説明

プリプラ式射出装置

【課題】プリプラ式射出装置において、低粘度に可塑化される樹脂材料で高速射出成形を行い、さらにサックバックも行う場合に、射出シリンダ室前壁の上側の一部に孔蝕による金属の腐食が生じるのを防止することが望まれる。
【解決手段】本発明のプリプラ式射出装置では、可塑化シリンダ内で可塑化した樹脂材料をその可塑化シリンダと射出シリンダとを連通する連通路を介して射出シリンダ内の射出シリンダ室に供給し、その樹脂材料をプランジャによって射出ノズルの射出孔から射出させるとともに、その射出シリンダ室の前壁の周縁部に開口したその連通路の、その射出孔に関して略対称な位置に開口させたバイパス流路によって、その樹脂材料をその射出孔に流出させるプリプラ式射出装置において、上記腐食の生じる部分の近傍、すなわち、その連通路の開口の近傍であってその連通路に関して略対称な位置に、その射出孔と連通する副バイパス流路を開口させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑化部と射出部とを連通路で連通し射出ノズルから射出するプリプラ式射出装置に関し、より詳しくはそのノズル流路に特徴があるプリプラ式射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出シリンダ内の溶融樹脂を射出プランジャ(以下、単にプランジャと言う。)によって射出する射出装置には、代表的なものとしてプリプラ式射出装置がある。その射出装置は、あとに説明される本発明特有の樹脂流路を除けば概略図1で示される。
【0003】
その射出装置は、可塑化部2と射出部3とそれらを連通するジャンクション11とを含む。可塑化部2は、可塑化シリンダ20と、そのシリンダ20内の可塑化スクリュ21と、そのスクリュ21を回転させる回転駆動装置23と、そのスクリュ21をわずかに進退させる逆止装置22とを有する。射出部3は、射出シリンダ30と、そのシリンダ30内のプランジャ31と、プランジャ31を進退させる射出駆動装置60とを有する。
【0004】
射出部3の射出シリンダ30には、その前端にノズルアダプタ140を介して射出ノズル41が固定されている。そして、ノズルアダプタ140には、その側面にジャンクション11を介して可塑化シリンダ20前端が接続される。それで、可塑化部2と射出部3は、ジャンクション11によって連通路12、42で連通される。13は、ジャンクション11とノズルアダプタ140の当接面で溶融樹脂が漏れないようにするために設けた連通路ブッシュである。
【0005】
ノズルアダプタ140の射出シリンダ30側端面には、プランジャ31の先端面31aと略等しい形状の前壁43が形成される。その前壁43と射出シリンダ孔30aとプランジャ31の先端面31aとで囲まれた空間には、射出シリンダ室32が形成される。そして、その前壁43には、その周縁部の一方に連通路42が開口(42a)し、その前壁43の中央部に射出ノズル41の先端にまで連通する射出孔44が開口(44a)している(図3参照。ただし後述するバイパス流路145を除く。)。
【0006】
なお、24は、可塑化シリンダ20の後端側から樹脂材料を供給するためのホッパである。また、図示省略されるが、可塑化シリンダ20とジャンクション11と射出シリンダ30の外周には、バンドヒータが設けてある。
【0007】
このような射出装置において、ホッパ24から供給された樹脂材料は、可塑化スクリュ21の回転による剪断発熱とバンドヒータによる加熱とによって可塑化され、そのスクリュ21の回転によって押し出されて連通路12、42を通って射出シリンダ室32に送られる。このとき、逆止装置22は、送り出す溶融樹脂に作用する背圧により可塑化スクリュ21の後退を許容して、可塑化シリンダ20側の連通路12を開く。また、送り出された溶融樹脂は、プランジャ31を後退させ、その後退量によって計量される。つぎに、プランジャ31が前進して、その溶融樹脂を射出シリンダ30先端の射出ノズル41から図示省略された金型装置のキャビティに充填する射出が行われる。このとき、逆止装置22が可塑化スクリュ21を前進させて、連通路12を閉じる逆流防止を行う。また、通常、上記計量後に逆止をしてから、射出ノズル41からの鼻垂れを防止するサックバック、すなわちプランジャ31を僅かに後退させる動作が行われる。
【0008】
以上説明した射出部3では、射出シリンダ室32の射出孔44の開口44aに関して連通路42の開口42aの反対側(略対称)の領域に溶融樹脂が滞留する問題が発生した。これは、その連通路42の開口42aが射出シリンダ室32の前壁43の一方に偏って開口しているために、その反対側の部分で溶融樹脂の流れが悪くなるからである。
【0009】
そこで、本願出願人は、特許文献1において、図3に示すようなノズル流路を備えたプリプラ式射出装置、すなわち射出シリンダ室32の前壁43(特許文献1では射出室のノズル側壁面と記載。)の周縁部に開口する連通路42の、その前壁43の中央部に開口する射出孔44に関して略対称な位置に、射出孔44に連通するバイパス流路145(特許文献1では射出副路と記載。)を開口(145a)するとともに、プランジャ31の先端面31aをその中央部を周縁部に比べ中高形状にしたプリプラ式射出装置を提案した。これにより、射出シリンダ室32内で滞留した易い部分の溶湯樹脂を、その部分に設けたバイパス流路145の開口145aから射出孔44に流出させて、その滞留を防止するように構成した。したがって、実際には、バイパス流路145は、あくまで滞留防止であって副次的な流路であることから、その断面積が射出孔44の断面積に比べて小さく形成されている。
【0010】
【特許文献1】特許2615334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献で開示された射出装置では、低粘度に可塑化される樹脂材料で高速射出成形を行い、さらにサックバックも行う場合には、射出シリンダ30とノズルアダプタ140の当接面であって連通路42の開口42aの両側の近傍に孔蝕による金属の腐食を生じることがあった。そして、さらに成形が繰り返された場合には、射出シリンダ30とノズルアダプタ140との接合部分に溶湯樹脂が入り込む程にその腐食が進行し、ついには射出の際にその当接面から溶融樹脂が漏れ出てしまうことがあった。その発生場所は、射出シリンダ室32の前壁43側の隅角部分32aであってその前壁43の連通路42開口42aの両側の領域Z1、Z2であり、射出シリンダ室32の上側という特徴がる。
【0012】
この腐食のメカニズムは、つぎのように推察される。特に低粘度の溶融樹脂を使用してサックバックする場合に、そのサックバックによって射出シリンダ室32内が負圧になり、その溶融樹脂に溶け込むガスがほんの僅かではあるが気泡となって顕在化する。そして、その気泡が、高速射出の際に一気に潰されることで衝撃的に高圧が発生し、その高圧が上側の隅角部分32aに作用する。それで、隅角部分32aに作用する圧力は、射出の度に負圧から高圧に急変して大きな圧力振幅を呈し、その結果、その部位に特に腐食を発生させる。既述したように上側でより顕著なことは、気泡がその上部に発生することと符合する。一方、高粘度の溶融樹脂を使用する場合には、上記のような気泡が発生しないため、上記の腐食は起こっていない。
【0013】
なお、特にその腐食がその隅角部分32aの一部の領域Z1、Z2にだけ発生したのは、その領域Z1、Z2を除く領域に作用する圧力が、上記のような大きな圧力振幅にならないからと考えられる。なぜなら、連通路42の開口42aの近傍では、連通路42に残留する溶融樹脂がクッションになって上記高圧が低減される一方、その残留樹脂が射出シリンダ室32内に引き出されるようにして上記負圧も低減されるからである。また、バイパス流路145の開口145a側の領域でも、バイパス流路145を通って射出孔44に溶融樹脂が流出するので上記のような高圧が発生しない一方、そのバイパス流路145に残留している溶融樹脂が射出シリンダ室32内に引き出されて上記負圧も低減される。
【0014】
そこで、本発明は、射出の度に射出シリンダ室32前壁43の一部の領域Z1、Z2に作用する大きな圧力振幅を低減し、その前壁43の金属の腐食を防止するプリプラ式射出装置を提案する。また、従来よりもさらに射出シリンダ内に溶融樹脂が滞留しにくいプリプラ式射出装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題を達成するための、本発明の実施態様におけるプリプラ式射出装置は、可塑化シリンダ内で可塑化した樹脂材料を、その可塑化シリンダと射出シリンダとを連通する連通路を介して射出シリンダ内の射出シリンダ室に供給し、その樹脂材料をプランジャによって射出ノズルの射出孔から射出させるとともに、その射出シリンダ室の前壁の周縁部に開口したその連通路の、その射出孔に関して略対称な位置に開口させたバイパス流路によって、その樹脂材料をその射出孔に流出させるプリプラ式射出装置において、前記連通路の開口の近傍であってその連通路に関して略対称な位置に、前記射出孔と連通する副バイパス流路を開口させたものである。
【0016】
また、上記実施態様におけるプリプラ式射出装置では、前記バイパス流路の開口と前記副バイパス流路の開口とは、前記射出孔の開口を中心とする同一円周上略120度の間隔に等配されても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプリプラ式射出装置では、射出シリンダ室前壁で金属の腐食が生じていた部分の近傍に、射出孔に連通する副バイパス流路が開口させてある。それで、射出の際には、溶融樹脂をその流路を介して射出孔に流出させてその部分に発生する衝撃的な高圧をその射出孔から逃がすことができる。また、サックバックの際には、その流路内に残留している溶融樹脂を射出シリンダ内に引き出すようにしてその部分に発生する負圧を低減させることができる。したがって、本発明では、射出の度にその部分に作用する大きな圧力振幅が低減されて、その腐食が防止される。加えて、本発明では、副バイパス流路の開口する部分が溶融樹脂の滞留防止にも寄与する。
【0018】
また、本発明のプリプラ式射出装置では、上記腐食防止はもちろん、バイパス流路開口と副バイパス流路開口とを同一円周上に略120度の間隔で等配することで、通常の射出や色替えにおいても溶融樹脂を均等に射出孔に流出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のプリプラ式射出装置が、図1と図2とともに説明される。図1には、本発明のプリプラ式射出装置の概略が断面図として示される。図2には、本発明のノズルアダプタの主要部が拡大された図であって、図(a)にその縦断面図、図(b)に図(a)のB−B矢視図、図(c)に図(b)のC−C断面図が示される。なお、本発明のプリプラ式射出装置は、以下説明する副バイパス流路などの流路を除き、背景技術で既述したプリプラ式射出装置の構成部材と略同等なので同じ符号が付けられてその説明が省略される。
【0020】
本発明のプリプラ式射出装置1は、その射出部3の射出シリンダ30にプランジャ31を内蔵するとともにそのシリンダ30の前端と射出ノズル41との間にノズルアダプタ40が固定してある。そして、それらの部材に囲まれる形で射出シリンダ室32が形成される。なお、50は、ノズルアダプタ40を射出シリンダ30に固定するボルトで、48は、ノズルアダプタ40のボルト挿通孔である。
【0021】
ノズルアダプタ40には、射出シリンダ30側の端面に射出シリンダ室32の前壁43が形成される。その前壁43の中央部には、射出ノズル41に連通する射出孔44が開口(44a)する。そして、その前壁43の周縁部には、可塑化シリンダ20に連通する連通路42が開口(42a)するとともに、その連通路42の開口42aの、射出孔44の開口(44a)に関して略対称な位置に射出孔44に連通するバイパス流路45が開口(45a)する。なお、本発明のバイパス流路45は、後述されるようにその断面積が従来(図3参照)のバイパス流路145の断面積と異なるので符号を変えている。
【0022】
それに加えて本発明では、金属の腐食を生じることがあった部分(図3のZ1とZ2)の近傍、すなわち、連通路42の開口42aの両側近傍に射出孔44に連通する副バイパス流路46および47を開口(46aおよび47a)させる。より詳しくは、それら副バイパス流路の開口46aおよび47aが、射出シリンダ室32の前壁43における、連通路42の開口42aに関して略対称な位置、すなわち、連通路42の開口42aを挟むようにして連通路42の開口42aと射出孔44の開口44aを結ぶ直線に関して略対称な位置に形成される。そして、副バイパス流路46および47は、それぞれの断面積が略等しく形成される。また、副バイパス流路46および47は、射出孔44に対するそれぞれの角度が略等しく形成される(図ではどちらとも角度R4)。
【0023】
このような射出部3では、射出の際に、射出孔44に連通する副バイパス流路46および47から溶融樹脂を流出させるようにして、金属の腐食を生じることがあった部分に発生する衝撃的な高圧をその射出孔44から逃がすとともに、サックバックの際に、副バイパス流路46および47内に残留する溶融樹脂を射出シリンダ室32内に引き出すようにしてその部分に発生する負圧を低減させることができる。したがって、射出の度にその部分に作用する圧力振幅が低減されて、その結果、その腐食が防止できる。さらに、副バイパス流路46および47は、連通路42が開口する側に開口するので、バイパス流路45の開口45aの反対側の領域の滞留防止にも寄与する。
【0024】
上記の射出部3は、より好ましくはバイパス流路45と副バイパス流路46および47とがつぎのように形成されるとなお良い。すなわち、バイパス流路の開口45aと副バイパス流路の開口46aおよび47aが、射出シリンダ室32の前壁43において、その前壁43中央部の射出孔44の開口44aを中心とする、同一円周上に略120度(=角度R1=角度R2)の間隔に等配されると良い。そして、バイパス流路45と副バイパス流路46および47は、射出孔44に対する角度が略等しく(角度R3=角度R4)形成されると良い。また、バイパス流路45と副バイパス流路46および47の各断面積は、略同じになるように形成される。なお、バイパス流路45と副バイパス流路46および47の断面積を合計した総面積は、従来(図3参照)の1個のみのバイパス流路145の断面積に略等しく形成される。ただし、それら流路45と46および47の孔径が小さすぎて、加工が困難な場合には、それらの孔径を大きくせざるを得ないため、それらの断面積の総和が上記従来の流路145の断面積を超えてしまうことがある。そのような場合でも、それら流路45と46および47の断面積の総和は、射出孔44の断面積を超えないようにされる。
【0025】
このように構成された射出部3では、溶融樹脂をバイパス流路45と副バイパス流路46および47から射出孔44にさらに均等に流出させることができるので、通常の射出や色替えの際に都合が良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のプリプラ式射出装置の概略を示す断面図である。
【図2】本発明のノズルアダプタの主要部を拡大した図であって、図(a)はその縦断面図、図(b)は図(a)のB−B矢視図、図(c)は図(b)のC−C断面図である。
【図3】従来のノズルアダプタの主要部を拡大した図であって、図(a)は縦断面図、図(b)は図(a)のB−B矢視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 プリプラ式射出装置
2 可塑化部
3 射出部
20 可塑化シリンダ
21 可塑化スクリュ
30 射出シリンダ
31 プランジャ
32 射出シリンダ室
40 本発明のノズルアダプタ
41 射出ノズル
42 連通路
42a 射出シリンダ室前壁の連通路の開口
43 射出シリンダ室前壁
44 射出孔
44a 射出シリンダ室前壁の射出孔の開口
45 本発明のバイパス流路
45a 本発明の射出シリンダ室前壁のバイパス流路の開口
46、47 副バイパス流路
46a、47a 射出シリンダ室前壁の副バイパス流路の開口
140 従来のノズルアダプタ
145 従来のバイパス流路
145a 従来の射出シリンダ室前壁のバイパス流路の開口
R1 射出シリンダ室前壁中央部を中心とした際のバイパス流路の開口と副バイパス流路の開口の間の角度
R2 射出シリンダ室前壁中央部を中心とした際の副バイパス流路の開口同士の間の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑化シリンダ内で可塑化した樹脂材料を、その可塑化シリンダと射出シリンダとを連通する連通路を介して射出シリンダ内の射出シリンダ室に供給し、その樹脂材料をプランジャによって射出ノズルの射出孔から射出させるとともに、その射出シリンダ室の前壁の周縁部に開口したその連通路の、その射出孔に関して略対称な位置に開口させたバイパス流路によって、その樹脂材料をその射出孔に流出させるプリプラ式射出装置において、
前記連通路の開口の近傍であってその連通路に関して略対称な位置に、前記射出孔と連通する副バイパス流路を開口させたことを特徴とするプリプラ式射出装置。
【請求項2】
前記バイパス流路の開口と前記副バイパス流路の開口とは、前記射出孔の開口を中心とする同一円周上略120度の間隔に等配されたことを特徴とするプリプラ式射出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−115877(P2010−115877A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291188(P2008−291188)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(301056270)株式会社ソディックプラステック (35)
【Fターム(参考)】