説明

プレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法

【課題】作業足場の設置を不要にすることで、作業手間とコストの低減を図るようにした。
【解決手段】建物2の外側からPC壁1の外面の所定範囲を観測できる位置に、PC壁1の外面の奥行き方向Zの位置を測定する形状計測センサー3を設置する工程と、建て込むPC壁1Aおよびこれに隣接する既設のPC壁1B、1Cの奥行き方向Zの位置を形状計測センサー3によって測定し、双方の奥行き方向の位置のずれ量をモニターに出力する工程と、このモニターを確認しながら、ずれ量の誤差がゼロになるようにして建て込むPC壁1Aを既設のPC壁1B、1Cに対して位置合わせする工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビル施工において、側面のプレキャストコンクリート壁(以下、PC壁という)の取り付けにあっては、建物外観を決定付ける重要な項目であり、高精度の取り付けが求められている。
そのため、PC壁の建て込み作業においては、ビル外壁に沿って外側に張り出すようにして作業足場を組み、その足場上で作業員がPC壁の位置合わせを行っているのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。すなわち、縦横の隙間は、建物室内側からでも確認は可能であるが、外壁側(外面側)の奥行き位置(隣接するPC壁との出入り)は裏側からの確認が困難であるため、作業足場を設けて、その足場からPC壁の外面を確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−23702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のPC壁の建て込み方法では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1に示すような外壁に作業足場を設置する方法では、作業足場の設置、解体にかかる作業時間とコストが大きくなるといった問題があり、その点で改良の余地があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、作業足場の設置を不要にすることで、作業手間とコストの低減を図るようにしたプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法では、建物の外壁を形成するプレキャストコンクリート壁を既設のプレキャストコンクリート壁に対して位置合わせをして建て込む際に用いられるプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法であって、建物の外側からプレキャストコンクリート壁の外面の所定範囲を観測できる位置に、プレキャストコンクリート壁の外面の奥行き方向の位置を測定する形状計測センサーを設置する工程と、建て込むプレキャストコンクリート壁およびこれに隣接する既設のプレキャストコンクリート壁の奥行き方向の位置を形状計測センサーによって測定し、双方の奥行き方向の位置のずれ量を表示部に出力する工程と、表示部を確認しながら、ずれ量の誤差がゼロになるようにして建て込むプレキャストコンクリート壁を既設のプレキャストコンクリート壁に対して位置合わせをする工程とを有することを特徴としている。
【0007】
本発明では、表示部を建物内に配置しておくことで、位置合わせの基準となる既設のプレキャストコンクリート壁に対する建て込むプレキャストコンクリート壁の奥行き方向の位置を建物内の表示部によって確認することができる。そのため、形状計測センサーによる測定をリアルタイムで行い、プレキャストコンクリート壁の外面を観測した状態で、建て込むプレキャストコンクリート壁の姿勢を表示部で確認しながら、ずれ量の誤差がゼロになるようにして位置合わせをすることで、既設のプレキャストコンクリート壁に対して精度よく建て込むことができる。これによりプレキャストコンクリート壁どうしの外面側の接合部に凹凸がなくなり、外観に優れた建物を構築することができる。
そして、建物の外側に形状計測センサーを設けるだけでプレキャストコンクリート壁どうしの位置合わせをすることが可能となるので、従来のように外壁に沿って設けられた作業足場上でプレキャストコンクリート壁の外面の位置を確認する必要がなくなる。
【0008】
また、本発明に係るプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法では、表面が平面の場合において、建て込むプレキャストコンクリート壁の形状計測センサーによる測定位置は、位置合わせ時に隣接する横方向および下方に位置する既設のプレキャストコンクリート壁側の3点の角部であることがより好ましい。
【0009】
本発明では、建て込むプレキャストコンクリート壁の3点の角部の位置を形状計測センサーにより測定することで、この建て込むプレキャストコンクリート壁の姿勢を三次元的に確認することができ、既設のプレキャストコンクリート壁に対する傾き等を考慮した位置合わせを行うことが可能となり、より精度の高い位置合わせを行うことができる。
また、形状計測センサーによる測定と同時に、建て込むプレキャストコンクリート壁の位置合わせ状態をカメラ等で撮影し、その映像を表示部に重ね合わせて表示させることで、建て込むプレキャストコンクリート壁の姿勢が理解し易くなることから、表示部を確認する作業者の誤認を減らすことが可能となる利点がある。
【0010】
また、本発明に係るプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法では、形状計測センサーは、建物から外側に突出する張出アームの突出先端に設けられていることが好ましい。
【0011】
本発明では、形状計測センサーを張出アームの先端に支持させるといった簡単な構造で、建物から外側に突出させることで、建物の外側からプレキャストコンクリート壁の外面の所定範囲を観測できる位置に設けることができる。そして、張出アームに上下左右、伸縮或いは回転といった機能を備えておくことで、張り出した形状計測センサーの位置、向き等を適宜調整することも可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法によれば、位置合わせの基準となる既設のプレキャストコンクリート壁に対する建て込むプレキャストコンクリート壁の奥行き方向の位置を形状計測センサーを用いて測定し、それを表示部によって確認しながら、建て込むプレキャストコンクリート壁を既設のプレキャストコンクリート壁に対して精度よく位置合わせをすることができる。したがって、外壁の外側から目視確認するための作業足場が不要となり、足場にかかる作業手間とコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態によるPC壁の建込み精度確認方法を示す斜視図である。
【図2】モニターの表示状態を示す図である。
【図3】PC壁の位置合わせ状態を示す水平断面図であって、(a)は位置合わせ前の状態を示す図、(b)は位置合わせ後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態によるプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法について、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施の形態によるプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法は、高層ビル等の建物2の外壁を形成するプレキャストコンクリート壁(以下、単に「PC壁」という)を既設のPC壁に対して位置合わせをして建て込む際に用いられる。
ここで、図1は、建物2におけるPC壁1を施工する施工フロアーF1とその1つ下の下層フロアーF0を示している。
なお、PC壁1において、必要に応じて、建て込み中のPC壁を符号1Aとし、この建て込むPC壁1Aの横方向に隣接する既設のPC壁を符号1Bとし、下側に横方向に隣接する既設のPC壁1Cとして以下説明する。
【0016】
PC壁1は、外壁として用いられる周知のものが採用され、一定の厚さ寸法を有する平板状(表面が平面)をなし、建物2の構築のために設置されたタワークレーン等の揚重機械によって吊下げられた状態で所定の外壁位置に建て込まれている。そして、上下左右に隣接するPC壁1、1どうしが適宜な接合手段により固定されている。
【0017】
図1に示すように、PC壁1の建込み精度確認方法は、建物2の外側からPC壁1の外面の所定範囲を観測できる位置に、PC壁1の外面の奥行き方向(Z軸方向)の位置を測定する形状計測センサー3を設置する工程と、建て込むPC壁1Aおよびこれに隣接する既設のPC壁1B、1Cの奥行き方向Zの位置を形状計測センサー3によって測定し、双方の奥行き方向の位置のずれ量を図2に示すモニター5(表示部)に出力する工程と、モニター5を確認しながら、ずれ量の誤差がゼロになるようにして建て込むPC壁1Aを既設のPC壁1B、1Cに対して位置合わせする工程とを有している。
【0018】
形状計測センサー3は、建物2から外側に突出する長尺の張出アーム4の突出先端4aに設けられており、発光部と受光部とを備えた形状計測センサー3の測定面3aで建て込むPC壁1Aおよびこれに隣接するPC壁1B、1Cの外面の所定範囲を測定範囲内(図1に示す破線範囲内)とすることが可能な位置に配置されている。なお、形状計測センサー3として、対象物までの距離の測定が可能なレーザー、赤外線、および光などを使用した距離センサーが用いられる。
【0019】
また、形状計測センサー3は、とくに図示しないが、建て込むPC壁1Aの位置に合わせて張出アーム4とともに適宜移動可能とされ、向き等も調整可能となっている。
張出アーム4は、XYZ方向の3方向に移動自在に支持される架台(図示省略)に支持させる構造とすることができる。
【0020】
建て込むPC壁1Aにおける形状計測センサー3による測定位置は、位置合わせ時に隣接する横方向および下方に位置する既設のPC壁1B、1C側の3点(第1〜第3測定ポイントP11、P12、P13)の角部である。また、建て込むPC壁1Aの基準となる既設のPC壁1B、1Cにおける形状計測センサー3による測定位置は、建て込むPC壁1Aの第1〜第3測定ポイントP11〜P13に隣接して対応する4点(第1〜第4測定ポイントP01、P02、P03、P04)である(図2参照)。なお、図1および図2に示す建て込むPC壁1Aの符号P12の測定ポイントは、符号P02とP04の両方の測定ポイントに対応している。
【0021】
図2に示すように、各測定ポイントP01〜04、P11〜P13における測定値は、図示しない演算部に取り込まれ、建て込むPC壁1Aの第1〜第3ポイントP11〜P13のそれぞれに対応する既設のPC壁1B、1Cに対する奥行き方向Zの誤差を示すずれ量を算出し、モニター5に出力させるようになっている。
ここで、モニター5は、建物2内から建て込むPC壁1Aを位置合わせする作業員、或いはその作業員に指示する合図者などが確認できる位置に設けられている。
【0022】
次に、上述したPC壁1の建込み精度確認方法について、図面に基づいてさらに具体的に説明する。
図1および図3(a)に示すように、先ず、施工フロアーF1から形状計測センサー3を建物2の外側に張り出し、所定位置にセットする。
続いて、クレーン等で吊下げられた状態の建て込むPC壁1Aを大まかな組み付け位置に配置させ、その建て込むPC壁1Aと既設PC壁1B、1Cのそれぞれの測定ポイントP01〜P04、P11〜P13を形状計測センサー3によって測定する。
【0023】
そして、図2に示すように、形状計測センサー3で測定された測定値は、建て込むPC壁1Aの測定ポイントP11〜P13がそれぞれに対応する既設のPC壁1B、1Cの測定ポイントP01〜P04に対する奥行き方向Zの誤差(ずれ量)が演算され、その演算値をモニター5に表示させる。
つまり、モニター5を建物2内に配置しておくことで、位置合わせの基準となる既設のPC壁1B、1Cに対する建て込むPC壁1Aの奥行き方向Zの位置を建物2内のモニター5によって確認することができる。
【0024】
ここで、図2では、建て込むPC壁1Aの各測定ポイントP11、P12、P13におけるずれ量が、それぞれ+25、+5、−10と記載されている。すなわち、モニター5で表示されるずれ量の数値が+(プラス)の場合には、外壁面2aよりも奥行き方向Zで外側に位置し、−(マイナス)の場合には同じく外壁面2aよりも奥行き方向Zで内側(建物2内部側)に位置していることを確認できるようになっている(図3(a)参照)。
【0025】
また、形状計測センサー3と同様に張出アーム4の突出先端4a(図1)にカメラ等(図示省略)を取り付けておき、形状計測センサー3による測定と同時に、建て込むPC壁1Aの位置合わせ状態を前記カメラ等で撮影し、その映像をモニター5に表示される形状計測センサー3での測定表示に重ね合わせて表示させることで、建て込むPC壁1Aの姿勢が理解し易くなり、これによりモニター5を確認する作業者の誤認を減らすようにすることも可能である。
【0026】
そして、図3(b)に示すように、形状計測センサー3による測定をリアルタイムで行い、PC壁1の外面を観測した状態で、建て込むPC壁1Aの姿勢をモニター5で確認しながら、ずれ量の誤差がゼロになるようにして位置合わせをすることで、既設のPC壁1B、1Cに対して精度よく建て込むことができる。これによりPC壁1同士の外面側の接合部に凹凸がなくなり、外観に優れた建物を構築することができる。
なお、建て込むPC壁1Aの横方向(X軸方向)と上下方向(Y軸方向)の位置合わせは、それぞれ既設のPC壁1B、1Cの端面に当接させればよい。
【0027】
また、建物2の外側に形状計測センサー3を設けるだけでPC壁1どうしの位置合わせをすることが可能となるので、従来のように外壁に沿って設けられた作業足場上でPC壁の外面の位置を確認する必要がなくなる。
【0028】
さらに、建て込むPC壁1Aの3点の角部の位置(第1〜第3測定ポイントP11〜P13)を形状計測センサー3により測定することで、この建て込むPC壁1Aの姿勢を三次元的に確認することができ、既設のPC壁1B、1Cに対する傾き等を考慮した位置合わせを行うことが可能となり、より精度の高い位置合わせを行うことができる。
【0029】
上述のように本実施の形態によるプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法では、位置合わせの基準となる既設のPC壁1B、1Cに対する建て込むPC壁1Aの奥行き方向Zの位置を形状計測センサー3を用いて測定し、それをモニター5によって確認しながら、建て込むPC壁1Aを既設のPC壁1B、1Cに対して精度よく位置合わせをすることができる。
したがって、外壁の外側から目視確認するための作業足場が不要となり、足場にかかる作業手間とコストの低減を図ることができる。
【0030】
以上、本発明によるプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では形状計測センサー3を長尺の張出アーム4で支持する構成としているが、これに限定されることはない。例えば、形状計測センサー3を組み込み、建物内を移動可能、且つ所定位置で形状計測センサー3を建物2の外側に向けて張出可能とした専用の計測装置などを採用してもかまわない。
また、形状計測センサー3の数量も1つであることに制限されることはなく、複数の形状計測センサー3によって観測することで、位置合わせ精度を高めるようにしても良い。
【0031】
さらに、本実施の形態では建て込むPC壁1Aにおける測定ポイントP11〜P13と3箇所し、これらに対応する既設のPC壁1B、1Cにおける測定ポイントP01〜P04と4箇所としているが、PC壁1の測定ポイントの位置、数量についてもとくに制限されることはなく、PC壁1の大きさ等の条件に応じて適宜設定することができる。
【0032】
さらにまた、モニター5におけるずれ量の表示方法についても、本実施の形態は一例であって、これに限定されることはなく、他の表示方法を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 PC壁(プレキャストコンクリート壁)
1A 建て込むPC壁
1B、1C 既設のPC壁
2 建物
3 形状計測センサー
4 張出アーム
5 モニター(表示部)
P01、P02、P03、P04 既設のPC壁における測定ポイント
P11、P12、P13 建て込むPC壁における測定ポイント



【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁を形成するプレキャストコンクリート壁を既設のプレキャストコンクリート壁に対して位置合わせをして建て込む際に用いられるプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法であって、
前記建物の外側から前記プレキャストコンクリート壁の外面の所定範囲を観測できる位置に、前記プレキャストコンクリート壁の外面の奥行き方向の位置を測定する形状計測センサーを設置する工程と、
建て込む前記プレキャストコンクリート壁およびこれに隣接する既設の前記プレキャストコンクリート壁の前記奥行き方向の位置を前記形状計測センサーによって測定し、双方の前記奥行き方向の位置のずれ量を表示部に出力する工程と、
前記表示部を確認しながら、前記ずれ量の誤差がゼロになるようにして建て込む前記プレキャストコンクリート壁を既設の前記プレキャストコンクリート壁に対して位置合わせをする工程と、
を有することを特徴とするプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法。
【請求項2】
表面が平面の場合において、建て込む前記プレキャストコンクリート壁の前記形状計測センサーによる測定位置は、位置合わせ時に隣接する横方向および下方に位置する既設の前記プレキャストコンクリート壁側の3点の角部であることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法。
【請求項3】
前記形状計測センサーは、前記建物から外側に突出する張出アームの突出先端に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャストコンクリート壁の建込み精度確認方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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