説明

プリオン変換を調節する因子の使用

アポリポタンパク質B、アポリポタンパク質E、それらのフラグメントと擬似体を、プリオン疾患の診断、検出、予後及び治療の用途に使用する。より具体的に述べれば、本発明は、アポリポタンパク質B又はそのフラグメントを、感染性海綿状脳障害などのプリオン疾患の発生機序に関与しているプリオンタンパク質複製のモジュレーターを調節又は同定するのに使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリオンタンパク質の複製のモジュレーターを診断し検出し予測しおよび確認するためのアポリポタンパク質Bもしくはアポリポタンパク質E又はそれらのフラグメントもしくは擬似体の使用に関する。さらに具体的に述べると、本発明は、感染性海綿状脳障害などのプリオン病の発生機序に関与しているプリオンタンパク質の複製を調節するモジュレーターに対してアポリポタンパク質B又はそのフラグメントを使用する。
【背景技術】
【0002】
ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)および動物のスクレイピーとウシ海綿状脳障害(BSE)は、感染性海綿状脳障害(TSE)の群に属するいくつかの疾患であり、プリオン病としても知られている(Prusinerの1991年の文献)。これらの疾患は、潜伏期が極めて長くこれに短期間の常に致命的な症状が続くことを特徴とする疾患である(Roosらの1991年の文献)。現在、利用できる治療法は全く無い。
【0003】
これらの疾患は、ヒトには比較的稀であるが、食物連鎖によってBSEがヒトに感染する危険性は公衆衛生の当局や科学界の注目の的になっている(Sotoらの2001年の文献)。異型CJD(vCJD)は新しい疾患であり、1996年3月に初めて発表された(Willらの1996年の文献)。この異型疾患は、典型的な症例の散発性CJD(sCJD)とは対照的に、若い患者(平均年齢が27歳)を冒しかつ疾病期間が比較的長い(その期間の中央値が伝統的なCJDの4.5ヶ月に対して14ヶ月である)。vCJDとBSEは、場所と時間が一致しているので、関連しているという仮説が最初に立てられた(Bruceの2000年の文献)。その最新の強力な証拠が、BSEとvCJDがマウスに伝播する特性はほとんど同じであることを示しかつ同じ原因因子によっていることを強く示す試験結果から得られている(Bruceらの1997年の文献)。さらに、ヒト又はウシの遺伝子を有するトランスジェニックマウスはBSEとvCJDに冒されやすいことが現在分かっている(Scottらの1999年の文献)。さらに、vCJDの発生に関する他の妥当な仮説は全く提案されておらず、ヨーロッパ五カ国での徹底的なCJDの監視にもかかわらずBSE因子に対する暴露が少ないため追加の症例は全く確認できなかった。結論として、vCJDの最も可能性がある原因は、恐らく冒されたウシの中枢神経系の組織による食物の汚染が原因であるBSE因子に対する暴露である。
【0004】
その感染因子の性質は、激しく論争されている問題である。その後の研究は、TSE因子が、核酸を含有していないようであるという点で、ウイルスなどの従来の因子とは有意に異なっていることを示している(Prusinerの1998年の文献)。さらに、核酸を破壊するなどの大部分のウイルスを不活性化する物理学的な方法は、TSEの病原体の感染性を低下させるのに効果がないことが証明されている。対照的に、タンパク質を分解する方法がこの病原体を不活性化することが発見された(Prusinerの1991年の文献)。したがって、その感染因子が、ウイルスでもすでに知られている感染因子でもなく、むしろタンパク質のみからなる異例の因子であると提言する理論が広く容認されている(Prusinerの1998年の文献)。この新しい種類の病原体は、「タンパク質性感染粒子(proteinaceous infectious particle)」を短縮してプリオン(prion)と命名された。TSEのプリオンは主として、PrPSc(スクレイピーPrPの短縮表示)と命名されたミスフォールドされたタンパク質からなっているが、これは、PrPCと呼称される正常タンパク質の翻訳後に修飾された変換体である(Cohenらの1998年の文献)。これら二種類のPrPアイソフォームを区別する化学的な差は、検出されなかったので、その変換は、正常なタンパク質のαらせんの含量が減少しβシートの量が増大する高次構造の変化によるもののようである(Panらの1998年の文献)。この構造の変化に続いて生化学的特性が変化する。すなわち、非変性界面活性剤に、PrPCは可溶性でありそしてPrPScは不溶性であり、PrPCはプロテアーゼ類によって容易に消化されるが(プロテアーゼ感受性プリオンタンパク質とも呼称される)、PrPScはプロテアーゼ類に対して部分的に耐性であり、PrPres(プロテアーゼ耐性プリオンタンパク質)として知られているN末端が切り取られたフラグメントが生成する(Cohenらの1998年の文献)。
【0005】
内因性のPrPCが感染の発生に関与しているという概念は、内因性PrPの遺伝子がノックアウトされるとその動物はプリオン病に耐性でかつ新しい感染性粒子を生成できなかったという実験で裏付けられている(Buelerらの1993年の文献)。さらに、感染性タンパク質を接種して臨床症状が現れるまでの期間に、PrPScの量が劇的に増大することは明らかである。
【0006】
これらの知見は、内因性PrPCが、感染型のPrP分子の作用によってPrPScの構造に変換することを示唆している(Sotoらの2001年の文献)。プリオンの複製は、感染する接種物中のPrPScが宿主のPrPCと特異的に相互に作用して、そのタンパク質の病原型への変換反応を触媒するときに起こるという仮説が立てられている。感染プロセス中にこれら二種のアイソフォームが物理的に会合することが、プリオン伝染中の一次配列の特異性(Tellingらの1994年の文献)、及び精製PrPCをPrPScと混合することによってPrPSc様分子が生体外で生成するという報告(Saborioの2001年の文献)によって示唆されている。しかし、この変換が基づいている正確な機構は分かっていない。
【0007】
キメラ導入遺伝子による研究によって、PrPCとPrPScがコドン96と169で限定された中央領域内で相互に作用するようであることが示され(Prusinerの1996年の文献)そして領域109-141にまたがって存在する合成のPrPペプチドはPrPCと結合してPrPScの相互作用と競合できることが分かった(Chabryらの1998年の文献)。
【0008】
トランスジェニック動物によるデータに基づいて、宿主中に存在する追加の脳因子がプリオン増殖に不可欠であると提言されている(Tellingらの1995年の文献)。プリオン変換は、精製されたPrPCとPrPScを混合しインキュベートする実験条件下では起こらないが(Saborioらの1999年の文献)、細胞タンパク質のバルクを試料に加えて戻すと変換活性が回復する(Saborioらの1999年の文献)ことは、すでに証明されている。この知見は脳の中に存在する他の因子がプリオン増殖を触媒するのに不可欠である直接の証拠を提供している。
【0009】
コレステロ−ルが消耗するとPrPScの生成が減少するが、スフィンゴ脂質が消耗するとPrPScの生成が増大するという観察結果は、「脂質ラフト(lipid raft)」(スフィンゴ脂質とコレステロールを含有する膜の中の脂質ドメイン)がラフト関連タンパク質又は選択されたラフト脂質を含むPrPCからPrPScScへの変換反応が行われる部位であるかもしれないことを示唆している(Fantiniらの2002年の文献)。しかしプリオン感染性における脂質ラフトの役割は、まだ明らかではない。
【0010】
試料中のプリオンを検出する生体外での方法がいくつか開発されている。一組の既知の検出法としては、アミノグリカン類、フィブロネクチン及びアポリポタンパク質Aから選択される特異的リガンドキャリヤーを使うPrPSc検出法(国際特許願公開第WO02/065133号);Go138、3B5及び12F10から選択されたモノクローナル抗体を使う方法(Schulzらの2000年の文献);PrPScとアポリポタンパク質Hとの間の複合体の生成に基づいた方法(国際特許願公開第WO03/005037号);又はSaborioらの2001年の文献及びLucassenらの2003年の文献に記述されているタンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅法(protein misfolding cyclic amplification(PMCA))と呼称されるPrPScを生体外で増幅することに基づいた方法がある。
【0011】
アポリポタンパク質Bは二つの公知のアテロームリポタンパク質である低密度リポタンパク質類(LDL)及びトリグリセリド-リッチリポタンパク質のレムナント類の主要タンパク質成分である。アポリポタンパク質Bの濃度は、血液中のアテローム粒子の数を直接反映していると考えられ、アテローム性動脈硬化の危険性を確認するパラメータとして推薦されている。
【0012】
アポリポタンパク質Eは、キロミクロン類、密度が非常に小さいリポタンパク質(VLDL)及び高密度リポタンパク質(HDL)などのいくつもの血漿リポタンパク質の成分である(Lehningerらの1993年の文献)。
【0013】
アポリポタンパク質Eは、最近、一種の神経変性障害であるアルツハイマー病の主要な遺伝性危険因子であることが明らかになってきており(米国特許第6,022,683号)、そして散発性CJDに冒されている患者に比べて異型CJD及びアルツハイマー病に冒されている患者の脳脊髄液中に増大している(Choeらの2002年の文献)。アポリポタンパク質E4/4表現型は、冠状動脈性心疾患とクロイツフェルト・ヤコブ病の危険の増大と関連している(Golazらの1995年の文献)。アポリポタンパク質Eの遺伝子の発現が、スクレイピーの動物モデルの神経病理学的病巣を有する神経膠星状細胞に増大することが見出された(Dietrichらの1991年の文献)。
【0014】
アポリポタンパク質Eは、アミロイド及び誘発後βシート高次構造の採択を加速できるプリオンの共用の構造モチーフを認識することが見出された(Baumannらの2000年の文献)。
【0015】
アポリポタンパク質BとEは、LDL受容体のリガンドであり、コレステロールの輸送及びLDL受容体の相互作用による血漿リポタンパク質の代謝に顕著な役割があることが知られている(Segrestらの2001年の文献、Claveyらの1991年の文献)。
【0016】
プリオン病を治療および予防する一方法は、PrPCからPrPScへの転換を阻止する薬剤を開発することである。提案されたいくつかの薬剤は、コンゴーレッド色素(米国特許第5,276,059号)、神経増殖ペプチド類(米国特許第5,134,121号)、プリオンタンパク質のフラグメント類(米国特許第6,355,610号)、脳組織中でのアポリポタンパク質Eの放出を減らす化合物(米国特許願公開第2002/0155426号)、アポリポタンパク質E4がニューロンLDL受容体関連タンパク質と相互に作用するのを防止する治療剤(国際特許願公開第WO97/14437号)、アポリポタンパク質Eのレベルを増大する化合物(国際特許願公開第WO99/15159号)及びβシート破壊ペプチド類(米国特許第5,948,763号)である。
【0017】
単一又は複数のプリオン変換因子を同定し抑制する新しい方法を開発することが望ましい。
【発明の開示】
【0018】
試料におけるPrPScの生成を検出する検定法にペプチド又はタンパク質を使用することが本発明の目的である。
【0019】
PrPCのPrPScへの変換を調節する化合物を同定するスクリーニング検定法にペプチド又はタンパク質を使用することも本発明の目的である。
【0020】
さらに、プリオン関連の障害、とりわけウシ海綿状脳障害(BSE)及びクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の治療及び/又は予防及び/又は進行の遅延に適した物質を提供することが本発明の目的である。
【0021】
第一の側面で、本発明は、試料におけるPrPScの生成を検出する検定法に、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくは擬似体(mimetic)、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントもしくは擬似体から選択されたペプチドもしくはタンパク質を使用する。
【0022】
第二の側面で、本発明は、PrPCからPrPScへの変換を調節する化合物を同定するスクリーニング検定法に、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくは擬似体、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントもしくは擬似体から選択されたペプチドもしくはタンパク質を使用する。
【0023】
第三の側面で、本発明は、プリオン病とりわけウシ海綿状脳障害(BSE)及びクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)を治療するのに使う医薬組成物を製造するために、アポリポタンパク質B、そのフラグメント及び擬似体から選択されたペプチド又はタンパク質のモジュレーター好ましくは阻害剤又は拮抗剤を使用する。
【0024】
第四の側面で、本発明は、プリオン病に冒されている疑いがある被験者のこの疾患の診断又は検出を行う方法であって、(i)前記被験者由来の試料を、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくは擬似体、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントもしくは擬似体から選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii)ステップ(i)から得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii )前記試料におけるPrPScの存在及び/又は量を確認するステップを含んでなる方法を提供する。
【0025】
第五の側面で、本発明は、被験者をプリオン病に罹りやすくするマーカーを確認する方法であって、(i) アポリポタンパク質B及びそのフラグメントから選択されたタンパク質のレベルを測定し、次いで(ii)前記測定ステップで得たタンパク質の前記レベルをプリオン病の発生と関連付けるステップを含んでなる方法を提供する。
【0026】
第六の側面で、本発明は、試料におけるPrPScの生成を検出する方法であって、(i)試料を、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくは擬似体、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントもしくは擬似体から選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii)ステップ(i)から得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii )前記試料におけるPrPScの存在及び/又は量を確認するステップを含んでなる方法を提供する。
【0027】
第七の側面で、本発明は、PrPCからPrPScへの転移を、調節し好ましくは阻害又は拮抗する化合物を同定する方法であって、(i)前記試料を、(a)前記化合物の存在下及び(b)前記化合物の不在下で、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくは擬似体、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントもしくは擬似体から選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii) ステップ(i)aとステップ(i)bから得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii ) (a)前記化合物の存在下及び(b)前記化合物の不在下でのPrPScの量を測定するステップを含んでなる方法を提供する。
【0028】
第八の側面で、本発明は、試料におけるPrPScの生成を検出する検定法であって、(i)試料を、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくは類似体、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントもしくは類似体から選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii) ステップ(i)で得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii )前記試料中のPrPScの存在及び/又は量を確認するステップを含んでなる検定法を提供する。
【0029】
第九の側面で、本発明は、PrPCからPrPScへの転移を、調節し好ましくは阻害又は拮抗する化合物を同定するスクリーニング検定法であって、(i)前記試料を、(a)前記化合物の存在下及び(b)前記化合物の不在下で、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくは擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及び擬似体から選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii) ステップ(i)aとステップ(i)bから得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii ) (a)前記化合物の存在下及び(b)前記化合物の不在下でのPrPScの量を測定するステップを含んでなるスクリーニング検定法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下のパラグラフで、各種用語を定義して、定義が異なる定義をしていると特に断らない限り、明細書と特許請求の範囲全体を通じて統一して適用するものである。
【0031】
用語「Gerstmann-Strassler-Scheinker disease」(略語は「GSS」)は、ヒトの遺伝性プリオン疾患の一形態を意味する。この疾患は、常染色体の優性障害から起こる。その変異遺伝子を遺伝によって受け継いでいる家族のメンバーはGSSで死亡する。
【0032】
用語「プリオン」は、ヒトや動物に、一群の感染性構造疾患(transmissible
conformational disease)(海綿状脳障害)を起こすことが分かっている感染性粒子を意味する。用語「プリオン(prion)」は、用語「タンパク質(protein)」と「感染(infection)」の短縮形であり、そしてその粒子は、PrPSc分子のみではないにしても大部分PrPSc分子からなっている。
【0033】
「プリオン」は細菌、ウイルス及びウイロイドとは異なっている。公知のプリオンとしては、ウシの海綿状脳障害(BSE)すなわち狂牛病及びネコのネコ海綿状脳障害のみならずスクレイピーすなわち羊とヤギの神経系の感染性の退行変性疾患を起こす、動物に感染するプリオンがある。ヒトを冒すことが分かっている4種のプリオン疾患は、Kuru、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、Gerstmann-Strassler-Scheinker disease(GSS)及び致命的な家族性不眠症(FFI)である(Prusinierの1991年の文献)。本願で使用する場合、プリオンには、利用される動物、特にヒト及び農業用家畜にこれら疾患などのすべて又はどれかを起こすすべての形態のプリオンが含まれている。
【0034】
用語「脂質ラフト」は、最近、再検討されている、二分子層の内側細胞質層中のコレステロールに接続された外側外形質層中のスフィンゴ脂質とコレステロールで構成された小プラットホームを意味する(Simonsらの2000年の文献)。脂質ラフトは、Triton X-100などの特定の界面活性剤に4℃で不溶性であるから、単離することができる。したがって、脂質ラフトは、スクロース勾配液を使う超遠心分離法で、界面活性剤不溶性膜(DIM)又は界面活性剤耐性膜(DRM)として精製できる。脂質ラフトは、シグナル伝達及び細胞内転送に関与しているタンパク質のみならずGPI固着タンパク質が豊富である。脂質ラフトは、ニューロン中で、幾種類かの神経向性因子によって開始されるシグナル伝達用のプラットホームとして作用する(Tsui-Pierchalaらの2002年の文献)。脂質ラフトを抽出する実施例は実施例2§cに示してある。
【0035】
用語「プリオン変換因子」は、PrPCからPrPScへの変換プロセスに関与している補因子(co-factor)又は補助因子(auxiliary factor)として作用してプリオン疾患の発症及び/又は進行を助長するタンパク質、脂質、酵素又は受容体を含有する因子を意味する。
【0036】
用語「標準化プリオン製剤」、「プリオン製剤」などは、本願では、相互に交換可能に使用され、例えば、PrPタンパク質に関連する実質的に同じ遺伝物質を含む哺乳類の脳組織例えば症状又はプリオン病を示す一組の哺乳類由来の脳組織から得られるプリオン含有組成物、又は例えば慢性的にプリオンに感染している細胞から得られる組成物を意味する。
【0037】
用語「感染に感受性の」、「プリオンの感染に感受性の」などは、プリオン病又はその症状起こすと予想される量とタイプのプリオンに感染させることができる細胞を含む哺乳類由来の物質に使用する。
【0038】
同様に、用語「感染に対して耐性の」、「プリオンの感染に対して耐性の」などは、プリオン病又はその症状を起こすと予想される量とタイプのプリオンを感染させたとき耐性でありかついくつかの感染性プリオン物質を接種した後でさえ感染しないままである特徴を有する、細胞を含む哺乳類由来の物質に使用する。
【0039】
用語「試料」は、細胞試料、体液、脳のホモジネートなどの遺伝物質、細胞、脂質ラフト又は精製されたペプチドとタンパク質を含む、哺乳類由来の生物学的抽出物を意味する。
【0040】
用語「潜伏期間」は、動物にプリオンを接種した時点から、その動物が、感染によって、疾病の検出可能な症状を初めて発生した時点までの期間を意味し、そして哺乳類からの物質、例えば脳のホモジネート、細胞、細胞からの脂質ラフトにプリオンを接種した時点からプリオンの感染が例えばPrPCのPrPScへの変換によって検出可能になった時点までの期間も意味する。当業者は、プリオンの感染及びPrPの変換を検出するいくつかの方法を知っている。
【0041】
用語「画分」又は「フラグメント」は、化合物自体のみのポリペプチド連鎖のフラグメント、又は関連する分子又は残基、例えば糖類もしくはリン酸の残基又は原ポリペプチドもしくは原ペプチドの集合体を結合させた化合物のポリペプチド連鎖のフラグメントを意味する。かような分子は、通常、一次配列を変えない他の修飾法、例えばペプチドを生体内又は生体外で化学的に誘導体化する方法(アセチル化法又はカルボキシル化法)からも得ることができ、それら分子は、それを合成し処理する間又はさらなる処理ステップ中に、ペプチドのリン酸化(ホスホチロシン、ホスホセリンもしくはホスホトレオニンの残基の導入)のパターン又はペプチドのグリコシル化(ペプチドを、グリコシル化に作用する酵素、例えば哺乳類のゴリコシル化酵素もしくは脱グリコシル化酵素に暴露することによる)のパターンを修飾することによって製造される。
【0042】
用語「モジュレーター」又は「調節する化合物」は、天然タンパク質の機能及び/又は特性(例えば、受容体との結合性、脂質に対するアフィニティー、酵素との相互作用、構造配列、合成、代謝など)を修飾する分子を意味する。「モジュレーター」又は「調節する化合物」としては「作動剤」と「拮抗剤」がある。「モジュレーター」としては、ペプチド、タンパク質又はそのフラグメント、ペプチド擬似体、有機化合物及び抗体がある。
【0043】
用語「擬似体(mimetic)」は、天然タンパク質の機能及び/又は特性(例えば、受容体との結合性、脂質に対するアフィニティー、酵素との相互作用、構造配列、合成、代謝など)によく似た機能及び/又は特性を有する分子を意味する。これらの化合物は、例えば天然タンパク質の特性を高めるか(すなわち、その化合物を天然タンパク質に添加すると、天然タンパク質の濃度を上げることによって得られるのと同じ活性をもたらす)、又は天然タンパク質と同じ特性を示す(すなわちその化合物を天然タンパク質と取り替えると同じ活性をもたらす)特性を有している。「擬似体」としては、ペプチド、タンパク質又はそのフラグメント、ペプチド擬似体、有機化合物がある。アポリポタンパク質Eの擬似体の例は、米国特許願公開第2002/0128175号及び国際特許願公開第WO2002/043403号に記載されている。
【0044】
用語「阻害剤」又は「拮抗剤」は、天然タンパク質の機能及び/又は特性(例えば、受容体との結合性、脂質に対するアフィニティー、酵素との相互作用、構造配列、合成、代謝など)を一部変えるか又は低下させる分子を意味する。「阻害剤」又は「拮抗剤」としては、ペプチド、タンパク質又はそのフラグメント、ペプチド擬似体、有機化合物及び抗体がある。アポリポタンパク質Bの抗体の例はChoiらの1997年の文献及びWangらの2000年の文献に記載されている。アポリポタンパク質の拮抗剤の例は、コレステロールの輸送経路におけるアポリポタンパク質B又はEの役割を変えるか又は低下させる拮抗剤である。
アポリポタンパク質Bの分泌又は合成を変える化合物の例は、米国特許第6,369,075号、同第6,197,972号、国際特許願公開第WO03/002533号及び同第WO03/045921号に記載されている。その外の「モジュレーター」又は「拮抗剤」は、LDL受容体のモジュレーターであり、好ましくは抗LDL受容体抗体などのLDL受容体の拮抗剤である。LDL受容体に対するモノクローナル抗体の例は国際特許願公開第WO01/68710号に記載されている。
【0045】
用語「タンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅検定法」又は「PMCA検定法」は、例えば国際特許願公開第WO02/04954号に記載されているような病原コンフォーマー(pathogenic conformer)のレベルを増大するサイクリック増幅システムを有する、構造疾患(conformational disease)の診断又は検出を行う検定法である。
【0046】
用語:疾患の「マーカー」は、遺伝特性、一種又は複数種の遺伝性タンパク質変異、個体の異種集団の平均値と異なるタンパク質又は酵素の血中濃度を含む生物学的なパラメーター又は値を意味し、このマーカーの発生は、前記疾患の発生と統計的に有意な相関関係がある。疾患又は症状の「マーカー」は、一般に前記生物学的変数の特定のカットオフレベルと定義する。「マーカー」は、被験者の疾患の危険性(発生する確率)を確認する基礎を提供する。
【0047】
用語「複合体」には、いくつもの分子、いくつものタンパク質、いくつものペプチドの相互作用又はこれらと受容体との相互作用で形成された物質が含まれている。これらの相互作用には可逆的及び/又は一時的な場合がある。これらの相互作用は、相互に作用する分子、タンパク質、ペプチド又は受容体の特性を変化させることがある。
【0048】
用語「有効量」は、PrPScの堆積の生成を遅らせるかもしくは阻害することができるか又はすでに生成したその堆積物を溶解することができる一種又は複数種のペプチドの濃度を意味する。当業者は、かような濃度を日常的に決定できる。投与量は投与されるペプチドの安定性によって決まることは、当業者には分かるであろう。安定性が低いペプチドは、多数回の投与で投与する必要があるであろう。
【0049】
抗体の調製法は、当業者に知られている。用語「抗体」は、アポB又はアポE及びそのフラグメントを特異的に認識してこれらに結合する、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、抗-抗-Id抗体又はそのフラグメントを意味する。例えば、モノクローナル抗体は、アポB及び/又はそのフラグメントを特異的に認識してそれに結合できるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系の世代によって得られる。より具体的に述べると、これらのモノクローナル抗体は、アポBを特異的に認識してこれに結合できる。モノクローナル抗体は、通常の方法、例えば、hアポBで免疫化された哺乳類由来の脾臓細胞及び同型遺伝子性もしくは異型遺伝子性のリンパ系細胞を含むクローン化ハイブリドーマを、そのハイブリドーマを産生してモノクローナル抗体を蓄積できる液体培地又は哺乳類の腹部内で増殖させることによって調製できる。好ましくは、その抗体は、アポB-LDLを認識するフラグメントを特異的に認識してこれに結合する。
【0050】
本発明は、プリオン疾患におけるPrPCのPrPScへの変換を、増大及び/又は阻害することを含めて制御できる化合物を提供する。
【0051】
プリオン疾患におけるPrPCのPrPScへの変換を制御する本発明の化合物の活性は、例えば、PrPCのPrPScへの変換を調節する本発明の化合物の性能を測定するSaborioらの2001年の文献に記載されているような生体外の検定法を使って検出できる。試験結果は実施例に報告してある。
【0052】
一実施態様で、本発明は、試料におけるPrPScの生成を検出する検定法に、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくはその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及びその擬似体から選択されるペプチドもしくはタンパク質、好ましくはアポリポタンパク質B、そのフラグメント及びその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質を使用する。
【0053】
本発明の別の一実施態様で、試料におけるPrPScの生成を検出する検定法に使用される、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくはその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及びその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質、好ましくはアポリポタンパク質B又はそのフラグメントは、LDL受容体と結合し及び/又は複合体を形成する。
【0054】
別の実施態様で、本発明は、PrPCのPrPScへの変換を調節する化合物を同定するスクリーニング検定法に、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくはその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及びその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質、好ましくはアポリポタンパク質B又はそのフラグメントを使用する。
【0055】
本発明のさらに別の実施態様で、PrPCのPrPScへの変換を調節する化合物を同定するスクリーニング検定法に使用される、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくはその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及びその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質、好ましくはアポリポタンパク質B又はそのフラグメントは、LDL受容体と結合し及び/又は複合体を形成する。
【0056】
本発明の別の実施態様の検定法は、タンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅(PMCA) 検定法である。
【0057】
本発明の好まし実施態様で、タンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅(PMCA)検定法は、正常なPrPC及びプリオン変換因子のソースとして正常な脳のホモジネートを使用する。
【0058】
本発明の別の実施態様の、本発明のタンパク質はアポリポタンパク質Bである。
【0059】
本発明の好まし実施態様で、タンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅(PMCA) 検定法は、細胞ライゼート、又は実施例2に記載さている細胞系N2aなどのプリオン感染に感受性の神経芽細胞腫細胞から抽出された脂質ラフトを、正常なPrPC及びプリオン変換因子のソースとして使用する。脂質ラフトの画分は、PMCAの基質のソースとして働くように脳から直接精製することもできる。
【0060】
好ましい実施態様で、本発明は、アポリポタンパク質Bを、試料中のPrPCを検出する検定法、すなわち正常なPrPCと基質のソースとして感染に感受性の神経芽細胞腫細胞系N2a由来の脂質ラフトを使うタンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅(PMCA) 検定法に使用する。
【0061】
別の実施態様で、本発明は、アポリポタンパク質B、そのフラグメント又はその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質のモジュレーター好ましく阻害剤又は拮抗剤を、プリオン疾患とりわけウシ海綿状脳障害(BSE)とクロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)の治療に使う医薬組成物を製造するのに使用する。
【0062】
本発明の別の実施態様で、アポリポタンパク質B、そのフラグメント及びその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質のモジュレーター好ましく阻害剤又は拮抗剤は、アポリポタンパク質BとLDL受容体の結合及び/又はそれらの間の複合体の形成を修飾し好ましくは阻害する。かようなモジュレーターの例は、LDL受容体のモジュレーター、例えば抗LDL受容体抗体のようなLDL-受容体の拮抗剤である。
【0063】
本発明の好ましい実施態様のモジュレーターは、アポリポタンパク質B又はそのフラグメントに対する拮抗剤である。
【0064】
本発明のさらに好まし実施態様のモジュレーターは、アポリポタンパク質B又はそのフラグメントに対して生成する抗体である。
【0065】
本発明の別の好ましい実施態様のモジュレーターは、アポリポタンパク質Bに対して生成する抗体である。
【0066】
本発明の別の好ましい実施態様のモジュレーターは、分子量が30,35及び40 kDaから選択される分子量であるか又はその分子量に近い、アポリポタンパク質Bのフラグメントに対して生成する抗体である。
【0067】
本発明の別の好ましい実施態様のモジュレーターは、位置3201-3558、3548-3905、3201-3905、3291-3558、3548-3815及び3291-3815の位置に存在するフラグメントから選択される配列を含む、アポリポタンパク質Bのフラグメントに対して生成する抗体である。
【0068】
本発明の好ましい実施態様のペプチド又はタンパク質は、アポリポタンパク質B又はそのフラグメントから選択される。
【0069】
本発明の好ましい実施態様のペプチド又はタンパク質は、配列番号:3の配列を含有している。
【0070】
本発明の別の好ましい実施態様のペプチド又はタンパク質は、分子量が30,35及び40 kDaから選択される分子量であるか又はその分子量に近いフラグメントである。
【0071】
本発明の別の好ましい実施態様のペプチド又はタンパク質は、位置3201-3558、3548-3905、3201-3905、3291-3558、3548-3815及び3291-3815の位置に存在するフラグメントから選択される配列を含む、アポリポタンパク質Bのフラグメントである。
【0072】
本発明の実施態様で、本発明は、プリオン病に冒されている疑いのある被験者にプリオン病を診断又は検出する方法であって、(i)前記被験者からの試料を、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくはその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及びその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質、好ましくはアポリポタンパク質B又はそのフラグメントと接触させ、(ii)ステップ(i)から得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPC含有混合物と接触させ、次いで(iii )前記試料中のPrPScの存在及び/又は量を確認するステップを含んでなる方法を提供する。この被験者からの試料としては、哺乳類の例えば細胞試料、遺伝物質、体液、脳のホモジネート、細胞及び脂質ラフトからの生物学的抽出物がある。
【0073】
本発明の別の実施態様で、本発明は、被験者をプリオン病に罹りやすくするマーカーを確認する方法であって、(i)アポリポタンパク質B及びそのフラグメントから選択されるタンパク質の、試料中のレベルを測定し、(ii) ステップ(i)から得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPC含有混合物と接触させ、次いで(iii )前記測定ステップで得たタンパク質の前記レベルを、プリオン疾患の発生と関連付けるステップを含んでなる方法を提供する。そのマーカーとしては、遺伝形質、一種又は複数種の遺伝性変異体、タンパク質又は酵素の血中濃度などの生物学的パラメータ又は値がある。
【0074】
本発明の別の実施態様で、本発明は、試料におけるPrPScの生成を検出する方法であって、(i)前記試料を、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくはその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及びその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質、好ましくはアポリポタンパク質B又はそのフラグメントと接触させ、(ii)ステップ(i)から得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPC含有混合物と接触させ、次いで(iii )前記試料中のPrPScの存在及び/又は量を確認するステップを含んでなる方法を提供する。その試料としては、品質管理を行うためにプリオンの存在を検出しなければならない生物学的製剤及び/又は哺乳類の例えば細胞試料、遺伝物質、体液、脳のホモジネート、細胞及び脂質ラフトからの生物学的抽出物を含む前記疾患に冒されている疑いのある被験者から抽出した試料がある。
【0075】
本発明の別の実施態様で、本発明は、PrPCのPrPScへの転移を調節し、好ましくは阻害し又はその転移に拮抗する化合物を試料中に同定する方法であって、(i)前記試料を、(a)前記化合物の存在下及び(b)前記化合物の不在下で、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくはその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及びその擬似体から選択されたペプチド又はタンパク質、好ましくはアポリポタンパク質B又はそのフラグメントと接触させ、(ii)ステップ(i)aとステップ(i)bで得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPC含有混合物と接触させ、次いで(iii )(a)前記化合物の存在下及び(b)前記化合物の不在下でのPrPScの量を測定するステップを含んでなる方法を提供する。前記モジュレーターとしては、抗体、LDL受容体に結合するアポリポタンパク質B、及び/又は分泌及び/又は合成の阻害剤がある。
【0076】
本発明のさらに別の実施態様は、アポリポタンパク質B及びそのフラグメントから選択されたペプチド又はタンパク質の上記モジュレーターの有効投与量を、それを必要とするヒト又は動物の被験者に投与することからなる、ウシ海綿状脳障害(BSE)とクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などのプリオン病を治療又は予防する方法である。
【0077】
モジュレーター、好ましくは阻害剤を使用する好ましい方法において、そのモジュレーターは、定期的な時間間隔をとって、注射又は注入によって投与する。本発明の化合物の投与は、症状が患者に検出される前に開始することができ、その後、継続しなければならない。
【0078】
本発明の上記調節化合物は、意図する目的を達成するどの手段によって投与してもよい。例えば、限定されないが、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、脳内、くも膜下、鼻腔内、口内、直腸内、経皮、鼻腔内又は頬面を含む多種類の経路によって投与される。本発明の化合物は、好ましくは、皮下、筋肉内又は静脈内への注射又は注入によって投与される。
【0079】
非経口投与は、ボーラス注射又は時間をかけて徐々に実施する潅流で行うことができる。プリオン関連の障害を予防、抑制又は治療する典型的な方式は、(1)ペプチドが0.5-10 mgの範囲内好ましくは0.5-10 mgの範囲内の高濃度の調節化合物を一回又は二回投与して有効量を投与するか、又は(2)10-1000 μgの範囲内好ましくは50-500 μgの範囲内の低濃度の調節化合物を何ヶ月から何年にもわたって、多数回投与してペプチドの有効量を投与する方法である。投与される投与量は、患者の年齢、性別、健康および体重、あるならば同時に行っている治療、治療の頻度及び所望の効果の性質で決まると解される。各治療に必要な合計投与量は、多数回の投与又は一回の投与で投与できる。
【0080】
非経口投与用製剤としては、滅菌の水性もしくは非水性の水剤、懸濁剤又は乳剤があり、これらは、当該技術分野で知られている補助剤又は添加剤を含有していてもよい。非経口投与用の適切な配合物としては、水溶性塩などの水溶性型の有効化合物の水溶液がある。さらに、油状注射剤としての有効化合物の懸濁液の懸濁剤も投与できる。
【0081】
本発明の別の実施態様は、試料におけるPrPScの生成を検出する検定法であって、(i)前記試料を、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくはその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及びその擬似体から選択されたペプチド又はタンパク質、好ましくはアポリポタンパク質B又はそのフラグメントと接触させ、(ii)ステップ(i)から得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPC含有混合物と接触させ、次いで(iii )前記試料中のPrPScの存在及び/又は量を確認するステップを含んでなる検定法を提供する。その試料としては、品質管理を行うためにプリオンの存在を検出しなければならない生物学的製剤及び/又は哺乳類の例えば細胞試料、遺伝物質、体液(血液、血清、血漿を含む)、脳のホモジネート、細胞及び脂質ラフトからの生物学的抽出物を含む前記疾患に冒されている疑いのある被験者由来の抽出試料がある。
【0082】
本発明の別の実施態様で、本発明は、PrPCのPrPScへの転移を調節し、好ましくは阻害し又はその転移に拮抗する化合物を同定するスクリーニング検定法であって、(i)前記試料を、(a)前記化合物の存在下及び(b)前記化合物の不在下で、アポリポタンパク質B、そのフラグメントもしくはその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント又はその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質、好ましくはアポリポタンパク質B又はそのフラグメントと接触させ、(ii) 前記ステップ(i)aで得た試料及び前記ステップ(i)bで得た試料を、PrPC、又は脳のホモジネート、細胞ライゼート、脂質ラフト製剤などのPrPC含有混合物と接触させ、次いで(iii )(a)前記化合物の存在下及び(b)前記調節化合物の不在下でのPrPScの量を測定するステップを含んでなるスクリーニング検定法を提供する。前記モジュレーターとしては、抗体、アポリポタンパク質B及び/又は分泌及び/又は合成の阻害剤がある。
【0083】
本発明の別の実施態様で、試料並びにアポリポタンパク質B、そのフラグメント及びその擬似体、アポリポタンパク質E、そのフラグメント及びその擬似体から選択されるペプチド又はタンパク質を受け取るプローブを有する、本発明の前記検定法に使用する診断キットが提供される。本発明のこのキットには、マルチウエルマイクロタイタープレート及び/又はマルチウエルソニケーターを有するキットが含まれている。
【0084】
本発明のさらに別の実施態様で、本発明の前記方法又は本発明の前記検定法に使用する装置が提供される。本発明のこの装置は、マイクロタイタープレート及び/又はマルチウエルソニケーターを有する装置を備えている。
【0085】
好ましい実施態様におけるプリオン疾患はウシ海綿状脳障害(BE)である。
【0086】
好ましい実施態様におけるプリオン疾患は、散発性、異型、家族性又は医原性のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)である。
【0087】
本発明を、特定の実施態様を参照して説明してきたが、その説明の内容は、特許請求の範囲の意味と目的を逸脱することなく当業者が提供できるすべての変形と置換を含んでいる。
【0088】
ここで、本発明を、下記の実施例で説明するが、いかなる場合でも本発明を限定するとみなしてはならない。これら実施例は本願の図面を引用している。
【0089】
略語
アポB(アポリポタンパク質B); アポE(アポリポタンパク質E); アポJ(アポリポタンパク質J);BCA(ビシンコニン酸);CHAPS(3-((3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ)-1-プロパンスルホネート);CNS(中枢神経系); BSE(ウシ海綿状脳障害);CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病);DiI(1,1-ジオクタデシル-3,3,3,3-テトラメチルインドカルボシアニン パークロレート);DIM(界面活性剤不溶性膜);DMEM(ダルベッコの修正イーグル培地);DRM(界面活性剤耐性膜培地);DTT(1,4-ジチオ-D,L-トレイトール);IPG(固定化pH勾配);IEF(等電点フォーカシング);FCS(ウシ胎仔血清);FFI(致命的家族性不眠);GSS(Gerstmann-Strassler-Scheinker Disease);hr(時間);HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ);kDa(キロダルトン);LDL(低密度リポタンパク質);μg(マイクログラム);μl(マイクロリットル);min(分);MβCD(メチル-β-シクロデキストリン);mM(ミリモル);MS(質量分析法);PBS(リン酸塩緩衝食塩水);PK(プロテイナーゼK);PMCA(タンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅法);PMSF(フェニルメタンスルホニルフルオリド);PrP(プリオンタンパク質);PrPC(PrPの正常な非病原性コンフォーマー);PrPSc(プリオン疾患のマーカーでもある病原性の又は「スクレイピー」のアイソフォーム);PVDF(ポリビニリデンジフルオリド);RPM(1分当たりの回転数);RML(Rockey Mountain Laboratory);RT-PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応);SDS(ドデシル硫酸ナトリウム);V(ボルト);Vol.(巻)。
【実施例】
【0090】
本発明を、以下の諸実施例によって例証するが、これら実施例は本発明の範囲を限定するとみなしてはならない。
【0091】
以下の諸実施例によって、好ましい化合物及びそれらの生物学的活性の測定法を例証する。
【0092】
感染接種物として使用されるPrPスクレイピーは、RML(Rockey Mountain Laboratory)の株である。
抗-PrP 6H4モノクローナル抗体はPrionicsから購入した。
プロテイナーゼKはBoerhinger Ingelheimから、そしてメチル-β-シクロデキストリンはSigmaから入手した。
精製し脱脂したヒトのアポリポタンパク質B(アポB)とアポリポタンパク質E(アポE)はChemiconから入手した。
抗-アポBと抗-アポEはそれぞれ、ヒトアポBとヒトアポEに対するヤギのポリクローナル抗体であり、これらはChemiconから入手し、アジ化ナトリウムを除くためPBSに対して透析した。
全ヤギIgGはPierceから購入してPBSに対して透析した。
マウスの神経芽細胞腫のN2a細胞系はATCCから入手した。
ネズミのアポJ(アポJ)は、PCT/EP2004/05037号に記載されているように社内で入手した。
DiIとラベルを付けたLDLはMolecular Probesから入手した(L-3482)。
【0093】
実施例1;PMCA検定法による、脳のホモジネートにおける生体外でのプリオンの複製
生体外でのプリオンの複製に対するコレステロールと幾種類かのアポリポタンパク質の作用を、タンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅(PMCA) 検定法で分析する(Saborioらの2001年の文献)。この場合、下記のように、ハムスターの脳のホモジネートを、PrPCと変換因子のソースとして使用する。
【0094】
a) 脳の調整:
健康なシリアンゴールデンハムスター又は順化(adapted)スクレイピー株263Kに感染させた同ハムスターを断頭して得た脳を、直ちにドライアイスで凍結させ使用するまで−80℃に保持する。脳を、プロテアーゼ阻害剤(Complete(商標)カクテル、Boehringer Mannheimから入手)を含有するPBS中に、1x最終濃度でホモジナイズする。界面活性剤(0.5% Triton X-100,0.05% SDS,最終濃度)を添加し、試料を、Eppendorf遠心分離機(model 5415)を使って、1分間、低回転速度の遠心分離(1000g)で透明にする。
【0095】
スクレイピーの脳のホモジネートの希釈物(3200倍と12800倍)を、健康な脳のホモジネートに直接添加してプリオンの複製を誘発する。これら混合物60μl を直ちに凍結しそして別の60μlを攪拌しながら37℃でインキュベートする。マイクロソニケーター(Bandelin Electronic,model Sonopuls)を使って、プローブを試料中に浸漬し、パワーを40%に設定して、各1時間に、1サイクルのソニケーション(各1秒間に5パルス)を行う。これらサイクルを10回繰り返す。
【0096】
b) コレステロール消耗試薬の存在下と不在下でのPMCAのシグナル
これらの条件下、PMCAを10サイクル実施した後、PrPScのシグナルの量の劇的な増加が観察される(図1、レーン2と3)。正常な脳のホモジェネートを、10mMと20mM(しかし5mMではない)のメチル-β-シクロデキストリン(MβCD)で30分間処理すると、細胞培養及び生体外のマウスモデルで得られるように、プリオンの複製の完全な阻害が観察される(図1、レーン6−9)。これは、コレステロールの消耗がプリオンの複製に対して決定的に作用することを示している(Taraboulosらの1995年の文献)。
【0097】
c) アポリポタンパク質の存在下でのPMCAのシグナル
精製し脱脂したヒトアポB(図2A)とヒトアポE(図2B)をそれぞれ、シクロデキストリンなしのPMCA製剤に、異なる濃度(hアポBは8μgと16μg)及び(hアポEは1μgと10μg)で添加する。試料を4℃で30分間インキュベートし次いで各試料の1/2を凍結し残りの1/2をPMCAのサイクルに付した。
【0098】
アポリポタンパク質Bとアポリポタンパク質Eの両者について、スクレイピー脳のホモジネートの3200倍希釈物と12800倍希釈物に、生体外でのプリオン複製の増加が観察される。
【0099】
対照的に、HDLのアポリポタンパク質成分であるアポリポタンパク質J(1,2及び4μgの濃度)を添加しても、PMCAシグナルに対して全く作用しない(図2C)。
【0100】
これらのデータは、プリオン変換に関与しているアポリポタンパク質BとEの作用を示している。
【0101】
実施例2:PMCAによる、プリオン感染感受性細胞由来の脂質ラフトにおける生体外でのプリオンの複製
マウスの神経芽細胞腫の細胞系N2aは、PrPScに感染する性質があるので使用する。Baronらの2002年の文献とEnariらの2001年の文献には、プリオン感染に感受性の及びプリオン感染に耐性のN2aのサブ細胞系が存在することが示されている。プリオン感染感受性細胞系から脂質ラフトを単離してPMCA検定法の基質として使用する。アポリポタンパク質B拮抗剤のプリオン変換に対する作用を、アポリポタンパク質B拮抗剤の、プリオン感染感受性N2a細胞系のプリオンを複製する性能を阻害する性質によって試験する。
【0102】
a) N2a細胞の調製
親マウスの神経芽細胞腫N2a細胞系のサブクローンを、限界希釈法によって単細胞から誘導する。10%のウシ胎仔血清(FCS)を含有し2mMのl-グルタメートと標準の抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)を補充した増殖培地(ダルベッコの修正イーグル培地)(DMEM Gibco#41966-029)を、5細胞/mlの密度まで希釈し、100 μlずつを、96ウエルプレートの個々のウエルに移して1週間培養する。
【0103】
個々の培養物を顕微鏡で検査して増殖中の細胞の単一フォーカスを含んだウエルを確認する。その単細胞を誘導した培養物を24ウエルプレートに移し、3-4日毎に1:15の希釈率で順に継代培養して株を維持する。合計63個の培養物を単離し、これら培養物をすべて、PrPScのRML株によって感染に対する感受性を試験する。この試験を行うため、新しく継代培養した細胞のウエル一つ当たり4μlの10%後期感染脳抽出物を添加し次いでその培養物をさらに4日間放置して100%集密度に到達させる。その後細胞を、PrPScの不在下、順次継代培養した。試験結果は、最初の接種物の痕跡はすべて継代4で消失したことを示した。この継代とその後の継代の個々の培養物を、PrPScの存在について試験する。
【0104】
b) 細胞培養物ドットブロット法によるプリオン感染耐性細胞の単離
63個の個々の細胞培養物中のPrPScの存在を、溶解及びプロテイナーゼK(PK)による消化を培養皿で直接行う細胞培養物ドットブロット法で試験する。PK耐性PrPScは、下記のように、PVDF膜にドットブロットし次いで抗PrP抗体に暴露することによって検出する。
【0105】
感染させた細胞を、24ウエルプレート中で3-4日間増殖させ、次いでPBSで一回洗浄する。40μlのDNアーゼ1(水中1000 U/ml)を各ウエルに添加し、室温で5分間経過後、40μlのプロテイナーゼK溶液(100mM トリス/HCl pH 7.4、300mM NaCl、1% Triton-X100、1%デオキシコール酸ナトリウム中20 μg/ml)を添加する。プレートを、ゆっくり攪拌しながら、1hr、37℃でインキュベートする。80μg/ml PMSF、10mm トリス-HCl pH 8.0及び1mg/ml ブロモフェニルブルーを含有する溶液2μlを添加することによって、プロテイナーゼKによる消化を停止させる。20μl ずつのアリコートを、192mM グリシン、25mM トリス、20%メタノールを含有する脱気溶液と平衡させたPVDF膜上にスポットさせる(spot)。次に膜を、3Mグアニジンチオシアネート、10 mMトリス/HCl pH 8.0に移し、10分間、タンパク質を変性し、水ですすぎ、抗PrP6H4(Prionics)を使ってウエスタンブロットを行うために処理する。PBSに5%の牛乳を溶解した溶液とともに1hrインキュベートすることによって非特異的結合を阻止する。次に、その膜を、特異的な一次抗体の抗PrP6H4に暴露し続いてHRP連結二次抗体に暴露する。なおこれら抗体は各々PBS、0.3% Tween 20に適当に希釈されている。ウエスタンブロットは、ECL(商標)(Amersham)によって、プロバイダーの説明書によって指導されているように展開させる。
【0106】
次に、膜からの化学発光シグナルを、Kodak Imagestation 440CFを使って直接分析する。各条件下の発光シグナルを細胞増殖に起こりうる差に対して正規化した。プロテイナーゼKで処理されていない平行ライゼートの全タンパク質含量を、BCA検定法(Biorad)を使って測定し、結果はインテンシティー/μg タンパク質で表す。
【0107】
分析された63個のサブクローンの内、9個はPrPScを複製できるが効率は異なっていることが分かった(図3)。残り54個のサブクローンは感染に耐性であった。プリオン感染感受性が最も高い細胞系を、類似の形態と倍加時間を有する幾種類かのプリオン感染耐性サブクローンとともに、試験のために選択した。我々は、これら細胞系のうちの2種類、すなわちプリオン感染耐性クローン#23及びプリオン感染感受性クローン#60を選択した。
【0108】
これら二つの細胞系を1年間にわたって培養して維持し、この期間を通じて多くの異なる時点でRMLに感染させたところ、どの時点でも、サブクローン#60は感染性が高かったが、サブクローン#23は完全に感染耐性であった。プリオン感染感受性サブクローンは、それぞれ3日又は4日毎に、1:15又は1:20の希釈率で連続継代培養することによって慢性的に感染している細胞培養物として維持できた。
【0109】
耐性細胞と感受性細胞の間又は無感染細胞と感染細胞の間に、顕微鏡検査で、明らかな形状の差は観察されなかった。
【0110】
PrPの複製のこの細胞モデルの臨床面での重要性を実証するため慢性的に感染しているN2a細胞の抽出物又は緩衝液のみを、正常マウスの海馬に定位注射で注射した。N2a抽出物の注射によって、140日後にスクレイピーの症状が始まり早期に死亡したが、模擬注射では、マウスの生理又は寿命に全く影響が無かった。このことは、プリオン感染感受性N2a細胞を利用するプリオン複製に関する細胞ベースのモデルが、伝染性PrPスクレイピーを発生して、細胞内でのPrPの変換が生体内で起こるプロセスの優れたモデルであることを確証していることを示している。
【0111】
c) 脂質ラフトの単離
冷Triton X-100中での可溶化に対する耐性とこれに続くスクロース勾配液に対する浮遊に基づいた脂質ラフトの単離法は多くの研究室が報告している(Simonsらの2000年の文献;Hooperらの1999年の文献)。先に選択された二種の細胞系から脂質ラフトを以下のようにして単離する。
【0112】
N2a細胞のサブ集密度の培養物をPBS内で洗浄し、次いで5分間、1000 x gの遠心分離を行って集める。一般に3 x 15 cmのディッシュに、均一にほぼ3 x 107の細胞がプールされる。その細胞ペレットを、1 mlの氷冷ラフト緩衝液(10μM硫酸銅と完全プロテアーゼ阻害剤のカクテル(Boehringer)を含有する1%TritonのPBS溶液)中に再び懸濁させる。細胞を、22Gの針を7回通過させ次いで攪拌しながら4℃で30分間インキュベートすることによって破壊する。60%スクロースのPBS溶液2倍容積を添加し、そしてそのライゼートをSW41遠心分離管に移す。そのライゼートを、35%スクロースのPBS溶液7mlと15%スクロースのPBS溶液1mlで注意深く覆って、35,000 RPMにて20hr遠心分離する。脂質ラフトを、勾配液のトップ1ml中に回収する。10倍容積の冷PBSを添加して100,000 gで2 hr遠心分離することによって,膜をコンセントレート(concentrate)する。2D ゲル電気泳動の代わりに、5倍容積のアセトンの存在下、-80℃で2 hr沈澱させることによって、脂質ラフトの画分からタンパク質を回収する。アセトンによる沈澱を、14000 gで20分間遠心分離することによって集めて70%のエタノールで2度洗浄する。
【0113】
感受性細胞と耐性細胞の両者において、全ライゼートのタンパク質の約1-2%が浮遊ラフトの画分中に回収される。ウエストブロッティングによって分かるように(図4A)、PrPは、全細胞抽出物中に稀にしか検出できないが、遠心分離によってPrPが完全に除かれた試料層から分離しているラフト中に高度に濃縮されている。
【0114】
プリオン感染感受性クローン#60とプリオン感染耐性クローン#23を、抗-PrPでウエストブロットすることによって比較する(図4B)。各々5μgの全ラフトタンパク質を含有するラフト製剤の三つの異なる独立した対を、PrPタンパク質のローディングの均一性を確証する抗アクチン抗体で再プローブする(図4C)。
【0115】
これら試験結果は、前記二つの細胞型由来の脂質ラフト製剤中のPrPのレベルが区別できないことを示している。さらに、図4Aに示す、グリコシル化かされていないモノグリコシル化アイソフォームとジグリコシル化アイソフォームの間の分布及び界面活性剤耐性膜の画分への分離は同一であり、これは、これら因子のどれも異なる表現型に多分関与していないことを示唆している。
【0116】
PrP のcDNAを両細胞系から以下のようにしてRT-PCRで増幅した。N2a細胞の全RNAをTrizol(Gibco)を使って調製し、次いでマウスのPrPのcDNAを、製造業者が提供したプロトコルを利用してOmniscript(Qiagen)で逆転写させる。cDNA合成用の特定のプライマーは5’TCAATTGAAAGAGCTACAGGTG3’である。プリオンのcDNAを、プライマー5’ACCAGTCCAATTTAGGAGAGCC3’(トップストランド)と5'AGACCACGAGAATGCGAAGG3'(ボトムストランド)の存在下、標準のPCR条件を使って増幅する。そのPCR産物は、製造業者の提供する試薬とプロトコルを使用して自動AB13700で完全に配列が決定された。
【0117】
これらのデータによって、両方の場合、PrP mRNAが野生型でありかつ両者が、ヒトの場合、多形性を頻発する部位である129位にメチオニンを有していることが明らかになった。
【0118】
したがって、両細胞型におけるPrPCの発現レベル、グリコシル化のパターン、細胞内局在化及び一次配列は区別することができないので、他の細胞因子がPrPScに対する示差応答に関与している。
【0119】
d) プリオン感染感受性細胞由来の脂質ラフトにおける生体外でのタンパク質ミスフォールディングのサイクリック増幅(PMCA)
§cで得た脂質ラフトは、プリオン感染感受性サブクローンである#60サブクローンから単離し、先に述べたようにして遠心分離して集め次いで2-2.5 mg/mlの濃度(300 mM NaCl、0.5% Triton X100、0.05% SDSを最終濃度として含有するPBS)でPMCA変換緩衝液に再び懸濁させる。
【0120】
RMLの感染したマウスの脳ホモジネートの10%抽出物を、前記ラフト製剤に、タンパク質含量に基づいた希釈率1:100で直接添加し、その混合物のアリコートを、直ちに凍結させて37℃で15hrインキュベートするか又はPMCA(5x0.1秒パルスの音波処理とこれに続く37℃で1hrのインキュベーション)を10サイクル実施する。
【0121】
次に、20μlずつのアリコートの試料を、10μg/mlのプテイナーゼKで37℃にて1hr処理する。‐80℃で2hr、5倍容積のアセトンでPK耐性タンパク質を沈澱させることによって、脂質を除く。アセトンによる沈澱を14000 gにて20分間遠心分離して集め、70%エタノールで2度洗浄し、6H4抗PrPによるウエスタンブロッティングで分析する(図5)。
【0122】
PKによる処理なしの混合物(レーン1と5)に比較して、消化された試料はすべて、N末端が切り取られたPK耐性型PrP27-30の分子量特性のシフトを示す。
6H4抗体も、30kDaで移行するPKとの低レベルの交差反応性を有し、ジグリコシル化型のPKで消化されたPrPに近いことに注目すべきである。このように考えてデータを分析すると、増幅されていない混合物中に存在する希釈脳抽出物由来のPK耐性PrPの初期レベルはこれらの条件下でかろうじて検出できることを示している(レーン2)。
【0123】
プリオン感染感受性(#60)DRMを37℃で15hrインキュベートするとシグナルの僅かな増大が見られるが(#60のレーン3)、PK耐性PrPの最も劇的な増大は、この試料がPMCAを15サイクル受けたときに見られる(#60のレーン4)。これは、PrPCがPrPScに変換するのに必要なすべての因子が、プリオン感染感受性N2a細胞由来の脂質ラフトに常在していることを示している。興味深いことには、プリオン感染耐性細胞系#23由来のDRMを使用した平行分析では、生体外での増幅が全く観察されず(#23のレーン4)、このことは、脂質ラフトが生体外でプリオンタンパク質を変換する性能が、無傷の細胞に見られる活性を反映していることを示している。
【0124】
e) アポリポタンパク質Bに対する抗体の、プリオン感染感受性N2a細胞によるプリオンの複製に対する作用
ヒトアポBに対するヤギのポリクローナル抗体(Chemicon)の存在下、この抗体の濃度を、1xB27補助剤(Gibco #17504-044)と標準の抗生物質(ペニシリンとストレプトマイシン)を含有するDMEM Gibco#41966-029中、0から2mg/mlまで増やしながら、慢性的に感染している感受性細胞を、24ウエルのディシュで培養した。
【0125】
同じ濃度範囲の、特定の試験を受けたことがないヤギ由来の全IgGの存在下、平行シリーズの培養物をインキュベートした。これらの試験結果は、抗hアポBの濃度が0.5 mg/mlを超えると、定量ドットブロッティングによって明らかになったように、PrPの複製が次第に阻害されることを示している(図6)。
【0126】
これらデータは、プリオン変換事象におけるアポリポタンパク質Bの役割を示している。
【0127】
実施例3:プリオン感染耐性細胞及びプリオン感染感受性細胞の脂質ラフトのプロテオミクス分析
上記二つの細胞製剤はそれらのPrP含量によって区別できないので、2Dゲル電気泳動によって、より完全なタンパク質の比較を行って、その二つのサブクローン間の変換活性の差を明示できる他のタンパク質の差を示した。
【0128】
2Dゲルの製剤を下記のようにして調製した。
アセトンで沈殿させたタンパク質(§c参照)を、20μlの1%SDS、0.23%DTT中に再び懸濁させ、95℃で5分間加熱する。その製剤を室温まで放冷し、25μlの溶液(9M 尿素、4% CHAPS、65 mM DTT、35 mM トリス塩基)を添加する。15分後、7 M 尿素、2 M チオ尿素、4% CHAPS、100 mM DTTを含有する溶液85μl を、さらに、前記混合物に添加する。さらに15分後、可溶化されなかった物質を、14000 RPMで5分間遠心分離することによって除き、その上澄み液を7 cmのIPGストリップに直接塗布し、一夜放置して再水和する。IEFの場合、電圧を、300Vから3.5kVまで順次増大し、合計20kVhで電気泳動させる。単一ウエル4‐12%勾配ゲル(Novex)を使って、タンパク質を二次元に分割し次いで提供された説明書にしたがって、銀表示キット(Invitogen)を使用して染色する。
【0129】
2Dゲルによる分析によって、数百種類の種を銀染色法で可視化できる全細胞タンパク質の再現可能なサブセットとして脂質ラフト(N2a細胞ライゼート中約1-2%のタンパク質)中に発見されるタンパク質の画分が明らかになる(図7Aと7B)。
【0130】
その2Dのパターンを、プリオン感染感受性細胞とプリオン感染耐性細胞から単離した製剤で比較する。2Dゲルの基本的範囲に同定される数種類のタンパク質に分析を集中してみると、タンパク質はプリオン感染耐性細胞由来のDRM中のほうが豊富である(図7Cと7D中の矢印)。
【0131】
分取規模の電気泳動法によって、矢印で示した前記2種のタンパク質を切り取ってMS配列決定法で処理する。両者のタンパク質から、モノ同位体質量(monoisotopic mass)が1234.6の同じトリプシンペプチドが発見される。このトリプシンペプチドのN末端の配列はENFAGEATLQR(配列番号:3)である。このペプチドのすべてのアミノ酸は、m/z 618.30でそのMascot分析によってダブルチャージされた前駆体イオンのMS/MSスペクトル内に同定される。
【0132】
データベースのサーチングでは、このタンパク質は、アポリポタンパク質B(アポB)として不明確に同定された。全長のアポBの分子量は500 kDaを超えるがこれら2スポットは40 kDaと30 kDaの推定分子量で移行するので、我々は、後者は細胞中に又は試料調製中に生成したフラグメントであると推定している。その配列は、ヒトのアポBタンパク質のアミノ酸3548-3558に相当し、これはアポB-100にのみ存在し、先端を切り取った形態のアポB-48には存在しない。
【0133】
これらのデータは、配列番号:3の配列を含有する分子量が30~40kDaか又は約30~40kDaのフラグメントが、プリオン変換経路において役割を有していることを示唆している。
【0134】
実施例4:耐性細胞と感受性細胞による蛍光LDL受容体の結合及びインターナリゼーション
N2aサブクローンの#23(プリオン感染感受性)と#60(プリオン感染耐性)を、24ウエルプレートで、10% FCSを含有する標準DMEM培地中にて2日間培養し次いで1%FCSを含有する同じ培地(300μl)に移して1hr保持した。細胞表面の結合を可視化するため、プレートを氷上において、エンドサイトーシスを阻止し次いで3μlの蛍光DiI-LDL(Molecular Probes)を添加して30分間保持した。
【0135】
LDLの結合を、蛍光顕微鏡法で可視化した。前記各サブクローンによるLDLの取込みを試験するため、細胞を、3μlのDiI-LDLとともに 37℃で2hrインキュベートした後、顕微鏡で検査した。
【0136】
対照培養物を、LDL受容体に結合しないDiI結合アセチル化LDL又は細胞核を可視化するHoechstと平行してインキュベートした。
【0137】
蛍光DiI-LDLの結合又は取込みは、プリオン感染耐性細胞とプリオン感染感受性細胞では、類似しており、これは、これら2種の細胞型のLDL受容体のレベルが類似していることを示唆している。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】PMCA検定法によって、 コレステロール消耗剤の存在下及び不在下でのハムスターの脳ホモジネートにおける生体外でのプリオン複製を示す(実施例1§b)。試料は、0、5、10又は20 mM(最終濃度)のメチル-β-シクロデキストリン(MβCD)とともに4℃で30分間インキュベートした5%の正常ハムスターの脳ホモジネートを含有している。スクレイピー脳のホモジネートのアリコートを、3200倍希釈率(トップパネル)及び12800倍希釈率(ボトムパネル)に至るまで添加する。試料の1/2を、増幅することなく対照として直ちに凍結し(PMCA「−」)そして残りの1/2にはPMCAを10サイクル実施する(PMCA「+」)。プリオンの複製は、試料をPK(100 μg/ml、60分間)で処理した後に、ウエスタンブロット法で評価する。各ブロットの第一レーンは、PKで処理されていない正常な脳ホモジネートに相当する。
【図2A】PMCA検定法によって、ハムスターの脳ホモジネートにおける生体外でのプリオン複製に対するアポリポタンパク質B、E及びJの作用を示す(実施例1§c)。5%の正常ハムスターの脳のホモジネートを含有する試料を、異なる量のヒトアポリポタンパク質B(2A)、ヒトアポリポタンパク質E(2B)又はマウスアポリポタンパク質J(2C)とともに4℃で30分間インキュベートする。スクレイピー脳のホモジネートのアリコートを、3200倍希釈率(左パネル)又は12800倍希釈率(右パネル)に至るまで添加する。試料の1/2を、増幅することなく対照として直ちに凍結し(PMCA「−」)そして残りの1/2にはPMCAを10サイクル実施する(PMCA「+」)。プリオンの複製は、試料をPK(100μg/ml、60分間)で処理した後に、ウエスタンブロット法で評価する。各ブロットの第一レーンは、PKで処理されていない正常な脳ホモジネートに相当する。
【図2B】PMCA検定法によって、ハムスターの脳ホモジネートにおける生体外でのプリオン複製に対するアポリポタンパク質B、E及びJの作用を示す(実施例1§c)。5%の正常ハムスターの脳のホモジネートを含有する試料を、異なる量のヒトアポリポタンパク質B(2A)、ヒトアポリポタンパク質E(2B)又はマウスアポリポタンパク質J(2C)とともに4℃で30分間インキュベートする。スクレイピー脳のホモジネートのアリコートを、3200倍希釈率(左パネル)又は12800倍希釈率(右パネル)に至るまで添加する。試料の1/2を、増幅することなく対照として直ちに凍結し(PMCA「−」)そして残りの1/2にはPMCAを10サイクル実施する(PMCA「+」)。プリオンの複製は、試料をPK(100μg/ml、60分間)で処理した後に、ウエスタンブロット法で評価する。各ブロットの第一レーンは、PKで処理されていない正常な脳ホモジネートに相当する。
【図2C】PMCA検定法によって、ハムスターの脳ホモジネートにおける生体外でのプリオン複製に対するアポリポタンパク質B、E及びJの作用を示す(実施例1§c)。5%の正常ハムスターの脳のホモジネートを含有する試料を、異なる量のヒトアポリポタンパク質B(2A)、ヒトアポリポタンパク質E(2B)又はマウスアポリポタンパク質J(2C)とともに4℃で30分間インキュベートする。スクレイピー脳のホモジネートのアリコートを、3200倍希釈率(左パネル)又は12800倍希釈率(右パネル)に至るまで添加する。試料の1/2を、増幅することなく対照として直ちに凍結し(PMCA「−」)そして残りの1/2にはPMCAを10サイクル実施する(PMCA「+」)。プリオンの複製は、試料をPK(100μg/ml、60分間)で処理した後に、ウエスタンブロット法で評価する。各ブロットの第一レーンは、PKで処理されていない正常な脳ホモジネートに相当する。
【図2D】PMCA検定法によって、ハムスターの脳ホモジネートにおける生体外でのプリオン複製に対するアポリポタンパク質B、E及びJの作用を示す(実施例1§c)。5%の正常ハムスターの脳のホモジネートを含有する試料を、異なる量のヒトアポリポタンパク質B(2A)、ヒトアポリポタンパク質E(2B)又はマウスアポリポタンパク質J(2C)とともに4℃で30分間インキュベートする。スクレイピー脳のホモジネートのアリコートを、3200倍希釈率(左パネル)又は12800倍希釈率(右パネル)に至るまで添加する。試料の1/2を、増幅することなく対照として直ちに凍結し(PMCA「−」)そして残りの1/2にはPMCAを10サイクル実施する(PMCA「+」)。プリオンの複製は、試料をPK(100μg/ml、60分間)で処理した後に、ウエスタンブロット法で評価する。各ブロットの第一レーンは、PKで処理されていない正常な脳ホモジネートに相当する。
【図3】スクレイピーの注射に対するN2aサブクローンの示差感受性が抗PrP 6H4 mabに対する暴露によって明らかになったことを報告している(実施例2§2)。プロテイナーゼK(PK)に暴露すると、PrPScアイソフォーム(プロテイナーゼ耐性)が存在している場所を示す。前記の強調された二つのサブクローン#23と#60をそれぞれプリオン感染耐性及び感受性の細胞の代表として選択する。「N2a」は、平行して処理された未感染のN2a細胞を示す。ブロッティング及びPKによる消化の対照は、80μlの溶解緩衝液で希釈し平行して処理された1μlの正常の脳又はスクレイピー脳の抽出物を示す。
【図4】サブクローンのプリオン感染耐性(23#)及びプリオン感染感受性(#60)のN2a由来の脂質ラフト中のPrPの特性決定の結果を示す(実施例2§c)。 図4Aは、プリオン感染耐性細胞(#23)とプリオン感染感受性細胞(#60)から抽出した脂質ラフト中のPrPをウエスタンブロット法で定量した結果を示す。全抽出物中(25μg負荷)(1)、遠心分離後のスクロース試料層中(25μg負荷)(2)及び浮遊脂質ラフト画分中(4μg負荷)(3)のPrPの分布を示す。図4Bは、抗PrPによるウエスタンブロッティングによる、2種のサブクローン#23と#60のPrP含量とグリコシル化のパターンを示す。プリオン感染耐性細胞(#23)とプリオン感染感受性細胞(#60)由来の脂質ラフトの三つの独立した製剤を分析した。各場合、等量(4μg)のラフトタンパク質を分析した。図4Cは、ストリッピングを行い、次いでタンパク質負荷の類似していることを確証する抗アクチンで再プローブした後の同じ膜を示す。
【図5】サブクローンのプリオン感染耐性(#23)の及びプリオン感染感受性(#60)のN2a由来の脂質ラフトの生体外での変換活性を、PMCAを使って示す(実施例2§d)。上部パネル:脂質ラフトを、プリオン感染耐性(#23)細胞及びプリオン感染感受性(#60)細胞から単離する。これら製剤を10% RML脳ホモジネートと10:1の比率で混合し、次いでアリコートを直ちに凍結し、37℃で15hrインキュベートするか又はPMCAを10サイクル実施する。レーン1:PKによる消化なしの初期混合物;レーン2:10μg/mlのPKで37℃にて1hr消化した初期混合物;レーン3:レーン2の場合と同様にPKで消化して37℃にてインキュベートした混合物;レーン4:PMCAを15サイクル実施し続いてレーン2の場合と同様にPKで消化した混合物。レーン5は、PK単独の、抗PrPによる移行性及び交差反応性を示す。下部パネル:ウエスタンブロティングに続いて、膜を、クーマシーブルーで染色して、PKによる消化が完全であったことを確証する。
【図6】抗hアポBクローナル抗体によって誘発される、プリオン感染感受性細胞におけるプリオン複製に対する阻害作用を示す(実施例2§e)。慢性的に感染した#60感受性細胞を、増大する量(0-2mg/ml)のヒトのアポBに対するヤギのポリクローナル抗体(Chemicon)又は特定の実験を受けたことのないヤギIgGの対応シリーズに対するヤギのポリクローナル抗体の存在下、24ウエルの培養ディッシュで培養した。PrP複製のレベルを、定量ドットブロッティング法で測定して、化学発光強度/mgタンパク質として示した。グラフには、各抗体の濃度に対する化学発光強度を、抗体無しで得た値の百分率として示してある。高濃度の抗hアポB抗体は、PrPの複製に対して阻害作用を有している。
【図7】N2a細胞由来の脂質ラフトタンパク質の2D分離を示す(実施例3)。脂質ラフトを、プリオン感染感受性細胞(#60)から単離し、25μgずつの二つのアリコートをアセトンで沈澱させ、第一次元に延びるpH範囲3‐10(7A)又は6-11(7B)で2D分析のための処理をする。第二次元でSDS-PAGE分離を行った後、ゲルを、銀表示キット(Invitron)を使って染色する。矢印は両方のゲル上の同じタンパク質を示している(7Aと7B)。7Bに示す長方形内のタンパク質は、プリオン感染感受性サブクローン#60(7C)とプリオン感染耐性サブクローン#23(7D)由来の脂質ラフトで比較されている。矢印は、耐性細胞中により豊富に存在するタンパク質を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポリポタンパク質B、そのフラグメント、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントから選択されたペプチド又はタンパク質の、試料におけるPrPScの生成を検出する検定法での使用。
【請求項2】
アポリポタンパク質B、そのフラグメント、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントから選択されたペプチド又はタンパク質の、PrPCからPrPScへの変換を調節する化合物を同定するスクリーニング検定法での使用。
【請求項3】
ペプチド又はタンパク質が、LDL受容体と複合体を形成するアポリポタンパク質B、そのフラグメント、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントから選択される請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
検定法が、タンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅(PMCA)検定法である前記請求項のいずれか一つに記載の使用。
【請求項5】
検定法が、正常脳のホモジネートを正常PrPCと基質のソースとして使うタンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅(PMCA)検定法である前記請求項のいずれか一つに記載の使用。
【請求項6】
検定法が、感染感受性神経芽細胞腫細胞系N2a由来の脂質ラフトを、正常PrPCと基質のソースとして使うタンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅(PMCA)検定法である請求項1-4いずれか一つに記載の使用。
【請求項7】
タンパク質がアポリポタンパク質Bである前記請求項のいずれか一つに記載の使用。
【請求項8】
タンパク質がアポリポタンパク質Bであり、検定法が、感染感受性神経芽細胞腫細胞系N2a由来の脂質ラフトを、正常PrPCと基質のソースとして使うタンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅(PMCA)検定法である前記請求項のいずれか一つに記載の使用。
【請求項9】
プリオン疾患の治療に使用する医薬組成物を調製するための、アポリポタンパク質B及びそのフラグメントから選択されるタンパク質又はペプチドのモジュレーターの使用。
【請求項10】
モジュレーターが、アポリポタンパク質B又はそのフラグメントに対する抗体である請求項9に記載の使用。
【請求項11】
ペプチド又はタンパク質が配列番号:3の配列を含んでいる前記請求項のいずれか一つに記載の使用。
【請求項12】
ペプチド又はタンパク質が、30kDa及び40kDaから選択される分子量を有し、そして配列が、位置3201-3558、3548-3905、3201-3905、3291-3558、3548-3815及び3291-3815に位置するアポリポタンパク質Bのフラグメントから選択される前記請求項のいずれか一つに記載の使用。
【請求項13】
プリオン疾患がウシ海綿状脳疾患(BSE)である請求項9-12のいずれか一つに記載の使用。
【請求項14】
プリオン疾患がクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)である請求項9-12のいずれか一つに記載の使用。
【請求項15】
プリオン病に冒されている疑いがある被験者のその疾患の診断又は検出を行う方法であって、(i)前記被験者由来の試料を、アポリポタンパク質B、そのフラグメント、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントから選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii)ステップ(i)から得た混合物を、PrPC、又はPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii )前記試料におけるPrPScの存在及び/又は量を確認するステップを含んでなる方法。
【請求項16】
被験者をプリオン病に罹りやすくするマーカーを確認する方法であって、(i) 前記試料におけるアポリポタンパク質B及びそのフラグメントから選択されたタンパク質のレベルを測定し、次いで(ii)前記測定ステップで得たタンパク質の前記レベルをプリオン病の発生と関連付けるステップを含んでなる方法。
【請求項17】
プリオン疾患がウシ海綿状脳疾患(BSE)である請求項15-16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
プリオン疾患がクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)である請求項15-16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
試料中のPrPScを検出する方法であって、(i) 前記試料を、アポリポタンパク質B、そのフラグメント、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントから選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii)ステップ(i)で得た試料を、PrPC、、又はPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii )前記試料におけるPrPScの存在及び/又は量を確認するステップを含んでなる方法。
【請求項20】
PrPCからPrPScへの転移を調節する化合物を試料中に同定する方法であって、(i)前記試料を、(a)前記調節する化合物の存在下及び(b)前記化合物の不在下で、アポリポタンパク質B、そのフラグメント、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントから選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii) ステップ(i)aとステップ(i)bから得た混合物を、PrPC、又はPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii ) (a)前記調節する化合物の存在下及び(b)前記調節する化合物の不在下でのPrPScの量を測定するステップを含んでなる方法。
【請求項21】
ペプチド又はタンパク質が配列番号:3の配列を含んでいる請求項15-20のいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
ペプチド又はタンパク質が、30kDa及び40kDaから選択される分子量を有し、そして配列が、位置3201-3558、3548-3905、3201-3905、3291-3558、3548-3815及び3291-3815に位置するアポリポタンパク質Bのフラグメントから選択される請求項15-21のいずれか一つに記載の方法。
【請求項23】
試料中のPrPScを検出する検定法であって、(i) 前記試料を、アポリポタンパク質B、そのフラグメント、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントから選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii)ステップ(i)で得た混合物を、PrPC、又はPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii )前記試料におけるPrPScの存在及び/又は量を確認するステップを含んでなる検定法。
【請求項24】
PrPCからPrPScへの転移を調節する化合物を確認するスクリーニング検定法であって、(i)前記試料を、(a)前記調節する化合物の存在下及び(b)前記調節する化合物の不在下で、アポリポタンパク質B、そのフラグメント、アポリポタンパク質E及びそのフラグメントから選択されたペプチドもしくはタンパク質と接触させ、(ii) ステップ(i)aとステップ(i)bから得た混合物を、PrPC、又はPrPCを含有する混合物と接触させ、次いで(iii ) (a)前記化合物の存在下及び(b)前記調節する化合物の不在下でのPrPScの量を測定するステップを含んでなるスクリ−ニング検定法。
【請求項25】
ペプチド又はタンパク質が配列番号:3の配列を含んでいる請求項23-24のいずれか一つに記載の検定法。
【請求項26】
ペプチド又はタンパク質が、30kDa及び40kDaから選択される分子量を有し、そして配列が、位置3201-3558、3548-3905、3201-3905、3291-3558、3548-3815及び3291-3815に位置するアポリポタンパク質Bのフラグメントから選択される請求項23-25のいずれか一つに記載の検定法。
【請求項27】
試料を受け入れるプローブ並びにアポリポタンパク質B及びそのフラグメントから選択されたペプチド又はタンパク質を含む、請求項23-26のいずれか一つに記載の検定法で使用する診断用キット。
【請求項28】
請求項15-22のいずれか一つに記載の方法又は請求項23-26のいずれか一つに記載の検定法で使用する装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−527504(P2007−527504A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516169(P2006−516169)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051170
【国際公開番号】WO2004/111652
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(599177396)アプライド リサーチ システムズ エーアールエス ホールディング ナームロゼ フェンノートシャップ (70)
【Fターム(参考)】