説明

プレス成形品のスプリングバック対策効果確認方法及び装置

【課題】本発明はプレス成形時における、スプリングバック対策の効果を容易にかつ明瞭に確認する方法および装置を得る。
【解決手段】本発明のスプリングバック対策効果確認方法は、予め設定した成形条件で成形対象物の離型前の残留応力分布の演算をし、この結果をもとに離型後の成形対象物の残留応力分布の演算をし、これらの結果から残留応力分布の差分を演算し、同様に、変更した成形条件で残留応力分布の差分を求め、これらの残留応力分布の差分の結果から、成形条件の変更による残留応力分布の変化量を求め、これをコンター表示することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車体を構成する車体構造材のプレス成形において、スプリングバックを低減するための技術に関し、特にスプリングバック低減のための成形条件変更の効果を確認する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形においては、プレス成形品を金型から取り出した後(離型後)に、そのプレス成形品がスプリングバック(弾性回復)し、所望の形状とは異なってしまう問題がしばしば発生する。スプリングバックは、離型前の製品の残留応力の不均一分布が原因であることが知られており、従来、有限要素法等の数値解析方法を用いて予測がなされてきた。
【0003】
特に最近では、開発工数およびコスト削減のため、自動車等のデザイン段階の開始と同時に成形部材の成形方法を検討する設計段階が開始される傾向にある。このためコンピュータを用いてプレス成形品の形状及びその成形条件に基づいて成形解析を行い、離型前の残留応力状態を求め、この成形後の残留応力に基づいて離型後において予測されるプレス成形品のスプリングバック量を演算し、その分だけ金型形状等の成形条件を変更することが行われている。
【0004】
また、上記のような成形条件の変更では、成形条件の変更によってどの領域の残留応力が変化してスプリングバックに影響したのかを直接知ることができないとして、最近では、特許文献1で開示されるように、製品の残留応力のうちどの領域の残留応力がスプリングバックに支配的なのかを予測するプレス成形解析方法が提案されている。
特許文献1に開示されたプレス成形解析方法は、製品の所定の領域における残留応力を変化させ、当該残留応力の変化がスプリングバックに及ぼす影響を解析的に明らかにするというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−229724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
確かに特許文献1において指摘されているように、成形条件を変更して離型前後の応力状態の変化を見るという方法では、成形条件の変更が成形品形状のどの領域の応力状態に影響したのかを知ることができない。
そのため、スプリングバックを低減するための対策として、例えば成形品形状におけるある領域の離型前後の残留応力変化を低減することを目的として成形条件を変更し、その結果、当該領域の離型前後の残留応力の変化が小さくなりスプリングバックが改善されたとしても、それが対策の効果であるかどうかを明確に知ることができない。なぜなら、成形条件を変更すれば、成形品形状の全ての領域において応力状態の変化が生ずるため、前記成形条件の変更が目的とした領域の残留応力変化を低減できスプリングバック低減に効を奏したのか、あるいは成形条件の変更が他の領域の応力状態の変化をもたらし、その結果、偶然にもスプリングバックが低減できたのかの区別ができないからである。
【0007】
一方、特許文献1に開示されたプレス成形解析方法では、成形品形状における特定領域の離型前の残留応力分布を解析データ上で変更するものであるから、応力状態の変更とスプリングバックの低減との関係を明確に把握することができる。
しかしながら、特定領域の離型前の残留応力分布の変更がスプリングバック低減に効果を奏することが判明したとしても、当該領域の残留応力分布を変更するための成形条件の変更を如何にするかという課題が残されることになる。
【0008】
以上のように、スプリングバック対策としての成形条件の変更と、離型前後の成形品形状全体における応力状態の変化との関係を明確に把握する手段がないため、スプリングバックを低減するための対策として行った成形条件の変更の効果を適切に評価できないという問題があった。
【0009】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、スプリングバック対策としての成形条件の変更と、離型前後の成形品形状全体としての応力状態の変化との関係を明確に知ることができるスプリングバック対策効果確認方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るスプリングバック対策効果確認方法は、スプリングバック対策を施す前の、あるいはスプリングバック対策を行って、予め設定した成形条件で成形解析を行って離型前の成形対象物の残留応力分布を演算する第1離型前残留応力分布演算工程と、該離型前の成形対象物の残留応力分布に基づいてスプリングバック解析を行って離型後の成形対象物の残留応力分布を演算する第1離型後残留応力分布演算工程と、該第1離型後残留応力分布演算工程と前記第1離型前残留応力分布演算工程で求めた残留応力分布の差分を演算する第1残留応力分布差分演算工程と、
さらにスプリングバック対策を施した成形条件で成形解析を行って離型前の成形対象物の残留応力分布を演算する対策後離型前残留応力分布演算工程と、該離型前の成形対象物の残留応力分布に基づいてスプリングバック解析を行って離型後の成形対象物の残留応力分布を演算する対策後離型後残留応力分布演算工程と、対策後離型前残留応力分布演算工程と対策後離型後残留応力分布演算工程で求めた残留応力分布の差分を演算する対策後残留応力分布差分演算工程と、
前記第1残留応力分布差分演算工程で求めた残留応力分布の差分と前記対策後残留応力分布差分演算工程で求めた残留応力分布の差分とに基づいて残留応力分布差分の変化量を演算する残留応力分布差分変化量演算工程と、
該残留応力分布差分変化量演算工程における演算値をスプリングバックの変化量に対応付けて成形対象物の形状データ上に視覚的に識別できるように表示する表示工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(2)本発明に係るスプリングバック対策効果確認装置は、ブランクに対しプレス成形解析を行い、離型前の成形対象物の形状の残留応力分布を計算する離型前残留応力分布演算処理部と、
離型前の成形対象物の形状の残留応力分布に基づいてスプリングバック解析を行い、離型後の成形対象物の形状の残留応力分布を計算する離型後残留応力分布演算処理部と、
前記離型前残留応力分布演算と前記離型後残留応力分布演算の演算値に基づいて応力差分を計算する残留応力分布差分演算処理部と、
2つの異なる条件で前記離型前残留応力分布演算と前記離型後残留応力分布演算を行い、それぞれの前記残留応力分布差分演算の演算値に基づいて残留応力分布差分の変化量を演算する残留応力分布差分変化量演算処理部と、
前記残留応力分布差分変化量演算の演算値をスプリングバックの変化量に対応付けて視覚的に識別できるように表示装置に表示させる表示処理部とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るスプリングバック対策効果確認方法によれば、プレス成形時において、ある施したスプリングバック対策が、成形対象物のどの部位に対してスプリングバック量の変化をどの程度与えたかを明確に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明におけるスプリングバック対策効果確認装置のブロック図である。
【図2】本発明におけるスプリングバック対策効果確認方法を適用した処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明における実施の形態の解析対象とする設計上の成形対象物の形状を示した図である。
【図4】本発明における実施の形態の解析計算に用いられるプレス金型の説明図である。
【図5】本発明における実施の形態の絞り成形と絞り成形後のブランクのトリムとスプリングバック解析の概略的な順序を示した図である。
【図6】本発明における実施の形態のスプリングバック対策前のプレス金型モデルとスプリングバック対策後のプレス金型の説明図である。
【図7】本発明における実施の形態の残留応力分布差分変化量をコンター表示するまでの処理手順の概略を示した図である。
【図8】本発明における実施の形態の設計上の成形対象物の湾曲部のスプリングバック対策前後におけるスプリングバック量の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、主として図1に示すブロック図に基づき、適宜他の図面を参照しながらプレス成形時におけるスプリングバック対策効果確認装置1(以下、単に「スプリングバック対策効果確認装置1」という)の構成について説明する。
【0015】
本実施の形態では、スプリングバック対策効果確認装置1は、PC(パーソナルコンピュータ)によって構成され、表示装置3と入力装置5と記憶装置7と作業用データメモリ9および演算処理部11を有している。
また、演算処理部11には表示装置3と入力装置5と記憶装置7および作業用データメモリ9が接続されている。
【0016】
<表示装置>
表示装置3は計算結果の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。
【0017】
<入力装置>
入力装置5は成形対象物情報ファイル13の指示などに用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
【0018】
<記憶装置>
記憶装置7内には、少なくとも、成形対象物情報ファイル13が格納されている。
【0019】
<作業用データメモリ>
作業用データメモリ9内には、計算結果を記憶するデータ記憶領域15と、計算処理を行うための作業領域17を有している。
【0020】
<演算処理部>
演算処理部はPCのCPUによって構成され、以下に説明する各処理部はCPUが所定のプログラムを実行することによって実現される。
演算処理部11内には、離型前残留応力分布演算処理部19と、離型後残留応力分布演算処理部21と、残留応力分布差分演算処理部23と、残留応力分布差分変化量演算処理部25と、コンター表示処理部27を有している。
【0021】
以下、演算処理部11内の各処理部についてさらに詳細に説明する。
【0022】
離型前残留応力分布演算処理部19は、ブランク41に対しプレス成形解析を行い、離型前形状29b(図5(b)参照)の残留応力分布を計算し、計算結果を離型前形状29bの残留応力分布データとしてデータ記憶領域15に記憶させる。
【0023】
離型後残留応力分布演算処理部21は、データ記憶領域15から離型前形状29bの残留応力分布データを読み出し、読み出した離型前形状29bの残留応力分布をもとに離型後形状29c(図5(c)参照)の残留応力分布を計算し、計算結果を離型後形状29cの残留応力分布データとしてデータ記憶領域15に記憶させる。
【0024】
残留応力分布差分演算処理部23は、データ記憶領域15から離型前形状29bの残留応力分布データと離型後形状29cの残留応力分布データを読み出し、これらのデータをローカル座標系に直し、応力差分を計算し、計算結果を残留応力分布差分データとしてデータ記憶領域15に記憶させる。
【0025】
残留応力分布差分変化量演算処理部25は、異なる成形条件のもとで計算された応力差分データ同士を比較できるようにするため、一方の残留応力分布差分データの値を、他方の相対する形状データへマッピング処理したマッピングデータを作成し、さらにマッピングデータとマッピング処理をしていない他方の残留応力分布差分データから応力差分を計算し、残留応力分布差分変化量データとしてデータ記憶領域15に記憶させる。
【0026】
コンター表示処理部27は、データ記憶領域15から残留応力分布差分変化量データを読み出し、表示装置3にコンター表示させる。
【0027】
次に図3〜図6に基づいて成形品形状および成型方法の概要について説明する。ここでは、例として図3(a)に示す成形対象物29aのプレス成形においてのスプリングバック対策効果確認方法について述べる。
【0028】
プレス成形解析、スプリングバック解析における解析計算は市販の有限要素法(FEM)解析システムを用いて行われる。
【0029】
成形対象物29aは、ハット断面(図3(b)参照)を有するゆるく湾曲した「く」の字型の形状であり、成形対象物29aは湾曲の中心側に内側フランジ31、反対側に外側フランジ33を有する。
【0030】
また、成形対象物29aは、図4に示すダイ35、パンチ37及びブランクホルダ39からなるプレス金型モデルを用いて成形される。
【0031】
なお、本実施の形態においては、一例としてブランク41には980MPa級高強度冷延鋼板を用いる。
【0032】
成形対象物29aは目的の形状を示しており、プレス金型によってブランク41から絞り成形され(図5(a)参照)、絞り成形されたものの周辺部をトリム加工した離型前形状29b(図5(b)参照)を経て、離型前形状29bに対してスプリングバック解析が行われ、離型後形状29cとなる(図5(c)参照)。
【0033】
また、成形対象物29aはプレス成形すると、ハット断面の縦壁部が少し外側に広がるようなスプリングバックを生じる。
【0034】
本発明では、スプリングバック対策を設定する前の成形条件を第一成形条件(本願発明では「第一」)とし、初めてのあるいは追加のスプリングバックを設定した後の成形条件を対策後成形条件(本願発明では「対策後」)としている。すなわち、第一成形条件は、スプリングバック対策を全く設定していなくてもよいし、あるいは何らかのスプリングバック対策をすでに設定している場合を含み、対策後成形条件は第一成形条件に対して、何らかのスプリングバック対策を設定したものを意味する。
【0035】
本実施の形態では、第一成形条件は、いかなるスプリングバック対策も設定していないもの(以下、単に「スプリングバック対策前」という)とし、対策後成形条件は初めてのスプリングバックを設定したもの(以下、単に「スプリングバック対策後」という)とする。
【0036】
なお、スプリングバック対策は、成形対象物自体の形状を変えないことが前提である。なぜなら、スプリングバック対策前後で同じ座標上に展開して比較するからである。ただし、トリミングして削除するような部位に形状変化があってもかまわない。そのため、スプリングバック対策としては、成形対象物部分以外の金型形状の変更や、ブランクホルダ圧の変更などである。
【0037】
本実施の形態におけるスプリングバック対策は、金型形状のダイフェース面に段差形状43を設定する(図6(b)参照)。段差形状43はトリミングして削除する部位であるため、成形対象物部分以外の金型変更である。このようなスプリングバック対策は、成形完了時に成形対象物29aの縦壁部に引張応力が付与され、スプリングバックの低減を図ることを狙ったものである。本実施の形態ではこのスプリングバック対策がどのようにスプリングバックの低減に効果を奏しているのかを確認することが目的である。
【0038】
次に、図2に示すフローチャートに基づいてスプリングバック対策効果確認方法の処理の流れを、図3(a)に示す成形対象物29aについてスプリングバック対策効果確認をする場合を例に挙げて説明する。また補足的に図7を参照する。
【0039】
まず、操作者は、スプリングバック対策効果確認装置1に対し、入力装置5を介して解析の対象となる成形対象物情報ファイル13を指示する。
スプリングバック対策効果確認装置1は成形対象物情報ファイル13から成形対象物情報を読み込み、離型前残留応力分布演算処理部19において、スプリングバック対策前の離型前形状29bの残留応力分布データ[データD1]を計算する(ステップS1)。成形対象物29aは金型で押圧されているため、解放される残留応力はまだない。
なお、本ステップは本願発明の第1離型前残留応力分布演算工程に相当する。
【0040】
次に、離型後残留応力分布演算処理部21において、スプリングバック対策前の離型後形状29cの残留応力分布データ[データD2]を計算する(ステップS2)。残留応力分布データ[データD2]には、離型前に存在していた残留応力の一部は離型によって解放され、離型前の残留応力分布データ[データD1]と比較して、残留応力が低減する部分が存在する。この解放された残留応力によって引き起こされるスプリングバックによって離型前形状29bが変形し、離型後形状29cとなる。
なお、本ステップは本願発明の第1離型後残留応力分布演算工程に相当する。
【0041】
次に、残留応力分布差分演算処理部23において、[データD1]、[データD2]の残留応力分布をローカル座標系に変換し、残留応力分布差分データ[データD3]を計算する(ステップS3)。ここで残留応力分布差分データ[データD3]は離型前後の応力差の分布、すなわちスプリングバックで解放された応力分布に相当する。
例えば、本ステップの計算の結果(図7(a)参照)をみると、成形対象物29aの湾曲した部分の色が濃くなっており、この部分の応力がスプリングバックで解放されたことがわかる。
なお、本ステップは本願発明の第1残留応力分布差分演算工程に相当する。
【0042】
次に、離型前残留応力分布演算処理部19において、スプリングバック対策後の離型前形状29bの残留応力分布データ[データD4]を計算する(ステップS4)。
なお、本ステップは本願発明の対策後離型前残留応力分布演算工程に相当する。
【0043】
次に、離型後残留応力分布演算処理部21において、スプリングバック対策後の離型後形状29cの残留応力分布データ[データD5]を計算する(ステップS5)。
なお、本ステップは本願発明の対策後離型後残留応力分布演算工程に相当する。
【0044】
次に、残留応力分布差分演算処理部23において、[データD4]、[データD5]の残留応力分布データをローカル座標系に変換し、残留応力分布差分データ[データD6]を計算する(ステップS6)。残留応力分布差分データ[データD6]も残留応力分布差分データ[データD3]と同様に、離型前後の応力差の分布、すなわちスプリングバックで解放された応力分布に相当する。
例えば、本ステップの計算の結果(図7(b)参照)と図7(a)を比較すると、色の濃い部分が異なっており、スプリングバック対策によってスプリングバックで解放された応力の分布が異なっていることがわかる。
なお、本ステップは本願発明の対策後残留応力分布差分演算工程に相当する。
【0045】
次に、残留応力分布差分変化量演算処理部25において、残留応力分布差分データ[データD6]を離型前の相対する形状データへマッピング処理し、マッピングデータ[データD7]を算出する(ステップ7)。
さらに、残留応力分布差分変化量演算処理部25において、残留応力分布差分データ[データD3]とマッピングデータ[データD7]から残留応力分布差分変化量データ[データD8]を計算する(ステップ8)。
なお、ステップ7〜8は本願発明の残留応力分布差分変化量演算工程に相当する。
【0046】
次に、コンター表示処理部27おいて、残留応力分布差分変化量データ[データD8]を表示装置3にコンター表示で表示する(ステップ9)。これによって操作者は、施したスプリングバック対策が、成形対象物29aのどの部位に対して、スプリングバック量の変化をどの程度与えたかを明確に確認することができる。
なお、本ステップは本願発明の表示工程に相当する。
【0047】
次に、図7、図8に基づいて上記処理の結果について説明する。
図8に示した成形対象物29aの湾曲部のハット断面の形状をみると、外側フランジ33bは外側フランジ33aよりも外側フランジ33(目標形状)に大きく近づいている。また、内側フランジ31bもハネは見られるが、内側フランジ31aよりも内側フランジ31(目標形状)に近づいていることがわかる。よって、施したスプリングバック対策によりスプリングバック量の低減に効果があったことがスプリングバック解析上でも確認された。
【0048】
ここで、施したスプリングバック対策が、成形対象物29aのどの部位に対してスプリングバック量の変化をどの程度与えたかについて説明する。
【0049】
コンター表示処理の結果(図7(c)参照)では、グレー表示された部分はスプリングバック対策によって離型前後の残留応力の差分に変化があった部位を示しており、色が濃ければそれだけ、スプリングバック対策の効果が大きいことを意味している。
【0050】
図7(c)では全体的にスプリングバックで解放された応力の低減がみられるが、特に成形対象物29aの湾曲部の低減量が大きいことがよくわかる。本実施の形態におけるスプリングバック対策は、成形完了時に縦壁に引張応力が付与されスプリングバック量の低減を狙ったものであるが、この縦壁に付与された引張応力により、成形対象物29aの全ての領域において、特に湾曲部においてのスプリングバックで解放される応力が抑えられたことがわかる。すなわち施したスプリングバック対策が成形対象物29aの全ての領域はもとより、特に湾曲部においての応力状態の変化に大きく作用し、スプリングバック量の低減に効を奏したことがわかる。
【0051】
このように、本発明ではスプリングバック対策が、当該成形対象物29aに対するスプリングバック量の変化にどのような効果をもたらしたのかについて容易に把握し、適切に評価することができる。それ故、同様の形状の成形対象物に対してスプリングバック対策を施す際に、スプリングバック対策の立案の指針とすることができる。
【0052】
なお、本実施の形態で施したスプリングバック対策においては、成形対象物29a全体にわたって、スプリングバック対策前の残留応力分布差分データ[データD3]は、スプリングバック対策後の残留応力分布差分データ[データD6]よりも、大きな値であったため、残留応力分布差分変化量データ[データD8]も全体的にプラスの値となり、図7(c)ではプラスの値を意味する色で表示されている。そして、このことより本実施の形態で施したスプリングバック対策は成形対象物29a全体的にスプリングバックで解放される応力が低減に効を奏するものとして評価することができた。
しかしながら、スプリングバック対策前の残留応力分布差分データ[データD3]が、スプリングバック対策後の残留応力分布差分データ[データD6]よりも小さな値になる場合がある。この場合、当該部位においてスプリングバックで解放される応力が逆に増加していることを意味する。このような場合には、当該部位をマイナスを意味する色で表示するようにするようにすればよい。これによって、前記スプリングバック対策はこの部位のスプリングバック量の低減に逆効果を与えるものであることが明確に理解できスプリングバック効果の確認に有効である。
【0053】
また、本実施の形態において、残留応力分布差分データ[データD3]や残留応力分布差分データ[データD6]は、分布差分マッピング処理のインプットデータとしてのみ用いたが、図7(a)、(b)に示すようにこれらを表示装置3に表示してもよい。
【0054】
また、本実施の形態において、第一成形条件は、いかなるスプリングバック対策も設定していない成形条件とした。しかし、スプリングバック対策効果確認を行う上で、あるスプリングバック対策を設定したものに別のスプリングバック対策を追加して重畳的に設定した場合に追加した成形条件の効果を確認したい場合がある。
そこで本願発明では例えば、あるスプリングバック対策Aをすでに設定したものを第一成形条件とし、別のスプリングバック対策Bを設定したものを対策後成形条件としてもよい。この場合、スプリングバック対策Aを前提としたスプリングバック対策Bの効果を確認することができる。
【0055】
また、本実施の形態において、分布差分マッピング処理ではスプリングバック対策後の残留応力分布差分データ[データD6]を相対するスプリングバック対策前の形状データへマッピング処置しマッピングデータ[データD7]を算出するものとしたが、スプリングバック対策前の残留応力分布差分データ[データD3]を相対するスプリングバック対策後の形状データへマッピング処置しマッピングデータ[データD7]を算出するものとしてもよい。
【0056】
また、本実施の形態において、ステップ9において表示方法は例示としてコンター表示としたが、残留応力分布差分変化量データをスプリングバックの変化量に対応付けて成形対象物の形状データ上に視覚的に識別できるように表示すればよく、コンター表示のような分布状態の色分けに代えて、網掛けの網のかけ方などの違いで分布状態を表すような表示方法としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 スプリングバック対策効果確認装置
3 表示装置
5 入力装置
7 記憶装置
9 作業用データメモリ
11 演算処理部
13 成形対象物情報ファイル
15 データ記憶領域
17 作業領域
19 離型前残留応力分布演算処理部
21 離型後残留応力分布演算処理部
23 残留応力分布差分演算処理部
25 残留応力分布差分変化量演算処理部
27 コンター表示処理部
29a 成形対象物
29b 成形対象物の離型前形状
29c 成形対象物の離型後形状
31 内側フランジ(目標形状)
31a スプリングバック対策前の成形対象物の離型後形状における内側フランジ
31b スプリングバック対策後の成形対象物の離型後形状における内側フランジ
33 外側フランジ(目標形状)
33a スプリングバック対策前の成形対象物の離型後形状における外側フランジ
33b スプリングバック対策後の成形対象物の離型後形状における外側フランジ
35 ダイ
35a スプリングバック対策前のダイ
35b スプリングバック対策後のダイ
37 パンチ
37a スプリングバック対策前のパンチ
37b スプリングバック対策後のパンチ
39 ブランクホルダ
41 ブランク
43 段差形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリングバック対策を施す前の、あるいはスプリングバック対策を行って、予め設定した成形条件で成形解析を行って離型前の成形対象物の残留応力分布を演算する第1離型前残留応力分布演算工程と、該離型前の成形対象物の残留応力分布に基づいてスプリングバック解析を行って離型後の成形対象物の残留応力分布を演算する第1離型後残留応力分布演算工程と、該第1離型後残留応力分布演算工程と前記第1離型前残留応力分布演算工程で求めた残留応力分布の差分を演算する第1残留応力分布差分演算工程と、
さらにスプリングバック対策を施した成形条件で成形解析を行って離型前の成形対象物の残留応力分布を演算する対策後離型前残留応力分布演算工程と、該離型前の成形対象物の残留応力分布に基づいてスプリングバック解析を行って離型後の成形対象物の残留応力分布を演算する対策後離型後残留応力分布演算工程と、対策後離型前残留応力分布演算工程と対策後離型後残留応力分布演算工程で求めた残留応力分布の差分を演算する対策後残留応力分布差分演算工程と、
前記第1残留応力分布差分演算工程で求めた残留応力分布の差分と前記対策後残留応力分布差分演算工程で求めた残留応力分布の差分とに基づいて残留応力分布差分の変化量を演算する残留応力分布差分変化量演算工程と、
該残留応力分布差分変化量演算工程における演算値をスプリングバックの変化量に対応付けて成形対象物の形状データ上に視覚的に識別できるように表示する表示工程とを備えたことを特徴とするスプリングバック対策効果確認方法。
【請求項2】
ブランクに対しプレス成形解析を行い、離型前の成形対象物の形状の残留応力分布を計算する離型前残留応力分布演算処理部と、
離型前の成形対象物の形状の残留応力分布に基づいてスプリングバック解析を行い、離型後の成形対象物の形状の残留応力分布を計算する離型後残留応力分布演算処理部と、
前記離型前残留応力分布演算と前記離型後残留応力分布演算の演算値に基づいて応力差分を計算する残留応力分布差分演算処理部と、
2つの異なる条件で前記離型前残留応力分布演算と前記離型後残留応力分布演算を行い、それぞれの前記残留応力分布差分演算の演算値に基づいて残留応力分布差分の変化量を演算する残留応力分布差分変化量演算処理部と、
前記残留応力分布差分変化量演算の演算値をスプリングバックの変化量に対応付けて視覚的に識別できるように表示装置に表示させる表示処理部とを有することを特徴とするスプリングバック対策効果確認装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図3】
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【図7】
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