説明

プリンター及びプリンターの制御方法

【課題】循環経路を流れているインクの温度が変化しても、インクジェットヘッドのノズル部における圧力を所圧に維持することができるプリンター及びプリンターの制御方法を提供する。
【解決手段】循環路の、上流ビンからインクジェットヘッドまでの上流側と、インクジェットヘッドから下流ビンまでの下流側とに加熱手段25、26を設け、また、上流側及び下流側に流れるインクの温度が目標温度となるように加熱手段25、26を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、上流側及び下流側の管路部材の管径、管路長、インクの粘度から流路抵抗を求める基本式に基づき、かつインクの粘度がインクの物性と温度に依存することから、これらの因子を用いた演算式により上流側と下流側との流路抵抗をそれぞれ求め、インクジェットヘッドのノズル部における非吐出時の圧力を所定圧とするための、上流側と下流側との流路抵抗比を実現する温度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、循環路にインクを流し、インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なプリンター及びこのプリンターの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェットヘッドを介してインクを循環させながら、そのインクジェットヘッドのノズルからインクを吐出することが可能なインクジェットヘッド及びインク循環機構を有するプリンターが知られている。このようなインク循環機構を有するプリンターのインクジェットヘッド(以下、単にヘッドとも呼ぶ)は、ヘッドの駆動の有無に関わらず常にインクを循環するために以下のような特徴を持つ。
【0003】
・不吐出の抑制…気泡が原因で起こる不吐出ノズルの回復
・不安定吐出の抑制…駆動前のヘッドの加熱及び駆動時のヘッドから発生する熱の放熱
・インクの固化・色材の結晶化抑制…循環によるインクの拡散
このようなプリンターでは、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出していないとき(非印字時)、ノズルにおける圧力を僅かに負圧側に制御し、ノズルからのインク漏れが生じないようにしている(例えば、特許文献1参照)。これによれば、インク循環経路の流量をQ、総流路抵抗をRとした時、インクジェットヘッドに接続されている上流側と下流側の流路抵抗比を1:r、上流側と下流側の単位体積当りのエネルギーをP1,P2、インクジェットヘッドのノズル開口部でのインク圧力Pnは、Pn=P1・r/(1+r)+P2/(1+r)の関係にある。従って、P1及びP2を制御することによってノズル開口部におけるインク圧力をコントロールすることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−313884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ここで考えられているのは、循環経路を流れているインクの温度が経路内で常に一定である場合に成立する関係である。もしも、循環経路内を流れるインクがUVインクであったり機能性インクであったりすると、インクを所望の温度まで暖める必要がある。なぜならば、一般的にUVインクや機能性インクは常温での粘度が高いために、インクジェットヘッドの使用粘度域よりも大きく、そのままではインクを吐出することが難しいからである。
【0006】
そこで通常は、インクジェットヘッドの上流側に位置する上流ビン中のインクを加熱してヘッドに流れ込むインクの温度を上げ、粘度をヘッドの使用粘度域に入るように調整している。しかしながら、使用するインクの温度が室温に比べて充分に高い場合、上流ビンからヘッドへインクが流れる間にインクの温度が低下し、粘度が上昇してしまう。この温度低下を防ぐためには、上流ビンでのインク温度をより高くしたり、断熱材により循環経路途中での温度低下を少しでも防止するなどの対策が必要となる。
【0007】
しかし、これらの対策では温度低下を完全に防ぐことは出来ず、循環経路途中でインクの温度が変化してしまう。更に経路途中の温度低下を補うために目的の温度以上にインクを加熱しようとしても、この加熱温度には限界が存在する。なぜならば、インクの種類により、インクがある温度以上になるとインクが有している物性が壊れてしまう場合があるからである。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、循環経路を流れているインクの温度が変化しても、インクジェットヘッドのノズル部における圧力を所定圧に維持することができるプリンター及びプリンターの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施の形態によるプリンターは、上流ビンからインクジェットヘッドを経て下流ビンに通じ、この下流ビンから前記上流ビンに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なプリンターであって、前記循環路の、上流ビンからインクジェットヘッドまでの上流側と、インクジェットヘッドから下流ビンまでの下流側とに設けられ、これらに流れる前記インクを加熱する加熱手段と、前記上流側及び下流側に流れるインクの温度を検出し、このインクの温度が目標温度となるように前記加熱手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記上流側及び下流側の管路部材の管径、管路長、インクの粘度から流路抵抗を求める基本式に基づき、かつ前記インクの粘度がインクの物性と温度に依存することから、これらの因子を用いた演算式により前記上流側と下流側との流路抵抗をそれぞれ求め、前記インクジェットヘッドのノズル部における非吐出時の圧力を所定圧とするための、前記上流側と下流側との流路抵抗比を実現する前記温度を前記演算式に基づいて求め、この求められた温度を前記目標温度とする構成であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の他の実施の形態によるプリンターでは、前記制御手段は、前記上流側及び下流側管路の管径、管路長、インクの粘度から流路抵抗を求める基本式に基づき、かつ前記インクの粘度がインクの物性と温度に依存することから、これらの因子を用いた演算式により求めた前記上流側と下流側との流路抵抗と、これら上流側流路抵抗と下流側流路抵抗とから求まる流路抵抗比とを保持するテーブルを有し、さらに、前記加熱手段の加熱温度を任意に設定可能な加熱温度設定手段を有し、この加熱温度設定手段に設定された加熱温度に基づくインク温度により前記上流側と下流側との流路抵抗を前記演算式にて再計算し、その結果に基づき前記テーブルに保持された流路抵抗比を更新して表示する構成であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプリンターのインク循環部を表す構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るプリンターのインク循環部を電気回路に模擬して表す回路図である。
【図3】従来のインク循環路の上流側におけるインク温度変化を表すグラフである。
【図4】従来のインク循環路の下流側におけるインク温度変化を表すグラフである。
【図5】従来のインク循環路の上流側における流路抵抗の状態を表すグラフである。
【図6】従来のインク循環路の下流側における流路抵抗の状態を表すグラフである。
【図7】本発明の一実施の形態に係るプリンターのインク循環路の上流側におけるインク温度変化を表すグラフである。
【図8】本発明の一実施の形態に係るプリンターのインク循環路の下流側におけるインク温度変化を表すグラフである。
【図9】本発明の一実施の形態に係るプリンターのインク循環路の上流側における流路抵抗の状態を表すグラフである。
【図10】本発明の一実施の形態に係るプリンターのインク循環路の下流側における流路抵抗の状態を表すグラフである。
【図11】本発明の他の実施の形態に係るプリンターの制御手段におけるテーブル構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
図1は、この実施の形態におけるインクジェットヘッド11を備えたプリンターのインクジェット装置部分を示している。インクジェットヘッド11は、詳細な構成の図示は省略したが、特開2009−20275号公報で説明されているような構成であり、インクを循環させる複数の流路を有し、これら各流路の内面に薄膜状の駆動電極がそれぞれ設けられ、かつこれら流路に対応してインク吐出口(以下、ノズルと呼ぶ)が設けられている。そして、この駆動電極に電界をかけることによりノズルからインク滴を吐出させるものである。
【0014】
インクジェットヘッド11に対しては、上流ビン12と下流ビン13とが管路部材14,15、及びチューブヒータ25,26を介して連結されている。下流ビン13は管路部材16を介して送液ポンプ17の吸い込み側に連結し、この送液ポンプ17の吐出側は管路部材18、フィルタ19、管路部材20を順次介して上流びん12と連結している。上述した管路部材14,15は、インクジェットヘッド11の前述した流路とチューブヒータ25,26を介して連通しており、この流路とともにインクの循環路21を構成する。したがって、インクジェットヘッド11は、流路の内面に設けられた薄膜状の駆動電極を動作させることにより、流路毎に対応して設けられたノズルから循環路21に流れるインクを吐出させる。
【0015】
インク循環路21を構成する管路部材16には、送液ポンプ22を有する管路部材23が連結され、この管路部材23によりインク供給タンク24に通じている。この送液ポンプ22は、正転によりインク供給タンク24内のインクをインク循環路21へ供給し、逆転によりインク循環路21からインクをインク供給タンク24へ戻し、インク循環路21の負圧値を高める。
【0016】
また、上流ビン12及び下流ビン13には、詳細に図示しないが、圧力計が設けられており、これらにより計測された圧力信号は、図示しない制御器に入力され、送液ポンプ22を制御して、上流ビン12及び下流ビン13の圧力を調整する。
【0017】
循環路21の、上流ビン12からインクジェットヘッド11までの上流側の管路部材14、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの下流側の管路部材15には、前述したように、チューブヒータ25,26による加熱手段がそれぞれ設けられ、これらに流れるインクを加熱する。図の例では、これら加熱手段25,26は、上流側管路部材14及び下流側管路部材15の、最もインクジェットヘッド11寄りの部分に設置されている。
【0018】
上流ビン12及び下流ビン13内と、上流側のチューブヒータ25、及び下流側チューブヒータ26のインクジェットヘッド近くには、それぞれ温度計測手段として熱電対27,28,29,30が設けられている。また、インクジェットヘッド11内にも上流側及び下流側に温度計測手段としてサーミスタ31,32が設けられている。これら温度計測手段27〜32は、循環路21の上流側管路部材14及び下流側管路部材15に流れるインクの温度を検出し、その検出信号は制御手段35に入力される。制御手段35は、このインクの温度が、後述する手法にて求められる目標温度となるように加熱手段25,26を制御する。
【0019】
上述した循環路21において、上流ビン12と下流ビン13との圧力差が一定の場合、上流ビン13からインクジェットヘッド11、下流ビン13までの経路における流量と流路抵抗の積の和は、上流ビン12と下流ビン13が持つエネルギー差に等しい。ここで、上流ビン12が持つエネルギーをPu、下流ビン13が持つエネルギーをPd、上流側における上流ビン12からインクジェットヘッド11までの管路の流路抵抗をRu、同じく上流側におけるインクジェットヘッド11内の流路抵抗ru、下流側におけるインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路の流路抵抗をRd、同じく下流側におけるインクジェットヘッド11内の流路抵抗rdとした場合、これらは図2のように電気回路図を用いて模式的に表すことができる。この図2の電気回路の各要素と図1で示した各部との対応関係を表すと以下のとおりとなる。
【0020】
電位差 : V[V] エネルギー差 : ΔP[Pa]
電流 : I[A] 流量 : Q[m/s]
抵抗 : R[V/I] 流路抵抗 : R[Pa・s/m
この循環路内の関係は、電気回路におけるオームの法則に対応して次式のように表される。
【0021】
ΔP=(Ru+ru)Q+(Rd+rd)Q
このとき、上流側と下流側でのエネルギー損失が次式(1)のように等しいときは、インクジェットヘッド11のノズル圧力は上流ビン12と下流ビン13との圧力差の1/2(若干の負圧)となる。
(Ru+ru)Q=(Rd+rd)Q ・・・ (1)
しかし、インク循環路21内部での温度変化によって流路抵抗が変化する場合は、一般的に次式のように上流側と下流側でのエネルギー損失は等しくならない。
【0022】
(Ru+ru)Q≠(Rd+rd)Q
従って、ノズル圧力のコントロールを上流ビン12と下流ビン13との圧力差だけで行うことができない。このような問題を解決するためには、流路抵抗Ru及びRdを可変抵抗のように変化させる事によって式(1)が成立するように制御すればよい。こうすることによって(1)式のようにノズル圧力を上流ビンと下流ビンとの圧力差のみによってコントロールすることが可能となる。
【0023】
ここで、流路抵抗Ru及びRdは次のようにして求められる。
円管の流路抵抗Rは次の基本式(2)により求められる。
【数1】

つまり、円管の直径d[m]、円管の長さL[m]、管を流れる流体(インク)の粘度μ[Pa・sec]から上述の式(2)から求められる。従って、単位長さ当りの流路抵抗は下式(3)で表される
【数2】

【0024】
粘度μが温度依存性を示す場合、温度Tとは次式(4)の関係となる。
μ=μ(T) ・・・ (4)
さらに、この温度が円管の長さLを用いて表現できる場合、次式(5)の関係となる。
μ=μ(T(L)) ・・・ (5)
そこで、粘度の温度依存性を、アレニウス型を仮定して、次式(6)のように表現する。
【数3】

なお、α、βはインクの物性による。
また、温度Tが円管の長さLに比例すると仮定して次式(7)とする。
T=aL+b ・・・ (7)
これらの関係を、式(3)に代入すると次式(8)となる。
【数4】

上式(8)について積分を実行すると次式(9)となる。
【数5】

【0025】
上記関数は初等積分では難しいので、区分求積法を用いて次式(10)により求める。
【数6】

さらに、管路部材として、異なる円管を接続させた場合は、各円管の流路抵抗をRj(j=1,2,・・・,N)として、次式(11)により各流路抵抗の和を求める。
【数7】

但し、添え字jは各円管の種類を示し、添え字iは円管を分割して考えたうちの一部分を示す。
【0026】
このように、制御手段35は、上流側管路及び下流側管路の管径d、管路長L、インクの粘度μから流路抵抗Rを求める基本式(2)に基づき、かつインクの粘度μがインクの物性α、βと温度Tに依存することから、これらの因子を用いた演算式:式(10)又は式(11)により上流ビン12からインクジェットヘッド11までの上流側管路及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの下流側管路における流路抵抗Ru,Rdをそれぞれ求める。そして、インクジェットヘッド11のノズル部における非吐出時の圧力を所定圧とするための、上流ビン12からインクジェットヘッド11までの上流側管路及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの下流側管路における流路抵抗比(式(1)から1:1である)を実現する温度Tを演算式:式(10)又は式(11)に基づいて求める。このようにして求められた温度Tを目標温度として、加熱手段25,26を制御すべく出力する。
【0027】
上述のようにして得られた温度Tにより制御する前と、制御した後について説明する。ここで、循環路21における循環の条件として、上流ビン12でのインク温度を55℃とする。すなわち、上流ビン12には図示していないがウォーターバスなどによる加温手段が設けられており、インクを所定温度(ここでは55℃)に加温している。
【0028】
まず、加熱手段25,26に対する温度制御を行わない場合を説明する。この場合、上流ビン12からインクジェットヘッド11までの上流側管路及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの下流側管路でのインクの温度は、放熱現象により、図3及び図4で示すように変化する。つまり、上流側管路部材14からインクジェットヘッド11を経て下流側管路部材15にインクが流れる間に、常に熱が外に放出されるため、インク自身の温度が低下していく。
【0029】
図3において縦軸はインク温度であり、横軸は基準点である上流ビン12からの距離である。したがって、その左端はインクビン12におけるインク温度であり、右端はインクジェットヘッド11でのインク温度である。また、図4では縦軸は同じくインク温度であり、横軸は基準点であるインクジェットヘッド11からの距離である。したがって、その左端はインクジェットヘッド11におけるインク温度であり、右端は下流ビン13におけるインク温度である。
【0030】
ここで、図3及び図4では、上流側及び下流側のインク温度は、基準点からの距離に応じた細かな間隔でそれぞれの値が示されているが、図1において実際に温度計測手段として熱電対やサーミスタによる測定点は上流側下流側とも3箇所である。これらは、上・下流ビン12,13からインクジェットヘッド11までの管路を構成する各部材について放熱特性などを予め実験により求めておくことにより、図1に示したように、上流ビン12から下流ビン13までのうちの数箇所の温度を測定すれば、上流ビン12から下流ビン13までの管路を構成する各部材14、25、15、26の各部におけるインクの温度を細かな間隔で求めることが可能なためである。
【0031】
この図3及び図4のように、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路に流れるインクの温度に違いが生じると、これら上流側管路及び下流側管路における管径や長さ等、他の条件が同じであっても、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路における流路抵抗Ru,Rdに、図5及び図6で示す違いが生じる。図5、図6において、縦軸は流路抵抗値、横軸は図3及び図4に対応させた、基準点である上流ビン12からの距離、及びインクジェットヘッド11の出口からの距離である。
【0032】
すなわち、図3及び図4で示した上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路における温度変化に伴い、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路内の流路抵抗の状態は図5、図6の状態となる。したがって、これら図5、図6におけるハッチング部分の面積が、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路における流路抵抗Ru,Rdの大きさとなる。
【0033】
加熱手段25,26に対する温度制御を行わない場合、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路における流路抵抗比は、図5、図6におけるハッチング部分の面積比から、Ru+ru:Rd+rd=1.00:1.64となる。
【0034】
このように、加熱手段25,26に対する温度制御を行わない場合、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路における流路抵抗比は1:1とならないので、インクジェットヘッド11のノズル部における非吐出時の圧力を適正な所定圧(若干の負圧)とすることができず、インク漏れなどの不具合が発生する。
【0035】
そこで、この実施の形態では、上述の流路抵抗を算出する式(10)又は式(11)を用い、これらにより算出される流路抵抗の比が1:1となる温度を求める。そして、この求められた温度をインク温度の目標値として加熱手段25,26を制御する。
【0036】
このように上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路に流れるインクを加熱手段25,26により加熱して、それらの温度をそれぞれの目標温度に制御した場合、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路を流れるインクの温度は、図7及び図9で示すように変化する。この温度変化に伴い、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路内の流路抵抗は図9、図10の状態となる。この結果、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路における流路抵抗比は、図9及び図10におけるハッチング部分の面積比からRu+ru:Rd+rd=1.00:1.00となる。
【0037】
このように、加熱手段25,26に対する温度制御を行う場合、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路における流路抵抗比は1:1となるので、インクジェットヘッド11のノズル部における非吐出時の圧力を適正な圧力(若干の負圧)とすることができ、インク漏れなどを確実に防止できる。すなわち、以上のような制御を各時間毎に行うことにより、ノズルの圧力を常に適正ノズル圧力に保つ事が可能となる。
【0038】
次に、本発明の他の実施の形態を説明する。この実施の形態は、図1で示した制御手段35として、図11で示すテーブル36を備えた構成とする。すなわち、制御手段35に設けられるテーブルは、前述した演算式(10)又は(11)により求めた上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路におけるとの流路抵抗と、これら上流側流路抵抗と下流側流路抵抗とから求まる流路抵抗比とを保持する。また、制御手段35には、加熱手段25,26の加熱温度を任意に設定可能な加熱温度設定手段37、38を有する。このほか、上流ビン12に設けられた熱電対27の検出値であるウォーターバス温度表示手段39、流量表示手段40、温度効果表示手段41を有する。
【0039】
加熱温度設定手段37、38は、熱電対28,29の検出値である上流側チューブヒータ温度、及び下流側チューブヒータ温度を表示可能であり、かつ、これらチューブヒータである加熱手段25,26に対する加熱温度を任意の値に設定できるように構成されている。
【0040】
テーブル36の内容は、上流側管路に関するデータ保持部36Uと下流側管路に関するデータ保持部36Dとからなり、上記各管路を構成する各部分の管材毎に、それらの部分における温度と流路抵抗、それらの合計値、及び流路抵抗比の各項目からなる。また、このテーブルの内容の少なくとも流路抵抗比は、制御手段35の表示手段により表示可能とする。
【0041】
なお、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路は複数の管材を接続した構成であり、図11のテーブルでは、これら管路部材14,15を構成する各管材の名称が列挙されている。これらは図3乃至図10において横軸に記載した距離と同様に、上流側管路部材14では基準点となる上流ビン12からインクジェットヘッド11に向って順次接続され、下流側管路部材15では基準点となるインクジェットヘッド11から下流ビン13に向って順次接続されている。
【0042】
図11のテーブル36における上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路の各部の温度は、図3、図4で説明した状態と同じであり、加熱手段25,26を加熱制御していないので、表示手段(加熱温度設定手段でもある)37,38で示すようにチューブヒータ温度は約36℃と比較的低温である。このため、上流ビン12からインクジェットヘッド11まで、及びインクジェットヘッド11から下流ビン13までの管路における各部の流路抵抗は、図5、図6で示す状態であり、それらのハッチング部分の面積から、流路抵抗比は、Ru+ru:Rd+rd=1.00:1.64となっている。
【0043】
なお、ここではTH能力として、a=0.6℃/m、b=−19.8℃とし、インク物性として、B=8.43427E−08=α、E/R=3723.071585=βとして演算を行った。
【0044】
上述のように、加熱手段25,26に対する温度制御を行わない場合、上流側管路部材14及び下流側管路部材15における流路抵抗比は1.00:1.64であり、1:1とならないので、インクジェットヘッド11のノズル部における非吐出時の圧力を適正な圧力(若干の負圧)とすることができず、インク漏れなどの不具合が発生する。
【0045】
そこで、この実施の形態では、加熱温度設定手段37,38に表示された現状のチューブヒータ温度に基づき、操作者は上述の流路抵抗比を1:1にするべく、加熱手段25,26により加熱すべき温度を設定する。そして、この設定加熱温度により加熱されたインクの温度を、前述の式(10)又は式(11)に代入して上流側と下流側との流路抵抗、及びその比を求める。すなわち、加熱温度設定手段25,26に設定された加熱温度に基づくインク温度により前記上流側と下流側との流路抵抗を前述の式(10)又は式(11)にて再計算し、その結果に基づき、テーブル36に保持された流路抵抗比を更新して表示する。
【0046】
このように構成したことにより、操作者は現状の流路抵抗比が1:1でない状態に対して、加熱温度を設定した結果、流路抵抗比がどのように変化したかを把握でき、1:1の状態に調整することが容易となる。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
11・・・インクジェットヘッド
12・・・上流ビン
13・・・下流ビン
14・・・上流側の管路を構成する部材の一部
15・・・下流側の管路を構成する部材の一部
21・・・循環路
25…加熱手段及び上流側の管路を構成する部材の一部
26・・・加熱手段及び下流側の管路を構成する部材の一部
27〜32・・・温度計測手段
35・・・制御手段
36・・・テーブル
37,38・・・加熱温度設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流ビンからインクジェットヘッドを経て下流ビンに通じ、この下流ビンから前記上流ビンに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なプリンターであって、
前記循環路の、上流ビンからインクジェットヘッドまでの上流側と、インクジェットヘッドから下流ビンまでの下流側とに設けられ、これらに流れる前記インクを加熱する加熱手段と、
前記上流側及び下流側に流れるインクの温度を検出し、このインクの温度が目標温度となるように前記加熱手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記上流側及び下流側の管路の管径、管路長、インクの粘度から流路抵抗を求める基本式に基づき、かつ前記インクの粘度がインクの物性と温度に依存することから、これらの因子を用いた演算式により前記上流側と下流側との流路抵抗をそれぞれ求め、前記インクジェットヘッドのノズル部における非吐出時の圧力を所定圧とするための、前記上流側と下流側との流路抵抗比を実現する前記温度を前記演算式に基づいて求め、この求められた温度を前記目標温度とする構成である
ことを特徴とするプリンター。
【請求項2】
前記インクジェットヘッドのノズル部における非吐出時の圧力を所定圧とするための、前記上流側と下流側との流路抵抗比とは略1:1であることを特徴とする請求項1に記載のプリンター。
【請求項3】
上流ビンからインクジェットヘッドを経て下流ビンに通じ、この下流ビンから前記上流ビンに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なプリンターであって、
前記循環路の、上流ビンからインクジェットヘッドまでの上流側と、インクジェットヘッドから下流ビンまでの下流側とに設けられ、これらに流れる前記インクを加熱する加熱手段と、
前記上流側及び下流側に流れるインクの温度を検出し、その温度が目標温度となるように前記加熱手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記上流側及び下流側管路の管径、管路長、インクの粘度から流路抵抗を求める基本式に基づき、かつ前記インクの粘度がインクの物性と温度に依存することから、これらの因子を用いた演算式により求めた前記上流側と下流側との流路抵抗と、これら上流側流路抵抗と下流側流路抵抗とから求まる流路抵抗比とを保持するテーブルを有し、さらに、前記加熱手段の加熱温度を任意に設定可能な加熱温度設定手段を有し、この加熱温度設定手段に設定された加熱温度に基づくインク温度により前記上流側と下流側との流路抵抗を前記演算式にて再計算し、その結果に基づき前記テーブルに保持された流路抵抗比を更新して表示する構成である
ことを特徴とするプリンター。
【請求項4】
前記加熱手段は、前記上流側及び下流側の、最もインクジェットヘッド寄りの部分に設置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のプリンター。
【請求項5】
上流ビンからインクジェットヘッドを経て下流ビンに通じ、この下流ビンから前記上流ビンに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なプリンターの、前記上流ビンからインクジェットヘッドまでの上流側と、前記インクジェットヘッドから下流ビンまでの下流側とに設けられ、これらに流れる前記インクを加熱する加熱手段を、前記インクの温度が目標温度となるように制御するプリンターの制御方法であって、
前記上流側及び下流側管路の管径、管路長、インクの粘度から流路抵抗を求める基本式に基づき、かつ前記インクの粘度がインクの物性と温度に依存することから、これらの因子を用いた演算式により前記上流側と下流側との流路抵抗をそれぞれ求め、前記インクジェットヘッドのノズル部における非吐出時の圧力を所定圧とするための、前記上流側と下流側との流路抵抗比を実現する前記温度を前記演算式に基づいて求め、この求められた温度を前記目標温度とする
ことを特徴とするプリンターの制御方法。
【請求項6】
上流ビンからインクジェットヘッドを経て下流ビンに通じ、この下流ビンから前記上流ビンに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なプリンターの、前記上流ビンからインクジェットヘッドまでの上流側と、前記インクジェットヘッドから下流ビンまでの下流側とに設けられ、これらに流れる前記インクを加熱する加熱手段を、前記インクの温度が目標温度となるように制御するプリンターの制御方法であって、
前記上流側及び下流側管路の管径、管路長、インクの粘度から流路抵抗を求める基本式に基づき、かつ前記インクの粘度がインクの物性と温度に依存することから、これらの因子を用いた演算式により求められる前記上流側と下流側との流路抵抗と、これら上流側流路抵抗と下流側流路抵抗とから求まる流路抵抗比とをテーブルに保持し、前記加熱手段の加熱温度を任意に設定すると、この設定された加熱温度に基づくインクの温度により前記上流側と下流側との流路抵抗を前記演算式にて再計算し、その結果に基づき前記テーブルに保持された流路抵抗比を更新して表示する
ことを特徴とする記載のプリンターの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−56477(P2013−56477A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196253(P2011−196253)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】