説明

プレストレス鋼桁の製造方法

【課題】鋼材に対してプレフレクションを行う際、集中荷重点を3点以上とした場合であっても、載荷される荷重を荷重点毎に的確にコントロールすることができ、試行錯誤的な、時間のかかる調整作業を行うことなく、設計通りの荷重を載荷することができるプレストレス鋼桁の製造方法を提供する。
【解決手段】各集中荷重点P1〜P3について設計荷重値をそれぞれ算出し、ジャッキ3a〜3cによりI型鋼1に対して荷重を載荷していく作業を複数の段階に分け、各段階毎に、各集中荷重点P1〜P3について載荷すべき目標荷重値をそれぞれ設定し、各集中荷重点P1〜P3にそれぞれ載荷される実荷重値が、各目標荷重値の許容誤差の範囲内となるようにジャッキ3a〜3cを制御し、段階が進むごとに、目標荷重値及び実荷重値を次第に設計荷重値へ近づけていく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材(型鋼)とコンクリートからなる合成桁であって、鋼材のフランジ周りに配設したコンクリートにプレストレスを導入してなるプレストレス鋼桁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋梁の構成材料として、プレストレス鋼桁が広く用いられている。プレストレス鋼桁は、通常、図5に示すように、I形鋼1に対し2つの点(P1,P2)において集中荷重を載荷し、設計モーメントMDを包括するような作用モーメントM1(台形モーメント)を与えてI形鋼1を撓ませ(プレフレクション)、この状態のまま、下フランジコンクリートを打設、養生し、硬化後に荷重を開放して、下フランジコンクリートに圧縮力を導入する、という方法によって製造されている。
【特許文献1】特公昭33−10424号公報
【特許文献2】特公昭50−31563号公報
【特許文献3】特開昭58−4004号公報
【特許文献4】特公昭60−11171号公報
【特許文献5】特開2005−248617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述したように、I形鋼に対してプレフレクションを行う際、従来は2つの点に集中荷重を載荷していたが、より多くの点に集中荷重を載荷することによってモーメント量を減少させることができ、その結果、プレストレス鋼桁の製造コストを縮減することができる、と考えられる。
【0004】
例えば、I形鋼に対し、4つの点(P1〜P4)で集中荷重を載荷すれば、図6に示すような多角形の作用モーメントM2を与えることができ、この場合、2点荷重の作用モーメントM1(台形)と比べ、図中斜線で示す部分(S1+S2)に相当するモーメント量を減少できることになる。従って、プレフレクションの際、I形鋼に載荷されるプレフレクション荷重を小さくすることができるため、I形鋼のフランジ厚を小さくすることができ、また、I形鋼の添接位置の設計モーメントを小さくできるため、使用する添接板を小さくすることができる。つまり、I形鋼の製造に使用する鋼材料を少なくすることができ、製造コストを縮減できる。
【0005】
しかしながら、集中荷重の載荷は、通常、荷重点毎にそれぞれ一台ずつセットした油圧ジャッキを、1つずつ順番に操作して行われるため、集中荷重点が3点以上である場合、各荷重点におけるジャッキ荷重を所望の値に揃えることが難しく、製造効率等の観点からは、集中荷重点を3点以上に設定することは現実的ではない。
【0006】
この点について具体的に説明すると、1つのI形鋼に対して複数の油圧ジャッキを所定間隔で配置して、各ジャッキによりそれぞれ荷重を載荷していく場合において、1つのジャッキに対して荷重を増加する操作を行うと、他のジャッキにおける荷重が減少してしまうことになる。このため、各荷重点におけるジャッキ荷重を揃えるためには、1つのジャッキに対する操作(荷重増加)を行う度に、他のすべてのジャッキに対して、減少分を補うための調整作業(荷重増加)を行う必要が生じることになる。そして、あるジャッキに対してそのような調整作業(荷重増加)を行うと、その他のジャッキにおける荷重が減少することになるため、それらのジャッキにおいて更なる調整作業が必要になる。
【0007】
但し、集中荷重点が2点である場合には、ジャッキの数は2台で済むため、相関関係は1対1の単純なものとなり、上記のような調整作業が必要になったとしても、一方のジャッキを操作することによる他方のジャッキの荷重減少量は、調整作業を進めていくうちに次第に小さくなっていくため、大抵の場合、調整作業を数回繰り返すだけで、比較的容易にジャッキ荷重を揃えることができる。
【0008】
ところが、集中荷重点が3点以上である場合には、各荷重点間の相関関係が複雑となり、調整作業を数回行っただけではなかなか収束せず、ジャッキ荷重を目標範囲内に揃えようとすると、かなりの時間と労力が必要となってしまう。従って、I形鋼のプレフレクションを行う際、集中荷重点を3点以上とすることは、製造効率等の観点から現実的ではなく、このため現在では、プレストレス鋼桁の製造は、2点集中荷重によって行われることが殆どである。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決すべくなされたものであって、I形鋼に対してプレフレクションを行う際、集中荷重点を3点以上とした場合であっても、載荷される荷重を、荷重点毎に的確にコントロールすることができ、試行錯誤的な、時間のかかる調整作業を行うことなく、迅速かつ円滑に設計通りの荷重を載荷することができるプレストレス鋼桁の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のプレストレス鋼桁の製造方法は、鋼材上に設定した複数の集中荷重点にそれぞれジャッキを設置し、プレフレクションを行って鋼材を撓ませ、この状態のまま、鋼材のフランジ周りにコンクリートを打設し、硬化後にプレフレクション荷重を開放して、打設したコンクリートに圧縮力を導入するプレストレス鋼桁の製造方法において、各集中荷重点について設計荷重値をそれぞれ算出し、各ジャッキにより鋼材に対して荷重を載荷していく作業を複数の段階に分け、各段階毎に、各集中荷重点について載荷すべき目標荷重値をそれぞれ設定するとともに、各集中荷重点にそれぞれ載荷される実荷重値が、それぞれの目標荷重値の許容誤差の範囲内となるように前記ジャッキを操作或いは制御し、段階が進むごとに、目標荷重値及び実荷重値を次第に設計荷重値へ近づけていき、最終的に設計荷重値とほぼ等しい値の荷重を各集中荷重点に対して載荷することを特徴としている。
【0011】
尚、本発明に係る方法においては、目標荷重値と設計荷重値の比率が、段階毎に、すべての集中荷重点の間で同一となるように設定することが好ましく、また、目標荷重値が設計荷重値の100%に達し、かつ、各集中荷重点における実荷重がいずれも許容誤差の範囲内にあると判定された場合、鋼材のたわみ量が所望の範囲に収まっているかどうかの判定を行い、範囲内に収まっていない場合には、全てのジャッキの荷重を一定の比率で同時に増減して微調整を行い、たわみ量が所望の範囲内に収まるまで、この微調整を繰り返し実行することが好ましい。
【0012】
一方、本発明のプレフレクション荷重管理用プログラムは、上記のようなプレストレス鋼桁の製造方法において使用するコンピュータプログラムであって、各集中荷重点にそれぞれ載荷される実荷重値が、各段階毎に設定された目標荷重値の許容誤差の範囲内となるようにジャッキを制御するルーティンと、各集中荷重点にそれぞれ載荷される実荷重値が、各段階毎に設定された目標荷重値の許容誤差の範囲内にあるかどうかを判定するルーティンと、を有していることを特徴としている。尚、このプログラムにおいては、目標荷重値が設計荷重値の100%に達し、かつ、各集中荷重点における実荷重がいずれも許容誤差の範囲内にあると判定された場合において、鋼材のたわみ量が所望の範囲に収まっているかどうかを判定するルーティンを有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプレストレス鋼桁の製造方法によれば、鋼材に対してプレフレクションを行う際、集中荷重点が3点以上であっても、載荷される荷重を、荷重点毎に的確にコントロールすることができ、試行錯誤的な、時間のかかる調整作業を行うことなく、迅速かつ円滑に設計通りの荷重を載荷することができる。従って、鋼材(I形鋼)の添接位置の設計モーメントを小さくできるため、使用する添接板を小さくすることができるほか、プレフレクションの際、鋼材に載荷されるプレフレクション荷重を小さくすることができるため、フランジ厚を小さくすることができる。つまり、鋼材の製造に使用する鋼材料を少なくすることができ、製造コストを縮減できる。
【0014】
また、集中荷重点を3点以上とすることができるため、径間部、及び、中間支点部を含む2径間分の連続桁や、それ以上の長さの連続桁、或いは、設計モーメントが複雑な形状の桁等であっても、1回のプレフレクション作業によって製造することができる。その結果、製造コストを縮減できるほか、橋梁の架設費用も縮減でき、更に、工期も短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面に沿って、本発明のプレストレス鋼桁の製造方法を実施するための最良の形態について説明する。本発明に係るプレストレス鋼桁の製造方法は、まず、プレフレクションを行ってI形鋼を撓ませ、この状態のまま、下フランジコンクリート(或いは、上フランジコンクリート)を打設、養生し、硬化後に荷重を開放して、下フランジコンクリート(或いは、上フランジコンクリート)に圧縮力を導入する、というものであり、特に、I形鋼に対してプレフレクションを行う方法に特徴を有するものである。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るプレストレス鋼桁の製造方法の説明図(より詳細には、I形鋼に対してプレフレクションを行う方法の説明図)である。この図において、1はI形鋼、2(2a〜2c)は油圧ジャッキ、5はコンピュータ(制御手段)である。尚、油圧ジャッキ2a〜2cは、ジャッキ3a〜3c、及び、油圧ポンプ4a〜4cによってそれぞれ構成され、図示されているように各ジャッキ3a〜3cは、I形鋼1において所定の間隔を置いて設定された集中荷重点P1〜P3上にそれぞれ配置される。
【0017】
各油圧ポンプ4a〜4cは、それぞれコンピュータ5と接続されており、コンピュータ5は、各油圧ポンプ4a〜4cに対し、適宜制御命令を発して各油圧ポンプ4a〜4cの駆動量を制御することができ、これにより、I形鋼1の各集中荷重点P1〜P3に対して所望の荷重を載荷することができる。また、コンピュータ5には、各集中荷重点P1〜P3における実荷重値(各油圧ポンプ4a〜4cのマノメータが示す値)が、デジタル値に変換されたうえで入力されるようになっている。
【0018】
本実施形態に係る方法においてI形鋼のプレフレクションを行う場合、まず、必要とされるプレフレクションモーメントから、プレフレクション時の鋼桁に載荷すべき荷重の値(設計荷重値)を集中荷重点P1〜P3毎にそれぞれ算出する。そして、算出された各設計荷重値に基づいて油圧ジャッキ2a〜2cを操作(制御)して、各集中荷重点P1〜P3に荷重を載荷していく。
【0019】
尚、各集中荷重点P1〜P3に対し、一度に設計荷重を100%載荷させてしまうと、煩雑な調整作業が必要となってしまうため、本実施形態においては、各油圧ジャッキ2a〜2cの操作(集中荷重点P1〜P3に対する荷重の載荷作業)をいくつかの段階(数段階〜数百段階)に分け、各段階毎に、各集中荷重点P1〜P3について載荷すべき目標荷重をそれぞれ設定し、集中荷重点P1〜P3に載荷される実荷重が、それぞれの目標荷重の許容誤差の範囲内となるように油圧ジャッキ2a〜2cの操作を行う。そして、段階が進むごとに、目標荷重及び実荷重を次第に設計荷重へ近づけていき、最終的に設計荷重とほぼ等しい荷重を各集中荷重点P1〜P3に対して載荷する。
【0020】
ここで重要なことは、目標荷重を設定する際、目標荷重と設計荷重の比率が、段階毎に、すべての集中荷重点P1〜P3の間で同一となるようにする、換言すれば、集中荷重点P1〜P3の間で同一の「対設計荷重比率」を用いて、各段階毎の目標荷重をそれぞれ設定する、ということである。つまり、集中荷重点P1〜P3の設計荷重値がそれぞれ順番に「α」、「β」、「γ」であり、ある段階における集中荷重点P1〜P3の目標荷重値をそれぞれ順番に「Δα」、「Δβ」、「Δγ」とすると、「Δα/α=Δβ/β=Δγ/γ」という関係式が成り立つようにする。この関係式は、すべての段階について共通である。
【0021】
具体的には、例えば、荷重の載荷作業を5段階に分け、第1段階では、集中荷重点P1〜P3のいずれについても、各設計荷重値の20%に相当する値を第1段階目標荷重値とし、第2段階では各設計荷重値の40%、第3段階では60%、第4段階では80%、最終の第5段階では、各設計荷重値の100%に相当する値を最終目標荷重値として設定する。
【0022】
そして、各段階において、油圧ジャッキ2a〜2cを適宜操作(制御)して、集中荷重点P1〜P3に荷重を載荷していき、すべての集中荷重点P1〜P3の実荷重が、その段階における各目標荷重値の許容誤差の範囲内にあるかどうかの判定を行い、「許容誤差の範囲内にある」と判定されたら次の段階へと進み、同様に次段階においても荷重の載荷及び判定を行って順次ステップアップしていく。尚、本実施形態においては、「許容誤差」は、その段階における各目標荷重値の「±1/100」に設定されているが、この設定は固定されている訳ではなく、状況に応じて適宜変更することができる。
【0023】
コンピュータ5には、上記のような一連の手順を自動的に遂行するためのプログラムが搭載されており、このプログラムを実行することにより、集中荷重点が3点以上であっても、載荷される荷重を、荷重点毎に的確にコントロールすることができ、I形鋼1に対して設計通りの荷重を迅速かつ円滑に載荷することができる。図2は、当該プログラムのフローチャートの一例を示すものである。
【0024】
尚、図2のフローチャートにおいては、上述の具体例と同様に、荷重の載荷を5段階に分け、第1段階目標荷重を設計荷重の20%、その後、段階が進むごとに、目標荷重を20%ずつ増加させる、という設定になっている。この設定も、必要に応じて適宜変更することができ、例えば、荷重の載荷を200段階に分け、第1段階目標荷重を設計荷重の0.5%、その後、段階を踏むごとに、目標荷重を0.5%ずつ増加させる、というように設定することもできる。更に、目標荷重の増加量は一定でなくとも良く、例えば、段階が進むごとに次第に増加量が小さく(或いは大きく)なっていくように設定することもできるし、また、変則的、不規則的に目標荷重が増加していくように設定することもできる。
【0025】
また、このプログラムでは、目標荷重が設計荷重の100%に達し、かつ、各油圧ジャッキ2a〜2cの実荷重がいずれも許容誤差の範囲内にあると判定された場合、最後に、I形鋼1のたわみ量が所望の範囲に収まっているかどうかの判定が行われるようになっている。そして、範囲内に収まっていれば、プレフレクションは完了し、収まっていない場合には、全ての油圧ジャッキ2a〜2cの荷重を一定の比率で同時に増減して(例えば、設計荷重の±1%)微調整を行い、たわみ量が所望の範囲内に収まるまで、この微調整を繰り返し実行する。
【0026】
従来は、プレフレクションを行う際、集中荷重点を3点以上とすることは、製造効率等の観点から現実的ではなく、2点集中荷重によってプレフレクションが行われることが殆どであったが、上述したような本実施形態の方法によれば、集中荷重点が3点以上であっても、荷重点毎に荷重を的確にコントロールすることができ、試行錯誤的な、時間のかかる調整作業を行うことなく、迅速かつ円滑に、設計通りの荷重を載荷することができる。
【0027】
また、例えば、2径間の橋梁の構築に使用するプレストレス鋼桁を製造しようとする場合、従来は、径間部と中間支点部からなる桁と、径間部のみからなる桁を製造して、それらを接合していたが、本実施形態に係る方法によれば、集中荷重点を3点以上とすることができるため、図3(1)に示すように、2つの径間部6a,6b、及び、中間支点部7を含む2径間分の連続桁を、1回のプレフレクション作業によって製造することができる。尚、図3(1)においてジャッキ3a,3b,3d,3eは、図中下向き方向へ荷重を載荷し、ジャッキ3cは、図中上向き方向へ荷重を載荷するように構成されている。また、図3(2)は、(1)に示したジャッキ3a〜3eによってI形鋼1に設計荷重を載荷した場合の作用モーメントMの形状を示している。
【0028】
更に、次のような効果も期待することができる。図4(1)は、3つの橋脚8a〜8cによって支持される2径間分の橋梁の構成例を示す図である。この図において9aは第1のプレストレス鋼桁、9bは第2のプレストレス鋼桁、MDは橋梁完成時における桁全体の設計モーメントの形状を表している。従来、このような2径間分の橋梁を構築しようとする場合、上述したように、径間部と中間支点部からなる第1のプレストレス鋼桁9aと、径間部からなる第2のプレストレス鋼桁9bとを製造し、まず先に、中間支点部を含む第1のプレストレス鋼桁9aを架設し、次に、径間部からなる第2のプレストレス鋼桁9bを架設し、最後にそれらを接合する、という方法が採られることが多い。
【0029】
ここで、径間部と中間支点部からなる第1のプレストレス鋼桁9aの設計モーメントMD1は、図4(2)に示すような形状となるが、従来の2点集中荷重によるプレフレクションでは、図示されているような形状の設計モーメントMD1を包括するような作用モーメントを与えることができなかった。このため従来は、1本のI形鋼に対して、プレフレクション作業及びコンクリートの打設作業を2回に分け、まず、径間部に相当する部分を対象としてプレフレクション作業及びコンクリートの打設作業を順次実施し、次いで中間支点部に相当する部分を対象としてそれらの作業を再度実施することにより、径間部と中間支点部からなる第1のプレストレス鋼桁9aを製造していた。
【0030】
このような方法で製造した場合、径間部と中間支点部との境界付近に対し、充分なプレストレスを導入することができないため、図4(3)に示すように、第1のプレストレス鋼桁9aを架設した場合、中間の橋脚8b近傍の下側部分(図中Wの部分)に引張力が作用し、完成時に、本来、圧縮領域となるべき下フランジコンクリートに、一時的にクラックが発生する恐れがある。そこで、このような危険を回避するため、図4(3)に示すような位置に、支保工10を設置することが一般的である。
【0031】
これに対し本実施形態に係る方法によれば、集中荷重点が3点以上であっても、荷重点毎に荷重を的確にコントロールすることができ、設計通りの荷重を載荷することができるため、図4(2)に示すような設計モーメントMD1を包括するような作用モーメントを、1回のプレフレクション作業において与えることができる。従って、径間部と中間支点部との境界付近に対しても、充分なプレストレスを導入することができ、その結果、図4(3)に示したような支保工10を設置しなくても、第1のプレストレス鋼桁9aを架設することができ、その分、工費(橋梁の架設費用)と工期を縮減することができる。
【0032】
尚、本実施形態においては、図2に示したようなフローチャートに沿って各手順を自動実行するプログラムと、これを搭載したコンピュータと、コンピュータによって駆動量が自動制御される油圧ジャッキ等を用いて、3点以上の集中荷重点に載荷される荷重をコントロールするように構成されているが、油圧ジャッキとコンピュータとが接続さていない状況下において、プログラムの実行によってコンピュータの画面上に表示された各集中荷重点毎の目標荷重値と、各油圧ポンプのマノメータの数値とを比較しながら、作業者が手作業で各油圧ジャッキを操作して、実荷重を目標荷重に近づけ、判定を行い、順次ステップアップしていくという要領で、コンピュータ及びプログラムのアシストを受けながら、作業者が手作業でプレフレクションを行うこともできる。
【0033】
また、油圧ジャッキ2a〜2cとして、連動ジャッキ(複数のジャッキが1つの油圧ポンプに接続され、当該1つの油圧ポンプを操作することにより、接続されているすべてのジャッキを同時に動作させることができる装置)を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るプレストレス鋼桁の製造方法の説明図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るプレストレス鋼桁の製造方法において使用されるコンピュータプログラムのフローチャート。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るプレストレス鋼桁の製造方法の説明図。
【図4】3つの橋脚8a〜8cによって支持される2径間分の橋梁の構成例を示す図。
【図5】2点集中荷重によるプレフレクションを行う場合の作用モーメントM1と設計モーメントMDの形状を示す図。
【図6】4点集中荷重によるプレフレクションを行う場合の作用モーメントM2と設計モーメントMDの形状を示す図。
【符号の説明】
【0035】
1:I形鋼、
2,2a〜2c:油圧ジャッキ、
3,3a〜3e:ジャッキ、
4,4a〜4c:油圧ポンプ、
5:コンピュータ、
6a,6b:径間部、
7:中間支点部、
8a〜8c:橋脚、
9a:第1のプレストレス鋼桁、
9b:第2のプレストレス鋼桁、
10:支保工、
MD,MD1:設計モーメント、
M,M1,M2:作用モーメント、
P1〜P4:集中荷重点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材上に設定した複数の集中荷重点にそれぞれジャッキを設置し、プレフレクションを行って鋼材を撓ませ、この状態のまま、鋼材のフランジ周りにコンクリートを打設し、硬化後にプレフレクション荷重を開放して、打設したコンクリートに圧縮力を導入するプレストレス鋼桁の製造方法において、
各集中荷重点について設計荷重値をそれぞれ算出し、
各ジャッキにより鋼材に対して荷重を載荷していく作業を複数の段階に分け、
各段階毎に、各集中荷重点について載荷すべき目標荷重値をそれぞれ設定するとともに、各集中荷重点にそれぞれ載荷される実荷重値が、それぞれの目標荷重値の許容誤差の範囲内となるように前記ジャッキを操作或いは制御し、
段階が進むごとに、目標荷重値及び実荷重値を次第に設計荷重値へ近づけていき、最終的に設計荷重値とほぼ等しい値の荷重を各集中荷重点に対して載荷することを特徴とするプレストレス鋼桁の製造方法。
【請求項2】
目標荷重値と設計荷重値の比率が、段階毎に、すべての集中荷重点の間で同一となるように設定したことを特徴とする、請求項1に記載のプレストレス鋼桁の製造方法。
【請求項3】
前記目標荷重値が設計荷重値の100%に達し、かつ、各集中荷重点における実荷重がいずれも許容誤差の範囲内にあると判定された場合、鋼材のたわみ量が所望の範囲に収まっているかどうかの判定を行い、
範囲内に収まっていない場合には、全てのジャッキの荷重を一定の比率で同時に増減して微調整を行い、たわみ量が所望の範囲内に収まるまで、この微調整を繰り返し実行することを特徴とする、請求項1に記載のプレストレス鋼桁の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプレストレス鋼桁の製造方法において使用するコンピュータプログラムであって、
各集中荷重点にそれぞれ載荷される実荷重値が、各段階毎に設定された目標荷重値の許容誤差の範囲内となるように前記ジャッキを制御するルーティンと、
各集中荷重点にそれぞれ載荷される実荷重値が、各段階毎に設定された目標荷重値の許容誤差の範囲内にあるかどうかを判定するルーティンと、を有していることを特徴とするプレフレクション荷重管理用プログラム。
【請求項5】
前記目標荷重値が設計荷重値の100%に達し、かつ、各集中荷重点における実荷重がいずれも許容誤差の範囲内にあると判定された場合において、鋼材のたわみ量が所望の範囲に収まっているかどうかを判定するルーティンを有していることを特徴とする、請求項4に記載のプレフレクション荷重管理用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−247253(P2007−247253A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71986(P2006−71986)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)
【Fターム(参考)】