説明

プリオンタンパク質リガンドおよび使用方法

プリオンタンパク質に結合するリガンド、および体液または環境サンプルなどのサンプルからプリオンタンパク質を検出または除去するためのリガンドの使用方法。リガンドは、細胞性プリオンタンパク質(PrPc)、感染性プリオンタンパク質(PrPsc)、および組み換えプリオンタンパク質(PrPr)を含むプリオンタンパク質の1以上の型に結合できる。ヒトおよびハムスターを含む様々な種由来のプリオンはリガンドによって結合される。また、被験者におけるプリオン関連症状の進行を治療または抑制する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2002年12月3日に出願された米国仮特許出願第60/430,423号の利益を主張する。
【0002】
本発明の技術分野
本発明は、タンパク質−リガンド相互作用の分野に関連し、より詳細には、プリオンタンパク質に結合するリガンドの同定、および生体サンプルからのプリオンの検出または除去のためのリガンドの使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
天然型または細胞性プリオンタンパク質「PrPc」は、哺乳動物全体に広く分布し、特によく保存されたアミノ酸配列およびタンパク質構造を持つ。感染性プリオンは正常な細胞性(PrPc)プリオンタンパク質の変性型からなると考えられ、「PrPsc」と呼ばれる。プリオンは他の感染性病原体と共通するいくつかの特性を持つが、核酸を含まないと考えられる。代わりに、翻訳後の立体構造変化が非感染性PrPcの感染性PrPscへの変換に関与することが提唱され、その際にαヘリックスがβシートに変換される。PrPcは3つのαヘリックスを含みβシート構造をほとんど持たないが、対照的にPrPscはβシートに富む。PrPcのPrPscへの変換は、伝達性海綿状脳症(TSEs)の進行を引き起こすと信じられており、その間にPrPscは中枢神経系(CNS)に蓄積し、神経病理変化および神経機能障害を伴う。しばしば「スクレイピー」型のプリオンタンパク質と呼ばれるPrPscは、動物およびヒトのこれらの伝達性神経変性疾患の感染および病原性に必要であり、おそらく十分であると考えられる。
【0004】
TSEsの具体例は、ヒツジおよびヤギに影響を及ぼすスクレイピー、牛に影響を及ぼす牛海綿状脳症(BSE)、伝染性ミンク脳症、猫海綿状脳症、ならびにミュールジカ、オジロジカ、オグロジカおよびエルクの慢性消耗病(CWD)を含む。ヒトでは、TSE疾患はクールー、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)、致死性不眠症および変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)として出現しうる。vCJDは最近、英国で流行したBSEの結果としてヒトに出現し、ほとんどがBSEすなわち「狂牛病」に感染した牛に由来する食品の消費に起因する。1980年代半ばから1990年代前半までの間に、英国において未知数の人々が、BSE感染牛由来の神経組織で汚染された可能性のある食品を摂取した。経口感染性疾患の潜伏期間はヒトでは20年以上でありうるので、vCJDの真の発症率は何年間も明らかにならないであろう。今日までで、英国を中心に、130人以上の人々がこの疾患に感染していることが知られているが、症例はカナダ、フランス、香港、アイルランド、イタリア、および米国において報告されている。英国から世界中への汚染されたウシ飼料の輸出は、世界的規模でのBSEの存在の可能性、ひいてはvCJDの可能性を示唆する。これらの観察と一致して、ほとんどの欧州諸国、日本およびイスラエルにおいてBSEが検出されている。従って、食品を含む様々な物質から感染性プリオンタンパク質を検出および除去する能力は非常に重要である。
【0005】
従来、TSEsの診断は疾患の臨床的症状の発現に基づき、死後の脳組織の組織学的検査によってのみ確認され得た。すべてのTSEsの特徴は、その病原体に対する測定可能な宿主の免疫応答の欠如である。従って、抗体は産生されず、感染動物を同定するために従来の血清検査を使用することができない。最近、脳内の異常プリオンタンパク質の同定により、疾患診断を行う能力が改善された。
【0006】
感染したウシ由来の製品の摂取に加えて、輸血および臓器移植はヒト間でのvCJDの別の潜在的な感染様式に相当する。ヒトでの輸血によるvCJDの感染の可能性は今のところ未知であるが、実験的にBSEに経口感染したヒツジおよびスクレイピーに自然感染したヒツジからの感染を含む実験動物モデルからのデータに基づき、非常に可能性が高いと思われる。他のヒトTSEsとは異なり、PrPscはvCJD患者のリンパ網内系に存在し、従って、血液中に存在する感染物質および輸血を介したその感染の可能性が増加する。輸血による感染の危険性に関する懸念を高めている他の要因には、未知数だが推定上多数の、BSEに曝露されてvCJDの発症前診断を受けていない人々が含まれる。更に、vCJDの病原性は霊長類およびマウスでの種の適応によって増強されると考えられ、ヒトからヒトへの感染はウシからヒトよりも効率的でありうることを示す。従って、輸血によるvCJDの感染を予防する方法が緊急に必要とされる。このような手段は、感染したドナーの早期同定およびそれらの供血停止、動物またはヒトでの消費もしくは適用を目的とした動物由来の食品および健康製品、ヒトおよびウシ由来の血液製剤、ならびに移植臓器中のTSE物質の除去および不活性化を含みうる。残念なことに、PrPscは化学的および物理的な不活性化の方法に対して非常に耐性があり、選択的な不活性化の方法は入手しがたい。
【0007】
リガンドとの特異的な相互作用を介したプリオン除去は、より有望であると思われる。プリオンタンパク質に結合する多数のリガンドは既に同定されている。PCT/US01/11150に記載されるように、すべての既知の哺乳動物プリオンタンパク質に見いだされるオクタペプチド反復配列(PHGGGWGQ(配列番号220))に結合するリガンドについてコンビナトリアル・ペプチド・ライブラリーがスクリーニングされ、一連のリガンドが発見された。他の物質は、例えば、TosoBioSepからのアミノ・ポリメタクリレート、一般のイオン交換樹脂(Gawrylらの米国特許第5,808,011号を参照)などの様々なポリマー、例えば、コンゴレッド(Ingrosso, L.,ら、Congo red prolongs the incubation period in scrapie-infected hamsters. J Virology 69: 506-508 (1995))、4-ヨード, 4-デオキシドキソルビシン(Tagliavini, F.,ら、Effectiveness of anthracycline against experimental prion diseases in Syrian hamsters. Science 276: 1119-1122 (1997))、アンフォテリシンB、ポルフィリンおよびフタロシアニン(Priola, S. A.,ら、Porphyrin and Phthalocyanine antiscrapie compounds, Science 287: 1503-1506 (2000))などのアミロイド斑と相互作用するリガンド、金属(Stockelら、Biochemistry, 37,7185-7193 (1998))、PrPと相互作用して複合体を形成するペプチド(Prusinerらの米国特許第5,750,361およびSoto, C.ら、Reversion of prion protein conformational changes in synthetic β-sheet breaker peptides, Lancet, 355: 192-197 (2000)を参照)、ヘパリンおよび他のポリ硫酸化ポリアニオン(Caughey, B.,ら、Binding of the Protease-sensitive form of prion protein PrP to Sulphated Glycosaminoglycan and Congo Red, J Virology 68: 2135-2141 (1994))、抗体(Kascsak, R. J.,ら、Immunodiagnosis of prion disease, Immunological Invest. 26: 259-268 (1997))、ならびに他のタンパク質、例えばプラスミノーゲン(Fischer, M. B.ら、Binding of disease-associated prion protein to plasminogen., Nature 408: 479-483 (2000))を含む。現在、いくつかのリガンドは特定の状況において有用でありうる(Gawrylらの米国特許第5,808,011号を参照)が、完全に明らかにされているか、または多様な媒体からのプリオンと結合できることが見いだされているリガンドはない。
【0008】
今日までのところ、ヒトTSE疾患は100%致死である。残念なことに、アンフォテリシン、硫酸化ポリアニオン、コンゴレッド色素およびアントラサイクリン系抗生物質を含む多数の化合物は期待される治療薬として報告されたにもかかわらず、すべてはプリオンの増殖を妨げるわずかな潜在能力しか示さず、感染した宿主からの既存のプリオンの除去に何の効果も持たないことを示した。従って、新たな治療薬の緊急な必要性は依然として残っている。
【0009】
本来可溶性のタンパク質が会合、分解し、立体構造変化した不溶性型になることは、様々な他の疾患の原因となる過程であると考えられ、その多くは神経系疾患である。疾患の発病と正常なタンパク質から立体構造変化したタンパク質への転移との間の関係はよく理解されていない。プリオンに加えてこのような不溶性タンパク質の例は、アルツハイマー病および脳アミロイド血管症(CAA)のアミロイド斑中のβ-アミロイドペプチド、パーキンソン病のレヴィー小体中のα-シヌクレイン沈着、前頭側頭型痴呆およびピック病での神経原線維変化中のタウ、筋委縮性側索硬化症でのスーパーオキシドジスムターゼ、ならびにハンチントン病でのハンチンチンを含む。
【0010】
これらの非常に不溶性のタンパク質はしばしば、βプリーツシート構造に共通する特徴を有する非分岐性繊維からなる凝集体を形成する。中枢神経系では、アミロイドは脳および髄膜血管(脳血管沈着)ならびに脳実質(斑)に存在し得る。ヒトおよび動物モデルでの神経病理学的研究は、アミロイド沈着に近接した細胞はそれらの正常な機能を妨げられることを示す。
【0011】
神経斑が形成される正確なメカニズムおよび斑形成の疾患関連神経変性過程との関係は大部分わかっていない。タンパク質の2つ以上の異なる立体構造型、例えば、PrPcおよびPrPscを容易に分離できる方法、または区別できる方法は、変換の過程を理解するために、および疾患関連型と特異的に相互作用する構造を発見するために必要とされる。アイソフォームを分離または区別する現在の方法は、尿素などのカオトロープの存在するポリアクリルアミドゲル、すなわち横軸尿素勾配(TUG)ゲルでの移動度の差;例えばプロテイナーゼK(PK)などのプロテアーゼ処理に対する感受性の差およびPrPresと呼ばれるPrPsc のPK耐性消化生成物の検出;温度安定性の差;非イオン性界面活性剤への相対的な溶解度;例えばコンゴレッドおよびイソフラビンSなどの特定の化学薬品に結合する線維構造の能力を含む。しかし、立体構造変化したタンパク質および特に疾患に関連した型に特異的な高親和性の試薬を同定する、まだ満たされていない必要性が残っている。このような試薬は、可能性のある診断キットの開発、異なる型のタンパク質の分離および精製、治療薬、生物学的製剤、ワクチンおよび食品からの疾患の感染型の除去、ならびに治療にとって有用であろう。
【0012】
発明の概要
プリオンタンパク質に結合するリガンドおよびそれらの応用を提供する。リガンドは選択的かつ特異的にプリオン検体に結合するペプチドである。リガンドは、細胞性プリオンタンパク質(PrPc)、感染性プリオンタンパク質(PrPsc)、および組み換え型プリオンタンパク質(PrPr)を含むプリオンタンパク質の1以上の型に結合できる。ヒトおよびハムスターを含む様々な種由来のプリオンがリガンドに結合する。樹脂または膜のような担体上のプリオンタンパク質結合リガンドを含む組成物もまた提供される。
【0013】
リガンドは、体液または環境サンプルなどのサンプルからプリオンタンパク質を検出または除去するために有用である。リガンドは、サンプルからすべてのプリオンタンパク質を検出もしくは除去するために使用され、または選択的に単一の型のプリオンタンパク質を検出もしくは除去するために選択され得、従って、ヒトTSEsに罹患した患者およびスクレイピー、BSEおよびCWDに罹患した動物由来のサンプル中の感染性プリオンタンパク質と非感染性プリオンタンパク質とを識別するために使用され得る。
【0014】
また、被験者におけるプリオン関連症状の進行を治療または抑制する方法も提供される。例えば、本発明のリガンドは、CJD、vCJD、GSS、致死性不眠症、スクレイピー、BSE、およびCWDなどの症状の治療に有用でありうる。このようなリガンドは、PrPscの重合を阻害することによって、またはPrPscとPrPcとの相互作用の阻害を介して作用し、それによって更なるPrPscの発達を遅らせるであろう。
【0015】
本発明の別の態様では、更なるリガンド、特に、そのいくつかは疾患の進行に関与するタンパク質の立体構造変化型に特異的なリガンドを同定する方法を提供する。記載された方法はまた、PrPscに直接結合する多数の潜在的な薬物候補の発見、評価またはスクリーニングに適している。
【0016】
本発明の他の特徴および利点は、下記の詳細な説明および好ましい実施形態から明白であろう。
【0017】
発明の詳細な説明
プリオンタンパク質に結合するリガンドおよびその応用は本明細書において記載される。リガンドは、特異性および親和性を持ってプリオンタンパク質に結合するタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドである。好ましくは、リガンドは6kDa以下の分子量を有する。
【0018】
リガンドは、ヒトまたは動物由来の体液または環境サンプルのようなサンプル中のプリオンタンパク質を検出する方法、ならびにプリオン病を診断または治療する方法に有用である。例えば、本発明のリガンドは、全血、血液成分、細胞、血清、血漿、血漿製剤、脳脊髄液、尿、涙液、扁桃腺、虫垂などを用いた、CJD、vCJD、GSS、致死性不眠症、スクレイピー、BSEおよびCWDならびに他のTSEsのような症状の治療、診断に有用でありうる。リガンドはまた、血液サンプル、血液成分、細胞、血清、血漿、血漿製剤、脳脊髄液、尿、涙液、扁桃腺、虫垂などのサンプルからのプリオンタンパク質の除去に有用でありうる。リガンドは、サンプルからすべてのプリオンタンパク質を検出もしくは除去するために使用され、または選択的に単一の型のプリオンタンパク質を検出もしくは除去するために選択され得、従って、サンプル中の感染性プリオンタンパク質および非感染性プリオンタンパク質を識別するために使用され得る。
【0019】
記載される方法は、プリオンに対する更なるリガンドについて、ポリマー、合成化合物および合成化合物のライブラリーをスクリーニングするために使用されうる。
【0020】
更なるリガンド、特に、そのいくつかが疾患の進行に関与する立体構造変化型のタンパク質に特異的なリガンドを同定する方法もまた、本明細書において提供される。
【0021】
多数の潜在的な薬物候補の発見、評価またはスクリーニングに適した方法もまた提供される。
【0022】
定義
「a」「an」および「the」という用語は、本明細書において用いられる場合、文脈が不適切でない限り、「1以上」という意味に定義され、複数形を含む。
【0023】
「3F4」という用語は、天然型のPrPcに特異的であるが、天然型のPrPscまたはPrPresには特異的でないモノクローナル抗体を指す。その抗体は変性型のハムスターおよびヒトPrPc、PrPscおよびPrPresに対して特異性を有する。
【0024】
本明細書において用いられる場合、「血液製剤」および血液組成物という用語は同義的に用いられ、全血、赤血球濃厚液、血漿、血清、多血小板画分および乏血小板画分、濃縮血小板、白血球、血漿沈殿物、血漿分画沈殿物および上清、IgA、IgE、IgGおよびIgMを含む免疫グロブリン製剤、精製した濃縮凝固因子、濃縮フィブリノーゲン、またはヒトもしくは動物に由来する他の様々な組成物を含むことを意味する。それはまた、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、および/または疎水性クロマトグラフィーを含む当技術分野において一般的な任意の様々な方法によって、または析出度の差によって調製された、精製血液由来タンパク質も含む。
【0025】
「コンビナトリアル・ライブラリー」という用語は、固相コンビナトリアル化学技術によって合成された化学物質の一群を指す。この定義は、規定された長さの無数のランダムペプチドを生成するか、または規定された構造を含むように設計されうる、分割-結合-再混合法(split-couple-recombine method)の使用を含む。構成単位は、天然型のアミノ酸、合成分子、アミノ酸アナログ、分岐アナログ、トリアジン色素等でありうる。
【0026】
特定の配列の「保存的な変異」または「保存的な改変変異」という用語は、実質的な化学的類似性を有するアミノ酸または他の近縁の構造を指す。更に、コード配列において単一のアミノ酸もしくは低い割合のアミノ酸を変化、付加または削除する、個々の置換、欠失または付加は、その変化が化学的に類似したアミノ酸によるアミノ酸の置換を生じる場合、保存的な改変変異である。機能的に類似したアミノ酸を規定する保存的な置換の表は、当技術分野においてよく知られている。下記の6群はそれぞれ、互いに保存的な置換である天然型のアミノ酸を含む:
1)セリン(S)、トレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、アラニン(A)
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0027】
多数の非天然型アミノ酸もまた、天然に生じるアミノ酸の保存的な置換と見なされる。最大限一致するように整列させた時、2つの配列中のアミノ酸残基の配列が同じである場合、2つのポリペプチドは「同一」であると言われる。比較のために最適な配列のアラインメントは、SmithおよびWatermanの局所ホモロジーアルゴリズム、Adv. Appl. Math. 2: 482 (1981)によって、NeedlemanおよびWunschのホモロジーアラインメントアルゴリズム、J. Mol. Biol. 48: 443 (1970)によって、PearsonおよびLipmanの類似性の検索方法、Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 85: 2444 (1988)によって、コンピューター化されたこれらのアルゴリズムの実行(Wisconsin Genetics Software Package のGAP、 BESTFIT、FASTA、およびTFASTA、Genetics Computer Group, 575 Science Dr. , Madison, WI)によって、または検査によって、実施されうる。
【0028】
「リガンド」という用語は、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドが結合する分子を指す。本発明のリガンドは、抗体調製品、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、核酸、炭水化物、糖質、脂質、有機分子、ポリマー、および/または想定される治療薬等であり得る。
【0029】
「タンパク質」、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「オリゴペプチド」という用語は同義的に使用され、本明細書においては、1つのアミノ酸のカルボキシル基と別のアミノ酸のアミノ基との間の縮合反応によって形成されるペプチド結合を介して炭素が連結されたアミノ酸の鎖として定義される。鎖の一方の末端(すなわち、アミノ末端)で末端アミノ酸は遊離アミノ基を持ち、一方、鎖の他方の末端(すなわち、カルボキシ末端)で末端アミノ酸は遊離カルボキシル基を持つ。このように、「アミノ末端」(N末端と略される)という用語は、ペプチドのアミノ末端でのアミノ酸上の遊離アミノ基を指し、またはペプチド内の他の任意の位置でのアミノ酸のアミノ基(ペプチド結合に関与している場合はイミノ基)を指す。同様に、「カルボキシ末端」(C末端と略される)という用語は、ペプチドのカルボキシ末端でのアミノ酸上の遊離カルボキシル基を指し、またはペプチド内の他の任意の位置でのアミノ酸のカルボキシル基を指す。Merrifieldの合成法によって樹脂上で合成される場合、C末端のカルボキシル基は通常固定化されたアミノ基へのペプチド結合を介して樹脂に結合する。
【0030】
一般的に、ペプチドを構成するアミノ酸は、アミノ末端から始まりペプチドのカルボキシ末端の方向に増加するように、順に番号付けされる。従って、あるアミノ酸が別のアミノ酸の「後に続く」と言われる場合、そのアミノ酸は「前の」アミノ酸よりもペプチドのカルボキシ末端に近い位置にある。
【0031】
「PrPc」という用語は、哺乳動物の体内で天然に広く発現している天然型プリオンタンパク質分子を指す。その構造は高度に保存されており、疾患状態と関連しない。
【0032】
「PrPsc」という用語は、感染性であると考えられており、vCJD、CJD、クールー、致死性不眠症、GSS、スクレイピー、BSE、CWD、ならびに捕獲動物および実験動物の他の稀なTSEsを含むTSE/プリオン病と関連する、PrPc分子の立体構造変化型を指す。それは正常な細胞性PrPcと同一のアミノ酸配列を有するが、いくつかのαヘリックスがβシートに変換され、疾患状態と関連する。
【0033】
「PrPres」という用語は、PrPsc のPKによる部分消化後に残存する、27〜30 kDaのPrPscタンパク質のプロテイナーゼ耐性誘導体を指す。
【0034】
「PrPr」という用語は、組み換え技術によって発現させたプリオンタンパク質を指す。
【0035】
「PrP」という用語は、一般のプリオンタンパク質を指す。
【0036】
「残基」という用語は、本明細書では、アミド結合またはアミド結合様の結合によってオリゴペプチドに取り込まれる(DまたはL)アミノ酸またはアミノ酸類似体を指すために用いられる。このような場合、アミノ酸は天然に生じるアミノ酸であってよく、または他で制限されない限り、天然に生じるアミノ酸と同様の方法で機能する天然型アミノ酸の既知のアナログ(すなわちアミノ酸類似体)を含みうる。更に、アミド結合様の結合は、当業者によく知られているペプチド骨格の修飾を含む。
【0037】
「実質的な同一性」という用語は、ポリペプチドが少なくとも66%以上共通のアミノ酸を有する配列を含むことを意味する。ポリペプチド配列が実質的に同一であることの別の指標は、あるペプチドが開示されたペプチドに対して生じる抗体と免疫学的に反応するかどうかである。従って、本発明のペプチドは、開示された免疫原性ペプチドに対して生じる抗体と免疫学的に反応するペプチドおよび他の化学物質を含む。
【0038】
「結合できる」という用語は、本明細書において用いられる場合、互いに複合体を形成する2以上の分子の結合、例えば、2以上の分子がタンパク質−リガンド複合体のような複合体を形成できる条件下における、リガンドのタンパク質またはペプチドへの結合を指す。
【0039】
PrPの特定のアミノ酸配列に結合するリガンド
本明細書に記載されるプリオン結合リガンドはすべて低分子であり、好ましくはペプチドである。リガンドは、プリオンタンパク質に由来するペプチド、ポリペプチド、または完全なプリオン分子に結合する。本明細書において用いられる場合、「ペプチド」という用語は特定の長さを意味するものではない。好ましくは、本明細書おいて開示されるリガンドは1以上の下記のアミノ酸配列、すなわち、
RYPxQ(配列番号221)、xはG、PまたはN
XxYYux(配列番号222)、xは任意のアミノ酸、uはRまたはQ
を有するプリオンタンパク質に結合する。
【0040】
より好ましくは、リガンドは1以上の下記のアミノ酸配列、すなわち、
RYPGQ(配列番号1)
DRYYRD(配列番号2)
QAYYQR(配列番号3)
QVYYRP(配列番号4)
を有するプリオンタンパク質に結合する。
【0041】
上記で規定した1以上のアミノ酸配列を有する標識ペプチドは、プリオンに結合するリガンドのためのコンビナトリアル・ライブラリーのプローブに使用する場合、有用である。好ましくは、プリオンリガンドのためのライブラリーのスクリーニングに使用される場合、ペプチドは放射性標識され、アミノ末端でアセチル化され、カルボキシ末端でアミド化される。
【0042】
本明細書に記載されるリガンドのアミノ酸配列は、プリオンタンパク質のオクタペプチド反復配列に結合するWO 01/77687に開示されたアミノ酸配列を含まない。
【0043】
第一の好ましい実施形態では、リガンドは、配列番号1に結合するアミノ酸配列を有するタンパク質またはペプチドである。下記の表1に示されるアミノ酸配列(配列番号5〜13)は、配列番号1に結合するアミノ酸配列の例である。従って、表1に示される1以上の配列を有するリガンドは、第一の好ましい実施形態のリガンドに含まれる。表1に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に結合する6-merについてスクリーニングされた6-merライブラリーにおいて同定された。ライブラリーは、樹脂とライブラリーのコンビナトリアル・ペプチドとの間のスペーサーとしてアラニン(A)を用いて構築され、表1に含まれる配列中の最後のAとして表される。本明細書において提供されるリガンドが表1に示される典型的な配列を有するものに限定されないことは、当業者によって理解されるであろう。
【表1】

【0044】
第二の好ましい実施形態では、リガンドは、配列番号2に結合するアミノ酸配列を有するタンパク質またはペプチドである。下記の表2に示されるアミノ酸配列(配列番号14〜22)は、配列番号2に結合するアミノ酸配列の例である。従って、表2に示される1以上の配列を有するリガンドは、第二の好ましい実施形態のリガンドに含まれる。表2に示されるアミノ酸配列は、配列番号2に結合する6-merについてスクリーニングされた6-merライブラリーにおいて同定された。ライブラリーは、樹脂とライブラリーのコンビナトリアル・ペプチドとの間のスペーサーとしてアラニン(A)を用いて構築され、配列中の最後のAとして表される。アミノ酸リジン(K)は11回出現し、アミノ酸ヒスチジン(H)は7回出現し、その両者は平均的な分布である3を上回る。従って、アミノ酸リジン(K)またはヒスチジン(H)を含む6-merが好ましい。本明細書において提供されるリガンドが表2に示される典型的な配列を有するものに限定されないことは、当業者によって理解されるであろう。
【表2】

【0045】
第三の好ましい実施形態では、リガンドは、配列番号3に結合するアミノ酸配列を有するタンパク質またはペプチドである。下記の表3に示されるアミノ酸配列(配列番号23〜30)は、配列番号3に結合するアミノ酸配列の例である。従って、表3に示される1以上の配列を有するリガンドは、第三の好ましい実施形態のリガンドに含まれる。表3に示されるアミノ酸配列は、配列番号3に結合する6-merについてスクリーニングされた6-merライブラリーにおいて同定された。ライブラリーは、樹脂とライブラリーのコンビナトリアル・ペプチドとの間のスペーサーとしてアラニン(A)を用いて構築され、配列中の最後のAとして表される。同定において配列多義性がある場合、1以上のアミノ酸が、例えば、配列番号29に示されるように(A/G)、表中の単一の場所に記載される。アミノ酸ヒスチジン(H)はこれらの配列中に10回出現し、8ペプチド中6ペプチドで見られ、平均的な分布である3をはるかに上回る。配列番号23以外のすべてのペプチドは、pH 7で正味の正電荷を持つ。従って、アミノ酸ヒスチジン(H)を含む6-merおよびpH 7で正味の正電荷を持つペプチドは好ましい。本明細書において提供されるリガンドが表3に示される典型的な配列を有するものに限定されないことは、当業者によって理解されるであろう。
【表3】

【0046】
第四の好ましい実施形態では、リガンドは、配列番号4に結合するアミノ酸配列を有するタンパク質またはペプチドである。下記の表4に示されるアミノ酸配列(配列番号31〜47)は、配列番号4に結合するアミノ酸配列の例である。従って、表4に示される1以上の配列を有するリガンドは、第四の好ましい実施形態のリガンドに含まれる。表4に示されるアミノ酸配列は、配列番号4に結合する6-merについてスクリーニングされた6-merライブラリーにおいて同定された。ライブラリーは、樹脂とライブラリーのコンビナトリアル・ペプチドとの間のスペーサーとしてアラニン(A)を用いて構築され、配列中の最後のAとして表される。本明細書において提供されるリガンドがこの表4に示される典型的な配列を有するものに限定されないことは、当業者によって理解されるであろう。同定において配列多義性がある場合、1以上のアミノ酸が、例えば、配列番号33に示されるように(W/G)、単一の場所に記載される。配列番号37の2番目の位置のアミノ酸は、確実には同定できなかった。配列「LL」(2つのロイシン)は配列番号31、32、41、43および45に出現し、それに近いアナログLI、VL、II(イソロイシンまたはバリン)は配列番号33、36、38、40および44に出現する。LLはプリオン由来ペプチドまたはタンパク質についての他のいずれのスクリーニングにおいても出現しない。加えて、17ペプチド中15ペプチドは、フェニルアラニン、トリプトファンまたはチロシン(F、WまたはY)のような芳香族アミノ酸を含む。7つのペプチド配列は電気的に中性であるが、陽性の末端アミノ基を有する。従って、配列中に1以上のロイシン(L)、またはイソロイシンもしくはバリン(IもしくはV)のようなロイシンアナログ、好ましくはLL、LI、VLまたはIIを含む6-mer; フェニルアラニン、トリプトファンまたはチロシン(F、WまたはY)のような芳香族アミノ酸を含む6-mer; および電気的に中性であるが、陽性の末端アミノ基を持つ6-merが好ましい。
【表4】

【0047】
ハムスターPrPcに結合するリガンド
別の実施形態では、リガンドは、ヒト、またはハムスターのような別の哺乳動物などの特定の種で見られるプリオンタンパク質の1以上の型に特異的かつ選択的に結合するペプチドである。異なるアミノ酸配列長、2-mer、3-mer、4-mer、5-merおよび6-merを有し、好ましくは6kDa以下の分子量を有する、プリオンタンパク質(PrPc)に結合する典型的なリガンドは、以下に提供される。
【0048】
ハムスターの天然型プリオン(haPrPc)に結合する典型的な2-merのリガンドは、配列番号48〜50に示され、表5Aに記載される。リガンドは好ましくはアミノ酸トリプトファン(W)を含む。好ましいリガンドは電気的に中性であるが、pH 7で正に帯電した末端アミノ基を有する。好ましいリガンドはトリプトファン(W)を含む2-merである。トリプトファンに対するナフチルアラニンによる置換もまた、これらの配列においてPrPの結合をもたらした。ライブラリーはスペーサーなしで直接、樹脂(Toyopearl amino resin Tosoh Bioscience LLC, Monctgomerville, PA)上に合成された。配列番号50はスクリーニング中に2度(2x)見いだされた。
【表5A】

【0049】
ハムスターのプリオン(haPrPc)に結合する典型的な3-merのリガンドは、配列番号51〜61に示され、表5Bに記載される。芳香族アミノ酸、F、WまたはYは配列番号60以外のすべての選択されたペプチドに出現する。アミノ酸Aは樹脂に最も近い位置に3回出現し、樹脂といくつかのライブラリー中のペプチドライブラリーとの間のスペーサーとして使用された。RおよびKはいずれも存在しないが、Eは3回出現し、8配列中の3配列に負電荷をもたらす。
【表5B】

【0050】
ハムスターのプリオン(haPrPc)に結合する典型的な4-merのリガンドは、配列番号62〜64に示され、表5Cに記載される。ライブラリーは、樹脂とコンビナトリアル・ペプチドとの間のアラニンスペーサーを用いて構築され、下記の配列中の最後の位置に存在する。芳香族アミノ酸は選択されたすべてのペプチドの最初の位置に出現する。更に、選択されたすべてのペプチドは酸性アミノ酸(DまたはE)を3番目または4番目の位置に含む。Xが任意のアミノ酸である、WXDは一度出現する。
【表5C】

【0051】
ハムスターのプリオン(haPrPc)に結合する典型的な5-merのリガンドは、配列番号65〜68に示され、表5Dに記載される。芳香族アミノ酸および酸性アミノ酸は選択されたすべてのペプチドに出現する。DまたはEはすべてのリガンドの位置4または5に存在する。配列WXDは配列番号65、67および68に出現する。
【表5D】

【0052】
ハムスターのプリオン(haPrPc)に結合する典型的な6-merのリガンドは、配列番号69〜100に示され、表5Eに記載される。ライブラリーは、樹脂とコンビナトリアル・ペプチドとの間のアラニンスペーサーを用いて構築され、下記の配列中の最後の位置に存在する。芳香族アミノ酸、F、WまたはYは選択されたペプチドのほとんど(32のうち29)に出現し、DまたはEも同様(32のうち29)である。更に、20ペプチドはそれらの配列中に2つの芳香族アミノ酸を有する。コンセンサス配列「WXD」は配列番号75、79、83、86および89に出現する。(F/W/Y) X (D/E) (F/W/Y) 配列番号:))を含む配列は配列番号71、73、77、78、91および95に出現し、(F/W/Y) (D/E) X (F/W/Y) 配列番号:))は配列番号70、72、82、91、および95に出現する。32ペプチド中24ペプチドは位置1〜3に芳香族アミノ酸と酸性基とを持ち、23ペプチドは位置4〜6に正味の負電荷を持つ。20ペプチドは位置1〜3に芳香族アミノ酸と酸性アミノ酸の両方を有し、また位置4〜6に正味の負電荷を持つ。
【表5E】

【0053】
ハムスターPrPcおよびハムスターPrPscに結合するリガンド
別の実施形態では、リガンドは、プリオンの2以上の型に特異的かつ選択的に結合するペプチドである。(PrPc)および/または立体構造変化した(PrPsc)プリオンタンパク質の両方に結合するリガンドは、以下に提供される。ハムスターのプリオン(haPrPc)に結合する典型的な3-merのリガンドは、配列番号101〜115に示され、表6に記載される。芳香族アミノ酸はほとんど(18のうち15)の選択されたペプチドに出現し、DまたはEも同様(18のうち15)である。更に、7ペプチドは2つの芳香族構造と1つの酸性アミノ酸を有する。配列WXDは配列番号105および115に出現する。PrPcよりPrPscに選択的に結合するように選択された構造は、配列番号111および配列番号114であり、両者は位置3にRを持つ。配列番号101〜115は、単独(*)、または正常ハムスター脳と混合したスクレイピー感染脳のホモジェネートからのhaPrPcおよび/またはPrPscに結合することが3-merライブラリーにおいて同定された。
【表6】

【0054】
ヒトPrPcに結合するリガンド
(huPrPc)プリオンタンパク質に結合するリガンドは、以下に提供される。ヒトのプリオン(huPrPc)に結合する典型的な3-merのリガンドは、配列番号116〜139に示され、表7AおよびBに記載される。三量体配列のうち(表7A)、W/YXDは6つの三量体配列中4つに出現し、6つのうち5つは疎水性および酸性アミノ酸残基を有する。
【表7A】

【0055】
6-merライブラリーは、樹脂とコンビナトリアル・ペプチドとの間のアラニンスペーサーを用いて構築され、下記の配列中の最後の位置に存在する(表7B)。アミノ酸F、WまたはYは18のうち13の6-merペプチドに出現し、DまたはEは18ペプチドのうち17に出現する。6ペプチドは位置1〜3に芳香族アミノ酸および酸性アミノ酸を有し、また位置4〜6に正味の負電荷を持つ。更に、5ペプチドは2つの芳香族構造と1つの酸性アミノ酸を有する。WxDは配列番号124に存在し、(F/W/Y) x (D/E) (F/W/Y)(配列番号223)は配列番号124および133に存在する。N末端アミノ基の電荷を除いて、大部分の配列は正味の負電荷を持ち、配列番号139のみが中性のpHにおいて部分的な正味の正電荷を持つ。配列番号116〜121は正常なヒト脳ホモジェネート由来のhuPrPcに結合することが3-merライブラリーにおいて同定された。配列番号122〜139はヒトの乏血小板血漿または多血小板血漿(*)由来のhuPrPcのいずれかに結合することが6-merライブラリーにおいて同定された。
【0056】
【表7B】

【0057】
ヒト組み換えPrPに結合するリガンド
組み換え(PrPr)プリオンタンパク質に結合するリガンドは、以下に提供される。ヒトの組み換えプリオン(huPrPr)に結合する典型的な3-merのリガンドは、配列番号54、105、140〜153に示され、表8に記載される。アミノ酸W、FまたはYは選択された16ペプチドすべてに出現し、DまたはEは16ペプチド中13ペプチドに出現する。コンセンサス配列WXDは配列番号105、143、および145に出現する。いくつかのペプチドは以前にPrPcと結合することが同定されており、配列番号149および153はこのスクリーニング中に2度同定された。配列番号54、105、140〜153は、(*) 0.5% サルコシル または (**) PBSに希釈されたhuPrPr(Prionics AG, Switzerland、カタログ番号03-040)に結合することが3-merライブラリーにおいて同定された。表8では、カラム当たり2.5 mgの乾燥重量のコンビナトリアル・ライブラリーからの樹脂を、1%BSAを含む0.5% サルコシル (*)またはリン酸緩衝生理食塩水(**)に希釈した0.5μg/mlのPrPrに曝露した。スクリーニング中に2度見られた配列は2xと表示される。
【表8】

【0058】
ヒトPrPc、ヒトPrPscまたは両方に結合する6-merのリガンド
(PrPc)プリオンタンパク質、立体構造変化した(PrPsc)プリオンタンパク質、または両方に結合する6-merのリガンドは表9Aにおいて提供される。6-merライブラリーは、樹脂とコンビナトリアル・ペプチドとの間のアラニンスペーサーを用いて構築され、下記の配列中の最後の位置に存在する。リガンドはhuPrPscに選択的でありうる。典型的なリガンドは配列番号154〜173に示され、表9Aに記載される。配列番号156以外のすべてのリガンドは芳香族アミノ酸を含み、20のうち15は酸性アミノ酸を含んでいた。PrPcよりhuPrPscに対してより高い特異性を持つものは、配列番号154、155および156である。散発性CJD患者に由来する脳ホモジェネート中のPrPscに対して特異性の増加を有するリガンドの検出は、ビーズから膜へのタンパク質の転写前の選択的なPrPcのタンパク質分解によって得られた。このライブラリーは非天然型芳香族アミノ酸2-ナフチルアラニン(na)を含んでいた。
【表9A】

【0059】
ヒトPrPscに結合するリガンド
立体構造変化したプリオンタンパク質(PrPsc)に結合するリガンドは、以下に提供される。6-merライブラリーは、樹脂とコンビナトリアル・ペプチドとの間のアラニンスペーサーを用いて構築され、下記の配列中の最後の位置に含まれる。典型的なリガンドは配列番号174〜194に示され、表9Bに記載される。配列番号188、189、190および191はすべて、最も高いシグナルの格差(白色で強い光のシグナル)を示す。配列番号174〜194は、ヒト血漿に混入された散発性CJD脳ホモジェネート由来のhuPrPscに結合することが6-merライブラリーにおいて同定された。PrPscに対して最も高い特異性を有するリガンドを伴うビーズは、PrPcに対する染色では白色であったが、変性後に強い化学発光シグナルを生じた。
【表9B】

【0060】
ヒトPrPc、ヒトPrPscまたは両方に結合する3-merのリガンド
(huPrPc)プリオンタンパク質、立体構造変化したプリオンタンパク質(PrPsc)、または両方に結合する3-merのリガンドは、以下において提供される。リガンドはhuPrPscに選択的に結合しうる。典型的なリガンドは配列番号195〜212に示され、表9Cに記載される。このスクリーニングでは、散発性CJD脳ホモジェネートがCPDで希釈され、huPrPsc源として用いられた。HYDはこのスクリーニング中に3度見いだされた。赤いビーズはPrPcの結合を表し、13配列中8配列はHを含んでいた。アミノ酸F、WまたはYは13配列すべてにおいて見いだされ、RまたはKはたった1回だけ出現した。PrPc (白いビーズ)と比較してPrPsc (強いシグナル)に選択的に結合した5つのビーズのうち3つは、KまたはRを含んでいた。WXDは配列番号200および208に出現した。配列番号195〜212はPK で処理されたhuPrPcおよび/またはhuPrPscに結合することが3-merライブラリーにおいて同定された。
【表9C】

【0061】
ヒトPrPc、ヒトPrPscまたは両方に結合する3-merのリガンド
(PrPc)プリオンタンパク質、立体構造変化した(PrPsc)プリオンタンパク質、または両方に結合する3-merのリガンドは、以下において提供される。リガンドはhuPrPscに選択的に結合しうる。典型的なリガンドは配列番号147、152、206、213、および214に示され、表9Dに記載される。これらの配列は、(*)CPDバッファーまたは(**)PBSに希釈した散発性CJDの脳ホモジェネート由来のhuPrPscおよび/またはhuPrPcに結合することが3-merライブラリーにおいて同定された。
【表9D】

【0062】
リガンドの合成
本明細書に記載されるリガンドは化学合成によって生成されうる。様々なタンパク質合成法が当技術分野において一般的であり、ペプチド合成装置を用いた合成を含む。例えば、Peptide Chemistry, A Practical Textbook, Bodasnsky, Ed. Springer-Verlag, 1988; Merrifield, Science 232: 241-247 (1986)を参照せよ。好ましくは、ペプチドは合成され、精製され、その後スクリーニングのために使用される樹脂または膜に結合される。あるいは、ペプチドは樹脂上に直接合成され、その後、樹脂に結合したペプチドが精製される。
【0063】
ペプチドは、それらが化学的前駆体または標準的なプチド精製技術に使用される他の化学物質を実質的に含まないように精製される。「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉は、そのペプチドがペプチドの合成に関与する化学的前駆体または他の化学物質から分離されているペプチドの調製品を含む。
【0064】
ペプチドの化学合成は、D-アミノ酸および他の有機低分子を含む修飾されたまたは非天然型のアミノ酸の取り込みを容易にする。ペプチド中の1以上のL-アミノ酸の、対応するD-アミノ酸アイソフォームへの置換は、ペプチドの酵素的加水分解に対する抵抗性を増加させるために、およびプリオンまたはリガンド結合のような、活性ペプチドの1以上の特性を向上させるために使用され得る。本明細書に記載されるプリオンペプチドおよびペプチドリガンドは、L-もしくはD-アミノ酸のポリマー、または両者の組み合わせであり得る。また、本明細書に記載されるペプチドリガンドのアナログが非ペプチジル結合中に存在しているリガンドも含まれる。
【0065】
例えば、様々な実施形態において、ペプチドリガンドはD-レトロ-インバーソ型(retro-inverso)異性体ペプチドである。「レトロ-インバーソ型(retro-inverso)異性体」という用語は、配列の方向が反転し、各アミノ酸残基の対掌性が逆である直鎖状ペプチドの異性体を指す。例えば、Jamesonら、Nature, 368: 744-746 (1994)を参照せよ。D-光学異性体および逆合成の組み合わせの最終的な結果は、各アミド結合におけるカルボニル基とアミノ基の位置が交換されるが、各α炭素での側鎖基の位置は保存されることである。他に規定されない限り、本発明の任意のL-アミノ酸配列はD-レトロ-インバーソ型異性体ペプチドにされうることが推測される。
【0066】
更なる共有結合架橋が、ペプチド骨格の構造を拘束するためにペプチド配列に導入され得る。この戦略は有効性、選択性および安定性の増加を有するペプチドアナログを開発するために使用され得る。大環化はしばしば、例えばpH 8.5でK3Fe(CN)6を用いて(Samsonら、Endocrinology, 137: 5182-5185 (1996))ペプチドのN末端とC末端との間、側鎖とN末端もしくはC末端との間、または2つのアミノ酸側鎖の間のアミド結合の形成によって行われる。例えば、DeGrado, Adv. Protein Chem., 39: 51-124 (1988)を参照せよ。
【0067】
多数の他の方法もまた、それらの有効性、安定性および選択性を改善するために、ペプチド配列に立体構造の拘束を導入できる。これらはC α-メチルアミノ酸(例えば、Roseら、Adv. Protein Chem., 37: 1-109 (1985)を参照)またはN α-メチルアミノ酸(例えば、Aubryら、Int. J. Pept. Protein Res., 18: 195-202 (1981)を参照)の使用を含む。
【0068】
必要に応じて、2以上のペプチドリガンドは複数コピーで存在し得る。同一コピーの1以上のペプチドが(例えば、ホモ二量体、ホモ三量体等で)存在することができ、または複数コピーの配列の異なるペプチドが(例えば、ヘテロ二量体、ヘテロ三量体等で)存在し得る。
【0069】
別の方法では、リガンドは組み換え核酸法を用いて合成される。通常、これは、リガンドをコードする核酸配列の作製、特定のプロモーター制御下の発現カセットへの核酸の配置、宿主におけるタンパク質の発現、発現タンパク質の単離、および必要な場合、タンパク質の再生を含む。このような手順によって技術者を指導するために十分な技術が当業者に知られている。
【0070】
発現されてすぐに、組み換えリガンドは、硫安沈殿、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動等を含む、標準的な方法に従って精製され得る。約50〜95%均質性の実質的に純粋な組成物が好ましく、治療薬としての用途のためには約80〜95%以上の均質性が最も好ましい。
【0071】
任意選択で、リガンドはモザイクタンパク質に一体化される。一般的に、2〜20のリガンドが、組み換えまたは合成技術により単一のポリペプチドに融合される。
【0072】
組み換え法では、モザイクタンパク質は免疫原性ペプチドをコードする合成または組み換え核酸のライゲーションによって作製される。これらの核酸は酵素的に(例えばDNAリガーゼ酵素を用いて)または合成的にライゲーションされ得る。あるいは、複数のリガンドペプチドをコードする単一の核酸が合成され得る。いずれの場合も、結果として生じる核酸は複数のリガンドをコードし、すべては同一の読み枠にある。従って、翻訳されたポリペプチドはプリオン結合リガンドを含む。
【0073】
リガンドが自動化学合成法によって生成される場合、ペプチドのコンカテマー(concatamer)は直接結合され得る。これは標準的な化学的手法を用いてペプチドを結合させることによって化学的に行われる。あるいは、複数のリガンドペプチドをコードするポリペプチドが合成的に生成され得る。
【0074】
リガンドの同定
上記の表に示したリガンドに加えて、更なるリガンドは以下のように同定できる。ペプチドライブラリーを合成し、プリオン検体に結合する能力についてスクリーニングする。リガンドは任意の長さであり得る。しかし、2〜6アミノ酸の長さが好ましい。合成ペプチドをビーズ上に固定化し、ビーズをクロマトグラフィーカラムに充填する。その後、プリオン検体をカラムに通過させ、プリオンタンパク質に特異的な標識抗体などによる従来の方法を用いて、結合した検体を検出する。検体が結合したビーズは適切なリガンドであるとして同定される。
【0075】
プリオンを除去するためのリガンドの使用
プリオンまたはプリオンの断片に結合するリガンドは、様々な分析、調製、および診断上の応用のために有用である。プリオン結合リガンドは、ビーズまたは膜のような担体上に固定化され、サンプルからプリオンを結合および除去するために使用されうる。リガンドが結合する固相は、プリオン-リガンド複合体の形成をひき起こすために十分な条件下で、体液などのサンプルと接触することを可能にし、サンプル中のプリオンタンパク質はリガンドに結合する。固相はその後、サンプルから分離され、それによって、固相に結合しているリガンドに結合したプリオンタンパク質はサンプルから除去される。例えば、混入物質の除去のための樹脂および膜は、Baumbachらの米国特許第5,834,318号およびPCT/USO 1/11150に記載されたものなど、当技術分野においてよく知られている。
【0076】
生体サンプルの例は、血液、血液製剤または血清を含むが、それらに限定されない。更なる生体サンプルは、脳脊髄液、尿、唾液、乳汁、腺管液(ductal fluid)、涙液または精液を含む。他のサンプルはコラーゲン、脳および腺抽出物を含む。
【0077】
分子を様々な固体表面に固定化する多くの方法が当技術分野において知られている。例えば、固体表面は、膜(例えばニトロセルロース)、マイクロタイターディッシュ(例えば、PVC、ポリプロピレン、もしくはポリスチレン)、試験管(ガラスもしくはプラスチック)、ディップスティック(例えば、ガラス、PVC、ポリプロピレン、ポリスチレン、ラテックス等)、微量遠心管、あるいはガラス、シリカ、プラスチック、金属製またはポリマーのビーズでありうる。望ましい成分は共有結合してもよく、または非特異的な結合を介して非共有結合してもよい。
【0078】
天然、合成両方の多様な有機ポリマーおよび無機ポリマーは、固体表面の材質として使用されうる。ポリマーの実例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルブテン)、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリ(エチレンテレフタラート)、レーヨン、ナイロン、ポリ(ビニルブチラート)、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、シリコーン、ポリホルムアルデヒド、セルロース、セルロースアセタート、ニトロセルロース等を含む。使用されうる他の材質は、紙、ガラス、セラミック、金属、メタロイド、半導体物質、セメント等を含む。更に、タンパク質(例えばゼラチン)、リポ多糖類、ケイ酸塩、アガロースおよびポリアクリルアミドなどの、ゲルを形成する物質が使用され得る。デキストラン、ポリアルキレングリコール、または、リン脂質、長鎖(12〜24炭素原子の)アルキルアンモニウム塩等の界面活性剤のような、いくつかの水相を形成するポリマーもまた適切である。固体表面が多孔性である場合、系の性質に応じて様々な孔径が用いられうる。更に、ペプチドは固体表面の重合の間に組み込まれうる。
【0079】
表面の調製において、様々な特性を得るために、複数の異なる材質、例えば、ラミネートが使用されうる。例えば、ゼラチンなどのタンパク質コーティングは、非特異的な結合を避け、共有結合を簡単にし、シグナル検出を向上させるなどのために使用され得る。
【0080】
化合物と表面との間での共有結合が望ましい場合、表面は通常、多官能性であるか、または多官能化され得る。表面に存在し、結合に使用されうる官能基は、カルボン酸、アルデヒド、アミノ基、シアノ基、エチレン基、ヒドロキシル基、メルカプト基等を含み得る。多様な化合物を様々な表面に結合させる方法はよく知られており、文献中で十分に説明されている。
【0081】
プリオンタンパク質はまた、アフィニティークロマトグラフィーを用いることによりサンプル中の他のタンパク質から分離されうる。本発明によるリガンドは、樹脂または膜などの固形担体に結合させることができ、プリオンを結合させ溶液から除去するために使用できる。この場合、リガンドは固形担体、例えば膜または樹脂などの不活性担体に結合されてもよく、プリオンタンパク質は固定化された物質に結合する。固定化された物質/プリオンは抗体を用いて検出されうる。必要に応じて、初期スクリーニングから得られた1以上の配列が、ポリメタクリレートまたはアガロースなどの樹脂上に固定化されうる。使用されうる他の種類の樹脂は、例えば、セファロース、架橋アガロース、複合架橋多糖類、セライト、PVDF、アクリレート、ポリスチレンおよびセルロースを含む。ナイロンおよびセルロースなどの膜もまた使用されうる。樹脂はポリメタクリレート樹脂でありうる。
【0082】
プリオンを検出するためのリガンドの使用
本明細書に記載されるリガンドはまた、生体サンプル中のプリオンタンパク質の存在を検出する方法、または定量する方法においても有用である。限定はされないが、上記に記載されたような生体サンプルは、プリオンタンパク質とリガンドとの間で複合体の形成をひき起こすために十分な条件下で、リガンドと接触させられる。複合体はその後、従来の方法によって検出され、それによって、生体サンプル中のプリオンの存在が検出される。
【0083】
複合体は、リガンドを標識すること、標識リガンドをサンプルと混合すること、および標識されたリガンド-プリオン複合体を検出すること、によって検出される。リガンドは、ペプチド合成の間のようなリガンド生成の間に標識され、または標識は、リガンドへのその共有結合または非共有結合のいずれかによってリガンドにコンジュゲートされる。別法として、抗体などのリガンドに特異的な結合分子が標識され、複合体は間接的に検出される。多様な標識およびコンジュゲート技術が知られており、科学論文および特許文献の両方において広く報告されている。適切な標識は、放射性ヌクレオチド、酵素、基質、補因子、阻害剤、蛍光成分、化学発光成分、磁性粒子等を含む。
【0084】
検出は、免疫ブロッティング、ウェスタン解析、ゲル移動度シフトアッセイ、蛍光in situハイブリダイゼーション解析(FISH)、放射性もしくは生物発光マーカーの追跡、核磁気共鳴、電子常磁性共鳴、ストップドフロー分光法、カラムクロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、あるいは、サイズもしくは電荷またはその両方の変化に基づき分子を追跡する他の方法のような、任意の既知の方法によって行われうる。アッセイに用いられる特定の標識または検出可能な基は、本発明の重要な態様ではない。検出可能な基は、検出可能な物理的または化学的特性を有する任意の物質であり得る。このような検出可能な標識はよく開発されており、一般的に、このような方法に有用な任意の標識が本方法に適用され得る。従って、標識は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段によって検出可能な任意の組成物である。本発明において有用な標識は、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、テキサスレッド、ローダミン等)、放射性標識(例えば、3H、125I、35S、14C、または32P)、酵素(例えば、LacZ、CAT、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、および、検出可能な酵素としてEIAまたはELISAのいずれかにおいて一般的に使用されているもの)、ならびに、コロイド金または色ガラスまたはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス等)ビーズのような比色標識を含む。標識は、当技術分野でよく知られている方法に従って、アッセイの望ましい成分に直接的または間接的に結合されうる。上述のように、多様な標識は、必要とされる感度、化合物のコンジュゲーションの簡便性、安定性の必要条件、利用できる器具類、および廃棄設備に応じた標識の選択とともに使用されうる。
【0085】
非放射性標識はしばしば間接的な方法によって結合される。一般的に、リガンド分子(例えばビオチン)は分子に共有結合される。リガンドはその後、もともと検出可能な、または検出可能な酵素、蛍光化合物、もしくは化学発光化合物などのシグナルシステムに共有結合した、抗リガンド(例えばストレプトアビジン)分子に結合する。多くのリガンドおよび抗リガンドが使用され得る。例えば、ビオチン、チロキシン、およびコルチゾールのように、リガンドが天然の抗リガンドを持つ場合、それは標識された天然に生じる抗リガンドとともに使用され得る。あるいは、任意のハプテンまたは抗原性化合物が抗体とともに使用され得る。
【0086】
分子はまた、例えば、酵素またはフルオロフォアとのコンジュゲーションによって、直接シグナルを生じる化合物とコンジュゲーションされ得る。標識として重要な酵素は、主として加水分解酵素、特にホスファターゼ、エステラーゼおよびグリコシダーゼ、または酸化還元酵素、特にペルオキシダーゼである。蛍光化合物はフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン等を含む。化学発光化合物は、ルシフェリン、および2,3-ジヒドロフタラジンジオン、例えばルミノールを含む。
【0087】
標識を検出する方法は当業者によく知られている。従って、例えば、標識が放射性標識である場合、検出方法はシンチレーションカウンターまたはオートラジオグラフィーのような写真用フィルムを含む。標識が蛍光標識である場合、それは、適切な波長の光により蛍光色素を励起すること、および、例えば、顕微鏡検査、目視検査、写真用フィルムや、電荷結合素子(CCD)または光電子増倍管等のような電子検出器の使用により、結果として生じる蛍光を検出することによって、検出されうる。同様に、酵素標識は、酵素に適切な基質を供給すること、および結果として生じる反応生成物を検出することによって、検出される。最後に、単純な比色標識は、単に標識についている色を観察することによって検出されうる。従って、様々なディップスティックアッセイでは、コンジュゲーションした金はしばしばピンク色を呈するが、様々なコンジュゲーションしたビーズはそのビーズの色を呈する。
【0088】
本発明のリガンドはまた、固形物から溶液に抽出された標的を検出するためにも使用され得る。例えば、固体サンプルは水性溶媒、有機溶媒または臨界流体を用いて抽出でき、結果として生じる上清をリガンドと接触させることができる。固体サンプルの例は、動物性製品、特にプリオンを伝染させる物質に曝されたもの、例えば、ウシに由来する骨粉を含む。いくつかの実施形態におけるリガンドは、土壌中のプリオンタンパク質の存在を検出するために使用され得る。他の固体サンプルは、脳組織、角膜組織、糞便、骨粉、牛肉副産物、ヒツジ、ヒツジ副産物、シカおよびエルク、シカおよびエルク副産物、ならびに他の動物および動物性製品を含む。
【0089】
別法として、プリオン-リガンド複合体はPKによって処理されうる。PrPcはPKに対して高い感受性を持つが、PrPscは部分消化されてPrPresを形成する。PrPres分子自体はタンパク質分解に対して高い耐性を持つ。従って、PK処理はPrPcを消化し、PK感受性のPrPscをPrPresに変換する。PKの除去後、PrPresは変性され、3F4などの抗体によって検出され得る。
【0090】
別の実施形態では、本発明によるリガンドは、PrPcよりPrPscを選択的に濃縮するために使用されうる。
【0091】
プリオンを定量するためのリガンドの使用
リガンド-プリオン複合体、あるいは、リガンドまたはリガンド-プリオン複合体に対する抗体は、当業者によく知られている任意の多数の方法により検出され定量され得る。これらは、分光光度法、ラジオグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高拡散クロマトグラフィー(hyperdiffusion chromatography)等の生化学的分析法、および、液体内またはゲル内沈降反応、(単純または二重)免疫拡散法、免疫電気泳動、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫蛍光法等の様々な免疫学的方法を含む。
【0092】
非特異的結合の減少
当業者は、多くの場合、アッセイにおいて、およびサンプルからの検体除去の間に、非特異的結合を減少させることが望ましいことを理解するであろう。アッセイが固形担体に固定化されたリガンドまたは他の捕捉剤を含む場合、固形担体への非特異的結合の量を最小限にすることが望ましい。このような非特異的結合を減少させる方法は、当業者によく知られている。通常、これは担体をタンパク質性組成物によって被覆することを含む。特に、ウシおよびヒト血清アルブミン(BSA)、脱脂粉乳、およびゼラチンのようなタンパク質組成物が広く使用される。
【0093】
他のアッセイ法
ウェスタンブロット解析もまた、サンプル中のプリオンタンパク質の存在を検出、定量するために使用され得る。その技術は通常、SDSの存在下での分子量に基づくゲル電気泳動によってサンプル生成物を分離すること、分離したタンパク質を適切な固形担体(ニトロセルロースフィルター、ナイロンフィルター、またはナイロン誘導体のフィルター)に転写すること、および結合したサンプルを本明細書に記載されるリガンドとともにインキュベーションすることを含む。リガンドは固形担体に固定されたプリオンペプチドに特異的に結合する。これらのリガンドは直接標識されるか、あるいは、それらはその後リガンドに特異的に結合する標識抗体を用いて検出されうる。
【0094】
他のアッセイ法は、特定の分子(例えばリガンド)と結合し、封入された試薬またはマーカーを放出するように設計されたリポソームを使用する、リポソームイムノアッセイ(LIA)を含む。放出された化学物質はその後、標準的な技術に従って検出される。
【0095】
医薬組成物
本明細書に記載されるリガンドは、哺乳動物がプリオン有機体に感染することによって引き起こされるTSEsの治療のための治療的および予防的応用に有用である。例えば、1つの実施形態では、哺乳動物のTSEsを治療する方法は、製薬上許容されうる担体および合成または単離された本明細書に記載されるようなリガンドを含む有効量の医薬組成物を哺乳動物に投与することによって提供される。リガンドはPrPscの PrPscへの結合の阻害によってPrPscの重合を抑制しうる。加えてそれはPrPscのPrPcへの結合を阻害し、従って、PrPscを介したPrPcのPrPscへの変換を減少させ、それによって臨床的症状の発現を遅延させうる。更に、その分子をPrPsc蓄積部位に向かわせるための反応性物質の付加により、リガンド自体が修飾されうる。このような組成物は様々な薬物送達システムにおける使用に適している。
【0096】
本方法に従って治療される疾患は、BSE、伝染性ミンク脳症、猫海綿状脳症、CWD、CJD、GSS、致死性不眠症、およびvCJDを含むが、それらに限定されない。
【0097】
医薬組成物は、非経口投与、局所投与、経口投与、または部分投与を対象とする。好ましくは、医薬組成物は非経口的に、例えば、静脈内、皮下、皮内、鼻腔内または筋肉内に投与される。従って、本発明は、許容されうる担体、好ましくは水性担体に溶解または懸濁された上述の薬剤の溶液を含む投与用の組成物を提供する。例えば、水、緩衝水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸、フィブリン封止剤等の、様々な水性担体が使用されうる。これらの組成物は従来のよく知られている滅菌法によって滅菌されてもよく、または濾過滅菌されてもよい。結果として生じる水溶液はそのまま使用のために封入されてもよく、または凍結乾燥され、凍結乾燥調製品は投与前に滅菌溶液と混合されてもよい。組成物は、生理状態に近くなるように、pH調整剤および緩衝剤、等張化剤、湿潤剤等、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン等の製薬上許容されうる補助剤を含みうる。
【0098】
固形組成物については、例えば、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石粉、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を含む、従来の非毒性固形担体が使用されうる。経口投与のために、前述の担体のような通常使用される任意の賦形剤および、通常約1%〜95%、より好ましくは約25%〜75%の濃度の有効成分を組み合わせることによって、製薬上許容されうる非毒性組成物が形成される。
【0099】
噴霧投与のために、ポリペプチドは好ましくは界面活性剤および噴射剤とともに細粒化された形で提供される。界面活性剤は当然ながら非毒性でなくてはならず、好ましくは噴射剤に可溶性である。このような薬剤の代表例は、カプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレオステアリン酸(olesteric acid)、およびオレイン酸などの6〜22炭素原子を含む脂肪酸の、脂肪族多価アルコールもしくはその環状無水物とのエステルまたは部分エステルである。混合グリセリドまたは天然グリセリドなどの混合エステルが使用されうる。必要であれば、例えば鼻腔内送達のためのレシチンのような、担体もまた含まれ得る。
【0100】
投与量は、投与されるもの、処置を受ける哺乳動物の状態、投与方法によって異なる。治療的用途では、組成物は、既にプリオン感染症に罹患している哺乳動物に、プリオンの蔓延を阻害するか、または少なくとも部分的に疾患およびその合併症の症状を抑えるのに十分な量で投与される。これを達成するのに十分な量は、「治療的有効量」として定義される。この用途に対する有効量は、疾患の重症度、特定の組成物、ならびに受容者の体重および全身状態に依存する。一般的に、用量は1日あたり約1 mg〜約5 mgの範囲であり、好ましくは、約70 kgの患者に対して、1日あたり約100 mgである。
【0101】
更に、核酸がコードするリガンドに対する望ましい治療反応を得るために、リガンドをコードするDNAまたはRNAが哺乳動物に導入されうる。
【0102】
本発明は、特定の実施例を通じて詳細に記載される。以下の実施例は例示を目的として提示され、いかなる形においても本発明を限定または定義することを意図しない。
【実施例】
【0103】
実施例1
プリオン結合リガンドの同定
本明細書に示した表に記載されるプリオン結合リガンドは以下のように同定された。
【0104】
ペプチドライブラリーの合成
本明細書に記載されるプリオン結合リガンドの同定に有用なペプチドおよびペプチドライブラリーは、Peptides International(Louisville, KY)またはCommonwealth Biotechnologies(Richmond, VA)のいずれかによって、直接Toyopearl アミノ樹脂(TosoBioSep, Montgomeryville, PA)上に、Buettnerら,1996により記載された方法に基づく標準的なFmoc化学法を用いて合成された。上記の手順によって達成されるペプチド密度は、通常0.1〜0.5 mmole/g樹脂の範囲であった。1、2、3、4、5および6アミノ酸を含むライブラリーが合成された。4、5および6アミノ酸ライブラリーはアミノToyopearl上で合成され、アミノ酸と樹脂上のアミノ基との間のスペーサーとしてtBocおよびFmocアラニンの混合物を含んだ。ペプチドはFmocアラニンから合成され、tBocはアセチル化された。リガンドのアミノ末端アミノ酸とともに、このライブラリーの最初の位置に、「A」の存在がしばしば見いだされた。これはおそらくペプチド合成の間の部分的な脱アシル化、脱保護化および/または配列決定の間のエドマン分解が原因であった。
【0105】
いくつかの実施形態では、各々複数コピーの固有のリガンドを有する個々のビーズは、PrPを含む溶液に事前に接触させた後に、アガロースに固定化される。多数のリガンドがビーズの表面上で合成され得るので、理論上その各々が固有のリガンドを有する膨大な数のビーズを生成することが可能である。これらのリガンドは初期リードのために記載された方法を用いてスクリーニングされる。一旦リードが同定されると、リードリガンドに基づいて、更なるリガンド(サブライブラリー)が合成される。これらのサブライブラリーのスクリーニングは、改良された特性を有する更なるリガンドをもたらしうる。合成およびスクリーニングの反復過程によって、好ましいリガンドを同定することが可能である。
【0106】
ペプチドライブラリーの結合スクリーニング
ライブラリーからの様々な量のビーズ(5〜500 mgの乾燥ビーズ)をBio-Spin(登録商標)ディスポーザブルクロマトグラフィーカラム(Bio-Rad Laboratories, カタログ番号732-6008)に充填し、20カラム容量(CV)の20% MeOH水溶液で洗浄して、考えられる不純物およびペプチド合成に使用された有機溶媒を除去した。その後、ビーズを20 CVの1×TBS、pH 7.6を用いて洗浄、平衡化した(1×TBSは10×TBS, BioSource International, Camarillo, CA カタログ番号616US-000の10倍希釈によって調製した)。次に、流出を止め、ビーズを1 mlの新しい1×TBSに懸濁し、更に15分間膨潤させておく。TBSを重力によって流出させ、カラムを閉じた。検査試料の樹脂への非特異的結合を防ぐために、0.5%BSA(Sigma, カタログ番号A-7030)を加えた1 mLのTBS中のBlocker(商標)カゼイン(Pierce, Rockford, I1. カタログ番号37532)溶液をビーズに添加した。カラムの両端に蓋をした後、穏やかに振とうしながら4℃で一晩ブロッキングを行った。ブロッキング溶液を流出させ、PrPr、PrPcおよび/またはPrPscを含む1 mlの検査試料を樹脂に添加した。カラムの両端を厳重に閉じ、水平に置き、室温で3時間穏やかに振とうした。PrPを含む試料を流出させ、ビーズを重力のもとで洗浄し、0.05%Tween 20を含む10 mLのTBS に続いて10 mLのTBSによって洗浄した。
【0107】
結合したPrPcの検出
正常なPrPcの検出は、1%カゼインを含むTBS中に1:8,000希釈したマウスモノクローナル抗体3F4(Signet, Dedham, MA)を用いて行われた。モノクローナル抗体は、haPrPc、huPrPcおよびhuPrPrに結合するが、haPrPscまたはhuPrPscに対してはごくわずかしか、またはほとんど親和性を持たない。しかし、それは変性させたhaPrPscおよびhuPrPscには結合する。1 mlの希釈した3F4抗体を、事前にPrPcを含む試料に曝露したコンビナトリアル・ライブラリーからのビーズに添加した。ビーズを3F4とともに室温で1時間、穏やかに振とうした。結合しなかった抗体を含む溶液を流出させ、ビーズを10 mLのTBSおよび0.1%Tween 20を含む10 mLのTBSで洗浄した。その後ビーズを、0.5%カゼイン/0.5%BSAを含むTBS中に1:2,000希釈した 1 mLのアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG(γ)(KPL, Gaithersburg, MD カタログ番号741806)中でインキュベーションした。インキュベーションは室温で1時間、穏やかな振とうによって行われた。結合しなかった二次抗体を含む溶液を流出させ、ビーズを10 mLのTBSおよび10 mLのT-TBSで洗浄した。次に、アルカリホスファターゼの基質である1 mLのImmunoPure Fast solution(Pierce, Rockford, IL, カタログ番号34034)を、製造メーカーによって記載されたように調製し、ビーズに添加した。インキュベーションは、室温で約15分間、またはビーズが薄いピンク色に変わり始め、濃い赤色のビーズがほとんど現れない程度まで行った。基質溶液を流出させ、ビーズを10 mLのTBSで洗浄した。
【0108】
アガロースに包埋したPrP結合ビーズの検出
アガロースに包埋したPrP結合ビーズの同定は以下のように行われた。最初に、事前に融解して約60℃に冷ました、水に溶かした9 ml の1%アガロース(Life Technologies, Grand Island, NE, カタログ番号15510-027)で49 cm2トレイの表面を覆うことによって、アガロースの基層を調製した。アガロースは凝固させた。ビーズはプリオンタンパク質を含む検査試料と接触され、上述のようにTBSで洗浄された。次に、ビーズの濃度をゲル中の望ましいビーズの濃度に従って調整した。良好なビーズの拡散は、1.9 mg乾燥重量当量/ mlで見られた。水に溶解し、融解して約40℃に冷ました800μlの0.5%低融点アガロース(BioWhittaker, Rockland, ME カタログ番号50111)に、90μlのビーズスラリーを添加した。その混合物をごく短時間穏やかにボルテックスし、基層の表面上に注いだ。PrPを含む試料の一部を直接ゲルの角に置き、次の手順の陽性対照とした。ゲルを4℃で凝固させた。
【0109】
アガロースに包埋したPrP結合ビーズの化学発光検出
ビーズをゲルに包埋した後、CDP-Star溶液(Applied Biosystems, Bedford, MA カタログ番号MS100R)をゲルの表面を覆うように添加し、その後、製造メーカーの使用説明書に記載されたように5分間インキュベーションした。ゲルから余分な基質溶液を除去し、その後、ゲルをトランスペアレンシーシート上に置き、プラスチックバッグに封入し、オートラジオグラフィーフィルムに30分間感光させた。フィルムは、ゲル中の赤いビーズと一致するスポットによってPrPcまたはPrPrの位置を確認した。これらのフィルムは、その次に、タンパク質のニトロセルロース膜への転写物を変性させた後に得られる更なるフィルムと整列させるために使用された。
【0110】
包埋したビーズからニトロセルロース膜へのタンパク質転写の方法
この転写方法はタンパク質をビーズから溶出し、それらを毛管現象によってニトロセルロースまたはPVDF膜上に転写する。1枚の3MMろ紙はタンクからゲルを通る転写バッファー(実験に特有な必要性に適した任意のバッファーであり得る)の芯として作用する。3MM芯はあらかじめ転写バッファーで湿らされて、ろ紙の端をバッファータンクに浸して表面に置かれる。ゲルは軟寒天面を上にして湿った3MM上に置かれ、ろ紙とゲルとの間に気泡がないことを確認する。ゲルの大きさに切った1枚の膜(ECL-standard nitrocellulose Hybond Amersham, Germany, カタログ番号RPN303D)を転写バッファーで湿らせ、ゲル上に置く。膜上でピペットを転がして気泡を除去する。次に、あらかじめ湿らせた2枚の3MMろ紙を膜上に置き、ピペットを転がして気泡を除去する。乾燥したペーパータオルまたは他の吸水性の紙の束を上に載せ、300 gのおもりによって加重する。転写は必要なだけ長く続けることができる。
【0111】
化学発光(ECL)検出の方法
膜をゲル上から取り外してすすぎ、10 ml の5%(w/v)乾燥脱脂粉乳(Giant Fod Inc. , Landover, MD)を含むTween を加えたTBS(T-TBS)を含むプラスチック容器に入れる。抗体の膜への非特異的結合を防止するために、膜をミルクとともに穏やかに振とうしながら4℃で最大16時間、または室温で2時間インキュベーションする。ミルクでブロッキングした後、5%ミルクを含むTween を加えたTBS(T-TBS)で1:8,000希釈した一次抗体3F4を10ml用いて、膜をインキュベーションする。インキュベーションは穏やかに振とうしながら室温(20〜25℃)で1.5時間続けることができる。その後、一次抗体溶液を捨て、膜をT-TBSで2回すすぎ、次にT-TBS中で15分間洗浄し、その後新しいT-TBS中で5分間2回洗浄する。洗浄はすべて穏やかに振とうしながら行う。その後、5%ミルクを含むT-TBSで1: 10,000希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識二次抗体(KPL, Gaithersburg, MD)を10ml用いて、それぞれの膜を室温で1.5時間穏やかに振とうしながらインキュベーションする。その後、二次抗体溶液を捨て、膜を上述のようにすすぎ、洗浄する。いくつかの実施形態は、一次抗体の検出のためにアルカリホスファターゼ標識二次抗体を使用した。
【0112】
化学発光検出は、製造メーカーの使用説明書に従って「化学発光基質」(Supersignal, Pierce Rockford Il カタログ番号34080)を調製することにより行われた。10 mLの混合物は、タンパク質面を上にしたそれぞれの膜に添加される。基質を手動で穏やかに5分間行き渡らせ、基質で飽和した膜を取り出し、速やかに液を除去するために3MMろ紙上に置き、その後、Sheet Protector(Boise Cascade Office Products, 番号L2A9113-NG)に包む。膜のタンパク質面を様々な時間オートラジオグラフィーフィルムに感光させ、フィルムを現像する。
【0113】
スクレイピーハムスターの脳由来のPrPscに特異的な3-mer結合物の検出
PrPscに選択的に結合するリガンドのスクリーニングのために、PrPcとPrPscとの間で異なる生化学的性質、および抗体すなわち3F4の結合が利用された。モノクローナル抗体3F4は、非変性PrPscよりもはるかに高い親和性で変性したPrPscに結合する(Safir, J. ら, Eight Prion Strains Have PrPsc Molecules With Different Conformations. 1998. Nature Medicine 4: 1157-1165)。
【0114】
非感染ハムスターおよびスクレイピー感染ハムスターの脳の10%(w/v)ホモジェネートはPBS中で調製され、-80℃で凍結保存された(Dr. Robert Rohwer, VA Medical Center, Baltimoreからの提供)。使用前に、それらを湿った氷上で解凍し、1.2 ml (非感染)および0.5 ml(感染)ホモジェネートを、0.5%(w/v)サルコシルの最終濃度でのサルコシル存在下で穏やかに振とうしながら室温で30分間可溶化した。サンプルを14,000 rpmで5分間遠心分離し、PrPc(非感染)およびPrPcとPrPscとの混合物(感染)を含む上清を回収した。PrPscは、PrPcと比較して、スクレイピー感染ハムスターの脳組織に過剰に見られる。解析のための5 mlの脳試料は、1 mlの正常なハムスターの0.5%サルコシル中の10%脳ホモジェネートと0.33 mlのスクレイピー感染脳試料、ならびに、1%カゼインおよび1%BSA(Sigma, St. Louis, MO)を含む3.67 mlのTBSバッファー(Pierce, Rockford, IL)を混合することによって調製された。正常な脳ホモジェネートのスクレイピー感染脳ホモジェネートに対する最終的な比率は3:1であり、ほぼ等量のPrPcとPrPscとを与えた。この試料を3-merビーズライブラリーと接触させ、手順に従って処理した。洗浄後、ビーズは様々な処理を受けた。1つの方法では、それらはビーズに結合したPrPcを消化するためにPKとともにインキュベーションされ、別の方法では、それらはPrPcの有無について染色された。これは、3F4抗体によるビーズのインキュベーション、洗浄、その後の3F4に特異的なホスファターゼ結合二次抗体の添加、洗浄、および、PrPc、3F4、二次抗体すなわちホスファターゼと結合しているビーズを可視化するためのホスファターゼ基質の添加によって行われた。従って、PrPcと結合したそれらのビーズは赤色であった。ゲルに包埋してすぐに、ホスファターゼに特異的な第二の化学発光基質が添加され、いくつかの実験では、赤色のビーズから光シグナルを生じた。PrPc、PrPscおよびPrPresは上述のように6 Mグアニジン/塩酸の存在下でアガロースから転写され、それはまたプリオンタンパク質の変性を引き起こした。PrPscの変性および捕捉膜上への固定化は、PrPcだけでなくPrPscの免疫検出を促進した。事前に染色したビーズとのこれらのスポットの整列においては、異なるビーズ集団が生じ得る。直接3F4のような検出試薬と結合したビーズ、およびPrPscに加えてPrPcと結合したビーズ、またはPrPcのみと結合したビーズは赤く染色されるであろう。PrPscのみに、または選択的にPrPscに結合したビーズは、膜上でシグナルを生じるが、赤く染色されないであろう。それらは理論上、3F4の結合を妨げるプリオンタンパク質上の部位で、PrPcおよび/またはPrPscの両方に結合しうるビーズとして更に検査されたが、これらはPrPsc特異的ビーズとして選択された。図1では、第一の化学発光検出(変性ステップの前)にはシグナルを生じなかったが、第二の化学発光検出(変性ステップの後)にはシグナルを生じ、従って配列決定の候補となる、3-merライブラリーからのビーズが多数決定された。
【0115】
本実施例に記載される方法の様々な変形は、本明細書に示される表において与えられる。
【0116】
例えば、下記の表10AおよびBでは、正常なヒト血漿に混入された散発性CJD脳試料の存在下で、6-merライブラリー(100〜300μmおよび65 μm)のスクリーニングが行われた。ビーズは、正常なヒト血漿に混入された0.5%脳ホモジェネートに曝露され、CPD中に回収され、その後、PK 100μg/mlで処理された。PKがビーズ由来のペプチドを完全には消化しないことを確認するために、樹脂は、配列決定の前に1%(w/v)カゼインおよび5%(w/v)ヒト血清アルブミンおよび100μg/mlのPKで処理された。
【表10A】

【0117】
【表10B】

【0118】
下記の表10Cでは、散発性CJD患者から調製された脳ホモジェネート(huPrPsc)の存在下で、3-merライブラリーのスクリーニングが行われ、ビーズはPrP特異的結合物の免疫検出の前にPKで処理された。このアッセイでは、カラムあたり10 mgの樹脂が、CPDに希釈され、それぞれ0.05%または0.1%(v/v)サルコシル、および0.2 mMのタンパク質分解酵素阻害剤(PMSF)を含む1 mlの0.5%(w/v)または1%(w/v)脳ホモジェネートとともにインキュベーションされた。一般的な方法に記載される適切な洗浄を行い、ビーズを37℃で1時間1 mlのPK(100μg/ml)で処理した。その後、上述の一般的な手順を続けた。2つの実験で得られた配列を表10Cに記載する。インキュベーションの間に存在する脳ホモジェネート試料の適切な濃度は、各配列群について示される。
【0119】
表10Dでは、カラムあたり乾燥重量5 mgの量でコンビナトリアル・ライブラリーからの樹脂が、PBSまたはCPDに希釈され0.01%(v/v)サルコシルおよび0.2 mMのPMSFを含む1 mlの0.1%(w/v)脳ホモジェネートとともにインキュベーションされた。すべての手順は上述の方法に従って行われた。
【表10C】

【0120】
【表10D】

【0121】
実施例2
リガンドの二次スクリーニング
以下の実施例は、リガンドがPrPに結合することを更に確認するために、一次スクリーニングの間に様々なライブラリーから選択されたリガンドの二次スクリーニングに関する情報を提供する。
【0122】
正常なヒトの脳由来のPrPcの3-mer樹脂への結合は図2に示される。カラムあたり10 mgの各樹脂(アミノ, HYD(配列番号 206)、RWD(配列番号113)、SYA(配列番号108)、SYF(配列番号213)、およびYEY(配列番号154))が用いられた。アミノ樹脂は、そこからペプチドが合成されるベースポリマーであり、プリオンタンパク質にいくらかの親和性を有する。樹脂はpH 7.4のPBSまたはCPDのいずれかで平衡化された。凍結された正常なヒトの脳組織はhuPrPc源として用いられた。それを最初に湿った氷上で解凍した。PBSまたはCPD中で調製した10%脳ホモジェネートのサンプルを1%サルコシルによって可溶化し、14,000 rpm、5分間の遠心分離により清澄させた。上清を回収し、脳ホモジェネートおよびサルコシルの最終濃度がそれぞれ0.1%と0.01%になるように100倍希釈した。1 mlのこの試料をカラムに添加し、流出液を回収した。ビーズを20 mlのPBSまたはCPDで洗浄し、1 mgのビーズ(乾燥重量)を下記のようなウェスタンブロットによるPrPc結合の評価のために用いた。
【0123】
洗浄後、約1 mg乾燥重量当量のビーズを100μlのバッファーに懸濁し、2%β-メルカプトエタノールを含む30μlのLaemmliバッファー中で100℃、10分間加熱した。ビーズを14,000 rpmで1分間遠心分離し、上清をウェスタンブロッティングおよびPrPのための検知によって評価した。サンプルを還元変性条件下においてNuPAGE 12% Bis-Tris gel(Invitrogen Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)で分離し、ニトロセルロース膜(Invitrogen Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)にエレクトロブロッティングした。特異的なPrPバンドは、1:10,000希釈したモノクローナル抗体3F4を用いて可視化された。ブロットはホースラディッシュペルオキシダーゼ検出のための化学発光試薬を含むSuperSignal West Pico detection system(Pierce, Rockford, IL, USA)を用いて現像された。シグナルはX- Omat (商標) Blue XB-1 film(Eastman Kodak Company, Rochester, NY)に記録された。カラムあたり(配列番号113)、SYA(配列番号108)、WEY (配列番号102)、WSD(配列番号115)、YID(配列番号112)、 YFE(配列番号106)、YEY (配列番号154)、およびWQD)が用いられ、上述のような一般的な方法に従って処理された。カラムはPBS、pH 7.4で平衡化された。凍結された散発性CJD患者由来の脳組織はPrPsc調製のために用いられた。それはまたPrPc も含んでいる。10%脳ホモジェネートのサンプルをPBS中で調製し、1%サルコシルで処理し、14,000 rpm、5分間の遠心分離により清澄させた。上清を回収し、脳ホモジェネートおよびサルコシルの最終濃度がそれぞれ0.1%と0.01%になるように100倍希釈した。1 mlのこの試料をビーズに添加し、バッチ法で3時間、室温でインキュベーションした。ビーズをその後20 mlのPBSで洗浄し、1 mgのビーズ(乾燥重量)をPBSまたはPBS中の PK(100μg/ml)とともに37℃で1時間インキュベーションした。これらの条件は完全にPrPcを消化した。従って、これはPrPsc特異的リガンドとPrPc特異的リガンドとの識別に役立った。ウェスタンブロットのための通常のビーズの処理は、実施例1に記載したように行われた。
【0124】
散発性CJD患者から採取された脳ホモジェネート中のPrPscの、フロースルー法での樹脂への結合は、図4に示される。50 mgの各樹脂(アミノ、RWERED (配列番号 157)、LW (配列番号 50)、EYY(配列番号 214)、HYD(配列番号 206)、RWD(配列番号 113)、SYA(配列番号 108)、 SYF(配列番号 213)、およびYEY(配列番号 154))が実験に用いられた。個々のカラムの代わりにCaptiva 96-well Filter Plate(CaptiVac Vacuum Sistem, ANSYS Technologies, Inc, カタログ番号 796)を使用した。上述の一般的な方法に従って樹脂を調製した。樹脂はCPD、pH 7.4で平衡化された。凍結された散発性CJD患者由来の脳組織は、huPrPcおよびhuPrPsc源として用いられた。10%脳ホモジェネートのサンプルをCPD中で調製し、1%サルコシルで処理し、14,000 rpm、5分間の遠心分離により清澄させた。上清を回収し、脳ホモジェネートおよびサルコシルの最終濃度がそれぞれ1%と0.1%になるように10倍希釈した。各ウェルに、250μlのこの試料を添加した。その試料は重力のもとで約4分の接触時間で樹脂を通過することができ、流出液は回収された。樹脂を2.5 mlのCPDで洗浄した。1 mgのビーズ(乾燥重量)をPK(100μg/ml)とともに37℃で1時間インキュベーションした。ウェスタンブロットのための通常のビーズの処理は、上述のように行われた。
【0125】
本明細書に記載したものと類似のまたは同等の方法および試料は、本発明の実施または試験に使用され得るが、適切な方法および試料は上記に記載される。本明細書において言及されたすべての出版物、特許出願、特許および他の引用文献は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。更に、試料、方法、および実施例は一例に過ぎず、限定することを意図しない。
【0126】
前述の記載は、本発明に関する様々な実施形態の説明のために提供される。本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、様々な改変、付加および削除が、これらの実施形態および/または構造に対して行われうる。
【0127】
実施例3
樹脂に結合したPrPcの可視化
親和性樹脂へのPrPcの結合を可視化するために、正常な脳ホモジェネートをカラム法でアミノDVR(配列番号114)樹脂に結合させ、ビーズの内部および外部でのタンパク質の位置を発色基質によって可視化した。Toyopearl 650-M アミノ樹脂上に合成された親和性リガンドDVR(配列番号114)の0.5 mlカラムを、PIKSI カラム(ProMetic BioSciences Ltd, Montreal, Quebec, Canada)に充填した。そのカラムに、ペリスタポンプによって制御した0.5 ml/minの流速で、作業バッファー(WB)(20 mM クエン酸、140 mM NaCl、pH 7.0)で希釈した1.5 ml の1%正常ハムスター脳ホモジェネート(HaBH)をアプライした。HaBHを添加した後、カラムを5 mlのWBで洗浄した。ビーズをカラムから取り出し、かみそりの刃で切り刻んでビーズの内部を露出させ、1%カゼインバッファー(Pierce, Rockford, IL)に1:4000希釈した一次抗体3F4とともに室温で1時間、回転によって混和しながらインキュベーションした。ビーズをTBS、pH 7.4(Invitrogen Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)で洗浄し、室温で1時間回転させながら、1%カゼインに1:1000希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウス二次抗体(KPL, Gaithersburg, MD)とともにインキュベーションした。ビーズを10 ml TBS、pH 7.4で洗浄し、続いて5 ml TBS、pH 9.5で洗浄した。ビーズをBCIP/NBTアルカリホスファターゼ基質(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)とともに数時間インキュベーションし、立体顕微鏡下で観察した。ビーズの外部表面は茶色/青色に染色されたが、内部表面は白色のままであり、タンパク質はビーズの外部に結合したことを示した。
【0128】
実施例4
赤血球濃厚液からのPrPscの除去
赤血球濃厚液(RBCC)に、スクレイピー感染ハムスター由来の脳ホモジェネートを、感染した動物の血液において内在的に見られると考えられるより高い桁の濃度で混入した。PrPと結合し(高濃度で存在する場合には)RBCC からPrPを除去する親和性リガンドの能力を評価するために、混入されたRBCCは、様々な親和性リガンドを含む樹脂のカラムに連続的に通された。
【0129】
10ユニットのO型陰性赤血球濃厚液(RBCC)は、Pall Leukotrap filters(Pall, East Hills, NY)で白血球を減少させられ、プールされ、0.1%サルコシル中の0.1%スクレイピーハムスター脳ホモジェネートを混入された。混入物は2 ml/minで混和しながら添加された。混入されたRBCCは、輸液バッグ(Fenwal Products, Baxter Healthcare Corporation, Deerfild, IL)に各300 mlずつ10等分にして細分された。
【0130】
結合しなかった試料を含むカラム1の流出液がカラム2にアプライされるように、各々10 mlの特定の樹脂を含む5本のカラムは直列に設置された。これは、5本のカラムすべてがRBCCに曝露されるまで続けられた。すべてのカラムがRBCCに曝露されるまで、300 mlの混入されたRBCCがカラム1を通過し、流出液が回収され、カラム2に流入し、それが繰り返された。カラムのビーズを回収し、100μlのビーズサンプルを洗浄し、それを2分する。一方を1 mg/mlのプロテイナーゼKとともに37℃で1時間インキュベーションした(表11では、プロテイナーゼKとともにインキュベーションしたサンプルを+PKで示し、プロテイナーゼKとともにインキュベーションしなかったサンプルを-PKで示した)。+PKおよび-PKビーズの両方に結合したタンパク質を2Xサンプルバッファー(NuPAGE, Helixx Technologies Inc., Toronto, Ontario, Canada)中で煮沸することによってビーズから溶出した。各サンプルを10μlの量で12%Bis-Tris SDS-PAGE ゲル(Invitrogen)に重層し、45分間電気泳動した。ゲルからのタンパク質を膜に転写し、一次抗体としてマウス抗ヒトPrP抗体3F4を、二次抗体としてヤギ抗マウスアルカリホスファターゼ結合抗体を用いたウェスタンブロットでPrPタンパク質を検出し、Western Breeze 化学発光検出(Invitrogen)によって検出した。樹脂に結合したタンパク質の溶出によって得られたゲル上のバンドは、前のカラムの流出液(またはカラム1の場合は出発物質)に由来した、ビーズ上のPrPresの存在を示す。
【0131】
陰性対照、アセチル化SYA(Ac-SYA)(配列番号108)樹脂においては、PrPresはカラム1〜5由来のビーズ上で見いだされ、この樹脂がPrPscに結合しなかったことを示している。DVR(配列番号114)およびSYA(配列番号10)においては、PrPresはカラム1上で多量に見いだされ、カラム2上では量の減少が見られ、カラム3由来のビーズ上には少量のPrPresしか存在しなかった。これは、これらの樹脂が、3本のカラムすなわち30 mlの樹脂においてウェスタンブロットの検出限界にまで、すべてのPrPresを除去することを示した。樹脂YVHEA(配列番号63)および(D)ES(na)PRQ-EACA(配列番号226-EACA)もまた、カラム1から3でPrPres量の減少を示したが、前の2種類の樹脂よりも、カラム3に結合したPrPresが多かった。WFVEA(配列番号225)のすべてのカラムには等量のPrPresが見いだされ、この樹脂はすべてのカラムに少量のPrPresを結合させるが、検出限界まですべてのプリオンタンパク質を結合し除去するわけではないことを示した。混入物は動物の血液中に内在的に観察されているPrP量より数倍高いので、これらの結果は、これらの樹脂のいくつかが血液中に存在する内在性のPrPresのすべてではないとしてもほとんどを除去する能力を持つことを示した。
【表11】

【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1は、脳ホモジェネート由来のhaPrPcおよびhaPrPscに結合するコンビナトリアル・ライブラリーのビーズからの化学発光シグナルを示す。PrPcおよびPrPscを、特異的モノクローナル抗体(3F4)および3F4に特異的なアルカリホスファターゼ結合二次抗体の結合によって検出した。アルカリホスファターゼに特異的な化学発光基質によって生じる光を、オートラジオグラフィーフィルムで検出した。コンビナトリアル・ライブラリーのビーズから生じたシグナルの位置に番号を付けた。続いてビーズ上のリガンドを配列決定した。これらのビーズは、転写および変性の前にはシグナルを生じなかったが、結合タンパク質の転写および変性ならびに酵素結合3F4抗体による標識の後に強いシグナルを発した。
【図2】図2は、カラム法における親和性樹脂に対する正常なヒト脳抽出物由来のhuPrPcの結合を示す。脳ホモジェネートとビーズを調製し、リン酸バッファー(PBS)またはクエン酸リン酸ブドウ糖(CPD)バッファーのいずれかで平衡化した。ウェスタンブロットでのシグナルの強度は、樹脂へのPrPc結合の強度の関数である。レーン1は分子量マーカー(MW)を含み、レーン2は20μlの0.1%の正常なヒトの脳ホモジェネートを含む。レーン3〜8はビーズから溶出されるPrPcを含む。
【図3】図3は、バッチ法における親和性樹脂に対するCJDに感染したヒト脳抽出物由来のhuPrPscの結合を示す。この図は、散発性CJDの患者由来のhuPrPscを含むホモジェネートとの接触後に、ビーズから溶出されたプリオンの量を示すウェスタンブロットである。PrPresの存在を示すためにPKで処理したか、または未処理のままのいずれかのホモジェネートとの接触後に、ビーズを洗浄した。SDSを含むバッファー中でそれらを煮沸して結合したタンパク質を解離させ、サンプルをSDS-PAGEおよびそれに続くウェスタンブロッティングによって分離した。huPrPscおよびPrPcの樹脂への結合は、モノクローナル抗体3F4による検知後のPrP特異的バンドの存在によって示される。ペプチド配列はゲルの上端に示される。PKで消化したサンプルは(+)、未消化のサンプルは(-)として識別される。
【図4】図4は、カラム法における親和性樹脂に対するCJDに感染したヒト脳抽出物由来のhuPrPscの結合を示す。ペプチド配列はゲルの上端に示される。あらかじめPKで消化したサンプルは+、未消化のサンプルは-として識別される。対照は20μlの1%脳ホモジェネートを含有した。PrPcおよびPrPscはモノクローナル抗体3F4によって特異的に検出され、化学発光シグナルの検出によって可視化された。
【図5】図5は、「ビーズブロット」転写装置の模式図を示す。ビーズは、出発物質とともにインキュベーションされた後、ゲルに配置される。結合したタンパク質は、図示されたようにバッファーの毛細管移動によってビーズから移動し、膜上に捕捉される。
【図6】図6は、様々な親和性樹脂による感染RBCC からのPrPresの除去を示す。赤血球濃厚液(RBCC)に、スクレイピーに感染したハムスター由来の脳ホモジェネートを混入し、様々な親和性リガンドを含む樹脂のカラムを連続して通過させた。樹脂に結合したタンパク質をゲル電気泳動によって解析した。ゲルローディングパターンは表11に示される。
【配列表】



































































【特許請求の範囲】
【請求項1】
リガンドがアミノ酸配列RYPxQ(配列番号221)を有するペプチドに結合することができ、ここでxはG、PもしくはNであるか、または、リガンドがアミノ酸配列xxYYux(配列番号222)を有するペプチドに結合し、ここでxは任意のアミノ酸でありuはRもしくはQである、プリオン結合リガンド。
【請求項2】
リガンドがRYPGQ(配列番号1)、DRYYRD(配列番号2)、QAYYQR(配列番号3)、およびQVYYRP(配列番号4)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドに結合することができる、請求項1に記載のリガンド。
【請求項3】
リガンドが約6 kDa未満の分子量を有する、請求項1に記載のリガンド。
【請求項4】
リガンドが6アミノ酸のアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項3に記載のリガンド。
【請求項5】
リガンドがアミノ酸配列DRYYRD(配列番号2)を有するペプチドに結合することができ、リガンドアミノ酸配列がアミノ酸リジン(K)またはアミノ酸ヒスチジン(H)を含む、請求項4に記載のリガンド。
【請求項6】
リガンドがアミノ酸配列QAYYQR(配列番号3)を有するペプチドに結合することができ、リガンドアミノ酸配列がアミノ酸ヒスチジン(H)を含み、リガンドがpH 7で正味の正電荷を持つ、請求項4に記載のリガンド。
【請求項7】
リガンドがアミノ酸配列QVYYRP(配列番号4)を有するペプチドに結合することができ、リガンドがアミノ酸配列LL、LI、VL、またはIIを含むアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項1に記載のリガンド。
【請求項8】
リガンドがアミノ酸配列QVYYRP(配列番号4)を有するペプチドに結合することができ、リガンドが芳香族アミノ酸を含むアミノ酸配列を有するペプチドであり、リガンドが電気的に中性である、請求項1に記載のリガンド。
【請求項9】
リガンドがアミノ酸配列RYPGQ(配列番号1)を有するペプチドに結合することができ、リガンドが配列番号5〜13からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項1に記載のリガンド。
【請求項10】
リガンドがアミノ酸配列DRYYRD(配列番号2)を有するペプチドに結合することができ、リガンドが配列番号14〜22からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項1に記載のリガンド。
【請求項11】
リガンドがアミノ酸配列QAYYQR(配列番号3)を有するペプチドに結合することができ、リガンドが配列番号23〜31からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項1に記載のリガンド。
【請求項12】
リガンドがアミノ酸配列QVYYRP(配列番号4)を有するペプチドに結合することができ、リガンドが配列番号31〜47からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項1に記載のリガンド。
【請求項13】
リガンドがプリオンタンパク質の天然型(PrPc)に結合することができ、配列番号48〜100および配列番号116〜139からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、プリオン結合リガンド。
【請求項14】
リガンドが、ヒトに感染する天然型プリオンタンパク質(huPrPc)に結合することができ、配列番号116〜139からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項13に記載のリガンド。
【請求項15】
リガンドがプリオンタンパク質の天然型(PrPc)とプリオンタンパク質の立体構造変化型(PrPsc)の両方に結合することができ、配列番号52、54、101〜115および154〜173からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、プリオン結合リガンド。
【請求項16】
リガンドがヒトにおけるプリオンタンパク質の天然型(huPrPc)とヒトにおけるプリオンタンパク質の立体構造変化型(huPrPsc)の両方に結合することができ、配列番号154〜173からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項15に記載のリガンド。
【請求項17】
リガンドが組み換え技術によって発現されたプリオンタンパク質(PrPr)に結合することができ、リガンドが配列番号54、105、および140〜153からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、プリオン結合リガンド。
【請求項18】
リガンドがプリオンタンパク質の立体構造変化型(PrPsc)に結合することができ、リガンドが配列番号174〜194、147、152、206、213、および214からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、プリオン結合リガンド。
【請求項19】
リガンドが、プロテイナーゼKで処理されたプリオンタンパク質の天然型(PrPc)またはプリオンタンパク質の立体構造変化型(PrPsc)に結合することができ、リガンドが配列番号195〜212からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、プリオン結合リガンド。
【請求項20】
サンプル中のプリオンタンパク質を検出する方法であって、
プリオンタンパク質、その断片、またはそれに由来するペプチドとリガンドとの間に複合体の形成を生じるのに十分な条件下で、サンプルを1以上のプリオンタンパク質、その断片、またはそれに由来するペプチドに結合することができるリガンドと接触させること;および
サンプル中の複合体を検出すること
を含む方法。
【請求項21】
サンプルが生体サンプルである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
生体サンプルが全血、白血球、単核球、濃縮血小板、血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿、唾液、乳汁、腺管液、涙液、精液、糞便、扁桃腺、リンパ節、コラーゲン、脳抽出物および腺抽出物からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
リガンドが、サンプルと接触する前に固形担体に結合されている、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
固形担体が膜および樹脂からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
固形担体がポリメタクリレート、アガロース、セファロース、架橋アガロース、複合架橋多糖類、セライト、ポリビニルD、フルオライドアクリレート、ポリスチレンおよびセルロースからなる群より選択される樹脂である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
固形担体がポリメタクリレート樹脂である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
固形担体が、ナイロンおよびセルロースからなる群より選択される膜である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
サンプルからプリオンタンパク質を除去する方法であって、
プリオンタンパク質とリガンドとの間に複合体の形成を生じるのに十分な条件下で、サンプルをPrPc、PrPscおよびPrPrからなる群より選択されるプリオンタンパク質に由来する1以上のペプチドまたはポリペプチドに結合することができるリガンドと接触させること;ならびに
サンプルから複合体を除去すること
を含む方法。
【請求項29】
サンプルが生体サンプルである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
生体サンプルが全血、白血球、単核球、濃縮血小板、血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿、唾液、乳汁、腺管液、涙液、精液、糞便、扁桃腺、リンパ節、コラーゲン、脳抽出物および腺抽出物からなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
リガンドが、サンプルと接触する前に固形担体に結合されている、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
固形担体が膜および樹脂からなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
固形担体がポリメタクリレート、アガロース、セファロース、架橋アガロース、複合架橋多糖類、セライト、ポリビニルD、フルオライドアクリレート、ポリスチレンおよびセルロースからなる群より選択される樹脂である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
固形担体がポリメタクリレート樹脂である、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
固形担体が、ナイロンおよびセルロースからなる群より選択される膜である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
1以上のプリオンペプチドに結合することができるリガンド、およびリガンドが固形担体に結合されている固形担体を含む、プリオンタンパク質に結合する組成物。
【請求項37】
固形担体が膜および樹脂からなる群より選択される、請求項36に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−509013(P2006−509013A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−557512(P2004−557512)
【出願日】平成15年12月3日(2003.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2003/038343
【国際公開番号】WO2004/050851
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(501475734)ジ・アメリカン・ナショナル・レッド・クロス (2)
【出願人】(505205823)ノース カロライナ ステート ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】