説明

プリテンショナー、これを有するシートベルトリトラクタおよびこれを備えたシートベルト装置

【課題】スプールを回転させるリングギアに複数の力伝達部材のエネルギを効率よく伝達させて作動量を増大する。
【解決手段】パイプ10はリングギア15のレバー17をパイプ10内に進入させる切欠部10cを有する。この切欠部10cに対向する側のパイプ10の内周面10dは、パイプ10の湾曲部10bにおける湾曲内周面と、パイプ10の直線部10aにおける直線状内周面と、湾曲内周面から直線状内周面に移行する変移部Pとを有する。この変移部Pは、切欠部10cの切欠部端縁10hから延びる仮想直線αがパイプ10の直線部10aの内周面10dの仮想延長線βに直角に交わる交点Qより、ボール12aがリングギア15のレバー17を押圧開始する位置側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタに設けられ、ボールからなる複数の力伝達部材を用いたプリテンショナーの技術分野、シートベルトリトラクタの技術分野、および車両のシートベルト装置の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に装備されるシートベルト装置においては、プリテンショナーを備えたシートベルトリトラクタが種々開発されている。このプリテンショナーは、車両の衝突時等の通常の減速度より大きな減速度が車両に加えられた緊急時の初期に、ガスジェネレータで発生した反応ガスによりシートベルトリトラクタのスプールをシートベルト巻き取り方向に回転させて、このスプールによりシートベルトを巻き取る。これにより、シートベルトのたるみを迅速に除去するとともにシートベルトに張力を付与して、乗員の拘束力を高めるようになっている。
【0003】
従来のプリテンショナの一例として、パイプ内にボールからなる複数の力伝達部材が収容され、これらの力伝達部材が緊急時にガスジェネレータにより発生された反応ガスによる力を受けてパイプ内に沿って移動してリングギアのレバーからなる複数の被押圧部を押圧することで、リングギアが回転されてスプールがシートベルト巻き取り方向に回転されるプリテンショナーが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載のプリテンショナーにおいては、リングギアの複数の被押圧部は力伝達部材によって押圧されるためには、パイプ内にボールからなる複数の力伝達部材の移動経路に進入する必要がある。このため、図8に示すようにパイプ101にパイプ101の長手方向に沿う細長い切欠部102が設けられ、リングギア103の被押圧部104がこの切欠部102を通ってパイプ101内の力伝達部材105の移動経路に進入するようにされている。また、この種のプリテンショナーにおいては、力伝達部材がスムーズに移動できるようにするため、力伝達部材の外径がパイプ101の内径より小さく設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2010−084687号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、力伝達部材105がガイドされるパイプ101は配置スペースの関係から湾曲して取り回されて配置されている。その場合、力伝達部材105がリングギア103の被押圧部104を押圧する位置では、パイプ101は直線部101aに形成されるとともに、力伝達部材105の移動方向手前側でこの直線部101aに連結する部分が湾曲部101bとされている。そして、パイプ101の湾曲部101bで内側に位置する内周面101eに、切欠部102が形成される。また、パイプ101の湾曲部101bで外側に位置する内周面101cは、湾曲部101bから直線部101aに移行する変移部Pを有する。この変移部Pは、切欠部102の端縁から延びる仮想直線αがパイプ101の直線部101aと直角に交わる交点Qより、ガスジェネレータ側(力伝達部材105がリングギア103の被押圧部104を押圧開始する位置側と反対側)に位置している。
【0007】
しかしながら、力伝達部材105の外径がパイプ101の内径より小さいので、図8に示すように1つの力伝達部材105aがパイプ101の内周面101cから離間する場合がある。すると、前述のように変移部Pが交点Qよりガスジェネレータ側に位置していると、この力伝達部材105aの前後に隣接する力伝達部材105は、力伝達部材105aの中心よりパイプ101の内周面101c側で力伝達部材105aに当接するようになる。このため、力伝達部材105aは前後に隣接する力伝達部材105から図8において右方へ、つまりパイプ101の切欠部102の方向の成分を有する力を受ける。この力は比較的大きな力であるとともに、パイプ101の切欠部102近傍の部位101dの強度が比較的小さいため、力伝達部材105aはパイプ101の部位101dを変形させて切欠部102から飛び出す可能性が考えられる。このように、力伝達部材105aがパイプ101の部位101dを変形させたり、切欠部102から飛び出したりすると、力伝達部材105のエネルギロスが生じてリングギア103の被押圧部104に効率よく伝達されなくなり、プリテンショナーの作動量が低減するという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、スプールを回転させるリングギアに複数の力伝達部材のエネルギを効率よく伝達させて作動量を増大することのできるプリテンショナー、これを有するシートベルトリトラクタおよびこれを備えたシートベルト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために、本発明のプリテンショナーは、パイプと、前記パイプ内に移動可能に設けられるとともにスプールをシートベルト巻き取り方向に回転させるための力を伝達するボールからなる複数の力伝達部材と、緊急時にガスを発生するガスジェネレータと、少なくとも回転可能に設けられるとともに、内周に複数の内歯を有しかつ外周に複数の被押圧部を有するリングギアと、スプール側部材に設けられるとともに、前記内歯に噛み合う外歯を有しかつ前記スプールを回転させるピニオンとを備え、緊急時に、前記力伝達部材が前記リングギアの被押圧部を押圧することで前記スプールをシートベルト巻き取り方向に回転させるプリテンショナーにおいて、前記パイプが、前記リングギアの前記被押圧部を前記パイプ内に進入させる切欠部を有し、前記切欠部に対向する側の前記パイプの内周面が、前記力伝達部材が前記リングギアの被押圧部を押圧する位置に設けられて前記パイプの長手方向に沿って直線状に延びる直線状内周面と、前記力伝達部材の移動方向手前側で前記直線状内周面に連結する湾曲内周面と、前記湾曲内周面から前記直線状内周面に移行する変移部とを有し、前記変移部が、前記切欠部の切欠部端縁から延びる仮想直線が前記直線状内周面の仮想延長線に直角に交わる交点より、前記力伝達部材が前記リングギアの前記被押圧部を押圧開始する位置側に位置することを特徴としている。
【0010】
また、本発明のシートベルトリトラクタは、シートベルトと、前記シートベルトを巻き取るスプールと、緊急時に前記スプールをシートベルト巻き取り方向に回転させるプリテンショナーとを少なくとも有し、前記プリテンショナーが前述の本発明のプリテンショナーであることを特徴としている。
【0011】
更に、本発明のシートベルト装置は、前記シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタと、シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、車体に設けられるとともに前記タングが係脱可能に係止されるバックルとを少なくとも有し、前記シートベルトリトラクタが前述の本発明のシートベルトリトラクタであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
このような構成をした本発明のプリテンショナーおよびシートベルトリトラクタによれば、リングギアの被押圧部をパイプ内に進入させる切欠部に対向する側のパイプの内周面が、力伝達部材がリングギアの被押圧部を押圧する位置に設けられた直線状内周面と、力
伝達部材の移動方向手前側で直線状内周面に連結する湾曲内周面と、湾曲内周面から直線状内周面に移行する変移部とを有する。また、この変移部が、切欠部の切欠部端縁から延びる仮想直線が直線状内周面の仮想延長線に直角に交わる交点より、力伝達部材がリングギアの被押圧部を押圧開始する位置側に位置している。これにより、切欠部に位置する力伝達部材がその前後の力伝達部材によって切欠部側に押圧されることを防止することができる。すなわち、力伝達部材がパイプの切欠部近傍の部位を変形することを抑制することができるとともに、力伝達部材が切欠部から飛び出すことも抑制することができる。
【0013】
したがって、各力伝達部材のエネルギロスを抑制することができ、各力伝達部材のエネルギをリングギアの被押圧部に効率よく伝達させることができる。その結果、プリテンショナーの作動量を増大することが可能となる。
【0014】
また、本発明のシートベルト装置によれば、各力伝達部材のエネルギをリングギアに効率よく伝達させてプリテンショナーの作動量を増大することが可能となることから、プリテンショナーの作動によるシートベルトの乗員拘束性を効果的に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の一例を備えたシートベルト装置を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す例のシートベルトリトラクタの一部を部分的に切り欠いて示す側面図である。
【図3】図2に示す例のシートベルトリトラクタのプリテンショナーに用いられるパイプの切欠部を示す図である。
【図4】図2に示す例のプリテンショナーに用いられるパイプの形状を説明する図である。
【図5】図4に示すパイプの形状におけるボールの挙動を説明する図である。
【図6】図2に示す例のプリテンショナーのパイプ取り付け部を補強するリブを示す斜視図である。
【図7】(a)は図1に示す例のプリテンショナーの作動途中時の状態を示す図、(b)は同プリテンショナーの作動終了時の状態を示す図である。
【図8】特許文献1に記載の従来のプリテンショナーの作動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明にかかるシートベルトリトラクタの実施の形態の一例を備えたシートベルト装置を模式的に示す図である。
【0017】
図1に示すように、この例のシートベルト装置1は、基本的には従来公知の三点式シートベルト装置と同じである。図中、1はシートベルト装置、2は車両シート、3は車両シート2の近傍に配設されたシートベルトリトラクタ、4はシートベルトリトラクタ3に引き出し可能に巻き取られかつ先端のベルトアンカー4aが車体の床あるいは車両シート2に固定されるシートベルト、5はシートベルトリトラクタ3から引き出されたシートベルト4を乗員のショルダーの方へガイドするガイドアンカー5、このガイドアンカー5からガイドされてきたシートベルト4に摺動自在に支持されたタング6、車体の床あるいは車両シートに固定されかつタング6が係脱可能に挿入係合されるバックル7である。
このシートベルト装置1におけるシートベルト4の装着操作および装着解除操作も、従来公知のシートベルト装置と同じである。
【0018】
この例のシートベルトリトラクタ3は従来公知の緊急ロック式シートベルトリトラクタ(ELR)または従来公知の自動ロック式シートベルトリトラクタ(ALR)である。そ
して、このシートベルトリトラクタ3はプリテンショナーを備えている。このプリテンショナーは従来公知のプリテンショナーと同様に、車両衝突時等の、通常走行時の減速度よりはるかに大きな減速度が車両に加えられた緊急時に作動して、シートベルトリトラクタ3のスプール26(後述の図6に図示)をシートベルト巻き取り方向に回転させ、シートベルト4を所定量巻き取り、乗員の拘束力を高めるものである。
【0019】
図2は、この例のプリテンショナーを備えるシートベルトリトラクタの一部を部分的に切り欠いて示す側面図である。
図2に示すように、この例のプリテンショナー8は、シートベルトリトラクタ3のフレーム9に支持されている。フレーム9は、車室内側(図2において左側)に位置して車体に取り付けられるベース部9aと、このベース部9aから折り曲げることで設けられる一対の側壁9b,9cとを有する。
【0020】
プリテンショナー8はパイプ10を有しており、このパイプ10の先端部10aにガイド部材11が設けられている。これらのパイプ10の先端部10aおよびガイド部材11はボルト等の適宜の固着具によって側壁9bに固定されたパイプ取り付け部24に取り付けられている。また、パイプ10の先端部10aには、パイプ10の内部と外部とを連通するとともにパイプ10の長手方向に延びる切欠部10c湾曲部10bの内側の内周面10j側に設けられている。
【0021】
パイプ10内には、鉄あるいはアルミニウム等の金属製の複数のボール12aおよびガス圧を受けてボール12aを押圧する図示しないピストンからなる複数の力伝達部材12が移動可能にかつ互いに接触して配設されている。その場合、すべてのボール12aの外径はパイプ10の内径より若干小さく設定されている。また、パイプ10の基端部10bにはパイプ状の圧力容器13が接続されている。この圧力容器13には、ガスジェネレータ14が設けられている。
【0022】
プリテンショナー8はケース本体27(後述の図6に図示)を有し、このケース本体27は側壁9bに取り付けられている。また、ケース本体27内には、リングギア15が回転可能にかつ図2において右方へ移動可能に配設されている。このリングギア15は内周面に形成された複数の内歯15aを有している。リングギア15は、その一部がパイプ10の先端部10aの切欠部10cからパイプ10内に進入可能になっている。
【0023】
図3に示すように、パイプ10の先端部の切欠部10cは、挟幅部10e、広幅部10f、傾斜幅部10g、および切欠部端縁10hを有している。挟幅部10eはガスジェネレータ14側に配設されるとともに、広幅部10fはボール12aがリングギア15のレバー17に当接開始する位置に配設されている。
【0024】
リングギア15の外周面には、通常時(プリテンショナー8の非作動時)に最初(先頭)の第1のボール12aが当接する周方向に所定長さの外周端縁16cを有する1つの略円弧状のストッパ16(本発明の被押圧部にも相当)と、複数(図示例では、6個)の略三角形状のレバー17(本発明の被押圧部に相当)とが突設されている。その場合、ストッパ16の周方向一端側とこの周方向一端側に隣接するレバー17との間の周方向の間隔およびストッパ16の周方向他端側とこの周方向他端側に隣接するレバー17との間の周方向の間隔は、いずれも、1個のボール12aの一部が収容可能な大きさに設定されている。また、複数のレバー17が互いに隣接する2個のレバー17間の周方向の間隔は、互いに接触する2個のボール12aのそれぞれの一部が収容可能な大きさに設定されている。更に、ストッパ16の外周端縁16cおよびすべてのレバー17の各先端は、リングギア15の円と同心の円の円周上またはほぼ円周上に位置されている。更に、ストッパ16およびすべてのレバー17の幅(具体的には、リングギア15の軸方向の幅)も同一また
はほぼ同一とされているとともに、これらのストッパ16およびすべてのレバー17の幅はいずれもパイプ10の切欠部10cの幅より小さく設定されている。したがって、ストッパ16およびすべてのレバー17は切欠部10cからパイプ10内に進入可能になっている。
【0025】
シートベルトリトラクタ3のロッキングベース(不図示)の回転軸18(本発明のスプール26側部材に相当)には、ピニオン19がこの回転軸18と一体回転可能に取り付けられている(なお、ピニオン19は、図示しないがスプール26の回転軸に一体回転可能に取り付けることもできる)。ロッキングベースは従来公知のELRやALRに設けられるものである。すなわち、ロッキングベースは、通常時はシートベルト4を巻き取るシートベルトリトラクタ3のスプール26と一体回転し、車両衝突時等の車両に大きな減速度が加えられた緊急時に作動されるロック機構によりその回転がロックされることでスプール26のシートベルト引き出し方向の回転を阻止するものである。複数のボールを用いたプリテンショナーおよびロッキングベースを有するELRとして、例えば特開2001−233172号公報等の公知の特許文献に記載されたELRがあり、この特開2001−233172号公報を参照すればロッキングベースの作動を理解することができるので、その詳細な説明は省略する。
【0026】
ピニオン19は複数の外歯19aを有している。このピニオン19の外歯19aにリングギア15の内歯15aが噛み合い可能となっている。そして、プリテンショナー8の作動時に、各ボール12aはパイプ10の切欠部10cからパイプ10内に進入するストッパ16および各レバー17を上方から押圧して、リングギア15にシートベルト巻き取り方向(図2において反時計回り)の回転駆動力を加えるとともに、リングギア15にピニオン19の方へ直進移動力を加えるようになっている。したがって、パイプ10の切欠部10cに、ボール12aによる力伝達部材12がリングギア15に回転駆動力および直進移動力を伝達する力伝達部が配設されている。
【0027】
通常時(プリテンショナー8の非作動時)は、リングギア15はシェアピン20で図2に示す非作動位置に保持されている。リングギア15の非作動位置では、内歯15aは外歯19aに噛み合わなく、これらの外歯19aから離間している。したがって、ピニオン19(つまり、スプール26)の回転はリングギア15に影響されない。また、プリテンショナー8が作動した緊急時は、力伝達部で力伝達部材12からリングギア15に加えられる回転駆動力および直進移動力により、シェアピン20がせん断破壊し、図7(a)に示す作動位置となる。リングギア15の作動位置では、内歯15aが外歯19aに噛み合う。したがって、ピニオン19(つまり、スプール26)の回転がリングギア15に影響される。
【0028】
この例のプリテンショナー8では、パイプ10の配管の取り回し(パイピング)は、プリテンショナー8が車体に取り付けられた状態で、その先端部10aが最下位置とし、先端部10aから上方に直線状に延設されて、切欠部10cにおける力伝達部がピニオン19(つまり、スプール26)の回転点中心の略水平方向となるようにされている。これにより、各ボール12aは力をリングギア15にリングギア15の略接線方向に沿ってシートベルト巻き取り方向に伝達する。その結果、各ボール12aは力を最も効率よくリングギア15に伝達するようになる。
【0029】
更に、パイプ10はフレーム9のベース部9aの略上端で略直角に曲げられて車室外側に向かって直線状にかつ略水平に延設されるとともに、ベース部9aと反対側の側壁9bの端近傍で略直角に曲げられて車両前後方向に直線状にかつ略水平に延設され、更に、ベース部9aの車両前後方向端近傍で略直角に曲げられて車室内側に向かって直線状にかつ水平方向に対して若干上向きに傾斜して延設される。したがって、パイプ10は三次元に
曲げられて配設される。そして、圧力容器13およびガスジェネレータ14がほぼベース部9aの上方で車室内側に向かって若干上向きに配設されている。
【0030】
図4に示すように、前述の従来例と同様に、力伝達部において各ボール12aがリングギア15の対応するレバー17を押圧開始する位置では、パイプ10はパイプ10の長手方向に沿って直線状に延びる直線部10aに形成されるとともに、ボール12aの移動方向手前側でこの直線部10aに連結する部分がパイプ10の長手方向に沿って湾曲した湾曲部10bとされている。したがって、パイプ10の湾曲部10bで外側に位置する側の内周面10d(つまり、切欠部10cに対向する側の内周面)は、湾曲部10bでパイプ10の長手方向に沿って湾曲した湾曲内周面10d1と、直線部10aでパイプ10の長
手方向に沿って直線状に延びる直線状内周面10d2とを有する。これにより、パイプ1
0の内周面10dは湾曲部10bの湾曲内周面から直線部10aの直線状内周面に移行する変移部Pを有する。この変移部Pは、切欠部10cの切欠部端縁10hから延びる仮想直線αがパイプ10の直線部10aの内周面10dの仮想延長線βに直角に交わる交点Qより、ボール12aがリングギア15のレバー17を押圧開始する位置側(ガスジェネレータ14側と反対側)に位置している。
【0031】
図5に示すように、いま1番目(リングギア15を最初に押圧するボール12aとは限らなく、図5に示す3つのボール12a1,12a2,12a3の最初のボール12a1をいう。2番目および3番目も同様である。)のボール12a1がリングギア15のレバー17
を押圧するとともに、2番目のボール12a2が1番目のボール12a1を押圧し、更に3番目のボール12a3が2番目のボール12a2を押圧するとする。またこのとき、2番目のボール12a2が切欠部10c側に最大に移動してパイプ10の内周面10dから離間
しているとする。
【0032】
この状態で、2番目のボール12a2がパイプ10の曲線部10bから直線部10aに
変移部Pを通過して移動しようとすると、2番目のボール12a2は1番目のボール12
1から反力F1が作用されるとともに3番目のボール12a3から押圧力F2が作用される。このとき、反力F1は1番目のボール12a1の中心c1と2番目のボール12a2の中心c2とを結ぶ直線γ上で2番目のボール12a2の作用点Rに作用される。また、押圧力F2は2番目のボール12a2の中心c2と3番目のボール12a3の中心c3とを結ぶ直線δ
上で2番目のボール12a2の作用点Sに作用される。そして、反力F1の作用点Rは、直線δが2番目のボール12a2の作用点Sと反対側の外周面と交差する2番目のボール1
2a2の点Tより切欠部10c側に位置する。また、押圧力F2の作用点Sは、直線γが2番目のボール12a2の作用点R側と反対側の外周面と交差する2番目のボール12a2の点Uより切欠部10c側に位置する。これにより、2番目のボール12a2がパイプ10
の内周面10dから離間しても、この2番目のボール12a2は1番目および3番目のボ
ール12a1,12a3により切欠部10cと反対側のパイプ10の内周面10d側に向か
って押圧されるようになる。したがって、2番目のボール12a2がパイプ10の切欠部
10c近傍の部位10iを変形することが抑制されるとともに、2番目のボール12a2
が切欠部10cから飛び出すことも抑制される。
【0033】
プリテンショナー8のケース本体27には、ボール12aをガイドする円弧状のガイド面21aを有するガイド壁21が形成されている。このガイド壁21により、ボール12aをガイドするガイド溝22が形成されている。このガイド溝22は、リングギア15が図2において右方へ移動して図7(a)に示すようにリングギア15の内歯15aがピニオン19の外歯19aに噛み合った状態でのリングギア15の中心と同心またはほぼ同心の円の円弧に形成されている。また、ガイド部材11は円弧状のガイド面11aを有しており、このガイド面11aは、ガイド面21aと1つの湾曲面上にほぼ位置している。したがって、このガイド面11aは、ガイド溝22とパイプ10との接続部においてボール
12aをパイプ10からガイド溝22に円滑にガイドするようにされている。
【0034】
更に、円弧状のガイド壁21のガイド部材11側と反対側の端に隣接して、ガイド壁23がプリテンショナー8のケース本体27に設けられている。このガイド壁23は、ガイド壁21と反対側の端部が湾曲した略J字状(図2において左側を下にしてみたとき)に形成されている。この湾曲した端部は、最初のボール12aが当接可能なケース本体27側のストッパ23aとされている。このストッパ23aは最初のボール12aが当接したとき、ストッパ23aの先端がボール12aからの押圧力で図2において左方へ移動するように変形可能とされている。したがって、このようにストッパ23aが変形することで、ボール12aからストッパ23aに加えられる衝撃が緩和される。すなわち、ストッパ23aは衝撃緩和部材として機能する。なお、ガイド壁23はパイプ10と一体的に設けることもできる。
【0035】
更に、図2および図6に示すように、パイプ取り付け部24は、長辺部24aとこの長辺部24aの上端部がほぼ直角に折り曲げられた短辺部24bとを有するL字状の平板から形成されている。そして、パイプ取り付け部24の長辺部の一方の面にパイプ10が取り付けられて固定される。この短辺部24bはフレーム9の側壁9bに当接して設けられている。この短辺部24bにより、プリテンショナー8の作動終期にストッパ16の外周端縁16cがボール12aを押圧したときのパイプ取り付け部24の倒れが防止される。特に、パイプ取り付け部24はその下端部でガイド部材11に固定されているとともに、ストッパ16の外周端縁16cがボール12aを介してパイプ取り付け部24を押圧する部位がパイプ取り付け部24の上端部であるため、短辺部24bが長辺部24aの上端部側に設けられることで、ストッパ16の外周端縁16cの押圧力が効率よく支持される。これにより、ストッパ16の外周端縁16cがパイプ取り付け部24を押圧した時のパイプ取り付け部24の倒れおよび変形を効果的に防止される。
【0036】
更に、パイプ取り付け部24の長辺部のパイプ10が固定される面と反対側の他方の面には、上下方向に直線状に延びる平板状のリブ25が固定されている。このリブ25は、プリテンショナー8の作動終期にストッパ16の外周端縁16cがボール12aを押圧したとき、この押圧力に対抗する位置に配設されている。このリブ25によりパイプ取り付け部24が補強されるので、ストッパ16の外周端縁16cがボール12aを押圧したときのパイプ取り付け部24の変形が防止される。
【0037】
このように構成されたこの例のプリテンショナー8の作動について説明する。なお、このプリテンショナー8の作動の説明は、乗員のシートベルト装着状態での説明である。
この例のプリテンショナー8の作動は、基本的には、車両衝突時等の車両に大きな減速度が加えられた緊急時に作動してシートベルトリトラクタ3のスプール26をシートベルト巻き取り方向に回転させるまでは、従来の複数のボールを用いたプリテンショナーの作動と同じである。
【0038】
すなわち、プリテンショナー8の非作動時には、図2に示すようにリングギア15が非作動位置にされている。したがって、リングギア15はその内歯15aがピニオン19の外歯19aに噛み合わない状態に保持されている。また、最初の第1のボール12aがストッパ16のリングギア回転方向上流側の側縁16aに当接した状態に保持される(なお、リングギア15の回転方向は図2において反時計回り、すなわちシートベルト巻き取り方向である)。更に、これ以後のボール12aは順次互いに隣接するボール12aどうしが当接した状態にされている。このとき、ガスジェネレータ14がガスを発生しなく、ボール12aがリングギア15側のストッパ16を実質的に押圧しない。
【0039】
前述の緊急時には、ガスジェネレータ14が作動してガスを発生し、発生したガスによ
って図示しないピストンを介してボール12aに大きな押圧力が加えられる。この押圧力が第1のボール12aに伝達される。すると、リングギア15のストッパ16が第1のボール12aで押圧されるので、シェアピン20がせん断破壊する。これにより、リングギア15が第1のボール12aを介した押圧力で図2おいて右方へ移動するとともに反時計回りに回転する。そして、図7(a)に示すようにリングギア15の内歯15aがピニオン19の外歯19aに噛み合い、ピニオン19がリングギア15と同方向に回転開始する。これにより、回転軸18つまりスプール26がシートベルト巻き取り方向に回転開始し、乗員に装着されているシートベルト4が巻き取り開始される。
【0040】
第1のボール12aがストッパ16とこのストッパ16にリングギア回転方向上流側に最初に位置するレバー17との間に収容されるとともに、次の第2のボール12aが、最初のレバー17とリングギア回転方向上流側に隣接する次のレバー17に当接する。したがって、第2および第3のボール12aが次のレバー17を同様に押圧する。これらの第2および第3のボール12aを介する次のレバー17への押圧力で、リングギア15およびピニオン19がともに反時計回りに更に回転する。これにより、シートベルト4がスプール26に更に巻きられる。このとき、第1のボール12aによるストッパ16への押圧力は、実質的に消滅している。
【0041】
最初のレバー17と次のレバー17との間に2個の第2および第3ボール12aが収容される。次に、第5のボール12aが、次のレバー17とリングギア回転方向上流側に隣接する更なる次のレバー17に当接する。したがって、第5および第6のボール12aが更なる次のレバー17を同様に押圧する。これらの第5および第6のボール12aを介する更なる次のレバー17への押圧力で、リングギア15およびピニオン19がともに反時計回りに更に回転する。これにより、シートベルト4がスプール26に更に巻きられる。このとき、第2および第3のボール12aによるレバー17への押圧力は、実質的に消滅している。
【0042】
以後、第7のボール12a以降のボール12aが同様にして順次レバー17を押圧するので、リングギア15およびピニオン19がともに反時計回りに更に回転する。これにより、シートベルト4がスプール26に更に巻き取られる。
【0043】
ストッパ16およびレバー17への押圧力が実質的に消滅したボール12aは、それぞれストッパ16とレバー17との間または隣接するレバー17間に収容された状態で、ガイド溝22にガイドされてリングギア15の回転とともに移動する。そして、図7(a)に示すように第1のボール12aがケース本体27側のストッパ23aに当接する。このとき、リングギア15のストッパ16のリングギア回転方向下流側の側縁16bが対向するボール12aに当接していない。
【0044】
第1のボール12aがストッパ23aに当接すると、図7(b)に示すようにストッパ23aは第1のボール12aの押圧力で変形し、リングギア15は更に反時計回りに回転する。このストッパ23aの変形により、各ボール12aの運動エネルギが部分的に吸収される。リングギア15の更なる反時計回りの回転により、図7(b)に示すようにリングギア15のストッパ16の外周端縁16cが対向するボール12aに当接し、このボール12aはストッパ16の外周端縁16cと、切欠部24cと反対側のパイプ10の内周面10dとの間に挟圧される。
【0045】
そして、リングギア15の回転力によるボール12aの挟圧力(つまり、ストッパ16によるボール12aの押圧力)がストッパ16の外周端縁16cとパイプ10の内周面10dとの間の楔効果により増大するので、ストッパ16の外周端縁16cのボール12aへの当接力(押圧力)が増大する。この楔効果は、ストッパ16の外周端縁16cとパイ
プ10の内周面10dとの間の間隔がボール12aの移動方向(つまり、リングギア15の回転方向に向かって次第に狭くなることで発揮される。ストッパ16の外周端縁16cによるボール12aの押圧力はパイプ取り付け部24によって支持されるが、この押圧力が増大してもパイプ取り付け部24がリブ25によって補強されているので、パイプ取り付け部24は押圧力によって変形することが防止される。
【0046】
前述の楔効果により、このボール12aは移動不能となり、リングギア15の回転が停止する。したがって、ピニオン19およびスプール26の回転も停止してスプール26によるシートベルト巻き取りが終了し、プリテンショナー8の作動が終了する。このプリテンショナー8によるシートベルト4の巻き取りにより、シートベルト4による乗員の拘束力が高められる。なお、このときのリングギア15の回転量とスプール26の回転量(すなわち、スプール26のシートベルト巻取り量)との関係は、リングギア15の内歯15aとピニオン19の外歯19aとのギア比を適宜設定することにより決定される。
【0047】
リングギア6の回転が停止することで、第2のボール以降のボール12aの移動も停止する。このとき、パイプ10内に発生したガスのガス圧は低圧となっている。このように、各ボール12aが停止した状態では、各ボール12aのほとんどがリングギア15の外周面に沿って位置するとともに、残りのボール12aおよびピストンがパイプ10内に位置している。
この例のプリテンショナー8の他の作動は、従来の複数のボールを用いたプリテンショナーの作動と実質的に同じである。また、この例のシートベルトリトラクタ3の他の作動も、従来のELRあるいはALRの作動と実質的に同じである。
【0048】
この例のプリテンショナー8およびシートベルトリトラクタ3によれば、各ボール12aがリングギア15の対応するレバー17を押圧する位置におけるパイプ10の直線部10aの内周面10dと、ボール12aの移動方向手前側でこの直線部10aに連結する湾曲部10bの内周面10dとの変移部Pが、切欠部10cの切欠部端縁10hから延びる仮想直線αがパイプ10の直線部10aの内周面10dの仮想延長線βに直角に交わる交点Qより、ボール12aがリングギア15のレバー17を押圧開始する位置側(ガスジェネレータ14側と反対側)に位置している。これにより、切欠部10cに位置するボール12aがその前後のボール12aによって切欠部10c側に押圧されることを防止することができる。すなわち、ボール12aがパイプ10の切欠部10c近傍の部位10iを変形することを抑制することができるとともに、ボール12a2が切欠部10cから飛び出
すことも抑制することができる。
【0049】
したがって、各ボール12aのエネルギロスを抑制することができ、各ボール12aのエネルギをリングギア15のストッパ16および各レバー17に効率よく伝達させることができる。その結果、プリテンショナー8の作動量を増大することが可能となる。
【0050】
また、パイプ取り付け部24の長辺部のパイプ10が固定される面と反対側の他方の面に、リブ25がプリテンショナー8の作動終期におけるストッパ16の外周端縁16cによるボール12aの押圧力に対抗する位置に設けられるので、ストッパ16の外周端縁16cがボール12aを押圧したときのパイプ取り付け部24の変形を防止することができる。
【0051】
更に、この例のシートベルトリトラクタ3を備えたシートベルト装置1によれば、各ボール12aのエネルギをリングギア15に効率よく伝達させてプリテンショナー8の作動量を増大することが可能となることから、プリテンショナー8の作動によるシートベルト4の乗員拘束性を効果的に向上することができる。
【0052】
なお、本発明に係るプリテンショナーおよびシートベルトリトラクタは、前述の例に限定されることはなく、種々の設計変更が可能である。例えば、必ずしもリングギア15に円弧状のストッパ16を設ける必要はなく、特許文献1に記載されているプリテンショナーや、特許文献1に先行技術文献として記載されている特開2001−163182号公報に記載されているプリテンショナーのようなタイプの、円弧状のストッパ16が設けられないプリテンショナーにも適用することができる。要は、本発明は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のプリテンショナー、シートベルトリトラクタおよびシートベルト装置は、シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタに設けられボールからなる複数の力伝達部材を用いたプリテンショナー、シートベルトリトラクタ、および車両のシートベルト装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…シートベルト装置、3…シートベルトリトラクタ、4…シートベルト、6…タング、7…バックル、8…プリテンショナー、9…フレーム、9b,9c…側壁、10…パイプ
、10c…切欠部、10d…内周面、10e…挟幅部、10f…広幅部、10g…傾斜幅部、10h…切欠部端縁、12…力伝達部材、12a…ボール、14…ガスジェネレータ、15…リングギア、16…ストッパ、16c…外周端縁、17…レバー、18…回転軸、19…ピニオン、24…パイプ取り付け部、25…リブ、26…スプール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプと、前記パイプ内に移動可能に設けられるとともにスプールをシートベルト巻き取り方向に回転させるための力を伝達するボールからなる複数の力伝達部材と、緊急時にガスを発生するガスジェネレータと、少なくとも回転可能に設けられるとともに、内周に複数の内歯を有しかつ外周に複数の被押圧部を有するリングギアと、スプール側部材に設けられるとともに、前記内歯に噛み合う外歯を有しかつ前記スプールを回転させるピニオンとを備え、緊急時に、前記力伝達部材が前記リングギアの被押圧部を押圧することで前記スプールをシートベルト巻き取り方向に回転させるプリテンショナーにおいて、
前記パイプは、前記リングギアの前記被押圧部を前記パイプ内に進入させる切欠部を有し、
前記切欠部に対向する側の前記パイプの内周面は、前記力伝達部材が前記リングギアの被押圧部を押圧する位置に設けられて前記パイプの長手方向に沿って直線状に延びる直線状内周面と、前記力伝達部材の移動方向手前側で前記直線状内周面に連結する湾曲内周面と、前記湾曲内周面から前記直線状内周面に移行する変移部とを有し、
前記変移部は、前記切欠部の切欠部端縁から延びる仮想直線が前記直線状内周面の仮想延長線に直角に交わる交点より、前記力伝達部材が前記リングギアの前記被押圧部を押圧開始する位置側に位置することを特徴とするプリテンショナー。
【請求項2】
シートベルトと、前記シートベルトを巻き取るスプールと、緊急時に前記スプールをシートベルト巻き取り方向に回転させるプリテンショナーとを少なくとも有し、
前記プリテンショナーは請求項1に記載のプリテンショナーであることを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項3】
前記シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタと、シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、車体に設けられるとともに前記タングが係脱可能に係止されるバックルとを少なくとも有し、
前記シートベルトリトラクタは請求項2に記載のシートベルトリトラクタであることを特徴とするシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−126160(P2012−126160A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276998(P2010−276998)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】