の自動ブロックと各自動ブロックの動作順序とが記述されたフローである。図1のマクロフローは、鉄鋼プラントにおいて、母材となるコイルをマンドレルに挿入し、コイルの先端を巻き戻し、そして、プラント内の先行コイルの尾端に溶接するまでの入側セクションにおける自動運転のためのマクロフローである。詳しくは、図1には、入側セクションに2基のマンドレルが配置された場合のマクロフローが例示されている。
【0024】
図1のマクロフローでは、鉄鋼プラントの入側セクションにおける自動制御の内容を示す複数の自動ブロックが定義されている。マクロフローを構成する複数の自動ブロックのうち、EA101からEA108までの自動ブロックとEA201からEA208までの自動ブロックは、2基用意されているマンドレルを用いて次コイル先端を溶接機まで搬送するための自動ブロックである。EA101−EA108、EA201−EA208の各自動ブロックの内容は以下のとおりである。
【0025】
EA101:No.1ECC Coil Transfer自動ブロック
EA201:No.2ECC Coil Transfer自動ブロック
母材となる次コイルを上パスまたは下パス用のコイルカーECCを用いて搬送する自動ブロックである。
【0026】
EA102:No.1ECC Coil Height Centering自動ブロック
EA202:No.2ECC Coil Height Centering自動ブロック
母材の次コイルを巻き戻し機であるマンドレルに挿入するために、次コイルとマンドレルの中心を合わせるための自動ブロックである。
【0027】
EA103:No.1ECC Coil Width Measuring & Insertion自動ブロック
EA203:No.2ECC Coil Width Measuring & Insertion自動ブロック
次コイルの幅方向の中心をマンドレルの幅方向中心に合わせるための自動ブロックである。
【0028】
EA104:No.1POR Coil Lead End Adjust自動ブロック
EA204:No.2POR Coil Lead End Adjust自動ブロック
マンドレルにて次コイルの先端を巻き戻し、次コイル先端を一定位置まで搬送するための自動ブロックである。
【0029】
EA105:Upper Pass Strip Lead End Thread to PRF自動ブロック
EA205:Lower Pass Strip Lead End Thread to PRF自動ブロック
コイル先端を搬送しやすくするため、PRFと呼ばれる次コイル先端を挟むロール位置まで搬送する自動ブロックである。
【0030】
EA106:Upper Pass Strip lead End Thread to DCS自動ブロック
EA206:Lower Pass Strip lead End Thread to DCS自動ブロック
巻き戻した次コイル先端を既にプラント内に巻き戻された先行コイルの尾端と溶接しやすいように成形するため、DCSと呼ばれるカット装置まで搬送する自動ブロックである。
【0031】
EA107:DCS(Upper)Coil Lead End Crop Cut自動ブロック
EA207:DCS(Lower)Coil Lead End Crop Cut自動ブロック
搬送された次コイル先端を決められた長さ分カットする自動ブロックである。
【0032】
EA108:Upper Pass Strip Lead End Thread to Welder自動ブロック
EA208:Lower Pass Strip Lead End Thread to Welder自動ブロック
カット・成形された次コイル先端を先行コイルと溶接するため、溶接装置まで搬送する自動ブロックである。
【0033】
図1のマクロフローには、さらに、EA001−EA105、EA301−EA303、EA401−EA402の各自動ブロックが記載されている。これらの自動ブロックの内容は以下のとおりである。
【0034】
EA001:Entry Section Auto Slow Down & Stop自動ブロック
プラント内に先に巻き戻されて行った先行コイルの尾端を一定位置に止めるため、先行コイル内の尾端位置を検出し、巻き戻し速度を減速するための自動ブロックである。
【0035】
EA002:DCS DIV CUT & Tail End Thread to Welder自動ブロック
先行コイルの尾端を成形し、次コイルの先端と溶接しやすくするためDCSでカットし、カット完了後先行コイル尾端を溶接装置まで搬送するための自動ブロックである。
【0036】
EA003:WELD DIV CUT & Tail End Pull out to DCS自動ブロック
先行コイルの尾端形状が比較的良好な場合、尾端を溶接装置のカット装置でカットするため、先行コイルの尾端を溶接装置まで搬送しカットする自動ブロックである。
【0037】
EA004:DCS(Upper) Coil Tail End Crop Cut自動ブロック
EA005:DCS(Lower) Coil Tail End Crop Cut自動ブロック
先行コイル尾端をカットする自動ブロックEA002にてカット実施後、マンドレルに残っている残コイルをスクラップにするため短尺長にカットする自動ブロックである。
【0038】
EA301:Strip Welding Operation自動ブロック
先行コイル尾端を溶接装置まで搬送する自動ブロックEA002と次コイルの先端を溶接装置まで搬送する自動ブロックEA108またはEA208の自動動作完了後、先行コイル尾端と次コイル先端を溶接する自動ブロックである。
【0039】
EA302:Weld Point Thread to Check Position自動ブロック
先行コイル尾端と次コイル先端の溶接部状態を確認するため、検査位置まで搬送する自動ブロックである。
【0040】
EA303:RE-WELD Thread自動ブロック
検査の結果、再溶接が必要と操作者が判断した場合に、再溶接を実施する自動ブロックである。
【0041】
EA401:Weld Point Thread to Notcher Position自動ブロック
操作者が溶接状態は良好と判断した場合に、ノッチャーと呼ばれる幅が異なる先行コイルと次コイルの溶接部の両端をカットする装置まで溶接部を搬送する自動ブロックである。
【0042】
EA402:Strip Notching Operation自動ブロック
ノッチャーにて溶接部の両端をカットする自動ブロックである。この自動ブロックの完了後、次コイルが高速で巻き戻され、製品の生産が実行されることになる。
【0043】
上記のように、鉄鋼プラントにおける入側セクションでは、巻き戻されている先行コイルと次コイルを溶接して生産を継続させる事が主な目的になる。この一連の動作は鉄鋼プラント入側セクションでは不変であるので、図1のマクロフロー自体は標準化することが可能である。
【0044】
しかし、実際の鉄鋼プラントでは、自動ブロックは不変であっても、生産される製品によって、また、機械を設置するスペースによって、さらにはコイルを生産する上流プラントの種別によって、プラント内に設置される機械とその配置方法が異なる場合が多い。また、機械は同じでもそれを動作させる順序が異なる場合も多い。このため、ベンダーから提示される自動運転手順書は対象プラント毎に異なることになる。したがって、マクロフローの標準化は可能であっても、自動運転手順書によって決まる自動制御仕様書の細部、具体的には自動ブロックの詳細を標準化することは難しい。
【0045】
そこで利用されるのが、自動制御仕様書の階層構造において2層目以降に位置するミクロフローである。ミクロフローは、マクロフロー内に記載された各自動ブロックに関し、実際にどの機械をどのタイミングで動作させるといった各機械の詳細な制御情報が記述されるフローである。したがって、自動制御仕様書の記載のうちプラント毎に異なる記載は、このミクロフローによって吸収されることになる。
【0046】
図2は、本実施の形態で作成される自動制御仕様書のミクロフローの例である。図2のミクロフローは、図1のマクロフロー内に記載された自動ブロックの内、EA101(No.1 ECC Coil Transfer)の動作内容を記載したミクロフローである。ここでは、代表してEA101に対応するマクロフローのみを例示するが、実際にはマクロフロー内の各自動ブロックについて図2に示すようなミクロフローがそれぞれ用意される。
【0047】
図2のミクロフローには、鉄鋼プラント入側セクションに必ず設置される機械のみで構成された基準プラントを前提にして、それら機械を用いて先行コイル、次コイルを搬送・処理するための制御仕様が記載されている。より詳しくは、コイルカーをコイル置場位置まで移動させてコイルを持ち上げ、コイルカー位置によりその速度を変えながら移動させてマンドレル位置までコイルを搬送する、といった自動ブロックEA101における最低限の自動制御内容が記載されている。また、図2のミクロフローには、自動ブロックEA101における自動制御のために用意されるべきモータやバルブ、また自動制御を行うために必要なセンサーについても記載されている。
【0048】
つまり、図2のミクロフローは、自動ブロックEA101における機械の自動制御のうち最低限実施される自動制御の内容が予め記述されたひな形である。このひな形に必要な制御内容を書き加えたり、或いはこのひな形を適宜に修正したりすることによって、当該プラントの要求仕様に応じたミクロフローを完成することができる。
【0049】
[エンジニアリング方法の説明]
次に、本実施の形態で実施されるエンジニアリング方法について説明する。
【0050】
本実施の形態のエンジニアリング方法では、上述のようなマクロフローが予め作成され、作成されたマクロフローは電子データ(文書ファイル)として記憶媒体(例えばハードディスク、CD等)に保管される。また、マクロフローの自動ブロック毎に上述のようなミクロフローのひな形が予め作成され、作成されたミクロフローのひな形は電子データ(文書ファイル)として記憶媒体に保管される。
【0051】
鉄鋼プラント制御システムの自動制御仕様書の作成者は、ベンダーから提出された当該プラントに対応した自動運転手順書の内容を確認する。そして、自動運転手順書内の機械の動作順序内容をマクロフローの自動ブロックに当てはめ、各自動ブロックで行うべき自動制御仕様内容を決定する。
【0052】
次に、自動制御仕様書の作成者は、自動ブロック用に予め用意されているミクロフローのひな形の内容と、当該プラントでの機械の動作内容とを比較し、当該プラントの特異点を見つけ出す。そして、特異点に応じてミクロフローのひな形に制御内容を追加したり、或いはひな形を修正したりする。このようにして作成したミクロフローと上述のマクロフローとによって、対象プラント用の自動制御仕様書が完成する。
【0053】
以上のようなエンジニアリング方法を採ることにより、自動制御仕様書における自動ブロックの区分は常に一様に保たれ、その詳細制御仕様についても予め用意されているミクロフローのひな形との差異という形で明確化される。これにより、自動制御仕様書の作成効率を高めるとともに、自動制御仕様書の品質が作成者のスキルに依存するのを排除することが可能となる。
【0054】
さらに、本自動制御仕様書にしたがって制御プログラムを製作するプログラマーは、予め用意されたミクロフローのひな形と当該プラントの自動ブロック内での機械及び動作内容との差異を意識してプログラムを製作することが可能となる。これまでは、ベンダーから提示される自動運転手順書に基づいて一から自動制御仕様書が作成され、それに合わせて制御プログラムが製作されていた。そのような従来の方法に比較して、本実施の形態に係るエンジニアリング方法によれば、プログラム製作時の注意ポイントを意識しながらプログラム製作を行うことができるので、当該プラントに対応した制御プログラムを品質良く製作することが可能となる。
【0055】
また、自動制御仕様書におけるマクロフローとミクロフローのそれぞれに対応した制御プログラムを予め用意しておいてもよい。そのようにすることで、制御プログラムの作成時には、ミクロフローの修正部分に対する該当プログラム部分の修正だけで済むようになる。つまり、プログラム製作の効率化を図ることが可能となる。
【0056】
[エンジニアリング装置の説明]
最後に、上述のエンジニアリング方法の実施に好適なエンジニアリング装置について説明する。
【0057】
図3は、本実施の形態のエンジニアリング装置の構成を示す図である。本実施の形態のエンジニアリング装置1は、LAN2によって接続された端末装置10、記憶装置4,6及びプリンタ8によって構成されている。端末装置10は、コンピュータ12とディスプレイ14とキーボードやマウス等の入力端末16とによって構成されている。
【0058】
記憶装置4には、マクロフローの電子データ21が保管されている。記憶装置4に保管されたマクロフローの電子データ21は、LAN2を介してコンピュータ12に読み出し、コンピュータ12によってディスプレイ14の画面に表示することができる。この場合、記憶装置4は本発明のエンジニアリング装置の「第1の記憶手段」に相当し、コンピュータ12とディスプレイ14とによって本発明のエンジニアリング装置の「第1の提示手段」が構成される。
【0059】
記憶装置6は、マクロフローの各自動ブロックに対応するミクロフローのひな形の電子データ22を保管している。記憶装置6に保管されたミクロフローのひな形の電子データ22は、LAN2を介してコンピュータ12に読み出し、コンピュータ12によってディスプレイ14の画面に表示することができる。この場合、記憶装置6は本発明のエンジニアリング装置の「第2の記憶手段」に相当し、コンピュータ12とディスプレイ14とによって、本発明のエンジニアリング装置の「第2の提示手段」が構成される。なお、ここでは記憶装置を別々に設けているが、1つの記憶装置にマクロフローの電子データ21とミクロフローのひな形の電子データ22の双方を保管しておくこともできる。
【0060】
自動制御仕様書の作成書は、入力端末16を操作することによって、ディスプレイ14に表示したミクロフローのひな形に必要な制御内容を書き加えたり、或いはひな形を適宜に修正したりすることができる。この場合、コンピュータ12と入力端末16とによって、本発明のエンジニアリング装置の「入力手段」が構成される。ひな形を用いて作成されたミクロフローは、電子データの状態で記憶装置6或いはコンピュータ12の記憶装置に保存しておくことができる。
【0061】
作成したミクロフローはマクロフローとともにプリンタ8で紙に印刷することができる。印刷されたマクロフロー31とミクロフロー32とを一式揃えることによって、当該プラントの自動制御仕様書30が完成する。完成した自動制御仕様書30は制御プログラムを製作するプログラマーに渡される。この場合、コンピュータ12とプリンタ8とによって、本発明のエンジニアリング装置の「出力手段」が構成される。ただし、作成者からプログラマーへの自動制御仕様書の受け渡しが電子データで行われるのであれば、その電子データを記憶媒体に書き込む行為や、電子データを送信する行為が「出力手段」に相当することになる。
【0062】
[その他]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上述の実施の形態では、自動制御仕様書の作成方法を鉄鋼プラントでの入側セクションを例に説明したが、それと同様に、本発明は鉄鋼プラントの中央セクション、出側セクションへも適用可能である。また、上述の実施の形態で示したマクロフロー及びミクロフローはサンプルであり、その内容について変更することは勿論可能である。さらに、本発明は、自動シーケンス制御が行われるプラント制御システムの自動制御仕様書であるならば、鉄鋼プラント以外のプラントにおける自動制御仕様書の作成にも適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1:エンジニアリング装置
2:LAN
4:記憶装置
6:記憶装置
8:プリンタ
10:端末装置
12:コンピュータ
14:ディスプレイ
16:入力端末
21:マクロフローの電子データ
22:ミクロフローのひな形の電子データ
30:自動制御仕様書
31:マクロフロー
32:ミクロフロー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント制御システムでの自動シーケンス制御における制御内容を記載する自動制御仕様書の作成のためのエンジニアリング方法であって、
前記自動シーケンス制御の制御内容を一連の自動運転ごとにブロック化した複数の自動ブロックと各自動ブロックの動作順序とが記述されたマクロフローを作成するとともに、各自動ブロックにおける機械の自動制御のうち最低限実施される自動制御の内容が予め記述されたミクロフローのひな形を作成し、それらを記憶媒体に保管しておく準備工程と、
前記ひな形を記憶媒体から読み出し、読み出した前記ひな形に必要な制御内容を書き加えて、或いは前記ひな形を修正してミクロフローを完成させ、記憶媒体から読み出した前記マクロフローに前記ミクロフローを関連付けることによって前記自動制御仕様書を完成させる自動制御仕様書作成工程と、
を含むことを特徴とするエンジニアリング方法。
【請求項2】
プラント制御システムでの自動シーケンス制御における制御内容を記載する自動制御仕様書の作成のためのエンジニアリング装置であって、
前記自動シーケンス制御の制御内容を一連の自動運転ごとにブロック化した複数の自動ブロックと各自動ブロックの動作順序とが記述されたマクロフローを保管しておく第1の記憶手段と、
各自動ブロックにおける機械の自動制御のうち最低限実施される自動制御の内容が予め記述されたミクロフローのひな形を保管しておく第2の記憶手段と、
前記マクロフローを要求に応じて前記第1の記憶手段から読み出し、要求者に提示する第1の提示手段と、
前記ひな形を要求に応じて前記第2の記憶手段から読み出し、要求者に提示する第2の提示手段と、
読み出した前記ひな形に必要な制御内容を書き加えて、或いは前記ひな形を修正してミクロフローを完成させるための入力手段と、
前記マクロフローと前記ミクロフローとを相互に関連付けて前記自動制御仕様書として出力する出力手段と、
を備えることを特徴とするエンジニアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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