説明

プレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法、ならびに、当該ブランクを用いたアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法

【課題】高成形性、高表面品質及びヘム曲げ性に優れたプレス成形用アルミニウム合金製ブランク及びこれを用いたプレス成形体を提供する。
【解決手段】パンチ肩部より内側の領域をプレス方向に対する垂直面に投影したブランクの領域Aのうち任意の領域Xを含む領域を復元領域、復元領域以外のブランク全体を非復元領域とし、プレス成形前にブランク全体を加熱する工程とブランク全体を100℃以下まで冷却する工程を含む復元処理が施され、加熱到達温度を復元領域で200〜300℃、非復元領域で100〜200℃未満とし、復元領域において昇温速度を5℃/秒以上、その温度での保持時間を20秒以下、冷却速度を5℃/秒以上とし、復元処理全体を通してブランクの100℃以上の滞留時間を2分以内とし、領域Xのみの耐力値を低下させてブランク内に強度差を付与するプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形に使用されるAl−Mg−Si系アルミニウム合金製ブランクの製造方法、ならびに、これを用いたプレス成形体の製造方法に関し、特に自動車ボデーパネル用に使用されるAl−Mg−Si系アルミニウム合金製ブランクの製造方法、ならびに、これを用いたプレス成形体の製造方法に関する。具体的には、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の優れた特徴である塗装焼付硬化性及びデザイン自由度を向上させるための成形性、高い表面品質、ならびに、インナーパネルとの締結のためのヘム曲げ性を兼備したプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法、ならびに、これを用いたプレス成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のボデーパネル材としては主として冷延鋼板が使用されることが多かった。しかしながら、最近では、地球温暖化抑制の視点からCO排出量の削減が求められ、そのために車体軽量化の重要性が広く認識されてきた。その結果、比重の軽いアルミニウム合金圧延板の使用が多くなっている。
【0003】
アルミニウム合金圧延板のうち、自動車のフード、フェンダー、ドアなどのボデーパネル類については、Al−Mg−Si系アルミニウム合金が使用されることが多い。熱処理合金の利点を生かして圧延板を低耐力の状態で仕上げておくことで、プレス成形性をまず確保しておく。そして、その後の自動車製造工程での塗装焼付処理(約170℃で約20分間)によって時効硬化(「塗装焼付硬化」或いは「ベークハード(BH)」と呼ばれる)させることで、耐力が上昇しパネルに高耐力を付与することができるものである。最終的にパネルが高耐力の状態になることでパネル板厚を薄くすることができ、軽量効果が向上する。
【0004】
ところで、アルミニウム合金圧延板の成形性は一般的に冷延鋼板に比べて劣るため、その適用拡大の障害となっている。アルミニウム合金圧延板の成形性向上のために、材料自体の成形性改善と成形加工方法の工夫が強く求められている。
【0005】
プレス成形は通常、ダイとホルダーでブランクの周囲を挟み、相対的にパンチをダイに押し込むことによってブランクを所定の形状に成形する加工方法である。ここで、ブランクはパンチとダイに接触することによって、弾性変形を経て塑性変形を伴いながら、刻々とその形状を変化させられて所定の形状に達する。このブランクが変形する過程では、ブランクの各部位において伸ばされる角度や方向が刻々と変化する。更に、パンチやダイとの接触によって生じる摩擦力の作用によって、ブランクに加わる張力分布(或いは応力分布)が不均一になる。このような結果、ブランクに蓄積されるひずみ分布も不均一なものとなる。
【0006】
このようにひずみ分布が不均一となると、パネルの形状(金型の形状)によって特定の部位にひずみが集中することになる。このような場合における成形の成否は、ブランク全体の伸びを活用できないままに、ひずみ集中部の材料の成形限界(くびれの発生や延性の限界)によって決まってしまう。一般的に、成形品のパンチ頭部とそれに連なった縦壁部との境界であるパンチ肩部に相当する位置において、ひずみが集中して破断してしまうことが知られている。
【0007】
材料自体の成形性改善については、延性の向上、ひずみ分布を均一化する観点からの加工硬化性の向上、絞り成形における縮みフランジ変形抵抗低減の観点からのランクフォード値の向上が考えられ、金属組織の制御によってこれらの向上が試みられている。しかしながら、これらが劇的に向上したアルミニウム合金圧延板を工業的に量産した例は、未だ報告されていない。
【0008】
また、上述のプレス成形中においてブランクに生じる不均一な張力分布は、ブランクと金型の間に生じる摩擦が一因である。従来、これを解決するために潤滑油や潤滑皮膜等の検討がされてきた。しかしながら、潤滑油や潤滑皮膜によって溶接や接合に悪影響が生じたり、これらを既存の脱脂工程では完全に除去できなかったり、コストの上昇を招いたりなどのマイナス要因が回避できず、また、摩擦係数をゼロにすることが困難であるという問題も残った。
【0009】
アルミニウム合金圧延板は成形加工によって受けるひずみ量が大きくなると、材料表面に肌荒れやリジングマーク等の表面欠陥が現れることが知られている。特に、自動車のアウターパネルでは、これらの表面欠陥により商品価値が著しく低下する。そこで、意図せずに表面欠陥が発生した場合はパネル表面を研磨する等の手直しが必要となり、コスト増加の要因となる。このため、プレス成形によってブランクに蓄積されるひずみ量が、表面欠陥が発生するひずみ量より小さくなるように、予めパネルのデザインが制限されることもある。このように、表面欠陥によって、成形性だけでなくアルミニウム部品の設計と意匠自由度が制限される。
【0010】
このような表面欠陥についても、金属組織の制御によって抑制する検討が行われている。しかしながら、表面欠陥を完全に克服することは困難であり、加工方法の工夫によるひずみ分布の均一化が必要である。
【0011】
また、Al−Mg−Si系合金には、塗装焼付硬化性を確保すべく主要元素であるMgとSiを固溶させるために溶体化・急冷処理が施され、その後の予備時効処理によってT4調質状態とされる。T4調質されたAl−Mg−Si系合金の機械的性質は常温で安定ではなく、常温時効により微細な析出物が徐々に析出して材料強度(耐力、引張強さ)が上昇するという問題がある。ここで言う常温とは、空調設備が無い状態で材料が輸送・保管される温度であり、0〜50℃の温度を意味する。
【0012】
ところで、自動車のボデーパネルは通常、車体の外側に位置するアウターパネルと、車体の内側に位置するインナーパネルより構成される。アウターパネルには、プレス成形後において別途プレス成形されたインナーパネルと組み付けられる際に、パネル周辺部にヘム曲げ加工と呼ばれる約180°の曲げ加工が施される。このヘム曲げ加工は、加工中に割れが発生することが多い非常に厳しい加工である。上述の常温時効による材料強度の上昇により、アウターパネルのヘム曲げ加工において割れが生じ易くなる(即ち、材料のヘム曲げ性が低下する)という問題もある。
【0013】
以上述べたような課題や問題に対して、従来から種々の提案がなされている。例えば、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の成形性を改善する方法として、特許文献1には、ブランクに局部的な熱処理を施してブランク内に強度差を付与する方法が記載されている。
【0014】
この方法によれば、アルミニウム合金板を溶解温度又はそれ以下の温度にまで加熱することで、金属中の複雑な析出物が固溶体の中に完全又は部分的に溶解され、これを室温まで急激に冷却することで、溶解物が固溶体の中で一時的に過飽和状態を維持し、強度は処理する前に比べて低下するとされる。この現象を利用して、プレス成形前のブランクに対して、パンチ面により係合される領域を加熱して軟化させる一方、パンチ隅部の回りで伸長される部分を加熱領域から除外することで、変形パターンが均一となり成形性が向上するとされる。
【0015】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、パンチ面内とパンチ面外の2つの領域のみに区分したものである。これに対して多くのプレス部品(金型)では、パンチ自体が複数の凹凸形状を有する複雑形状を成しており、パンチ面内におけるブランクの不均一なひずみ分布を解決するには特許文献1の方法では不十分である。
【0016】
また、加熱温度を、溶解温度又はそれ以下の温度である約250℃から約530℃の範囲としている。しかしながら、加熱温度が300℃を超えると、短時間のうちにマトリックス中のMgとSiが粗大な析出相であるβ’相として析出してしまう。その結果、MgとSiの固溶量が低下するため、その後の人工時効硬化処理での強度上昇が著しく低下する。つまり、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の優れた特徴である塗装焼付硬化性が著しく低下することが本発明者らの検討によって判明した。
【0017】
また、アルミニウム合金板に局部的な加熱を施すことには幾つかの問題があるが、その一つに、加熱部と非加熱部の温度差によって熱膨張差が生じ、熱ひずみによってブランクが変形する、いわゆる熱変形の問題が挙げられる。この特許文献1では、加熱領域と加熱領域から除く領域を規定しているが、加熱温度が250℃から530℃であるから、加熱しない領域を常温の約20℃と仮定すると、温度差は約230℃から約510℃となる。この熱変形は温度差が大きくなるほど大きくなるから、この温度差で加熱処理した場合には、相当な熱変形が生じると考えられる。特に、パンチに係合される範囲であるブランクの中央部を加熱すると、周囲の非加熱部によって熱膨張を拘束されるため、熱ひずみが大きく、分布も複雑になるため、ブランクにねじれ、反り、波うち等が発生することが考えられる。これらのブランクの熱変形の程度が大きい場合には、プレス成形後の成形品に残存する可能性があるため、抑制する必要がある。
【0018】
また、自動車ボデー用アウターパネルを対象とする場合には、プレス成形後に成形品の周辺部においてヘム曲げ加工が通常行われる。ここで、パンチ面外にヘム曲げ部がある場合には常温時効により時効析出した状態のままとなり、ヘム曲げ部で割れが発生するという問題は解決できない。
【0019】
アルミニウム合金ブランクに局部的な熱処理を施してブランク内に強度差を付与することで成形性を改善する方法については、特許文献2にも記載されている。この方法では、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板について、プレス成形を行う前のブランク状態において、ブランクのうちパンチ肩部が接触することになる領域よりも外側の部分について部分的に復元処理して軟化させ、縮みフランジ変形の変形抵抗を低下させることによって絞り成形性を向上させている。パンチ肩部が接触することになる領域より外側部分のうち、プレス成形後にヘム曲げ加工されることになる部分も復元処理する部分に含めることにより、プレス成形後のヘム曲げ性を向上させることについても記載されている。
【0020】
しかしながら、この方法は、しわ押さえ部からダイとパンチで構成された空間に材料を流入させて成形する絞り成形を前提としている。従って、ブランク周囲をビードで固定して張出し成形する場合には、パンチ肩部の外側領域を復元軟化させることによって、ビードで破断する可能性があるため逆に成形性を低下させることになる。また、前述のようにパンチが複雑な形状を有する場合には、パンチ面内におけるブランクの不均一なひずみ分布を解決することはできない。また、前述の加熱部と非加熱部の温度差によって生じる熱ひずみによってブランクが変形する、いわゆる熱変形の問題も解決できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第3393185号公報
【特許文献2】特開2009−161851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
以上のように、従来提案されている技術では、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の成形性を向上させる一定の効果は望めるものの、ブランクの過度な変形なしに、プレス成形性と表面品質を改善するための手段であるプレス成形後の成形品のひずみ分布の均一化、ならびに、プレス成形後に成形品の周辺部を180°に曲げる加工であるヘム曲げ加工性の回復を達成することは困難であった。
また、上記課題の他にも、自動車ボデーパネルのプレス成形工程において、ブランクをプレス機に投入する際には、通常、ブランクが積み重ねられたブランク山の側面上部に向けられた複数のノズルから空気を噴射し、この空気圧によって一番上のブランクを剥がす方法が用いられるが、ブランクには防錆や潤滑性付与の目的で油が塗られていることが多く、この油がブランク同士の間に存在することで吸着力が作用し、うまく分離することができないという分離不良の問題があった。
本発明は、これらの課題を解決するためのプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法、ならびに、これを用いたプレス成形体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、前述の課題を解決するべく種々の実験・検討を重ねた結果、時効硬化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金圧延板からなるブランク、すなわち、溶体化処理後に常温時効、或いは、溶体化処理後に人工時効又は常温時効と人工時効を組み合わせた時効処理により亜時効状態にあるAl−Mg−Si系アルミニウム合金製ブランクに着目した。その結果、従来プレス成形によって加わる張力が小さく、ほとんど伸ばされることのなかった部位であるパンチ頭部と、この面の外側周囲を取り囲むように連なった面であるパンチ縦壁部との間に屈曲部として存在するパンチ肩部より内側の領域を、プレス方向に対して垂直な面に投影したブランクの領域Aに注目した。そして、領域Aのうちの任意の領域Xを復元領域と定めるとともに、復元領域以外のブランク全体を非復元領域と定め、プレス成形前に該復元領域に対して、常温時効により徐々に生成した微細な析出物の溶融温度以上の温度で加熱するとともに、非復元領域は溶解温度未満の温度で加熱し、次いでブランク全体を常温まで冷却することで、領域Xのみの耐力値を低下させ、従来よりも小さい張力で塑性変形するようにすることで、当該部位を積極的に伸ばす一方、ひずみが集中して破断する危険性が高かった部位のひずみの上昇を緩和し、結果的にブランク全体のひずみ分布を均一化させることができることを見出した。
【0024】
部品形状や用途によって、復元領域にシワ押さえ部の縮みフランジ変形領域やヘム曲げ部を適宜加えることで、深絞り性やヘム曲げ性が向上することを見出した。また、復元処理における加熱到達温度や昇温速度、保持時間、加熱終了後の冷却速度等の条件を適切に選択することで、復元領域を極めて短時間で効率的に軟化させるとともに、非復元領域は軟化させず、かつ、高い塗装焼付硬化性が得られることを見出した。更に、復元領域と非復元領域の加熱到達温度の差を適切な範囲で選択することによって、過度な熱変形を抑制するとともに、僅かな熱変形をブランクに与えることで、ブランクを積み重ねた時にブランク間に僅かな隙間ができることによって、材料分離性が向上することを見出した。
【0025】
ここで復元とは、溶体化処理後に急冷して常温状態で合金元素を過飽和に固溶させた後に、常温又はこれより若干高い温度で保持しておくと、マトリックス中にMgとSiよりなる微細析出物である低温クラスタが徐々に生成することによって強度が上昇する、いわゆる時効硬化したアルミニウム合金圧延板について、前述の保持温度より高い温度に短時間加熱することにより、常温で生成した低温クラスタを再固溶させ、更にその直後に急冷することによって過飽和状態とすることで材料の強度を低下させる現象を意味する。そして、このような現象を生起させるための急速加熱とその後の急冷の一連の処理を復元処理と称する。
【0026】
本発明は請求項1において、時効硬化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金から成り、ダイとホルダーで周囲を挟み、相対的にパンチをダイに押し込むことによって所定の形状に成形されるプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法であって、
パンチ成形面のうち、プレス方向に対してほぼ垂直な面であるパンチ頭部と、この面の外側周囲を取り囲むように連なった面であるパンチ縦壁部との間に屈曲部として存在するパンチ肩部より内側の領域を、プレス方向に対して垂直な面に投影したブランクの領域Aのうち任意の領域Xを含む領域を復元領域として定めるとともに、当該復元領域以外のブランク全体を非復元領域として定め、
プレス成形前にブランク全体を加熱する加熱工程と、その後にブランク全体を100℃以下まで冷却する冷却工程とを含む復元処理が施され、前記加熱工程において、加熱到達温度を前記復元領域では200℃以上300℃以下とし前記非復元領域では100℃以上200℃未満とし、前記復元領域において、加熱工程では100℃から加熱到達温度までの昇温速度を5℃/秒以上とし当該加熱到達温度での保持時間を20秒以下とし、冷却工程では100℃までの冷却速度を5℃/秒以上とし、復元処理全体を通してブランクが100℃以上に滞留する時間を2分以内とすることで、前記領域Xのみの耐力値を低下させてブランク内に強度差を付与することを特徴とするプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法とした。
【0027】
本発明の請求項2では請求項1において、前記復元領域と非復元領域における加熱到達温度の差を50℃以上200℃以下とした。
【0028】
本発明の請求項3では請求項1又は2において、ブランク全体に到達温度100℃以上200℃未満の予加熱工程を予め施した後に、前記復元領域にのみ加熱到達温度200℃以上300℃以下の加熱工程を施すものとした。
【0029】
本発明の請求項4では請求項1又は2において、前記復元領域と非復元領域を加熱する加熱体の温度をそれぞれ制御しつつ、当該加熱体をブランクに接触させることによって両領域を同時に加熱するものとした。
【0030】
本発明の請求項5では請求項1〜4のいずれかにおいて、前記ブランクの領域Aの面積(S)に対する前記領域Xの面積(S)の面積比を、25%以上100%以下とした。
【0031】
本発明の請求項6では請求項1〜5のいずれかにおいて、前記ブランクの復元領域が、ダイとホルダーで挟まれるシワ押さえ部から最も近いパンチ肩部より外側の領域をプレス方向に対して垂直な面に投影したブランクの領域Cのうち、縮みフランジ変形部である領域Yも含むものとした。
【0032】
本発明の請求項7では請求項1〜6のいずれかにおいて、前記ブランクの復元領域が、プレス成形後にヘム曲げ加工を受ける領域であるヘム曲げ部も含むものとした。
【0033】
本発明の請求項8では請求項1〜7のいずれかにおいて、前記Al−Mg−Si系アルミニウム合金が溶体化処理されており、この溶体化処理後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金に対して、復元処理が施されるまでに常温時効又は100℃以下の人工時効、或いは、これらの組み合わせによる時効処理が行われることによって、時効硬化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金とした。
【0034】
本発明の請求項9では請求項1〜8のいずれかにおいて、前記Al−Mg−Si系アルミニウム合金を、Mg:0.2〜1.5mass%、Si:0.3〜2.0mass%を含有し、Fe:0.03〜1.0mass%、Zn:0.03〜2.5mass%、Cu:0.01〜1.5mass%、Mn:0.03〜0.6mass%、Zr0.01〜0.4mass%、Cr0.01〜0.4mass%、Ti0.005〜0.3mass%及びV:0.01〜0.4mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金とした。
【0035】
本発明の請求項10では請求項1〜9のいずれか一項に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法によって製造されたプレス成形用アルミニウム合金製ブランクにプレス成形を施すことによって、シワ押さえ部より内側の製品となる部分に2%以上のひずみが導入されていることを特徴とするアルミニウム合金製プレス成形体とした。
【0036】
本発明の請求項11では請求項10において、170〜185℃で20〜30分間の条件で人工時効硬化処理を施すことによって前記成形体の耐力値を190MPa以上とした。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、熱変形が小さく強度差を付与したプレス成形用アルミニウム合金製ブランクを得ることができる。このブランクを使用することで、プレス成形で導入されるひずみが均一化し、冷延鋼板に比べて劣っていたAl−Mg−Si系アルミニウム合金圧延板のプレス成形性が著しく向上する。またひずみ集中部の材料表面に生じる肌荒れやリジングマーク等の表面欠陥を抑制することができ、パネルの設計及びデザインの自由度が著しく向上する。更に、復元処理における加熱到達温度や昇温速度、保持時間、加熱終了後の冷却速度等の条件を適切に選択することで、Al−Mg−Si合金の優れた特徴である高い塗装焼付硬化性を達成することができる。その結果、パネルの耐力値で190MPa以上の高強度が得られ、材料の薄板化により軽量化とコストダウンが可能となる。
【0038】
本発明では、プレス成形後にヘム曲げを施すことになるヘム曲げ部にも復元処理を施すことで、時効硬化によって低下したヘム曲げ性を著しく回復することが可能となる。
【0039】
本発明では、従来、プレス成形によって加わる張力が小さいためほとんど伸ばされることのなかったパンチ頭部の材料が伸ばされて周囲へ流出する。この流出分により、ブランクのシワ押さえ面からの流入量を削減することができる。その結果、ブランクサイズを小さくすることができ、材料費を低減することが可能となる。
【0040】
本発明のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクでは、僅かな熱変形を与えることで重ねた際に隙間ができて材料分離性が向上する。また、アルミニウム合金圧延板は鋼板に比べて縦弾性係数が小さいので、プレス成形後における板内の残留応力の弾性回復(スプリングバック)量が大きく、形状凍結性の確保が困難であった。しかしながら、復元処理によって材料強度を低下させておくことで残留応力も小さくなるため、副次的に形状凍結性も向上することが期待できる。そして何より、この復元処理はプレス成形前の前工程又は別工程で実施できるため、プレス成形自体は従来の冷間プレス設備で実施可能であり、従来の生産効率を低下させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】線膨張における復元領域と非復元領域の温度差ΔTと熱応力σの関係と、比例限度σとの関係を示したグラフである。
【図2】復元処理における予加熱方式の加熱処理に用いた加熱装置の正面図である。
【図3】復元処理における同時加熱方式の加熱処理に用いた加熱装置の正面図である。
【図4】円筒張出し成形又はハット曲げ成形における力の釣合いを説明するために示した鉛直断面の模式図である。
【図5】成形品縦壁部に加わる張力(T)と成形品頭部に加わる張力(T)の比率が、成形品頭部と成形品縦壁部がなす角度であるなつき角とパンチ肩部と成形品肩部の間に発生する摩擦係数によって変化することを示すグラフである。
【図6】本発明例1における円筒張出し成形試験を説明するための模式図である。
【図7】本発明例2における2段金型プレス成形試験を説明するための模式図である。
【図8】本発明例1でブランクの復元加熱処理に用いた加熱冶具の平面図と正面図である。
【図9】本発明例1において、復元処理を施したブランクの復元領域と非復元領域から小型引張試験片を採取する位置を示す平面図である。
【図10】本発明例1において採取した小型引張試験片の形状及び寸法を示す平面図である。
【図11】本発明例1において、復元処理を施したブランクの反り量を測定する方法を説明するための模式図である。
【図12】本発明例1において、復元処理を施したブランクの反り量の測定結果の一例を示すグラフである。
【図13】本発明例1における材料分離試験の方法を説明するための平面図と正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明で用いるプレス成形用アルミニウム合金製ブランクは、基本的にはAl−Mg−Si系アルミニウム合金圧延板であって、高温で溶体化処理された後に常温時効により時効析出した状態にあるもの、或いは、高温で溶体化処理された後に人工時効又は常温時効と人工時効とを組み合わせた時効処理を施して亜時効状態にあるものである。以下に、本発明について主要な項目ごとに分けて詳細に説明する。
【0043】
<アルミニウム合金板の成分組成>
本発明で用いるアルミニウム合金板は、基本的にはAl−Mg−Si系合金であれば良く、その具体的な成分組成は特に制約されるものではないが、請求項9で規定するような成分組成の合金とするのが好ましい。すなわち、Mg:0.2〜1.5mass%(以下、単に「%」と記す)、Si:0.3〜2.0%を含有し、Fe:0.03〜1.0%、
Zn:0.03〜2.5%、Cu:0.01〜1.5%、Mn:0.03〜0.6%、Zr:0.01〜0.4%、Cr:0.01〜0.4%、Ti:0.005〜0.3%及びV:0.01〜0.4%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を素材とするのが好ましい。
【0044】
このような成分組成の限定理由について以下に説明する。
【0045】
Mg:
Mgは本発明で対象としている系の合金で基本となる合金元素であって、Siと共同して強度向上に寄与する。Mg含有量が0.2%未満では塗装焼付時に析出硬化によって強度向上に寄与するβ”相の生成量が少なくなるため、十分な強度向上が得られない。一方、1.5%を超えると、粗大なMg−Si系の金属間化合物が生成され、成形性、特に曲げ加工性が低下する。従って、Mg含有量を0.2〜1.5%の範囲内とした。最終板の成形性、特に曲げ加工性をより良好にするためには、Mg含有量を0.3〜0.9%の範囲内とするのが好ましい。
【0046】
Si:
Siも本発明の系の合金で基本となる合金元素であって、Mgと共同して強度向上に寄与する。また、Siは、鋳造時に金属Siの晶出物として生成され、その金属Si粒子の周囲が加工によって変形されて溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなるため、再結晶組織の微細化にも寄与する。Si含有量が0.3%未満では上記効果が十分に得られない。一方、2.0%を超えると粗大なSi粒子や粗大なMg−Si系の金属間化合物が生じて、成形性、特に曲げ加工性の低下を招く。従って、Si含有量を0.3〜2.0%の範囲内とした。プレス成形性と曲げ加工性とのより良好なバランスを得るためには、Si含有量を0.5〜1.4%の範囲内とするのが好ましい。
【0047】
Mg及びSiが、Al−Mg−Si系アルミニウム合金として基本となる合金元素であるが、それ以外にFe:0.03〜1.0%、Zn:0.03〜2.5%、Cu:0.01〜1.5%、Mn:0.03〜0.6%、Zr:0.01〜0.4%、Cr:0.01〜0.4%、Ti:0.005〜0.3%及びV:0.01〜0.4%から選択される1種又は2種以上を含有させることとする。これらの添加理由と添加量の限定理由は次の通りである。
【0048】
Fe:
Feは、一般のアルミニウム合金において、通常0.03%未満の不可避的不純物として含有される。一方、Feは強度向上と結晶粒微細化に有効な元素であり、これらの効果を発揮させるために、Feを0.03%以上積極的に添加しても良い。但し、その含有量が0.03%未満では上記効果が十分に得られず、一方、1.0%を超えると、成形性、特に曲げ加工性が低下するおそれがある。したがって、Feを積極的に添加する場合のFe量は0.03〜1.0%の範囲内とした。
【0049】
Zn:
Znは塗装焼付硬化性向上を通じて強度向上に寄与するとともに、表面処理性の向上に有効な元素である。Znの添加量が0.03%未満では上記の効果が十分に得られず、一方、2.5%を超えると成形性及び耐食性が低下する。従って、Zn含有量を0.03〜2.5%の範囲内とした。
【0050】
Cu:
Cuは成形性向上及び強度向上のために添加される元素であり、このような成形性向上及び強度向上の目的から0.01%以上添加される。しかしながら、Cu含有量が1.5%を超えると耐食性(耐粒界腐食性、耐糸錆性)が劣化するので、Cu含有量は1.5%以下に規制することとした。なお、強度向上を重視する場合は、Cu含有量を0.4%以上とするのが好ましく、また、より耐食性の改善を図る場合は、Cu含有量を1.0%以下とするのが好ましい。更に耐食性を重視する場合はCuを積極的に添加せず、Cu含有量を0.01%以下に規制することが好ましい。
【0051】
Mn、Zr、Cr:
これらの元素は、強度向上や結晶粒微細化、或いは、塗装焼付硬化性の向上に有効である。Mnの含有量が0.03%未満、或いは、Zr、Crの含有量がそれぞれ0.01%未満では、上記の効果が十分に得られない。一方、Mnの含有量が0.6%を超えるか、或いは、Zr、Crの含有量がそれぞれ0.4%を超えると、上記効果が飽和するばかりでなく多数の金属間化合物が生成して、成形性、特にヘム曲げ性に悪影響を及ぼすおそれがある。従って、Mn含有量を0.03〜0.6%の範囲内とし、Cr、Zrの含有量をそれぞれ0.01〜0.4%の範囲内とした。
【0052】
Ti、V:
Tiは鋳塊組織の微細化による強度向上や防食に有効な元素であり、また、Vは強度向上や防食に有効な元素である。Tiの含有量が0.005%未満では上記効果が十分に得られず、一方、0.3%を超えるとTi添加による鋳塊組織微細化と防食効果が飽和する。Vの含有量が0.01%未満では上記効果が十分に得られず、一方、0.4%を超えるとV添加による防食効果が飽和する。これらTiやVの上限を超える場合には、粗大なTi系又はV系の金属間化合物が多くなり、成形性やヘム加工性の低下を招く。従って、Ti含有量を0.005〜0.3%の範囲内とし、V含有量を0.01〜0.4%の範囲内とした。
【0053】
また、一般のアルミニウム合金においては、鋳塊組織の微細化のために前述のTiと同時にBを添加することもあり、BをTiとともに添加することによって、鋳塊組織の微細化と安定化の効果が一層顕著となる。本発明においては、Tiとともに500ppm以下のBを添加することが許容される。
【0054】
<Al−Mg−Si系アルミニウム合金圧延板の製造方法>
Al−Mg−Si系アルミニウム合金圧延板は、通常の方法により製造することができる。
具体的には、所定の成分に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。ここで通常の溶解鋳造法としては、例えば半連続鋳造法(DC鋳造法)や薄板連続鋳造法(ロールキャスト法等)などを用いることができる。
次いで、アルミニウム合金鋳塊に480℃以上の温度で均質化処理を施す。均質化処理は溶湯凝固時の合金元素のミクロ偏析を緩和し、併せてMn、Crをはじめとする各種の遷移元素を含む場合には、これらを主成分とする金属間化合物の分散粒子をマトリクス中に均一かつ高密度に析出させるために必要な工程である。均質化処理の加熱時間は、通常は1時間以上とし、また経済的な理由から48時間以内に終了させるのが通常である。但し、この均質化処理における加熱温度は、熱延前に熱延開始温度まで加熱する加熱処理温度に近いことから、熱延前加熱処理を兼ねて均質化処理を行なうことも可能である。この均質化処理工程の前又は後に適宜面削を施した後、300〜590℃の温度範囲で熱間圧延を開始し、その後冷間圧延を施すことにより所定の板厚のアルミニウム合金圧延板を製造する。熱間圧延の途中、熱間圧延と冷間圧延の途中、或いは、冷間圧延の途中において、必要に応じて中間焼鈍を行ってもよい。
【0055】
次に、冷間圧延後のアルミニウム合金圧延板について溶体化処理を行う。この溶体化処理は、MgSi、単体Si等をマトリックス中に固溶させ、これにより塗装焼付硬化性を付与することにより、プレス成形後に行われる塗装焼付処理後の強度向上を図るための重要な工程である。またこの工程は、MgSi、単体Si粒子等の固溶により第2相粒子の分布密度を低下させて、延性とヘム曲げ性を向上させるためにも寄与し、さらには再結晶により良好な成形性を得るためにも重要な工程である。これらの効果を発揮するためには、480℃以上の処理が必要である。なお、溶体化処理温度が590℃を超えると共晶融解が生じる虞があるため、590℃以下とする。
【0056】
ここで、溶体化処理はコイル状に巻き取った冷間圧延板を、加熱帯と冷却帯を有する連続焼鈍炉に連続的に通過させることによって、効率的に行うことができる。このような連続焼鈍炉による処理では、アルミニウム合金圧延板は加熱帯を通過する際に480℃以上590℃以下の高温に昇温され、その後冷却帯を通過する際に急冷される。このような一連の処理により、本発明で対象とする合金の主要合金元素であるMgとSiは、高温で一旦マトリックス中に固溶し、続いて急冷することによって室温において過飽和に固溶した状態となる。
【0057】
Al−Mg−Si系アルミ合金圧延板に高い塗装焼付硬化性を付与する場合は、溶体化処理して急冷後に60〜100℃程度の温度で1〜24時間程度保持する予備時効処理を行う。これによって、前述した常温で生成する低温クラスタとは異なる、常温よりもやや高い温度で生成するMgとSiからなる微細析出物である高温クラスタを生成しこれを成長させることができる。この高温クラスタは、その後の塗装焼付処理(例えば、約170℃で約20分間の条件で行われる加熱)によって、析出強化相であるβ’’相に遷移することで時効硬化し、耐力値が190MPa以上に向上する。
【0058】
<溶体化処理から復元処理までの間の時効>
復元処理によってブランクの復元領域と非復元領域とに強度差を付与するためには、溶体化処理後の常温放置期間中に常温時効(自然時効)によってある程度の量の低温クラスタが生成されていることが必要である。このような低温クラスタが生成されていなければ、その後の復元処理において復元現象が生じず、耐力値の低下が実現されない。
【0059】
そこで、溶体化処理後には、復元処理を行なうまでの間に、1日以上の常温放置が必要である。なお、溶体化処理からプレス成形までの間の常温放置期間は、10日以上が一般的である。また、この常温時効は初期において急速に進行するが半年程度経過するとそれ以上は進行し難くなることから、復元加熱処理前の常温放置期間の上限は特に規定しない。ここで常温とは、具体的には0〜50℃の範囲内の温度を意味する。
【0060】
以上の説明では、溶体化処理後の時効として常温時効について述べた。しかしながら、本発明においては、早期に低温クラスタを生成することを目的として、溶体化処理された後に人工時効する場合や、常温時効と人工時効を組み合わせて行なう場合でも、その後の復元処理によりブランクに強度差を付与することができる。
【0061】
但し、人工時効の温度は100℃以下とし、人工時効処理後にAl−Mg−Si系アルミニウム合金圧延板が亜時効状態となっていなければならない。人工時効の温度が100℃を超える場合、或いは、100℃以下の条件であっても長時間人工時効を行なってピーク時効又はこれを過ぎた過時効状態となる場合には、MgとSiからなる粗大な析出物が析出するため、MgとSiの固溶量が減少し塗装焼付硬化性が著しく低下してしまう。ここで、Al−Mg−Si系アルミ合金圧延板に高い塗装焼付硬化性を付与する場合は、前述の予備時効処理後に人工時効を施す必要がある。高温クラスタが生成できるのは、溶体化処理によってMgとSiがマトリックス中に固溶することで生成する原子空孔が十分に存在している状態、つまり原子空孔密度が高い状態であり、常温保持によって低温クラスタが生成した後では、高温クラスタは生成できないからである。
【0062】
本発明では、上述のような時効を行って、次の復元処理を行う直前における材料強度として、耐力値が110MPa以上であることが望ましい。耐力値が110MPa未満の場合には、引続いて行われる復元処理において復元する部分での強度低下が不充分となるため、充分な強度差を付与することができない。
【0063】
<復元処理>
次に、本発明の要点である復元処理について説明する。復元処理とは、時効硬化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金圧延板のある任意に選択した領域を、所定の温度まで加熱し、次いで常温まで冷却する処理を言い、復元による強度低下のメカニズムは以下のように説明される。
【0064】
すなわち、溶体化処理後の常温放置中にマトリックス中ではMgとSiよりなる微細析出物である低温クラスタが生成・成長し、これにより材料強度が増大している。このような状態の材料を所定の温度に短時間加熱すると、熱的に不安定な低温クラスタは容易に再固溶して消滅する。これにより、常温まで冷却した後の材料強度が、加熱する前に比べて低下するのである。なお、材料のヘム曲げ性は、時効硬化により材料強度が上昇するにつれて低下するため、復元することによってヘム曲げ性も回復される。
【0065】
<復元領域の加熱処理条件>
本発明では復元処理の加熱処理条件を次のように規定した。すなわち、復元領域の加熱到達温度は200℃以上300℃以下の範囲とした。加熱到達温度が200℃よりも低いと、低温クラスタが短時間で溶解する量が少ないため復元による強度低下が小さく、ヘム曲げ性もほとんど回復しない。一方、加熱到達温度が300℃を超えると、短時間のうちにマトリックス中のMgとSiが粗大な析出相であるβ’相として析出してしまいMgとSiの固溶量が低下するため、その後の人工時効硬化処理での強度上昇が著しく低下する。つまり、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の優れた特徴である塗装焼付硬化性が著しく低下してしまう。
【0066】
また、加熱到達温度200℃以上300℃以下の範囲においては、加熱到達温度が高いほど低温クラスタが効率的に再固溶するため強度低下量も大きくなる。しかしながら、材料の延性も低下するため、強度差付与と延性低下のバランスを考慮し、パネル形状ごとに加熱到達温度を最適に選択する必要がある。
【0067】
ここで、復元領域の加熱到達温度は、さらにその加熱部における強度の経時変化の速度に応じて、二つの温度範囲に分けることが出来る。加熱到達温度が250℃以上300℃以下の場合は、数秒の短時間のうちにMgとSiからなる低温クラスタが十分に固溶して復元が完了し、所定の冷却速度で常温まで冷却した直後においては、加熱部と非加熱部との間に大きな強度差を付与することができる。しかしながら、この温度域で復元加熱を行った場合は、冷却後に多くの原子空孔が常温で残存する。この原子空孔は復元処理を行った部分における常温保持中のMgとSiの拡散を助長し、常温における低温クラスタの生成を早め、この部分で一旦低下した耐力値は、常温にて数日間の放置で急速に復元処理前の状態に戻ってしまう。この原子空孔密度は加熱到達温度の増大につれて増加し、原子空孔密度の増大とともに常温での耐力値の増加が早まる。このような急速な耐力値の回復は、事前に最適化されたプレス成形条件との不適合の要因となり、成形不良を生じる可能性が高くなるため、安定して良好な成形品を製造するためには、復元処理後できるだけ短期間でプレス成形およびヘム曲げ加工することが好ましい。具体的には3日以内が望ましい。
【0068】
これに対して、200℃以上250℃未満の温度範囲において復元加熱処理を行った場合には、耐力値の低下量が少なくなるが、冷却後常温における原子空孔密度が充分に低く、復元処理後の常温保持期間での経時的な耐力値の増加が充分に小さくなる。そのため、このような温度範囲内で復元処理を行った場合には、数日間常温で保持した場合でも安定して良好な成形品を製造することが可能となる。したがって、生産工程のスケジュールの融通性を重視する場合には、復元処理後にブランクを常温で数日間保持してもプレス成形を行うことが可能となるように、復元処理の加熱到達温度を200℃以上250℃未満とすることが好ましい。なお、復元処理からプレス成形までの常温保持期間は10日以内が望ましい。
【0069】
また、100℃から加熱到達温度までの昇温速度はできるだけ速い方が好ましく、5℃/秒以上とする。5℃/秒未満になると、高温クラスタの生成、成長を経て、これが析出強化相であるβ’’相に遷移してしまうことで、本来の目的とは逆に強度が上昇してしまう。また、延性が低下し、ヘム曲げ性も劣化してしまう。また、生産性の観点からもできるだけ速い方が好ましく、10℃/秒以上が好ましい。また、同じ理由で、加熱到達温度に到達後の保持時間はできるだけ短い方が好ましく、20秒以下とする。加熱領域を均一に加熱できれば、保持時間を0秒(滞留させずに所定温度に到達後、直ちに冷却する)としてもよい。
【0070】
<非復元領域の加熱処理条件>
非復元領域を加熱する主な目的は、復元領域と非復元領域の加熱到達温度の差を極力小さくし、過度な熱変形を抑制することにある。しかしながら、復元処理の本来の目的であるブランクに強度差を付与するためには、非復元領域は強度低下が無いか、強度低下が極力小さいことが求められる。そこで、非復元領域の加熱到達温度は、100℃以上200℃未満と規定した。200℃未満であれば、低温クラスタが短時間で殆ど溶解しないため強度低下も殆ど起こらない。また、100℃以上であれば、復元領域の加熱到達温度との差が過大にならないからである。しかしながら、上記の温度範囲内であっても、その温度で長時間保持すると低温クラスタの溶融が生じて軟化し、或いは、それを過ぎて時効硬化が生じ強度が上昇して伸びが低下するため、復元処理全体を通してブランクが100℃以上に滞留する時間を2分以内とする。100℃未満であれば上記のβ’’相への遷移は生じず、時効硬化の進行も極めて遅いため、その後は徐冷しても機械的性質に影響はないためである。
【0071】
<復元領域と非復元領域の加熱到達温度の差>
本発明では、復元処理における復元領域と非復元領域の加熱到達温度の差は、50℃以上200℃以下とするのが好ましい。非復元領域を加熱する目的は、復元領域と非復元領域の加熱到達温度の差を適切な範囲で選択することによって、過度な熱変形を抑制するとともに、僅かな熱変形をブランクに与えることで、ブランクを積み重ねた時にブランク間に僅かな隙間ができることによって、材料分離性を向上させることにある。ここで言う熱変形とは、加熱時の復元領域と非復元領域の温度差による熱膨張差によって、復元領域と非復元領域の境界に熱ひずみが生じ、ブランクに発生する反りやねじれ等の変形を指す。
実際にプレス成形する成形品及びブランクの形状やサイズは様々であるため、ここでは単純化して1次元の線膨張として取り扱った考え方を以下に説明する。
【0072】
長さLの棒を加熱して温度上昇がΔT℃である場合、材料の線膨張係数をαとすれば、棒の長さ増加量はΔL=αLΔTと表せる。例えば、この棒の両端が剛体壁に拘束されている場合、棒は伸びることができないため軸方向に圧縮ひずみε=αΔTを受けた状態になる。この圧縮ひずみが、熱ひずみである。弾性変形域では、この熱ひずみεと縦弾性係数Eからフックの法則σ=Eεによって、加熱後の熱応力σ=αEΔTを求めることができる。この熱応力σが弾性変形の限界、つまり、応力−ひずみ線図における比例限度σを超えると、塑性変形し、いわゆる熱変形が残ることになる。
【0073】
本発明においては、復元領域であるブランクの中央付近を非復元領域である周囲よりも高い温度に加熱することで復元領域が熱膨張し、復元領域と非復元領域の境界に熱応力が発生する。実際は、この復元領域の周囲は非復元領域によって囲まれており、復元領域の熱膨張で非復元領域が周囲に伸ばされることによって、復元領域と非復元領域の境界に発生する熱応力は、上記の剛体壁に拘束された棒の例の値よりも小さいものとなる。
【0074】
そこで、最も熱応力が大きくなる条件である、復元領域と非復元領域の変位がない状態において、熱応力σによって塑性変形が開始する温度差ΔTを次のように求めた。材料の温度が増加すると強度や縦弾性係数Eが減少することが知られており、上記成分組成範囲のAl−Mg−Si系アルミニウム合金の縦弾性係数Eは、常温で約66.4GPa、復元領域の最低温度である200℃で約56.8GPa、復元領域の最高温度である300℃で約47.5GPaである。一方、比例限度σについては、各温度でJIS5号試験片を用いた引張試験を行い、得られた応力−ひずみ線図から求めたところ、常温で約90MPa、復元領域の最低温度である200℃で約73MPa、復元領域の最高温度である300℃で約70MPaであった。
【0075】
これらの値を用いて復元領域と非復元領域の温度差ΔTと熱応力σの関係と、比例限度σとの関係を求めた結果を図1に示す。復元領域の最低温度である200℃に加熱された復元領域が受ける熱応力は、温度差が約50℃(非復元領域が約150℃)で比例限度に達する。一方、復元領域の最高温度である300℃に加熱された復元領域が受ける熱応力は、温度差が約58℃で比例限度に達するが、非復元領域の加熱到達温度は100℃以上200℃未満としているため、少なくとも温度差は100℃より大きくなる。よって、ブランクに僅かな熱変形を付与するために最低限必要な温度差は50℃以上となるから、復元処理における復元領域と非復元領域の加熱到達温度の差は50℃以上とするのが好ましい。また、加熱到達温度の差の上限は、復元領域の最高温度300℃と非復元領域の最低温度100℃の差である200℃以下が好ましい。
【0076】
<冷却処理条件>
加熱処理後の冷却における100℃までの冷却速度はできるだけ速い方が好ましく、5℃/秒以上とする。5℃/秒未満になると、高温クラスタの生成、成長を経て、これが析出強化相であるβ’’相に遷移してしまうことで、本来の目的とは逆に強度が上昇してしまう。また、延性が低下し、ヘム曲げ性も劣化してしまう。また、生産性の観点からもできるだけ速い方が好ましく、10℃/秒以上が好ましい。なお、冷却速度の上限は特に規定しないが、水槽に浸漬する方法であれば1000℃/秒程度の冷却速度が得られる。
【0077】
<復元処理の加熱方法>
本発明の復元処理は、大きく分けて2つの方式が好適に用いられる。1つは、予めブランク全体に復元温度未満の予加熱を施した状態で、復元領域にのみ更に復元温度で加熱する予加熱方式である。もう一つは、復元領域と非復元領域に相当する加熱体の温度を個別に制御して、該加熱体をブランクに押し付けることによって両領域を同時に加熱する同時加熱方式である。
【0078】
予加熱方式の加熱方法としては、まずブランク全体を到達温度100℃以上200℃未満に加熱することが目的となる。これは短時間では復元しない温度での加熱のため、多少昇温速度が遅くても許容されるが、生産性の観点からはできるだけ昇温速度が速い方法を選択するのが望ましい。従って、ヒーター等で加熱した金属板や金属ブロックを接触・加圧して伝熱する方法や、誘導加熱、赤外線加熱、通電加熱等の方法を用いるのが好ましい。この他にも、100℃以上に昇温した時点から冷却開始までの時間を2分以下にできるならば、炉加熱や熱風加熱等の公知の加熱手段を適宜利用してもよい。
【0079】
次に、復元領域のみを到達温度200℃以上300℃以下に加熱する方法としては、加熱したい部分の形状に合わせて加工された金属板や金属ブロック(アルミニウム合金や銅合金など)をヒーター等で加熱して、加熱したい部分に接触・加圧して伝熱させる方法が最も簡便である。この他に、アルミニウム板よりも熱放射率(熱吸収率)が高いカーボン等の黒体を加熱したい部分の形状に合わせて加工し、これを加熱したい部分に貼り付けて赤外線加熱することで、黒体を貼り付けた領域だけ瞬時のうちに高温に加熱することもできる。
【0080】
ここで、予加熱方式の具体例を説明する。図2に示すように、加熱装置としては、ボルスタ(22)上にヒーターを内蔵した押付用下型(25)を、スライドプレート(21)には同じくヒーターを内蔵した押付用上型(24)を取り付けた油圧プレス機を使用する。押付用下型(25)はクッションピン(23)によって支持され、プレスする際はプレス機のクッション機構によって所定の押付け圧力を保てるようになっている。一方、押付用上型(24)は硬質断熱材(27)を介して取り付け、この押付用上型(24)の下面には復元領域のみ凸となり、非復元領域が凹となるように加工した金属板からなる加熱冶具(28)を取り付け、非復元領域には加熱冶具の凸部(31)より若干厚目の軟質断熱材(33)を取り付けてある。ヒーター(26)は不図示の温度制御装置によって、各々の設定温度を保つように制御され、押付用下型(25)と押付用上型(24)はこのヒーター(26)によって所定の温度に加熱される。押付用上型(24)の下面に取り付けられた加熱冶具(28)も伝熱によって加熱される。
【0081】
この加熱装置を使用して加熱する方法としては、図2の(ア)のように、まず、押付用下型(25)の上にブランク(4)を置き、ブランク(4)の上にブランク(4)よりもプレス方向の投影面積が大きく、プレス機の加圧によって割れ等が生じない程度の厚みがある硬質断熱材(27)を置く。プレス機のプレス機構によってスライドプレート(21)が下降し、加熱冶具(28)の凸部(31)と加熱冶具(28)の凸部(31)以外の下面に取り付けた軟質断熱材(33)がブランク(4)の上の硬質断熱材(27)に接触し、プレス機のクッション機構によって一定荷重で一定時間押し付けてブランク(4)を加圧することで、押付用下型(25)の熱がブランク(4)に伝わりブランク(4)が100℃以上200℃未満の所定の温度に加熱される。一方、押付用上型(24)の熱は硬質断熱材(27)によってブランク(4)へは伝わらない。これで、予加熱が完了する。
【0082】
次に、図2の(イ)のように、ブランク(4)の上に置いた硬質断熱材(27)を取り除いた後に、プレス機のプレス機構によってスライドプレート(21)が下降し、加熱冶具(28)の凸部(31)と加熱冶具(28)の凸部(31)以外の下面に取り付けた軟質断熱材(33)がブランク(4)に接触し、プレス機のクッション機構によって一定荷重で一定時間押し付けてブランク(4)を加圧することで、押付用上型(24)の熱が加熱治具(28)の凸部(31)を介してブランク(4)に伝わり、復元領域(29)のみが200℃以上300℃以下の所定の温度に加熱される。復元領域以外の領域(非復元領域)は、軟質断熱材(33)が接していることで押付用上型(24)の熱は伝わらない。これで、復元領域の加熱が完了する。
【0083】
上記のように、加熱冶具(28)の凸部(31)以外の下面には軟質断熱材(33)を取り付けることが好ましい。この軟質断熱材(33)が無い場合や、加熱冶具(28)の凸部(31)より薄い場合は、予加熱でブランク(4)の上に置かれた硬質断熱材(27)を加圧する範囲が加熱冶具(28)の凸部(31)のみとなり、ブランク(4)全体が均一に加熱されない。また、復元領域の加熱の際に、加熱冶具(28)の凸部(31)のエッジでブランク(4)に押付跡が付きやすくなる。また、軟質断熱材(33)ではなく硬質断熱材の場合、断熱材の厚みを厳密に管理することは難しいため、仮に断熱材の厚みが加熱冶具(28)の凸部(31)より厚いと、加熱冶具(28)の凸部(31)がブランクに接触できず、復元領域の加熱ができない可能性がある。よって、加熱冶具(28)の凸部(31)より若干厚目の軟質断熱材(33)を使用することで、加圧時に圧縮されることで厚みが加熱冶具(28)の凸部(31)と同じになり、均一な加圧と断熱の効果が得られる。
【0084】
また、同時加熱方式の具体例としては、図3のようにボルスタ(22)上に押付用下型(25)を、スライドプレート(21)にはヒーター(26)を内蔵した加熱体(30A、30B)を複数個取り付けられる押付用上型(24)を取り付けた油圧プレス機を使用する。この押付用下型(25)はクッションピン(23)によって支持され、プレスする際はプレス機のクッション機構によって所定の押付け圧力を保てるようになっており、上面には硬質断熱材(27)が取り付けてある。一方、押付用上型(24)は硬質断熱材(27)を介して取り付け、この押付用上型(24)の下面には加熱領域に合わせて加工した金属ブロックからなり、ヒーター(26)を内蔵した加熱体(30A、30B)を取り付けてある。ヒーターは不図示の温度制御装置によって、各々の加熱体(30A、30B)の設定温度を保つように制御される。
【0085】
この加熱装置を使用して加熱する方法としては、まず、押付用下型(25)の上の硬質断熱材(27)の上にブランク(4)を置く。プレス機のプレス機構によってスライドプレート(21)が下降し、加熱体(30A、30B)がブランク(4)に接触し、プレス機のクッション機構によって一定荷重で一定時間押し付けてブランク(4)を加圧することで、加熱体(30A、30B)の熱がブランク(4)に伝わりブランク(4)が所定の温度に加熱される。
【0086】
なお、伝熱加熱の場合のブランクへの加熱冶具又は加熱体の押付け圧力としては、効率良く熱伝達させるために0.1MPa以上が好ましく、0.5MPa以上では熱伝達効率はほぼ一定となるため、上限は特に設けない。これらの加熱は、板の状態で1枚1枚処理してもよいし、ブランキングプレスでコイル状のアルミ合金板素材を連続的に加熱処理および切断してもよい。
【0087】
<復元処理の冷却方法>
ブランクを所定の温度まで加熱した後に冷却する方法としては、ブランクよりも熱容量が大きく、更に水冷配管を内蔵した金属ブロックでブランクを挟んで伝熱によって冷却するダイクエンチ等の接触式が冷却速度と生産性の観点から最も有効である。この他に、浸漬やシャワーなどの水冷方式、ファン等の空冷方式等、公知の冷却手段を適宜利用及び組み合わせてもよい。
【0088】
<復元領域>
前述したプレス成形における課題を解決する手段の一つとして、成形パネルのひずみ分布の均一化が考えられるが、これを達成するために本発明者はブランクに加わる張力と材料の耐力値の関係に着目し、これに復元処理を利用することを検討した。
【0089】
図4は、円筒張出し成形、或いは、ハット曲げ成形における鉛直断面の中心線(13)から左側を示した模式図である。ブランク(4)は、ダイ(2)とホルダー(3)に周囲を挟まれ、パンチ(1)がダイ(2)側に相対的に押し込まれることによってハット断面形状に成形されるが、この時、ブランクには張力が発生する。ここで、パンチ頭部(5)に接して変形を受ける成形品頭部(10)と、パンチ肩部(6)とダイ肩部(9)によって変形させられる成形品縦壁部(12)との間でパンチ肩部(6)に接している成形品肩部(11)における成形中の張力の釣り合いを考えてみる。成形品頭部(10)方向に加わる張力をTP 、成形品縦壁部(12)方向に加わる張力をTWとすると、両者の関係は、T=Texp(−μθ)と表すことができる。TPは、パンチ肩部(6)と成形品肩部(11)の間の摩擦係数μと、成形品頭部(10)と成形品縦壁部(12)がなす角度、いわゆるなつき角θによって大きさが変化し、μとθの値が大きいほどTPは小さくなる。また、常にTP≦TWとなる。一般的に、成形が進むとなつき角θは大きくなるため、図5のようにTP/TWは成形が進むにつれて減少していく。よって、成形品頭部(10)方向に加わる張力は成形品縦壁部(12)方向に加わる張力に対して常に小さいため、成形品頭部(10)の伸ばされる量は成形品縦壁部(12)に比べて少ないのである。
【0090】
ここで、成形品頭部(10)である領域Aの耐力値を本発明のように部分的に低くした場合を検討する。成形品頭部(10)は、成形品縦壁部(12)よりも低い応力で塑性変形が開始されるため、ここに従来と同じ張力が加わった場合、伸ばされる量が増加する。つまり、相対的にパンチをダイに押し込むことによってブランクに与えられた変形のうち、成形品頭部(10)と成形品縦壁部(12)が伸ばされる量の割合の差が、従来に比べて小さくなり、成形品全体におけるひずみ分布が均一になるのである。よって、成形品縦壁部(12)のひずみが緩和されると共に、破断危険部である成形品肩部(11)のひずみが緩和されるのである。
【0091】
ここで、仮に復元処理によって耐力値が大きく低下した領域が成形品頭部(10)である領域Aを超えて、パンチ肩部(6)をプレス方向に対して垂直な面に投影した領域である領域Bまで存在する場合、成形品肩部(11)にひずみが集中し、従来よりも破断し易くなってしまう。そのため、復元処理によって耐力値を低下させる復元領域は、パンチ成形面(8)のうち、プレス方向に対してほぼ垂直な面であるパンチ頭部(5)と、この面の外側周囲を取り囲むように連なった面であるパンチ縦壁部(7)との間に屈曲部として存在するパンチ肩部(6)より内側の領域を、プレス方向に対して垂直な面に投影したブランク(4)の領域Aのうち、任意の領域Xとした。
【0092】
次に、前記パンチ頭部(5)を投影した領域Aの面積(S)に対する復元領域Xの面積(S)の比である面積率(S/S)は、25%以上100%以下とするのが好ましい。面積率25%とは、パンチ頭部(5)形状の縮尺率で表すとほぼ50%に当たる。復元領域Xがこの面積率(25%)より小さいと、パンチ頭部の伸ばされる量が少ないため、破断危険部(ひずみ集中部)におけるひずみの緩和量が小さく、ひずみ分布均一化の効果が小さい。また、耐力値の低下量が大きい場合には、変形がこの復元領域に集中し易くなるため、復元領域の境界で破断する可能性がある。一方、面積率100%を超えるということは、パンチ肩部(6)を投影した領域Bまで復元処理によって耐力値を低下させることを意味し、この場合には成形品肩部(11)にひずみが集中し、従来よりも破断し易くなってしまう。よって、前記パンチ頭部(5)を投影した領域Aの面積(S)に対する復元領域Xの面積(S)の比である面積率(S/S)は、25%以上100%以下とするのが好ましい。また、パンチ頭部に複雑な凹凸が存在し、成形が厳しい部位がある場合や、絞り成形あるいは張出し成形後に施される2次成形(リストライク等)で伸びが必要な部位がある場合には、その部位を復元領域から除外し、領域Xを複数に分割しても良い。ただし、領域Xの面積の総和は、上記の25%以上100%以下とするのが好ましい。更に好ましい面積率の範囲は、50%以上100%以下である。
【0093】
図7には、パンチ成形面(8)が複数の段を有するような複雑な形状をなす場合を示す。パンチ成形面平面視における図中にA−Aで示した中心からコーナー部までの鉛直断面(中心線(13)から左側)を成形順に(ア)(イ)(ウ)として示した。ブランク(4)の周囲をダイ(2)とホルダー(3)で挟んだ、いわゆるブランクホールド状態の(ア)から成形途中の(イ)の状態までは、主に1段目のパンチ肩部(6A)と2段目のダイ肩部(9B)の間でブランクを変形させることによって行われる。この時、1段目のパンチ肩部(6A)と成形品肩部(11A)の間には摩擦が生じることと、ブランクのなつき角が大きくなるため、1段目のパンチ肩部(6A)の内側の領域であるパンチ頭部(5)を投影した成形品頭部(10)に発生する張力は、成形品縦壁部(12)のそれよりも小さくなる。そのため、成形品縦壁部(12)のひずみが増大すると共に、成形品肩部(11A)のひずみが増大する。
【0094】
ここで、1段目のパンチ肩部(6A)より内側の領域を投影したブランク(4)の領域Aのうち、任意の領域Xを復元処理する。これにより、耐力値を低くすることによって、前述の作用によって成形品縦壁部(12)と成形品肩部(11A)のひずみが緩和される。このように、成形途中(イ)の時点で成形品縦壁部(12)と成形品肩部(11A)のひずみが緩和されていることによって、更に成形が進行してひずみが導入されても、従来に比べて破断し難くなる。
【0095】
次いで、(イ)の状態から成形が進行すると、ブランク(4)が2段目のパンチ肩(6B)に接触することでここに摩擦力が発生する。これにより、ブランク(4)の移動が抑制されるため、1段目のパンチ肩(6A)と接する成形品肩部(11A)と同様に2段目のパンチ肩(6B)と接する成形品肩部(11B)でもひずみが上昇し破断危険部となる。この場合、シワ押さえ面(14)からのブランク流入量を増やすことで、ひずみの上昇を緩和できる。このようなブランク流入量を増やす手段としては、通常はシワ押さえ力を小さくするか、或いは、ビード(15)の張力を低下することが挙げられる。
【0096】
しかしながら、シワ押さえ力が分割されている金型と分割クッション機構とを有するプレス機を用いなければ、部位ごとにシワ押さえ力を調整することはできない。そのため、通常のプレス機を使用する場合は、シワ押さえ面(14)全体に対してのシワ押さえ力を増減する方法を採用せざるを得ない。全体的にシワ押さえ力を低減すると、形状によっては成形品にシワが発生する等の不具合が発生する可能性がある。したがって、シワ押さえ面(14)全体に対するシワ押さえ力の増減によって、流入量バランスを調整することは困難である。
【0097】
また、ビード(15)の形状を部位ごとに変更することで、ブランクの流入量バランスを調整することも可能ではある。しかしながら、ビード(15)はシワ押さえ面(14)上で環状に繋がっているため、ビード形状を局部的に極端に変更した場合には、その部位でブランクが破断するような不具合が起こる可能性がある。このように、ビード形状を部位ごとに変更する方式では、形状変更の自由度が限られる。
【0098】
そこで、ダイ(2)とホルダー(3)で挟まれるシワ押さえ部に最も近いパンチ肩部(6B)より外側の領域(パンチ肩部6Bを含まない)をプレス方向に対して垂直な面に投影した領域Cのうち縮みフランジ変形部である領域Yについても復元領域とするのが好ましい。これにより、材料の変形抵抗が小さくなり復元領域Yだけブランクが流入し易くなる。このような復元領域Yによって、上記2段目のパンチ肩(6B)と接する成形品肩部(11B)におけるひずみの上昇を緩和することができる。また、復元軟化領域が増えると成形に要する加工力が小さくて済むため、1段目の成形品肩部(11A)周辺に加わる張力が小さくなり、この部分においてもひずみの上昇を緩和できる。
【0099】
ここで、領域Yを縮みフランジ変形部に限定した理由について述べる。縮みフランジ変形は、パンチ中心に向かって引っ張られる一方、周方向に圧縮されることでブランクの板厚が増加する変形である。この部位がビード(15)を通過する際には、成形中のシワ押さえ力が一定でも、板厚が増加することでこの部位のブランクの流入抵抗は成形の進行と共に増加する。そのため、この部位のパンチ肩部(6A、6B)には、縮みフランジ変形しない部位に比べて、より大きい引き込み力(パンチ荷重)が加わる。その結果、これらパンチ肩部(6A、6B)に対応する成形品肩部(11A、11B)において、ひずみの集中がより顕著になる。
【0100】
更に、前述のように復元処理は時効によって低下したヘム曲げ性を回復することができるため、自動車ボデーアウターパネル等の成形においては、復元領域にプレス成形後にヘム曲げ加工を受ける領域であるヘム曲げ部を含めるのが好ましい。
【0101】
<ブランクの塗油>
通常、アルミニウム合金板は、輸送中に傷付きや腐食を防止するために、防錆油などが塗布されている。このように塗油された状態のままで板を加熱すると、油の焼付きや発煙を生じ、プレス成形品の外観不良や作業環境の悪化を生じる可能性がある。そこで、復元処理を施す板は、復元処理を行う前に脱脂工程等によって予め防錆油を除去しておくか、或いは、輸送の際に傷付きが生じないように梱包した無塗油の状態のものを使用する。また、復元処理は無塗油の状態で行うが、復元処理後に行うプレス成形ではプレス潤滑油が必要であるため、復元処理を施した板は、通常と同じくプレス成形用の潤滑油を表面に適量塗油した後にプレス成形を行う。
【0102】
<プレス成形>
上記の復元処理を施したブランクについて行うプレス成形は、通常のプレス成形と同様に冷間で行うことができる。但し、前述のように復元処理を行ってから3日以内にプレス成形を行うことが望ましい。これは、復元処理を行った後、しばらくは材料強度が低下したままの状態が持続されるが、再び常温時効により強度が上昇し、ブランクに付与した強度差が失われるためである。
【0103】
また、本発明では、上記ブランクをプレス成形することによって得られたプレス成形体のシワ押さえ部より内側の製品となる部分に2%以上のひずみが導入されることを規定した。導入されるひずみが2%未満では、加工硬化による耐力値の上昇量が少なく、その後の人工時効硬化処理によって190MPa以上の高強度が得られない可能性があるためである。
【0104】
<ヘム曲げ加工>
前記プレス成形体がアウターパネルである場合は、余分な部分をトリミングした後、パネルの周辺部の所定箇所についてヘム曲げ加工が施され、別途製造されたインナーパネルと組み付けられる。上記のように復元処理後の常温時効によって強度が徐々に上昇するため、それに伴ってヘム曲げ性も低下してしまう。よって、復元処理を行ってから10日以内にヘム曲げ加工を行うことが望ましい。より好ましくは、復元処理を行ってから3日以内にヘム曲げ加工を行うことが好ましい。
【0105】
<人工時効硬化処理>
自動車製造工程においては、プレス成形パネルを接合して製作した車体に対して、塗装焼付処理を行うが、このような加熱処理を溶体化処理後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板に施すことで、強度を上昇させることができる。これを人工時効硬化処理と言う。上記塗装焼付処理では、車体に塗布した塗料を焼き付けることを主目的としており、生産性を考慮して、一般的には170〜185℃で20〜30分間の条件で行われる。
【0106】
本発明の復元処理を施したブランクにプレス成形を施して得られたプレス成形体の前記復元処理部の人工時効硬化処理後の耐力値は190MPa以上であることが好ましい。耐力値が190MPa未満の場合は、耐デント性や衝突強度が不足するため、板厚を厚くしなくてはならず重量増と材料費増を招く。
【0107】
前記プレス成形体に施す人工時効硬化処理の条件は、自動車製造工程における一般的な塗装焼付処理条件である170〜185℃で20〜30分間とするのが好ましい。このような短時間の加熱処理でも耐力値が低下した復元領域を含む成形体の耐力値が190MPa以上に向上することが本発明の特徴であり、この処理条件より高温および長時間になれば、耐力値は更に上昇する。
【0108】
前記の復元領域では、加熱処理中に低温クラスタが固溶し原子空孔密度が再び増加することで、低温クラスタに代わって高温クラスタが生成及び成長する。この高温クラスタは、人工時効硬化処理での加熱によって、析出強化相であるβ’’に遷移するため、パネルに高耐力を付与することができる。よって、前記の復元領域は、非復元領域に対してより高い塗装焼付硬化性を得ることができるため、復元処理によって耐力値が低下した後でも耐力値で190MPa以上の高強度が得られる。
【実施例】
【0109】
以下に本発明例を比較例とともに記す。なお、以下の本発明例は、本発明の効果を説明するためのものであり、本発明例記載のプロセス及び条件が本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0110】
アルミニウム合金を溶解して成分調整を行なった後、DC鋳造法により鋳造することにより、表1に示す5種類(I〜V)の合金成分のアルミニウム合金鋳塊を作製した。これらの鋳塊に530℃で10時間の均質化処理を行なった後、常法に従って熱間圧延、冷間圧延を行い、530℃で溶体化処理した後、常温まで急冷し、70℃で10時間の予備時効処理を施して、厚さ0.9mmのアルミニウム合金圧延板を作製した。
【0111】
【表1】

【0112】
その後、常温時効、或いは、100℃以下の人工時効又はこれらの組み合わせによる時効処理を施した。この時効処理条件を表2に示す。
【0113】
【表2】

【0114】
[実施例1]
第1の本発明例として、これらの時効処理した板を供試材とした円筒張出し成形試験を実施した。図6に示すように、φ100mmの円筒形状で、頭部は平らで(φ80mm)肩部にはR形状(図では不図示だが半径10mm)が設けられているパンチ(1)と、パンチ(1)とのクリアランス(図では不図示だが4mm)をもった穴が開いたリング状であり、シワ押さえ面(14)には凸ビード(15)が設けられているダイ(2)と、内部にパンチ(1)が挿入されるための穴が開いたリング状で、シワ押さえ面(14)にはダイ(2)の凸ビード(15)とブランクを挟むための凹ビード(15)が設けられているホルダー(3)をプレス能力12TONの油圧プレスに取り付けて行った。なお、これら金型の材質はいずれもSKD11であり、表面には硬質クロムメッキを施してある。
【0115】
図6に示すように、供試材として、上記の時効処理した板より180mm×180mmのブランク(4)を作製し、以下の処理方法及び表3に示す処理条件で復元処理を施した。ここで、パンチ成形面(8)のうち、成形初期にブランクに接触し、プレス方向に対してほぼ垂直な面であるパンチ頭部(5)と、この面の外側周囲を取り囲むように連なった面であるパンチ縦壁部(7)との間に屈曲部として存在するパンチ肩部(6)より内側の領域を、プレス方向に対して垂直な面に投影したブランクの領域Aは、パンチ頭部(5)のφ80mmの平坦面を投影した領域である。このφ80mmの面積をS、復元領域Xの面積をSとした場合の面積比(S/S)を数水準振った試験を行った。なお、図6において、(9)はダイ肩部、(11)は成形品肩部、(12)は成形品縦壁部を表わす。
【0116】
【表3】

【0117】
復元領域の加熱のために、図8(ア)に示すように200mm×200mmで板厚10mm(図には厚さは示していない)のアルミニウム合金板から、中央部の復元領域が5mm凸(図には凸高さは示していない)となるような凸円(31)を削り出した加熱冶具(28)を、凸円(31)の大きさを変更して数種類作製した。また、図8(イ)に示すように、200mm×200mmで厚さ約5mmの軟質断熱材(33)の中央部を加熱冶具(28)の凸円(31)に合わせて切り抜き、加熱冶具(28)の凸円(31)側に合わせることで、加圧した時にブランクと接触する面が段差の無い面になるようにした。これらの加熱冶具(28)と軟質断熱材(33)には取り付け用穴(32)を空けておき、後述の押付用上型の下面にねじで取り付けられるようにした。
【0118】
ブランクの復元加熱装置は、図2のように、プレス能力50TONの油圧プレスのボルスタ(22)上にヒーター(26)を内蔵した押付用下型(25)を取り付け、この押付用下型(25)はクッションピン(23)によって支持される。プレスする際は、プレス機のクッション機構によって所定の押付け圧力を保てるようになっている。一方、スライドプレート(21)には同じくヒーター(26)を内蔵した押付用上型(24)をプレス機に熱が伝わらないように硬質断熱材(27)を介して取り付け、この押付用上型(24)の下面には加熱冶具(28)を取り付けた。ヒーターは不図示の温度制御装置によって各々の設定温度を保つように制御され、押付用下型(25)と押付用上型(24)はこのヒーター(26)によって所定の温度に加熱した。押付用上型(24)の下面に取り付けられた加熱冶具(28)も、伝熱によって加熱した。
【0119】
次に、この加熱装置を使用してブランクの加熱処理を行った。まず、図2の(ア)に示すように、押付用下型(25)の上にブランク(4)を置き、ブランク(4)の上に厚さ約25mmの硬質断熱材(27)を置いた。プレス機のプレス機構によってスライドプレート(21)が下降し、加熱冶具(28)がブランク(4)の上の硬質断熱材(27)に接触し、プレス機のクッション機構によってブランク(4)に所定の押付け圧力が加わった状態で所定の時間加圧することで、予加熱を完了した。
【0120】
次いで、図2の(イ)に示すように、ブランク(4)の上に置いた硬質断熱材(27)を取り除いた後に、プレス機のプレス機構によってスライドプレート(21)が下降し、加熱冶具(28)がブランク(4)に接触し、プレス機のクッション機構によってブランク(4)に所定の押付け圧力が加わった状態で所定の時間加圧することで、復元領域の加熱が完了した。なお、この加熱処理において、加熱冶具(28)がブランク(4)に接触してから離れるまでの時間は、スライド速度とプレスストロークによって調整し、昇温速度はヒーターの加熱温度と押付け圧力(=クッション圧)によって調整した。続いて、加熱処理後のブランクの冷却処理は、水槽へブランクを浸漬する方法と、常温の金属ブロックでブランクを挟む方法とファンで空冷する方法で行った。
【0121】
このようにして、表3の供試材番号1〜15の条件で復元処理を施したブランクを各条件について複数枚作製した。これらのブランクを以下に説明する円筒張出し成形試験に供するとともに、以下の各試験を行った。
【0122】
<ブランクの機械的性質>
復元領域と非復元領域の機械的性質(耐力、伸び)、ならびに、復元領域と非復元領域の耐力の差を測定した。具体的には、図9に示すように、各ブランク(4)の復元領域Xと非復元領域の両方から小型引張試験片(41)を採取した。この小型引張試験片(41)の長手方向は、各ブランク(4)のアルミニウム合金圧延板の圧延方向に一致する。また、図10に小型引張試験片(41)の寸法を示す。図中における数値の単位はmmであり、試験片の厚さは0.9mmである。測定結果を表4に示す。
【0123】
【表4】

【0124】
<人工時効硬化処理後の耐力>
また、自動車製造工程における塗装焼付処理後の耐力値を測定するために、復元領域と非復元領域から採取した上記小型引張試験片に2%引張ひずみを与えた後、170℃×20分間の人工時効硬化処理を行い、引張試験によって耐力値を測定した。この他に、予ひずみ量と人工時効硬化処理条件を変更した引張試験も行った。結果を、表4に示す。
【0125】
<曲げ性>
更に、自動車製造工程で行われるヘム曲げ加工を模擬した曲げ試験を行った。まず復元領域から採取した上記小型引張試験片に、5%引張ひずみを与えた。次いで、試験片の中央部において引張方向と直角となる折り曲げ線に沿って、90°の角度となるまで曲げ半径0.8mmで折り曲げ、更に135°の角度まで折り曲げた後に、内側にインナーパネルを挿入することを想定して板厚1.0mmの板を挿入し、この板を挟み込むように180°の角度まで折り曲げて密着させた。曲げ加工部の外側をルーペで観察し、クラックが発生していない場合に曲げ加工性が良好と判断し、クラックが発生している場合に曲げ加工性が不良であると判断した。なお、供試材番号14については、復元領域の面積率が小さいため小型引張試験片を採取することができなかった。結果を、表4に示す。
【0126】
<熱変形の影響>
また、ブランクの熱変形の度合を評価するために、ブランクの反り量を測定した。復元処理を施したブランクを、復元領域の加熱の際に加熱冶具が接触した側と反対側の面を上にして定盤の上に載置した。図11(ア)、(イ)に示すように、触針式CNC輪郭形状測定機の触針(42)を、アルミニウム合金板の圧延方向と一致する方向に沿ってブランク(4)の中心線上を走査し、ブランクの輪郭をXY座標データとして測定した。このXY座標データについて、図12に示すように、ブランクの圧延方向位置をX軸に、ブランクの平面に垂直な方向の変位をY座標に取り、ブランクの両端をY座標0として、Y座標の変位の最大値を反り量として評価した。結果を、表4に示す。
【0127】
また、復元処理を施したブランクの材料分離性を評価するために、材料分離試験を行った。各ブランクの表と裏の両面に洗浄防錆油(粘度:4.0mm/s、40℃)を片面の塗油量が約2g/mになるように塗布し、供試材番号毎にブランクを10枚重ねてブランク山(43)を形成した。これらブランク山(43)の上に重さ20kgの重石を載置して、24時間経過させた。その後、図13(ア)平面図、(イ)正面図に示すように、各ブランク山(43)について、一番上の1枚のブランクを除いて両側面をバイス(44)で挟んで固定し、一番上のブランクとその下のブランクの間に向けて、両側面から0.5MPaの圧縮空気を50mm幅の多穴エアーノズル(45)から噴射した。この時、一番上のブランクが浮き上がり、下のブランク山(43)から分離できた場合は、材料分離性可とし、分離できなかった場合は不可として評価した。結果を、表4に示す。
【0128】
<円筒張出し成形試験>
続いて、図6に基づいて円筒張出し成形試験について述べる。上記プレス能力12TONの油圧プレス機に上記パンチ(1)、ダイ(2)、ホルダー(3)を取り付け、復元処理を施した供試材番号1〜15のブランク(4)について、洗浄防錆油をスポンジで適量塗布し、ホルダー(3)上にセットした。なお、図6には、油圧プレス機は示していない。図6(ア)に示すように、ダイ(2)とホルダー(3)でブランク(4)の周囲を挟み、ブランク(4)の周囲にはビード(15)が成形される。この時、ホルダーはプレス機のクッションピンによって支持されており、シワ押さえ面(14)には設定した15TONのシワ押さえ荷重が負荷されている。次に、このようなセット状態からダイ(2)が降下することで、ブランク(4)の周囲をビード(15)で掴んだ状態でダイ(2)とホルダー(3)がパンチ(1)に向かって成形速度1mm/秒で下降し、図6(イ)に示すように、ブランク(4)がパンチ(1)に接触して変形を受けながら成形は進行する。この方法で、成形高さ14mmで成形を終了した成形品と、破断するまで成形した成形品を作製した。
【0129】
各ブランクについて、ブランクが破断した高さである限界張り出し高さと、成形高さ14mmの成形品の板厚減少率レンジと成形品のリジング発生状況を評価した。限界張り出し高さは、パンチ荷重―ストローク線図における最大荷重点におけるストロークとし、成形性の評価とした。また、成形高さ14mmの成形品の圧延方向における成形品頭部の中心と成形品肩部(パンチ肩部)の板厚減少率の差を板厚減少率レンジとし、ひずみの均一化度合の評価とした。また、成形高さ14mmの成形品の成形品縦壁部(12)について、#800研磨紙で圧延方向と直角に研磨することで、リジングの有無を目視で観察した。筋が見えるものは有り、筋が見えないものは無しとして評価した。
【0130】
上記試験は同一条件で3回ずつ行い、3回の平均値を採用した。この評価結果を表4に示す。供試材番号1〜7は本発明例であり、供試材番号8〜15は比較例である。
【0131】
まず、比較例である供試材番号8は復元処理を施していない通常のプレス成形の条件である。パンチ肩部に相当する成形品肩部に変形が集中し易いため、破断はこの成形品肩部で生じ、限界張出し高さは15.6mmであった。成形高さを破断する前の14mmで止めた成形品については、成形品肩部で大きく板厚減少しているため、板厚減少率レンジが大きく、成形品頭部に比べてひずみが多く導入された成形品縦壁部にはリジングが発生した。また、材料が時効したままなので曲げ試験においては、クラックが発生した。更に、ブランクは平坦のままであるので材料分離試験では、洗浄防錆油によってブランク同士が密着しているため、エアーノズルから噴射された空気が界面に侵入することができず分離することができなかった。
【0132】
これに対して、本発明例である供試材番号1〜7では、いずれも、復元領域が軟化したことによって、非復元領域との耐力差を付与することができており、比較例と比べて限界張り出し高さが高く、成形性が向上した。また、板厚減少率レンジも小さく、ひずみの均一化が図られており、成形品縦壁部のひずみの上昇が抑えられたことによって、リジングの発生が抑制された。これに加え、復元領域の曲げ性も回復しており、いずれもクラックは見られなかった。また、ブランクに僅かな反りが発生していることで、ブランク同士の間に隙間が生じたため、材料分離性が向上した。更に、人工時効硬化処理後の耐力値は、復元処理を施すことによって強度上昇量が増加し、190MPaを大きく上回った。
【0133】
一方、比較例である供試材番号9と10は、復元領域の加熱到達温度が本発明の範囲から外れた条件である。供試材番号9では、加熱到達温度が低いため、復元領域が軟化せず、成形性と曲げ性の向上はなかった。但し、復元処理によってブランクに僅かな反りが発生したため、材料分離性だけは向上が見られた。また、供試材番号10では、加熱到達温度が高いため、低温クラスタの溶解による軟化と同時に時効硬化が起きてしまい、復元領域の伸びが大きく低下したため、復元領域が伸ばされるものの伸びが不足して、復元領域と非復元領域の境界で破断した。そのため、成形性の向上は無かった。また、短時間のうちにマトリックス中のMgとSiが粗大な析出相であるβ’相として析出してしまい、MgとSiの固溶量が低下したため、復元領域の人工時効硬化処理での強度上昇が著しく低下し、190MPaを下回った。
【0134】
比較例である供試材番号11では、非復元領域の加熱到達温度が高いため、非復元領域において低温クラスタの溶解と時効硬化が生じ、耐力と伸びの低下が生じた。復元領域は、更に加熱されたため、更に時効硬化が生じ、耐力の上昇と伸びの低下が生じた。これによって、耐力が非復元領域よりも復元領域の方が高くなり、本来の目的の強度差とは逆になってしまったため、成形品肩部に変形が集中して成形性が悪化した。また、復元領域と非復元領域の温度差が小さいため、ブランクに反りが発生せず、材料分離性の向上は無かった。比較例である供試材番号12では、非復元領域を加熱しなかったため復元領域と非復元領域の温度差が大きく、ブランクに過大な熱変形が生じ、反り量が非常に大きくなった。また、復元領域と非復元領域の境界に熱変形による筋状の跡が発生しており、プレス成形後もこの跡が成形品に残存していた。
【0135】
また、比較例である供試材番号13は、復元領域の加熱における昇温速度と加熱保持時間、ならびに、復元処理全体を通してブランクが100℃以上に滞留する時間が本発明の範囲から外れた条件である。昇温速度が遅く、加熱保持時間も長く、100℃以上に滞留する時間も長いため、非復元領域と復元領域の両方とも時効硬化し、且つ、トータルの加熱時間が長く、温度が高い復元領域の方がより硬化したため、本来の目的の強度差とは逆になってしまい、成形品肩部に変形が集中して成形性が悪化した。また、リジング発生の抑制と曲げ性の回復も無かった。比較例である供試材番号14は、加熱後に積極的な冷却を行わずに放冷した条件である。冷却速度と復元処理全体を通してブランクが100℃以上に滞留する時間が本発明の範囲から外れているため、加熱処理によって低下した耐力が、放冷中に上昇するとともに伸びが低下したため、成形性が悪化した。また、リジングの改善と曲げ性の回復も無かった。
【0136】
供試材番号15は、パンチ頭部を投影した領域Aの範囲を超えて復元領域Xを定めたものである。復元領域の面積率が大きく復元領域が成形品肩部まで及んでいるため、成形品肩部に変形が集中し、限界張出し高さが10.5mmと、通常よりも著しく成形性が低下した。
一方、供試材番号16〜19は復元処理後の予ひずみ量と人工時効硬化処理条件を変更した引張試験の結果である。供試材番号16〜18は、供試材番号2に対して予ひずみ量、あるいは人工時効硬化処理条件を変更した条件である。供試材番号16は予ひずみ量を4%に増加させたため、人工時効硬化処理後の耐力が増大した。一方、供試材番号17は予ひずみを加えなかったため、人工時効硬化処理後の耐力が低く、190MPaに満たなかった。また、供試材番号18は人工時効硬化処理条件を185℃×30分間と温度を高く、時間を長くしたため、人工時効硬化処理後の耐力が増大した。
供試材番号19は、復元処理の加熱到達温度が本発明の温度範囲よりも高かった場合であり、人工時効硬化処理条件を185℃×30分間と温度を高く時間を長くしても、復元領域の人工時効硬化処理後の耐力は190MPaに満たなかった。
【0137】
[実施例2]
第2の本発明例として、時効処理した板を供試材とした2段型プレス成形試験を実施した。金型は図7に示すように、パンチ成形面の縦壁部が1段目パンチ縦壁部(7A)と2段目パンチ縦壁部(7B)の2段形状になっており、1段目のパンチ肩部(6A)がR16mm、2段目のパンチ肩部(6B)がR8mmであり、パンチ成形面の平面視概寸法が、1段目約170mm×約270mm、2段目約200mm×約300mmである。また、ダイ(2)においても2段の肩部(9A、9B)を有し、成形品においても2段の肩部(11A、11B)と2段の縦壁部(12A、12B)を有し、成形高さは40mmである。これら金型の材質はいずれもFCD550であり、表面に硬質クロムメッキを施してある。この金型をプレス能力300TONのメカプレス機にセットして試験を行った。
【0138】
復元領域は図7に示すブランクの領域Aに対する領域Xに加え、一部のブランクについては、領域Cに対する領域Yも復元領域と定めた。ここで、パンチ成形面のうち、プレス方向に対してほぼ垂直な面であるパンチ頭部(5)と、この面の外側周囲を取り囲むように連なった面であるパンチ縦壁部との間に屈曲部として存在するR形状のパンチ肩部より内側の領域を、プレス方向に対して垂直な面に投影したブランクの領域Aとは、1段目のパンチ肩部(6A)の内側の平坦面であるパンチ頭部(5)を投影した領域である。この領域Aの面積をS、部分的復元処理を施す領域Xの面積をSとした場合の面積比(S/S)を数水準振った加熱冶具を数種類作製して復元処理を施した。
また、ブランク(4)において、ダイとホルダーで挟まれるシワ押さえ部から最も近いパンチ肩部より外側の領域をプレス方向に対して垂直な面に投影したブランクの領域Cのうち、縮みフランジ変形部である領域Yとは、2段目のパンチ肩部(6B)の外側を投影した領域のうち、ブランク平面視でパンチ成形面の直辺部を除いた4隅のR形状に接する領域である。この領域Yについても、対応する加熱冶具を作製して復元処理を施した。
【0139】
ブランクの復元処理には、実施例1で使用した復元加熱装置を使用した。領域Xと領域Yに相当する形状の加熱冶具を製作し、復元加熱装置に取り付けて復元処理を実施した。なお、領域Xの加熱冶具は、領域Aの面積をS、復元領域Xの面積をSとした場合の面積比(S/S)を変更した6水準分を作製した。
【0140】
供試材として、表1の合金番号Iで表2の時効処理番号Aの板から440mm×360mmのブランクを切り出し、表5の復元処理条件で復元処理を行った。また、実施例1と同様に復元処理後の復元領域と非復元領域の機械的性質(耐力、伸び)及び復元領域と非復元領域の耐力の差を測定するために、各ブランクについて、図10に示す形状の小型引張試験片を復元領域と非復元領域の両方から、アルミニウム合金板の圧延方向に沿って採取して引張試験を行った。結果を表5に示す。
【0141】
【表5】

【0142】
続いて、2段型プレス成形試験について述べる。まず、ホルダー(3)上にブランク(4)をセットした状態からダイが降下することで、図7(ア)のようにダイ(2)とホルダー(3)でブランク(4)周囲を挟み、ブランク(4)の周囲にはビード(15)が成形される。この時、ホルダー(3)はプレス機のクッションピンによって支持されており、シワ押さえ面(14)には設定したDC(ダイクッション)荷重が負荷されることになる。次に、ブランク(4)の周囲をビード(15)で掴んだ状態でダイ(2)とホルダー(3)がパンチ(1)に向かって下降する。これによって、図7(イ)のようにブランクがパンチ(1)に接触して変形を受ける。そして、図7(ウ)のようにプレスのストロークが(ア)の状態から40mm下降した時点で成形終了となる。
【0143】
この成形において、DC荷重を増加させると、シワ押さえ面(14)からのブランクの流入量が減少する。そのため、シワ押さえ面(14)より内側のブランクに導入されるひずみ量が増加することになり、成形品は破断し易くなる。一方、従来よりも高いDC荷重でも破断せずに成形できた場合は、ひずみの均一化によって成形性が向上したことを意味する。よって、各ブランクについてDC荷重を25kN刻みで増加させながら成形していき、破断したDC荷重の前のDC荷重を破断限界DC荷重として評価した。試験は同一条件で3回ずつ行い、3回の平均値を採用した。
【0144】
これらの試験結果を表6に示す。試験番号アは復元処理を施していない通常のプレス成形の条件である。この条件では、DC荷重175kNで上段のパンチ肩部に相当する成形品肩部(11A)が破断したため、その手前の150kNを破断限界DC荷重とし、これをDC荷重向上率の基準DC荷重とした。すなわち、DC荷重向上率とは、{(破断限界DC荷重−基準DC荷重)/(基準DC荷重)}×100とした。
【0145】
【表6】

【0146】
試験番号ウ、エ、オ、カは、本発明の領域Xを復元軟化させた本発明例である。いずれも、基準に対して成形性が向上しており、特に復元面積率100%の試験番号ウでは、破断限界DC荷重が250kNと+67%も向上した。また、領域Xを復元軟化させた効果で、試験番号ウ、エ、オ、カではいずれも破断位置が2段目のパンチ肩部に相当する成形品肩部(11B)に移った。
【0147】
一方、試験番号イは領域Aに対する復元領域Xの面積率が本発明の範囲から外れた条件であり、復元面積率が本発明の範囲より大きい場合である。復元領域が上段の成形品肩部に当たるため、その部位でひずみが集中し、破断限界DC荷重の向上は無かった。また、破断位置は基準と変わらず、上段のパンチ肩部に相当する成形品肩部(11A)であった。
【0148】
試験番号キ、ク、ケ、コは、復元領域に縮みフランジ変形部である領域Yを加えた条件である。領域Yの軟化によって当該部位のブランクの流入抵抗が減少したことにより、成形品肩部(11A、11B)に負荷される張力が減少し、ひずみの上昇が緩和された。その結果、領域Xのみに復元処理を施した場合と比べて大幅に破断限界DC荷重が向上しており、基準に対して最大で+167%も向上した。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明に係るプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法により、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の優れた特徴である塗装焼付硬化性及びデザイン自由度を向上させるための成形性、高い表面品質、ならびに、インナーパネルとの締結のためのヘム曲げ性を兼備したプレス成形用アルミニウム合金製ブランクが提供可能となり、更に、これを用いたプレス成形体の提供も可能となる。
【符号の説明】
【0150】
1……パンチ
2……ダイ
3……ホルダー
4……ブランク
5……パンチ頭部
6、6A、6B……パンチ肩部
7、7A、7B……パンチ縦壁部
8……パンチ成形面
9、9A、9B……ダイ肩部
10……成形品頭部
11、11A、11B……成形品肩部
12、12A、12B……成形品縦壁部
13……中心線
14……シワ押さえ面
15……ビード
21……スライドプレート
22……ボルスタ
23……クッションピン
24……押付用上型
25……押付用下型
26……ヒーター
27……硬質断熱材
28……加熱冶具
29……復元領域
30A、30B……加熱体
31……凸部、凸円
32……取り付け用穴
33……軟質断熱材
41……小型引張試験片
42……触針
43……ブランク山
44……バイス
45……エアーノズル
B……パンチ肩部を投影した領域
C……シワ押さえ部から最も近いパンチ肩部より外側の領域を投影した領域
X……Aのうちの任意の領域
P……成形品肩部において成形品頭部方向に加わる張力
W……成形品肩部において成形品縦壁部方向に加わる張力
Y……Cのうち縮みフランジ変形部である領域
θ……なつき角
μ……摩擦係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時効硬化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金から成り、ダイとホルダーで周囲を挟み、相対的にパンチをダイに押し込むことによって所定の形状に成形されるプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法であって、
パンチ成形面のうち、プレス方向に対してほぼ垂直な面であるパンチ頭部と、この面の外側周囲を取り囲むように連なった面であるパンチ縦壁部との間に屈曲部として存在するパンチ肩部より内側の領域を、プレス方向に対して垂直な面に投影したブランクの領域Aのうち任意の領域Xを含む領域を復元領域として定めるとともに、当該復元領域以外のブランク全体を非復元領域として定め、
プレス成形前にブランク全体を加熱する加熱工程と、その後にブランク全体を100℃以下まで冷却する冷却工程とを含む復元処理が施され、前記加熱工程において、加熱到達温度を前記復元領域では200℃以上300℃以下とし前記非復元領域では100℃以上200℃未満とし、前記復元領域において、加熱工程では100℃から加熱到達温度までの昇温速度を5℃/秒以上とし当該加熱到達温度での保持時間を20秒以下とし、冷却工程では100℃までの冷却速度を5℃/秒以上とし、復元処理全体を通してブランクが100℃以上に滞留する時間を2分以内とすることで、前記領域Xのみの耐力値を低下させてブランク内に強度差を付与することを特徴とするプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。
【請求項2】
前記復元領域と非復元領域における加熱到達温度の差を50℃以上200℃以下とする、請求項1に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。
【請求項3】
ブランク全体に到達温度100℃以上200℃未満の予加熱工程を予め施した後に、前記復元領域にのみ加熱到達温度200℃以上300℃以下の加熱工程を施す、請求項1又は2に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。
【請求項4】
前記復元領域と非復元領域を加熱する加熱体の温度をそれぞれ制御しつつ、当該加熱体をブランクに接触させることによって両領域を同時に加熱する、請求項1又は2に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。
【請求項5】
前記ブランクの領域Aの面積(S)に対する前記領域Xの面積(S)の面積比が、25%以上100%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。
【請求項6】
前記ブランクの復元領域が、ダイとホルダーで挟まれるシワ押さえ部から最も近いパンチ肩部より外側の領域をプレス方向に対して垂直な面に投影したブランクの領域Cのうち、縮みフランジ変形部である領域Yも含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。
【請求項7】
前記ブランクの復元領域が、プレス成形後にヘム曲げ加工を受ける領域であるヘム曲げ部も含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。
【請求項8】
前記Al−Mg−Si系アルミニウム合金が溶体化処理されており、この溶体化処理後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金に対して、復元処理が施されるまでに常温時効又は100℃以下の人工時効、或いは、これらの組み合わせによる時効処理が行われることによって、時効硬化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。
【請求項9】
前記Al−Mg−Si系アルミニウム合金が、Mg:0.2〜1.5mass%、Si:0.3〜2.0mass%を含有し、Fe:0.03〜1.0mass%、Zn:0.03〜2.5mass%、Cu:0.01〜1.5mass%、Mn:0.03〜0.6mass%、Zr0.01〜0.4mass%、Cr0.01〜0.4mass%、Ti0.005〜0.3mass%及びV:0.01〜0.4mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のプレス成形用アルミニウム合金製ブランクの製造方法によって製造されたプレス成形用アルミニウム合金製ブランクにプレス成形を施すことによって、シワ押さえ部より内側の製品となる部分に2%以上のひずみが導入されていることを特徴とするアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法。
【請求項11】
170〜185℃で20〜30分間の条件で人工時効硬化処理を施すことによって前記成形体の耐力値を190MPa以上とする、請求項10に記載のアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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