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プリカーサ膜形成用の厚膜組成物および該厚膜組成物を用いたカルコパイライト膜の製造方法
説明

プリカーサ膜形成用の厚膜組成物および該厚膜組成物を用いたカルコパイライト膜の製造方法

【課題】安価で、印刷性に優れた、カルコパイライト膜の前駆体であるプリカーサ膜を形成するための厚膜組成物を提供する。
【解決手段】
無機成分として、銅、酸化銅、銀および酸化銀から選択される少なくとも1種のIb族元素粉末と、酸化インジウムおよび酸化ガリウムから選択される少なくとも1種のIIIb族元素粉末とからなり、平均粒径が0.1μm以上、10μm以下である無機粉末を含み、有機成分として、有機樹脂と、180℃以上、350℃以下の沸点を有する有機溶剤とからなる有機ビヒクルを含み、粘度が10Pa・s以上、190Pa・s以下であり、好ましくは、前記Ib族元素粉末とIIIb族元素粉末との含有量は、モル比で1.0:1.0以上、1.5:1.0未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIS系太陽電池の光吸収層に用いるカルコパイライト膜を製造する工程において、VIb族元素との化合の前に、Ib族元素およびIIIb属元素を含むプリカーサ膜を形成するために用いられる厚膜組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止などを目的とした近年における省エネルギ化の流れを受けて、太陽光を中心とする光エネルギを利用した太陽光発電に対する関心が高まっている。太陽光発電に用いられる太陽電池には、素子の形態や光吸収層の材料などの相違により種々のタイプのものが存在し、それぞれについて研究開発が進められている。
【0003】
これらの中でも、カルコパイライト型と呼ばれるIb−IIIb−VIb族化合物(CIS系化合物)を光吸収層に用いた太陽電池は、CIS系太陽電池と称され、近年注目を集めている。CIS系太陽電池は、薄膜系の太陽電池であり、電池形成に使用する半導体材料が少なくてすみ、しかもエネルギ変換効率が高いという特徴を有しており、すでに実用化の段階にきている。
【0004】
CIS系太陽電池は、ソーダライムガラスなどの基板の上に、モリブデン(Mo)金属膜などからなる下部電極、Ib−IIIb−VIb族化合物からなるカルコパイライト膜により構成される光吸収層、硫化亜鉛、硫化インジウム、硫化カドミウムなどの硫化物からなるバッファ層、および酸化亜鉛などの亜鉛系材料からなる透明電極層が順次積層された積層構造を有している。
【0005】
Ib属元素としては、銅(Cu)、銀(Ag)などが、IIIb属元素としては、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)などが、VIb属元素としては、セレン(Se)、硫黄(S)、テルル(Te)などのカルコゲン(硫黄属元素)が、それぞれ典型的に用いられている。なお、Ib族、IIIb族、およびVIb族の表示は、旧IUPACの規定に基づくものであり、参考までに、新IUPACの規定では、Ib族は第11族に、IIIb族は第13族に、VIb族は第16族にそれぞれ該当する。
【0006】
このような構造を有するCIS系太陽電池の製造工程のうちでは、光吸収層を構成し、太陽電池のエネルギ変換効率などに大きく影響するカルコパイライト膜の製造工程がもっとも重要とされている。ただし、カルコパイライト膜の成膜は、最低でも2種類の金属とカルコゲンとを化合させる必要があるため、もっとも困難な工程となっている。
【0007】
カルコパイライト膜は、一般的に、基板に形成された下部電極上に、スパッタリング法などの真空プロセスを用いて、Ib−IIIb族合金から構成されるプリカーサ膜をスパッタリング法などにより形成したのち、プリカーサ膜中のIb族金属およびIIIb族金属とVIb族元素とを化合させることにより得られる。この化合の工程は、典型的には、プリカーサ膜を、VIb族元素を含有する雰囲気中で500℃前後の温度で加熱することによりおこなわれる。
【0008】
しかしながら、真空プロセスによるプリカーサ膜の形成については、装置コストがかかることのほか、さまざまな欠点が指摘されている。たとえば、Ib族元素とIIIb族元素とを所定の割合で成膜することが要求されるが、元素により成膜スピードが異なるため、成膜条件を微妙に制御する必要がある。また、プリカーサ膜の表面に異常な突起が生じる場合があり、その後のバッファ層の形成に支障をきたすおそれがある。さらに、真空プロセスは、基本的には、成膜したい部分だけでなく全体に成膜がなされるものであり、かつ、原料源であるターゲット材などが最後まで使用できないことなどから、材料効率が低く高価なプロセスとなってしまうという大きな欠点を有している。
【0009】
このため、真空プロセス以外のさまざまな製造方法が検討されている。たとえば、電着などのメッキ法と、ペーストもしくはインクを塗布する厚膜法とによる成膜がその典型例である。
【0010】
特許文献1は、メッキ法によりカルコパイライト膜を形成しようとする典型例として、銅イオンとインジウムイオンを含むメッキ液から銅インジウム合金のプリカーサ膜を形成することを開示している。メッキ法では、Ib族である銅とIIIb族であるインジウムの還元電位に差があり、銅と比べてインジウムの利用率がかなり低いことから、銅に対して50倍のインジウムをメッキ液に含有させる必要性がある。特許文献1では、この対策としてメッキ液にクエン酸または酒石酸を添加し、インジウムの利用率を5〜10倍まで向上させている。しかしながら、従来よりもインジウムの利用率が向上しているとはいえ、メッキ法では、インジウムの利用率に限界があり、依然効率は低くコスト高である。
【0011】
また、連続的なメッキ工程において、銅とインジウムの析出量を常時一定に保つためには、メッキ液の組成や液温度、電流密度などの条件を終止維持するように管理することが必須となるが、これに要するコストも小さくないといえる。このように、メッキ法は、単一の金属を成膜するには、真空プロセスを使わずに、連続的な膜の製造を行える適切な手段といえるが、2種類以上の元素を所定の割合で成膜するには不向きな工法である。
【0012】
一方、厚膜法は、ペースト中に添加する金属成分を含有させ、印刷などにより所定の場所にウェット状態で塗布し、これにVIb族元素を含む雰囲気中で熱処理を加えることによりカルコパイライト膜を形成しようというものである。成膜される金属成分は、ペースト中への添加量によって決定されるため、Ib族元素とIIIb族元素の膜中に含まれる成分比率を容易に制御できる長所を有し、複数成分系の膜を成膜するのに適しているといえる。真空プロセスを使わず、所望の部分だけに塗布することができるため、材料効率などのコスト面でも有利である。
【0013】
特許文献2には、銅および銀の一方または両方ならびに酸化インジウムおよび酸化ガリウムの一方または両方を個別にまたは同時に堆積した後、セレンおよび硫黄の一方または両方を含有する還元性ガス雰囲気下で熱処理することによりカルコパイライト膜を成膜することが開示されている。この文献では、酸化インジウムまたは酸化ガリウムを堆積する場合に、蒸着法、スパッタ法のほかに、インクを使ったディップコーティング法を用いうることが示唆されている。ただし、Ib族の堆積には蒸着法などのディップコーティング法以外の手段を用いており、完全なインク法とはいえないものである。
【0014】
特許文献3には、均一な組成を有するカルコパイライト化合物の合成を可能とするために、IIIb属元素の材料として酸化物を用いるとともに、酸化物層の形成方法として、たとえばIb族元素の金属とIIIb族元素の酸化物粉末とをそれぞれ所定量だけ湿式で粉砕混合してペーストを作製し、基板上にスクリーン印刷などの手法を用いて成膜することが示唆されている。ただし、具体的な実証はなされていない。
【0015】
特許文献4にも、カルコパイライト膜の組成を均一にすることを目的として、プリカーサ膜を、Ib族元素とIIIb族元素との複合酸化物もしくはこれらの個別の酸化物の粉末のペーストを印刷することにより成膜し、得られたプリカーサ膜を、VIb族元素を含む還元性雰囲気または還元性VIb族化合物を含む雰囲気中で加熱処理することを開示している。この技術では、プリカーサ膜の成膜をペーストを基板上にスクリーン印刷により形成している。ただし、ペーストの作製については、酸化物粉末をポリエチレングリコールと混合するとのみ記載され、その組成についての詳細な記述はなされていない。また、Ib族元素とIIIb族元素と複合酸化物は、この用途のために特別に準備する必要があり、コスト面で不利である。
【0016】
特許文献5にも、Ib族元素およびIIIb族元素の酸化物粒子をインク状に加工したものを使い、カップコーティングなどの工法で塗布して、乾燥後に、還元性雰囲気で加熱することにより、Ib族元素およびIIIb族元素の合金からなるプリカーサ膜を形成することが開示されている。より具体的には、ペースト状のソース材料に対してはスクリーンプリント技術を、ソース材料がインクまたはペイント状である場合には、スプレー、ブラシ、ローラまたはパッド、グラビア印刷、スタンプ印刷、ドクターブレーディングまたはカップコーティング、インクライティングおよびカーテンコーティングによるペインティングといった、公知の種々の湿式堆積技術を使用できると記載されている。そして、実施例においては、酸化銅と酸化インジウムの混合粉末を水と分散剤を加えて、ボールミルで粉砕混合して、インクを調合し、カップコーティングでインクを基板上にコーティングしている。
【0017】
特許文献4および5の技術では、好ましくは2〜3μm以下のIb族元素およびIIIb族元素の酸化物を素原料とすることが示され、この場合コスト面では有利である。しかしながら、厚膜法の場合、インクもしくはペーストからなる厚膜組成物の塗布、乾燥、および加熱という成膜工程を伴い、これらのすべての工程について十分に考慮することが必要であるにもかかわらず、これらの技術は、下記の点で、重要な工程である塗布もしくは印刷工程を考慮したものとはなっていない。すなわち、特許文献4では、酸化物粉末とポリエチレングリコールだけの混合物となっているが、この組成では、混合後の数日間で粉末の沈降が生じ、安定した粘度を有するペーストにすることができない。また、特許文献5では、酸化物粉末と水と分散剤の混合物となっているが、分散剤が適正であれば特許文献4のような粉末の沈降については防止できるが、水を使用しているために、この揮発が保管中および使用中に生じて、ペーストの粘度上昇が著しくなり実用性に欠ける。
【0018】
特許文献6において、下部電極の上に、セレン化インジウム粉末、セレン粉末、塩化銅粉末およびバインダよりなるペーストを、スクリーンを用いて印刷することが提案されている。これは、ペースト印刷後に真空中または不活性気体雰囲気中あるいは不活性気体中に還元ガスを混合した気体中において、膜を加熱してセレン化する方法である。バインダとして、プロピレングリコール、エチレングリコールが例示されているが、その目的に反しない限り、これら以外のものも使用できるとしている。この技術は、ペースト中にセレン成分をあらかじめ含有させる点で特徴的であるが、原料の1つであるセレン化インジウム粉末は、他に一般的な用途がなく、特別に製造する必要があるためコスト面で不利である。
【0019】
特許文献7では、カルコパイライト膜を形成するために、銅、インジウム、ガリウム、セレンから構成される金属カルコゲナイドナノ粒子のコロイド懸濁液を基板に析出させている。この技術では、金属カルコゲナイドの融点が非常に高く、ガラス基板が耐えうる温度の加熱では粒子間の焼結がなされず緻密な膜が形成できないことから、10〜30nmの平均粒子径を有するナノ粒子のコロイド懸濁液を用い、融点を飛躍的に低温化させて、300℃以下の温度での加熱処理によるカルコパイライト膜の成膜を可能としている。しかしながら、この技術でもカルコゲナイドナノ粒子を特別に製造する必要があるため高コストになるとともに、ナノ粒子のコロイド懸濁液は一般的に液安定性に欠け、保存性にも問題がある。
【0020】
特許文献8にも、ナノ粒子からなるインクの製法とそれから形成されるカルコパイライト膜の成膜方法が記載されている。この技術では、ナノ粒子が金属カルコゲナイドではなく、VIb族元素が単独で添加され、Ib族およびIIIb族元素のナノ粒子およびさらにはVIb属元素を含むインクを塗布後、適切な雰囲気で加熱することによりカルコパイライト膜を形成している。ただし、同様にナノ粒子を使ったインクは、コストと保存安定性に問題がある。
【0021】
以上のように、さまざまな厚膜法によるカルコパイライト膜あるいはその前駆体であるプリカーサ膜の製造方法が提案されている。インクやペーストを使用する厚膜法では、真空法およびメッキ法で最大の問題となる、Ib族元素とIIIb族元素との配合については問題とならない。厚膜法では、粒子から膜を形成する点が最も困難であり、それぞれの技術においてさまざまな工夫がなされている。ただし、複合酸化物、カルコゲナイド粒子、ナノ粒子の使用は、この用途だけに特別な素原料を準備する必要があり、コスト面で不利である。
【0022】
一方、Ib族元素およびIIIb族元素の素原料として、一般的に流通している粒径の酸化物を用いることについて開示されているものの、これらのペーストの組成について、重要な塗布工程を考慮したものとはなっていないため、印刷などの塗布工程において、連続的な印刷に十分に対応し切れていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特許3011319号公報
【特許文献2】特許3095182号公報
【特許文献3】特開平5−326997号公報
【特許文献4】特許3091599号公報
【特許文献5】特許4303363号公報
【特許文献6】特開平10−229208号公報
【特許文献7】特許4279455号公報
【特許文献8】特表2008−537640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、カルコパイライト膜の前駆体であるプリカーサ膜を形成するための厚膜組成物であって、安価であるとともに、印刷性に優れた厚膜組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、カルコパイライト膜の前駆体であるプリカーサ膜を形成するための厚膜組成物について、安価に提供する観点から鋭意検討したところ、本発明を完成するに至った。
【0026】
すなわち、本発明は、カルコパイライト膜の前駆体であるプリカーサ膜を形成するための厚膜組成物に関する。本発明の厚膜組成物は、無機成分と有機成分により基本的に構成される。特に、本発明の厚膜組成物は、その無機成分として、銅、酸化銅、銀および酸化銀から選択される少なくとも1種のIb族元素粉末と、酸化インジウムおよび酸化ガリウムから選択される少なくとも1種のIIIb族元素粉末とからなる無機粉末により構成しており、かつ、該Ib族元素の粉末およびIIIb族元素の無機粉末の平均粒径を0.1μm以上、10μm以下としている点に特徴がある。
【0027】
また、本発明の厚膜組成物は、その有機成分について、有機樹脂と、180℃以上、350℃以下の沸点を有する有機溶剤とからなる有機ビヒクルにより構成している点に特徴がある。
【0028】
さらに、本発明の厚膜組成物は、前記有機ビヒクルの含有量を規制することにより、該厚膜組成物の粘度が10Pa・s以上、190Pa・s以下となるようにしている。なお、当該粘度は、ブルックフィールド社製の回転粘度計HBT型を使い、厚膜組成物を入れる容器としてSC4−6を、回転子としてSC4−14をそれぞれ用いて、回転速度:10rpm、周囲温度:25±2℃の条件において測定された値である。また、該有機ビヒクルの含有量は、20質量%以上、70質量%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の厚膜組成物においては、Ib族元素とIIIb族元素のモル比が1.0:1.0以上、1.5:1.0未満となることが好ましい。また、本発明の厚膜組成物では、上記の無機成分および有機成分のほかに、適切な有機添加物および/または無機添加物を含むことは妨げられない。
【0030】
本発明の厚膜組成物を、基板上に形成された下部電極の上に塗布し、100〜300℃の温度で乾燥し、還元性雰囲気中で300〜650℃の温度で加熱して、厚膜組成物中の有機溶剤および有機樹脂を除去するとともに、Ib族元素とIIIb族元素との合金からなるプリカーサ膜を形成し、その後、該プリカーサ膜中の前記Ib族元素およびIIIb族元素と、VIb族元素を化合させることにより、Ib−IIIb−VI族化合物を含むカルコパイライト膜を安価に形成することができる。
【0031】
なお、前記塗布を、スクリーン印刷によりおこなうことが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の厚膜組成物を用いることにより、複合化合物、カルコゲナイド化合物粒子、ナノ粒子といった、カルコパイライト膜の製造用途に特別な素原料を準備することなく、厚膜法により、安価にカルコパイライト膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明者らは、安価であるとともに、印刷性に優れた厚膜組成物を提供する観点から種々の検討を行い、本発明に至ったものである。
【0034】
最初に、カルコパイライト膜を形成する材料としての厚膜組成物において、その価格を決定するのは無機粉末であることから、その粉末について検討した。その結果、その無機成分について、Ib族元素としての、銅、酸化銅、銀および酸化銀から選択される少なくとも1種の粉末と、IIIb族元素としての、酸化インジウムおよび酸化ガリウムから選択される少なくとも1種の粉末とにより構成することにより、安価でありながら、均一なプリカーサ膜を成膜しうるとの知見が得られた。
【0035】
銅は、金属粉末として、コンデンサやプリント基板用の電極材料などに用いる厚膜組成物に、酸化物粉末として、触媒やメッキ液の原料に、大量に使用されている。また、銀は、金属粉末として、抵抗器、太陽電池用の電極材料などに用いる厚膜組成物に、酸化銀粉末として、電池材料の原料に、広く利用されている。当然ながら、銀は銅に比較して高価な原料であるため、銅粉末または酸化銅粉末を用いることが望ましい。
【0036】
また、厚膜組成物を構成するIIIb族元素として、酸化インジウムおよび酸化ガリウムから選択される少なくとも1種の粉末を使用する。インジウムおよびガリウムについては、融点が非常に低く、金属粉末を得ることが非常に難しく、その金属粉末の使用はコスト高になるが、酸化物粉末としては、液晶テレビなどに使われる透明電極材料の主要な原料として大量に流通している。
【0037】
これらの原料は、一般的に0.05μm以上の粒度を有する粉末として市販されており、本発明の目的である非常に安価な厚膜組成物の製造を可能とするものである。
【0038】
カルコパイライト膜の前駆体としてのプルカーサ膜には、1〜8μmの厚さが必要となる。このため、添加される無機粉末は、その平均粒径が10μm以下、好ましくは5μm以下であることが必要である。平均粒径が10μmを超える大きさの粒子では、8μm以下の膜形成において実用的な表面フラット性に欠けてしまう。一方、平均粒径が0.1μm未満では、厚膜組成物の印刷性が悪化し、実用性に欠けるとともに、一般的に市販されていない粒子径となるため、コストが高くなってしまう。よって、本発明では、平均粒径が0.1μm以上の無機粉末を使用する。粒径はさまざまな方法による測定が可能であるが、本発明では、レーザ回折式粒度分布測定装置を使用している。平均粒径については、この測定による個数分布の中央値であるD50を基本とするものである。
【0039】
本発明の厚膜組成物においては、Ib族元素とIIIb族元素のモル比が1.0:1.0以上、1.5:1.0未満となることが好ましい。カルコパイライトとは、Ib族元素およびIIIb族元素と、VIb族元素とが、モル比で1:1の割合で化合した化合物である。通常、Ib族元素とIIIb族元素のモル比は1:1であるが、最終的に太陽電池として利用されるカルコパイライト膜中における、Ib族元素とIIIb族元素のモル比は、0.6:1.0以上、1.0:1.0未満であることが好ましいとされている。
【0040】
ここで、プリカーサ膜をカルコゲン化するための結晶成長を促進させるためには、プリカーサ膜の組成はIb族元素が過剰となっていることが好ましい。このため、Ib族元素とIIIb族元素とのモル比を、1.0:1.0以上、1.5:1.0未満とすることが好ましい。この配合で形成されるプリカーサ膜をカルコゲン化した場合、過剰なIb族元素とセレンの2成分からなる化合物が膜表面に析出する。この相の残留は太陽電池の特性に悪い影響を及ぼすために除去する必要があるが、この相は、通常、1〜10質量%のKCN溶液に数分浸漬することにより容易に除去することが可能である。この場合、この相を除去したのちには、Ib族元素とIIIb族元素のモル比を上記の膜中において好ましいとされる配合(0.6:1.0以上、1.0:1.0未満)で形成した場合より、より結晶性に優れるカルコパイライト膜を得ることができる。
【0041】
無機粉末からなる無機成分をペースト状にするための成分は、有機樹脂と有機溶剤から構成される有機ビヒクルである。これらの有機成分のうち、有機樹脂は、厚膜組成物の粘性を印刷に適したものに調整するためと、印刷後の乾燥工程で粉末を飛散させないように固定する役割を果たすものである。なお、印刷、乾燥後の、無機酸化物の金属への還元などを目的とする還元性雰囲気中での加熱において、当該有機樹脂は消失し、形成されたプリカーサ膜中に残留しないことが望ましい。
【0042】
有機樹脂としては、エチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系ポリマーや、ポリ−α−メチルスチレン、ポリスチレンなどのビニル型ポリマーや、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチルなどのアクリル系ポリマーなどを使用できる。ただし、還元性雰囲気中での加熱により消失させるためには、加熱分解型のビニル型ポリマーもしくはアクリル系ポリマーが好ましい。一方、これらだけでは印刷適性が不十分な場合には、セルロース系ポリマーの添加が有効である。これらの有機樹脂の種類および添加量は、後述するように、得られる厚膜組成物の粘度が適正な範囲となるように任意に選択され、その添加量も選択された有機樹脂の種類に応ずるが、有機樹脂全体としては、厚膜組成物中において1.0〜8.0質量%の範囲の含有量とすることが好ましい。
【0043】
有機溶剤は、厚膜組成物に適切な印刷性を付与するための成分である。厚膜組成物の塗布には、スクリーン印刷法、ロールコータ、グラビア印刷などの転写法を使用することが可能であるが、いずれの場合においても、最低数時間、常温、大気中に厚膜組成物は曝されることになる。塗布厚さが一定で、欠陥のない塗布膜を形成するためには、厚膜組成物の粘度がこのあいだ安定している必要がある。また、製造の最初から最後まで、同様に成膜を安定させるためには、厚膜組成物の粘度が製造後から使い切るまで安定している必要がある。そこで、本発明者は、常温での揮発性が粘度の安定性を決定する主要因と考え、さまざまな有機溶剤の常温での揮発性について検討を行った。その結果、180℃以上の沸点を有する有機溶剤を使うことにより、常温での揮発性を無視できるとの知見を得たのである。
【0044】
すなわち、有機溶剤としては、180℃以上、好ましくは200℃以上の沸点を有し、上記の有機樹脂が溶解可能であることが必要である。水やメチルアルコールなどの沸点が低い溶剤では、連続印刷している際に溶剤の揮発が多く、それに伴い粘度が上昇して、印刷性が大きく悪化してしまう。具体的には、所定パターンに印刷した場合に、カスレやダレを生ずる場合があるが、このようなカスレやダレの発生した材料は、製品とすることができず、歩留まりの悪化をもたらすことになる。一方、沸点が高すぎる場合には、印刷後の乾燥工程で乾燥が不足するという問題が発生する。この観点から、350℃以下、好ましくは300℃以下の沸点を有する有機溶剤が好ましい。これに該当する溶剤の典型例としては、テレピン油、ブチルカルビトールアセテート、ターピネオール、2−(4−メチルシクロヘキサン−1−イル)プロパン−2−オール、フタル酸ジ-n-ブチル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシブチルアセテートなどがあげられる。有機溶剤の添加量についても、得られる厚膜組成物の粘度が適正な範囲となるように、その種類に応じて任意に選択されるが、一般的には、有機溶剤全体として、厚膜組成物中において25〜65質量%の範囲の含有量とすることが好ましい。
【0045】
厚膜法では、使用するインクおよびペースト中の有機ビヒクルの含有量を大きくしていくことにより、同じ厚さによる塗布でも、乾燥、加熱後の膜を薄くすることが可能である。この場合に、同じ有機ビヒクルでは、その含有量が大きくなるにつれて、厚膜組成物の粘度が低くなってしまうが、この粘度は、有機ビヒクル中の有機樹脂の種類と有機溶剤の含有量を変更することで、調整することが可能である。
【0046】
ところで、厚膜組成物を、太陽電池用の電極材料に使用する場合、塗布は、このパネルの大きさで一度に行う必要がある。10μm程度の非常に薄い厚さの塗布膜において、カスレやピンホールなどの塗布欠陥が生じると、これらは、パネル全体の光変換効率を大きく劣化させる要因になる。このため、厚膜組成物の粘度は非常に重要な特性となる。粘度の異なるさまざまな厚膜組成物を試作し、塗布後の欠陥の発生頻度を調査した結果、190Pa・s以下の粘度を有する組成物が良好であるとの知見が得られたのである。なお、粘度が10Pa・s以下になると、印刷するべきパターン周辺に厚膜組成物が垂れ出すため、好ましくない。好ましくは、製造以後において30〜150Pa・sの範囲内であるとよい。
【0047】
ここで、一般的に、厚膜組成物はチクソ性を有するため、その粘度は測定条件によって影響を受ける。同じ流体を測定しても、測定条件が変更されれば、粘度値も異なってくる。本明細書における粘度とは、ブルックフィールド社製の回転粘度計HBT型を使い、厚膜組成物を入れる容器としてSC4−6を、回転子としてSC4−14を用い、回転速度:10rpm、周囲温度:25±2℃の条件で測定された値である。
【0048】
このように、有機ビヒクル中の有機樹脂の種類と有機溶剤の含有量を変更することで、厚膜組成物の印刷性が良好になる粘度である、10Pa・s以上、190Pa・s以下に調整することが可能である。しかしながら、厚膜組成物の粘度による調整方法にも限度はある。すなわち、プリカーサ膜の厚さは1μmから8μmと厚膜法で形成する膜としてはもっとも薄いものである。この厚さの範囲の最終膜を形成するには、厚膜組成物中の有機ビヒクル量を20質量%以上、70質量%以下の範囲とすることが必要となる。有機ビヒクル量が70質量%を超えると、印刷性に必須な厚膜組成物のチクソ性が低下して印刷性が悪化する。一方、20質量%より小さくなると厚膜組成物の粘度が上がり、それを防ぐために有機ビヒクル中の有機樹脂の量を減ずる調整が必要だが、実質的にほとんど有機樹脂を添加することができないこととなり、印刷性に劣る厚膜組成物しか得られないこととなる。
【0049】
また、本発明の厚膜組成物に、さまざまな少量の添加物を添加することができる。塗布性を改善する目的で有効な有機添加物がある。そのような有機添加物としては、ステアリル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、オレイル基から選ばれる親油基およびポリエチレングリコール部位を有するカルボキシエステル構造の有機添加剤があげられる。その添加により、粉末の溶剤への濡れ性が改善され、厚膜組成物の粘度の安定性を向上させることができる。この場合、有機添加物の添加は、厚膜組成物に対して直接添加してもよく、粉末の製造工程において粉末表面に付着させる形で添加してもよく、いずれの場合でも同様の効果が得られる。有機添加物の添加量は、厚膜組成物中に3質量%以下、通常1質量%以下とすることが望ましい。
【0050】
さらに、無機添加物の添加が、光変換効率を向上させるために有効となる場合がある。カリウム、ナトリウムなどがこの目的で有効な元素であることは周知である。これらの無機添加物は、酸化物粉末、炭酸塩粉末、または硝酸塩粉末の形態で、本発明の厚膜組成物に添加することができる。無機添加物の添加量は、厚膜組成物中に0.5質量%以下、通常0.1質量%以下とすることが望ましい。
【0051】
有機ビヒクルの添加については、厚膜組成物の製造工程において、有機樹脂と有機溶剤とを個別に添加することも可能ではあるが、製品中の組成をより均一にするためには、厚膜組成物に添加する前に、50〜80℃の温度で、有機樹脂を有機溶剤に溶かした状態にしておくことが望ましい。
【0052】
厚膜組成物の製造には、さまざまなインクおよびペーストを製造する設備を使用することができる。たとえば、そのような設備として、ロールミル、アトライター、ボールミル、ビーズミルなどをあげることができる。
【0053】
以上のようにして形成した厚膜組成物を用いて、プリカーサ膜からカルコパイライト膜を形成する方法について説明する。CIS系太陽電池の基板には、一般的にソーダライムガラス基板が使用される。この基板に下部電極となるモリブデン膜が形成される。この膜はスパッタリング法などの真空プロセスにより、約1μmの厚さに矩形に形成される。本発明の厚膜組成物は、その上に塗布される。塗布方法として、スクリーン印刷法、転写法などの厚膜法に適用可能な手段をとることが可能であるが、プリカーサ膜として数μmオーダーの厚さとするためには、厚膜組成物の塗布厚さも薄いことが必要であり、そのためにはスクリーン印刷法が最も適している。
【0054】
スクリーン印刷法におけるスクリーンマスクには、200〜400メッシュのステンレス製メッシュに、厚さ5〜20μmの乳剤を付けたものが一般的である。モリブデン膜が形成されたガラス基板上に厚膜組成物は、印刷厚さ8〜15μmで印刷される。100〜300℃の温度で数分間から数十分間で乾燥し、有機溶剤成分を揮発させる。その後、還元するための加熱炉に入れる。加熱炉中の雰囲気を、水素を1体積%以上含有する窒素もしくはアルゴンガスに置換し、300〜650℃の温度で、10分間以上、加熱して、有機樹脂成分を消失させるとともに、厚膜組成物中の無機酸化物を金属に還元させて、無機成分からなるプリカーサ膜を形成する。
【0055】
このとき、好ましくは、プリカーサ膜はIb族元素とIIIb族元素との合金の状態になっている。次に、このプリカーサ膜と、セレン、硫黄、テルルなどのVIb族元素(カルコゲン)とを化合させ、所望のカルコパイライト膜を形成させる。VIb族元素の供給は、化合のための加熱処理の際に、雰囲気中にVIb族元素を含有させるのが一般的である。具体的には、H2SもしくはH2SeなどのVIb族元素含有ガスと不活性ガスとを混合させた混合ガスを炉内に供給する。加熱温度は、還元処理と同じ300〜650℃の温度で、15分間以上、加熱することが必要である。
【0056】
Ib族元素を過剰に配合した場合には、熱処理ののち、この熱処理で形成されたIb族元素とVIb族元素からなる好ましくない化合物の相を、得られた膜をKCN溶液中に数分間浸漬することにより、除去することが必要である。
【0057】
一般的には、このようにして、厚膜組成物からカルコパイライト膜を得ることができるが、以上説明した工程は、一般的なものであり、特別この工程だけに限定されるものではない。たとえば、本発明の厚膜組成物を用いて、厚膜法によりプリカーサ膜を形成したのち、該プリカーサ膜上にVIb族元素を堆積させ、該VIb族元素が堆積したプリカーサ膜上に蓋体を載置して、加熱処理をおこなう、あるいは、該プリカーサ膜上に、VIb族元素を一方表面に堆積させた蓋体を、プリカーサ膜とVIb族元素が接するように載置して、加熱処理をおこなうという、本発明者により提案されている手法もとることができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
平均粒径(D50)が0.5μmである、厚膜導電性ペースト用の銅粉末(三井金属鉱業株式会社製、Cu1030Y):18.3質量%、平均粒径が1〜3μmの範囲にある、透明電極用の酸化インジウム粉末(アジア物性材料株式会社製):31.8質量%、有機ビヒクル:49.9質量%を配合して、ロールミルで混合し、ペースト化して、厚膜組成物を得た。銅とインジウムの金属モル比は、1.3:1.0であった。有機ビヒクルとしては、有機樹脂である、エチルセルロース:2.3質量%、およびポリメタクリル酸メチル:0.7質量%を、有機溶剤である、2−(4−メチルシクロヘキサン−1−イル)プロパン−2−オール(沸点:210℃):97質量%に、50℃で溶解したものを使用した。
【0059】
得られた厚膜組成物について、製造から1日経過後ペースト粘度を測定した。測定は、HBT型回転粘度計(ブルックフィールド社製)と、厚膜組成物を入れる容器としてSC4−6、および回転子としてSC4−14とをそれぞれ用い、回転速度:10rpm、周囲温度:25℃の条件で測定した。また、厚膜組成物の粘度の経時的変化を評価するため、厚膜組成物20gについてプラスチック容器に常温で1ヶ月保管し、その経過後に同様にペースト粘度を測定した。実施例1の厚膜組成物については、製造後1日の粘度が95Pa・sであり、製造後1ヶ月の粘度が104Pa・sであった。すなわち、粘度変化は1割程度であり、十分に実用的な範囲の変化に抑えられていることが確認された。
【0060】
次に、製造後1週間、常温で保管した厚膜組成物を用いて、塗布試験を実施した。塗布は、スクリーン印刷で実施した。ステンレス製325メッシュ、乳剤厚さ5μmのスクリーン(東京プロセスサービス株式会社製)を使った。基板は、25mm角で厚さ1mmのソーダライムガラス(松浪硝子工業株式会社製)を使い、20mm角の矩形パターンで厚膜組成物のペーストを基板上に印刷した。100枚連続して印刷を実施し、100枚目の印刷状態の観察から連続した印刷性を評価した。不良モードとして、所定のパターンに印刷されていないカスレとパターンダレを評価の対象とし、これらの有無で判定した。なお、パターンダレは所定の矩形パターンのエッジから1mm以上ダレた場合に『あり』と判定した。実施例1の厚膜組成物については、カスレ、パターンダレのいずれも発生はなかった。
【0061】
印刷後の基板を、ピーク温度を250℃としてベルト乾燥炉に流し、溶剤成分を乾燥した。次に、管状炉に入れ、一度ロータリーポンプで真空に引いた後、水素3体積%、窒素97体積%のフォーミングガスを、毎分30mlの流量で流した。温度を30分間かけて550℃まで昇温し、30分間保持したのち、除冷した。取り出した試料を、X線回折装置(株式会社リガク製)を用いてX線回折測定をおこなったところ、酸化物は還元され、Cu11In9合金とInからなるプリカーサ膜が形成されたことが確認された。酸化物の回折ピークはまったく観察されなかった。膜厚は1.6μmの厚さであった。その後、再び試料を管状炉に入れ、真空に引いた後、セレン化水素3体積%、窒素97体積%のフォーミングガスを50mlの流量で流した。温度を30分間かけて600℃まで昇温し、1時間保持して、炉冷した。取り出した後、4質量%の濃度のKCN溶液に、得られた膜を5分間浸漬することにより、過剰なCuから形成されたCu2Se相を除去した。再び、X線回折で分析を実施した。CuInSe2の強いピークが観測され、その他のピークは観察されなかった。これにより良好なCISカルコパイライト膜が形成されたことが示された。
【0062】
(比較例1)
有機ビヒクル中の有機溶剤を、沸点が180℃より低いブチルセロソルブ(沸点:171℃)に替えたほかは、実施例1と同様に、厚膜組成物のペーストを試作し、得られたペーストについて、粘度の安定性および印刷性を評価した。製造後1日の粘度が113Pa・sであったが、製造後1ヶ月の粘度が178Pa・sと、約6割も増加していた。製造後初期の印刷性の試験では問題のない結果が得られたが、この粘度の変化は、塗布膜厚に変化を引き起こす主要な要因になるため、経時的に安定した印刷が困難となることを示している。
【0063】
(比較例2)
有機ビヒクルとして、有機樹脂である、エチルセルロース:9.0質量%、およびポリメタクリル酸メチル:1.0質量%を、有機溶剤である、2−(4−メチルシクロヘキサン−1−イル)プロパン−2−オール(沸点:210℃):90質量%に、50℃で溶解したものを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、厚膜組成物のペーストを試作し、得られたペーストについて、粘度の安定性および印刷性を評価した。製造後1日の粘度が200Pa・sであり、製造後1月の粘度が216Pa・sであった。沸点の低い溶剤を使用しているため、粘度の経時変化は小さく抑えられており良好であるが、製造後1週間後の印刷性の試験では連続50枚に達せずに印刷膜にカスレが発生し、所定のパターンに均一に塗布できず、印刷性に問題が生じることが確認された。
【0064】
(比較例3)
有機ビヒクル中の有機溶剤をエチレングリコールイソプロピルエーテル(沸点:143℃)に替えたほかは、実施例1と同様に、厚膜組成物のペーストを試作し、得られたペーストについて、粘度の安定性および印刷性を評価した。製造後1日の粘度が120Pa・sであったが、製造後1ヶ月の粘度が187Pa・sと増加した。製造後初期の印刷性の試験では問題のない結果が得られたが、この粘度の変化は、塗布膜厚に変化を引き起こす主要な要因になるため、経時的に安定した印刷が困難となる。
【0065】
(実施例2)
平均粒径が2.0〜4.0μmの範囲にある、顔料用の亜酸化銅粉末(古河ケミカルズ株式会社製):19.3質量%、平均粒径が1〜3μmの範囲にある、透明電極用の酸化インジウム粉末(アジア物性材料株式会社製):23.8質量%、および、平均粒径が2.2μmの酸化ガリウム粉末(アジア物性材料株式会社製):6.9質量%、実施例1で使用したのと同じ有機ビヒクル:50質量%を配合して、同様に厚膜組成物のペーストを得た。銅とインジウムとガリウムの金属モル比は、1.1:0.7:0.3であった。得られたペーストについて、実施例1と同様に、粘度の安定性および印刷性を評価した。
【0066】
実施例2の厚膜組成物では、製造後1日の粘度が128Pa・sであり、製造後1月の粘度が136Pa・sであって、実施例1と同様に、粘度の経時変化はきわめて小さく、印刷性も良好であった。実施例1と同様に、得られた膜を乾燥処理して、プリカーサ膜を得て、同様のセレン含有雰囲気での熱処理を施し、過剰なCu2Se相を除去することにより、カルコパイライト膜を形成した。X線回折測定の結果、プリカーサ膜はCu9(InGa)4とInの2相が、カルコパイライト膜はCuInGaSe2の単独相のみが観察され、良好なCIGSカルコパイライト膜が形成されたことが実証された。
【0067】
各実施例および比較例について、使用した有機溶剤の沸点、無機成分におけるIb族元素とIIIb族元素のモル比、厚膜組成物中の有機ビヒクル含有量、および、評価結果としての、厚膜組成物の粘度の経時変化(製造後1日および製造後1ヶ月)と、厚膜組成物の印刷性(カスレおよびパターンダレの有無)について、それぞれ示す。
【0068】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、特にCIS系太陽電池の光吸収膜として用いられるカルコパイライト膜を安価に形成することを可能とするものであり、太陽電池の製造分野に対する貢献は大きいものといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルコパイライト膜を形成するための厚膜組成物であって、無機成分として、銅、酸化銅、銀および酸化銀から選択される少なくとも1種のIb族元素粉末と、酸化インジウムおよび酸化ガリウムから選択される少なくとも1種のIIIb族元素粉末とからなり、平均粒径が0.1μm以上、10μm以下である無機粉末を含み、有機成分として、有機樹脂と、180℃以上、350℃以下の沸点を有する有機溶剤とからなる有機ビヒクルを含み、ブルックフィールド社製の回転粘度計HBT型を使い、厚膜組成物を入れる容器としてSC4−6を、回転子としてSC4−14を用いて、回転速度10rpm、周囲温度25±2℃の条件において測定された粘度が、10Pa・s以上、190Pa・s以下であることを特徴とする、厚膜組成物。
【請求項2】
前記Ib族元素粉末とIIIb族元素粉末との含有量は、モル比で1.0:1.0以上、1.5:1.0未満である、請求項1に記載の厚膜組成物。
【請求項3】
前記有機ビヒクルの含有量が、20質量%以上、70質量%以下である、請求項1または2に記載の厚膜組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の厚膜組成物を、基板上に形成された下部電極の上に塗布し、100〜300℃の温度で乾燥し、還元性雰囲気中で300〜650℃の温度で加熱して、厚膜組成物中の有機溶剤および有機樹脂を除去するとともに、Ib族元素とIIIb族元素との合金からなるプリカーサ膜を形成し、その後、該プリカーサ膜中の前記Ib族元素およびIIIb族元素と、VIb族元素を化合させて、Ib−IIIb−VI族化合物を含むカルコパイライト膜を形成する、カルコパイライト膜の製造方法。
【請求項5】
前記塗布を、スクリーン印刷によりおこなう、請求項4に記載のカルコパイライト膜の製造方法。

【公開番号】特開2011−179076(P2011−179076A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44865(P2010−44865)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】